(保護義務者)
第二十條 精神障害者については、その後見人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者が保護義務者となる。但し、左の各号の一に該当する者は保護義務者とならない。
二 当該精神障害者に対して訴訟をしている者、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
2 保護義務者が数人ある場合において、その義務を行うべき順位は、左の通りとする。但し、本人の保護のため特に必要があると認める場合には、後見人以外の者について家庭裁判所は利害関係人の申立によりその順位を変更することができる。
四 前二号の者以外の扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した者
3 前項但書の規定による順位の変更及び同項第四号の規定による選任は家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)の適用については、同法第九條第一項甲類に掲げる事項とみなす。
第二十一條 前條第二項各号の保護義務者がないとき又はこれらの保護義務者がその義務を行うことができないときはその精神障害者の居住地を管轄する市町村長(特別区の長を含む。以下同じ。)、居住地がないか又は明らかでないときはその精神障害者の現在地を管轄する市町村長が保護義務者となる。
第二十二條 保護義務者は、精神障害者に治療を受けさせるとともに、精神障害者が自身を傷つけ又は他人に害を及ぼさないように監督し、且つ、精神障害者の財産上の利益を保護しなければならない。
2 保護義務者は、精神障害者の診断が正しく行われるよう医師に協力しなければならない。
3 保護義務者は、精神障害者に医療を受けさせるに当つては、医師の指示に従わなければならない。
(診察及び保護の申請)
第二十三條 精神障害者又はその疑のある者を知つた者は、誰でも、その者について精神衛生鑑定医の診察及び必要な保護を都道府県知事に申請することができる。
2 前項の申請をするには、左の事項を記載した申請書をもよりの保健所長を経て都道府県知事に提出しなければならない。
四 現に本人の保護の任に当つている者があるときはその者の住所及び氏名
3 虚僞の事実を具して第一項の申請をした者は、六月以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。
(警察官の通報等)
第二十四條 警察官又は警察吏員は、警察官等職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)第三條の規定により精神障害者又はその疑のある者を保護した場合においては、直ちに、もよりの保健所長に通報しなければならない。
2 保健所長は、前項の通報を受けたときは、直ちに、その旨を都道府県知事に報告しなければならない。
(検察官の通報)
第二十五條 検察官は、被疑者又は被告人について精神障害があると認めたときは、当該事件について不起訴処分をし又は裁判(懲役、禁こ又は拘留の刑を言い渡し執行猶予の言渡をしない裁判を除く。)が確定した後、すみやかに、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。
(矯正保護施設の長の通報)
第二十六條 矯正保護施設(拘置所、刑務所、少年刑務所、少年院及び少年保護鑑別所をいう。以下同じ。)の長は、精神障害者又はその疑のある收容者を釈放、退院又は退所させようとするときは、あらかじめ、左の事項を本人の帰住地(帰住地がない場合は当該矯正保護施設の所在地)の都道府県知事に通報しなければならない。
(精神衛生鑑定医の診察)
第二十七條 都道府県知事は、前四條の規定により申請又は通報のあつた者について調査の上必要があると認めるときは、精神衛生鑑定医をして診察をさせなければならない。
2 都道府県知事は、前項の規定により診察をさせる場合には、当該吏員を立ち合わせなければならない。
3 精神衛生鑑定医及び前項の当該吏員は、前二項の職務を行うに当つて必要な限度においてその者の居住する場所へ立ち入ることができる。
4 前項の規定によつてその者の居住する場所へ立ち入る場合には、精神衛生鑑定医及び当該吏員は、その身分を示す証票を携帶し、関係人の請求があるときはこれを呈示しなければならない。
5 第一項の規定による診察を拒み、妨げ、若しくは忌避した者又は第三項の規定による立入を拒み若しくは妨げた者は、一万円以下の罰金に処する。
(診察の通知)
第二十八條 都道府県知事は、前條第一項の規定により診察をさせるに当つて現に本人の保護の任に当つている者がある場合には、あらかじめ、診察の日時及び場所をその者に通知しなければならない。
2 後見人、親権を行う者、配偶者その他現に本人の保護の任に当つている者は、前條第一項の診察に立ち会うことができる。
(知事による入院措置)
第二十九條 都道府県知事は、第二十七條の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、且つ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、本人及び関係者の同意がなくても、その者を国若しくは都道府県の設置した精神病院(精神病院以外の病院に設けられている精神病室を含む。以下同じ。)又は指定病院に入院させることができる。
2 前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるには、二人以上の精神衛生鑑定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、且つ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ、又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各精神衛生鑑定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
3 国又は都道府県の設置した精神病院及び指定病院の長は、病床(病院の一部について第五條の指定を受けている指定病院にあつてはその指定にかかる病床)にすでに第一項の規定により入院をさせた者がいるため余裕がない場合の外は、前項の精神障害者を收容しなければならない。
4 この法律施行の際、現に精神病院法第二條の規定によつて入院中の者は、第一項の規定によつて入院したものとみなす。
第三十條 前條の規定により都道府県知事が入院させた精神障害者の入院に要する費用は、政令の定めるところにより、都道府県の負担とする。
2 国は、前項の規定により都道府県が支出する経費に対し、政令の定めるところにより、その二分の一を補助する。
(費用の徴收)
第三十一條 都道府県知事は、第二十九條の規定により入院させた精神障害者又はその扶養義務者が入院に要する費用を負担することができると認めたときは、その費用の全部又は一部を徴收することができる。
(訴願)
第三十二條 第二十九條又は前條の規定により都道府県知事のした処分に不服がある者は、訴願法(明治二十三年法律第百五号)の定めるところにより、その処分を受けた日から六十日以内に厚生大臣に対し訴願をすることができる。
(保護義務者の同意による入院)
第三十三條 精神病院の長は、診察の結果精神障害者であると診断した者につき、医療及び保護のため入院の必要があると認める場合において保護義務者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。
(仮入院)
第三十四條 精神病院の長は、診察の結果精神障害者の疑があつてその診断に相当の時日を要すると認める者を、その後見人、配偶者、親権を行う者その他の扶養義務者の同意がある場合には、本人の同意がなくても、三週間を超えない期間、仮に精神病院へ入院させることができる。
(家庭裁判所の許可)
第三十五條 前二條の同意者が後見人である場合において前二條の同意をするには、民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百五十八條第二項の規定の適用を除外するものではない。
(届出)
第三十六條 精神病院の長は、第三十三條又は第三十四條の規定による措置をとつたときは、十日以内に左の事項を入院について同意を得た者の同意書を添え、もよりの保健所長を経て都道府県知事に届け出なければならない。
2 前項の規定に違反した者は、五千円以下の過料に処する。
(知事の審査)
第三十七條 都道府県知事は、前條の届出があつた場合において調査の上必要があると認めるときは、第三十三條又は第三十四條の規定により入院又は仮入院をした者について二人以上の精神衛生鑑定医に診察をさせ各精神衛生鑑定医の診察の結果が入院を継続する必要があることに一致しない場合には、当該精神病院の長に対し、その者を退院させることを命ずることができる。
2 前項の命令に違反した者は、三年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
(行動の制限)
第三十八條 精神病院の長は、入院中又は仮入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。
(無断退去者に対する措置)
第三十九條 精神病院の長は、入院中又は仮入院中の者で自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれのあるものが無断で退去しその行方が不明になつたときは、所轄の警察署長に左の事項を通知してその探索を求めることができる。
四 退去者を発見するために参考となるべき人相、服装その他の事項
(退院及び仮退院)
第四十條 第二十九條の規定により精神障害者を收容した精神病院の長は、その精神障害者の症状に照し入院を継続する必要がなくなつたと認めるときは、都道府県知事の許可を得て退院させることができる。
2 前項の病院長は、入院中の精神障害者の症状に照しその者を一時退院させて経過を見ることが適当であると認めるときは、都道府県知事の許可を得て、六箇月を超えない期間を限り仮に退院させることができる。
(保護義務者の引取義務等)
第四十一條 保護義務者は、前條の規定により退院又は仮退院する者を引き取り、且つ、仮退院した者の保護に当つては当該精神病院の長の指示に従わなければならない。
(訪問指導)
第四十二條 都道府県知事は、第二十七條の規定による診察の結果精神障害者であると診断された者で第二十九條の規定による入院をさせられなかつたもの、及び第四十條の規定による退院者でなお精神障害が続いているものについては、必要に応じ、当該吏員又は都道府県知事が指定した医師をしてその者を訪問し精神衛生に関する適当な指導をさせなければならない。
(保護拘束)
第四十三條 自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれのある精神障害者で入院を要するものがある場合において、直ちにその者を精神病院に收容することができないやむを得ない事情があるときは、精神障害者の保護義務者は、都道府県知事の許可を得て、精神病院に入院させるまでの間、精神病院以外の場所で保護拘束をすることができる。
2 前項の許可を得ようとする者は、左の事項を記載した申請書に医師の診断書を添え、もよりの保健所長を経て都道府県知事に申請しなければならない。
3 都道府県知事は、前項の申請があつたときは、すみやかに、精神衛生鑑定医に診察をさせた上許可するかどうかを決定し、その結果を申請者に通知しなければならない。
4 前項の規定により許可をするには、二人以上の精神衛生鑑定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、且つ、医療及び保護のために入院をさせなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各精神衛生鑑定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
(保護拘束の期間)
第四十四條 保護拘束の期間は、保護拘束を始めた日から起算して二箇月を超えることができない。
2 都道府県知事は、前項の期間内に、当該精神障害者で引き続き保護拘束の必要があるものについて国若しくは都道府県の設置した精神病院又は指定病院に收容する措置をとらなければならない。
(指導)
第四十五條 都道府県知事は、保護拘束を行う者に対して当該吏員又は都道府県知事が指定した医師をして保護拘束の場所、施設、方法その他必要な事項について適当な指導をさせなければならない。
2 正当な理由がなくて前項の指導に従わなかつた者は、二万円以下の罰金に処する。
(保護拘束の変更及び廃止)
第四十六條 保護拘束を行う者が保護拘束の場所又は方法を変更しようとするときは、あらかじめ、都道府県知事の許可を受けなければならない。
2 保護拘束を行う者が保護拘束を廃止したときは、三日以内に廃止の年月日及び時刻をもよりの保健所長を経て都道府県知事に届け出なければならない。
3 第一項の規定に違反した者は五万円以下の罰金に処し、第二項の規定に違反した者は五千円以下の過料に処する。
(行方不明者に対する措置)
第四十七條 保護拘束を受けている者が行方不明になつたときは、保護拘束を行つている者は、すみやかに、その旨をもよりの保健所長を経て都道府県知事に届け出るとともに、もよりの警察署長に届け出てその探索を求めなければならない。
2 前項の届書には左の事項を記載しなければならない。
四 本人を発見するために参考となるべき人相、服装その他の事項
(施設以外の收容禁止)
第四十八條 第四十三條の規定による保護拘束を行う場合の外は、精神病院又は他の法律により精神障害者を收容することのできる施設以外の場所に精神障害者を收容してはならない。
2 この法律施行の際、現に精神病者監護法(明治三十三年法律第三十八号)第九條の規定により私宅監置をしている者については、精神病院に入院させることができないやむを得ない事情があるときに限り、この法律施行後一年間従前の例によることができる。
(医療及び保護の費用)
第四十九條 保護義務者が精神障害者の医療及び保護のために支出する費用は、当該精神障害者又はその扶養義務者が負担する。
2 第二十一條の規定によつて市町村長が保護義務者となる場合において、その医療及び保護に要する費用について当該精神障害者又はその扶養義務者が負担することができないときは、その保護を行つた市町村(特別区を含む。)を管轄する都道府県がその費用を負担する。
(刑又は保護処分の執行との関係)
第五十條 この章の規定は、刑又は保護処分の執行のため精神障害者又はその疑のある者を矯正保護施設に收容することを妨げるものではない。
2 第二十六條及び第二十七條の規定を除く外、この章の規定は矯正保護施設に收容中の者には適用しない。