朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル農工銀行法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年四月十八日
內閣總理大臣 侯爵 伊藤博文
大藏大臣 子爵 渡邊國武
法律第八十三號
農工銀行法
第一章 總則
第一條 農工銀行ハ農業工業ノ改良發達ノ爲資本ヲ貸付スルヲ以テ目的トスル株式會社ニシテ其ノ資本金ヲ二十万圓以上トシ各株式ノ金額ハ二十圓トス
第二條 農工銀行ハ北海道又ハ一府縣ヲ以テ一營業區域トス但シ土地ノ情況ニ依リ勅令ヲ以テ北海道又ハ一府縣ヲ二箇以上ノ營業區域ニ分割スルコトヲ得
第三條 農工銀行ノ設立ハ一營業區域內ニ一行ヲ以テ限トス
第四條 農工銀行ノ營業區域內ニ原籍及住所ヲ有スル者ニ非サレハ其ノ株主トナルコトヲ得ス
株主ニシテ農工銀行ノ營業區域外ニ原籍又ハ住所ヲ移轉スルコトアルモ株主タルノ資格ヲ失フコトナシ
第五條 農工銀行ノ營業區域內ノ府縣郡市町村モ亦其ノ株主タルコトヲ得
第二章 營業
第六條 農工銀行ハ左ノ事業ヲ營ムモノトス
一 三十箇年以內ニ於テ年賦償還ノ方法ニ依リ不動產ヲ抵當トシテ貸付ヲ爲スコト
二 年賦償還貸付金總高ノ五分ノ一ニ相當スル金額ヲ限リ不動產ヲ抵當トシテ五箇年以內ノ定期償還貸付ヲ爲スコト
三 市町村又ハ法律ヲ以テ組織セル公共團體ニ對シ無抵當ニテ本條第一號第二號ノ貸付ヲ爲スコト
四 二十人以上ノ農業者又ハ工業者申合セ連帶責任ヲ以テ借用ヲ申出テタルトキハ其ノ信用ノ確實ナルモノニ限リ五箇年以內ニ於テ定期償還ノ方法ニ依リ無抵當貸付ヲ爲スコト
第七條 前條ノ貸付ヲ爲スハ左ノ事項ニ使用スルヲ目的トスルモノニ限ル
一 開墾、排水、灌漑及耕地土質ノ改良
二 耕作道路ノ築造又ハ改良
三 殖林事業
四 種苗、肥料其ノ他農工業用原料ノ購入
五 農工業用ノ器具、機械、舟車、獸畜ノ購入
六 農工業用建物ノ築造又ハ改良
七 前各項ノ外農工業ノ改良
第八條 農工銀行ニ於テ不動產抵當ヲ徵スルトキハ總テ第一抵當ナルコトヲ要ス但シ舊債アル場合ニ於テ農工銀行ヨリ借入スル新債ヲ以テ其ノ舊債ヲ償還スル效果ニ依リ新債ノ第一抵當トナルコトヲ得ヘキトキハ此ノ限ニ在ラス
第九條 農工銀行ニ於テ抵當トシテ徵スル土地ハ永續スヘキ確實ナル收益ノ見込アルモノニ限ル
農工銀行ニ於テ抵當トシテ徵スル建物ハ保險付ノモノニ限ル但シ抵當物ノ外ニ貸付金高二倍以上ノ價格ヲ有スル動產又ハ不動產ヲ添抵當ト爲ス場合ニ於テハ保險ニ付セサルコトヲ得
第十條 不動產ヲ抵當トシテ貸付クル金額ハ農工銀行ニ於テ鑑定シタル價格ノ三分ノ二以內トス
第十一條 年賦金ハ元金ト利子トヲ併セテ之ヲ計算シ各年ヲ通シテ一定平等ノ償還額ヲ定ムヘシ
前項ノ償還額ハ之ヲ變更スルコトヲ得ス但シ貸付金ノ一部償還ノ場合ニ於テ其ノ額ヲ更定スルハ此ノ限ニ在ラス
第十二條 土地抵當貸付ニ對スル年賦金ハ其ノ抵當地ノ平年收益額ヨリ公課額ヲ扣除シタル殘額ヲ超過スルコトヲ得ス
第十三條 貸付金ノ年賦償還ニ付キテハ一箇年以上五箇年以內ニ於テ据置年限ヲ定ムヘシ但シ其ノ年限間ノ利子ハ此ノ限ニ在ラス
第十四條 債務者年賦金定期償還金又ハ利子ノ拂込ヲ遲延シタルトキハ拂込期日ノ翌日ヨリ其ノ金額ニ對シ利子ヲ仕拂フノ義務ヲ負フ
第十五條 年賦償還ノ方法ヲ以テ借入ヲ爲シタル債務者ハ償還期限前ニ借用金ノ全部若ハ一部ヲ償還スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ農工銀行ハ定款ニ於テ定ムル所ノ率ニ依リ相當ノ手數料ヲ要求スルコトヲ得
第十六條 債務者ハ借用金ノ五分ノ一以上ヲ償還シタルトキハ其ノ割合ニ應シ抵當物一部ノ解除ヲ要求スルコトヲ得其ノ殘額ニ對シテモ亦同シ
第十七條 農工銀行ハ年賦金ノ拂込ヲ遲延スル債務者ニ對シ償還期限前ト雖貸付金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第十八條 農工銀行ハ抵當物ノ價格減少シ貸付金償還殘額ニ對シ第十條ノ割合ニ不足ヲ生シタルトキハ增抵當ヲ要求シ若ハ其ノ不足ニ相當スル貸付金額ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
債務者前項ノ要求ニ應セサルトキハ農工銀行ハ償還期限前ト雖貸付金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第十九條 抵當不動產ノ全部若ハ一部カ土地收用法ニ依リ收用セラルル場合ニ於テ農工銀行ハ償還期限前ト雖貸付金ノ償還ヲ要求スルコトヲ得但シ債務者ニ於テ收用ノ補償金ヲ供託シ又ハ相當ノ不動產ヲ以テ增抵當トスルトキハ此ノ限ニ在ラス
其ノ收用一部ニ止マルトキハ償還ノ要求モ其ノ割合ニ應スヘキモノトス
第二十條 無抵當ニテ借入ヲ爲シタル市町村其ノ他法律ヲ以テ組織セル公共團體ニ於テ年賦金、定期償還金又ハ利子ノ拂込期日ヲ過キ之ヲ拂込マサルトキハ農工銀行ハ監督官廳ニ其ノ處分ヲ請求スルコトヲ得
監督官廳前項ノ請求ヲ受ケタルトキハ市町村其ノ他法律ヲ以テ組織セル公共團體ニ命令シテ延滯金及第十四條ノ利子ヲ拂込マシムヘシ
第二十一條 農工銀行ハ第六條ノ貸付ヲ爲シタル場合ニ於テ債務者カ貸付ノ目的ニ反シ貸付金ヲ使用スルトキハ償還期限前ト雖貸付金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第二十二條 農工銀行ハ定期預リ金ヲ爲シ又ハ地金銀有價證券ノ保護預リヲ爲スコトヲ得
第二十三條 農工銀行ハ營業上餘裕金アルトキハ一時各種ノ國債證券地方債證券及勸業債券ヲ買入レ又ハ他ノ銀行ニ預ケ金ヲ爲スコトヲ得
農工銀行ハ前項ニ依ルノ外營業上ノ餘裕金ヲ使用スルコトヲ得ス
第二十四條 農工銀行ハ日本勸業銀行ノ代理店タルコトヲ得
第二十五條 農工銀行ハ此ノ法律ニ記載セサル業務ヲ營ムコトヲ得ス
第三章 農工債券
第二十六條 農工銀行ハ資本金四分ノ一以上ノ拂込アリタルトキハ拂込金額ノ五倍ヲ限リ農工債券ヲ發行スルコトヲ得但シ年賦償還貸付金總高ヲ超過スルコトヲ得ス
第二十七條 農工銀行ハ少クトモ年賦償還貸付金ノ償還高ニ應シ每年二囘以上抽籤ヲ以テ農工債券ヲ償還スヘシ
第二十八條 農工銀行ハ農工債券借換ノ爲一時第二十六條ノ制限ニ依ラス低利ノ農工債券ヲ發行スルコトヲ得
低利ノ農工債券ヲ發行シタルトキハ發行後一箇月以內ニ抽籤ヲ以テ其ノ發行券面金額ニ相當スル舊農工債券ヲ償還スヘシ
第二十九條 農工債券ノ利子ハ每年二囘定款ニ定メタル時期ニ於テ之ヲ仕拂フヘシ
第三十條 農工銀行ハ年賦償還貸付金ノ償還延滯シテ豫期ノ金額ニ達セサルトキハ第二十七條ノ償還ト同時期ニ抽籤ヲ以テ其ノ延滯金額ニ相當スル農工債券ヲ償還スヘシ
第三十一條 農工債券ノ所有者其ノ元金又ハ利子ヲ要求セサルトキハ元金ハ十五箇年利子ハ五箇年ニシテ其ノ要求ノ權ヲ失フモノトス
第三十二條 農工債券ヲ僞造又ハ變造シテ行使シタル者ハ刑法第二百四條ノ例ニ依リ處罰ス其ノ模造ニ關シテハ明治二十八年法律第二十八號通貨及證券模造取締法ニ依リ處分ス
第三十三條 農工債券ニ關シ此ノ法律ニ規定セサル事項ハ明治二十三年法律第六十號ヲ適用ス
第四章 準備金
第三十四條 農工銀行ハ每年準備金トシテ資本ノ缺損ヲ補フ爲利益ノ百分ノ八以上ヲ積立テ及利益配當ノ平均ヲ得セシムル爲利益ノ百分ノ二以上ヲ積立ツヘシ
第五章 政府ノ監督及補助
第三十五條 大藏大臣ハ農工銀行ノ業務ヲ監督ス
第三十六條 農工銀行ノ定款ハ大藏大臣ノ認可ヲ要ス之ヲ變更セムトスルトキモ亦同シ
第三十七條 農工銀行ニ於テ支店又ハ代理店ヲ設置セムトスルトキハ大藏大臣ノ認可ヲ受クヘシ又大藏大臣ニ於テ支店若ハ代理店ヲ要用ナリトスルトキハ農工銀行ニ命シテ之ヲ設置セシムルコトアルヘシ
第三十八條 農工銀行ハ大藏大臣ノ認可ヲ經ルニ非サレハ株主ニ配當金ノ分配ヲ爲スコトヲ得ス
第三十九條 大藏大臣ハ農工銀行ノ營業上法律命令又ハ定款ニ背戾シ若ハ公益ヲ害スル事件アリト認ムルトキハ之ヲ制止スヘシ
第四十條 農工銀行ハ大藏大臣ノ命令ニ從ヒ其ノ營業ニ關スル諸般ノ景況及計算報吿書ヲ差出スヘシ
第四十一條 大藏大臣ハ必要ナリト認ムルトキハ農工銀行ノ貸付割引ノ金額及方法ヲ制限スルコトヲ得
第四十二條 農工銀行貸付金ノ利子ノ最高步合ハ每營業年度ノ初ニ於テ大藏大臣ノ認可ヲ經テ之ヲ定ムヘシ其ノ營業年度內ニ於テ變更セムトスルトキモ亦同シ
第四十三條 政府ハ特ニ北海道廳府縣高等官中ヨリ農工銀行監理官ヲ命シ大藏大臣ノ指揮ヲ承ケテ農工銀行ノ業務ヲ監視セシム
第四十四條 農工銀行監理官ハ何時ニテモ農工銀行ノ金庫、券書庫、帳簿及諸般ノ文書ヲ檢査スルコトヲ得
農工銀行監理官ハ監視上必要ナリト認ムルトキハ何時ニテモ農工銀行ニ命シテ營業上諸般ノ計算及景況ヲ報吿セシムルコトヲ得
農工銀行監理官ハ株主總會其ノ他諸般ノ會議ニ出席シテ意見ヲ陳述スルコトヲ得但シ議決ノ數ニ加ハルコトヲ得ス
第四十五條 農工銀行營業補助ノ方法ハ別ニ之ヲ定ム
第六章 罰則
第四十六條 農工銀行ニ於テ左ノ事犯アルトキハ取締役ヲ五十圓以上五百圓以下ノ過料ニ處ス
一 第六條ノ規程ニ反シ貸付ヲ爲シタルトキ
二 第八條ノ規程ニ反シ第一抵當ニ非サルモノニ對シ貸付ヲ爲シタルトキ
三 第二十三條第二項ノ規程ニ反シ營業上ノ餘裕金ヲ使用シタルトキ
四 第二十五條ノ規程ニ反シ此ノ法律ニ記載セサル業務ヲ營ミタルトキ
五 第二十六條ノ規程ニ反シ農工債券ヲ發行シタルトキ但シ第二十八條第一項ニ該當スルモノハ此ノ限ニ在ラス
六 第二十七條第二十八條第二項及第三十條ノ規程ニ反シ農工債券ノ償還ヲ爲ササルトキ
七 第三十四條ノ規程ニ反シ利益金ヲ處分シタルトキ
第四十七條 前條ニ揭ケタル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス但シ其ノ命令ニ對シテ十四日以內ニ抗吿ヲ爲スコトヲ得
過料ノ辨納ニ付キテハ取締役連帶シテ其ノ責任ヲ負フ
附 則
第四十八條 府縣知事ハ大藏大臣ノ認可ヲ經テ設立委員ヲ置キ農工銀行設立ノ免許ヲ得ルマテ其ノ發起ニ關スル一切ノ事務ヲ處理セシム
第四十九條 設立委員ハ定款ヲ作リ政府ノ認可ヲ得タル後株主ヲ募集ス
第五十條 設立委員ハ株主ノ募集ヲ終リタルトキハ株式申込簿ヲ政府ニ差出シ銀行設立ノ免許ヲ稟請スヘシ
第五十一條 設立委員前條ノ免許ヲ得タルトキハ其ノ事務ヲ農工銀行取締役ニ引渡スヘシ
第五十二條 農工銀行ニ關シ此ノ法律ニ規定セサル事項ハ明治二十三年法律第七十二號銀行條例ヲ適用ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル農工銀行法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年四月十八日
内閣総理大臣 侯爵 伊藤博文
大蔵大臣 子爵 渡辺国武
法律第八十三号
農工銀行法
第一章 総則
第一条 農工銀行ハ農業工業ノ改良発達ノ為資本ヲ貸付スルヲ以テ目的トスル株式会社ニシテ其ノ資本金ヲ二十万円以上トシ各株式ノ金額ハ二十円トス
第二条 農工銀行ハ北海道又ハ一府県ヲ以テ一営業区域トス但シ土地ノ情況ニ依リ勅令ヲ以テ北海道又ハ一府県ヲ二箇以上ノ営業区域ニ分割スルコトヲ得
第三条 農工銀行ノ設立ハ一営業区域内ニ一行ヲ以テ限トス
第四条 農工銀行ノ営業区域内ニ原籍及住所ヲ有スル者ニ非サレハ其ノ株主トナルコトヲ得ス
株主ニシテ農工銀行ノ営業区域外ニ原籍又ハ住所ヲ移転スルコトアルモ株主タルノ資格ヲ失フコトナシ
第五条 農工銀行ノ営業区域内ノ府県郡市町村モ亦其ノ株主タルコトヲ得
第二章 営業
第六条 農工銀行ハ左ノ事業ヲ営ムモノトス
一 三十箇年以内ニ於テ年賦償還ノ方法ニ依リ不動産ヲ抵当トシテ貸付ヲ為スコト
二 年賦償還貸付金総高ノ五分ノ一ニ相当スル金額ヲ限リ不動産ヲ抵当トシテ五箇年以内ノ定期償還貸付ヲ為スコト
三 市町村又ハ法律ヲ以テ組織セル公共団体ニ対シ無抵当ニテ本条第一号第二号ノ貸付ヲ為スコト
四 二十人以上ノ農業者又ハ工業者申合セ連帯責任ヲ以テ借用ヲ申出テタルトキハ其ノ信用ノ確実ナルモノニ限リ五箇年以内ニ於テ定期償還ノ方法ニ依リ無抵当貸付ヲ為スコト
第七条 前条ノ貸付ヲ為スハ左ノ事項ニ使用スルヲ目的トスルモノニ限ル
一 開墾、排水、灌漑及耕地土質ノ改良
二 耕作道路ノ築造又ハ改良
三 殖林事業
四 種苗、肥料其ノ他農工業用原料ノ購入
五 農工業用ノ器具、機械、舟車、獣畜ノ購入
六 農工業用建物ノ築造又ハ改良
七 前各項ノ外農工業ノ改良
第八条 農工銀行ニ於テ不動産抵当ヲ徴スルトキハ総テ第一抵当ナルコトヲ要ス但シ旧債アル場合ニ於テ農工銀行ヨリ借入スル新債ヲ以テ其ノ旧債ヲ償還スル効果ニ依リ新債ノ第一抵当トナルコトヲ得ヘキトキハ此ノ限ニ在ラス
第九条 農工銀行ニ於テ抵当トシテ徴スル土地ハ永続スヘキ確実ナル収益ノ見込アルモノニ限ル
農工銀行ニ於テ抵当トシテ徴スル建物ハ保険付ノモノニ限ル但シ抵当物ノ外ニ貸付金高二倍以上ノ価格ヲ有スル動産又ハ不動産ヲ添抵当ト為ス場合ニ於テハ保険ニ付セサルコトヲ得
第十条 不動産ヲ抵当トシテ貸付クル金額ハ農工銀行ニ於テ鑑定シタル価格ノ三分ノ二以内トス
第十一条 年賦金ハ元金ト利子トヲ併セテ之ヲ計算シ各年ヲ通シテ一定平等ノ償還額ヲ定ムヘシ
前項ノ償還額ハ之ヲ変更スルコトヲ得ス但シ貸付金ノ一部償還ノ場合ニ於テ其ノ額ヲ更定スルハ此ノ限ニ在ラス
第十二条 土地抵当貸付ニ対スル年賦金ハ其ノ抵当地ノ平年収益額ヨリ公課額ヲ扣除シタル残額ヲ超過スルコトヲ得ス
第十三条 貸付金ノ年賦償還ニ付キテハ一箇年以上五箇年以内ニ於テ据置年限ヲ定ムヘシ但シ其ノ年限間ノ利子ハ此ノ限ニ在ラス
第十四条 債務者年賦金定期償還金又ハ利子ノ払込ヲ遅延シタルトキハ払込期日ノ翌日ヨリ其ノ金額ニ対シ利子ヲ仕払フノ義務ヲ負フ
第十五条 年賦償還ノ方法ヲ以テ借入ヲ為シタル債務者ハ償還期限前ニ借用金ノ全部若ハ一部ヲ償還スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ農工銀行ハ定款ニ於テ定ムル所ノ率ニ依リ相当ノ手数料ヲ要求スルコトヲ得
第十六条 債務者ハ借用金ノ五分ノ一以上ヲ償還シタルトキハ其ノ割合ニ応シ抵当物一部ノ解除ヲ要求スルコトヲ得其ノ残額ニ対シテモ亦同シ
第十七条 農工銀行ハ年賦金ノ払込ヲ遅延スル債務者ニ対シ償還期限前ト雖貸付金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第十八条 農工銀行ハ抵当物ノ価格減少シ貸付金償還残額ニ対シ第十条ノ割合ニ不足ヲ生シタルトキハ増抵当ヲ要求シ若ハ其ノ不足ニ相当スル貸付金額ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
債務者前項ノ要求ニ応セサルトキハ農工銀行ハ償還期限前ト雖貸付金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第十九条 抵当不動産ノ全部若ハ一部カ土地収用法ニ依リ収用セラルル場合ニ於テ農工銀行ハ償還期限前ト雖貸付金ノ償還ヲ要求スルコトヲ得但シ債務者ニ於テ収用ノ補償金ヲ供託シ又ハ相当ノ不動産ヲ以テ増抵当トスルトキハ此ノ限ニ在ラス
其ノ収用一部ニ止マルトキハ償還ノ要求モ其ノ割合ニ応スヘキモノトス
第二十条 無抵当ニテ借入ヲ為シタル市町村其ノ他法律ヲ以テ組織セル公共団体ニ於テ年賦金、定期償還金又ハ利子ノ払込期日ヲ過キ之ヲ払込マサルトキハ農工銀行ハ監督官庁ニ其ノ処分ヲ請求スルコトヲ得
監督官庁前項ノ請求ヲ受ケタルトキハ市町村其ノ他法律ヲ以テ組織セル公共団体ニ命令シテ延滞金及第十四条ノ利子ヲ払込マシムヘシ
第二十一条 農工銀行ハ第六条ノ貸付ヲ為シタル場合ニ於テ債務者カ貸付ノ目的ニ反シ貸付金ヲ使用スルトキハ償還期限前ト雖貸付金全部ノ償還ヲ要求スルコトヲ得
第二十二条 農工銀行ハ定期預リ金ヲ為シ又ハ地金銀有価証券ノ保護預リヲ為スコトヲ得
第二十三条 農工銀行ハ営業上余裕金アルトキハ一時各種ノ国債証券地方債証券及勧業債券ヲ買入レ又ハ他ノ銀行ニ預ケ金ヲ為スコトヲ得
農工銀行ハ前項ニ依ルノ外営業上ノ余裕金ヲ使用スルコトヲ得ス
第二十四条 農工銀行ハ日本勧業銀行ノ代理店タルコトヲ得
第二十五条 農工銀行ハ此ノ法律ニ記載セサル業務ヲ営ムコトヲ得ス
第三章 農工債券
第二十六条 農工銀行ハ資本金四分ノ一以上ノ払込アリタルトキハ払込金額ノ五倍ヲ限リ農工債券ヲ発行スルコトヲ得但シ年賦償還貸付金総高ヲ超過スルコトヲ得ス
第二十七条 農工銀行ハ少クトモ年賦償還貸付金ノ償還高ニ応シ毎年二回以上抽籤ヲ以テ農工債券ヲ償還スヘシ
第二十八条 農工銀行ハ農工債券借換ノ為一時第二十六条ノ制限ニ依ラス低利ノ農工債券ヲ発行スルコトヲ得
低利ノ農工債券ヲ発行シタルトキハ発行後一箇月以内ニ抽籤ヲ以テ其ノ発行券面金額ニ相当スル旧農工債券ヲ償還スヘシ
第二十九条 農工債券ノ利子ハ毎年二回定款ニ定メタル時期ニ於テ之ヲ仕払フヘシ
第三十条 農工銀行ハ年賦償還貸付金ノ償還延滞シテ予期ノ金額ニ達セサルトキハ第二十七条ノ償還ト同時期ニ抽籤ヲ以テ其ノ延滞金額ニ相当スル農工債券ヲ償還スヘシ
第三十一条 農工債券ノ所有者其ノ元金又ハ利子ヲ要求セサルトキハ元金ハ十五箇年利子ハ五箇年ニシテ其ノ要求ノ権ヲ失フモノトス
第三十二条 農工債券ヲ偽造又ハ変造シテ行使シタル者ハ刑法第二百四条ノ例ニ依リ処罰ス其ノ模造ニ関シテハ明治二十八年法律第二十八号通貨及証券模造取締法ニ依リ処分ス
第三十三条 農工債券ニ関シ此ノ法律ニ規定セサル事項ハ明治二十三年法律第六十号ヲ適用ス
第四章 準備金
第三十四条 農工銀行ハ毎年準備金トシテ資本ノ欠損ヲ補フ為利益ノ百分ノ八以上ヲ積立テ及利益配当ノ平均ヲ得セシムル為利益ノ百分ノ二以上ヲ積立ツヘシ
第五章 政府ノ監督及補助
第三十五条 大蔵大臣ハ農工銀行ノ業務ヲ監督ス
第三十六条 農工銀行ノ定款ハ大蔵大臣ノ認可ヲ要ス之ヲ変更セムトスルトキモ亦同シ
第三十七条 農工銀行ニ於テ支店又ハ代理店ヲ設置セムトスルトキハ大蔵大臣ノ認可ヲ受クヘシ又大蔵大臣ニ於テ支店若ハ代理店ヲ要用ナリトスルトキハ農工銀行ニ命シテ之ヲ設置セシムルコトアルヘシ
第三十八条 農工銀行ハ大蔵大臣ノ認可ヲ経ルニ非サレハ株主ニ配当金ノ分配ヲ為スコトヲ得ス
第三十九条 大蔵大臣ハ農工銀行ノ営業上法律命令又ハ定款ニ背戻シ若ハ公益ヲ害スル事件アリト認ムルトキハ之ヲ制止スヘシ
第四十条 農工銀行ハ大蔵大臣ノ命令ニ従ヒ其ノ営業ニ関スル諸般ノ景況及計算報告書ヲ差出スヘシ
第四十一条 大蔵大臣ハ必要ナリト認ムルトキハ農工銀行ノ貸付割引ノ金額及方法ヲ制限スルコトヲ得
第四十二条 農工銀行貸付金ノ利子ノ最高歩合ハ毎営業年度ノ初ニ於テ大蔵大臣ノ認可ヲ経テ之ヲ定ムヘシ其ノ営業年度内ニ於テ変更セムトスルトキモ亦同シ
第四十三条 政府ハ特ニ北海道庁府県高等官中ヨリ農工銀行監理官ヲ命シ大蔵大臣ノ指揮ヲ承ケテ農工銀行ノ業務ヲ監視セシム
第四十四条 農工銀行監理官ハ何時ニテモ農工銀行ノ金庫、券書庫、帳簿及諸般ノ文書ヲ検査スルコトヲ得
農工銀行監理官ハ監視上必要ナリト認ムルトキハ何時ニテモ農工銀行ニ命シテ営業上諸般ノ計算及景況ヲ報告セシムルコトヲ得
農工銀行監理官ハ株主総会其ノ他諸般ノ会議ニ出席シテ意見ヲ陳述スルコトヲ得但シ議決ノ数ニ加ハルコトヲ得ス
第四十五条 農工銀行営業補助ノ方法ハ別ニ之ヲ定ム
第六章 罰則
第四十六条 農工銀行ニ於テ左ノ事犯アルトキハ取締役ヲ五十円以上五百円以下ノ過料ニ処ス
一 第六条ノ規程ニ反シ貸付ヲ為シタルトキ
二 第八条ノ規程ニ反シ第一抵当ニ非サルモノニ対シ貸付ヲ為シタルトキ
三 第二十三条第二項ノ規程ニ反シ営業上ノ余裕金ヲ使用シタルトキ
四 第二十五条ノ規程ニ反シ此ノ法律ニ記載セサル業務ヲ営ミタルトキ
五 第二十六条ノ規程ニ反シ農工債券ヲ発行シタルトキ但シ第二十八条第一項ニ該当スルモノハ此ノ限ニ在ラス
六 第二十七条第二十八条第二項及第三十条ノ規程ニ反シ農工債券ノ償還ヲ為ササルトキ
七 第三十四条ノ規程ニ反シ利益金ヲ処分シタルトキ
第四十七条 前条ニ掲ケタル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス但シ其ノ命令ニ対シテ十四日以内ニ抗告ヲ為スコトヲ得
過料ノ弁納ニ付キテハ取締役連帯シテ其ノ責任ヲ負フ
附 則
第四十八条 府県知事ハ大蔵大臣ノ認可ヲ経テ設立委員ヲ置キ農工銀行設立ノ免許ヲ得ルマテ其ノ発起ニ関スル一切ノ事務ヲ処理セシム
第四十九条 設立委員ハ定款ヲ作リ政府ノ認可ヲ得タル後株主ヲ募集ス
第五十条 設立委員ハ株主ノ募集ヲ終リタルトキハ株式申込簿ヲ政府ニ差出シ銀行設立ノ免許ヲ稟請スヘシ
第五十一条 設立委員前条ノ免許ヲ得タルトキハ其ノ事務ヲ農工銀行取締役ニ引渡スヘシ
第五十二条 農工銀行ニ関シ此ノ法律ニ規定セサル事項ハ明治二十三年法律第七十二号銀行条例ヲ適用ス