企業担保法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十三年四月三十日
内閣総理大臣 岸信介
法律第百六号
企業担保法
目次
第一章
企業担保権(第一条―第九条)
第二章
企業担保権の実行
第一節
総則(第十条―第十八条)
第二節
実行手続の開始(第十九条―第二十九条)
第三節
会社の総財産の管理(第三十条―第三十六条)
第四節
換価(第三十七条―第五十条)
第五節
配当(第五十一条―第五十五条)
第六節
雑則(第五十六条―第五十九条)
第三章
罰則(第六十条―第六十二条)
附則
第一章 企業担保権
(企業担保権)
第一条 株式会社(以下「会社」という。)の総財産は、その会社の発行する社債を担保するため、一体として、企業担保権の目的とすることができる。
2 企業担保権は、物権とする。
(効力)
第二条 企業担保権者は、現に会社に属する総財産につき、他の債権者に先だつて、債権の弁済を受けることができる。
2 前項の規定は、会社の財産に対する強制執行又は担保権の実行としての競売の場合には、適用しない。
(設定及び変更)
第三条 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約は、公正証書によつてしなければならない。
(登記)
第四条 企業担保権の得喪及び変更は、会社の本店の所在地において、株式会社登記簿にその登記をしなければ、効力を生じない。ただし、一般承継、混同又は担保する債権の消滅による得喪及び変更については、この限りでない。
2 企業担保権の登記に関し必要な事項は、政令で定める。
(順位)
第五条 数個の企業担保権相互の順位は、その登記の前後による。
(他の権利との関係)
第六条 会社の財産の上に存する権利は、企業担保権の登記の後に対抗要件を備えたものでも、企業担保権者に対抗することができる。
第七条 一般の先取特権は、企業担保権に優先する。
2 特別の先取特権、質権又は抵当権は、その権利の目的となつている財産につき、企業担保権に優先する。
(会社の合併)
第八条 合併により消滅する会社の総財産を目的とする企業担保権は、合併後存続する会社又は合併により設立される会社の総財産につき、効力を有する。
2 合併をする会社の双方の総財産が企業担保権の目的となつているときは、合併後の企業担保権の順位に関する企業担保権者間に協定がなければ、合併をすることができない。
3 合併の無効の訴は、企業担保権者も、提起することができる。
(民法の準用)
第九条 民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百九十六条、第三百七十四条、第三百七十五条中順位の譲渡及び放棄に関する部分、第三百七十六条及び第三百九十六条の規定は、企業担保権に準用する。
第二章 企業担保権の実行
第一節 総則
(管轄)
第十条 企業担保権の実行は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
(実行の申立)
第十一条 企業担保権の実行は、企業担保権者の申立によつてする。
(任意的口頭弁論)
第十二条 実行手続に関する裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
(公告)
第十三条 この章の規定によつてする公告は、別段の定がない限り、官報及び裁判所の定める一個又は数個の新聞紙に掲載してする。
2 前項の規定による公告は、最終の掲載があつた日の翌日に、その効力を生ずる。
(利害関係人)
第十四条 実行手続における利害関係人は、次に掲げる者とする。
一 申立人
二 会社
三 申立人以外の企業担保権者
四 第二十二条第一項の規定による公告の最終の掲載があつた日又は第二十三条第一項の規定による実行手続の開始の登記の日のうちいずれか遅い日において、会社の財産につき、登記若しくは登録した権利又は仮登記若しくは仮登録により保全される権利を有する者として、その権利を証明した者
五 前号に掲げる者を除くほか、会社の財産につき、実行手続において主張することができる権利を有する者として、その権利を証明した者
(報告の徴取)
第十五条 裁判所は、利害の関係を有する者の申請により、又は職権で、管財人に、会社の財産又はその管理若しくは換価の状況に関する報告をさせることができる。
(書類の閲覧等)
第十六条 利害の関係を有する者は、裁判所書記官に、実行手続に関する書類の閲覧又は謄写を請求することができる。
(民事訴訟法の準用)
第十七条 特別の定がある場合を除き、実行手続に関しては、その性質に反しない限り、民事訴訟法(明治二十三年法律第二十九号)第一編から第四編までの規定を準用する。
2 民事訴訟法第五百十三条、第五百四十四条、第五百四十九条から第五百五十一条まで、第五百五十四条、第五百五十五条及び第五百五十八条の規定は、実行手続に関し準用する。
(政令等への委任)
第十八条 この法律に定めるもののほか、実行手続に関し必要な事項で、登記又は登録に関するものは政令で、その他のものは最高裁判所が定める。
第二節 実行手続の開始
(開始決定)
第十九条 実行手続の開始は、決定でする。
第二十条 実行手続の開始の決定には、同時に、企業担保権者のために会社の総財産を差し押える旨を宣言しなければならない。
2 差押は、決定を会社に送達することによつてその効力を生ずる。
第二十一条 裁判所は、実行手続の開始の決定と同時に、管財人を選任しなければならない。
(公告)
第二十二条 裁判所は、実行手続の開始の決定をしたときは、ただちに、次に掲げる事項を公告しなければならない。
一 実行手続の開始の決定の主文
二 管財人の表示
三 会社の債務者及び会社の財産の所持者は、会社に弁済し、又はその財産を交付してはならない旨及び債務を負担すること又はその財産を所持することを一定の期間内に管財人に届け出るべき旨
四 一般の優先権を有する会社の債権者(租税その他の公課については、その賦課徴収の事務を掌る機関)は、その債権を一定の期間内に裁判所に届け出るべき旨
五 特別担保を有する会社の債権者は、その担保権を一定の期間内に裁判所に届け出るべき旨
2 裁判所は、管財人又はその表示に変更があつたときは、遅滞なく、その旨を公告しなければならない。
3 第一項第三号の届出を怠つた者は、これによつて会社の総財産に生じた損害を賠償しなければならない。
(登記及び登録)
第二十三条 管財人は、実行手続の開始の決定があつたときは、遅滞なく、実行手続の開始の登記及び管財人の登記を会社の本店の所在地を管轄する登記所に申請しなければならない。
2 前項の規定は、管財人又はその表示に変更があつた場合における管財人の更迭又はその表示の変更の登記に準用する。
第二十四条 管財人は、実行手続の開始の決定があつたときは、遅滞なく、会社の財産で登記又は登録をすることができるものについて、実行手続の開始の登記又は登録を申請しなければならない。
第二十五条 前二条の規定による登記及び登録については、登録税を課さない。
(会社の債務者への通知)
第二十六条 管財人は、実行手続の開始の決定があつたときは、遅滞なく、会社の債務者に、会社のその債務者に対する債権が差し押えられた旨を通知しなければならない。ただし、債務を負担することを管財人に届け出た債務者に対しては、この限りでない。
(差押の対抗)
第二十七条 第二十条の規定による差押は、善意の第三者に対しては、第二十二条第一項の規定による公告及び第二十三条第一項の規定による実行手続の開始の登記の後でなければ、対抗することができない。その公告及び登記の後でも、第三者が正当の理由により差押を知らなかつたときは、同様とする。
2 前項の公告及び登記の後に、会社の法律行為によらないで会社の財産に関して権利を取得しても、その取得は、実行手続に対する関係においては、その効力を主張することができない。
(他の手続の失効)
第二十八条 実行手続の開始の決定があつたときは、会社の財産に対しすでにされている債権若しくは担保権に基く強制執行、仮差押、仮処分若しくは担保権の実行としての競売手続又は国税徴収法(明治三十年法律第二十一号)による滞納処分若しくは国税徴収の例による滞納処分は、実行手続に対する関係においては、その効力を失う。
(民事訴訟法の準用等)
第二十九条 民事訴訟法第六百四十五条第一項及び第二項の規定は、実行手続の開始の決定があつた場合における他の実行の申立に関し準用する。
2 前項の規定により準用される民事訴訟法第六百四十五条第二項の規定により、実行の申立が実行手続の開始の決定を受けた効力を生じたときは、従前の管財人は、引き続き、その後の手続における管財人となる。
第三節 会社の総財産の管理
(管財人)
第三十条 管財人は、裁判所が選任する。この場合においては、裁判所は、申立人の意見をきかなければならない。
2 信託会社、銀行その他の法人は、管財人となることができる。
3 管財人は、その職務を行う場合において必要があるときは、補助者を使用することができる。
第三十一条 裁判所は、利害関係人の申請により、又は職権で、管財人を解任することができる。この場合においては、申立人の意見をきき、かつ、その管財人を審尋しなければならない。
第三十二条 実行手続の開始の決定があつたときは、管財人は、会社の総財産を保全するため、これを管理する。
2 管財人は、会社の商品及び有価証券を売却することができる。
3 管財人は、会社の債権を直接に取り立てることができる。
(説明義務)
第三十三条 会社の取締役及び監査役は、管財人の請求により、会社の財産に関し、必要な説明をしなければならない。
(財産明細表)
第三十四条 管財人は、最高裁判所の定めるところにより、会社の総財産につき財産明細表を作成し、その謄本を裁判所に提出しなければならない。
(管理費用及び報酬)
第三十五条 管財人は、会社の金銭を費用及び報酬に充てることができる。
2 申立人は、管財人の請求により、費用及び報酬を立て替えなければならない。
(破産法の準用)
第三十六条 破産法(大正十一年法律第七十一号)第百五十九条、第百六十条、第百六十二条から第百六十六条まで及び第百六十九条の規定は管財人に、同法第百八十五条から第百八十七条までの規定は会社の財産の管理に関し準用する。この場合において、同法第百六十二条中「破産財団」とあるのは「会社ノ財産」と、第百八十七条中「裁判所書記官ハ」とあるのは「裁判所書記官ハ管財人ノ請求ニ因リ」と読み替えるものとする。
第四節 換価
(換価の方法)
第三十七条 会社の総財産(金銭を除く。以下この節において同じ。)の換価は、一括競売又は任意売却によつてする。
2 一括競売は、会社の総財産を一括し、せり売又は入札の方法によつてする。
3 任意売却は、会社の総財産を一括し、又は個別に、適宜の方法によつてする。
(一括競売の場合の評価)
第三十八条 一括競売によるときは、管財人は、鑑定人に、会社の総財産及び特別担保の目的となつている財産の評価をさせなければならない。
2 鑑定人は、会社の総財産の評価をするには、これを一体としてしなければならない。
(最低競売価額)
第三十九条 前条の規定による会社の総財産の評価額は、最低競売価額とする。
(競売期日及び競落期日)
第四十条 競売期日は管財人が、競落期日は裁判所が定める。
第四十一条 管財人は、競売期日、せり売又は入札の別、競落期日及び最高裁判所の定める事項を公告しなければならない。
第四十二条 競売期日は、前条の規定による公告の後十四日を経過した日以後でなければならない。
2 競売期日は、管財人が開く。
3 管財人は、競売期日に、競売につき調書を作らなければならない。
第四十三条 競落期日は、競売期日から起算して十四日を過ぎることができない。
2 競落期日は、裁判所が開く。
(競落の効果)
第四十四条 会社の総財産は、代金の支払があつた時に、競落人に移転する。
2 前項の場合には、競落人は、会社の営業に関する行政庁の許可、認可、免許その他の処分に基く地位を承継する。ただし、その承継に関し他の法令に禁止又は制限の定があるときは、その定に従う。
(任意売却)
第四十五条 任意売却は、裁判所の認可を受けて、管財人が実施する。ただし、企業担保権者、特別担保を有する債権者又は会社の申出があつた場合において、管財人が、企業担保権者全員及び、特別担保の目的となつている財産については、その特別担保を有する債権者の同意を得たときに限る。
2 裁判所は、前項の認可の申請があつたときは、鑑定人に、売却価額の鑑定をさせることができる。
3 会社の総財産の一部の売却代金から実行手続の費用を控除して、企業担保権者及びこれに優先する債権者の債権を弁済することができるときは、他の財産を売却してはならない。
第四十六条 特別担保の目的となつている財産は、各別に売却しなければならない。
第四十七条 第四十五条第一項の規定による認可を受けないでされた売却は、無効とする。ただし、その無効は、善意の買受人又は転得者に対しては、主張することができない。
(有価証券の名義書換)
第四十八条 記名の有価証券が売却されたときは、管財人は、名義書換のため必要な行為をすることができる。
(指名債権の譲渡の通知)
第四十九条 指名債権が売却されたときは、管財人は、その旨を債務者に通知しなければならない。
2 前項の通知があつたときは、競落人又は買受人は、指名債権の取得を債務者その他の第三者に対抗することができる。
(民事訴訟法の準用)
第五十条 民事訴訟法第六百四十九条、第六百五十六条、第六百六十二条から第六百七十四条まで、第六百七十六条から第六百八十五条まで、第六百八十八条及び第七百三条から第七百五条までの規定は、換価に関し準用する。この場合において、同法第六百六十二条及び第六百六十二条ノ二第一項中「本款」とあるのは「企業担保法」と、第六百六十三条及び第六百六十七条第一項第三号中「執行記録」とあるのは「財産明細表及ビ財産ノ評価ニ関スル書類」と、同項中「左ノ諸件」とあるのは「左ノ諸件及ビ最高裁判所ノ定ムル事項」と、第六百七十条第一項中「裁判所」とあるのは「管財人」と、第六百七十二条第四号中「第六百五十八条」とあるのは「企業担保法第四十一条」と、同条第六号中「第六百五十九条」とあるのは「企業担保法第四十二条第一項」と、第六百七十六条中「職権ヲ以テ新競売期日ヲ」とあるのは「新競売期日ヲ」と、第六百八十五条中「第六百五十五条乃至第六百五十七条」とあるのは「第六百五十六条及ビ企業担保法第三十八条乃至第四十一条」と読み替えるものとする。
第五節 配当
(金銭の引渡及び計算書等の提出)
第五十一条 換価が完了したときは、管財人は、裁判所の指定する日に裁判所書記官に、会社の金銭を引き渡し、職務の執行に関する費用の計算書及びその証明書類並びに、任意売却により換価したときは、換価に関する報告書を提出しなければならない。
(配当)
第五十二条 裁判所は、一括競売による売却代金、前条の規定により引渡を受けた金銭並びに第三十五条第一項の規定により管財人が費用及び報酬に充てた金銭の合計額から実行手続の費用を控除して、まず企業担保権者及びこれに優先する債権者に配当し、その残余を他の債権者に配当しなければならない。
第五十三条 特別担保を有する債権者の受けるべき配当額は、その特別担保の目的となつている財産の価額から、前条の合計額に対するその財産の価額の割合を実行手続の費用に乗じて得た額を控除した額を限度とする。
2 特別担保の目的となつている財産の価額は、一括競売により換価したときは、第三十八条第一項の規定による会社の総財産の評価額に対する同項の規定によるその財産の評価額の割合を一括競売による売却代金に乗じて得た額、任意売却により換価したときは、その売却価額とする。
(登記及び登録)
第五十四条 管財人は、企業担保権者及びこれに優先する債権者の配当表が実施されたときは、遅滞なく、次に掲げる登記及び登録を申請しなければならない。
一 企業担保権の登記及び第二十三条の規定によつてされた登記のまつ消
二 登記又は登録のされた会社の財産について、消滅した権利の登記又は登録及び第二十四条の規定によつてされた登記又は登録のまつ消並びに競落人又は買受人の権利の取得の登記又は登録
2 前項第一号の登記の申請に要する費用は、実行手続の費用とし、同項第二号の登記又は登録の申請に要する費用は、競落人又は買受人の負担とする。
(民事訴訟法の準用)
第五十五条 民事訴訟法第六百四十六条及び第六百九十一条から第六百九十九条までの規定は、配当に関し準用する。この場合において、同法第六百四十六条第二項中「競落期日ノ終ニ至ルマデ」とあるのは「一括競売ニ依リ換価スル場合ニ於テハ競落期日ノ終ニ至ルマデ任意売却ニ依リ換価スル場合ニ於テハ裁判所ガ定メテ公告シタル日マデ」と、同法第六百九十二条第一項中「競落期日マデニ」とあるのは「一括競売ニ依リ換価スル場合ニ於テハ競落期日マデニ任意売却ニ依リ換価スル場合ニ於テハ裁判所ガ定メテ公告シタル日マデニ」と読み替えるものとする。
第六節 雑則
(差押の消滅)
第五十六条 実行の申立の取下があつたときは、第二十条の規定による差押は、消滅する。
(会社への財産の引渡)
第五十七条 裁判所は、会社の申立により、又は職権で、第四十五条第三項の規定により売却の禁止される会社の財産について、会社に引き渡すべき旨を管財人に命ずることができる。
2 前項の規定による裁判所の命令により管財人が会社に引き渡した財産については、第二十条の規定による差押は、その引渡の時に消滅する。
(申立の取下等の公告)
第五十八条 裁判所は、実行手続が実行の申立の取下又は実行手続の開始の決定の取消により終結したときは、ただちに、その旨を公告しなければならない。
(申立の取下等の場合の登記及び登録)
第五十九条 管財人は、実行手続が実行の申立の取下又は実行手続の開始の決定の取消により終結したときは、遅滞なく、第二十三条又は第二十四条の規定によつてされた登記又は登録のまつ消を申請しなければならない。第五十七条第二項の規定により差押の消滅した財産についても、同様とする。
第三章 罰則
(収賄罪)
第六十条 管財人又はその代理人がその職務に関しわいろを収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
2 管財人が法人であるときは、管財人の職務に従事するその役員又は職員がその職務に関しわいろを収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。管財人が法人である場合において、その役員又は職員が管財人の職務に関し管財人にわいろを収受させ、又はその供与を要求し、若しくは約束したときも、同様とする。
3 犯人又は法人である管財人が収受したわいろは、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。
(贈賄罪)
第六十一条 前条第一項若しくは第二項に規定するわいろを供与し、又はその申込若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(説明義務違反の罪)
第六十二条 第三十三条の規定により説明の義務のある者が、正当の理由がないのにその説明をせず、又は虚偽の説明をしたときは、一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和三十三年七月一日から施行する。
(被担保債権の特例)
2 当分の間、第一条の規定にかかわらず、会社の総財産は、日本開発銀行の会社に対する貸付金で次に掲げるものを担保するためにも、企業担保権の目的とすることができる。
一 日本開発銀行と国際復興開発銀行との契約に基く貸付金
二 貸付の際現に前号の貸付金を借り受けている会社に対する同号以外の貸付金
三 この法律の施行の際現に効力を有する他の法律により、日本開発銀行の貸付金のため会社の総財産につき先取特権が生ずることとされている会社に対する貸付金
3 前項の規定により企業担保権を設定した会社は、企業担保権が消滅した後でなければ、有限会社に組織を変更することができない。
(担保附社債信託法の一部改正)
4 担保附社債信託法(明治三十八年法律第五十二号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項に次の一号を加える。
十三 企業担保
第七十三条中「第三百七十五条」を「第三百七十五条(順位ノ譲渡及放棄ニ関スル部分ヲ除ク)」に改める。
第七十五条の次に次の一条を加える。
第七十五条ノ二 受託会社ハ社債権者集会ノ決議ニ依リ担保権ノ順位ヲ譲渡シ又ハ放棄スルコトヲ得
第七十六条中「前二条」を「前三条」に改める。
第八十二条第一項中「社債権者集会ノ決議ニ依リ」を削る。
第八十三条第一項中「又ハ競売法ニ依ル申立若ハ委任」を「競売法ニ依ル競売ノ申立若ハ委任ヲ為シ又ハ企業担保権ノ実行ノ申立」に改める。
(銀行等の事務の簡素化に関する法律の一部改正)
5 銀行等の事務の簡素化に関する法律(昭和十八年法律第四十二号)の一部を次のように改正する。
第七条に次の一項を加える。
前項ノ規定ハ社債ヲ担保スル権利ノ順位ノ譲渡又ハ放棄ニ付之ヲ準用ス
(商法の一部改正)
6 商法(明治三十二年法律第四十八号)の一部を次のように改正する。
第三百八十三条第一項中「及和議手続」を「、和議手続及企業担保権ノ実行手続」に改め、同条第二項中「若ハ仮処分」を「、仮処分若ハ企業担保権ノ実行」に、「及仮処分」を「、仮処分及企業担保権ノ実行手続」に改める。
(破産法の一部改正)
7 破産法の一部を次のように改正する。
第五十五条に次の一項を加える。
第一項ノ規定ハ企業担保権ノ設定、移転又ハ変更ニ関スル登記ニ付之ヲ準用ス
第七十条第一項中「又ハ仮処分」を「、仮処分又ハ企業担保権ノ実行手続」に改める。
(会社更生法の一部改正)
8 会社更生法(昭和二十七年法律第百七十二号)の一部を次のように改正する。
第三十七条第一項中「若しくは競売法(明治三十一年法律第十五号)による競売手続」を「、競売法(明治三十一年法律第十五号)による競売手続若しくは企業担保権の実行手続」に改める。
第三十八条第三号中「破産回避」を「破産回避又は企業担保権の実行の回避」に改める。
第五十八条に次の一項を加える。
3 第一項の規定は、企業担保権の設定、移転又は変更に関する登記に準用する。
第六十七条第一項中「及び競売法による競売は」を「、競売法による競売及び企業担保権の実行は」に、「及び競売法による競売手続」を「、競売法による競売手続及び企業担保権の実行手続」に改める。
第二百四十六条第一項中「及び競売法による競売手続」を「、競売法による競売手続及び企業担保権の実行手続」に改める。
(登録税法の一部改正)
9 登録税法(明治二十九年法律第二十七号)の一部を次のように改正する。
第三条ノ七の次に次の一条を加える。
第三条ノ八 企業担保権ニ関スル登記ヲ受クルトキハ左ノ区別ニ従ヒ登録税ヲ納ムベシ
一 企業担保権ノ取得 債権金額 千分ノ一・五
二 抹消シタル登記ノ回復 毎一件 金三百円
三 附記登記 毎一件 金三百円
四 登記ノ更正、変更又ハ抹消 毎一件 金三百円
第十六条ノ五に次の一項を加える。
信託契約ニ依ル物上担保附社債ニシテ其ノ総額ヲ数回ニ分チ発行スルモノノ企業担保権ニ関シ登記ヲ受クル場合ニ於ケル登録税ニ関シテハ第一項ノ規定ニ準ジ命令ヲ以テ之ヲ定ム
(漁業法の一部改正)
10 漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)の一部を次のように改正する。
第二十六条第一項中「及び抵当権」を「、抵当権及び企業担保権」に改める。
第二十七条第一項中「又は抵当権」を「、抵当権又は企業担保権」に改める。
(国税徴収法の一部改正)
11 国税徴収法の一部を次のように改正する。
第二条第四項及び第六項中「競売」を「競売若ハ企業担保権ノ実行手続」に改め、同条第六項中「又ハ競売費用」を「、競売費用又ハ企業担保権ノ実行手続ノ費用」に改める。
第四条ノ一中第四号の次に次の一号を加える。
四ノ二 企業担保権ノ実行手続ノ開始アリタルトキ
第五条中「更生手続」を「更生手続又ハ企業担保権ノ実行手続」に改める。
第七条ノ四第四項中「競売」を「競売若ハ企業担保権ノ実行手続」に改める。
(地方税法の一部改正)
12 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。
第十五条第四項中「及び第四号の場合における競売費用」を「、第四号の場合における競売費用並びに第五号の場合における企業担保権の実行手続の費用」に改め、同項に次の一号を加える。
五 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
第十六条第一項中第四号の次に次の一号を加える。
四の二 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
第十六条の四第五項中「競売」を「競売若しくは企業担保権の実行手続」に改める。
第七十一条、第七十二条の七十一、第七十三条の三十九、第百五条、第百三十七条、第百七十条、第二百三条、第二百八十八条、第三百三十四条、第三百七十六条、第四百六十二条、第五百十二条、第五百四十四条、第五百七十五条、第六百九十八条、第七百条の四十一、第七百一条の二十一及び第七百三十一条中それぞれ第四号の次に次の一号を加える。
四の二 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
(健康保険法の一部改正)
13 健康保険法(大正十一年法律第七十号)の一部を次のように改正する。
第七十九条ノ二中第四号の次に次の一号を加える。
四ノ二 企業担保権ノ実行手続ノ開始アリタルトキ
(船員保険法の一部改正)
14 船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)の一部を次のように改正する。
第六十二条ノ三第一項中第三号の次に次の一号を加える。
三ノ二 企業担保権ノ実行手続ノ開始アリタルトキ
(失業保険法の一部改正)
15 失業保険法(昭和二十二年法律第百四十六号)の一部を次のように改正する。
第三十四条の五中第三号の次に次の一号を加える。
三の二 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
(厚生年金保険法の一部改正)
16 厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)の一部を次のように改正する。
第八十五条中第一号ニを同号ホとし、同号ハの次に次のように加える。
ニ 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
(国の債権の管理等に関する法律の一部改正)
17 国の債権の管理等に関する法律(昭和三十一年法律第百十四号)の一部を次のように改正する。
第十七条第七号中「前三号」を「第四号から前号まで」に改め、同条中同号を第八号とし、第六号を第七号とし、第五号を第六号とし、第四号の次に次の一号を加える。
五 債務者の財産について企業担保権の実行手続の開始があつたこと。
内閣総理大臣 岸信介
法務大臣 唐澤俊樹
大蔵大臣 一萬田尚登
厚生大臣 堀木鎌三
農林大臣 赤城宗徳
通商産業大臣 前尾繁三郎
労働大臣 石田博英
企業担保法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十三年四月三十日
内閣総理大臣 岸信介
法律第百六号
企業担保法
目次
第一章
企業担保権(第一条―第九条)
第二章
企業担保権の実行
第一節
総則(第十条―第十八条)
第二節
実行手続の開始(第十九条―第二十九条)
第三節
会社の総財産の管理(第三十条―第三十六条)
第四節
換価(第三十七条―第五十条)
第五節
配当(第五十一条―第五十五条)
第六節
雑則(第五十六条―第五十九条)
第三章
罰則(第六十条―第六十二条)
附則
第一章 企業担保権
(企業担保権)
第一条 株式会社(以下「会社」という。)の総財産は、その会社の発行する社債を担保するため、一体として、企業担保権の目的とすることができる。
2 企業担保権は、物権とする。
(効力)
第二条 企業担保権者は、現に会社に属する総財産につき、他の債権者に先だつて、債権の弁済を受けることができる。
2 前項の規定は、会社の財産に対する強制執行又は担保権の実行としての競売の場合には、適用しない。
(設定及び変更)
第三条 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約は、公正証書によつてしなければならない。
(登記)
第四条 企業担保権の得喪及び変更は、会社の本店の所在地において、株式会社登記簿にその登記をしなければ、効力を生じない。ただし、一般承継、混同又は担保する債権の消滅による得喪及び変更については、この限りでない。
2 企業担保権の登記に関し必要な事項は、政令で定める。
(順位)
第五条 数個の企業担保権相互の順位は、その登記の前後による。
(他の権利との関係)
第六条 会社の財産の上に存する権利は、企業担保権の登記の後に対抗要件を備えたものでも、企業担保権者に対抗することができる。
第七条 一般の先取特権は、企業担保権に優先する。
2 特別の先取特権、質権又は抵当権は、その権利の目的となつている財産につき、企業担保権に優先する。
(会社の合併)
第八条 合併により消滅する会社の総財産を目的とする企業担保権は、合併後存続する会社又は合併により設立される会社の総財産につき、効力を有する。
2 合併をする会社の双方の総財産が企業担保権の目的となつているときは、合併後の企業担保権の順位に関する企業担保権者間に協定がなければ、合併をすることができない。
3 合併の無効の訴は、企業担保権者も、提起することができる。
(民法の準用)
第九条 民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百九十六条、第三百七十四条、第三百七十五条中順位の譲渡及び放棄に関する部分、第三百七十六条及び第三百九十六条の規定は、企業担保権に準用する。
第二章 企業担保権の実行
第一節 総則
(管轄)
第十条 企業担保権の実行は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
(実行の申立)
第十一条 企業担保権の実行は、企業担保権者の申立によつてする。
(任意的口頭弁論)
第十二条 実行手続に関する裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
(公告)
第十三条 この章の規定によつてする公告は、別段の定がない限り、官報及び裁判所の定める一個又は数個の新聞紙に掲載してする。
2 前項の規定による公告は、最終の掲載があつた日の翌日に、その効力を生ずる。
(利害関係人)
第十四条 実行手続における利害関係人は、次に掲げる者とする。
一 申立人
二 会社
三 申立人以外の企業担保権者
四 第二十二条第一項の規定による公告の最終の掲載があつた日又は第二十三条第一項の規定による実行手続の開始の登記の日のうちいずれか遅い日において、会社の財産につき、登記若しくは登録した権利又は仮登記若しくは仮登録により保全される権利を有する者として、その権利を証明した者
五 前号に掲げる者を除くほか、会社の財産につき、実行手続において主張することができる権利を有する者として、その権利を証明した者
(報告の徴取)
第十五条 裁判所は、利害の関係を有する者の申請により、又は職権で、管財人に、会社の財産又はその管理若しくは換価の状況に関する報告をさせることができる。
(書類の閲覧等)
第十六条 利害の関係を有する者は、裁判所書記官に、実行手続に関する書類の閲覧又は謄写を請求することができる。
(民事訴訟法の準用)
第十七条 特別の定がある場合を除き、実行手続に関しては、その性質に反しない限り、民事訴訟法(明治二十三年法律第二十九号)第一編から第四編までの規定を準用する。
2 民事訴訟法第五百十三条、第五百四十四条、第五百四十九条から第五百五十一条まで、第五百五十四条、第五百五十五条及び第五百五十八条の規定は、実行手続に関し準用する。
(政令等への委任)
第十八条 この法律に定めるもののほか、実行手続に関し必要な事項で、登記又は登録に関するものは政令で、その他のものは最高裁判所が定める。
第二節 実行手続の開始
(開始決定)
第十九条 実行手続の開始は、決定でする。
第二十条 実行手続の開始の決定には、同時に、企業担保権者のために会社の総財産を差し押える旨を宣言しなければならない。
2 差押は、決定を会社に送達することによつてその効力を生ずる。
第二十一条 裁判所は、実行手続の開始の決定と同時に、管財人を選任しなければならない。
(公告)
第二十二条 裁判所は、実行手続の開始の決定をしたときは、ただちに、次に掲げる事項を公告しなければならない。
一 実行手続の開始の決定の主文
二 管財人の表示
三 会社の債務者及び会社の財産の所持者は、会社に弁済し、又はその財産を交付してはならない旨及び債務を負担すること又はその財産を所持することを一定の期間内に管財人に届け出るべき旨
四 一般の優先権を有する会社の債権者(租税その他の公課については、その賦課徴収の事務を掌る機関)は、その債権を一定の期間内に裁判所に届け出るべき旨
五 特別担保を有する会社の債権者は、その担保権を一定の期間内に裁判所に届け出るべき旨
2 裁判所は、管財人又はその表示に変更があつたときは、遅滞なく、その旨を公告しなければならない。
3 第一項第三号の届出を怠つた者は、これによつて会社の総財産に生じた損害を賠償しなければならない。
(登記及び登録)
第二十三条 管財人は、実行手続の開始の決定があつたときは、遅滞なく、実行手続の開始の登記及び管財人の登記を会社の本店の所在地を管轄する登記所に申請しなければならない。
2 前項の規定は、管財人又はその表示に変更があつた場合における管財人の更迭又はその表示の変更の登記に準用する。
第二十四条 管財人は、実行手続の開始の決定があつたときは、遅滞なく、会社の財産で登記又は登録をすることができるものについて、実行手続の開始の登記又は登録を申請しなければならない。
第二十五条 前二条の規定による登記及び登録については、登録税を課さない。
(会社の債務者への通知)
第二十六条 管財人は、実行手続の開始の決定があつたときは、遅滞なく、会社の債務者に、会社のその債務者に対する債権が差し押えられた旨を通知しなければならない。ただし、債務を負担することを管財人に届け出た債務者に対しては、この限りでない。
(差押の対抗)
第二十七条 第二十条の規定による差押は、善意の第三者に対しては、第二十二条第一項の規定による公告及び第二十三条第一項の規定による実行手続の開始の登記の後でなければ、対抗することができない。その公告及び登記の後でも、第三者が正当の理由により差押を知らなかつたときは、同様とする。
2 前項の公告及び登記の後に、会社の法律行為によらないで会社の財産に関して権利を取得しても、その取得は、実行手続に対する関係においては、その効力を主張することができない。
(他の手続の失効)
第二十八条 実行手続の開始の決定があつたときは、会社の財産に対しすでにされている債権若しくは担保権に基く強制執行、仮差押、仮処分若しくは担保権の実行としての競売手続又は国税徴収法(明治三十年法律第二十一号)による滞納処分若しくは国税徴収の例による滞納処分は、実行手続に対する関係においては、その効力を失う。
(民事訴訟法の準用等)
第二十九条 民事訴訟法第六百四十五条第一項及び第二項の規定は、実行手続の開始の決定があつた場合における他の実行の申立に関し準用する。
2 前項の規定により準用される民事訴訟法第六百四十五条第二項の規定により、実行の申立が実行手続の開始の決定を受けた効力を生じたときは、従前の管財人は、引き続き、その後の手続における管財人となる。
第三節 会社の総財産の管理
(管財人)
第三十条 管財人は、裁判所が選任する。この場合においては、裁判所は、申立人の意見をきかなければならない。
2 信託会社、銀行その他の法人は、管財人となることができる。
3 管財人は、その職務を行う場合において必要があるときは、補助者を使用することができる。
第三十一条 裁判所は、利害関係人の申請により、又は職権で、管財人を解任することができる。この場合においては、申立人の意見をきき、かつ、その管財人を審尋しなければならない。
第三十二条 実行手続の開始の決定があつたときは、管財人は、会社の総財産を保全するため、これを管理する。
2 管財人は、会社の商品及び有価証券を売却することができる。
3 管財人は、会社の債権を直接に取り立てることができる。
(説明義務)
第三十三条 会社の取締役及び監査役は、管財人の請求により、会社の財産に関し、必要な説明をしなければならない。
(財産明細表)
第三十四条 管財人は、最高裁判所の定めるところにより、会社の総財産につき財産明細表を作成し、その謄本を裁判所に提出しなければならない。
(管理費用及び報酬)
第三十五条 管財人は、会社の金銭を費用及び報酬に充てることができる。
2 申立人は、管財人の請求により、費用及び報酬を立て替えなければならない。
(破産法の準用)
第三十六条 破産法(大正十一年法律第七十一号)第百五十九条、第百六十条、第百六十二条から第百六十六条まで及び第百六十九条の規定は管財人に、同法第百八十五条から第百八十七条までの規定は会社の財産の管理に関し準用する。この場合において、同法第百六十二条中「破産財団」とあるのは「会社ノ財産」と、第百八十七条中「裁判所書記官ハ」とあるのは「裁判所書記官ハ管財人ノ請求ニ因リ」と読み替えるものとする。
第四節 換価
(換価の方法)
第三十七条 会社の総財産(金銭を除く。以下この節において同じ。)の換価は、一括競売又は任意売却によつてする。
2 一括競売は、会社の総財産を一括し、せり売又は入札の方法によつてする。
3 任意売却は、会社の総財産を一括し、又は個別に、適宜の方法によつてする。
(一括競売の場合の評価)
第三十八条 一括競売によるときは、管財人は、鑑定人に、会社の総財産及び特別担保の目的となつている財産の評価をさせなければならない。
2 鑑定人は、会社の総財産の評価をするには、これを一体としてしなければならない。
(最低競売価額)
第三十九条 前条の規定による会社の総財産の評価額は、最低競売価額とする。
(競売期日及び競落期日)
第四十条 競売期日は管財人が、競落期日は裁判所が定める。
第四十一条 管財人は、競売期日、せり売又は入札の別、競落期日及び最高裁判所の定める事項を公告しなければならない。
第四十二条 競売期日は、前条の規定による公告の後十四日を経過した日以後でなければならない。
2 競売期日は、管財人が開く。
3 管財人は、競売期日に、競売につき調書を作らなければならない。
第四十三条 競落期日は、競売期日から起算して十四日を過ぎることができない。
2 競落期日は、裁判所が開く。
(競落の効果)
第四十四条 会社の総財産は、代金の支払があつた時に、競落人に移転する。
2 前項の場合には、競落人は、会社の営業に関する行政庁の許可、認可、免許その他の処分に基く地位を承継する。ただし、その承継に関し他の法令に禁止又は制限の定があるときは、その定に従う。
(任意売却)
第四十五条 任意売却は、裁判所の認可を受けて、管財人が実施する。ただし、企業担保権者、特別担保を有する債権者又は会社の申出があつた場合において、管財人が、企業担保権者全員及び、特別担保の目的となつている財産については、その特別担保を有する債権者の同意を得たときに限る。
2 裁判所は、前項の認可の申請があつたときは、鑑定人に、売却価額の鑑定をさせることができる。
3 会社の総財産の一部の売却代金から実行手続の費用を控除して、企業担保権者及びこれに優先する債権者の債権を弁済することができるときは、他の財産を売却してはならない。
第四十六条 特別担保の目的となつている財産は、各別に売却しなければならない。
第四十七条 第四十五条第一項の規定による認可を受けないでされた売却は、無効とする。ただし、その無効は、善意の買受人又は転得者に対しては、主張することができない。
(有価証券の名義書換)
第四十八条 記名の有価証券が売却されたときは、管財人は、名義書換のため必要な行為をすることができる。
(指名債権の譲渡の通知)
第四十九条 指名債権が売却されたときは、管財人は、その旨を債務者に通知しなければならない。
2 前項の通知があつたときは、競落人又は買受人は、指名債権の取得を債務者その他の第三者に対抗することができる。
(民事訴訟法の準用)
第五十条 民事訴訟法第六百四十九条、第六百五十六条、第六百六十二条から第六百七十四条まで、第六百七十六条から第六百八十五条まで、第六百八十八条及び第七百三条から第七百五条までの規定は、換価に関し準用する。この場合において、同法第六百六十二条及び第六百六十二条ノ二第一項中「本款」とあるのは「企業担保法」と、第六百六十三条及び第六百六十七条第一項第三号中「執行記録」とあるのは「財産明細表及ビ財産ノ評価ニ関スル書類」と、同項中「左ノ諸件」とあるのは「左ノ諸件及ビ最高裁判所ノ定ムル事項」と、第六百七十条第一項中「裁判所」とあるのは「管財人」と、第六百七十二条第四号中「第六百五十八条」とあるのは「企業担保法第四十一条」と、同条第六号中「第六百五十九条」とあるのは「企業担保法第四十二条第一項」と、第六百七十六条中「職権ヲ以テ新競売期日ヲ」とあるのは「新競売期日ヲ」と、第六百八十五条中「第六百五十五条乃至第六百五十七条」とあるのは「第六百五十六条及ビ企業担保法第三十八条乃至第四十一条」と読み替えるものとする。
第五節 配当
(金銭の引渡及び計算書等の提出)
第五十一条 換価が完了したときは、管財人は、裁判所の指定する日に裁判所書記官に、会社の金銭を引き渡し、職務の執行に関する費用の計算書及びその証明書類並びに、任意売却により換価したときは、換価に関する報告書を提出しなければならない。
(配当)
第五十二条 裁判所は、一括競売による売却代金、前条の規定により引渡を受けた金銭並びに第三十五条第一項の規定により管財人が費用及び報酬に充てた金銭の合計額から実行手続の費用を控除して、まず企業担保権者及びこれに優先する債権者に配当し、その残余を他の債権者に配当しなければならない。
第五十三条 特別担保を有する債権者の受けるべき配当額は、その特別担保の目的となつている財産の価額から、前条の合計額に対するその財産の価額の割合を実行手続の費用に乗じて得た額を控除した額を限度とする。
2 特別担保の目的となつている財産の価額は、一括競売により換価したときは、第三十八条第一項の規定による会社の総財産の評価額に対する同項の規定によるその財産の評価額の割合を一括競売による売却代金に乗じて得た額、任意売却により換価したときは、その売却価額とする。
(登記及び登録)
第五十四条 管財人は、企業担保権者及びこれに優先する債権者の配当表が実施されたときは、遅滞なく、次に掲げる登記及び登録を申請しなければならない。
一 企業担保権の登記及び第二十三条の規定によつてされた登記のまつ消
二 登記又は登録のされた会社の財産について、消滅した権利の登記又は登録及び第二十四条の規定によつてされた登記又は登録のまつ消並びに競落人又は買受人の権利の取得の登記又は登録
2 前項第一号の登記の申請に要する費用は、実行手続の費用とし、同項第二号の登記又は登録の申請に要する費用は、競落人又は買受人の負担とする。
(民事訴訟法の準用)
第五十五条 民事訴訟法第六百四十六条及び第六百九十一条から第六百九十九条までの規定は、配当に関し準用する。この場合において、同法第六百四十六条第二項中「競落期日ノ終ニ至ルマデ」とあるのは「一括競売ニ依リ換価スル場合ニ於テハ競落期日ノ終ニ至ルマデ任意売却ニ依リ換価スル場合ニ於テハ裁判所ガ定メテ公告シタル日マデ」と、同法第六百九十二条第一項中「競落期日マデニ」とあるのは「一括競売ニ依リ換価スル場合ニ於テハ競落期日マデニ任意売却ニ依リ換価スル場合ニ於テハ裁判所ガ定メテ公告シタル日マデニ」と読み替えるものとする。
第六節 雑則
(差押の消滅)
第五十六条 実行の申立の取下があつたときは、第二十条の規定による差押は、消滅する。
(会社への財産の引渡)
第五十七条 裁判所は、会社の申立により、又は職権で、第四十五条第三項の規定により売却の禁止される会社の財産について、会社に引き渡すべき旨を管財人に命ずることができる。
2 前項の規定による裁判所の命令により管財人が会社に引き渡した財産については、第二十条の規定による差押は、その引渡の時に消滅する。
(申立の取下等の公告)
第五十八条 裁判所は、実行手続が実行の申立の取下又は実行手続の開始の決定の取消により終結したときは、ただちに、その旨を公告しなければならない。
(申立の取下等の場合の登記及び登録)
第五十九条 管財人は、実行手続が実行の申立の取下又は実行手続の開始の決定の取消により終結したときは、遅滞なく、第二十三条又は第二十四条の規定によつてされた登記又は登録のまつ消を申請しなければならない。第五十七条第二項の規定により差押の消滅した財産についても、同様とする。
第三章 罰則
(収賄罪)
第六十条 管財人又はその代理人がその職務に関しわいろを収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
2 管財人が法人であるときは、管財人の職務に従事するその役員又は職員がその職務に関しわいろを収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。管財人が法人である場合において、その役員又は職員が管財人の職務に関し管財人にわいろを収受させ、又はその供与を要求し、若しくは約束したときも、同様とする。
3 犯人又は法人である管財人が収受したわいろは、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。
(贈賄罪)
第六十一条 前条第一項若しくは第二項に規定するわいろを供与し、又はその申込若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(説明義務違反の罪)
第六十二条 第三十三条の規定により説明の義務のある者が、正当の理由がないのにその説明をせず、又は虚偽の説明をしたときは、一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和三十三年七月一日から施行する。
(被担保債権の特例)
2 当分の間、第一条の規定にかかわらず、会社の総財産は、日本開発銀行の会社に対する貸付金で次に掲げるものを担保するためにも、企業担保権の目的とすることができる。
一 日本開発銀行と国際復興開発銀行との契約に基く貸付金
二 貸付の際現に前号の貸付金を借り受けている会社に対する同号以外の貸付金
三 この法律の施行の際現に効力を有する他の法律により、日本開発銀行の貸付金のため会社の総財産につき先取特権が生ずることとされている会社に対する貸付金
3 前項の規定により企業担保権を設定した会社は、企業担保権が消滅した後でなければ、有限会社に組織を変更することができない。
(担保附社債信託法の一部改正)
4 担保附社債信託法(明治三十八年法律第五十二号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項に次の一号を加える。
十三 企業担保
第七十三条中「第三百七十五条」を「第三百七十五条(順位ノ譲渡及放棄ニ関スル部分ヲ除ク)」に改める。
第七十五条の次に次の一条を加える。
第七十五条ノ二 受託会社ハ社債権者集会ノ決議ニ依リ担保権ノ順位ヲ譲渡シ又ハ放棄スルコトヲ得
第七十六条中「前二条」を「前三条」に改める。
第八十二条第一項中「社債権者集会ノ決議ニ依リ」を削る。
第八十三条第一項中「又ハ競売法ニ依ル申立若ハ委任」を「競売法ニ依ル競売ノ申立若ハ委任ヲ為シ又ハ企業担保権ノ実行ノ申立」に改める。
(銀行等の事務の簡素化に関する法律の一部改正)
5 銀行等の事務の簡素化に関する法律(昭和十八年法律第四十二号)の一部を次のように改正する。
第七条に次の一項を加える。
前項ノ規定ハ社債ヲ担保スル権利ノ順位ノ譲渡又ハ放棄ニ付之ヲ準用ス
(商法の一部改正)
6 商法(明治三十二年法律第四十八号)の一部を次のように改正する。
第三百八十三条第一項中「及和議手続」を「、和議手続及企業担保権ノ実行手続」に改め、同条第二項中「若ハ仮処分」を「、仮処分若ハ企業担保権ノ実行」に、「及仮処分」を「、仮処分及企業担保権ノ実行手続」に改める。
(破産法の一部改正)
7 破産法の一部を次のように改正する。
第五十五条に次の一項を加える。
第一項ノ規定ハ企業担保権ノ設定、移転又ハ変更ニ関スル登記ニ付之ヲ準用ス
第七十条第一項中「又ハ仮処分」を「、仮処分又ハ企業担保権ノ実行手続」に改める。
(会社更生法の一部改正)
8 会社更生法(昭和二十七年法律第百七十二号)の一部を次のように改正する。
第三十七条第一項中「若しくは競売法(明治三十一年法律第十五号)による競売手続」を「、競売法(明治三十一年法律第十五号)による競売手続若しくは企業担保権の実行手続」に改める。
第三十八条第三号中「破産回避」を「破産回避又は企業担保権の実行の回避」に改める。
第五十八条に次の一項を加える。
3 第一項の規定は、企業担保権の設定、移転又は変更に関する登記に準用する。
第六十七条第一項中「及び競売法による競売は」を「、競売法による競売及び企業担保権の実行は」に、「及び競売法による競売手続」を「、競売法による競売手続及び企業担保権の実行手続」に改める。
第二百四十六条第一項中「及び競売法による競売手続」を「、競売法による競売手続及び企業担保権の実行手続」に改める。
(登録税法の一部改正)
9 登録税法(明治二十九年法律第二十七号)の一部を次のように改正する。
第三条ノ七の次に次の一条を加える。
第三条ノ八 企業担保権ニ関スル登記ヲ受クルトキハ左ノ区別ニ従ヒ登録税ヲ納ムベシ
一 企業担保権ノ取得 債権金額 千分ノ一・五
二 抹消シタル登記ノ回復 毎一件 金三百円
三 附記登記 毎一件 金三百円
四 登記ノ更正、変更又ハ抹消 毎一件 金三百円
第十六条ノ五に次の一項を加える。
信託契約ニ依ル物上担保附社債ニシテ其ノ総額ヲ数回ニ分チ発行スルモノノ企業担保権ニ関シ登記ヲ受クル場合ニ於ケル登録税ニ関シテハ第一項ノ規定ニ準ジ命令ヲ以テ之ヲ定ム
(漁業法の一部改正)
10 漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)の一部を次のように改正する。
第二十六条第一項中「及び抵当権」を「、抵当権及び企業担保権」に改める。
第二十七条第一項中「又は抵当権」を「、抵当権又は企業担保権」に改める。
(国税徴収法の一部改正)
11 国税徴収法の一部を次のように改正する。
第二条第四項及び第六項中「競売」を「競売若ハ企業担保権ノ実行手続」に改め、同条第六項中「又ハ競売費用」を「、競売費用又ハ企業担保権ノ実行手続ノ費用」に改める。
第四条ノ一中第四号の次に次の一号を加える。
四ノ二 企業担保権ノ実行手続ノ開始アリタルトキ
第五条中「更生手続」を「更生手続又ハ企業担保権ノ実行手続」に改める。
第七条ノ四第四項中「競売」を「競売若ハ企業担保権ノ実行手続」に改める。
(地方税法の一部改正)
12 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。
第十五条第四項中「及び第四号の場合における競売費用」を「、第四号の場合における競売費用並びに第五号の場合における企業担保権の実行手続の費用」に改め、同項に次の一号を加える。
五 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
第十六条第一項中第四号の次に次の一号を加える。
四の二 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
第十六条の四第五項中「競売」を「競売若しくは企業担保権の実行手続」に改める。
第七十一条、第七十二条の七十一、第七十三条の三十九、第百五条、第百三十七条、第百七十条、第二百三条、第二百八十八条、第三百三十四条、第三百七十六条、第四百六十二条、第五百十二条、第五百四十四条、第五百七十五条、第六百九十八条、第七百条の四十一、第七百一条の二十一及び第七百三十一条中それぞれ第四号の次に次の一号を加える。
四の二 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
(健康保険法の一部改正)
13 健康保険法(大正十一年法律第七十号)の一部を次のように改正する。
第七十九条ノ二中第四号の次に次の一号を加える。
四ノ二 企業担保権ノ実行手続ノ開始アリタルトキ
(船員保険法の一部改正)
14 船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)の一部を次のように改正する。
第六十二条ノ三第一項中第三号の次に次の一号を加える。
三ノ二 企業担保権ノ実行手続ノ開始アリタルトキ
(失業保険法の一部改正)
15 失業保険法(昭和二十二年法律第百四十六号)の一部を次のように改正する。
第三十四条の五中第三号の次に次の一号を加える。
三の二 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
(厚生年金保険法の一部改正)
16 厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)の一部を次のように改正する。
第八十五条中第一号ニを同号ホとし、同号ハの次に次のように加える。
ニ 企業担保権の実行手続の開始があつたとき。
(国の債権の管理等に関する法律の一部改正)
17 国の債権の管理等に関する法律(昭和三十一年法律第百十四号)の一部を次のように改正する。
第十七条第七号中「前三号」を「第四号から前号まで」に改め、同条中同号を第八号とし、第六号を第七号とし、第五号を第六号とし、第四号の次に次の一号を加える。
五 債務者の財産について企業担保権の実行手続の開始があつたこと。
内閣総理大臣 岸信介
法務大臣 唐沢俊樹
大蔵大臣 一万田尚登
厚生大臣 堀木鎌三
農林大臣 赤城宗徳
通商産業大臣 前尾繁三郎
労働大臣 石田博英