(趣旨)
第一条 この法律は、租税条約を実施するため、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)及び地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の特例その他必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 租税条約 わが国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約をいう。
二 相手国の居住者 所得税法第二条第一項第五号に規定する非居住者又は同項第七号に規定する外国法人(同項第八号に規定する人格のない社団等を含む。)で、租税条約の規定によりわが国以外の締約国の居住者又は法人とされるものをいう。
三 限度税率 租税条約において相手国の居住者に対する課税につき一定の税率又は一定の割合で計算した金額をこえないものとしている場合におけるその一定の税率又は一定の割合をいう。
(配当等に対する源泉徴収に係る所得税の税率の特例)
第三条 相手国の居住者が支払を受ける租税条約に規定する配当、利子又は使用料(当該租税条約においてこれらに準ずる取扱いを受けるものを含む。)で所得税法の施行地にその源泉があり、かつ、限度税率を定める当該租税条約の規定の適用があるもの(以下「配当等」という。)に対する同法第百七十条、第百七十九条又は第二百十三条第一項の規定の適用については、当該限度税率が百分の二十以上である場合を除き、これらの規定に規定する税率に代えて、当該租税条約において配当等につきそれぞれ規定する限度税率によるものとする。
2 前項の規定は、配当等に対し所得税を課さず、又は配当等に対する所得税額をその支払を受けるべき金額に同項に規定する限度税率を乗じて計算した金額以下とする他の法律の規定の適用を妨げない。
(配当等又は譲渡収益に対する申告納税に係る所得税等の軽減)
第四条 相手国の居住者で所得税法第百六十五条又は法人税法第百四十二条の規定の適用を受けるものが、配当等又は譲渡収益(資産の譲渡により生ずる収益で所得税法の施行地にその源泉があり、かつ、限度税率を定める当該租税条約の規定の適用があるものをいい、配当等に含まれるものを除く。以下同じ。)に係る所得を有する場合において、その者の所得税額又は法人税額のうち当該所得に対応する部分の金額が、当該配当等の金額又は当該譲渡収益に係る所得(所得税に係る場合には、その課税標準に含まれる部分に限る。)の金額に当該租税条約において当該配当等又は譲渡収益についてそれぞれ規定する限度税率を乗じて計算した金額の合計額をこえるときは、その者の所得税又は法人税につき、そのこえる金額に相当する税額を軽減する。
2 前項に規定する所得税額又は法人税額のうち同項に規定する所得に対応する部分の金額は、当該所得の生じた年分又は事業年度分につき、同項の規定の適用がないものとして計算した場合における所得税額又は法人税額に相当する金額から、当該所得が生じなかつたものとして計算した場合における所得税額又は法人税額に相当する金額を控除して得た金額とする。
3 第一項の場合において、当該租税条約の限度税率が住民税(道府県民税、市町村民税及び都民税をいう。以下同じ。)をも含めて規定されているときは、同項の法人税の軽減額の計算に係る限度税率は、当該租税条約に規定する限度税率を次条第一項に規定する住民税の法人税割の標準税率に一を加えた数で除したものとして政令で定める税率とする。
(配当等又は譲渡収益に係る地方税の課税の特例)
第五条 租税条約が住民税についても適用がある場合において、相手国の居住者である法人に対し住民税を課するときは、その課税標準である法人税額のうち前条第一項に規定する所得に対応する部分の金額に係る税率は、地方税法第五十一条第一項又は第三百十四条の六第一項(同法第七百三十四条第三項において準用する場合を含む。)に規定する法人税割の標準税率とする。
2 前項に規定するその課税標準である法人税額のうち前条第一項に規定する所得に対応する部分の金額は、当該法人の法人税額のうち、当該所得に対応する部分の金額として同条第二項の規定により計算した金額から同条第一項の規定によつて軽減された金額を控除した金額とする。
3 二以上の都道府県又は市町村において事務所又は事業所を有する法人で第一項の規定の適用を受けるものが、地方税法第五十七条第一項又は第三百二十一条の十三第一項(同法第七百三十四条第三項において準用する場合を含む。)の規定により、その法人税額を関係都道府県又は関係市町村に分割する場合には、当該法人税額を第一項の規定の適用がある部分の金額とその他の部分の金額とに区分して、それぞれ分割するものとする。
4 都道府県は、租税条約が事業税についても適用がある場合において、前条第一項に規定する相手国の居住者の行なう事業に対し事業税を課するときは、その者が支払を受けるべき配当等又は譲渡収益をその課税標準に含めないものとする。
(双方居住者の取扱い)
第六条 所得税法第二条第一項第三号に規定する居住者で租税条約の規定によりわが国以外の締約国の居住者とみなされるものは、同法及び地方税法の施行地に住所及び居所を有しないものとみなして、所得税法(第十五条及び第十六条を除く。)、地方税法(当該租税条約の規定の適用を受ける住民税又は事業税に係る部分に限る。)及びこの法律の規定を適用する。
(租税条約に基づく協議等で地方税に係るものに関する手続)
第七条 大蔵大臣は、租税条約のわが国以外の締約国の権限ある当局と当該租税条約に規定する協議又は合意をする場合において、その協議又は合意の内容が地方公共団体が課する租税に係るものであるときは、あらかじめ自治大臣に協議し、その結果に基づいて、これをするものとする。
2 自治大臣は、前項の規定により大蔵大臣から協議を受けた場合には、必要に応じ、関係地方公共団体の意見をきかなければならない。
(相手国の租税の徴収)
第八条 政府は、租税条約の規定によりわが国以外の締約国の租税につき当該締約国の政府から徴収の嘱託を受けたときは、国税徴収の例によりこれを徴収する。この場合において、当該租税及びその滞納処分費の徴収の順位は、それぞれ国税及びその滞納処分費と同順位とする。
(実施規定)
第九条 第二条から前条までに定めるもののほか、租税条約の実施及びこの法律の適用に関し必要な事項は、大蔵省令、自治省令で定める。