結核予防法
法令番号: 法律第九十六号
公布年月日: 昭和26年3月31日
法令の形式: 法律
結核予防法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十六年三月三十一日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第九十六号
結核予防法
目次
第一章
総則(第一條―第三條)
第二章
健康診断(第四條―第十二條)
第三章
予防接種(第十三條―第二十一條)
第四章
届出、登録及び指示(第二十二條―第二十七條)
第五章
伝染防止(第二十八條―第三十二條)
第六章
医療(第三十三條―第四十三條)
第七章
結核予防審議会及び結核診査協議会(第四十四條―第五十條)
第八章
費用(第五十一條―第六十一條)
第九章
罰則(第六十二條・第六十三條)
第十章
雑則(第六十四條―第六十八條)
附則
第一章 総則
(目的)
第一條 この法律は、結核の予防及び結核患者に対する適正な医療の普及を図ることによつて、結核が個人的にも社会的にも害を及ぼすことを防止し、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。
(国及び地方公共団体の義務)
第二條 国及び地方公共団体は、結核の予防及び結核患者の適正な医療につとめなければならない。
(医師等の義務)
第三條 医師その他の医療関係者は、前條に規定する国及び地方公共団体の行う業務に協力しなければならない。
第二章 健康診断
(定期の健康診断)
第四條 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八條に規定する事業又は事務所であつて、政令で定めるもの(以下「事業」という。)の使用者(同法第十條に規定する者をいう。以下同じ。)、学校(各種学校を含み、修業年限が一年未満のものを除く。以下同じ。)の長又は矯正保護施設その他の施設で政令で定めるもの(以下「施設」という。)の長は、それぞれ当該事業において業務に従事する者、当該学校の職員、学生、生徒、兒童若しくは幼兒又は当該施設に收容されている者に対して、毎年、期日又は期間を指定して、定期の健康診断を行わなければならない。
2 保健所長は、事業(国、都道府県又は保健所を設置する市の行う事業を除く。)の使用者又は学校若しくは施設(国、都道府県又は保健所を設置する市の設置する学校又は施設を除く。)の長に対し、前項の規定による定期の健康診断の期日又は期間の指定に関して指示することができる。
3 厚生大臣が指定する区域を管轄する市町村長(都の区の存する区域にあつては、保健所長とする。以下同じ。)は、その区域内に居住する三十歳未満の者のうち、第一項の健康診断の対象者以外の者に対して、毎年、保健所長(都の区の存する区域及び保健所を設置する市にあつては、都道府県知事)の指示を受け期日又は期間を指定して、定期の健康診断を行わなければならない。
4 使用者又は学校若しくは施設の長が労働基準法、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)その他の法律又はこれらに基く命令若しくは規則の規定によつて健康診断を行つた場合において、その健康診断が第十二條の規定に基く省令で定める技術的基準に適合するものであるときは、第一項の規定による健康診断を行つたものとみなす。
(定期外の健康診断)
第五條 都道府県知事は、結核予防上特に必要があると認めるときは、左の各号に掲げる者について、それを受けるべき者及びその期日を指定して、定期外の健康診断を行うことができる。
一 結核に感染し、又は公衆に結核を伝染させるおそれがある業務に従事する者
二 結核まん延のおそれがある場所又は地域において、業務に従事し、又は学校教育を受ける者
三 結核まん延のおそれがある場所又は地域に居住する者又は居住していた者
四 結核患者と同居する者又は同居していた者
(健康診断の方法)
第六條 前二條に規定する健康診断は、ツベルクリン反応検査、エツクス線検査その他省令で定める方法によつて行うものとする。
(受診義務)
第七條 第四條第一項又は第三項の健康診断の対象者は、それぞれ指定された期日又は期間内に、使用者、学校若しくは施設の長又は市町村長の行う健康診断を受けなければならない。
2 第五條の規定により定期外の健康診断を受けるべき者として指定された者は、指定された期日に、都道府県知事の行う健康診断を受けなければならない。
(他で受けた健康診断)
第八條 定期又は定期外の健康診断を受けるべき者が、健康診断を受けるべき期日又は期間満了前三月以内に第十二條の規定に基く省令で定める技術的基準に適合する健康診断を受け、且つ、当該期日又は期間満了の日までに医師の診断書その他その健康診断の内容を証明する文書を当該健康診断の実施者に提出したときは、定期又は定期外の健康診断を受けたものとみなす。
(定期の健康診断を受けなかつた者)
第九條 疾病その他やむを得ない事故のため定期の健康診断を受けることができなかつた者は、その事故が二月以内に消滅したときは、その事故の消滅後一月以内に、健康診断を受け、且つ、その健康診断の内容を記載した医師の診断書その他その健康診断の内容を証明する文書を当該健康診断の実施者に提出しなければならない。
(健康診断に関する記録)
第十條 健康診断実施者は、この法律の規定によつて健康診断を行い、又は前二條の規定による診断書その他の文書の提出を受けたときは、遅滞なく、健康診断に関する記録を作成し、且つ、これを保存しなければならない。
2 健康診断実施者は、この法律の規定による健康診断を受けた者から前項の記録の写の交付を求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
(通報又は報告)
第十一條 健康診断実施者は、この法律の規定によつて健康診断を行つたときは、その健康診断(第八條又は第九條の規定による診断書その他の文書の提出を受けた健康診断を含む。)につき、受診者の数その他省令で定める事項を当該健康診断を行つた場所を管轄する保健所長(その場所が保健所を設置する市の区域内であるときは、保健所長及び市長)を経由して、都道府県知事に通報又は報告しなければならない。
(省令委任)
第十二條 この法律の規定によつて行うべき健康診断の実施に関する技術的基準、第八條及び第九條に規定する診断書その他の文書の記載事項並びに健康診断に関する記録の様式及び保存期間は、省令で定める。
第三章 予防接種
(定期の予防接種)
第十三條 第四條第一項又は第三項の規定によつて定期の健康診断を行つた者は、その受診者(第八條の規定により定期の健康診断を受けたものとみなされた者を除く。)のうち、ツベルクリン反応が陰性又は疑陽性であつた者に対して、定期の予防接種を行わなければならない。
2 第四條第一項又は第三項の規定によつて定期の健康診断を行つた者は、第八條の規定により定期の健康診断を受けたものとみなされた者のうち、ツベルクリン反応が陰性又は疑陽性であつた者に対して、すみやかに、期日又は期間を指定してツベルクリン反応検査を行い、且つ、その反応が再び陰性又は疑陽性である者に対して定期の予防接種を行わなければならない。
3 市町村長は、その管轄する区域内に居住する三十歳未満の者のうち、定期の健康診断の対象者以外の者に対して、毎年、保健所長(都の区の存する区域及び保健所を設置する市にあつては、都道府県知事)の指示を受け期日又は期間を指定して、ツベルクリン反応検査を行い、且つ、その反応が陰性又は疑陽性である者に対して、定期の予防接種を行わなければならない。但し、結核患者その他省令で定めるところにより結核に感染していると認められる者に対しては、この限りでない。
(定期外の予防接種)
第十四條 都道府県知事は、結核予防上特に必要があると認めるときは、第五條各号に掲げる者について、それを受けるべき者及びその期日を指定して、ツベルクリン反応検査を行い、且つ、その反応が陰性又は疑陽性である者に対しては、定期外の予防接種を行うことができる。但し、前條第三項但書に規定する者に対しては、この限りでない。
(予防接種を行うべき日)
第十五條 前二條に規定する予防接種は、ツベルクリン反応を判定した日に行わなければならない。但し、やむを得ない事由があるときは、その日から二週間をこえない限度において、これを延期することができる。
(ツベルクリン反応検査及び予防接種を受ける義務)
第十六條 第十三條第二項又は第三項のツベルクリン反応検査の対象者及び同條各項の予防接種の対象者は、それぞれ指定された期日又は期間内に、使用者、学校若しくは施設の長又は市町村長の行うツベルクリン反応検査又は予防接種を受けなければならない。
2 第十四條の規定によりツベルクリン反応検査を受けるべき者として指定された者は、指定された期日に、都道府県知事の行うツベルクリン反応検査を受け、且つ、その反応が陰性又は疑陽性であつたときは、さらに、都道府県知事の行う予防接種を受けなければならない。
(他で受けたツベルクリン反応検査及び予防接種)
第十七條 前條の規定によりツベルクリン反応検査を受けるべき者が、その検査を受けるべき期日若しくは期間満了前三月以内にツベルクリン反応検査を受け、且つ、当該期日若しくは期間満了の日までに医師の証明書その他その反応が陽性であつたことを証明する文書を当該ツベルクリン反応検査の実施者に提出したとき、又は当該期日若しくは期間満了前三月以内に予防接種を受け、且つ、当該期日若しくは期間満了の日までに医師の証明書その他その旨を証明する文書を当該ツベルクリン反応検査の実施者に提出したときは、前條の規定によるツベルクリン反応検査又は予防接種を受けたものとみなす。
2 前項の規定は、その受けたツベルクリン反応検査又は予防接種が、それぞれ第二十一條の規定に基く省令で定める技術的基準に適合するものである場合に限つて、適用する。
(定期の予防接種を受けなかつた者)
第十八條 疾病その他やむを得ない事故のため第十三條の規定によるツベルクリン反応検査又は予防接種を受けることができなかつた者は、その事故が二月以内に消滅したときは、その事故の消滅後一月以内に、ツベルクリン反応検査を受け、且つ、その反応が陰性又は疑陽性であるときは、直ちに予防接種を受けなければならない。
2 前項のツベルクリン反応が陽性であつたとき、又は同項の予防接種を受けたときは、その者は、医師の証明書その他その旨を証明する文書を、当該ツベルクリン反応検査又は予防接種の実施者に提出しなければならない。
(ツベルクリン反応検査及び予防接種に関する記録)
第十九條 予防接種実施者は、この法律の規定によつてツベルクリン反応検査若しくは予防接種を行い、又は前二條の規定による証明書の提出を受けたときは、遅滞なく、ツベルクリン反応検査又は予防接種に関する記録を作成し、且つ、これを保存しなければならない。
2 予防接種実施者は、この法律の規定によるツベルクリン反応検査又は予防接種を受けた者から前項の記録の写の交付を求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
(通報又は報告)
第二十條 第十一條の規定は、予防接種実施者がこの法律の規定によつて予防接種を行つた場合に準用する。
(省令委任)
第二十一條 この法律の規定によつて行うべきツベルクリン反応検査及び予防接種の実施に関する技術的基準、第十七條及び第十八條に規定する証明書の記載事項並びにツベルクリン反応検査及び予防接種に関する記録の様式及び保存期間は、省令で定める。
第四章 届出、登録及び指示
(医師の行う届出)
第二十二條 医師は、診察の結果受診者が結核患者であると診断したときは、二日以内に、その患者について省令で定める事項を、もよりの保健所長に届け出なければならない。
2 保健所長は、その管轄する区域内に居住する者以外の者について前項の届出を受けたときは、その届出の内容を、当該患者の居住地を管轄する保健所長に通報しなければならない。
(病院管理者の行う届出)
第二十三條 病院の管理者は、入院している結核患者が退院したときは、七日以内に、その患者について省令で定める事項を、もよりの保健所長に届け出なければならない。
2 前條第二項の規定は、前項の場合に準用する。
(保健所長の行う登録)
第二十四條 保健所長は、その管轄区域内に居住する結核患者について、前二條の規定による届出又は通報を受けたときは、省令で定める様式に従い、結核患者登録票を作成しなければならない。
(家庭訪問指導)
第二十五條 保健所長は、前條の規定により登録した結核患者について、結核の予防又は医療上必要があると認めるときは、保健婦又はその他の職員をして、患者の家庭を訪問させ、必要な指導を行わせるものとする。
(結核患者等に対する医師の指示)
第二十六條 医師は、結核患者を診療したときは、本人又はその保護者(親権を行う者又は後見人をいう。以下同じ。)若しくは現にその患者を看護する者に対して、消毒、隔離その他省令で定める伝染防止に必要な事項を指示しなければならない。
(死亡診断等における医師の指示)
第二十七條 医師は、結核を伝染させるおそれがある患者の死亡を診断したとき、又は結核を伝染させるおそれがある患者の死体を検案したときは、死体のある場所を管理する者又はその代理をする者に対して、消毒その他省令で定める伝染防止に必要な事項を指示しなければならない。
第五章 伝染防止
(従業禁止)
第二十八條 都道府県知事は、この法律に規定する健康診断の結果結核を伝染させるおそれが著しいと認められる患者に対し、期間を定めて、接客業その他公衆に結核を伝染させるおそれがある業務であつて省令で定めるものに従事することを禁止することができる。
2 都道府県知事は、労働基準法の適用を受ける事業で業務に従事する者に対して前項の処分をしようとするときは、あらかじめ、当該都道府県の区域を管轄する都道府県労働基準局長と協議しなければならない。
(入所命令)
第二十九條 都道府県知事は、結核患者がその同居者に結核を伝染させるおそれがある場合において、これを避けるため必要があると認めるときは、その患者又はその保護者に対し、期間を定めて、結核療養所(結核患者を收容する施設を有する病院を含む。以下同じ。)に入所し、又は入所させることを命ずることができる。
2 国若しくは地方公共団体の開設する結核療養所又は第六十條の規定によつて国庫の補助を受けた法人の開設する結核療養所の管理者は、都道府県知事から前項の規定により入所し、又は入所させることを命じた旨の通知があつた場合において、当該患者又はその保護者が入所を申し込んだときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
(家屋の消毒等)
第三十條 都道府県知事は、結核を伝染させるおそれがある患者又はその死体がある場所又はあつた場所について、家屋の消毒、患者の隔離その他省令で定める伝染防止に必要な措置をとるべきことを患者若しくはその保護者又はその場所の管理をする者若しくはその代理をする者に命じ、又は当該職員にこれらの措置をとらせることができる。
(物件の消毒廃棄等)
第三十一條 都道府県知事は、結核予防上必要があると認めるときは、結核患者が使用し、又は接触した衣類、寝具、食器その他の物件で、結核菌に汚染し、又は汚染した疑があるものについて、その所持者に対し、授與を制限し、若しくは禁止し、消毒を命じ、若しくは消毒によりがたい場合に廃棄を命じ、又は当該職員にその物件を消毒し、若しくは消毒によりがたい場合に廃棄させることができる。
2 都道府県は、前項の規定による制限、禁止又は廃棄によつて通常生ずべき損失を補償しなければならない。
3 前項の規定により補償を受けようとする者は、省令で定める手続に従い、都道府県知事にこれを請求しなければならない。
4 都道府県知事は、前項の規定による請求を受けたときは、補償すべき金額を決定し、当該請求者にこれを通知しなければならない。
5 前項の決定に不服がある者は、その通知を受けた日から六十日以内に、裁判所に対し、訴をもつてその増額を請求することができる。
(質問及び調査)
第三十二條 都道府県知事は、前二條の規定を実施するため必要があるときは、当該職員をして結核患者若しくはその死体がある場所若しくはあつた場所又は結核菌に汚染し、若しくは汚染した疑がある物がある場所に立ち入り、結核患者その他の関係者に質問させ、又は必要な調査をさせることができる。
2 前項の職員は、その身分を示す証票を携帯し、且つ、関係者の請求があるときは、これを呈示しなければならない。
3 第一項の規定は、犯罪捜査のために認められたものと解釈されてはならない。
第六章 医療
(結核療養所の設置及び拡張の勧告)
第三十三條 厚生大臣は、必要があると認めるときは、都道府県、市その他必要と認める地方公共団体に対して、結核療養所の設置及び拡張を勧告することができる。
(一般患者に対する医療)
第三十四條 都道府県は、結核の適正な医療を普及するため、その区域内に居住する結核患者が第三十六條の規定により指定された病院又は診療所(以下「指定医療機関」という。)で省令で定める医療を受けるために必要な費用について、当該患者又はその保護者の申請により、その二分の一を負担することができる。但し、当該患者が、未復員者給與法(昭和二十二年法律第百八十二号)又は特別未帰還者給與法(昭和二十三年法律第二百七十九号)の規定によつて医療を受けることができる者であるときは、この限りでない。
2 前項の申請は、当該患者の住所地を管轄する保健所長を経由し、都道府県知事に対してしなければならない。
3 都道府県知事は、前項の申請に対して決定をするには、当該保健所に置かれた結核診査協議会の意見をきかなければならない。
4 第一項の申請があつてから六月を経過したときは、当該申請に基く費用の負担は、打ち切られるものとする。
(従業禁止、命令入所患者の医療)
第三十五條 都道府県は、都道府県知事が第二十八條の規定により従業を禁止し、又は第二十九條の規定により結核療養所に入所し、若しくは入所させることを命じた場合において、当該患者が生活保護法の適用を受ける者であるとき、その他経済的事情により医療を受けることが困難であると認められるときは、当該患者が指定医療機関で受ける医療に要する費用について、当該患者又はその保護者の申請により、その全部又は一部を負担することができる。但し、当該患者が、未復員者給與法又は特別未帰還者給與法の規定によつて医療を受けることができる者であるときは、この限りでない。
(指定医療機関)
第三十六條 厚生大臣は、国が開設した病院又は診療所について、その主務大臣の同意を得て、都道府県知事は、その他の病院又は診療所について、開設者の同意を得て、前二條に規定する医療を担当させる機関を指定する。
2 指定医療機関は、厚生大臣の定めるところにより、懇切丁寧に、前二條の規定により都道府県が費用を負担する結核患者の医療を担当しなければならない。
3 指定医療機関は、前二條に規定する医療について、省令で定めるところに従い都道府県知事の行う指導に従わなければならない。
4 指定医療機関は、三十日以上の予告期間を設けて、その指定を辞退することができる。
5 指定医療機関が第二項若しくは第三項の規定に違反したとき、又は診療科名の変更等により前二條に規定する医療を行うについて不適当であると認められるに至つたときは、厚生大臣が指定した医療機関については、厚生大臣、都道府県知事が指定した医療機関については、都道府県知事は、その指定を取り消すことができる。
6 厚生大臣又は都道府県知事は、前項の規定により指定を取り消す場合には、当該医療機関の開設者に対して、弁明の機会を與えなければならない。この場合においては、あらかじめ、書面をもつて、弁明をなすべき日時、場所及び当該処分をなすべき理由を通知しなければならない。
(社会保険及び生活保護との関係)
第三十七條 第三十四條第一項の規定による費用の負担を受ける結核患者が、健康保険法(大正十一年法律第七十号)、国民健康保険法(昭和十三年法律第六十号)、船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)又は国家公務員共済組合法(昭和二十三年法律第六十九号)(以下「社会保険各法」という。)の規定による被保険者、労働者、組合員又は被扶養者(以下「被保険者等」という。)である場合においては、保険者又は共済組合(以下「保険者等」という。)は、社会保険各法の規定によつてなすべき給付のうち、その医療に要する費用の二分の一をこえる部分については、給付をなすことを要しない。
2 第三十四條第一項の規定により費用の負担を受ける結核患者が、生活保護法の規定による医療扶助を受けることができる者であるときは、その医療に要する費用は、都道府県が同條同項の規定によりその二分の一を負担し、その残部につき同法の適用があるものとする。
3 第三十五條に規定する患者が、社会保険各法の規定による被保険者等である場合においては、都道府県は、当該患者が社会保険各法の規定により受けることができる給付の限度において、同條の費用を負担しない。
(診療報酬の請求)
第三十八條 指定医療機関は、診療報酬のうち、第三十四條第一項又は第三十五條の規定により都道府県が負担する費用を、都道府県に請求するものとする。
2 都道府県は、前項の費用を当該指定医療機関に支払わなければならない。
3 都道府県は、前項の支払に関する事務を、社会保険診療報酬支払基金又は省令で定める者に委託することができる。
(診療報酬の基準)
第三十九條 指定医療機関が行う第三十四條及び第三十五條に規定する医療に関する診療報酬は、指定医療機関が所在する市町村(特別区を含む。以下同じ。)に国民健康保険(特別国民健康保険組合又は社団法人の行うものを除く。以下同じ。)が行われているときは、その診療報酬の例により、指定医療機関が所在する市町村に国民健康保険が行われていないときは、健康保険の診療報酬の例によるものとする。
2 前項に規定する診療報酬の例によることができないとき、及びこれによることを適当としないときの診療報酬は、厚生大臣が結核予防審議会に諮問して定めるところによる。
(保険者等の行う申請)
第四十條 結核患者が被保険者等である場合においては、第三十四條第一項の申請は、同條同項に規定する者の外、保険者等も行うことができる。
(急迫時の特例)
第四十一條 都道府県は、その区域内に居住する結核患者が、急迫した事情があるため、第三十四條第一項の申請をしないで同條同項の規定に基く省令で定める医療を受けた場合においては、当該患者又はその保護者の申請により、第三十九條の例により算定した診療報酬の額の二分の一をこえない限度において、当該医療に要した費用の二分の一に相当する額の医療費をこれに支給することができる。
2 第三十四條第二項及び第三項の規定は、前項の申請に準用する。
3 第一項の医療費は、当該患者が当該医療を受けた当時それが必要であつたと認められる場合に限り、支給するものとする。
4 第三十七條第一項の規定は、第一項の医療費の支給を受ける者が社会保険各法の規定による被保険者等である場合に準用する。
(報告の請求及び検査)
第四十二條 都道府県知事は、第三十四條第一項及び第三十五條に規定する費用の負担を適正ならしめるため必要があると認めるときは、指定医療機関の管理者に対して必要な報告を求め、又は当該職員をして指定医療機関についてその管理者の同意を得て実地に診療録その他の帳簿書類を検査させることができる。
2 指定医療機関が、正当な理由がなく、前項の報告の求に応せず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の同意を拒んだときは、都道府県は、当該指定医療機関に対する診療報酬の支払を一時差し止めることができる。
(省令委任)
第四十三條 この法律に規定するものの外、第三十四條第一項及び第三十五條の申請の手続、第三十八條の診療報酬の請求並びに支払及びその事務の委託の手続その他この章で規定する費用の負担に関して必要な事項は、省令で定める。
第七章 結核予防審議会及び結核診査協議会
(結核予防審議会)
第四十四條 厚生大臣の諮問に応じ、結核の予防及び結核患者の医療に関する重要事項を調査審議させるため、厚生大臣の監督に属する結核予防審議会を置く。
2 結核予防審議会は、関係各大臣に意見を具申することができる。
(委員)
第四十五條 結核予防審議会は、委員三十人以内で組織する。
2 特別な事項を調査審議するため、必要があるときは、結核予防審議会に臨時委員を置くことができる。
3 委員及び臨時委員は、関係行政庁の職員、結核の予防又は結核患者の医療若しくは保護に関する事業に従事する者及び学識経験のある者のうちから、厚生大臣が任命する。
4 委員のうちから互選された者は、委員長として会務を総理する。
5 委員及び臨時委員は、非常勤とする。
6 委員(関係行政庁の職員のうちから任命された委員を除く。)の任期は、二年とする。
(庶務)
第四十六條 結核予防審議会の庶務は、厚生省公衆衛生局において処理する。
(運営)
第四十七條 この法律に規定するものの外、議事の手続その他結核予防審議会の運営に関し必要な事項は、結核予防審議会が定める。
(結核診査協議会)
第四十八條 都道府県知事の諮問に応じ、第三十四條第一項の申請に関する必要な事項を審議させるため、各保健所に結核診査協議会を置く。
2 結核診査協議会は、都道府県知事の監督に属する。
(委員)
第四十九條 結核診査協議会は、委員五人で組織する。
2 委員は、関係行政庁の職員及び結核の予防又は結核患者の医療に関する事業に従事する者のうちから、都道府県知事が任命する。
3 委員は、非常勤とする。
4 委員(関係行政庁の職員のうちから任命された委員を除く。)の任期は、二年とする。
5 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百三條の規定は、委員の給與に準用する。
(政令委任)
第五十條 この法律に規定するものの外、議事の手続その他結核診査協議会の運営に関し必要な事項は、政令で定める。
第八章 費用
(都道府県の支弁すべき費用)
第五十一條 都道府県は、左に掲げる費用を支弁しなければならない。
一 第四條第一項の規定により、その行う事業の使用者又はその設置する学校若しくは施設の長が行う定期の健康診断に要する費用
二 第五條の規定により、都道府県知事が行う定期外の健康診断に要する費用
三 第十三條第一項又は第二項の規定により、その行う事業の使用者又はその設置する学校若しくは施設の長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
四 第十四條の規定により、都道府県知事が行うツベルクリン反応検査及び定期外の予防接種に要する費用
五 第三十條又は第三十一條第一項の規定により、都道府県知事が当該職員をしてとらせた措置に要する費用
六 第三十一條第二項の規定による損失の補償に要する費用
七 第三十四條第一項の規定により負担する費用
八 第三十五條の規定により負担する費用
九 第四十一條第一項の規定による医療費の支給に要する費用
(市町村の支弁すべき費用)
第五十二條 市町村は、左に掲げる費用を支弁しなければならない。
一 第四條第一項の規定により、その行う事業の使用者又はその設置する学校若しくは施設の長が行う定期の健康診断に要する費用
二 第四條第三項の規定により、市町村長が行う定期の健康診断に要する費用
三 第十三條第一項又は第二項の規定により、その行う事業の使用者又はその設置する学校若しくは施設の長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
四 第十三條の規定により市町村長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
(都に関する特例)
第五十三條 都の区の存する区域については、左に掲げる費用は、前條の規定にかかわらず、都が支弁しなければならない。
一 第四條第三項の規定により、保健所長が行う定期の健康診断に要する費用
二 第十三條の規定により、保健所長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
(事業主の支弁すべき費用)
第五十四條 事業(国、都道府県又は市町村の行う事業を除く。)の事業主は、左に掲げる費用を支弁しなければならない。
一 第四條第一項の規定により、事業の使用者が行う定期の健康診断に要する費用
二 第十三條第一項又は第二項の規定により、事業の使用者が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
(学校又は施設の設置者の支弁すべき費用)
第五十五條 学校又は施設(国、都道府県又は市町村の設置する学校又は施設を除く。)の設置者は、左に掲げる費用を支弁しなければならない。
一 第四條第一項の規定により、学校又は施設の長が行う定期の健康診断に要する費用
二 第十三條第一項又は第二項の規定により、学校又は施設の長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
(都道府県の補助)
第五十六條 都道府県は、左に掲げる費用に対して、政令で定めるところにより、その三分の二を補助しなければならない。
一 第五十二條各号の費用(市町村の行う事業の使用者が行う健康診断に要する費用を除く。)
二 第五十四條第二号の費用
三 前條各号の費用
(国庫の補助)
第五十七條 国庫は、左に掲げる費用に対して、政令で定めるところにより、その二分の一を補助しなければならない。
一 第三十三條の規定により、厚生大臣が都道府県、市その他の地方公共団体に対して設置又は拡張を勧告した結核療養所の設置、拡張及び運営に要する費用
二 第五十一條各号の費用(都道府県の行う事業の使用者が行う健康診断に要する費用を除く。)
三 前條の規定により、都道府県が補助する費用
第五十八條 国庫は、第五十三條各号費用に対して、政令で定めるところにより、その三分の一を補助しなければならない。
第五十九條 国庫は、都道府県又は市町村に対して、政令で定めるところにより、その開設する結核療養所(第三十三條の規定により、厚生大臣が設置又は拡張を勧告したものを除く。)の設置、拡張及び運営に要する費用の二分の一を補助することができる。
第六十條 国庫は、結核療養所を開設する営利を目的としない法人に対して、政令で定めるところにより、その結核療養所の設置、拡張及び運営に要する費用の二分の一以内を補助することができる。
(実費の徴收)
第六十一條 健康診断実施者(使用者を除く。)又は予防接種実施者は、この法律の規定により健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を行つた場合においては、政令で定めるところにより、当該健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を受けた者(第八條又は第十七條第一項の規定により、健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を受けたものとみなされた者を除く。)又はその保護者から、その実費を徴收することができる。但し、その者が経済的事情により、その費用の全部又は一部を負担することが困難であると認められる場合においては、その全部又は一部については、この限りでない。
第九章 罰則
第六十二條 この法律の規定による健康診断、ツベルクリン反応検査若しくは予防接種の実施の事務に従事した者又は結核診査協議会の委員若しくはその職にあつた者が、その実施又は職務執行に関して知得した医師の業務上の秘密又は個人の心身の欠陥その他の秘密を正当の理由なしに漏らしたときは、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
第六十三條 左の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金に処する。
一 第七條第二項又は第十六條第二項の規定に違反した者
二 第二十二條第一項の規定による届出を怠つた医師
三 第二十六條又は第二十七條の規定に違反した医師
四 第二十八條第一項、第三十條又は第三十一條第一項の規定による都道府県知事の命令に従わなかつた者
五 第三十條から第三十二條までの規定による当該職員の職務の執行を拒み、妨げ又は忌避した者
六 第三十二條第一項の規定による当該職員の質問に対し、虚偽の答弁をした者
七 第五條の規定による健康診断又は第十四條の規定によるツベルクリン反応検査若しくは予防接種について、次條の規定に違反した者
第十章 雑則
(保護者の義務)
第六十四條 この法律の規定により健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を受けるべき者が十六歳未満の者又は禁治産者であるときは、その保護者において、その者に健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を受けさせるために必要な措置を講じなければならない。
(代執行)
第六十五條 都道府県知事は、事業(国、都道府県又は保健所を設置する市の行う事業を除く。)の使用者又は学校若しくは施設(国、都道府県又は保健所を設置する市の設置する学校又は施設を除く。)の長が、第四條第一項の規定による健康診断、第十三條第二項の規定によるツベルクリン反応検査又は同條第一項若しくは第二項の規定による予防接種を行わないか、又は行つても十分でないと認めるときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の例により、みずから健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を行い、その費用を当該事業の事業主又は学校若しくは施設の設置者から徴收することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定により健康診断又はツベルクリン反応検査を行つたときは、さらに予防接種を行い、また、予防接種を行うに当つては、あらかじめツベルクリン反応検査を行い、その費用を当該事業の事業主又は学校若しくは施設の設置者から徴收することができる。
(他の行政庁との協議)
第六十六條 保健所長は、第四條第二項の規定により、労働基準法の適用を受ける事業の使用者に対して指示をするに当つては、あらかじめ、当該事業の所在地を管轄する労働基準監督署長と協議しなければならない。
2 保健所長は、教育委員会の所管に属する学校については、第四條第二項の指示に代えて、その指示すべき事項を当該教育委員会に通知するものとする。
3 教育委員会は、前項の通知があつたときは、必要な事項を当該学校に指示するものとする。
4 都道府県知事は、第五條、第十四條又は前條の規定によつて、労働基準法の適用を受ける事業で業務に従事する者又は学校の職員、学生、生徒、兒童若しくは幼兒を主たる対象として健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を行うに当つては、あらかじめ、それぞれ当該事業の所在地を管轄する都道府県労働基準局長又は当該学校の所轄庁と協議しなければならない。
(訴願)
第六十七條 第二十八條から第三十一條までの規定による都道府県知事の命令に不服がある者は、厚生大臣に訴願することができる。
(保健所を設置する市)
第六十八條 保健所を設置する市にあつては、第五條、第十四條、第三十條、第三十一條第一項、第三項及び第四項、第三十二條第一項、第三十四條第二項及び第三項、第四十二條第一項、第四十八條第一項及び第二項、第四十九條第二項、第五十一條第二号、第四号及び第五号、第六十三條第四号、第六十五條、第六十六條第四項並びに前條中「都道府県知事」とあるのは「市長」と、第三十一條第二項、第三十四條第一項、第三十六條第二項、第三十七條第二項、第三十八條、第四十一條第一項、第四十二條第二項並びに第五十一條中「都道府県」とあるのは「市」と読み替えるものとする。但し、第五十一條については、第二号、第四号から第七号まで及び第九号に関してのみ、「都道府県」とあるのを「市」と読み替えるものとする。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和二十六年四月一日から施行する。但し、第三十四條及び第三十五條の規定は、同年十月一日から施行する。
(旧結核予防法の廃止)
2 結核予防法(大正八年法律第二十六号。以下「旧法」という。)は、廃止する。
(伝染病届出規則の一部改正)
3 伝染病届出規則(昭和二十二年厚生省令第五号)の一部を次のように改正する。
第一條第十二号を次のように改める。
一二 削除
第五條中「結核、」及び「結核予防法、」を削る。
(予防接種法の一部改正)
4 予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)の一部を次のように改正する。
第二條第二項第六号を次のように改める。
六 削除
第十四條を次のように改める。
第十四條 削除
第十八條中「若しくは」を「又は」に改め、「又は結核にかかつているか若しくはツベルクリン反応の陽性の者で省令で定めるもの」を削る。
(届出に関する経過規定)
5 旧法第一條又は伝染病届出規則第一條第十二号の規定によつてなされた届出は、第二十二條の規定によつてなされた届出とみなす。
(従業禁止に関する経過規定)
6 この法律の施行の際、現に旧法第四條第一項第二号の規定によつて、職業に従事することを禁止されている結核患者は、第二十八條の規定によつて禁止されている者とみなす。
(罰則に関する経過規定)
7 この法律の施行前になした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)
8 社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の一部を次のように改正する。
第十三條第二項中「意見を述べることができる。」を「意見を述べ、また、結核予防法(昭和二十六年法律第九十六号)第三十八條第三項の規定により指定医療機関に対する診療報酬の支払事務を委託されたときは、その支払に必要な事務を行うことができる。」に改め、同條第三項中「(前項の場合においては都道府県知事)」の下に「又は保健所を設置する市の市長」を加える。
第十四條第二項中「七人以下」を「九人以下」に改める。
(厚生省設置法の一部改正)
9 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第二十九條の表中、栄養士試験審査会の項の次に次の一項を加える。
結核予防審議会
厚生大臣の諮問に応じて、結核の予防及び結核患者の医療に関する重要事項を調査審議すること
内閣総理大臣 吉田茂
法務総裁 大橋武夫
外務大臣 吉田茂
大蔵大臣 池田勇人
文部大臣 天野貞祐
厚生大臣 黒川武雄
農林大臣 広川弘禪
通商産業大臣 横尾龍
運輸大臣 山崎猛
郵政大臣 田村文吉
電気通信大臣 田村文吉
労働大臣 保利茂
建設大臣 増田甲子七
経済安定本部総裁 吉田茂
結核予防法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十六年三月三十一日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第九十六号
結核予防法
目次
第一章
総則(第一条―第三条)
第二章
健康診断(第四条―第十二条)
第三章
予防接種(第十三条―第二十一条)
第四章
届出、登録及び指示(第二十二条―第二十七条)
第五章
伝染防止(第二十八条―第三十二条)
第六章
医療(第三十三条―第四十三条)
第七章
結核予防審議会及び結核診査協議会(第四十四条―第五十条)
第八章
費用(第五十一条―第六十一条)
第九章
罰則(第六十二条・第六十三条)
第十章
雑則(第六十四条―第六十八条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、結核の予防及び結核患者に対する適正な医療の普及を図ることによつて、結核が個人的にも社会的にも害を及ぼすことを防止し、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。
(国及び地方公共団体の義務)
第二条 国及び地方公共団体は、結核の予防及び結核患者の適正な医療につとめなければならない。
(医師等の義務)
第三条 医師その他の医療関係者は、前条に規定する国及び地方公共団体の行う業務に協力しなければならない。
第二章 健康診断
(定期の健康診断)
第四条 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八条に規定する事業又は事務所であつて、政令で定めるもの(以下「事業」という。)の使用者(同法第十条に規定する者をいう。以下同じ。)、学校(各種学校を含み、修業年限が一年未満のものを除く。以下同じ。)の長又は矯正保護施設その他の施設で政令で定めるもの(以下「施設」という。)の長は、それぞれ当該事業において業務に従事する者、当該学校の職員、学生、生徒、児童若しくは幼児又は当該施設に収容されている者に対して、毎年、期日又は期間を指定して、定期の健康診断を行わなければならない。
2 保健所長は、事業(国、都道府県又は保健所を設置する市の行う事業を除く。)の使用者又は学校若しくは施設(国、都道府県又は保健所を設置する市の設置する学校又は施設を除く。)の長に対し、前項の規定による定期の健康診断の期日又は期間の指定に関して指示することができる。
3 厚生大臣が指定する区域を管轄する市町村長(都の区の存する区域にあつては、保健所長とする。以下同じ。)は、その区域内に居住する三十歳未満の者のうち、第一項の健康診断の対象者以外の者に対して、毎年、保健所長(都の区の存する区域及び保健所を設置する市にあつては、都道府県知事)の指示を受け期日又は期間を指定して、定期の健康診断を行わなければならない。
4 使用者又は学校若しくは施設の長が労働基準法、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)その他の法律又はこれらに基く命令若しくは規則の規定によつて健康診断を行つた場合において、その健康診断が第十二条の規定に基く省令で定める技術的基準に適合するものであるときは、第一項の規定による健康診断を行つたものとみなす。
(定期外の健康診断)
第五条 都道府県知事は、結核予防上特に必要があると認めるときは、左の各号に掲げる者について、それを受けるべき者及びその期日を指定して、定期外の健康診断を行うことができる。
一 結核に感染し、又は公衆に結核を伝染させるおそれがある業務に従事する者
二 結核まん延のおそれがある場所又は地域において、業務に従事し、又は学校教育を受ける者
三 結核まん延のおそれがある場所又は地域に居住する者又は居住していた者
四 結核患者と同居する者又は同居していた者
(健康診断の方法)
第六条 前二条に規定する健康診断は、ツベルクリン反応検査、エツクス線検査その他省令で定める方法によつて行うものとする。
(受診義務)
第七条 第四条第一項又は第三項の健康診断の対象者は、それぞれ指定された期日又は期間内に、使用者、学校若しくは施設の長又は市町村長の行う健康診断を受けなければならない。
2 第五条の規定により定期外の健康診断を受けるべき者として指定された者は、指定された期日に、都道府県知事の行う健康診断を受けなければならない。
(他で受けた健康診断)
第八条 定期又は定期外の健康診断を受けるべき者が、健康診断を受けるべき期日又は期間満了前三月以内に第十二条の規定に基く省令で定める技術的基準に適合する健康診断を受け、且つ、当該期日又は期間満了の日までに医師の診断書その他その健康診断の内容を証明する文書を当該健康診断の実施者に提出したときは、定期又は定期外の健康診断を受けたものとみなす。
(定期の健康診断を受けなかつた者)
第九条 疾病その他やむを得ない事故のため定期の健康診断を受けることができなかつた者は、その事故が二月以内に消滅したときは、その事故の消滅後一月以内に、健康診断を受け、且つ、その健康診断の内容を記載した医師の診断書その他その健康診断の内容を証明する文書を当該健康診断の実施者に提出しなければならない。
(健康診断に関する記録)
第十条 健康診断実施者は、この法律の規定によつて健康診断を行い、又は前二条の規定による診断書その他の文書の提出を受けたときは、遅滞なく、健康診断に関する記録を作成し、且つ、これを保存しなければならない。
2 健康診断実施者は、この法律の規定による健康診断を受けた者から前項の記録の写の交付を求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
(通報又は報告)
第十一条 健康診断実施者は、この法律の規定によつて健康診断を行つたときは、その健康診断(第八条又は第九条の規定による診断書その他の文書の提出を受けた健康診断を含む。)につき、受診者の数その他省令で定める事項を当該健康診断を行つた場所を管轄する保健所長(その場所が保健所を設置する市の区域内であるときは、保健所長及び市長)を経由して、都道府県知事に通報又は報告しなければならない。
(省令委任)
第十二条 この法律の規定によつて行うべき健康診断の実施に関する技術的基準、第八条及び第九条に規定する診断書その他の文書の記載事項並びに健康診断に関する記録の様式及び保存期間は、省令で定める。
第三章 予防接種
(定期の予防接種)
第十三条 第四条第一項又は第三項の規定によつて定期の健康診断を行つた者は、その受診者(第八条の規定により定期の健康診断を受けたものとみなされた者を除く。)のうち、ツベルクリン反応が陰性又は疑陽性であつた者に対して、定期の予防接種を行わなければならない。
2 第四条第一項又は第三項の規定によつて定期の健康診断を行つた者は、第八条の規定により定期の健康診断を受けたものとみなされた者のうち、ツベルクリン反応が陰性又は疑陽性であつた者に対して、すみやかに、期日又は期間を指定してツベルクリン反応検査を行い、且つ、その反応が再び陰性又は疑陽性である者に対して定期の予防接種を行わなければならない。
3 市町村長は、その管轄する区域内に居住する三十歳未満の者のうち、定期の健康診断の対象者以外の者に対して、毎年、保健所長(都の区の存する区域及び保健所を設置する市にあつては、都道府県知事)の指示を受け期日又は期間を指定して、ツベルクリン反応検査を行い、且つ、その反応が陰性又は疑陽性である者に対して、定期の予防接種を行わなければならない。但し、結核患者その他省令で定めるところにより結核に感染していると認められる者に対しては、この限りでない。
(定期外の予防接種)
第十四条 都道府県知事は、結核予防上特に必要があると認めるときは、第五条各号に掲げる者について、それを受けるべき者及びその期日を指定して、ツベルクリン反応検査を行い、且つ、その反応が陰性又は疑陽性である者に対しては、定期外の予防接種を行うことができる。但し、前条第三項但書に規定する者に対しては、この限りでない。
(予防接種を行うべき日)
第十五条 前二条に規定する予防接種は、ツベルクリン反応を判定した日に行わなければならない。但し、やむを得ない事由があるときは、その日から二週間をこえない限度において、これを延期することができる。
(ツベルクリン反応検査及び予防接種を受ける義務)
第十六条 第十三条第二項又は第三項のツベルクリン反応検査の対象者及び同条各項の予防接種の対象者は、それぞれ指定された期日又は期間内に、使用者、学校若しくは施設の長又は市町村長の行うツベルクリン反応検査又は予防接種を受けなければならない。
2 第十四条の規定によりツベルクリン反応検査を受けるべき者として指定された者は、指定された期日に、都道府県知事の行うツベルクリン反応検査を受け、且つ、その反応が陰性又は疑陽性であつたときは、さらに、都道府県知事の行う予防接種を受けなければならない。
(他で受けたツベルクリン反応検査及び予防接種)
第十七条 前条の規定によりツベルクリン反応検査を受けるべき者が、その検査を受けるべき期日若しくは期間満了前三月以内にツベルクリン反応検査を受け、且つ、当該期日若しくは期間満了の日までに医師の証明書その他その反応が陽性であつたことを証明する文書を当該ツベルクリン反応検査の実施者に提出したとき、又は当該期日若しくは期間満了前三月以内に予防接種を受け、且つ、当該期日若しくは期間満了の日までに医師の証明書その他その旨を証明する文書を当該ツベルクリン反応検査の実施者に提出したときは、前条の規定によるツベルクリン反応検査又は予防接種を受けたものとみなす。
2 前項の規定は、その受けたツベルクリン反応検査又は予防接種が、それぞれ第二十一条の規定に基く省令で定める技術的基準に適合するものである場合に限つて、適用する。
(定期の予防接種を受けなかつた者)
第十八条 疾病その他やむを得ない事故のため第十三条の規定によるツベルクリン反応検査又は予防接種を受けることができなかつた者は、その事故が二月以内に消滅したときは、その事故の消滅後一月以内に、ツベルクリン反応検査を受け、且つ、その反応が陰性又は疑陽性であるときは、直ちに予防接種を受けなければならない。
2 前項のツベルクリン反応が陽性であつたとき、又は同項の予防接種を受けたときは、その者は、医師の証明書その他その旨を証明する文書を、当該ツベルクリン反応検査又は予防接種の実施者に提出しなければならない。
(ツベルクリン反応検査及び予防接種に関する記録)
第十九条 予防接種実施者は、この法律の規定によつてツベルクリン反応検査若しくは予防接種を行い、又は前二条の規定による証明書の提出を受けたときは、遅滞なく、ツベルクリン反応検査又は予防接種に関する記録を作成し、且つ、これを保存しなければならない。
2 予防接種実施者は、この法律の規定によるツベルクリン反応検査又は予防接種を受けた者から前項の記録の写の交付を求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
(通報又は報告)
第二十条 第十一条の規定は、予防接種実施者がこの法律の規定によつて予防接種を行つた場合に準用する。
(省令委任)
第二十一条 この法律の規定によつて行うべきツベルクリン反応検査及び予防接種の実施に関する技術的基準、第十七条及び第十八条に規定する証明書の記載事項並びにツベルクリン反応検査及び予防接種に関する記録の様式及び保存期間は、省令で定める。
第四章 届出、登録及び指示
(医師の行う届出)
第二十二条 医師は、診察の結果受診者が結核患者であると診断したときは、二日以内に、その患者について省令で定める事項を、もよりの保健所長に届け出なければならない。
2 保健所長は、その管轄する区域内に居住する者以外の者について前項の届出を受けたときは、その届出の内容を、当該患者の居住地を管轄する保健所長に通報しなければならない。
(病院管理者の行う届出)
第二十三条 病院の管理者は、入院している結核患者が退院したときは、七日以内に、その患者について省令で定める事項を、もよりの保健所長に届け出なければならない。
2 前条第二項の規定は、前項の場合に準用する。
(保健所長の行う登録)
第二十四条 保健所長は、その管轄区域内に居住する結核患者について、前二条の規定による届出又は通報を受けたときは、省令で定める様式に従い、結核患者登録票を作成しなければならない。
(家庭訪問指導)
第二十五条 保健所長は、前条の規定により登録した結核患者について、結核の予防又は医療上必要があると認めるときは、保健婦又はその他の職員をして、患者の家庭を訪問させ、必要な指導を行わせるものとする。
(結核患者等に対する医師の指示)
第二十六条 医師は、結核患者を診療したときは、本人又はその保護者(親権を行う者又は後見人をいう。以下同じ。)若しくは現にその患者を看護する者に対して、消毒、隔離その他省令で定める伝染防止に必要な事項を指示しなければならない。
(死亡診断等における医師の指示)
第二十七条 医師は、結核を伝染させるおそれがある患者の死亡を診断したとき、又は結核を伝染させるおそれがある患者の死体を検案したときは、死体のある場所を管理する者又はその代理をする者に対して、消毒その他省令で定める伝染防止に必要な事項を指示しなければならない。
第五章 伝染防止
(従業禁止)
第二十八条 都道府県知事は、この法律に規定する健康診断の結果結核を伝染させるおそれが著しいと認められる患者に対し、期間を定めて、接客業その他公衆に結核を伝染させるおそれがある業務であつて省令で定めるものに従事することを禁止することができる。
2 都道府県知事は、労働基準法の適用を受ける事業で業務に従事する者に対して前項の処分をしようとするときは、あらかじめ、当該都道府県の区域を管轄する都道府県労働基準局長と協議しなければならない。
(入所命令)
第二十九条 都道府県知事は、結核患者がその同居者に結核を伝染させるおそれがある場合において、これを避けるため必要があると認めるときは、その患者又はその保護者に対し、期間を定めて、結核療養所(結核患者を収容する施設を有する病院を含む。以下同じ。)に入所し、又は入所させることを命ずることができる。
2 国若しくは地方公共団体の開設する結核療養所又は第六十条の規定によつて国庫の補助を受けた法人の開設する結核療養所の管理者は、都道府県知事から前項の規定により入所し、又は入所させることを命じた旨の通知があつた場合において、当該患者又はその保護者が入所を申し込んだときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
(家屋の消毒等)
第三十条 都道府県知事は、結核を伝染させるおそれがある患者又はその死体がある場所又はあつた場所について、家屋の消毒、患者の隔離その他省令で定める伝染防止に必要な措置をとるべきことを患者若しくはその保護者又はその場所の管理をする者若しくはその代理をする者に命じ、又は当該職員にこれらの措置をとらせることができる。
(物件の消毒廃棄等)
第三十一条 都道府県知事は、結核予防上必要があると認めるときは、結核患者が使用し、又は接触した衣類、寝具、食器その他の物件で、結核菌に汚染し、又は汚染した疑があるものについて、その所持者に対し、授与を制限し、若しくは禁止し、消毒を命じ、若しくは消毒によりがたい場合に廃棄を命じ、又は当該職員にその物件を消毒し、若しくは消毒によりがたい場合に廃棄させることができる。
2 都道府県は、前項の規定による制限、禁止又は廃棄によつて通常生ずべき損失を補償しなければならない。
3 前項の規定により補償を受けようとする者は、省令で定める手続に従い、都道府県知事にこれを請求しなければならない。
4 都道府県知事は、前項の規定による請求を受けたときは、補償すべき金額を決定し、当該請求者にこれを通知しなければならない。
5 前項の決定に不服がある者は、その通知を受けた日から六十日以内に、裁判所に対し、訴をもつてその増額を請求することができる。
(質問及び調査)
第三十二条 都道府県知事は、前二条の規定を実施するため必要があるときは、当該職員をして結核患者若しくはその死体がある場所若しくはあつた場所又は結核菌に汚染し、若しくは汚染した疑がある物がある場所に立ち入り、結核患者その他の関係者に質問させ、又は必要な調査をさせることができる。
2 前項の職員は、その身分を示す証票を携帯し、且つ、関係者の請求があるときは、これを呈示しなければならない。
3 第一項の規定は、犯罪捜査のために認められたものと解釈されてはならない。
第六章 医療
(結核療養所の設置及び拡張の勧告)
第三十三条 厚生大臣は、必要があると認めるときは、都道府県、市その他必要と認める地方公共団体に対して、結核療養所の設置及び拡張を勧告することができる。
(一般患者に対する医療)
第三十四条 都道府県は、結核の適正な医療を普及するため、その区域内に居住する結核患者が第三十六条の規定により指定された病院又は診療所(以下「指定医療機関」という。)で省令で定める医療を受けるために必要な費用について、当該患者又はその保護者の申請により、その二分の一を負担することができる。但し、当該患者が、未復員者給与法(昭和二十二年法律第百八十二号)又は特別未帰還者給与法(昭和二十三年法律第二百七十九号)の規定によつて医療を受けることができる者であるときは、この限りでない。
2 前項の申請は、当該患者の住所地を管轄する保健所長を経由し、都道府県知事に対してしなければならない。
3 都道府県知事は、前項の申請に対して決定をするには、当該保健所に置かれた結核診査協議会の意見をきかなければならない。
4 第一項の申請があつてから六月を経過したときは、当該申請に基く費用の負担は、打ち切られるものとする。
(従業禁止、命令入所患者の医療)
第三十五条 都道府県は、都道府県知事が第二十八条の規定により従業を禁止し、又は第二十九条の規定により結核療養所に入所し、若しくは入所させることを命じた場合において、当該患者が生活保護法の適用を受ける者であるとき、その他経済的事情により医療を受けることが困難であると認められるときは、当該患者が指定医療機関で受ける医療に要する費用について、当該患者又はその保護者の申請により、その全部又は一部を負担することができる。但し、当該患者が、未復員者給与法又は特別未帰還者給与法の規定によつて医療を受けることができる者であるときは、この限りでない。
(指定医療機関)
第三十六条 厚生大臣は、国が開設した病院又は診療所について、その主務大臣の同意を得て、都道府県知事は、その他の病院又は診療所について、開設者の同意を得て、前二条に規定する医療を担当させる機関を指定する。
2 指定医療機関は、厚生大臣の定めるところにより、懇切丁寧に、前二条の規定により都道府県が費用を負担する結核患者の医療を担当しなければならない。
3 指定医療機関は、前二条に規定する医療について、省令で定めるところに従い都道府県知事の行う指導に従わなければならない。
4 指定医療機関は、三十日以上の予告期間を設けて、その指定を辞退することができる。
5 指定医療機関が第二項若しくは第三項の規定に違反したとき、又は診療科名の変更等により前二条に規定する医療を行うについて不適当であると認められるに至つたときは、厚生大臣が指定した医療機関については、厚生大臣、都道府県知事が指定した医療機関については、都道府県知事は、その指定を取り消すことができる。
6 厚生大臣又は都道府県知事は、前項の規定により指定を取り消す場合には、当該医療機関の開設者に対して、弁明の機会を与えなければならない。この場合においては、あらかじめ、書面をもつて、弁明をなすべき日時、場所及び当該処分をなすべき理由を通知しなければならない。
(社会保険及び生活保護との関係)
第三十七条 第三十四条第一項の規定による費用の負担を受ける結核患者が、健康保険法(大正十一年法律第七十号)、国民健康保険法(昭和十三年法律第六十号)、船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)又は国家公務員共済組合法(昭和二十三年法律第六十九号)(以下「社会保険各法」という。)の規定による被保険者、労働者、組合員又は被扶養者(以下「被保険者等」という。)である場合においては、保険者又は共済組合(以下「保険者等」という。)は、社会保険各法の規定によつてなすべき給付のうち、その医療に要する費用の二分の一をこえる部分については、給付をなすことを要しない。
2 第三十四条第一項の規定により費用の負担を受ける結核患者が、生活保護法の規定による医療扶助を受けることができる者であるときは、その医療に要する費用は、都道府県が同条同項の規定によりその二分の一を負担し、その残部につき同法の適用があるものとする。
3 第三十五条に規定する患者が、社会保険各法の規定による被保険者等である場合においては、都道府県は、当該患者が社会保険各法の規定により受けることができる給付の限度において、同条の費用を負担しない。
(診療報酬の請求)
第三十八条 指定医療機関は、診療報酬のうち、第三十四条第一項又は第三十五条の規定により都道府県が負担する費用を、都道府県に請求するものとする。
2 都道府県は、前項の費用を当該指定医療機関に支払わなければならない。
3 都道府県は、前項の支払に関する事務を、社会保険診療報酬支払基金又は省令で定める者に委託することができる。
(診療報酬の基準)
第三十九条 指定医療機関が行う第三十四条及び第三十五条に規定する医療に関する診療報酬は、指定医療機関が所在する市町村(特別区を含む。以下同じ。)に国民健康保険(特別国民健康保険組合又は社団法人の行うものを除く。以下同じ。)が行われているときは、その診療報酬の例により、指定医療機関が所在する市町村に国民健康保険が行われていないときは、健康保険の診療報酬の例によるものとする。
2 前項に規定する診療報酬の例によることができないとき、及びこれによることを適当としないときの診療報酬は、厚生大臣が結核予防審議会に諮問して定めるところによる。
(保険者等の行う申請)
第四十条 結核患者が被保険者等である場合においては、第三十四条第一項の申請は、同条同項に規定する者の外、保険者等も行うことができる。
(急迫時の特例)
第四十一条 都道府県は、その区域内に居住する結核患者が、急迫した事情があるため、第三十四条第一項の申請をしないで同条同項の規定に基く省令で定める医療を受けた場合においては、当該患者又はその保護者の申請により、第三十九条の例により算定した診療報酬の額の二分の一をこえない限度において、当該医療に要した費用の二分の一に相当する額の医療費をこれに支給することができる。
2 第三十四条第二項及び第三項の規定は、前項の申請に準用する。
3 第一項の医療費は、当該患者が当該医療を受けた当時それが必要であつたと認められる場合に限り、支給するものとする。
4 第三十七条第一項の規定は、第一項の医療費の支給を受ける者が社会保険各法の規定による被保険者等である場合に準用する。
(報告の請求及び検査)
第四十二条 都道府県知事は、第三十四条第一項及び第三十五条に規定する費用の負担を適正ならしめるため必要があると認めるときは、指定医療機関の管理者に対して必要な報告を求め、又は当該職員をして指定医療機関についてその管理者の同意を得て実地に診療録その他の帳簿書類を検査させることができる。
2 指定医療機関が、正当な理由がなく、前項の報告の求に応せず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の同意を拒んだときは、都道府県は、当該指定医療機関に対する診療報酬の支払を一時差し止めることができる。
(省令委任)
第四十三条 この法律に規定するものの外、第三十四条第一項及び第三十五条の申請の手続、第三十八条の診療報酬の請求並びに支払及びその事務の委託の手続その他この章で規定する費用の負担に関して必要な事項は、省令で定める。
第七章 結核予防審議会及び結核診査協議会
(結核予防審議会)
第四十四条 厚生大臣の諮問に応じ、結核の予防及び結核患者の医療に関する重要事項を調査審議させるため、厚生大臣の監督に属する結核予防審議会を置く。
2 結核予防審議会は、関係各大臣に意見を具申することができる。
(委員)
第四十五条 結核予防審議会は、委員三十人以内で組織する。
2 特別な事項を調査審議するため、必要があるときは、結核予防審議会に臨時委員を置くことができる。
3 委員及び臨時委員は、関係行政庁の職員、結核の予防又は結核患者の医療若しくは保護に関する事業に従事する者及び学識経験のある者のうちから、厚生大臣が任命する。
4 委員のうちから互選された者は、委員長として会務を総理する。
5 委員及び臨時委員は、非常勤とする。
6 委員(関係行政庁の職員のうちから任命された委員を除く。)の任期は、二年とする。
(庶務)
第四十六条 結核予防審議会の庶務は、厚生省公衆衛生局において処理する。
(運営)
第四十七条 この法律に規定するものの外、議事の手続その他結核予防審議会の運営に関し必要な事項は、結核予防審議会が定める。
(結核診査協議会)
第四十八条 都道府県知事の諮問に応じ、第三十四条第一項の申請に関する必要な事項を審議させるため、各保健所に結核診査協議会を置く。
2 結核診査協議会は、都道府県知事の監督に属する。
(委員)
第四十九条 結核診査協議会は、委員五人で組織する。
2 委員は、関係行政庁の職員及び結核の予防又は結核患者の医療に関する事業に従事する者のうちから、都道府県知事が任命する。
3 委員は、非常勤とする。
4 委員(関係行政庁の職員のうちから任命された委員を除く。)の任期は、二年とする。
5 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百三条の規定は、委員の給与に準用する。
(政令委任)
第五十条 この法律に規定するものの外、議事の手続その他結核診査協議会の運営に関し必要な事項は、政令で定める。
第八章 費用
(都道府県の支弁すべき費用)
第五十一条 都道府県は、左に掲げる費用を支弁しなければならない。
一 第四条第一項の規定により、その行う事業の使用者又はその設置する学校若しくは施設の長が行う定期の健康診断に要する費用
二 第五条の規定により、都道府県知事が行う定期外の健康診断に要する費用
三 第十三条第一項又は第二項の規定により、その行う事業の使用者又はその設置する学校若しくは施設の長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
四 第十四条の規定により、都道府県知事が行うツベルクリン反応検査及び定期外の予防接種に要する費用
五 第三十条又は第三十一条第一項の規定により、都道府県知事が当該職員をしてとらせた措置に要する費用
六 第三十一条第二項の規定による損失の補償に要する費用
七 第三十四条第一項の規定により負担する費用
八 第三十五条の規定により負担する費用
九 第四十一条第一項の規定による医療費の支給に要する費用
(市町村の支弁すべき費用)
第五十二条 市町村は、左に掲げる費用を支弁しなければならない。
一 第四条第一項の規定により、その行う事業の使用者又はその設置する学校若しくは施設の長が行う定期の健康診断に要する費用
二 第四条第三項の規定により、市町村長が行う定期の健康診断に要する費用
三 第十三条第一項又は第二項の規定により、その行う事業の使用者又はその設置する学校若しくは施設の長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
四 第十三条の規定により市町村長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
(都に関する特例)
第五十三条 都の区の存する区域については、左に掲げる費用は、前条の規定にかかわらず、都が支弁しなければならない。
一 第四条第三項の規定により、保健所長が行う定期の健康診断に要する費用
二 第十三条の規定により、保健所長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
(事業主の支弁すべき費用)
第五十四条 事業(国、都道府県又は市町村の行う事業を除く。)の事業主は、左に掲げる費用を支弁しなければならない。
一 第四条第一項の規定により、事業の使用者が行う定期の健康診断に要する費用
二 第十三条第一項又は第二項の規定により、事業の使用者が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
(学校又は施設の設置者の支弁すべき費用)
第五十五条 学校又は施設(国、都道府県又は市町村の設置する学校又は施設を除く。)の設置者は、左に掲げる費用を支弁しなければならない。
一 第四条第一項の規定により、学校又は施設の長が行う定期の健康診断に要する費用
二 第十三条第一項又は第二項の規定により、学校又は施設の長が行うツベルクリン反応検査及び定期の予防接種に要する費用
(都道府県の補助)
第五十六条 都道府県は、左に掲げる費用に対して、政令で定めるところにより、その三分の二を補助しなければならない。
一 第五十二条各号の費用(市町村の行う事業の使用者が行う健康診断に要する費用を除く。)
二 第五十四条第二号の費用
三 前条各号の費用
(国庫の補助)
第五十七条 国庫は、左に掲げる費用に対して、政令で定めるところにより、その二分の一を補助しなければならない。
一 第三十三条の規定により、厚生大臣が都道府県、市その他の地方公共団体に対して設置又は拡張を勧告した結核療養所の設置、拡張及び運営に要する費用
二 第五十一条各号の費用(都道府県の行う事業の使用者が行う健康診断に要する費用を除く。)
三 前条の規定により、都道府県が補助する費用
第五十八条 国庫は、第五十三条各号費用に対して、政令で定めるところにより、その三分の一を補助しなければならない。
第五十九条 国庫は、都道府県又は市町村に対して、政令で定めるところにより、その開設する結核療養所(第三十三条の規定により、厚生大臣が設置又は拡張を勧告したものを除く。)の設置、拡張及び運営に要する費用の二分の一を補助することができる。
第六十条 国庫は、結核療養所を開設する営利を目的としない法人に対して、政令で定めるところにより、その結核療養所の設置、拡張及び運営に要する費用の二分の一以内を補助することができる。
(実費の徴収)
第六十一条 健康診断実施者(使用者を除く。)又は予防接種実施者は、この法律の規定により健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を行つた場合においては、政令で定めるところにより、当該健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を受けた者(第八条又は第十七条第一項の規定により、健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を受けたものとみなされた者を除く。)又はその保護者から、その実費を徴収することができる。但し、その者が経済的事情により、その費用の全部又は一部を負担することが困難であると認められる場合においては、その全部又は一部については、この限りでない。
第九章 罰則
第六十二条 この法律の規定による健康診断、ツベルクリン反応検査若しくは予防接種の実施の事務に従事した者又は結核診査協議会の委員若しくはその職にあつた者が、その実施又は職務執行に関して知得した医師の業務上の秘密又は個人の心身の欠陥その他の秘密を正当の理由なしに漏らしたときは、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
第六十三条 左の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金に処する。
一 第七条第二項又は第十六条第二項の規定に違反した者
二 第二十二条第一項の規定による届出を怠つた医師
三 第二十六条又は第二十七条の規定に違反した医師
四 第二十八条第一項、第三十条又は第三十一条第一項の規定による都道府県知事の命令に従わなかつた者
五 第三十条から第三十二条までの規定による当該職員の職務の執行を拒み、妨げ又は忌避した者
六 第三十二条第一項の規定による当該職員の質問に対し、虚偽の答弁をした者
七 第五条の規定による健康診断又は第十四条の規定によるツベルクリン反応検査若しくは予防接種について、次条の規定に違反した者
第十章 雑則
(保護者の義務)
第六十四条 この法律の規定により健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を受けるべき者が十六歳未満の者又は禁治産者であるときは、その保護者において、その者に健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を受けさせるために必要な措置を講じなければならない。
(代執行)
第六十五条 都道府県知事は、事業(国、都道府県又は保健所を設置する市の行う事業を除く。)の使用者又は学校若しくは施設(国、都道府県又は保健所を設置する市の設置する学校又は施設を除く。)の長が、第四条第一項の規定による健康診断、第十三条第二項の規定によるツベルクリン反応検査又は同条第一項若しくは第二項の規定による予防接種を行わないか、又は行つても十分でないと認めるときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の例により、みずから健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を行い、その費用を当該事業の事業主又は学校若しくは施設の設置者から徴収することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定により健康診断又はツベルクリン反応検査を行つたときは、さらに予防接種を行い、また、予防接種を行うに当つては、あらかじめツベルクリン反応検査を行い、その費用を当該事業の事業主又は学校若しくは施設の設置者から徴収することができる。
(他の行政庁との協議)
第六十六条 保健所長は、第四条第二項の規定により、労働基準法の適用を受ける事業の使用者に対して指示をするに当つては、あらかじめ、当該事業の所在地を管轄する労働基準監督署長と協議しなければならない。
2 保健所長は、教育委員会の所管に属する学校については、第四条第二項の指示に代えて、その指示すべき事項を当該教育委員会に通知するものとする。
3 教育委員会は、前項の通知があつたときは、必要な事項を当該学校に指示するものとする。
4 都道府県知事は、第五条、第十四条又は前条の規定によつて、労働基準法の適用を受ける事業で業務に従事する者又は学校の職員、学生、生徒、児童若しくは幼児を主たる対象として健康診断、ツベルクリン反応検査又は予防接種を行うに当つては、あらかじめ、それぞれ当該事業の所在地を管轄する都道府県労働基準局長又は当該学校の所轄庁と協議しなければならない。
(訴願)
第六十七条 第二十八条から第三十一条までの規定による都道府県知事の命令に不服がある者は、厚生大臣に訴願することができる。
(保健所を設置する市)
第六十八条 保健所を設置する市にあつては、第五条、第十四条、第三十条、第三十一条第一項、第三項及び第四項、第三十二条第一項、第三十四条第二項及び第三項、第四十二条第一項、第四十八条第一項及び第二項、第四十九条第二項、第五十一条第二号、第四号及び第五号、第六十三条第四号、第六十五条、第六十六条第四項並びに前条中「都道府県知事」とあるのは「市長」と、第三十一条第二項、第三十四条第一項、第三十六条第二項、第三十七条第二項、第三十八条、第四十一条第一項、第四十二条第二項並びに第五十一条中「都道府県」とあるのは「市」と読み替えるものとする。但し、第五十一条については、第二号、第四号から第七号まで及び第九号に関してのみ、「都道府県」とあるのを「市」と読み替えるものとする。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和二十六年四月一日から施行する。但し、第三十四条及び第三十五条の規定は、同年十月一日から施行する。
(旧結核予防法の廃止)
2 結核予防法(大正八年法律第二十六号。以下「旧法」という。)は、廃止する。
(伝染病届出規則の一部改正)
3 伝染病届出規則(昭和二十二年厚生省令第五号)の一部を次のように改正する。
第一条第十二号を次のように改める。
一二 削除
第五条中「結核、」及び「結核予防法、」を削る。
(予防接種法の一部改正)
4 予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)の一部を次のように改正する。
第二条第二項第六号を次のように改める。
六 削除
第十四条を次のように改める。
第十四条 削除
第十八条中「若しくは」を「又は」に改め、「又は結核にかかつているか若しくはツベルクリン反応の陽性の者で省令で定めるもの」を削る。
(届出に関する経過規定)
5 旧法第一条又は伝染病届出規則第一条第十二号の規定によつてなされた届出は、第二十二条の規定によつてなされた届出とみなす。
(従業禁止に関する経過規定)
6 この法律の施行の際、現に旧法第四条第一項第二号の規定によつて、職業に従事することを禁止されている結核患者は、第二十八条の規定によつて禁止されている者とみなす。
(罰則に関する経過規定)
7 この法律の施行前になした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)
8 社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の一部を次のように改正する。
第十三条第二項中「意見を述べることができる。」を「意見を述べ、また、結核予防法(昭和二十六年法律第九十六号)第三十八条第三項の規定により指定医療機関に対する診療報酬の支払事務を委託されたときは、その支払に必要な事務を行うことができる。」に改め、同条第三項中「(前項の場合においては都道府県知事)」の下に「又は保健所を設置する市の市長」を加える。
第十四条第二項中「七人以下」を「九人以下」に改める。
(厚生省設置法の一部改正)
9 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第二十九条の表中、栄養士試験審査会の項の次に次の一項を加える。
結核予防審議会
厚生大臣の諮問に応じて、結核の予防及び結核患者の医療に関する重要事項を調査審議すること
内閣総理大臣 吉田茂
法務総裁 大橋武夫
外務大臣 吉田茂
大蔵大臣 池田勇人
文部大臣 天野貞祐
厚生大臣 黒川武雄
農林大臣 広川弘禅
通商産業大臣 横尾龍
運輸大臣 山崎猛
郵政大臣 田村文吉
電気通信大臣 田村文吉
労働大臣 保利茂
建設大臣 増田甲子七
経済安定本部総裁 吉田茂