船員法
法令番号: 法律第七十九號
公布年月日: 昭和12年8月14日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル船員法改正法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十二年八月十三日
內閣總理大臣 公爵 近衞文麿
內務大臣 馬場鍈一
司法大臣 鹽野季彥
遞信大臣 永井柳太郞
法律第七十九號
船員法
第一章 總則
第一條 本法ニ於テ船員トハ日本船舶ニシテ左ニ揭グル船舶以外ノモノニ乘組ム船長及海員ヲ謂フ
一 船舶法第二十條ニ規定スル船舶
二 平水區域ヲ航行スル船舶
三 總噸數三十噸未滿ノ漁船
前項ノ海員トハ左ニ揭グル者以外ノ乘組員ヲ謂フ
一 船舶所有者以外ノ者ニ雇傭セラルル者
二 何人ニモ雇傭セラレズシテ業務ヲ營ム者
三 其ノ他勅令ヲ以テ定ムル者
第二條 船員、船員タラントスル者、船舶所有者又ハ船長ハ船員又ハ船員タラントスル者ノ戶籍ニ關シ戶籍事務ヲ管掌スル者又ハ其ノ代理者ニ對シ無償ニテ證明ヲ求ムルコトヲ得
第三條 未成年者ガ船員ト爲ルニハ其ノ法定代理人ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス
前項ノ許可ヲ得タル者ハ雇入契約ニ關シテハ成年者ト同一ノ能力ヲ有ス
第四條 十五歲未滿ノ者ハ船員トシテ、十八歲未滿ノ者ハ石炭夫又ハ火夫トシテ之ヲ使用スルコトヲ得ズ但シ勅令ヲ以テ定ムル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第五條 十八歲未滿ノ者ハ勅令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外船內勞働ニ適スルコトヲ證明シ且署名シタル醫師ノ健康證明書ヲ有スル場合ニ非ザレバ船員トシテ之ヲ使用スルコトヲ得ズ
第六條 船員ハ船員手帳ヲ受有スルコトヲ要ス
船員手帳ノ交付、訂正、書換、保管及返還ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二章 船長
第七條 船長ハ海員ヲ指揮監督シ且船內ニ在ル者ニ對シ其ノ職務ヲ行フニ必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
第八條 船長ハ船舶ガ港ヲ出入スルトキ、狹隘ナル水路ヲ通過スルトキ其ノ他船舶ニ危險ノ虞アルトキハ甲板ニ在リテ自ラ船舶ヲ指揮スルコトヲ要ス
第九條 船舶ニ急迫ノ危險アルトキハ船長ハ人命、船舶及積荷ノ救助ニ必要ナル手段ヲ盡シ且旅客、海員其ノ他船內ニ在ル者ヲ去ラシメタル後ニ非ザレバ船舶ヲ去ルコトヲ得ズ
第十條 船舶ガ衝突シタルトキハ船長ハ互ニ人命及船舶ノ救助ニ必要ナル手段ヲ盡シ且船舶ノ名稱、所有者、船籍港、發航港及到達港ヲ吿グルコトヲ要ス但シ自己ノ指揮スル船舶ニ急迫ノ危險アルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第十一條 船長ハ他ノ船舶ノ遭難ヲ知リタルトキハ人命ノ救助ニ必要ナル手段ヲ盡スコトヲ要ス但シ自己ノ指揮スル船舶ニ急迫ノ危險アル場合及勅令ヲ以テ定ムル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第十二條 船舶航行中船內ニ在ル者死亡シタルトキハ船長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ水葬ニ付スルコトヲ得
第十三條 船內ニ在ル者死亡シ又ハ行方不明ト爲リタルトキハ法令ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外船長ハ船內ニ在ル遺留品ヲ保管スルコトヲ要ス
第十四條 外國ニ駐在スル帝國ノ外交官、領事官又ハ貿易事務官ガ法令ノ定ムル所ニ依リ帝國臣民ノ送還ヲ命ジタルトキハ船長ハ正當ノ事由アルニ非ザレバ之ヲ拒ムコトヲ得ズ
送還費用ノ償還ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十五條 左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ船長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ管海官廳ニ其ノ旨ヲ報吿スルコトヲ要ス
一 衝突、乘揚、滅失、沈沒、火災、機關ノ損傷其ノ他ノ海難發生シタルトキ
二 人命若ハ船舶ノ救助ニ從事シ又ハ航行中他ノ船舶ノ遭難ヲ知リタルトキ
三 船內ニ在ル者死亡シ又ハ行方不明ト爲リタルトキ
四 豫定ノ航路ヲ變更シタルトキ
五 船舶ガ抑留又ハ捕獲セラレタルトキ其ノ他船舶ニ關シ著シキ事故アリタルトキ
第十六條 船長ガ死亡シタルトキ、船舶ヲ去リタルトキ又ハ之ヲ指揮スルコト能ハザル場合ニ於テ他人ヲ選任セザルトキハ運航ニ從事スル海員ハ其ノ職掌ノ順位ニ從ヒ船長ノ職務ヲ行フ
第十七條 第二十一條、第二十三條、第二十九條、第三十條及第三十二條ノ規定ハ船長ニ之ヲ準用ス
第三章 海員
第十八條 海員ノ雇入契約ノ成立、終了、更新又ハ變更アリタルトキハ船長及海員ハ遲滯ナク管海官廳ニ出頭シテ其ノ公認ヲ受クルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ船長ガ公認ヲ受クルコト能ハザルトキハ船舶所有者之ヲ受クルコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ正當ノ事由アルトキハ代理人ヲシテ公認ヲ受ケシムルコトヲ得
第十九條 海員ハ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタル爲職務ニ從事セザル期間ニ付テモ給料ノ請求ヲ爲スコトヲ得但シ疾病又ハ傷痍ニ付海員ニ過失アルトキハ此ノ限ニ在ラズ
海員ハ其ノ職務ヲ行フニ因リテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタル場合ニ於テハ前項但書ノ規定ニ拘ラズ疾病又ハ傷痍ニ付海員ニ故意又ハ重大ナル過失ナキ限リ同項ニ規定スル給料ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第二十條 海員ノ給料及手當ノ支拂方法ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十一條 船舶所有者ハ海員ノ乘船中勅令ノ定ムル所ニ依リ之ニ食料ヲ支給スルコトヲ要ス
第二十二條 船舶所有者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ船舶ニ醫師ヲ乘組マシメ又ハ醫療設備ヲ爲スコトヲ要ス
第二十三條 船舶ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ海員ノ雇入契約ハ終了ス
一 滅失又ハ沈沒シタルトキ
二 全ク運航ニ堪ヘザルニ至リタルトキ
船舶ノ存否ガ一月間分明ナラザルトキハ船舶ハ滅失シタルモノト推定ス
第一項ノ規定ニ依リ雇入契約終了シタル場合ト雖モ海員ハ人命、船舶又ハ積荷ノ應急救助ノ爲必要ナル勞務ニ服スルコトヲ要ス此ノ場合ニ於テハ雇入契約ハ仍存續スルモノト看做ス
第二十四條 海員ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合其ノ他已ムコトヲ得ザル事由アル場合ニ於テハ船長ハ海員ヲ雇止ムルコトヲ得
一 著シク職務ニ不適任ナルトキ
二 著シク職務ヲ怠リ又ハ職務ニ關シ重大ナル過失アリタルトキ
三 疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ職務ニ堪ヘザルトキ
四 船長ノ指定スル時迄ニ船舶ニ乘込マザルトキ
第二十五條 左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ海員ハ雇止ヲ請求スルコトヲ得
一 船舶ガ國籍ヲ喪失シタルトキ
二 海員ガ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ職務ニ堪ヘザルトキ
三 海員ガ船長ヨリ虐待ヲ受ケタルトキ
前項ニ揭グル場合ノ外海員ハ船長ノ適當ト認ムル後任者ヲ提供シテ雇止ヲ請求スルコトヲ得
第二十六條 期間ノ定ナキ海員ノ雇入契約ハ船長又ハ海員ヨリ書面ヲ以テ二十四時間ヲ下ラザル期間ヲ定メ豫吿ヲ爲ストキハ該期間ガ滿了シタル時ニ於テ終了ス
前項ノ期間ガ滿了シタル時ニ於テ船舶ガ積荷ノ陸揚ヲ爲シ又ハ旅客ガ上陸スベキ港ニ碇泊中ニシテ其ノ港ニ於ケル積荷ノ陸揚及旅客ノ上陸ガ終ラザルトキハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ終リタル時ニ於テ雇入契約ハ終了ス
第一項ノ期間ガ滿了シタル時ニ於テ船舶ガ航行中ナルトキ又ハ前項ノ港以外ノ港ニ碇泊中ナルトキハ第一項ノ規定ニ拘ラズ船舶ガ積荷ノ陸揚ヲ爲シ又ハ旅客ガ上陸スベキ次ノ港ニ到著シテ其ノ港ニ於ケル積荷ノ陸揚及旅客ノ上陸ガ終リタル時ニ於テ雇入契約ハ終了ス
前二項ノ規定ハ期間ノ定アル海員ノ雇入契約ガ期間ノ滿了ニ因リ終了スル場合ニ之ヲ準用ス
第三項ノ規定ハ第二十四條及前條第一項ノ規定ニ依リ海員ノ雇入契約ガ終了スル場合ニ之ヲ準用ス
第二十七條 前條第一項乃至第四項ノ規定ニ依リ海員ノ雇入契約ガ適當ナル海員ヲ補充シ得ル港以外ノ港ニ於テ終了スルトキハ船長ハ船舶ガ適當ナル海員ヲ補充シ得ル港ニ到著シ積荷ノ陸揚及旅客ノ上陸ガ終ル時迄雇入契約ヲ存續セシムルコトヲ得
第二十八條 相續其ノ他ノ包括承繼ノ場合ヲ除クノ外船舶所有者ノ變更アリタルトキハ海員ノ雇入契約ハ終了ス
前項ノ場合ニ於テハ雇入契約終了ノ時ヨリ海員ト新所有者トノ間ニ從前ノ雇入契約ト同一條件ノ雇入契約存スルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ海員ハ第二十六條第一項乃至第三項ノ規定ニ從ヒ雇入契約ヲ終了セシムルコトヲ得
前條ノ規定ハ前項ノ規定ニ依ル雇入契約終了ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十九條 船舶所有者ハ海員ガ疾病ニ罹リ若ハ傷痍ヲ受ケタルトキ、雇入契約終了シタルトキ又ハ死亡シタルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ扶助シ、之ニ手當ヲ支給シ又ハ之ガ葬祭ノ費用ヲ負擔スルコトヲ要ス
第三十條 船舶所有者ハ雇入契約終了シタル海員ヲ勅令ノ定ムル所ニ依リ雇入港又ハ其ノ希望スル地迄送還スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ海員ハ送還ニ代ヘテ其ノ費用ヲ請求スルコトヲ得
第三十一條 海員ハ船長ニ對シ其ノ勤務ノ成績ニ關スル證明書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第三十二條 海員ノ船舶所有者ニ對スル債權ハ二年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス船舶所有者ニ對スル葬祭ニ關スル債權亦同ジ
第三十三條 第二十九條ノ規定ニ依リ海員ガ扶助又ハ手當ヲ受クルノ權利ハ之ヲ讓渡シ又ハ差押フルコトヲ得ズ葬祭ノ費用ヲ受クルノ權利亦同ジ
第四章 紀律
第三十四條 海員ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ船長ハ之ヲ懲戒スルコトヲ得
一 上長ニ對シテ尊敬又ハ從順ノ道ヲ失ヒタルトキ
二 職務ヲ怠リ又ハ他ノ乘組員ノ職務ヲ妨ゲタルトキ
三 船長ノ指定スル時迄ニ船舶ニ乘込マズ又ハ船長ノ許可ヲ得ズシテ之ヲ去リタルトキ
四 船長ノ許可ヲ得ズシテ點火若ハ焚火シ又ハ端艇其ノ他ノ重要ナル屬具ヲ使用シタルトキ
五 食料又ハ淡水ヲ濫費シタルトキ
六 喧爭シタルトキ、酩酊シテ事理ヲ辨ゼザルトキ又ハ禁止セラレタル場所ニ於テ喫煙シタルトキ
七 其ノ他船內ノ秩序ニ反スル行爲ヲ爲シタルトキ
第三十五條 懲戒ハ左ノ四種トシ勅令ノ定ムル所ニ依リ船長之ヲ行フ
一 監禁 三日以下トシ船內ノ一室ニ拘置ス
二 上陸禁止 七日以下トシ此ノ期間ニハ船舶ノ碇泊日數ノミヲ算入ス
三 減給 給料月額十分ノ一以下ヲ減ズ但シ三月ヲ超ユルコトヲ得ズ
四 譴責
前項第一號及第二號ノ期間ニハ初日ヲ算入ス
第三十六條 海員ガ兇器、爆發若ハ發火シ易キ物、劇藥其ノ他ノ危險物又ハ酒類ヲ所持スルトキハ船長ハ其ノ物ヲ保管又ハ放棄スルコトヲ得
第三十七條 海員ガ船內ニ在ル者ノ生命若ハ身體又ハ船舶ニ危害ヲ及ボスベキ行爲ヲ爲サントスルトキハ船長ハ必要ノ期間其ノ者ノ身體ヲ拘束スルコトヲ得
第三十八條 船長ハ必要アルトキハ旅客其ノ他船內ニ在ル者ニ對シテモ前二條ニ規定スル處分ヲ爲スコトヲ得
第三十九條 海員ガ雇入契約成立ノ公認アリタル後船長ノ指定スル時迄ニ船舶ニ乘込マズ又ハ船長ノ許可ヲ得ズシテ之ヲ去リタルトキハ船長ハ之ヲ强制シテ船舶ニ乘込マシムルコトヲ得
海員ガ雇入契約終了ノ公認アリタル後遲滯ナク船舶ヲ去ラザルトキハ船長ハ之ヲ强制シテ船舶ヲ去ラシムルコトヲ得
第四十條 船長ハ其ノ命令ニ服從セザル者アル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ管海官廳、地方官廳又ハ海軍艦船ニ援助ヲ求ムルコトヲ得
第五章 雜則
第四十一條 管海官廳ハ職權ヲ以テ又ハ申請ニ依リ第三章ニ規定スル事項ニ關シ船舶所有者、船長及海員ノ間ニ生ジタル事件ノ解決ニ付斡旋ヲ爲スコトヲ得
第四十二條 管海官廳ハ必要アリト認ムルトキハ船舶所有者又ハ乘組員ヲシテ書類帳簿ヲ提出セシメ若ハ報吿ヲ爲サシメ、之ヲ呼出シテ質問ヲ爲シ又ハ當該官吏ヲシテ船舶ニ臨檢セシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ當該官吏ハ其ノ身分ヲ證明スベキ證票ヲ携帶スベシ
管海官廳ハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反スル事實アリト認ムルトキハ船舶所有者又ハ船長ニ對シ必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得
管海官廳ハ必要アリト認ムルトキハ旅客其ノ他船內ニ在ル者ニ就キ質問ヲ爲スコトヲ得
第四十三條 本法及本法ニ基キテ發スル命令中船舶所有者ニ關スル規定ハ船舶共有ノ場合ニ在リテハ船舶管理人ニ、船舶貸借ノ場合ニ在リテハ船舶借入人ニ之ヲ適用ス
第四十四條 本法ニ依リ管海官廳ノ行フベキ事務ハ外國ニ在リテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ帝國ノ領事官又ハ貿易事務官之ヲ行フ
第四十五條 本法ニ依リ管海官廳ノ行フベキ事務ニ付テハ主務大臣ハ市町村長、町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之ニ準ズル者ヲシテ之ヲ行ハシムルコトヲ得
第四十六條 左ニ揭グル船舶ノ乘組員ニ付テハ勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得
一 國又ハ北海道、府縣、市町村其ノ他ノ公共團體ノ所有ニ屬スル船舶
二 其ノ他勅令ヲ以テ定ムル船舶
第四十七條 本法ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ第一條第二項各號ニ揭グル者ニ之ヲ準用ス
第四十八條 地方長官ハ第一條第一項各號ニ揭グル船舶ノ乘組員ノ監督ニ關シ主務大臣ノ認可ヲ受ケ必要ナル規則ヲ設クルコトヲ得
第六章 罰則
第四十九條 船舶所有者又ハ船長ガ第四條ノ規定ニ違反シ十五歲未滿ノ者ヲ船員トシテ、十八歲未滿ノ者ヲ石炭夫若ハ火夫トシテ使用シタルトキ又ハ第五條ノ規定ニ違反シ健康證明書ヲ有セザル者ヲ船員トシテ使用シタルトキハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ六月以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 詐僞其ノ他ノ不正行爲ヲ以テ船員手帳ノ交付、訂正又ハ書換ヲ受ケタル者
二 詐僞其ノ他ノ不正行爲ヲ以テ海員ノ雇入契約ニ關スル公認ヲ受ケタル者
三 他人ノ船員手帳ヲ行使シタル者
第五十一條 船長ガ船內ニ在ル者ニ對シ其ノ職權ヲ濫用シ又ハ虐待ヲ爲シタルトキハ六月以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十二條 船長ガ第九條ノ規定ニ違反シ船舶ヲ去リタルトキハ五年以下ノ懲役ニ處ス
第五十三條 船長ガ第十條ノ規定ニ違反シ人命及船舶ノ救助ニ必要ナル手段ヲ盡サザルトキハ三年以下ノ懲役又ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十四條 船長ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ二年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第十一條ノ規定ニ違反シ人命ノ救助ニ必要ナル手段ヲ盡サザルトキ
二 正當ノ事由ナクシテ船舶ヲ遺棄シタルトキ
三 正當ノ事由ナクシテ外國ニ於テ海員ヲ遺棄シタルトキ
第五十五條 船長ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第八條ノ規定ニ違反シ自ラ船舶ヲ指揮セザルトキ
二 第十條ノ規定ニ違反シ吿知ヲ爲サザルトキ
三 第十四條第一項ノ規定ニ違反シ送還命令ヲ拒ミタルトキ
四 第十五條ノ規定ニ違反シ報吿ヲ爲サズ又ハ虛僞ノ報吿ヲ爲シタルトキ
五 第十八條ノ規定ニ違反シ公認ヲ受ケザルトキ
六 商法第五百六十一條ノ規定ニ違反シ檢査ヲ爲サザルトキ
七 商法第五百六十二條第一項ノ規定ニ違反シ書類ヲ備置カズ又ハ同條同項第二號乃至第五號ニ揭グル書類ニ記載スベキ事項ヲ記載セズ若ハ虛僞ノ記載ヲ爲シタルトキ
八 商法第五百六十三條ノ規定ニ違反シ船舶ヲ去リタルトキ
九 商法第五百六十四條ノ規定ニ違反シ豫定ノ航路ヲ變更シタルトキ
第五十六條 船長ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第十二條ノ規定ニ基キテ發スル命令ニ違反シ水葬ニ付シタルトキ
二 第十三條ノ規定ニ違反シ遺留品ノ保管ヲ爲サザルトキ
第五十七條 海員ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ二年以下ノ懲役ニ處ス
一 船舶ニ急迫ノ危險アル場合ニ於テ船長ノ許可ヲ得ズシテ之ヲ去リタルトキ
二 第九條乃至第十一條ニ規定スル場合ニ於テ船長ガ人命、船舶又ハ積荷ノ救助ニ必要ナル手段ヲ爲スニ當リ上長ノ命令ニ服從セザルトキ
三 第二十三條第三項ニ規定スル場合ニ於テ人命、船舶又ハ積荷ノ應急救助ノ爲必要ナル勞務ニ服セザルトキ
第五十八條 海員ガ上長ニ對シ暴行又ハ脅迫ヲ爲シタルトキハ二年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十九條 海員ガ脫船シタルトキハ一年以下ノ懲役ニ處ス
第六十條 左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テ船員ガ勞働爭議ニ關シ團結シテ勞務ヲ中止シ又ハ作業ノ進行ヲ阻害シタルトキハ一年以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 船舶ガ外國ノ港ニ在ルトキ
二 人命又ハ船舶ニ直接ノ危險ヲ及ボス虞アルトキ
三 船員又ハ其ノ代表者ガ相手方ニ對シ爭議事項ニ關シ交涉ヲ開始シタル後一週間ヲ經過シ且二十四時間前ニ豫吿ヲ爲シタルニ非ザルトキ
第六十一條 船舶所有者ガ第二十條乃至第二十二條、第二十九條又ハ第三十條ノ規定ニ基キテ發スル勅令ニ違反シタルトキハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十二條 船舶所有者又ハ乘組員ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 管海官廳ノ命令ニ違反シ書類帳簿ノ提出ヲ爲サズ又ハ報吿ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ報吿ヲ爲シタルトキ
二 管海官廳ノ呼出ニ應ゼズ又ハ管海官廳若ハ當該官吏ノ質問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ陳述ヲ爲シタルトキ
三 當該官吏ノ臨檢ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタルトキ
四 第四十二條第二項ニ規定スル管海官廳ノ處分ニ違反シタルトキ
第六十三條 本章中船長ニ適用スベキ規定ハ船長ニ代リテ其ノ職務ヲ行フ者アル場合ニ於テハ其ノ者ニ之ヲ適用ス
第六十四條 船舶所有者ハ其ノ代理人、雇人其ノ他ノ從業者ニ第二十條乃至第二十二條、第二十九條又ハ第三十條ノ規定ニ基キテ發スル勅令ニ違反スル所爲アリタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第六十五條 船舶所有者ガ未成年者若ハ禁治產者ナル場合又ハ法人ナル場合ニ在リテハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ其ノ者ニ適用スベキ罰則ハ其ノ法定代理人又ハ法令ニ依リ法人ヲ代表スル者ニ之ヲ適用ス
前項ノ場合ニ於テハ懲役ノ刑ニ處スルコトヲ得ズ
第六十六條 本法及本法ニ基キテ發スル命令中船舶所有者ニ適用スベキ罰則ハ國又ハ北海道、府縣、市町村其ノ他ノ公共團體ニハ之ヲ適用セズ
附 則
第六十七條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十八條 船員最低年齡法ハ之ヲ廢止ス
船舶安全法第二十八條中「遭難者救助、」ヲ削ル
商法第五百七十五條及第五編第二章第二節ハ之ヲ削除ス但シ商法其ノ他ノ法令ノ規定ノ適用上之ニ依ルベキ場合ニ於テハ仍其ノ效力ヲ有ス
第六十九條 本法施行前ニ生ジタル事項ニ付テハ仍從前ノ例ニ依ル但シ刑法第六條ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
第七十條 本法施行ノ際現ニ船員トシテ使用セラルル十四歲以上十五歲未滿ノ者ヲ本法施行後引續キ使用スル場合ニ於テハ第四條ノ規定ヲ適用セズ
第七十一條 第一條第一項各號ニ揭グル船舶ノ乘組員ノ監督ニ關シ地方長官ノ設ケタル規則ニシテ本法施行ノ際現ニ存スルモノハ本法ニ依リテ主務大臣ノ認可ヲ受ケタルモノト看做ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル船員法改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十二年八月十三日
内閣総理大臣 公爵 近衛文麿
内務大臣 馬場鍈一
司法大臣 塩野季彦
逓信大臣 永井柳太郎
法律第七十九号
船員法
第一章 総則
第一条 本法ニ於テ船員トハ日本船舶ニシテ左ニ掲グル船舶以外ノモノニ乗組ム船長及海員ヲ謂フ
一 船舶法第二十条ニ規定スル船舶
二 平水区域ヲ航行スル船舶
三 総噸数三十噸未満ノ漁船
前項ノ海員トハ左ニ掲グル者以外ノ乗組員ヲ謂フ
一 船舶所有者以外ノ者ニ雇傭セラルル者
二 何人ニモ雇傭セラレズシテ業務ヲ営ム者
三 其ノ他勅令ヲ以テ定ムル者
第二条 船員、船員タラントスル者、船舶所有者又ハ船長ハ船員又ハ船員タラントスル者ノ戸籍ニ関シ戸籍事務ヲ管掌スル者又ハ其ノ代理者ニ対シ無償ニテ証明ヲ求ムルコトヲ得
第三条 未成年者ガ船員ト為ルニハ其ノ法定代理人ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス
前項ノ許可ヲ得タル者ハ雇入契約ニ関シテハ成年者ト同一ノ能力ヲ有ス
第四条 十五歳未満ノ者ハ船員トシテ、十八歳未満ノ者ハ石炭夫又ハ火夫トシテ之ヲ使用スルコトヲ得ズ但シ勅令ヲ以テ定ムル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第五条 十八歳未満ノ者ハ勅令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外船内労働ニ適スルコトヲ証明シ且署名シタル医師ノ健康証明書ヲ有スル場合ニ非ザレバ船員トシテ之ヲ使用スルコトヲ得ズ
第六条 船員ハ船員手帳ヲ受有スルコトヲ要ス
船員手帳ノ交付、訂正、書換、保管及返還ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二章 船長
第七条 船長ハ海員ヲ指揮監督シ且船内ニ在ル者ニ対シ其ノ職務ヲ行フニ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第八条 船長ハ船舶ガ港ヲ出入スルトキ、狭隘ナル水路ヲ通過スルトキ其ノ他船舶ニ危険ノ虞アルトキハ甲板ニ在リテ自ラ船舶ヲ指揮スルコトヲ要ス
第九条 船舶ニ急迫ノ危険アルトキハ船長ハ人命、船舶及積荷ノ救助ニ必要ナル手段ヲ尽シ且旅客、海員其ノ他船内ニ在ル者ヲ去ラシメタル後ニ非ザレバ船舶ヲ去ルコトヲ得ズ
第十条 船舶ガ衝突シタルトキハ船長ハ互ニ人命及船舶ノ救助ニ必要ナル手段ヲ尽シ且船舶ノ名称、所有者、船籍港、発航港及到達港ヲ告グルコトヲ要ス但シ自己ノ指揮スル船舶ニ急迫ノ危険アルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第十一条 船長ハ他ノ船舶ノ遭難ヲ知リタルトキハ人命ノ救助ニ必要ナル手段ヲ尽スコトヲ要ス但シ自己ノ指揮スル船舶ニ急迫ノ危険アル場合及勅令ヲ以テ定ムル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第十二条 船舶航行中船内ニ在ル者死亡シタルトキハ船長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ水葬ニ付スルコトヲ得
第十三条 船内ニ在ル者死亡シ又ハ行方不明ト為リタルトキハ法令ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外船長ハ船内ニ在ル遺留品ヲ保管スルコトヲ要ス
第十四条 外国ニ駐在スル帝国ノ外交官、領事官又ハ貿易事務官ガ法令ノ定ムル所ニ依リ帝国臣民ノ送還ヲ命ジタルトキハ船長ハ正当ノ事由アルニ非ザレバ之ヲ拒ムコトヲ得ズ
送還費用ノ償還ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十五条 左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ船長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ管海官庁ニ其ノ旨ヲ報告スルコトヲ要ス
一 衝突、乗揚、滅失、沈没、火災、機関ノ損傷其ノ他ノ海難発生シタルトキ
二 人命若ハ船舶ノ救助ニ従事シ又ハ航行中他ノ船舶ノ遭難ヲ知リタルトキ
三 船内ニ在ル者死亡シ又ハ行方不明ト為リタルトキ
四 予定ノ航路ヲ変更シタルトキ
五 船舶ガ抑留又ハ捕獲セラレタルトキ其ノ他船舶ニ関シ著シキ事故アリタルトキ
第十六条 船長ガ死亡シタルトキ、船舶ヲ去リタルトキ又ハ之ヲ指揮スルコト能ハザル場合ニ於テ他人ヲ選任セザルトキハ運航ニ従事スル海員ハ其ノ職掌ノ順位ニ従ヒ船長ノ職務ヲ行フ
第十七条 第二十一条、第二十三条、第二十九条、第三十条及第三十二条ノ規定ハ船長ニ之ヲ準用ス
第三章 海員
第十八条 海員ノ雇入契約ノ成立、終了、更新又ハ変更アリタルトキハ船長及海員ハ遅滞ナク管海官庁ニ出頭シテ其ノ公認ヲ受クルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ船長ガ公認ヲ受クルコト能ハザルトキハ船舶所有者之ヲ受クルコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ正当ノ事由アルトキハ代理人ヲシテ公認ヲ受ケシムルコトヲ得
第十九条 海員ハ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタル為職務ニ従事セザル期間ニ付テモ給料ノ請求ヲ為スコトヲ得但シ疾病又ハ傷痍ニ付海員ニ過失アルトキハ此ノ限ニ在ラズ
海員ハ其ノ職務ヲ行フニ因リテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタル場合ニ於テハ前項但書ノ規定ニ拘ラズ疾病又ハ傷痍ニ付海員ニ故意又ハ重大ナル過失ナキ限リ同項ニ規定スル給料ノ請求ヲ為スコトヲ得
第二十条 海員ノ給料及手当ノ支払方法ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十一条 船舶所有者ハ海員ノ乗船中勅令ノ定ムル所ニ依リ之ニ食料ヲ支給スルコトヲ要ス
第二十二条 船舶所有者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ船舶ニ医師ヲ乗組マシメ又ハ医療設備ヲ為スコトヲ要ス
第二十三条 船舶ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ海員ノ雇入契約ハ終了ス
一 滅失又ハ沈没シタルトキ
二 全ク運航ニ堪ヘザルニ至リタルトキ
船舶ノ存否ガ一月間分明ナラザルトキハ船舶ハ滅失シタルモノト推定ス
第一項ノ規定ニ依リ雇入契約終了シタル場合ト雖モ海員ハ人命、船舶又ハ積荷ノ応急救助ノ為必要ナル労務ニ服スルコトヲ要ス此ノ場合ニ於テハ雇入契約ハ仍存続スルモノト看做ス
第二十四条 海員ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合其ノ他已ムコトヲ得ザル事由アル場合ニ於テハ船長ハ海員ヲ雇止ムルコトヲ得
一 著シク職務ニ不適任ナルトキ
二 著シク職務ヲ怠リ又ハ職務ニ関シ重大ナル過失アリタルトキ
三 疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ職務ニ堪ヘザルトキ
四 船長ノ指定スル時迄ニ船舶ニ乗込マザルトキ
第二十五条 左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ海員ハ雇止ヲ請求スルコトヲ得
一 船舶ガ国籍ヲ喪失シタルトキ
二 海員ガ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ職務ニ堪ヘザルトキ
三 海員ガ船長ヨリ虐待ヲ受ケタルトキ
前項ニ掲グル場合ノ外海員ハ船長ノ適当ト認ムル後任者ヲ提供シテ雇止ヲ請求スルコトヲ得
第二十六条 期間ノ定ナキ海員ノ雇入契約ハ船長又ハ海員ヨリ書面ヲ以テ二十四時間ヲ下ラザル期間ヲ定メ予告ヲ為ストキハ該期間ガ満了シタル時ニ於テ終了ス
前項ノ期間ガ満了シタル時ニ於テ船舶ガ積荷ノ陸揚ヲ為シ又ハ旅客ガ上陸スベキ港ニ碇泊中ニシテ其ノ港ニ於ケル積荷ノ陸揚及旅客ノ上陸ガ終ラザルトキハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ終リタル時ニ於テ雇入契約ハ終了ス
第一項ノ期間ガ満了シタル時ニ於テ船舶ガ航行中ナルトキ又ハ前項ノ港以外ノ港ニ碇泊中ナルトキハ第一項ノ規定ニ拘ラズ船舶ガ積荷ノ陸揚ヲ為シ又ハ旅客ガ上陸スベキ次ノ港ニ到著シテ其ノ港ニ於ケル積荷ノ陸揚及旅客ノ上陸ガ終リタル時ニ於テ雇入契約ハ終了ス
前二項ノ規定ハ期間ノ定アル海員ノ雇入契約ガ期間ノ満了ニ因リ終了スル場合ニ之ヲ準用ス
第三項ノ規定ハ第二十四条及前条第一項ノ規定ニ依リ海員ノ雇入契約ガ終了スル場合ニ之ヲ準用ス
第二十七条 前条第一項乃至第四項ノ規定ニ依リ海員ノ雇入契約ガ適当ナル海員ヲ補充シ得ル港以外ノ港ニ於テ終了スルトキハ船長ハ船舶ガ適当ナル海員ヲ補充シ得ル港ニ到著シ積荷ノ陸揚及旅客ノ上陸ガ終ル時迄雇入契約ヲ存続セシムルコトヲ得
第二十八条 相続其ノ他ノ包括承継ノ場合ヲ除クノ外船舶所有者ノ変更アリタルトキハ海員ノ雇入契約ハ終了ス
前項ノ場合ニ於テハ雇入契約終了ノ時ヨリ海員ト新所有者トノ間ニ従前ノ雇入契約ト同一条件ノ雇入契約存スルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ海員ハ第二十六条第一項乃至第三項ノ規定ニ従ヒ雇入契約ヲ終了セシムルコトヲ得
前条ノ規定ハ前項ノ規定ニ依ル雇入契約終了ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二十九条 船舶所有者ハ海員ガ疾病ニ罹リ若ハ傷痍ヲ受ケタルトキ、雇入契約終了シタルトキ又ハ死亡シタルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ扶助シ、之ニ手当ヲ支給シ又ハ之ガ葬祭ノ費用ヲ負担スルコトヲ要ス
第三十条 船舶所有者ハ雇入契約終了シタル海員ヲ勅令ノ定ムル所ニ依リ雇入港又ハ其ノ希望スル地迄送還スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ海員ハ送還ニ代ヘテ其ノ費用ヲ請求スルコトヲ得
第三十一条 海員ハ船長ニ対シ其ノ勤務ノ成績ニ関スル証明書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第三十二条 海員ノ船舶所有者ニ対スル債権ハ二年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス船舶所有者ニ対スル葬祭ニ関スル債権亦同ジ
第三十三条 第二十九条ノ規定ニ依リ海員ガ扶助又ハ手当ヲ受クルノ権利ハ之ヲ譲渡シ又ハ差押フルコトヲ得ズ葬祭ノ費用ヲ受クルノ権利亦同ジ
第四章 紀律
第三十四条 海員ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ船長ハ之ヲ懲戒スルコトヲ得
一 上長ニ対シテ尊敬又ハ従順ノ道ヲ失ヒタルトキ
二 職務ヲ怠リ又ハ他ノ乗組員ノ職務ヲ妨ゲタルトキ
三 船長ノ指定スル時迄ニ船舶ニ乗込マズ又ハ船長ノ許可ヲ得ズシテ之ヲ去リタルトキ
四 船長ノ許可ヲ得ズシテ点火若ハ焚火シ又ハ端艇其ノ他ノ重要ナル属具ヲ使用シタルトキ
五 食料又ハ淡水ヲ濫費シタルトキ
六 喧争シタルトキ、酩酊シテ事理ヲ弁ゼザルトキ又ハ禁止セラレタル場所ニ於テ喫煙シタルトキ
七 其ノ他船内ノ秩序ニ反スル行為ヲ為シタルトキ
第三十五条 懲戒ハ左ノ四種トシ勅令ノ定ムル所ニ依リ船長之ヲ行フ
一 監禁 三日以下トシ船内ノ一室ニ拘置ス
二 上陸禁止 七日以下トシ此ノ期間ニハ船舶ノ碇泊日数ノミヲ算入ス
三 減給 給料月額十分ノ一以下ヲ減ズ但シ三月ヲ超ユルコトヲ得ズ
四 譴責
前項第一号及第二号ノ期間ニハ初日ヲ算入ス
第三十六条 海員ガ兇器、爆発若ハ発火シ易キ物、劇薬其ノ他ノ危険物又ハ酒類ヲ所持スルトキハ船長ハ其ノ物ヲ保管又ハ放棄スルコトヲ得
第三十七条 海員ガ船内ニ在ル者ノ生命若ハ身体又ハ船舶ニ危害ヲ及ボスベキ行為ヲ為サントスルトキハ船長ハ必要ノ期間其ノ者ノ身体ヲ拘束スルコトヲ得
第三十八条 船長ハ必要アルトキハ旅客其ノ他船内ニ在ル者ニ対シテモ前二条ニ規定スル処分ヲ為スコトヲ得
第三十九条 海員ガ雇入契約成立ノ公認アリタル後船長ノ指定スル時迄ニ船舶ニ乗込マズ又ハ船長ノ許可ヲ得ズシテ之ヲ去リタルトキハ船長ハ之ヲ強制シテ船舶ニ乗込マシムルコトヲ得
海員ガ雇入契約終了ノ公認アリタル後遅滞ナク船舶ヲ去ラザルトキハ船長ハ之ヲ強制シテ船舶ヲ去ラシムルコトヲ得
第四十条 船長ハ其ノ命令ニ服従セザル者アル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ管海官庁、地方官庁又ハ海軍艦船ニ援助ヲ求ムルコトヲ得
第五章 雑則
第四十一条 管海官庁ハ職権ヲ以テ又ハ申請ニ依リ第三章ニ規定スル事項ニ関シ船舶所有者、船長及海員ノ間ニ生ジタル事件ノ解決ニ付斡旋ヲ為スコトヲ得
第四十二条 管海官庁ハ必要アリト認ムルトキハ船舶所有者又ハ乗組員ヲシテ書類帳簿ヲ提出セシメ若ハ報告ヲ為サシメ、之ヲ呼出シテ質問ヲ為シ又ハ当該官吏ヲシテ船舶ニ臨検セシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ当該官吏ハ其ノ身分ヲ証明スベキ証票ヲ携帯スベシ
管海官庁ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ違反スル事実アリト認ムルトキハ船舶所有者又ハ船長ニ対シ必要ナル処分ヲ為スコトヲ得
管海官庁ハ必要アリト認ムルトキハ旅客其ノ他船内ニ在ル者ニ就キ質問ヲ為スコトヲ得
第四十三条 本法及本法ニ基キテ発スル命令中船舶所有者ニ関スル規定ハ船舶共有ノ場合ニ在リテハ船舶管理人ニ、船舶貸借ノ場合ニ在リテハ船舶借入人ニ之ヲ適用ス
第四十四条 本法ニ依リ管海官庁ノ行フベキ事務ハ外国ニ在リテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ帝国ノ領事官又ハ貿易事務官之ヲ行フ
第四十五条 本法ニ依リ管海官庁ノ行フベキ事務ニ付テハ主務大臣ハ市町村長、町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之ニ準ズル者ヲシテ之ヲ行ハシムルコトヲ得
第四十六条 左ニ掲グル船舶ノ乗組員ニ付テハ勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得
一 国又ハ北海道、府県、市町村其ノ他ノ公共団体ノ所有ニ属スル船舶
二 其ノ他勅令ヲ以テ定ムル船舶
第四十七条 本法ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ第一条第二項各号ニ掲グル者ニ之ヲ準用ス
第四十八条 地方長官ハ第一条第一項各号ニ掲グル船舶ノ乗組員ノ監督ニ関シ主務大臣ノ認可ヲ受ケ必要ナル規則ヲ設クルコトヲ得
第六章 罰則
第四十九条 船舶所有者又ハ船長ガ第四条ノ規定ニ違反シ十五歳未満ノ者ヲ船員トシテ、十八歳未満ノ者ヲ石炭夫若ハ火夫トシテ使用シタルトキ又ハ第五条ノ規定ニ違反シ健康証明書ヲ有セザル者ヲ船員トシテ使用シタルトキハ千円以下ノ罰金ニ処ス
第五十条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ六月以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 詐偽其ノ他ノ不正行為ヲ以テ船員手帳ノ交付、訂正又ハ書換ヲ受ケタル者
二 詐偽其ノ他ノ不正行為ヲ以テ海員ノ雇入契約ニ関スル公認ヲ受ケタル者
三 他人ノ船員手帳ヲ行使シタル者
第五十一条 船長ガ船内ニ在ル者ニ対シ其ノ職権ヲ濫用シ又ハ虐待ヲ為シタルトキハ六月以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第五十二条 船長ガ第九条ノ規定ニ違反シ船舶ヲ去リタルトキハ五年以下ノ懲役ニ処ス
第五十三条 船長ガ第十条ノ規定ニ違反シ人命及船舶ノ救助ニ必要ナル手段ヲ尽サザルトキハ三年以下ノ懲役又ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
第五十四条 船長ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ二年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
一 第十一条ノ規定ニ違反シ人命ノ救助ニ必要ナル手段ヲ尽サザルトキ
二 正当ノ事由ナクシテ船舶ヲ遺棄シタルトキ
三 正当ノ事由ナクシテ外国ニ於テ海員ヲ遺棄シタルトキ
第五十五条 船長ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第八条ノ規定ニ違反シ自ラ船舶ヲ指揮セザルトキ
二 第十条ノ規定ニ違反シ告知ヲ為サザルトキ
三 第十四条第一項ノ規定ニ違反シ送還命令ヲ拒ミタルトキ
四 第十五条ノ規定ニ違反シ報告ヲ為サズ又ハ虚偽ノ報告ヲ為シタルトキ
五 第十八条ノ規定ニ違反シ公認ヲ受ケザルトキ
六 商法第五百六十一条ノ規定ニ違反シ検査ヲ為サザルトキ
七 商法第五百六十二条第一項ノ規定ニ違反シ書類ヲ備置カズ又ハ同条同項第二号乃至第五号ニ掲グル書類ニ記載スベキ事項ヲ記載セズ若ハ虚偽ノ記載ヲ為シタルトキ
八 商法第五百六十三条ノ規定ニ違反シ船舶ヲ去リタルトキ
九 商法第五百六十四条ノ規定ニ違反シ予定ノ航路ヲ変更シタルトキ
第五十六条 船長ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第十二条ノ規定ニ基キテ発スル命令ニ違反シ水葬ニ付シタルトキ
二 第十三条ノ規定ニ違反シ遺留品ノ保管ヲ為サザルトキ
第五十七条 海員ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ二年以下ノ懲役ニ処ス
一 船舶ニ急迫ノ危険アル場合ニ於テ船長ノ許可ヲ得ズシテ之ヲ去リタルトキ
二 第九条乃至第十一条ニ規定スル場合ニ於テ船長ガ人命、船舶又ハ積荷ノ救助ニ必要ナル手段ヲ為スニ当リ上長ノ命令ニ服従セザルトキ
三 第二十三条第三項ニ規定スル場合ニ於テ人命、船舶又ハ積荷ノ応急救助ノ為必要ナル労務ニ服セザルトキ
第五十八条 海員ガ上長ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ為シタルトキハ二年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
第五十九条 海員ガ脱船シタルトキハ一年以下ノ懲役ニ処ス
第六十条 左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テ船員ガ労働争議ニ関シ団結シテ労務ヲ中止シ又ハ作業ノ進行ヲ阻害シタルトキハ一年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 船舶ガ外国ノ港ニ在ルトキ
二 人命又ハ船舶ニ直接ノ危険ヲ及ボス虞アルトキ
三 船員又ハ其ノ代表者ガ相手方ニ対シ争議事項ニ関シ交渉ヲ開始シタル後一週間ヲ経過シ且二十四時間前ニ予告ヲ為シタルニ非ザルトキ
第六十一条 船舶所有者ガ第二十条乃至第二十二条、第二十九条又ハ第三十条ノ規定ニ基キテ発スル勅令ニ違反シタルトキハ千円以下ノ罰金ニ処ス
第六十二条 船舶所有者又ハ乗組員ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 管海官庁ノ命令ニ違反シ書類帳簿ノ提出ヲ為サズ又ハ報告ヲ為サズ若ハ虚偽ノ報告ヲ為シタルトキ
二 管海官庁ノ呼出ニ応ゼズ又ハ管海官庁若ハ当該官吏ノ質問ニ対シ答弁ヲ為サズ若ハ虚偽ノ陳述ヲ為シタルトキ
三 当該官吏ノ臨検ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタルトキ
四 第四十二条第二項ニ規定スル管海官庁ノ処分ニ違反シタルトキ
第六十三条 本章中船長ニ適用スベキ規定ハ船長ニ代リテ其ノ職務ヲ行フ者アル場合ニ於テハ其ノ者ニ之ヲ適用ス
第六十四条 船舶所有者ハ其ノ代理人、雇人其ノ他ノ従業者ニ第二十条乃至第二十二条、第二十九条又ハ第三十条ノ規定ニ基キテ発スル勅令ニ違反スル所為アリタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ処罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第六十五条 船舶所有者ガ未成年者若ハ禁治産者ナル場合又ハ法人ナル場合ニ在リテハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依リ其ノ者ニ適用スベキ罰則ハ其ノ法定代理人又ハ法令ニ依リ法人ヲ代表スル者ニ之ヲ適用ス
前項ノ場合ニ於テハ懲役ノ刑ニ処スルコトヲ得ズ
第六十六条 本法及本法ニ基キテ発スル命令中船舶所有者ニ適用スベキ罰則ハ国又ハ北海道、府県、市町村其ノ他ノ公共団体ニハ之ヲ適用セズ
附 則
第六十七条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十八条 船員最低年齢法ハ之ヲ廃止ス
船舶安全法第二十八条中「遭難者救助、」ヲ削ル
商法第五百七十五条及第五編第二章第二節ハ之ヲ削除ス但シ商法其ノ他ノ法令ノ規定ノ適用上之ニ依ルベキ場合ニ於テハ仍其ノ効力ヲ有ス
第六十九条 本法施行前ニ生ジタル事項ニ付テハ仍従前ノ例ニ依ル但シ刑法第六条ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
第七十条 本法施行ノ際現ニ船員トシテ使用セラルル十四歳以上十五歳未満ノ者ヲ本法施行後引続キ使用スル場合ニ於テハ第四条ノ規定ヲ適用セズ
第七十一条 第一条第一項各号ニ掲グル船舶ノ乗組員ノ監督ニ関シ地方長官ノ設ケタル規則ニシテ本法施行ノ際現ニ存スルモノハ本法ニ依リテ主務大臣ノ認可ヲ受ケタルモノト看做ス