朕裁判所構成法ヲ裁可シ之ヲ公布セシム此ノ法律ハ明治二十三年十一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年二月八日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
司法大臣 伯爵 山田顯義
法律第六號
裁判所構成法目次
第一編
裁判所及檢事局
第一章
總則
第二章
區裁判所
第三章
地方裁判所
第四章
控訴院
第五章
大審院
第二編
裁判所及檢事局ノ官吏
第一章
判事又ハ檢事ニ任セラルヽニ必要ナル準備及資格
第二章
判事
第三章
檢事
第四章
裁判所書記
第五章
執達吏
第六章
廷丁
第三編
司法事務ノ取扱
第一章
開廷
第二章
裁判所ノ用語
第三章
裁判ノ評議及言渡
第四章
裁判所及檢事局ノ事務章程
第五章
司法年度及休暇
第六章
法律上ノ共助
第四編
司法行政ノ職務及監督權
裁判所構成法
第一編 裁判所及檢事局
第一章 總則
第一條 左ノ裁判所ヲ通常裁判所トス
第一 區裁判所
第二 地方裁判所
第三 控訴院
第四 大審院
第二條 通常裁判所ニ於テハ民事刑事ヲ裁判スルモノトス但シ法律ヲ以テ特別裁判所ノ管轄ニ屬セシメタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第三條 地方裁判所控訴院及大審院ヲ合議裁判所トシ數人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ總テノ事件ヲ審問裁判ス但シ訴訟法又ハ特別法ニ別段規定シタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第四條 裁判所ノ設立廢止及管轄區域竝ニ其ノ變更ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五條 各裁判所ニ相應ナル員數ノ判事ヲ置ク
第六條 各裁判所ニ檢事局ヲ附置ス檢事ハ刑事ニ付公訴ヲ起シ其ノ取扱上必要ナル手續ヲ爲シ法律ノ正當ナル適用ヲ請求シ及判決ノ適當ニ執行セラルヽヤヲ監視シ又民事ニ於テモ必要ナリト認ムルトキハ通知ヲ求メ其ノ意見ヲ述フルコトヲ得又裁判所ニ屬シ若ハ之ニ關ル司法及行政事件ニ付公益ノ代表者トシテ法律上其ノ職權ニ屬スル監督事務ヲ行フ
檢事ハ裁判所ニ對シ獨立シテ其ノ事務ヲ行フ
檢事局ノ管轄區域ハ其ノ附置セラレタル裁判所ノ管轄區域ニ同シ
若一人ノ檢事若ハ數人ノ檢事悉ク差支アリテ或ル事件ヲ取扱フコトヲ得サルトキハ裁判所長又ハ區裁判所ニ於テ判事若ハ監督判事ハ其ノ事件猶豫スヘカラサルニ於テハ判事ニ檢事ノ代理ヲ命シ其ノ事件ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第七條 檢事局ニ相應ナル員數ノ檢事ヲ置ク
第八條 各裁判所ニ書記課ヲ設ク書記課ハ往復會計記錄其ノ他此ノ法律又ハ他ノ法律ニ特定シタル事務ヲ取扱フ
裁判所ニ附置セラレタル檢事局ニ於テ前項ノ如キ事務ヲ取扱フ爲必要ナリト認メタルトキニ限リ別ニ書記課ヲ設クルコトヲ得但シ合議裁判所ノ檢事局ニ限ル
司法大臣ハ裁判所ノ會計事務ヲ專任スル爲特別官吏ヲ裁判所ニ置クコトヲ得
第九條 區裁判所ニ執達吏ヲ置ク執達吏ハ裁判所ヨリ發スル文書ヲ送達シ及裁判所ノ裁判ヲ執行ス
前項ノ外執達吏ハ此ノ法律又ハ他ノ法律ニ定メタル特別ノ職務ヲ行フ
第十條 法律ヲ以テ特定シタルモノヲ除ク外左ノ場合ニ於テ適當ノ申請アルトキハ關係アル各裁判所ヲ併セテ之ヲ管轄スル直近上級ノ裁判所ハ何レノ裁判所ニ於テ本件ヲ裁判スルノ權アルヤヲ裁判ス
第一 權限アル裁判所ニ於テ法律上ノ理由若ハ特別ノ事情ニ因リ裁判權ヲ行フコトヲ得ス且此ノ法律第十三條ニ依リ之ニ代ルヘキコトヲ定メラレタル裁判所モ亦之ヲ行フコトヲ得サルトキ
第二 裁判所管轄區域ノ境界明確ナラサルカ爲其ノ權限ニ付疑ヲ生シタルトキ
第三 法律ニ從ヒ又ハ二以上ノ確定判決ニ因リ二以上ノ裁判所裁判權ヲ互有スルトキ
第四 二以上ノ裁判所權限ヲ有セストノ確定判決ヲ爲シ又ハ權限ヲ有セストノ確定判決ヲ受ケタルモ其ノ裁判所ノ一ニ於テ裁判權ヲ行フヘキトキ
第二章 區裁判所
第十一條 區裁判所ノ裁判權ハ單獨判事之ヲ行フ
判事二人以上ヲ置キタル區裁判所ニ於テハ司法大臣ノ定メタル通則ニ從ヒ其ノ裁判事務ヲ各判事ニ分配ス
此ノ事務分配ハ每年地方裁判所長前以テ之ヲ定ム
區裁判所判事ノ取扱ヒタル事ハ裁判事務分配上其ノ事他ノ判事ニ屬シタリトノ事實ノミニ因リ其ノ効力ヲ失フコトナシ
判事二人以上ヲ置キタル區裁判所ニ於テハ司法大臣ハ其ノ一人ヲ監督判事トシ之ニ其ノ行政事務ヲ委任ス
第十二條 事務分配一タヒ定マリタルトキハ司法年度中之ヲ變更セス但シ一人ノ判事ノ分擔多キニ過キ又ハ判事轉退シ又ハ疾病其ノ他ノ事故ニ因リ久ク闕勤スル者アル等引續キ差支ヲ生シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十三條 區裁判所ノ判事差支アルトキハ每年地方裁判所長ノ前以テ定メタル順序ニ從ヒ互ニ相代理ス但シ監督判事ノ職務ハ其ノ裁判所ノ判事官等ノ順序ニ從ヒ之ヲ代理ス
一ノ區裁判所ニ於テ法律上ノ理由若ハ特別ノ事情ニ因リ事務ヲ取扱フコトヲ得サルトキ之ニ代ルヘキ他ノ區裁判所ハ前項ニ同ク每年前以テ之ヲ定ム
第十四條 區裁判所ハ民事訴訟ニ於テ左ノ事項ニ付裁判權ヲ有ス但シ反訴ニ關リテハ民事訴訟法ノ定ムル所ニ依ル
第一 百圓ヲ超過セサル金額又ハ價額百圓ヲ超過セサル物ニ關ル請求
第二 價額ニ拘ラス左ノ訴訟
(イ) 住家其ノ他ノ建物又ハ其ノ或ル部分ノ受取明渡使用占據若ハ修繕ニ關リ又ハ賃借人ノ家具若ハ所持品ヲ賃貸人ノ差押ヘタルコトニ關リ賃貸人ト賃借人トノ間ニ起リタル訴訟
(ロ) 不動產ノ經界ノミニ關ル訴訟
(ハ) 占有ノミニ關ル訴訟
(ニ) 雇主ト雇人トノ間ニ雇期限一年以下ノ契約ニ關リ起リタル訴訟
(ホ) 左ニ揭ケタル事項ニ付旅人ト旅店若ハ飮食店ノ主人トノ間ニ又ハ旅人ト水陸運送人トノ間ニ起リタル訴訟
(一) 賄料又ハ宿料又ハ旅人ノ運送料又ハ之ニ伴フ手荷物ノ運送料
(二) 旅店若ハ飮食店ノ主人又ハ運送人ニ旅人ヨリ保護ノ爲預ケタル手荷物金錢又ハ有價物
第十五條 區裁判所ハ非訟事件ニ付法律ニ定メタル範圍及方法ニ從ヒ左ノ事務ヲ取扱フノ權ヲ有ス
第一 未成年者瘋癲者白癡者失踪者其ノ他法律若ハ判決ニ因リ治產ノ禁ヲ受ケタル者ノ後見人若ハ管財人ヲ監督スル事
第二 不動產及船舶ニ關ル權利關係ヲ登記スル事
第三 商業登記及特許局ニ登錄シタル特許意匠及商標ノ登記ヲ爲ス事
第十六條 區裁判所ハ刑事ニ於テ左ノ事項ニ付裁判權ヲ有ス
第一 違警罪
第二 本刑五十圓以下ノ罰金ヲ附加シ若ハ附加セサル二月以下ノ禁錮又ハ單ニ百圓以下ノ罰金ニ該ル輕罪
第三 刑法第二編第一章ヲ除キ其ノ他ノ輕罪ニシテ本刑二百圓以下ノ罰金ヲ附加シ若ハ附加セサル二年以下ノ禁錮又ハ單ニ三百圓以下ノ罰金ニ該リ其情第二ニ揭ケタル刑ヨリ更ニ重キ刑ニ處スルコトヲ要セスト認メ地方裁判所若ハ其ノ支部ノ檢事局ヨリ區裁判所ニ移付シタルモノ
前項ノ手續ニ因リ訴追ヲ爲シ犯罪ノ證明アリタル場合ニ於テ判決ヲ爲ス前何時ニテモ其ノ情第二ニ揭ケタル刑ニテハ相當ニ罰スルコトヲ得スト認ムルトキハ區裁判所ハ之ヲ裁判スル權限ヲ有セストノ言渡ヲ爲ス此ノ場合ニ於テハ檢事ハ被吿人ヲシテ相當ノ裁判所ニ於テ裁判ヲ受ケシムル爲適當ノ手續ヲ爲ス
第十七條 前數條ニ揭ケタルモノヲ除ク外區裁判所ノ權限ハ此ノ章ニ揭ケタル事件ニ關リ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第十八條 各區裁判所ノ檢事局ニ檢事ヲ置ク
區裁判所檢事局ノ檢事ノ事務ハ其ノ地ノ警察官憲兵將校下士又ハ林務官之ヲ取扱フコトヲ得
司法大臣ハ適當ナル場合ニ於テハ區裁判所判事試補又ハ郡市町村ノ長ヲシテ檢事ヲ代理セシムルコトヲ得
第三章 地方裁判所
第十九條 地方裁判所ヲ第一審ノ合議裁判所トス
各地方裁判所ニ一若ハ二以上ノ民事部及刑事部ヲ設ク
第二十條 各地方裁判所ニ地方裁判所長ヲ置ク
地方裁判所長ハ裁判所ノ一般ノ事務ヲ指揮シ其ノ行政事務ヲ監督ス
地方裁判所ノ各部ニ部長ヲ置ク部長ハ部ノ事務ヲ監督シ其ノ分配ヲ定ム
第二十一條 司法大臣ハ每年各地方裁判所ノ判事一人若ハ二人以上ニ其ノ裁判所ノ裁判權ニ屬スル刑事ノ豫審ヲ爲スコトヲ命ス
第二十二條 各地方裁判所ノ事務ハ司法大臣ノ定メタル通則ニ從ヒ各部及各豫審判事ニ之ヲ分配ス
各地方裁判所ノ各部長及部員ノ配置及所長部長部員差支アルトキノ代理モ亦每年前以テ之ヲ定ム
前二項ニ揭ケタル諸件ハ裁判所長部長及部ノ上席判事一人ノ會議ニ於テ裁判所長會長トナリ多數ヲ以テ之ヲ決ス可否同數ナルトキハ會長ノ決スル所ニ依ル
地方裁判所長ハ次年自ラ部長トナルヘキ部ヲ指定スヘシ
第二十三條 或ル部ニ於テ著手シタル事務ニシテ司法年度ノ終若ハ休暇ノ始ニ臨ミ未タ終結ニ至ラサルモノハ裁判所長便利ト認ムルトキ同部員ヲシテ引續キ之ヲ結了セシムルコトヲ得
豫審判事ノ取扱フ事務ニシテ未タ終結ニ至ラサルモノモ亦前項ニ同シ
第二十四條 第二十二條ニ從ヒ事務ノ分配及判事ノ配置一タヒ定マリタルトキハ休暇中ヲ除キ一部ノ事務多キニ過キ又ハ判事轉退シ又ハ疾病其ノ他ノ事故ニ因リ久ク闕勤スル者アル等引續キ差支アルニ非サレハ司法年度中之ヲ變更セス
裁判所ノ事務其ノ現在ノ部ニ過多ナル場合ニ於テ司法大臣適宜ト認ムルトキハ新ニ一部又ハ數部ヲ設クルコトヲ得
第二十五條 地方裁判所ノ判事差支ノ爲或ル事件ヲ取扱フコトヲ得ス且同裁判所ノ判事中其ノ代理ヲ爲シ得ヘキ者ナキ場合ニ於テ其ノ事件緊急ナリト認ムルトキハ裁判所長ハ其ノ管轄區域內ノ區裁判所判事又ハ豫備判事ニ其ノ代理ヲ命スルコトヲ得
第二十六條 地方裁判所ハ民事訴訟ニ於テ左ノ事項ニ付裁判權ヲ有ス
第一 第一審トシテ
區裁判所ノ權限又ハ第三十八條ニ定メタル控訴院ノ權限ニ屬スルモノヲ除キ其ノ他ノ請求
第二 第二審トシテ
(イ) 區裁判所ノ判決ニ對スル控訴
(ロ) 區裁判所ノ決定及命令ニ對スル法律ニ定メタル抗吿
第二十七條 地方裁判所ハ刑事訴訟ニ於テ左ノ事項ニ付裁判權ヲ有ス
第一 第一審トシテ
區裁判所ノ權限竝ニ大審院ノ特別權限ニ屬セサル刑事訴訟
第二 第二審トシテ
(イ) 區裁判所ノ判決ニ對スル控訴
(ロ) 區裁判所ノ決定及命令ニ對スル法律ニ定メタル抗吿
第二十八條 地方裁判所ハ破產事件ニ付一般ノ裁判權ヲ有ス
第二十九條 地方裁判所ハ非訟事件ニ關ル區裁判所ノ決定及命令ニ對シ法律ニ定メタル抗吿ニ付裁判權ヲ有ス
第三十條 地方裁判所ノ權限竝ニ其ノ裁判權ヲ行フノ範圍及方法ニシテ此ノ法律ニ定メサルモノハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第三十一條 司法大臣ハ地方裁判所ト其ノ管轄區域內ノ區裁判所ト遠隔ナルカ若ハ交通不便ナルカ爲至當ト認ムルトキハ地方裁判所ニ屬スル民事及刑事ノ事務ノ一部分ヲ取扱フ爲一若ハ二以上ノ支部ノ設置ヲ命スルコトヲ得且支部ヲ開クヘキ區裁判所ヲ定ム
支部ニハ之ヲ設置シタル區裁判所若ハ近隣ノ區裁判所ノ判事ヲ用井ルコトヲ得此ノ場合ニ於テ判事ヲ選用スルノ權ハ司法大臣ニ屬ス
司法大臣ハ支部ニ勤ムヘキ豫審判事及檢事ヲ命ス
司法大臣ハ支部ノ本部タル地方裁判所ノ管轄區域內ノ區裁判所判事ニ豫審判事ヲ命スルコトヲ得
代理ニ關ル第二十五條ハ支部ニモ亦之ヲ適用ス
第三十二條 地方裁判所ニ於テ訴訟法ニ依リ法廷ニ於テ審問裁判スヘキ事件ハ三人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ之ヲ審問裁判ス其ノ三人ノ判事中一人ヲ裁判長トス且豫備判事ハ如何ナル事情アルモ二人以上其ノ部ニ列席スルコトヲ得ス其ノ他ノ事件ハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ從ヒ判事之ヲ取扱フ
第三十三條 各地方裁判所ノ檢事局ニ檢事正ヲ置ク檢事正ハ檢事局ノ事務取扱ヲ分配指揮及監督ス但シ檢事局ノ其ノ他ノ檢事ハ事務取扱ニ付何等ノ事件ニ拘ラス特別ノ許可ヲ受ケスシテ檢事正ヲ代理スルノ權ヲ有ス
第四章 控訴院
第三十四條 控訴院ヲ第二審ノ合議裁判所トス
各控訴院ニ一若ハ二以上ノ民事部及刑事部ヲ設ク
第三十五條 各控訴院ニ控訴院長ヲ置ク
控訴院長ハ控訴院ノ一般ノ事務ヲ指揮シ其ノ行政事務ヲ監督ス
控訴院ノ各部ニ部長ヲ置ク部長ハ部ノ事務ヲ監督シ其ノ分配ヲ定ム
第三十六條 事務ノ分配及結了竝ニ判事ノ代理ニ付テハ第二十二條第二十三條及第二十五條ヲ左ノ變更ヲ以テ控訴院ニ適用ス
第一 前項ニ揭ケタル各條ヲ以テ地方裁判所長ニ與ヘタル權ハ控訴院長ニモ之ヲ與ヘタルモノトス
第二 控訴院ノ判事差支ノ爲或ル事件ヲ取扱フコトヲ得ス且同院ノ判事中其ノ代理ヲ爲シ得ヘキ者ナキ場合ニ於テ其ノ事件緊急ナリト認ムルトキハ之ヲ代理スル判事ヲ出スヘキ旨ヲ控訴院長ヨリ其ノ控訴院所在地ノ地方裁判所長ニ通知シ其ノ裁判所ノ判事ヲシテ代理ヲ爲サシムルコトヲ得但シ豫備判事ヲ用井ルコトヲ得ス
第三十七條 控訴院ハ左ノ事項ニ付裁判權ヲ有ス
第一 地方裁判所ノ第一審判決ニ對スル控訴
第二 區裁判所ノ判決ニ對スル控訴ニ付爲シタル地方裁判所ノ判決ニ對スル上吿
第三 地方裁判所ノ決定及命令ニ對スル法律ニ定メタル抗吿
第三十八條 皇族ニ對スル民事訴訟ニ付第一審及第二審ノ裁判權ハ東京控訴院ニ屬ス但シ第一審ノ訴訟手續ニ付テハ地方裁判所ノ第一審手續ヲ適用ス
第三十九條 控訴院ノ權限竝ニ其ノ裁判權ヲ行フノ範圍及方法ニシテ此ノ法律ニ定メサルモノハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第四十條 控訴院ニ於テ訴訟法ニ依リ法廷ニ於テ審問裁判スヘキ事件ハ五人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ之ヲ審問裁判ス其ノ五人ノ判事中一人ヲ裁判長トス其ノ他ノ事件ハ訴訟法ノ定ムル所ニ從ヒ判事之ヲ取扱フ
第四十一條 第三十八條ノ場合ニ於テ第一審ハ五人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ審問裁判シ第二審ハ特ニ七人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ審問裁判ス其ノ五人又ハ七人ノ判事中一人ヲ裁判長トス
第四十二條 各控訴院ノ檢事局ニ檢事長ヲ置ク
檢事長竝ニ其ノ他ノ檢事ノ職權ニ付テハ第三十三條ヲ適用ス
第五章 大審院
第四十三條 大審院ヲ最高裁判所トス
大審院ニ一若ハ二以上ノ民事部及刑事部ヲ設ク
第四十四條 大審院ニ大審院長ヲ置ク
大審院長ハ大審院ノ一般ノ事務ヲ指揮シ其ノ行政事務ヲ監督ス
大審院ノ各部ニ部長ヲ置ク部長ハ部ノ事務ヲ監督シ其ノ分配ヲ定ム
第四十五條 大審院ノ事務ノ分配竝ニ代理ノ順序ハ每年部長ト協議シ大審院長前以テ之ヲ定ム
大審院長ハ次年自ラ上席セントスル部ヲ指定スヘシ
大審院ノ判事差支ノ爲或ル事件ヲ取扱フコトヲ得ス且同院ノ判事中其ノ代理ヲ爲シ得ヘキ者ナキ場合ニ於テ其ノ事件緊急ナリト認ムルトキハ之ヲ代理スル判事ヲ出スヘキ旨ヲ大審院長ヨリ其ノ所在地ノ控訴院長ニ通知シ其ノ控訴院ノ判事ヲシテ代理ヲ爲サシムルコトヲ得
第四十六條 大審院長ハ何時ニテモ部長若ハ部員ノ承諾ヲ得テ之ヲ他ノ部ニ轉セシムルコトヲ得
第四十七條 大審院ニ於テ一タヒ定マリタル部ノ組立ヲ變更シタルトキハ現ニ取扱中ノ事務ニ付テハ第二十三條ヲ適用ス
司法年度中事務分配ノ變更ニ付テハ第二十四條ヲ適用ス
第四十八條 大審院ニ於テ裁判ヲ爲スニ當リ法律ノ㸃ニ付テ表シタル意見ハ其ノ訴訟一切ノ事ニ付下級裁判所ヲ覊束ス
第四十九條 大審院ノ或ル部ニ於テ上吿ヲ審問シタル後法律ノ同一ノ㸃ニ付曾テ一若ハ二以上ノ部ニ於テ爲シタル判決ト相反スル意見アルトキハ其ノ部ハ之ヲ大審院長ニ報吿シ大審院長ハ其ノ報吿ニ因リ事件ノ性質ニ從ヒ民事ノ總部若ハ刑事ノ總部又ハ民事及刑事ノ總部ヲ聯合シテ之ヲ再ヒ審問シ及裁判スルコトヲ命ス
第五十條 大審院ハ左ノ事項ニ付裁判權ヲ有ス
第一 終審トシテ
(イ) 第三十七條第二ニ依リ爲シタル判決及第三十八條ノ第一審ノ判決ニ非サル控訴院ノ判決ニ對スル上吿
(ロ) 控訴院ノ決定及命令ニ對スル法律ニ定メタル抗吿
第二 第一審ニシテ終審トシテ
刑法第二編第一章及第二章ニ揭ケタル重罪竝ニ皇族ノ犯シタル罪ニシテ禁錮又ハ更ニ重キ刑ニ處スヘキモノヽ豫審及裁判
第五十一條 前條第二ニ揭ケタル事件ニ付大審院ハ必要ナリト認ムルトキハ事件ノ審問裁判ヲ爲ス爲控訴院若ハ地方裁判所ニ於テ法廷ヲ開クコトヲ得
此ノ場合ニ於テハ控訴院判事ヲ以テ部員ニ加フルコトヲ得但シ其ノ半數ニ滿ツルコトヲ得ス
第五十二條 大審院ノ權限竝ニ其ノ裁判權ヲ行フノ範圍及方法ニシテ此ノ法律ニ定メサルモノハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第五十三條 大審院ニ於テ訴訟法ニ依リ法廷ニ於テ審問裁判スヘキ事件ハ七人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ之ヲ審問裁判ス其ノ七人ノ判事中一人ヲ裁判長トス其ノ他ノ事件ハ訴訟法ノ定ムル所ニ從ヒ判事之ヲ取扱フ
第五十四條 第四十九條ニ定メタル場合ニ於テハ聯合部ノ判事少クトモ三分ノ二列席スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ民事ノ總部若ハ刑事ノ總部聯合スルトキ又ハ民事及刑事ノ總部聯合スルトキハ總部ノ判事中官等最モ高キ者ヲ部長ト爲ス大審院長ハ至當ナリト認ムルトキハ自ラ總部ニ長タルノ權ヲ有ス
第五十五條 大審院長ハ第五十條ニ依リ大審院ニ於テ第一審ニシテ終審ヲ爲スヘキ各別ノ場合ニ付大審院ノ判事ニ豫審ヲ命ス但シ便宜ニ依リ各裁判所判事ヲシテ豫審ヲ爲サシムルコトヲ得
第五十六條 大審院ノ檢事局ニ檢事總長ヲ置ク
檢事總長竝ニ其ノ他ノ檢事ノ職權ニ付テハ第三十三條ヲ適用ス
第二編 裁判所及檢事局ノ官吏
第一章 判事又ハ檢事ニ任セラルヽニ必要ナル準備及資格
第五十七條 判事又ハ檢事ニ任セラルヽニハ第六十五條ニ揭ケタル場合ヲ除キ二囘ノ競爭試驗ヲ經ルコトヲ要ス
第五十八條 志願者前條ノ競爭試驗ヲ受ケ得ルニ必要ナル資格竝ニ此ノ試驗ニ關ル細則ハ判事檢事登用試驗規則中ニ司法大臣之ヲ定ム
第一囘試驗ニ及第シタル者ハ第二囘試驗ヲ受クルノ前試補トシテ裁判所及檢事局ニ於テ三年間實地修習ヲ爲スコトヲ要ス
前項ノ修習ニ關ル細則モ亦試驗規則中ニ之ヲ定ム
第五十九條 司法大臣ハ試補ノ行狀罷免スルニ足レリト認ムルトキハ何時ニテモ之ヲ罷免スルコトヲ得此ノ罷免ニ關ル細則モ亦試驗規則中ニ之ヲ定ム
第六十條 一年以上修習ヲ爲シタル試補ハ其ノ修習ヲ現ニ監督スル判事ノ命アルトキ區裁判所ニ於テ或ル司法事務ヲ取扱フコトヲ得
豫審判事及地方裁判所ノ受命判事モ亦其ノ附屬ノ試補ヲシテ自己ニ代リ或ル事務ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第六十一條 試補ハ如何ナル場合ニ於テモ左ノ事務ヲ取扱フノ權ヲ有セス
第一 訴訟事件ト非訟事件トニ拘ラス裁判ヲ爲ス事
第二 證據ヲ調フル事但シ前條第二項ノ場合ヲ除ク
第三 登記ヲ爲ス事
第六十二條 第二囘ノ競爭試驗ニ及第シタル試補ハ判事又ハ檢事ニ任セラルヽコトヲ得
第六十三條 新任ノ判事又ハ檢事ハ闕位アルトキ之ヲ區裁判所若ハ地方裁判所ノ判事又ハ區裁判所若ハ地方裁判所ノ檢事局ノ檢事ニ補ス
司法大臣ハ闕位アルマテ新任ノ判事又ハ檢事ニ豫備判事又ハ豫備檢事トシテ勤務スルコトヲ命シ之ヲ司法省又ハ區裁判所又ハ地方裁判所又ハ其ノ裁判所ノ檢事局ニ用ウ
第六十四條 區裁判所又ハ地方裁判所又ハ其ノ檢事局ニ用井ラレタル豫備判事又ハ豫備檢事ハ判事又ハ檢事差支アリテ職務ニ從事スルコトヲ得ス且通常代理ノ規程ニ依リ難キコトアルトキハ第三十二條ノ制限ニ從ヒ司法大臣ハ之ニ其ノ判事又ハ檢事ヲ代理セシムルコトヲ得
司法大臣ハ區裁判所又ハ地方裁判所ノ判事又ハ其ノ檢事局ノ檢事ニ一時闕位アル間ハ此ノ法律ノ範圍內ニ於テ豫備判事又ハ豫備檢事ヲ以テ之ヲ充タスコトヲ得
第六十五條 三年以上帝國大學法科敎授若ハ辯護士タル者ハ此ノ章ニ揭ケタル試驗ヲ經スシテ判事又ハ檢事ニ任セラルヽコトヲ得
帝國大學法科卒業生ハ第一囘試驗ヲ經スシテ試補ヲ命セラルヽコトヲ得
第六十六條 左ニ揭ケタル者ハ判事又ハ檢事ニ任セラルヽコトヲ得ス
第一 重罪ヲ犯シタル者但シ國事犯ニシテ復權シタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第二 定役ニ服スヘキ輕罪ヲ犯シタル者
第三 身代限ノ處分ヲ受ケ負債ノ義務ヲ免レサル者
第二章 判事
第六十七條 判事ハ勅任又ハ奏任トシ其ノ任官ヲ終身トス
第六十八條 大審院長ハ勅任判事ノ中ヨリ天皇之ヲ補シ各控訴院長及大審院ノ部長ハ司法大臣ノ上奏ニ因リ勅任判事ノ中ヨリ之ヲ補ス其ノ他ノ判事ノ職ハ司法大臣之ヲ補ス
第六十九條 五年以上判事タル者又ハ五年以上檢事帝國大學法科敎授若ハ辯護士ニシテ判事ニ任セラレシ者ニ非サレハ控訴院判事ニ補セラルヽコトヲ得ス
第七十條 十年以上判事タル者又ハ十年以上檢事帝國大學法科敎授若ハ辯護士ニシテ判事ニ任セラレシ者ニ非サレハ大審院判事ニ補セラルヽコトヲ得ス
第七十一條 第六十九條及第七十條ニ揭ケタル年限ヲ算フルニハ補職ノ時マテ各〻其ノ條ニ列記シタル職務ノ一ノミニ引續キ從事シタルコトヲ必要トセス
第七十二條 判事ハ在職中左ノ諸件ヲ爲スコトヲ得ス
第一 公然政事ニ關係スル事
第二 政黨ノ黨員又ハ政社ノ社員トナリ又ハ府縣郡市町村ノ議會ノ議員トナル事
第三 俸給アル又ハ金錢ノ利益ヲ目的トスル公務ニ就ク事
第四 商業ヲ營ミ又ハ其ノ他行政上ノ命令ヲ以テ禁シタル業務ヲ營ム事
第七十三條 第七十四條及第七十五條ノ場合ヲ除ク外判事ハ刑法ノ宣吿又ハ懲戒ノ處分ニ由ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ轉官轉所停職免職又ハ減俸セラルヽコトナシ但シ豫備判事タルトキ及補闕ノ必要ナル場合ニ於テ轉所ヲ命セラルヽハ此ノ限ニ在ラス
前項ハ懲戒取調又ハ刑事訴追ノ始若ハ其ノ間ニ於テ法律ノ許ス停職ニ關係アルコトナシ
第七十四條 判事身體若ハ精神ノ衰弱ニ因リ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキハ司法大臣ハ控訴院又ハ大審院ノ總會ノ決議ニ依リ之ニ退職ヲ命スルコトヲ得
第七十五條 法律ヲ以テ裁判所ノ組織ヲ變更シ又ハ之ヲ廢シタル場合ニ於テ其ノ判事ヲ補スヘキ闕位ナキトキハ司法大臣ハ之ニ俸給ノ半額ヲ給シテ闕位ヲ待タシムルノ權ヲ有ス
第七十六條 判事ノ官等俸給及進級ニ關ル規程ハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第七十七條 判事ハ退職シタルトキハ恩給法ニ依リ恩給ヲ受ク
第七十八條 判事ノ俸給ハ判事ニ對シ懲戒取調又ハ刑事訴追ヲ始メタルカ故ニ停職シタルニ拘ラス引續キ之ヲ給ス
第三章 檢事
第七十九條 檢事ハ勅任又ハ奏任トス
第七十六條及第七十七條ハ檢事ニモ亦之ヲ適用ス
檢事總長及檢事長ノ職ハ司法大臣ノ上奏ニ因リ勅任檢事ノ中ヨリ之ヲ補ス其ノ他ノ檢事ノ職ハ司法大臣之ヲ補ス
第八十條 檢事ハ刑法ノ宣吿又ハ懲戒ノ處分ニ由ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ之ヲ免職スルコトナシ
第八十一條 檢事ハ如何ナル方法ヲ以テスルモ判事ノ裁判事務ニ干涉シ又ハ裁判事務ヲ取扱フコトヲ得ス
第八十二條 檢事ハ其ノ上官ノ命令ニ從フ
第八十三條 檢事總長檢事長及檢事正ハ其ノ各管轄區域內ノ裁判所ノ檢事ノ職務ノ範圍內ニ在ル事務ヲ自ラ取扱フノ權ヲ有ス
檢事總長檢事長及檢事正ハ其ノ管轄區域內ニ於テ或ル檢事ノ取扱フヘキ事務ヲ他ノ檢事ニ移スノ權ヲ有ス
第八十四條 司法警察官ハ檢事ノ職務上其ノ檢事局管轄區域內ニ於テ發シタル命令及其ノ檢事ノ上官ノ發シタル命令ニ從フ
司法省又ハ檢事局及內務省又ハ地方官廳ハ協議シテ警察官中各裁判所ノ管轄區域內ニ於テ司法警察官トシテ勤務シ前項ノ命令ヲ受ケ及之ヲ執行スル者ヲ定ム
第四章 裁判所書記
第八十五條 裁判所ニ第八條ニ從ヒ相應ナル員數ノ書記ヲ置ク
區裁判所ノ各判事及合議裁判所ノ各部ノ爲少クトモ一人ノ書記ヲ置ク
第八十六條 地方裁判所ノ書記課ニ監督書記ヲ置ク控訴院及大審院ノ書記課ニ書記長ヲ置ク
區裁判所及檢事局ノ書記課ニ二人以上ノ書記ヲ置キタルトキハ其ノ一人ヲ監督書記トス
監督書記及書記長ハ各〻其ノ上官ノ命令ニ服從シテ書記課ノ事務ヲ指揮監督ス
第八十七條 書記其ノ職務ノ範圍內ニ於テ取扱ヒタル事ハ既ニ定マリタル務事分配上其ノ事他ノ書記ニ屬シタリトノ事實ノミニ因リ其ノ効力ヲ失フコトナシ
第八十八條 書記ハ司法大臣之ヲ任シ及之ヲ補ス
書記長ハ奏任トス
書記長ノ職ハ司法大臣之ヲ補ス
第八十九條 書記ニ任セラルヽニハ勅令ノ定ムル所ニ依リ試驗ヲ經ルコトヲ要ス
志願者前項ノ試驗ヲ受ケ得ルニ必要ナル資格竝ニ此ノ試驗及試驗ヲ經タル後爲スヘキ修習ニ關ル細則ハ裁判所書記登用試驗規則中ニ司法大臣之ヲ定ム
第九十條 書記ニ任セラレタル者闕位ナキ間ハ豫備書記ニ補ス
豫備書記ハ書記トシテ臨時勤務ヲ命セラルヽコトヲ得
第九十一條 書記ハ其ノ上官ノ命令ニ從フ
裁判所ノ開廷ニ於テハ裁判長ノ命令ニ從ヒ又判事一人ナルトキハ其ノ判事ノ命令ニ從フ
書記ハ檢事局ニ勤務スルトキ又ハ特別ノ事務ニ付判事若ハ檢事ニ附屬シタルトキモ亦其ノ檢事局又ハ判事若ハ檢事ノ命令ニ從フ
前二項ノ命令ニシテ口述ノ書取ニ關ルカ又ハ書類記錄ノ調製若ハ變更ニ關ル場合ニ於テ其ノ調製若ハ變更ヲ正當ナラスト認ムルトキ書記ハ自己ノ意見ヲ記シテ之ニ添フルコトヲ得
前四項ニ揭ケタルモノヲ除ク外書記ノ職務及其ノ事務取扱方法ハ書記ニ關ル規則中ニ司法大臣之ヲ定ム
第九十二條 合議裁判所長又ハ區裁判所ノ判事若ハ監督判事ハ其ノ裁判所ニ於テ修習中ノ試補ニ書記ノ事務ヲ臨時取扱ハシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ職務上署名ヲ要スルトキハ特別ノ許可ヲ得テ署名スル旨ヲ記ス
第九十三條 豫備書記ハ事務ノ取扱ニ於テハ書記ニ同シ但シ書記規則中ニ制限ヲ設ケタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第五章 執達吏
第九十四條 各區裁判所ニ第九條ニ從ヒ相應ナル員數ノ執達吏ヲ置ク
第九十五條 執達吏ハ司法大臣之ヲ任シ及之ヲ補ス司法大臣ハ控訴院長ニ其ノ管轄區域內ノ裁判所ノ執達吏ヲ任シ及補スルノ權ヲ委任スルコトヲ得
執達吏ニ任セラルヽニ必要ナル資格竝ニ試驗ニ關ル規則ハ司法大臣之ヲ定ム
第九十六條 執達吏ハ手數料ヲ受ク其ノ手數料一定ノ額ニ達セサルトキ補助金ヲ受ク
第九十七條 執達吏ハ其ノ所屬區裁判所ヲ管轄スル地方裁判所管轄區域內ノ何レノ場所ニ於テモ其ノ職務ヲ行フ
第九十八條 裁判所ヨリ發スル文書ニシテ送達ヲ要スルモノハ執達吏ヲ以テ之ヲ送達ス但シ書記ヨリ直接ニ若ハ郵便ヲ以テ送達スルコトヲ法律ノ許ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
執達吏ハ刑事ニ付警察官ヲ以テ執行ヲ爲サヽル場合ニ限リ裁判所ノ裁判ヲ執行ス
前二項ニ揭ケタルモノヲ除ク外執達吏ノ權限ハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第九十九條 執達吏ハ其ノ職務ヲ適實ニ行フ爲保證金ヲ出スコトヲ要ス
執達吏ノ職務細則竝ニ保證金ニ關ル規則ハ司法大臣之ヲ定ム
第百條 執達吏ハ其ノ所屬裁判所ノ上官ノ命ヲ受ケタル書記及其ノ裁判所ヲ管轄スル地方裁判所ノ上官ノ命ヲ受ケタル書記及其ノ書記ノ上官ノ命令ニ從フ
第六章 廷丁
第百一條 廷丁ハ大審院控訴院及地方裁判所ニ於テハ裁判所長區裁判所ニ於テハ地方裁判所長之ヲ雇ヒ及其ノ雇ヲ解ク
第百二條 廷丁ハ開廷ニ出頭セシメ及司法大臣ノ發シタル一般ノ規則中ニ定メタル事務ヲ取扱ハシム
區裁判所ハ執達吏ヲ用井ルコト能ハサルトキハ其ノ裁判所所在地ニ於テ書類ヲ送達スル爲廷丁ヲ用井ルコトヲ得
第三編 司法事務ノ取扱
第一章 開廷
第百三條 開廷ハ裁判所又ハ支部ニ於テ之ヲ爲ス
司法大臣ニ於テ事情ニ因リ必要ナリト認ムルトキハ區裁判所ヲシテ其ノ管轄區域內ノ一定ノ場所ニ於テ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第百四條 訴訟審問ノ上席及指揮ハ合議裁判所ニ於テハ開廷ヲ爲シタル裁判長ニ屬シ區裁判所ニ於テハ開廷ヲ爲シタル判事ニ屬ス
裁判長ニ屬スル權ハ裁判上一人ニテ執務スル判事ニモ亦屬ス
第百五條 裁判所ニ於テ對審ノ公開ヲ停ムルノ決議ヲ爲シタルトキハ其ノ決議ハ其ノ理由ト共ニ公衆ヲ退カシムル前之ヲ言渡ス此ノ場合ニ於テ裁判所ノ判決ヲ言渡ストキハ再ヒ公衆ヲ入廷セシムヘシ
第百六條 裁判長ハ公開ヲ停メタルトキモ入廷ノ特許ヲ與フルコトヲ至當ト認ムル者ヲ入廷セシムルノ權ヲ有ス
第百七條 裁判長ハ婦女兒童及相當ナル衣服ヲ著セサル者ヲ法廷ヨリ退カシムルコトヲ得其ノ理由ハ之ヲ訴訟ノ記錄ニ記入ス
第百八條 開廷中秩序ノ維持ハ裁判長ニ屬ス
第百九條 裁判長ハ審問ヲ妨クル者又ハ不當ノ行狀ヲ爲ス者ヲ法廷ヨリ退カシムルノ權ヲ有ス
前項ニ揭ケタル違犯者ノ行狀ニ因リ之ヲ勾引シ閉廷ノトキマテ之ヲ勾留スルノ必要アリト認ムルトキ裁判長ハ之ヲ命令スルノ權ヲ有ス閉廷ノトキ裁判所ハ之ヲ釋放スルコトヲ命シ又ハ五圓以下ノ罰金若ハ五日以內ノ拘留ニ處スルコトヲ得
此ノ處罰ニ對シテハ上吿ヲ許シ控訴ヲ許サス且其ノ所爲ノ輕罪若ハ重罪ニ該ルヘキモノナルトキハ之ニ對シテ刑事訴追ヲ爲スコトヲ得
第百十條 前條ノ規程ハ左ノ變更ヲ以テ當事者證人及鑑定人ニモ亦之ヲ適用ス
第一 裁判所ハ閉廷ヲ待タスシテ本條ノ違犯者ヲ卽時ニ罰スルコトヲ得
第二 違犯者原吿ナルトキハ裁判所ハ處罰ノ上仍本人宥恕ヲ請フカ又ハ恭順ヲ表シテ不敬ノ罪ヲ謝スルマテ其ノ審問ヲ中止スルコトヲ得
第百十一條 裁判長ハ不當ノ言語ヲ用井ル辯護士ニ對シ同事件ニ付引續キ陳述スルノ權ヲ行フコトヲ禁スルコトヲ得其ノ禁止ハ此ノ行狀ニ付懲戒上ノ訴追ヲ爲スコトヲ妨ケス
第百十二條 裁判所ノ開廷中秩序ヲ維持スル爲第百九條第百十條及第百十一條ヲ以テ與ヘタル權ハ豫審判事又ハ受命判事又ハ法律ニ從ヒ其ノ職務ヲ行フ試補モ亦之ヲ行フコトヲ得
此ノ場合ニ於テノ異議ハ二十四時以內ニ其ノ判事又ハ試補ニ之ヲ申出ルコトヲ得
豫審判事又ハ其ノ命ヲ受ケタル試補ノ命令ヲ爲シタル場合ニ於テハ其ノ判事ノ屬スル裁判所ノ刑事部若ハ刑事支部ニ於テ前項ノ異議ヲ裁判ス受命判事又ハ其ノ命ヲ受ケタル試補ノ命令ヲ爲シタル場合ニ於テハ其ノ判事ニ命シタル裁判所ニ於テ之ヲ裁判ス
第百十三條 第百九條第百十條第百十一條及第百十二條ヲ以テ與ヘタル權ヲ行ヒタルトキハ訴訟ノ記錄ニ之ヲ記入シ及其ノ理由ヲ記ス
前項ノ場合ニ於テ其ノ所爲ノ重罪若ハ輕罪ニ該ルヘキモノナルカ又ハ懲戒上罰スヘキモノナルトキハ詳細ニ之ヲ記入シ裁判長ハ其ノ事件ヲ更ニ處分スルノ權アル官廳ニ報吿ヲ爲ス
第百十四條 判事檢事及裁判所書記ハ公開シタル法廷ニ於テハ一定ノ制服ヲ著ス
前項ノ開廷ニ於テ審問ニ參與スル辯護士モ亦一定ノ職服ヲ著スルコトヲ要ス
第二章 裁判所ノ用語
第百十五條 裁判所ニ於テハ日本語ヲ用ウ
當事者證人又ハ鑑定人ノ中日本語ニ通セサル者アルトキハ訴訟法又ハ特別法ニ通事ヲ用井ルコトヲ要スル場合ニ於テ之ヲ用ウ
第百十六條 通事ノ任命及使用竝ニ訴訟手續上其ノ行フヘキ職務ニ關ル規則ハ司法大臣之ヲ定ム
第百十七條 通事ノ得難キ場合ニ於テ書記其ノ言語ニ通スルトキハ裁判長ノ承諾ヲ得テ通事ニ用井ラルヽコトヲ得
第百十八條 外國人ノ當事者タル訴訟ニ關係ヲ有スル者及其ノ訴訟ノ審問ニ參與スル官吏ノ或ル外國語ニ通スル場合ニ於テ裁判長便利ト認ムルトキハ其ノ外國語ヲ以テ口頭審問ヲ爲スコトヲ得但シ其ノ審問ノ公正記錄ハ日本語ヲ以テ之ヲ作ル
第三章 裁判ノ評議及言渡
第百十九條 合議裁判所ノ裁判ハ此ノ法律ニ從ヒ定數ノ判事之ヲ評議シ及之ヲ言渡ス
第百二十條 四日以上引續クヘキ見込アル刑事ノ審問ニ於テ裁判所長ハ補充判事一人ヲ命シ之ニ立會ハシムルコトヲ得此ノ補充判事ハ其ノ審問中或ル判事ノ疾病其ノ他ノ事故ニ因リ引續キ參與スルコトヲ得サル場合ニ於テ之ニ代リ審問及裁判ヲ完結スルノ權ヲ有ス
第百二十一條 判事ノ評議ハ之ヲ公行セス但シ豫備判事及試補ノ傍聽ヲ許スコトヲ得
判事ノ評議ハ其ノ裁判長之ヲ開キ且之ヲ整理ス其ノ評議ノ顚末竝ニ各判事ノ意見及多少ノ數ニ付テハ嚴ニ祕密ヲ守ルコトヲ要ス
第百二十二條 評議ノ際各判事意見ヲ述フルノ順序ハ官等ノ最モ低キ者ヲ始トシ裁判長ヲ終トス官等同キトキハ年少ノ者ヲ始トシ受命ノ事件ニ付テハ受命判事ヲ始トス
第百二十三條 裁判ハ過半數ノ意見ニ依ル
金額ニ付判事ノ意見三說以上ニ分レ其ノ說各〻過半數ニ至ラサルトキハ過半數ニ至ルマテ最多額ノ意見ヨリ順次寡額ニ合算ス
刑事ニ付其ノ意見三說以上ニ分レ各〻過半數ニ至ラサルトキハ過半數ニ至ルマテ被吿人ニ不利ナル意見ヨリ順次利益ナル意見ニ合算ス
第百二十四條 判事ハ裁判スヘキ問題ニ付自己ノ意見ヲ表スルコトヲ拒ムコトヲ得ス
第四章 裁判所及檢事局ノ事務章程
第百二十五條 裁判所及檢事局ノ標準ト爲スヘキ規則ハ司法大臣之ヲ定ム
控訴院長及檢事長ハ前項ノ規則ニ依リ各自管轄區域內ノ裁判所及檢事局ニ對シテ事務ノ一般ノ取扱ニ關リ成ルヘク統一ヲ旨トシ殊ニ裁判所及檢事局ノ開廳時間及開廷ノ時日ニ付訓令ヲ發ス
大審院ハ自ラ其ノ事務章程ヲ定ム但シ之ヲ實施スル前司法大臣ノ認可ヲ受ク
第五章 司法年度及休暇
第百二十六條 司法年度ハ一月一日ニ始マリ十二月三十一日ニ終ハル
第百二十七條 裁判所ノ休暇ハ七月十一日ニ始マリ九月十日ニ終ハル
第百二十八條 休暇中ハ左ノ事件ノ外既ニ著手シタル民事訴訟ヲ中止ス且新ナル訴訟ニ著手セス
第一 爲替手形若ハ約束手形其ノ他ノ流通證書ニ關ル請求
第二 船舶又ハ運送賃又ハ積荷ニ對スル請求
第三 財產差押事件
第四 住家其ノ他ノ建物又ハ其ノ或ル部分ノ受取明渡使用占據若ハ修繕ニ關リ又ハ賃借人ノ家具若ハ所持品ヲ賃貸人ノ差押ヘタルコトニ關リ賃貸人ト賃借人トノ間ニ起リタル訴訟
第五 養料ノ請求
第六 保證ヲ出サシムルノ請求
第七 取掛リタル建築ノ繼續ニ關ル事件
第八 前數項ニ揭ケタルモノヲ除ク外區裁判所ノ判事ニ於テ又ハ民事訴訟法ノ定ムル所ニ從ヒ休暇部若ハ休暇部長ニ於テ直ニ著手スヘキ緊急ノモノト認メタル請求若ハ事件
第百二十九條 休暇中ニ拘ラス刑事訴訟非訟事件判決執行破產事件竝ニ民事訴訟法ニ依リ略式ヲ以テ取扱フコトヲ得ヘキ訴訟ハ之ヲ停止スルコトナシ
第百三十條 合議裁判所ニ於テハ休暇中事務取扱ノ爲休暇部ト稱スル一若ハ二以上ノ部ヲ設ク
休暇部ノ組立ハ休暇ノ始マル前裁判所長之ヲ定ム第二十三條ハ此ノ部ニモ亦之ヲ適用ス
二人以上ノ判事ヲ置キタル區裁判所ノ休暇事務取扱方法ハ監督判事之ヲ定ム
第六章 法律上ノ共助
第百三十一條 裁判所ハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依リ互ニ法律上ノ輔助ヲ爲ス
法律上ノ輔助ハ別ニ法律ニ定メタル場合ノ外ハ所要ノ事務ヲ取扱フヘキ地ノ區裁判所ニ於テ之ヲ爲ス
第百三十二條 檢事局モ亦各自ノ管轄區域內ニ於テ取扱フヘキ事務ニ付互ニ法律上ノ輔助ヲ爲ス
第百三十三條 裁判所書記課モ亦其ノ權內ノ事件又ハ其ノ配下ノ執達吏ノ權內ノ事件ニ付互ニ法律上ノ輔助ヲ爲ス
第四編 司法行政ノ職務及監督權
第百三十四條 合議裁判所長區裁判所ノ判事若ハ監督判事檢事總長檢事長檢事正ハ司法大臣ノ由テ以テ司法行政ノ職務ヲ行フノ官吏トス
第百三十五條 司法行政監督權ノ施行ハ左ノ規程ニ依ル
第一 司法大臣ハ各裁判所及各檢事局ヲ監督ス
第二 大審院長ハ大審院ヲ監督ス
第三 控訴院長ハ其ノ控訴院及其ノ管轄區域內ノ下級裁判所ヲ監督ス
第四 地方裁判所長ハ其ノ裁判所若ハ其ノ支部及其ノ管轄區域內ノ區裁判所ヲ監督ス
第五 區裁判所ノ一人ノ判事若ハ監督判事ハ其ノ裁判所所屬ノ書記及執達吏ヲ監督ス
第六 檢事總長ハ其ノ檢事局及下級檢事局ヲ監督ス
第七 檢事長ハ其ノ檢事局及其ノ局ノ附置セラレタル控訴院管轄區域內ノ檢事局ヲ監督ス
第八 檢事正ハ其ノ檢事局及其ノ局ノ附置セラレタル地方裁判所管轄區域內ノ檢事局ヲ監督ス
第百三十六條 前條ニ揭ケタル監督權ハ左ノ事項ヲ包含ス
第一 官吏不適當又ハ不充分ニ取扱ヒタル事務ニ付其ノ注意ヲ促シ竝ニ適當ニ其ノ事務ヲ取扱フコトヲ之ニ訓令スル事
第二 官吏ノ職務上ト否トニ拘ラス其ノ地位ニ不相應ナル行狀ニ付之ニ諭吿スル事
但シ此ノ諭吿ヲ爲ス前其ノ官吏ヲシテ辯明ヲ爲スコトヲ得セシムヘシ
第百三十七條 第十八條及第八十四條ニ揭ケタル官吏ハ第百三十五條ニ依リ行フヘキ監督ヲ受クルノ官吏中ニ之ヲ包含ス
第百三十八條 裁判所若ハ檢事局ノ官吏ニシテ適當ニ其ノ職務ヲ行ハサル者又ハ其ノ行狀其ノ地位ニ不相應ナル者ニ付第百三十六條ヲ適用スルコト能ハサルトキハ懲戒法ニ從ヒ之ヲ訴追ス
第百三十九條 前數條ニ揭ケタル司法行政ノ職務及監督權ハ判事若ハ檢事其ノ官吏タルノ資格又ハ其ノ他ノ資格ヲ以テ爲シタル事ニ對シテ起リタル請求ニ付其ノ請求ヲ滿足セシムル爲之ヲ執行スルコトヲ得ス
第百四十條 司法事務取扱ノ方法ニ對スル抗吿殊ニ或ル事務ノ取扱方ニ對シ又ハ取扱ノ延滯若ハ拒絕ニ對スル抗吿ハ此ノ編ニ揭ケタル司法行政ノ職務及監督權ニ依リ之ヲ處分ス
第百四十一條 裁判所及檢事局ハ司法大臣又ハ監督權アル判事若ハ檢事ノ要求アルトキハ法律上ノ事項又ハ司法行政ニ關ル事項ニ付意見ヲ述フ
第百四十二條 司法官廳ニ對シテ起リタル民事ノ訴訟ニ於テハ其ノ訴訟ヲ受ケタル裁判所ノ檢事局ハ司法官廳ヲ代表ス
第百四十三條 此ノ編ニ揭ケタル前各條ノ規程ハ裁判上執務スル判事ノ裁判權ニ影響ヲ及ホシ又ハ之ヲ制限スルコトナシ
附 則
第百四十四條 此ノ法律ノ施行ニ關ル規程竝ニ從來ノ法律ニシテ此ノ法律ニ牴觸スト雖モ當分ノ內仍ホ効力ヲ有セシムルモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム
朕裁判所構成法ヲ裁可シ之ヲ公布セシム此ノ法律ハ明治二十三年十一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年二月八日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
司法大臣 伯爵 山田顕義
法律第六号
裁判所構成法目次
第一編
裁判所及検事局
第一章
総則
第二章
区裁判所
第三章
地方裁判所
第四章
控訴院
第五章
大審院
第二編
裁判所及検事局ノ官吏
第一章
判事又ハ検事ニ任セラルヽニ必要ナル準備及資格
第二章
判事
第三章
検事
第四章
裁判所書記
第五章
執達吏
第六章
廷丁
第三編
司法事務ノ取扱
第一章
開廷
第二章
裁判所ノ用語
第三章
裁判ノ評議及言渡
第四章
裁判所及検事局ノ事務章程
第五章
司法年度及休暇
第六章
法律上ノ共助
第四編
司法行政ノ職務及監督権
裁判所構成法
第一編 裁判所及検事局
第一章 総則
第一条 左ノ裁判所ヲ通常裁判所トス
第一 区裁判所
第二 地方裁判所
第三 控訴院
第四 大審院
第二条 通常裁判所ニ於テハ民事刑事ヲ裁判スルモノトス但シ法律ヲ以テ特別裁判所ノ管轄ニ属セシメタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第三条 地方裁判所控訴院及大審院ヲ合議裁判所トシ数人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ総テノ事件ヲ審問裁判ス但シ訴訟法又ハ特別法ニ別段規定シタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第四条 裁判所ノ設立廃止及管轄区域並ニ其ノ変更ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五条 各裁判所ニ相応ナル員数ノ判事ヲ置ク
第六条 各裁判所ニ検事局ヲ附置ス検事ハ刑事ニ付公訴ヲ起シ其ノ取扱上必要ナル手続ヲ為シ法律ノ正当ナル適用ヲ請求シ及判決ノ適当ニ執行セラルヽヤヲ監視シ又民事ニ於テモ必要ナリト認ムルトキハ通知ヲ求メ其ノ意見ヲ述フルコトヲ得又裁判所ニ属シ若ハ之ニ関ル司法及行政事件ニ付公益ノ代表者トシテ法律上其ノ職権ニ属スル監督事務ヲ行フ
検事ハ裁判所ニ対シ独立シテ其ノ事務ヲ行フ
検事局ノ管轄区域ハ其ノ附置セラレタル裁判所ノ管轄区域ニ同シ
若一人ノ検事若ハ数人ノ検事悉ク差支アリテ或ル事件ヲ取扱フコトヲ得サルトキハ裁判所長又ハ区裁判所ニ於テ判事若ハ監督判事ハ其ノ事件猶予スヘカラサルニ於テハ判事ニ検事ノ代理ヲ命シ其ノ事件ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第七条 検事局ニ相応ナル員数ノ検事ヲ置ク
第八条 各裁判所ニ書記課ヲ設ク書記課ハ往復会計記録其ノ他此ノ法律又ハ他ノ法律ニ特定シタル事務ヲ取扱フ
裁判所ニ附置セラレタル検事局ニ於テ前項ノ如キ事務ヲ取扱フ為必要ナリト認メタルトキニ限リ別ニ書記課ヲ設クルコトヲ得但シ合議裁判所ノ検事局ニ限ル
司法大臣ハ裁判所ノ会計事務ヲ専任スル為特別官吏ヲ裁判所ニ置クコトヲ得
第九条 区裁判所ニ執達吏ヲ置ク執達吏ハ裁判所ヨリ発スル文書ヲ送達シ及裁判所ノ裁判ヲ執行ス
前項ノ外執達吏ハ此ノ法律又ハ他ノ法律ニ定メタル特別ノ職務ヲ行フ
第十条 法律ヲ以テ特定シタルモノヲ除ク外左ノ場合ニ於テ適当ノ申請アルトキハ関係アル各裁判所ヲ併セテ之ヲ管轄スル直近上級ノ裁判所ハ何レノ裁判所ニ於テ本件ヲ裁判スルノ権アルヤヲ裁判ス
第一 権限アル裁判所ニ於テ法律上ノ理由若ハ特別ノ事情ニ因リ裁判権ヲ行フコトヲ得ス且此ノ法律第十三条ニ依リ之ニ代ルヘキコトヲ定メラレタル裁判所モ亦之ヲ行フコトヲ得サルトキ
第二 裁判所管轄区域ノ境界明確ナラサルカ為其ノ権限ニ付疑ヲ生シタルトキ
第三 法律ニ従ヒ又ハ二以上ノ確定判決ニ因リ二以上ノ裁判所裁判権ヲ互有スルトキ
第四 二以上ノ裁判所権限ヲ有セストノ確定判決ヲ為シ又ハ権限ヲ有セストノ確定判決ヲ受ケタルモ其ノ裁判所ノ一ニ於テ裁判権ヲ行フヘキトキ
第二章 区裁判所
第十一条 区裁判所ノ裁判権ハ単独判事之ヲ行フ
判事二人以上ヲ置キタル区裁判所ニ於テハ司法大臣ノ定メタル通則ニ従ヒ其ノ裁判事務ヲ各判事ニ分配ス
此ノ事務分配ハ毎年地方裁判所長前以テ之ヲ定ム
区裁判所判事ノ取扱ヒタル事ハ裁判事務分配上其ノ事他ノ判事ニ属シタリトノ事実ノミニ因リ其ノ効力ヲ失フコトナシ
判事二人以上ヲ置キタル区裁判所ニ於テハ司法大臣ハ其ノ一人ヲ監督判事トシ之ニ其ノ行政事務ヲ委任ス
第十二条 事務分配一タヒ定マリタルトキハ司法年度中之ヲ変更セス但シ一人ノ判事ノ分担多キニ過キ又ハ判事転退シ又ハ疾病其ノ他ノ事故ニ因リ久ク闕勤スル者アル等引続キ差支ヲ生シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十三条 区裁判所ノ判事差支アルトキハ毎年地方裁判所長ノ前以テ定メタル順序ニ従ヒ互ニ相代理ス但シ監督判事ノ職務ハ其ノ裁判所ノ判事官等ノ順序ニ従ヒ之ヲ代理ス
一ノ区裁判所ニ於テ法律上ノ理由若ハ特別ノ事情ニ因リ事務ヲ取扱フコトヲ得サルトキ之ニ代ルヘキ他ノ区裁判所ハ前項ニ同ク毎年前以テ之ヲ定ム
第十四条 区裁判所ハ民事訴訟ニ於テ左ノ事項ニ付裁判権ヲ有ス但シ反訴ニ関リテハ民事訴訟法ノ定ムル所ニ依ル
第一 百円ヲ超過セサル金額又ハ価額百円ヲ超過セサル物ニ関ル請求
第二 価額ニ拘ラス左ノ訴訟
(イ) 住家其ノ他ノ建物又ハ其ノ或ル部分ノ受取明渡使用占拠若ハ修繕ニ関リ又ハ賃借人ノ家具若ハ所持品ヲ賃貸人ノ差押ヘタルコトニ関リ賃貸人ト賃借人トノ間ニ起リタル訴訟
(ロ) 不動産ノ経界ノミニ関ル訴訟
(ハ) 占有ノミニ関ル訴訟
(ニ) 雇主ト雇人トノ間ニ雇期限一年以下ノ契約ニ関リ起リタル訴訟
(ホ) 左ニ掲ケタル事項ニ付旅人ト旅店若ハ飲食店ノ主人トノ間ニ又ハ旅人ト水陸運送人トノ間ニ起リタル訴訟
(一) 賄料又ハ宿料又ハ旅人ノ運送料又ハ之ニ伴フ手荷物ノ運送料
(二) 旅店若ハ飲食店ノ主人又ハ運送人ニ旅人ヨリ保護ノ為預ケタル手荷物金銭又ハ有価物
第十五条 区裁判所ハ非訟事件ニ付法律ニ定メタル範囲及方法ニ従ヒ左ノ事務ヲ取扱フノ権ヲ有ス
第一 未成年者瘋癲者白痴者失踪者其ノ他法律若ハ判決ニ因リ治産ノ禁ヲ受ケタル者ノ後見人若ハ管財人ヲ監督スル事
第二 不動産及船舶ニ関ル権利関係ヲ登記スル事
第三 商業登記及特許局ニ登録シタル特許意匠及商標ノ登記ヲ為ス事
第十六条 区裁判所ハ刑事ニ於テ左ノ事項ニ付裁判権ヲ有ス
第一 違警罪
第二 本刑五十円以下ノ罰金ヲ附加シ若ハ附加セサル二月以下ノ禁錮又ハ単ニ百円以下ノ罰金ニ該ル軽罪
第三 刑法第二編第一章ヲ除キ其ノ他ノ軽罪ニシテ本刑二百円以下ノ罰金ヲ附加シ若ハ附加セサル二年以下ノ禁錮又ハ単ニ三百円以下ノ罰金ニ該リ其情第二ニ掲ケタル刑ヨリ更ニ重キ刑ニ処スルコトヲ要セスト認メ地方裁判所若ハ其ノ支部ノ検事局ヨリ区裁判所ニ移付シタルモノ
前項ノ手続ニ因リ訴追ヲ為シ犯罪ノ証明アリタル場合ニ於テ判決ヲ為ス前何時ニテモ其ノ情第二ニ掲ケタル刑ニテハ相当ニ罰スルコトヲ得スト認ムルトキハ区裁判所ハ之ヲ裁判スル権限ヲ有セストノ言渡ヲ為ス此ノ場合ニ於テハ検事ハ被告人ヲシテ相当ノ裁判所ニ於テ裁判ヲ受ケシムル為適当ノ手続ヲ為ス
第十七条 前数条ニ掲ケタルモノヲ除ク外区裁判所ノ権限ハ此ノ章ニ掲ケタル事件ニ関リ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第十八条 各区裁判所ノ検事局ニ検事ヲ置ク
区裁判所検事局ノ検事ノ事務ハ其ノ地ノ警察官憲兵将校下士又ハ林務官之ヲ取扱フコトヲ得
司法大臣ハ適当ナル場合ニ於テハ区裁判所判事試補又ハ郡市町村ノ長ヲシテ検事ヲ代理セシムルコトヲ得
第三章 地方裁判所
第十九条 地方裁判所ヲ第一審ノ合議裁判所トス
各地方裁判所ニ一若ハ二以上ノ民事部及刑事部ヲ設ク
第二十条 各地方裁判所ニ地方裁判所長ヲ置ク
地方裁判所長ハ裁判所ノ一般ノ事務ヲ指揮シ其ノ行政事務ヲ監督ス
地方裁判所ノ各部ニ部長ヲ置ク部長ハ部ノ事務ヲ監督シ其ノ分配ヲ定ム
第二十一条 司法大臣ハ毎年各地方裁判所ノ判事一人若ハ二人以上ニ其ノ裁判所ノ裁判権ニ属スル刑事ノ予審ヲ為スコトヲ命ス
第二十二条 各地方裁判所ノ事務ハ司法大臣ノ定メタル通則ニ従ヒ各部及各予審判事ニ之ヲ分配ス
各地方裁判所ノ各部長及部員ノ配置及所長部長部員差支アルトキノ代理モ亦毎年前以テ之ヲ定ム
前二項ニ掲ケタル諸件ハ裁判所長部長及部ノ上席判事一人ノ会議ニ於テ裁判所長会長トナリ多数ヲ以テ之ヲ決ス可否同数ナルトキハ会長ノ決スル所ニ依ル
地方裁判所長ハ次年自ラ部長トナルヘキ部ヲ指定スヘシ
第二十三条 或ル部ニ於テ著手シタル事務ニシテ司法年度ノ終若ハ休暇ノ始ニ臨ミ未タ終結ニ至ラサルモノハ裁判所長便利ト認ムルトキ同部員ヲシテ引続キ之ヲ結了セシムルコトヲ得
予審判事ノ取扱フ事務ニシテ未タ終結ニ至ラサルモノモ亦前項ニ同シ
第二十四条 第二十二条ニ従ヒ事務ノ分配及判事ノ配置一タヒ定マリタルトキハ休暇中ヲ除キ一部ノ事務多キニ過キ又ハ判事転退シ又ハ疾病其ノ他ノ事故ニ因リ久ク闕勤スル者アル等引続キ差支アルニ非サレハ司法年度中之ヲ変更セス
裁判所ノ事務其ノ現在ノ部ニ過多ナル場合ニ於テ司法大臣適宜ト認ムルトキハ新ニ一部又ハ数部ヲ設クルコトヲ得
第二十五条 地方裁判所ノ判事差支ノ為或ル事件ヲ取扱フコトヲ得ス且同裁判所ノ判事中其ノ代理ヲ為シ得ヘキ者ナキ場合ニ於テ其ノ事件緊急ナリト認ムルトキハ裁判所長ハ其ノ管轄区域内ノ区裁判所判事又ハ予備判事ニ其ノ代理ヲ命スルコトヲ得
第二十六条 地方裁判所ハ民事訴訟ニ於テ左ノ事項ニ付裁判権ヲ有ス
第一 第一審トシテ
区裁判所ノ権限又ハ第三十八条ニ定メタル控訴院ノ権限ニ属スルモノヲ除キ其ノ他ノ請求
第二 第二審トシテ
(イ) 区裁判所ノ判決ニ対スル控訴
(ロ) 区裁判所ノ決定及命令ニ対スル法律ニ定メタル抗告
第二十七条 地方裁判所ハ刑事訴訟ニ於テ左ノ事項ニ付裁判権ヲ有ス
第一 第一審トシテ
区裁判所ノ権限並ニ大審院ノ特別権限ニ属セサル刑事訴訟
第二 第二審トシテ
(イ) 区裁判所ノ判決ニ対スル控訴
(ロ) 区裁判所ノ決定及命令ニ対スル法律ニ定メタル抗告
第二十八条 地方裁判所ハ破産事件ニ付一般ノ裁判権ヲ有ス
第二十九条 地方裁判所ハ非訟事件ニ関ル区裁判所ノ決定及命令ニ対シ法律ニ定メタル抗告ニ付裁判権ヲ有ス
第三十条 地方裁判所ノ権限並ニ其ノ裁判権ヲ行フノ範囲及方法ニシテ此ノ法律ニ定メサルモノハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第三十一条 司法大臣ハ地方裁判所ト其ノ管轄区域内ノ区裁判所ト遠隔ナルカ若ハ交通不便ナルカ為至当ト認ムルトキハ地方裁判所ニ属スル民事及刑事ノ事務ノ一部分ヲ取扱フ為一若ハ二以上ノ支部ノ設置ヲ命スルコトヲ得且支部ヲ開クヘキ区裁判所ヲ定ム
支部ニハ之ヲ設置シタル区裁判所若ハ近隣ノ区裁判所ノ判事ヲ用井ルコトヲ得此ノ場合ニ於テ判事ヲ選用スルノ権ハ司法大臣ニ属ス
司法大臣ハ支部ニ勤ムヘキ予審判事及検事ヲ命ス
司法大臣ハ支部ノ本部タル地方裁判所ノ管轄区域内ノ区裁判所判事ニ予審判事ヲ命スルコトヲ得
代理ニ関ル第二十五条ハ支部ニモ亦之ヲ適用ス
第三十二条 地方裁判所ニ於テ訴訟法ニ依リ法廷ニ於テ審問裁判スヘキ事件ハ三人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ之ヲ審問裁判ス其ノ三人ノ判事中一人ヲ裁判長トス且予備判事ハ如何ナル事情アルモ二人以上其ノ部ニ列席スルコトヲ得ス其ノ他ノ事件ハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ判事之ヲ取扱フ
第三十三条 各地方裁判所ノ検事局ニ検事正ヲ置ク検事正ハ検事局ノ事務取扱ヲ分配指揮及監督ス但シ検事局ノ其ノ他ノ検事ハ事務取扱ニ付何等ノ事件ニ拘ラス特別ノ許可ヲ受ケスシテ検事正ヲ代理スルノ権ヲ有ス
第四章 控訴院
第三十四条 控訴院ヲ第二審ノ合議裁判所トス
各控訴院ニ一若ハ二以上ノ民事部及刑事部ヲ設ク
第三十五条 各控訴院ニ控訴院長ヲ置ク
控訴院長ハ控訴院ノ一般ノ事務ヲ指揮シ其ノ行政事務ヲ監督ス
控訴院ノ各部ニ部長ヲ置ク部長ハ部ノ事務ヲ監督シ其ノ分配ヲ定ム
第三十六条 事務ノ分配及結了並ニ判事ノ代理ニ付テハ第二十二条第二十三条及第二十五条ヲ左ノ変更ヲ以テ控訴院ニ適用ス
第一 前項ニ掲ケタル各条ヲ以テ地方裁判所長ニ与ヘタル権ハ控訴院長ニモ之ヲ与ヘタルモノトス
第二 控訴院ノ判事差支ノ為或ル事件ヲ取扱フコトヲ得ス且同院ノ判事中其ノ代理ヲ為シ得ヘキ者ナキ場合ニ於テ其ノ事件緊急ナリト認ムルトキハ之ヲ代理スル判事ヲ出スヘキ旨ヲ控訴院長ヨリ其ノ控訴院所在地ノ地方裁判所長ニ通知シ其ノ裁判所ノ判事ヲシテ代理ヲ為サシムルコトヲ得但シ予備判事ヲ用井ルコトヲ得ス
第三十七条 控訴院ハ左ノ事項ニ付裁判権ヲ有ス
第一 地方裁判所ノ第一審判決ニ対スル控訴
第二 区裁判所ノ判決ニ対スル控訴ニ付為シタル地方裁判所ノ判決ニ対スル上告
第三 地方裁判所ノ決定及命令ニ対スル法律ニ定メタル抗告
第三十八条 皇族ニ対スル民事訴訟ニ付第一審及第二審ノ裁判権ハ東京控訴院ニ属ス但シ第一審ノ訴訟手続ニ付テハ地方裁判所ノ第一審手続ヲ適用ス
第三十九条 控訴院ノ権限並ニ其ノ裁判権ヲ行フノ範囲及方法ニシテ此ノ法律ニ定メサルモノハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第四十条 控訴院ニ於テ訴訟法ニ依リ法廷ニ於テ審問裁判スヘキ事件ハ五人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ之ヲ審問裁判ス其ノ五人ノ判事中一人ヲ裁判長トス其ノ他ノ事件ハ訴訟法ノ定ムル所ニ従ヒ判事之ヲ取扱フ
第四十一条 第三十八条ノ場合ニ於テ第一審ハ五人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ審問裁判シ第二審ハ特ニ七人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ審問裁判ス其ノ五人又ハ七人ノ判事中一人ヲ裁判長トス
第四十二条 各控訴院ノ検事局ニ検事長ヲ置ク
検事長並ニ其ノ他ノ検事ノ職権ニ付テハ第三十三条ヲ適用ス
第五章 大審院
第四十三条 大審院ヲ最高裁判所トス
大審院ニ一若ハ二以上ノ民事部及刑事部ヲ設ク
第四十四条 大審院ニ大審院長ヲ置ク
大審院長ハ大審院ノ一般ノ事務ヲ指揮シ其ノ行政事務ヲ監督ス
大審院ノ各部ニ部長ヲ置ク部長ハ部ノ事務ヲ監督シ其ノ分配ヲ定ム
第四十五条 大審院ノ事務ノ分配並ニ代理ノ順序ハ毎年部長ト協議シ大審院長前以テ之ヲ定ム
大審院長ハ次年自ラ上席セントスル部ヲ指定スヘシ
大審院ノ判事差支ノ為或ル事件ヲ取扱フコトヲ得ス且同院ノ判事中其ノ代理ヲ為シ得ヘキ者ナキ場合ニ於テ其ノ事件緊急ナリト認ムルトキハ之ヲ代理スル判事ヲ出スヘキ旨ヲ大審院長ヨリ其ノ所在地ノ控訴院長ニ通知シ其ノ控訴院ノ判事ヲシテ代理ヲ為サシムルコトヲ得
第四十六条 大審院長ハ何時ニテモ部長若ハ部員ノ承諾ヲ得テ之ヲ他ノ部ニ転セシムルコトヲ得
第四十七条 大審院ニ於テ一タヒ定マリタル部ノ組立ヲ変更シタルトキハ現ニ取扱中ノ事務ニ付テハ第二十三条ヲ適用ス
司法年度中事務分配ノ変更ニ付テハ第二十四条ヲ適用ス
第四十八条 大審院ニ於テ裁判ヲ為スニ当リ法律ノ点ニ付テ表シタル意見ハ其ノ訴訟一切ノ事ニ付下級裁判所ヲ羈束ス
第四十九条 大審院ノ或ル部ニ於テ上告ヲ審問シタル後法律ノ同一ノ点ニ付曽テ一若ハ二以上ノ部ニ於テ為シタル判決ト相反スル意見アルトキハ其ノ部ハ之ヲ大審院長ニ報告シ大審院長ハ其ノ報告ニ因リ事件ノ性質ニ従ヒ民事ノ総部若ハ刑事ノ総部又ハ民事及刑事ノ総部ヲ連合シテ之ヲ再ヒ審問シ及裁判スルコトヲ命ス
第五十条 大審院ハ左ノ事項ニ付裁判権ヲ有ス
第一 終審トシテ
(イ) 第三十七条第二ニ依リ為シタル判決及第三十八条ノ第一審ノ判決ニ非サル控訴院ノ判決ニ対スル上告
(ロ) 控訴院ノ決定及命令ニ対スル法律ニ定メタル抗告
第二 第一審ニシテ終審トシテ
刑法第二編第一章及第二章ニ掲ケタル重罪並ニ皇族ノ犯シタル罪ニシテ禁錮又ハ更ニ重キ刑ニ処スヘキモノヽ予審及裁判
第五十一条 前条第二ニ掲ケタル事件ニ付大審院ハ必要ナリト認ムルトキハ事件ノ審問裁判ヲ為ス為控訴院若ハ地方裁判所ニ於テ法廷ヲ開クコトヲ得
此ノ場合ニ於テハ控訴院判事ヲ以テ部員ニ加フルコトヲ得但シ其ノ半数ニ満ツルコトヲ得ス
第五十二条 大審院ノ権限並ニ其ノ裁判権ヲ行フノ範囲及方法ニシテ此ノ法律ニ定メサルモノハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第五十三条 大審院ニ於テ訴訟法ニ依リ法廷ニ於テ審問裁判スヘキ事件ハ七人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ之ヲ審問裁判ス其ノ七人ノ判事中一人ヲ裁判長トス其ノ他ノ事件ハ訴訟法ノ定ムル所ニ従ヒ判事之ヲ取扱フ
第五十四条 第四十九条ニ定メタル場合ニ於テハ連合部ノ判事少クトモ三分ノ二列席スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ民事ノ総部若ハ刑事ノ総部連合スルトキ又ハ民事及刑事ノ総部連合スルトキハ総部ノ判事中官等最モ高キ者ヲ部長ト為ス大審院長ハ至当ナリト認ムルトキハ自ラ総部ニ長タルノ権ヲ有ス
第五十五条 大審院長ハ第五十条ニ依リ大審院ニ於テ第一審ニシテ終審ヲ為スヘキ各別ノ場合ニ付大審院ノ判事ニ予審ヲ命ス但シ便宜ニ依リ各裁判所判事ヲシテ予審ヲ為サシムルコトヲ得
第五十六条 大審院ノ検事局ニ検事総長ヲ置ク
検事総長並ニ其ノ他ノ検事ノ職権ニ付テハ第三十三条ヲ適用ス
第二編 裁判所及検事局ノ官吏
第一章 判事又ハ検事ニ任セラルヽニ必要ナル準備及資格
第五十七条 判事又ハ検事ニ任セラルヽニハ第六十五条ニ掲ケタル場合ヲ除キ二回ノ競争試験ヲ経ルコトヲ要ス
第五十八条 志願者前条ノ競争試験ヲ受ケ得ルニ必要ナル資格並ニ此ノ試験ニ関ル細則ハ判事検事登用試験規則中ニ司法大臣之ヲ定ム
第一回試験ニ及第シタル者ハ第二回試験ヲ受クルノ前試補トシテ裁判所及検事局ニ於テ三年間実地修習ヲ為スコトヲ要ス
前項ノ修習ニ関ル細則モ亦試験規則中ニ之ヲ定ム
第五十九条 司法大臣ハ試補ノ行状罷免スルニ足レリト認ムルトキハ何時ニテモ之ヲ罷免スルコトヲ得此ノ罷免ニ関ル細則モ亦試験規則中ニ之ヲ定ム
第六十条 一年以上修習ヲ為シタル試補ハ其ノ修習ヲ現ニ監督スル判事ノ命アルトキ区裁判所ニ於テ或ル司法事務ヲ取扱フコトヲ得
予審判事及地方裁判所ノ受命判事モ亦其ノ附属ノ試補ヲシテ自己ニ代リ或ル事務ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第六十一条 試補ハ如何ナル場合ニ於テモ左ノ事務ヲ取扱フノ権ヲ有セス
第一 訴訟事件ト非訟事件トニ拘ラス裁判ヲ為ス事
第二 証拠ヲ調フル事但シ前条第二項ノ場合ヲ除ク
第三 登記ヲ為ス事
第六十二条 第二回ノ競争試験ニ及第シタル試補ハ判事又ハ検事ニ任セラルヽコトヲ得
第六十三条 新任ノ判事又ハ検事ハ闕位アルトキ之ヲ区裁判所若ハ地方裁判所ノ判事又ハ区裁判所若ハ地方裁判所ノ検事局ノ検事ニ補ス
司法大臣ハ闕位アルマテ新任ノ判事又ハ検事ニ予備判事又ハ予備検事トシテ勤務スルコトヲ命シ之ヲ司法省又ハ区裁判所又ハ地方裁判所又ハ其ノ裁判所ノ検事局ニ用ウ
第六十四条 区裁判所又ハ地方裁判所又ハ其ノ検事局ニ用井ラレタル予備判事又ハ予備検事ハ判事又ハ検事差支アリテ職務ニ従事スルコトヲ得ス且通常代理ノ規程ニ依リ難キコトアルトキハ第三十二条ノ制限ニ従ヒ司法大臣ハ之ニ其ノ判事又ハ検事ヲ代理セシムルコトヲ得
司法大臣ハ区裁判所又ハ地方裁判所ノ判事又ハ其ノ検事局ノ検事ニ一時闕位アル間ハ此ノ法律ノ範囲内ニ於テ予備判事又ハ予備検事ヲ以テ之ヲ充タスコトヲ得
第六十五条 三年以上帝国大学法科教授若ハ弁護士タル者ハ此ノ章ニ掲ケタル試験ヲ経スシテ判事又ハ検事ニ任セラルヽコトヲ得
帝国大学法科卒業生ハ第一回試験ヲ経スシテ試補ヲ命セラルヽコトヲ得
第六十六条 左ニ掲ケタル者ハ判事又ハ検事ニ任セラルヽコトヲ得ス
第一 重罪ヲ犯シタル者但シ国事犯ニシテ復権シタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第二 定役ニ服スヘキ軽罪ヲ犯シタル者
第三 身代限ノ処分ヲ受ケ負債ノ義務ヲ免レサル者
第二章 判事
第六十七条 判事ハ勅任又ハ奏任トシ其ノ任官ヲ終身トス
第六十八条 大審院長ハ勅任判事ノ中ヨリ天皇之ヲ補シ各控訴院長及大審院ノ部長ハ司法大臣ノ上奏ニ因リ勅任判事ノ中ヨリ之ヲ補ス其ノ他ノ判事ノ職ハ司法大臣之ヲ補ス
第六十九条 五年以上判事タル者又ハ五年以上検事帝国大学法科教授若ハ弁護士ニシテ判事ニ任セラレシ者ニ非サレハ控訴院判事ニ補セラルヽコトヲ得ス
第七十条 十年以上判事タル者又ハ十年以上検事帝国大学法科教授若ハ弁護士ニシテ判事ニ任セラレシ者ニ非サレハ大審院判事ニ補セラルヽコトヲ得ス
第七十一条 第六十九条及第七十条ニ掲ケタル年限ヲ算フルニハ補職ノ時マテ各々其ノ条ニ列記シタル職務ノ一ノミニ引続キ従事シタルコトヲ必要トセス
第七十二条 判事ハ在職中左ノ諸件ヲ為スコトヲ得ス
第一 公然政事ニ関係スル事
第二 政党ノ党員又ハ政社ノ社員トナリ又ハ府県郡市町村ノ議会ノ議員トナル事
第三 俸給アル又ハ金銭ノ利益ヲ目的トスル公務ニ就ク事
第四 商業ヲ営ミ又ハ其ノ他行政上ノ命令ヲ以テ禁シタル業務ヲ営ム事
第七十三条 第七十四条及第七十五条ノ場合ヲ除ク外判事ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ転官転所停職免職又ハ減俸セラルヽコトナシ但シ予備判事タルトキ及補闕ノ必要ナル場合ニ於テ転所ヲ命セラルヽハ此ノ限ニ在ラス
前項ハ懲戒取調又ハ刑事訴追ノ始若ハ其ノ間ニ於テ法律ノ許ス停職ニ関係アルコトナシ
第七十四条 判事身体若ハ精神ノ衰弱ニ因リ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキハ司法大臣ハ控訴院又ハ大審院ノ総会ノ決議ニ依リ之ニ退職ヲ命スルコトヲ得
第七十五条 法律ヲ以テ裁判所ノ組織ヲ変更シ又ハ之ヲ廃シタル場合ニ於テ其ノ判事ヲ補スヘキ闕位ナキトキハ司法大臣ハ之ニ俸給ノ半額ヲ給シテ闕位ヲ待タシムルノ権ヲ有ス
第七十六条 判事ノ官等俸給及進級ニ関ル規程ハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第七十七条 判事ハ退職シタルトキハ恩給法ニ依リ恩給ヲ受ク
第七十八条 判事ノ俸給ハ判事ニ対シ懲戒取調又ハ刑事訴追ヲ始メタルカ故ニ停職シタルニ拘ラス引続キ之ヲ給ス
第三章 検事
第七十九条 検事ハ勅任又ハ奏任トス
第七十六条及第七十七条ハ検事ニモ亦之ヲ適用ス
検事総長及検事長ノ職ハ司法大臣ノ上奏ニ因リ勅任検事ノ中ヨリ之ヲ補ス其ノ他ノ検事ノ職ハ司法大臣之ヲ補ス
第八十条 検事ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ之ヲ免職スルコトナシ
第八十一条 検事ハ如何ナル方法ヲ以テスルモ判事ノ裁判事務ニ干渉シ又ハ裁判事務ヲ取扱フコトヲ得ス
第八十二条 検事ハ其ノ上官ノ命令ニ従フ
第八十三条 検事総長検事長及検事正ハ其ノ各管轄区域内ノ裁判所ノ検事ノ職務ノ範囲内ニ在ル事務ヲ自ラ取扱フノ権ヲ有ス
検事総長検事長及検事正ハ其ノ管轄区域内ニ於テ或ル検事ノ取扱フヘキ事務ヲ他ノ検事ニ移スノ権ヲ有ス
第八十四条 司法警察官ハ検事ノ職務上其ノ検事局管轄区域内ニ於テ発シタル命令及其ノ検事ノ上官ノ発シタル命令ニ従フ
司法省又ハ検事局及内務省又ハ地方官庁ハ協議シテ警察官中各裁判所ノ管轄区域内ニ於テ司法警察官トシテ勤務シ前項ノ命令ヲ受ケ及之ヲ執行スル者ヲ定ム
第四章 裁判所書記
第八十五条 裁判所ニ第八条ニ従ヒ相応ナル員数ノ書記ヲ置ク
区裁判所ノ各判事及合議裁判所ノ各部ノ為少クトモ一人ノ書記ヲ置ク
第八十六条 地方裁判所ノ書記課ニ監督書記ヲ置ク控訴院及大審院ノ書記課ニ書記長ヲ置ク
区裁判所及検事局ノ書記課ニ二人以上ノ書記ヲ置キタルトキハ其ノ一人ヲ監督書記トス
監督書記及書記長ハ各々其ノ上官ノ命令ニ服従シテ書記課ノ事務ヲ指揮監督ス
第八十七条 書記其ノ職務ノ範囲内ニ於テ取扱ヒタル事ハ既ニ定マリタル務事分配上其ノ事他ノ書記ニ属シタリトノ事実ノミニ因リ其ノ効力ヲ失フコトナシ
第八十八条 書記ハ司法大臣之ヲ任シ及之ヲ補ス
書記長ハ奏任トス
書記長ノ職ハ司法大臣之ヲ補ス
第八十九条 書記ニ任セラルヽニハ勅令ノ定ムル所ニ依リ試験ヲ経ルコトヲ要ス
志願者前項ノ試験ヲ受ケ得ルニ必要ナル資格並ニ此ノ試験及試験ヲ経タル後為スヘキ修習ニ関ル細則ハ裁判所書記登用試験規則中ニ司法大臣之ヲ定ム
第九十条 書記ニ任セラレタル者闕位ナキ間ハ予備書記ニ補ス
予備書記ハ書記トシテ臨時勤務ヲ命セラルヽコトヲ得
第九十一条 書記ハ其ノ上官ノ命令ニ従フ
裁判所ノ開廷ニ於テハ裁判長ノ命令ニ従ヒ又判事一人ナルトキハ其ノ判事ノ命令ニ従フ
書記ハ検事局ニ勤務スルトキ又ハ特別ノ事務ニ付判事若ハ検事ニ附属シタルトキモ亦其ノ検事局又ハ判事若ハ検事ノ命令ニ従フ
前二項ノ命令ニシテ口述ノ書取ニ関ルカ又ハ書類記録ノ調製若ハ変更ニ関ル場合ニ於テ其ノ調製若ハ変更ヲ正当ナラスト認ムルトキ書記ハ自己ノ意見ヲ記シテ之ニ添フルコトヲ得
前四項ニ掲ケタルモノヲ除ク外書記ノ職務及其ノ事務取扱方法ハ書記ニ関ル規則中ニ司法大臣之ヲ定ム
第九十二条 合議裁判所長又ハ区裁判所ノ判事若ハ監督判事ハ其ノ裁判所ニ於テ修習中ノ試補ニ書記ノ事務ヲ臨時取扱ハシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ職務上署名ヲ要スルトキハ特別ノ許可ヲ得テ署名スル旨ヲ記ス
第九十三条 予備書記ハ事務ノ取扱ニ於テハ書記ニ同シ但シ書記規則中ニ制限ヲ設ケタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第五章 執達吏
第九十四条 各区裁判所ニ第九条ニ従ヒ相応ナル員数ノ執達吏ヲ置ク
第九十五条 執達吏ハ司法大臣之ヲ任シ及之ヲ補ス司法大臣ハ控訴院長ニ其ノ管轄区域内ノ裁判所ノ執達吏ヲ任シ及補スルノ権ヲ委任スルコトヲ得
執達吏ニ任セラルヽニ必要ナル資格並ニ試験ニ関ル規則ハ司法大臣之ヲ定ム
第九十六条 執達吏ハ手数料ヲ受ク其ノ手数料一定ノ額ニ達セサルトキ補助金ヲ受ク
第九十七条 執達吏ハ其ノ所属区裁判所ヲ管轄スル地方裁判所管轄区域内ノ何レノ場所ニ於テモ其ノ職務ヲ行フ
第九十八条 裁判所ヨリ発スル文書ニシテ送達ヲ要スルモノハ執達吏ヲ以テ之ヲ送達ス但シ書記ヨリ直接ニ若ハ郵便ヲ以テ送達スルコトヲ法律ノ許ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
執達吏ハ刑事ニ付警察官ヲ以テ執行ヲ為サヽル場合ニ限リ裁判所ノ裁判ヲ執行ス
前二項ニ掲ケタルモノヲ除ク外執達吏ノ権限ハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル
第九十九条 執達吏ハ其ノ職務ヲ適実ニ行フ為保証金ヲ出スコトヲ要ス
執達吏ノ職務細則並ニ保証金ニ関ル規則ハ司法大臣之ヲ定ム
第百条 執達吏ハ其ノ所属裁判所ノ上官ノ命ヲ受ケタル書記及其ノ裁判所ヲ管轄スル地方裁判所ノ上官ノ命ヲ受ケタル書記及其ノ書記ノ上官ノ命令ニ従フ
第六章 廷丁
第百一条 廷丁ハ大審院控訴院及地方裁判所ニ於テハ裁判所長区裁判所ニ於テハ地方裁判所長之ヲ雇ヒ及其ノ雇ヲ解ク
第百二条 廷丁ハ開廷ニ出頭セシメ及司法大臣ノ発シタル一般ノ規則中ニ定メタル事務ヲ取扱ハシム
区裁判所ハ執達吏ヲ用井ルコト能ハサルトキハ其ノ裁判所所在地ニ於テ書類ヲ送達スル為廷丁ヲ用井ルコトヲ得
第三編 司法事務ノ取扱
第一章 開廷
第百三条 開廷ハ裁判所又ハ支部ニ於テ之ヲ為ス
司法大臣ニ於テ事情ニ因リ必要ナリト認ムルトキハ区裁判所ヲシテ其ノ管轄区域内ノ一定ノ場所ニ於テ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第百四条 訴訟審問ノ上席及指揮ハ合議裁判所ニ於テハ開廷ヲ為シタル裁判長ニ属シ区裁判所ニ於テハ開廷ヲ為シタル判事ニ属ス
裁判長ニ属スル権ハ裁判上一人ニテ執務スル判事ニモ亦属ス
第百五条 裁判所ニ於テ対審ノ公開ヲ停ムルノ決議ヲ為シタルトキハ其ノ決議ハ其ノ理由ト共ニ公衆ヲ退カシムル前之ヲ言渡ス此ノ場合ニ於テ裁判所ノ判決ヲ言渡ストキハ再ヒ公衆ヲ入廷セシムヘシ
第百六条 裁判長ハ公開ヲ停メタルトキモ入廷ノ特許ヲ与フルコトヲ至当ト認ムル者ヲ入廷セシムルノ権ヲ有ス
第百七条 裁判長ハ婦女児童及相当ナル衣服ヲ著セサル者ヲ法廷ヨリ退カシムルコトヲ得其ノ理由ハ之ヲ訴訟ノ記録ニ記入ス
第百八条 開廷中秩序ノ維持ハ裁判長ニ属ス
第百九条 裁判長ハ審問ヲ妨クル者又ハ不当ノ行状ヲ為ス者ヲ法廷ヨリ退カシムルノ権ヲ有ス
前項ニ掲ケタル違犯者ノ行状ニ因リ之ヲ勾引シ閉廷ノトキマテ之ヲ勾留スルノ必要アリト認ムルトキ裁判長ハ之ヲ命令スルノ権ヲ有ス閉廷ノトキ裁判所ハ之ヲ釈放スルコトヲ命シ又ハ五円以下ノ罰金若ハ五日以内ノ拘留ニ処スルコトヲ得
此ノ処罰ニ対シテハ上告ヲ許シ控訴ヲ許サス且其ノ所為ノ軽罪若ハ重罪ニ該ルヘキモノナルトキハ之ニ対シテ刑事訴追ヲ為スコトヲ得
第百十条 前条ノ規程ハ左ノ変更ヲ以テ当事者証人及鑑定人ニモ亦之ヲ適用ス
第一 裁判所ハ閉廷ヲ待タスシテ本条ノ違犯者ヲ即時ニ罰スルコトヲ得
第二 違犯者原告ナルトキハ裁判所ハ処罰ノ上仍本人宥恕ヲ請フカ又ハ恭順ヲ表シテ不敬ノ罪ヲ謝スルマテ其ノ審問ヲ中止スルコトヲ得
第百十一条 裁判長ハ不当ノ言語ヲ用井ル弁護士ニ対シ同事件ニ付引続キ陳述スルノ権ヲ行フコトヲ禁スルコトヲ得其ノ禁止ハ此ノ行状ニ付懲戒上ノ訴追ヲ為スコトヲ妨ケス
第百十二条 裁判所ノ開廷中秩序ヲ維持スル為第百九条第百十条及第百十一条ヲ以テ与ヘタル権ハ予審判事又ハ受命判事又ハ法律ニ従ヒ其ノ職務ヲ行フ試補モ亦之ヲ行フコトヲ得
此ノ場合ニ於テノ異議ハ二十四時以内ニ其ノ判事又ハ試補ニ之ヲ申出ルコトヲ得
予審判事又ハ其ノ命ヲ受ケタル試補ノ命令ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ判事ノ属スル裁判所ノ刑事部若ハ刑事支部ニ於テ前項ノ異議ヲ裁判ス受命判事又ハ其ノ命ヲ受ケタル試補ノ命令ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ判事ニ命シタル裁判所ニ於テ之ヲ裁判ス
第百十三条 第百九条第百十条第百十一条及第百十二条ヲ以テ与ヘタル権ヲ行ヒタルトキハ訴訟ノ記録ニ之ヲ記入シ及其ノ理由ヲ記ス
前項ノ場合ニ於テ其ノ所為ノ重罪若ハ軽罪ニ該ルヘキモノナルカ又ハ懲戒上罰スヘキモノナルトキハ詳細ニ之ヲ記入シ裁判長ハ其ノ事件ヲ更ニ処分スルノ権アル官庁ニ報告ヲ為ス
第百十四条 判事検事及裁判所書記ハ公開シタル法廷ニ於テハ一定ノ制服ヲ著ス
前項ノ開廷ニ於テ審問ニ参与スル弁護士モ亦一定ノ職服ヲ著スルコトヲ要ス
第二章 裁判所ノ用語
第百十五条 裁判所ニ於テハ日本語ヲ用ウ
当事者証人又ハ鑑定人ノ中日本語ニ通セサル者アルトキハ訴訟法又ハ特別法ニ通事ヲ用井ルコトヲ要スル場合ニ於テ之ヲ用ウ
第百十六条 通事ノ任命及使用並ニ訴訟手続上其ノ行フヘキ職務ニ関ル規則ハ司法大臣之ヲ定ム
第百十七条 通事ノ得難キ場合ニ於テ書記其ノ言語ニ通スルトキハ裁判長ノ承諾ヲ得テ通事ニ用井ラルヽコトヲ得
第百十八条 外国人ノ当事者タル訴訟ニ関係ヲ有スル者及其ノ訴訟ノ審問ニ参与スル官吏ノ或ル外国語ニ通スル場合ニ於テ裁判長便利ト認ムルトキハ其ノ外国語ヲ以テ口頭審問ヲ為スコトヲ得但シ其ノ審問ノ公正記録ハ日本語ヲ以テ之ヲ作ル
第三章 裁判ノ評議及言渡
第百十九条 合議裁判所ノ裁判ハ此ノ法律ニ従ヒ定数ノ判事之ヲ評議シ及之ヲ言渡ス
第百二十条 四日以上引続クヘキ見込アル刑事ノ審問ニ於テ裁判所長ハ補充判事一人ヲ命シ之ニ立会ハシムルコトヲ得此ノ補充判事ハ其ノ審問中或ル判事ノ疾病其ノ他ノ事故ニ因リ引続キ参与スルコトヲ得サル場合ニ於テ之ニ代リ審問及裁判ヲ完結スルノ権ヲ有ス
第百二十一条 判事ノ評議ハ之ヲ公行セス但シ予備判事及試補ノ傍聴ヲ許スコトヲ得
判事ノ評議ハ其ノ裁判長之ヲ開キ且之ヲ整理ス其ノ評議ノ顛末並ニ各判事ノ意見及多少ノ数ニ付テハ厳ニ秘密ヲ守ルコトヲ要ス
第百二十二条 評議ノ際各判事意見ヲ述フルノ順序ハ官等ノ最モ低キ者ヲ始トシ裁判長ヲ終トス官等同キトキハ年少ノ者ヲ始トシ受命ノ事件ニ付テハ受命判事ヲ始トス
第百二十三条 裁判ハ過半数ノ意見ニ依ル
金額ニ付判事ノ意見三説以上ニ分レ其ノ説各々過半数ニ至ラサルトキハ過半数ニ至ルマテ最多額ノ意見ヨリ順次寡額ニ合算ス
刑事ニ付其ノ意見三説以上ニ分レ各々過半数ニ至ラサルトキハ過半数ニ至ルマテ被告人ニ不利ナル意見ヨリ順次利益ナル意見ニ合算ス
第百二十四条 判事ハ裁判スヘキ問題ニ付自己ノ意見ヲ表スルコトヲ拒ムコトヲ得ス
第四章 裁判所及検事局ノ事務章程
第百二十五条 裁判所及検事局ノ標準ト為スヘキ規則ハ司法大臣之ヲ定ム
控訴院長及検事長ハ前項ノ規則ニ依リ各自管轄区域内ノ裁判所及検事局ニ対シテ事務ノ一般ノ取扱ニ関リ成ルヘク統一ヲ旨トシ殊ニ裁判所及検事局ノ開庁時間及開廷ノ時日ニ付訓令ヲ発ス
大審院ハ自ラ其ノ事務章程ヲ定ム但シ之ヲ実施スル前司法大臣ノ認可ヲ受ク
第五章 司法年度及休暇
第百二十六条 司法年度ハ一月一日ニ始マリ十二月三十一日ニ終ハル
第百二十七条 裁判所ノ休暇ハ七月十一日ニ始マリ九月十日ニ終ハル
第百二十八条 休暇中ハ左ノ事件ノ外既ニ著手シタル民事訴訟ヲ中止ス且新ナル訴訟ニ著手セス
第一 為替手形若ハ約束手形其ノ他ノ流通証書ニ関ル請求
第二 船舶又ハ運送賃又ハ積荷ニ対スル請求
第三 財産差押事件
第四 住家其ノ他ノ建物又ハ其ノ或ル部分ノ受取明渡使用占拠若ハ修繕ニ関リ又ハ賃借人ノ家具若ハ所持品ヲ賃貸人ノ差押ヘタルコトニ関リ賃貸人ト賃借人トノ間ニ起リタル訴訟
第五 養料ノ請求
第六 保証ヲ出サシムルノ請求
第七 取掛リタル建築ノ継続ニ関ル事件
第八 前数項ニ掲ケタルモノヲ除ク外区裁判所ノ判事ニ於テ又ハ民事訴訟法ノ定ムル所ニ従ヒ休暇部若ハ休暇部長ニ於テ直ニ著手スヘキ緊急ノモノト認メタル請求若ハ事件
第百二十九条 休暇中ニ拘ラス刑事訴訟非訟事件判決執行破産事件並ニ民事訴訟法ニ依リ略式ヲ以テ取扱フコトヲ得ヘキ訴訟ハ之ヲ停止スルコトナシ
第百三十条 合議裁判所ニ於テハ休暇中事務取扱ノ為休暇部ト称スル一若ハ二以上ノ部ヲ設ク
休暇部ノ組立ハ休暇ノ始マル前裁判所長之ヲ定ム第二十三条ハ此ノ部ニモ亦之ヲ適用ス
二人以上ノ判事ヲ置キタル区裁判所ノ休暇事務取扱方法ハ監督判事之ヲ定ム
第六章 法律上ノ共助
第百三十一条 裁判所ハ訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依リ互ニ法律上ノ輔助ヲ為ス
法律上ノ輔助ハ別ニ法律ニ定メタル場合ノ外ハ所要ノ事務ヲ取扱フヘキ地ノ区裁判所ニ於テ之ヲ為ス
第百三十二条 検事局モ亦各自ノ管轄区域内ニ於テ取扱フヘキ事務ニ付互ニ法律上ノ輔助ヲ為ス
第百三十三条 裁判所書記課モ亦其ノ権内ノ事件又ハ其ノ配下ノ執達吏ノ権内ノ事件ニ付互ニ法律上ノ輔助ヲ為ス
第四編 司法行政ノ職務及監督権
第百三十四条 合議裁判所長区裁判所ノ判事若ハ監督判事検事総長検事長検事正ハ司法大臣ノ由テ以テ司法行政ノ職務ヲ行フノ官吏トス
第百三十五条 司法行政監督権ノ施行ハ左ノ規程ニ依ル
第一 司法大臣ハ各裁判所及各検事局ヲ監督ス
第二 大審院長ハ大審院ヲ監督ス
第三 控訴院長ハ其ノ控訴院及其ノ管轄区域内ノ下級裁判所ヲ監督ス
第四 地方裁判所長ハ其ノ裁判所若ハ其ノ支部及其ノ管轄区域内ノ区裁判所ヲ監督ス
第五 区裁判所ノ一人ノ判事若ハ監督判事ハ其ノ裁判所所属ノ書記及執達吏ヲ監督ス
第六 検事総長ハ其ノ検事局及下級検事局ヲ監督ス
第七 検事長ハ其ノ検事局及其ノ局ノ附置セラレタル控訴院管轄区域内ノ検事局ヲ監督ス
第八 検事正ハ其ノ検事局及其ノ局ノ附置セラレタル地方裁判所管轄区域内ノ検事局ヲ監督ス
第百三十六条 前条ニ掲ケタル監督権ハ左ノ事項ヲ包含ス
第一 官吏不適当又ハ不充分ニ取扱ヒタル事務ニ付其ノ注意ヲ促シ並ニ適当ニ其ノ事務ヲ取扱フコトヲ之ニ訓令スル事
第二 官吏ノ職務上ト否トニ拘ラス其ノ地位ニ不相応ナル行状ニ付之ニ諭告スル事
但シ此ノ諭告ヲ為ス前其ノ官吏ヲシテ弁明ヲ為スコトヲ得セシムヘシ
第百三十七条 第十八条及第八十四条ニ掲ケタル官吏ハ第百三十五条ニ依リ行フヘキ監督ヲ受クルノ官吏中ニ之ヲ包含ス
第百三十八条 裁判所若ハ検事局ノ官吏ニシテ適当ニ其ノ職務ヲ行ハサル者又ハ其ノ行状其ノ地位ニ不相応ナル者ニ付第百三十六条ヲ適用スルコト能ハサルトキハ懲戒法ニ従ヒ之ヲ訴追ス
第百三十九条 前数条ニ掲ケタル司法行政ノ職務及監督権ハ判事若ハ検事其ノ官吏タルノ資格又ハ其ノ他ノ資格ヲ以テ為シタル事ニ対シテ起リタル請求ニ付其ノ請求ヲ満足セシムル為之ヲ執行スルコトヲ得ス
第百四十条 司法事務取扱ノ方法ニ対スル抗告殊ニ或ル事務ノ取扱方ニ対シ又ハ取扱ノ延滞若ハ拒絶ニ対スル抗告ハ此ノ編ニ掲ケタル司法行政ノ職務及監督権ニ依リ之ヲ処分ス
第百四十一条 裁判所及検事局ハ司法大臣又ハ監督権アル判事若ハ検事ノ要求アルトキハ法律上ノ事項又ハ司法行政ニ関ル事項ニ付意見ヲ述フ
第百四十二条 司法官庁ニ対シテ起リタル民事ノ訴訟ニ於テハ其ノ訴訟ヲ受ケタル裁判所ノ検事局ハ司法官庁ヲ代表ス
第百四十三条 此ノ編ニ掲ケタル前各条ノ規程ハ裁判上執務スル判事ノ裁判権ニ影響ヲ及ホシ又ハ之ヲ制限スルコトナシ
附 則
第百四十四条 此ノ法律ノ施行ニ関ル規程並ニ従来ノ法律ニシテ此ノ法律ニ牴触スト雖モ当分ノ内仍ホ効力ヲ有セシムルモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム