木船運送法
法令番号: 法律第151号
公布年月日: 昭和27年5月27日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

木船は機帆船として国内輸送で重要な役割を果たしているが、その経営形態は原始的で、船主船長である一杯船主と回漕業者による運営は中小企業の典型であり、経済基盤が脆弱である。このままでは安定した木船運送は望めず、その将来が憂慮される。そこで木船運送事業全体の経済的地位向上と安定化、特に木船運航業者の経済的立場強化が急務となっている。本法案は木船運送事業改善施策の第一歩として、事業を登録制とし、木船回漕業には営業保証金の供託を義務付け、標準運賃制度および標準回漕料制度を実施することを骨子としている。

参照した発言:
第13回国会 衆議院 運輸委員会 第19号

審議経過

第13回国会

衆議院
(昭和27年4月16日)
(昭和27年4月21日)
参議院
(昭和27年4月22日)
衆議院
(昭和27年4月24日)
(昭和27年4月25日)
参議院
(昭和27年5月9日)
(昭和27年5月12日)
(昭和27年5月14日)
(昭和27年5月16日)
衆議院
(昭和27年7月31日)
参議院
(昭和27年7月31日)
木船運送法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十七年五月二十七日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百五十一号
木船運送法
(この法律の目的)
第一條 この法律は、木船運送事業の健全な発達を図り、もつて木船による海上運送の円滑な運営に資することを目的とする。
(定義)
第二條 この法律において「木船」とは、海上において物品の運送に従事する木製船舶(木製のはしけを含む。)であつて左に掲げるもの以外のものをいう。
一 ろかいのみをもつて運転し、又は主としてろかいをもつて運転する舟
二 漁船法(昭和二十五年法律第百七十八号)の適用を受ける船舶
2 この法律において「木船運送事業」とは、木船運航業、木船回漕業及び木船貸渡業をいう。
3 この法律において「木船運航業」とは、木船による海上における物品の運送をする事業であつて左に掲げる事業以外のものをいう。
一 第四項第二号に掲げる事業
二 海上運送法(昭和二十四年法律第百八十七号)に規定する旅客定期航路事業
三 港湾運送事業法(昭和二十六年法律第百六十一号)に規定する港湾運送事業
四 関税法(明治三十二年法律第六十一号)に規定する開港以外の港湾において港湾運送事業法第三條各号に掲げる事業に相当する事業を営む事業
4 この法律において「木船回漕業」とは、左に掲げる事業の全部又は一部を行う事業であつて港湾運送事業法に規定する港湾運送事業及び関税法に規定する開港以外の港湾において港湾運送事業法第三條各号に掲げる事業に相当する事業を営む事業以外のものをいう。
一 自己の名をもつて木船による海上における物品の運送の取次をする事業
二 木船による海上における物品の運送を引き受けその運送の全部又は一部の運送を木船運航業者又は他の木船回漕業者に下請をさせる事業
三 木船運航業者の委任を受け運賃の請求又は受取をする事業
四 木船による海上における物品の運送の履行を保証する事業
五 木船による海上における物品の運送の媒介をする事業
六 その他いかなる方法をもつてするかを問わず実質的に前五号の一に該当する事業
5 この法律において「木船貸渡業」とは、木船の貸渡(期間よう船を含む。)をする事業をいう。
6 この法律において「回漕料」とは、木船回漕業者が第四項各号に掲げる事業に係る行為の反対給付として荷主、木船運航業者又は木船回漕業者から受け取る対価をいう。
(登録)
第三條 木船運航業又は木船貸渡業を営もうとする者は、その主たる営業所の所在地を管轄する海運局長(運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)第三十九條の海運局の長をいう。以下同じ。)の登録を受けなければならない。
2 木船回漕業を営もうとする者は、第九條の規定により営業保証金を供託し、且つ、その主たる営業所の所在地を管轄する海運局長の登録を受けなければならない。
(登録の申請)
第四條 前條の登録を受けようとする者(以下「登録申請者」という。)は、左に掲げる事項を記載した申請書をその主たる営業所の所在地を管轄する海運局長(以下「海運局長」という。)に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所
二 木船運航業、木船回漕業又は木船貸渡業の種別
三 主たる営業所及び従たる営業所の名称及び所在地
四 法人である場合においては、その役員の氏名
2 前項の申請書には、省令で定める事項を記載した書類を添附しなければならない。
3 木船回漕業の登録を受けようとする者は、前條の営業保証金を供託した後でなければ、第一項の申請をすることができない。
(登録の実施及び登録の通知)
第五條 海運局長は、前條の規定により登録の申請があつた場合においては、次條の規定により登録を拒否する場合を除くの外、遅滞なく、前條第一項各号に掲げる事項を木船運航業者登録簿、木船回漕業者登録簿又は木船貸渡業者登録簿に登録しなければならない。
2 海運局長は、前項の規定による登録をした場合においては、遅滞なく、その旨を登録申請者に通知しなければならない。
(登録の拒否)
第六條 海運局長は、登録申請者が左の各号の一に該当するときは、その登録を拒否しなければならない。
一 この法律の規定に違反して刑に処せられ、その執行を終り、又は執行を受けることがなくなつた日から一年を経過しない者
二 第二十三條の規定により木船運送事業の登録を取り消され、その取消の日から一年を経過しない者
三 法人であつて、その役員のうちに前二号の一に該当する者があるもの
2 海運局長は、前項の規定による登録の拒否をした場合においては、遅滞なく、理由を附してその旨を登録申請者に通知しなければならない。
(登録手数料)
第七條 登録申請者は、登録を受けようとする事業の種別ごとに、千円以下の範囲内において政令で定める額の手数料を納めなければならない。但し、第十四條第三項後段に規定する期間内になされた登録の申請については、手数料を納めなくてもよい。
(変更登録の申請)
第八條 木船運送事業者は、第四條第一項各号に掲げる事項について変更があつたときは、その事由が生じた日から三十日以内にその旨の変更登録申請書を海運局長に提出しなければならない。
2 木船回漕業者は、あらたに営業所を設置したときは、第十條の規定により営業保証金を供託した後でなければ前項の変更登録の申請をすることができない。
3 木船運送事業者は、その主たる営業所を登録を受けている海運局の管轄区域外に移転するときは、省令の定めるところにより、変更登録申請書を登録を受けている海運局長を経由して移転後の主たる営業所の所在地を管轄する海運局長に提出しなければならない。
4 第五條及び第六條の規定は、第一項の規定による変更登録の申請があつた場合に準用する。
5 木船回漕業者は、第二項に規定する登録の変更をした後でなければ、その営業所について営業を開始することができない。
(営業保証金の額及び供託)
第九條 第三條第二項の営業保証金の額は、主たる営業所につき十万円、その他の営業所につき営業所ごとに三万円の割合に相当する金額の合計とする。但し、総額二十万円をこえないものとする。
2 第三條第二項の規定による営業保証金の供託は、木船回漕業を営もうとする者の主たる営業所の最寄の供託所にこれをしなければならない。
(営業所新設の場合の営業保証金)
第十條 木船回漕業者は、事業の開始後あらたに営業所を設置したときは、当該営業所につき前條第一項に規定する割合の営業保証金を同條第二項に規定する供託所に供託しなければならない。但し、その者が供託する営業保証金の額が二十万円をこえることとなるときは、その超過分についてはこの限りでない。
(営業保証金の不足額の供託)
第十一條 木船回漕業者は、営業保証金について債権者がその権利を実行したため営業保証金の額が第九條第一項及び前條に定める額に不足することとなつたときは、省令で定める日から三十日以内に、その不足額を第九條第二項に規定する供託所に供託しなければならない。
2 木船回漕業者は、前項の規定により営業保証金を供託したときは、二週間以内に、供託物受入の旨を記載した供託書の写を添附して、その旨を海運局長に届け出なければならない。
(営業保証金の保管替)
第十二條 木船回漕業者は、その主たる営業所を移転したときは、遅滞なく、営業保証金を供託している供託所に対し、移転後の主たる営業所の最寄の供託所への営業保証金の保管替を請求しなければならない。
(営業保証金の還付)
第十三條 木船による海上における物品の運送に関し木船回漕業者と取引をした者は、その取引により生じた債権に関し、木船回漕業者が供託した営業保証金について、その債権の弁済を受ける権利を有する。
2 前項の権利の実行に関し必要な事項は、省令で定める。
(無登録営業の禁止)
第十四條 木船運航業又は木船貸渡業は、第三條第一項の規定による登録を受けた者でなければ、これを営んではならない。
2 木船回漕業は、第九條の規定による営業保証金を供託し、且つ、第三條第二項の規定による登録を受けた者でなければ、これを営んではならない。
3 木船運送事業者が死亡又は合併したときは、相続人又は合併後存続する法人は、死亡又は合併した日から六十日以内は、前二項の規定にかかわらず、当該事業を引き続き営むことができる。その期間内において木船運送事業の登録を申請した場合において、その申請について登録をする旨又は登録を拒否する旨の通知を受けるまでの期間についても同様とする。
(名義利用の禁止)
第十五條 木船運送事業の登録を受けた者は、その名義を他人に木船運送事業のため利用させてはならない。
(標準木船運賃及び標準回漕料)
第十六條 運輸大臣は、航路及び貨物を指定して標準木船運賃又は標準回漕料(関係木船回漕業者が受け取る回漕料の合計の標準をいう。以下同じ。)を設定し、これを告示する。
2 前項の標準木船運賃又は標準回漕料は、当該運送の特質に従い、能率的な経営の下における適正な原価を償い、且つ、適正な利潤を含むものでなければならない。
3 運輸大臣は、標準木船運賃又は標準回漕料が前項の基準に適合しなくなつたと認めるときは、これを変更する。
4 運輸大臣は、標準木船運賃又は標準回漕料を設定し、又は変更しようとするときは、運輸審議会にはからなければならない。
(公聴会)
第十七條 運輸審議会は、前條第四項の規定により付議された事項について決定をしようとするときは、あらかじめ期日及び場所を公示して、公聴会を開き、利害関係人の意見を聞かなければならない。
(運賃又は回漕料に関する勧告等)
第十八條 運輸大臣は、第十六條の規定により標準木船運賃の設定されている航路及び貨物に係る運送について、標準木船運賃と異る運賃で取引をした木船運送事業者がある場合において、当該取引が木船運送事業の健全な発達を阻害するおそれがあると認めるときは、その者に対し、当該取引の是正その他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 運輸大臣は、第十六條の規定により標準回漕料の設定されている航路及び貨物に係る運送について、関係木船回漕業者の受け取る回漕料の合計が標準回漕料と異る場合において、そのことが木船運送事業の健全な発達を阻害するおそれがあると認めるときは、当該関係木船回漕業者に対し、当該取引の是正その他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3 第一項又は前項の規定による勧告があつたときは、木船運送事業者は、運輸大臣が指定する期間内に、運輸大臣に対し、当該勧告を応諾するかしないか(応諾しない場合にはその理由を附して)を回答しなければならない。
4 運輸大臣は、木船運送事業者が前項に規定する回答をしないとき又はその応諾しない理由が正当でないと認めるときは、その木船運送事業者に対し、理由を示して、第一項又は第二項の勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
(標準木船貸渡料)
第十九條 運輸大臣は、木船運送事業の健全な発達を図るため必要があると認めるときは、標準木船貸渡料(標準木船期間よう船料を含む。以下同じ。)を設定することができる。
2 第十六條第二項から第四項まで、第十七條及び前條の規定は、前項の標準木船貸渡料について準用する。
(回漕料等の明示)
第二十條 木船回漕業者は、木船運航業者に対し、木船による海上における物品の運送につき自己の取得する回漕料等の総額及びその内訳を書面をもつて明示しなければならない。
(まつ消登録の申請)
第二十一條 木船運送事業者が左の各号の一に該当することとなつたときは、当該各号に掲げる者は、その日から三十日以内に、海運局長にまつ消登録の申請をしなければならない。
一 木船運送事業者が死亡したときは、その相続人
二 法人である木船運送事業者が合併により消滅したときは、その役員であつた者
三 法人である木船運送事業者が合併又は破産以外の事由により解散したときは、その清算人
四 法人である木船運送事業者が破産により解散したときは、その破産管財人
五 木船運送事業を廃止したときは、木船運送事業者であつた者(法人にあつてはその役員であつた者)
(登録のまつ消)
第二十二條 海運局長は、左の各号に掲げる場合においては、当該木船運送事業者の登録をまつ消しなければならない。
一 前條の規定によるまつ消登録の申請があつた場合
二 次條の規定により木船運送事業者の登録を取り消した場合
(事業の停止及び登録の取消)
第二十三條 海運局長は、木船運送事業者が左の各号の一に該当するときは、三箇月以内において期間を定めて当該木船運送事業の全部若しくは一部の停止を命じ、又は当該木船運送事業の登録を取り消すことができる。
一 この法律の規定又はこの法律の規定に基く処分に違反したとき。
二 第六條第一項第一号又は第三号の規定に該当することとなつたとき。
三 第十八條第三項(第十九條第二項において準用する場合を含む。)の規定により勧告を応諾する旨を回答しながら正当な理由がなくて当該勧告に従わなかつたとき。
2 海運局長は、前項の処分をしようとするときは、公開による聴聞を行わなければならない。
3 海運局長は、第一項の処分を行う場合には、その処分をしようとする事由並びに聴聞の日時及び場所を、その期日の七日前までに当該木船運送事業者に通知し、且つ、これらの事項を公示しなければならない。
4 聴聞においては、当該木船運送事業者又はその代理人に、自己又は本人のため意見を述べ、且つ、証拠を提出する十分な機会が与えられなければならない。
5 第六條第二項の規定は、第一項の処分をした場合に準用する。
(営業保証金の取りもどし)
第二十四條 第二十二條の規定による登録のまつ消があつたときは、木船回漕業者であつた者又はその承継人は、第三條第二項の営業保証金を取りもどすことができる。木船回漕業者が一部の営業所を廃止した場合において、営業保証金の額が第九條第一項に規定する額をこえることとなつたときは、その超過額についてもまた同様とする。
2 前項の営業保証金の取りもどしは、当該営業保証金につき第十三條第一項の権利を有する者に対し、六箇月を下らない一定期間内に申し出でるべき旨を公告し、その期間中にその申出がなかつた場合でなければ、これをすることができない。但し、営業保証金を取りもどすことを得べき事由が発生した日から十年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の公告その他営業保証金の取りもどしに関し必要な手続は、省令で定める。
(事業改善の勧告)
第二十五條 運輸大臣は、木船運送事業の健全な発達を図るため必要があると認めるときは、木船運送事業者に対し、業務運営の改善、船質の改善その他当該事業の合理化に関し勧告することができる。
(報告の徴収)
第二十六條 運輸大臣は、この法律の施行を確保するため必要があると認めるときは、木船運送事業者に対し、その事業に関する報告を求めることができる。
(湖、沼又は河川において営む木船運送の事業)
第二十七條 この法律の規定は、もつぱら湖、沼又は河川において営む木船運送の事業に準用する。
(海上運送法の適用除外)
第二十八條 この法律の規定により木船運送事業の登録を受けた者は、海上運送法第二十三條、第二十四條及び第三十三條の規定による届出をしなくてもよい。
(訴願)
第二十九條 第二十三條の規定による海運局長の処分に不服がある者は、訴願することができる。
(罰則)
第三十條 左の各号の一に該当する者は、五万円以下の罰金に処する。
一 第十四條第一項(第二十七條において準用する場合を含む。)の規定に違反して、木船運航業又は木船貸渡業を営んだ者
二 第十四條第二項(第二十七條において準用する場合を含む。)の規定に違反して、木船回漕業を営んだ者
三 第十五條(第二十七條において準用する場合を含む。)の規定に違反して、名義を他人に利用させた者
四 第二十三條第一項(第二十七條において準用する場合を含む。)の規定による事業の停止の処分に違反した者
第三十一條 第二十條(第二十七條において準用する場合を含む。)の規定に違反して、回漕料等の総額又はその内訳を書面をもつて明示しなかつた者は、三万円以下の罰金に処する。
第三十二條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が法人又は人の業務に関して、前二條の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本條の刑を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、当該業務に対し相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、この限りでない。
第三十三條 左の各号の一に該当する者は、三万円以下の過料に処する。
一 第八條第一項又は第三項(第二十七條においてこれらの規定を準用する場合を含む。)の規定による申請をせず、又は虚偽の申請をした者
二 第二十一條(第二十七條において準用する場合を含む。)の規定による申請をせず、又は虚偽の申請をした者
三 第二十六條(第二十七條において準用する場合を含む。)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和二十七年七月一日から施行する。
(経過規定)
2 この法律施行の際現に木船運送事業を営んでいる者は、この法律施行の日から百日以内は、第十四條の規定にかかわらず、当該事業を引き続き営むことができる。その期間内に第四條の規定により登録を申請した場合において、その申請について登録をする旨又は登録を拒否する旨の通知を受ける日までも同様とする。
(他の法律の改正)
3 運輸省設置法の一部を次のように改正する。
第四條第一項第四十三号の次に次の一号を加える。
四十三の二 標準木船運賃、標準回漕料又は標準木船貸渡料を設定すること。
第六條第一項第四号の次に次の一号を加える。
四の二 標準木船運賃、標準回漕料又は標準木船貸渡料の設定
第二十三條第一項第七号の次に次の一号を加える。
八 標準木船運賃、標準回漕料又は標準木船貸渡料の設定に関すること。
第四十條第一項第四号の次に次の一号を加える。
四の二 木船運送事業の登録に関すること。
4 海事代理士法(昭和二十六年法律第三十二号)の一部を次のように改正する。
別表第二中第五号の二の次に次の一号を加える。
五の三 木船運送法(昭和二十七年法律第百五十一号)
法務総裁 木村篤太郎
運輸大臣 村上義一
内閣総理大臣 吉田茂
木船運送法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十七年五月二十七日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百五十一号
木船運送法
(この法律の目的)
第一条 この法律は、木船運送事業の健全な発達を図り、もつて木船による海上運送の円滑な運営に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「木船」とは、海上において物品の運送に従事する木製船舶(木製のはしけを含む。)であつて左に掲げるもの以外のものをいう。
一 ろかいのみをもつて運転し、又は主としてろかいをもつて運転する舟
二 漁船法(昭和二十五年法律第百七十八号)の適用を受ける船舶
2 この法律において「木船運送事業」とは、木船運航業、木船回漕業及び木船貸渡業をいう。
3 この法律において「木船運航業」とは、木船による海上における物品の運送をする事業であつて左に掲げる事業以外のものをいう。
一 第四項第二号に掲げる事業
二 海上運送法(昭和二十四年法律第百八十七号)に規定する旅客定期航路事業
三 港湾運送事業法(昭和二十六年法律第百六十一号)に規定する港湾運送事業
四 関税法(明治三十二年法律第六十一号)に規定する開港以外の港湾において港湾運送事業法第三条各号に掲げる事業に相当する事業を営む事業
4 この法律において「木船回漕業」とは、左に掲げる事業の全部又は一部を行う事業であつて港湾運送事業法に規定する港湾運送事業及び関税法に規定する開港以外の港湾において港湾運送事業法第三条各号に掲げる事業に相当する事業を営む事業以外のものをいう。
一 自己の名をもつて木船による海上における物品の運送の取次をする事業
二 木船による海上における物品の運送を引き受けその運送の全部又は一部の運送を木船運航業者又は他の木船回漕業者に下請をさせる事業
三 木船運航業者の委任を受け運賃の請求又は受取をする事業
四 木船による海上における物品の運送の履行を保証する事業
五 木船による海上における物品の運送の媒介をする事業
六 その他いかなる方法をもつてするかを問わず実質的に前五号の一に該当する事業
5 この法律において「木船貸渡業」とは、木船の貸渡(期間よう船を含む。)をする事業をいう。
6 この法律において「回漕料」とは、木船回漕業者が第四項各号に掲げる事業に係る行為の反対給付として荷主、木船運航業者又は木船回漕業者から受け取る対価をいう。
(登録)
第三条 木船運航業又は木船貸渡業を営もうとする者は、その主たる営業所の所在地を管轄する海運局長(運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)第三十九条の海運局の長をいう。以下同じ。)の登録を受けなければならない。
2 木船回漕業を営もうとする者は、第九条の規定により営業保証金を供託し、且つ、その主たる営業所の所在地を管轄する海運局長の登録を受けなければならない。
(登録の申請)
第四条 前条の登録を受けようとする者(以下「登録申請者」という。)は、左に掲げる事項を記載した申請書をその主たる営業所の所在地を管轄する海運局長(以下「海運局長」という。)に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所
二 木船運航業、木船回漕業又は木船貸渡業の種別
三 主たる営業所及び従たる営業所の名称及び所在地
四 法人である場合においては、その役員の氏名
2 前項の申請書には、省令で定める事項を記載した書類を添附しなければならない。
3 木船回漕業の登録を受けようとする者は、前条の営業保証金を供託した後でなければ、第一項の申請をすることができない。
(登録の実施及び登録の通知)
第五条 海運局長は、前条の規定により登録の申請があつた場合においては、次条の規定により登録を拒否する場合を除くの外、遅滞なく、前条第一項各号に掲げる事項を木船運航業者登録簿、木船回漕業者登録簿又は木船貸渡業者登録簿に登録しなければならない。
2 海運局長は、前項の規定による登録をした場合においては、遅滞なく、その旨を登録申請者に通知しなければならない。
(登録の拒否)
第六条 海運局長は、登録申請者が左の各号の一に該当するときは、その登録を拒否しなければならない。
一 この法律の規定に違反して刑に処せられ、その執行を終り、又は執行を受けることがなくなつた日から一年を経過しない者
二 第二十三条の規定により木船運送事業の登録を取り消され、その取消の日から一年を経過しない者
三 法人であつて、その役員のうちに前二号の一に該当する者があるもの
2 海運局長は、前項の規定による登録の拒否をした場合においては、遅滞なく、理由を附してその旨を登録申請者に通知しなければならない。
(登録手数料)
第七条 登録申請者は、登録を受けようとする事業の種別ごとに、千円以下の範囲内において政令で定める額の手数料を納めなければならない。但し、第十四条第三項後段に規定する期間内になされた登録の申請については、手数料を納めなくてもよい。
(変更登録の申請)
第八条 木船運送事業者は、第四条第一項各号に掲げる事項について変更があつたときは、その事由が生じた日から三十日以内にその旨の変更登録申請書を海運局長に提出しなければならない。
2 木船回漕業者は、あらたに営業所を設置したときは、第十条の規定により営業保証金を供託した後でなければ前項の変更登録の申請をすることができない。
3 木船運送事業者は、その主たる営業所を登録を受けている海運局の管轄区域外に移転するときは、省令の定めるところにより、変更登録申請書を登録を受けている海運局長を経由して移転後の主たる営業所の所在地を管轄する海運局長に提出しなければならない。
4 第五条及び第六条の規定は、第一項の規定による変更登録の申請があつた場合に準用する。
5 木船回漕業者は、第二項に規定する登録の変更をした後でなければ、その営業所について営業を開始することができない。
(営業保証金の額及び供託)
第九条 第三条第二項の営業保証金の額は、主たる営業所につき十万円、その他の営業所につき営業所ごとに三万円の割合に相当する金額の合計とする。但し、総額二十万円をこえないものとする。
2 第三条第二項の規定による営業保証金の供託は、木船回漕業を営もうとする者の主たる営業所の最寄の供託所にこれをしなければならない。
(営業所新設の場合の営業保証金)
第十条 木船回漕業者は、事業の開始後あらたに営業所を設置したときは、当該営業所につき前条第一項に規定する割合の営業保証金を同条第二項に規定する供託所に供託しなければならない。但し、その者が供託する営業保証金の額が二十万円をこえることとなるときは、その超過分についてはこの限りでない。
(営業保証金の不足額の供託)
第十一条 木船回漕業者は、営業保証金について債権者がその権利を実行したため営業保証金の額が第九条第一項及び前条に定める額に不足することとなつたときは、省令で定める日から三十日以内に、その不足額を第九条第二項に規定する供託所に供託しなければならない。
2 木船回漕業者は、前項の規定により営業保証金を供託したときは、二週間以内に、供託物受入の旨を記載した供託書の写を添附して、その旨を海運局長に届け出なければならない。
(営業保証金の保管替)
第十二条 木船回漕業者は、その主たる営業所を移転したときは、遅滞なく、営業保証金を供託している供託所に対し、移転後の主たる営業所の最寄の供託所への営業保証金の保管替を請求しなければならない。
(営業保証金の還付)
第十三条 木船による海上における物品の運送に関し木船回漕業者と取引をした者は、その取引により生じた債権に関し、木船回漕業者が供託した営業保証金について、その債権の弁済を受ける権利を有する。
2 前項の権利の実行に関し必要な事項は、省令で定める。
(無登録営業の禁止)
第十四条 木船運航業又は木船貸渡業は、第三条第一項の規定による登録を受けた者でなければ、これを営んではならない。
2 木船回漕業は、第九条の規定による営業保証金を供託し、且つ、第三条第二項の規定による登録を受けた者でなければ、これを営んではならない。
3 木船運送事業者が死亡又は合併したときは、相続人又は合併後存続する法人は、死亡又は合併した日から六十日以内は、前二項の規定にかかわらず、当該事業を引き続き営むことができる。その期間内において木船運送事業の登録を申請した場合において、その申請について登録をする旨又は登録を拒否する旨の通知を受けるまでの期間についても同様とする。
(名義利用の禁止)
第十五条 木船運送事業の登録を受けた者は、その名義を他人に木船運送事業のため利用させてはならない。
(標準木船運賃及び標準回漕料)
第十六条 運輸大臣は、航路及び貨物を指定して標準木船運賃又は標準回漕料(関係木船回漕業者が受け取る回漕料の合計の標準をいう。以下同じ。)を設定し、これを告示する。
2 前項の標準木船運賃又は標準回漕料は、当該運送の特質に従い、能率的な経営の下における適正な原価を償い、且つ、適正な利潤を含むものでなければならない。
3 運輸大臣は、標準木船運賃又は標準回漕料が前項の基準に適合しなくなつたと認めるときは、これを変更する。
4 運輸大臣は、標準木船運賃又は標準回漕料を設定し、又は変更しようとするときは、運輸審議会にはからなければならない。
(公聴会)
第十七条 運輸審議会は、前条第四項の規定により付議された事項について決定をしようとするときは、あらかじめ期日及び場所を公示して、公聴会を開き、利害関係人の意見を聞かなければならない。
(運賃又は回漕料に関する勧告等)
第十八条 運輸大臣は、第十六条の規定により標準木船運賃の設定されている航路及び貨物に係る運送について、標準木船運賃と異る運賃で取引をした木船運送事業者がある場合において、当該取引が木船運送事業の健全な発達を阻害するおそれがあると認めるときは、その者に対し、当該取引の是正その他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 運輸大臣は、第十六条の規定により標準回漕料の設定されている航路及び貨物に係る運送について、関係木船回漕業者の受け取る回漕料の合計が標準回漕料と異る場合において、そのことが木船運送事業の健全な発達を阻害するおそれがあると認めるときは、当該関係木船回漕業者に対し、当該取引の是正その他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3 第一項又は前項の規定による勧告があつたときは、木船運送事業者は、運輸大臣が指定する期間内に、運輸大臣に対し、当該勧告を応諾するかしないか(応諾しない場合にはその理由を附して)を回答しなければならない。
4 運輸大臣は、木船運送事業者が前項に規定する回答をしないとき又はその応諾しない理由が正当でないと認めるときは、その木船運送事業者に対し、理由を示して、第一項又は第二項の勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
(標準木船貸渡料)
第十九条 運輸大臣は、木船運送事業の健全な発達を図るため必要があると認めるときは、標準木船貸渡料(標準木船期間よう船料を含む。以下同じ。)を設定することができる。
2 第十六条第二項から第四項まで、第十七条及び前条の規定は、前項の標準木船貸渡料について準用する。
(回漕料等の明示)
第二十条 木船回漕業者は、木船運航業者に対し、木船による海上における物品の運送につき自己の取得する回漕料等の総額及びその内訳を書面をもつて明示しなければならない。
(まつ消登録の申請)
第二十一条 木船運送事業者が左の各号の一に該当することとなつたときは、当該各号に掲げる者は、その日から三十日以内に、海運局長にまつ消登録の申請をしなければならない。
一 木船運送事業者が死亡したときは、その相続人
二 法人である木船運送事業者が合併により消滅したときは、その役員であつた者
三 法人である木船運送事業者が合併又は破産以外の事由により解散したときは、その清算人
四 法人である木船運送事業者が破産により解散したときは、その破産管財人
五 木船運送事業を廃止したときは、木船運送事業者であつた者(法人にあつてはその役員であつた者)
(登録のまつ消)
第二十二条 海運局長は、左の各号に掲げる場合においては、当該木船運送事業者の登録をまつ消しなければならない。
一 前条の規定によるまつ消登録の申請があつた場合
二 次条の規定により木船運送事業者の登録を取り消した場合
(事業の停止及び登録の取消)
第二十三条 海運局長は、木船運送事業者が左の各号の一に該当するときは、三箇月以内において期間を定めて当該木船運送事業の全部若しくは一部の停止を命じ、又は当該木船運送事業の登録を取り消すことができる。
一 この法律の規定又はこの法律の規定に基く処分に違反したとき。
二 第六条第一項第一号又は第三号の規定に該当することとなつたとき。
三 第十八条第三項(第十九条第二項において準用する場合を含む。)の規定により勧告を応諾する旨を回答しながら正当な理由がなくて当該勧告に従わなかつたとき。
2 海運局長は、前項の処分をしようとするときは、公開による聴聞を行わなければならない。
3 海運局長は、第一項の処分を行う場合には、その処分をしようとする事由並びに聴聞の日時及び場所を、その期日の七日前までに当該木船運送事業者に通知し、且つ、これらの事項を公示しなければならない。
4 聴聞においては、当該木船運送事業者又はその代理人に、自己又は本人のため意見を述べ、且つ、証拠を提出する十分な機会が与えられなければならない。
5 第六条第二項の規定は、第一項の処分をした場合に準用する。
(営業保証金の取りもどし)
第二十四条 第二十二条の規定による登録のまつ消があつたときは、木船回漕業者であつた者又はその承継人は、第三条第二項の営業保証金を取りもどすことができる。木船回漕業者が一部の営業所を廃止した場合において、営業保証金の額が第九条第一項に規定する額をこえることとなつたときは、その超過額についてもまた同様とする。
2 前項の営業保証金の取りもどしは、当該営業保証金につき第十三条第一項の権利を有する者に対し、六箇月を下らない一定期間内に申し出でるべき旨を公告し、その期間中にその申出がなかつた場合でなければ、これをすることができない。但し、営業保証金を取りもどすことを得べき事由が発生した日から十年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の公告その他営業保証金の取りもどしに関し必要な手続は、省令で定める。
(事業改善の勧告)
第二十五条 運輸大臣は、木船運送事業の健全な発達を図るため必要があると認めるときは、木船運送事業者に対し、業務運営の改善、船質の改善その他当該事業の合理化に関し勧告することができる。
(報告の徴収)
第二十六条 運輸大臣は、この法律の施行を確保するため必要があると認めるときは、木船運送事業者に対し、その事業に関する報告を求めることができる。
(湖、沼又は河川において営む木船運送の事業)
第二十七条 この法律の規定は、もつぱら湖、沼又は河川において営む木船運送の事業に準用する。
(海上運送法の適用除外)
第二十八条 この法律の規定により木船運送事業の登録を受けた者は、海上運送法第二十三条、第二十四条及び第三十三条の規定による届出をしなくてもよい。
(訴願)
第二十九条 第二十三条の規定による海運局長の処分に不服がある者は、訴願することができる。
(罰則)
第三十条 左の各号の一に該当する者は、五万円以下の罰金に処する。
一 第十四条第一項(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定に違反して、木船運航業又は木船貸渡業を営んだ者
二 第十四条第二項(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定に違反して、木船回漕業を営んだ者
三 第十五条(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定に違反して、名義を他人に利用させた者
四 第二十三条第一項(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による事業の停止の処分に違反した者
第三十一条 第二十条(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定に違反して、回漕料等の総額又はその内訳を書面をもつて明示しなかつた者は、三万円以下の罰金に処する。
第三十二条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が法人又は人の業務に関して、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本条の刑を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、当該業務に対し相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、この限りでない。
第三十三条 左の各号の一に該当する者は、三万円以下の過料に処する。
一 第八条第一項又は第三項(第二十七条においてこれらの規定を準用する場合を含む。)の規定による申請をせず、又は虚偽の申請をした者
二 第二十一条(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による申請をせず、又は虚偽の申請をした者
三 第二十六条(第二十七条において準用する場合を含む。)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和二十七年七月一日から施行する。
(経過規定)
2 この法律施行の際現に木船運送事業を営んでいる者は、この法律施行の日から百日以内は、第十四条の規定にかかわらず、当該事業を引き続き営むことができる。その期間内に第四条の規定により登録を申請した場合において、その申請について登録をする旨又は登録を拒否する旨の通知を受ける日までも同様とする。
(他の法律の改正)
3 運輸省設置法の一部を次のように改正する。
第四条第一項第四十三号の次に次の一号を加える。
四十三の二 標準木船運賃、標準回漕料又は標準木船貸渡料を設定すること。
第六条第一項第四号の次に次の一号を加える。
四の二 標準木船運賃、標準回漕料又は標準木船貸渡料の設定
第二十三条第一項第七号の次に次の一号を加える。
八 標準木船運賃、標準回漕料又は標準木船貸渡料の設定に関すること。
第四十条第一項第四号の次に次の一号を加える。
四の二 木船運送事業の登録に関すること。
4 海事代理士法(昭和二十六年法律第三十二号)の一部を次のように改正する。
別表第二中第五号の二の次に次の一号を加える。
五の三 木船運送法(昭和二十七年法律第百五十一号)
法務総裁 木村篤太郎
運輸大臣 村上義一
内閣総理大臣 吉田茂