裁判所法
法令番号: 法律第五十九号
公布年月日: 昭和22年4月16日
法令の形式: 法律
朕は、枢密顧問の諮詢を経て、帝國議会の協賛を経た裁判所法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十二年四月十五日
内閣総理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
法律第五十九号
裁判所法目次
第一編
総則
第二編
最高裁判所
第三編
下級裁判所
第一章
高等裁判所
第二章
地方裁判所
第三章
簡易裁判所
第四編
裁判所の職員及び司法修習生
第一章
裁判官
第二章
裁判官以外の裁判所の職員
第三章
司法修習生
第五編
裁判事務の取扱
第一章
法廷
第二章
裁判所の用語
第三章
裁判の評議
第四章
裁判所の共助
第六編
司法行政
第七編
裁判所の経費
裁判所法
第一編 総則
第一條(この法律の趣旨) 日本國憲法に定める最高裁判所及び下級裁判所については、この法律の定めるところによる。
第二條(下級裁判所) 下級裁判所は、高等裁判所、地方裁判所及び簡易裁判所とする。
下級裁判所の設立、廃止及び管轄区域は、別に法律でこれを定める。
第三條(裁判所の権限) 裁判所は、日本國憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の爭訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
前項の規定は、行政機関が前審として審判することを妨げない。
この法律の規定は、刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。
第四條(上級審の裁判の拘束力) 上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。
第五條(裁判官) 最高裁判所の裁判官は、その長たる裁判官を最高裁判所長官とし、その他の裁判官を最高裁判所判事とする。
下級裁判所の裁判官は、高等裁判所の長たる裁判官を高等裁判所長官とし、その他の裁判官を判事、判事補及び簡易裁判所判事とする。
最高裁判所判事の員数は、十四人とし、下級裁判所の裁判官の員数は、別に法律でこれを定める。
第二編 最高裁判所
第六條(所在地) 最高裁判所は、これを東京都に置く。
第七條(裁判権) 最高裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 上告
二 訴訟法において特に定める抗告
第八條(その他の権限) 最高裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
第九條(大法廷・小法廷) 最高裁判所は、大法廷又は小法廷で審理及び裁判をする。
大法廷は、全員の裁判官の、小法廷は、最高裁判所の定める員数の裁判官の合議体とする。但し、小法廷の裁判官の員数は、三人以上でなければならない。
各合議体の裁判官のうち一人を裁判長とする。
各合議体では、最高裁判所の定める員数の裁判官が出席すれば、審理及び裁判をすることができる。
第十條(大法廷及び小法廷の審判) 事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。
一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。
二 前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。
三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。
第十一條(裁判官の意見の表示) 裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない。
第十二條(司法行政事務) 最高裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、最高裁判所長官が、これを総括する。
裁判官会議は、全員の裁判官でこれを組織し、最高裁判所長官が、その議長となる。
第十三條(事務局) 最高裁判所の庶務を掌らせるため、最高裁判所に事務局を置く。
第十四條(司法研修所) 裁判官その他の裁判所の職員の研究及び修養並びに司法修習生の修習に関する事務を取り扱わせるため、最高裁判所に司法研修所を置く。
第三編 下級裁判所
第一章 高等裁判所
第十五條 (構成)各高等裁判所は、高等裁判所長官及び相應な員数の判事でこれを構成する。
第十六條 (裁判権)高等裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 地方裁判所の第一審判決に対する控訴
二 第七條第二号の抗告を除いて、地方裁判所の決定及び命令に対する抗告
三 地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の第一審判決に対する上告
四 刑法第七十七條乃至第七十九條の罪に係る訴訟の第一審
第十七條(その他の権限) 高等裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
第十八條(合議制) 高等裁判所は、裁判官の合議体でその事件を取り扱う。但し、法廷ですべき審理及び裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定があるときは、その定に從う。
前項の合議体の裁判官の員数は、三人とし、そのうち一人を裁判長とする。但し、第十六條第四号の訴訟については、裁判官の員数は、五人とする。
第十九條(裁判官の職務の代行) 高等裁判所は、裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その管轄区域内の地方裁判所の判事にその高等裁判所の判事の職務を行わせることができる。
第二十條(司法行政事務) 各高等裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、各高等裁判所長官が、これを総括する。
各高等裁判所の裁判官会議は、その全員の裁判官でこれを組職し、各高等裁判所長官が、その議長となる。
第二十一條(事務局) 各高等裁判所の庶務を掌らせるため、各高等裁判所に事務局を置く。
第二十二條(支部) 最高裁判所は、高等裁判所の事務の一部を取り扱わせるため、その高等裁判所の管轄区域内に、高等裁判所の支部を設けることができる。
最高裁判所は、高等裁判所の支部に勤務する裁判官を定める。
第二章 地方裁判所
第二十三條(構成) 各地方裁判所は、相應な員数の判事及び判事補でこれを構成する。
第二十四條(裁判権) 地方裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 第十六條第四号の罪、第三十三條第一項第一号の請求及び罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟以外の訴訟の第一審
二 簡易裁判所の判決に対する控訴
三 第七條第二号の抗告を除いて、簡易裁判所の決定及び命令に対する抗告
第二十五條(その他の権限) 地方裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限及び他の法律において裁判所の権限に属するものと定められた事項の中で地方裁判所以外の裁判所の権限に属させていない事項についての権限を有する。
第二十六條(一人制・合議制) 地方裁判所は、第二項に規定する場合を除いて、一人の裁判官でその事件を取り扱う。
左の事件は、裁判官の合議体でこれを取り扱う。但し、法廷ですべき審理及び裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定があるときは、その定に從う。
一 合議体で審理及び裁判をする旨の決定を合議体でした事件
二 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪(刑法第二百三十六條、第二百三十八條又は第二百三十九條の罪及びその未遂並びに昭和五年法律第九号第二條又は第三條の罪を除く。)に係る事件
三 簡易裁判所の判決に対する控訴事件並びに簡易裁判所の決定及び命令に対する抗告事件
四 その他他の法律において合議体で審理及び裁判をすべきものと定められた事件
前項の合議体の裁判官の員数は、三人とし、そのうち一人を裁判長とする。
第二十七條(判事補の職権の制限) 判事補は、他の法律に特別の定のある場合を除いて、一人で裁判をすることができない。
判事補は、同時に二人以上合議体に加わり、又は裁判長となることができない。
第二十八條(裁判官の職務の代行) 地方裁判所において裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その所在地を管轄する高等裁判所は、その管轄区域内の他の地方裁判所の裁判官に当該地方裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
第二十九條(司法行政事務) 最高裁判所は、各地方裁判所の判事のうち一人に各地方裁判所長を命ずる。
各地方裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、各地方裁判所長が、これを総括する。
各地方裁判所の裁判官会議は、その全員の判事でこれを組織し、各地方裁判所長が、その議長となる。
第三十條(事務局) 各地方裁判所の庶務を掌らせるため、各地方裁判所に事務局を置く。
第三十一條(支部・出張所) 最高裁判所は、地方裁判所の事務の一部を取り扱わせるため、その地方裁判所の管轄区域内に、地方裁判所の支部又は出張所を設けることができる。
最高裁判所は、地方裁判所の支部に勤務する裁判官を定める。
第三章 簡易裁判所
第三十二條(裁判官) 各簡易裁判所に相應な員数の簡易裁判所判事を置く。
第三十三條(裁判権) 簡易裁判所は、左の事項について第一審の裁判権を有する。
一 訴訟の目的の價額が五千円を超えない請求(行政処分の取消又は変更の請求を除く。)
二 罰金以下の刑にあたる罪又は選択刑として罰金が定められている罪に係る訴訟
簡易裁判所は、禁錮以上の刑を科することができない。禁錮以上の刑を科するのを相当と認めるときは、訴訟法の定めるところにより事件を地方裁判所に移さなければならない。
第三十四條(その他の権限) 簡易裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
第三十五條(一人制) 簡易裁判所は、一人の裁判官でその事件を取り扱う。
第三十六條(裁判官の職務の代行) 簡易裁判所において裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その所在地を管轄する地方裁判所は、その管轄区域内の他の簡易裁判所の裁判官又はその地方裁判所の判事に当該簡易裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
第三十七條(司法行政事務) 各簡易裁判所の司法行政事務は、簡易裁判所の裁判官が、一人のときは、その裁判官が、二人以上のときは、最高裁判所の指名する一人の裁判官がこれを掌理する。
第三十八條(事務の移轉) 簡易裁判所において特別の事情によりその事務を取り扱うことができないときは、その所在地を管轄する地方裁判所は、その管轄区域内の他の簡易裁判所に当該簡易裁判所の事務の全部又は一部を取り扱わせることができる。
第四編 裁判所の職員及び司法修習生
第一章 裁判官
第三十九條 (最高裁判所の裁判官の任免)最高裁判所長官は、内閣の指名に基いて、天皇がこれを任命する。
最高裁判所判事は、内閣でこれを任命する。
最高裁判所判事の任免は、天皇がこれを認証する。
内閣は、第一項の指名又は第二項の任命を行うには、裁判官任命諮問委員会に諮問しなければならない。
裁判官任命諮問委員会に関する規程は、政令でこれを定める。
最高裁判所長官及び最高裁判所判事の任命は、國民の審査に関する法律の定めるところにより國民の審査に付される。
第四十條(下級裁判所の裁判官の任免) 高等裁判所長官、判事、判事補及び簡易裁判所判事は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。
高等裁判所長官の任免は、天皇がこれを認証する。
第一項の裁判官は、その官に任命された日から十年を経過したときは、その任期を終えるものとし、再任されることができる。
第四十一條(最高裁判所の裁判官の任命資格) 最高裁判所の裁判官は、識見の高い、法律の素養のある年齢四十年以上の者の中からこれを任命し、そのうち少くとも十人は、十年以上第一号及び第二号に掲げる職の一若しくは二に在つた者又は左の各号に掲げる職の一若しくは二以上に在つてその年数を通算して二十年以上になる者でなければならない。
一 高等裁判所長官
二 判事
三 簡易裁判所判事
四 檢察官
五 弁護士
六 別に法律で定める大学の法律学の教授又は助教授
五年以上前項第一号及び第二号に掲げる職の一若しくは二に在つた者又は十年以上同項第一号乃至第六号に掲げる職の一若しくは二以上に在つた者が判事補、裁判所調査官、最高裁判所事務総長、裁判所事務官、司法研修所教官、司法次官、司法事務官又は少年審判官の職に在つたときは、その在職は、同項の規定の適用については、これを同項第三号乃至第六号に掲げる職の在職とみなす。
前二項の規定の適用については、第一項第三号乃至第五号及び前項に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
三年以上第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授の職に在つた者が簡易裁判所判事、檢察官又は弁護士の職に就いた場合においては、その簡易裁判所判事、檢察官(副檢事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。
第四十二條(高等裁判所長官及び判事の任命資格) 高等裁判所長官及び判事は、左の各号に掲げる職の一又は二以上に在つてその年数を通算して十年以上になる者の中からこれを任命する。
一 判事補
二 簡易裁判所判事
三 檢察官
四 弁護士
五 裁判所調査官、司法研修所教官又は少年審判官
六 前條第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授
前項の規定の適用については、三年以上同項各号に掲げる職の一又は二以上に在つた者が裁判所事務官又は司法事務官の職に在つたときは、その在職は、これを同項各号に掲げる職の在職とみなす。
前二項の規定の適用については、第一項第二号乃至第五号及び前項に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
三年以上前條第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授の職に在つた者が簡易裁判所判事、檢察官又は弁護士の職に就いた場合においては、その簡易裁判所判事、檢察官(副檢事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。司法修習生の修習を終えないで簡易裁判所判事又は檢察官に任命された者の第六十六條の試驗に合格した後の簡易裁判所判事、檢察官(副檢事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数についても、同樣とする。
第四十三條(判事補の任命資格) 判事補は、司法修習生の修習を終えた者の中からこれを任命する。
第四十四條(簡易裁判所判事の任命資格) 簡易裁判所判事は、高等裁判所長官若しくは判事の職に在つた者又は左の各号に掲げる職の一若しくは二以上に在つてその年数を通算して、三年以上になる者の中からこれを任命する。
一 判事補
二 檢察官
三 弁護士
四 裁判所調査官、裁判所事務官、司法研修所教官、司法事務官又は少年審判官
五 第四十一條第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授
前項の規定の適用については、同項第二号乃至第四号に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
司法修習生の修習を終えないで檢察官に任命された者の第六十六條の試驗に合格した後の檢察官(副檢事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。
第四十五條(簡易裁判所判事の選考任命) 多年司法事務にたずさわり、その他簡易裁判所判事の職務に必要な学識経驗のある者は、前條第一項に掲げる者に該当しないときでも、簡易裁判所判事選考委員会の選考を経て、簡易裁判所判事に任命されることができる。
簡易裁判所判事選考委員会に関する規程は、最高裁判所がこれを定める。
第四十六條(任命の欠格事由) 他の法律の定めるところにより一般の官吏に任命されることができない者の外、左の各号の一に該当する者は、これを裁判官に任命することができない。
一 禁錮以上の刑に処せられた者
二 彈劾裁判所の罷免の裁判を受けた者
第四十七條(補職) 下級裁判所の裁判官の職は、最高裁判所がこれを補する。
第四十八條(身分の保障) 裁判官は、公の彈劾又は國民の審査に関する法律による場合及び別に法律で定めるところにより心身の故障のために職務を執ることができないと裁判された場合を除いては、その意思に反して、免官、轉官、轉所、職務の停止又は報酬の減額をされることはない。
第四十九條(懲戒) 裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。
第五十條(定年) 最高裁判所の裁判官は、年齢七十年、下級裁判所の裁判官は、年齢六十五年に達した時に退官する。
第五十一條(報酬) 裁判官の受ける報酬については、別に法律でこれを定める。
第五十二條(政治運動等の禁止) 裁判官は、在任中、左の行爲をすることができない。
一 國会若しくは地方公共團体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。
二 最高裁判所の許可のある場合を除いて、報酬のある他の職務に從事すること。
三 商業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。
第二章 裁判官以外の裁判所の職員
第五十三條(最高裁判所事務総長) 最高裁判所に最高裁判所事務総長一人を置く。
最高裁判所事務総長は、一級とする。
最高裁判所事務総長は、最高裁判所長官の監督を受けて、最高裁判所の事務局の事務を掌理し、事務局の職員を指揮監督する。
第五十四條(最高裁判所長官祕書官) 最高裁判所に最高裁判所長官祕書官一人を置く。
最高裁判所長官祕書官は、二級とする。
最高裁判所長官祕書官は、最高裁判所長官の命を受けて、機密に関する事務を掌る。
第五十五條(司法研修所教官) 最高裁判所に別に法律で定める員数の司法研修所教官を置く。
司法研修所教官は、一級、二級又は三級とする。
司法研修所教官は、上司の指揮を受けて、司法研修所における研究、修養及び修習の指導を掌る。
第五十六條(司法研修所長) 最高裁判所に司法研修所長を置き、一級の司法研修所教官の中から、最高裁判所が、これを補する。
司法研修所長は、最高裁判所長官の監督を受けて、司法研修所の事務を掌理し、司法研修所の職員を指揮監督する。
第五十七條(裁判所調査官) 最高裁判所及び各高等裁判所に通じて別に法律で定める員数の裁判所調査官を置く。
裁判所調査官は、二級とする。
裁判所調査官は、裁判官の命を受けて、事件の審理及び裁判に関して必要な調査を掌る。
裁判所調査官の任命は、一般の二級事務官吏に任命される資格を有する者の外、第六十六條の試驗に合格した者についてもこれを行うことができる。
第五十八條(裁判所事務官) 各裁判所に通じて別に法律で定める員数の裁判所事務官を置く。
裁判所事務官は、一級、二級又は三級とする。
裁判所事務官は、上司の命を受けて、裁判所の事務を掌る。
二級の裁判所事務官の任命及び敍級は、一般の二級事務官吏に任命され、又は敍級される資格を有する者の外、第六十六條の試驗に合格した者についてもこれを行うことができる。
第五十九條(事務局長) 各高等裁判所及び各地方裁判所に事務局長を置き、裁判所事務官の中から、最高裁判所が、これを補する。
各高等裁判所の事務局長は、各高等裁判所長官の、各地方裁判所の事務局長は、各地方裁判所長の監督を受けて、事務局の事務を掌理し、事務局の職員を指揮監督する。
第六十條(裁判所書記) 各裁判所に裁判所書記を置き、裁判所事務官の中から、最高裁判所の定めるところにより、最高裁判所、各高等裁判所又は各地方裁判所が、これを補する。
裁判所書記は、裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管その他他の法律において定める事務を掌る。
裁判所書記は、その職務を行うについては、裁判官の命令に從う。
裁判所書記は、口述の書取その他書類の作成又は変更に関して裁判官の命令を受けた場合において、その作成又は変更を正当でないと認めるときは、自己の意見を書き添えることができる。
第六十一條(裁判所技官) 各裁判所に通じて別に法律で定める員数の裁判所技官を置く。
裁判所技官は、二級又は三級とする。
裁判所技官は、上司の命を受けて、技術を掌る。
第六十二條(執行吏) 各地方裁判所に執行吏を置く。
執行吏は、最高裁判所の定めるところにより各地方裁判所がこれを任命する。
執行吏に任命されるのに必要な資格に関する事項は、最高裁判所がこれを定める。
執行吏は、他の法律の定めるところにより裁判の執行、裁判所の発する文書の送達その他の事務を行う。
執行吏は、手数料を受けるものとし、その手数料が一定の額に達しないときは、國庫から補助金を受ける。
第六十三條(廷吏) 各裁判所においては、廷吏を雇う。
廷吏は、法廷において裁判官の命ずる事務その他最高裁判所の定める事務を取り扱う。
各裁判所は、執行吏を用いることができないときは、その裁判所の所在地で書類を送達するために、廷吏を用いることができる。
第六十四條(任免・敍級) 裁判官以外の裁判所の職員の任免及び敍級は、一級のものについては、最高裁判所の申出により内閣が、二級のものについては、最高裁判所がそれぞれこれを行い、三級のものについては、最高裁判所の定めるところにより最高裁判所、各高等裁判所又は各地方裁判所がこれを行う。
第六十五條(勤務裁判所の指定) 裁判所調査官、裁判所事務官(事務局長又は裁判所書記たるものを除く。)及び裁判所技官の勤務する裁判所は、最高裁判所の定めるところにより最高裁判所、各高等裁判所又は各地方裁判所がこれを定める。
第三章 司法修習生
第六十六條(採用) 司法修習生は、高等試驗司法科試驗に合格した者の中から、最高裁判所がこれを命ずる。
前項の試驗に関する事項は、政令でこれを定める。
第六十七條(修習・試驗) 司法修習生は、少くとも二年間修習をした後試驗に合格したときは、司法修習生の修習を終える。
司法修習生は、その修習期間中、國庫から一定額の給與を受ける。
第一項の修習及び試驗に関する事項は、最高裁判所がこれを定める。
第六十八條(罷免) 最高裁判所は、司法修習生の行状がその品位を辱めるものと認めるときその他司法修習生について最高裁判所の定める事由があると認めるときは、その司法修習生を罷免することができる。
第五編 裁判事務の取扱
第一章 法廷
第六十九條(開廷の場所) 法廷は、裁判所又は支部でこれを開く。
最高裁判所は、必要と認めるときは、前項の規定にかかわらず、他の場所で法廷を開き、又はその指定する他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる。
第七十條(公開停止の手続) 裁判所は、日本國憲法第八十二條第二項の規定により対審を公開しないで行うには、公衆を退廷させる前に、その旨を理由とともに言い渡さなければならない。判決を言い渡すときは、再び公衆を入廷させなければならない。
第七十一條(法廷の秩序維持) 法廷における秩序の維持は、裁判長又は開廷をした一人の裁判官がこれを行う。
裁判長又は開廷をした一人の裁判官は、法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対し、退廷を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。
第七十二條(法廷外における処分) 裁判所が他の法律の定めるところにより法廷外の場所で職務を行う場合において、裁判長又は一人の裁判官は、裁判所の職務の執行を妨げる者に対し、退去を命じ、その他必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。
前項に規定する裁判長の権限は、裁判官が他の法律の定めるところにより法廷外の場所で職務を行う場合において、その裁判官もこれを有する。
第七十三條(審判妨害罪) 前二條の規定による命令に違反して裁判所又は裁判官の職務の執行を妨げた者は、これを一年以下の懲役若しくは禁錮又は千円以下の罰金に処する。
第二章 裁判所の用語
第七十四條(裁判所の用語) 裁判所では、日本語を用いる。
第三章 裁判の評議
第七十五條(評議の祕密) 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聽を許すことができる。
評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、祕密を守らなければならない。
第七十六條(意見を述べる義務) 裁判官は、評議において、その意見を述べなければならない。
第七十七條(評決) 裁判は、最高裁判所の裁判について最高裁判所が特別の定をした場合を除いて、過半数の意見による。
過半数の意見によつて裁判をする場合において、左の事項について意見が三説以上に分れ、その説が各ゝ過半数にならないときは、裁判は、左の意見による。
一 数額については、過半数になるまで最も多額の意見の数を順次少額の意見の数に加え、その中で最も少額の意見
二 刑事については、過半数になるまで被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見
第七十八條(補充裁判官) 合議体の審理が長時日にわたることの予見される場合においては、補充の裁判官一人が、審理に立ち会い、その審理中に合議体の裁判官の一人が審理に関與することができなくなつた場合において、これに代つて、その合議体に加わり審理及び裁判をすることができる。
第四章 裁判所の共助
第七十九條(裁判所の共助) 裁判所は、裁判事務について、互に必要な補助をする。
第六編 司法行政
第八十條(司法行政の監督) 司法行政の監督権は、左の各号の定めるところによりこれを行う。
一 最高裁判所は、最高裁判所の職員並びに下級裁判所及びその職員を監督する。
二 各高等裁判所は、その高等裁判所の職員並びに管轄区域内の下級裁判所及びその職員を監督する。
三 各地方裁判所は、その地方裁判所の職員並びに管轄区域内の簡易裁判所及びその職員を監督する。
四 第三十七條に規定する簡易裁判所の裁判官は、その簡易裁判所の裁判官以外の職員を監督する。
第八十一條(監督権と裁判権との関係) 前條の監督権は、裁判官の裁判権に影響を及ぼし、又はこれを制限することはない。
第八十二條(事務の取扱方法に対する不服) 裁判所の事務の取扱方法に対して申し立てられた不服は、第八十條の監督権によりこれを処分する。
第七編 裁判所の経費
第八十三條(裁判所の経費) 裁判所の経費は、独立して、國の予算にこれを計上しなければならない。
前項の経費中には、予備金を設けることを要する。
附 則
この法律は、日本國憲法施行の日から、これを施行する。
裁判所構成法、裁判所構成法施行條例、判事懲戒法及び行政裁判法は、これを廃止する。
朕は、枢密顧問の諮詢を経て、帝国議会の協賛を経た裁判所法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十二年四月十五日
内閣総理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
法律第五十九号
裁判所法目次
第一編
総則
第二編
最高裁判所
第三編
下級裁判所
第一章
高等裁判所
第二章
地方裁判所
第三章
簡易裁判所
第四編
裁判所の職員及び司法修習生
第一章
裁判官
第二章
裁判官以外の裁判所の職員
第三章
司法修習生
第五編
裁判事務の取扱
第一章
法廷
第二章
裁判所の用語
第三章
裁判の評議
第四章
裁判所の共助
第六編
司法行政
第七編
裁判所の経費
裁判所法
第一編 総則
第一条(この法律の趣旨) 日本国憲法に定める最高裁判所及び下級裁判所については、この法律の定めるところによる。
第二条(下級裁判所) 下級裁判所は、高等裁判所、地方裁判所及び簡易裁判所とする。
下級裁判所の設立、廃止及び管轄区域は、別に法律でこれを定める。
第三条(裁判所の権限) 裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
前項の規定は、行政機関が前審として審判することを妨げない。
この法律の規定は、刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。
第四条(上級審の裁判の拘束力) 上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。
第五条(裁判官) 最高裁判所の裁判官は、その長たる裁判官を最高裁判所長官とし、その他の裁判官を最高裁判所判事とする。
下級裁判所の裁判官は、高等裁判所の長たる裁判官を高等裁判所長官とし、その他の裁判官を判事、判事補及び簡易裁判所判事とする。
最高裁判所判事の員数は、十四人とし、下級裁判所の裁判官の員数は、別に法律でこれを定める。
第二編 最高裁判所
第六条(所在地) 最高裁判所は、これを東京都に置く。
第七条(裁判権) 最高裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 上告
二 訴訟法において特に定める抗告
第八条(その他の権限) 最高裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
第九条(大法廷・小法廷) 最高裁判所は、大法廷又は小法廷で審理及び裁判をする。
大法廷は、全員の裁判官の、小法廷は、最高裁判所の定める員数の裁判官の合議体とする。但し、小法廷の裁判官の員数は、三人以上でなければならない。
各合議体の裁判官のうち一人を裁判長とする。
各合議体では、最高裁判所の定める員数の裁判官が出席すれば、審理及び裁判をすることができる。
第十条(大法廷及び小法廷の審判) 事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。
一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。
二 前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。
三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。
第十一条(裁判官の意見の表示) 裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない。
第十二条(司法行政事務) 最高裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、最高裁判所長官が、これを総括する。
裁判官会議は、全員の裁判官でこれを組織し、最高裁判所長官が、その議長となる。
第十三条(事務局) 最高裁判所の庶務を掌らせるため、最高裁判所に事務局を置く。
第十四条(司法研修所) 裁判官その他の裁判所の職員の研究及び修養並びに司法修習生の修習に関する事務を取り扱わせるため、最高裁判所に司法研修所を置く。
第三編 下級裁判所
第一章 高等裁判所
第十五条 (構成)各高等裁判所は、高等裁判所長官及び相応な員数の判事でこれを構成する。
第十六条 (裁判権)高等裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 地方裁判所の第一審判決に対する控訴
二 第七条第二号の抗告を除いて、地方裁判所の決定及び命令に対する抗告
三 地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の第一審判決に対する上告
四 刑法第七十七条乃至第七十九条の罪に係る訴訟の第一審
第十七条(その他の権限) 高等裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
第十八条(合議制) 高等裁判所は、裁判官の合議体でその事件を取り扱う。但し、法廷ですべき審理及び裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定があるときは、その定に従う。
前項の合議体の裁判官の員数は、三人とし、そのうち一人を裁判長とする。但し、第十六条第四号の訴訟については、裁判官の員数は、五人とする。
第十九条(裁判官の職務の代行) 高等裁判所は、裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その管轄区域内の地方裁判所の判事にその高等裁判所の判事の職務を行わせることができる。
第二十条(司法行政事務) 各高等裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、各高等裁判所長官が、これを総括する。
各高等裁判所の裁判官会議は、その全員の裁判官でこれを組職し、各高等裁判所長官が、その議長となる。
第二十一条(事務局) 各高等裁判所の庶務を掌らせるため、各高等裁判所に事務局を置く。
第二十二条(支部) 最高裁判所は、高等裁判所の事務の一部を取り扱わせるため、その高等裁判所の管轄区域内に、高等裁判所の支部を設けることができる。
最高裁判所は、高等裁判所の支部に勤務する裁判官を定める。
第二章 地方裁判所
第二十三条(構成) 各地方裁判所は、相応な員数の判事及び判事補でこれを構成する。
第二十四条(裁判権) 地方裁判所は、左の事項について裁判権を有する。
一 第十六条第四号の罪、第三十三条第一項第一号の請求及び罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟以外の訴訟の第一審
二 簡易裁判所の判決に対する控訴
三 第七条第二号の抗告を除いて、簡易裁判所の決定及び命令に対する抗告
第二十五条(その他の権限) 地方裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限及び他の法律において裁判所の権限に属するものと定められた事項の中で地方裁判所以外の裁判所の権限に属させていない事項についての権限を有する。
第二十六条(一人制・合議制) 地方裁判所は、第二項に規定する場合を除いて、一人の裁判官でその事件を取り扱う。
左の事件は、裁判官の合議体でこれを取り扱う。但し、法廷ですべき審理及び裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定があるときは、その定に従う。
一 合議体で審理及び裁判をする旨の決定を合議体でした事件
二 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪(刑法第二百三十六条、第二百三十八条又は第二百三十九条の罪及びその未遂並びに昭和五年法律第九号第二条又は第三条の罪を除く。)に係る事件
三 簡易裁判所の判決に対する控訴事件並びに簡易裁判所の決定及び命令に対する抗告事件
四 その他他の法律において合議体で審理及び裁判をすべきものと定められた事件
前項の合議体の裁判官の員数は、三人とし、そのうち一人を裁判長とする。
第二十七条(判事補の職権の制限) 判事補は、他の法律に特別の定のある場合を除いて、一人で裁判をすることができない。
判事補は、同時に二人以上合議体に加わり、又は裁判長となることができない。
第二十八条(裁判官の職務の代行) 地方裁判所において裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その所在地を管轄する高等裁判所は、その管轄区域内の他の地方裁判所の裁判官に当該地方裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
第二十九条(司法行政事務) 最高裁判所は、各地方裁判所の判事のうち一人に各地方裁判所長を命ずる。
各地方裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、各地方裁判所長が、これを総括する。
各地方裁判所の裁判官会議は、その全員の判事でこれを組織し、各地方裁判所長が、その議長となる。
第三十条(事務局) 各地方裁判所の庶務を掌らせるため、各地方裁判所に事務局を置く。
第三十一条(支部・出張所) 最高裁判所は、地方裁判所の事務の一部を取り扱わせるため、その地方裁判所の管轄区域内に、地方裁判所の支部又は出張所を設けることができる。
最高裁判所は、地方裁判所の支部に勤務する裁判官を定める。
第三章 簡易裁判所
第三十二条(裁判官) 各簡易裁判所に相応な員数の簡易裁判所判事を置く。
第三十三条(裁判権) 簡易裁判所は、左の事項について第一審の裁判権を有する。
一 訴訟の目的の価額が五千円を超えない請求(行政処分の取消又は変更の請求を除く。)
二 罰金以下の刑にあたる罪又は選択刑として罰金が定められている罪に係る訴訟
簡易裁判所は、禁錮以上の刑を科することができない。禁錮以上の刑を科するのを相当と認めるときは、訴訟法の定めるところにより事件を地方裁判所に移さなければならない。
第三十四条(その他の権限) 簡易裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
第三十五条(一人制) 簡易裁判所は、一人の裁判官でその事件を取り扱う。
第三十六条(裁判官の職務の代行) 簡易裁判所において裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その所在地を管轄する地方裁判所は、その管轄区域内の他の簡易裁判所の裁判官又はその地方裁判所の判事に当該簡易裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
第三十七条(司法行政事務) 各簡易裁判所の司法行政事務は、簡易裁判所の裁判官が、一人のときは、その裁判官が、二人以上のときは、最高裁判所の指名する一人の裁判官がこれを掌理する。
第三十八条(事務の移転) 簡易裁判所において特別の事情によりその事務を取り扱うことができないときは、その所在地を管轄する地方裁判所は、その管轄区域内の他の簡易裁判所に当該簡易裁判所の事務の全部又は一部を取り扱わせることができる。
第四編 裁判所の職員及び司法修習生
第一章 裁判官
第三十九条 (最高裁判所の裁判官の任免)最高裁判所長官は、内閣の指名に基いて、天皇がこれを任命する。
最高裁判所判事は、内閣でこれを任命する。
最高裁判所判事の任免は、天皇がこれを認証する。
内閣は、第一項の指名又は第二項の任命を行うには、裁判官任命諮問委員会に諮問しなければならない。
裁判官任命諮問委員会に関する規程は、政令でこれを定める。
最高裁判所長官及び最高裁判所判事の任命は、国民の審査に関する法律の定めるところにより国民の審査に付される。
第四十条(下級裁判所の裁判官の任免) 高等裁判所長官、判事、判事補及び簡易裁判所判事は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。
高等裁判所長官の任免は、天皇がこれを認証する。
第一項の裁判官は、その官に任命された日から十年を経過したときは、その任期を終えるものとし、再任されることができる。
第四十一条(最高裁判所の裁判官の任命資格) 最高裁判所の裁判官は、識見の高い、法律の素養のある年齢四十年以上の者の中からこれを任命し、そのうち少くとも十人は、十年以上第一号及び第二号に掲げる職の一若しくは二に在つた者又は左の各号に掲げる職の一若しくは二以上に在つてその年数を通算して二十年以上になる者でなければならない。
一 高等裁判所長官
二 判事
三 簡易裁判所判事
四 検察官
五 弁護士
六 別に法律で定める大学の法律学の教授又は助教授
五年以上前項第一号及び第二号に掲げる職の一若しくは二に在つた者又は十年以上同項第一号乃至第六号に掲げる職の一若しくは二以上に在つた者が判事補、裁判所調査官、最高裁判所事務総長、裁判所事務官、司法研修所教官、司法次官、司法事務官又は少年審判官の職に在つたときは、その在職は、同項の規定の適用については、これを同項第三号乃至第六号に掲げる職の在職とみなす。
前二項の規定の適用については、第一項第三号乃至第五号及び前項に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
三年以上第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授の職に在つた者が簡易裁判所判事、検察官又は弁護士の職に就いた場合においては、その簡易裁判所判事、検察官(副検事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。
第四十二条(高等裁判所長官及び判事の任命資格) 高等裁判所長官及び判事は、左の各号に掲げる職の一又は二以上に在つてその年数を通算して十年以上になる者の中からこれを任命する。
一 判事補
二 簡易裁判所判事
三 検察官
四 弁護士
五 裁判所調査官、司法研修所教官又は少年審判官
六 前条第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授
前項の規定の適用については、三年以上同項各号に掲げる職の一又は二以上に在つた者が裁判所事務官又は司法事務官の職に在つたときは、その在職は、これを同項各号に掲げる職の在職とみなす。
前二項の規定の適用については、第一項第二号乃至第五号及び前項に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
三年以上前条第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授の職に在つた者が簡易裁判所判事、検察官又は弁護士の職に就いた場合においては、その簡易裁判所判事、検察官(副検事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。司法修習生の修習を終えないで簡易裁判所判事又は検察官に任命された者の第六十六条の試験に合格した後の簡易裁判所判事、検察官(副検事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数についても、同様とする。
第四十三条(判事補の任命資格) 判事補は、司法修習生の修習を終えた者の中からこれを任命する。
第四十四条(簡易裁判所判事の任命資格) 簡易裁判所判事は、高等裁判所長官若しくは判事の職に在つた者又は左の各号に掲げる職の一若しくは二以上に在つてその年数を通算して、三年以上になる者の中からこれを任命する。
一 判事補
二 検察官
三 弁護士
四 裁判所調査官、裁判所事務官、司法研修所教官、司法事務官又は少年審判官
五 第四十一条第一項第六号の大学の法律学の教授又は助教授
前項の規定の適用については、同項第二号乃至第四号に掲げる職に在つた年数は、司法修習生の修習を終えた後の年数に限り、これを当該職に在つた年数とする。
司法修習生の修習を終えないで検察官に任命された者の第六十六条の試験に合格した後の検察官(副検事を除く。)又は弁護士の職に在つた年数については、前項の規定は、これを適用しない。
第四十五条(簡易裁判所判事の選考任命) 多年司法事務にたずさわり、その他簡易裁判所判事の職務に必要な学識経験のある者は、前条第一項に掲げる者に該当しないときでも、簡易裁判所判事選考委員会の選考を経て、簡易裁判所判事に任命されることができる。
簡易裁判所判事選考委員会に関する規程は、最高裁判所がこれを定める。
第四十六条(任命の欠格事由) 他の法律の定めるところにより一般の官吏に任命されることができない者の外、左の各号の一に該当する者は、これを裁判官に任命することができない。
一 禁錮以上の刑に処せられた者
二 弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者
第四十七条(補職) 下級裁判所の裁判官の職は、最高裁判所がこれを補する。
第四十八条(身分の保障) 裁判官は、公の弾劾又は国民の審査に関する法律による場合及び別に法律で定めるところにより心身の故障のために職務を執ることができないと裁判された場合を除いては、その意思に反して、免官、転官、転所、職務の停止又は報酬の減額をされることはない。
第四十九条(懲戒) 裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。
第五十条(定年) 最高裁判所の裁判官は、年齢七十年、下級裁判所の裁判官は、年齢六十五年に達した時に退官する。
第五十一条(報酬) 裁判官の受ける報酬については、別に法律でこれを定める。
第五十二条(政治運動等の禁止) 裁判官は、在任中、左の行為をすることができない。
一 国会若しくは地方公共団体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。
二 最高裁判所の許可のある場合を除いて、報酬のある他の職務に従事すること。
三 商業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。
第二章 裁判官以外の裁判所の職員
第五十三条(最高裁判所事務総長) 最高裁判所に最高裁判所事務総長一人を置く。
最高裁判所事務総長は、一級とする。
最高裁判所事務総長は、最高裁判所長官の監督を受けて、最高裁判所の事務局の事務を掌理し、事務局の職員を指揮監督する。
第五十四条(最高裁判所長官秘書官) 最高裁判所に最高裁判所長官秘書官一人を置く。
最高裁判所長官秘書官は、二級とする。
最高裁判所長官秘書官は、最高裁判所長官の命を受けて、機密に関する事務を掌る。
第五十五条(司法研修所教官) 最高裁判所に別に法律で定める員数の司法研修所教官を置く。
司法研修所教官は、一級、二級又は三級とする。
司法研修所教官は、上司の指揮を受けて、司法研修所における研究、修養及び修習の指導を掌る。
第五十六条(司法研修所長) 最高裁判所に司法研修所長を置き、一級の司法研修所教官の中から、最高裁判所が、これを補する。
司法研修所長は、最高裁判所長官の監督を受けて、司法研修所の事務を掌理し、司法研修所の職員を指揮監督する。
第五十七条(裁判所調査官) 最高裁判所及び各高等裁判所に通じて別に法律で定める員数の裁判所調査官を置く。
裁判所調査官は、二級とする。
裁判所調査官は、裁判官の命を受けて、事件の審理及び裁判に関して必要な調査を掌る。
裁判所調査官の任命は、一般の二級事務官吏に任命される資格を有する者の外、第六十六条の試験に合格した者についてもこれを行うことができる。
第五十八条(裁判所事務官) 各裁判所に通じて別に法律で定める員数の裁判所事務官を置く。
裁判所事務官は、一級、二級又は三級とする。
裁判所事務官は、上司の命を受けて、裁判所の事務を掌る。
二級の裁判所事務官の任命及び叙級は、一般の二級事務官吏に任命され、又は叙級される資格を有する者の外、第六十六条の試験に合格した者についてもこれを行うことができる。
第五十九条(事務局長) 各高等裁判所及び各地方裁判所に事務局長を置き、裁判所事務官の中から、最高裁判所が、これを補する。
各高等裁判所の事務局長は、各高等裁判所長官の、各地方裁判所の事務局長は、各地方裁判所長の監督を受けて、事務局の事務を掌理し、事務局の職員を指揮監督する。
第六十条(裁判所書記) 各裁判所に裁判所書記を置き、裁判所事務官の中から、最高裁判所の定めるところにより、最高裁判所、各高等裁判所又は各地方裁判所が、これを補する。
裁判所書記は、裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管その他他の法律において定める事務を掌る。
裁判所書記は、その職務を行うについては、裁判官の命令に従う。
裁判所書記は、口述の書取その他書類の作成又は変更に関して裁判官の命令を受けた場合において、その作成又は変更を正当でないと認めるときは、自己の意見を書き添えることができる。
第六十一条(裁判所技官) 各裁判所に通じて別に法律で定める員数の裁判所技官を置く。
裁判所技官は、二級又は三級とする。
裁判所技官は、上司の命を受けて、技術を掌る。
第六十二条(執行吏) 各地方裁判所に執行吏を置く。
執行吏は、最高裁判所の定めるところにより各地方裁判所がこれを任命する。
執行吏に任命されるのに必要な資格に関する事項は、最高裁判所がこれを定める。
執行吏は、他の法律の定めるところにより裁判の執行、裁判所の発する文書の送達その他の事務を行う。
執行吏は、手数料を受けるものとし、その手数料が一定の額に達しないときは、国庫から補助金を受ける。
第六十三条(廷吏) 各裁判所においては、廷吏を雇う。
廷吏は、法廷において裁判官の命ずる事務その他最高裁判所の定める事務を取り扱う。
各裁判所は、執行吏を用いることができないときは、その裁判所の所在地で書類を送達するために、廷吏を用いることができる。
第六十四条(任免・叙級) 裁判官以外の裁判所の職員の任免及び叙級は、一級のものについては、最高裁判所の申出により内閣が、二級のものについては、最高裁判所がそれぞれこれを行い、三級のものについては、最高裁判所の定めるところにより最高裁判所、各高等裁判所又は各地方裁判所がこれを行う。
第六十五条(勤務裁判所の指定) 裁判所調査官、裁判所事務官(事務局長又は裁判所書記たるものを除く。)及び裁判所技官の勤務する裁判所は、最高裁判所の定めるところにより最高裁判所、各高等裁判所又は各地方裁判所がこれを定める。
第三章 司法修習生
第六十六条(採用) 司法修習生は、高等試験司法科試験に合格した者の中から、最高裁判所がこれを命ずる。
前項の試験に関する事項は、政令でこれを定める。
第六十七条(修習・試験) 司法修習生は、少くとも二年間修習をした後試験に合格したときは、司法修習生の修習を終える。
司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。
第一項の修習及び試験に関する事項は、最高裁判所がこれを定める。
第六十八条(罷免) 最高裁判所は、司法修習生の行状がその品位を辱めるものと認めるときその他司法修習生について最高裁判所の定める事由があると認めるときは、その司法修習生を罷免することができる。
第五編 裁判事務の取扱
第一章 法廷
第六十九条(開廷の場所) 法廷は、裁判所又は支部でこれを開く。
最高裁判所は、必要と認めるときは、前項の規定にかかわらず、他の場所で法廷を開き、又はその指定する他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる。
第七十条(公開停止の手続) 裁判所は、日本国憲法第八十二条第二項の規定により対審を公開しないで行うには、公衆を退廷させる前に、その旨を理由とともに言い渡さなければならない。判決を言い渡すときは、再び公衆を入廷させなければならない。
第七十一条(法廷の秩序維持) 法廷における秩序の維持は、裁判長又は開廷をした一人の裁判官がこれを行う。
裁判長又は開廷をした一人の裁判官は、法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対し、退廷を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。
第七十二条(法廷外における処分) 裁判所が他の法律の定めるところにより法廷外の場所で職務を行う場合において、裁判長又は一人の裁判官は、裁判所の職務の執行を妨げる者に対し、退去を命じ、その他必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。
前項に規定する裁判長の権限は、裁判官が他の法律の定めるところにより法廷外の場所で職務を行う場合において、その裁判官もこれを有する。
第七十三条(審判妨害罪) 前二条の規定による命令に違反して裁判所又は裁判官の職務の執行を妨げた者は、これを一年以下の懲役若しくは禁錮又は千円以下の罰金に処する。
第二章 裁判所の用語
第七十四条(裁判所の用語) 裁判所では、日本語を用いる。
第三章 裁判の評議
第七十五条(評議の秘密) 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。
第七十六条(意見を述べる義務) 裁判官は、評議において、その意見を述べなければならない。
第七十七条(評決) 裁判は、最高裁判所の裁判について最高裁判所が特別の定をした場合を除いて、過半数の意見による。
過半数の意見によつて裁判をする場合において、左の事項について意見が三説以上に分れ、その説が各ゝ過半数にならないときは、裁判は、左の意見による。
一 数額については、過半数になるまで最も多額の意見の数を順次少額の意見の数に加え、その中で最も少額の意見
二 刑事については、過半数になるまで被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見
第七十八条(補充裁判官) 合議体の審理が長時日にわたることの予見される場合においては、補充の裁判官一人が、審理に立ち会い、その審理中に合議体の裁判官の一人が審理に関与することができなくなつた場合において、これに代つて、その合議体に加わり審理及び裁判をすることができる。
第四章 裁判所の共助
第七十九条(裁判所の共助) 裁判所は、裁判事務について、互に必要な補助をする。
第六編 司法行政
第八十条(司法行政の監督) 司法行政の監督権は、左の各号の定めるところによりこれを行う。
一 最高裁判所は、最高裁判所の職員並びに下級裁判所及びその職員を監督する。
二 各高等裁判所は、その高等裁判所の職員並びに管轄区域内の下級裁判所及びその職員を監督する。
三 各地方裁判所は、その地方裁判所の職員並びに管轄区域内の簡易裁判所及びその職員を監督する。
四 第三十七条に規定する簡易裁判所の裁判官は、その簡易裁判所の裁判官以外の職員を監督する。
第八十一条(監督権と裁判権との関係) 前条の監督権は、裁判官の裁判権に影響を及ぼし、又はこれを制限することはない。
第八十二条(事務の取扱方法に対する不服) 裁判所の事務の取扱方法に対して申し立てられた不服は、第八十条の監督権によりこれを処分する。
第七編 裁判所の経費
第八十三条(裁判所の経費) 裁判所の経費は、独立して、国の予算にこれを計上しなければならない。
前項の経費中には、予備金を設けることを要する。
附 則
この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。
裁判所構成法、裁判所構成法施行条例、判事懲戒法及び行政裁判法は、これを廃止する。