第一條 港、湾、海峡その他の日本國の沿岸水域において海上の安全を確保し、並びに法律の違反を予防し、搜査し、及び鎭圧するため、運輸大臣の管理する外局として海上保安廳を置く。
河川の口にある港と河川との境界は、別に法律でこれを定める。
第二條 海上保安廳は、船舶の安全に関する法令の海上における励行、船舶職員の資格及び定員、海難救助、海難の調査、水先人、海上における犯罪の予防及び鎭圧、海上における犯人の搜査及び逮捕、水路、航路標識に関する事務その他海上の安全の確保に関する事務並びにこれらに附帶する事項に関する事務を掌る。
從來運輸大臣官房、運輸省海運総局の長官官房、海運局、船舶局及び船員局、海難審判所の理事官、燈台局、水路部並びにその他の行政機関の所掌に屬する事務で前項の事務に該当するものは、海上保安廳の所掌に移るものとする。
第三條 海上保安廳のすべての職員の任免、昇任、懲戒その他人事管理に関する事項については、國家公務員法の定めるところによる。
海上保安廳の職員の総数は、一万人を超えてはならない。
第四條 海上保安廳の船舶は、航路標識を維持し、密貿易を防止し、遭難船員に援助を與え、又は海難に際し人命及び財産を保護するのに適当な構造、設備及び性能を有する船舶でなければならない。
海上保安廳の船舶は、港内艇を除いて、その隻数において百二十五隻を超えてはならず、その全トン数において五万総トンを超えてはならず、又、そのいずれも千五百排水トンを超えてはならず、又、十五ノツト以上の速力を有するものであつてはならない。
海上保安廳の船舶は、番号及び他の船舶と明らかに識別し得るような標識を附し、國旗及び海上保安廳の旗を掲げなければならない。
第五條 海上保安廳に長官官房、保安局、水路局及び燈台局を置く。
海上保安廳長官は、運輸大臣の指揮監督を受け、廳務を統理し、所部の職員を指揮監督する。但し、運輸大臣以外の大臣又は法務総裁の所管に屬する事務については、各々その大臣又は法務総裁の指揮監督を受ける。
局長は、長官の命を受け、局務を掌理し、局中各課の事務を指揮監督する。
第十二條 運輸大臣は、必要と認める地に事務所を置き、海上保安廳の事務を分掌させることができる。
第十三條 海上保安廳水路局長は、水路告示を発することができる。
第十四條 第七條第二号乃至第五号及び第七号乃至第十三号に掲げる職務、水路の測量、海象の観測、燈台その他の航路標識の保守及び運用並びに氣象の観測の業務を行わせるため、海上保安廳に海上保安官を置く。
海上保安官は、第三條又は第三十六條の規定に從い任命された海上保安廳の職員の中から、運輸大臣が、これを命ずる。
第十五條 海上保安官がこの法律の定めるところにより法令の励行に関する事務を行う場合には、その権限については、当該海上保安官は、各々の法令の施行に関する事務を所管する行政官廳の当該官吏とみなされ、当該法令の励行に関する事務に関し行政官廳の制定する規則の適用を受けるものとする。
第十六條 海上保安官は、第七條第四号に掲げる職務を行うため必要があるとき、又は犯人を逮捕するに当り必要があるときは、附近にある人に対し協力を求めることができる。
第十七條 海上保安官は、その職務を行うため必要があるときは、船長又は船長に代つて船舶を指揮する者に対し、法令により船舶に備え置くべき書類の提出を命じ、船舶の同一性、船籍港、船長の氏名、直前の出発港又は出発地、目的港又は目的地、積荷の性質又は積荷の有無その他船舶、積荷及び航海に関し重要と認める事項を確かめるため船舶に立入檢査をし、且つ、乘組員及び旅客に対しその職務を行うために必要な質問をすることができる。
海上保安官は、前項の規定により立入檢査をし、又は質問するときは、制服を着用し、又はその身分を示す証票を携帶しなければならない。
第十八條 海上保安官は、その職務を行うため四囲の情況から眞にやむを得ないときは、その職務の執行につき他の法令に定のあるものの外、左に掲げる処分をすることができる。
一 船舶の進行を停止させ、又はその出発を差し止めること。
二 航路を変更させ、又は指定する港に回航させること。
三 乘組員、旅客その他船内にある者を下船させ、又はその下船を制限し、若しくは禁止すること。
四 積荷を陸揚させ、又は積荷の陸揚を制限し、若しくは禁止すること。
五 船舶が檢疫若しくは調査を受けるとき、又は抑留され若しくは人命に対し危險であるとき、当該船舶と他船又は陸地との交通を制限し、又は禁止すること。
第十九條 海上保安官は、その職務を行うため、武器を携帶することができる。
第二十條 海上保安官は、その職務を行うに当り、特に自己又は他人の生命又は身体の保護に関し、やむを得ない必要がある場合を除いては、武器を使用してはならない。
第二十一條 運輸大臣は、第三條又は第三十六條の規定に從い任命された海上保安廳の職員の中から、港長を命ずる。
港長は、海上保安廳長官の指揮監督を受け、港則に関する法令に規定する事務を掌る。
第二十二條 運輸大臣は、第三條又は第三十六條の規定に從い任命された海上保安廳の職員の中から、海難審判理事官を命ずる。
海難審判理事官は、海上保安廳長官の指揮監督を受け、第七條第六号の事務を掌る。
第二十三條 海上保安廳の職員の服務に関する規則は、國家公務員に関する法令に触れない範囲内で、運輸大臣が、これを定める。
第二十四條 航路標識を維持し、密貿易を防止し、及び遭難船員に援助を與えるため、海上保安廳長官は、必要に應じ船舶の基地及び担任区域を定める。
第二十五條 この法律のいかなる規定も海上保安廳又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。