判事懲戒法
法令番号: 法律第六十八號
公布年月日: 明治23年8月21日
法令の形式: 法律
朕判事懲戒法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年八月二十日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
司法大臣 伯爵 山田顯義
法律第六十八號
判事懲戒法
第一章 總則
第一條 凡ソ判事ヲ懲戒スルハ左ノ場合ニ於テ懲戒裁判所ノ裁判ヲ以テスヘシ
第一 職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リタルトキ
第二 官職上ノ威嚴又ハ信用ヲ失フヘキ所爲アリタルトキ
第二章 懲罰
第二條 懲罰ハ左ノ如シ
第一 譴責
第二 減俸
第三 轉所
第四 停職
第五 免職
第三條 前條何レノ懲罰ヲ適用スヘキヤ否ハ所犯ノ輕重ニ從ヒ懲戒裁判所之ヲ定ムヘシ
懲戒裁判所ハ懲罰ノ適用ヲ定ムルニ當リ平生ノ行狀ヲ斟酌スルコトヲ得
第四條 減俸ハ一月以上一年以下年俸月割額ノ三分ノ一以內ヲ減ス
第五條 轉所ハ他ノ裁判所若ハ他ノ職ニ轉セシム但シ情狀ニ因リ減俸ヲ併セ科スルコトヲ得
第六條 停職ハ三月以上一年以下職務ノ執行ヲ停止ス
停職中ハ俸給ヲ給セス
第七條 免職ノ言渡ヲ受ケタル者ハ現任ノ官ヲ失ヒ及恩給ヲ受クルノ權ヲ失フ
第三章 懲戒裁判所
第八條 懲戒裁判所ハ各控訴院及大審院ニ之ヲ置ク
第九條 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ハ控訴院長ヲ加ヘ其ノ院ノ判事五人ヲ以テ組立テ院長ヲ以テ長トス
大審院ニ於ケル懲戒裁判所ハ大審院長ヲ加ヘ其ノ院ノ判事七人ヲ以テ組立テ院長ヲ以テ長トス
第十條 控訴院長及大審院長ハ每年部長ト協議シ前以テ懲戒裁判所ノ判事ヲ定メ竝ニ裁判所長判事差支アルトキノ代理順序ヲ定ム
第十一條 懲戒裁判所ノ判事ノ忌避囘避ニ付テハ治罪法ノ規程ヲ準用ス
第十二條 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ノ檢事ノ職務ハ檢事長之ヲ行ヒ大審院ニ於ケル懲戒裁判所ノ檢事ノ職務ハ檢事總長之ヲ行フ
第十三條 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所長ハ其ノ院ノ裁判所書記ノ中ヨリ懲戒裁判所ノ書記ヲ命シ大審院ニ於ケル懲戒裁判所長ハ其ノ院ノ裁判所書記ノ中ヨリ懲戒裁判所ノ書記ヲ命ス
第十四條 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ハ院長及部長ヲ除ク外其ノ院ノ判事及其ノ管轄區域內ノ總テノ下級裁判所ノ判事ニ對スル懲戒事件ヲ管轄ス
第十五條 大審院ニ於ケル懲戒裁判所ハ左ノ事件ヲ管轄ス
第一 第一審ニシテ終審トシテ大審院ノ判事、控訴院長及控訴院部長ニ對スル懲戒事件
第二 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ノ裁判ニ對スル抗吿及控訴
第十六條 懲戒裁判所ノ管轄ハ所犯ノ地ニ拘ラス裁判手續開始ノトキ判事ノ奉職スル裁判所ニ依テ定マルモノトス
第四章 裁判手續
第十七條 懲戒裁判所ハ檢事ノ申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ懲戒裁判ヲ開始スヘキヤ否ヲ決定ス但シ職權ヲ以テスル場合ニ於テハ檢事ノ意見ヲ聽クヘシ
第十八條 檢事ハ裁判手續ノ開始ヲ拒ミタル懲戒裁判所ノ決定ニ對シテハ七日ノ期間內ニ抗吿裁判所ニ抗吿ヲ爲スコトヲ得
第十九條 抗吿裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キタル後抗吿ヲ裁判ス若シ抗吿ヲ正當ナリト認メタルトキハ裁判手續開始ノ決定ヲ爲シ管轄懲戒裁判所ヲシテ其ノ後ノ手續ヲ爲サシムヘシ
第二十條 開始決定ニハ懲戒スヘキ所爲及證據ヲ開示スヘシ
第二十一條 開始決定ハ檢事及被吿ニ送達スヘシ
第二十二條 懲戒裁判所ニ於テ下調ヲ必要ナリト決定スルトキハ懲戒裁判所長ハ懲戒裁判ヲ開始シタル院ノ判事若ハ管轄區域內ノ地方裁判所ノ判事ニ下調ヲ命スヘシ
第二十三條 下調ノ命ヲ受ケタル判事ハ必要ナル證據ヲ集取スヘシ
受命判事ハ被吿ヲ呼出シテ事實ヲ陳述セシムルコトヲ得
被吿ハ代理人ヲシテ代理セシムルコトヲ得
證人ハ治罪法ノ規程ニ從ヒ之ヲ訊問スヘシ
第二十四條 受命判事ハ證人訊問其ノ他證據集取ヲ他ノ裁判所ノ判事ニ囑託スルコトヲ得
第二十五條 受命判事ハ下調結了ノ後調書及一切ノ證據ヲ懲戒裁判所長ニ差出シ裁判所長ハ二十四時內ニ檢事ニ之ヲ送付スヘシ
第二十六條 檢事ハ三日內ニ意見ヲ付シ記錄ヲ懲戒裁判所長ニ還付スヘシ
第二十七條 懲戒裁判所ハ下調ヲ十分ナリト思料スルトキハ口頭辯論ヲ爲スノ決定ヲ爲シ又ハ免訴ノ判決ヲ爲スヘシ
免訴ノ理由ナキモ現時裁判ニ著手スルコトヲ得サルトキハ訴追停止ノ決定ヲ爲スヘシ
第二十八條 前條ノ裁判ハ檢事及被吿ニ送達スヘシ
第二十九條 懲戒裁判所長ハ口頭辯論ノ期日ヲ定メ被吿ヲ呼出スヘシ
第三十條 辯論ハ之ヲ公行セス
第三十一條 口頭辯論ハ裁判所書記開始決定ヲ朗讀スルヲ以テ始マルモノトス
裁判長ハ先ツ被吿ヲ審訊シ次テ證據調ヲ爲シ檢事及被吿ヲシテ證據ノ結果ニ付辯論ヲ爲サシメ被吿ニ最終ノ發言ヲ許スヘシ
第三十二條 懲戒裁判所ハ被吿若ハ檢事ノ申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ更ニ證據ヲ提出セシムルコトヲ適當ナリトスルトキハ之カ爲必要ナル命令ヲ發シ且辯論ヲ他日ニ延期スルコトヲ得
第三十三條 被吿ハ他人ヲシテ辯護セシメ又ハ代理人ヲ用井ルコトヲ得
第三十四條 懲戒裁判所ハ事件ノ辯論既ニ十分ナリトスルトキハ之ヲ終結シ評議判決スヘシ
第三十五條 判決ハ卽時ニ之ヲ言渡ス若シ卽時ニ之ヲ言渡スコト能ハサルトキハ七日內ニ判決ヲ被吿及檢事ニ送達スヘシ
第三十六條 被吿又ハ代理人辯論期日ニ出頭セスト雖判決ヲ言渡スコトヲ得
第三十七條 評議及言渡ニ關シテハ裁判所構成法ノ規程ニ從ヒ證據ノ判斷ニ關シテハ治罪法ノ規程ニ從フ
第三十八條 被吿及檢事ハ十四日ノ期間內ニ控訴ノ申立ヲ爲スコトヲ得但シ其ノ期間ハ判決言渡ヨリ起算ス若シ被吿出頭セサルトキハ判決ノ送達アリタルヨリ起算ス
第三十九條 控訴ノ申立ハ判決ヲ受ケタル懲戒裁判所ニ之ヲ爲スヘシ
控訴狀ハ控訴ノ申立ヲ爲シタルヨリ十四日ノ期間內ニ之ヲ差出スヘシ
第四十條 懲戒裁判所ハ控訴ノ申立及控訴狀ノ謄本ヲ對手人ニ送達スヘシ
對手人ハ送達ヲ受ケタルヨリ十四日ノ期間內ニ答辯書ヲ差出スコトヲ得
第四十一條 懲戒裁判所ハ前條ノ期間經過シタル後其ノ書類ヲ控訴裁判所ニ送付スヘシ
控訴裁判所長ハ口頭辯論ノ期日ヲ定メ被吿ヲ呼出スヘシ
第四十二條 控訴裁判所ハ第一審ニ於テ申出テサル證據ヲ提出シタルトキハ之ヲ取調フヘシ若シ第一審ニ於テ訊問シタル證人ノ再訊問ヲ申立テタルトキハ其ノ重要ノ㸃ニ於テ陳述ヲ異ニシ又ハ新ナル重要ノ事實ヲ證言セントノ推測十分ナルトキニ限リ之ヲ許ス
職權ヲ以テスル訊問ハ何時ニテモ之ヲ爲スコトヲ得
第四十三條 第二審ニ於ケル裁判手續ハ第三十條乃至第三十七條ノ規程ヲ適用ス
第四十四條 控訴ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却シ其ノ費用ヲ控訴人ニ負擔セシムヘシ
控訴ヲ理由アリトスルトキハ第一審判決言渡ヲ取消シ控訴裁判所更ニ判決ヲ爲シ且其ノ費用ニ付裁判ヲ爲スヘシ
控訴完結ノ後其ノ記錄ハ第二審ニ於テ爲シタル判決ノ認證アル謄本ト共ニ原裁判所ニ之ヲ還付スヘシ
第四十五條 調書ノ調製期間ノ計算及書類ノ送達ニ付テハ治罪法ノ規程ニ從フ
懲戒裁判手續ノ費用ハ刑事裁判費用ニ關ル規程ニ從フ
第四十六條 懲戒裁判所ノ裁判ハ確定ノ後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
第四十七條 懲戒裁判確定シタルトキハ懲戒裁判所長ハ司法大臣ニ事件ノ情況ヲ報吿シ且判決ノ謄本ヲ差出スヘシ
第四十八條 懲戒裁判所減俸轉所若ハ停職ノ裁判ヲ言渡シタルトキハ司法大臣其ノ執行ノ手續ヲ爲ス
第五章 職務停止
第四十九條 判事ハ左ノ場合ニ於テハ當然職務ヲ停止セラルルモノトス
第一 刑事裁判手續ニ於テ勾留セラレタルトキ
第二 刑事裁判ニ依テ官職ノ喪失ニ該ル刑ノ言渡ヲ受ケタルトキ
第三 懲戒裁判ニ依テ免職ノ言渡ヲ受ケタルトキ
第五十條 刑事裁判ニ依テ拘留ノ刑ノ確定裁判ヲ受ケタルトキハ其ノ刑期ノ終ルマテ當然職務ヲ停止セラルルモノトス
第五十一條 懲戒裁判所ハ懲戒事件ノ轉所停職若ハ免職ニ該當スルモノト思料スルトキハ何時ニテモ職權ヲ以テ又ハ檢事ノ申立ニ因リ懲戒裁判手續結了ニ至ルマテ被吿ノ職務ヲ停止スルコトヲ決定スルヲ得但シ職權ヲ以テ決定ヲ爲ストキハ檢事ノ意見ヲ聽クヘシ
刑事裁判手續中何レノ場合ニ於テモ懲戒裁判所ハ其ノ手續結了ニ至ルマテ被吿ノ職務ヲ停止スルコトヲ決定スルヲ得
第五十二條 懲戒裁判所ノ決定ニ因リ又ハ當然職務ヲ停止セラレタル後其ノ判事ノ爲シタル職務上ノ行爲ハ無効トス
第五十三條 被吿ハ職務停止ノ決定ニ對シ上訴ヲ爲スコトヲ得ス
第六章 懲戒裁判手續ト刑事裁判手續トノ關係
第五十四條 刑事裁判手續中ハ同事件ニ付被吿ニ對シ懲戒裁判手續ヲ開始スルコトヲ得ス
懲戒裁判所ニ於テ判決ノ言渡前同事件ニ付被吿ニ對シ刑事訴追ノ始マリタルトキハ其ノ事件ノ判決ヲ終ルマテ懲戒裁判手續ヲ停止スヘシ
第五十五條 刑事裁判ニ依テ法律ニ觸レサルニ因リ免訴又ハ無罪ノ言渡ヲ受ケタルトキト雖同一ノ所爲ニ付懲戒裁判手續ニ於テ仍ホ訴追スルヲ妨ケス
刑事裁判ニ依テ官職ノ喪失ヲ起ササル刑ノ言渡ヲ受ケタルトキハ懲戒裁判手續ニ於テ仍ホ訴追スルコトヲ得
第七章 補則
第五十六條 懲戒スヘキ所爲ハ本法實施前ニ關ルモノト雖本法ニ從ヒ之ヲ訴追ス
第五十七條 此法律ハ明治二十三年十一月一日ヨリ施行ス
朕判事懲戒法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年八月二十日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
司法大臣 伯爵 山田顕義
法律第六十八号
判事懲戒法
第一章 総則
第一条 凡ソ判事ヲ懲戒スルハ左ノ場合ニ於テ懲戒裁判所ノ裁判ヲ以テスヘシ
第一 職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リタルトキ
第二 官職上ノ威厳又ハ信用ヲ失フヘキ所為アリタルトキ
第二章 懲罰
第二条 懲罰ハ左ノ如シ
第一 譴責
第二 減俸
第三 転所
第四 停職
第五 免職
第三条 前条何レノ懲罰ヲ適用スヘキヤ否ハ所犯ノ軽重ニ従ヒ懲戒裁判所之ヲ定ムヘシ
懲戒裁判所ハ懲罰ノ適用ヲ定ムルニ当リ平生ノ行状ヲ斟酌スルコトヲ得
第四条 減俸ハ一月以上一年以下年俸月割額ノ三分ノ一以内ヲ減ス
第五条 転所ハ他ノ裁判所若ハ他ノ職ニ転セシム但シ情状ニ因リ減俸ヲ併セ科スルコトヲ得
第六条 停職ハ三月以上一年以下職務ノ執行ヲ停止ス
停職中ハ俸給ヲ給セス
第七条 免職ノ言渡ヲ受ケタル者ハ現任ノ官ヲ失ヒ及恩給ヲ受クルノ権ヲ失フ
第三章 懲戒裁判所
第八条 懲戒裁判所ハ各控訴院及大審院ニ之ヲ置ク
第九条 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ハ控訴院長ヲ加ヘ其ノ院ノ判事五人ヲ以テ組立テ院長ヲ以テ長トス
大審院ニ於ケル懲戒裁判所ハ大審院長ヲ加ヘ其ノ院ノ判事七人ヲ以テ組立テ院長ヲ以テ長トス
第十条 控訴院長及大審院長ハ毎年部長ト協議シ前以テ懲戒裁判所ノ判事ヲ定メ並ニ裁判所長判事差支アルトキノ代理順序ヲ定ム
第十一条 懲戒裁判所ノ判事ノ忌避回避ニ付テハ治罪法ノ規程ヲ準用ス
第十二条 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ノ検事ノ職務ハ検事長之ヲ行ヒ大審院ニ於ケル懲戒裁判所ノ検事ノ職務ハ検事総長之ヲ行フ
第十三条 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所長ハ其ノ院ノ裁判所書記ノ中ヨリ懲戒裁判所ノ書記ヲ命シ大審院ニ於ケル懲戒裁判所長ハ其ノ院ノ裁判所書記ノ中ヨリ懲戒裁判所ノ書記ヲ命ス
第十四条 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ハ院長及部長ヲ除ク外其ノ院ノ判事及其ノ管轄区域内ノ総テノ下級裁判所ノ判事ニ対スル懲戒事件ヲ管轄ス
第十五条 大審院ニ於ケル懲戒裁判所ハ左ノ事件ヲ管轄ス
第一 第一審ニシテ終審トシテ大審院ノ判事、控訴院長及控訴院部長ニ対スル懲戒事件
第二 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ノ裁判ニ対スル抗告及控訴
第十六条 懲戒裁判所ノ管轄ハ所犯ノ地ニ拘ラス裁判手続開始ノトキ判事ノ奉職スル裁判所ニ依テ定マルモノトス
第四章 裁判手続
第十七条 懲戒裁判所ハ検事ノ申立ニ因リ又ハ職権ヲ以テ懲戒裁判ヲ開始スヘキヤ否ヲ決定ス但シ職権ヲ以テスル場合ニ於テハ検事ノ意見ヲ聴クヘシ
第十八条 検事ハ裁判手続ノ開始ヲ拒ミタル懲戒裁判所ノ決定ニ対シテハ七日ノ期間内ニ抗告裁判所ニ抗告ヲ為スコトヲ得
第十九条 抗告裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キタル後抗告ヲ裁判ス若シ抗告ヲ正当ナリト認メタルトキハ裁判手続開始ノ決定ヲ為シ管轄懲戒裁判所ヲシテ其ノ後ノ手続ヲ為サシムヘシ
第二十条 開始決定ニハ懲戒スヘキ所為及証拠ヲ開示スヘシ
第二十一条 開始決定ハ検事及被告ニ送達スヘシ
第二十二条 懲戒裁判所ニ於テ下調ヲ必要ナリト決定スルトキハ懲戒裁判所長ハ懲戒裁判ヲ開始シタル院ノ判事若ハ管轄区域内ノ地方裁判所ノ判事ニ下調ヲ命スヘシ
第二十三条 下調ノ命ヲ受ケタル判事ハ必要ナル証拠ヲ集取スヘシ
受命判事ハ被告ヲ呼出シテ事実ヲ陳述セシムルコトヲ得
被告ハ代理人ヲシテ代理セシムルコトヲ得
証人ハ治罪法ノ規程ニ従ヒ之ヲ訊問スヘシ
第二十四条 受命判事ハ証人訊問其ノ他証拠集取ヲ他ノ裁判所ノ判事ニ嘱託スルコトヲ得
第二十五条 受命判事ハ下調結了ノ後調書及一切ノ証拠ヲ懲戒裁判所長ニ差出シ裁判所長ハ二十四時内ニ検事ニ之ヲ送付スヘシ
第二十六条 検事ハ三日内ニ意見ヲ付シ記録ヲ懲戒裁判所長ニ還付スヘシ
第二十七条 懲戒裁判所ハ下調ヲ十分ナリト思料スルトキハ口頭弁論ヲ為スノ決定ヲ為シ又ハ免訴ノ判決ヲ為スヘシ
免訴ノ理由ナキモ現時裁判ニ著手スルコトヲ得サルトキハ訴追停止ノ決定ヲ為スヘシ
第二十八条 前条ノ裁判ハ検事及被告ニ送達スヘシ
第二十九条 懲戒裁判所長ハ口頭弁論ノ期日ヲ定メ被告ヲ呼出スヘシ
第三十条 弁論ハ之ヲ公行セス
第三十一条 口頭弁論ハ裁判所書記開始決定ヲ朗読スルヲ以テ始マルモノトス
裁判長ハ先ツ被告ヲ審訊シ次テ証拠調ヲ為シ検事及被告ヲシテ証拠ノ結果ニ付弁論ヲ為サシメ被告ニ最終ノ発言ヲ許スヘシ
第三十二条 懲戒裁判所ハ被告若ハ検事ノ申立ニ因リ又ハ職権ヲ以テ更ニ証拠ヲ提出セシムルコトヲ適当ナリトスルトキハ之カ為必要ナル命令ヲ発シ且弁論ヲ他日ニ延期スルコトヲ得
第三十三条 被告ハ他人ヲシテ弁護セシメ又ハ代理人ヲ用井ルコトヲ得
第三十四条 懲戒裁判所ハ事件ノ弁論既ニ十分ナリトスルトキハ之ヲ終結シ評議判決スヘシ
第三十五条 判決ハ即時ニ之ヲ言渡ス若シ即時ニ之ヲ言渡スコト能ハサルトキハ七日内ニ判決ヲ被告及検事ニ送達スヘシ
第三十六条 被告又ハ代理人弁論期日ニ出頭セスト雖判決ヲ言渡スコトヲ得
第三十七条 評議及言渡ニ関シテハ裁判所構成法ノ規程ニ従ヒ証拠ノ判断ニ関シテハ治罪法ノ規程ニ従フ
第三十八条 被告及検事ハ十四日ノ期間内ニ控訴ノ申立ヲ為スコトヲ得但シ其ノ期間ハ判決言渡ヨリ起算ス若シ被告出頭セサルトキハ判決ノ送達アリタルヨリ起算ス
第三十九条 控訴ノ申立ハ判決ヲ受ケタル懲戒裁判所ニ之ヲ為スヘシ
控訴状ハ控訴ノ申立ヲ為シタルヨリ十四日ノ期間内ニ之ヲ差出スヘシ
第四十条 懲戒裁判所ハ控訴ノ申立及控訴状ノ謄本ヲ対手人ニ送達スヘシ
対手人ハ送達ヲ受ケタルヨリ十四日ノ期間内ニ答弁書ヲ差出スコトヲ得
第四十一条 懲戒裁判所ハ前条ノ期間経過シタル後其ノ書類ヲ控訴裁判所ニ送付スヘシ
控訴裁判所長ハ口頭弁論ノ期日ヲ定メ被告ヲ呼出スヘシ
第四十二条 控訴裁判所ハ第一審ニ於テ申出テサル証拠ヲ提出シタルトキハ之ヲ取調フヘシ若シ第一審ニ於テ訊問シタル証人ノ再訊問ヲ申立テタルトキハ其ノ重要ノ点ニ於テ陳述ヲ異ニシ又ハ新ナル重要ノ事実ヲ証言セントノ推測十分ナルトキニ限リ之ヲ許ス
職権ヲ以テスル訊問ハ何時ニテモ之ヲ為スコトヲ得
第四十三条 第二審ニ於ケル裁判手続ハ第三十条乃至第三十七条ノ規程ヲ適用ス
第四十四条 控訴ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却シ其ノ費用ヲ控訴人ニ負担セシムヘシ
控訴ヲ理由アリトスルトキハ第一審判決言渡ヲ取消シ控訴裁判所更ニ判決ヲ為シ且其ノ費用ニ付裁判ヲ為スヘシ
控訴完結ノ後其ノ記録ハ第二審ニ於テ為シタル判決ノ認証アル謄本ト共ニ原裁判所ニ之ヲ還付スヘシ
第四十五条 調書ノ調製期間ノ計算及書類ノ送達ニ付テハ治罪法ノ規程ニ従フ
懲戒裁判手続ノ費用ハ刑事裁判費用ニ関ル規程ニ従フ
第四十六条 懲戒裁判所ノ裁判ハ確定ノ後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
第四十七条 懲戒裁判確定シタルトキハ懲戒裁判所長ハ司法大臣ニ事件ノ情況ヲ報告シ且判決ノ謄本ヲ差出スヘシ
第四十八条 懲戒裁判所減俸転所若ハ停職ノ裁判ヲ言渡シタルトキハ司法大臣其ノ執行ノ手続ヲ為ス
第五章 職務停止
第四十九条 判事ハ左ノ場合ニ於テハ当然職務ヲ停止セラルルモノトス
第一 刑事裁判手続ニ於テ勾留セラレタルトキ
第二 刑事裁判ニ依テ官職ノ喪失ニ該ル刑ノ言渡ヲ受ケタルトキ
第三 懲戒裁判ニ依テ免職ノ言渡ヲ受ケタルトキ
第五十条 刑事裁判ニ依テ拘留ノ刑ノ確定裁判ヲ受ケタルトキハ其ノ刑期ノ終ルマテ当然職務ヲ停止セラルルモノトス
第五十一条 懲戒裁判所ハ懲戒事件ノ転所停職若ハ免職ニ該当スルモノト思料スルトキハ何時ニテモ職権ヲ以テ又ハ検事ノ申立ニ因リ懲戒裁判手続結了ニ至ルマテ被告ノ職務ヲ停止スルコトヲ決定スルヲ得但シ職権ヲ以テ決定ヲ為ストキハ検事ノ意見ヲ聴クヘシ
刑事裁判手続中何レノ場合ニ於テモ懲戒裁判所ハ其ノ手続結了ニ至ルマテ被告ノ職務ヲ停止スルコトヲ決定スルヲ得
第五十二条 懲戒裁判所ノ決定ニ因リ又ハ当然職務ヲ停止セラレタル後其ノ判事ノ為シタル職務上ノ行為ハ無効トス
第五十三条 被告ハ職務停止ノ決定ニ対シ上訴ヲ為スコトヲ得ス
第六章 懲戒裁判手続ト刑事裁判手続トノ関係
第五十四条 刑事裁判手続中ハ同事件ニ付被告ニ対シ懲戒裁判手続ヲ開始スルコトヲ得ス
懲戒裁判所ニ於テ判決ノ言渡前同事件ニ付被告ニ対シ刑事訴追ノ始マリタルトキハ其ノ事件ノ判決ヲ終ルマテ懲戒裁判手続ヲ停止スヘシ
第五十五条 刑事裁判ニ依テ法律ニ触レサルニ因リ免訴又ハ無罪ノ言渡ヲ受ケタルトキト雖同一ノ所為ニ付懲戒裁判手続ニ於テ仍ホ訴追スルヲ妨ケス
刑事裁判ニ依テ官職ノ喪失ヲ起ササル刑ノ言渡ヲ受ケタルトキハ懲戒裁判手続ニ於テ仍ホ訴追スルコトヲ得
第七章 補則
第五十六条 懲戒スヘキ所為ハ本法実施前ニ関ルモノト雖本法ニ従ヒ之ヲ訴追ス
第五十七条 此法律ハ明治二十三年十一月一日ヨリ施行ス