公証人規則
法令番号: 法律第二號
公布年月日: 明治19年8月13日
法令の形式: 法律
朕公證人規則ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治十九年八月十一日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
司法大臣 伯爵 山田顯義
法律第二號
公證人規則
第一章 總則
第一條 公證人ハ人民ノ囑託ニ應シ民事ニ關スル公正證書ヲ作ルヲ以テ職務ト爲ス
第二條 公證人ハ法律命令ニ背キタル事件ノ公正證書又ハ他ノ官吏ノ作ル可キ公證書類ヲ作ルコトヲ得ス若シ之ヲ作リタルトキハ公正ノ効ヲ有セス
第三條 公證人ノ作リタル公正證書ハ完全ノ證據ニシテ其正本ニ依リ裁判所ノ命令ヲ得テ執行スル力アルモノトス但刑事裁判所ニ僞造ノ訴アルトキハ其證書ノ執行ヲ中止ス可シ又民事裁判所ニ僞造ノ申立アルトキハ其證書ノ執行ヲ中止スルコトヲ得
第四條 公證人ハ治安裁判所ノ管轄地ヲ以テ受持區トシ其區內ニ於テ司法大臣ノ認可ヲ受ケタル町村內ニ住居シ其居宅ニ役場ヲ設ケ役場ニ於テ職務ヲ行フ可シ但役場外ニ住居セントスルトキハ管轄始審裁判所ノ認可ヲ受ク可シ
已ムヲ得サル事件ニ付テハ受持區內ニ限リ役場外ニ於テ其職務ヲ行フ可シ
第五條 各區內公證人ノ員數ハ司法大臣之ヲ定ム
第六條 公證人ハ司法大臣ニ隷屬シ控訴院長始審裁判所長ノ監督ヲ受クルモノトス
第七條 公證人其受持區內ニ於テハ區外人ノ爲メニモ職務ヲ行フ可シ但受持區外ニ於テハ何人ノ爲メニモ職務ヲ行フコトヲ得ス若シ之ヲ行ヒタルトキハ其書類ハ公正ノ効ヲ有セス
第八條 公證人ハ理由ナクシテ人民ノ囑託ヲ拒ムコトヲ得ス若シ之ヲ拒ミタルトキ囑託人ノ求メアレハ其理由ヲ記シテ渡ス可シ
第九條 公證人ノ職務執行上ニ關シ不服アル者ハ管轄始審裁判所ニ抗吿スルコトヲ得
第十條 公證人ハ公證人何某ト刻シタル方六分ノ役印ヲ作リ其印鑑ニ氏名ヲ手書シ之ヲ管轄始審裁判所及治安裁判所ニ差出ス可シ
前項ノ印鑑ヲ差出サヽル間ハ職務ヲ行フコトヲ許サス若シ之ヲ行ヒタルトキハ其書類ハ公正ノ効ヲ有セス
第十一條 公證人已ムヲ得サル事故アリテ職務ヲ行フコト能ハサルトキハ近隣ノ公證人ニ代理ヲ囑シ管轄始審裁判所ニ其旨ヲ屆出可シ
第十二條 公證人ハ筆生ヲ置キ書類ヲ作ル補助ヲ爲サシムルコトヲ得
第十三條 公證人ノ作ル證書及謄本ノ用紙ハ某始審裁判所管內公證人役場ト刻シタル罫紙ヲ用フ可シ
第十四條 公證人ノ取扱フ可キ書類左ノ如シ
第一 原本 證書ノ本紙ニシテ公證人ノ保存スルモノ
第二 正本 原本ノ全文ヲ記シタルモノニシテ本文義務ノ執行ヲ裁判所ニ願出可キ旨ヲ其末尾ニ記載シタルモノ
第三 抄錄正本 原本ノ一部分ヲ記シ其末尾ニ前項ト同一ノ記載アルモノ
第四 正式謄本 原本ノ全文ヲ寫シタルモノニシテ原本ニ代ヘ得可キモノ
第五 抄錄正式謄本 原本ノ一部分ヲ抄寫シタルモノニシテ原本ニ代ヘ得可キモノ
第六 謄本 原本ノ全文ヲ寫シタルモノ
第七 抄錄謄本 原本ノ一部分ヲ抄寫シタルモノ
第八 見出帳 日々授受シタル書類ノ番號種類等ヲ順次ニ記入スルモノ
第十五條 原本其他書類ノ本書ハ役場ニ之ヲ保存シ他ノ官吏ノ公證ヲ受クル爲メノ外裁判所ノ命令ニ依ルニ非サレハ役場外ニ出スコトヲ得ス
第十六條 裁判所ノ命令ニ依ルノ外關係外ノ者ニ書類ノ謄本ヲ渡ス可カラス
第十七條 公證人ハ其取扱ヒタル公證事件ヲ漏洩ス可カラス
第二章 公證人ノ選任及試驗
第十八條 公證人タル可キ者ハ左ノ件々ヲ具備スルヲ要ス
第一 滿二十五歲以上ナル事
第二 身元保證金ヲ管轄始審裁判所ニ差入ルヽ事
第三 定式試驗ノ及第證書ヲ有スル事但裁判官檢察官タリシ者及法學士法科大學卒業生代言人ハ此條件ヲ要セス
第四 丁年者二名以上ニテ其品行ヲ保證スル證書ヲ有スル事
第十九條 保證金ノ額ハ土地ノ狀況ニ從ヒ貳百圓以上五百圓以下ニ於テ豫メ司法大臣之ヲ定ム
第二十條 左ニ揭クル者ハ公證人タルコトヲ得ス
第一 公權剝奪若クハ停止中ノ者
第二 盜罪詐僞罪賄賂收受ノ罪及贓物ニ關スル罪ヲ犯シ刑ヲ受ケタル者
第三 身代限ノ處分ヲ受ケ負債ノ辨償ヲ終ヘサル者
第四 官吏懲戒令ニ依リ免職セラレタル者
第二十一條 公證人ヲ試驗スル場所及期日ハ司法大臣之ヲ定メ少クトモ二箇月前ニ吿示ス可シ
第二十二條 試驗委員ハ控訴院若クハ始審裁判所ノ裁判官二名檢察官一名トシ司法大臣臨時之ヲ命ス
第二十三條 試驗ノ科目ハ公證人規則、民法、訴訟法、商法其他公證人ノ職務ニ關スル法律命令トス
第二十四條 公證人タラント欲スル者ハ願書ニ試驗及第證書ノ寫ヲ添ヘ管轄始審裁判所若クハ控訴院ヲ經テ司法大臣ニ差出ス可シ但裁判官檢察官タリシ者ハ其官記法學士ハ其學位記法科大學卒業生ハ其卒業證書代言人ハ其免許狀ヲ以テ及第證書ニ代フルコトヲ得
第二十五條 公證人ハ司法大臣之ヲ任ス
第二十六條 試驗ノ方法ハ筆記口述ノ二種トス筆記試驗ニ合格セサル者ハ口述試驗ヲ受クルコトヲ得ス
第二十七條 試驗及第者ニハ及第證書ヲ授與ス
第三章 證書
第一節 證書ノ原本
第二十八條 公證人證書ヲ作ルニハ其囑託人ノ氏名ヲ知リ面識アルヲ必要トシ且丁年者一名ノ立會人ヲ要ス之ニ違ヒタルトキハ其證書ハ公正ノ効ヲ有セス
公證人囑託人ノ氏名ヲ知ラス面識ナキトキハ其本籍或ハ寄留地ノ郡區長若クハ戶長ノ證明書又ハ公證人氏名ヲ知リ面識アル丁年者二人以上ヲ以テ其人ヲ證セシム可シ之ニ違ヒタルトキハ其證書ハ公正ノ効ヲ有セス
第二十九條 左ニ揭クル者ハ立會人タルコトヲ得ス
第一 公證人及囑託人ノ親屬雇人又ハ公證人ノ筆生
第二 第二十條ニ揭ケタル者
第三十條 證書ニハ其本旨ノ外左ノ件々ヲ記載ス可シ
第一 囑託人及立會人ノ族籍住所職業氏名年齡
第二 囑託人代理人ナルトキハ委任狀ヲ所持シタルコト及其本人ノ族籍住所職業氏名年齡
第三 囑託人後見人ナルトキハ後見人タルノ證書ヲ所持シタルコト及其本人ノ族籍住所職業氏名年齡
第四 郡區長戶長ノ證明書ヲ以テ證シタルトキハ其旨又證人ヲ要シタルトキハ其族籍住所職業氏名年齡
第五 證書ヲ作リシ場所及其年月日若シ場所ヲ記セス又ハ年月日ノ記入ヲ遺脫シタルトキハ其證書ハ公正ノ効ヲ有セス
第三十一條 證書ヲ作ルニハ普通平易ノ語ヲ用ヒ字畫明瞭ナルヲ要ス
接續ス可キ字行ニ空白アルトキハ墨線ヲ以テ之ヲ接續ス可シ
數量並ニ年月日ヲ記スルニハ壹貳參肆伍陸漆捌玖拾陌阡萬ノ字ヲ用フ可シ
第三十二條 度量衡貨幣ノ數量、名稱及曆法ハ法律ノ定ムル所ニ從ヒ之ヲ記ス可シ
既ニ廢シタル度量衡、貨幣、曆法又ハ外國ノ度量衡、貨幣、曆法ヲ記セサルヲ得サル場合ニ於テハ之ヲ用フルコトヲ得
第三十三條 證書ニ追加改正ヲ爲ストキハ其文字並ニ何行ニ追加改正ヲ爲シタルコトヲ欄外又ハ末尾ノ餘白ニ附記シ公證人並ニ關係人捺印ス可シ又文中消字ヲ爲ストキハ其原字ノ尙ホ明カニ讀得可キコトヲ要ス且何行ニ若干字ヲ消シタルコトヲ欄外又ハ末尾ノ餘白ニ附記シ公證人並ニ關係人捺印ス可シ之ニ違ヒタルトキハ追加、改正、消字ノ効ヲ有セス
第三十四條 證書ヲ作リタルトキハ關係人ニ讀聞セ其旨ヲ記入シ然ル後ニ公證人並ニ關係人各自署名捺印シ公證人ハ某治安裁判所管內某地住居ト肩書ス可シ
公證人並ニ關係人ノ署名捺印ナキトキハ其證書ハ公正ノ効ヲ有セス
若シ署名スル能ハサル者アルトキハ明治十年第五十號ノ布吿ニ從フ可シ之ニ違ヒタルトキハ其證書ハ其公正ノ効ヲ有セス
第三十五條 證書ノ綴目合目ニハ公證人並ニ囑託人之ニ捺印ス可シ
第三十六條 公證人ハ自己及親屬ノ爲メニ證書ヲ作ルコトヲ得ス其親屬他人ノ代理人タルトキモ亦同シ之ニ違ヒタルトキハ其證書ハ公正ノ効ヲ有セス
第三十七條 公證人若シ囑託人ノ爲メ訴訟代人若クハ代言人ト爲リ又ハ爲リタルコトアルトキハ其訴訟事件ニ付キ證書ヲ作ルコトヲ得ス之ニ違ヒタルトキハ其證書ハ公正ノ効ヲ有セス
第三十八條 公證人ハ自己親屬立會人又ハ證人ノ爲メニ利益アル條件ヲ證書中ニ記ス可カラス若シ之ヲ記シタルトキハ其條件ハ無効トス
第三十九條 公證人ハ證書ノ原本ヲ保存ス可シ若シ之ヲ保存セス又ハ亡失シタル場合ニ於テ第四十七條ノ手續ヲ爲サヽルトキハ其證書ハ公正ノ効ヲ有セス
第四十條 囑託人若シ代理人又ハ後見人ナルトキハ其委任狀又ハ其證書ノ寫ヲ原本ニ連綴ス可シ其寫ニハ本書ト對照シ相違ナキ旨ヲ附記シ公證人並ニ關係人署名捺印シ其寫ト本書トニ割印ス可シ
第四十一條 證書ニ關係ノ書類ハ之ヲ原本ニ連綴スルコトヲ得之ヲ連綴シタルトキハ其旨ヲ原本ノ欄外又ハ末尾ニ附記シ公證人並ニ關係人捺印ス可シ
第四十二條 原本ニハ證券印稅規則ニ定メタル印紙ヲ貼用ス可シ
第二節 正本及謄本
第四十三條 正本ハ數量ノ定リタル金錢其他換用物若クハ有價證券ノ支辨ニ限リ權利者ノ請求ニ依リ之ヲ渡ス可シ之ニ違ヒタルトキハ正本ノ効ヲ有セス
正式謄本及抄錄正式謄本ハ權利者ノ請求ニ依リ之ヲ渡ス可シ
第四十四條 正本又ハ正式謄本ハ原本ト同時ニ又ハ原本ヲ作リタル後ニ於テ之ヲ作ルコトヲ得原本ト同時ニ作ルトキハ關係人ノ面前ニ於テシ原本ヲ作リタル後ニ作ルトキハ更ニ義務者ノ立會ヲ以テス可シ義務者出席セサルトキハ正本又ハ正式謄本ヲ求ムル者ヨリ管轄始審裁判所ニ出願シ其命令ニ依テ他ノ公證人一員又ハ裁判所ノ裁判官檢察官又ハ書記一員ノ立會ヲ以テ之ヲ作ル可シ之ニ違ヒタルトキハ其効ヲ有セス
裁判所ノ命令ニ依テ正本又ハ正式謄本ヲ作リタルトキハ其末尾幷ニ原本ノ末尾ニ其旨ヲ附記シ其命令書ハ之ヲ原本ニ連綴ス可シ
第四十五條 正本又ハ正式謄本ヲ作ルトキハ第三十一條第三十三條第三十四條第三項及第三十五條ノ規定ニ依ル可シ
正本又ハ正式謄本ニハ權利者ノ氏名並ニ之ヲ作リタル年月日及場所ヲ記シ公證人並ニ義務者署名捺印ス可シ前條第一項ノ場合ニ於テハ公證人及他ノ公證人又ハ裁判所ノ官吏署名捺印ス可シ之ニ違ヒタルトキハ其効ヲ有セス
第四十六條 正本又ハ正式謄本ヲ渡シタルトキハ原本ノ末尾ニ其旨ト年月日トヲ附記シ權利者ヲシテ署名捺印セシム可シ
第四十七條 正本又ハ正式謄本ハ原本ノ亡失シタルトキ管轄始審裁判所ノ認可ヲ經之ヲ原本トシテ保存ス可シ
第四十八條 數事件ヲ列記シ數人各自ニ關係ヲ異ニスル證書ハ權利者ノ請求ニ依リ其有用ノ部分ヲ抄錄シテ正本又ハ正式謄本ヲ作ルコトヲ得
正本又ハ正式謄本ヲ渡シタル者ニハ更ニ抄錄正本又ハ抄錄正式謄本ヲ渡ス可カラス又抄錄正本又ハ抄錄正式謄本ヲ渡シタル者ニハ更ニ正本又ハ正式謄本ヲ渡ス可カラス之ヲ渡スト雖モ其効ヲ有セス
第四十九條 正本又ハ正式謄本ハ管轄始審裁判所ノ命令アルニ非サレハ再度之ヲ渡スコトヲ得ス之ヲ渡スト雖モ其効ヲ有セス
再度以上正本又ハ正式謄本ヲ得ント欲スル者ハ其事由ヲ具シテ管轄始審裁判所ニ願出ツ可シ管轄始審裁判所ハ原本ヲ保存スル公證人ニ其正本又ハ正式謄本ヲ渡ス可キコトヲ命スルコトアル可シ
其正本又ハ正式謄本ニハ幾度ノ正本又ハ正式謄本ナルコトヲ末尾ニ附記シ公證人署名捺印ス可シ之ニ違ヒタルトキハ其効ヲ有セス
第五十條 抄錄正本又ハ抄錄正式謄本ハ總テ正本又ハ正式謄本ト同一ノ手續ニ依リ之ヲ作ル可シ其効力モ亦同シ
第五十一條 證書ノ謄本及其附屬書類ノ寫ハ關係人ノ求メニ應シ之ヲ渡ス可シ
第五十二條 謄本ニハ原本ノ全文ヲ寫シ其末尾ニ謄本ト記シ公證人署名捺印ス可シ
第五十三條 抄錄謄本ニハ原本ノ年月日及囑託人ノ族籍住所職業氏名ヲ記シ末尾ニ抄錄謄本ト記シ公證人署名捺印ス可シ
第五十四條 管轄始審裁判所ノ命令ニ依リ關係外ノ者ニ謄本ヲ渡シタルトキハ其命令書ヲ原本ニ連綴シ末尾ニ命令書ヲ受ケタル旨並ニ年月日ヲ附記シ受取人ヲシテ署名捺印セシム可シ
第三節 見出帳
第五十五條 公證人ハ見出帳ヲ作リ記入前管轄始審裁判所ニ差出シ綴目合目ニ其所長ノ官印ヲ受ク可シ
第五十六條 見出帳ニハ日々取扱ヒタル書類中ヨリ第三十一條及第三十三條ノ規定ニ從ヒ左ノ件件ヲ記入ス可シ
第一 囑託人ノ住所氏名
第二 書類ノ番號種類
第三 書類ヲ取扱ヒタル年月日
第四節 兼任及書類ノ授受
第五十七條 公證人死去失踪免職辭職轉職又ハ他ノ役場ニ轉シテ直ニ後任者ノ命セラレサル場合又ハ停職ノ場合ニ於テハ管轄始審裁判所ハ近隣ノ公證人ニ命シテ其事務ヲ兼任セシム可シ
役場ヲ廢シタルトキハ書類ノ引繼ヲ近隣ノ公證人ニ命ス可シ
第五十八條 前條ノ場合ニ於テ兼任者ナキトキ其他必要ト見認ムル場合ニ於テハ管轄始審裁判所ハ直ニ其役場ノ書類ニ封印ヲ爲ス可シ
第五十九條 公證人免職辭職又ハ他ノ役場ニ轉シタル場合ニ於テハ後任者又ハ兼任者ハ前任者ト立會ヒ書類ノ提要目錄ヲ作リ共ニ署名捺印シテ授受ス可シ
死去失踪其他ノ事故ニ因リ引渡人ナキ場合ニ於テハ後任者又ハ兼任者ハ管轄始審裁判所ノ官吏ト立會ヒ提要目錄ヲ作リ受取ル可シ
書類封印後ニ命セラレタル後任者又ハ兼任者ハ管轄始審裁判所ノ官吏ト立會ヒ封印ヲ解キ提要目錄ヲ作リ受取ル可シ
後任者又ハ兼任者ハ提要目錄ヲ作リタル日ヨリ一月以內ニ其目錄ノ寫一通ヲ管轄始審裁判所ニ差出ス可シ
第六十條 公證人停職ノ場合ニ於テハ兼任者ハ第五十九條ノ手續ヲ爲スニ及ハス書類ノ保存ハ停職者之ヲ擔當ス可シ
兼任者ハ停職者ノ役場ニ於テ其職務ヲ行フ可シ
第六十一條 兼任者引繼ノ書類ヲ更ニ他ノ公證人ニ引渡ストキハ其命ヲ受ケタル日ヨリ三日以內ニ自己ノ引繼キタルトキノ目錄ニ依テ引渡ヲ爲シ其始末書ヲ作リ受繼人ト共ニ署名捺印ス可シ
受繼人ハ始末書ヲ作リタル日ヨリ一月以內ニ其寫一通ヲ作リ管轄始審裁判所ニ差出ス可シ
第六十二條 停職者復任スルトキハ管轄始審裁判所ヨリ兼任者ニ解任ヲ命ス可シ
第六十三條 前任者ノ作リタル原本ニ依テ後任者正本又ハ謄本ヲ渡ストキハ其受繼人タル旨ヲ附記ス可シ
本任者ノ作リタル原本ニ依テ兼任者正本又ハ謄本ヲ渡ストキハ兼任者タル旨ヲ附記ス可シ
第四章 手數料及旅費日當
第六十四條 公證人ハ此章ニ定メタル程限ニ從ヒ囑託人ヨリ手數料及旅費日當ヲ受クルコトヲ得
第六十五條 手數料ハ原本一枚ニ付キ貳拾五錢正本及謄本ハ一枚ニ付キ拾錢但一行二十字二十行ヲ以テ一枚トシ十行以上ハ一枚十行以下ハ半枚ヲ以テ算ス
第六十六條 囑託人ノ求メニ依リ先ツ證書ノ草案ヲ渡シ後其原本ヲ作リタルトキハ草案ノ手數料ヲ別ニ請求スルコトヲ得ス但其原本ヲ作ラサルトキハ原本手數料ノ半額ヲ受クルコトヲ得
第六十七條 公證人其役場ヨリ一里以外ノ地ニ往テ職務ヲ行フトキハ往返トモ旅費トシテ一里每ニ貳拾錢ヲ受クルコトヲ得其職務ヲ行フ爲メ或ハ災變ノ爲メニ其場所又ハ途中ニ滯留スルトキハ日當七拾錢ヲ受クルコトヲ得
第六十八條 兼任者本任者ニ代リテ職務ヲ行フトキハ其手數料ハ總テ兼任者之ヲ受ク可シ
第六十九條 手數料ノ外證券印紙並ニ罫紙ノ代價ハ囑託人ヨリ之ヲ受クルコトヲ得
第七十條 囑託人ノ求メアルトキハ手數料等ノ計算書ヲ與フ可シ
第七十一條 手數料等ニ係リ爭ノ生シタルトキハ其金額ニ拘ハラス管轄始審裁判所ニ訴フ可シ
第五章 懲罰
第七十二條 公證人此規則ヲ犯シタル時ハ管轄始審裁判所ニ於テ第七十三條ヨリ第七十六條マテニ定メタル規定ニ依リ處分ス可シ
第七十三條 左ノ違犯ハ五十錢以上一圓九十五錢以下ノ過料ニ處ス
第八條ニ違ヒタル時
第十一條ニ違ヒタル時
第十三條ニ違ヒタル時
第三十條ノ第一第二第三第四ノ規定ニ違ヒタル時
第三十一條ノ第二項又ハ第三項ニ違ヒタル時
第三十二條ノ第一項ニ違ヒタル時
第三十四條ノ第一項ニ違ヒ讀聞セシコトヲ記入セス又ハ肩書ヲ爲サヽリシ時
第三十五條ニ違ヒタル時
第四十條ニ違ヒタル時
第四十一條ニ違ヒタル時
第四十二條ニ違ヒタル時
第四十四條ノ第二項ニ違ヒタル時
第四十六條ニ違ヒタル時
第五十二條ニ違ヒタル時
第五十三條ニ違ヒタル時
第五十四條ニ違ヒタル時
第五十五條ニ違ヒタル時
第五十九條ノ第四項ニ違ヒタル時
第六十一條ニ違ヒタル時
第六十三條ニ違ヒタル時
第七十四條 左ノ違犯ハ二圓以上五圓以下ノ過料ニ處ス
第四十三條ニ違ヒタル時
第四十四條ノ第一項ニ違ヒタル時
第四十五條ノ第二項ニ違ヒタル時
第四十八條ノ第二項ニ違ヒタル時
第四十九條ノ第一項又ハ第三項ニ違ヒタル時
第七十五條 左ノ違犯ハ五圓以上三十圓以下ノ過料ニ處ス
第二條ニ違ヒタル時
第七條ニ違ヒタル時
第十條ノ第二項ニ違ヒタル時
第二十八條ニ違ヒタル時
第三十條ノ第五ノ規定ニ違ヒタル時
第三十三條ニ違ヒタル時
第三十四條ノ第二項又ハ第三項ニ違ヒタル時
第三十六條ニ違ヒタル時
第三十七條ニ違ヒタル時
第三十八條ニ違ヒタル時
第三十九條ニ違ヒタル時
第七十六條 左ノ違犯ハ一月以上四月以下ノ停職ニ處ス
第四條ノ第一項ニ違ヒタル時
第十五條ニ違ヒタル時
第十六條ニ違ヒタル時
第十七條ニ違ヒタル時
第七十七條 公證人前數條ニ揭ケタル懲罰處分ニ對シ不服アルトキハ管轄控訴院ニ抗吿スルコトヲ得但抗吿ハ其處分ノ執行ヲ停止スルノ効力ナキモノトス
第七十八條 公證人停職ニ當ル所爲三度ニ及ヒタルトキハ司法大臣其職ヲ免ス
第二十條ノ第一第二第三ニ記載シタル處分ヲ受ケ又ハ身許保證金ヲ差入レサルトキ亦前項ニ同シ
第七十九條 公證人此規則ヲ犯シタルニ依リ他人ニ損害ヲ生セシメタルトキハ之ヲ賠償ス可シ
朕公証人規則ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治十九年八月十一日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
司法大臣 伯爵 山田顕義
法律第二号
公証人規則
第一章 総則
第一条 公証人ハ人民ノ嘱託ニ応シ民事ニ関スル公正証書ヲ作ルヲ以テ職務ト為ス
第二条 公証人ハ法律命令ニ背キタル事件ノ公正証書又ハ他ノ官吏ノ作ル可キ公証書類ヲ作ルコトヲ得ス若シ之ヲ作リタルトキハ公正ノ効ヲ有セス
第三条 公証人ノ作リタル公正証書ハ完全ノ証拠ニシテ其正本ニ依リ裁判所ノ命令ヲ得テ執行スル力アルモノトス但刑事裁判所ニ偽造ノ訴アルトキハ其証書ノ執行ヲ中止ス可シ又民事裁判所ニ偽造ノ申立アルトキハ其証書ノ執行ヲ中止スルコトヲ得
第四条 公証人ハ治安裁判所ノ管轄地ヲ以テ受持区トシ其区内ニ於テ司法大臣ノ認可ヲ受ケタル町村内ニ住居シ其居宅ニ役場ヲ設ケ役場ニ於テ職務ヲ行フ可シ但役場外ニ住居セントスルトキハ管轄始審裁判所ノ認可ヲ受ク可シ
已ムヲ得サル事件ニ付テハ受持区内ニ限リ役場外ニ於テ其職務ヲ行フ可シ
第五条 各区内公証人ノ員数ハ司法大臣之ヲ定ム
第六条 公証人ハ司法大臣ニ隷属シ控訴院長始審裁判所長ノ監督ヲ受クルモノトス
第七条 公証人其受持区内ニ於テハ区外人ノ為メニモ職務ヲ行フ可シ但受持区外ニ於テハ何人ノ為メニモ職務ヲ行フコトヲ得ス若シ之ヲ行ヒタルトキハ其書類ハ公正ノ効ヲ有セス
第八条 公証人ハ理由ナクシテ人民ノ嘱託ヲ拒ムコトヲ得ス若シ之ヲ拒ミタルトキ嘱託人ノ求メアレハ其理由ヲ記シテ渡ス可シ
第九条 公証人ノ職務執行上ニ関シ不服アル者ハ管轄始審裁判所ニ抗告スルコトヲ得
第十条 公証人ハ公証人何某ト刻シタル方六分ノ役印ヲ作リ其印鑑ニ氏名ヲ手書シ之ヲ管轄始審裁判所及治安裁判所ニ差出ス可シ
前項ノ印鑑ヲ差出サヽル間ハ職務ヲ行フコトヲ許サス若シ之ヲ行ヒタルトキハ其書類ハ公正ノ効ヲ有セス
第十一条 公証人已ムヲ得サル事故アリテ職務ヲ行フコト能ハサルトキハ近隣ノ公証人ニ代理ヲ嘱シ管轄始審裁判所ニ其旨ヲ届出可シ
第十二条 公証人ハ筆生ヲ置キ書類ヲ作ル補助ヲ為サシムルコトヲ得
第十三条 公証人ノ作ル証書及謄本ノ用紙ハ某始審裁判所管内公証人役場ト刻シタル罫紙ヲ用フ可シ
第十四条 公証人ノ取扱フ可キ書類左ノ如シ
第一 原本 証書ノ本紙ニシテ公証人ノ保存スルモノ
第二 正本 原本ノ全文ヲ記シタルモノニシテ本文義務ノ執行ヲ裁判所ニ願出可キ旨ヲ其末尾ニ記載シタルモノ
第三 抄録正本 原本ノ一部分ヲ記シ其末尾ニ前項ト同一ノ記載アルモノ
第四 正式謄本 原本ノ全文ヲ写シタルモノニシテ原本ニ代ヘ得可キモノ
第五 抄録正式謄本 原本ノ一部分ヲ抄写シタルモノニシテ原本ニ代ヘ得可キモノ
第六 謄本 原本ノ全文ヲ写シタルモノ
第七 抄録謄本 原本ノ一部分ヲ抄写シタルモノ
第八 見出帳 日々授受シタル書類ノ番号種類等ヲ順次ニ記入スルモノ
第十五条 原本其他書類ノ本書ハ役場ニ之ヲ保存シ他ノ官吏ノ公証ヲ受クル為メノ外裁判所ノ命令ニ依ルニ非サレハ役場外ニ出スコトヲ得ス
第十六条 裁判所ノ命令ニ依ルノ外関係外ノ者ニ書類ノ謄本ヲ渡ス可カラス
第十七条 公証人ハ其取扱ヒタル公証事件ヲ漏洩ス可カラス
第二章 公証人ノ選任及試験
第十八条 公証人タル可キ者ハ左ノ件々ヲ具備スルヲ要ス
第一 満二十五歳以上ナル事
第二 身元保証金ヲ管轄始審裁判所ニ差入ルヽ事
第三 定式試験ノ及第証書ヲ有スル事但裁判官検察官タリシ者及法学士法科大学卒業生代言人ハ此条件ヲ要セス
第四 丁年者二名以上ニテ其品行ヲ保証スル証書ヲ有スル事
第十九条 保証金ノ額ハ土地ノ状況ニ従ヒ弐百円以上五百円以下ニ於テ予メ司法大臣之ヲ定ム
第二十条 左ニ掲クル者ハ公証人タルコトヲ得ス
第一 公権剥奪若クハ停止中ノ者
第二 盗罪詐偽罪賄賂収受ノ罪及贓物ニ関スル罪ヲ犯シ刑ヲ受ケタル者
第三 身代限ノ処分ヲ受ケ負債ノ弁償ヲ終ヘサル者
第四 官吏懲戒令ニ依リ免職セラレタル者
第二十一条 公証人ヲ試験スル場所及期日ハ司法大臣之ヲ定メ少クトモ二箇月前ニ告示ス可シ
第二十二条 試験委員ハ控訴院若クハ始審裁判所ノ裁判官二名検察官一名トシ司法大臣臨時之ヲ命ス
第二十三条 試験ノ科目ハ公証人規則、民法、訴訟法、商法其他公証人ノ職務ニ関スル法律命令トス
第二十四条 公証人タラント欲スル者ハ願書ニ試験及第証書ノ写ヲ添ヘ管轄始審裁判所若クハ控訴院ヲ経テ司法大臣ニ差出ス可シ但裁判官検察官タリシ者ハ其官記法学士ハ其学位記法科大学卒業生ハ其卒業証書代言人ハ其免許状ヲ以テ及第証書ニ代フルコトヲ得
第二十五条 公証人ハ司法大臣之ヲ任ス
第二十六条 試験ノ方法ハ筆記口述ノ二種トス筆記試験ニ合格セサル者ハ口述試験ヲ受クルコトヲ得ス
第二十七条 試験及第者ニハ及第証書ヲ授与ス
第三章 証書
第一節 証書ノ原本
第二十八条 公証人証書ヲ作ルニハ其嘱託人ノ氏名ヲ知リ面識アルヲ必要トシ且丁年者一名ノ立会人ヲ要ス之ニ違ヒタルトキハ其証書ハ公正ノ効ヲ有セス
公証人嘱託人ノ氏名ヲ知ラス面識ナキトキハ其本籍或ハ寄留地ノ郡区長若クハ戸長ノ証明書又ハ公証人氏名ヲ知リ面識アル丁年者二人以上ヲ以テ其人ヲ証セシム可シ之ニ違ヒタルトキハ其証書ハ公正ノ効ヲ有セス
第二十九条 左ニ掲クル者ハ立会人タルコトヲ得ス
第一 公証人及嘱託人ノ親属雇人又ハ公証人ノ筆生
第二 第二十条ニ掲ケタル者
第三十条 証書ニハ其本旨ノ外左ノ件々ヲ記載ス可シ
第一 嘱託人及立会人ノ族籍住所職業氏名年齢
第二 嘱託人代理人ナルトキハ委任状ヲ所持シタルコト及其本人ノ族籍住所職業氏名年齢
第三 嘱託人後見人ナルトキハ後見人タルノ証書ヲ所持シタルコト及其本人ノ族籍住所職業氏名年齢
第四 郡区長戸長ノ証明書ヲ以テ証シタルトキハ其旨又証人ヲ要シタルトキハ其族籍住所職業氏名年齢
第五 証書ヲ作リシ場所及其年月日若シ場所ヲ記セス又ハ年月日ノ記入ヲ遺脱シタルトキハ其証書ハ公正ノ効ヲ有セス
第三十一条 証書ヲ作ルニハ普通平易ノ語ヲ用ヒ字画明瞭ナルヲ要ス
接続ス可キ字行ニ空白アルトキハ墨線ヲ以テ之ヲ接続ス可シ
数量並ニ年月日ヲ記スルニハ壱弐参肆伍陸漆捌玖拾陌阡万ノ字ヲ用フ可シ
第三十二条 度量衡貨幣ノ数量、名称及暦法ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ之ヲ記ス可シ
既ニ廃シタル度量衡、貨幣、暦法又ハ外国ノ度量衡、貨幣、暦法ヲ記セサルヲ得サル場合ニ於テハ之ヲ用フルコトヲ得
第三十三条 証書ニ追加改正ヲ為ストキハ其文字並ニ何行ニ追加改正ヲ為シタルコトヲ欄外又ハ末尾ノ余白ニ附記シ公証人並ニ関係人捺印ス可シ又文中消字ヲ為ストキハ其原字ノ尚ホ明カニ読得可キコトヲ要ス且何行ニ若干字ヲ消シタルコトヲ欄外又ハ末尾ノ余白ニ附記シ公証人並ニ関係人捺印ス可シ之ニ違ヒタルトキハ追加、改正、消字ノ効ヲ有セス
第三十四条 証書ヲ作リタルトキハ関係人ニ読聞セ其旨ヲ記入シ然ル後ニ公証人並ニ関係人各自署名捺印シ公証人ハ某治安裁判所管内某地住居ト肩書ス可シ
公証人並ニ関係人ノ署名捺印ナキトキハ其証書ハ公正ノ効ヲ有セス
若シ署名スル能ハサル者アルトキハ明治十年第五十号ノ布告ニ従フ可シ之ニ違ヒタルトキハ其証書ハ其公正ノ効ヲ有セス
第三十五条 証書ノ綴目合目ニハ公証人並ニ嘱託人之ニ捺印ス可シ
第三十六条 公証人ハ自己及親属ノ為メニ証書ヲ作ルコトヲ得ス其親属他人ノ代理人タルトキモ亦同シ之ニ違ヒタルトキハ其証書ハ公正ノ効ヲ有セス
第三十七条 公証人若シ嘱託人ノ為メ訴訟代人若クハ代言人ト為リ又ハ為リタルコトアルトキハ其訴訟事件ニ付キ証書ヲ作ルコトヲ得ス之ニ違ヒタルトキハ其証書ハ公正ノ効ヲ有セス
第三十八条 公証人ハ自己親属立会人又ハ証人ノ為メニ利益アル条件ヲ証書中ニ記ス可カラス若シ之ヲ記シタルトキハ其条件ハ無効トス
第三十九条 公証人ハ証書ノ原本ヲ保存ス可シ若シ之ヲ保存セス又ハ亡失シタル場合ニ於テ第四十七条ノ手続ヲ為サヽルトキハ其証書ハ公正ノ効ヲ有セス
第四十条 嘱託人若シ代理人又ハ後見人ナルトキハ其委任状又ハ其証書ノ写ヲ原本ニ連綴ス可シ其写ニハ本書ト対照シ相違ナキ旨ヲ附記シ公証人並ニ関係人署名捺印シ其写ト本書トニ割印ス可シ
第四十一条 証書ニ関係ノ書類ハ之ヲ原本ニ連綴スルコトヲ得之ヲ連綴シタルトキハ其旨ヲ原本ノ欄外又ハ末尾ニ附記シ公証人並ニ関係人捺印ス可シ
第四十二条 原本ニハ証券印税規則ニ定メタル印紙ヲ貼用ス可シ
第二節 正本及謄本
第四十三条 正本ハ数量ノ定リタル金銭其他換用物若クハ有価証券ノ支弁ニ限リ権利者ノ請求ニ依リ之ヲ渡ス可シ之ニ違ヒタルトキハ正本ノ効ヲ有セス
正式謄本及抄録正式謄本ハ権利者ノ請求ニ依リ之ヲ渡ス可シ
第四十四条 正本又ハ正式謄本ハ原本ト同時ニ又ハ原本ヲ作リタル後ニ於テ之ヲ作ルコトヲ得原本ト同時ニ作ルトキハ関係人ノ面前ニ於テシ原本ヲ作リタル後ニ作ルトキハ更ニ義務者ノ立会ヲ以テス可シ義務者出席セサルトキハ正本又ハ正式謄本ヲ求ムル者ヨリ管轄始審裁判所ニ出願シ其命令ニ依テ他ノ公証人一員又ハ裁判所ノ裁判官検察官又ハ書記一員ノ立会ヲ以テ之ヲ作ル可シ之ニ違ヒタルトキハ其効ヲ有セス
裁判所ノ命令ニ依テ正本又ハ正式謄本ヲ作リタルトキハ其末尾並ニ原本ノ末尾ニ其旨ヲ附記シ其命令書ハ之ヲ原本ニ連綴ス可シ
第四十五条 正本又ハ正式謄本ヲ作ルトキハ第三十一条第三十三条第三十四条第三項及第三十五条ノ規定ニ依ル可シ
正本又ハ正式謄本ニハ権利者ノ氏名並ニ之ヲ作リタル年月日及場所ヲ記シ公証人並ニ義務者署名捺印ス可シ前条第一項ノ場合ニ於テハ公証人及他ノ公証人又ハ裁判所ノ官吏署名捺印ス可シ之ニ違ヒタルトキハ其効ヲ有セス
第四十六条 正本又ハ正式謄本ヲ渡シタルトキハ原本ノ末尾ニ其旨ト年月日トヲ附記シ権利者ヲシテ署名捺印セシム可シ
第四十七条 正本又ハ正式謄本ハ原本ノ亡失シタルトキ管轄始審裁判所ノ認可ヲ経之ヲ原本トシテ保存ス可シ
第四十八条 数事件ヲ列記シ数人各自ニ関係ヲ異ニスル証書ハ権利者ノ請求ニ依リ其有用ノ部分ヲ抄録シテ正本又ハ正式謄本ヲ作ルコトヲ得
正本又ハ正式謄本ヲ渡シタル者ニハ更ニ抄録正本又ハ抄録正式謄本ヲ渡ス可カラス又抄録正本又ハ抄録正式謄本ヲ渡シタル者ニハ更ニ正本又ハ正式謄本ヲ渡ス可カラス之ヲ渡スト雖モ其効ヲ有セス
第四十九条 正本又ハ正式謄本ハ管轄始審裁判所ノ命令アルニ非サレハ再度之ヲ渡スコトヲ得ス之ヲ渡スト雖モ其効ヲ有セス
再度以上正本又ハ正式謄本ヲ得ント欲スル者ハ其事由ヲ具シテ管轄始審裁判所ニ願出ツ可シ管轄始審裁判所ハ原本ヲ保存スル公証人ニ其正本又ハ正式謄本ヲ渡ス可キコトヲ命スルコトアル可シ
其正本又ハ正式謄本ニハ幾度ノ正本又ハ正式謄本ナルコトヲ末尾ニ附記シ公証人署名捺印ス可シ之ニ違ヒタルトキハ其効ヲ有セス
第五十条 抄録正本又ハ抄録正式謄本ハ総テ正本又ハ正式謄本ト同一ノ手続ニ依リ之ヲ作ル可シ其効力モ亦同シ
第五十一条 証書ノ謄本及其附属書類ノ写ハ関係人ノ求メニ応シ之ヲ渡ス可シ
第五十二条 謄本ニハ原本ノ全文ヲ写シ其末尾ニ謄本ト記シ公証人署名捺印ス可シ
第五十三条 抄録謄本ニハ原本ノ年月日及嘱託人ノ族籍住所職業氏名ヲ記シ末尾ニ抄録謄本ト記シ公証人署名捺印ス可シ
第五十四条 管轄始審裁判所ノ命令ニ依リ関係外ノ者ニ謄本ヲ渡シタルトキハ其命令書ヲ原本ニ連綴シ末尾ニ命令書ヲ受ケタル旨並ニ年月日ヲ附記シ受取人ヲシテ署名捺印セシム可シ
第三節 見出帳
第五十五条 公証人ハ見出帳ヲ作リ記入前管轄始審裁判所ニ差出シ綴目合目ニ其所長ノ官印ヲ受ク可シ
第五十六条 見出帳ニハ日々取扱ヒタル書類中ヨリ第三十一条及第三十三条ノ規定ニ従ヒ左ノ件件ヲ記入ス可シ
第一 嘱託人ノ住所氏名
第二 書類ノ番号種類
第三 書類ヲ取扱ヒタル年月日
第四節 兼任及書類ノ授受
第五十七条 公証人死去失踪免職辞職転職又ハ他ノ役場ニ転シテ直ニ後任者ノ命セラレサル場合又ハ停職ノ場合ニ於テハ管轄始審裁判所ハ近隣ノ公証人ニ命シテ其事務ヲ兼任セシム可シ
役場ヲ廃シタルトキハ書類ノ引継ヲ近隣ノ公証人ニ命ス可シ
第五十八条 前条ノ場合ニ於テ兼任者ナキトキ其他必要ト見認ムル場合ニ於テハ管轄始審裁判所ハ直ニ其役場ノ書類ニ封印ヲ為ス可シ
第五十九条 公証人免職辞職又ハ他ノ役場ニ転シタル場合ニ於テハ後任者又ハ兼任者ハ前任者ト立会ヒ書類ノ提要目録ヲ作リ共ニ署名捺印シテ授受ス可シ
死去失踪其他ノ事故ニ因リ引渡人ナキ場合ニ於テハ後任者又ハ兼任者ハ管轄始審裁判所ノ官吏ト立会ヒ提要目録ヲ作リ受取ル可シ
書類封印後ニ命セラレタル後任者又ハ兼任者ハ管轄始審裁判所ノ官吏ト立会ヒ封印ヲ解キ提要目録ヲ作リ受取ル可シ
後任者又ハ兼任者ハ提要目録ヲ作リタル日ヨリ一月以内ニ其目録ノ写一通ヲ管轄始審裁判所ニ差出ス可シ
第六十条 公証人停職ノ場合ニ於テハ兼任者ハ第五十九条ノ手続ヲ為スニ及ハス書類ノ保存ハ停職者之ヲ担当ス可シ
兼任者ハ停職者ノ役場ニ於テ其職務ヲ行フ可シ
第六十一条 兼任者引継ノ書類ヲ更ニ他ノ公証人ニ引渡ストキハ其命ヲ受ケタル日ヨリ三日以内ニ自己ノ引継キタルトキノ目録ニ依テ引渡ヲ為シ其始末書ヲ作リ受継人ト共ニ署名捺印ス可シ
受継人ハ始末書ヲ作リタル日ヨリ一月以内ニ其写一通ヲ作リ管轄始審裁判所ニ差出ス可シ
第六十二条 停職者復任スルトキハ管轄始審裁判所ヨリ兼任者ニ解任ヲ命ス可シ
第六十三条 前任者ノ作リタル原本ニ依テ後任者正本又ハ謄本ヲ渡ストキハ其受継人タル旨ヲ附記ス可シ
本任者ノ作リタル原本ニ依テ兼任者正本又ハ謄本ヲ渡ストキハ兼任者タル旨ヲ附記ス可シ
第四章 手数料及旅費日当
第六十四条 公証人ハ此章ニ定メタル程限ニ従ヒ嘱託人ヨリ手数料及旅費日当ヲ受クルコトヲ得
第六十五条 手数料ハ原本一枚ニ付キ弐拾五銭正本及謄本ハ一枚ニ付キ拾銭但一行二十字二十行ヲ以テ一枚トシ十行以上ハ一枚十行以下ハ半枚ヲ以テ算ス
第六十六条 嘱託人ノ求メニ依リ先ツ証書ノ草案ヲ渡シ後其原本ヲ作リタルトキハ草案ノ手数料ヲ別ニ請求スルコトヲ得ス但其原本ヲ作ラサルトキハ原本手数料ノ半額ヲ受クルコトヲ得
第六十七条 公証人其役場ヨリ一里以外ノ地ニ往テ職務ヲ行フトキハ往返トモ旅費トシテ一里毎ニ弐拾銭ヲ受クルコトヲ得其職務ヲ行フ為メ或ハ災変ノ為メニ其場所又ハ途中ニ滞留スルトキハ日当七拾銭ヲ受クルコトヲ得
第六十八条 兼任者本任者ニ代リテ職務ヲ行フトキハ其手数料ハ総テ兼任者之ヲ受ク可シ
第六十九条 手数料ノ外証券印紙並ニ罫紙ノ代価ハ嘱託人ヨリ之ヲ受クルコトヲ得
第七十条 嘱託人ノ求メアルトキハ手数料等ノ計算書ヲ与フ可シ
第七十一条 手数料等ニ係リ争ノ生シタルトキハ其金額ニ拘ハラス管轄始審裁判所ニ訴フ可シ
第五章 懲罰
第七十二条 公証人此規則ヲ犯シタル時ハ管轄始審裁判所ニ於テ第七十三条ヨリ第七十六条マテニ定メタル規定ニ依リ処分ス可シ
第七十三条 左ノ違犯ハ五十銭以上一円九十五銭以下ノ過料ニ処ス
第八条ニ違ヒタル時
第十一条ニ違ヒタル時
第十三条ニ違ヒタル時
第三十条ノ第一第二第三第四ノ規定ニ違ヒタル時
第三十一条ノ第二項又ハ第三項ニ違ヒタル時
第三十二条ノ第一項ニ違ヒタル時
第三十四条ノ第一項ニ違ヒ読聞セシコトヲ記入セス又ハ肩書ヲ為サヽリシ時
第三十五条ニ違ヒタル時
第四十条ニ違ヒタル時
第四十一条ニ違ヒタル時
第四十二条ニ違ヒタル時
第四十四条ノ第二項ニ違ヒタル時
第四十六条ニ違ヒタル時
第五十二条ニ違ヒタル時
第五十三条ニ違ヒタル時
第五十四条ニ違ヒタル時
第五十五条ニ違ヒタル時
第五十九条ノ第四項ニ違ヒタル時
第六十一条ニ違ヒタル時
第六十三条ニ違ヒタル時
第七十四条 左ノ違犯ハ二円以上五円以下ノ過料ニ処ス
第四十三条ニ違ヒタル時
第四十四条ノ第一項ニ違ヒタル時
第四十五条ノ第二項ニ違ヒタル時
第四十八条ノ第二項ニ違ヒタル時
第四十九条ノ第一項又ハ第三項ニ違ヒタル時
第七十五条 左ノ違犯ハ五円以上三十円以下ノ過料ニ処ス
第二条ニ違ヒタル時
第七条ニ違ヒタル時
第十条ノ第二項ニ違ヒタル時
第二十八条ニ違ヒタル時
第三十条ノ第五ノ規定ニ違ヒタル時
第三十三条ニ違ヒタル時
第三十四条ノ第二項又ハ第三項ニ違ヒタル時
第三十六条ニ違ヒタル時
第三十七条ニ違ヒタル時
第三十八条ニ違ヒタル時
第三十九条ニ違ヒタル時
第七十六条 左ノ違犯ハ一月以上四月以下ノ停職ニ処ス
第四条ノ第一項ニ違ヒタル時
第十五条ニ違ヒタル時
第十六条ニ違ヒタル時
第十七条ニ違ヒタル時
第七十七条 公証人前数条ニ掲ケタル懲罰処分ニ対シ不服アルトキハ管轄控訴院ニ抗告スルコトヲ得但抗告ハ其処分ノ執行ヲ停止スルノ効力ナキモノトス
第七十八条 公証人停職ニ当ル所為三度ニ及ヒタルトキハ司法大臣其職ヲ免ス
第二十条ノ第一第二第三ニ記載シタル処分ヲ受ケ又ハ身許保証金ヲ差入レサルトキ亦前項ニ同シ
第七十九条 公証人此規則ヲ犯シタルニ依リ他人ニ損害ヲ生セシメタルトキハ之ヲ賠償ス可シ