朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル結核豫防法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正八年三月二十六日
內閣總理大臣 原敬
內務大臣 床次竹二郞
法律第二十六號
結核豫防法
第一條 本法ニ於テ結核ト稱スルハ肺結核又ハ喉頭結核ニシテ病毒傳播ノ危險アルモノヲ謂フ
第二條 醫師結核患者ヲ診斷シ又ハ其ノ死體ヲ檢案シタルトキハ患者ノ場合ニ在リテハ患者又ハ其ノ居住ノ場所ノ管理ヲ爲ス者若ハ其ノ代理ヲ爲ス者、死體ノ場合ニ在リテハ死體所在ノ場所ノ管理ヲ爲ス者又ハ其ノ代理ヲ爲ス者ニ命令ノ定ムル所ニ依リ消毒其ノ他ノ豫防方法ヲ指示スヘシ
前項ノ規定ニ依リ指示ヲ受ケタル者ハ其ノ指示ニ從ヒ消毒其ノ他ノ豫防方法ヲ行フヘシ
第三條 行政官廳ハ結核患者又ハ其ノ死者アリタル場所ニ付家屋物件ノ消毒其ノ他ノ豫防方法ヲ施行シ又ハ其ノ施行ヲ患者又ハ場所ノ管理ヲ爲ス者若ハ其ノ代理ヲ爲ス者ニ命スルコトヲ得
第四條 行政官廳ハ結核豫防上必要ト認ムルトキハ左ノ事項ヲ行フコトヲ得
一 業態上病毒傳播ノ虞アル職業ニ從事スル者又ハ病毒蔓延ノ虞アル場所ニ居住シ若ハ其ノ場所ニ於テ職業ニ從事スル者ニ對シ健康診斷ヲ施行スルコト
二 結核患者ニ對シ業態上病毒傳播ノ虞アル職業ニ從事スルヲ禁止スルコト
三 學校、病院、製造所其ノ他ノ多衆ノ集合スル場所又ハ旅店、料理店、理髮店其ノ他ノ客ノ來集ヲ目的トスル場所ニ付病毒傳播ノ媒介トナルヘキ事項ヲ制限シ若ハ禁止シ又ハ場所ノ管理ヲ爲ス者若ハ其ノ代理ヲ爲ス者ニ對シ結核豫防上必要ナル施設ヲ爲サシムルコト
四 古著、古蒲團、古本、紙屑、襤褸、飮食物其ノ他ノ物件ニシテ病毒ニ汚染シ又ハ其ノ疑アルモノノ賣買若ハ授受ヲ制限シ若ハ禁止シ、其ノ物件ノ消毒若ハ廢棄ヲ爲サシメ又ハ其ノ物件ノ廢棄ヲ爲スコト
地方長官ニ於テ前項ノ規定ニ依リ健康診斷ヲ施行シ又ハ物件ノ廢棄ヲ爲ス場合ニ於テハ其ノ費用ハ北海道地方費又ハ府縣ノ負擔トス
第五條 地方長官ハ結核豫防上必要ト認ムルトキハ採光、換氣其ノ他ノ關係ニ於テ衞生上不良ナル建物ノ使用ヲ制限シ又ハ禁止スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル制限又ハ禁止ニ因リ生シタル損害ニ對シテハ地方長官必要ト認ムルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ補償金ヲ交付ス補償金ハ北海道地方費又ハ府縣ノ負擔トス
第六條 主務大臣ハ結核患者ニシテ療養ノ途ナキモノヲ收容セシムル爲人口五萬以上ノ市又ハ特ニ必要ト認ムル其ノ他ノ公共團體ニ對シテ結核療養所ノ設置ヲ命スルコトヲ得
第七條 地方長官ハ結核患者ニシテ療養ノ途ナキモノ及豫防上特ニ必要ト認ムルモノヲ前條ノ規定ニ依リ設置スル結核療養所ニ入所セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル入所ノ費用ノ負擔及徵收ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八條 國庫ハ勅令ノ定ムル所ニ從ヒ第六條ノ規定ニ依リ結核療養所ヲ設置スル公共團體ニ對シ其ノ結核療養所ニ關シ公共團體ノ支出スル經費ノ六分ノ一乃至二分ノ一ヲ補助ス
第九條 國庫ハ勅令ノ定ムル所ニ從ヒ第六條ノ規定ニ依ラスシテ結核療養所ヲ設置スル公共團體又ハ公益法人ニ對シ其ノ結核療養所ニ關シ公共團體又ハ公益法人ノ支出スル經費ノ二分ノ一以內ヲ補助スルコトヲ得
第十條 結核療養所ヲ設置スル公共團體ニシテ第八條又ハ前條ノ規定ニ依ル補助ヲ受クルモノハ他ノ公共團體ノ委託アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ療養ノ途ナキ結核患者ヲ其ノ結核療養所ニ收容スヘシ
第十一條 北海道地方費又ハ府縣ハ勅令ノ定ムル所ニ從ヒ第四條第一項第二號ノ規定ニ依ル從業禁止又ハ第七條第一項ノ規定ニ依ル入所ニ因リ生活スルコト能ハサル者ニ對シ其ノ生活費ヲ補給スヘシ
第十二條 國庫ハ第四條第二項、第五條第二項又ハ前條ノ規定ニ依リ支出ヲ爲ス北海道地方費又ハ府縣ニ對シ其ノ支出額ノ四分ノ一ヲ補助ス
第十三條 官廳、公署、官立公立ノ學校病院製造所等ニ於テハ其ノ長ハ第四條第一項第三號第四號及第五條第一項ノ規定ニ準シ結核豫防ニ關スル事項ヲ施行スヘシ
第十四條 第二條ノ規定ニ違反シタル者又ハ第三條ノ規定ニ依ル行政官廳ノ命令ニ違反シタル者ハ科料ニ處ス
第十五條 第四條第一項又ハ第五條第一項ノ規定ニ依ル行政官廳ノ命令又ハ處分ニ違反シタル者ハ百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
大正三年法律第十六號ハ之ヲ廢止ス
大正三年法律第十六號ニ依リ設置ヲ命シタル肺結核療養所ハ本法ニ依リ設置ヲ命シタル結核療養所ト看做ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル結核予防法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正八年三月二十六日
内閣総理大臣 原敬
内務大臣 床次竹二郎
法律第二十六号
結核予防法
第一条 本法ニ於テ結核ト称スルハ肺結核又ハ喉頭結核ニシテ病毒伝播ノ危険アルモノヲ謂フ
第二条 医師結核患者ヲ診断シ又ハ其ノ死体ヲ検案シタルトキハ患者ノ場合ニ在リテハ患者又ハ其ノ居住ノ場所ノ管理ヲ為ス者若ハ其ノ代理ヲ為ス者、死体ノ場合ニ在リテハ死体所在ノ場所ノ管理ヲ為ス者又ハ其ノ代理ヲ為ス者ニ命令ノ定ムル所ニ依リ消毒其ノ他ノ予防方法ヲ指示スヘシ
前項ノ規定ニ依リ指示ヲ受ケタル者ハ其ノ指示ニ従ヒ消毒其ノ他ノ予防方法ヲ行フヘシ
第三条 行政官庁ハ結核患者又ハ其ノ死者アリタル場所ニ付家屋物件ノ消毒其ノ他ノ予防方法ヲ施行シ又ハ其ノ施行ヲ患者又ハ場所ノ管理ヲ為ス者若ハ其ノ代理ヲ為ス者ニ命スルコトヲ得
第四条 行政官庁ハ結核予防上必要ト認ムルトキハ左ノ事項ヲ行フコトヲ得
一 業態上病毒伝播ノ虞アル職業ニ従事スル者又ハ病毒蔓延ノ虞アル場所ニ居住シ若ハ其ノ場所ニ於テ職業ニ従事スル者ニ対シ健康診断ヲ施行スルコト
二 結核患者ニ対シ業態上病毒伝播ノ虞アル職業ニ従事スルヲ禁止スルコト
三 学校、病院、製造所其ノ他ノ多衆ノ集合スル場所又ハ旅店、料理店、理髪店其ノ他ノ客ノ来集ヲ目的トスル場所ニ付病毒伝播ノ媒介トナルヘキ事項ヲ制限シ若ハ禁止シ又ハ場所ノ管理ヲ為ス者若ハ其ノ代理ヲ為ス者ニ対シ結核予防上必要ナル施設ヲ為サシムルコト
四 古著、古蒲団、古本、紙屑、襤褸、飲食物其ノ他ノ物件ニシテ病毒ニ汚染シ又ハ其ノ疑アルモノノ売買若ハ授受ヲ制限シ若ハ禁止シ、其ノ物件ノ消毒若ハ廃棄ヲ為サシメ又ハ其ノ物件ノ廃棄ヲ為スコト
地方長官ニ於テ前項ノ規定ニ依リ健康診断ヲ施行シ又ハ物件ノ廃棄ヲ為ス場合ニ於テハ其ノ費用ハ北海道地方費又ハ府県ノ負担トス
第五条 地方長官ハ結核予防上必要ト認ムルトキハ採光、換気其ノ他ノ関係ニ於テ衛生上不良ナル建物ノ使用ヲ制限シ又ハ禁止スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル制限又ハ禁止ニ因リ生シタル損害ニ対シテハ地方長官必要ト認ムルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ補償金ヲ交付ス補償金ハ北海道地方費又ハ府県ノ負担トス
第六条 主務大臣ハ結核患者ニシテ療養ノ途ナキモノヲ収容セシムル為人口五万以上ノ市又ハ特ニ必要ト認ムル其ノ他ノ公共団体ニ対シテ結核療養所ノ設置ヲ命スルコトヲ得
第七条 地方長官ハ結核患者ニシテ療養ノ途ナキモノ及予防上特ニ必要ト認ムルモノヲ前条ノ規定ニ依リ設置スル結核療養所ニ入所セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル入所ノ費用ノ負担及徴収ニ関シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八条 国庫ハ勅令ノ定ムル所ニ従ヒ第六条ノ規定ニ依リ結核療養所ヲ設置スル公共団体ニ対シ其ノ結核療養所ニ関シ公共団体ノ支出スル経費ノ六分ノ一乃至二分ノ一ヲ補助ス
第九条 国庫ハ勅令ノ定ムル所ニ従ヒ第六条ノ規定ニ依ラスシテ結核療養所ヲ設置スル公共団体又ハ公益法人ニ対シ其ノ結核療養所ニ関シ公共団体又ハ公益法人ノ支出スル経費ノ二分ノ一以内ヲ補助スルコトヲ得
第十条 結核療養所ヲ設置スル公共団体ニシテ第八条又ハ前条ノ規定ニ依ル補助ヲ受クルモノハ他ノ公共団体ノ委託アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ療養ノ途ナキ結核患者ヲ其ノ結核療養所ニ収容スヘシ
第十一条 北海道地方費又ハ府県ハ勅令ノ定ムル所ニ従ヒ第四条第一項第二号ノ規定ニ依ル従業禁止又ハ第七条第一項ノ規定ニ依ル入所ニ因リ生活スルコト能ハサル者ニ対シ其ノ生活費ヲ補給スヘシ
第十二条 国庫ハ第四条第二項、第五条第二項又ハ前条ノ規定ニ依リ支出ヲ為ス北海道地方費又ハ府県ニ対シ其ノ支出額ノ四分ノ一ヲ補助ス
第十三条 官庁、公署、官立公立ノ学校病院製造所等ニ於テハ其ノ長ハ第四条第一項第三号第四号及第五条第一項ノ規定ニ準シ結核予防ニ関スル事項ヲ施行スヘシ
第十四条 第二条ノ規定ニ違反シタル者又ハ第三条ノ規定ニ依ル行政官庁ノ命令ニ違反シタル者ハ科料ニ処ス
第十五条 第四条第一項又ハ第五条第一項ノ規定ニ依ル行政官庁ノ命令又ハ処分ニ違反シタル者ハ百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
大正三年法律第十六号ハ之ヲ廃止ス
大正三年法律第十六号ニ依リ設置ヲ命シタル肺結核療養所ハ本法ニ依リ設置ヲ命シタル結核療養所ト看做ス