朕勞働者災害扶助責任保險法施行令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和六年十一月二十七日
內閣總理大臣 男爵 若槻禮次郞
大藏大臣 井上準之助
內務大臣 安達謙藏
勅令第二百七十七號
勞働者災害扶助責任保險法施行令
第一條 勞働者災害扶助責任保險ニ付スル事業ハ勞働者災害扶助法第一條第一項第二號(ハ)ノ工事トス
前項ノ工事ノ事業主(勞働者災害扶助法第三條第二項ノ場合ニ於テハ元請負人タル事業主)ハ工事ノ開始前十四日迄ニ保險契約ノ申込ヲ爲スベシ但シ已ムコトヲ得ザル場合ニ於テハ其ノ後ニ於テ保險契約ノ申込ヲ爲スコトヲ妨ゲズ
第二條 保險スベキ扶助責任ノ範圍左ノ如シ
一 療養費中十圓ヲ超ユル部分
二 休業扶助料中八日以後ノ休業ニ付支給スル部分
三 障害扶助料
四 遺族扶助料
五 打切扶助料
第三條 前條第一號ノ療養費ノ範圍ハ左ニ揭グル療養ノ費用トス
一 診察(扶助請求ニ必要ナル診斷書意見書等ノ作成ヲ含ム)
二 藥劑又ハ治療材料ノ支給
三 處置及手術(齒科補綴ヲ含ム)
四 物理的治療
五 病院收容
六 看護
七 移送
前項ノ療養ノ費用ハ政府ノ定ムル所ニ依リ之ヲ算定ス
第一項第一號乃至第五號ノ療養ハ政府ノ承認ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外政府ノ指定スル醫師、齒科醫師又ハ病院ニ就キ受クルモノニ限ル
第一項第四號乃至第七號ノ療養ハ政府ノ承認ヲ受ケタルモノニ限ル
第四條 第二條第五號ノ打切扶助料ハ政府ノ承認ヲ受ケ又ハ其ノ指示ニ依リ支給スルモノニ限ル
保險金受取人前項ノ指示ニ從ハザルトキハ政府ハ當該負傷又ハ疾病ニ付以後ノ療養費及休業扶助料ニ對スル保險金ノ支拂ヲ爲サズ
第五條 保險期間ハ工事ノ開始ヨリ終了迄トス但シ工事開始後保險料(第七條第一項但書ノ場合ニ於テハ第一囘保險料)ノ拂込ヲ爲シタルモノニ付テハ拂込ノ翌日ヨリ工事終了迄トス
第六條 保險料ハ左ノ金額トス
一 請負金額ノ定アル工事(工作物ノ破壞工事ヲ除ク)ニ付テハ請負金額ニ保險料率ヲ乘ジタル額
二 前號以外ノ工事ニ付テハ勞働者ノ賃金總額ニ保險料率ヲ乘ジタル額
政府ハ請負金額ノ定アル工事ニ付テモ其ノ材料ガ注文者ヨリ支給セラルルコト其ノ他ノ事由ニ因リ前項第一號ノ規定ニ依ルヲ適當ナラズト認ムルトキハ同項第二號ノ規定ニ依リ保險料ヲ定ムルコトヲ得
政府ハ工事開始後保險料(第七條第一項但書ノ場合ニ於テハ第一囘保險料)ノ拂込ヲ爲シタルモノニ付工事開始後ノ拂込ガ已ムコトヲ得ザル事由ニ因ルモノト認メタルトキハ工事開始ノ日ヨリ保險料拂込ノ日迄ニ於ケル工事進捗ノ狀況又ハ使用勞働者延人員數ニ應ジテ保險料ヲ減額スルコトヲ得
第七條 保險契約ノ申込ヲ爲シタル者ハ已ムコトヲ得ザル場合ヲ除クノ外工事開始前ニ保險料ヲ政府ニ拂込ムベシ但シ工事期間一年ヲ超ユルモノニ付テハ最初ノ一年分ノ保險料ヲ工事開始前ニ拂込ミ爾後各年(一年ニ滿チザルトキハ其ノ期間)分ノ保險料ヲ其ノ期間開始前ニ拂込ムコトヲ得
前項ノ保險料ハ前條第一項第一號ノ規定ニ依ルモノニ付テハ保險契約申込ノ時ニ於テ定メラレタル請負金額ニ、同項第二號ノ規定ニ依ルモノニ付テハ賃金總額ノ見込額ニ保險料率ヲ乘ジタル金額トス
第一項但書ノ一年分ノ保險料ハ保險料總額ヲ豫定工事期間ノ日數ヲ以テ除シタルモノニ三百六十五(閏年ノ二月末日ヲ含ム場合ニハ三百六十六)ヲ乘ジタル金額トス但シ政府ハ工事施行計畫ノ狀況ニ應ジ異ル方法ニ依リ一年分ノ保險料ヲ定ムルコトヲ得
政府ハ第二項ノ請負金額又ハ賃金總額ノ見込額ニ變更ヲ生ジタルトキ其ノ他必要アル場合ニ於テハ保險料ノ追加拂込ヲ命ズルコトヲ得
第八條 第六條第一項第二號及前條第二項第四項ノ賃金總額ハ勞働者災害扶助法施行令第十五條及第十六條ノ規定ニ依リ定ムル標準賃金額ニ使用勞働者延人員(工場法又ハ鑛業法ノ適用ヲ受クル職工及鑛夫ヲ除ク)ノ數ヲ乘ジタル金額トス
前項ノ規定ノ適用ニ付テハ十六歲未滿ノ者ハ十六歲以上ノ者ト看做ス
第九條 保險料率ハ內務大臣之ヲ定ム
第十條 第七條ノ規定ニ依リテ拂込ミタル保險料ガ工事終了後第六條ノ規定ニ依リテ算定シタル保險料ニ比シ過不足アルトキハ政府ハ保險料ノ追加拂込ヲ命ジ又ハ之ヲ返還ス
第十一條 左ノ各號ノ條件ヲ具備スル場合ニ於テハ政府ハ第一號ノ剩餘額ノ範圍內ニ於テ且第三號ノ超過額ヲ限度トシテ第一號ノ工事ノ保險契約者ニ保險料ノ一部ヲ返還スルコトヲ得但シ勞働者災害扶助責任保險法第五條乃至第七條ノ規定ニ該當スル保險契約者ニ對シテハ此ノ限ニ在ラズ
一 每會計年度末現在ニ於テ前前年度中ニ作業ノ終了シタル工事ニ付其ノ保險料總額ノ八割ヨリ支拂保險金總額ヲ差引キ剩餘ヲ生ズルコト
二 當該會計年度決算ニ於テ損失ヲ生ゼザルコト
三 當該會計年度決算ニ於ケル積立金ガ本保險創始以來ノ收入保險料總額ノ一割ヨ超ユルコト
前項ノ規定ニ依ル返還ハ各個ノ工事ニ付保險料ノ八割ヨリ支拂保險金額ヲ控除シタル殘額ニ比例シテ之ヲ爲ス
第一項ノ會計年度九月末現在ニ於テ尙繼續シテ療養ヲ受クル者アルトキハ前二項ノ規定ノ適用ニ付テハ同年度九月末ニ於テ打切扶助料ヲ支給シタルモノト看做シ支拂保險金額ヲ計算ス
第十二條 保險金受取人ノ行方不明、資力薄弱其ノ他ノ事由ニ因リ扶助ヲ受クルコト困難ナリト認ムル場合ニ於テハ政府ハ扶助ヲ受クベキ者ニ保險金ヲ支拂フコトヲ得
第十三條 勞働者災害扶助責任保險法第五條ノ場合ニ於テハ政府ハ保險金ノ支拂ヲ爲サズ但シ保險契約者吿知セザリシ事實ヲ吿知シ又ハ不實ノ吿知ヲ訂正シタル場合ニ於テ其ノ後ニ生ジタル事故ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第十四條 保險契約者第七條第一項但書ノ規定ニ依ル第二囘以後ノ保險料ノ拂込又ハ同條第四項ノ規定ニ依ル保險料ノ追加拂込ヲ遲滯シタルトキハ政府ハ遲滯期間中ニ生ジタル事故ニ對スル保險金ノ支拂ヲ爲サズ但シ已ムコトヲ得ザル事由ニ因ル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第十五條 保險契約者又ハ保險金受取人故意又ハ重大ナル過失ニ因リテ扶助責任ノ原因タル事故ヲ生ゼシメタルトキハ政府ハ保險金ノ支拂ヲ爲サズ
第十六條 政府ハ事業主ガ扶助ヲ爲ス資力ナシト認ムル場合ニ於テハ前三條ノ規定ニ拘ラズ保險金ヲ支拂フコトヲ得
第十七條 勞働者災害扶助責任保險ハ社會局長官ニ於テ之ヲ掌ル但シ第三條第三項第四項又ハ第四條第一項ノ承認又ハ指示ハ工事ノ主タル事務所ヲ管轄スル地方長官(東京府ニ在リテハ警視總監)之ヲ爲ス
附 則
本令ハ昭和七年一月一日ヨリ之ヲ施行ス
朕労働者災害扶助責任保険法施行令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和六年十一月二十七日
内閣総理大臣 男爵 若槻礼次郎
大蔵大臣 井上準之助
内務大臣 安達謙蔵
勅令第二百七十七号
労働者災害扶助責任保険法施行令
第一条 労働者災害扶助責任保険ニ付スル事業ハ労働者災害扶助法第一条第一項第二号(ハ)ノ工事トス
前項ノ工事ノ事業主(労働者災害扶助法第三条第二項ノ場合ニ於テハ元請負人タル事業主)ハ工事ノ開始前十四日迄ニ保険契約ノ申込ヲ為スベシ但シ已ムコトヲ得ザル場合ニ於テハ其ノ後ニ於テ保険契約ノ申込ヲ為スコトヲ妨ゲズ
第二条 保険スベキ扶助責任ノ範囲左ノ如シ
一 療養費中十円ヲ超ユル部分
二 休業扶助料中八日以後ノ休業ニ付支給スル部分
三 障害扶助料
四 遺族扶助料
五 打切扶助料
第三条 前条第一号ノ療養費ノ範囲ハ左ニ掲グル療養ノ費用トス
一 診察(扶助請求ニ必要ナル診断書意見書等ノ作成ヲ含ム)
二 薬剤又ハ治療材料ノ支給
三 処置及手術(歯科補綴ヲ含ム)
四 物理的治療
五 病院収容
六 看護
七 移送
前項ノ療養ノ費用ハ政府ノ定ムル所ニ依リ之ヲ算定ス
第一項第一号乃至第五号ノ療養ハ政府ノ承認ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外政府ノ指定スル医師、歯科医師又ハ病院ニ就キ受クルモノニ限ル
第一項第四号乃至第七号ノ療養ハ政府ノ承認ヲ受ケタルモノニ限ル
第四条 第二条第五号ノ打切扶助料ハ政府ノ承認ヲ受ケ又ハ其ノ指示ニ依リ支給スルモノニ限ル
保険金受取人前項ノ指示ニ従ハザルトキハ政府ハ当該負傷又ハ疾病ニ付以後ノ療養費及休業扶助料ニ対スル保険金ノ支払ヲ為サズ
第五条 保険期間ハ工事ノ開始ヨリ終了迄トス但シ工事開始後保険料(第七条第一項但書ノ場合ニ於テハ第一回保険料)ノ払込ヲ為シタルモノニ付テハ払込ノ翌日ヨリ工事終了迄トス
第六条 保険料ハ左ノ金額トス
一 請負金額ノ定アル工事(工作物ノ破壊工事ヲ除ク)ニ付テハ請負金額ニ保険料率ヲ乗ジタル額
二 前号以外ノ工事ニ付テハ労働者ノ賃金総額ニ保険料率ヲ乗ジタル額
政府ハ請負金額ノ定アル工事ニ付テモ其ノ材料ガ注文者ヨリ支給セラルルコト其ノ他ノ事由ニ因リ前項第一号ノ規定ニ依ルヲ適当ナラズト認ムルトキハ同項第二号ノ規定ニ依リ保険料ヲ定ムルコトヲ得
政府ハ工事開始後保険料(第七条第一項但書ノ場合ニ於テハ第一回保険料)ノ払込ヲ為シタルモノニ付工事開始後ノ払込ガ已ムコトヲ得ザル事由ニ因ルモノト認メタルトキハ工事開始ノ日ヨリ保険料払込ノ日迄ニ於ケル工事進捗ノ状況又ハ使用労働者延人員数ニ応ジテ保険料ヲ減額スルコトヲ得
第七条 保険契約ノ申込ヲ為シタル者ハ已ムコトヲ得ザル場合ヲ除クノ外工事開始前ニ保険料ヲ政府ニ払込ムベシ但シ工事期間一年ヲ超ユルモノニ付テハ最初ノ一年分ノ保険料ヲ工事開始前ニ払込ミ爾後各年(一年ニ満チザルトキハ其ノ期間)分ノ保険料ヲ其ノ期間開始前ニ払込ムコトヲ得
前項ノ保険料ハ前条第一項第一号ノ規定ニ依ルモノニ付テハ保険契約申込ノ時ニ於テ定メラレタル請負金額ニ、同項第二号ノ規定ニ依ルモノニ付テハ賃金総額ノ見込額ニ保険料率ヲ乗ジタル金額トス
第一項但書ノ一年分ノ保険料ハ保険料総額ヲ予定工事期間ノ日数ヲ以テ除シタルモノニ三百六十五(閏年ノ二月末日ヲ含ム場合ニハ三百六十六)ヲ乗ジタル金額トス但シ政府ハ工事施行計画ノ状況ニ応ジ異ル方法ニ依リ一年分ノ保険料ヲ定ムルコトヲ得
政府ハ第二項ノ請負金額又ハ賃金総額ノ見込額ニ変更ヲ生ジタルトキ其ノ他必要アル場合ニ於テハ保険料ノ追加払込ヲ命ズルコトヲ得
第八条 第六条第一項第二号及前条第二項第四項ノ賃金総額ハ労働者災害扶助法施行令第十五条及第十六条ノ規定ニ依リ定ムル標準賃金額ニ使用労働者延人員(工場法又ハ鉱業法ノ適用ヲ受クル職工及鉱夫ヲ除ク)ノ数ヲ乗ジタル金額トス
前項ノ規定ノ適用ニ付テハ十六歳未満ノ者ハ十六歳以上ノ者ト看做ス
第九条 保険料率ハ内務大臣之ヲ定ム
第十条 第七条ノ規定ニ依リテ払込ミタル保険料ガ工事終了後第六条ノ規定ニ依リテ算定シタル保険料ニ比シ過不足アルトキハ政府ハ保険料ノ追加払込ヲ命ジ又ハ之ヲ返還ス
第十一条 左ノ各号ノ条件ヲ具備スル場合ニ於テハ政府ハ第一号ノ剰余額ノ範囲内ニ於テ且第三号ノ超過額ヲ限度トシテ第一号ノ工事ノ保険契約者ニ保険料ノ一部ヲ返還スルコトヲ得但シ労働者災害扶助責任保険法第五条乃至第七条ノ規定ニ該当スル保険契約者ニ対シテハ此ノ限ニ在ラズ
一 毎会計年度末現在ニ於テ前前年度中ニ作業ノ終了シタル工事ニ付其ノ保険料総額ノ八割ヨリ支払保険金総額ヲ差引キ剰余ヲ生ズルコト
二 当該会計年度決算ニ於テ損失ヲ生ゼザルコト
三 当該会計年度決算ニ於ケル積立金ガ本保険創始以来ノ収入保険料総額ノ一割ヨ超ユルコト
前項ノ規定ニ依ル返還ハ各個ノ工事ニ付保険料ノ八割ヨリ支払保険金額ヲ控除シタル残額ニ比例シテ之ヲ為ス
第一項ノ会計年度九月末現在ニ於テ尚継続シテ療養ヲ受クル者アルトキハ前二項ノ規定ノ適用ニ付テハ同年度九月末ニ於テ打切扶助料ヲ支給シタルモノト看做シ支払保険金額ヲ計算ス
第十二条 保険金受取人ノ行方不明、資力薄弱其ノ他ノ事由ニ因リ扶助ヲ受クルコト困難ナリト認ムル場合ニ於テハ政府ハ扶助ヲ受クベキ者ニ保険金ヲ支払フコトヲ得
第十三条 労働者災害扶助責任保険法第五条ノ場合ニ於テハ政府ハ保険金ノ支払ヲ為サズ但シ保険契約者告知セザリシ事実ヲ告知シ又ハ不実ノ告知ヲ訂正シタル場合ニ於テ其ノ後ニ生ジタル事故ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第十四条 保険契約者第七条第一項但書ノ規定ニ依ル第二回以後ノ保険料ノ払込又ハ同条第四項ノ規定ニ依ル保険料ノ追加払込ヲ遅滞シタルトキハ政府ハ遅滞期間中ニ生ジタル事故ニ対スル保険金ノ支払ヲ為サズ但シ已ムコトヲ得ザル事由ニ因ル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第十五条 保険契約者又ハ保険金受取人故意又ハ重大ナル過失ニ因リテ扶助責任ノ原因タル事故ヲ生ゼシメタルトキハ政府ハ保険金ノ支払ヲ為サズ
第十六条 政府ハ事業主ガ扶助ヲ為ス資力ナシト認ムル場合ニ於テハ前三条ノ規定ニ拘ラズ保険金ヲ支払フコトヲ得
第十七条 労働者災害扶助責任保険ハ社会局長官ニ於テ之ヲ掌ル但シ第三条第三項第四項又ハ第四条第一項ノ承認又ハ指示ハ工事ノ主タル事務所ヲ管轄スル地方長官(東京府ニ在リテハ警視総監)之ヲ為ス
附 則
本令ハ昭和七年一月一日ヨリ之ヲ施行ス