船員職業安定法
法令番号: 法律第百三十号
公布年月日: 昭和23年7月10日
法令の形式: 法律
船員職業安定法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十三年七月十日
内閣総理大臣 芦田均
法律第百三十号
船員職業安定法目次
第一章
総則
第二章
政府の行う船員の職業紹介、職業指導及び属員職業補導
第一節
通則
第二節
船員職業紹介
第三節
職業指導
第四節
属員職業補導
第三章
政府以外の者の行う船員職業紹介事業、船員の募集及び船員労務供給事業
第一節
船員職業紹介事業
第二節
船員の募集
第三節
船員労務供給事業
第四章
船員職業安定審議会
第五章
雜則
第六章
罰則
附則
船員職業安定法
第一章 総則
(法律の目的)
第一條 この法律は、何人にもその能力及び資格に應じて公平且つ有効に船員の職業に就く機会を與えることによつて、海上企業に対する労働力の適正な充足を図ることを目的とする。
(職業選択の自由)
第二條 何人も、その能力及びその有する免状若しくは証書、その受けた訓練又はその経驗による資格に應じ、適当な船舶における船員の職業を自由に選択することができる。
(船員選択の自由)
第三條 船舶所有者(船舶共有の場合には船舶管理人を、船舶貸借の場合には船舶借入人を、船舶所有者、船舶管理人及び船舶借入人以外の者が船員を使用する場合にはその者をいう。以下同じ。)は、船員として雇用する者を自由に選択することができる。但し、労働組合法(昭和二十年法律第五十一号)の規定によつて、船舶所有者又はその團体と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。
(均等待遇)
第四條 何人も、人種、國籍、信條、性別、社会的身分、門地、從前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、属員職業補導等について、差別的取扱を受けることがない。但し、労働組合法の規定によつて、船舶所有者又はその團体と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。
(政府の行う業務)
第五條 政府は、第一條の目的を達成するため、左の業務を行う。
一 海上労働力の需用供給の適正な調整を図ること及びその労働力を最も有効に発揮させるために必要な計画を樹立すること。
二 政府以外の者の行う船員職業紹介、船員の募集又は船員労務供給事業を船員及び公共の利益を増進するように、指導監督すること。
三 求職者に対し、迅速に、その能力に適当な船員の職業に就くことをあつせんすること。
四 求職者に対し必要がある場合には職業指導又は属員職業補導を行うこと。
五 海上労働力の需要供給に関する情報その他の資料を集め、又はこれを周知させること。
六 個人、團体、学校又は関係行政廳の協力を得て、公共船員職業安定所の業務の運営の改善向上を図ること。
七 船員保險法(昭和十四年法律第七十三号)の規定により失業保險金の支給を受けるべき者について職業紹介、職業指導又は属員職業補導を行い、失業保險制度の健全な運用を図ること。
(定義)
第六條 この法律で「船員」とは、船員法(昭和二十二年法律第百号)による船員及び同法による船員でない者で日本船舶以外の船舶に乗り組むものをいう。
2 この法律で「船員職業紹介」とは、求人及び求職の申込を受け、求人者と求職者との間における船員雇用関係の成立をあつせんすることをいう。
3 この法律で「職業指導」とは、船員の職業に就こうとする者に対し、その者に適当な職業の選択及び職業に対する適應を容易にさせるために必要な指示、助言その他の指導を行うことをいう。
4 この法律で「属員職業補導」とは、属員にならうとする者に対し、属員の職業に就くことを容易にさせるために、救命艇おろし方、ボイラー取扱法、救急法、海事用語、船内紀律その他海上労働において必要な基本的且つ実用的知識及び技能を授けることをいう。
5 この法律で「船員の募集」とは、船員を雇用しようとする者が自ら又は他人をして船員とならうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいう。
6 この法律で「船員労務供給」とは、供給契約に基いて人を船員として他人に使用させることをいう。
第二章 政府の行う船員の職業紹介、職業指導及び属員職業補導
第一節 通則
(海運総局長官の業務)
第七條 運輸省海運総局長官(以下海運総局長官という。)は、運輸大臣の指揮監督を受け、この法律の施行に関する事項について海運局長を指揮監督するとともに、公共船員職業安定所の指揮監督に関する基準の制定、海上企業における船員募集計画の樹立及び実施、失業対策の企画及び実施、海上労働力の需要供給の調整、職業指導及び属員職業補導に関する政策の樹立その他この法律の施行に関し必要な事務を掌り、所属の職員を指揮監督する。
(公共船員職業安定所)
第八條 海運局に、無料で公共に奉仕する公共船員職業安定所を置き、職業紹介、職業指導、船員保險法の規定によりその所掌に属せしめられた事項その他この法律の目的を達成するために必要な事項を行わせる。
2 公共船員職業安定所の名称、位置、管轄区域、職員の定員その他公共船員職業安定所について必要な事項は、命令でこれを定める。
(連絡公共船員職業安定所)
第九條 運輸大臣は、前條第一項の公共船員職業安定所のうち、連絡公共船員職業安定所を指定することができる。
2 連絡公共船員職業安定所は、その属する海運局の管轄区域における海上労働力の需給状況に関し公共船員職業安定所相互間の事務の連絡を掌る。
(職員たる要件)
第十條 公共船員職業安定所の業務を効果あらしめるために、公共船員職業安定所において專らこの法律を施行する業務に從事する官吏その他の職員は、運輸大臣の定める資格又は経驗を有する者でなければならない。
(公共職業安定所に対する協力)
第十一條 公共船員職業安定所は、公共職業安定所の業務について、これに協力しなければならない。
(求職者のための施設)
第十二條 政府は、船員職業紹介の事業を行うにあたり必要があると認めるときは、宿泊施設、食堂、浴場その他の施設を設けるものとする。
(労働力の需給に関する調査)
第十三條 海運総局長官は、公共船員職業安定所の海上労働力の需要供給に関する調査報告により、雇用及び失業の状況に関する資料を集め、その研究調査の結果を公表するとともに、研究調査の結果に基いて、海上労働力の需要供給の調整を図り、もつて雇用量を増大することに努めなければならない。
(海上企業に対する奉仕)
第十四條 海運総局長官は、船員の募集、選考、配置轉換等に関する問題の処理について、船舶所有者から指導を求められた場合においては、船員の職業に関する調査の結果に基いて、その処理に必要な資料、方法及び基準を指示し、もつて海上企業の進展に奉仕することに努めなければならない。
(事務の依頼)
第十五條 公共船員職業安定所長は、公共職業安定所に左の事務を依頼することができる。
一 公共船員職業安定所に出頭してすることの困難な求職の申込を公共船員職業安定所に取り次ぐこと。
二 求職者の身元、資格等に関しこれを調査すること。
三 求人又は求職に関する通報を周知させること。
2 前項各号の事務を依頼するにあたり、公共職業安定所が当該地域及びその近接地域にないときは、公共船員職業安定所長は、当該地域の市町村長に前項各号の事務を依頼することができる。
第二節 船員職業紹介
(申込の受理)
第十六條 公共船員職業安定所は、いかなる求人又は求職の申込についてもこれを受理しなければならない。但し、求人若しくは求職の申込の内容が法令に違反するとき、又は求人の申込の内容をなす賃金、労働時間その他の労働條件が通常の労働條件に比べて、著しく不適当であると認めるときは、その申込を受理しないことができる。
2 公共船員職業安定所は、必要があると認めるときは、求人者に対し、その求人数、労働條件その他の求人の條件について、求職者に対し、その就職先、労働條件、乗り組むべき船舶その他の求職條件について指導することができる。
(労働條件の明示)
第十七條 求人者は、求人の申込にあたり、公共船員職業安定所に対し、公共船員職業安定所は、紹介にあたり、求職者に対し、その從事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働條件を明示しなければならない。
(紹介の原則)
第十八條 公共船員職業安定所は、求人者又は求職者に、求人又は求職の申込の内容に適合する紹介をするように努めなければならない。
第十九條 紹介は、求人條件又は求職條件を同じくする申込の間においては、その受理の順序による。但し、求職者が公共船員職業安定所の紹介する適当な職に就くことを命令で定める回数にわたり拒んだときは、紹介の順序については、その最後の拒絶のときにあらたに申込の受理があつたものとみなす。
(求人又は求職の開拓)
第二十條 公共船員職業安定所は、海上労働力の需要供給の状況に應じ、求人又は求職の開拓に努めなければならない。
(爭議行爲に対する不介入)
第二十一條 公共船員職業安定所は、労働爭議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業、閉出又はけい船の行われている船舶につき、求職者を紹介してはならない。
2 前項に規定する場合の外、労働委員会が公共船員職業安定所に対し船舶において同盟罷業、閉出又はけい船に至る虞の多い爭議が発生していること及び求職者を無制限に紹介することによつて当該爭議の解決が妨げられることを通報した場合においては、公共船員職業安定所は、当該船舶につき、求職者を紹介してはならない。但し、当該爭議の発生前通常使用されていた船員の員数を維持するため必要な限度まで求職者を紹介する場合は、この限りでない。
(施行規定)
第二十二條 船員の職業紹介の手続その他政府の行う船員職業紹介に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三節 職業指導
(職業指導の原則)
第二十三條 公共船員職業安定所は、あらたに船員の職業に就こうとする者その他船員の職業に就こうとする者に対し特別の指導を加えることを必要とするときは、職業指導を行わなければならない。
(適性檢査)
第二十四條 公共船員職業安定所は、必要があると認めるときは、職業指導を受ける者に就き、体力、知能、性格その他について船員の職業に対する適應性の檢査を行うことができる。
(学校に対する協力)
第二十五條 公共船員職業安定所は、学校を卒業する者に対し学校の行う職業指導に協力しなければならない。
(施行規定)
第二十六條 職業指導の方法その他職業指導に関し必要な事項は、命令でこれを認める。
第四節 属員職業補導
(属員職業補導の原則)
第二十七條 属員職業補導は、海上労働力の需要供給の状況に應じて必要な職業種目について、これを行わなければならない。年少者その他特別の属員職業補導を加えることを必要とする者については、その者の能力に適するような補導の種目及び方法が選定されなければならない。
2 この法律の規定により運輸大臣の行う属員職業補導は、海上労働者の專門的職業活動に直接関係があるものに限られなければならない。運輸大臣は、技術的科目を除いて、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による学校において通常行われる科目に関する補導は、これを行わないものとし、技術的科目に関する補導を行う場合においても、実地訓練に重点を置き、座学はこれを最小限度に止めるものとする。
(属員職業補導の機関)
第二十八條 属員職業補導は、運輸大臣の指定する船員教育機関が、これを行う。
(公共船員職業安定所の協力)
第二十九條 公共船員職業安定所は、前條の船員教育機関の行う属員職業補導を受けるべき者の選考について、これに協力しなければならない。
(属員職業補導の種目等)
第三十條 属員職業補導の種目、及び方法並びに属員職業補導を受けるべき者の選考について必要な事項は、運輸大臣が、これを定める。
2 属員職業補導の期間は、三箇月を超えてはならない。
(手当の支給)
第三十一條 政府は、属員職業補導を受ける者に対して、手当を支給することができる。
(施行規定)
第三十二條 この節に定めるものの外、属員職業補導に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三章 政府以外の者の行う船員職業紹介事業、船員の募集及び船員労務供給事業
第一節 船員職業紹介事業
(船員職業紹介事業の禁止)
第三十三條 政府以外の者は、何人も第三十四條に規定する場合を除いては、船員職業紹介事業を行つてはならない。
(船員職業紹介事業の許可)
第三十四條 船舶所有者を代表する團体、船員を代表する團体、船舶所有者及び船員を代表する協同の團体又は公益を目的とする團体で左の條件を具備するものは、運輸大臣の許可を受けて、船員職業紹介事業を行うことができる。
一 当該團体の行う船員職業紹介が有料でなく、且つ、その事業が営利を目的としないこと。
二 國庫から補助金を受けないで船員職業紹介事業を行うこと。
2 運輸大臣は、前項の條件に適合する許可の申請があつたときは、これに対し許可を與えなければならない。
(船員職業紹介所の所在地変更等)
第三十五條 船員職業紹介事業を行う者は、船員職業紹介所の所在地若しくは設備を変更し、又は船員職業紹介所を増設しようとするときは、あらかじめ運輸大臣に届け出なければならない。
(設備の改善等)
第三十六條 運輸大臣は、船員職業紹介所の設備その他業務の運営が船員職業紹介事業の経営に関して不適当であると認めるときは、船員職業紹介事業を行う者に対して設備の改善その他必要な事項を勧告することができる。
(報酬受領の禁止)
第三十七條 船員職業紹介事業の從業者は、いかなる名義でも船員の職業紹介に対する報酬として賃金及び給料並びにこれらに準ずるもの以外の財産上の利益を受け、又は他人にこれを受けさせてはならない。
(兼業の制限)
第三十八條 船員職業紹介事業を行う者及びその從業者は、左の業務を行うことができない。但し、船員職業紹介事業を行う者は、運輸大臣の許可を受けたときは、第四号から第六号までの業務を行うことができる。
一 両替
二 質屋
三 酒類の販賣
四 飮食店
五 日用品の販賣
六 宿泊所
2 船員職業紹介事業を行う者及びその從業者は、前項各号の業務を行う者と通謀して、利を図ることはできない。
(名称の制限)
第三十九條 第三十四條の規定により船員職業紹介事業を行う者でない者は、その名称又はその有する施設の名称中に船員職業紹介を行う者たることを示すような文字を用いてはならない。
(帳簿書類の作成等)
第四十條 第三十四條の規定により船員職業紹介事業を行う者は、その業務に関して命令で定める帳簿書類を作成し、その事務所に備え置かなければならない。
(準用規定)
第四十一條 第三十四條の規定により行う船員職業紹介には、第十六條から第二十一條までの規定を準用する。
(施行規定)
第四十二條 この節に定めるものの外、船員職業紹介事業に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第二節 船員の募集
(文書等による募集)
第四十三條 新聞紙、雜誌その他の刊行物に掲載する廣告、文書の掲出若しくは頒布又は放送により船員の募集を行おうとする者は、あらかじめ募集の内容を公共船員職業安定所長に通報しなければならない。
(文書等以外の方法による募集)
第四十四條 前條に規定する方法以外の方法により船員の募集を行おうとする者は、命令の定める場合を除いて、運輸大臣の許可を受けなければならない。
2 前項の規定により運輸大臣の許可を受けることを要しない者は、あらかじめ募集の内容を公共船員職業安定所長に通報しなければならない。
(委託募集)
第四十五條 船舶所有者は、その被用者以外の者に船員の募集を行わせようとするときは、運輸大臣の許可を受けなければならない。
2 船舶所有者は、前項の被用者以外の者に船員の募集について報酬を與えようとするときは、運輸大臣の許可を受けなければならない。
3 第一項の規定により船員の募集を行う者は、同時に二以上の船舶所有者のため募集を行つてはならない。
(募集の制限)
第四十六條 公共船員職業安定所長は、海上労働力の需要供給を調整するため必要があるときは、第四十三條の規定による募集に関し、募集地域又は募集時期について、理由を附した文書により制限を加えることができる。
第四十七條 運輸大臣は、第四十四條の規定により、募集を許可する場合は、募集人員、募集地域その他募集方法に関し、必要な指示を與えることができる。
(報酬受領の禁止)
第四十八條 船舶所有者、船員の募集に從事する被用者及び第四十五條第一項の規定により船員の募集を行う者は、募集に應じた者から、いかなる名義でも財産上の利益を受けてはならない。
(報酬給與の禁止)
第四十九條 船舶所有者は、募集に從事する被用者に対し、いかなる名義でもその募集に対する報酬として、金銭その他の財物を給與してはならない。
(再委託の禁止)
第五十條 船員の募集に從事する被用者及び第四十五條第一項の規定により船員の募集を行う者は、その募集を他人に委託してはならない。
(準用規定)
第五十一條 船員の募集については、第十七條及び第二十一條の規定を準用する。
(施行規定)
第五十二條 この節に定めるものの外、船員の募集に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三節 船員労務供給事業
(船員労務供給事業の禁止)
第五十三條 何人も、第五十四條に規定する場合を除いては、船員労務供給事業を行い、又はその船員労務供給事業を行う者から供給される人を船員として使用してはならない。
(船員労務供給事業の許可)
第五十四條 労働組合法による労働組合は、運輸大臣の許可を受けたときは、無料の船員労務供給事業を行うことができる。
(準用規定)
第五十五條 前條の労働組合の行う船員労務供給事業については、第十七條及び第二十一條の規定を準用する。
(施行規定)
第五十六條 船員労務供給事業に関する許可の申請手続その他船員労務供給事業に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第四章 船員職業安定審議会
(船員職業安定審議会)
第五十七條 この法律の施行に関する重要事項を審議させるため、船員職業安定審議会を置く。
2 船員職業安定審議会は、中央船員職業安定審議会及び地方船員職業安定審議会とする。
3 運輸大臣は、前項に規定する船員職業安定審議会の外、二以上の海運局の管轄区域にわたる地域又は海運局の管轄区域の一部を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会を置くことができる。
4 中央船員職業安定審議会及び二以上の海運局の管轄区域にわたる地域を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会は、運輸大臣の諮問に、地方船員職業安定審議会及び海運局の管轄区域の一部を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会は、海運局長の諮問に應じて第一項に規定する事項を調査審議する外、必要に應じ関係行政廳に建議することができる。
5 運輸大臣及び海運局長は、この法律の施行に関する重要事項については、すべて船員職業安定審議会の意見を徴さなければならない。
6 船員職業安定審議会は、その業務を行うについて資料を必要とするときは、運輸大臣又は海運局長に当該資料の提供を求めることができる。
7 船員職業安定審議会の委員は、船舶所有者を代表する者、船員を代表する者及び学識経驗のある者の中から、中央船員職業安定審議会及び二以上の海運局の管轄区域にわたる地域を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会の委員にあつては、運輸大臣が、地方船員職業安定審議会及び海運局の管轄区域の一部を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会の委員にあつては、海運局長がこれを委嘱する。
8 船舶所有者を代表する者の中から委嘱される委員、船員を代表する者の中から委嘱される委員及び学識経驗のある者の中から委嘱される委員の数は、各々同数でなければならない。
9 中央船員職業安定審議会は、三月に一回以上、地方船員職業安定審議会及び特別地区船員職業安定審議会は、一月に一回以上これを招集しなければならない。
10 前各項に定めるものの外、船員職業安定審議会について必要な事項は、命令でこれを定める。
第五章 雜則
(報告の徴收)
第五十八條 公共船員職業安定所長は、必要があると認めるときは、船員の雇用又は解雇について、船舶所有者に報告を求めることができる。
(檢査等)
第五十九條 運輸大臣は、船員職業紹介事業を行う者、船員の募集を行う者若しくは船員労務供給事業を行う者に事業又は業務に関し、報告をさせ、若しくは帳簿書類の提出を求め、又は当該官吏にその事務所において、業務の状況若しくは帳簿書類その他の物件を檢査させることができる。
2 運輸大臣は、第五十三條の規定の実施状況を調査するため、必要があると認めるときは、当該官吏をして、事務所その他の施設に臨み、帳簿及び書類の提出を求め、又は船舶所有者若しくは船員に対して質問させることができる。
3 当該官吏は、前二項に規定する職権を行うときは、その身分を示す証票を携帶しなければならない。
(事業の停止又は許可の取消)
第六十條 運輸大臣は、船員職業紹介事業を行う者、船員の募集を行う者若しくは船員労務供給事業を行う者が法令若しくはこれに基く運輸大臣若しくは海運局長の処分に違反し、又はその事業若しくは業務が公益を害する虞があると認めるときは、その事業若しくは業務を停止し、又は許可を取り消すことができる。
2 前項の規定により船員職業紹介事業の許可の取消を受けた者には、再び船員職業紹介事業の許可を與えることができない。
(祕密の嚴守)
第六十一條 公共船員職業安定所の業務又は政府以外の者の行う船員の職業紹介、募集若しくは船員労務供給事業に関し船員、船舶所有者その他の者から知り得た船員又は船舶所有者の個人的情報は、すべて祕密とし、何人もこれを他にもらしてはならない。但し、海運総局長官の指示に基いて公表する場合は、この限りでない。
(職員の教育又は訓練)
第六十二條 政府は、その行う船員の職業紹介、職業指導その他この法律の施行に関する事務に從事する職員の教育又は訓練を行うため、計画を樹立し、必要な施設を設けなければならない。
(職権の委任)
第六十三條 この法律に規定する運輸大臣の職権は、命令の定めるところにより、海運局長に委任することができる。
第六章 罰則
第六十四條 左の各号の一に該当する者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二千円以上三万円以下の罰金に処する。
一 暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、船員の職業紹介、募集若しくは船員労務の供給を行つた者又はこれに從事した者
二 公衆衞生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、船員の職業紹介、募集若しくは船員労務の供給を行つた者又はこれに從事した者
第六十五條 左の各号の一に該当する者は、これを一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 第三十三條の規定に違反した者
二 第三十八條の規定に違反した者
三 第四十四條第一項の規定に違反した者
四 第四十五條第一項の規定に違反した者
五 第五十三條の規定に違反した者
第六十六條 左の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
一 第三十七條の規定に違反した者
二 第四十五條第二項又は同條第三項の規定に違反した者
三 第四十六條の規定による制限又は第四十七條の規定による指示に從わなかつた者
四 第四十八條の規定に違反した者
五 第四十九條の規定に違反した者
六 第五十條の規定に違反した者
七 虚僞の廣告、文書の提出若しくは頒布若しくは放送により、又は虚僞の労働條件を呈示して船員の職業紹介、募集若しくは船員労務の供給を行つた者又はこれに從事した者
八 労働條件が法令に違反する船舶その他の事業場の業務に就かせるために、船員の職業紹介、募集若しくは船員労務の供給を行つた者又はこれに從事した者
第六十七條 左の各号の一に該当する者は、これを五千円以下の罰金に処する。
一 第四十條の帳簿書類を作成せず、若しくは備え置かなかつた者又は虚僞の帳簿書類を作成した者
二 第五十八條の規定による公共船員職業安定所の求があつた場合において故なく報告をせず、又は虚僞の報告をした者
三 第五十九條第一項又は第二項の規定に違反して、故なく報告をせず、若しくは虚僞の報告をし、帳簿書類の提出をせず、若しくは虚僞の記載をした帳簿書類を提出し、又は檢査若しくは調査を拒み、妨げ若しくは忌避した者
第六十八條 左の各号の一に該当する者は、これを三千円以下の過料に処する。
一 第三十五條の規定に違反した者
二 第三十九條の規定に違反した者
三 第四十三條の規定に違反した者
四 第四十四條第二項の規定に違反した者
第六十九條 この法律の違反行爲をした者が、法人又は人の事業又は業務について、当該法人又は人のために行爲をした代理人又は被用者である場合においては、当該法人の代表者又は人が普通の注意を拂えば、その違反行爲を知ることができるべきときは、行爲者を罰する外、その法人の代表者又は人に対しても各本條の罰金刑を科する。
2 法人の代表者又は人が違反の計画を知り、その防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行爲を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においては、当該法人の代表者又は人も行爲者としてこれを罰する。
附 則
1 この法律施行の期日は、その公布の日から起算して百二十日を超えない期間において、政令でこれを定める。
2 船員職業紹介法(大正十一年法律第三十八号)は、これを廃止する。
3 この法律施行の際現に運輸大臣の許可を受けて、船員職業紹介事業を行う者は、この法律施行後三月を限り、引き続きその事業を行うことができる。
4 船員保險法の一部を次のように改正する。
「船員職業紹介所」を「公共船員職業安定所」に改める。
5 職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)の一部を次のように改正する。
第六十二條中「船員法第一條」を「船員職業安定法第六條第一項」に改める。
運輸大臣 岡田勢一
労働大臣 加藤勘十
内閣総理大臣 芦田均
船員職業安定法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十三年七月十日
内閣総理大臣 芦田均
法律第百三十号
船員職業安定法目次
第一章
総則
第二章
政府の行う船員の職業紹介、職業指導及び属員職業補導
第一節
通則
第二節
船員職業紹介
第三節
職業指導
第四節
属員職業補導
第三章
政府以外の者の行う船員職業紹介事業、船員の募集及び船員労務供給事業
第一節
船員職業紹介事業
第二節
船員の募集
第三節
船員労務供給事業
第四章
船員職業安定審議会
第五章
雑則
第六章
罰則
附則
船員職業安定法
第一章 総則
(法律の目的)
第一条 この法律は、何人にもその能力及び資格に応じて公平且つ有効に船員の職業に就く機会を与えることによつて、海上企業に対する労働力の適正な充足を図ることを目的とする。
(職業選択の自由)
第二条 何人も、その能力及びその有する免状若しくは証書、その受けた訓練又はその経験による資格に応じ、適当な船舶における船員の職業を自由に選択することができる。
(船員選択の自由)
第三条 船舶所有者(船舶共有の場合には船舶管理人を、船舶貸借の場合には船舶借入人を、船舶所有者、船舶管理人及び船舶借入人以外の者が船員を使用する場合にはその者をいう。以下同じ。)は、船員として雇用する者を自由に選択することができる。但し、労働組合法(昭和二十年法律第五十一号)の規定によつて、船舶所有者又はその団体と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。
(均等待遇)
第四条 何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、属員職業補導等について、差別的取扱を受けることがない。但し、労働組合法の規定によつて、船舶所有者又はその団体と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。
(政府の行う業務)
第五条 政府は、第一条の目的を達成するため、左の業務を行う。
一 海上労働力の需用供給の適正な調整を図ること及びその労働力を最も有効に発揮させるために必要な計画を樹立すること。
二 政府以外の者の行う船員職業紹介、船員の募集又は船員労務供給事業を船員及び公共の利益を増進するように、指導監督すること。
三 求職者に対し、迅速に、その能力に適当な船員の職業に就くことをあつせんすること。
四 求職者に対し必要がある場合には職業指導又は属員職業補導を行うこと。
五 海上労働力の需要供給に関する情報その他の資料を集め、又はこれを周知させること。
六 個人、団体、学校又は関係行政庁の協力を得て、公共船員職業安定所の業務の運営の改善向上を図ること。
七 船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)の規定により失業保険金の支給を受けるべき者について職業紹介、職業指導又は属員職業補導を行い、失業保険制度の健全な運用を図ること。
(定義)
第六条 この法律で「船員」とは、船員法(昭和二十二年法律第百号)による船員及び同法による船員でない者で日本船舶以外の船舶に乗り組むものをいう。
2 この法律で「船員職業紹介」とは、求人及び求職の申込を受け、求人者と求職者との間における船員雇用関係の成立をあつせんすることをいう。
3 この法律で「職業指導」とは、船員の職業に就こうとする者に対し、その者に適当な職業の選択及び職業に対する適応を容易にさせるために必要な指示、助言その他の指導を行うことをいう。
4 この法律で「属員職業補導」とは、属員にならうとする者に対し、属員の職業に就くことを容易にさせるために、救命艇おろし方、ボイラー取扱法、救急法、海事用語、船内紀律その他海上労働において必要な基本的且つ実用的知識及び技能を授けることをいう。
5 この法律で「船員の募集」とは、船員を雇用しようとする者が自ら又は他人をして船員とならうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいう。
6 この法律で「船員労務供給」とは、供給契約に基いて人を船員として他人に使用させることをいう。
第二章 政府の行う船員の職業紹介、職業指導及び属員職業補導
第一節 通則
(海運総局長官の業務)
第七条 運輸省海運総局長官(以下海運総局長官という。)は、運輸大臣の指揮監督を受け、この法律の施行に関する事項について海運局長を指揮監督するとともに、公共船員職業安定所の指揮監督に関する基準の制定、海上企業における船員募集計画の樹立及び実施、失業対策の企画及び実施、海上労働力の需要供給の調整、職業指導及び属員職業補導に関する政策の樹立その他この法律の施行に関し必要な事務を掌り、所属の職員を指揮監督する。
(公共船員職業安定所)
第八条 海運局に、無料で公共に奉仕する公共船員職業安定所を置き、職業紹介、職業指導、船員保険法の規定によりその所掌に属せしめられた事項その他この法律の目的を達成するために必要な事項を行わせる。
2 公共船員職業安定所の名称、位置、管轄区域、職員の定員その他公共船員職業安定所について必要な事項は、命令でこれを定める。
(連絡公共船員職業安定所)
第九条 運輸大臣は、前条第一項の公共船員職業安定所のうち、連絡公共船員職業安定所を指定することができる。
2 連絡公共船員職業安定所は、その属する海運局の管轄区域における海上労働力の需給状況に関し公共船員職業安定所相互間の事務の連絡を掌る。
(職員たる要件)
第十条 公共船員職業安定所の業務を効果あらしめるために、公共船員職業安定所において専らこの法律を施行する業務に従事する官吏その他の職員は、運輸大臣の定める資格又は経験を有する者でなければならない。
(公共職業安定所に対する協力)
第十一条 公共船員職業安定所は、公共職業安定所の業務について、これに協力しなければならない。
(求職者のための施設)
第十二条 政府は、船員職業紹介の事業を行うにあたり必要があると認めるときは、宿泊施設、食堂、浴場その他の施設を設けるものとする。
(労働力の需給に関する調査)
第十三条 海運総局長官は、公共船員職業安定所の海上労働力の需要供給に関する調査報告により、雇用及び失業の状況に関する資料を集め、その研究調査の結果を公表するとともに、研究調査の結果に基いて、海上労働力の需要供給の調整を図り、もつて雇用量を増大することに努めなければならない。
(海上企業に対する奉仕)
第十四条 海運総局長官は、船員の募集、選考、配置転換等に関する問題の処理について、船舶所有者から指導を求められた場合においては、船員の職業に関する調査の結果に基いて、その処理に必要な資料、方法及び基準を指示し、もつて海上企業の進展に奉仕することに努めなければならない。
(事務の依頼)
第十五条 公共船員職業安定所長は、公共職業安定所に左の事務を依頼することができる。
一 公共船員職業安定所に出頭してすることの困難な求職の申込を公共船員職業安定所に取り次ぐこと。
二 求職者の身元、資格等に関しこれを調査すること。
三 求人又は求職に関する通報を周知させること。
2 前項各号の事務を依頼するにあたり、公共職業安定所が当該地域及びその近接地域にないときは、公共船員職業安定所長は、当該地域の市町村長に前項各号の事務を依頼することができる。
第二節 船員職業紹介
(申込の受理)
第十六条 公共船員職業安定所は、いかなる求人又は求職の申込についてもこれを受理しなければならない。但し、求人若しくは求職の申込の内容が法令に違反するとき、又は求人の申込の内容をなす賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件に比べて、著しく不適当であると認めるときは、その申込を受理しないことができる。
2 公共船員職業安定所は、必要があると認めるときは、求人者に対し、その求人数、労働条件その他の求人の条件について、求職者に対し、その就職先、労働条件、乗り組むべき船舶その他の求職条件について指導することができる。
(労働条件の明示)
第十七条 求人者は、求人の申込にあたり、公共船員職業安定所に対し、公共船員職業安定所は、紹介にあたり、求職者に対し、その従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
(紹介の原則)
第十八条 公共船員職業安定所は、求人者又は求職者に、求人又は求職の申込の内容に適合する紹介をするように努めなければならない。
第十九条 紹介は、求人条件又は求職条件を同じくする申込の間においては、その受理の順序による。但し、求職者が公共船員職業安定所の紹介する適当な職に就くことを命令で定める回数にわたり拒んだときは、紹介の順序については、その最後の拒絶のときにあらたに申込の受理があつたものとみなす。
(求人又は求職の開拓)
第二十条 公共船員職業安定所は、海上労働力の需要供給の状況に応じ、求人又は求職の開拓に努めなければならない。
(争議行為に対する不介入)
第二十一条 公共船員職業安定所は、労働争議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業、閉出又はけい船の行われている船舶につき、求職者を紹介してはならない。
2 前項に規定する場合の外、労働委員会が公共船員職業安定所に対し船舶において同盟罷業、閉出又はけい船に至る虞の多い争議が発生していること及び求職者を無制限に紹介することによつて当該争議の解決が妨げられることを通報した場合においては、公共船員職業安定所は、当該船舶につき、求職者を紹介してはならない。但し、当該争議の発生前通常使用されていた船員の員数を維持するため必要な限度まで求職者を紹介する場合は、この限りでない。
(施行規定)
第二十二条 船員の職業紹介の手続その他政府の行う船員職業紹介に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三節 職業指導
(職業指導の原則)
第二十三条 公共船員職業安定所は、あらたに船員の職業に就こうとする者その他船員の職業に就こうとする者に対し特別の指導を加えることを必要とするときは、職業指導を行わなければならない。
(適性検査)
第二十四条 公共船員職業安定所は、必要があると認めるときは、職業指導を受ける者に就き、体力、知能、性格その他について船員の職業に対する適応性の検査を行うことができる。
(学校に対する協力)
第二十五条 公共船員職業安定所は、学校を卒業する者に対し学校の行う職業指導に協力しなければならない。
(施行規定)
第二十六条 職業指導の方法その他職業指導に関し必要な事項は、命令でこれを認める。
第四節 属員職業補導
(属員職業補導の原則)
第二十七条 属員職業補導は、海上労働力の需要供給の状況に応じて必要な職業種目について、これを行わなければならない。年少者その他特別の属員職業補導を加えることを必要とする者については、その者の能力に適するような補導の種目及び方法が選定されなければならない。
2 この法律の規定により運輸大臣の行う属員職業補導は、海上労働者の専門的職業活動に直接関係があるものに限られなければならない。運輸大臣は、技術的科目を除いて、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による学校において通常行われる科目に関する補導は、これを行わないものとし、技術的科目に関する補導を行う場合においても、実地訓練に重点を置き、座学はこれを最小限度に止めるものとする。
(属員職業補導の機関)
第二十八条 属員職業補導は、運輸大臣の指定する船員教育機関が、これを行う。
(公共船員職業安定所の協力)
第二十九条 公共船員職業安定所は、前条の船員教育機関の行う属員職業補導を受けるべき者の選考について、これに協力しなければならない。
(属員職業補導の種目等)
第三十条 属員職業補導の種目、及び方法並びに属員職業補導を受けるべき者の選考について必要な事項は、運輸大臣が、これを定める。
2 属員職業補導の期間は、三箇月を超えてはならない。
(手当の支給)
第三十一条 政府は、属員職業補導を受ける者に対して、手当を支給することができる。
(施行規定)
第三十二条 この節に定めるものの外、属員職業補導に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三章 政府以外の者の行う船員職業紹介事業、船員の募集及び船員労務供給事業
第一節 船員職業紹介事業
(船員職業紹介事業の禁止)
第三十三条 政府以外の者は、何人も第三十四条に規定する場合を除いては、船員職業紹介事業を行つてはならない。
(船員職業紹介事業の許可)
第三十四条 船舶所有者を代表する団体、船員を代表する団体、船舶所有者及び船員を代表する協同の団体又は公益を目的とする団体で左の条件を具備するものは、運輸大臣の許可を受けて、船員職業紹介事業を行うことができる。
一 当該団体の行う船員職業紹介が有料でなく、且つ、その事業が営利を目的としないこと。
二 国庫から補助金を受けないで船員職業紹介事業を行うこと。
2 運輸大臣は、前項の条件に適合する許可の申請があつたときは、これに対し許可を与えなければならない。
(船員職業紹介所の所在地変更等)
第三十五条 船員職業紹介事業を行う者は、船員職業紹介所の所在地若しくは設備を変更し、又は船員職業紹介所を増設しようとするときは、あらかじめ運輸大臣に届け出なければならない。
(設備の改善等)
第三十六条 運輸大臣は、船員職業紹介所の設備その他業務の運営が船員職業紹介事業の経営に関して不適当であると認めるときは、船員職業紹介事業を行う者に対して設備の改善その他必要な事項を勧告することができる。
(報酬受領の禁止)
第三十七条 船員職業紹介事業の従業者は、いかなる名義でも船員の職業紹介に対する報酬として賃金及び給料並びにこれらに準ずるもの以外の財産上の利益を受け、又は他人にこれを受けさせてはならない。
(兼業の制限)
第三十八条 船員職業紹介事業を行う者及びその従業者は、左の業務を行うことができない。但し、船員職業紹介事業を行う者は、運輸大臣の許可を受けたときは、第四号から第六号までの業務を行うことができる。
一 両替
二 質屋
三 酒類の販売
四 飲食店
五 日用品の販売
六 宿泊所
2 船員職業紹介事業を行う者及びその従業者は、前項各号の業務を行う者と通謀して、利を図ることはできない。
(名称の制限)
第三十九条 第三十四条の規定により船員職業紹介事業を行う者でない者は、その名称又はその有する施設の名称中に船員職業紹介を行う者たることを示すような文字を用いてはならない。
(帳簿書類の作成等)
第四十条 第三十四条の規定により船員職業紹介事業を行う者は、その業務に関して命令で定める帳簿書類を作成し、その事務所に備え置かなければならない。
(準用規定)
第四十一条 第三十四条の規定により行う船員職業紹介には、第十六条から第二十一条までの規定を準用する。
(施行規定)
第四十二条 この節に定めるものの外、船員職業紹介事業に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第二節 船員の募集
(文書等による募集)
第四十三条 新聞紙、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出若しくは頒布又は放送により船員の募集を行おうとする者は、あらかじめ募集の内容を公共船員職業安定所長に通報しなければならない。
(文書等以外の方法による募集)
第四十四条 前条に規定する方法以外の方法により船員の募集を行おうとする者は、命令の定める場合を除いて、運輸大臣の許可を受けなければならない。
2 前項の規定により運輸大臣の許可を受けることを要しない者は、あらかじめ募集の内容を公共船員職業安定所長に通報しなければならない。
(委託募集)
第四十五条 船舶所有者は、その被用者以外の者に船員の募集を行わせようとするときは、運輸大臣の許可を受けなければならない。
2 船舶所有者は、前項の被用者以外の者に船員の募集について報酬を与えようとするときは、運輸大臣の許可を受けなければならない。
3 第一項の規定により船員の募集を行う者は、同時に二以上の船舶所有者のため募集を行つてはならない。
(募集の制限)
第四十六条 公共船員職業安定所長は、海上労働力の需要供給を調整するため必要があるときは、第四十三条の規定による募集に関し、募集地域又は募集時期について、理由を附した文書により制限を加えることができる。
第四十七条 運輸大臣は、第四十四条の規定により、募集を許可する場合は、募集人員、募集地域その他募集方法に関し、必要な指示を与えることができる。
(報酬受領の禁止)
第四十八条 船舶所有者、船員の募集に従事する被用者及び第四十五条第一項の規定により船員の募集を行う者は、募集に応じた者から、いかなる名義でも財産上の利益を受けてはならない。
(報酬給与の禁止)
第四十九条 船舶所有者は、募集に従事する被用者に対し、いかなる名義でもその募集に対する報酬として、金銭その他の財物を給与してはならない。
(再委託の禁止)
第五十条 船員の募集に従事する被用者及び第四十五条第一項の規定により船員の募集を行う者は、その募集を他人に委託してはならない。
(準用規定)
第五十一条 船員の募集については、第十七条及び第二十一条の規定を準用する。
(施行規定)
第五十二条 この節に定めるものの外、船員の募集に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三節 船員労務供給事業
(船員労務供給事業の禁止)
第五十三条 何人も、第五十四条に規定する場合を除いては、船員労務供給事業を行い、又はその船員労務供給事業を行う者から供給される人を船員として使用してはならない。
(船員労務供給事業の許可)
第五十四条 労働組合法による労働組合は、運輸大臣の許可を受けたときは、無料の船員労務供給事業を行うことができる。
(準用規定)
第五十五条 前条の労働組合の行う船員労務供給事業については、第十七条及び第二十一条の規定を準用する。
(施行規定)
第五十六条 船員労務供給事業に関する許可の申請手続その他船員労務供給事業に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第四章 船員職業安定審議会
(船員職業安定審議会)
第五十七条 この法律の施行に関する重要事項を審議させるため、船員職業安定審議会を置く。
2 船員職業安定審議会は、中央船員職業安定審議会及び地方船員職業安定審議会とする。
3 運輸大臣は、前項に規定する船員職業安定審議会の外、二以上の海運局の管轄区域にわたる地域又は海運局の管轄区域の一部を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会を置くことができる。
4 中央船員職業安定審議会及び二以上の海運局の管轄区域にわたる地域を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会は、運輸大臣の諮問に、地方船員職業安定審議会及び海運局の管轄区域の一部を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会は、海運局長の諮問に応じて第一項に規定する事項を調査審議する外、必要に応じ関係行政庁に建議することができる。
5 運輸大臣及び海運局長は、この法律の施行に関する重要事項については、すべて船員職業安定審議会の意見を徴さなければならない。
6 船員職業安定審議会は、その業務を行うについて資料を必要とするときは、運輸大臣又は海運局長に当該資料の提供を求めることができる。
7 船員職業安定審議会の委員は、船舶所有者を代表する者、船員を代表する者及び学識経験のある者の中から、中央船員職業安定審議会及び二以上の海運局の管轄区域にわたる地域を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会の委員にあつては、運輸大臣が、地方船員職業安定審議会及び海運局の管轄区域の一部を管轄区域とする特別地区船員職業安定審議会の委員にあつては、海運局長がこれを委嘱する。
8 船舶所有者を代表する者の中から委嘱される委員、船員を代表する者の中から委嘱される委員及び学識経験のある者の中から委嘱される委員の数は、各々同数でなければならない。
9 中央船員職業安定審議会は、三月に一回以上、地方船員職業安定審議会及び特別地区船員職業安定審議会は、一月に一回以上これを招集しなければならない。
10 前各項に定めるものの外、船員職業安定審議会について必要な事項は、命令でこれを定める。
第五章 雑則
(報告の徴収)
第五十八条 公共船員職業安定所長は、必要があると認めるときは、船員の雇用又は解雇について、船舶所有者に報告を求めることができる。
(検査等)
第五十九条 運輸大臣は、船員職業紹介事業を行う者、船員の募集を行う者若しくは船員労務供給事業を行う者に事業又は業務に関し、報告をさせ、若しくは帳簿書類の提出を求め、又は当該官吏にその事務所において、業務の状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2 運輸大臣は、第五十三条の規定の実施状況を調査するため、必要があると認めるときは、当該官吏をして、事務所その他の施設に臨み、帳簿及び書類の提出を求め、又は船舶所有者若しくは船員に対して質問させることができる。
3 当該官吏は、前二項に規定する職権を行うときは、その身分を示す証票を携帯しなければならない。
(事業の停止又は許可の取消)
第六十条 運輸大臣は、船員職業紹介事業を行う者、船員の募集を行う者若しくは船員労務供給事業を行う者が法令若しくはこれに基く運輸大臣若しくは海運局長の処分に違反し、又はその事業若しくは業務が公益を害する虞があると認めるときは、その事業若しくは業務を停止し、又は許可を取り消すことができる。
2 前項の規定により船員職業紹介事業の許可の取消を受けた者には、再び船員職業紹介事業の許可を与えることができない。
(秘密の厳守)
第六十一条 公共船員職業安定所の業務又は政府以外の者の行う船員の職業紹介、募集若しくは船員労務供給事業に関し船員、船舶所有者その他の者から知り得た船員又は船舶所有者の個人的情報は、すべて秘密とし、何人もこれを他にもらしてはならない。但し、海運総局長官の指示に基いて公表する場合は、この限りでない。
(職員の教育又は訓練)
第六十二条 政府は、その行う船員の職業紹介、職業指導その他この法律の施行に関する事務に従事する職員の教育又は訓練を行うため、計画を樹立し、必要な施設を設けなければならない。
(職権の委任)
第六十三条 この法律に規定する運輸大臣の職権は、命令の定めるところにより、海運局長に委任することができる。
第六章 罰則
第六十四条 左の各号の一に該当する者は、これを一年以上十年以下の懲役又は二千円以上三万円以下の罰金に処する。
一 暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、船員の職業紹介、募集若しくは船員労務の供給を行つた者又はこれに従事した者
二 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、船員の職業紹介、募集若しくは船員労務の供給を行つた者又はこれに従事した者
第六十五条 左の各号の一に該当する者は、これを一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 第三十三条の規定に違反した者
二 第三十八条の規定に違反した者
三 第四十四条第一項の規定に違反した者
四 第四十五条第一項の規定に違反した者
五 第五十三条の規定に違反した者
第六十六条 左の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
一 第三十七条の規定に違反した者
二 第四十五条第二項又は同条第三項の規定に違反した者
三 第四十六条の規定による制限又は第四十七条の規定による指示に従わなかつた者
四 第四十八条の規定に違反した者
五 第四十九条の規定に違反した者
六 第五十条の規定に違反した者
七 虚偽の広告、文書の提出若しくは頒布若しくは放送により、又は虚偽の労働条件を呈示して船員の職業紹介、募集若しくは船員労務の供給を行つた者又はこれに従事した者
八 労働条件が法令に違反する船舶その他の事業場の業務に就かせるために、船員の職業紹介、募集若しくは船員労務の供給を行つた者又はこれに従事した者
第六十七条 左の各号の一に該当する者は、これを五千円以下の罰金に処する。
一 第四十条の帳簿書類を作成せず、若しくは備え置かなかつた者又は虚偽の帳簿書類を作成した者
二 第五十八条の規定による公共船員職業安定所の求があつた場合において故なく報告をせず、又は虚偽の報告をした者
三 第五十九条第一項又は第二項の規定に違反して、故なく報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、帳簿書類の提出をせず、若しくは虚偽の記載をした帳簿書類を提出し、又は検査若しくは調査を拒み、妨げ若しくは忌避した者
第六十八条 左の各号の一に該当する者は、これを三千円以下の過料に処する。
一 第三十五条の規定に違反した者
二 第三十九条の規定に違反した者
三 第四十三条の規定に違反した者
四 第四十四条第二項の規定に違反した者
第六十九条 この法律の違反行為をした者が、法人又は人の事業又は業務について、当該法人又は人のために行為をした代理人又は被用者である場合においては、当該法人の代表者又は人が普通の注意を払えば、その違反行為を知ることができるべきときは、行為者を罰する外、その法人の代表者又は人に対しても各本条の罰金刑を科する。
2 法人の代表者又は人が違反の計画を知り、その防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においては、当該法人の代表者又は人も行為者としてこれを罰する。
附 則
1 この法律施行の期日は、その公布の日から起算して百二十日を超えない期間において、政令でこれを定める。
2 船員職業紹介法(大正十一年法律第三十八号)は、これを廃止する。
3 この法律施行の際現に運輸大臣の許可を受けて、船員職業紹介事業を行う者は、この法律施行後三月を限り、引き続きその事業を行うことができる。
4 船員保険法の一部を次のように改正する。
「船員職業紹介所」を「公共船員職業安定所」に改める。
5 職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)の一部を次のように改正する。
第六十二条中「船員法第一条」を「船員職業安定法第六条第一項」に改める。
運輸大臣 岡田勢一
労働大臣 加藤勘十
内閣総理大臣 芦田均