自動車損害賠償保障法
法令番号: 法律第九十七号
公布年月日: 昭和30年7月29日
法令の形式: 法律
自動車損害賠償保障法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十年七月二十九日
内閣総理大臣 鳩山一郎
法律第九十七号
自動車損害賠償保障法
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
自動車損害賠償責任(第三条・第四条)
第三章
自動車損害賠償責任保険
第一節
自動車損害賠償責任保険契約の締結強制(第五条―第十条)
第二節
自動車損害賠償責任保険契約(第十一条―第二十三条)
第三節
自動車損害賠償責任保険事業(第二十四条―第三十条)
第四節
自動車損害賠償責任保険審議会(第三十一条―第三十九条)
第五節
政府の自動車損害賠償責任再保険事業(第四十条―第五十四条)
第四章
自動車損害賠償自家保障(第五十五条―第七十条)
第五章
政府の自動車損害賠償保障事業(第七十一条―第八十二条)
第六章
雑則(第八十三条―第八十六条)
第七章
罰則(第八十七条―第九十一条)
附則
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「自動車」とは、道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第二条第二項に規定する自動車をいう。
2 この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。
3 この法律で「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。
4 この法律で「運転者」とは、他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者をいう。
第二章 自動車損害賠償責任
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
(民法の適用)
第四条 自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。
第三章 自動車損害賠償責任保険
第一節 自動車損害賠償責任保険契約の締結強制
(責任保険の契約の締結強制)
第五条 自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。
(保険者)
第六条 責任保険の保険者(以下「保険会社」という。)は、保険業法(昭和十四年法律第四十一号)又は外国保険事業者に関する法律(昭和二十四年法律第百八十四号)に基き責任保険の事業を営むことができる者とする。
(自動車損害賠償責任保険証明書)
第七条 保険会社は、保険料の支払があつたときは、保険契約者に対して、当該自動車につき自動車損害賠償責任保険証明書を交付しなければならない。
2 保険契約者は、当該自動車損害賠償責任保険証明書の記載事項について変更があつたときは、自動車損害賠償責任保険証明書にその変更についての記入を受けなければならない。
3 保険会社は、前項の規定による記入の申出があつたときは、遅滞なく、その記入を行わなければならない。ただし、第二十二条第三項又は第四項の規定による請求をした場合において、その金額の支払がなかつたときは、この限りでない。
4 保険契約者は、自動車損害賠償責任保険証明書が滅失し、損傷し、又はその識別が困難となつたときは、保険会社に対して、その再交付を求めることができる。
5 自動車損害賠償責任保険証明書の記載事項その他自動車損害賠償責任保険証明書に関する細目は、運輸省令で定める。
(自動車損害賠償責任保険証明書の備付)
第八条 自動車は、自動車損害賠償責任保険証明書(前条第二項の規定により変更についての記入を受けなければならないものにあつては、その記入を受けた自動車損害賠償責任保険証明書。次条において同じ。)を備え付けなければ、運行の用に供してはならない。
(自動車損害賠償責任保険証明書の提示)
第九条 道路運送車両法第四条、第十二条から第十四条まで、第十七条、第三十四条、第五十八条、第六十二条から第六十四条まで、第六十七条、第六十八条、第七十条、第七十一条又は第九十七条の三に規定する処分を受けようとする者は、当該行政庁に対して、自動車損害賠償責任保険証明書をも提示しなければならない。
2 当該行政庁は、自動車損害賠償責任保険証明書の提示がないときは、前項の処分をしないものとする。
(適用除外)
第十条 第五条及び第七条から前条までの規定は、国、日本専売公社、日本国有鉄道、日本電信電話公社、都道府県、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百五十五条第二項の市その他政令で定める者が運行の用に供する自動車及び道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)による道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)による自動車道及びその他の一般交通の用に供する場所をいう。以下同じ。)以外の場所のみにおいて運行の用に供する自動車については、適用しない。
第二節 自動車損害賠償責任保険契約
(責任保険の契約)
第十一条 責任保険の契約は、第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生した場合において、これによる保有者の損害及び運転者もその被害者に対して損害賠償の責任を負うべきときのこれによる運転者の損害を保険会社がてん補することを約し、保険契約者が保険会社に保険料を支払うことを約することによつて、その効力を生ずる。
第十二条 責任保険の契約は、自動車一両ごとに締結しなければならない。
(保険金額)
第十三条 責任保険の保険金額は、政令で定める。
(免責)
第十四条 保険会社は、保険契約書又は被保険者の悪意によつて生じた損害についてのみ、てん補の責を免かれる。
(保険金の請求)
第十五条 被保険者は、被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ、保険会社に対して保険金の支払を請求することができる。
(保険会社に対する損害賠償額の請求)
第十六条 第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
2 被保険者が被害者に損害の賠償をした場合において、保険会社が被保険者に対してその損害をてん補したときは、保険会社は、そのてん補した金額の限度において、被害者に対する前項の支払の義務を免かれる。
3 第一項の規定により保険会社が被害者に対して損害賠償額の支払をしたときは、保険契約者又は被保険者の悪意によつて損害が生じた場合を除き、保険会社が、責任保険の契約に基き被保険者に対して損害をてん補したものとみなす。
4 保険会社は、保険契約者又は被保険者の悪意によつて損害が生じた場合において、第一項の規定により被害者に対して損害賠償額の支払をしたときは、その支払つた金額について、政府に対して補償を求めることができる。
(被害者に対する仮渡金)
第十七条 保有者が、責任保険の契約に係る自動車の運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、政令で定める金額を前条第一項の規定による損害賠償額の支払のための仮渡金として支払うべきことを請求することができる。
2 保険会社は、前項の請求があつたときは、遅滞なく、請求に係る金額を支払わなければならない。
3 保険会社は、第一項の仮渡金の金額が支払うべき損害賠償額をこえた場合には、そのこえた金額の返還を請求することができる。
4 保険会社は、保有者の損害賠償の責任が発生しなかつた場合において、第一項の仮渡金を支払つたときは、その支払つた金額について、政府に対して補償を求めることができる。
(差押の禁止)
第十八条 第十六条第一項及び前条第一項の規定による請求権は、差し押えることができない。
(時効)
第十九条 第十六条第一項及び第十七条第一項の規定による請求権は、二年を経過したときは、時効によつて消滅する。
(告知すべき重要な事実等)
第二十条 商法(明治三十二年法律第四十八号)第六百四十四条に規定する重要な事実又は事項は、責任保険の契約にあつては、次のとおりとする。
一 道路運送車両法の規定による自動車登録番号又は車両番号(これらが存しない場合にあつては、車台番号)
二 政令で定める自動車の種別
(告知義務違反による契約解除の効力)
第二十一条 商法第六百四十四条の規定により、保険会社が責任保険の契約を解除したときは、その解除は、保険契約者が解除の通知を受けた日から起算して七日の後に、将来に向つてその効力を生ずる。
2 前項の解除の効力が生ずる日前に危険が発生した場合には、商法第六百四十五条第二項の規定にかかわらず、保険会社は、損害をてん補する責に任ずる。この場合において、保険会社が損害をてん補したときは、保険契約者に対し、そのてん補した金額の支払を請求することができる。
(危険の増加又は減少による契約の変更)
第二十二条 保険期間中に危険が増加し、又は減少したときは、責任保険の契約は、新たな危険に対応する責任保険の契約に変更されたものとみなす。
2 保険契約者又は被保険者は、保険期間中に危険が増加したことを知つたときは、遅滞なく、これを保険会社に通知しなければならない。
3 保険期間中に危険が増加した後に危険が発生し、保険会社が損害をてん補した場合において、保険契約者又は被保険者が前項の通知を怠つていたときは、保険会社は、保険契約者に対し、そのてん補した金額の支払を請求することができる。
4 保険会社は、第一項の場合において、危険が増加したときは、保険契約者に対し、政令で定めるところにより増加する額の保険料の支払を請求することができる。
5 保険契約者は、第一項の場合において、危険が減少したときは、保険会社に対し、政令で定めるところにより減少する額の保険料の返還を請求することができる。
(商法の適用)
第二十三条 責任保険の契約については、この法律に別段の定がある場合を除くほか、商法第三編第十章第一節第一款の規定による。
第三節 自動車損害賠償責任保険事業
(責任保険の契約の締結義務)
第二十四条 保険会社は、政令で定める正当な理由がある場合を除き、責任保険の契約の締結を拒絶してはならない。
(保険料率)
第二十五条 大蔵大臣は、責任保険に関し、次の各号に掲げる処分についての申請があつた場合において、当該申請に係る保険料率が能率的な経営の下における適正な原価を償うものでなく、又は保険料率の算定につき営利の目的の介入があるときは、これらの処分をしてはならない。
一 保険業法第一条第一項の規定による免許又は同法第十条第一項の規定による認可
二 損害保険料率算出団体に関する法律(昭和二十三年法律第百九十三号)第十条第一項の規定による認可
三 外国保険事業者に関する法律第三条第一項の規定による免許、同法第五条の規定による認可又は同法第十九条において準用する保険業法第十条第一項の規定による認可
第二十六条 責任保険については、損害保険料率算出団体に関する法律第十条の二、第十条の三、第十条の五第二項及び第十条の八から第十条の十二までの規定は、適用しない。
第二十七条 大蔵大臣は、責任保険の保険料が能率的な経営の下における適正な原価をこえると認めるときは、保険会社又は損害保険料率算出団体に関する法律第二条第二項の規定による損害保険料率算出団体に対して、責任保険の保険料率の変更を命ずることができる。
(同意)
第二十八条 大蔵大臣は、責任保険の保険約款及び保険料率に関し、次の各号に掲げる処分をしようとするときは、あらかじめ、運輸大臣の同意を得るものとする。
一 第二十五条各号に掲げる処分
二 前条の規定による変更命令
三 保険業法第十条第二項(外国保険事業者に関する法律第十九条において準用する場合を含む。)又は損害保険料率算出団体に関する法律第十条の六の規定による命令
2 大蔵大臣は、保険会社がこの法律若しくはこの法律に基く命令若しくはこれらに基く処分又は責任保険の保険約款若しくは保険料率について保険業法若しくは外国保険事業者に関する法律若しくはこれらに基く命令若しくはこれらに基く処分に違反した場合において、保険業法第十二条第一項又は外国保険事業者に関する法律第二十二条第一項の規定による処分をしようとするときは、あらかじめ、運輸大臣の同意を得るものとする。
(共同行為に関する通知)
第二十九条 大蔵大臣は、保険業法第十二条ノ三の規定による責任保険の事業に関する共同行為に関して、保険業法第十二条ノ六第一項(外国保険事業者に関する法律第十九条において準用する場合を含む。)の規定による届出があつたときは、その旨を運輸大臣に通知するものとする。
(代理店契約)
第三十条 保険会社は、自動車運送又は通運事業の振興を図ることを目的として組織する団体その他の者であつて、責任保険の事業の円滑な遂行上適当と認められるものと責任保険に関する代理店契約を締結するものとする。
第四節 自動車損害賠償責任保険審議会
(設置)
第三十一条 大蔵省に、自動車損害賠償責任保険審議会(以下「審議会」という。)を置く。
(権限)
第三十二条 審譲会は、大蔵大臣の諮問に応じて、責任保険に関する重要事項を調査審議し、及びこれらに関し必要と認める事項を関係大臣に建議する。
(諮問)
第三十三条 大蔵大臣は、第二十八条第一項各号に規定する処分をしようとするときは、審議会にはからなければならない。
(組織)
第三十四条 審議会は、委員十一人をもつて組織する。
(委員)
第三十五条 委員のうち四人は、関係行政機関の職員のうちから、大蔵大臣が任命する。
2 前項の委員以外の委員は、次に掲げる者につき、大蔵大臣が運輸大臣の同意を得て、任命する。
一 学識経験のある者 三人
二 自動車運送に関し深い知識及び経験を有する者 二人
三 保険事業に関し深い知識及び経験を有する者 二人
3 前項の委員の任期は、二年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
4 委員は、非常勤とする。
(会長)
第三十六条 審議会に会長を置き、委員の互選によつてこれを定める。
2 会長は、会務を総理する。
(議決方法)
第三十七条 審議会は、委員の過半数の出席がなければ、議事を開き、議決をすることができない。
2 審議会の議事は、出席者の過半数をもつて決する。可否同数のときは、会長の決するところによる。
(審議会の庶務)
第三十八条 審議会の庶務は、大蔵省銀行局において処理する。
(省令への委任)
第三十九条 この法律に規定するもののほか、審議会に関し必要な事項は、大蔵省令で定める。
第五節 政府の自動車損害賠償責任再保険事業
(再保険)
第四十条 政府は、保険会社が責任保険の事業によつて負う保険責任を再保険するものとする。
(再保険関係の成立)
第四十一条 政府と保険会社との間の再保険関係は、保険会社と保険契約者との間の責任保険関係の成立により、その成立の時において成立する。
(再保険金額)
第四十二条 再保険金額は、責任保険の保険金額の百分の六十とする。
(再保険料率)
第四十三条 再保険料率は、責任保険の保険料率に政令で定める割合を乗じたものとする。
(政府の支払うベき再保険金の金額)
第四十四条 政府が支払うべき再保険金の金額は、保険会社が支払うべき保険金の金額の百分の六十とする。
(再保険料の払いもどし)
第四十五条 政府は、保険会社が、保険約款で定めるところにより保険料の払いもどしをしたときは、政令で定めるところにより、保険会社に対して再保険料の一部を払いもどすことができる。
(保険代位等の場合の納付)
第四十六条 保険会社は、責任保険に関して代位により取得した権利を行使したときは、その行使によつて得た金額の百分の六十を政府に納付しなければならない。
2 保険会社は、第二十一条第二項後段又は第二十二条第三項の規定による支払を受けたときは、支払を受けた金額の百分の六十を政府に納付しなければならない。
(通知)
第四十七条 保険会社は、保険契約者との間に責任保険関係が成立したときは、運輸省令で定めるところにより、遅滞なく、当該責任保険関係に関する事項を運輸大臣に通知しなければならない。通知した事項に変更を生じたときも、同様とする。
2 保険会社は、責任保険に関し損害をてん補すべき原因が発生したと認めるときは、運輸省令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を運輸大臣に通知しなければならない。
(免責)
第四十八条 次の場合には、政府は、再保険金の全部又は一部につき、支払の責を免かれる。
一 保険会社が、法令又は保険約款に違反して損害をてん補したとき。
二 保険会社が、てん補額を不当に認定して損害をてん補したとき。
三 保険会社が、故意若しくは重大な過失により前条の規定による通知を怠り、又は虚偽の通知をしたとき。
(時効)
第四十九条 再保険金の支払の義務及び再保険料の払いもどしの義務は二年、再保険料の支払の義務は一年を経過したときは、時効によつて消滅する。
(再保険事業に関する経費の繰入)
第五十条 政府は、この節に規定する再保険事業(以下「自動車損害賠償責任再保険事業」という。)の業務の執行に要する経費に相当する金額を、毎会計年度、予算で定めるところにより、一般会計から自動車損害賠償責任再保険特別会計に繰り入れるものとする。
(審査の請求)
第五十一条 保険会社は、自動車損害賠償責任再保険事業に関する政府の処分につき不服があるときは、運輸大臣に対し、審査の請求をすることができる。
2 前項の規定による審査の請求があつたときは、運輸大臣は、自動車損害賠償責任再保険審査会の審査を経て裁決する。
3 第一項の審査の請求は、時効の中断に関しては、裁判上の請求とみなす。
(自動車損害賠償責任再保険審査会)
第五十二条 運輸省に、自動車損害賠償責任再保険審査会を置く。
2 自動車損害賠償責任再保険審査会は、前条第二項の規定によりその権限に属する事項を処理する。
第五十三条 自動車損害賠償責任再保険審査会は、委員五人をもつて組織する。
2 委員は、学識経験のある者のうちから、運輸大臣が任命する。
3 委員は、非常勤とする。
4 前三項に規定するもののほか、自動車損害賠償責任再保険審査会の委員及び運営に関し必要な事項は、運輸省令で定める。
(政令への委任)
第五十四条 この法律に規定するもののほか、再保険に関し必要な事項は、政令で定める。
第四章 自動車損害賠償自家保障
(自動車損害賠償自家保障の許可)
第五十五条 運輸大臣の行う自動車損害賠償自家保障の許可を受けた者(以下「自家保障者」という。)は、第五条の規定にかかわらず、許可に係る自動車を運行の用に供することができる。
(許可基準)
第五十六条 運輸大臣は、前条の許可をしようとするときは、次の基準によつて、これをしなければならない。
一 許可を受けようとする者が政令で定める両数以上の両数の自動車を有する者であること。
二 許可を受けようとする者が第三条の規定による損害賠償を適確に行うに足りる経理的基礎及び組織を有する者であること。
三 許可を受けようとする者の使用する自動車について、自動車事故をひん発するおそれがないこと。
四 許可を受けようとする者が第六十六条第一項の規定による許可の取消を受け、その取消の日から一年を経過していない者でないこと。
(自動車損害賠償支払準備金の積立)
第五十七条 自家保障者は、毎事業年度、運輸省令で定める金額を、自動車損害賠償支払準備金として積み立てなければならない。
(損害賠償に充てるための資産の管理)
第五十八条 自家保障者は、運輸省令で定める方法により、その使用する自動車に係る第三条の規定による損害賠償に充てるための資産の管理をしなければならない。
(自動車損害賠償支払準備金の使用)
第五十九条 自動車損害賠償支払準備金は、自家保障者が、その使用する自動車に係る第三条の規定による損害賠償に充てる場合を除き、これを使用してはならない。
(先取特権)
第六十条 自家保障者に対し第三条の規定による損害賠償の請求権を有する者は、自家保障者の総財産の上に先取特権を有する。
2 前項の先取特権の順位は、民法第三百六条第一号に掲げる先取特権に次ぎ、商法第二百九十五条第一項(有限会社法(昭和十三年法律第七十四号)第四十六条第二項において準用する場合を含む。)の先取特権に先だつ。
(仮渡金)
第六十一条 自家保障者が、第五十五条の許可に係る自動車の運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、被害者は、政令で定めるところにより、自家保障者に対し、政令で定める金額を損害賠償額の支払のための仮渡金として支払うべきことを請求することができる。
2 第十七条第二項の規定は、自家保障者について、同条第三項及び第四項の規定は、自家保障者が前項の規定により仮渡金を支払つた場合に準用する。
(差押の禁止)
第六十二条 前条第一項の規定による請求権は、差し押えることができない。
(自動車損害賠償自家保障証明書)
第六十三条 運輸大臣は、自家保障者に対し、その使用する自動車一両ごとに、自動車損害賠償自家保障証明書を交付しなければならない。
2 自家保障者は、当該自動車損害賠償自家保障証明書について変更があつたときは、自動車損害賠償自家保障証明書にその変更についての記入を受けなければならない。
3 自家保障者は、自動車損害賠償自家保障証明書が滅失し、損傷し、又はその識別が困難となつたときは、運輸大臣に対して、その再交付を求めることができる。
4 自動車損害賠償自家保障証明書の記載事項その他自動車損害賠償自家保障証明書に関する細目は、運輪省令で定める。
第六十四条 自動車損害賠償自家保障証明書は、自家保障者から第七十八条第一項の自動車損害賠償保障事業賦課金の納付を受けた後でなければ、交付しないものとする。
第六十五条 自家保障者が運行の用に供する自動車に係る第八条及び第九条の規定の適用については、自動車損害賠償自家保障証明書を自動車損害賠償責任保険証明書とみなす。
(許可の取消)
第六十六条 運輸大臣は、自家保障者が、第五十六条第一号から第三号までに掲げる基準に適合しなくなつたと認めるとき、この法律若しくはこの法律に基く命令に違反したとき、又は引き続き自家保障者であることが被害者の保護に欠けるおそれがあると認めるときは、第五十五条の許可を取り消すことができる。
2 前項の規定により許可を取り消された者は、当該許可に係る自動車損害賠償自家保障証明書を七日以内に運輸大臣に返納しなければならない。
(許可の失効)
第六十七条 自家保障者が、当該自動車について責任保険の契約を締結したときは、第五十五条の許可は、その効力を失う。
2 自家保障者は、前項の規定により第五十五条の許可がその効力を失つたときは、七日以内に、当該自動車損害賠償自家保障証明書を添えて、その旨を運輸大臣に届け出なければならない。
第六十八条 自家保障者が、死亡し、又は解散したときは、第五十五条の許可は、その効力を失う。
2 前条第二項の規定は、次の各号に掲げる者について準用する。
一 自家保障者が死亡したときは、その相続人
二 自家保障者たる法人が合併及び破産以外の事由により解散したときは、その清算人
三 自家保障者たる法人が合併により解散したときは、その役員であつた者
四 自家保障者たる法人が破産により解散したときは、その破産管財人
(報告徴収及び立入検査)
第六十九条 運輸大臣は、第一条の目的を達成するため必要な限度において、自家保障者に対して、その自動車の使用、自動車事故の概要若しくは財産の状況に関し、報告をさせ、又はその職員に自家保障者の事業場その他の場所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査し、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証票を携帯し、かつ、関係者の請求があつたときは、これを提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(省令への委任)
第七十条 この法律に規定するもののほか、第五十五条の許可の申請手続及び自家保障者の遵守すべき事項については、運輸省令で定める。
第五章 政府の自動車損害賠償保障事業
(自動車損害賠償保障事業)
第七十一条 政府は、この法律の規定により、自動車損害賠償保障事業を行う。
(業務)
第七十二条 政府は、自動車の運行によつて生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が第三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときは、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。責任保険の被保険者でない者(国、日本専売公社、日本国有鉄道、日本電信電話公社、都道府県、地方自治法第百五十五条第二項の市、第十条の政令で定める者及び自家保障者を除く。)が、第三条の規定によつて損害賠償の責に任ずる場合も、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。
2 政府は、第十六条第四項又は第十七条第四項(第六十一条第二項において準用する場合を含む。)の規定による請求により、これらの規定による補償を行う。
3 前二項の請求の手続は、運輸省令で定める。
(他の法令による給付との調整等)
第七十三条 被害者が、健康保険法(大正十一年法律第七十号)、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)その他政令で定める法令に基いて前条第一項の規定による損害のてん補に相当する給付を受けるべき場合には、政府は、その給付に相当する金額の限度において、同項の規定による損害のてん補をしない。
2 前条第一項後段の場合において、被害者が第三条の規定による損害賠償の責に任ずる者から損害の賠償を受けたときは、政府は、その金額の限度において、前条第一項後段の規定による損害のてん補をしない。
(差押の禁止)
第七十四条 第七十二条第一項の規定による請求権は、差し押えることができない。
(時効)
第七十五条 第十六条第四項、第十七条第四項(第六十一条第二項において準用する場合を含む。)又は第七十二条第一項の規定による請求権は、二年を経過したときは、時効によつて消滅する。
(代位等)
第七十六条 政府は、第七十二条第一項の規定による損害のてん補をしたときは、その支払金額の限度において、被害者が損害賠償の責任を有する者に対して有する権利を取得する。
2 政府は、保険契約者又は被保険者の悪意によつて損害が生じた場合において、保険会社が第十六条第一項の規定により被害者に対して損害賠償額の支払をしたときは、その支払金額の限度において、被害者が保険契約者又は被保険者に対して有する権利を取得する。
3 政府は、保有者の損害賠償の責任が発生しなかつた場合において、保険会社又は自家保障者が第十七条第一項又は第六十一条第一項の規定により被害者に対して仮渡金の支払をしたときは、被害者に対してその返還を請求することができる。
(業務の委託)
第七十七条 政府は、政令で定めるところにより、第七十二条第一項の規定による業務の一部を保険会社に委託することができる。
2 保険会社は、保険業法第五条(外国保険事業者に関する法律第十九条において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、前項の規定により委託された業務を行うことができる。
3 運輪大臣は、第一項の規定による委託をしたときは、委託を受けた保険会社の名称その他運輸省令で定める事項を告示しなければならない。
(自動車損害賠償保障事業賦課金)
第七十八条 保険会社及び自家保障者は、運輸省令で定めるところにより、政令で定める金額を、自動車損害賠償保障事業賦課金として政府に納付しなければならない。
2 前項の規定は、日本専売公社、日本国有鉄道、日本電信電話公社、都道府県及び地方自治法第百五十五条第二項の市の自動車損害賠償保障事業賦課金の納付について準用する。
(過怠金)
第七十九条 政府は、第七十二条第一項後段の規定による損害のてん補をしたときは、損害賠償の責に任ずる者に対して、政令で定める金額を過怠金として徴収することができる。
(徴収金の滞納処分)
第八十条 第七十八条第一項の自動車損害賠償保障事業賦課金又は前条の過怠金を納付しない者があるときは、運輸大臣は、期限を定めて督促をする。
2 運輸大臣は、前項の規定による督促をするときは、納付義務者に対して督促状を発する。この場合において、督促状により定めるべき期限は、これを発する日から起算して十日以上経過した日でなければならない。
3 第一項の規定による督促は、民法第百五十三条の規定にかかわらず、時効中断の効力を有する。
4 運輸大臣は、第一項の規定による督促を受けた者が、同項の期限までに自動車損害賠償保障事業賦課金又は過怠金を納付しないときは、国税滞納処分の例によつて、これを処分する。
(先取特権の順位)
第八十一条 第七十八条第一項の自動車損害賠償保障事業賦課金及び第七十九条の過怠金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぎ、他の公課に先だつ。
(自動車損害賠償保障事業に関する費用の繰入)
第八十二条 政府は、国及び第十条の政令で定める者が運行の用に供する自動車について、第七十八条第二項の自動車損害賠償保障事業賦課金に相当する金額を、毎会計年度、予算で定めるところにより、国の他の会計から自動車損害賠償責任再保険特別会計に繰り入れるものとする。
2 政府は、この法律に規定する自動車損害賠償保障事業の業務の執行に要する経費の一部を、毎会計年度、予算で定めるところにより、一般会計から自動車損害賠償責任再保険特別会計に繰り入れるものとする。
第六章 雑則
(業務の管掌)
第八十三条 第三章第五節及び前章に規定する政府の業務は、運輸大臣が管掌する。
(権限の委任)
第八十四条 第四章、前章及び次条の規定により運輸大臣の権限に属する事項は、政令で定めるところにより、陸運局長に行わせることができる。
(証明書の提示)
第八十五条 運輸大臣は、第一条の目的を達成するため必要があると認めるときは、その職員に、道路その他自動車の所在する場所において、自動車を運転する者に対し、自動車損害賠償責任保険証明書又は自動車損害賠償自家保障証明書の提示を求めさせることができる。
2 第六十九条第二項及び第三項の規定は、前項の場合に準用する。
(運輸大臣の任務)
第八十六条 運輸大臣は、この法律に規定する職権の行使にあたつては、被害者の保護に欠けることがないように努めなければならない。
第七章 罰則
第八十七条 第五条の規定に違反した者は、三箇月以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
第八十八条 第八条の規定に違反した者は、三万円以下の罰金に処する。
第八十九条 次の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金に処する。
一 第六十六条第二項又は第六十七条第二項(第六十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
二 第六十九条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
三 第六十九条第一項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対し虚偽の陳述をした者
四 第八十五条第一項の規定による提示を拒み、又は妨げた者
第九十条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、第八十七条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
第九十一条 保険会社が第二十四条の規定に違反したときは、保険会社の取締役(外国保険事業者に関する法律に規定する外国保険事業者にあつては、その日本における代表者。次項において同じ。)は、三十万円以下の過料に処する。
2 保険会社又は損害保険料率算出団体が第二十七条の命令に違反したときは、保険会社の取締役又は損害保険料率算出団体の理事は、三十万円以下の過料に処する。
附 則
(施行期日)
1 この法律の施行期日は、公布の日から起算して八箇月をこえない範囲内において政令で定める日とする。
(他の法律の改正)
2 大蔵省設置法(昭和二十四年法律第百四十四号)の一部を次のように改正する。
第十七条第一項の表中公認会計士審査会の項の次に次の一項を加える。
自動車損害賠償責任保険審議会
大蔵大臣の諮問に応じて、自動車損害賠償保障法(昭和三十年法律第九十七号)の規定による自動車損害賠償責任保険に関する重要事項を調査審議すること。
3 運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項第四十二号の二の次に次の四号を加える。
四十二の三 自動車損害賠償責任保険の保険約款及び保険料率に関する処分について同意すること。
四十二の四 自動車損害賠償責任再保険事業を行うこと。
四十二の五 自動車損害賠償自家保障の許可をすること。
四十二の六 自動車損害賠償保障事業を行うこと。
第二十八条第一項第十五号の次に次の五号を加える。
十六 自動車損害賠償責任保険に関すること。
十七 自動車損害賠償責任再保険事業に関すること。
十八 自動車損害賠償保障事業に関すること。
十九 自動車損害賠償責任再保険特別会計の経理を行うこと。
二十 自動車損害賠償自家保障に関すること。
第三十八条第一項の表中鉄道建設審議会の項の次に次の一項を加える。
自動車損害賠償責任再保険審査会
運輸大臣の諮問に応じて自動車損害賠償保障法(昭和三十年法律第九十七号)第五十一条第二項に規定する審査を行うこと。
第五十一条第一項第二十号の次に次の三号を加える。
二十の二 自動車損害賠償責任保険に関すること。
二十の三 自動車損害賠償自家保障に関すること。
二十の四 自動車損害賠償保障事業に関すること。
4 保険業法の一部を次のように改正する。
第十二条ノ三第一号中「又ハ航空保険事業(航空機、航空機ニ依リ運送セラルル貨物又ハ航空機ノ管理ニ際シ他人ニ与ヘタル損害ヲ賠償スル責任ヲ保険ノ目的トスル損害保険事業ヲ云ヒ旅行者ノ航空機搭乗中ノ傷害ニ因ル損害ヲ填補スル損害保険事業ヲ含ム以下同ジ)」を「、航空保険事業(航空機、航空機ニ依リ運送セテルル貨物又ハ航空機ノ管理ニ際シ他人ニ与ヘタル損害ヲ賠償スル責任ヲ保険ノ目的トスル損害保険事業ヲ云ヒ旅行者ノ航空機搭乗中ノ傷害ニ因ル損害ヲ填補スル損害保険事業ヲ含ム以下同ジ)又ハ自動車損害賠償保障法ノ規定ニ基ク自動車損害賠償責任保険事業」に、同条第二号中「海上保険事業及航空保険事業」を「海上保険事業、航空保険事業及自動車損害賠償責任保険事業」に改める。
5 印紙税法(明治三十二年法律第五十四号)の一部を次のように改正する。
第五条第九号の八の次に次の一号を加える。
九ノ九 自動車損害賠償保障法(昭和三十年法律第九十七号)ニ規定スル保険会社ノ自動車損害賠償責任保険ニ関シ発スル保険料受取書及保険契約証書
(経過規定)
6 自動車保険の契約(被保険者が自動車の運行によつて他人に加えた損害の賠償責任を負うことにより受けることあるべき損害をてん補することを目的とする保険契約をいう。)であつて第五条の規定の施行の日前に締結されたもの(以下「旧契約」という。)の保険契約者は、当該自動車につき責任保険の契約が締結されたときは、旧契約を解除することができる。
7 前項の規定により旧契約が解除されたときは、旧契約の保険者(以下単に「保険者」という。)は、保険契約者に対して、政令で定める金額の解約返戻金を支払わなければならない。
8 旧契約の保険金額は、当該自動車につき責任保険の契約が締結されたときは、政令で定める金額まで増加したものとする。
9 旧契約の保険契約者は、当該自動車につき責任保険の契約が締結されたときは、保険者に対して、政令で定める金額の支払を請求することができる。ただし、附則第六項の規定により旧契約を解除したときは、この限りでない。
10 旧契約の保険契約者が、前項本文の規定による請求をしたときは、その時以後、旧契約の保険金額は、附則第八項の規定により増加した時以前の金額に復するものとする。
11 旧契約に係る自動車につき責任保険の契約が締結された場合において、旧契約及び責任保険の契約によりてん補すべき損害が生じたときは、まず責任保険の契約による損害のてん補を行い、そのてん補金額が損害の全部をてん補するに足りないときは、その足りない金額を旧契約によりてん補するものとする。
法務大臣 花村四郎
大蔵大臣 一万田尚登
運輸大臣 三木武夫
内閣総理大臣 鳩山一郎