関税法
法令番号: 法律第六十一號
公布年月日: 明治32年3月14日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル關稅法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月十三日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
大藏大臣 伯爵 松方正義
法律第六十一號
關稅法
第一章
關稅ノ賦課及徵收
第二章
船舶
第三章
貨物
第一節
總則
第二節
輸出輸入及積戾
第三節
囘漕
第四節
郵便物
第五節
收容
第四章
稅關官吏ノ職權
第五章
異議及訴願
第六章
罰則
第七章
犯則事件ノ調査及處分
第八章
補則
關稅法
第一章 關稅ノ賦課及徵收
第一條 輸入貨物ニハ關稅定率法ニ依リ關稅ヲ課ス但シ條約ニ於テ特別ノ協定アル貨物ハ其ノ協定ニ依ル
通過ノ爲輸入スル貨物ニハ關稅ヲ課セス但シ輸入ノ際擔保トシテ稅金ニ相當スル金錢其ノ他ノ有價物ヲ提供スヘシ
第二條 輸入貨物損傷シタル爲減稅ヲ請フ者アルトキハ輸入免許前ニ限リ相當ノ減稅ヲ爲スコトヲ得
第三條 關稅ハ輸入申吿ノ日ニ於テ行ハルル法規ニ從ヒ徵收ス但シ保稅倉庫ニ庫入シタル貨物ノ關稅ハ庫入申吿ノ日、收容貨物ニシテ公賣ニ付スルモノノ關稅ハ公賣ノ日ニ於テ行ハルル法規ニ從ヒ徵收ス
第四條 關稅ハ輸入申吿者ヨリ之ヲ徵收ス但シ逋脫ヲ圖リ又ハ逋脫シタル關稅ハ犯則者ヨリ之ヲ徵收ス
第五條 關稅未納ノ貨物ハ其ノ關稅ノ擔保トス
關稅ノ徵收ハ總テ他ノ公課及債權ニ先ツモノトス
第六條 擔保ヲ提供シタル場合ニ於テ徵收スヘキ關稅ヲ納付セサルトキハ擔保ヲ以テ之ニ充ツ但シ金錢以外ノ擔保ハ之ヲ公賣ニ付シ關稅及公賣ノ費用ニ充テ殘金アルトキハ之ヲ擔保提供者ニ還付ス
第七條 關稅ノ徵收權ハ貨物輸入ノ日ヨリ滿二箇年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因テ消滅ス但シ逋脫ヲ圖リ又ハ逋脫シタル關稅ノ徵收權ハ此ノ限ニ在ラス
第八條 關稅ノ過誤納ニ因テ生スル請求權ハ關稅納付ノ日ヨリ滿二箇年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因テ消滅ス
第九條 前二條ノ期限內ニ爲シタル納稅吿知若ハ仕拂請求ハ時效ヲ中斷ス
第二章 船舶
第十條 外國貿易船開港ニ入港シタルトキハ船長ハ入港ノ時ヨリ二十四時以內ニ稅關ニ入港屆ヲ爲シ積荷目錄、艙口申吿書、船用品目錄及旅客氏名表ヲ提出スルト同時ニ船舶國籍證書及仕出港ノ出港免狀若ハ之ニ代ルヘキ書類ヲ預クヘシ
第十一條 沿海通航船外國貨物船卸ノ爲開港ニ入港シタルトキハ船長ハ入港ノ時ヨリ二十四時以內ニ其ノ貨物ノ積荷目錄ヲ稅關ニ提出スヘシ
第十二條 外國貨物ヲ積載セル船舶ハ稅關長ノ認許ヲ得タル場合ノ外積荷目錄ヲ提出シタル後ニ非サレハ貨物ノ積卸ヲ爲スコトヲ得ス但シ旅客ノ携帶品及郵便物ハ此ノ限ニ在ラス
第十三條 外國貿易船開港ヲ出港セントスルトキハ船長ハ稅關ニ出港屆ヲ爲シ出港免許ヲ受クヘシ
第十四條 外國貿易船貨物ノ積卸ヲ爲サスシテ入港ノ時ヨリ二十四時以內ニ出港スルトキハ第十條及第十三條ノ規定ヲ適用セス
第十五條 沿海通航船外國貨物ヲ積載シテ開港ヲ出港セントスルトキハ船長ハ其ノ貨物ノ積荷目錄ヲ稅關ニ提出スヘシ
前項ノ積荷目錄ハ貨物ノ船卸ヲ爲スヘキ地ヲ異ニスル每ニ之ヲ調製スヘシ
第十六條 積荷目錄ハ其ノ提出ノ時ヨリ二十四時以內ニ限リ稅關ノ認許ヲ得テ之ヲ訂正補足スルコトヲ得
第十七條 外國貨物ヲ積載セル船舶ハ日沒ヨリ日出迄ノ間及稅關ノ休日ニハ稅關長ノ特許ヲ受クルニ非サレハ貨物ノ積卸ヲ爲スコトヲ得ス但シ旅客ノ携帶品及郵便物ハ此ノ限ニ在ラス
第十八條 外國貿易船ハ不開港ニ出入スルコトヲ得ス但シ海難其ノ他已ムヲ得サル事故アルトキハ此ノ限ニ在ラス
外國貿易船前項但書ノ事故ニ因リ不開港ニ入港シタルトキハ船長ハ直ニ其ノ事由ヲ稅關官吏、稅關官吏在ラサルトキハ警察官吏ニ屆出ツヘシ
第十九條 左ニ揭クル外國貨物ヲ不開港ヨリ開港ニ囘漕セントスル船舶ノ船長ハ稅關官吏、稅關官吏在ラサルトキハ警察官吏ノ認許ヲ受クヘシ
一 假ニ陸揚シタル貨物
二 運航ノ自由ヲ得サル船舶ニ積載セル貨物
三 難破貨物
第二十條 前條ノ貨物ヲ積載シ來リタル船舶開港ニ入港シタルトキハ船長ハ入港ノ時ヨリ二十四時以內ニ認許證ヲ稅關ニ提出スヘシ
第二十一條 外國貿易船船用品ヲ積入レントスルトキハ船長ハ稅關、稅關ノ設置ナキ地ニ於テハ稅關官吏、稅關官吏在ラサルトキハ警察官吏ニ申吿スヘシ
第二十二條 稅關官吏職務ノ爲船舶ニ乘込ムトキハ船長ハ相當ノ便宜ヲ與フヘシ
第二十三條 本法ニ於テ外國貿易船ト稱スルハ外國貿易ノ爲外國ニ往來スル船舶ヲ謂フ
第三章 貨物
第一節 總則
第二十四條 貨物ハ開港ニ由ルノ外輸出若ハ輸入ヲ爲スコトヲ得ス但シ左ニ揭クル場合ハ此ノ限ニ在ラス
一 遭難船舶ノ修繕救援若ハ救助ノ費用其ノ他航海ヲ繼續スルニ必要ナル費用ヲ支辨スル爲貨物ヲ賣却スルトキ
二 遭難船舶ニ積載セル損傷貨物若ハ腐敗シ易キ貨物ヲ讓渡スルトキ
三 遭難船舶若ハ難破貨物ヲ輸入スルトキ
四 遭難船舶ヨリ上陸シタル旅客ノ携帶品ヲ輸入スルトキ
第二十五條 貨物ノ檢査ヲ開始シタル後ハ貨物ニ關スル申吿書ノ訂正補足ヲ爲スコトヲ得ス
第二十六條 日沒ヨリ日出迄ノ間及稅關ノ休日ニハ稅關長ノ特許ヲ受クルニ非サレハ貨物ヲ稅關ニ送致シ又ハ貨物ノ引取、發送ヲ爲スコトヲ得ス但シ旅客ノ携帶品ハ此ノ限ニ在ラス
第二十七條 稅關ニ送致シ若ハ陸揚シタル貨物ノ取扱ハ總テ稅關長ノ指揮ニ從フヘシ
第二十八條 貨物ノ陸揚、船積其ノ他船舶ト陸地トノ交通ハ稅關長ノ特許ヲ得タル場合ノ外稅關ニ於テ定メタル場所ニ由ルヘシ
第二十九條 輸出シタル貨物ハ外國貨物トシ輸入シタル貨物ハ內國貨物トス
第三十條 貨物ニ關スル本法ノ規定ハ船用品ニ之ヲ適用セス
第二節 輸出、輸入及積戾
第三十一條 貨物ノ輸出若ハ輸入ヲ爲サントスル者ハ稅關ニ申吿シ貨物ノ檢査ヲ經テ其ノ免許ヲ受クヘシ但シ第二十四條但書ノ場合ニ於テハ稅關官吏、稅關官吏現場ニ在ラサルトキハ收稅官吏ニ申吿シ其ノ檢査及免許ヲ受クルコトヲ得
第三十二條 輸入申吿書ニハ仕入書ヲ添付スヘシ但シ當該官吏ニ於テ仕入書ヲ添付スルコト能ハサル理由アリト認ムルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項但書ノ場合ノ外輸入申吿書ニ仕入書ヲ添付セサルトキハ關稅ノ賦課ニ關シ異議ヲ申立テ若ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得ス
第三十三條 通過ノ爲貨物ノ輸入ヲ爲サントスルトキハ之ヲ輸出スヘキ地ヲ異ニスル每ニ其ノ目錄ヲ提出スヘシ
第三十四條 輸入貨物ハ輸入免許ヲ受ケタル後ニ非サレハ之ヲ引取リ若ハ通過ノ爲發送スルコトヲ得ス但シ當該官吏ノ認許ヲ得稅金ノ擔保トシテ金錢ヲ提供シタルトキハ輸入貨物ノ引取ヲ爲スコトヲ得
第三十五條 通過ノ爲輸入シタル貨物ノ運送ハ關稅通路ニ由ルヘシ關稅通路ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十六條 運送人ハ通過貨物ニ關シ職務ヲ執行スル官吏ニ對シ相當ノ便宜ヲ與フヘシ
第三十七條 輸出貨物ハ輸出免許ヲ受ケタル後ニ非サレハ之ヲ船積スルコトヲ得ス
第三十八條 外國貨物ノ積戾ニハ總テ輸出ニ關スル規定ヲ準用ス但シ假ニ陸揚シタル貨物ノ積戾ハ此ノ限ニ在ラス
第三節 囘漕
第三十九條 內外國貨物ヲ外國貿易船ニ又ハ外國貨物ヲ沿海通航船ニ積載シ開港間ニ囘漕セントスル者ハ稅關ニ申吿シ貨物ノ檢査ヲ經テ囘漕免許ヲ受クヘシ
第四十條 前條ノ囘漕貨物ハ囘漕免許ヲ受ケタル後ニ非サレハ之ヲ船積スルコトヲ得ス
第四十一條 第三十九條ノ囘漕貨物船卸ヲ爲スヘキ地ニ到達シタルトキハ貨物ノ檢査ヲ受クヘシ
第四節 郵便物
第四十二條 郵便物中關稅ヲ課スヘキ物品アルトキハ稅關ハ其ノ稅金額ヲ郵便局ヘ通知スヘシ
第四十三條 關稅ヲ課スヘキ郵便物ヲ受取ラントスル者ハ郵便局ニ申出テ其ノ關稅ヲ納付スヘシ
前項ノ關稅ハ印紙ヲ以テ納付スヘシ
第四十四條 郵便物ノ關稅ハ郵便物ヲ名宛人ニ交付スル場合ノ外之ヲ課セス
第四十五條 第一條第二項但書、第二十四條、第二十六條、第三十一條乃至第三十五條及第三十七條乃至第四十一條ノ規定ハ郵便物ニ之ヲ適用セス
第五節 收容
第四十六條 船積ノ爲稅關ニ送致シ若ハ陸揚シタル貨物ハ其ノ送致若ハ陸揚ノ時ヨリ七十二時以內ニ引取、船積、發送又ハ保稅倉庫ニ庫入ヲ爲ササルトキハ稅關ハ利害關係者ノ費用及危險ノ負擔ヲ以テ之ヲ收容スルコトヲ得
第四十七條 貨物ヲ收容シタルトキハ三日以內ニ其ノ旨ヲ揭示スヘシ
第四十八條 貨物收容ノ解除ヲ得ントスル者ハ稅關ニ申吿シ其ノ貨物ニ關スル一切ノ費用及敷料ヲ納メ免許ヲ受クヘシ
第四十九條 前條ノ免許ヲ受ケタル時ヨリ四十八時以內ニ貨物ノ引取、船積、發送又ハ保稅倉庫ニ庫入ヲ爲ササルトキハ前條ノ申吿及免許ハ無效トス
第五十條 貨物收容ノ日ヨリ六箇月以內ニ第四十八條ノ申吿ヲ爲ス者ナキトキハ稅關ハ其ノ記號、番號、種類、箇數ヲ公吿スヘシ
前項公吿ノ日ヨリ一箇月以內ニ仍第四十八條ノ申吿ヲ爲ス者ナキトキハ貨物ヲ競賣ニ付シ關稅、敷料其ノ他其ノ貨物ニ關スル一切ノ費用ニ充テ殘金アルトキハ之ヲ供託スヘシ
第五十一條 收容貨物腐敗ノ虞アルトキ又ハ倉庫若ハ他ノ貨物ヲ害スルノ虞アルトキハ前條ノ期限ニ拘ラス公吿シテ之ヲ競賣ニ付スルコトヲ得但シ公吿スルノ暇ナキトキハ競賣シタル後之ヲ公吿スヘシ
第五十二條 收容貨物ヲ競賣ニ付スルモ買受人ナキトキハ適宜之ヲ處分スルコトヲ得
第四章 稅關官吏ノ職權
第五十三條 稅關長ハ其ノ職權ノ執行ニ必要ト認ムルトキハ船車ノ出發ヲ差止メ又ハ進行ヲ停止スルコトヲ得
第五十四條 稅關長ハ必要ト認ムルトキハ船舶若ハ貨物ニ關スル書類ヲ提出セシムルコトヲ得
第五十五條 稅關長ハ運送貨物ニ對シ監督上必要ノ處分ヲ爲スコトヲ得
第五十六條 稅關長ハ必要ト認ムルトキハ輸出入貨物ノ見本ヲ納付セシムルコトヲ得
第五十七條 稅關官吏ハ船車ニ乘込ミ監督上必要ノ處分ヲ爲スコトヲ得
第五十八條 稅關官吏ハ必要ト認ムルトキハ貨物ヲ檢査若ハ封鎖シ又ハ船車倉庫其ノ他貨物ノ藏置場ヲ封鎖スルコトヲ得
第五十九條 稅關長ハ職權ノ執行ニ必要ト認ムルトキハ海軍ノ援助ヲ求ムルコトヲ得
第六十條 前條ノ請求アリタルトキハ海軍艦船長ハ船舶ニ對シ進行停止ノ命令ヲ爲スコトヲ得
前項ノ命令ヲ受ケタル船舶進行ヲ停止セサルトキハ海軍艦船長ハ其ノ船舶ニ對シ兵力ヲ用ウルコトヲ得
第五章 異議及訴願
第六十一條 關稅ノ賦課ニ關スル稅關長ノ處分ニ對シ不服アル者ハ其ノ處分ヲ受ケタル日ヨリ十日以內ニ文書ヲ以テ稅關長ニ異議ノ申立ヲ爲スコトヲ得但シ貨物ヲ引取リタル後ハ此ノ限ニ在ラス
第六十二條 前條ノ規定ニ依リ異議ノ申立アリタルトキハ稅關長ハ文書ヲ以テ之ヲ判定シ異議申立人ニ之ヲ交付スヘシ但シ第六十三條ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第六十三條 從價稅ヲ課スヘキ貨物ノ課稅價格ニ關スル異議ヲ不當ト認ムルトキハ稅關長ハ申吿價格ニ其ノ百分ノ五ヲ加ヘタル價格ヲ以テ其ノ貨物ヲ買上ルカ若ハ評價人ヲシテ評價セシムヘシ
評價人ノ評價額一致セサルトキハ其ノ平均ヲ以テ評價價格トス
第六十四條 評價人ハ四人トシ二人ハ稅關長之ヲ命シ二人ハ異議者之ヲ選定ス但シ左ニ揭クル者ハ評價人タルコトヲ得ス
一 身代限ノ處分ヲ受ケ債務ノ辨償ヲ終ヘサル者及家資分散若ハ破產ノ宣吿ヲ受ケ其ノ確定シタルトキヨリ復權ノ決定確定スルニ至ル迄ノ者
二 第七十四條乃至第七十六條ノ處罰ヲ受ケ滿三年ヲ經過セサル者
三 剝奪公權者及停止公權者
四 當該事件ニ利害ノ關係ヲ有スル者
異議者ニ於テ評價人ヲ選定シタルトキハ稅關長ノ認可ヲ受クヘシ
第六十五條 評價人ヲシテ評價セシメタルトキハ其ノ評價價格ヲ以テ課稅價格トス但シ評價價格申吿價格ヨリ少ナキトキハ申吿價格ヲ以テ課稅價格トス
第六十六條 異議者ノ選定シタル評價人ニ關スル費用ハ異議者ノ負擔トス
第六十七條 異議ノ申立ハ處分ノ執行ヲ停止セス但シ稅關長ハ必要ト認ムルトキハ其ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第六十八條 稅關長ノ處分ニ對シ不服アル者ハ大藏大臣ニ訴願スルコトヲ得
第六十九條 訴願ヲ審査セシムル爲委員會ヲ設ク
第七十條 委員會ハ委員過半數出席スルニ非サレハ決議ヲ爲スコトヲ得ス決議ハ出席委員ノ過半數ニ依リ之ヲ爲ス可否同數ナルトキハ會長ノ決スル所ニ依ル
第七十一條 委員ハ自己ノ利害ニ關スル議事ニ參與スルコトヲ得ス
第七十二條 委員會ニ於テ審査ヲ了シタルトキハ其ノ結果ヲ大藏大臣ニ具申スヘシ
第七十三條 委員會ノ組織ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六章 罰則
第七十四條 輸入禁制品ノ輸入ヲ圖リ又ハ其ノ輸入ヲ爲シタル者ハ犯罪ニ係ル貨物ノ原價ニ相當スル罰金若ハ科料ニ處シ其ノ貨物ヲ沒收ス但シ他ノ法律ニ於テ別ニ刑ヲ定メタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第七十五條 關稅ノ逋脫ヲ圖リ又ハ關稅ヲ逋脫シタル者ハ其ノ逋脫ヲ圖リ又ハ逋脫シタル稅金ノ三倍ニ相當スル罰金若ハ科料ニ處シ犯罪ニ係ル貨物ヲ沒收ス
第七十六條 免許ヲ受ケスシテ貨物ノ輸出若ハ輸入ヲ爲シ又ハ爲サントシタル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス但シ前二條ニ該當スルモノハ此ノ限ニ在ラス
第七十七條 貨物ト符合セサル積荷目錄ヲ提出シタルトキハ船長ヲ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第七十八條 第十八條第一項ノ規定ニ違反シタルトキハ船長ヲ二千圓以下ノ罰金ニ處ス但シ他ノ法律ニ於テ別ニ刑ヲ定メタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第七十九條 第十二條若ハ第十七條ノ規定ニ違反シタルトキハ船長ヲ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十條 第十條、第十一條、第十三條、第十五條、第十八條第二項、第十九條、第二十條若ハ第二十一條ノ規定ニ違反シタルトキハ船長ヲ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十一條 第二十六條乃至第二十八條第四十條若ハ第四十一條ノ規定ニ違反シタル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十二條 第七十七條乃至第八十一條ノ規定ニ該當スル者ハ不注意ニ出テタルノ故ヲ以テ處罰ヲ免ルルコトヲ得ス
第八十三條 本法ニ依リ沒收スヘキ貨物ハ犯則當時ノ所有者ノ所有ニ屬スル間ハ之ヲ沒收シ旣ニ之ヲ讓渡若ハ消費シタルトキハ其ノ價格ニ相當スル金額ヲ犯則者ヨリ徵收ス
第七章 犯則事件ノ調査及處分
第八十四條 稅關官吏ハ犯則ノ事實發見ノ爲必要ト認ムルトキハ船車倉庫其ノ他ノ場所ニ臨檢シ搜索ヲ爲スコトヲ得
第八十五條 稅關官吏ハ犯則ノ事實ヲ證明スルニ足ルヘキ物件ヲ身邊ニ藏匿スル者アリト思料シタルトキハ其ノ開示ヲ求メ若之ニ從ハサルトキハ身邊ノ搜索ヲ爲スコトヲ得
第八十六條 稅關官吏ハ犯則事件ノ調査ヲ爲スニ當リ必要ト認ムルトキハ犯則者證人參考人ヲ訊問スルコトヲ得
第八十七條 稅關官吏臨檢、搜索、訊問ヲ爲ストキハ制服ヲ著用シ又ハ其ノ資格ヲ證明スル證票ヲ携帶スヘシ
第八十八條 稅關官吏ハ臨檢、搜索ヲ爲スニ當リ必要ト認ムルトキハ警察官吏ノ援助ヲ求ムルコトヲ得
第八十九條 稅關官吏搜索ヲ爲ストキハ搜索スヘキ船車倉庫其ノ他ノ場所ノ所持人又ハ其ノ同居ノ親族、傭人、鄰佑若其ノ在ラサルトキハ其ノ地ノ警察官吏若ハ市町村吏員ヲシテ立會ハシムヘシ但シ船車ニ在テハ其ノ役員ヲシテ立會ハシムルコトヲ得
前項ノ親族、傭人若ハ鄰佑ハ成年者ナルヲ要ス
第九十條 稅關官吏犯則事件ノ調査ニ依リ發見シタル物件犯則ノ事實ヲ證明スルニ足ルヘシト思料シタルトキハ之ヲ差押ヘ差押目錄ヲ作ルヘシ
差押物件ハ便宜ニ依リ所持者若ハ市町村役場ニ保管セシムルコトヲ得
差押物件腐敗其ノ他損傷ノ虞アルトキハ稅關長ハ之ヲ公賣ニ付シ其ノ代金ヲ供託スルコトヲ得
第九十一條 臨檢搜索及物件差押ハ日沒ヨリ日出迄ノ間之ヲ爲スコトヲ得ス但シ現行犯ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第九十二條 稅關官吏ハ前數條ニ記載シタル處分中何人ニ限ラス許可ヲ得スシテ其ノ場所ニ出入スルヲ禁スルコトヲ得
第九十三條 稅關官吏臨檢、搜索、訊問ヲ爲シタルトキハ其ノ調書ヲ作リ立會人若ハ訊問ヲ受ケタル者ニ示シ共ニ署名スヘシ
立會人若ハ訊問ヲ受ケタル者署名セス又ハ署名スルコト能ハサルトキハ其ノ旨ヲ附記スヘシ
第九十四條 稅關長ハ犯則事件ノ調査ニ依リ犯則ノ心證ヲ得タルトキハ其ノ理由ヲ明示シ罰金若ハ科料ニ相當スル金額、沒收ニ該當スル物品若ハ徵收金ニ相當スル金額ヲ稅關ニ納付スヘキ旨ヲ通吿スヘシ
第九十五條 犯則者前條ノ通吿ヲ受ケタルトキハ其ノ日ヨリ五日以內ニ之ヲ履行スヘシ此ノ期間內ニ履行セサルトキハ稅關長ハ直ニ吿發スヘシ
第九十六條 犯則者通吿ノ旨ヲ履行シタルトキハ同一事件ニ付訴ヲ受クルコトナシ
第九十七條 稅關長ハ通吿ヲ爲シ難シト認ムルトキ若ハ通吿ノ旨ヲ履行スル資力ナシト認ムルトキハ直ニ吿發スヘシ
第八章 補則
第九十八條 船舶修繕ノ爲又ハ巨大重量ノ貨物ニシテ開港ニ於テ積卸シ難キ貨物ヲ陸揚スル爲必要ト認ムルトキハ當分ノ內稅關長ハ外國貿易船ノ不開港ニ出入スル特許ヲ與フルコトヲ得
第九十九條 從來ノ開港ノ外開港トナスヘキ場所及其ノ開港ニ於テ輸出若ハ輸入スヘキ貨物ノ種類ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第百條 本法ノ期間ヲ定ムルニ日時ヲ以テシタルモノハ其ノ期間中ニ稅關ノ休日ヲ算入セス
日ト稱スルハ二十四時ヲ謂ヒ月ト稱スルハ三十日ヲ謂ヒ年ト稱スルハ曆ニ從フ
第百一條 本法ノ規定中船長ニ適用スヘキモノハ船長ニ代リテ其ノ職務ヲ行フ者ニモ亦之ヲ適用ス
第百二條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第百三條 明治十六年布吿第四十號、特別輸出港規則、同二十三年勅令第五十四號、稅關法、稅關規則、同二十六年法律第十三號、同二十七年法律第二號、同年法律第三號、同二十九年法律第十八號其ノ他本法ニ牴觸スル法令ハ本法施行ノ日ヨリ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル関税法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月十三日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
大蔵大臣 伯爵 松方正義
法律第六十一号
関税法
第一章
関税ノ賦課及徴収
第二章
船舶
第三章
貨物
第一節
総則
第二節
輸出輸入及積戻
第三節
回漕
第四節
郵便物
第五節
収容
第四章
税関官吏ノ職権
第五章
異議及訴願
第六章
罰則
第七章
犯則事件ノ調査及処分
第八章
補則
関税法
第一章 関税ノ賦課及徴収
第一条 輸入貨物ニハ関税定率法ニ依リ関税ヲ課ス但シ条約ニ於テ特別ノ協定アル貨物ハ其ノ協定ニ依ル
通過ノ為輸入スル貨物ニハ関税ヲ課セス但シ輸入ノ際担保トシテ税金ニ相当スル金銭其ノ他ノ有価物ヲ提供スヘシ
第二条 輸入貨物損傷シタル為減税ヲ請フ者アルトキハ輸入免許前ニ限リ相当ノ減税ヲ為スコトヲ得
第三条 関税ハ輸入申告ノ日ニ於テ行ハルル法規ニ従ヒ徴収ス但シ保税倉庫ニ庫入シタル貨物ノ関税ハ庫入申告ノ日、収容貨物ニシテ公売ニ付スルモノノ関税ハ公売ノ日ニ於テ行ハルル法規ニ従ヒ徴収ス
第四条 関税ハ輸入申告者ヨリ之ヲ徴収ス但シ逋脱ヲ図リ又ハ逋脱シタル関税ハ犯則者ヨリ之ヲ徴収ス
第五条 関税未納ノ貨物ハ其ノ関税ノ担保トス
関税ノ徴収ハ総テ他ノ公課及債権ニ先ツモノトス
第六条 担保ヲ提供シタル場合ニ於テ徴収スヘキ関税ヲ納付セサルトキハ担保ヲ以テ之ニ充ツ但シ金銭以外ノ担保ハ之ヲ公売ニ付シ関税及公売ノ費用ニ充テ残金アルトキハ之ヲ担保提供者ニ還付ス
第七条 関税ノ徴収権ハ貨物輸入ノ日ヨリ満二箇年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因テ消滅ス但シ逋脱ヲ図リ又ハ逋脱シタル関税ノ徴収権ハ此ノ限ニ在ラス
第八条 関税ノ過誤納ニ因テ生スル請求権ハ関税納付ノ日ヨリ満二箇年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因テ消滅ス
第九条 前二条ノ期限内ニ為シタル納税告知若ハ仕払請求ハ時効ヲ中断ス
第二章 船舶
第十条 外国貿易船開港ニ入港シタルトキハ船長ハ入港ノ時ヨリ二十四時以内ニ税関ニ入港届ヲ為シ積荷目録、艙口申告書、船用品目録及旅客氏名表ヲ提出スルト同時ニ船舶国籍証書及仕出港ノ出港免状若ハ之ニ代ルヘキ書類ヲ預クヘシ
第十一条 沿海通航船外国貨物船卸ノ為開港ニ入港シタルトキハ船長ハ入港ノ時ヨリ二十四時以内ニ其ノ貨物ノ積荷目録ヲ税関ニ提出スヘシ
第十二条 外国貨物ヲ積載セル船舶ハ税関長ノ認許ヲ得タル場合ノ外積荷目録ヲ提出シタル後ニ非サレハ貨物ノ積卸ヲ為スコトヲ得ス但シ旅客ノ携帯品及郵便物ハ此ノ限ニ在ラス
第十三条 外国貿易船開港ヲ出港セントスルトキハ船長ハ税関ニ出港届ヲ為シ出港免許ヲ受クヘシ
第十四条 外国貿易船貨物ノ積卸ヲ為サスシテ入港ノ時ヨリ二十四時以内ニ出港スルトキハ第十条及第十三条ノ規定ヲ適用セス
第十五条 沿海通航船外国貨物ヲ積載シテ開港ヲ出港セントスルトキハ船長ハ其ノ貨物ノ積荷目録ヲ税関ニ提出スヘシ
前項ノ積荷目録ハ貨物ノ船卸ヲ為スヘキ地ヲ異ニスル毎ニ之ヲ調製スヘシ
第十六条 積荷目録ハ其ノ提出ノ時ヨリ二十四時以内ニ限リ税関ノ認許ヲ得テ之ヲ訂正補足スルコトヲ得
第十七条 外国貨物ヲ積載セル船舶ハ日没ヨリ日出迄ノ間及税関ノ休日ニハ税関長ノ特許ヲ受クルニ非サレハ貨物ノ積卸ヲ為スコトヲ得ス但シ旅客ノ携帯品及郵便物ハ此ノ限ニ在ラス
第十八条 外国貿易船ハ不開港ニ出入スルコトヲ得ス但シ海難其ノ他已ムヲ得サル事故アルトキハ此ノ限ニ在ラス
外国貿易船前項但書ノ事故ニ因リ不開港ニ入港シタルトキハ船長ハ直ニ其ノ事由ヲ税関官吏、税関官吏在ラサルトキハ警察官吏ニ届出ツヘシ
第十九条 左ニ掲クル外国貨物ヲ不開港ヨリ開港ニ回漕セントスル船舶ノ船長ハ税関官吏、税関官吏在ラサルトキハ警察官吏ノ認許ヲ受クヘシ
一 仮ニ陸揚シタル貨物
二 運航ノ自由ヲ得サル船舶ニ積載セル貨物
三 難破貨物
第二十条 前条ノ貨物ヲ積載シ来リタル船舶開港ニ入港シタルトキハ船長ハ入港ノ時ヨリ二十四時以内ニ認許証ヲ税関ニ提出スヘシ
第二十一条 外国貿易船船用品ヲ積入レントスルトキハ船長ハ税関、税関ノ設置ナキ地ニ於テハ税関官吏、税関官吏在ラサルトキハ警察官吏ニ申告スヘシ
第二十二条 税関官吏職務ノ為船舶ニ乗込ムトキハ船長ハ相当ノ便宜ヲ与フヘシ
第二十三条 本法ニ於テ外国貿易船ト称スルハ外国貿易ノ為外国ニ往来スル船舶ヲ謂フ
第三章 貨物
第一節 総則
第二十四条 貨物ハ開港ニ由ルノ外輸出若ハ輸入ヲ為スコトヲ得ス但シ左ニ掲クル場合ハ此ノ限ニ在ラス
一 遭難船舶ノ修繕救援若ハ救助ノ費用其ノ他航海ヲ継続スルニ必要ナル費用ヲ支弁スル為貨物ヲ売却スルトキ
二 遭難船舶ニ積載セル損傷貨物若ハ腐敗シ易キ貨物ヲ譲渡スルトキ
三 遭難船舶若ハ難破貨物ヲ輸入スルトキ
四 遭難船舶ヨリ上陸シタル旅客ノ携帯品ヲ輸入スルトキ
第二十五条 貨物ノ検査ヲ開始シタル後ハ貨物ニ関スル申告書ノ訂正補足ヲ為スコトヲ得ス
第二十六条 日没ヨリ日出迄ノ間及税関ノ休日ニハ税関長ノ特許ヲ受クルニ非サレハ貨物ヲ税関ニ送致シ又ハ貨物ノ引取、発送ヲ為スコトヲ得ス但シ旅客ノ携帯品ハ此ノ限ニ在ラス
第二十七条 税関ニ送致シ若ハ陸揚シタル貨物ノ取扱ハ総テ税関長ノ指揮ニ従フヘシ
第二十八条 貨物ノ陸揚、船積其ノ他船舶ト陸地トノ交通ハ税関長ノ特許ヲ得タル場合ノ外税関ニ於テ定メタル場所ニ由ルヘシ
第二十九条 輸出シタル貨物ハ外国貨物トシ輸入シタル貨物ハ内国貨物トス
第三十条 貨物ニ関スル本法ノ規定ハ船用品ニ之ヲ適用セス
第二節 輸出、輸入及積戻
第三十一条 貨物ノ輸出若ハ輸入ヲ為サントスル者ハ税関ニ申告シ貨物ノ検査ヲ経テ其ノ免許ヲ受クヘシ但シ第二十四条但書ノ場合ニ於テハ税関官吏、税関官吏現場ニ在ラサルトキハ収税官吏ニ申告シ其ノ検査及免許ヲ受クルコトヲ得
第三十二条 輸入申告書ニハ仕入書ヲ添付スヘシ但シ当該官吏ニ於テ仕入書ヲ添付スルコト能ハサル理由アリト認ムルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項但書ノ場合ノ外輸入申告書ニ仕入書ヲ添付セサルトキハ関税ノ賦課ニ関シ異議ヲ申立テ若ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得ス
第三十三条 通過ノ為貨物ノ輸入ヲ為サントスルトキハ之ヲ輸出スヘキ地ヲ異ニスル毎ニ其ノ目録ヲ提出スヘシ
第三十四条 輸入貨物ハ輸入免許ヲ受ケタル後ニ非サレハ之ヲ引取リ若ハ通過ノ為発送スルコトヲ得ス但シ当該官吏ノ認許ヲ得税金ノ担保トシテ金銭ヲ提供シタルトキハ輸入貨物ノ引取ヲ為スコトヲ得
第三十五条 通過ノ為輸入シタル貨物ノ運送ハ関税通路ニ由ルヘシ関税通路ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十六条 運送人ハ通過貨物ニ関シ職務ヲ執行スル官吏ニ対シ相当ノ便宜ヲ与フヘシ
第三十七条 輸出貨物ハ輸出免許ヲ受ケタル後ニ非サレハ之ヲ船積スルコトヲ得ス
第三十八条 外国貨物ノ積戻ニハ総テ輸出ニ関スル規定ヲ準用ス但シ仮ニ陸揚シタル貨物ノ積戻ハ此ノ限ニ在ラス
第三節 回漕
第三十九条 内外国貨物ヲ外国貿易船ニ又ハ外国貨物ヲ沿海通航船ニ積載シ開港間ニ回漕セントスル者ハ税関ニ申告シ貨物ノ検査ヲ経テ回漕免許ヲ受クヘシ
第四十条 前条ノ回漕貨物ハ回漕免許ヲ受ケタル後ニ非サレハ之ヲ船積スルコトヲ得ス
第四十一条 第三十九条ノ回漕貨物船卸ヲ為スヘキ地ニ到達シタルトキハ貨物ノ検査ヲ受クヘシ
第四節 郵便物
第四十二条 郵便物中関税ヲ課スヘキ物品アルトキハ税関ハ其ノ税金額ヲ郵便局ヘ通知スヘシ
第四十三条 関税ヲ課スヘキ郵便物ヲ受取ラントスル者ハ郵便局ニ申出テ其ノ関税ヲ納付スヘシ
前項ノ関税ハ印紙ヲ以テ納付スヘシ
第四十四条 郵便物ノ関税ハ郵便物ヲ名宛人ニ交付スル場合ノ外之ヲ課セス
第四十五条 第一条第二項但書、第二十四条、第二十六条、第三十一条乃至第三十五条及第三十七条乃至第四十一条ノ規定ハ郵便物ニ之ヲ適用セス
第五節 収容
第四十六条 船積ノ為税関ニ送致シ若ハ陸揚シタル貨物ハ其ノ送致若ハ陸揚ノ時ヨリ七十二時以内ニ引取、船積、発送又ハ保税倉庫ニ庫入ヲ為ササルトキハ税関ハ利害関係者ノ費用及危険ノ負担ヲ以テ之ヲ収容スルコトヲ得
第四十七条 貨物ヲ収容シタルトキハ三日以内ニ其ノ旨ヲ掲示スヘシ
第四十八条 貨物収容ノ解除ヲ得ントスル者ハ税関ニ申告シ其ノ貨物ニ関スル一切ノ費用及敷料ヲ納メ免許ヲ受クヘシ
第四十九条 前条ノ免許ヲ受ケタル時ヨリ四十八時以内ニ貨物ノ引取、船積、発送又ハ保税倉庫ニ庫入ヲ為ササルトキハ前条ノ申告及免許ハ無効トス
第五十条 貨物収容ノ日ヨリ六箇月以内ニ第四十八条ノ申告ヲ為ス者ナキトキハ税関ハ其ノ記号、番号、種類、箇数ヲ公告スヘシ
前項公告ノ日ヨリ一箇月以内ニ仍第四十八条ノ申告ヲ為ス者ナキトキハ貨物ヲ競売ニ付シ関税、敷料其ノ他其ノ貨物ニ関スル一切ノ費用ニ充テ残金アルトキハ之ヲ供託スヘシ
第五十一条 収容貨物腐敗ノ虞アルトキ又ハ倉庫若ハ他ノ貨物ヲ害スルノ虞アルトキハ前条ノ期限ニ拘ラス公告シテ之ヲ競売ニ付スルコトヲ得但シ公告スルノ暇ナキトキハ競売シタル後之ヲ公告スヘシ
第五十二条 収容貨物ヲ競売ニ付スルモ買受人ナキトキハ適宜之ヲ処分スルコトヲ得
第四章 税関官吏ノ職権
第五十三条 税関長ハ其ノ職権ノ執行ニ必要ト認ムルトキハ船車ノ出発ヲ差止メ又ハ進行ヲ停止スルコトヲ得
第五十四条 税関長ハ必要ト認ムルトキハ船舶若ハ貨物ニ関スル書類ヲ提出セシムルコトヲ得
第五十五条 税関長ハ運送貨物ニ対シ監督上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
第五十六条 税関長ハ必要ト認ムルトキハ輸出入貨物ノ見本ヲ納付セシムルコトヲ得
第五十七条 税関官吏ハ船車ニ乗込ミ監督上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
第五十八条 税関官吏ハ必要ト認ムルトキハ貨物ヲ検査若ハ封鎖シ又ハ船車倉庫其ノ他貨物ノ蔵置場ヲ封鎖スルコトヲ得
第五十九条 税関長ハ職権ノ執行ニ必要ト認ムルトキハ海軍ノ援助ヲ求ムルコトヲ得
第六十条 前条ノ請求アリタルトキハ海軍艦船長ハ船舶ニ対シ進行停止ノ命令ヲ為スコトヲ得
前項ノ命令ヲ受ケタル船舶進行ヲ停止セサルトキハ海軍艦船長ハ其ノ船舶ニ対シ兵力ヲ用ウルコトヲ得
第五章 異議及訴願
第六十一条 関税ノ賦課ニ関スル税関長ノ処分ニ対シ不服アル者ハ其ノ処分ヲ受ケタル日ヨリ十日以内ニ文書ヲ以テ税関長ニ異議ノ申立ヲ為スコトヲ得但シ貨物ヲ引取リタル後ハ此ノ限ニ在ラス
第六十二条 前条ノ規定ニ依リ異議ノ申立アリタルトキハ税関長ハ文書ヲ以テ之ヲ判定シ異議申立人ニ之ヲ交付スヘシ但シ第六十三条ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第六十三条 従価税ヲ課スヘキ貨物ノ課税価格ニ関スル異議ヲ不当ト認ムルトキハ税関長ハ申告価格ニ其ノ百分ノ五ヲ加ヘタル価格ヲ以テ其ノ貨物ヲ買上ルカ若ハ評価人ヲシテ評価セシムヘシ
評価人ノ評価額一致セサルトキハ其ノ平均ヲ以テ評価価格トス
第六十四条 評価人ハ四人トシ二人ハ税関長之ヲ命シ二人ハ異議者之ヲ選定ス但シ左ニ掲クル者ハ評価人タルコトヲ得ス
一 身代限ノ処分ヲ受ケ債務ノ弁償ヲ終ヘサル者及家資分散若ハ破産ノ宣告ヲ受ケ其ノ確定シタルトキヨリ復権ノ決定確定スルニ至ル迄ノ者
二 第七十四条乃至第七十六条ノ処罰ヲ受ケ満三年ヲ経過セサル者
三 剥奪公権者及停止公権者
四 当該事件ニ利害ノ関係ヲ有スル者
異議者ニ於テ評価人ヲ選定シタルトキハ税関長ノ認可ヲ受クヘシ
第六十五条 評価人ヲシテ評価セシメタルトキハ其ノ評価価格ヲ以テ課税価格トス但シ評価価格申告価格ヨリ少ナキトキハ申告価格ヲ以テ課税価格トス
第六十六条 異議者ノ選定シタル評価人ニ関スル費用ハ異議者ノ負担トス
第六十七条 異議ノ申立ハ処分ノ執行ヲ停止セス但シ税関長ハ必要ト認ムルトキハ其ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第六十八条 税関長ノ処分ニ対シ不服アル者ハ大蔵大臣ニ訴願スルコトヲ得
第六十九条 訴願ヲ審査セシムル為委員会ヲ設ク
第七十条 委員会ハ委員過半数出席スルニ非サレハ決議ヲ為スコトヲ得ス決議ハ出席委員ノ過半数ニ依リ之ヲ為ス可否同数ナルトキハ会長ノ決スル所ニ依ル
第七十一条 委員ハ自己ノ利害ニ関スル議事ニ参与スルコトヲ得ス
第七十二条 委員会ニ於テ審査ヲ了シタルトキハ其ノ結果ヲ大蔵大臣ニ具申スヘシ
第七十三条 委員会ノ組織ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六章 罰則
第七十四条 輸入禁制品ノ輸入ヲ図リ又ハ其ノ輸入ヲ為シタル者ハ犯罪ニ係ル貨物ノ原価ニ相当スル罰金若ハ科料ニ処シ其ノ貨物ヲ没収ス但シ他ノ法律ニ於テ別ニ刑ヲ定メタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第七十五条 関税ノ逋脱ヲ図リ又ハ関税ヲ逋脱シタル者ハ其ノ逋脱ヲ図リ又ハ逋脱シタル税金ノ三倍ニ相当スル罰金若ハ科料ニ処シ犯罪ニ係ル貨物ヲ没収ス
第七十六条 免許ヲ受ケスシテ貨物ノ輸出若ハ輸入ヲ為シ又ハ為サントシタル者ハ千円以下ノ罰金ニ処ス但シ前二条ニ該当スルモノハ此ノ限ニ在ラス
第七十七条 貨物ト符合セサル積荷目録ヲ提出シタルトキハ船長ヲ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第七十八条 第十八条第一項ノ規定ニ違反シタルトキハ船長ヲ二千円以下ノ罰金ニ処ス但シ他ノ法律ニ於テ別ニ刑ヲ定メタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第七十九条 第十二条若ハ第十七条ノ規定ニ違反シタルトキハ船長ヲ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第八十条 第十条、第十一条、第十三条、第十五条、第十八条第二項、第十九条、第二十条若ハ第二十一条ノ規定ニ違反シタルトキハ船長ヲ二百円以下ノ罰金ニ処ス
第八十一条 第二十六条乃至第二十八条第四十条若ハ第四十一条ノ規定ニ違反シタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス
第八十二条 第七十七条乃至第八十一条ノ規定ニ該当スル者ハ不注意ニ出テタルノ故ヲ以テ処罰ヲ免ルルコトヲ得ス
第八十三条 本法ニ依リ没収スヘキ貨物ハ犯則当時ノ所有者ノ所有ニ属スル間ハ之ヲ没収シ既ニ之ヲ譲渡若ハ消費シタルトキハ其ノ価格ニ相当スル金額ヲ犯則者ヨリ徴収ス
第七章 犯則事件ノ調査及処分
第八十四条 税関官吏ハ犯則ノ事実発見ノ為必要ト認ムルトキハ船車倉庫其ノ他ノ場所ニ臨検シ捜索ヲ為スコトヲ得
第八十五条 税関官吏ハ犯則ノ事実ヲ証明スルニ足ルヘキ物件ヲ身辺ニ蔵匿スル者アリト思料シタルトキハ其ノ開示ヲ求メ若之ニ従ハサルトキハ身辺ノ捜索ヲ為スコトヲ得
第八十六条 税関官吏ハ犯則事件ノ調査ヲ為スニ当リ必要ト認ムルトキハ犯則者証人参考人ヲ訊問スルコトヲ得
第八十七条 税関官吏臨検、捜索、訊問ヲ為ストキハ制服ヲ著用シ又ハ其ノ資格ヲ証明スル証票ヲ携帯スヘシ
第八十八条 税関官吏ハ臨検、捜索ヲ為スニ当リ必要ト認ムルトキハ警察官吏ノ援助ヲ求ムルコトヲ得
第八十九条 税関官吏捜索ヲ為ストキハ捜索スヘキ船車倉庫其ノ他ノ場所ノ所持人又ハ其ノ同居ノ親族、傭人、隣佑若其ノ在ラサルトキハ其ノ地ノ警察官吏若ハ市町村吏員ヲシテ立会ハシムヘシ但シ船車ニ在テハ其ノ役員ヲシテ立会ハシムルコトヲ得
前項ノ親族、傭人若ハ隣佑ハ成年者ナルヲ要ス
第九十条 税関官吏犯則事件ノ調査ニ依リ発見シタル物件犯則ノ事実ヲ証明スルニ足ルヘシト思料シタルトキハ之ヲ差押ヘ差押目録ヲ作ルヘシ
差押物件ハ便宜ニ依リ所持者若ハ市町村役場ニ保管セシムルコトヲ得
差押物件腐敗其ノ他損傷ノ虞アルトキハ税関長ハ之ヲ公売ニ付シ其ノ代金ヲ供託スルコトヲ得
第九十一条 臨検捜索及物件差押ハ日没ヨリ日出迄ノ間之ヲ為スコトヲ得ス但シ現行犯ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第九十二条 税関官吏ハ前数条ニ記載シタル処分中何人ニ限ラス許可ヲ得スシテ其ノ場所ニ出入スルヲ禁スルコトヲ得
第九十三条 税関官吏臨検、捜索、訊問ヲ為シタルトキハ其ノ調書ヲ作リ立会人若ハ訊問ヲ受ケタル者ニ示シ共ニ署名スヘシ
立会人若ハ訊問ヲ受ケタル者署名セス又ハ署名スルコト能ハサルトキハ其ノ旨ヲ附記スヘシ
第九十四条 税関長ハ犯則事件ノ調査ニ依リ犯則ノ心証ヲ得タルトキハ其ノ理由ヲ明示シ罰金若ハ科料ニ相当スル金額、没収ニ該当スル物品若ハ徴収金ニ相当スル金額ヲ税関ニ納付スヘキ旨ヲ通告スヘシ
第九十五条 犯則者前条ノ通告ヲ受ケタルトキハ其ノ日ヨリ五日以内ニ之ヲ履行スヘシ此ノ期間内ニ履行セサルトキハ税関長ハ直ニ告発スヘシ
第九十六条 犯則者通告ノ旨ヲ履行シタルトキハ同一事件ニ付訴ヲ受クルコトナシ
第九十七条 税関長ハ通告ヲ為シ難シト認ムルトキ若ハ通告ノ旨ヲ履行スル資力ナシト認ムルトキハ直ニ告発スヘシ
第八章 補則
第九十八条 船舶修繕ノ為又ハ巨大重量ノ貨物ニシテ開港ニ於テ積卸シ難キ貨物ヲ陸揚スル為必要ト認ムルトキハ当分ノ内税関長ハ外国貿易船ノ不開港ニ出入スル特許ヲ与フルコトヲ得
第九十九条 従来ノ開港ノ外開港トナスヘキ場所及其ノ開港ニ於テ輸出若ハ輸入スヘキ貨物ノ種類ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第百条 本法ノ期間ヲ定ムルニ日時ヲ以テシタルモノハ其ノ期間中ニ税関ノ休日ヲ算入セス
日ト称スルハ二十四時ヲ謂ヒ月ト称スルハ三十日ヲ謂ヒ年ト称スルハ暦ニ従フ
第百一条 本法ノ規定中船長ニ適用スヘキモノハ船長ニ代リテ其ノ職務ヲ行フ者ニモ亦之ヲ適用ス
第百二条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第百三条 明治十六年布告第四十号、特別輸出港規則、同二十三年勅令第五十四号、税関法、税関規則、同二十六年法律第十三号、同二十七年法律第二号、同年法律第三号、同二十九年法律第十八号其ノ他本法ニ牴触スル法令ハ本法施行ノ日ヨリ廃止ス