公証人法
法令番号: 法律第五十三號
公布年月日: 明治41年4月14日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル公證人法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十一年四月十三日
內閣總理大臣 侯爵 西園寺公望
司法大臣 男爵 千家尊福
法律第五十三號
公證人法
第一章 總則
第一條 公證人ハ當事者其ノ他ノ關係人ノ囑託ニ因リ法律行爲其ノ他私權ニ關スル事實ニ付公正證書ヲ作成シ及私署證書ニ認證ヲ與フルノ權限ヲ有ス
第二條 公證人ノ作成シタル文書ハ本法及他ノ法律ノ定ムル要件ヲ具備スルニ非サレハ公正ノ效力ヲ有セス
第三條 公證人ハ正當ノ理由アルニ非サレハ囑託ヲ拒ムコトヲ得ス
第四條 公證人ハ法律ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外其ノ取扱ヒタル事件ヲ漏泄スルコトヲ得ス但シ囑託人ノ同意ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五條 公證人ハ他ノ公務ヲ兼ネ、商業ヲ營ミ又ハ商事會社若ハ營利ヲ目的トスル社團法人ノ代表者若ハ使用人ト爲ルコトヲ得ス但シ司法大臣ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第六條 公證人其ノ職務ノ執行ニ付囑託人其ノ他ノ者ニ損害ヲ加ヘタルトキハ其ノ損害カ公證人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因リテ生シタル場合ニ限リ之ヲ賠償スルノ責ニ任ス
第七條 公證人ハ囑託人ヨリ手數料、日當及旅費ヲ受ク
公證人ハ前項ニ記載シタルモノヲ除クノ外何等ノ名義ヲ以テスルモ其ノ取扱ヒタル事件ニ關シテ報酬ヲ受クルコトヲ得ス
手數料、日當及旅費ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八條 區裁判所ノ管轄區域內ニ公證人ナキ場合又ハ公證人其ノ職務ヲ行フコト能ハサル場合ニ於テハ司法大臣ハ其ノ區裁判所ヲシテ管轄區域內ニ於テ公證人ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ判事差支アルトキハ裁判所書記ヲシテ公證人ノ事務ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第九條 本法及他ノ法令中公證人ノ職務ニ關スル規定ハ公證人ノ事務ヲ取扱フ判事又ハ裁判所書記ニ之ヲ準用ス但シ第七條ニ依ル手數料、日當及旅費ハ國庫ノ收入トス
第二章 任免及所屬
第十條 公證人ハ地方裁判所ノ所屬トス
各地方裁判所所屬公證人ノ員數ハ區裁判所ノ管轄區域每ニ司法大臣之ヲ定ム
第十一條 公證人ハ司法大臣之ヲ任シ及其ノ屬スヘキ地方裁判所ヲ指定ス
第十二條 左ノ條件ヲ具備スル者ニ非サレハ公證人ニ任セラルルコトヲ得ス
一 帝國臣民ニシテ成年以上ノ男子タルコト
二 一定ノ試驗ニ合格シタル後六月以上公證人見習トシテ實地修習ヲ爲シタルコト
試驗及實地修習ニ關スル規程ハ司法大臣之ヲ定ム
第十三條 判事、檢事又ハ辯護士タルノ資格ヲ有スル者ハ試驗及實地修習ヲ經スシテ公證人ニ任セラルルコトヲ得
第十四條 左ニ揭クル者ハ公證人ニ任セラルルコトヲ得ス
一 禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者但シ二年以下ノ禁錮ニ處セラレタル者ニシテ刑ノ執行ヲ終リ又ハ其ノ執行ヲ受クルコトナキニ至リタルトキハ此ノ限ニ在ラス
二 破產又ハ家資分散ノ宣吿ヲ受ケ復權セサル者
三 禁治產者及準禁治產者
四 懲戒ノ處分ニ因リ免官若ハ免職セラレタル者又ハ辯護士法ニ依リ除名セラレタル者ニシテ免官、免職又ハ除名後二年ヲ經過セサル者
第十五條 司法大臣ハ左ノ場合ニ於テ公證人ヲ免スルコトヲ得
一 公證人免職ヲ願出テタルトキ
二 公證人期間內ニ身元保證金又ハ其ノ補充額ヲ納メサルトキ
三 公證人身體又ハ精神ノ衰弱ニ因リ其ノ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキ
前項第三號ノ場合ニ於テハ所屬地方裁判所ヲ管轄スル控訴院ニ於ケル懲戒委員會ノ議決ヲ經ヘシ
第十六條 公證人第十四條第一號乃至第三號ニ該當スルニ至リタルトキハ當然其ノ職ヲ失フ
第三章 職務執行ニ關スル通則
第十七條 公證人ノ職務執行ノ區域ハ其ノ所屬地方裁判所ノ管轄區域ニ依ル
第十八條 公證人ハ司法大臣ノ指定シタル地ニ其ノ役場ヲ設クヘシ
公證人ハ役場ニ於テ其ノ職務ヲ行フコトヲ要ス但シ事件ノ性質カ之ヲ許ササル場合又ハ法令ニ別段ノ定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
公證人ハ其ノ役場內ニ住居スヘシ但シ司法大臣ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十九條 公證人ハ任命ノ辭令書ヲ受ケタル日ヨリ十五日以內ニ所屬地方裁判所ニ身元保證金ヲ納ムヘシ
身元保證金ノ額ハ土地ノ情況ニ從ヒ三百圓以上千圓以下ノ範圍內ニ於テ司法大臣之ヲ定ム
身元保證金ノ額ニ不足ヲ生シ補充ノ命令ヲ受ケタルトキハ其ノ命令ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ其ノ不足額ヲ補充スヘシ
公證人身元保證金ヲ納メサル間ハ其ノ職務ヲ行フコトヲ得ス
第二十條 身元保證金ヲ還付スヘキ場合ニ於テハ其ノ身元保證金ノ上ニ權利ヲ有スル者ニ對シ六月ヲ下ラサル期間內ニ申出ツヘキ旨ヲ公吿スヘシ
身元保證金ハ前項ノ期間ヲ經過スルニ非サレハ之ヲ還付セス
身元保證金ハ他ノ公課及債權ニ先チテ之ヲ第一項ノ公吿費用ニ充ツ
第二十一條 公證人ハ其ノ職印ノ印鑑ニ氏名ヲ自署シ之ヲ所屬地方裁判所ニ差出スヘシ
公證人前項ノ印鑑ヲ差出ササル間ハ其ノ職務ヲ行フコトヲ得ス
第二十二條 公證人ハ左ノ場合ニ於テ其ノ職務ヲ行フコトヲ得ス
一 囑託人、其ノ代理人又ハ囑託セラレタル事項ニ付利害ノ關係ヲ有スル者ノ配偶者、四親等內ノ親族又ハ同居ノ戶主若ハ家族タルトキ親族關係カ止ミタル後亦同シ
二 囑託人又ハ其ノ代理人ノ法定代理人又ハ保佐人タルトキ
三 囑託セラレタル事項ニ付利害ノ關係ヲ有スルトキ
四 囑託セラレタル事項ニ付代理人若ハ輔佐人タルトキ又ハ代理人若ハ輔佐人タリシトキ
第二十三條 公證人職務上署名スルトキハ其ノ職名、所屬及役場所在地ヲ記載スヘシ
第二十四條 公證人ハ所屬地方裁判所長ノ認可ヲ受ケテ筆生ヲ置キ執務ノ補助ヲ爲サシムルコトヲ得
前項ノ認可ハ必要ナル場合ニ於テハ何時ニテモ之ヲ取消スコトヲ得
第二十五條 公證人ノ作成シタル證書ノ原本、其ノ附屬書類及法令ニ依リ公證人ノ調製シタル帳簿ハ事變ヲ避クル爲ニスル場合ヲ除クノ外之ヲ役場外ニ持出スコトヲ得ス但シ裁判所又ハ豫審判事ノ命令又ハ囑託アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ書類ノ保存及廢毀ニ關スル規程ハ司法大臣之ヲ定ム
第四章 證書ノ作成
第二十六條 公證人ハ法令ニ違反シタル事項、無效ノ法律行爲及無能力ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ法律行爲ニ付證書ヲ作成スルコトヲ得ス
第二十七條 公證人ハ日本語ヲ用ウル證書ニ非サレハ之ヲ作成スルコトヲ得ス
第二十八條 公證人證書ヲ作成スルニハ囑託人ノ氏名ヲ知リ且之ト面識アルコトヲ要ス
公證人囑託人ノ氏名ヲ知ラス又ハ之ト面識ナキトキハ其ノ本籍地若ハ寄留地ノ市區町村長ノ作成シタル印鑑證明書ヲ提出セシメ又ハ氏名ヲ知リ且面識アル證人二人ニ依リ其ノ人違ナキコトヲ證明セシムルコトヲ要ス但シ囑託人外國人ナルトキハ警察官吏又ハ帝國ニ駐在スル本國領事ノ證明書ヲ以テ印鑑證明書ニ代フルコトヲ得
急迫ナル場合ニ於テ公證人法律行爲ニ非サル事實ニ付證書ヲ作成スルトキハ前項ノ手續ハ證書ヲ作成シタル後三日內ニ證書ノ作成ニ關スル規定ニ依リ之ヲ爲スコトヲ得
前項ノ手續ヲ爲シタルトキハ證書ハ急迫ナル場合ニ非サルカ爲其ノ效力ヲ妨ケラルルコトナシ
第三十四條第三項ノ規定ハ第二項ノ證人ニ之ヲ準用ス
第二十九條 囑託人日本語ヲ解セサル場合又ハ聾者若ハ啞者其ノ他言語ヲ發スルコト能ハサル者ニシテ文字ヲ解セサル場合ニ於テ公證人證書ヲ作成スルニハ通事ヲ立會ハシムルコトヲ要ス
第三十條 囑託人盲者ナル場合又ハ文字ヲ解セサル場合ニ於テ公證人證書ヲ作成スルニハ立會人ヲ立會ハシムルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ囑託人立會人ヲ立會ハシムルコトヲ請求シタル場合ニ之ヲ準用ス
第三十一條 代理人ニ依リ囑託セラレタル場合ニ於テハ前三條ノ規定ハ其ノ代理人ニ之ヲ適用ス
第三十二條 代理人ニ依リ囑託セラレタル場合ニ於テ公證人證書ヲ作成スルニハ其ノ代理人ノ權限ヲ證スヘキ證書ヲ提出セシメ其ノ權限ヲ證明セシムルコトヲ要ス
前項ノ證書カ認證ヲ受ケサル私署證書ナルトキハ其ノ證書ノ外其ノ署名者ノ本籍地又ハ寄留地ノ市區町村長ノ作成シタル印鑑證明書ヲ提出セシメ證書ノ眞正ナルコトヲ證明セシムルコトヲ要ス但シ其ノ署名者外國人ナルトキハ第二十八條第二項但書ノ規定ヲ準用ス
證書ノ作成ニ關スル規定ニ依リ代理又ハ其ノ方式ノ欠缺ヲ追完シタルトキハ證書ハ其ノ欠缺アリタルカ爲效力ヲ妨ケラルルコトナシ
第三十三條 第三者ノ許可又ハ同意ヲ要スヘキ法律行爲ニ付公證人證書ヲ作成スルニハ其ノ許可又ハ同意アリタルコトヲ證スヘキ證書ヲ提出セシメ其ノ許可又ハ同意ヲ證明セシムルコトヲ要ス
前條第二項及第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三十四條 通事及立會人ハ囑託人又ハ其ノ代理人之ヲ選定スルコトヲ要ス
立會人ハ通事ヲ兼ヌルコトヲ得
左ニ揭クル者ハ立會人タルコトヲ得ス
一 未成年者
二 第十四條ニ揭ケタル者
三 自ラ署名スルコト能ハサル者
四 囑託事項ニ付利害ノ關係ヲ有スル者
五 囑託事項ニ付代理人若ハ輔佐人タル者又ハ代理人若ハ輔佐人タリシ者
六 公證人又ハ囑託人若ハ其ノ代理人ノ配偶者、四親等內ノ親族、同居ノ戶主若ハ家族、法定代理人、保佐人、雇人又ハ同居人
七 公證人ノ筆生
第三十五條 公證人證書ヲ作成スルニハ其ノ聽取シタル陳述、其ノ目擊シタル狀況其ノ他自ラ實驗シタル事實ヲ錄取シ且其ノ實驗ノ方法ヲ記載シテ之ヲ爲スコトヲ要ス
第三十六條 公證人ノ作成スル證書ニハ其ノ本旨ノ外左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 證書ノ番號
二 囑託人ノ住所、職業、氏名及年齡若法人ナルトキハ其ノ名稱及事務所
三 代理人ニ依リ囑託セラレタルトキハ其ノ旨及其ノ代理人ノ權限ヲ證スヘキ證書ヲ提出セシメ其ノ權限ヲ證明セシメタルコト竝其ノ代理人ノ住所、職業、氏名及年齡
四 囑託人又ハ其ノ代理人ノ氏名ヲ知リ且之ト面識アルトキハ其ノ旨
五 第三者ノ許可又ハ同意アリタルコトヲ證スヘキ證書ヲ提出セシメ其ノ許可又ハ同意ヲ證明セシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由竝其ノ第三者ノ住所、職業、氏名及年齡若法人ナルトキハ其ノ名稱及事務所
六 市區町村長ノ作成シタル印鑑證明書又ハ警察官吏若ハ領事ノ證明書ヲ提出セシメ人違ナキコト又ハ證書ノ眞正ナルコトヲ證明セシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由
七 氏名ヲ知リ且面識アル證人ニ依リ人違ナキコトヲ證明セシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由竝其ノ證人ノ住所、職業、氏名及年齡
八 急迫ナル場合ニ於テ人違ナキコトヲ證明セシメサリシトキハ其ノ旨
九 通事又ハ立會人ヲ立會ハシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由竝其ノ通事又ハ立會人ノ住所、職業、氏名及年齡
十 作成ノ年月日及場所
第三十七條 公證人證書ヲ作成スルニハ普通平易ノ語ヲ用井字畫ヲ明瞭ナラシムヘシ
接續スヘキ字行ニ空白アルトキハ墨線ヲ以テ之ヲ接續セシムヘシ
數量、年月日及番號ヲ記載スルニハ壹貳參拾ノ字ヲ用ウヘシ
第三十八條 證書ノ文字ハ之ヲ改竄スルコトヲ得ス
證書ニ文字ヲ挿入スルトキハ其ノ文字及其ノ箇所ヲ欄外又ハ末尾ノ餘白ニ記載シ公證人、囑託人又ハ其ノ代理人及立會人之ニ捺印スルコトヲ要ス
證書ノ文字ヲ削除スルトキハ其ノ文字ハ尙明ニ讀得ヘキ爲字體ヲ存シ削除シタル字數及箇所ヲ欄外又ハ末尾ノ餘白ニ記載シ公證人、囑託人又ハ其ノ代理人及立會人之ニ捺印スルコトヲ要ス
前三項ノ規定ニ違反シテ爲シタル訂正ハ其ノ效力ヲ有セス
第三十九條 公證人ハ其ノ作成シタル證書ヲ列席者ニ讀聞カセ又ハ閱覽セシメ囑託人又ハ其ノ代理人ノ承認ヲ得且其ノ旨ヲ證書ニ記載スルコトヲ要ス
通事ヲ立會ハシメタル場合ニ於テハ前項ノ外通事ヲシテ證書ノ趣旨ヲ通譯セシメ且其ノ旨ヲ證書ニ記載スルコトヲ要ス
前二項ノ記載ヲ爲シタルトキハ公證人及列席者各自證書ニ署名捺印スルコトヲ要ス
列席者ニシテ署名スルコト能ハサル者アルトキハ其ノ旨ヲ證書ニ記載シ公證人及立會人之ニ捺印スルコトヲ要ス
證書數葉ニ涉ルトキハ公證人、囑託人又ハ其ノ代理人及立會人ハ每葉ノ綴目ニ契印ヲ爲スコトヲ要ス
證書ハ公證人、囑託人若ハ其ノ代理人又ハ立會人ノ契印ニ依リ其ノ全部ノ連綴明白ナル場合ニ於テハ前項ニ違反シタルカ爲其ノ效力ヲ妨ケラルルコトナシ
第四十條 公證人ノ作成スル證書ニ他ノ書面ヲ引用シ且之ヲ其ノ證書ニ添附スルトキハ公證人、囑託人又ハ其ノ代理人及立會人其ノ證書ト添附書面トノ綴目ニ契印ヲ爲スコトヲ要ス
前三條ノ規定ハ前項ノ添附書面ニ之ヲ準用ス
前二項ニ依ル添附書面ハ公證人ノ作成シタル證書ノ一部ト看做ス
第四十一條 代理人ノ權限ヲ證スヘキ證書、市區町村長、警察官吏又ハ領事ノ證明書、第三者ノ許可又ハ同意ヲ證スヘキ證書其ノ他ノ附屬書類ハ公證人ノ作成シタル證書ニ之ヲ連綴スヘシ
公證人、囑託人又ハ其ノ代理人及立會人ハ證書ト其ノ附屬書類トノ綴目及附屬書類相互ノ綴目ニ契印ヲ爲スヘシ
第四十二條 證書ノ原本滅失シタルトキハ公證人ハ旣ニ交付シタル證書ノ正本又ハ謄本ヲ徵シ所屬地方裁判所長ノ認可ヲ受ケ滅失シタル證書ニ代ヘテ之ヲ保存スルコトヲ要ス
前項ノ證書ニハ所屬地方裁判所長ノ認可ヲ受ケ滅失シタル證書ニ代ヘテ之ヲ保存スル旨及其ノ認可ノ年月日ヲ記載シ公證人之ニ署名捺印スルコトヲ要ス
第四十三條 公證人ハ囑託人ヲシテ印紙稅法ニ依リ證書ノ原本ニ印紙ヲ貼用セシムヘシ
第四十四條 囑託人、其ノ承繼人又ハ證書ノ趣旨ニ付法律上利害ノ關係ヲ有スルコトヲ證明シタル者ハ證書ノ原本ノ閱覽ヲ請求スルコトヲ得
第二十八條第一項、第二項及第五項、第三十一條竝第三十二條第一項及第二項ノ規定ハ前項ニ依リ公證人證書ノ原本ヲ閱覽セシムヘキ場合ニ之ヲ準用ス
公證人囑託人ノ承繼人ニ證書ノ原本ヲ閱覽セシムヘキ場合ニ於テハ承繼人タルコトヲ證スヘキ證書ヲ提出セシメ其ノ承繼人タルコトヲ證明セシムヘシ
第三十二條第二項ノ規定ハ前項ニ依リ提出セシムヘキ證書ニ之ヲ準用ス
檢事ハ何時ニテモ證書ノ原本ノ閱覽ヲ請求スルコトヲ得
第四十五條 公證人ハ證書原簿ヲ調製シ記入前其ノ所屬地方裁判所長ノ契印ヲ請フヘシ
地方裁判所長ハ其ノ枚數ヲ表紙ノ裏面ニ記載シ職氏名ヲ署シ職印ヲ押捺シ每葉ノ綴目ニ職印ヲ以テ契印ヲ爲スヘシ
第四十六條 證書原簿ニハ證書ノ作成每ニ進行ノ順序ヲ逐ヒ左ノ事項ヲ記入スヘシ
一 證書ノ番號及種類
二 囑託人ノ住所及氏名若法人ナルトキハ其ノ名稱及事務所
三 作成ノ年月日
第三十七條及第三十八條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
前二項ノ規定ハ證書ノ作成ヲ記入スヘキ帳簿ニ關シ法令ニ別段ノ定アル場合ニ之ヲ適用セス
第四十七條 囑託人又ハ其ノ承繼人ハ證書ノ正本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第二十八條第一項、第二項及第五項、第三十一條、第三十二條第一項及第二項竝第四十四條第三項及第四項ノ規定ハ前項ニ依リ公證人證書ノ正本ヲ作成スヘキ場合ニ之ヲ準用ス
第四十八條 證書ノ正本ニハ左ノ事項ヲ記載シ公證人之ニ署名捺印スルコトヲ要ス
一 證書ノ全文
二 正本タルコト
三 交付ヲ請求シタル者ノ氏名
四 作成ノ年月日及場所
前項ノ規定ニ違反スルモノハ證書ノ正本タルノ效力ヲ有セス
第四十九條 數事件ヲ列記スル證書又ハ數人各自ニ關係ヲ異ニスル證書ニ付テハ有用ノ部分及證書ノ方式ニ關スル記載ヲ抄錄シテ其ノ正本ヲ作成スルコトヲ得
前項ノ正本ニハ抄錄正本タルコトヲ記載シ前條第一項第二號ノ記載ニ代フルコトヲ要ス
第五十條 公證人證書ノ正本ヲ交付シタルトキハ其ノ證書ノ末尾ニ囑託人又ハ其ノ承繼人何某ノ爲正本ヲ交付シタル旨及其ノ交付ノ年月日ヲ記載シ之ニ署名捺印スヘシ
第五十一條 囑託人、其ノ承繼人又ハ證書ノ趣旨ニ付法律上利害ノ關係ヲ有スルコトヲ證明シタル者ハ證書又ハ其ノ附屬書類ノ謄本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第二十八條第一項、第二項及第五項、第三十一條、第三十二條第一項及第二項竝第四十四條第三項及第四項ノ規定ハ前項ニ依リ公證人證書ノ謄本ヲ作成スヘキ場合ニ之ヲ準用ス
第五十二條 證書ノ謄本ニハ左ノ事項ヲ記載シ公證人之ニ署名捺印スヘシ
一 證書ノ全文
二 謄本タルコト
三 作成ノ年月日及場所
第五十三條 證書ノ謄本ハ其ノ一部ニ付之ヲ作成スルコトヲ得
前項ノ謄本ニハ抄錄謄本タルコトヲ記載スヘシ
第五十四條 前二條ノ規定ハ證書ノ附屬書類ノ謄本ノ作成ニ之ヲ準用ス
第五十五條 證書又ハ其ノ附屬書類ノ謄本ヲ請求スル者ハ之ニ記載スヘキ事項ヲ自ラ記載シ公證人ノ署名捺印ノミヲ請求スルコトヲ得
公證人前項ノ謄本ニ署名捺印シタルトキハ其ノ謄本ハ公證人自ラ之ヲ作成シタルト同一ノ效力ヲ有ス
第五十六條 證書ノ正本若ハ謄本又ハ其ノ附屬書類ノ謄本數葉ニ涉ルトキハ公證人ハ每葉ノ綴目ニ契印ヲ爲スヘシ
第三十七條及第三十八條ノ規定ハ證書ノ正本及謄本竝其ノ附屬書類ノ謄本ノ作成ニ之ヲ準用ス
第五十七條 第十八條第二項ノ規定ハ公證人遺言書ヲ作成スル場合ニ、第二十八條乃至第三十二條ノ規定ハ公證人拒絕證書ヲ作成スル場合ニ之ヲ適用セス
第五章 認證
第五十八條 公證人私署證書ニ認證ヲ與フルニハ當事者其ノ面前ニ於テ證書ニ署名若ハ捺印シタルトキ又ハ證書ノ署名若ハ捺印ヲ自認シタルトキ其ノ旨ヲ記載シテ之ヲ爲スコトヲ要ス
私署證書ノ謄本ニ認證ヲ與フルニハ證書ト對照シ其ノ符合スルコトヲ認メタルトキ其ノ旨ヲ記載シテ之ヲ爲スコトヲ要ス
私署證書ニ文字ノ挿入、削除、改竄、欄外ノ記載其ノ他ノ訂正アルトキ又ハ破損若ハ外見上著ク疑フヘキ㸃アルトキハ其ノ狀況ヲ認證文ニ記載スルコトヲ要ス
第五十九條 認證ヲ與フヘキ證書ニハ登簿番號、認證ノ年月日及其ノ場所ヲ記載シ公證人及立會人之ニ署名捺印シ且其ノ證書ト認證簿トニ契印ヲ爲スコトヲ要ス
第六十條 第二十六條乃至第三十四條、第三十七條、第三十八條竝第三十九條第五項及第六項ノ規定ハ私署證書ニ認證ヲ與フル場合ニ之ヲ準用ス
第六十一條 公證人ハ認證簿ヲ調製スヘシ
第四十五條ノ規定ハ認證簿ノ調製ニ之ヲ準用ス
第六十二條 認證簿ニハ認證ヲ與フル每ニ進行ノ順序ヲ逐ヒ左ノ事項ヲ記入スヘシ
一 登簿番號
二 囑託人ノ住所及氏名若法人ナルトキハ其ノ名稱及事務所
三 證書ノ種類及署名捺印者
四 認證ノ方法
五 立會人ノ住所及氏名
六 認證ノ年月日
第三十七條及第三十八條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六章 代理兼務及受繼
第六十三條 公證人疾病其ノ他已ムコトヲ得サル事由ニ因リ職務ヲ行フコト能ハサルトキハ同一區裁判所ノ管轄區域又ハ之ニ鄰接スル區裁判所ノ管轄區域內ノ公證人ニ代理ヲ囑託スルコトヲ得
公證人前項ニ依リ代理ヲ囑託シタルトキハ遲滯ナク其ノ旨ヲ所屬地方裁判所長ニ屆出ツヘシ其ノ代理ヲ解キタルトキ亦同シ
第六十四條 公證人前條第一項ニ依リ代理ヲ囑託セス又ハ之ヲ囑託スルコト能ハサルトキハ所屬地方裁判所長ハ同一區裁判所ノ管轄區域又ハ之ニ鄰接スル區裁判所ノ管轄區域內ノ公證人ニ代理ヲ命スルコトヲ得
公證人其ノ職務ヲ行フコトヲ得ルニ至リタルトキハ地方裁判所長ハ前項ノ代理ヲ解クヘシ
第六十五條 公證人ノ代理者前二條ニ依リ其ノ職務ヲ行フノ役場ハ代理セラルル公證人ノ役場トス
公證人ノ代理者職務上署名スルトキハ代理セラルル公證人ノ職氏名、所屬、役場所在地及其ノ代理者タルコトヲ記載スヘシ
第二十二條ノ規定ハ代理セラルル公證人ノ外其ノ代理者ニモ之ヲ適用ス
第六十六條 公證人ノ死亡、免職、失職又ハ轉屬ノ場合ニ於テ所屬地方裁判所長必要ト認ムルトキハ其ノ指定シタル官吏ヲシテ遲滯ナク役場ノ書類ニ封印ヲ爲サシムヘシ
第六十七條 公證人ノ死亡、免職、失職又ハ轉屬ノ場合ニ於テ直ニ後任者ノ任命セラレサルトキハ所屬地方裁判所長ハ同一區裁判所ノ管轄區域又ハ之ニ鄰接スル區裁判所ノ管轄區域內ノ公證人ニ兼務ヲ命スルコトヲ得
後任者其ノ職務ヲ行フコトヲ得ルニ至リタルトキハ地方裁判所長ハ前項ノ兼務ヲ解クヘシ
第六十八條 公證人ノ免職、失職又ハ轉屬ノ場合ニ於テハ後任者又ハ兼務者ハ前任者ト立會ヒ遲滯ナク書類ノ授受ヲ爲スヘシ
死亡其ノ他ノ事由ニ因リ書類ノ授受ヲ爲スコト能ハサル場合ニ於テハ後任者又ハ兼務者ハ所屬地方裁判所長ノ指定シタル官吏ノ立會ヲ以テ書類ヲ受取ルヘシ
第六十六條ニ依ル書類ノ封印後ニ命セラレタル後任者又ハ兼務者ハ所屬地方裁判所長ノ指定シタル官吏ノ立會ヲ以テ封印ヲ解キ書類ヲ受取ルヘシ
第六十九條 前條ノ規定ハ兼務者カ書類ヲ更ニ他ノ公證人ニ引渡スヘキ場合ニ之ヲ準用ス
第七十條 兼務者職務上署名スルトキハ兼務者タルコトヲ記載スヘシ
前任者又ハ兼務者ノ作成シタル證書ニ依リ後任者カ其ノ正本又ハ謄本ヲ作成スル場合ニ於テ署名スルトキハ後任者タルコトヲ記載スヘシ
第七十一條 公證人ノ死亡、免職、失職又ハ轉屬ノ場合ニ於テ定員ノ改正ニ因リ後任者ヲ要セサルトキハ司法大臣ハ同一區裁判所ノ管轄區域內ノ公證人ニ書類ノ引繼ヲ命スヘシ
第六十八條及前條第二項ノ規定ハ前項ニ依リ書類ノ引繼ヲ命セラレタル公證人ニ之ヲ準用ス
第七十二條 第六十六條、第六十七條、第六十八條第三項及第七十條第一項ノ規定ハ公證人ノ停職ノ場合ニ之ヲ準用ス
兼務者前項ニ依リ其ノ職務ヲ行フノ役場ハ停職者ノ役場トス
第七十三條 第六十八條及第六十九條ノ規定ハ區裁判所カ第八條ニ依リ公證人ノ職務ヲ行フ場合ニ之ヲ準用ス
第七章 監督及懲戒
第七十四條 公證人ハ所屬地方裁判所長ノ監督ヲ受ク
地方裁判所長ハ區裁判所ノ一人ノ判事又ハ監督判事ヲシテ其ノ管轄區域內ノ公證人ニ對スル監督事務ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第七十五條 司法大臣及控訴院長ハ司法行政ノ監督ニ關スル規定ニ準シ公證人ヲ監督ス
第七十六條 前二條ノ監督權ハ左ノ事項ヲ包含ス
一 公證人ノ不適當ニ取扱ヒタル職務ニ付其ノ注意ヲ促シ及適當ニ其ノ職務ヲ取扱フヘキコトヲ之ニ訓令スルコト
二 職務ノ內外ヲ問ハス公證人ノ地位ニ不相應ナル行狀ニ付之ニ諭吿スルコト但シ諭吿ヲ爲ス前其ノ公證人ヲシテ辯明ヲ爲スコトヲ得セシムヘシ
第七十七條 監督官ハ公證人ノ保存スル書類ヲ檢閱シ又ハ其ノ指定シタル官吏ヲシテ之ヲ檢閱セシムルコトヲ得
第七十八條 囑託人又ハ利害關係人ハ公證人ノ事務取扱ニ對シ抗吿ヲ爲スコトヲ得
前項ノ抗吿ハ本章ニ揭ケタル監督權ニ依リ之ヲ處分ス
第七十九條 公證人職務上ノ義務ニ違反シタルトキ又ハ品位ヲ失墜スヘキ行爲アリタルトキハ懲戒ニ付ス
第八十條 懲戒ハ左ノ五種トス
一 譴責
二 千圓以下ノ過料
三 一年以下ノ停職
四 轉屬
五 免職
第八十一條 過料、停職、轉屬及免職ハ懲戒委員會ノ議決ニ依リ司法大臣之ヲ行フ
譴責ハ司法大臣之ヲ行フ
第八十二條 各控訴院ニ懲戒委員會ヲ設ク
懲戒委員會ハ之ヲ設置シタル控訴院ノ管轄區域內ノ地方裁判所所屬ノ公證人ニ對スル懲戒ヲ議決ス
懲戒委員會ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八十三條 公證人ノ懲戒手續ト刑事裁判手續トノ關係及其ノ職務停止ニ付テハ判事懲戒法ノ規定ヲ準用ス
公證人ノ停職ニ關スル規定ハ其ノ職務停止ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八十四條 過料ヲ完納セサルトキハ檢事ノ命令ヲ以テ之ヲ執行ス
前項ノ執行ニ付テハ非訟事件手續法第二百八條ノ規定ヲ準用ス
公證人ノ納メタル身元保證金ハ第二十條第三項ノ場合ヲ除クノ外他ノ公課及債權ニ先チテ之ヲ過料ニ充ツ
附 則
第八十五條 本法ニ於テ市區町村長ト稱スルハ之ヲ置カサル地ニ在リテハ其ノ職務ヲ行フ吏員ヲ謂フ
第八十六條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八十七條 公證人規則ハ之ヲ廢止ス
第八十八條 本法施行ノ際公證人タル者ハ別ニ任命ノ辭令書ヲ用井ス本法ニ依ル公證人トシ其ノ役場所在地ヲ管轄スル地方裁判所ノ所屬トス
第八十九條 公證人規則ニ依リ公證人ノ設ケタル役場ハ本法ニ依ル役場トス
第九十條 公證人規則ニ依リ差入レタル身元保證金ハ本法ニ依リ納メタル身元保證金トス
第九十一條 公證人規則ニ依リ囑託セラレタル代理者又ハ命セラレタル兼任者ハ本法ニ依ル代理者又ハ兼務者トス
第九十二條 本法施行前ニ著手シタル公證人ノ職務上ノ行爲ハ本法ニ依リ之ヲ完結ス
第九十三條 本法施行前ニ著手シタル公證人規則第五十八條、第五十九條及第六十一條ノ手續ハ本法ニ依リ之ヲ完結ス
第九十四條 本法施行前ニ公證人ノ事務取扱ニ對シテ爲シタル抗吿ハ公證人規則ニ依リ之ヲ完結ス
第九十五條 本法施行前ニ爲シタル公證人ノ行爲ニシテ公證人規則ニ違反スルモノハ本法ニ依リ之ヲ懲戒ニ付ス但シ本法施行前ニ開始シタル懲罰手續ハ公證人規則ニ依リ之ヲ完結ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル公証人法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十一年四月十三日
内閣総理大臣 侯爵 西園寺公望
司法大臣 男爵 千家尊福
法律第五十三号
公証人法
第一章 総則
第一条 公証人ハ当事者其ノ他ノ関係人ノ嘱託ニ因リ法律行為其ノ他私権ニ関スル事実ニ付公正証書ヲ作成シ及私署証書ニ認証ヲ与フルノ権限ヲ有ス
第二条 公証人ノ作成シタル文書ハ本法及他ノ法律ノ定ムル要件ヲ具備スルニ非サレハ公正ノ効力ヲ有セス
第三条 公証人ハ正当ノ理由アルニ非サレハ嘱託ヲ拒ムコトヲ得ス
第四条 公証人ハ法律ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外其ノ取扱ヒタル事件ヲ漏泄スルコトヲ得ス但シ嘱託人ノ同意ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五条 公証人ハ他ノ公務ヲ兼ネ、商業ヲ営ミ又ハ商事会社若ハ営利ヲ目的トスル社団法人ノ代表者若ハ使用人ト為ルコトヲ得ス但シ司法大臣ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第六条 公証人其ノ職務ノ執行ニ付嘱託人其ノ他ノ者ニ損害ヲ加ヘタルトキハ其ノ損害カ公証人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因リテ生シタル場合ニ限リ之ヲ賠償スルノ責ニ任ス
第七条 公証人ハ嘱託人ヨリ手数料、日当及旅費ヲ受ク
公証人ハ前項ニ記載シタルモノヲ除クノ外何等ノ名義ヲ以テスルモ其ノ取扱ヒタル事件ニ関シテ報酬ヲ受クルコトヲ得ス
手数料、日当及旅費ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八条 区裁判所ノ管轄区域内ニ公証人ナキ場合又ハ公証人其ノ職務ヲ行フコト能ハサル場合ニ於テハ司法大臣ハ其ノ区裁判所ヲシテ管轄区域内ニ於テ公証人ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ判事差支アルトキハ裁判所書記ヲシテ公証人ノ事務ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第九条 本法及他ノ法令中公証人ノ職務ニ関スル規定ハ公証人ノ事務ヲ取扱フ判事又ハ裁判所書記ニ之ヲ準用ス但シ第七条ニ依ル手数料、日当及旅費ハ国庫ノ収入トス
第二章 任免及所属
第十条 公証人ハ地方裁判所ノ所属トス
各地方裁判所所属公証人ノ員数ハ区裁判所ノ管轄区域毎ニ司法大臣之ヲ定ム
第十一条 公証人ハ司法大臣之ヲ任シ及其ノ属スヘキ地方裁判所ヲ指定ス
第十二条 左ノ条件ヲ具備スル者ニ非サレハ公証人ニ任セラルルコトヲ得ス
一 帝国臣民ニシテ成年以上ノ男子タルコト
二 一定ノ試験ニ合格シタル後六月以上公証人見習トシテ実地修習ヲ為シタルコト
試験及実地修習ニ関スル規程ハ司法大臣之ヲ定ム
第十三条 判事、検事又ハ弁護士タルノ資格ヲ有スル者ハ試験及実地修習ヲ経スシテ公証人ニ任セラルルコトヲ得
第十四条 左ニ掲クル者ハ公証人ニ任セラルルコトヲ得ス
一 禁錮以上ノ刑ニ処セラレタル者但シ二年以下ノ禁錮ニ処セラレタル者ニシテ刑ノ執行ヲ終リ又ハ其ノ執行ヲ受クルコトナキニ至リタルトキハ此ノ限ニ在ラス
二 破産又ハ家資分散ノ宣告ヲ受ケ復権セサル者
三 禁治産者及準禁治産者
四 懲戒ノ処分ニ因リ免官若ハ免職セラレタル者又ハ弁護士法ニ依リ除名セラレタル者ニシテ免官、免職又ハ除名後二年ヲ経過セサル者
第十五条 司法大臣ハ左ノ場合ニ於テ公証人ヲ免スルコトヲ得
一 公証人免職ヲ願出テタルトキ
二 公証人期間内ニ身元保証金又ハ其ノ補充額ヲ納メサルトキ
三 公証人身体又ハ精神ノ衰弱ニ因リ其ノ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキ
前項第三号ノ場合ニ於テハ所属地方裁判所ヲ管轄スル控訴院ニ於ケル懲戒委員会ノ議決ヲ経ヘシ
第十六条 公証人第十四条第一号乃至第三号ニ該当スルニ至リタルトキハ当然其ノ職ヲ失フ
第三章 職務執行ニ関スル通則
第十七条 公証人ノ職務執行ノ区域ハ其ノ所属地方裁判所ノ管轄区域ニ依ル
第十八条 公証人ハ司法大臣ノ指定シタル地ニ其ノ役場ヲ設クヘシ
公証人ハ役場ニ於テ其ノ職務ヲ行フコトヲ要ス但シ事件ノ性質カ之ヲ許ササル場合又ハ法令ニ別段ノ定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
公証人ハ其ノ役場内ニ住居スヘシ但シ司法大臣ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十九条 公証人ハ任命ノ辞令書ヲ受ケタル日ヨリ十五日以内ニ所属地方裁判所ニ身元保証金ヲ納ムヘシ
身元保証金ノ額ハ土地ノ情況ニ従ヒ三百円以上千円以下ノ範囲内ニ於テ司法大臣之ヲ定ム
身元保証金ノ額ニ不足ヲ生シ補充ノ命令ヲ受ケタルトキハ其ノ命令ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ其ノ不足額ヲ補充スヘシ
公証人身元保証金ヲ納メサル間ハ其ノ職務ヲ行フコトヲ得ス
第二十条 身元保証金ヲ還付スヘキ場合ニ於テハ其ノ身元保証金ノ上ニ権利ヲ有スル者ニ対シ六月ヲ下ラサル期間内ニ申出ツヘキ旨ヲ公告スヘシ
身元保証金ハ前項ノ期間ヲ経過スルニ非サレハ之ヲ還付セス
身元保証金ハ他ノ公課及債権ニ先チテ之ヲ第一項ノ公告費用ニ充ツ
第二十一条 公証人ハ其ノ職印ノ印鑑ニ氏名ヲ自署シ之ヲ所属地方裁判所ニ差出スヘシ
公証人前項ノ印鑑ヲ差出ササル間ハ其ノ職務ヲ行フコトヲ得ス
第二十二条 公証人ハ左ノ場合ニ於テ其ノ職務ヲ行フコトヲ得ス
一 嘱託人、其ノ代理人又ハ嘱託セラレタル事項ニ付利害ノ関係ヲ有スル者ノ配偶者、四親等内ノ親族又ハ同居ノ戸主若ハ家族タルトキ親族関係カ止ミタル後亦同シ
二 嘱託人又ハ其ノ代理人ノ法定代理人又ハ保佐人タルトキ
三 嘱託セラレタル事項ニ付利害ノ関係ヲ有スルトキ
四 嘱託セラレタル事項ニ付代理人若ハ輔佐人タルトキ又ハ代理人若ハ輔佐人タリシトキ
第二十三条 公証人職務上署名スルトキハ其ノ職名、所属及役場所在地ヲ記載スヘシ
第二十四条 公証人ハ所属地方裁判所長ノ認可ヲ受ケテ筆生ヲ置キ執務ノ補助ヲ為サシムルコトヲ得
前項ノ認可ハ必要ナル場合ニ於テハ何時ニテモ之ヲ取消スコトヲ得
第二十五条 公証人ノ作成シタル証書ノ原本、其ノ附属書類及法令ニ依リ公証人ノ調製シタル帳簿ハ事変ヲ避クル為ニスル場合ヲ除クノ外之ヲ役場外ニ持出スコトヲ得ス但シ裁判所又ハ予審判事ノ命令又ハ嘱託アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ書類ノ保存及廃毀ニ関スル規程ハ司法大臣之ヲ定ム
第四章 証書ノ作成
第二十六条 公証人ハ法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為及無能力ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ法律行為ニ付証書ヲ作成スルコトヲ得ス
第二十七条 公証人ハ日本語ヲ用ウル証書ニ非サレハ之ヲ作成スルコトヲ得ス
第二十八条 公証人証書ヲ作成スルニハ嘱託人ノ氏名ヲ知リ且之ト面識アルコトヲ要ス
公証人嘱託人ノ氏名ヲ知ラス又ハ之ト面識ナキトキハ其ノ本籍地若ハ寄留地ノ市区町村長ノ作成シタル印鑑証明書ヲ提出セシメ又ハ氏名ヲ知リ且面識アル証人二人ニ依リ其ノ人違ナキコトヲ証明セシムルコトヲ要ス但シ嘱託人外国人ナルトキハ警察官吏又ハ帝国ニ駐在スル本国領事ノ証明書ヲ以テ印鑑証明書ニ代フルコトヲ得
急迫ナル場合ニ於テ公証人法律行為ニ非サル事実ニ付証書ヲ作成スルトキハ前項ノ手続ハ証書ヲ作成シタル後三日内ニ証書ノ作成ニ関スル規定ニ依リ之ヲ為スコトヲ得
前項ノ手続ヲ為シタルトキハ証書ハ急迫ナル場合ニ非サルカ為其ノ効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第三十四条第三項ノ規定ハ第二項ノ証人ニ之ヲ準用ス
第二十九条 嘱託人日本語ヲ解セサル場合又ハ聾者若ハ唖者其ノ他言語ヲ発スルコト能ハサル者ニシテ文字ヲ解セサル場合ニ於テ公証人証書ヲ作成スルニハ通事ヲ立会ハシムルコトヲ要ス
第三十条 嘱託人盲者ナル場合又ハ文字ヲ解セサル場合ニ於テ公証人証書ヲ作成スルニハ立会人ヲ立会ハシムルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ嘱託人立会人ヲ立会ハシムルコトヲ請求シタル場合ニ之ヲ準用ス
第三十一条 代理人ニ依リ嘱託セラレタル場合ニ於テハ前三条ノ規定ハ其ノ代理人ニ之ヲ適用ス
第三十二条 代理人ニ依リ嘱託セラレタル場合ニ於テ公証人証書ヲ作成スルニハ其ノ代理人ノ権限ヲ証スヘキ証書ヲ提出セシメ其ノ権限ヲ証明セシムルコトヲ要ス
前項ノ証書カ認証ヲ受ケサル私署証書ナルトキハ其ノ証書ノ外其ノ署名者ノ本籍地又ハ寄留地ノ市区町村長ノ作成シタル印鑑証明書ヲ提出セシメ証書ノ真正ナルコトヲ証明セシムルコトヲ要ス但シ其ノ署名者外国人ナルトキハ第二十八条第二項但書ノ規定ヲ準用ス
証書ノ作成ニ関スル規定ニ依リ代理又ハ其ノ方式ノ欠欠ヲ追完シタルトキハ証書ハ其ノ欠欠アリタルカ為効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第三十三条 第三者ノ許可又ハ同意ヲ要スヘキ法律行為ニ付公証人証書ヲ作成スルニハ其ノ許可又ハ同意アリタルコトヲ証スヘキ証書ヲ提出セシメ其ノ許可又ハ同意ヲ証明セシムルコトヲ要ス
前条第二項及第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三十四条 通事及立会人ハ嘱託人又ハ其ノ代理人之ヲ選定スルコトヲ要ス
立会人ハ通事ヲ兼ヌルコトヲ得
左ニ掲クル者ハ立会人タルコトヲ得ス
一 未成年者
二 第十四条ニ掲ケタル者
三 自ラ署名スルコト能ハサル者
四 嘱託事項ニ付利害ノ関係ヲ有スル者
五 嘱託事項ニ付代理人若ハ輔佐人タル者又ハ代理人若ハ輔佐人タリシ者
六 公証人又ハ嘱託人若ハ其ノ代理人ノ配偶者、四親等内ノ親族、同居ノ戸主若ハ家族、法定代理人、保佐人、雇人又ハ同居人
七 公証人ノ筆生
第三十五条 公証人証書ヲ作成スルニハ其ノ聴取シタル陳述、其ノ目撃シタル状況其ノ他自ラ実験シタル事実ヲ録取シ且其ノ実験ノ方法ヲ記載シテ之ヲ為スコトヲ要ス
第三十六条 公証人ノ作成スル証書ニハ其ノ本旨ノ外左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 証書ノ番号
二 嘱託人ノ住所、職業、氏名及年齢若法人ナルトキハ其ノ名称及事務所
三 代理人ニ依リ嘱託セラレタルトキハ其ノ旨及其ノ代理人ノ権限ヲ証スヘキ証書ヲ提出セシメ其ノ権限ヲ証明セシメタルコト並其ノ代理人ノ住所、職業、氏名及年齢
四 嘱託人又ハ其ノ代理人ノ氏名ヲ知リ且之ト面識アルトキハ其ノ旨
五 第三者ノ許可又ハ同意アリタルコトヲ証スヘキ証書ヲ提出セシメ其ノ許可又ハ同意ヲ証明セシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由並其ノ第三者ノ住所、職業、氏名及年齢若法人ナルトキハ其ノ名称及事務所
六 市区町村長ノ作成シタル印鑑証明書又ハ警察官吏若ハ領事ノ証明書ヲ提出セシメ人違ナキコト又ハ証書ノ真正ナルコトヲ証明セシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由
七 氏名ヲ知リ且面識アル証人ニ依リ人違ナキコトヲ証明セシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由並其ノ証人ノ住所、職業、氏名及年齢
八 急迫ナル場合ニ於テ人違ナキコトヲ証明セシメサリシトキハ其ノ旨
九 通事又ハ立会人ヲ立会ハシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由並其ノ通事又ハ立会人ノ住所、職業、氏名及年齢
十 作成ノ年月日及場所
第三十七条 公証人証書ヲ作成スルニハ普通平易ノ語ヲ用井字画ヲ明瞭ナラシムヘシ
接続スヘキ字行ニ空白アルトキハ墨線ヲ以テ之ヲ接続セシムヘシ
数量、年月日及番号ヲ記載スルニハ壱弐参拾ノ字ヲ用ウヘシ
第三十八条 証書ノ文字ハ之ヲ改竄スルコトヲ得ス
証書ニ文字ヲ挿入スルトキハ其ノ文字及其ノ箇所ヲ欄外又ハ末尾ノ余白ニ記載シ公証人、嘱託人又ハ其ノ代理人及立会人之ニ捺印スルコトヲ要ス
証書ノ文字ヲ削除スルトキハ其ノ文字ハ尚明ニ読得ヘキ為字体ヲ存シ削除シタル字数及箇所ヲ欄外又ハ末尾ノ余白ニ記載シ公証人、嘱託人又ハ其ノ代理人及立会人之ニ捺印スルコトヲ要ス
前三項ノ規定ニ違反シテ為シタル訂正ハ其ノ効力ヲ有セス
第三十九条 公証人ハ其ノ作成シタル証書ヲ列席者ニ読聞カセ又ハ閲覧セシメ嘱託人又ハ其ノ代理人ノ承認ヲ得且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス
通事ヲ立会ハシメタル場合ニ於テハ前項ノ外通事ヲシテ証書ノ趣旨ヲ通訳セシメ且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス
前二項ノ記載ヲ為シタルトキハ公証人及列席者各自証書ニ署名捺印スルコトヲ要ス
列席者ニシテ署名スルコト能ハサル者アルトキハ其ノ旨ヲ証書ニ記載シ公証人及立会人之ニ捺印スルコトヲ要ス
証書数葉ニ渉ルトキハ公証人、嘱託人又ハ其ノ代理人及立会人ハ毎葉ノ綴目ニ契印ヲ為スコトヲ要ス
証書ハ公証人、嘱託人若ハ其ノ代理人又ハ立会人ノ契印ニ依リ其ノ全部ノ連綴明白ナル場合ニ於テハ前項ニ違反シタルカ為其ノ効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第四十条 公証人ノ作成スル証書ニ他ノ書面ヲ引用シ且之ヲ其ノ証書ニ添附スルトキハ公証人、嘱託人又ハ其ノ代理人及立会人其ノ証書ト添附書面トノ綴目ニ契印ヲ為スコトヲ要ス
前三条ノ規定ハ前項ノ添附書面ニ之ヲ準用ス
前二項ニ依ル添附書面ハ公証人ノ作成シタル証書ノ一部ト看做ス
第四十一条 代理人ノ権限ヲ証スヘキ証書、市区町村長、警察官吏又ハ領事ノ証明書、第三者ノ許可又ハ同意ヲ証スヘキ証書其ノ他ノ附属書類ハ公証人ノ作成シタル証書ニ之ヲ連綴スヘシ
公証人、嘱託人又ハ其ノ代理人及立会人ハ証書ト其ノ附属書類トノ綴目及附属書類相互ノ綴目ニ契印ヲ為スヘシ
第四十二条 証書ノ原本滅失シタルトキハ公証人ハ既ニ交付シタル証書ノ正本又ハ謄本ヲ徴シ所属地方裁判所長ノ認可ヲ受ケ滅失シタル証書ニ代ヘテ之ヲ保存スルコトヲ要ス
前項ノ証書ニハ所属地方裁判所長ノ認可ヲ受ケ滅失シタル証書ニ代ヘテ之ヲ保存スル旨及其ノ認可ノ年月日ヲ記載シ公証人之ニ署名捺印スルコトヲ要ス
第四十三条 公証人ハ嘱託人ヲシテ印紙税法ニ依リ証書ノ原本ニ印紙ヲ貼用セシムヘシ
第四十四条 嘱託人、其ノ承継人又ハ証書ノ趣旨ニ付法律上利害ノ関係ヲ有スルコトヲ証明シタル者ハ証書ノ原本ノ閲覧ヲ請求スルコトヲ得
第二十八条第一項、第二項及第五項、第三十一条並第三十二条第一項及第二項ノ規定ハ前項ニ依リ公証人証書ノ原本ヲ閲覧セシムヘキ場合ニ之ヲ準用ス
公証人嘱託人ノ承継人ニ証書ノ原本ヲ閲覧セシムヘキ場合ニ於テハ承継人タルコトヲ証スヘキ証書ヲ提出セシメ其ノ承継人タルコトヲ証明セシムヘシ
第三十二条第二項ノ規定ハ前項ニ依リ提出セシムヘキ証書ニ之ヲ準用ス
検事ハ何時ニテモ証書ノ原本ノ閲覧ヲ請求スルコトヲ得
第四十五条 公証人ハ証書原簿ヲ調製シ記入前其ノ所属地方裁判所長ノ契印ヲ請フヘシ
地方裁判所長ハ其ノ枚数ヲ表紙ノ裏面ニ記載シ職氏名ヲ署シ職印ヲ押捺シ毎葉ノ綴目ニ職印ヲ以テ契印ヲ為スヘシ
第四十六条 証書原簿ニハ証書ノ作成毎ニ進行ノ順序ヲ逐ヒ左ノ事項ヲ記入スヘシ
一 証書ノ番号及種類
二 嘱託人ノ住所及氏名若法人ナルトキハ其ノ名称及事務所
三 作成ノ年月日
第三十七条及第三十八条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
前二項ノ規定ハ証書ノ作成ヲ記入スヘキ帳簿ニ関シ法令ニ別段ノ定アル場合ニ之ヲ適用セス
第四十七条 嘱託人又ハ其ノ承継人ハ証書ノ正本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第二十八条第一項、第二項及第五項、第三十一条、第三十二条第一項及第二項並第四十四条第三項及第四項ノ規定ハ前項ニ依リ公証人証書ノ正本ヲ作成スヘキ場合ニ之ヲ準用ス
第四十八条 証書ノ正本ニハ左ノ事項ヲ記載シ公証人之ニ署名捺印スルコトヲ要ス
一 証書ノ全文
二 正本タルコト
三 交付ヲ請求シタル者ノ氏名
四 作成ノ年月日及場所
前項ノ規定ニ違反スルモノハ証書ノ正本タルノ効力ヲ有セス
第四十九条 数事件ヲ列記スル証書又ハ数人各自ニ関係ヲ異ニスル証書ニ付テハ有用ノ部分及証書ノ方式ニ関スル記載ヲ抄録シテ其ノ正本ヲ作成スルコトヲ得
前項ノ正本ニハ抄録正本タルコトヲ記載シ前条第一項第二号ノ記載ニ代フルコトヲ要ス
第五十条 公証人証書ノ正本ヲ交付シタルトキハ其ノ証書ノ末尾ニ嘱託人又ハ其ノ承継人何某ノ為正本ヲ交付シタル旨及其ノ交付ノ年月日ヲ記載シ之ニ署名捺印スヘシ
第五十一条 嘱託人、其ノ承継人又ハ証書ノ趣旨ニ付法律上利害ノ関係ヲ有スルコトヲ証明シタル者ハ証書又ハ其ノ附属書類ノ謄本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第二十八条第一項、第二項及第五項、第三十一条、第三十二条第一項及第二項並第四十四条第三項及第四項ノ規定ハ前項ニ依リ公証人証書ノ謄本ヲ作成スヘキ場合ニ之ヲ準用ス
第五十二条 証書ノ謄本ニハ左ノ事項ヲ記載シ公証人之ニ署名捺印スヘシ
一 証書ノ全文
二 謄本タルコト
三 作成ノ年月日及場所
第五十三条 証書ノ謄本ハ其ノ一部ニ付之ヲ作成スルコトヲ得
前項ノ謄本ニハ抄録謄本タルコトヲ記載スヘシ
第五十四条 前二条ノ規定ハ証書ノ附属書類ノ謄本ノ作成ニ之ヲ準用ス
第五十五条 証書又ハ其ノ附属書類ノ謄本ヲ請求スル者ハ之ニ記載スヘキ事項ヲ自ラ記載シ公証人ノ署名捺印ノミヲ請求スルコトヲ得
公証人前項ノ謄本ニ署名捺印シタルトキハ其ノ謄本ハ公証人自ラ之ヲ作成シタルト同一ノ効力ヲ有ス
第五十六条 証書ノ正本若ハ謄本又ハ其ノ附属書類ノ謄本数葉ニ渉ルトキハ公証人ハ毎葉ノ綴目ニ契印ヲ為スヘシ
第三十七条及第三十八条ノ規定ハ証書ノ正本及謄本並其ノ附属書類ノ謄本ノ作成ニ之ヲ準用ス
第五十七条 第十八条第二項ノ規定ハ公証人遺言書ヲ作成スル場合ニ、第二十八条乃至第三十二条ノ規定ハ公証人拒絶証書ヲ作成スル場合ニ之ヲ適用セス
第五章 認証
第五十八条 公証人私署証書ニ認証ヲ与フルニハ当事者其ノ面前ニ於テ証書ニ署名若ハ捺印シタルトキ又ハ証書ノ署名若ハ捺印ヲ自認シタルトキ其ノ旨ヲ記載シテ之ヲ為スコトヲ要ス
私署証書ノ謄本ニ認証ヲ与フルニハ証書ト対照シ其ノ符合スルコトヲ認メタルトキ其ノ旨ヲ記載シテ之ヲ為スコトヲ要ス
私署証書ニ文字ノ挿入、削除、改竄、欄外ノ記載其ノ他ノ訂正アルトキ又ハ破損若ハ外見上著ク疑フヘキ点アルトキハ其ノ状況ヲ認証文ニ記載スルコトヲ要ス
第五十九条 認証ヲ与フヘキ証書ニハ登簿番号、認証ノ年月日及其ノ場所ヲ記載シ公証人及立会人之ニ署名捺印シ且其ノ証書ト認証簿トニ契印ヲ為スコトヲ要ス
第六十条 第二十六条乃至第三十四条、第三十七条、第三十八条並第三十九条第五項及第六項ノ規定ハ私署証書ニ認証ヲ与フル場合ニ之ヲ準用ス
第六十一条 公証人ハ認証簿ヲ調製スヘシ
第四十五条ノ規定ハ認証簿ノ調製ニ之ヲ準用ス
第六十二条 認証簿ニハ認証ヲ与フル毎ニ進行ノ順序ヲ逐ヒ左ノ事項ヲ記入スヘシ
一 登簿番号
二 嘱託人ノ住所及氏名若法人ナルトキハ其ノ名称及事務所
三 証書ノ種類及署名捺印者
四 認証ノ方法
五 立会人ノ住所及氏名
六 認証ノ年月日
第三十七条及第三十八条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六章 代理兼務及受継
第六十三条 公証人疾病其ノ他已ムコトヲ得サル事由ニ因リ職務ヲ行フコト能ハサルトキハ同一区裁判所ノ管轄区域又ハ之ニ隣接スル区裁判所ノ管轄区域内ノ公証人ニ代理ヲ嘱託スルコトヲ得
公証人前項ニ依リ代理ヲ嘱託シタルトキハ遅滞ナク其ノ旨ヲ所属地方裁判所長ニ届出ツヘシ其ノ代理ヲ解キタルトキ亦同シ
第六十四条 公証人前条第一項ニ依リ代理ヲ嘱託セス又ハ之ヲ嘱託スルコト能ハサルトキハ所属地方裁判所長ハ同一区裁判所ノ管轄区域又ハ之ニ隣接スル区裁判所ノ管轄区域内ノ公証人ニ代理ヲ命スルコトヲ得
公証人其ノ職務ヲ行フコトヲ得ルニ至リタルトキハ地方裁判所長ハ前項ノ代理ヲ解クヘシ
第六十五条 公証人ノ代理者前二条ニ依リ其ノ職務ヲ行フノ役場ハ代理セラルル公証人ノ役場トス
公証人ノ代理者職務上署名スルトキハ代理セラルル公証人ノ職氏名、所属、役場所在地及其ノ代理者タルコトヲ記載スヘシ
第二十二条ノ規定ハ代理セラルル公証人ノ外其ノ代理者ニモ之ヲ適用ス
第六十六条 公証人ノ死亡、免職、失職又ハ転属ノ場合ニ於テ所属地方裁判所長必要ト認ムルトキハ其ノ指定シタル官吏ヲシテ遅滞ナク役場ノ書類ニ封印ヲ為サシムヘシ
第六十七条 公証人ノ死亡、免職、失職又ハ転属ノ場合ニ於テ直ニ後任者ノ任命セラレサルトキハ所属地方裁判所長ハ同一区裁判所ノ管轄区域又ハ之ニ隣接スル区裁判所ノ管轄区域内ノ公証人ニ兼務ヲ命スルコトヲ得
後任者其ノ職務ヲ行フコトヲ得ルニ至リタルトキハ地方裁判所長ハ前項ノ兼務ヲ解クヘシ
第六十八条 公証人ノ免職、失職又ハ転属ノ場合ニ於テハ後任者又ハ兼務者ハ前任者ト立会ヒ遅滞ナク書類ノ授受ヲ為スヘシ
死亡其ノ他ノ事由ニ因リ書類ノ授受ヲ為スコト能ハサル場合ニ於テハ後任者又ハ兼務者ハ所属地方裁判所長ノ指定シタル官吏ノ立会ヲ以テ書類ヲ受取ルヘシ
第六十六条ニ依ル書類ノ封印後ニ命セラレタル後任者又ハ兼務者ハ所属地方裁判所長ノ指定シタル官吏ノ立会ヲ以テ封印ヲ解キ書類ヲ受取ルヘシ
第六十九条 前条ノ規定ハ兼務者カ書類ヲ更ニ他ノ公証人ニ引渡スヘキ場合ニ之ヲ準用ス
第七十条 兼務者職務上署名スルトキハ兼務者タルコトヲ記載スヘシ
前任者又ハ兼務者ノ作成シタル証書ニ依リ後任者カ其ノ正本又ハ謄本ヲ作成スル場合ニ於テ署名スルトキハ後任者タルコトヲ記載スヘシ
第七十一条 公証人ノ死亡、免職、失職又ハ転属ノ場合ニ於テ定員ノ改正ニ因リ後任者ヲ要セサルトキハ司法大臣ハ同一区裁判所ノ管轄区域内ノ公証人ニ書類ノ引継ヲ命スヘシ
第六十八条及前条第二項ノ規定ハ前項ニ依リ書類ノ引継ヲ命セラレタル公証人ニ之ヲ準用ス
第七十二条 第六十六条、第六十七条、第六十八条第三項及第七十条第一項ノ規定ハ公証人ノ停職ノ場合ニ之ヲ準用ス
兼務者前項ニ依リ其ノ職務ヲ行フノ役場ハ停職者ノ役場トス
第七十三条 第六十八条及第六十九条ノ規定ハ区裁判所カ第八条ニ依リ公証人ノ職務ヲ行フ場合ニ之ヲ準用ス
第七章 監督及懲戒
第七十四条 公証人ハ所属地方裁判所長ノ監督ヲ受ク
地方裁判所長ハ区裁判所ノ一人ノ判事又ハ監督判事ヲシテ其ノ管轄区域内ノ公証人ニ対スル監督事務ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第七十五条 司法大臣及控訴院長ハ司法行政ノ監督ニ関スル規定ニ準シ公証人ヲ監督ス
第七十六条 前二条ノ監督権ハ左ノ事項ヲ包含ス
一 公証人ノ不適当ニ取扱ヒタル職務ニ付其ノ注意ヲ促シ及適当ニ其ノ職務ヲ取扱フヘキコトヲ之ニ訓令スルコト
二 職務ノ内外ヲ問ハス公証人ノ地位ニ不相応ナル行状ニ付之ニ諭告スルコト但シ諭告ヲ為ス前其ノ公証人ヲシテ弁明ヲ為スコトヲ得セシムヘシ
第七十七条 監督官ハ公証人ノ保存スル書類ヲ検閲シ又ハ其ノ指定シタル官吏ヲシテ之ヲ検閲セシムルコトヲ得
第七十八条 嘱託人又ハ利害関係人ハ公証人ノ事務取扱ニ対シ抗告ヲ為スコトヲ得
前項ノ抗告ハ本章ニ掲ケタル監督権ニ依リ之ヲ処分ス
第七十九条 公証人職務上ノ義務ニ違反シタルトキ又ハ品位ヲ失墜スヘキ行為アリタルトキハ懲戒ニ付ス
第八十条 懲戒ハ左ノ五種トス
一 譴責
二 千円以下ノ過料
三 一年以下ノ停職
四 転属
五 免職
第八十一条 過料、停職、転属及免職ハ懲戒委員会ノ議決ニ依リ司法大臣之ヲ行フ
譴責ハ司法大臣之ヲ行フ
第八十二条 各控訴院ニ懲戒委員会ヲ設ク
懲戒委員会ハ之ヲ設置シタル控訴院ノ管轄区域内ノ地方裁判所所属ノ公証人ニ対スル懲戒ヲ議決ス
懲戒委員会ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八十三条 公証人ノ懲戒手続ト刑事裁判手続トノ関係及其ノ職務停止ニ付テハ判事懲戒法ノ規定ヲ準用ス
公証人ノ停職ニ関スル規定ハ其ノ職務停止ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八十四条 過料ヲ完納セサルトキハ検事ノ命令ヲ以テ之ヲ執行ス
前項ノ執行ニ付テハ非訟事件手続法第二百八条ノ規定ヲ準用ス
公証人ノ納メタル身元保証金ハ第二十条第三項ノ場合ヲ除クノ外他ノ公課及債権ニ先チテ之ヲ過料ニ充ツ
附 則
第八十五条 本法ニ於テ市区町村長ト称スルハ之ヲ置カサル地ニ在リテハ其ノ職務ヲ行フ吏員ヲ謂フ
第八十六条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八十七条 公証人規則ハ之ヲ廃止ス
第八十八条 本法施行ノ際公証人タル者ハ別ニ任命ノ辞令書ヲ用井ス本法ニ依ル公証人トシ其ノ役場所在地ヲ管轄スル地方裁判所ノ所属トス
第八十九条 公証人規則ニ依リ公証人ノ設ケタル役場ハ本法ニ依ル役場トス
第九十条 公証人規則ニ依リ差入レタル身元保証金ハ本法ニ依リ納メタル身元保証金トス
第九十一条 公証人規則ニ依リ嘱託セラレタル代理者又ハ命セラレタル兼任者ハ本法ニ依ル代理者又ハ兼務者トス
第九十二条 本法施行前ニ著手シタル公証人ノ職務上ノ行為ハ本法ニ依リ之ヲ完結ス
第九十三条 本法施行前ニ著手シタル公証人規則第五十八条、第五十九条及第六十一条ノ手続ハ本法ニ依リ之ヲ完結ス
第九十四条 本法施行前ニ公証人ノ事務取扱ニ対シテ為シタル抗告ハ公証人規則ニ依リ之ヲ完結ス
第九十五条 本法施行前ニ為シタル公証人ノ行為ニシテ公証人規則ニ違反スルモノハ本法ニ依リ之ヲ懲戒ニ付ス但シ本法施行前ニ開始シタル懲罰手続ハ公証人規則ニ依リ之ヲ完結ス