税関法
法令番号: 法律第八十號
公布年月日: 明治23年9月8日
法令の形式: 法律
朕稅關法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十三年十一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年九月六日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
大藏大臣 伯爵 松方正義
法律第八十號
稅關法
第一條 各開港ニ於テ西洋形船舶外國通航ノ日本形船舶ノ出入及貨物ノ輸出入ニ關スル事項ハ總テ稅關ノ所管トス
第二條 各開港外ニ於ケル外國貿易取締ニ關スル事項ハ其所管ノ稅關ニ於テ之ヲ處理ス
第三條 船舶ハ法律命令ニ特例ヲ揭ケタル場合ヲ除ク外不開港ヨリ外國ニ向テ出港シ若ハ外國ヨリ不開港ニ入港スルコトヲ得ス犯ス者ハ船長ヲ千圓ノ罰金ニ處ス
外國通航船ハ法律命令ニ特例ヲ揭ケタル場合ノ外開港ヲ經テ不開港ニ入港スルコトヲ得ス犯ス者ハ罰前項ニ同シ
第四條 外國ニ通航セントスル船舶ハ豫メ稅關長ノ認許ヲ受クヘシ其認許ヲ受ケスシテ外國ニ向テ出港シタル者ハ船主ヲ千圓ノ罰金ニ處ス其積載シタル貨物ハ之ヲ沒收ス
第五條 納稅ヲ逋脫若ハ減少センカ爲メ詐僞ノ文書ヲ稅關ニ差出シタル者ハ百二十五圓ノ罰金ニ處ス
第六條 輸入手數未濟ノ貨物ヲ積載シタル沿海通航船ヨリ稅關規則ニ依リ仕向港稅關ニ差出シタル積荷目錄仕出港稅關ニ差出シタル積荷目錄ニ對シ貨物不足アリテ其所爲不正ニ出タルトキハ船長ヲ千圓ノ罰金ニ處ス
第七條 稅關規則ニ依リ輸出禁制品ヲ開港間ニ囘漕スル者ハ同規則ニ定ムル期限內ニ仕向港稅關ノ陸揚證書ヲ仕出港稅關ニ差出スヘシ違フ者ハ原價同額ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第八條 稅關規則ニ依リ貨物ヲ開港間ニ囘漕シ其囘漕免狀ヲ紛失若ハ遺忘シタル者同規則ニ定ムル期限內ニ其手續ヲ爲サヽルトキハ其囘漕シタル貨物原價百分ノ五ニ相當スル罰金又ハ科料ニ處ス
第九條 積荷目錄ニ記載セサル輸入貨物ヲ陸揚シタル者ハ其貨物輸入稅ノ外同額ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第十條 輸出禁制品ヲ輸出シタル者又ハ法律命令ニ背キ不開港ニ於テ輸出入貨物ノ積卸ヲ爲シタル者ハ其貨物ヲ沒收ス
稅關規則ニ依リ陸揚免狀ヲ受ケスシテ貨物ヲ船卸シ船積免狀若ハ囘漕免狀ヲ受ケスシテ船積シ又ハ輸入免狀ヲ受ケスシテ輸入シタル者ハ其貨物ヲ沒收ス
第十一條 輸出入包貨內ニ禁制品ヲ藏匿シ又ハ輸出入申吿書若ハ仕入書ニ記載セサル有稅品ヲ藏匿シタルトキハ其包貨ヲ併セテ之ヲ沒收ス
旅具中ニ有稅品ヲ藏匿シタルトキハ其物品ヲ沒收ス
本條ヲ以テ刑法ノ適用ヲ妨クルコトナシ
第十二條 沒收スヘキ貨物ニシテ既ニ之ヲ賣却シ又ハ消費シタルトキハ其代金ヲ追徵ス
第十三條 稅關長ハ本法及稅關規則執行上必要ト認ムルトキハ船舶ノ出港ヲ止メ又ハ稅關監吏ニ令狀ヲ發シ輸出入貨物及運送ノ用ニ供スル物件ヲ差押ヘシムルコトヲ得
第十四條 稅關監吏ハ入港ノ船舶ニ乘込ミ要件ヲ尋問シ船內ヲ檢査シ又ハ其船舶ニ臨監スルコトヲ得
船長ハ臨監ノ監吏ニ船室ヲ與ヘ相當ノ取扱ヲ爲スヘシ
第十五條 稅關監吏ハ密輸入品アルヲ知リ若ハ密輸入品アリト思料スルトキハ家屋及其他ノ場所ニ立入リ犯則ノ證憑搜査ノ處分ヲ爲スコトヲ得
前條及本條ノ場合ニ於テ稅關監吏ハ主任タルノ證票ヲ携帶スヘシ
第十六條 稅關長ハ本法及稅關規則ヲ犯シタル者ニ對シ其罰金若ハ科料ニ相當スル金額又ハ沒收スヘキ貨物及犯則取調ニ要シタル費用ヲ稅關ニ納ムヘキ旨ヲ申渡スコトヲ得
第十七條 前條ノ申渡ヲ受ケタル者ハ稅關休日ヲ除キ二日內ニ其申渡ニ服從スルヤ否ノ屆書ヲ差出スヘシ
申渡ニ服從スル旨ヲ屆出タルトキハ貨物ハ卽日金額ハ十日內ニ納ムヘシ
申渡ニ服從セサル旨ヲ屆出若ハ第一項ノ期限內ニ屆出ヲ爲サス又ハ金額貨物ヲ納メサルトキハ稅關長ハ其犯則事件ヲ吿發スヘシ
第十八條 稅關長犯則事件ノ取調ヲ爲ストキハ犯則人及證人關係人ヲ召喚スルコトヲ得
稅關長ハ犯則人及證人關係人召喚ニ應セス又ハ證人タルコトヲ拒ミ又ハ事實ノ申吿ヲ爲サヽルニ因リ第十六條ノ申渡ヲ爲シ難キトキハ其犯則事件ヲ吿發スヘシ
第十九條 稅關長ノ處分スル犯則事件取調ノ費用ハ刑事裁判ノ例ニ依テ之ヲ算定ス
第二十條 本法及稅關規則ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ減輕再犯加重數罪俱發ノ例ヲ用ヒス
第二十一條 本法ニ規定スル所ノ外外國通航船沿海通航船及輸出入貨物竝ニ減稅免稅假納稅ニ關ル事項ハ稅關規則ヲ以テ之ヲ規定ス
稅關規則ニハ百圓以下ノ罰金又ハ科料ノ罰則ヲ設クルコトヲ得
第二十二條 稅關規則ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
明治三年正月二十七日布吿商船規則中免許ナク外國ヘ通船ノ儀不相成云々ノ一項及同七年第百二十三號同八年第二十號同年第百六十三號同九年第百四十九號布吿ハ本法施行ノ日ヨリ廢止ス
朕税関法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十三年十一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年九月六日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
大蔵大臣 伯爵 松方正義
法律第八十号
税関法
第一条 各開港ニ於テ西洋形船舶外国通航ノ日本形船舶ノ出入及貨物ノ輸出入ニ関スル事項ハ総テ税関ノ所管トス
第二条 各開港外ニ於ケル外国貿易取締ニ関スル事項ハ其所管ノ税関ニ於テ之ヲ処理ス
第三条 船舶ハ法律命令ニ特例ヲ掲ケタル場合ヲ除ク外不開港ヨリ外国ニ向テ出港シ若ハ外国ヨリ不開港ニ入港スルコトヲ得ス犯ス者ハ船長ヲ千円ノ罰金ニ処ス
外国通航船ハ法律命令ニ特例ヲ掲ケタル場合ノ外開港ヲ経テ不開港ニ入港スルコトヲ得ス犯ス者ハ罰前項ニ同シ
第四条 外国ニ通航セントスル船舶ハ予メ税関長ノ認許ヲ受クヘシ其認許ヲ受ケスシテ外国ニ向テ出港シタル者ハ船主ヲ千円ノ罰金ニ処ス其積載シタル貨物ハ之ヲ没収ス
第五条 納税ヲ逋脱若ハ減少センカ為メ詐偽ノ文書ヲ税関ニ差出シタル者ハ百二十五円ノ罰金ニ処ス
第六条 輸入手数未済ノ貨物ヲ積載シタル沿海通航船ヨリ税関規則ニ依リ仕向港税関ニ差出シタル積荷目録仕出港税関ニ差出シタル積荷目録ニ対シ貨物不足アリテ其所為不正ニ出タルトキハ船長ヲ千円ノ罰金ニ処ス
第七条 税関規則ニ依リ輸出禁制品ヲ開港間ニ回漕スル者ハ同規則ニ定ムル期限内ニ仕向港税関ノ陸揚証書ヲ仕出港税関ニ差出スヘシ違フ者ハ原価同額ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第八条 税関規則ニ依リ貨物ヲ開港間ニ回漕シ其回漕免状ヲ紛失若ハ遺忘シタル者同規則ニ定ムル期限内ニ其手続ヲ為サヽルトキハ其回漕シタル貨物原価百分ノ五ニ相当スル罰金又ハ科料ニ処ス
第九条 積荷目録ニ記載セサル輸入貨物ヲ陸揚シタル者ハ其貨物輸入税ノ外同額ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第十条 輸出禁制品ヲ輸出シタル者又ハ法律命令ニ背キ不開港ニ於テ輸出入貨物ノ積卸ヲ為シタル者ハ其貨物ヲ没収ス
税関規則ニ依リ陸揚免状ヲ受ケスシテ貨物ヲ船卸シ船積免状若ハ回漕免状ヲ受ケスシテ船積シ又ハ輸入免状ヲ受ケスシテ輸入シタル者ハ其貨物ヲ没収ス
第十一条 輸出入包貨内ニ禁制品ヲ蔵匿シ又ハ輸出入申告書若ハ仕入書ニ記載セサル有税品ヲ蔵匿シタルトキハ其包貨ヲ併セテ之ヲ没収ス
旅具中ニ有税品ヲ蔵匿シタルトキハ其物品ヲ没収ス
本条ヲ以テ刑法ノ適用ヲ妨クルコトナシ
第十二条 没収スヘキ貨物ニシテ既ニ之ヲ売却シ又ハ消費シタルトキハ其代金ヲ追徴ス
第十三条 税関長ハ本法及税関規則執行上必要ト認ムルトキハ船舶ノ出港ヲ止メ又ハ税関監吏ニ令状ヲ発シ輸出入貨物及運送ノ用ニ供スル物件ヲ差押ヘシムルコトヲ得
第十四条 税関監吏ハ入港ノ船舶ニ乗込ミ要件ヲ尋問シ船内ヲ検査シ又ハ其船舶ニ臨監スルコトヲ得
船長ハ臨監ノ監吏ニ船室ヲ与ヘ相当ノ取扱ヲ為スヘシ
第十五条 税関監吏ハ密輸入品アルヲ知リ若ハ密輸入品アリト思料スルトキハ家屋及其他ノ場所ニ立入リ犯則ノ証憑捜査ノ処分ヲ為スコトヲ得
前条及本条ノ場合ニ於テ税関監吏ハ主任タルノ証票ヲ携帯スヘシ
第十六条 税関長ハ本法及税関規則ヲ犯シタル者ニ対シ其罰金若ハ科料ニ相当スル金額又ハ没収スヘキ貨物及犯則取調ニ要シタル費用ヲ税関ニ納ムヘキ旨ヲ申渡スコトヲ得
第十七条 前条ノ申渡ヲ受ケタル者ハ税関休日ヲ除キ二日内ニ其申渡ニ服従スルヤ否ノ届書ヲ差出スヘシ
申渡ニ服従スル旨ヲ届出タルトキハ貨物ハ即日金額ハ十日内ニ納ムヘシ
申渡ニ服従セサル旨ヲ届出若ハ第一項ノ期限内ニ届出ヲ為サス又ハ金額貨物ヲ納メサルトキハ税関長ハ其犯則事件ヲ告発スヘシ
第十八条 税関長犯則事件ノ取調ヲ為ストキハ犯則人及証人関係人ヲ召喚スルコトヲ得
税関長ハ犯則人及証人関係人召喚ニ応セス又ハ証人タルコトヲ拒ミ又ハ事実ノ申告ヲ為サヽルニ因リ第十六条ノ申渡ヲ為シ難キトキハ其犯則事件ヲ告発スヘシ
第十九条 税関長ノ処分スル犯則事件取調ノ費用ハ刑事裁判ノ例ニ依テ之ヲ算定ス
第二十条 本法及税関規則ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ減軽再犯加重数罪俱発ノ例ヲ用ヒス
第二十一条 本法ニ規定スル所ノ外外国通航船沿海通航船及輸出入貨物並ニ減税免税仮納税ニ関ル事項ハ税関規則ヲ以テ之ヲ規定ス
税関規則ニハ百円以下ノ罰金又ハ科料ノ罰則ヲ設クルコトヲ得
第二十二条 税関規則ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
明治三年正月二十七日布告商船規則中免許ナク外国ヘ通船ノ儀不相成云々ノ一項及同七年第百二十三号同八年第二十号同年第百六十三号同九年第百四十九号布告ハ本法施行ノ日ヨリ廃止ス