船員法
法令番号: 法律第百号
公布年月日: 昭和22年9月1日
法令の形式: 法律
船員法を改正する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和二十二年九月一日
内閣総理大臣 片山哲
法律第百号
船員法目次
第一章
総則
第二章
船長の職務及び権限
第三章
紀律
第四章
雇入契約
第五章
給料その他の報酬
第六章
労働時間、休日及び定員
第七章
有給休暇
第八章
食料及び衞生
第九章
年少船員及び女子船員
第十章
災害補償
第十一章
就業規則
第十二章
監督
第十三章
雜則
第十四章
罰則
船員法
第一章 総則
(船員)
第一條 この法律で船員とは、日本船舶又は日本船舶以外の命令の定める船舶に乘り組む船長及び海員並びに予備員をいう。
前項に規定する船舶には、左の船舶を含まない。
一 総トン数五トン未満の船舶
二 湖、川又は港のみを航行する船舶
三 総トン数三十トン未満の漁船
第二條 この法律で海員とは、船内で使用される船長以外の乘組員で労働の対償として給料その他の報酬を支拂われる者をいう。
この法律で予備員とは、前條第一項に規定する船舶に乘り組むため雇ようされている者で船内で使用されていないものをいう。
第三條 この法律で、職員とは、航海士、機関長、機関士、船舶通信士及び命令の定めるその他の海員をいい、属員とは、職員以外の海員をいう。
(給料及び労働時間)
第四條 この法律で、給料とは、船舶所有者が船員に対し一定の金額により定期に支拂う報酬のうち基本となるべき固定給をいい、労働時間とは、上長の職務上の命令に基き航海当直その他の作業に從事する時間をいう。
(船舶所有者に関する規定の適用)
第五條 この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち船舶所有者に関する規定は、船舶共有の場合には、船舶管理人に、船舶貸借の場合には、船舶借入人に、船舶所有者、船舶管理人及び船舶借入人以外の者が船員を使用する場合には、その者にこれを適用する。
(労働基準法の適用)
第六條 労働基準法第一條乃至第十一條、第百十七條乃至第百十九條及び第百二十一條の規定は、船員の労働関係についても適用があるものとする。
第二章 船長の職務及び権限
(指揮命令権)
第七條 船長は、海員を指揮監督し、且つ、船内にある者に対して自己の職務を行うのに必要な命令をすることができる。
(発航前の檢査)
第八條 船長は、発航前に船舶が航海に支障ないかどうかその他航海に必要な準備が整つているかいないかを檢査しなければならない。
(航海の成就)
第九條 船長は、航海の準備が終つたときは、遅滯なく発航し、且つ、必要がある場合を除いて、予定の航路を変更しないで到達港まで航行しなければならない。
(甲板上の指揮)
第十條 船長は、船舶が港を出入するとき、船舶が狹い水路を通過するときその他船舶に危險の虞があるときは、甲板にあつて自ら船舶を指揮しなければならない。
(在船義務)
第十一條 船長は、やむを得ない場合を除いて、自己に代わつて船舶を指揮すべき者にその職務を委任した後でなければ、荷物の船積及び旅客の乘込の時から荷物の陸揚及び旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去つてはならない。
(船舶に危險がある場合における処置)
第十二條 船長は、船舶に急迫した危險があるときは、人命、船舶及び積荷の救助に必要な手段を盡し、且つ旅客、海員その他船内にある者を去らせた後でなければ、自己の指揮する船舶を去つてはならない。
(船舶が衝突した場合における処置)
第十三條 船長は、船舶が衝突したときは、互に人命及び船舶の救助に必要な手段を盡し、且つ船舶の名称、所有者、船籍港、発航港及び到達港を告げなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危險があるときは、この限りでない。
(遭難船舶の救助)
第十四條 船長は、他の船舶の遭難を知つたときは、人命の救助に必要な手段を盡さなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危險がある場合及び命令の定める場合は、この限りでない。
(水葬)
第十五條 船長は、船舶の航行中船内にある者が死亡したときは、命令の定めるところにより、これを水葬に付することができる。
(遺留品の処置)
第十六條 船長は、船内にある者が死亡し、又は行方不明となつたときは、法令に特別の定がある場合を除いて、船内にある遺留品について、命令の定めるところにより、保管その他の必要な処置をしなければならない。
(在外國民の送還)
第十七條 船長は、外國に駐在する日本の領事官が、法令の定めるところにより、日本國民の送還を命じたときは、正当の事由がなければ、これを拒むことができない。
送還費用の償還に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(書類の備置)
第十八條 船長は、命令の定める場合を除いて、左の書類を船内に備え置かなければならない。
一 船舶國籍証書又は命令の定める証書
二 海員名簿
三 航海日誌
四 旅客名簿
五 積荷に関する書類
海員名簿、航海日誌及び旅客名簿に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(航行に関する報告)
第十九條 船長は、左の各号の一に該当する場合には、命令の定めるところにより、行政官廳にその旨を報告しなければならない。
一 船舶の衝突、乘揚、沈沒、滅失、火災、機関の損傷その他の海難が発生したとき。
二 人命又は船舶の救助に從事したとき。
三 無線電信によつて知つたときを除いて、航行中他の船舶の遭難を知つたとき。
四 船内にある者が死亡し、又は行方不明となつたとき。
五 予定の航路を変更したとき。
六 船舶が抑留され、又は捕獲されたときその他船舶に関し著しい事故があつたとき。
(船長の職務の代行)
第二十條 船長が死亡したとき、船舶を去つたとき、又はこれを指揮することができない場合において他人を選任しないときは、運航に從事する海員は、その職掌の順位に從つて船長の職務を行う。
第三章 紀律
(船内秩序)
第二十一條 海員は、左の事項を守らなければならない。
一 上長の職務上の命令に從うこと。
二 職務を怠り、又は他の乘組員の職務を妨げないこと。
三 船長の指定する時までに船舶に乘り込むこと。
四 船長の許可なく船舶を去らないこと。
五 船長の許可なく端艇その他の重要な属具を使用しないこと。
六 船内の食料又は淡水を濫費しないこと。
七 船長の許可なく電氣若しくは火氣を使用し、又は禁止された場所で喫煙しないこと。
八 船長の許可なく日用品以外の物品を船内に持ち込み、又は船内から持ち出さないこと。
九 船内において爭鬪、乱醉その他粗暴の行爲をしないこと。
十 その他船内の秩序をみだすようなことをしないこと。
(懲戒)
第二十二條 船長は、海員が前條の事項を守らないときは、これを懲戒することができる。
第二十三條 懲戒は、上陸禁止及び戒告の二種とし、上陸禁止の期間は、初日を含めて十日以内とし、その期間には、停泊日数のみを算入する。
第二十四條 船長は、海員を懲戒しようとするときは、三人以上の海員を立ち会わせて本人及び関係人を取り調べた上、立会人の意見を聽かなければならない。
(危險に対する処置)
第二十五條 船長は、海員が凶器、爆発又は発火しやすい物、劇藥その他の危險物を所持するときは、その物につき保管、放棄その他の処置をすることができる。
第二十六條 船長は、船内にある者の生命若しくは身体又は船舶に危害を及ぼすような行爲をしようとする海員に対し、その危害を避けるのに必要な処置をすることができる。
第二十七條 船長は、必要があると認めるときは、旅客その他船内にある者に対しても、前二條に規定する処置をすることができる。
(強制下船)
第二十八條 船長は、海員が雇入契約の終了の公認があつた後船舶を去らないときは、その海員を強制して船舶から去らせることができる。
(行政廳に対する援助の請求)
第二十九條 船長は、海員その他船内にある者の行爲が人命又は船舶に危害を及ぼしその他船内の秩序を著しくみだす場合において、必要があると認めるときは、行政廳に援助を請求することができる。
(爭議行爲の制限)
第三十條 労働関係に関する爭議行爲は、船舶が外國の港にあるとき、又はその爭議行爲に因り人命若しくは船舶に危險が及ぶようなときは、これをしてはならない。
第四章 雇入契約
(この法律に違反する契約)
第三十一條 この法律で定める基準に達しない労働條件を定める雇入契約は、その部分については、無効とする。この場合には、雇入契約は、その無効の部分については、この法律で定める基準に達する労働條件を定めたものとみなす。
(労働條件の明示)
第三十二條 船舶所有者は、雇入契約の締結に際し、船員に対して給料、労働時間その他の労働條件を明示しなければならない。雇入契約の変更に際しても同樣とする。
(賠償予定の禁止)
第三十三條 船舶所有者は、雇入契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
(強制貯金の禁止)
第三十四條 船舶所有者は、雇入契約に附随して、貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
船舶所有者は、船員の委託を受けてその貯蓄金を管理しようとするときは、保管及び返還の方法を定めて、行政官廳の認可を受けなければならない。
(相殺の制限)
第三十五條 船舶所有者は、船員に対する債権と給料の支拂の債務とを相殺してはならない。但し、相殺の額が給料の額の三分の一を超えないとき及び船員の犯罪行爲に因る損害賠償の請求権を以てするときは、この限りでない。
(労働條件の記載及び提示)
第三十六條 船長は、雇入契約が成立したときは、雇入契約により定められた労働條件を海員名簿に記載して、これを海員に示さなければならない。雇入契約の変更があつたときも同樣とする。
(雇入契約の公認)
第三十七條 船長は、雇入契約の成立、終了、更新又は変更があつたときは、命令の定めるところにより、遅滯なく、海員名簿を提示して、行政官廳に雇入契約の公認を申請しなければならない。
前項の場合において船長が公認を申請することができないときは、船舶所有者は、船長に代わつて公認を申請しなければならない。
第三十八條 行政官廳は、雇入契約の公認の申請があつたときは、その雇入契約が航海の安全又は船員の労働関係に関する法令の規定に違反するようなことがないかどうか、又、当事者の合意が充分であつたかどうかを審査するものとする。
(沈沒等に因る雇入契約の終了)
第三十九條 船舶が左の各号の一に該当する場合には、雇入契約は、終了する。
一 沈沒又は滅失したとき。
二 全く運航に堪えなくなつたとき。
船舶の存否が一箇月間分らないときは、船舶は、滅失したものと推定する。
第一項の規定により雇入契約が終了したときでも、船員は、人命、船舶又は積荷の應急救助のために必要な作業に從事しなければならない。この場合には、雇入契約は、なほ存続するものとみなす。
(雇入契約の解除)
第四十條 船舶所有者は、左の各号の一に該当する場合には、雇入契約を解除することができる。
一 船員が著しく職務に不適任であるとき。
二 船員が著しく職務を怠つたとき、又は職務に関し船員に重大な過失のあつたとき。
三 海員が船長の指定する時までに船舶に乘り込まないとき。
四 海員が著しく船内の秩序をみだしたとき。
五 船員が負傷又は疾病のため職務に堪えないとき。
六 前各号の場合を除いて、やむを得ない事由のあるとき。
第四十一條 船員は、左の各号の一に該当する場合には、雇入契約を解除することができる。
一 船舶が雇入契約の成立の時における國籍を失つたとき。
二 雇入契約により定められた労働條件と事実とが著しく相違するとき。
三 船員が負傷又は疾病のため職務に堪えないとき。
四 船員が命令の定めるところにより教育を受けようとするとき。
船舶が外國の港からの航海を終了した場合において、その船舶に乘り組む船員が、二十四時間以上の期間を定めて書面で雇入契約の解除の申入をしたときは、その期間が満了した時に、その者の雇入契約は、終了する。
海員は、船長の適当と認める自己の後任者を提供したときは、雇入契約を解除することができる。
第四十二條 期間の定のない雇入契約は、船舶所有者又は船員が二十四時間以上の期間を定めて書面で解除の申入をしたときは、その期間が満了した時に終了する。
(船舶所有者の変更に因る雇入契約の終了)
第四十三條 相続その他の包括承継の場合を除いて、船舶所有者の変更があつたときは、雇入契約は、終了する。
前項の場合には、雇入契約の終了の時から、船員と新所有者との間に從前と同一條件の雇入契約が存するものとみなす。この場合には、船員は、前條の規定に準じて雇入契約を解除することができる。
(雇入契約の延長)
第四十四條 雇入契約が終了した時に船舶が航行中の場合には、次の港に入港してその港における荷物の陸揚及び旅客の上陸が終る時まで、雇入契約が終了した時に船舶が停泊中の場合には、その港における荷物の陸揚及び旅客の上陸が終る時まで、その雇入契約は、存続するものとみなす。
船舶所有者は、雇入契約が適当な船員を補充することのできない港において終了する場合には、適当な船員を補充することのできる港に到着して荷物の陸揚及び旅客の上陸が終る時まで、雇入契約を存続させることができる。但し、第四十一條第一項第一号乃至第三号の場合は、この限りでない。
(失業手当)
第四十五條 船舶所有者は、第三十九條の規定により雇入契約が終了したときは、二箇月の範囲内において、船員の失業期間中毎月一回その失業日数に應じ給料の額と同額の失業手当を支拂わなければならない。
(雇止手当)
第四十六條 船舶所有者(第四号の場合には旧所有者)は、左の各号の一に該当する場合には、遅滯なく、船員に一箇月分の給料の額と同額の雇止手当を支拂わなければならない。
一 第四十條第六号の規定により船舶所有者が雇入契約を解除したとき。
二 第四十一條第一項第一号又は第二号の規定により船員が雇入契約を解除したとき。
三 第四十二條の規定により船舶所有者が雇入契約を解除したとき。
四 第四十三條第一項の規定により雇入契約が終了したとき。
五 船員が第八十一條の健康証明書を受けることができないため雇入契約が解除されたとき。
(送還)
第四十七條 船舶所有者は、左の各号の一に該当する場合には、遅滯なくその費用で雇入港又は船員の希望する地まで船員を送還しなければならない。但し、送還に代えてその費用を支拂うことができる。
一 第三十九條の規定により雇入契約が終了したとき。
二 第四十條第一号又は第六号の規定により船舶所有者が雇入契約を解除したとき。
三 第四十條第五号又は第四十一條第一項第三号の規定により船舶所有者又は船員が雇入契約を解除したとき。但し、船員の職務外の負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、この限りでない。
四 第四十一條第一項第一号又は第二号の規定により船員が雇入契約を解除したとき。
五 第四十二條の規定により船舶所有者が雇入契約を解除したとき。
六 第四十三條第二項の規定により船員が雇入契約を解除したとき。
七 雇入契約が期間の満了に因り船員の本國以外の地で終了したとき。
八 船員が第八十一條の健康証明書を受けることができないため雇入契約が解除されたとき。
(送還の費用)
第四十八條 船舶所有者の負担すべき船員の送還の費用は、送還中の運送賃、宿泊費及び食費並びに雇入契約の終了の時から遅滯なく出発する時までの宿泊費及び食費とする。
(送還手当)
第四十九條 船舶所有者は、船員の送還に要する日数に應じ給料の額と同額の送還手当を支拂わなければならない。送還に代えてその費用を支拂うときも同樣とする。
前項の送還手当は、船舶所有者が送還するときは、毎月一回、送還に代えてその費用を支拂うときは、その際これを支拂わなければならない。
(船員手帳)
第五十條 船員は、船員手帳を受有しなければならない。
船長は、海員の乘船中その船員手帳を保管しなければならない。
船員手帳の交付、訂正、書換及び返還に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(勤務成績証明書)
第五十一條 海員は、船長に対し勤務の成績に関する証明書の交付を請求することができる。
第五章 給料その他の報酬
(給料その他の報酬の定め方)
第五十二條 船員の給料その他の報酬は、船員労働の特殊性に基き、且つ船員の経驗、能力及び職務の内容に應じて、これを定めなければならない。
(給料その他の報酬の支拂方法)
第五十三條 給料その他の報酬は、法令又は労働協約に特別の定のある場合を除いて、その全額を通貨で直接船員に支拂わなければならない。
命令の定める報酬を除いて、給料その他の報酬は、これを毎月一回以上一定の期日に支拂わなければならない。
第五十四條 船舶所有者は、左の場合には、支拂期日前でも遅滯なく、船員が職務に從事した日数に應じ、前條第二項に規定する給料その他の報酬を支拂わなければならない。
一 船員が解雇され、又は退職したとき。
二 船員、その同居の親族又は船員の收入によつて生計を維持する者が結婚、葬祭、出産、療養又は不慮の災害の復旧に要する費用に充てようとする場合において、船員から請求のあつたとき。
第五十五條 船長は、海員の給料その他の報酬が船内において支拂われるときは、直接海員にこれを手渡さなければならない。但し、やむを得ない事由のあるときは、他の職員に手渡させることができる。
第五十六條 船舶所有者は、船員から請求があつたときは、船員に支拂わるべき給料その他の報酬をその同居の親族又は船員の收入によつて生計を維持する者に渡さなければならない。
(傷病中の給料請求権)
第五十七條 船員は、負傷又は疾病のため職務に從事しない期間についても、雇入契約存続中給料及び命令の定める手当を請求することができる。但し、その負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、この限りでない。
(歩合による報酬)
第五十八條 船員の報酬が歩合によつて支拂われる場合においては、その歩合による毎月の額が船舶所有者の定める一定額に達しないときでも、その報酬の額は、その一定額を下つてはならない。
第三十五條及び前條の規定の適用については、前項に規定する一定額の報酬は、これを給料とみなす。
船員の報酬が歩合によつて支拂われるときは、第四十五條、第四十六條、第四十九條及び第七十八條の規定の適用については、船舶所有者の別に定める額を以て一箇月分の給料の額とみなす。
前項の額は、第一項の一定額以下であつてはならない。
(最低報酬)
第五十九條 行政官廳は、必要があると認めるときは、命令の定めるところにより、労働組合法による労働委員会(以下船員労働委員会という。)の議を経て、給料その他の報酬の最低額を定めることができる。
船舶所有者は、前項の規定により最低額が定められたときは、命令の定める場合を除いて、その額に達しない額の給料その他報酬で、船員を使用してはならない。
第六章 労働時間、休日及び定員
(航海当直をする者の労働時間)
第六十條 左の者で航海当直をすべき職務を有するものが航海当直をする場合における労働時間は、一日について八時間以内、一週間について五十六時間以内とする。
一 総トン数二千トン以上の船舶に乘り組む甲板部及び無線部の職員並びに甲板部の属員
二 総トン数七百トン以上の船舶に乘り組む機関部の職員及び属員
船長は、前項の規定にかかわらず、左の時間労働時間を延長することができる。
一 甲板部又は無線部の職員が航海当直をする場合における労働時間については、一日について一時間以内
二 船長が特別の必要に因り甲板部又は無線部の職員の航海当直の員数を増加する場合における増加された者の労働時間については、一日について四時間以内
三 機関部の属員が航海当直に從事する場合における労働時間については、航海当直の通常の交代及び石炭がらの投棄のために必要な時間
(停泊中の航海当直)
第六十一條 航海当直は、停泊中これをさせてはならない。但し、入港後十二時間以内又は出港予定時刻前十二時間以内であるとき及び船長が船舶の安全を図るため必要があると認めるときは、この限りでない。
(航海当直をしない者の労働時間)
第六十二條 総トン数七百トン以上の船舶に乘り込む甲板部及び機関部の職員及び属員で航海当直をすべき職務を有しない者の航行中又は入出港日における労働時間は、一日について八時間以内、一週間について四十八時間以内とする。
(停泊中の労働時間及び休日)
第六十三條 甲板部、機関部及び無線部の職員並びに甲板部及び機関部の属員の停泊中(入出港日を除く。以下同じ。)における労働時間は、第六十一條但書の規定により航海当直をする場合を除いて、一日について八時間以内、一週間について四十八時間以内とする。
船舶所有者は、停泊中前項に規定する海員に一週間について少くとも一日の休日を與えなければならない。
船長は、やむを得ない事由のあるときは、前項の規定にかかわらず、休日においても第一項に規定する海員を必要な作業に從事させることができる。但し、そのために一週間について四十八時間以内の労働時間の制限を超えてはならない。
(事務部の属員の労働時間)
第六十四條 十二人を超える旅客定員を有する船舶に乘り組む事務部の属員は、航行中一日について少くとも十二時間これを休息させるものとする。
前項の規定による休息時間には、八時間の連続した休息時間を含むことを要する。
第六十五條 前條第一項の船舶以外の船舶に乘り組む事務部の属員の航行中及び入出港日における労働時間は、一日について八時間以内とする。但し、船長は、必要があると認めるときは、一日について二時間以内にこれを延長することができる。
第六十六條 事務部の属員の停泊中における労働時間は、労働協約で特別の定をした場合を除いて、一日について八時間以内とする。
(時間外労働及び時間外手当)
第六十七條 船長は、臨時の必要があるときは、第六十條、第六十二條、第六十三條第一項第三項但書、第六十五條及び前條に規定する労働時間の制限を超えて海員を作業に從事させ、若しくは第六十四條第一項の規定による休息時間を短縮することができ、又、同條第二項の規定にかかわらず、休息時間を八時間連続させないことができる。
船舶所有者は、前項の規定により労働時間が延長され、若しくは休息時間が短縮されたとき、又は休息時間が八時間連続させられなかつたときは、命令の定める時間外手当を支拂わなければならない。
船長は、命令の定めるところにより、船内に帳簿を備え置いて、前項の時間外手当に関する事項を記載しなければならない。
(例外規定)
第六十八條 第六十條及び第六十二條乃至前條の規定は、海員が船長の命令により、左の作業に從事する場合には、これを適用しない。
一 人命、船舶若しくは積荷の安全を図るため又は人命若しくは他の船舶を救助するため緊急を要する作業
二 防火操練、端艇操練その他これらに類似する作業
三 作業に從事すべき人員が負傷、疾病、死亡その他の予想し難い事故に因り減少したのに伴つて増加された作業
四 通関手続又は檢疫その他の衞生手続のために必要な作業
五 船舶の正午位置測定のために必要な作業
(定員)
第六十九條 船舶所有者は、命令の定める場合を除いて、第六十條乃至第六十六條の規定を遵守するために必要な海員の定員を定めて、その員数の海員を乘り組ませなければならない。
船舶所有者は、航海中海員に欠員を生じたときは、遅滯なくその欠員を補充しなければならない。
第七十條 総トン数七百トン以上の船舶に乘り組む甲板部の属員で航海当直をすべき職務を有する者の定員は、九人以上とし、同時に航海当直をする者の員数は、三人以上としなければならない。但し、総トン数二千トン未満の船舶にあつては、その定員は六名で足りる。
前項の定員は、労働協約に特別の定のある場合を除いて、甲板部の勤務一年未満の者を以て、これに充ててはならない。
第一項の定員の過半数は、年齢十八年以上の者で三年以上甲板部の勤務に從事したもの又は年齢十八年以上の者で行政官廳が命令の定めるところによりこれと同等の能力のあることを証明したものを以て、これに充てなければならない。
(適用範囲)
第七十一條 第六十條乃至前條の規定は、左の船舶については、これを適用しない。
一 沿海区域又は平水区域を航行区域とする総トン数千トン未満の船舶で國内各港間のみを航海するもの(行政官廳が船員労働委員会の議を経て指定する船舶を除く。)
二 帆船
三 漁船
第七十二條 第六十條乃至第七十條の規定は、左の者には、これを適用しない。
一 甲板部、機関部又は無線部の最上位にある職員で航海当直をしない者
二 医師及び專ら調剤又は看護に從事する者
第七十三條 主務大臣は、必要があると認めるときは、船員労働委員会の決議により、第六十條乃至第七十條の規定の適用を受けない船員の労働時間、休日及び定員に関し必要な命令を発することができる。
第七章 有給休暇
(有給休暇の付與)
第七十四條 船舶所有者は、船員が同一の船舶において一年間連続して勤務(船舶のぎ装又は修繕中の勤務を含む。以下同じ。)に從事したときは、その一年の経過後一年以内にその船員に有給休暇を與えなければならない。但し、船舶が航海の途中にあるときは、当該航海に必要な期間有給休暇を與えることを延期することができる。
船員が同一の事業に属する他の船舶へ轉船したときは、その轉船の前後の勤務は、同一の船舶において從事されたものとみなす。
船舶における勤務が中断した場合において、その中断の事由が船員の故意又は過失に因るものでなく、且つその中断の期間の合計が六週間を超えないときは、その中断の前後の勤務は、連続して從事されたものとみなす。
(有給休暇の日数)
第七十五條 有給休暇の日数は、連続した勤務一年について二十五日とし、連続した勤務三箇月を増すごとに五日を加える。
沿海区域又は平水区域を航行区域とする船舶の國内各港間のみを航海するものに乘り組む船員の有給休暇の日数は、前項の規定にかかわらず、連続した勤務一年について十二日とし、連続した勤務三箇月を増すごとに二日を加える。
第七十六條 船舶所有者が船員に週休日、祝祭日の休日、慣習による休日又はこれらに代わるべき休日を與えているときは、その休日の日数は、これを前條の有給休暇の日数に算入しないものとする。負傷又は疾病に因り勤務に從事しない日数も同樣とする。
(有給休暇の與え方)
第七十七條 有給休暇を與うべき時期及び港については、船舶所有者と船員との協議による。
有給休暇は、労働協約の定めるところにより、期間を分けて、これを與えることができる。
(有給休暇中の報酬)
第七十八條 船舶所有者は、有給休暇中船員に給料並びに命令の定める手当及び食費を支拂わなければならない。
船舶所有者は、有給休暇を請求することができる船員が有給休暇を與えられる前に解雇され、又は退職したときは、その者に與うべき有給休暇の日数に應じ前項の給料、手当及び食費を支拂わなければならない。
(適用範囲)
第七十九條 この章の規定は、左の船舶については、これを適用しない。
一 漁船
二 船舶所有者と同一の家庭に属する者のみを使用する船舶
第八章 食料及び衞生
(食料の支給)
第八十條 船舶所有者は、船員の乘船中命令の定めるところにより、これに食料を支給しなければならない。
遠洋区域若しくは近海区域を航行区域とする船舶で総トン数七百トン以上のもの又は命令の定める漁船に乘り組む船員に支給する食料は、主務大臣の定める食料表によらなければならない。
(健康証明書)
第八十一條 船舶所有者は、行政官廳の指定する医師が船内労働に適することを証明した健康証明書を持たない者を船舶に乘り組ませてはならない。但し、やむを得ない事由のあるときは、この限りでない。
前項但書の場合には、船舶所有者は、遅滯なく、その後に到着する港で健康証明書を受けさせる手続をしなければならない。この場合において健康証明書を受けることのできない者は、これを引き続き使用してはならない。
健康証明書に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(医師の乘組)
第八十二條 船舶所有者は、遠洋区域を航行区域とする総トン数五千トン以上の船舶又は遠洋区域若しくは近海区域を航行区域とする最大とう載人員百人以上の船舶に、医師を乘り組ませなければならない。但し、やむを得ない事由のある場合において行政官廳の許可を受けたときは、期間を限つてこれを乘り組ませなくてもよい。
(衞生用品及び医療書)
第八十三條 船舶所有者は、遠洋区域、近海区域若しくは沿海区域を航行区域とする船舶又は命令の定める漁船に、主務大臣の定める医藥その他の衞生用品及び医療書を備え置かなければならない。
第九章 年少船員及び女子船員
(未成年者の能力)
第八十四條 未成年者が船員となるには、法定代理人の許可を受けなければならない。
前項の許可を受けた者は、雇入契約に関しては、成年者と同一の能力を有する。
(最低年齢)
第八十五條 船舶所有者は、年齢十五年未満の者を船員として使用してはならない。但し、同一の家庭に属する者のみを使用する船舶については、この限りでない。
船舶所有者は、年齢十八年未満の者を石炭を運び又はたく作業に從事する海員として使用してはならない。
船舶所有者は、年齢十八年未満の者を船員として使用しようとするときは、その者の船員手帳に行政官廳の認証を受けなければならない。
前項の認証に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(産前産後)
第八十六條 船舶所有者は、六週間以内に出産する予定の女子の請求があつたときは、船内でその者を作業に從事させてはならない。
船舶所有者は、出産後六週間を経過しない女子を船内で使用してはならない。
船舶所有者は、妊娠中の女子の請求があつたときは、その者を他の軽易な作業に從事させなければならない。
前三項の規定は、同一の家庭に属する者のみを使用する船舶については、これを適用しない。
(生理休暇)
第八十七條 船舶所有者は、生理日における就業が著しく困難な女子の請求があつたときは、その者を生理日において船内で作業に從事させてはならない。
(夜間労働の禁止)
第八十八條 船舶所有者は、年齢十八年未満の船員又は女子の船員を午後八時から翌日の午前五時までの間において作業に從事させてはならない。但し、命令の定める場合においてこれと異なる時刻の間において午前零時前後にわたり連続して九時間休息させるときは、この限りでない。
前項の規定は、第六十八條第一号及び第三号の作業に從事させる場合には、これを適用しない。
第一項の規定は、漁船及び船舶所有者と同一の家庭に属する者のみを使用する船舶については、これを適用しない。
第十章 災害補償
(療養補償)
第八十九條 船員が職務上負傷し、又は疾病にかかつたときは、船舶所有者は、その負傷又は疾病がなおるまで、その費用で療養を施し、又は療養に必要な費用を負担しなければならない。
船員が雇入契約存続中職務外で負傷し、又は疾病にかかつたときは、船舶所有者は、三箇月の範囲内において、その費用で療養を施し、又は療養に必要な費用を負担しなければならない。但し、その負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、この限りでない。
第九十條 前條の療養は、左の各号のものとする。
一 診療
二 藥剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 病院、診療所その他治療に必要な自宅以外の場所への收容(食料の支給を含む。)
五 看護
六 移送
(傷病手当及び予後手当)
第九十一條 船員が職務上負傷し、又は疾病にかかつたときは、船舶所有者は、四箇月の範囲内においてその負傷又は疾病がなおるまで毎月一回、命令の定める報酬(以下標準報酬という。)の月額に相当する額の傷病手当を支拂い、その四箇月が経過してもその負傷又は疾病がなおらないときは、そのなおるまで毎月一回、標準報酬の月額の百分の六十に相当する額の傷病手当を支拂わなければならない。
船舶所有者は、前項の負傷又は疾病がなおつた後遅滯なく、標準報酬の月額の百分の六十に相当する額の予後手当を支拂わなければならない。
前二項の規定は、負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、これを適用しない。
(障害手当)
第九十二條 船員の職務上の負傷又は疾病がなおつた場合において、なおその船員の身体に障害が存するときは、船舶所有者は、なおつた後遅滯なく、標準報酬の月額に障害の程度に應じ別表に定める月数を乘じて得た額の障害手当を支拂わなければならない。但し、その負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、この限りでない。
(遺族手当)
第九十三條 船員が職務上死亡したときは、船舶所有者は、遅滯なく、命令の定める遺族に標準報酬の月額の三十六箇月分に相当する額の遺族手当を支拂わなければならない。船員が職務上の負傷又は疾病に因り死亡したときも同樣とする。
(葬祭料)
第九十四條 船員が職務上死亡したときは、船舶所有者は、遅滯なく、命令の定める遺族で葬祭を行う者に標準報酬の月額の二箇月分に相当する額の葬祭料を支拂わなければならない。船員が職務上の負傷又は疾病に因り死亡したときも同樣とする。
(他の給付との関係)
第九十五條 第八十九條乃至前條の規定により療養又は費用、手当若しくは葬祭料の支拂(以下災害補償と総称する。)を受くべき者が、その災害補償を受くべき事由と同一の事由に因り船員保險法による保險給付又は命令で指定する法令に基いて災害補償に相当する給付を受くべきときは、船舶所有者は、災害補償の責を免れる。
(審査及び仲裁)
第九十六條 職務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、災害補償の金額の決定その他災害補償の実施に関して異議のある者は、行政官廳に対して審査又は事件の仲裁を請求することができる。
行政官廳は、必要があると認めるときは、職権で審査又は事件の仲裁をすることができる。
行政官廳は、審査又は事件の仲裁に際し船長その他の関係人の意見を聽かなければならない。
行政官廳は、審査又は事件の仲裁のため必要があると認めるときは、医師に診断又は檢案をさせることができる。
第一項の規定による審査又は事件の仲裁の請求及び第二項の規定による審査又は事件の仲裁の開始は、時効の中断に関しては、これを裁判上の請求とみなす。
第十一章 就業規則
(就業規則の作成及び届出)
第九十七條 常時十人以上の船員を使用する船舶所有者は、命令の定めるところにより、左の事項について就業規則を作成し、これを行政官廳に届け出なければならない。これを変更したときも同樣とする。
一 給料その他の報酬
二 労働時間
三 休日及び休暇
前項の船舶所有者は、左の事項について就業規則を作成したときは、これを行政官廳に届け出なければならない。これを変更したときも同樣とする。
一 定員
二 食料及び衞生
三 被服及び日用品
四 陸上における宿泊、休養、医療及び慰安の施設
五 災害補償
六 失業手当、雇止手当及び退職手当
七 送還
八 教育
九 賞罰
十 その他の労働條件
船舶所有者を構成員とする團体で法人たるものは、その構成員たる第一項の船舶所有者について適用される就業規則を作成して、これを届け出ることができる。その変更についても同樣とする。
前項の規定による届出があつたときは、同項に規定する船舶所有者は、当該就業規則の作成及びその作成又は変更の届出をしなくてもよい。
第一項乃至第三項の規定による届出には、第九十八條の規定により聽いた意見を記載した書面を添附しなければならない。
(就業規則の作成の手続)
第九十八條 船舶所有者又は前條第三項に規定する團体は、就業規則を作成し、又は変更するには、その就業規則の適用される船舶所有者の使用する船員の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合、船員の過半数で組織する労働組合がないときは、船員の過半数を代表する者の意見を聽かなければならない。
(就業規則の監督)
第九十九條 行政官廳は、法令又は労働協約に違反する就業規則の変更を命ずることができる。
行政官廳は、就業規則が不当であると認めるときは、船員労働委員会の議を経て、その変更を命ずることができる。
(就業規則の効力)
第百條 就業規則で定める基準に達しない労働條件を定める雇入契約は、その部分については、無効とする。この場合には、雇入契約は、その無効の部分については、就業規則で定める基準に達する労働條件を定めたものとみなす。
第十二章 監督
(行政官廳)
第百一條 行政官廳は、この法律、労働基準法(船員の労働関係について適用される部分に限る。以下同じ。)又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実があると認めるときは、船舶所有者又は船員に対し、必要な処分をすることができる。
第百二條 行政官廳は、船舶所有者及び船員の間に生じた労働関係に関する紛爭(労働関係調整法第六條の労働爭議を除く。)の解決について、あつせんすることができる。
(外國における行政官廳の事務)
第百三條 この法律によつて行政官廳の行うべき事務は、外國にあつては、命令の定めるところにより、日本の領事官がこれを行う。
(行政官廳の事務を行う市町村長)
第百四條 主務大臣は、この法律によつて行政官廳の行うべき事務を市町村長に行わせることができる。
(船員労務官)
第百五條 主務大臣は、所部の職員の中から船員労務官を命じ、この法律及び労働基準法の施行に関する事項を掌らせる。
第百六條 船員労務官は、必要があると認めるときは、船舶所有者又は船員に対し、この法律、労働基準法及びこの法律に基いて発する命令の遵守に関し注意を喚起し、又は勧告をすることができる。
第百七條 船員労務官は、必要があると認めるときは、船舶その他の事業場に臨檢し、船舶所有者若しくは船員に出頭を命じ、帳簿書類を提出させ、報告をさせ、又は質問をすることができる。
船員労務官は、必要があると認めるときは、旅客その他船内にある者に質問をすることができる。
前二項の場合には、船員労務官は、その身分を証明する証票を携帶しなければならない。
第百八條 船員労務官は、この法律、労働基準法及びこの法律に基いて発する命令の違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。
第百九條 船員労務官は、職務上知り得た祕密を漏してはならない。船員労務官を退職した後においても同樣とする。
(船員労働委員会の権限)
第百十條 船員労働委員会は、労働組合法に定める権限を行う外、行政官廳の諮問に應じ、この法律及び労働基準法の施行又は改正に関する事項を調査審議する。
船員労働委員会は、船員の労働條件に関して、行政官廳に建議することができる。
(報告事項)
第百十一條 船舶所有者は、命令の定めるところにより、左の事項について、行政官廳に報告をしなければならない。
一 使用船員の数
二 給料その他の報酬の支拂状況
三 災害補償の実施状況
四 その他命令の定める事項
(船員の申告)
第百十二條 この法律、労働基準法又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実があるときは、船員は、命令の定めるところにより、行政官廳、船員労務官又は船員労働委員会にその事実を申告することができる。
船舶所有者は、前項の申告をしたことを理由として、船員を解雇しその他船員に対して不利益な取扱を與えてはならない。
第十三章 雜則
(就業規則等の公示)
第百十三條 船舶所有者は、この法律、労働基準法、この法律に基いて発する命令、労働協約及び就業規則を記載した書類を船内の見やすい場所に掲示し、又は備え置かなければならない。
(報酬、補償及び手当の調整)
第百十四條 船舶所有者は、給料その他の報酬、失業手当、送還手当又は傷病手当のうち、その二以上をともに支拂うべき期間については、いずれか一の多額のものを支拂うを以て足りる。
船舶所有者は、給料その他の報酬を支拂うべき場合において雇止手当又は予後手当を支拂うべきときは、給料その他の報酬を支拂うべき限度において、雇止手当又は予後手当の支拂の義務を免れる。
(讓渡又は差押の禁止)
第百十五條 失業手当、雇止手当、送還の費用又は災害補償を受ける権利は、これを讓り渡し、又は差し押えることができない。給料その他の報酬及び傷病手当をともに支拂うべき期間についての給料その他の報酬を受ける権利(傷病手当の額に相当する部分に関するものに限る。)についても同樣とする。
(附加金の支拂)
第百十六條 船舶所有者は、第四十五條乃至第四十七條、第四十九條、第五十九條第二項、第六十七條第二項又は第七十八條の規定に違反したときは、これらの規定により船舶所有者が支拂うべき金額(第四十七條の場合には送還の費用)についての第二項の規定による請求の時における未拂金額(第五十九條第二項の場合には同條の規定による報酬の最低額と契約で定められた報酬の額との差額)に相当する額の附加金を船員に支拂わなければならない。
船員は、裁判所に対する訴によつてのみ前項の附加金の支拂を請求することができる。但し、その訴は、同項に規定する違反のあつた時から二年以内にこれをしなければならない。
(時効の特則)
第百十七條 船員の船舶所有者に対する債権は二年間これを行わないときは、時効によつて消滅する。船舶所有者に対する遺族手当及び葬祭料の債権も同樣とする。
(準用規定)
第百十八條 第三十一條乃至第三十四條、第八十四條第二項及び第百條の規定は、予備員の雇よう契約にこれを準用する。
(戸籍証明)
第百十九條 船員、船員になろうとする者、船舶所有者又は船長は、船員又は船員になろうとする者の戸籍について、戸籍事務を管掌する者又はその代理者に対し無償で証明を請求することができる。
(國及び公共團体に対する適用)
第百二十條 この法律、労働基準法及びこの法律に基いて発する命令は、國、都道府縣、市町村その他これに準ずるものについても適用があるものとする。
(命令の制定)
第百二十一條 この法律に基いて発する命令は、その草案について公聽会を開いて、船員及び船舶所有者のそれぞれを代表する者並びに公益を代表する者の意見を聽いて、これを制定するものとする。
第十四章 罰則
第百二十二條 船長がその職権を濫用して、船内にある者に対し義務のない事を行わせ、又は行うべき権利を妨害したときは、二年以下の懲役に処する。
第百二十三條 船長が第十二條の規定に違反したときは、五年以下の懲役に処する。
第百二十四條 船長が第十三條の規定に違反して人命及び船舶の救助に必要な手段を盡さなかつたときは、三年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処する。
第百二十五條 船長が左の各号の一に該当する場合には、二年以下の懲役又は二千円以下の罰金に処する。
一 第十四條の規定に違反したとき。
二 船舶を遺棄したとき。
三 外國において海員を遺棄したとき。
第百二十六條 船長が左の各号の一に該当する場合には、三千円以下の罰金に処する。
一 第八條、第十條、第十一條、第十六條、第十七條第一項、第三十六條、第五十條第二項又は第五十五條の規定に違反したとき。
二 第九條の規定に違反して予定の航路を変更したとき。
三 第十三條の規定に違反して告げなかつたとき。
四 第十五條の規定に基いて発する命令に違反して水葬に付したとき。
五 第十八條の規定による書類を備え置かず、又は同條第一項第二号乃至第四号の書類に記載すべき事項を記載せず、若しくは虚僞の記載をしたとき。
六 第十九條の規定による報告をせず、又は虚僞の報告をしたとき。
七 第六十七條第三項の規定による帳簿を備え置かず、又は帳簿に記載すべき事項を記載せず、若しくは虚僞の記載をしたとき。
第百二十七條 海員が上長に対し暴行又は脅迫をしたときは、三年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処する。
第百二十八條 海員が左の各号の一に該当する場合には、一年以下の懲役に処する。
一 船舶に急迫した危險のある場合において、船長の許可なく船舶を去つたとき。
二 第十二條乃至第十四條に規定する場合において、船長が人命、船舶又は積荷の救助に必要な手段をとるのに当り、上長の命令に服從しなかつたとき。
三 第三十九條第三項に規定する場合において、人命、船舶又は積荷の應急救助のために必要な作業に從事しなかつたとき。
四 外國において脱船したとき。
第百二十九條 船舶所有者が第八十五條第一項又は第二項の規定に違反したときは、一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
第百三十條 船舶所有者が第三十三條、第三十四條第一項、第三十五條、第四十五條乃至第四十七條、第四十九條、第五十九條第二項、第六十三條第二項、第六十七條第二項、第六十九條、第七十條、第七十四條、第七十八條、第八十條、第八十二條、第八十三條、第八十六條、第八十八條、第八十九條、第九十一條乃至第九十四條若しくは第百十二條第二項の規定に違反し、又は第七十三條の規定に基いて発する命令に違反したときは、六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
第百三十一條 船舶所有者が左の各号の一に該当する場合には、五千円以下の罰金に処する。
一 第三十二條、第三十四條第二項、第五十三條、第五十四條、第五十六條、第五十八條第一項、第八十一條第一項第二項、第八十五條第三項、第八十七條又は第百十三條の規定に違反したとき。
二 第三十四條第二項の規定により認可を受けた保管又は返還の方法に違反したとき。
三 第百十一條の規定による報告をせず、又は虚僞の報告をしたとき。
第百三十二條 左の各号の一に該当する者は、これを五千円以下の罰金に処する。
一 第九十七條の規定による就業規則の作成若しくは届出をせず、又は虚僞の届出をした者
二 第九十八條の規定に違反した者
三 第九十九條の規定による命令に違反した者
四 第百一條の規定による処分に違反した者
五 第百七條の規定による船員労務官の臨檢を拒み、妨げ若しくは忌避し、出頭の命令に應ぜず、又は質問に対し陳述をせず、若しくは虚僞の陳述をした者
六 第百七條の規定による帳簿書類を提出せず、若しくは虚僞の記載をした帳簿書類を提出し、又は報告をせず、若しくは虚僞の報告をした者
七 第百九條の規定に違反した者
八 第百十二條第一項に定める場合において、虚僞の申告をした者
第百三十三條 左の各号の一に該当する者は、これを三千円以下の罰金に処する。
一 第三十七條の規定に違反して雇入契約の公認を申請しなかつた者
二 詐僞その他の不正行爲を以て雇入契約の公認を受けた者
三 自己の船員手帳を棄損した者
四 第五十條第三項の規定に基いて発する命令に違反した者
五 詐僞その他の不正行爲を以て船員手帳の交付、訂正又は書換を受けた者
六 他人の船員手帳を行使した者
第百三十四條 この章のうち船長に適用すべき規定は、船長に代わつてその職務を行う者にこれを適用する。
第百三十五條 船舶所有者の代表者、代理人、使用人その他の從業者が船舶所有者の業務に関し第百二十九條乃至第百三十一條、第百三十二條第一号乃至第三号第六号又は第百三十三條第一号第二号の違反行爲をしたときは、その行爲者を罰する外、その船舶所有者に対して、各本條の罰金刑を科する。但し、船舶所有者(船舶所有者が法人の場合には、その代表者、船舶所有者が営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者又は禁治産者の場合には、その法定代理人。以下この條において同じ。)が違反の防止に必要な措置をしたときは、この限りでない。
船舶所有者が前項に定める違反行爲の計画を知つてその防止に必要な措置をしなかつたとき、違反行爲を知つてその是正に必要な措置をしなかつたとき、又は違反行爲を教唆したときは、船舶所有者も行爲者として処罰する。
第九十七條第三項に規定する團体の代表者、代理人、使用人その他の從業者がその團体の業務に関し第百三十二條第一号乃至第三号の違反行爲をしたときは、前二項の規定を準用する。
附 則
第百三十六條 この法律は、第十章の規定を除いて、公布の日からこれを施行する。
第十章の規定施行の期日は、命令でこれを定める。
第百三十七條 小形船舶乘組員手帳法は、これを廃止する。
第百三十八條 從前の船員法第六十八條第三項但書の規定は、この法律施行後でも、なおその効力を有する。
第百三十九條 この法律施行前に生じた事項については、なお從前の例による。
第百四十條 第十八條の規定は、総トン数二十トン未満の船舶又は平水区域を航行区域とする船舶については、この法律施行の日から六箇月間、これを適用しない。
第百四十一條 第三十七條の規定の適用については、前條に規定する船舶に乘り組む者の雇入契約でこの法律施行の際現に存するものは、これをこの法律施行の際成立したものとみなす。
第百四十二條 第六十條乃至第七十條の規定は、戰時標準型船舶で、行政官廳においてその居住設備が第六十九條の規定による定員数の海員を乘り組ませることが困難なものと認めて、船員労働委員会の議を経て指定したものについては、これを適用しない。
第百四十三條 第八十三條の規定は、沿海区域を航行区域とする船舶については、この法律施行の日から六箇月間、これを適用しない。
第百四十四條 この法律施行前から引き続き年齢十五年未満の者を船員として、又は年齢十八年未満の者を石炭を運び若しくはたく作業に從事する海員として使用するときは、第八十五條の規定は、これらの者については、この法律施行の日から六箇月間、これを適用しない。
第百四十五條 第六十七條第三項、第九十七條及び第百十三條の規定は、この法律施行の日から六箇月間、これを適用しない。
第百四十六條 商法の一部を次のように改正する。
第七百八條 削除
第七百九條 船長ハ属具目録及ヒ運送契約ニ關スル書類ヲ船中ニ備ヘ置クコトヲ要ス
前項ノ属具目録ハ外國ニ航行セサル船舶ニ限リ命令ヲ以テ之ヲ備フルコトヲ要セサルモノト定ムルコトヲ得
第七百十條 削除
第七百十一條 削除
他の法令の規定の適用上商法第七百八條乃至第七百十一條の規定によらなければならないときは、從前のこれらの規定によるものとする。
第百四十七條 商法施行法の一部を次のように改正する。
第百二十二條中「遞信大臣」を「運輸大臣」に改める。
第百三十條 属具目録ノ書式ハ運輸大臣之ヲ定ム
別表
障害の程度
月数
第一級
四十八箇月
第二級
四十二箇月
第三級
三十九箇月
第四級
三十六箇月
第五級
三十三箇月
第六級
三十箇月
第七級
二十五箇月
第八級
二十箇月
第九級
十五箇月
第十級
十二箇月
第十一級
九箇月
第十二級
六箇月
第十三級
四箇月
第十四級
二箇月
内務大臣 木村小左衞門
司法大臣 鈴木義男
運輸大臣 苫米地義三
内閣総理大臣 片山哲
船員法を改正する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和二十二年九月一日
内閣総理大臣 片山哲
法律第百号
船員法目次
第一章
総則
第二章
船長の職務及び権限
第三章
紀律
第四章
雇入契約
第五章
給料その他の報酬
第六章
労働時間、休日及び定員
第七章
有給休暇
第八章
食料及び衛生
第九章
年少船員及び女子船員
第十章
災害補償
第十一章
就業規則
第十二章
監督
第十三章
雑則
第十四章
罰則
船員法
第一章 総則
(船員)
第一条 この法律で船員とは、日本船舶又は日本船舶以外の命令の定める船舶に乗り組む船長及び海員並びに予備員をいう。
前項に規定する船舶には、左の船舶を含まない。
一 総トン数五トン未満の船舶
二 湖、川又は港のみを航行する船舶
三 総トン数三十トン未満の漁船
第二条 この法律で海員とは、船内で使用される船長以外の乗組員で労働の対償として給料その他の報酬を支払われる者をいう。
この法律で予備員とは、前条第一項に規定する船舶に乗り組むため雇ようされている者で船内で使用されていないものをいう。
第三条 この法律で、職員とは、航海士、機関長、機関士、船舶通信士及び命令の定めるその他の海員をいい、属員とは、職員以外の海員をいう。
(給料及び労働時間)
第四条 この法律で、給料とは、船舶所有者が船員に対し一定の金額により定期に支払う報酬のうち基本となるべき固定給をいい、労働時間とは、上長の職務上の命令に基き航海当直その他の作業に従事する時間をいう。
(船舶所有者に関する規定の適用)
第五条 この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち船舶所有者に関する規定は、船舶共有の場合には、船舶管理人に、船舶貸借の場合には、船舶借入人に、船舶所有者、船舶管理人及び船舶借入人以外の者が船員を使用する場合には、その者にこれを適用する。
(労働基準法の適用)
第六条 労働基準法第一条乃至第十一条、第百十七条乃至第百十九条及び第百二十一条の規定は、船員の労働関係についても適用があるものとする。
第二章 船長の職務及び権限
(指揮命令権)
第七条 船長は、海員を指揮監督し、且つ、船内にある者に対して自己の職務を行うのに必要な命令をすることができる。
(発航前の検査)
第八条 船長は、発航前に船舶が航海に支障ないかどうかその他航海に必要な準備が整つているかいないかを検査しなければならない。
(航海の成就)
第九条 船長は、航海の準備が終つたときは、遅滞なく発航し、且つ、必要がある場合を除いて、予定の航路を変更しないで到達港まで航行しなければならない。
(甲板上の指揮)
第十条 船長は、船舶が港を出入するとき、船舶が狭い水路を通過するときその他船舶に危険の虞があるときは、甲板にあつて自ら船舶を指揮しなければならない。
(在船義務)
第十一条 船長は、やむを得ない場合を除いて、自己に代わつて船舶を指揮すべき者にその職務を委任した後でなければ、荷物の船積及び旅客の乗込の時から荷物の陸揚及び旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去つてはならない。
(船舶に危険がある場合における処置)
第十二条 船長は、船舶に急迫した危険があるときは、人命、船舶及び積荷の救助に必要な手段を尽し、且つ旅客、海員その他船内にある者を去らせた後でなければ、自己の指揮する船舶を去つてはならない。
(船舶が衝突した場合における処置)
第十三条 船長は、船舶が衝突したときは、互に人命及び船舶の救助に必要な手段を尽し、且つ船舶の名称、所有者、船籍港、発航港及び到達港を告げなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、この限りでない。
(遭難船舶の救助)
第十四条 船長は、他の船舶の遭難を知つたときは、人命の救助に必要な手段を尽さなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険がある場合及び命令の定める場合は、この限りでない。
(水葬)
第十五条 船長は、船舶の航行中船内にある者が死亡したときは、命令の定めるところにより、これを水葬に付することができる。
(遺留品の処置)
第十六条 船長は、船内にある者が死亡し、又は行方不明となつたときは、法令に特別の定がある場合を除いて、船内にある遺留品について、命令の定めるところにより、保管その他の必要な処置をしなければならない。
(在外国民の送還)
第十七条 船長は、外国に駐在する日本の領事官が、法令の定めるところにより、日本国民の送還を命じたときは、正当の事由がなければ、これを拒むことができない。
送還費用の償還に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(書類の備置)
第十八条 船長は、命令の定める場合を除いて、左の書類を船内に備え置かなければならない。
一 船舶国籍証書又は命令の定める証書
二 海員名簿
三 航海日誌
四 旅客名簿
五 積荷に関する書類
海員名簿、航海日誌及び旅客名簿に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(航行に関する報告)
第十九条 船長は、左の各号の一に該当する場合には、命令の定めるところにより、行政官庁にその旨を報告しなければならない。
一 船舶の衝突、乗揚、沈没、滅失、火災、機関の損傷その他の海難が発生したとき。
二 人命又は船舶の救助に従事したとき。
三 無線電信によつて知つたときを除いて、航行中他の船舶の遭難を知つたとき。
四 船内にある者が死亡し、又は行方不明となつたとき。
五 予定の航路を変更したとき。
六 船舶が抑留され、又は捕獲されたときその他船舶に関し著しい事故があつたとき。
(船長の職務の代行)
第二十条 船長が死亡したとき、船舶を去つたとき、又はこれを指揮することができない場合において他人を選任しないときは、運航に従事する海員は、その職掌の順位に従つて船長の職務を行う。
第三章 紀律
(船内秩序)
第二十一条 海員は、左の事項を守らなければならない。
一 上長の職務上の命令に従うこと。
二 職務を怠り、又は他の乗組員の職務を妨げないこと。
三 船長の指定する時までに船舶に乗り込むこと。
四 船長の許可なく船舶を去らないこと。
五 船長の許可なく端艇その他の重要な属具を使用しないこと。
六 船内の食料又は淡水を濫費しないこと。
七 船長の許可なく電気若しくは火気を使用し、又は禁止された場所で喫煙しないこと。
八 船長の許可なく日用品以外の物品を船内に持ち込み、又は船内から持ち出さないこと。
九 船内において争闘、乱酔その他粗暴の行為をしないこと。
十 その他船内の秩序をみだすようなことをしないこと。
(懲戒)
第二十二条 船長は、海員が前条の事項を守らないときは、これを懲戒することができる。
第二十三条 懲戒は、上陸禁止及び戒告の二種とし、上陸禁止の期間は、初日を含めて十日以内とし、その期間には、停泊日数のみを算入する。
第二十四条 船長は、海員を懲戒しようとするときは、三人以上の海員を立ち会わせて本人及び関係人を取り調べた上、立会人の意見を聴かなければならない。
(危険に対する処置)
第二十五条 船長は、海員が凶器、爆発又は発火しやすい物、劇薬その他の危険物を所持するときは、その物につき保管、放棄その他の処置をすることができる。
第二十六条 船長は、船内にある者の生命若しくは身体又は船舶に危害を及ぼすような行為をしようとする海員に対し、その危害を避けるのに必要な処置をすることができる。
第二十七条 船長は、必要があると認めるときは、旅客その他船内にある者に対しても、前二条に規定する処置をすることができる。
(強制下船)
第二十八条 船長は、海員が雇入契約の終了の公認があつた後船舶を去らないときは、その海員を強制して船舶から去らせることができる。
(行政庁に対する援助の請求)
第二十九条 船長は、海員その他船内にある者の行為が人命又は船舶に危害を及ぼしその他船内の秩序を著しくみだす場合において、必要があると認めるときは、行政庁に援助を請求することができる。
(争議行為の制限)
第三十条 労働関係に関する争議行為は、船舶が外国の港にあるとき、又はその争議行為に因り人命若しくは船舶に危険が及ぶようなときは、これをしてはならない。
第四章 雇入契約
(この法律に違反する契約)
第三十一条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める雇入契約は、その部分については、無効とする。この場合には、雇入契約は、その無効の部分については、この法律で定める基準に達する労働条件を定めたものとみなす。
(労働条件の明示)
第三十二条 船舶所有者は、雇入契約の締結に際し、船員に対して給料、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。雇入契約の変更に際しても同様とする。
(賠償予定の禁止)
第三十三条 船舶所有者は、雇入契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
(強制貯金の禁止)
第三十四条 船舶所有者は、雇入契約に附随して、貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
船舶所有者は、船員の委託を受けてその貯蓄金を管理しようとするときは、保管及び返還の方法を定めて、行政官庁の認可を受けなければならない。
(相殺の制限)
第三十五条 船舶所有者は、船員に対する債権と給料の支払の債務とを相殺してはならない。但し、相殺の額が給料の額の三分の一を超えないとき及び船員の犯罪行為に因る損害賠償の請求権を以てするときは、この限りでない。
(労働条件の記載及び提示)
第三十六条 船長は、雇入契約が成立したときは、雇入契約により定められた労働条件を海員名簿に記載して、これを海員に示さなければならない。雇入契約の変更があつたときも同様とする。
(雇入契約の公認)
第三十七条 船長は、雇入契約の成立、終了、更新又は変更があつたときは、命令の定めるところにより、遅滞なく、海員名簿を提示して、行政官庁に雇入契約の公認を申請しなければならない。
前項の場合において船長が公認を申請することができないときは、船舶所有者は、船長に代わつて公認を申請しなければならない。
第三十八条 行政官庁は、雇入契約の公認の申請があつたときは、その雇入契約が航海の安全又は船員の労働関係に関する法令の規定に違反するようなことがないかどうか、又、当事者の合意が充分であつたかどうかを審査するものとする。
(沈没等に因る雇入契約の終了)
第三十九条 船舶が左の各号の一に該当する場合には、雇入契約は、終了する。
一 沈没又は滅失したとき。
二 全く運航に堪えなくなつたとき。
船舶の存否が一箇月間分らないときは、船舶は、滅失したものと推定する。
第一項の規定により雇入契約が終了したときでも、船員は、人命、船舶又は積荷の応急救助のために必要な作業に従事しなければならない。この場合には、雇入契約は、なほ存続するものとみなす。
(雇入契約の解除)
第四十条 船舶所有者は、左の各号の一に該当する場合には、雇入契約を解除することができる。
一 船員が著しく職務に不適任であるとき。
二 船員が著しく職務を怠つたとき、又は職務に関し船員に重大な過失のあつたとき。
三 海員が船長の指定する時までに船舶に乗り込まないとき。
四 海員が著しく船内の秩序をみだしたとき。
五 船員が負傷又は疾病のため職務に堪えないとき。
六 前各号の場合を除いて、やむを得ない事由のあるとき。
第四十一条 船員は、左の各号の一に該当する場合には、雇入契約を解除することができる。
一 船舶が雇入契約の成立の時における国籍を失つたとき。
二 雇入契約により定められた労働条件と事実とが著しく相違するとき。
三 船員が負傷又は疾病のため職務に堪えないとき。
四 船員が命令の定めるところにより教育を受けようとするとき。
船舶が外国の港からの航海を終了した場合において、その船舶に乗り組む船員が、二十四時間以上の期間を定めて書面で雇入契約の解除の申入をしたときは、その期間が満了した時に、その者の雇入契約は、終了する。
海員は、船長の適当と認める自己の後任者を提供したときは、雇入契約を解除することができる。
第四十二条 期間の定のない雇入契約は、船舶所有者又は船員が二十四時間以上の期間を定めて書面で解除の申入をしたときは、その期間が満了した時に終了する。
(船舶所有者の変更に因る雇入契約の終了)
第四十三条 相続その他の包括承継の場合を除いて、船舶所有者の変更があつたときは、雇入契約は、終了する。
前項の場合には、雇入契約の終了の時から、船員と新所有者との間に従前と同一条件の雇入契約が存するものとみなす。この場合には、船員は、前条の規定に準じて雇入契約を解除することができる。
(雇入契約の延長)
第四十四条 雇入契約が終了した時に船舶が航行中の場合には、次の港に入港してその港における荷物の陸揚及び旅客の上陸が終る時まで、雇入契約が終了した時に船舶が停泊中の場合には、その港における荷物の陸揚及び旅客の上陸が終る時まで、その雇入契約は、存続するものとみなす。
船舶所有者は、雇入契約が適当な船員を補充することのできない港において終了する場合には、適当な船員を補充することのできる港に到着して荷物の陸揚及び旅客の上陸が終る時まで、雇入契約を存続させることができる。但し、第四十一条第一項第一号乃至第三号の場合は、この限りでない。
(失業手当)
第四十五条 船舶所有者は、第三十九条の規定により雇入契約が終了したときは、二箇月の範囲内において、船員の失業期間中毎月一回その失業日数に応じ給料の額と同額の失業手当を支払わなければならない。
(雇止手当)
第四十六条 船舶所有者(第四号の場合には旧所有者)は、左の各号の一に該当する場合には、遅滞なく、船員に一箇月分の給料の額と同額の雇止手当を支払わなければならない。
一 第四十条第六号の規定により船舶所有者が雇入契約を解除したとき。
二 第四十一条第一項第一号又は第二号の規定により船員が雇入契約を解除したとき。
三 第四十二条の規定により船舶所有者が雇入契約を解除したとき。
四 第四十三条第一項の規定により雇入契約が終了したとき。
五 船員が第八十一条の健康証明書を受けることができないため雇入契約が解除されたとき。
(送還)
第四十七条 船舶所有者は、左の各号の一に該当する場合には、遅滞なくその費用で雇入港又は船員の希望する地まで船員を送還しなければならない。但し、送還に代えてその費用を支払うことができる。
一 第三十九条の規定により雇入契約が終了したとき。
二 第四十条第一号又は第六号の規定により船舶所有者が雇入契約を解除したとき。
三 第四十条第五号又は第四十一条第一項第三号の規定により船舶所有者又は船員が雇入契約を解除したとき。但し、船員の職務外の負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、この限りでない。
四 第四十一条第一項第一号又は第二号の規定により船員が雇入契約を解除したとき。
五 第四十二条の規定により船舶所有者が雇入契約を解除したとき。
六 第四十三条第二項の規定により船員が雇入契約を解除したとき。
七 雇入契約が期間の満了に因り船員の本国以外の地で終了したとき。
八 船員が第八十一条の健康証明書を受けることができないため雇入契約が解除されたとき。
(送還の費用)
第四十八条 船舶所有者の負担すべき船員の送還の費用は、送還中の運送賃、宿泊費及び食費並びに雇入契約の終了の時から遅滞なく出発する時までの宿泊費及び食費とする。
(送還手当)
第四十九条 船舶所有者は、船員の送還に要する日数に応じ給料の額と同額の送還手当を支払わなければならない。送還に代えてその費用を支払うときも同様とする。
前項の送還手当は、船舶所有者が送還するときは、毎月一回、送還に代えてその費用を支払うときは、その際これを支払わなければならない。
(船員手帳)
第五十条 船員は、船員手帳を受有しなければならない。
船長は、海員の乗船中その船員手帳を保管しなければならない。
船員手帳の交付、訂正、書換及び返還に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(勤務成績証明書)
第五十一条 海員は、船長に対し勤務の成績に関する証明書の交付を請求することができる。
第五章 給料その他の報酬
(給料その他の報酬の定め方)
第五十二条 船員の給料その他の報酬は、船員労働の特殊性に基き、且つ船員の経験、能力及び職務の内容に応じて、これを定めなければならない。
(給料その他の報酬の支払方法)
第五十三条 給料その他の報酬は、法令又は労働協約に特別の定のある場合を除いて、その全額を通貨で直接船員に支払わなければならない。
命令の定める報酬を除いて、給料その他の報酬は、これを毎月一回以上一定の期日に支払わなければならない。
第五十四条 船舶所有者は、左の場合には、支払期日前でも遅滞なく、船員が職務に従事した日数に応じ、前条第二項に規定する給料その他の報酬を支払わなければならない。
一 船員が解雇され、又は退職したとき。
二 船員、その同居の親族又は船員の収入によつて生計を維持する者が結婚、葬祭、出産、療養又は不慮の災害の復旧に要する費用に充てようとする場合において、船員から請求のあつたとき。
第五十五条 船長は、海員の給料その他の報酬が船内において支払われるときは、直接海員にこれを手渡さなければならない。但し、やむを得ない事由のあるときは、他の職員に手渡させることができる。
第五十六条 船舶所有者は、船員から請求があつたときは、船員に支払わるべき給料その他の報酬をその同居の親族又は船員の収入によつて生計を維持する者に渡さなければならない。
(傷病中の給料請求権)
第五十七条 船員は、負傷又は疾病のため職務に従事しない期間についても、雇入契約存続中給料及び命令の定める手当を請求することができる。但し、その負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、この限りでない。
(歩合による報酬)
第五十八条 船員の報酬が歩合によつて支払われる場合においては、その歩合による毎月の額が船舶所有者の定める一定額に達しないときでも、その報酬の額は、その一定額を下つてはならない。
第三十五条及び前条の規定の適用については、前項に規定する一定額の報酬は、これを給料とみなす。
船員の報酬が歩合によつて支払われるときは、第四十五条、第四十六条、第四十九条及び第七十八条の規定の適用については、船舶所有者の別に定める額を以て一箇月分の給料の額とみなす。
前項の額は、第一項の一定額以下であつてはならない。
(最低報酬)
第五十九条 行政官庁は、必要があると認めるときは、命令の定めるところにより、労働組合法による労働委員会(以下船員労働委員会という。)の議を経て、給料その他の報酬の最低額を定めることができる。
船舶所有者は、前項の規定により最低額が定められたときは、命令の定める場合を除いて、その額に達しない額の給料その他報酬で、船員を使用してはならない。
第六章 労働時間、休日及び定員
(航海当直をする者の労働時間)
第六十条 左の者で航海当直をすべき職務を有するものが航海当直をする場合における労働時間は、一日について八時間以内、一週間について五十六時間以内とする。
一 総トン数二千トン以上の船舶に乗り組む甲板部及び無線部の職員並びに甲板部の属員
二 総トン数七百トン以上の船舶に乗り組む機関部の職員及び属員
船長は、前項の規定にかかわらず、左の時間労働時間を延長することができる。
一 甲板部又は無線部の職員が航海当直をする場合における労働時間については、一日について一時間以内
二 船長が特別の必要に因り甲板部又は無線部の職員の航海当直の員数を増加する場合における増加された者の労働時間については、一日について四時間以内
三 機関部の属員が航海当直に従事する場合における労働時間については、航海当直の通常の交代及び石炭がらの投棄のために必要な時間
(停泊中の航海当直)
第六十一条 航海当直は、停泊中これをさせてはならない。但し、入港後十二時間以内又は出港予定時刻前十二時間以内であるとき及び船長が船舶の安全を図るため必要があると認めるときは、この限りでない。
(航海当直をしない者の労働時間)
第六十二条 総トン数七百トン以上の船舶に乗り込む甲板部及び機関部の職員及び属員で航海当直をすべき職務を有しない者の航行中又は入出港日における労働時間は、一日について八時間以内、一週間について四十八時間以内とする。
(停泊中の労働時間及び休日)
第六十三条 甲板部、機関部及び無線部の職員並びに甲板部及び機関部の属員の停泊中(入出港日を除く。以下同じ。)における労働時間は、第六十一条但書の規定により航海当直をする場合を除いて、一日について八時間以内、一週間について四十八時間以内とする。
船舶所有者は、停泊中前項に規定する海員に一週間について少くとも一日の休日を与えなければならない。
船長は、やむを得ない事由のあるときは、前項の規定にかかわらず、休日においても第一項に規定する海員を必要な作業に従事させることができる。但し、そのために一週間について四十八時間以内の労働時間の制限を超えてはならない。
(事務部の属員の労働時間)
第六十四条 十二人を超える旅客定員を有する船舶に乗り組む事務部の属員は、航行中一日について少くとも十二時間これを休息させるものとする。
前項の規定による休息時間には、八時間の連続した休息時間を含むことを要する。
第六十五条 前条第一項の船舶以外の船舶に乗り組む事務部の属員の航行中及び入出港日における労働時間は、一日について八時間以内とする。但し、船長は、必要があると認めるときは、一日について二時間以内にこれを延長することができる。
第六十六条 事務部の属員の停泊中における労働時間は、労働協約で特別の定をした場合を除いて、一日について八時間以内とする。
(時間外労働及び時間外手当)
第六十七条 船長は、臨時の必要があるときは、第六十条、第六十二条、第六十三条第一項第三項但書、第六十五条及び前条に規定する労働時間の制限を超えて海員を作業に従事させ、若しくは第六十四条第一項の規定による休息時間を短縮することができ、又、同条第二項の規定にかかわらず、休息時間を八時間連続させないことができる。
船舶所有者は、前項の規定により労働時間が延長され、若しくは休息時間が短縮されたとき、又は休息時間が八時間連続させられなかつたときは、命令の定める時間外手当を支払わなければならない。
船長は、命令の定めるところにより、船内に帳簿を備え置いて、前項の時間外手当に関する事項を記載しなければならない。
(例外規定)
第六十八条 第六十条及び第六十二条乃至前条の規定は、海員が船長の命令により、左の作業に従事する場合には、これを適用しない。
一 人命、船舶若しくは積荷の安全を図るため又は人命若しくは他の船舶を救助するため緊急を要する作業
二 防火操練、端艇操練その他これらに類似する作業
三 作業に従事すべき人員が負傷、疾病、死亡その他の予想し難い事故に因り減少したのに伴つて増加された作業
四 通関手続又は検疫その他の衛生手続のために必要な作業
五 船舶の正午位置測定のために必要な作業
(定員)
第六十九条 船舶所有者は、命令の定める場合を除いて、第六十条乃至第六十六条の規定を遵守するために必要な海員の定員を定めて、その員数の海員を乗り組ませなければならない。
船舶所有者は、航海中海員に欠員を生じたときは、遅滞なくその欠員を補充しなければならない。
第七十条 総トン数七百トン以上の船舶に乗り組む甲板部の属員で航海当直をすべき職務を有する者の定員は、九人以上とし、同時に航海当直をする者の員数は、三人以上としなければならない。但し、総トン数二千トン未満の船舶にあつては、その定員は六名で足りる。
前項の定員は、労働協約に特別の定のある場合を除いて、甲板部の勤務一年未満の者を以て、これに充ててはならない。
第一項の定員の過半数は、年齢十八年以上の者で三年以上甲板部の勤務に従事したもの又は年齢十八年以上の者で行政官庁が命令の定めるところによりこれと同等の能力のあることを証明したものを以て、これに充てなければならない。
(適用範囲)
第七十一条 第六十条乃至前条の規定は、左の船舶については、これを適用しない。
一 沿海区域又は平水区域を航行区域とする総トン数千トン未満の船舶で国内各港間のみを航海するもの(行政官庁が船員労働委員会の議を経て指定する船舶を除く。)
二 帆船
三 漁船
第七十二条 第六十条乃至第七十条の規定は、左の者には、これを適用しない。
一 甲板部、機関部又は無線部の最上位にある職員で航海当直をしない者
二 医師及び専ら調剤又は看護に従事する者
第七十三条 主務大臣は、必要があると認めるときは、船員労働委員会の決議により、第六十条乃至第七十条の規定の適用を受けない船員の労働時間、休日及び定員に関し必要な命令を発することができる。
第七章 有給休暇
(有給休暇の付与)
第七十四条 船舶所有者は、船員が同一の船舶において一年間連続して勤務(船舶のぎ装又は修繕中の勤務を含む。以下同じ。)に従事したときは、その一年の経過後一年以内にその船員に有給休暇を与えなければならない。但し、船舶が航海の途中にあるときは、当該航海に必要な期間有給休暇を与えることを延期することができる。
船員が同一の事業に属する他の船舶へ転船したときは、その転船の前後の勤務は、同一の船舶において従事されたものとみなす。
船舶における勤務が中断した場合において、その中断の事由が船員の故意又は過失に因るものでなく、且つその中断の期間の合計が六週間を超えないときは、その中断の前後の勤務は、連続して従事されたものとみなす。
(有給休暇の日数)
第七十五条 有給休暇の日数は、連続した勤務一年について二十五日とし、連続した勤務三箇月を増すごとに五日を加える。
沿海区域又は平水区域を航行区域とする船舶の国内各港間のみを航海するものに乗り組む船員の有給休暇の日数は、前項の規定にかかわらず、連続した勤務一年について十二日とし、連続した勤務三箇月を増すごとに二日を加える。
第七十六条 船舶所有者が船員に週休日、祝祭日の休日、慣習による休日又はこれらに代わるべき休日を与えているときは、その休日の日数は、これを前条の有給休暇の日数に算入しないものとする。負傷又は疾病に因り勤務に従事しない日数も同様とする。
(有給休暇の与え方)
第七十七条 有給休暇を与うべき時期及び港については、船舶所有者と船員との協議による。
有給休暇は、労働協約の定めるところにより、期間を分けて、これを与えることができる。
(有給休暇中の報酬)
第七十八条 船舶所有者は、有給休暇中船員に給料並びに命令の定める手当及び食費を支払わなければならない。
船舶所有者は、有給休暇を請求することができる船員が有給休暇を与えられる前に解雇され、又は退職したときは、その者に与うべき有給休暇の日数に応じ前項の給料、手当及び食費を支払わなければならない。
(適用範囲)
第七十九条 この章の規定は、左の船舶については、これを適用しない。
一 漁船
二 船舶所有者と同一の家庭に属する者のみを使用する船舶
第八章 食料及び衛生
(食料の支給)
第八十条 船舶所有者は、船員の乗船中命令の定めるところにより、これに食料を支給しなければならない。
遠洋区域若しくは近海区域を航行区域とする船舶で総トン数七百トン以上のもの又は命令の定める漁船に乗り組む船員に支給する食料は、主務大臣の定める食料表によらなければならない。
(健康証明書)
第八十一条 船舶所有者は、行政官庁の指定する医師が船内労働に適することを証明した健康証明書を持たない者を船舶に乗り組ませてはならない。但し、やむを得ない事由のあるときは、この限りでない。
前項但書の場合には、船舶所有者は、遅滞なく、その後に到着する港で健康証明書を受けさせる手続をしなければならない。この場合において健康証明書を受けることのできない者は、これを引き続き使用してはならない。
健康証明書に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(医師の乗組)
第八十二条 船舶所有者は、遠洋区域を航行区域とする総トン数五千トン以上の船舶又は遠洋区域若しくは近海区域を航行区域とする最大とう載人員百人以上の船舶に、医師を乗り組ませなければならない。但し、やむを得ない事由のある場合において行政官庁の許可を受けたときは、期間を限つてこれを乗り組ませなくてもよい。
(衛生用品及び医療書)
第八十三条 船舶所有者は、遠洋区域、近海区域若しくは沿海区域を航行区域とする船舶又は命令の定める漁船に、主務大臣の定める医薬その他の衛生用品及び医療書を備え置かなければならない。
第九章 年少船員及び女子船員
(未成年者の能力)
第八十四条 未成年者が船員となるには、法定代理人の許可を受けなければならない。
前項の許可を受けた者は、雇入契約に関しては、成年者と同一の能力を有する。
(最低年齢)
第八十五条 船舶所有者は、年齢十五年未満の者を船員として使用してはならない。但し、同一の家庭に属する者のみを使用する船舶については、この限りでない。
船舶所有者は、年齢十八年未満の者を石炭を運び又はたく作業に従事する海員として使用してはならない。
船舶所有者は、年齢十八年未満の者を船員として使用しようとするときは、その者の船員手帳に行政官庁の認証を受けなければならない。
前項の認証に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
(産前産後)
第八十六条 船舶所有者は、六週間以内に出産する予定の女子の請求があつたときは、船内でその者を作業に従事させてはならない。
船舶所有者は、出産後六週間を経過しない女子を船内で使用してはならない。
船舶所有者は、妊娠中の女子の請求があつたときは、その者を他の軽易な作業に従事させなければならない。
前三項の規定は、同一の家庭に属する者のみを使用する船舶については、これを適用しない。
(生理休暇)
第八十七条 船舶所有者は、生理日における就業が著しく困難な女子の請求があつたときは、その者を生理日において船内で作業に従事させてはならない。
(夜間労働の禁止)
第八十八条 船舶所有者は、年齢十八年未満の船員又は女子の船員を午後八時から翌日の午前五時までの間において作業に従事させてはならない。但し、命令の定める場合においてこれと異なる時刻の間において午前零時前後にわたり連続して九時間休息させるときは、この限りでない。
前項の規定は、第六十八条第一号及び第三号の作業に従事させる場合には、これを適用しない。
第一項の規定は、漁船及び船舶所有者と同一の家庭に属する者のみを使用する船舶については、これを適用しない。
第十章 災害補償
(療養補償)
第八十九条 船員が職務上負傷し、又は疾病にかかつたときは、船舶所有者は、その負傷又は疾病がなおるまで、その費用で療養を施し、又は療養に必要な費用を負担しなければならない。
船員が雇入契約存続中職務外で負傷し、又は疾病にかかつたときは、船舶所有者は、三箇月の範囲内において、その費用で療養を施し、又は療養に必要な費用を負担しなければならない。但し、その負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、この限りでない。
第九十条 前条の療養は、左の各号のものとする。
一 診療
二 薬剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 病院、診療所その他治療に必要な自宅以外の場所への収容(食料の支給を含む。)
五 看護
六 移送
(傷病手当及び予後手当)
第九十一条 船員が職務上負傷し、又は疾病にかかつたときは、船舶所有者は、四箇月の範囲内においてその負傷又は疾病がなおるまで毎月一回、命令の定める報酬(以下標準報酬という。)の月額に相当する額の傷病手当を支払い、その四箇月が経過してもその負傷又は疾病がなおらないときは、そのなおるまで毎月一回、標準報酬の月額の百分の六十に相当する額の傷病手当を支払わなければならない。
船舶所有者は、前項の負傷又は疾病がなおつた後遅滞なく、標準報酬の月額の百分の六十に相当する額の予後手当を支払わなければならない。
前二項の規定は、負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、これを適用しない。
(障害手当)
第九十二条 船員の職務上の負傷又は疾病がなおつた場合において、なおその船員の身体に障害が存するときは、船舶所有者は、なおつた後遅滞なく、標準報酬の月額に障害の程度に応じ別表に定める月数を乗じて得た額の障害手当を支払わなければならない。但し、その負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあつたときは、この限りでない。
(遺族手当)
第九十三条 船員が職務上死亡したときは、船舶所有者は、遅滞なく、命令の定める遺族に標準報酬の月額の三十六箇月分に相当する額の遺族手当を支払わなければならない。船員が職務上の負傷又は疾病に因り死亡したときも同様とする。
(葬祭料)
第九十四条 船員が職務上死亡したときは、船舶所有者は、遅滞なく、命令の定める遺族で葬祭を行う者に標準報酬の月額の二箇月分に相当する額の葬祭料を支払わなければならない。船員が職務上の負傷又は疾病に因り死亡したときも同様とする。
(他の給付との関係)
第九十五条 第八十九条乃至前条の規定により療養又は費用、手当若しくは葬祭料の支払(以下災害補償と総称する。)を受くべき者が、その災害補償を受くべき事由と同一の事由に因り船員保険法による保険給付又は命令で指定する法令に基いて災害補償に相当する給付を受くべきときは、船舶所有者は、災害補償の責を免れる。
(審査及び仲裁)
第九十六条 職務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、災害補償の金額の決定その他災害補償の実施に関して異議のある者は、行政官庁に対して審査又は事件の仲裁を請求することができる。
行政官庁は、必要があると認めるときは、職権で審査又は事件の仲裁をすることができる。
行政官庁は、審査又は事件の仲裁に際し船長その他の関係人の意見を聴かなければならない。
行政官庁は、審査又は事件の仲裁のため必要があると認めるときは、医師に診断又は検案をさせることができる。
第一項の規定による審査又は事件の仲裁の請求及び第二項の規定による審査又は事件の仲裁の開始は、時効の中断に関しては、これを裁判上の請求とみなす。
第十一章 就業規則
(就業規則の作成及び届出)
第九十七条 常時十人以上の船員を使用する船舶所有者は、命令の定めるところにより、左の事項について就業規則を作成し、これを行政官庁に届け出なければならない。これを変更したときも同様とする。
一 給料その他の報酬
二 労働時間
三 休日及び休暇
前項の船舶所有者は、左の事項について就業規則を作成したときは、これを行政官庁に届け出なければならない。これを変更したときも同様とする。
一 定員
二 食料及び衛生
三 被服及び日用品
四 陸上における宿泊、休養、医療及び慰安の施設
五 災害補償
六 失業手当、雇止手当及び退職手当
七 送還
八 教育
九 賞罰
十 その他の労働条件
船舶所有者を構成員とする団体で法人たるものは、その構成員たる第一項の船舶所有者について適用される就業規則を作成して、これを届け出ることができる。その変更についても同様とする。
前項の規定による届出があつたときは、同項に規定する船舶所有者は、当該就業規則の作成及びその作成又は変更の届出をしなくてもよい。
第一項乃至第三項の規定による届出には、第九十八条の規定により聴いた意見を記載した書面を添附しなければならない。
(就業規則の作成の手続)
第九十八条 船舶所有者又は前条第三項に規定する団体は、就業規則を作成し、又は変更するには、その就業規則の適用される船舶所有者の使用する船員の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合、船員の過半数で組織する労働組合がないときは、船員の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
(就業規則の監督)
第九十九条 行政官庁は、法令又は労働協約に違反する就業規則の変更を命ずることができる。
行政官庁は、就業規則が不当であると認めるときは、船員労働委員会の議を経て、その変更を命ずることができる。
(就業規則の効力)
第百条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める雇入契約は、その部分については、無効とする。この場合には、雇入契約は、その無効の部分については、就業規則で定める基準に達する労働条件を定めたものとみなす。
第十二章 監督
(行政官庁)
第百一条 行政官庁は、この法律、労働基準法(船員の労働関係について適用される部分に限る。以下同じ。)又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実があると認めるときは、船舶所有者又は船員に対し、必要な処分をすることができる。
第百二条 行政官庁は、船舶所有者及び船員の間に生じた労働関係に関する紛争(労働関係調整法第六条の労働争議を除く。)の解決について、あつせんすることができる。
(外国における行政官庁の事務)
第百三条 この法律によつて行政官庁の行うべき事務は、外国にあつては、命令の定めるところにより、日本の領事官がこれを行う。
(行政官庁の事務を行う市町村長)
第百四条 主務大臣は、この法律によつて行政官庁の行うべき事務を市町村長に行わせることができる。
(船員労務官)
第百五条 主務大臣は、所部の職員の中から船員労務官を命じ、この法律及び労働基準法の施行に関する事項を掌らせる。
第百六条 船員労務官は、必要があると認めるときは、船舶所有者又は船員に対し、この法律、労働基準法及びこの法律に基いて発する命令の遵守に関し注意を喚起し、又は勧告をすることができる。
第百七条 船員労務官は、必要があると認めるときは、船舶その他の事業場に臨検し、船舶所有者若しくは船員に出頭を命じ、帳簿書類を提出させ、報告をさせ、又は質問をすることができる。
船員労務官は、必要があると認めるときは、旅客その他船内にある者に質問をすることができる。
前二項の場合には、船員労務官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
第百八条 船員労務官は、この法律、労働基準法及びこの法律に基いて発する命令の違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。
第百九条 船員労務官は、職務上知り得た秘密を漏してはならない。船員労務官を退職した後においても同様とする。
(船員労働委員会の権限)
第百十条 船員労働委員会は、労働組合法に定める権限を行う外、行政官庁の諮問に応じ、この法律及び労働基準法の施行又は改正に関する事項を調査審議する。
船員労働委員会は、船員の労働条件に関して、行政官庁に建議することができる。
(報告事項)
第百十一条 船舶所有者は、命令の定めるところにより、左の事項について、行政官庁に報告をしなければならない。
一 使用船員の数
二 給料その他の報酬の支払状況
三 災害補償の実施状況
四 その他命令の定める事項
(船員の申告)
第百十二条 この法律、労働基準法又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実があるときは、船員は、命令の定めるところにより、行政官庁、船員労務官又は船員労働委員会にその事実を申告することができる。
船舶所有者は、前項の申告をしたことを理由として、船員を解雇しその他船員に対して不利益な取扱を与えてはならない。
第十三章 雑則
(就業規則等の公示)
第百十三条 船舶所有者は、この法律、労働基準法、この法律に基いて発する命令、労働協約及び就業規則を記載した書類を船内の見やすい場所に掲示し、又は備え置かなければならない。
(報酬、補償及び手当の調整)
第百十四条 船舶所有者は、給料その他の報酬、失業手当、送還手当又は傷病手当のうち、その二以上をともに支払うべき期間については、いずれか一の多額のものを支払うを以て足りる。
船舶所有者は、給料その他の報酬を支払うべき場合において雇止手当又は予後手当を支払うべきときは、給料その他の報酬を支払うべき限度において、雇止手当又は予後手当の支払の義務を免れる。
(譲渡又は差押の禁止)
第百十五条 失業手当、雇止手当、送還の費用又は災害補償を受ける権利は、これを譲り渡し、又は差し押えることができない。給料その他の報酬及び傷病手当をともに支払うべき期間についての給料その他の報酬を受ける権利(傷病手当の額に相当する部分に関するものに限る。)についても同様とする。
(附加金の支払)
第百十六条 船舶所有者は、第四十五条乃至第四十七条、第四十九条、第五十九条第二項、第六十七条第二項又は第七十八条の規定に違反したときは、これらの規定により船舶所有者が支払うべき金額(第四十七条の場合には送還の費用)についての第二項の規定による請求の時における未払金額(第五十九条第二項の場合には同条の規定による報酬の最低額と契約で定められた報酬の額との差額)に相当する額の附加金を船員に支払わなければならない。
船員は、裁判所に対する訴によつてのみ前項の附加金の支払を請求することができる。但し、その訴は、同項に規定する違反のあつた時から二年以内にこれをしなければならない。
(時効の特則)
第百十七条 船員の船舶所有者に対する債権は二年間これを行わないときは、時効によつて消滅する。船舶所有者に対する遺族手当及び葬祭料の債権も同様とする。
(準用規定)
第百十八条 第三十一条乃至第三十四条、第八十四条第二項及び第百条の規定は、予備員の雇よう契約にこれを準用する。
(戸籍証明)
第百十九条 船員、船員になろうとする者、船舶所有者又は船長は、船員又は船員になろうとする者の戸籍について、戸籍事務を管掌する者又はその代理者に対し無償で証明を請求することができる。
(国及び公共団体に対する適用)
第百二十条 この法律、労働基準法及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずるものについても適用があるものとする。
(命令の制定)
第百二十一条 この法律に基いて発する命令は、その草案について公聴会を開いて、船員及び船舶所有者のそれぞれを代表する者並びに公益を代表する者の意見を聴いて、これを制定するものとする。
第十四章 罰則
第百二十二条 船長がその職権を濫用して、船内にある者に対し義務のない事を行わせ、又は行うべき権利を妨害したときは、二年以下の懲役に処する。
第百二十三条 船長が第十二条の規定に違反したときは、五年以下の懲役に処する。
第百二十四条 船長が第十三条の規定に違反して人命及び船舶の救助に必要な手段を尽さなかつたときは、三年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処する。
第百二十五条 船長が左の各号の一に該当する場合には、二年以下の懲役又は二千円以下の罰金に処する。
一 第十四条の規定に違反したとき。
二 船舶を遺棄したとき。
三 外国において海員を遺棄したとき。
第百二十六条 船長が左の各号の一に該当する場合には、三千円以下の罰金に処する。
一 第八条、第十条、第十一条、第十六条、第十七条第一項、第三十六条、第五十条第二項又は第五十五条の規定に違反したとき。
二 第九条の規定に違反して予定の航路を変更したとき。
三 第十三条の規定に違反して告げなかつたとき。
四 第十五条の規定に基いて発する命令に違反して水葬に付したとき。
五 第十八条の規定による書類を備え置かず、又は同条第一項第二号乃至第四号の書類に記載すべき事項を記載せず、若しくは虚偽の記載をしたとき。
六 第十九条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
七 第六十七条第三項の規定による帳簿を備え置かず、又は帳簿に記載すべき事項を記載せず、若しくは虚偽の記載をしたとき。
第百二十七条 海員が上長に対し暴行又は脅迫をしたときは、三年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処する。
第百二十八条 海員が左の各号の一に該当する場合には、一年以下の懲役に処する。
一 船舶に急迫した危険のある場合において、船長の許可なく船舶を去つたとき。
二 第十二条乃至第十四条に規定する場合において、船長が人命、船舶又は積荷の救助に必要な手段をとるのに当り、上長の命令に服従しなかつたとき。
三 第三十九条第三項に規定する場合において、人命、船舶又は積荷の応急救助のために必要な作業に従事しなかつたとき。
四 外国において脱船したとき。
第百二十九条 船舶所有者が第八十五条第一項又は第二項の規定に違反したときは、一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
第百三十条 船舶所有者が第三十三条、第三十四条第一項、第三十五条、第四十五条乃至第四十七条、第四十九条、第五十九条第二項、第六十三条第二項、第六十七条第二項、第六十九条、第七十条、第七十四条、第七十八条、第八十条、第八十二条、第八十三条、第八十六条、第八十八条、第八十九条、第九十一条乃至第九十四条若しくは第百十二条第二項の規定に違反し、又は第七十三条の規定に基いて発する命令に違反したときは、六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
第百三十一条 船舶所有者が左の各号の一に該当する場合には、五千円以下の罰金に処する。
一 第三十二条、第三十四条第二項、第五十三条、第五十四条、第五十六条、第五十八条第一項、第八十一条第一項第二項、第八十五条第三項、第八十七条又は第百十三条の規定に違反したとき。
二 第三十四条第二項の規定により認可を受けた保管又は返還の方法に違反したとき。
三 第百十一条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
第百三十二条 左の各号の一に該当する者は、これを五千円以下の罰金に処する。
一 第九十七条の規定による就業規則の作成若しくは届出をせず、又は虚偽の届出をした者
二 第九十八条の規定に違反した者
三 第九十九条の規定による命令に違反した者
四 第百一条の規定による処分に違反した者
五 第百七条の規定による船員労務官の臨検を拒み、妨げ若しくは忌避し、出頭の命令に応ぜず、又は質問に対し陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者
六 第百七条の規定による帳簿書類を提出せず、若しくは虚偽の記載をした帳簿書類を提出し、又は報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者
七 第百九条の規定に違反した者
八 第百十二条第一項に定める場合において、虚偽の申告をした者
第百三十三条 左の各号の一に該当する者は、これを三千円以下の罰金に処する。
一 第三十七条の規定に違反して雇入契約の公認を申請しなかつた者
二 詐偽その他の不正行為を以て雇入契約の公認を受けた者
三 自己の船員手帳を棄損した者
四 第五十条第三項の規定に基いて発する命令に違反した者
五 詐偽その他の不正行為を以て船員手帳の交付、訂正又は書換を受けた者
六 他人の船員手帳を行使した者
第百三十四条 この章のうち船長に適用すべき規定は、船長に代わつてその職務を行う者にこれを適用する。
第百三十五条 船舶所有者の代表者、代理人、使用人その他の従業者が船舶所有者の業務に関し第百二十九条乃至第百三十一条、第百三十二条第一号乃至第三号第六号又は第百三十三条第一号第二号の違反行為をしたときは、その行為者を罰する外、その船舶所有者に対して、各本条の罰金刑を科する。但し、船舶所有者(船舶所有者が法人の場合には、その代表者、船舶所有者が営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者又は禁治産者の場合には、その法定代理人。以下この条において同じ。)が違反の防止に必要な措置をしたときは、この限りでない。
船舶所有者が前項に定める違反行為の計画を知つてその防止に必要な措置をしなかつたとき、違反行為を知つてその是正に必要な措置をしなかつたとき、又は違反行為を教唆したときは、船舶所有者も行為者として処罰する。
第九十七条第三項に規定する団体の代表者、代理人、使用人その他の従業者がその団体の業務に関し第百三十二条第一号乃至第三号の違反行為をしたときは、前二項の規定を準用する。
附 則
第百三十六条 この法律は、第十章の規定を除いて、公布の日からこれを施行する。
第十章の規定施行の期日は、命令でこれを定める。
第百三十七条 小形船舶乗組員手帳法は、これを廃止する。
第百三十八条 従前の船員法第六十八条第三項但書の規定は、この法律施行後でも、なおその効力を有する。
第百三十九条 この法律施行前に生じた事項については、なお従前の例による。
第百四十条 第十八条の規定は、総トン数二十トン未満の船舶又は平水区域を航行区域とする船舶については、この法律施行の日から六箇月間、これを適用しない。
第百四十一条 第三十七条の規定の適用については、前条に規定する船舶に乗り組む者の雇入契約でこの法律施行の際現に存するものは、これをこの法律施行の際成立したものとみなす。
第百四十二条 第六十条乃至第七十条の規定は、戦時標準型船舶で、行政官庁においてその居住設備が第六十九条の規定による定員数の海員を乗り組ませることが困難なものと認めて、船員労働委員会の議を経て指定したものについては、これを適用しない。
第百四十三条 第八十三条の規定は、沿海区域を航行区域とする船舶については、この法律施行の日から六箇月間、これを適用しない。
第百四十四条 この法律施行前から引き続き年齢十五年未満の者を船員として、又は年齢十八年未満の者を石炭を運び若しくはたく作業に従事する海員として使用するときは、第八十五条の規定は、これらの者については、この法律施行の日から六箇月間、これを適用しない。
第百四十五条 第六十七条第三項、第九十七条及び第百十三条の規定は、この法律施行の日から六箇月間、これを適用しない。
第百四十六条 商法の一部を次のように改正する。
第七百八条 削除
第七百九条 船長ハ属具目録及ヒ運送契約ニ関スル書類ヲ船中ニ備ヘ置クコトヲ要ス
前項ノ属具目録ハ外国ニ航行セサル船舶ニ限リ命令ヲ以テ之ヲ備フルコトヲ要セサルモノト定ムルコトヲ得
第七百十条 削除
第七百十一条 削除
他の法令の規定の適用上商法第七百八条乃至第七百十一条の規定によらなければならないときは、従前のこれらの規定によるものとする。
第百四十七条 商法施行法の一部を次のように改正する。
第百二十二条中「逓信大臣」を「運輸大臣」に改める。
第百三十条 属具目録ノ書式ハ運輸大臣之ヲ定ム
別表
障害の程度
月数
第一級
四十八箇月
第二級
四十二箇月
第三級
三十九箇月
第四級
三十六箇月
第五級
三十三箇月
第六級
三十箇月
第七級
二十五箇月
第八級
二十箇月
第九級
十五箇月
第十級
十二箇月
第十一級
九箇月
第十二級
六箇月
第十三級
四箇月
第十四級
二箇月
内務大臣 木村小左衛門
司法大臣 鈴木義男
運輸大臣 苫米地義三
内閣総理大臣 片山哲