労働者災害補償保険法
法令番号: 法律第五十号
公布年月日: 昭和22年4月7日
法令の形式: 法律
朕は、帝國議会の協賛を経た労働者災害補償保險法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十二年四月五日
内閣総理大臣 吉田茂
厚生大臣 河合良成
内務大臣 植原悦二郎
大藏大臣 石橋湛山
法律第五十号
労働者災害補償保險法目次
第一章
総則
第二章
保險関係の成立及び消滅
第三章
保險給付及び保險施設
第四章
保險料
第五章
審査の請求、訴願及び訴訟
第六章
雜則
第七章
罰則
附則
労働者災害補償保險法
第一章 総則
第一條 労働者災害補償保險は、業務上の事由による労働者の負傷、疾病、癈疾又は死亡に対して迅速且つ公正な保護をするため、災害補償を行い、併せて、労働者の福祉に必要な施設をなすことを目的とする。
第二條 労働者災害補償保險は、政府が、これを管掌する。
第三條 この法律においては、左の各号の一に該当する事業を強制適用事業とする。
一 左に掲げる事業で常時五人以上の労働者を使用するもの
(イ) 物の製造、改造、加工、修理、淨洗、選別、包裝、裝飾、仕上、販賣のためにする仕上、破壞若しくは解体又は材料の変造の事業(電氣、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは傳導の事業及び水道の事業を含む。)
(ロ) 鉱業、砂鉱業、石切業その他土石又は鉱物採取の事業
(ハ) 道路、鉄道、軌道、索道又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
二 左に掲げる事業で常時労働者を使用するもの又は一年以内の期間において使用労働者延人員三百人以上のもの
イ 土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壞若しくは解体又はその準備の事業
ロ 船きよ、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱の事業
ハ 立木の伐採、造林、木炭又は薪を生產する事業その他の林業
三 その他命令で指定する事業
労働基準法第八條に規定する事業で前項に掲げるもの以外のもの及び同條に規定する事務所(以下事業という。)は、これを任意適用事業とする。
國の直営事業、官公署、同居の親族のみを使用する事業及び船員法の適用を受ける船員については、この法律は、これを適用しない。
第四條 労働者災害補償保險事業の運営に関する重要事項を審議するため、労働者災害補償保險委員会を置く。
労働者災害補償保險委員会の委員は、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者について、主務大臣が、各ゝ同数を委嘱する。
この法律に定めるものの外、労働者災害補償保險委員会に関し必要な事項は、命令で、これを定める。
第五條 この法律に基いて発する命令は、その草案について、労働者災害補償保險委員会の意見を聞いて、これを制定する。
第二章 保險関係の成立及び消滅
第六條 第三條第一項の強制適用事業の使用者については、その事業開始の日又はその事業が第三條第一項の事業に該当するに至つた日に、その事業につき保險関係が成立する。
第七條 第三條第二項の任意適用事業の使用者については、その者が保險加入の申込をし、政府の承諾があつた日に、その事業につき保險関係が成立する。
任意適用事業に使用される労働者の過半数が、その事業につき保險関係の成立を希望する場合は、その使用者は、保險加入の申込をしなければならない。
第八條 事業が数次の請負によつて行はれる場合には、元請負人のみを、この保險の適用事業の使用者とする。
第九條 第三條第一項の強制適用事業に該当する事業が、同條第二項の任意適用事業に該当するに至つたときは、その翌日に、その事業につき第七條の規定による承諾があつたものとみなす。
第十條 その事業につき保險関係が成立してゐる事業の廃止又は終了のあつたときは、その事業についての保險関係は、その翌日に、消滅する。
第十一條 第七條又は第九條の規定によつて保險関係が成立してゐる事業の使用者については、前條の規定によるの外、政府の承諾があつた日の翌日に、その事業についての保險関係が消滅する。但し、その承諾を受けるには、保險関係成立後一年を経過してゐること及びその事業に使用される労働者の過半数の同意を得たものであることを要する。
第三章 保險給付及び保險施設
第十二條 この法律で保險する災害補償の範囲は、左の各号による。
一 療養補償費(療養費中命令で定める金額を超える部分)
二 休業補償費(休業七日を超える休業一日につき平均賃金の百分の六十)
三 障害補償費(別表に定めるもの)
四 遺族補償費(平均賃金の千日分)
五 葬祭料(平均賃金の六十日分)
六 打切補償費(平均賃金の千二百日分)
前項の規定による災害補償の事由は、労働基準法第七十五條乃至第八十一條に定める災害補償の事由とする。
第一項第一号の規定による災害補償については、政府は命令の定める場合には、同号の療養補償費の支給にかえて、直接労働者に療養の給付をすることができる。
第一項の平均賃金とは、労働基準法第十二條の平均賃金をいう。
第十三條 前條第一項第一号の療養補償費又は同條第三項の療養の範囲は、左の各号(政府が必要と認めるものに限る。)による。
一 診察
二 藥剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 病院又は診療所への收容
五 看護
六 移送
第十四條 第十二條第一項第二号の休業補償費の支給を受けるべき期間に、その補償を受けるべき者が、使用者から賃金の全部又は一部を受けたときは、命令の定めるところによつて、政府は、その賃金を受けた期間の休業補償費の全部又は一部を支給しない。
第十五條 第十二條第一項の規定による保險給付は、これを補償を受けるべき労働者、遺族又は労働者の死亡当時その收入によつて生計を維持した者に支給する。
第十六條 第十二條第一項の障害補償費、遺族補償費及び打切補償費は、命令の定めるところにより、命令の定める期間毎年これを支給する。但し、主務大臣は、必要と認めるときは、別段の定をなすことができる。
第十七條 事業につき保險関係の成立してゐる事業についての使用者(以下保險加入者という。)が、保險料の算定又は保險給付の基礎である重要な事項について、不実の告知をしたときは、政府は、保險給付の全部又は一部を支給しないことができる。
第十八條 保險加入者が、故意又は重大な過失によつて保險料を滯納したときは、政府は、その滯納に係る事業について、その滯納期間中に生じを事故に対する保險給付の全部を支給しないことができる。
第十九條 故意又は重大な過失によつて、保險加入者が、補償の原因である事故を発生させたとき、又は労働者が、業務上負傷し、若しくは疾病に罹つたときは、政府は、保險給付の全部又は一部を支給しないことができる。
第二十條 政府は、補償の原因である事故が、第三者の行爲に因つて生じた場合に保險給付をしたときは、その給付の價額の限度で、補償を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
第二十一條 保險給付を受ける権利は、これを讓り渡し、又は差し押えることができない。
第二十二條 保險給付として支給を受けた金品を標準として、租税その他の公課を課してはならない。
第二十三條 政府は、この保險の適用を受ける事業に係る業務災害に関して、左の保險施設を行う。
一 外科後処置に関する施設
二 義肢の支給に関する施設
三 休養又は療養に関する施設
四 職業再教育に関する施設
五 その他必要と認める施設
第四章 保險料
第二十四條 政府は、労働者災害補償保險事業に要する費用に充てるため、保險加入者から保險料を徴收する。
第二十五條 保險料は、賃金総額にその事業についての保險料率を乘じて得た金額とする。
前項の賃金総額とは、その事業に使用するすべての労働者に支拂つた賃金、給料、手当、賞與その他名称の如何を問わず労働の対償として使用者が労働者に支拂うすべてのもの(三箇月を超える期間毎に支拂われる賃金その他命令で定めるものは、これを除く。)の総額をいう。
第二十六條 保險料率は、この法律の適用を受けるすべての事業の過去五年間の災害率を基礎として、数等級に区別して、賃金一円当りについて主務大臣が、これを定める。
第二十七條 常時三百人以上の労働者を使用する個ゝの事業についての過去五年間の災害率が、同種の事業について前條の規定による災害率に比し著しく高率又は低率であるときは、政府は、その事業について、同條の規定による保險料率と異なる保險料率を定めることができる。
第二十八條 保險加入者は、毎年四月一日から翌年三月末日まで(以下保險年度という。)に使用するすべての労働者(保險年度の中途に保險加入者となつた者については、加入の日からその保險年度の末日までに使用するすべての労働者)に支拂う賃金総額の見込額に、保險料率を乘じて算定した概算保險料を、四月一日(保險年度の中途に保險加入者となつた者については加入の日)から三十日以内に納付しなければならない。
事業の期間が予定される事業については、その保險加入者は、前項の規定にかかわらず、その全期間に使用するすべての労働者に支拂う賃金総額の見込額に、保險料率を乘じて算定した概算保險料を、保險加入の日から十四日以内に納付しなければならない。
保險加入者は、申出によつて、前二項の概算保險料を命令の定めるところによつて、分割して納付することができる。
第二十九條 政府は、前條の賃金総額の見込額に変更を生じたときその他必要がある場合においては、概算保險料を追加徴收することができる。
第三十條 前二條の規定によつて拂い込んだ概算保險料が、保險年度の末日又は保險関係の消滅する日に、第二十五條の規定により確定する保險料に比し過不足があるときは、政府は、保險料を返還し、又はこれを追加徴收する。
前項の規定によつて返還する保險料は、その事業についての次期の概算保險料に、これを充当することができる。この場合においては、政府は、その旨を当該保險加入者に通知しなければならない。
第三十一條 保險料その他この法律の規定による徴收金を滯納する者があるときは、政府は、期限を指定して、これを督促しなければならない。
前項の規定によつて督促するときは、政府は、納付義務者に対して督促状を発する。この場合においては、督促手数料として命令で定める金額を徴收する。
第一項の規定による督促を受けた者が、その指定の期限までに、保險料その他この法律の規定による徴收金を納付しないときは、政府は、國税滯納処分の例によつて、これを処分する。
第三十二條 前條の規定によつて督促をしたときは、政府は、徴收金額百円につき一日四銭の割合で、納期限の翌日から徴收金完納又は財產差押の日の前日までの日数により計算した延滯金を徴收する。但し、督促状に指定した期限までに徴收金及び督促手数料を完納したときその他命令で定める場合は、この限りでない。
第三十三條 保險料その他この法律の規定による徴收金の先取特権の順位は、市町村その他これに準ずべきものの徴收金につぎ、他の公課に先だつものとする。
第三十四條 保險料その他この法律の規定による徴收金に関する書類の送達については、國税徴收法第四條の七及び第四條の八の規定を準用する。
第五章 審査の請求、訴願及び訴訟
第三十五條 保險給付に関する決定に異議のある者は、保險審査官の審査を請求し、その決定に不服のある者は、保險審査機関に審査を請求し、その決定に不服のある者は、裁判所に訴訟を提起することができる。
前項の審査の請求は、時効の中断に関しては、これを裁判上の請求とみなす。
第三十六條 保險審査官は、必要があると認める場合においては、職権で審査をすることができる。
保險審査官が、審査のため必要であると認める場合においては、保險給付の決定をした官吏若しくは吏員に対して意見を求め、保險加入者若しくは保險給付を受けるべき者に対して報告をさせ、若しくは出頭を命じ、又は医師に診断若しくは檢案をさせることができる。
第三十七條 保險料その他この法律の規定による徴收金の賦課又は徴收の処分に関して訴願の提起があつたときは、主務大臣は、保險審査機関の審査を経て裁決をする。
第三十八條 保險審査機関は、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者につき、主務大臣が、各々同数を委嘱した者で、これを組織する。
第三十九條 保險審査官又は保險審査機関は、審査のため必要があると認めるときは、証人又は鑑定人の訊問その他の証拠調をすることができる。
証拠調については、民事訴訟法の証拠調に関する規定及び民事訴訟費用法第九條及び第十一條乃至第十三條の規定を準用する。但し、保險審査官又は保險審査機関の証拠調については、過料に処し、又は拘引を命ずることはできない。
第四十條 審査の請求、訴の提起又は訴願は、処分の通知又は決定書の交附を受けた日から六十日以内に、これをしなければならない。この場合において、審査の請求については訴願法第八條第三項の規定を、訴の提起については民事訴訟法第百五十八條第二項及び第百五十九條の規定を準用する。
第四十一條 この章に定めるものの外、保險審査官及び保險審査機関に関し必要な事項は、命令で、これを定める。
第六章 雜則
第四十二條 保險料その他この法律の規定による徴收金を徴收し、又はその還付を受ける権利及び保險給付を受ける権利は、二年を経過したときは、時効によつて消滅する。
前項の時効の中断、停止その他の事項に関しては、民法の時効に関する規定を準用する。
命令の定めるところによつて政府のなす保險料その他この法律の規定による徴收金の徴收の告知は、民法第百五十三條の規定にかかわらず時効中断の効力を生ずる。
第四十三條 この法律又はこの法律に基いて発する命令に規定する期間の計算については、民法の期間の計算に関する規定を準用する。
第四十四條 労働者災害補償保險に関する書類には、印紙税を課さない。
第四十五條 行政廳又は保險給付を受けるべき者は、労働者の戸籍に関して、戸籍事務を掌る者又はその代理者に対して、無料で証明を求めることができる。
第四十六條 行政廳は、命令の定めるところによつて、労働者を使用する者に、必要な事項について報告をさせ、文書を掲示させその他この法律の施行に関して必要な事務を行わせ、又は出頭させることができる。
第四十七條 行政廳は、命令の定めるところによつて、この保險の適用を受ける事業についての労働者に、この保險の施行に関して必要な申出、届出若しくは文書の提出をさせ、又は出頭させることができる。
第四十八條 行政廳は、必要があると認めるときは、当該官吏又は吏員に、この法律の適用を受ける事業の行われる場所に臨檢し、関係者に対して質問し、又は帳簿書類の檢査をさせることができる。
第四十九條 行政廳は、保險給付に関して必要があると認めるときは、命令の定めるところによつて、当該官吏又は吏員に、診療録その他の帳簿書類を檢査させることができる。
第五十條 この法律の施行に関する細目は、命令で、これを定める。
第七章 罰則
第五十一條 当該官吏若しくは吏員又はその職にあつた者が、故なく第四十九條の規定による診療録の檢査に関して知得した医師又は歯科医師の業務上の祕密又は個人の祕密を漏したときは、これを六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
職務上前項の祕密を知得した他の公務員又は公務員であつた者が、故なくその祕密を漏したときもまた同項と同樣である。
第五十二條 保險加入者が、左の各号の一に該当するときは、これを六箇月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 この法律の規定による報告をせず、虚僞の報告をし、文書の提出をせず、又は出頭しなかつた場合
二 この法律の規定による当該官吏又は吏員に質問に対して答弁をせず、若しくは虚僞の陳述をし、又は檢査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合
第五十三條 保險加入者以外の者があつて保險給付を受けるべき者その他の関係者が、左の各号の一に該当するときは、これを六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
一 この法律の規定による報告、申出若しくは届出をせず、虚僞の報告、申出若しくは届出をし、文書の提出をせず、又は出頭しなかつた場合
二 この法律の規定による当該官吏又は吏員の質問に対し答弁をせず、若しくは虚僞の陳述をし、又は檢査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合
第五十四條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務に関して、前二條の違反行爲をしたときは、行爲者を罰するの外、その法人又は人に対し各本條の罰金刑を科する。
附 則
第五十五條 この法律施行の期日は、勅令で、これを定める。
第五十六條 この法律の施行後五年間は、保險料率は、第二十六條の規定にかかわらず、労働者災害補償保險委員会に諮つて、数等級に区別して賃金一円当りについて、主務大臣が、これを定める。
第五十七條 労働者災害扶助責任保險法は、これを廃止する。
この法律施行前に発生した事故に対する保險給付及びこの法律施行前の期間に属する保險料に関しては、なお旧法による。
この法律施行前の旧法の罰則を適用すべきであつた者についての処罰については、なお旧法による。
この法律施行の際、労働者災害扶助責任保險につき現に政府と保險契約を締結してゐる者が既に拂込んだこの法律施行後の期間に属する保險料は、この保險の保險料に、これを充当することができる。
前三項に定めるものの外、旧法廃止の際必要な事項は、命令で、これを定める。
別表
等級 災害補償
第 一級
労働基準法第十二條の平均賃金の一三四〇日分
第 二級
同 一一九〇日分
第 三級
同 一〇五〇日分
第 四級
同 九二〇日分
第 五級
同 七九〇日分
第 六級
同 六七〇日分
第 七級
同 五六〇日分
第 八級
同 四五〇日分
第 九級
同 三五〇日分
第一〇級
同 二七〇日分
第一一級
同 二〇〇日分
第一二級
同 一四〇日分
第一三級
同 九〇日分
第一四級
同 五〇日分
朕は、帝国議会の協賛を経た労働者災害補償保険法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十二年四月五日
内閣総理大臣 吉田茂
厚生大臣 河合良成
内務大臣 植原悦二郎
大蔵大臣 石橋湛山
法律第五十号
労働者災害補償保険法目次
第一章
総則
第二章
保険関係の成立及び消滅
第三章
保険給付及び保険施設
第四章
保険料
第五章
審査の請求、訴願及び訴訟
第六章
雑則
第七章
罰則
附則
労働者災害補償保険法
第一章 総則
第一条 労働者災害補償保険は、業務上の事由による労働者の負傷、疾病、廃疾又は死亡に対して迅速且つ公正な保護をするため、災害補償を行い、併せて、労働者の福祉に必要な施設をなすことを目的とする。
第二条 労働者災害補償保険は、政府が、これを管掌する。
第三条 この法律においては、左の各号の一に該当する事業を強制適用事業とする。
一 左に掲げる事業で常時五人以上の労働者を使用するもの
(イ) 物の製造、改造、加工、修理、浄洗、選別、包装、装飾、仕上、販売のためにする仕上、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)
(ロ) 鉱業、砂鉱業、石切業その他土石又は鉱物採取の事業
(ハ) 道路、鉄道、軌道、索道又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
二 左に掲げる事業で常時労働者を使用するもの又は一年以内の期間において使用労働者延人員三百人以上のもの
イ 土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業
ロ 船きよ、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱の事業
ハ 立木の伐採、造林、木炭又は薪を生産する事業その他の林業
三 その他命令で指定する事業
労働基準法第八条に規定する事業で前項に掲げるもの以外のもの及び同条に規定する事務所(以下事業という。)は、これを任意適用事業とする。
国の直営事業、官公署、同居の親族のみを使用する事業及び船員法の適用を受ける船員については、この法律は、これを適用しない。
第四条 労働者災害補償保険事業の運営に関する重要事項を審議するため、労働者災害補償保険委員会を置く。
労働者災害補償保険委員会の委員は、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者について、主務大臣が、各ゝ同数を委嘱する。
この法律に定めるものの外、労働者災害補償保険委員会に関し必要な事項は、命令で、これを定める。
第五条 この法律に基いて発する命令は、その草案について、労働者災害補償保険委員会の意見を聞いて、これを制定する。
第二章 保険関係の成立及び消滅
第六条 第三条第一項の強制適用事業の使用者については、その事業開始の日又はその事業が第三条第一項の事業に該当するに至つた日に、その事業につき保険関係が成立する。
第七条 第三条第二項の任意適用事業の使用者については、その者が保険加入の申込をし、政府の承諾があつた日に、その事業につき保険関係が成立する。
任意適用事業に使用される労働者の過半数が、その事業につき保険関係の成立を希望する場合は、その使用者は、保険加入の申込をしなければならない。
第八条 事業が数次の請負によつて行はれる場合には、元請負人のみを、この保険の適用事業の使用者とする。
第九条 第三条第一項の強制適用事業に該当する事業が、同条第二項の任意適用事業に該当するに至つたときは、その翌日に、その事業につき第七条の規定による承諾があつたものとみなす。
第十条 その事業につき保険関係が成立してゐる事業の廃止又は終了のあつたときは、その事業についての保険関係は、その翌日に、消滅する。
第十一条 第七条又は第九条の規定によつて保険関係が成立してゐる事業の使用者については、前条の規定によるの外、政府の承諾があつた日の翌日に、その事業についての保険関係が消滅する。但し、その承諾を受けるには、保険関係成立後一年を経過してゐること及びその事業に使用される労働者の過半数の同意を得たものであることを要する。
第三章 保険給付及び保険施設
第十二条 この法律で保険する災害補償の範囲は、左の各号による。
一 療養補償費(療養費中命令で定める金額を超える部分)
二 休業補償費(休業七日を超える休業一日につき平均賃金の百分の六十)
三 障害補償費(別表に定めるもの)
四 遺族補償費(平均賃金の千日分)
五 葬祭料(平均賃金の六十日分)
六 打切補償費(平均賃金の千二百日分)
前項の規定による災害補償の事由は、労働基準法第七十五条乃至第八十一条に定める災害補償の事由とする。
第一項第一号の規定による災害補償については、政府は命令の定める場合には、同号の療養補償費の支給にかえて、直接労働者に療養の給付をすることができる。
第一項の平均賃金とは、労働基準法第十二条の平均賃金をいう。
第十三条 前条第一項第一号の療養補償費又は同条第三項の療養の範囲は、左の各号(政府が必要と認めるものに限る。)による。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 病院又は診療所への収容
五 看護
六 移送
第十四条 第十二条第一項第二号の休業補償費の支給を受けるべき期間に、その補償を受けるべき者が、使用者から賃金の全部又は一部を受けたときは、命令の定めるところによつて、政府は、その賃金を受けた期間の休業補償費の全部又は一部を支給しない。
第十五条 第十二条第一項の規定による保険給付は、これを補償を受けるべき労働者、遺族又は労働者の死亡当時その収入によつて生計を維持した者に支給する。
第十六条 第十二条第一項の障害補償費、遺族補償費及び打切補償費は、命令の定めるところにより、命令の定める期間毎年これを支給する。但し、主務大臣は、必要と認めるときは、別段の定をなすことができる。
第十七条 事業につき保険関係の成立してゐる事業についての使用者(以下保険加入者という。)が、保険料の算定又は保険給付の基礎である重要な事項について、不実の告知をしたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を支給しないことができる。
第十八条 保険加入者が、故意又は重大な過失によつて保険料を滞納したときは、政府は、その滞納に係る事業について、その滞納期間中に生じを事故に対する保険給付の全部を支給しないことができる。
第十九条 故意又は重大な過失によつて、保険加入者が、補償の原因である事故を発生させたとき、又は労働者が、業務上負傷し、若しくは疾病に罹つたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を支給しないことができる。
第二十条 政府は、補償の原因である事故が、第三者の行為に因つて生じた場合に保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、補償を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
第二十一条 保険給付を受ける権利は、これを譲り渡し、又は差し押えることができない。
第二十二条 保険給付として支給を受けた金品を標準として、租税その他の公課を課してはならない。
第二十三条 政府は、この保険の適用を受ける事業に係る業務災害に関して、左の保険施設を行う。
一 外科後処置に関する施設
二 義肢の支給に関する施設
三 休養又は療養に関する施設
四 職業再教育に関する施設
五 その他必要と認める施設
第四章 保険料
第二十四条 政府は、労働者災害補償保険事業に要する費用に充てるため、保険加入者から保険料を徴収する。
第二十五条 保険料は、賃金総額にその事業についての保険料率を乗じて得た金額とする。
前項の賃金総額とは、その事業に使用するすべての労働者に支払つた賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの(三箇月を超える期間毎に支払われる賃金その他命令で定めるものは、これを除く。)の総額をいう。
第二十六条 保険料率は、この法律の適用を受けるすべての事業の過去五年間の災害率を基礎として、数等級に区別して、賃金一円当りについて主務大臣が、これを定める。
第二十七条 常時三百人以上の労働者を使用する個ゝの事業についての過去五年間の災害率が、同種の事業について前条の規定による災害率に比し著しく高率又は低率であるときは、政府は、その事業について、同条の規定による保険料率と異なる保険料率を定めることができる。
第二十八条 保険加入者は、毎年四月一日から翌年三月末日まで(以下保険年度という。)に使用するすべての労働者(保険年度の中途に保険加入者となつた者については、加入の日からその保険年度の末日までに使用するすべての労働者)に支払う賃金総額の見込額に、保険料率を乗じて算定した概算保険料を、四月一日(保険年度の中途に保険加入者となつた者については加入の日)から三十日以内に納付しなければならない。
事業の期間が予定される事業については、その保険加入者は、前項の規定にかかわらず、その全期間に使用するすべての労働者に支払う賃金総額の見込額に、保険料率を乗じて算定した概算保険料を、保険加入の日から十四日以内に納付しなければならない。
保険加入者は、申出によつて、前二項の概算保険料を命令の定めるところによつて、分割して納付することができる。
第二十九条 政府は、前条の賃金総額の見込額に変更を生じたときその他必要がある場合においては、概算保険料を追加徴収することができる。
第三十条 前二条の規定によつて払い込んだ概算保険料が、保険年度の末日又は保険関係の消滅する日に、第二十五条の規定により確定する保険料に比し過不足があるときは、政府は、保険料を返還し、又はこれを追加徴収する。
前項の規定によつて返還する保険料は、その事業についての次期の概算保険料に、これを充当することができる。この場合においては、政府は、その旨を当該保険加入者に通知しなければならない。
第三十一条 保険料その他この法律の規定による徴収金を滞納する者があるときは、政府は、期限を指定して、これを督促しなければならない。
前項の規定によつて督促するときは、政府は、納付義務者に対して督促状を発する。この場合においては、督促手数料として命令で定める金額を徴収する。
第一項の規定による督促を受けた者が、その指定の期限までに、保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しないときは、政府は、国税滞納処分の例によつて、これを処分する。
第三十二条 前条の規定によつて督促をしたときは、政府は、徴収金額百円につき一日四銭の割合で、納期限の翌日から徴収金完納又は財産差押の日の前日までの日数により計算した延滞金を徴収する。但し、督促状に指定した期限までに徴収金及び督促手数料を完納したときその他命令で定める場合は、この限りでない。
第三十三条 保険料その他この法律の規定による徴収金の先取特権の順位は、市町村その他これに準ずべきものの徴収金につぎ、他の公課に先だつものとする。
第三十四条 保険料その他この法律の規定による徴収金に関する書類の送達については、国税徴収法第四条の七及び第四条の八の規定を準用する。
第五章 審査の請求、訴願及び訴訟
第三十五条 保険給付に関する決定に異議のある者は、保険審査官の審査を請求し、その決定に不服のある者は、保険審査機関に審査を請求し、その決定に不服のある者は、裁判所に訴訟を提起することができる。
前項の審査の請求は、時効の中断に関しては、これを裁判上の請求とみなす。
第三十六条 保険審査官は、必要があると認める場合においては、職権で審査をすることができる。
保険審査官が、審査のため必要であると認める場合においては、保険給付の決定をした官吏若しくは吏員に対して意見を求め、保険加入者若しくは保険給付を受けるべき者に対して報告をさせ、若しくは出頭を命じ、又は医師に診断若しくは検案をさせることができる。
第三十七条 保険料その他この法律の規定による徴収金の賦課又は徴収の処分に関して訴願の提起があつたときは、主務大臣は、保険審査機関の審査を経て裁決をする。
第三十八条 保険審査機関は、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者につき、主務大臣が、各々同数を委嘱した者で、これを組織する。
第三十九条 保険審査官又は保険審査機関は、審査のため必要があると認めるときは、証人又は鑑定人の訊問その他の証拠調をすることができる。
証拠調については、民事訴訟法の証拠調に関する規定及び民事訴訟費用法第九条及び第十一条乃至第十三条の規定を準用する。但し、保険審査官又は保険審査機関の証拠調については、過料に処し、又は拘引を命ずることはできない。
第四十条 審査の請求、訴の提起又は訴願は、処分の通知又は決定書の交附を受けた日から六十日以内に、これをしなければならない。この場合において、審査の請求については訴願法第八条第三項の規定を、訴の提起については民事訴訟法第百五十八条第二項及び第百五十九条の規定を準用する。
第四十一条 この章に定めるものの外、保険審査官及び保険審査機関に関し必要な事項は、命令で、これを定める。
第六章 雑則
第四十二条 保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、二年を経過したときは、時効によつて消滅する。
前項の時効の中断、停止その他の事項に関しては、民法の時効に関する規定を準用する。
命令の定めるところによつて政府のなす保険料その他この法律の規定による徴収金の徴収の告知は、民法第百五十三条の規定にかかわらず時効中断の効力を生ずる。
第四十三条 この法律又はこの法律に基いて発する命令に規定する期間の計算については、民法の期間の計算に関する規定を準用する。
第四十四条 労働者災害補償保険に関する書類には、印紙税を課さない。
第四十五条 行政庁又は保険給付を受けるべき者は、労働者の戸籍に関して、戸籍事務を掌る者又はその代理者に対して、無料で証明を求めることができる。
第四十六条 行政庁は、命令の定めるところによつて、労働者を使用する者に、必要な事項について報告をさせ、文書を掲示させその他この法律の施行に関して必要な事務を行わせ、又は出頭させることができる。
第四十七条 行政庁は、命令の定めるところによつて、この保険の適用を受ける事業についての労働者に、この保険の施行に関して必要な申出、届出若しくは文書の提出をさせ、又は出頭させることができる。
第四十八条 行政庁は、必要があると認めるときは、当該官吏又は吏員に、この法律の適用を受ける事業の行われる場所に臨検し、関係者に対して質問し、又は帳簿書類の検査をさせることができる。
第四十九条 行政庁は、保険給付に関して必要があると認めるときは、命令の定めるところによつて、当該官吏又は吏員に、診療録その他の帳簿書類を検査させることができる。
第五十条 この法律の施行に関する細目は、命令で、これを定める。
第七章 罰則
第五十一条 当該官吏若しくは吏員又はその職にあつた者が、故なく第四十九条の規定による診療録の検査に関して知得した医師又は歯科医師の業務上の秘密又は個人の秘密を漏したときは、これを六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
職務上前項の秘密を知得した他の公務員又は公務員であつた者が、故なくその秘密を漏したときもまた同項と同様である。
第五十二条 保険加入者が、左の各号の一に該当するときは、これを六箇月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 この法律の規定による報告をせず、虚偽の報告をし、文書の提出をせず、又は出頭しなかつた場合
二 この法律の規定による当該官吏又は吏員に質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合
第五十三条 保険加入者以外の者があつて保険給付を受けるべき者その他の関係者が、左の各号の一に該当するときは、これを六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
一 この法律の規定による報告、申出若しくは届出をせず、虚偽の報告、申出若しくは届出をし、文書の提出をせず、又は出頭しなかつた場合
二 この法律の規定による当該官吏又は吏員の質問に対し答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合
第五十四条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するの外、その法人又は人に対し各本条の罰金刑を科する。
附 則
第五十五条 この法律施行の期日は、勅令で、これを定める。
第五十六条 この法律の施行後五年間は、保険料率は、第二十六条の規定にかかわらず、労働者災害補償保険委員会に諮つて、数等級に区別して賃金一円当りについて、主務大臣が、これを定める。
第五十七条 労働者災害扶助責任保険法は、これを廃止する。
この法律施行前に発生した事故に対する保険給付及びこの法律施行前の期間に属する保険料に関しては、なお旧法による。
この法律施行前の旧法の罰則を適用すべきであつた者についての処罰については、なお旧法による。
この法律施行の際、労働者災害扶助責任保険につき現に政府と保険契約を締結してゐる者が既に払込んだこの法律施行後の期間に属する保険料は、この保険の保険料に、これを充当することができる。
前三項に定めるものの外、旧法廃止の際必要な事項は、命令で、これを定める。
別表
等級 災害補償
第 一級
労働基準法第十二条の平均賃金の一三四〇日分
第 二級
同 一一九〇日分
第 三級
同 一〇五〇日分
第 四級
同 九二〇日分
第 五級
同 七九〇日分
第 六級
同 六七〇日分
第 七級
同 五六〇日分
第 八級
同 四五〇日分
第 九級
同 三五〇日分
第一〇級
同 二七〇日分
第一一級
同 二〇〇日分
第一二級
同 一四〇日分
第一三級
同 九〇日分
第一四級
同 五〇日分