船員保険法
法令番号: 法律第七十三號
公布年月日: 昭和14年4月6日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル船員保險法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十四年四月五日
內閣總理大臣 男爵 平沼騏一郞
內務大臣 侯爵 木戶幸一
厚生大臣 廣瀨久忠
大藏大臣 石渡莊太郞
法律第七十三號
船員保險法
第一章 總則
第一條 船員保險ニ於テハ被保險者又ハ被保險者タリシ者ノ疾病、負傷、老齡、癈疾、脫退又ハ死亡ニ關シ保險給付ヲ爲スモノトス
第二條 船員保險ハ政府之ヲ管掌ス
第三條 本法ニ於テ報酬ト稱スルハ船員ガ職務執行ノ對償トシテ船舶所有者ヨリ受クル給料及之ニ準ズベキモノヲ謂フ
給料ニ準ズベキモノノ範圍及評價ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條 報酬ノ額ニ基キ保險料又ハ保險給付ノ額ヲ定ムル場合ニ於テハ標準報酬ニ依リ之ヲ算定ス
標準報酬ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五條 保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ヲ徵收シ又ハ其ノ還付ヲ受クル權利及療養費、傷病手當金、癈疾手當金又ハ死亡手當金ヲ受クル權利ハ一年ヲ經過シタルトキ、養老年金、癈疾年金、脫退手當金又ハ第三十六條、第三十七條、第四十二條若ハ第四十九條ノ規定ニ依ル一時金ヲ受クル權利ハ五年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
第六條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定スル期間ノ計算ニ付テハ本法ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外民法ノ期間ノ計算ニ關スル規定ヲ準用ス
第七條 船員保險ニ關スル書類ニハ印紙稅ヲ課セズ
第八條 行政官廳又ハ保險給付ヲ受クベキ者ハ被保險者又ハ被保險者タリシ者ノ戶籍ニ關シ戶籍事務ヲ管掌スル者又ハ其ノ代理者ニ對シ無償ニテ證明ヲ求ムルコトヲ得
第九條 行政官廳ハ命令ノ定ムル所ニ依リ被保險者ヲ雇傭スル船舶所有者ヲシテ其ノ雇傭スル者ノ異動及報酬ニ關シ報吿ヲ爲サシメ、文書ヲ提示セシメ其ノ他船員保險ノ施行ニ必要ナル事務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令中船舶所有者トアルハ船舶共有ノ場合ニ在リテハ船舶管理人、船舶貸借ノ場合ニ在リテハ船舶借入人トス
第十一條 船舶ガ滅失又ハ沈沒シタル際現ニ其ノ船舶ニ乘組ム被保險者又ハ其ノ船舶ニ乘組中被保險者ノ資格ヲ喪失シ引續キ船舶內ニ在ル者ガ滅失又ハ沈沒ノ日ヨリ三月間其ノ生死分明ナラザルトキハ本法ノ適用ニ付テハ其ノ期間滿了ノ日ニ死亡シタルモノト推定ス
船舶ノ存否ガ一月間分明ナラザルトキハ船舶ハ滅失シタルモノト推定ス
第一項ノ規定ハ被保險者又ハ船舶ニ乘組中被保險者ノ資格ヲ喪失シ引續キ船舶內ニ在ル者ガ船舶航行中行方不明ト爲リタル場合ニ於テ三月間生死分明ナラザルトキニ之ヲ準用ス
第十二條 保險料ヲ滯納スル者アルトキハ行政官廳ハ期限ヲ指定シテ之ヲ督促スベシ
前項ノ規定ニ依リ督促ヲ爲シタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ督促手數料及延滯金ヲ徵收ス
第一項ノ規定ニ依ル督促ヲ受ケタル者其ノ指定ノ期限迄ニ保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ヲ納付セザルトキハ行政官廳ハ國稅滯納處分ノ例ニ依リ之ヲ處分シ又ハ滯納者若ハ其ノ者ノ財產ノ在ル市町村ニ對シ之ガ處分ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ市町村ニ對シ處分ノ請求ヲ爲シタルトキハ市町村ハ市町村稅ノ例ニ依リ之ヲ處分ス此ノ場合ニ於テハ行政官廳ハ徵收金額ノ百分ノ四ニ相當スル金額ヲ當該市町村ニ交付スベシ
第十三條 保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ノ先取特權ノ順位ハ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノノ徵收金ニ次ギ他ノ公課ニ先ツモノトス
第十四條 保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ニ關スル書類ノ送達ニ付テハ國稅徵收法第四條ノ七及第四條ノ八ノ規定ヲ準用ス
第十五條 國、北海道、府縣、市町村其ノ他之ニ準ズベキモノノ所有ニ屬スル船舶ニ乘組ム船員ニ關シテハ本法ノ適用ニ付勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得
第十六條 本法中町村トアルハ町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之ニ準ズベキモノトス
第二章 被保險者
第十七條 船員法第一條ニ規定スル帝國臣民タル船員ニシテ本法施行地ニ船籍港ヲ定ムル船舶ニ乘組ムモノハ船員保險ノ被保險者トス但シ左ニ揭グル者ハ此ノ限ニ在ラズ
一 船舶所有者ニ雇傭セラレザル者
二 官吏又ハ待遇官吏(俸給給料ヲ受ケザル者ヲ除ク)
三 前二號ニ揭グル者ノ外勅令ヲ以テ指定スル者
第十八條 被保險者ハ船舶ニ乘組ミタル日、前條各號ノ規定ニ該當セザルニ至リタル日又ハ日本ノ國籍ヲ取得シタル日ヨリ其ノ資格ヲ取得ス
第十九條 被保險者ハ死亡シタル日、船舶ニ乘組マザルニ至リタル日、第十七條各號ノ規定ノ一ニ該當スルニ至リタル日又ハ日本ノ國籍ヲ失ヒタル日ノ翌日ヨリ其ノ資格ヲ喪失ス但シ其ノ事實アリタル日ニ更ニ前條ノ規定ニ該當スルニ至リタルトキハ其ノ日ヨリ其ノ資格ヲ喪失ス
第二十條 十年以上十五年未滿被保險者タリシ者ガ被保險者タラザルニ至リタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ繼續シテ被保險者ト爲ルコトヲ得但シ其ノ者ガ日本ノ國籍ヲ失ヒタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ニ依ル被保險者ニ對シテハ老齡又ハ脫退ニ關スル保險給付ニ限リ之ヲ爲スモノトス
第二十一條 前條ノ規定ニ依ル被保險者ハ第十七條ノ規定ニ依ル被保險者タリシ期間ト前條ノ規定ニ依ル被保險者タリシ期間トヲ合算シテ十五年ニ達シタルトキ其ノ他勅令ヲ以テ定ムル事由ニ該當スルニ至リタルトキハ其ノ資格ヲ喪失ス
第十九條ノ規定ハ前條ノ規定ニ依ル被保險者死亡シタル場合及日本ノ國籍ヲ失ヒタル場合ニ之ヲ準用ス
第三章 保險給付
第一節 總則
第二十二條 被保險者タリシ期間ハ被保險者ノ資格ヲ取得シタル月ヨリ之ヲ起算シ其ノ資格ヲ喪失シタル月ノ前月ヲ以テ終ル但シ十六日以後ニ於テ被保險者ノ資格ヲ取得シタルトキハ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ計算ス
十六日以後ニ於テ被保險者ノ資格ヲ喪失シタルトキハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ被保險者タリシ期間ニ加算ス
被保險者ノ資格ヲ喪失シタル後更ニ其ノ資格ヲ取得シタル者ニ對シテ保險給付ヲ爲ス場合ニ於テハ前後ノ被保險者タリシ期間ハ之ヲ合算ス但シ脫退手當金ノ支給ヲ受ケタル場合ニ於テハ其ノ計算ノ基礎ト爲リタル期間ハ之ヲ合算セズ
前項但書ノ規定ハ第四十九條ノ規定ニ依リ差額ノ支給ヲ受ケタル場合ニ之ヲ準用ス
第二十三條 第三十六條、第三十七條若ハ第四十二條ノ規定ニ依ル一時金又ハ死亡手當金ヲ受クベキ遺族ノ範圍及順位ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十四條 養老年金及癈疾年金ノ支給ハ之ヲ支給スベキ事由ノ生ジタル月ノ翌月ヨリ之ヲ始メ權利消滅ノ月ヲ以テ終ル
第二十五條 政府ハ事故ガ第三者ノ行爲ニ因リテ生ジタル場合ニ於テ保險給付ヲ爲シタルトキハ其ノ給付ノ價額ノ限度ニ於テ保險給付ヲ受クベキ者ガ第三者ニ對シテ有スル損害賠償請求ノ權利ヲ取得ス
第二十六條 保險給付トシテ支給ヲ受ケタル金品ヲ標準トシテ租稅其ノ他ノ公課ヲ課セズ但シ養老年金ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第二十七條 保險給付ヲ受クル權利ハ之ヲ讓渡シ又ハ差押フルコトヲ得ズ
第二節 療養ノ給付及傷病手當金
第二十八條 被保險者又ハ被保險者タリシ者ノ疾病又ハ負傷ニ關シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ療養ノ給付ヲ爲ス但シ被保險者ノ資格喪失前ノ疾病又ハ負傷ニ因リ發シタル疾病ヲ除クノ外被保險者ノ資格喪失後ニ發シタル疾病又ハ負傷ニ關シテハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ハ報酬年額千八百圓ヲ超ユル船舶職員、被保險者ノ資格喪失當時報酬年額千八百圓ヲ超ユル船舶職員タリシ者及勅令ヲ以テ指定スル者ノ疾病又ハ負傷ニハ之ヲ適用セズ
第一項ノ場合ニ於テ療養上必要アリト認ムルトキハ被保險者又ハ被保險者タリシ者ヲ診療所ニ收容スルコトヲ得
第二十九條 療養ノ給付ヲ爲スコト困難ナル場合又ハ被保險者若ハ被保險者タリシ者ノ申請アリタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ療養ノ給付ニ代ヘテ療養費ヲ支給スルコトヲ得
第三十條 被保險者タリシ者左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テ療養ノ爲勞務ニ服スルコト能ハザルトキハ其ノ期間傷病手當金トシテ一日ニ付被保險者ノ資格喪失當時ノ報酬日額ノ百分ノ六十ニ相當スル金額ヲ支給ス
一 療養ノ給付ヲ受クルトキ
二 船員法第十七條又ハ第二十九條ノ規定ニ依リ船舶所有者ヨリ疾病又ハ負傷ニ關シ扶助ヲ受クルトキ
第二十八條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三十一條 診療所ニ收容シタル被保險者タリシ者ニ對シテ支給スベキ傷病手當金ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ減額スルコトヲ得
第三十二條 療養ノ給付及傷病手當金ノ支給ハ同一ノ疾病又ハ負傷及之ニ因リ發シタル疾病ニ付其ノ保險給付ヲ始メタル日ヨリ起算シ六月ヲ經過シタルトキハ之ヲ爲サズ
主務大臣ノ指定スル疾病ニ關シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ前項ノ期間ヲ超エ尙六月以內繼續シテ療養ノ給付及傷病手當金ノ支給ヲ爲スコトヲ得但シ其ノ保險給付ヲ始メタル日前勅令ノ定ムル期間引續キ被保險者タリシ者ニ限ル
傷病手當金ハ其ノ支給期間ヲ經過セザルトキト雖モ療養ノ給付ヲ爲シ得ル期間ヲ經過スルニ至リタルトキハ之ヲ支給セズ
第三十三條 船員法第十七條又ハ第二十九條ノ規定ニ依リ船舶所有者ヨリ扶助又ハ手當ノ支給ヲ受クル被保險者又ハ被保險者タリシ者ノ疾病又ハ負傷ニ關シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ受クルコトヲ得ベキ期間經過後療養ノ給付又ハ傷病手當金ノ支給ヲ開始ス
第三節 養老年金
第三十四條 十五年以上被保險者タリシ者ガ其ノ資格ヲ喪失シタル後五十歲ヲ超エタルトキ又ハ五十歲ヲ超エ其ノ資格ヲ喪失シタルトキハ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄養老年金ヲ支給ス
第三十五條 養老年金ノ額ハ被保險者タリシ期間十五年以上十六年未滿ニ對シ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ二十五ニ相當スル金額トシ被保險者タリシ期間十五年以上一年ヲ增ス每ニ其ノ一年ニ對シ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相當スル金額ヲ加ヘタル金額トス
被保險者タリシ期間四十年ヲ超ユル者ニ支給スベキ養老年金ノ額ハ之ヲ被保險者タリシ期間四十年トシテ計算ス
第三十六條 養老年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタル場合ニ於テ旣ニ支給ヲ受ケタル養老年金ノ總額ガ養老年金ノ五年分ニ相當スル金額ニ滿タザルトキハ其ノ差額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
第三十七條 十五年以上被保險者タリシ者ガ養老年金ノ支給ヲ受クルコトナクシテ死亡シタル場合ニ於テハ其ノ者ガ支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ養老年金ノ五年分ニ相當スル金額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
第三十八條 傷病手當金又ハ船員法第十七條若ハ第二十九條ノ規定ニ依リ船舶所有者ヨリ手當ノ支給ヲ受クル者ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ受クルコトヲ得ベキ期間養老年金ノ支給ヲ停止ス
第三十九條 養老年金ノ支給ヲ受クル者被保險者ト爲リタルトキハ其ノ月ヨリ養老年金ノ支給ヲ停止ス
前項ノ規定ニ依リ養老年金ノ支給ヲ停止セラレタル被保險者ガ其ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ前後ノ被保險者タリシ期間ヲ合算シテ養老年金ノ額ヲ改定ス
前項ノ規定ニ依リ養老年金ノ額ヲ改定スル場合ニ於テ其ノ額ガ從前ノ養老年金ノ額ヨリ少キトキハ從前ノ養老年金ノ額ヲ以テ改定養老年金ノ額トス
第四節 癈疾年金及癈疾手當金
第四十條 被保險者ノ資格喪失前六年間ニ三年以上被保險者タリシ者ノ資格喪失前ニ發シタル疾病又ハ負傷及之ニ因リ發シタル疾病ガ勅令ノ定ムル期間內ニ治癒シタル場合又ハ治癒セザルモ其ノ期間ヲ經渦シタル場合ニ於テ勅令ノ定ムル程度ノ癈疾ノ狀態ニ在ル者ニハ其ノ程度ニ應ジ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄癈疾年金ヲ支給シ又ハ一時金トシテ癈疾手當金ヲ支給ス
第四十一條 癈疾年金ノ額ハ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ二十五ニ相當スル金額トシ被保險者タリシ期間十五年以上一年ヲ增ス每ニ其ノ一年ニ對シ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相當スル金額ヲ加ヘタル金額トス
第三十五條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
癈疾手當金ノ額ハ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ七月分ニ相當スル金額トス
第四十二條 癈疾年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタル場合ニ於テハ左ノ區別ニ依ル金額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
一 被保險者タリシ期間ガ十五年未滿ナル場合ニ於テ旣ニ支給ヲ受ケタル癈疾年金ノ總額ガ被保險者ノ資格喪失ノ際支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ脫退手當金及被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ七月分ノ合算額(被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ十三月分ヲ超ユルトキハ十三月分ニ止ム)ニ相當スル金額ニ滿タザルトキハ其ノ差額
二 被保險者タリシ期間ガ十五年以上ナル場合ニ於テ旣ニ支給ヲ受ケタル癈疾年金ノ總額ガ癈疾年金ノ五年分ニ相當スル金額ニ滿タザルトキハ其ノ差額
第四十三條 養老年金及癈疾年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ一ヲ支給ス
第四十四條 癈疾年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ガ癈疾年金ヲ受クル程度ノ癈疾ノ狀態ニ該當セザルニ至リタルトキハ爾後癈疾年金ヲ支給セズ
第四十五條 養老年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ニハ癈疾手當金ヲ支給セズ
第五節 脫退手當金
第四十六條 三年以上十五年未滿被保險者タリシ者ガ死亡シタルトキ又ハ其ノ資格ヲ喪失シタル後更ニ被保險者ト爲ルコトナクシテ一年六月ヲ經過シタルトキハ脫退手當金ヲ支給ス但シ其ノ者ガ癈疾手當金ヲ受クル權利ヲ有スルトキハ一年六月ヲ經過セザル場合ト雖モ之ヲ支給ス
第四十七條 脫退手當金ノ額ハ左ノ區別ニ依ル但シ癈疾手當金ノ支給ヲ受クル者ニ支給スベキ額ハ癈疾手當金ノ額ト合算シテ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ十三月分ニ相當スル金額ヲ超ユルコトヲ得ズ
一 被保險者タリシ期間三年以上四年未滿ナル者ニ對シテハ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ一月半分ニ相當スル金額
二 被保險者タリシ期間四年以上九年未滿ナル者ニ對シテハ其ノ期間三年以上一年ヲ增ス每ニ前號ノ金額ニ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ半月分ニ相當スル金額ヲ加ヘタル金額
三 被保險者タリシ期間九年以上ナル者ニ對シテハ其ノ期間八年以上一年ヲ增ス每ニ前號ノ規定ニ依リ其ノ期間八年以上九年未滿ノ者ノ支給ヲ受クベキ金額ニ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ一月分ニ相當スル金額ヲ加ヘタル金額
第四十八條 癈疾年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ニハ脫退手當金ヲ支給セズ
第四十九條 癈疾年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ガ第四十四條ノ規定ニ依リ癈疾年金ノ支給ヲ受ケザルニ至リタル場合ニ於テ旣ニ支給ヲ受ケタル癈疾年金ノ總額ガ其ノ者ガ被保險者ノ資格ヲ喪失シタル際支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ脫退手當金ノ額ニ滿タザルトキハ其ノ差額ヲ支給ス
第六節 死亡手當金
第五十條 左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テ被保險者又ハ被保險者タリシ者ガ三年以上被保險者タリシトキハ其ノ遺族ニ對シ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ三月分ニ相當スル死亡手當金ヲ支給ス但シ其ノ金額ガ百圓ニ滿タザルトキハ之ヲ百圓トス
一 被保險者ガ死亡シタルトキ
二 被保險者タリシ者ガ其ノ資格喪失後三月以內ニ死亡シタルトキ
三 被保險者タリシ者ニシテ療養ノ給付ヲ受クルモノガ死亡シタルトキ
第七節 保險給付ノ制限
第五十一條 被保險者又ハ被保險者タリシ者ガ自己ノ故意ノ犯罪行爲ニ因リ又ハ故意ニ事故ヲ生ゼシメタルトキハ療養ノ給付又ハ傷病手當金、癈疾年金、癈疾手當金若ハ死亡手當金ノ支給ヲ爲サズ
第三十六條、第三十七條若ハ第四十二條ノ規定ニ依ル一時金又ハ死亡手當金ノ支給ヲ受クベキ者ガ被保險者又ハ被保險者タリシ者ヲ故意ニ死ニ致シタルトキハ其ノ者ニ對シテハ支給ヲ爲サズ此ノ場合ニ於テ後順位者アルトキハ其ノ者ニ支給ヲ爲ス
第五十二條 被保險者又ハ被保險者タリシ者ガ鬪爭、泥醉若ハ著シキ不行跡ニ因リ、故意ニ危害豫防ニ關スル業務上ノ監督者ノ指揮ニ從ハザルニ因リ又ハ正當ノ理由ナクシテ療養ニ關スル指揮ニ從ハザルニ因リ事故ヲ生ゼシメタルトキハ傷病手當金、癈疾年金又ハ癈疾手當金ノ全部又ハ一部ヲ支給セザルコトヲ得
第五十三條 被保險者又ハ被保險者タリシ者ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ其ノ期間療養ノ給付又ハ傷病手當金ノ支給ヲ爲サズ但シ命令ヲ以テ定ムル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
一 陸海軍ニ徵集又ハ召集セラレタルトキ
二 本法施行地外ニ在ルトキ
三 船舶內ニ在ルトキ
四 矯正院其ノ他之ニ準ズベキモノニ入院セシメラレタルトキ
五 監獄、留置場又ハ勞役場ニ拘禁又ハ留置セラレタルトキ
六 健康保險又ハ職員健康保險ニ於テ之ニ相當スル保險給付ヲ受クルトキ
他ノ法令ニ依リ國又ハ公共團體ノ負擔ニ於テ診療所ニ收容セラレタル者ニ對シテハ療養ノ給付ヲ爲サズ
第三十一條ノ規定ハ前項ニ揭グル者ニ之ヲ準用ス
第五十四條 正當ノ理由ナクシテ療養ニ關スル指揮ニ從ハザル者ニ對シテハ傷病手當金ノ一部ヲ支給セザルコトヲ得
第五十五條 詐欺其ノ他不正ノ行爲ニ依リ保險給付ヲ受ケ又ハ受ケントシタル者ニ對シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ期間ヲ定メ保險給付ノ全部又ハ一部ヲ爲サザルコトヲ得
第五十六條 療養ノ給付又ハ傷病手當金若ハ癈疾年金ノ支給ヲ受クル者ニ付必要アリト認ムルトキハ診斷ヲ行フコトヲ得
正當ノ理由ナクシテ前項ノ診斷ヲ受ケザル者ニ對シテハ療養ノ給付ノ全部若ハ一部又ハ傷病手當金、癈疾年金若ハ癈疾手當金ノ全部若ハ一部ノ支給ヲ爲サザルコトヲ得
第五十七條 養老年金又ハ癈疾年金ヲ受クル者ニ付必要アリト認ムルトキハ其ノ身分關係ノ異動及癈疾狀態ノ繼續ノ有無ニ關シ其ノ者ヲシテ必要ナル書類ヲ提出セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ書類ヲ提出セザル者ニ對シテハ養老年金又ハ癈疾年金ノ支給ヲ一時差止ムルコトヲ得
第四章 費用ノ負擔
第五十八條 國庫ハ療養ノ給付及傷病手當金ヲ除クノ外保險給付ニ要スル費用ノ五分ノ一ヲ負擔ス
國庫ハ前項ニ規定スル費用ノ外每年度豫算ノ範圍內ニ於テ船員保險事業ノ事務ノ執行ニ要スル費用ヲ負擔ス
第五十九條 政府ハ船員保險事業ニ要スル費用ニ充ツル爲保險料ヲ徵收ス
保險料ノ算定ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十條 被保險者及被保險者ヲ雇傭スル船舶所有者ハ各保險料額ノ二分ノ一ヲ負擔ス但シ第二十條ノ規定ニ依ル被保險者ハ其ノ全額ヲ負擔ス
第六十一條 船舶所有者ハ其ノ雇傭スル被保險者ノ負擔スベキ保險料ヲ納付スル義務ヲ負フ但シ第二十條ノ規定ニ依ル被保險者ノ負擔スル保險料ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第六十二條 船舶所有者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前條ノ規定ニ依リ納付スベキ保險料ヲ被保險者ニ支拂フベキ報酬ヨリ控除スルコトヲ得
第五章 審査ノ請求、訴願及訴訟
第六十三條 保險給付ニ關スル決定ニ不服アル者ハ第一次船員保險審査會ニ審査ヲ請求シ其ノ決定ニ不服アルトキハ第二次船員保險審査會ニ審査ヲ請求シ其ノ決定ニ不服アルトキハ通常裁判所ニ訴ヲ提起スルコトヲ得
前項ノ審査ノ請求ハ時效ノ中斷ニ關シテハ之ヲ裁判上ノ請求ト看做ス
第六十四條 保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ノ賦課若ハ徵收ノ處分又ハ第十二條ノ規定ニ依ル處分ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第六十五條 保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ノ賦課又ハ徵收ノ處分ニ關シ訴願ノ提起アリタルトキハ主務大臣ハ第二次船員保險審査會ノ審査ヲ經テ裁決ヲ爲スベシ
第六十六條 本法ニ規定スルモノノ外船員保險審査會ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十七條 審査ノ請求、訴ノ提起又ハ訴願若ハ行政訴訟ノ提起ハ處分ノ通知又ハ決定書ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ之ヲ爲スベシ此ノ場合ニ於テ審査ノ請求ニ付テハ訴願法第八條第三項ノ規定ヲ、訴ノ提起ニ付テハ民事訴訟法第百五十八條第二項及第百五十九條ノ規定ヲ準用ス
第六章 罰則
第六十八條 第九條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ報吿ヲ爲サズ、虛僞ノ報吿ヲ爲シ又ハ文書ノ提示ヲ爲サザル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十九條 船舶所有者ハ其ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ガ其ノ業務ニ關シ前條ノ違反行爲ヲ爲シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第七十條 第六十八條ノ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第七章 雜則
第七十一條 本法ヲ朝鮮又ハ臺灣ニ施行スル場合ニ於テ必要ナル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十二條 關東州船員令ニ依ル船員タリシ者ガ被保險者ト爲リタル場合又ハ被保險者タリシ者ガ關東州船員令ニ依ル船員ト爲リタル場合ノ保險給付ニ關シテハ勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得
附 則
本法施行ノ期日ハ保險給付及費用ノ負擔ニ關スル規定竝ニ其ノ他ノ規定ニ付各別ニ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
勅令ヲ以テ指定スル日前十五年間ニ於テ第十七條ノ規定ニ依ル被保險者ト爲ルベキ資格ヲ有スル船員トシテ五年以上船舶ニ乘組ミタル者ガ四十五歲ヲ超エ被保險者ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テ同日前十五年間ニ於テ船舶ニ乘組ミタル期間ト被保險者タリシ期間トヲ合算シ十五年以上ニ達スルモ十五年以上被保險者タリシ者ニ非ザルトキハ其ノ者ニ對スル脫退手當金ノ支給條件及其ノ額ニ付テハ第四十六條及第四十七條ノ規定ニ拘ラズ勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル船員保険法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十四年四月五日
内閣総理大臣 男爵 平沼騏一郎
内務大臣 侯爵 木戸幸一
厚生大臣 広瀬久忠
大蔵大臣 石渡荘太郎
法律第七十三号
船員保険法
第一章 総則
第一条 船員保険ニ於テハ被保険者又ハ被保険者タリシ者ノ疾病、負傷、老齢、廃疾、脱退又ハ死亡ニ関シ保険給付ヲ為スモノトス
第二条 船員保険ハ政府之ヲ管掌ス
第三条 本法ニ於テ報酬ト称スルハ船員ガ職務執行ノ対償トシテ船舶所有者ヨリ受クル給料及之ニ準ズベキモノヲ謂フ
給料ニ準ズベキモノノ範囲及評価ニ関シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四条 報酬ノ額ニ基キ保険料又ハ保険給付ノ額ヲ定ムル場合ニ於テハ標準報酬ニ依リ之ヲ算定ス
標準報酬ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五条 保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ヲ徴収シ又ハ其ノ還付ヲ受クル権利及療養費、傷病手当金、廃疾手当金又ハ死亡手当金ヲ受クル権利ハ一年ヲ経過シタルトキ、養老年金、廃疾年金、脱退手当金又ハ第三十六条、第三十七条、第四十二条若ハ第四十九条ノ規定ニ依ル一時金ヲ受クル権利ハ五年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
第六条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ規定スル期間ノ計算ニ付テハ本法ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外民法ノ期間ノ計算ニ関スル規定ヲ準用ス
第七条 船員保険ニ関スル書類ニハ印紙税ヲ課セズ
第八条 行政官庁又ハ保険給付ヲ受クベキ者ハ被保険者又ハ被保険者タリシ者ノ戸籍ニ関シ戸籍事務ヲ管掌スル者又ハ其ノ代理者ニ対シ無償ニテ証明ヲ求ムルコトヲ得
第九条 行政官庁ハ命令ノ定ムル所ニ依リ被保険者ヲ雇傭スル船舶所有者ヲシテ其ノ雇傭スル者ノ異動及報酬ニ関シ報告ヲ為サシメ、文書ヲ提示セシメ其ノ他船員保険ノ施行ニ必要ナル事務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令中船舶所有者トアルハ船舶共有ノ場合ニ在リテハ船舶管理人、船舶貸借ノ場合ニ在リテハ船舶借入人トス
第十一条 船舶ガ滅失又ハ沈没シタル際現ニ其ノ船舶ニ乗組ム被保険者又ハ其ノ船舶ニ乗組中被保険者ノ資格ヲ喪失シ引続キ船舶内ニ在ル者ガ滅失又ハ沈没ノ日ヨリ三月間其ノ生死分明ナラザルトキハ本法ノ適用ニ付テハ其ノ期間満了ノ日ニ死亡シタルモノト推定ス
船舶ノ存否ガ一月間分明ナラザルトキハ船舶ハ滅失シタルモノト推定ス
第一項ノ規定ハ被保険者又ハ船舶ニ乗組中被保険者ノ資格ヲ喪失シ引続キ船舶内ニ在ル者ガ船舶航行中行方不明ト為リタル場合ニ於テ三月間生死分明ナラザルトキニ之ヲ準用ス
第十二条 保険料ヲ滞納スル者アルトキハ行政官庁ハ期限ヲ指定シテ之ヲ督促スベシ
前項ノ規定ニ依リ督促ヲ為シタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ督促手数料及延滞金ヲ徴収ス
第一項ノ規定ニ依ル督促ヲ受ケタル者其ノ指定ノ期限迄ニ保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ヲ納付セザルトキハ行政官庁ハ国税滞納処分ノ例ニ依リ之ヲ処分シ又ハ滞納者若ハ其ノ者ノ財産ノ在ル市町村ニ対シ之ガ処分ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ市町村ニ対シ処分ノ請求ヲ為シタルトキハ市町村ハ市町村税ノ例ニ依リ之ヲ処分ス此ノ場合ニ於テハ行政官庁ハ徴収金額ノ百分ノ四ニ相当スル金額ヲ当該市町村ニ交付スベシ
第十三条 保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ノ先取特権ノ順位ハ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノノ徴収金ニ次ギ他ノ公課ニ先ツモノトス
第十四条 保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ニ関スル書類ノ送達ニ付テハ国税徴収法第四条ノ七及第四条ノ八ノ規定ヲ準用ス
第十五条 国、北海道、府県、市町村其ノ他之ニ準ズベキモノノ所有ニ属スル船舶ニ乗組ム船員ニ関シテハ本法ノ適用ニ付勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得
第十六条 本法中町村トアルハ町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之ニ準ズベキモノトス
第二章 被保険者
第十七条 船員法第一条ニ規定スル帝国臣民タル船員ニシテ本法施行地ニ船籍港ヲ定ムル船舶ニ乗組ムモノハ船員保険ノ被保険者トス但シ左ニ掲グル者ハ此ノ限ニ在ラズ
一 船舶所有者ニ雇傭セラレザル者
二 官吏又ハ待遇官吏(俸給給料ヲ受ケザル者ヲ除ク)
三 前二号ニ掲グル者ノ外勅令ヲ以テ指定スル者
第十八条 被保険者ハ船舶ニ乗組ミタル日、前条各号ノ規定ニ該当セザルニ至リタル日又ハ日本ノ国籍ヲ取得シタル日ヨリ其ノ資格ヲ取得ス
第十九条 被保険者ハ死亡シタル日、船舶ニ乗組マザルニ至リタル日、第十七条各号ノ規定ノ一ニ該当スルニ至リタル日又ハ日本ノ国籍ヲ失ヒタル日ノ翌日ヨリ其ノ資格ヲ喪失ス但シ其ノ事実アリタル日ニ更ニ前条ノ規定ニ該当スルニ至リタルトキハ其ノ日ヨリ其ノ資格ヲ喪失ス
第二十条 十年以上十五年未満被保険者タリシ者ガ被保険者タラザルニ至リタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ継続シテ被保険者ト為ルコトヲ得但シ其ノ者ガ日本ノ国籍ヲ失ヒタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ニ依ル被保険者ニ対シテハ老齢又ハ脱退ニ関スル保険給付ニ限リ之ヲ為スモノトス
第二十一条 前条ノ規定ニ依ル被保険者ハ第十七条ノ規定ニ依ル被保険者タリシ期間ト前条ノ規定ニ依ル被保険者タリシ期間トヲ合算シテ十五年ニ達シタルトキ其ノ他勅令ヲ以テ定ムル事由ニ該当スルニ至リタルトキハ其ノ資格ヲ喪失ス
第十九条ノ規定ハ前条ノ規定ニ依ル被保険者死亡シタル場合及日本ノ国籍ヲ失ヒタル場合ニ之ヲ準用ス
第三章 保険給付
第一節 総則
第二十二条 被保険者タリシ期間ハ被保険者ノ資格ヲ取得シタル月ヨリ之ヲ起算シ其ノ資格ヲ喪失シタル月ノ前月ヲ以テ終ル但シ十六日以後ニ於テ被保険者ノ資格ヲ取得シタルトキハ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ計算ス
十六日以後ニ於テ被保険者ノ資格ヲ喪失シタルトキハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ被保険者タリシ期間ニ加算ス
被保険者ノ資格ヲ喪失シタル後更ニ其ノ資格ヲ取得シタル者ニ対シテ保険給付ヲ為ス場合ニ於テハ前後ノ被保険者タリシ期間ハ之ヲ合算ス但シ脱退手当金ノ支給ヲ受ケタル場合ニ於テハ其ノ計算ノ基礎ト為リタル期間ハ之ヲ合算セズ
前項但書ノ規定ハ第四十九条ノ規定ニ依リ差額ノ支給ヲ受ケタル場合ニ之ヲ準用ス
第二十三条 第三十六条、第三十七条若ハ第四十二条ノ規定ニ依ル一時金又ハ死亡手当金ヲ受クベキ遺族ノ範囲及順位ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十四条 養老年金及廃疾年金ノ支給ハ之ヲ支給スベキ事由ノ生ジタル月ノ翌月ヨリ之ヲ始メ権利消滅ノ月ヲ以テ終ル
第二十五条 政府ハ事故ガ第三者ノ行為ニ因リテ生ジタル場合ニ於テ保険給付ヲ為シタルトキハ其ノ給付ノ価額ノ限度ニ於テ保険給付ヲ受クベキ者ガ第三者ニ対シテ有スル損害賠償請求ノ権利ヲ取得ス
第二十六条 保険給付トシテ支給ヲ受ケタル金品ヲ標準トシテ租税其ノ他ノ公課ヲ課セズ但シ養老年金ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第二十七条 保険給付ヲ受クル権利ハ之ヲ譲渡シ又ハ差押フルコトヲ得ズ
第二節 療養ノ給付及傷病手当金
第二十八条 被保険者又ハ被保険者タリシ者ノ疾病又ハ負傷ニ関シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ療養ノ給付ヲ為ス但シ被保険者ノ資格喪失前ノ疾病又ハ負傷ニ因リ発シタル疾病ヲ除クノ外被保険者ノ資格喪失後ニ発シタル疾病又ハ負傷ニ関シテハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ハ報酬年額千八百円ヲ超ユル船舶職員、被保険者ノ資格喪失当時報酬年額千八百円ヲ超ユル船舶職員タリシ者及勅令ヲ以テ指定スル者ノ疾病又ハ負傷ニハ之ヲ適用セズ
第一項ノ場合ニ於テ療養上必要アリト認ムルトキハ被保険者又ハ被保険者タリシ者ヲ診療所ニ収容スルコトヲ得
第二十九条 療養ノ給付ヲ為スコト困難ナル場合又ハ被保険者若ハ被保険者タリシ者ノ申請アリタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ療養ノ給付ニ代ヘテ療養費ヲ支給スルコトヲ得
第三十条 被保険者タリシ者左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テ療養ノ為労務ニ服スルコト能ハザルトキハ其ノ期間傷病手当金トシテ一日ニ付被保険者ノ資格喪失当時ノ報酬日額ノ百分ノ六十ニ相当スル金額ヲ支給ス
一 療養ノ給付ヲ受クルトキ
二 船員法第十七条又ハ第二十九条ノ規定ニ依リ船舶所有者ヨリ疾病又ハ負傷ニ関シ扶助ヲ受クルトキ
第二十八条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三十一条 診療所ニ収容シタル被保険者タリシ者ニ対シテ支給スベキ傷病手当金ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ減額スルコトヲ得
第三十二条 療養ノ給付及傷病手当金ノ支給ハ同一ノ疾病又ハ負傷及之ニ因リ発シタル疾病ニ付其ノ保険給付ヲ始メタル日ヨリ起算シ六月ヲ経過シタルトキハ之ヲ為サズ
主務大臣ノ指定スル疾病ニ関シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ前項ノ期間ヲ超エ尚六月以内継続シテ療養ノ給付及傷病手当金ノ支給ヲ為スコトヲ得但シ其ノ保険給付ヲ始メタル日前勅令ノ定ムル期間引続キ被保険者タリシ者ニ限ル
傷病手当金ハ其ノ支給期間ヲ経過セザルトキト雖モ療養ノ給付ヲ為シ得ル期間ヲ経過スルニ至リタルトキハ之ヲ支給セズ
第三十三条 船員法第十七条又ハ第二十九条ノ規定ニ依リ船舶所有者ヨリ扶助又ハ手当ノ支給ヲ受クル被保険者又ハ被保険者タリシ者ノ疾病又ハ負傷ニ関シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ受クルコトヲ得ベキ期間経過後療養ノ給付又ハ傷病手当金ノ支給ヲ開始ス
第三節 養老年金
第三十四条 十五年以上被保険者タリシ者ガ其ノ資格ヲ喪失シタル後五十歳ヲ超エタルトキ又ハ五十歳ヲ超エ其ノ資格ヲ喪失シタルトキハ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄養老年金ヲ支給ス
第三十五条 養老年金ノ額ハ被保険者タリシ期間十五年以上十六年未満ニ対シ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ二十五ニ相当スル金額トシ被保険者タリシ期間十五年以上一年ヲ増ス毎ニ其ノ一年ニ対シ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相当スル金額ヲ加ヘタル金額トス
被保険者タリシ期間四十年ヲ超ユル者ニ支給スベキ養老年金ノ額ハ之ヲ被保険者タリシ期間四十年トシテ計算ス
第三十六条 養老年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタル場合ニ於テ既ニ支給ヲ受ケタル養老年金ノ総額ガ養老年金ノ五年分ニ相当スル金額ニ満タザルトキハ其ノ差額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
第三十七条 十五年以上被保険者タリシ者ガ養老年金ノ支給ヲ受クルコトナクシテ死亡シタル場合ニ於テハ其ノ者ガ支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ養老年金ノ五年分ニ相当スル金額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
第三十八条 傷病手当金又ハ船員法第十七条若ハ第二十九条ノ規定ニ依リ船舶所有者ヨリ手当ノ支給ヲ受クル者ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ受クルコトヲ得ベキ期間養老年金ノ支給ヲ停止ス
第三十九条 養老年金ノ支給ヲ受クル者被保険者ト為リタルトキハ其ノ月ヨリ養老年金ノ支給ヲ停止ス
前項ノ規定ニ依リ養老年金ノ支給ヲ停止セラレタル被保険者ガ其ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ前後ノ被保険者タリシ期間ヲ合算シテ養老年金ノ額ヲ改定ス
前項ノ規定ニ依リ養老年金ノ額ヲ改定スル場合ニ於テ其ノ額ガ従前ノ養老年金ノ額ヨリ少キトキハ従前ノ養老年金ノ額ヲ以テ改定養老年金ノ額トス
第四節 廃疾年金及廃疾手当金
第四十条 被保険者ノ資格喪失前六年間ニ三年以上被保険者タリシ者ノ資格喪失前ニ発シタル疾病又ハ負傷及之ニ因リ発シタル疾病ガ勅令ノ定ムル期間内ニ治癒シタル場合又ハ治癒セザルモ其ノ期間ヲ経渦シタル場合ニ於テ勅令ノ定ムル程度ノ廃疾ノ状態ニ在ル者ニハ其ノ程度ニ応ジ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄廃疾年金ヲ支給シ又ハ一時金トシテ廃疾手当金ヲ支給ス
第四十一条 廃疾年金ノ額ハ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ二十五ニ相当スル金額トシ被保険者タリシ期間十五年以上一年ヲ増ス毎ニ其ノ一年ニ対シ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相当スル金額ヲ加ヘタル金額トス
第三十五条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
廃疾手当金ノ額ハ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ七月分ニ相当スル金額トス
第四十二条 廃疾年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタル場合ニ於テハ左ノ区別ニ依ル金額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
一 被保険者タリシ期間ガ十五年未満ナル場合ニ於テ既ニ支給ヲ受ケタル廃疾年金ノ総額ガ被保険者ノ資格喪失ノ際支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ脱退手当金及被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ七月分ノ合算額(被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ十三月分ヲ超ユルトキハ十三月分ニ止ム)ニ相当スル金額ニ満タザルトキハ其ノ差額
二 被保険者タリシ期間ガ十五年以上ナル場合ニ於テ既ニ支給ヲ受ケタル廃疾年金ノ総額ガ廃疾年金ノ五年分ニ相当スル金額ニ満タザルトキハ其ノ差額
第四十三条 養老年金及廃疾年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ一ヲ支給ス
第四十四条 廃疾年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ガ廃疾年金ヲ受クル程度ノ廃疾ノ状態ニ該当セザルニ至リタルトキハ爾後廃疾年金ヲ支給セズ
第四十五条 養老年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ニハ廃疾手当金ヲ支給セズ
第五節 脱退手当金
第四十六条 三年以上十五年未満被保険者タリシ者ガ死亡シタルトキ又ハ其ノ資格ヲ喪失シタル後更ニ被保険者ト為ルコトナクシテ一年六月ヲ経過シタルトキハ脱退手当金ヲ支給ス但シ其ノ者ガ廃疾手当金ヲ受クル権利ヲ有スルトキハ一年六月ヲ経過セザル場合ト雖モ之ヲ支給ス
第四十七条 脱退手当金ノ額ハ左ノ区別ニ依ル但シ廃疾手当金ノ支給ヲ受クル者ニ支給スベキ額ハ廃疾手当金ノ額ト合算シテ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ十三月分ニ相当スル金額ヲ超ユルコトヲ得ズ
一 被保険者タリシ期間三年以上四年未満ナル者ニ対シテハ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ一月半分ニ相当スル金額
二 被保険者タリシ期間四年以上九年未満ナル者ニ対シテハ其ノ期間三年以上一年ヲ増ス毎ニ前号ノ金額ニ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ半月分ニ相当スル金額ヲ加ヘタル金額
三 被保険者タリシ期間九年以上ナル者ニ対シテハ其ノ期間八年以上一年ヲ増ス毎ニ前号ノ規定ニ依リ其ノ期間八年以上九年未満ノ者ノ支給ヲ受クベキ金額ニ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ一月分ニ相当スル金額ヲ加ヘタル金額
第四十八条 廃疾年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ニハ脱退手当金ヲ支給セズ
第四十九条 廃疾年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ガ第四十四条ノ規定ニ依リ廃疾年金ノ支給ヲ受ケザルニ至リタル場合ニ於テ既ニ支給ヲ受ケタル廃疾年金ノ総額ガ其ノ者ガ被保険者ノ資格ヲ喪失シタル際支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ脱退手当金ノ額ニ満タザルトキハ其ノ差額ヲ支給ス
第六節 死亡手当金
第五十条 左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テ被保険者又ハ被保険者タリシ者ガ三年以上被保険者タリシトキハ其ノ遺族ニ対シ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ三月分ニ相当スル死亡手当金ヲ支給ス但シ其ノ金額ガ百円ニ満タザルトキハ之ヲ百円トス
一 被保険者ガ死亡シタルトキ
二 被保険者タリシ者ガ其ノ資格喪失後三月以内ニ死亡シタルトキ
三 被保険者タリシ者ニシテ療養ノ給付ヲ受クルモノガ死亡シタルトキ
第七節 保険給付ノ制限
第五十一条 被保険者又ハ被保険者タリシ者ガ自己ノ故意ノ犯罪行為ニ因リ又ハ故意ニ事故ヲ生ゼシメタルトキハ療養ノ給付又ハ傷病手当金、廃疾年金、廃疾手当金若ハ死亡手当金ノ支給ヲ為サズ
第三十六条、第三十七条若ハ第四十二条ノ規定ニ依ル一時金又ハ死亡手当金ノ支給ヲ受クベキ者ガ被保険者又ハ被保険者タリシ者ヲ故意ニ死ニ致シタルトキハ其ノ者ニ対シテハ支給ヲ為サズ此ノ場合ニ於テ後順位者アルトキハ其ノ者ニ支給ヲ為ス
第五十二条 被保険者又ハ被保険者タリシ者ガ闘争、泥酔若ハ著シキ不行跡ニ因リ、故意ニ危害予防ニ関スル業務上ノ監督者ノ指揮ニ従ハザルニ因リ又ハ正当ノ理由ナクシテ療養ニ関スル指揮ニ従ハザルニ因リ事故ヲ生ゼシメタルトキハ傷病手当金、廃疾年金又ハ廃疾手当金ノ全部又ハ一部ヲ支給セザルコトヲ得
第五十三条 被保険者又ハ被保険者タリシ者ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ其ノ期間療養ノ給付又ハ傷病手当金ノ支給ヲ為サズ但シ命令ヲ以テ定ムル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
一 陸海軍ニ徴集又ハ召集セラレタルトキ
二 本法施行地外ニ在ルトキ
三 船舶内ニ在ルトキ
四 矯正院其ノ他之ニ準ズベキモノニ入院セシメラレタルトキ
五 監獄、留置場又ハ労役場ニ拘禁又ハ留置セラレタルトキ
六 健康保険又ハ職員健康保険ニ於テ之ニ相当スル保険給付ヲ受クルトキ
他ノ法令ニ依リ国又ハ公共団体ノ負担ニ於テ診療所ニ収容セラレタル者ニ対シテハ療養ノ給付ヲ為サズ
第三十一条ノ規定ハ前項ニ掲グル者ニ之ヲ準用ス
第五十四条 正当ノ理由ナクシテ療養ニ関スル指揮ニ従ハザル者ニ対シテハ傷病手当金ノ一部ヲ支給セザルコトヲ得
第五十五条 詐欺其ノ他不正ノ行為ニ依リ保険給付ヲ受ケ又ハ受ケントシタル者ニ対シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ期間ヲ定メ保険給付ノ全部又ハ一部ヲ為サザルコトヲ得
第五十六条 療養ノ給付又ハ傷病手当金若ハ廃疾年金ノ支給ヲ受クル者ニ付必要アリト認ムルトキハ診断ヲ行フコトヲ得
正当ノ理由ナクシテ前項ノ診断ヲ受ケザル者ニ対シテハ療養ノ給付ノ全部若ハ一部又ハ傷病手当金、廃疾年金若ハ廃疾手当金ノ全部若ハ一部ノ支給ヲ為サザルコトヲ得
第五十七条 養老年金又ハ廃疾年金ヲ受クル者ニ付必要アリト認ムルトキハ其ノ身分関係ノ異動及廃疾状態ノ継続ノ有無ニ関シ其ノ者ヲシテ必要ナル書類ヲ提出セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ書類ヲ提出セザル者ニ対シテハ養老年金又ハ廃疾年金ノ支給ヲ一時差止ムルコトヲ得
第四章 費用ノ負担
第五十八条 国庫ハ療養ノ給付及傷病手当金ヲ除クノ外保険給付ニ要スル費用ノ五分ノ一ヲ負担ス
国庫ハ前項ニ規定スル費用ノ外毎年度予算ノ範囲内ニ於テ船員保険事業ノ事務ノ執行ニ要スル費用ヲ負担ス
第五十九条 政府ハ船員保険事業ニ要スル費用ニ充ツル為保険料ヲ徴収ス
保険料ノ算定ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十条 被保険者及被保険者ヲ雇傭スル船舶所有者ハ各保険料額ノ二分ノ一ヲ負担ス但シ第二十条ノ規定ニ依ル被保険者ハ其ノ全額ヲ負担ス
第六十一条 船舶所有者ハ其ノ雇傭スル被保険者ノ負担スベキ保険料ヲ納付スル義務ヲ負フ但シ第二十条ノ規定ニ依ル被保険者ノ負担スル保険料ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第六十二条 船舶所有者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前条ノ規定ニ依リ納付スベキ保険料ヲ被保険者ニ支払フベキ報酬ヨリ控除スルコトヲ得
第五章 審査ノ請求、訴願及訴訟
第六十三条 保険給付ニ関スル決定ニ不服アル者ハ第一次船員保険審査会ニ審査ヲ請求シ其ノ決定ニ不服アルトキハ第二次船員保険審査会ニ審査ヲ請求シ其ノ決定ニ不服アルトキハ通常裁判所ニ訴ヲ提起スルコトヲ得
前項ノ審査ノ請求ハ時効ノ中断ニ関シテハ之ヲ裁判上ノ請求ト看做ス
第六十四条 保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ノ賦課若ハ徴収ノ処分又ハ第十二条ノ規定ニ依ル処分ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第六十五条 保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ノ賦課又ハ徴収ノ処分ニ関シ訴願ノ提起アリタルトキハ主務大臣ハ第二次船員保険審査会ノ審査ヲ経テ裁決ヲ為スベシ
第六十六条 本法ニ規定スルモノノ外船員保険審査会ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十七条 審査ノ請求、訴ノ提起又ハ訴願若ハ行政訴訟ノ提起ハ処分ノ通知又ハ決定書ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ之ヲ為スベシ此ノ場合ニ於テ審査ノ請求ニ付テハ訴願法第八条第三項ノ規定ヲ、訴ノ提起ニ付テハ民事訴訟法第百五十八条第二項及第百五十九条ノ規定ヲ準用ス
第六章 罰則
第六十八条 第九条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ報告ヲ為サズ、虚偽ノ報告ヲ為シ又ハ文書ノ提示ヲ為サザル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス
第六十九条 船舶所有者ハ其ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ従業者ガ其ノ業務ニ関シ前条ノ違反行為ヲ為シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ処罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第七十条 第六十八条ノ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第七章 雑則
第七十一条 本法ヲ朝鮮又ハ台湾ニ施行スル場合ニ於テ必要ナル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十二条 関東州船員令ニ依ル船員タリシ者ガ被保険者ト為リタル場合又ハ被保険者タリシ者ガ関東州船員令ニ依ル船員ト為リタル場合ノ保険給付ニ関シテハ勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得
附 則
本法施行ノ期日ハ保険給付及費用ノ負担ニ関スル規定並ニ其ノ他ノ規定ニ付各別ニ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
勅令ヲ以テ指定スル日前十五年間ニ於テ第十七条ノ規定ニ依ル被保険者ト為ルベキ資格ヲ有スル船員トシテ五年以上船舶ニ乗組ミタル者ガ四十五歳ヲ超エ被保険者ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テ同日前十五年間ニ於テ船舶ニ乗組ミタル期間ト被保険者タリシ期間トヲ合算シ十五年以上ニ達スルモ十五年以上被保険者タリシ者ニ非ザルトキハ其ノ者ニ対スル脱退手当金ノ支給条件及其ノ額ニ付テハ第四十六条及第四十七条ノ規定ニ拘ラズ勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得