(買収の対象)
第四十四條 国は、自作農を創設し、又は自作農の経営を安定させるため必要があるときは、第四十六條から第五十四條までの規定に従い、左に掲げるものを買収することができる。
一 開発して農地とすることが適当な土地及びその土地について耕作の事業を行うべき自作農が採草放牧地、薪炭林、防風林、道路、水路、ため池、宅地等として利用する必要がある土地
二 国が所有する前号に該当する土地に関する担保権以外の権利
三 第一号に該当する土地附近の農地でこれらの土地とあわせて開発する必要があるもの
四 第一号又は前号に該当する土地の上にある立木又は建物その他の工作物でこれらの土地の開発後の利用上必要なもの
五 第一号又は第三号に該当する土地の開発後の利用上必要な水の使用に関する権利
2 前項第一号の規定により買収する土地は、傾斜、土性その他の條件が政令で定める基準に適合し、且つ、これを農業のために利用することが国土資源の利用に関する総合的な見地から適当であると認められるものでなければならない。
(国に対する買収の申出)
第四十五條 市町村農業委員会又は農業協同組合は、都道府県知事に対し、前條第一項各号に掲げる土地、立木、工作物又は権利(以下「土地等」という。)を国が買収すべき旨を申し出ることができる。
(買収すべき土地等の調査)
第四十六條 都道府県知事は、第四十四條第一項第一号に該当する土地で自作農の創設又はその経営の安定の目的に供することを相当とするものがあると認めるときは、省令で定めるところにより、その土地の傾斜、土性等の自然的條件及びその土地に係る同項第三号から第五号まで(国が所有する土地については同項第二号から第五号まで)に掲げる土地等を調査しなければならない。
(都道府県開拓審議会への諮問)
第四十七條 都道府県知事は、前條の規定による調査をしたときは、その調査に係る土地等を国が買収することの適否について、都道府県開拓審議会の意見を聞かなければならない。
(買収すべき土地等の選定及び意見書の提出等)
第四十八條 都道府県知事は、前條の規定による諮問に対し、国が買収することが適当である旨の答申があつたときは、左に掲げる事項を定め、これを公示するとともに、市町村農業委員会に通知しなければならない。
一 土地についてはその区域、土地以外のものについてはその種類及び所在
2 市町村農業委員会は、前項の規定による通知を受けたときは、遅滞なく、その旨を公示するとともに、その公示の日の翌日から起算して十日間、その事務所で、その通知の内容を記載した書類を縦覧に供しなければならない。
3 市町村農業委員会は、前項の規定による公示をしたときは、遅滞なく、その土地等の所有者にその旨を通知しなければならない。この場合において、通知ができないときは、その旨を公示して通知に代えることができる。
4 第一項の土地等の所有者、市町村農業委員会その他その土地等の買収について意見がある者は、第二項の規定による公示の日の翌日から起算して三十日以内に都道府県知事に意見書を提出することができる。
5 都道府県知事は、前項の規定による意見書の提出があつたときは、その意見書の内容を都道府県開拓審議会に通知し、その土地等を国が買収することの適否について、同項の期間満了後、更に都道府県開拓審議会の意見を聞かなければならない。
6 都道府県知事は、前項の規定による諮問に対し、その土地等の全部又は一部について、これを国が買収することが不適当である旨の答申があつたときは、その答申に従い、第一項の規定による公示を取り消し、又はこれを変更しなければならない。
(土地の形質の変更等の制限)
第四十九條 前條第一項の規定による公示があつたときは、その公示に係る土地の形質を変更し、又はその公示に係る立木若しくは工作物を収去し、若しくは損壊してはならない。但し、その公示の日から起算して三箇月を経過した場合及び省令で定める場合は、この限りでない。
(買収令書の交付及び縦覧)
第五十條 都道府県知事は、第四十八條第四項の期間が満了したとき(その期間内に同項の規定による意見書の提出があつた場合には、同條第五項の規定による諮問に対し都道府県開拓審議会から国が買収することが適当である旨の答申があつたとき)は、その土地等につき左に掲げる事項を記載した買収令書を作成し、これをその土地等の所有者に、その謄本を市町村農業委員会に交付しなければならない。
二 土地についてはその所在、地番、地目及び面積、立木についてはその樹種、数量及び所在の場所、工作物についてはその種類及び所在の場所、権利についてはその種類及び内容
五 対価の支払の方法(次條第二項の規定により対価を供託する場合には、その旨)
2 都道府県知事は、前項の規定により買収令書を作成する場合において、買収すべき土地等の上に先取特権、質権又は抵当権があるときは、その権利を有する者に対し、省令で定めるところにより、対価の供託の要否を二十日以内に都道府県知事に申し出るべき旨を通知しなければならない。この場合には、買収令書及びその謄本の交付は、その期間経過後にしなければならない。
3 都道府県知事は、第一項の規定による買収令書の交付をすることができないときは、その内容を公示して交付に代えることができる。
4 市町村農業委員会は、買収令書の謄本の交付を受けたときは、遅滞なく、その旨を公示するとともに、その公示の日の翌日から起算して二十日間、その事務所でこれを縦覧に供しなければならない。
(対価)
第五十一條 前條第一項第四号の対価は、政令で定めるところにより算出した額とする。
2 買収すべき土地等の上に先取特権、質権又は抵当権がある場合には、その権利を有する者から前條第二項の期間内に、その対価を供託しないでもよい旨の申出があつたときを除いて、国は、その対価を供託しなければならない。
3 国は、前項に規定する場合の外、左に掲げる場合にも対価を供託することができる。
一 対価の支払を受けるべき者が受領を拒み、又は受領することができない場合
二 対価の支払を受けるべき者を確知することができない場合
三 差押又は仮差押により対価の支払の禁止を受けた場合
(効果)
第五十二條 国が買収令書に記載された買収の期日までに対価の支払又は供託をしたときは、その期日に、その買収の目的となつた第四十四條第一項第一号若しくは第三号の土地の所有権、同項第四号の立木若しくは工作物の所有権又は同項第五号の権利は、国が取得し、同項第二号の権利は、消滅する。
2 前項の規定により国が第四十四條第一項第一号若しくは第三号の土地又は同項第四号の立木若しくは工作物の所有権を取得したときは、その土地、立木又は工作物に関する所有権以外の権利は、その時に消滅する。
3 前項の規定により消滅する先取特権、質権又は抵当権を有する者は、前條第二項若しくは第三項の規定により供託された対価に対してその権利を行うことができる。
4 国が買収令書に記載された買収の期日までに対価の支払又は供託をしないときは、その買収令書は、効力を失う。
5 第十三條第四項の規定は、第一項及び前項の場合に準用する。
(補償金の交付)
第五十三條 国は、前條第二項の規定により消滅した権利(先取特権、質権及び抵当権を除く。)でその土地等に係る第四十八條第一項の公示の時に存したものをその権利の消滅の時に有していた者に対し、政令で定めるところにより算出した額の補償金を交付する。
2 前項の規定による補償金の交付の手続は、省令で定める。
(電線路施設用地の特例)
第五十四條 第五十二條第一項の規定により国が取得した土地につきその取得の時に公益事業令(昭和二十五年政令第三百四十三号)による電気事業者又は同令附則第三項の規定によりなお効力を有する旧電気事業法(昭和六年法律第六十一号)第三十條第二項の事業を営む者(以下「電気事業者」と総称する。)のために電線路の施設(電線の支持物を除く。以下この條で同様とする。)を目的とする地役権又は電線の支持物の設置を目的とする地上権、賃借権若しくは使用貸借による権利があるときは、第五十二條第二項の規定にかかわらず。これらの権利は、消滅しない。
2 第五十二條第一項の規定により国が取得した土地が、その取得の時に電気事業者が所有権、地上権、賃借権又は使用貸借による権利に基き電線路の施設の用に供していたものである場合には、その取得の時に、その電気事業者のためにその電線路の施設を目的として、その土地を承役地とし、その電線路に近接する発電所、変電所、開閉所又は電線の支持物の用地でその電気事業者が所有するものを要役地とする地役権が設定されたものとみなす。この場合において、従前の権利に存続期間の定があるときは、地役権の存続期間は、従来の権利の残存期間とする。
3 前項の地役権は、承役地の所有者が工作物の設備その他電線路の施設の妨げとなる行為をしないことを内容とする。
4 第二項の規定による地役権の設定は、その登記がなくても、その承役地が電線路の施設の用に供されている限り、その承役地の所有権を取得した者にこれをもつて対抗することができる。
5 第二項の規定により地役権が設定された場合において、その設定の時にその要役地が抵当権の目的である工場財団、鉄道財団又は軌道財団に属しているときは、その地役権は、その抵当権の目的となるものとする。
(不用物件の収去)
第五十五條 国は、第四十四條の規定により買収した土地又は工作物の上にある物件の所有者又は占有者にその物件を収去すべき旨を命ずることができる。
2 前項の規定による命令は、都道府県知事が省令で定める収去令書をその物件の所有者又は占有者に交付してしなければならない。
3 第一項の物件で第四十八條第一項の規定による公示の時にその土地又は工作物の上にあつたものの所有者は、前項の規定による収去令書の交付があつた場合において、収去後その物件を従来用いた目的に供することが著しく困難となるときは、省令で定める手続に従い、国に対し、その買収を請求することができる。
4 第五十條から第五十三條までの規定は、前項の規定による請求があつた場合に準用する。この場合において、第五十條第一項中「第四十八條第四項の期間が満了したとき(その期間内に同項の規定による意見書の提出があつた場合には、同條第五項の規定による諮問に対し都道府県開拓審議会から国が買収することが適当である旨の答申があつたとき)は、」とあるのは、「第五十五條第三項の規定による請求があつたときは、」と読み替えるものとする。
5 国は、第一項の物件で第四十八條第一項の規定による公示の時にその土地又は工作物の上にあつたものの所有者又は占有者が同項の規定による命令に基く収去によつて損失を受けた場合には、省令で定める手続に従い、その者に対し、通常生ずべき損失を補償する。
(漁業権の消滅等)
第五十六條 国は、自作農を創設し、又は自作農の経営を安定させるため必要があり、且つ、国土資源の利用に関する総合的な見地から適当と認められるときは、漁業権若しくは入漁権を消滅させ、又は公有水面の埋立をする権利を買収することができる。
2 前項の規定により権利を消滅させ、又は買収するには、都道府県知事は、その適否について都道府県開拓審議会の意見を聞かなければならない。
3 第五十條及び第五十一條の規定は、前項の規定による諮問に対し権利を消滅させ、又は買収することが適当である旨の答申があつた場合に準用する。
この場合において、漁業権又は入漁権については、これらの規定中「買収」とあるのは「権利消滅」と、「買収令書」とあるのは「権利消滅通知書」と、「対価」とあるのは「補償金」(第五十條第一項第四号及び第五十一條第一項にあつては「補償金額」)と読み替えるものとする。
4 国が権利消滅通知書に記載された漁業権又は入漁権の消滅の期日までに補償金の支払又は供託をしたときは、その期日に、その漁業権(その上にある先取特権及び抵当権を含む。)又は入漁権は、消滅する。
5 前項の規定により消滅する先取特権又は抵当権を有する者は、第三項で準用する第五十一條第二項又は第三項の規定により供託された補償金に対してその権利を行うことができる。
6 国が買収令書に記載された公有水面の埋立をする権利の買収の期日までに対価の支払又は供託をしたときは、その期日に、その権利は、国が取得する。
7 国が権利消滅通知書又は買収令書に記載された権利消滅の期日又は買収の期日までに補償金又は対価の支払又は供託をしないときは、その権利消滅通知書又は買収令書は、効力を失う。
8 第十三條第四項の規定は、第四項及び前二項の場合に準用する。
(使用)
第五十七條 国は、自作農の創設又はその経営の安定を目的とする農地の造成のための建設工事をする場合において、事務所、作業所、飯場、軌道等の用地として使用することが必要な土地又は井戸、えん堤等の施設で他の土地又は施設をもつて代えることが著しく困難なものがその附近にあるときは、これを使用することができる。
2 前項の規定により土地又は施設を使用するには、都道府県知事は、その適否について都道府県開拓審議会の意見を聞かなければならない。
3 第五十條第一項、第三項及び第四項並びに第五十一條第三項の規定は、前項の規定による諮問に対し土地又は施設を使用することが適当である旨の答申があつた場合に準用する。この場合において、第五十條中「買収令書」とあるのは「使用令書」と、同條第一項中「買収の期日」とあるのは「使用権の内容、使用開始の期日及び使用期間」と読み替えるものとする。
4 使用の対価は、近傍類似の土地又は施設の地代、借賃等を考慮した相当な額とする。
5 都道府県知事が第三項で準用する第五十條の規定により使用令書を交付したときは、その使用開始の期日に、その土地又は施設の使用権を国が取得し、その土地又は施設に関する所有権その他の権利は、その使用権の行使の妨げとなる範囲で使用の期間その行使を停止される。
6 国は、前項の土地又は施設に関する所有権以外の権利を有する者が同項の規定による権利の行使の停止によつて損失を受ける場合には、省令で定めるところにより、その者に対し、通常生ずべき損失を補償する。
(被使用者の買収請求)
第五十八條 前條の規定による土地若しくは施設の使用が三年以上にわたるとき又はその使用によつてその土地若しくは施設を従来用いた目的に供することが著しく困難となるときは、その土地又は施設の所有者は、省令で定める手続に従い、国に対し、その買収を請求することができる。
2 第五十條から第五十五條までの規定は、前項の請求があつた場合に準用する。
(代地の買収)
第五十九條 国は、第四十四條第一項の規定により同項第一号に掲げる土地を買収する場合において、特に必要があるときは、その買収の当時のその土地の所有者に対し、その土地に代るべき土地として売り渡すために必要な近傍の土地(その土地の上にある立木を含む。)を買収することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定により買収することを相当とする土地があると認めるときは、省令で定めるところにより、その土地を調査しなければならない。
3 第四十七條から第四十九條までの規定は、前項の規定による調査をした場合に準用する。
4 都道府県知事は、前項で準用する第四十八條第四項の期間が満了したとき(その期間内に同項の規定による意見書の提出があつた場合には、同條第五項の規定による諮問に対し都道府県開拓審議会から国が買収することが適当である旨の答申があつたとき)は、その土地を買収することについて、農林大臣に対し、その承認を申請しなければならない。
5 第五十條から第五十五條までの規定は、前項の承認があつた場合に準用する。
(承継人に対する効力)
第六十條 第五十條(第五十五條第四項、第五十六條第三項、第五十七條第三項、第五十八條第二項又は前條第五項で準用する場合を含む。)の規定による買収令書、権利消滅通知書又は使用令書の交付及び第五十五條第二項(第五十八條第二項又は前條第五項で準用する場合を含む。)の規定による収去令書の交付は、その交付を受けた者の承継人に対してもその効力を有する。