母子福祉法
法令番号: 法律第129号
公布年月日: 昭和39年7月1日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

昭和39年時点で約95万世帯存在する母子家庭の中には、経済面や社会生活面で不安定な状態に置かれているものが多く、児童の養育や家庭生活の健全性が損なわれる要因が内在している。このような母子問題の重要性に鑑み、母子福祉に関する施策を整備し、関連諸施策の充実・強化と相まって母子福祉施策を推進するため、本法案を提出した。本法案では、母子福祉の基本理念として、すべての母子家庭において児童が健全に育成される諸条件と母の健康で文化的な生活が保障されるべきことを明らかにし、母と子の福祉を一体として保障することを目指している。

参照した発言:
第46回国会 衆議院 社会労働委員会 第13号

審議経過

第46回国会

参議院
(昭和39年2月25日)
衆議院
(昭和39年2月26日)
参議院
(昭和39年3月17日)
衆議院
(昭和39年5月6日)
(昭和39年5月7日)
(昭和39年5月13日)
(昭和39年5月15日)
参議院
(昭和39年6月2日)
(昭和39年6月9日)
(昭和39年6月12日)
衆議院
(昭和39年6月16日)
母子福祉法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十九年七月一日
内閣総理大臣 池田勇人
法律第百二十九号
母子福祉法
目次
第一章
総則(第一条―第九条)
第二章
福祉の措置(第十条―第十九条)
第三章
母子福祉施設(第二十条―第二十二条)
第四章
雑則(第二十三条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、母子家庭の福祉に関する原理を明らかにするとともに、母子家庭に対し、その生活の安定と向上のために必要な措置を講じ、もつて母子家庭の福祉を図ることを目的とする。
(基本理念)
第二条 すべて母子家庭には、児童が、そのおかれている環境にかかわらず、心身ともにすこやかに育成されるために必要な諸条件と、その母の健康で文化的な生活とが保障されるものとする。
(国及び地方公共団体の責務)
第三条 国及び地方公共団体は、母子家庭の福祉を増進する責務を有する。
2 国及び地方公共団体は、母子家庭の福祉に関係のある施策を講ずるに当たつては、その施策を通じて、前条に規定する理念が具現されるように配慮しなければならない。
(自立への努力)
第四条 母子家庭の母は、みずからすすんでその自立を図り、家庭生活の安定と向上に努めなければならない。
(定義)
第五条 この法律において「配偶者のない女子」とは、配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)と死別した女子であつて、現に婚姻(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。以下同じ。)をしていないもの及びこれに準ずる次に掲げる女子をいう。
一 離婚した女子であつて現に婚姻をしていないもの
二 配偶者の生死が明らかでない女子
三 配偶者から遺棄されている女子
四 配偶者が海外にあるためその扶養を受けることができない女子
五 配偶者が精神又は身体の障害により長期にわたつて労働能力を失つている女子
六 前各号に掲げる者に準ずる女子であつて政令で定めるもの
2 この法律において「児童」とは、二十歳に満たない者をいう。
3 この法律において「母子福祉団体」とは、配偶者のない女子であつて民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百七十七条の規定により現に児童を扶養しているもの(以下「配偶者のない女子で現に児童を扶養しているもの」という。)の福祉を増進することを主たる目的とする社会福祉法人又は民法第三十四条の規定により設立された法人であつて、その理事の過半数が配偶者のない女子であるものをいう。
(児童福祉審議会の権限)
第六条 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第八条に規定する児童福祉審議会は、母子家庭の福祉に関する事項につき、調査審議するほか、中央児童福祉審議会は厚生大臣の、都道府県児童福祉審議会は都道府県知事の、市町村児童福祉審議会は市町村長の諮問にそれぞれ答え、又は関係行政機関に意見を具申することができる。
(母子相談員)
第七条 都道府県に母子相談員を置く。
2 母子相談員は、配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものに対し、身上相談に応じ、その自立に必要な指導を行なう等母子家庭の福祉の増進に努めるものとする。
3 母子相談員は、社会的信望があり、かつ、前項に規定する母子相談員の職務を行なうに必要な熱意と識見を持つている者のうちから、都道府県知事が任命する。
4 母子相談員は、非常勤とする。ただし、第二項に規定する職務につき政令で定める相当の知識経験を有する者については、常勤とすることができる。
(福祉事務所)
第八条 福祉事務所(社会福祉事業法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)は、この法律の施行に関し、主として次の業務を行なうものとする。
一 母子家庭の福祉に関し、必要な実情の把握に努めること
二 母子家庭の福祉に関する相談に応じ、必要な調査及び指導を行なうこと、並びにこれらに附随する業務を行なうこと。
(児童委員の協力)
第九条 児童福祉法に定める児童委員は、この法律の施行について、福祉事務所の長又は母子相談員の行なう職務に協力するものとする。
第二章 福祉の措置
(資金の貸付け)
第十条 都道府県は、配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものに対し、その経済的自立の助成と生活意欲の助長を図り、あわせてその扶養している児童の福祉を増進するため、次に掲げる資金を貸し付けることができる。
一 事業を開始し、又は継続するのに必要な資金
二 配偶者のない女子が扶養している児童の修学(これに引き続く実地修練を含む。)に必要な資金
三 配偶者のない女子又はその者が扶養している児童が事業を開始し、又は就職するために必要な知識技能を習得するのに必要な資金
四 前三号に掲げるもののほか、配偶者のない女子及びその者が扶養している児童の福祉のために必要な資金であつて政令で定めるもの
2 都道府県は、前項に規定する資金のうち、その貸付けの目的を達成するために一定の期間継続して貸し付ける必要がある資金で政令で定めるものについては、その貸付けの期間中に当該児童が二十歳に達した後でも、政令で定めるところにより、なお継続してその貸付けを行なうことができる。
3 都道府県は、第一項に規定する資金のうち、その貸付けの目的が児童の修学、知識技能の習得等に係る資金であつて政令で定めるものを貸し付けている場合において、その修学、知識技能の習得等の中途において当該資金の貸付けを受けている配偶者のない女子が死亡したときは、政令で定めるところにより、当該児童(二十歳以上である者を含む。)がその修学、知識技能の習得等を終了するまでの間、当該児童に対して、当該資金の貸付けを行なうことができる。
(母子福祉団体に対する貸付け)
第十一条 都道府県は、政令で定める事業を行なう母子福祉団体であつて、その事業に使用される者が主として配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものであるものに対し、当該事業につき、前条第一項第一号に掲げる資金を貸し付けることができる。
(償還の免除)
第十二条 都道府県は、貸付金の貸付けを受けた者が死亡したとき、又は精神若しくは身体に著しい障害を受けたため、貸付金を償還することができなくなったと認められるときは、都道府県児童福祉審議会の意見を聞き、かつ、議会の議決を経て、当該貸付金の償還未済額の全部又は一部の償還を免除することができる。ただし、政令で定める場合はこの限りでない。
(特別会計)
第十三条 都道府県は、この法律による貸付金の貸付けを行なうについては、特別会計を設けなければならない。
2 前項の特別会計においては、一般会計からの繰入金、次条第一項の規定による国からの借入金、貸付金の償還金(当該貸付金に係る政令で定める収入を含む。以下同じ。)及び附属雑収入をもつてその歳入とし、貸付金及び貸付けに関する事務に要する費用をもつてその歳出とする。
3 前項に規定する貸付けに関する事務に要する費用の額は、前項の規定に基づく政令で定める収入のうち収納済みとなつたものの二分の一に相当する額と、当該経費に充てるための一般会計からの繰入金の額との合計額をこえてはならない。
(国の貸付け)
第十四条 国は、都道府県が貸付金の財源として特別会計に繰り入れる金額の二倍に相当する金額を、無利子で、都道府県に貸し付けるものとする。
2 都道府県は、この法律による貸付金の貸付業務を廃止したときは、その際における未貸付額及びその後において支払を受けた貸付金の償還金の額に、それぞれ第一号に掲げる金額の第二号に掲げる金額に対する割合を乗じて得た金額の合計額を、政令で定めるところにより国に償還しなければならない。
一 前項の規定による国からの借入金の総額
二 前号に掲げる額と都道府県が貸付金の財源として特別会計に繰り入れた金額の総額との合計額
3 第一項の規定による貸付けの手続に関し必要な事項は、厚生省令で定める。
(政令への委任)
第十五条 第十条から第十三条までに定めるもののほか、貸付金の貸付金額の限度、貸付方法、償還その他貸付金に関して必要な事項は、政令で定める。
(売店等の設置の許可)
第十六条 国又は地方公共団体の設置した事務所その他の公共的施設の管理者は、配偶者のない女子で現に児童を扶養しているもの又は母子福祉団体からの申請があつたときは、その公共的施設内において、新聞、雑誌、たばこ、事務用品、食料品その他の物品を販売し、又は理容業、美容業等の業務を行なうために、売店又は理容所、美容所等の施設を設置することを許すように努めなければならない。
2 前項の規定により売店その他の施設を設置することを許された者は、病気その他正当な理由がある場合のほかは、みずからその業務に従事し、又は当額母子福祉団体が使用する配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものをその業務に従事させなければならない。
3 都道府県知事は、第一項に規定する売店その他の施設の設置及びその運営を円滑にするため、当該都道府県の区域内の公共的施設の管理者と協議を行ない、かつ、公共的施設内における売店等の設置の可能な場所、販売物品の種類等を調査し、その結果を配偶者のない女子で現に児童を扶養しているもの及び母子福祉団体に知らせる措置を講じなければならない。
(専売品販売の許可)
第十七条 日本専売公社は、配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものがたばこ専売法(昭和二十四年法律第百十一号)の規定による製造たばこの小売人の指定を申請したときは、同法第三十一条第一項各号の一に該当する場合を除き、その者を製造たばこの小売人に指定するように努めなければならない。
2 前条第二項の規定は、前項の規定により小売人に指定された者について準用する。
(公営住宅の供給に関する特別の配慮)
第十八条 地方公共団体は、公営住宅法(昭和二十六年法律第百九十三号)による公営住宅の供給を行なう場合には、母子家庭の福祉が増進されるように特別の配慮をしなければならない。
(母子家庭の母及び児童の雇用に関する協力)
第十九条 母子相談員その他母子家庭の福祉に関する機関及び公共職業安定所は、就職を希望する母子家庭の母及び児童の雇用の促進を図るため、相互に協力しなければならない。
第三章 母子福祉施設
(母子福祉施設)
第二十条 都道府県、市町村、社会福祉法人その他の者は、母子家庭の母及び児童が、その心身の健康を保持し、生活の向上を図るために利用する母子福祉施設を設置することができる。
(施設の種類)
第二十一条 母子福祉施設の種類は、次のとおりとする。
一 母子福祉センター
二 母子休養ホーム
2 母子福祉センターは、無料又は低額な料金で、母子家庭に対して、各種の相談に応ずるとともに、生活指導及び生業の指導を行なう等母子家庭の福祉のための便宜を総合的に供与することを目的とする施設とする。
3 母子休養ホームは、無料又は低額な料金で、母子家庭に対して、レクリエーシヨンその他休養のための便宜を供与することを目的とする施設とする。
(施設の設置)
第二十二条 市町村、社会福社法人その他の者が母子福祉施設を設置する場合には、社会福祉事業法の定めるところによらなければならない。
第四章 雑則
(大都市の特例)
第二十三条 この法律中都道府県が処理することとされている事務又は都道府県知事その他の都道府県の機関若しくは職員の権限に属するものとされている事務で政令で定めるものは、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)においては、政令で定めるところにより、指定都市が処理し、又は指定都市の長その他の機関若しくは職員が行なうものとする。この場合においては、この法律中都道府県又は都道府県知事その他の都道府県の機関若しくは職員に関する規定は、指定都市又は指定都市の長その他の機関若しくは職員に関する規定として、指定都市又は指定都市の長その他の機関若しくは職員に適用があるものとする。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第七条第四項ただし書の規定は、昭和四十年四月一日から施行する。
(母子福祉資金の貸付等に関する法律の廃止)
第二条 母子福祉資金の貸付等に関する法律(昭和二十七年法律第三百五十号。以下「旧法」という。)は、廃止する。
(経過規定)
第三条 都道府県は、当分の間、旧法第二条第二項に規定する父母のない児童に対して、第十条の規定の例により、同条に規定する資金で児童の福祉の増進のために必要なものを貸し付けることができる。
2 前項の規定により貸し付ける資金は、第十条の規定により貸し付ける資金とみなす。
第四条 この法律(附則第一条ただし書に係る部分を除く。次条において同じ。)の施行前に旧法第三条又は第三条の二の規定により貸し付けられた資金は、第十条又は第十一条の規定により貸し付けられた資金とみなす。
第五条 この法律の施行の際現に旧法第十五条の規定による母子相談員である者は、この法律の規定による母子相談員となるものとする。
(印紙税法の一部改正)
第六条 印紙税法(明治三十二年法律第五十四号)の一部を次のように改正する。
第五条第六号の八中「母子福祉資金の貸付等に関する法律」を「母子福祉法」に改める。
(地方自治法の一部改正)
第七条 地方自治法の一部を次のように改正する。
第二百五十二条の十九第一項第六号を次のように改める。
六 母子家庭の福祉に関する事務
(厚生省設置法の一部改正)
第八条 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第十三条第六号を次のように改める。
六 福祉に欠ける母子の福祉を図ること。
第二十九条第一項の表中央児童福祉審議会の項中「妊産婦」の下に「並びに母子家庭」を加える。
(社会福祉事業法の一部改正)
第九条 社会福祉事業法の一部を次のように改正する。
第一条中「児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)」の下に「、母子福祉法(昭和三十九年法律第百二十九号)」を加える。
第二条第三項中第二号の二を第二号の三とし、第二号の次に次の一号を加える。
二の二 母子福祉法にいう母子福祉施設を経営する事業
第十三条第六項、第十七条第三項、第十九条及び第二十条中「児童福祉法」の下に「、母子福祉法」を加える。
(入場税法の一部改正)
第十条 入場税法(昭和二十九年法律第九十六号)の一部を次のように改正する。
別表の主催者の欄中第十四号を第十五号とし、第十一号から第十三号までを一号ずつ繰り下げ、第十号の次に次の一号を加える。
一一 母子福祉法(昭和三十九年法律第百二十九号)による母子福祉施設(この表において「母子福祉施設」という。)を設置する者
別表の支出先又は支出の目的の欄中「児童福祉施設」の下に「、母子福祉施設」を加える。
(激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律の一部改正)
第十一条 激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(昭和三十七年法律第百五十号)の一部を次のように改正する。
第二十条の見出し中「母子福祉資金に関する」を「母子福祉法による」に改め、同条第一項中「母子福祉資金の貸付等に関する法律(昭和二十七年法律第三百五十号。以下この条において「貸付法」という。)」を「母子福祉法(昭和三十九年法律第百二十九号)」に、「第十三条第一項」を「第十四条第一項」に改め、同条第三項中「貸付法第十三条第一項」を「母子福祉法第十四条第一項」に改める。
内閣総理大臣 池田勇人
法務大臣 賀屋興宣
外務大臣 大平正芳
大蔵大臣 田中角栄
文部大臣 灘尾弘吉
厚生大臣 小林武治
農林大臣 赤城宗徳
通商産業大臣臨時代理 国務大臣 田中角栄
運輸大臣 綾部健太郎
郵政大臣 古池信三
労働大臣 大橋武夫
建設大臣 河野一郎
自治大臣 赤沢正道