朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル鑛業法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十八年三月七日
內閣總理大臣 伯爵 桂太郞
農商務大臣 男爵 淸浦奎吾
大藏大臣 男爵 曾禰荒助
法律第四十五號
鑛業法
第一章 總則
第一條 本法ニ於テ鑛業ト稱スルハ鑛物ノ試掘、採掘及之ニ附屬スル事業ヲ謂フ
第二條 本法ニ於テ鑛物ト稱スルハ金鑛、銀鑛、銅鑛、鉛鑛、蒼鉛鑛、錫鑛、安質母尼鑛、水銀鑛、亞鉛鑛、鐵鑛、硫化鐵鑛、格魯謨鐵鑛、滿俺鑛、重石鑛、水鉛鑛、砒鑛、燐鑛、黑鉛、石炭、亞炭、石油、土瀝靑及硫黃ヲ謂フ但シ砂鑛ハ此ノ限ニ在ラス
第三條 未タ掘採セサル鑛物(廢鑛及鑛滓ヲ含ム)ハ國ノ所有トス
第四條 本法ニ於テ鑛業權ト稱スルハ試掘權及採掘權ヲ謂フ
鑛業權者ハ鑛區ニ於テ其ノ許可ヲ受ケタル鑛物ヲ掘採シ及之ヲ取得スル權利ヲ有ス但シ鑛區ノ重複シタル場合ニ於テハ鑛業權者ハ互ニ其ノ權利ヲ制限セラル
第五條 帝國臣民又ハ帝國法律ニ從ヒ成立シタル法人ニ非サレハ鑛業權者トナルコトヲ得ス
第六條 本法ニ規定シタル鑛業權者ノ權利義務ハ鑛業權ト共ニ移轉ス
本法ノ規定ニ依リ爲シタル手續其ノ他ノ行爲ハ鑛業ヲ出願セムトスル者、鑛業出願人、鑛業權者、土地所有者又ハ關係人ノ承繼人ニ對シテモ其ノ效力ヲ有ス
第七條 二人以上共同シテ鑛業ヲ爲シ又ハ之ヲ爲サムトスルトキハ內一人ヲ選定シテ代表者ト爲シ鑛山監督署長ニ屆出ヘシ其ノ屆出ナキトキハ鑛山監督署長之ヲ指定ス
代表者ハ國ニ對シ共同鑛業出願人又ハ共同鑛業權者ヲ代表ス
共同鑛業出願人又ハ共同鑛業權者ハ組合契約ヲ爲シタル者ト看做ス
第八條 本法ニ於テ鑛夫ト稱スルハ鑛業ニ從事スル勞役者ヲ謂フ
第九條 本法ニ於テ鑛區ト稱スルハ鑛業權ノ登錄ヲ得タル土地ノ區域ヲ謂フ
鑛區ノ境界ハ直線ヲ以テ之ヲ定メ地表境界線ノ直下ヲ限トス其ノ面積ハ石炭ニ在リテハ五萬坪以上其ノ他ノ鑛物ニ在リテハ五千坪以上トシ共ニ百萬坪ヲ超ユルコトヲ得ス但シ鑛利保護上又ハ鑛區分合上已ヲ得サル場合ニハ百萬坪ヲ超ユルコトヲ得
同一ノ鑛區ニ於テハ二以上ノ鑛業權ヲ設定スルコトヲ得ス但シ其ノ目的異種ノ鑛物ナルトキ及第三十六條ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十條 宮城、離宮、神宮及皇陵ノ周圍三百間以內竝要塞地帶第一區內ノ場所ハ之ヲ鑛區ト爲スコトヲ得ス
陸海軍所轄ノ軍港、要港、火藥製造所、火藥庫及彈藥庫ノ周圍三百間以內竝要塞地帶第二區及第三區內ノ場所ハ所轄官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ鑛區ト爲スコトヲ得ス
前二項ニ揭ケタル場所ハ所轄官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ鑛業ノ爲之ヲ使用スルコトヲ得ス
第十一條 鐵道、軌道、道路、運河、河湖、沼池、隄塘、社寺境內地、墓地、公園地其ノ他ノ營造物及建物ノ地表地下トモ其ノ周圍三十間以內ノ場所ニ於テハ所轄官廳ノ許可、所有者及關係人ノ承諾ヲ受クルニ非サレハ鑛業ヲ爲シ又ハ鑛業ノ爲之ヲ使用スルコトヲ得ス但シ所有者及關係人ハ正當ノ理由ナクシテ其ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第十二條 鑛業出願地又ハ鑛區ノ訂正、增減及改正ノ出願ニ付テハ鑛業ノ出願ニ關スル規定ヲ準用ス
第十三條 本法ニ於テ鑛業稅ト稱スルハ鑛區稅及鑛產稅ヲ謂フ
第十四條 本法ハ第八章ノ規定ヲ除クノ外國ノ鑛業ニ之ヲ適用ス
第二章 鑛業權
第十五條 鑛業權ハ物權トシ不動產ニ關スル規定ヲ準用ス但シ民法第百七十九條第一項ノ規定ハ此ノ限ニ在ラス
第十六條 鑛業權ハ不可分トス
第十七條 鑛業權ハ相續、讓渡、滯納處分及强制執行ノ目的タルノ外權利ノ目的タルコトヲ得ス但シ採掘權ハ抵當權ノ目的ト爲スコトヲ得
第十八條 試掘權ノ存續期間ハ登錄ノ日ヨリ二箇年トス
前項ノ期間ハ鑛區ノ增減又ハ改正ノ爲變更セラルルコトナシ
第十九條 鑛業權及抵當權ノ設定、變更、移轉、消滅竝處分ノ制限ハ鑛業原簿ニ登錄ス共同鑛業權者ノ脫退ニ付テモ亦同シ但シ鑛業權ノ處分ヲ制限セラレタルトキハ廢業ノ登錄ヲ爲スコトヲ得ス
前項ノ登錄ハ登記ニ代ルモノトス
登錄ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十條 前條第一項ニ揭ケタル事項ハ相續、期限ノ到來ニ因ル鑛業權ノ消滅竝第四十二條及第四十三條ノ競賣ノ場合ヲ除クノ外登錄ヲ爲スニ非サレハ其ノ效力ヲ生セス
第二十一條 鑛業ヲ爲サムトスル者ハ願書ニ鑛區圖ヲ添ヘ試掘ニ付テハ鑛山監督署長、採掘ニ付テハ農商務大臣ニ出願スヘシ
第二十二條 鑛業出願人ハ名義ノ變更ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ試掘ニ付テハ鑛山監督署長、採掘ニ付テハ農商務大臣ニ屆出ヲ爲スニ非サレハ其ノ效力ヲ生セス
第二十三條 採掘出願人ハ出願地ニ其ノ採掘セムトスル鑛物ノ存在スルコトヲ證明スヘシ
第二十四條 農商務大臣ニ於テ試掘出願地採掘ニ適スルモノト認メタルトキハ採掘ノ出願ヲ命スヘシ
前項ノ場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以內ニ採掘ノ出願ヲ爲ササルトキハ試掘ノ出願ハ之ヲ許可セス
前二項ノ規定ハ農商務大臣ニ於テ採掘出願地仍試掘ヲ要スルモノト認メタル場合ニ之ヲ準用ス
第二十五條 採掘出願地ノ位置形狀鑛床ノ位置形狀ト相違シ鑛利ヲ損スルモノト認メタルトキハ農商務大臣ハ其ノ訂正ノ出願ヲ命スヘシ
前項ノ場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以內ニ訂正ノ出願ヲ爲ササルトキハ採掘ノ出願ハ之ヲ許可セス
第二十六條 採掘出願地ノ位置形狀鑛床ノ位置形狀ト相違シ鑛利ヲ損スルモノト認メタルトキハ採掘出願人ハ其ノ訂正ヲ出願スルコトヲ得
第二十七條 鑛業出願人ハ出願地ノ增減ヲ出願スルコトヲ得
第二十八條 試掘出願地出願ノ當時鑛區ト重複スル場合ニ於テ同種ノ鑛物ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ其ノ出願ヲ許可セス
第二十九條 採掘出願地出願ノ當時他人ノ鑛區ト重複スル場合ニ於テ同種ノ鑛物ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ其ノ出願ヲ許可セス但シ第三十六條ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三十條 採掘出願地他人ノ試掘出願地ト重複スル場合ニ於テ同種ノ鑛物ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ第二十四條第一項及第二項ノ規定ヲ準用ス
第三十一條 鑛業出願地他人ノ鑛區ト重複スル場合ニ於テ異種ノ鑛物ナルトキハ鑛山監督署長ハ之ヲ鑛業權者ニ通知スヘシ
鑛業權者ハ前項ノ通知書到達ノ日ヨリ六十日以內ニ自ラ其ノ鑛業ヲ出願スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ第三十六條及豫メ鑛業權者ノ承諾ヲ得タル場合ニハ之ヲ適用セス
第一項ノ出願他人ノ鑛業ニ妨害アリト認メタルトキハ之ヲ許可セス
第三十二條 公益ヲ害スルモノト認メタルトキ又ハ鑛業ノ價値ナシト認メタルトキハ鑛業ノ出願ヲ許可セス
第三十三條 試掘出願地又ハ採掘出願地重複スルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ願書發送ノ日時ノ先ナル者優先權ヲ有ス願書發送ノ日時同一ナルトキハ鑛山監督署長ハ之ヲ各出願人ニ通知スヘシ此ノ場合ニ於テハ出願人ハ其ノ通知書發送ノ日ヨリ六十日以內ニ協議ヲ調ヘ之ヲ屆出ヘシ
出願人前項ノ屆出ヲ爲ササルトキハ抽籤ニ依リ優先權者ヲ定ム
前二項ノ規定ハ第二十五條、第二十六條、第三十一條第二項及第三十六條ノ場合ニハ之ヲ適用セス
試掘出願地採掘出願地ト重複スル場合ニ於テ願書發送ノ日時同一ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ採掘出願人ハ優先權ヲ有ス
第三十四條 試掘出願人同種ノ鑛物ニ付更ニ採掘ノ出願ヲ爲シタル場合ニ於テ出願地重複スルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ採掘ノ出願ハ試掘願書發送ノ日時ニ於テ試掘ノ出願ニ代リタルモノト看做ス但シ前條第四項ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
前項本文ノ規定ハ採掘出願人同種ノ鑛物ニ付更ニ試掘ノ出願ヲ爲シタル場合ニ之ヲ準用ス
前二項ノ規定ハ第二十四條及第二十五條ノ場合ニ於ケル期限經過後ノ出願ニ之ヲ適用セス
第三十五條 採掘權者ハ鑛區ノ合併又ハ分割ヲ農商務大臣ニ出願スルコトヲ得鑛區ノ一部ヲ分割シテ之ヲ他ノ鑛區ニ合併セムトスルトキ亦同シ
抵當權ノ設定アル場合ニ於テ前項ノ出願ヲ爲サムトスルトキハ抵當權者ノ承諾及抵當權ノ順位ニ關スル協定ヲ經ヘシ
第三十六條 鑛床ノ位置形狀ニ依リ鄰接スル他人ノ鑛區ニ掘進スルノ必要アルトキハ鄰接鑛業權者ノ承諾ヲ經テ鑛區ノ訂正ヲ出願スルコトヲ得但シ鄰接鑛業權者ハ正當ノ理由ナクシテ其ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第三十七條 第二十五條第一項、第二十六條、第二十七條及第三十三條第三項ノ規定ハ之ヲ鑛區ニ準用ス
第二十五條第一項ニ該當スル場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以內ニ出願ヲ爲ササルトキハ農商務大臣ハ採掘權ヲ取消スヘシ
抵當權ノ設定アル場合ニ於テ鑛區ノ減少ヲ出願セムトスルトキハ豫メ抵當權者ノ承諾ヲ經ヘシ
第三十八條 錯誤ニ因リ鑛業ノ出願ヲ許可シタルトキハ農商務大臣ハ鑛區ノ改正ヲ命シ又ハ鑛業權ヲ取消スヘシ
前項ノ改正ヲ命シタル場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以內ニ出願ヲ爲ササルトキハ農商務大臣ハ鑛業權ヲ取消スヘシ
第三十九條 鑛業公益ヲ害スルモノト認メタルトキハ農商務大臣ハ鑛業權ヲ取消スヘシ
第四十條 鑛業權者正當ノ理由ナクシテ登錄ノ日ヨリ一箇年以內ニ事業ニ著手セス若ハ一箇年以上休業シタルトキ又ハ施業案ニ依ラスシテ採掘ヲ爲シタルトキハ農商務大臣ハ鑛業權ヲ取消スコトヲ得
第四十一條 鑛業權者第七十二條ノ命令ニ從ハサルトキ又ハ鑛業稅ヲ納メサルトキハ農商務大臣ハ鑛業權ヲ取消スコトヲ得
第四十二條 採掘權取消ノ登錄アリタルトキハ鑛山監督署長ハ直ニ之ヲ抵當權者ニ通知スヘシ
抵當權者ハ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ採掘權ノ競賣ヲ請求スルコトヲ得但シ第三十八條第一項及第三十九條ノ規定ニ依ル採掘權取消ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
採掘權ハ前項ノ期間內又ハ競賣ノ手續完結ノ日迄競賣ノ目的ノ範圍內ニ於テ仍存續スルモノト看做ス
競賣ニ依ル賣得金ハ競賣ノ費用及抵當權者ニ對スル債務ノ辨濟ニ充テ其ノ殘金ハ國庫ニ歸屬ス
競買人ハ採掘權取消ノ登錄アリタル時ニ於テ採掘權ヲ讓受ケタルモノト看做ス
第四十三條 前條ノ規定ハ採掘權者廢業シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四十四條 採掘權者ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ施業案ヲ鑛山監督署長ニ差出スヘシ其ノ之ヲ變更シタルトキ亦同シ
採掘權者ハ施業案ニ依ルニ非サレハ採掘ヲ爲スコトヲ得ス
第四十五條 鑛山監督署長ハ理由ヲ示シテ施業案ノ變更ヲ命スルコトヲ得
前項ニ依リ變更シタル施業案ハ鑛山監督署長ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ變更スルコトヲ得ス
第四十六條 採掘權者ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ坑內實測圖及鑛業簿ヲ鑛業事務所ニ備置キ且其ノ複本ヲ鑛山監督署長ニ差出スヘシ
第四十七條 鑛業權者ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ鑛業ニ關スル明細表ヲ鑛山監督署長ニ差出スヘシ
第四十八條 試掘ニ依リテ得タル鑛產物ハ鑛山監督署長ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ處分スルコトヲ得ス
第四十九條 鄰接鑛業權者其ノ他ノ利害關係人ハ他人ノ鑛區ニ付鑛山監督署長ニ其ノ實地調査ヲ出願スルコトヲ得
出願人ハ前項ノ調査ニ要スル人夫及物品ヲ供スヘシ
第三章 土地使用
第五十條 本章ニ於テ關係人ト稱スルハ第五十二條乃至第五十四條及第五十六條ノ通知前使用又ハ收用スヘキ土地ニ關シテ權利ヲ有スル者及其ノ通知後ニ於テ通知前ヨリ旣存セル權利ヲ承繼シタル者ヲ謂フ
第五十一條 本章ニ於テ補償金ト稱スルハ對價、使用料其ノ他土地所有者及關係人ノ通常受クヘキ損失ニ對スル補償金ヲ總稱ス
第五十二條 鑛業ノ出願又ハ鑛業ノ爲必要アルトキハ鑛業ヲ出願セムトスル者、鑛業出願人又ハ鑛業權者ハ鑛山監督署長ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ニ立入リ測量又ハ檢査ヲ爲スコトヲ得
前項ノ許可ヲ得タル者他人ノ土地ニ立入ラムトスルトキハ豫メ土地占有者ニ通知スヘシ
第五十三條 前條ノ規定ニ依ル測量又ハ檢査ノ爲必要アルトキハ鑛山監督署長ノ許可ヲ得テ障碍物ヲ除却スルコトヲ得
前項ノ許可ヲ得タル者障碍物ヲ除却セムトスルトキハ豫メ其ノ所有者及占有者ニ通知スヘシ
第五十四條 鑛業上急迫ノ危險ヲ防ク爲必要アルトキハ鑛業權者ハ鑛山監督署長ノ許可ヲ得テ直ニ他人ノ土地ニ立入リ又ハ之ヲ使用スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ鑛業權者ハ遲滯ナク之ヲ土地占有者ニ通知スヘシ
第五十五條 前三條ニ依リ所有者及關係人ノ受ケタル損失ニ對シテハ其ノ請求ニ因リ補償金ヲ拂渡スヘシ
第五十六條 鑛業權者ハ左ニ揭クル目的ノ爲必要アルトキハ他人ノ土地ヲ使用スルコトヲ得
一 錐鑚孔又ハ坑口ノ開穿
二 鑛物、土石、爆發藥、用材、薪炭、鑛滓又ハ灰燼ノ置場ノ設置
三 選鑛場又ハ製鍊場ノ建設
四 鐵道、軌道、道路、運河、溝渠、管樋、池井、索道又ハ電線ノ開設
五 其ノ他鑛業上必要ナル工事又ハ工作物ノ施設
前項ノ規定ニ依リ鑛業權者他人ノ土地ヲ使用セムトスルトキハ鑛山監督署長ノ許可ヲ受クヘシ
鑛山監督署長前項ノ許可ヲ與ヘタルトキハ之ヲ土地所有者及關係人ニ通知スヘシ
前項ノ通知ノ後鑛業權者ハ其ノ土地ニ關スル權利ヲ取得スル爲土地所有者及關係人ニ協議ヲ爲スヘシ
第五十七條 土地ノ使用三箇年以上ニ亙ルトキ又ハ土地ノ形質ヲ變更スルトキハ所有者ハ其ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
第五十八條 土地ノ一部ヲ收用スルニ因リテ殘地ヲ從來用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ土地所有者ハ其ノ全部ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
第五十九條 土地ヲ使用又ハ收用スルトキハ土地所有者及關係人ニ補償金ヲ拂渡スヘシ
第六十條 土地ノ一部ヲ使用又ハ收用スルニ因リテ殘地ノ價格ヲ減シ其ノ他殘地ニ關シ損失ヲ生スヘキトキハ其ノ補償金ヲ拂渡スヘシ
第六十一條 土地ヲ使用又ハ收用スルニ因リテ通路、溝渠、墻柵其ノ他ノ工作物ノ新築、改築、增築又ハ修繕ヲ爲スノ必要ヲ生スルトキハ其ノ補償金ヲ拂渡スヘシ
第六十二條 第五十六條ノ通知ノ後土地ノ形質ヲ變更シ工作物ノ新築、改築、增築若ハ大修繕ヲ爲シ又ハ物件ヲ附加增置セムトスルトキハ土地所有者又ハ關係人ハ鑛山監督署長ノ許可ヲ受クヘシ許可ヲ受ケスシテ之ヲ爲シタル者ハ之ニ關スル補償金ヲ請求スルコトヲ得ス
第六十三條 第五十六條ノ通知ノ後事業ヲ廢止又ハ變更シタルニ因リテ土地所有者又ハ關係人ノ受ケタル損失ニ對シ鑛業權者ハ其ノ補償金ヲ拂渡スヘシ
第六十四條 土地所有者及關係人ハ鑛業權者ヲシテ補償金ニ付相當ノ擔保ヲ供セシムルコトヲ得
第六十五條 土地ノ使用又ハ收用ノ協議調ヒ裁決確定シ又ハ判決アリタルトキハ補償金又ハ擔保ノ裁決確定セサルトキト雖鑛業權者ハ其ノ裁決ニ依ル補償金ヲ供託シ又ハ擔保ヲ供シテ土地ヲ使用又ハ收用スルコトヲ得
第六十六條 鑛業權者補償金ノ拂渡若ハ供託ヲ爲サス又ハ擔保ヲ供セサルトキハ土地所有者及關係人ハ土地ヲ用ウルコトヲ拒ムコトヲ得
第六十七條 土地ヲ收用スルトキハ收用ノ時期ニ於テ所有權ハ鑛業權者之ヲ取得シ其ノ他ノ權利ハ消滅ス
土地ヲ使用スルトキハ其ノ權利ハ使用ノ時期ニ於テ鑛業權者之ヲ取得シ其ノ他ノ權利ハ使用ノ期間其ノ行使ヲ停止セラル但シ使用ヲ妨ケサルモノハ此ノ限ニ在ラス
第六十八條 土地ノ使用ヲ終リタルトキハ鑛業權者ハ土地ヲ原狀ニ復シ又ハ原狀ニ復セサルニ因リテ生スル損失ニ對シ補償金ヲ拂渡シテ之ヲ返還スヘシ
第六十九條 先取特權、質權又ハ抵當權ハ其ノ目的物ノ使用又ハ收用ニ因リテ債務者ノ受クヘキ補償金ニ對シテモ之ヲ行フコトヲ得但シ其ノ拂渡前ニ差押ヲ爲スヘシ
第七十條 土地ノ使用及收用ニ關スル規定ハ水ノ使用ニ關スル權利ニ之ヲ準用ス
第四章 鑛業警察
第七十一條 鑛業ニ關スル左ノ警察事務ハ命令ノ定ムル所ニ依リ農商務大臣及鑛山監督署長之ヲ行フ
一 建設物及工作物ノ保安
二 生命及衞生ノ保護
三 危害ノ豫防其ノ他公益ノ保護
第七十二條 鑛業上危險ノ虞アリ又ハ公益ヲ害スルノ虞アリト認メタルトキハ農商務大臣ハ鑛業權者ニ其ノ豫防又ハ鑛業ノ停止ヲ命スヘシ
急迫ノ危險ヲ防ク爲必要アルトキハ鑛山監督署長ハ前項ノ處分ヲ爲スコトヲ得
第七十三條 農商務大臣ハ採掘權者ニ技術ニ關スル管理者ノ選任又ハ改任ヲ命スルコトヲ得
管理者ノ資格及職務ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十四條 鑛業權消滅シタル後ト雖一箇年間ハ農商務大臣及鑛山監督署長ハ第七十二條ノ規定ニ準シ其ノ鑛業權ヲ有セシ者ニ對シテ危害豫防ニ關スル設備ヲ爲スヘキコトヲ命スルコトヲ得
前項ノ命令ヲ受ケタル者ハ危害豫防ノ目的ノ範圍內ニ於テ鑛業權者ト看做ス
第五章 鑛夫
第七十五條 採掘權者ハ鑛夫ノ雇傭及勞役ニ關スル規則ヲ定メ鑛山監督署長ノ許可ヲ受クヘシ
第七十六條 鑛業權者ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ鑛夫名簿ヲ鑛業事務所ニ備置クヘシ
第七十七條 鑛業權者鑛夫ヲ解雇シタル場合ニ於テハ其ノ請求ニ因リ雇傭ノ期間、業務ノ種類、技能、賃金及解雇ノ事由ヲ記載シタル證明書ヲ與フヘシ
第七十八條 鑛業權者ハ每月一囘以上期日ヲ定メ通貨ヲ以テ鑛夫ニ其ノ賃金ヲ支拂フヘシ
第七十九條 農商務大臣ハ命令ヲ以テ鑛夫ノ年齡及就業時間竝婦女、幼者ノ勞役ノ種類ヲ制限スルコトヲ得
第八十條 鑛夫自己ノ重大ナル過失ニ因ラスシテ業務上負傷シ疾病ニ罹リ又ハ死亡シタルトキハ鑛業權者ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ鑛夫又ハ其ノ遺族ヲ扶助スヘシ
第六章 鑛業稅
第八十一條 鑛業權者ニハ鑛業稅ヲ課ス
金鑛、銀鑛、鉛鑛及鐵鑛ニ付テハ鑛產稅ヲ課セス
第八十二條 鑛業權者ニハ其ノ鑛業ニ付營業稅ヲ課セス
第八十三條 鑛區稅ハ鑛區一千坪每ニ每年試掘ニ付テハ十錢、採掘ニ付テハ四十錢トス但シ一千坪未滿ハ之ヲ一千坪ト看做ス
第八十四條 鑛區稅ハ每年十二月中ニ翌年分ヲ前納スヘシ
第三十五條第一項ニ依ルモノヲ除クノ外鑛業權ノ設定若ハ變更ノ登錄ニ依リ新ニ負擔シ又ハ不足セル鑛區稅ニシテ其ノ登錄ノ年ニ係ルモノハ之ヲ卽納スヘシ
前項ニ依リ納付スヘキ鑛區稅ハ月割ヲ以テ之ヲ計算ス鑛業權ノ存續期間滿了ノ年ニ係ルモノ亦同シ
第八十五條 鑛產稅ハ鑛產物ノ價格ノ百分ノ一トス
鑛產物ノ價格ハ主要ナル市場ノ平均相場ヲ標準トシ農商務大臣之ヲ吿示ス其ノ吿示セサルモノハ之ヲ檢定ス
第八十六條 鑛產稅ハ每年三月中ニ前年分ヲ納付スヘシ但シ鑛業權消滅ノ場合ニ於テハ卽納スヘシ
第八十七條 共同鑛業權者ノ納稅義務ハ連帶トス
第八十八條 北海道、府縣及市町村ハ鑛業稅ニ對シ各本稅百分ノ十以內ノ附加稅ヲ課スルコトヲ得
前項ノ附加稅ノ外北海道、府縣及市町村ハ鑛業ニ對シ又ハ鑛夫、鑛產物、鑛區若ハ直接鑛業用ノ工作物、器具、機械ヲ標準トシテ課稅スルコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ北海道及沖繩縣ノ區竝間切島其ノ他町村ニ準スヘキモノニ之ヲ準用ス
第七章 訴願、訴訟及裁決
第八十九條 鑛業ニ關スル出願ノ許可又ハ拒否ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ權利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第九十條 第十一條又ハ第三十六條ノ承諾ヲ拒マレタル者及其ノ承諾ヲ得ルコト能ハサル者ハ鑛山監督署長ノ裁決ヲ申請スルコトヲ得
前項ノ裁決ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ權利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第九十一條 鑛業權ノ取消ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ權利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第九十二條 土地ノ使用若ハ收用、補償金又ハ擔保ニ付協議調ハサルトキ又ハ協議ヲ爲スコト能ハサルトキハ鑛業權者ハ鑛山監督署長ノ裁決ヲ申請スルコトヲ得
前項ノ裁決中土地ノ使用又ハ收用ニ付不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ權利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第一項ノ裁決中補償金又ハ擔保ニ付不服アル者ハ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第九十三條 處分又ハ裁決ノ通吿書ヲ受ケタル日ヨリ三十日ヲ經過シタルトキハ訴願又ハ訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
前項ノ期間ハ處分又ハ裁決ノ通吿書ヲ受ケサル者ニ付テハ其ノ公示ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第八章 罰則
第九十四條 鑛業權ヲ有セスシテ鑛物ヲ掘採シタル者又ハ詐僞ノ所爲ヲ以テ鑛業權ヲ得タル者ハ二年以下ノ重禁錮又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
過失ニ因リ鑛區外ニ侵掘シタル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十五條 前條ノ場合ニ於テハ其ノ掘採シタル鑛物ヲ沒收ス旣ニ之ヲ讓渡シ又ハ消費シタルトキハ其ノ代金ヲ追徵ス
第九十六條 第十條第三項若ハ第十一條ノ規定ニ違背シタル者又ハ第七十二條若ハ第七十四條第一項ノ命令ニ從ハサル者ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十七條 第四十四條若ハ第四十五條第二項ノ規定ニ違背シタル者、第四十五條第一項若ハ第七十三條第一項ノ命令ニ從ハサル者又ハ第七十九條若ハ第八十條ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ違背シタル者ハ百五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十八條 第四十六條乃至第四十八條、第七十六條又ハ第七十八條ノ規定ニ違背シタル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十九條 第五十三條第一項ノ許可ヲ受ケスシテ障碍物ヲ除却シタル者又ハ第七十五條ノ規定ニ違背シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
當該官吏ニ對シテ鑛業ニ關スル書類若ハ物件ノ檢査ヲ拒ミ又ハ之ヲ妨ケタル者ハ罰前項ニ同シ但シ其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル
第百條 第七十七條ノ規定ニ違背シタル者ハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第百一條 詐僞其ノ他不正ノ所爲ヲ以テ鑛業稅ヲ免レ又ハ免レムトシタル者ハ其ノ脫稅金額三倍ニ相當スル罰金ニ處ス
第百二條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ違背シタル者ニハ刑法ノ減輕、再犯加重及數罪俱發ノ例ヲ用井ス
第百三條 鑛業權者カ未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ依リ鑛業權者ニ適用スヘキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス但シ鑛業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第百四條 鑛業權者ハ其ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ニシテ其ノ業務ニ關シ本法ヲ犯シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ本法ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ス
本法ニ基キテ發スル命令中別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外其ノ命令ニ規定セル罰則ニ付テモ亦同シ
第百五條 前二條ノ場合ニ於テハ禁錮又ハ拘留ノ刑ニ處スルコトヲ得ス
第百六條 明治三十三年法律第五十二號ノ規定ハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依ル犯罪ニ之ヲ準用ス
附 則
第百七條 本法ハ明治三十八年七月一日ヨリ之ヲ施行ス
鑛業條例ハ之ヲ廢止ス
第百八條 鑛業條例ニ依ル試掘ノ認可ハ試掘權ノ登錄ト看做ス
第百九條 日本坑法ニ依ル借區ノ許可及鑛業條例ニ依ル採掘ノ特許ハ採掘權ノ登錄ト看做ス但シ鑛業條例第四十一條第二項ニ定メタル面積ニ滿タサル鑛區ニ對スルモノハ其ノ期限ノ到來ニ因リテ消滅ス
第百十條 本法施行前ニ於ケル官廳所屬ノ採掘區域ハ採掘鑛區トシ本法施行ノ日ニ於テ採掘權ノ登錄ヲ得タルモノト看做ス
第百十一條 鑛業條例ニ依ル採掘權ノ書入ノ登錄ハ抵當權ノ登錄ト看做ス
第百十二條 第七十四條ノ規定ハ本法施行前ニ試掘認可又ハ採掘特許ノ消滅シタル場合ニモ之ヲ適用ス但シ一箇年ノ期間ハ其ノ消滅ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第百十三條 日本坑法ニ依リ借區ノ許可ヲ得タル者及鑛業條例ニ依リ試掘ノ許可又ハ採掘ノ特許ヲ得タル者ハ本法施行ノ日ヨリ六十日以內ニ明治三十八年分ノ鑛區稅又ハ其ノ不足額ヲ納付スヘシ其ノ鑛區稅ハ月割ヲ以テ計算ス
第百十四條 明治三十八年分ノ鑛產稅ハ本法施行前ニ得タル鑛產物ニ付テモ之ヲ課ス
第百十五條 第八十八條ノ規定ハ明治三十八年度分ノ稅ニ限リ之ヲ適用セス
第百十六條 鑛業條例ニ依リテ爲シタル處分、手續其ノ他ノ行爲ハ本法中之ニ相當スル規定アル場合ニ於テハ本法ニ依リテ之ヲ爲シタルモノト看做ス
第百十七條 本法施行前ニ爲シタル處分ニ對スル訴願、裁定請求、行政訴訟又ハ民事訴訟ニ關シテハ鑛業條例ノ規定ニ依ル
第百十八條 鑛業條例ニ依リ試掘又ハ採掘ヲ出願シタル鑛區ノ面積ニ付テハ鑛業條例第四十一條第二項ノ規定ヲ適用ス
第百十九條 明治三十七年十二月三十一日以前ヨリ引續キ重石鑛又ハ水鉛鑛ヲ掘採スル者ニシテ明治三十八年七月三十一日迄ニ其ノ鑛物採掘ノ特許ヲ出願スルトキハ其ノ掘採區域ニ限リ第三十一條、第三十三條及鑛區ノ面積ニ關スル第九條ノ規定ニ拘ラス特許ヲ與フヘシ
前項ノ掘採者ニシテ明治三十八年七月三十一日迄ニ其ノ特許ヲ出願シタル者ハ其ノ指令ノ日迄本法ノ規定ニ拘ラス其ノ掘採ヲ繼續スルコトヲ得
第一項ノ規定ニ依リ特許ヲ得タル區域ノ面積五千坪未滿ナル場合ニ於テハ其ノ特許ハ五箇年ヲ經過シタルトキ消滅ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル鉱業法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十八年三月七日
内閣総理大臣 伯爵 桂太郎
農商務大臣 男爵 清浦奎吾
大蔵大臣 男爵 曽祢荒助
法律第四十五号
鉱業法
第一章 総則
第一条 本法ニ於テ鉱業ト称スルハ鉱物ノ試掘、採掘及之ニ附属スル事業ヲ謂フ
第二条 本法ニ於テ鉱物ト称スルハ金鉱、銀鉱、銅鉱、鉛鉱、蒼鉛鉱、錫鉱、安質母尼鉱、水銀鉱、亜鉛鉱、鉄鉱、硫化鉄鉱、格魯謨鉄鉱、満俺鉱、重石鉱、水鉛鉱、砒鉱、燐鉱、黒鉛、石炭、亜炭、石油、土瀝青及硫黄ヲ謂フ但シ砂鉱ハ此ノ限ニ在ラス
第三条 未タ掘採セサル鉱物(廃鉱及鉱滓ヲ含ム)ハ国ノ所有トス
第四条 本法ニ於テ鉱業権ト称スルハ試掘権及採掘権ヲ謂フ
鉱業権者ハ鉱区ニ於テ其ノ許可ヲ受ケタル鉱物ヲ掘採シ及之ヲ取得スル権利ヲ有ス但シ鉱区ノ重複シタル場合ニ於テハ鉱業権者ハ互ニ其ノ権利ヲ制限セラル
第五条 帝国臣民又ハ帝国法律ニ従ヒ成立シタル法人ニ非サレハ鉱業権者トナルコトヲ得ス
第六条 本法ニ規定シタル鉱業権者ノ権利義務ハ鉱業権ト共ニ移転ス
本法ノ規定ニ依リ為シタル手続其ノ他ノ行為ハ鉱業ヲ出願セムトスル者、鉱業出願人、鉱業権者、土地所有者又ハ関係人ノ承継人ニ対シテモ其ノ効力ヲ有ス
第七条 二人以上共同シテ鉱業ヲ為シ又ハ之ヲ為サムトスルトキハ内一人ヲ選定シテ代表者ト為シ鉱山監督署長ニ届出ヘシ其ノ届出ナキトキハ鉱山監督署長之ヲ指定ス
代表者ハ国ニ対シ共同鉱業出願人又ハ共同鉱業権者ヲ代表ス
共同鉱業出願人又ハ共同鉱業権者ハ組合契約ヲ為シタル者ト看做ス
第八条 本法ニ於テ鉱夫ト称スルハ鉱業ニ従事スル労役者ヲ謂フ
第九条 本法ニ於テ鉱区ト称スルハ鉱業権ノ登録ヲ得タル土地ノ区域ヲ謂フ
鉱区ノ境界ハ直線ヲ以テ之ヲ定メ地表境界線ノ直下ヲ限トス其ノ面積ハ石炭ニ在リテハ五万坪以上其ノ他ノ鉱物ニ在リテハ五千坪以上トシ共ニ百万坪ヲ超ユルコトヲ得ス但シ鉱利保護上又ハ鉱区分合上已ヲ得サル場合ニハ百万坪ヲ超ユルコトヲ得
同一ノ鉱区ニ於テハ二以上ノ鉱業権ヲ設定スルコトヲ得ス但シ其ノ目的異種ノ鉱物ナルトキ及第三十六条ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十条 宮城、離宮、神宮及皇陵ノ周囲三百間以内並要塞地帯第一区内ノ場所ハ之ヲ鉱区ト為スコトヲ得ス
陸海軍所轄ノ軍港、要港、火薬製造所、火薬庫及弾薬庫ノ周囲三百間以内並要塞地帯第二区及第三区内ノ場所ハ所轄官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ鉱区ト為スコトヲ得ス
前二項ニ掲ケタル場所ハ所轄官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ鉱業ノ為之ヲ使用スルコトヲ得ス
第十一条 鉄道、軌道、道路、運河、河湖、沼池、隄塘、社寺境内地、墓地、公園地其ノ他ノ営造物及建物ノ地表地下トモ其ノ周囲三十間以内ノ場所ニ於テハ所轄官庁ノ許可、所有者及関係人ノ承諾ヲ受クルニ非サレハ鉱業ヲ為シ又ハ鉱業ノ為之ヲ使用スルコトヲ得ス但シ所有者及関係人ハ正当ノ理由ナクシテ其ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第十二条 鉱業出願地又ハ鉱区ノ訂正、増減及改正ノ出願ニ付テハ鉱業ノ出願ニ関スル規定ヲ準用ス
第十三条 本法ニ於テ鉱業税ト称スルハ鉱区税及鉱産税ヲ謂フ
第十四条 本法ハ第八章ノ規定ヲ除クノ外国ノ鉱業ニ之ヲ適用ス
第二章 鉱業権
第十五条 鉱業権ハ物権トシ不動産ニ関スル規定ヲ準用ス但シ民法第百七十九条第一項ノ規定ハ此ノ限ニ在ラス
第十六条 鉱業権ハ不可分トス
第十七条 鉱業権ハ相続、譲渡、滞納処分及強制執行ノ目的タルノ外権利ノ目的タルコトヲ得ス但シ採掘権ハ抵当権ノ目的ト為スコトヲ得
第十八条 試掘権ノ存続期間ハ登録ノ日ヨリ二箇年トス
前項ノ期間ハ鉱区ノ増減又ハ改正ノ為変更セラルルコトナシ
第十九条 鉱業権及抵当権ノ設定、変更、移転、消滅並処分ノ制限ハ鉱業原簿ニ登録ス共同鉱業権者ノ脱退ニ付テモ亦同シ但シ鉱業権ノ処分ヲ制限セラレタルトキハ廃業ノ登録ヲ為スコトヲ得ス
前項ノ登録ハ登記ニ代ルモノトス
登録ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十条 前条第一項ニ掲ケタル事項ハ相続、期限ノ到来ニ因ル鉱業権ノ消滅並第四十二条及第四十三条ノ競売ノ場合ヲ除クノ外登録ヲ為スニ非サレハ其ノ効力ヲ生セス
第二十一条 鉱業ヲ為サムトスル者ハ願書ニ鉱区図ヲ添ヘ試掘ニ付テハ鉱山監督署長、採掘ニ付テハ農商務大臣ニ出願スヘシ
第二十二条 鉱業出願人ハ名義ノ変更ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ試掘ニ付テハ鉱山監督署長、採掘ニ付テハ農商務大臣ニ届出ヲ為スニ非サレハ其ノ効力ヲ生セス
第二十三条 採掘出願人ハ出願地ニ其ノ採掘セムトスル鉱物ノ存在スルコトヲ証明スヘシ
第二十四条 農商務大臣ニ於テ試掘出願地採掘ニ適スルモノト認メタルトキハ採掘ノ出願ヲ命スヘシ
前項ノ場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ採掘ノ出願ヲ為ササルトキハ試掘ノ出願ハ之ヲ許可セス
前二項ノ規定ハ農商務大臣ニ於テ採掘出願地仍試掘ヲ要スルモノト認メタル場合ニ之ヲ準用ス
第二十五条 採掘出願地ノ位置形状鉱床ノ位置形状ト相違シ鉱利ヲ損スルモノト認メタルトキハ農商務大臣ハ其ノ訂正ノ出願ヲ命スヘシ
前項ノ場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ訂正ノ出願ヲ為ササルトキハ採掘ノ出願ハ之ヲ許可セス
第二十六条 採掘出願地ノ位置形状鉱床ノ位置形状ト相違シ鉱利ヲ損スルモノト認メタルトキハ採掘出願人ハ其ノ訂正ヲ出願スルコトヲ得
第二十七条 鉱業出願人ハ出願地ノ増減ヲ出願スルコトヲ得
第二十八条 試掘出願地出願ノ当時鉱区ト重複スル場合ニ於テ同種ノ鉱物ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ其ノ出願ヲ許可セス
第二十九条 採掘出願地出願ノ当時他人ノ鉱区ト重複スル場合ニ於テ同種ノ鉱物ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ其ノ出願ヲ許可セス但シ第三十六条ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三十条 採掘出願地他人ノ試掘出願地ト重複スル場合ニ於テ同種ノ鉱物ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ第二十四条第一項及第二項ノ規定ヲ準用ス
第三十一条 鉱業出願地他人ノ鉱区ト重複スル場合ニ於テ異種ノ鉱物ナルトキハ鉱山監督署長ハ之ヲ鉱業権者ニ通知スヘシ
鉱業権者ハ前項ノ通知書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ自ラ其ノ鉱業ヲ出願スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ第三十六条及予メ鉱業権者ノ承諾ヲ得タル場合ニハ之ヲ適用セス
第一項ノ出願他人ノ鉱業ニ妨害アリト認メタルトキハ之ヲ許可セス
第三十二条 公益ヲ害スルモノト認メタルトキ又ハ鉱業ノ価値ナシト認メタルトキハ鉱業ノ出願ヲ許可セス
第三十三条 試掘出願地又ハ採掘出願地重複スルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ願書発送ノ日時ノ先ナル者優先権ヲ有ス願書発送ノ日時同一ナルトキハ鉱山監督署長ハ之ヲ各出願人ニ通知スヘシ此ノ場合ニ於テハ出願人ハ其ノ通知書発送ノ日ヨリ六十日以内ニ協議ヲ調ヘ之ヲ届出ヘシ
出願人前項ノ届出ヲ為ササルトキハ抽籤ニ依リ優先権者ヲ定ム
前二項ノ規定ハ第二十五条、第二十六条、第三十一条第二項及第三十六条ノ場合ニハ之ヲ適用セス
試掘出願地採掘出願地ト重複スル場合ニ於テ願書発送ノ日時同一ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ採掘出願人ハ優先権ヲ有ス
第三十四条 試掘出願人同種ノ鉱物ニ付更ニ採掘ノ出願ヲ為シタル場合ニ於テ出願地重複スルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ採掘ノ出願ハ試掘願書発送ノ日時ニ於テ試掘ノ出願ニ代リタルモノト看做ス但シ前条第四項ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
前項本文ノ規定ハ採掘出願人同種ノ鉱物ニ付更ニ試掘ノ出願ヲ為シタル場合ニ之ヲ準用ス
前二項ノ規定ハ第二十四条及第二十五条ノ場合ニ於ケル期限経過後ノ出願ニ之ヲ適用セス
第三十五条 採掘権者ハ鉱区ノ合併又ハ分割ヲ農商務大臣ニ出願スルコトヲ得鉱区ノ一部ヲ分割シテ之ヲ他ノ鉱区ニ合併セムトスルトキ亦同シ
抵当権ノ設定アル場合ニ於テ前項ノ出願ヲ為サムトスルトキハ抵当権者ノ承諾及抵当権ノ順位ニ関スル協定ヲ経ヘシ
第三十六条 鉱床ノ位置形状ニ依リ隣接スル他人ノ鉱区ニ掘進スルノ必要アルトキハ隣接鉱業権者ノ承諾ヲ経テ鉱区ノ訂正ヲ出願スルコトヲ得但シ隣接鉱業権者ハ正当ノ理由ナクシテ其ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第三十七条 第二十五条第一項、第二十六条、第二十七条及第三十三条第三項ノ規定ハ之ヲ鉱区ニ準用ス
第二十五条第一項ニ該当スル場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ出願ヲ為ササルトキハ農商務大臣ハ採掘権ヲ取消スヘシ
抵当権ノ設定アル場合ニ於テ鉱区ノ減少ヲ出願セムトスルトキハ予メ抵当権者ノ承諾ヲ経ヘシ
第三十八条 錯誤ニ因リ鉱業ノ出願ヲ許可シタルトキハ農商務大臣ハ鉱区ノ改正ヲ命シ又ハ鉱業権ヲ取消スヘシ
前項ノ改正ヲ命シタル場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ出願ヲ為ササルトキハ農商務大臣ハ鉱業権ヲ取消スヘシ
第三十九条 鉱業公益ヲ害スルモノト認メタルトキハ農商務大臣ハ鉱業権ヲ取消スヘシ
第四十条 鉱業権者正当ノ理由ナクシテ登録ノ日ヨリ一箇年以内ニ事業ニ著手セス若ハ一箇年以上休業シタルトキ又ハ施業案ニ依ラスシテ採掘ヲ為シタルトキハ農商務大臣ハ鉱業権ヲ取消スコトヲ得
第四十一条 鉱業権者第七十二条ノ命令ニ従ハサルトキ又ハ鉱業税ヲ納メサルトキハ農商務大臣ハ鉱業権ヲ取消スコトヲ得
第四十二条 採掘権取消ノ登録アリタルトキハ鉱山監督署長ハ直ニ之ヲ抵当権者ニ通知スヘシ
抵当権者ハ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ採掘権ノ競売ヲ請求スルコトヲ得但シ第三十八条第一項及第三十九条ノ規定ニ依ル採掘権取消ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
採掘権ハ前項ノ期間内又ハ競売ノ手続完結ノ日迄競売ノ目的ノ範囲内ニ於テ仍存続スルモノト看做ス
競売ニ依ル売得金ハ競売ノ費用及抵当権者ニ対スル債務ノ弁済ニ充テ其ノ残金ハ国庫ニ帰属ス
競買人ハ採掘権取消ノ登録アリタル時ニ於テ採掘権ヲ譲受ケタルモノト看做ス
第四十三条 前条ノ規定ハ採掘権者廃業シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四十四条 採掘権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ施業案ヲ鉱山監督署長ニ差出スヘシ其ノ之ヲ変更シタルトキ亦同シ
採掘権者ハ施業案ニ依ルニ非サレハ採掘ヲ為スコトヲ得ス
第四十五条 鉱山監督署長ハ理由ヲ示シテ施業案ノ変更ヲ命スルコトヲ得
前項ニ依リ変更シタル施業案ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ変更スルコトヲ得ス
第四十六条 採掘権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ坑内実測図及鉱業簿ヲ鉱業事務所ニ備置キ且其ノ複本ヲ鉱山監督署長ニ差出スヘシ
第四十七条 鉱業権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ鉱業ニ関スル明細表ヲ鉱山監督署長ニ差出スヘシ
第四十八条 試掘ニ依リテ得タル鉱産物ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ処分スルコトヲ得ス
第四十九条 隣接鉱業権者其ノ他ノ利害関係人ハ他人ノ鉱区ニ付鉱山監督署長ニ其ノ実地調査ヲ出願スルコトヲ得
出願人ハ前項ノ調査ニ要スル人夫及物品ヲ供スヘシ
第三章 土地使用
第五十条 本章ニ於テ関係人ト称スルハ第五十二条乃至第五十四条及第五十六条ノ通知前使用又ハ収用スヘキ土地ニ関シテ権利ヲ有スル者及其ノ通知後ニ於テ通知前ヨリ既存セル権利ヲ承継シタル者ヲ謂フ
第五十一条 本章ニ於テ補償金ト称スルハ対価、使用料其ノ他土地所有者及関係人ノ通常受クヘキ損失ニ対スル補償金ヲ総称ス
第五十二条 鉱業ノ出願又ハ鉱業ノ為必要アルトキハ鉱業ヲ出願セムトスル者、鉱業出願人又ハ鉱業権者ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ニ立入リ測量又ハ検査ヲ為スコトヲ得
前項ノ許可ヲ得タル者他人ノ土地ニ立入ラムトスルトキハ予メ土地占有者ニ通知スヘシ
第五十三条 前条ノ規定ニ依ル測量又ハ検査ノ為必要アルトキハ鉱山監督署長ノ許可ヲ得テ障碍物ヲ除却スルコトヲ得
前項ノ許可ヲ得タル者障碍物ヲ除却セムトスルトキハ予メ其ノ所有者及占有者ニ通知スヘシ
第五十四条 鉱業上急迫ノ危険ヲ防ク為必要アルトキハ鉱業権者ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ得テ直ニ他人ノ土地ニ立入リ又ハ之ヲ使用スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ鉱業権者ハ遅滞ナク之ヲ土地占有者ニ通知スヘシ
第五十五条 前三条ニ依リ所有者及関係人ノ受ケタル損失ニ対シテハ其ノ請求ニ因リ補償金ヲ払渡スヘシ
第五十六条 鉱業権者ハ左ニ掲クル目的ノ為必要アルトキハ他人ノ土地ヲ使用スルコトヲ得
一 錐鑚孔又ハ坑口ノ開穿
二 鉱物、土石、爆発薬、用材、薪炭、鉱滓又ハ灰燼ノ置場ノ設置
三 選鉱場又ハ製錬場ノ建設
四 鉄道、軌道、道路、運河、溝渠、管樋、池井、索道又ハ電線ノ開設
五 其ノ他鉱業上必要ナル工事又ハ工作物ノ施設
前項ノ規定ニ依リ鉱業権者他人ノ土地ヲ使用セムトスルトキハ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クヘシ
鉱山監督署長前項ノ許可ヲ与ヘタルトキハ之ヲ土地所有者及関係人ニ通知スヘシ
前項ノ通知ノ後鉱業権者ハ其ノ土地ニ関スル権利ヲ取得スル為土地所有者及関係人ニ協議ヲ為スヘシ
第五十七条 土地ノ使用三箇年以上ニ亘ルトキ又ハ土地ノ形質ヲ変更スルトキハ所有者ハ其ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
第五十八条 土地ノ一部ヲ収用スルニ因リテ残地ヲ従来用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ土地所有者ハ其ノ全部ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
第五十九条 土地ヲ使用又ハ収用スルトキハ土地所有者及関係人ニ補償金ヲ払渡スヘシ
第六十条 土地ノ一部ヲ使用又ハ収用スルニ因リテ残地ノ価格ヲ減シ其ノ他残地ニ関シ損失ヲ生スヘキトキハ其ノ補償金ヲ払渡スヘシ
第六十一条 土地ヲ使用又ハ収用スルニ因リテ通路、溝渠、墻柵其ノ他ノ工作物ノ新築、改築、増築又ハ修繕ヲ為スノ必要ヲ生スルトキハ其ノ補償金ヲ払渡スヘシ
第六十二条 第五十六条ノ通知ノ後土地ノ形質ヲ変更シ工作物ノ新築、改築、増築若ハ大修繕ヲ為シ又ハ物件ヲ附加増置セムトスルトキハ土地所有者又ハ関係人ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クヘシ許可ヲ受ケスシテ之ヲ為シタル者ハ之ニ関スル補償金ヲ請求スルコトヲ得ス
第六十三条 第五十六条ノ通知ノ後事業ヲ廃止又ハ変更シタルニ因リテ土地所有者又ハ関係人ノ受ケタル損失ニ対シ鉱業権者ハ其ノ補償金ヲ払渡スヘシ
第六十四条 土地所有者及関係人ハ鉱業権者ヲシテ補償金ニ付相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得
第六十五条 土地ノ使用又ハ収用ノ協議調ヒ裁決確定シ又ハ判決アリタルトキハ補償金又ハ担保ノ裁決確定セサルトキト雖鉱業権者ハ其ノ裁決ニ依ル補償金ヲ供託シ又ハ担保ヲ供シテ土地ヲ使用又ハ収用スルコトヲ得
第六十六条 鉱業権者補償金ノ払渡若ハ供託ヲ為サス又ハ担保ヲ供セサルトキハ土地所有者及関係人ハ土地ヲ用ウルコトヲ拒ムコトヲ得
第六十七条 土地ヲ収用スルトキハ収用ノ時期ニ於テ所有権ハ鉱業権者之ヲ取得シ其ノ他ノ権利ハ消滅ス
土地ヲ使用スルトキハ其ノ権利ハ使用ノ時期ニ於テ鉱業権者之ヲ取得シ其ノ他ノ権利ハ使用ノ期間其ノ行使ヲ停止セラル但シ使用ヲ妨ケサルモノハ此ノ限ニ在ラス
第六十八条 土地ノ使用ヲ終リタルトキハ鉱業権者ハ土地ヲ原状ニ復シ又ハ原状ニ復セサルニ因リテ生スル損失ニ対シ補償金ヲ払渡シテ之ヲ返還スヘシ
第六十九条 先取特権、質権又ハ抵当権ハ其ノ目的物ノ使用又ハ収用ニ因リテ債務者ノ受クヘキ補償金ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得但シ其ノ払渡前ニ差押ヲ為スヘシ
第七十条 土地ノ使用及収用ニ関スル規定ハ水ノ使用ニ関スル権利ニ之ヲ準用ス
第四章 鉱業警察
第七十一条 鉱業ニ関スル左ノ警察事務ハ命令ノ定ムル所ニ依リ農商務大臣及鉱山監督署長之ヲ行フ
一 建設物及工作物ノ保安
二 生命及衛生ノ保護
三 危害ノ予防其ノ他公益ノ保護
第七十二条 鉱業上危険ノ虞アリ又ハ公益ヲ害スルノ虞アリト認メタルトキハ農商務大臣ハ鉱業権者ニ其ノ予防又ハ鉱業ノ停止ヲ命スヘシ
急迫ノ危険ヲ防ク為必要アルトキハ鉱山監督署長ハ前項ノ処分ヲ為スコトヲ得
第七十三条 農商務大臣ハ採掘権者ニ技術ニ関スル管理者ノ選任又ハ改任ヲ命スルコトヲ得
管理者ノ資格及職務ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十四条 鉱業権消滅シタル後ト雖一箇年間ハ農商務大臣及鉱山監督署長ハ第七十二条ノ規定ニ準シ其ノ鉱業権ヲ有セシ者ニ対シテ危害予防ニ関スル設備ヲ為スヘキコトヲ命スルコトヲ得
前項ノ命令ヲ受ケタル者ハ危害予防ノ目的ノ範囲内ニ於テ鉱業権者ト看做ス
第五章 鉱夫
第七十五条 採掘権者ハ鉱夫ノ雇傭及労役ニ関スル規則ヲ定メ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クヘシ
第七十六条 鉱業権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ鉱夫名簿ヲ鉱業事務所ニ備置クヘシ
第七十七条 鉱業権者鉱夫ヲ解雇シタル場合ニ於テハ其ノ請求ニ因リ雇傭ノ期間、業務ノ種類、技能、賃金及解雇ノ事由ヲ記載シタル証明書ヲ与フヘシ
第七十八条 鉱業権者ハ毎月一回以上期日ヲ定メ通貨ヲ以テ鉱夫ニ其ノ賃金ヲ支払フヘシ
第七十九条 農商務大臣ハ命令ヲ以テ鉱夫ノ年齢及就業時間並婦女、幼者ノ労役ノ種類ヲ制限スルコトヲ得
第八十条 鉱夫自己ノ重大ナル過失ニ因ラスシテ業務上負傷シ疾病ニ罹リ又ハ死亡シタルトキハ鉱業権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ鉱夫又ハ其ノ遺族ヲ扶助スヘシ
第六章 鉱業税
第八十一条 鉱業権者ニハ鉱業税ヲ課ス
金鉱、銀鉱、鉛鉱及鉄鉱ニ付テハ鉱産税ヲ課セス
第八十二条 鉱業権者ニハ其ノ鉱業ニ付営業税ヲ課セス
第八十三条 鉱区税ハ鉱区一千坪毎ニ毎年試掘ニ付テハ十銭、採掘ニ付テハ四十銭トス但シ一千坪未満ハ之ヲ一千坪ト看做ス
第八十四条 鉱区税ハ毎年十二月中ニ翌年分ヲ前納スヘシ
第三十五条第一項ニ依ルモノヲ除クノ外鉱業権ノ設定若ハ変更ノ登録ニ依リ新ニ負担シ又ハ不足セル鉱区税ニシテ其ノ登録ノ年ニ係ルモノハ之ヲ即納スヘシ
前項ニ依リ納付スヘキ鉱区税ハ月割ヲ以テ之ヲ計算ス鉱業権ノ存続期間満了ノ年ニ係ルモノ亦同シ
第八十五条 鉱産税ハ鉱産物ノ価格ノ百分ノ一トス
鉱産物ノ価格ハ主要ナル市場ノ平均相場ヲ標準トシ農商務大臣之ヲ告示ス其ノ告示セサルモノハ之ヲ検定ス
第八十六条 鉱産税ハ毎年三月中ニ前年分ヲ納付スヘシ但シ鉱業権消滅ノ場合ニ於テハ即納スヘシ
第八十七条 共同鉱業権者ノ納税義務ハ連帯トス
第八十八条 北海道、府県及市町村ハ鉱業税ニ対シ各本税百分ノ十以内ノ附加税ヲ課スルコトヲ得
前項ノ附加税ノ外北海道、府県及市町村ハ鉱業ニ対シ又ハ鉱夫、鉱産物、鉱区若ハ直接鉱業用ノ工作物、器具、機械ヲ標準トシテ課税スルコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ北海道及沖縄県ノ区並間切島其ノ他町村ニ準スヘキモノニ之ヲ準用ス
第七章 訴願、訴訟及裁決
第八十九条 鉱業ニ関スル出願ノ許可又ハ拒否ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第九十条 第十一条又ハ第三十六条ノ承諾ヲ拒マレタル者及其ノ承諾ヲ得ルコト能ハサル者ハ鉱山監督署長ノ裁決ヲ申請スルコトヲ得
前項ノ裁決ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第九十一条 鉱業権ノ取消ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第九十二条 土地ノ使用若ハ収用、補償金又ハ担保ニ付協議調ハサルトキ又ハ協議ヲ為スコト能ハサルトキハ鉱業権者ハ鉱山監督署長ノ裁決ヲ申請スルコトヲ得
前項ノ裁決中土地ノ使用又ハ収用ニ付不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第一項ノ裁決中補償金又ハ担保ニ付不服アル者ハ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第九十三条 処分又ハ裁決ノ通告書ヲ受ケタル日ヨリ三十日ヲ経過シタルトキハ訴願又ハ訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
前項ノ期間ハ処分又ハ裁決ノ通告書ヲ受ケサル者ニ付テハ其ノ公示ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第八章 罰則
第九十四条 鉱業権ヲ有セスシテ鉱物ヲ掘採シタル者又ハ詐偽ノ所為ヲ以テ鉱業権ヲ得タル者ハ二年以下ノ重禁錮又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
過失ニ因リ鉱区外ニ侵掘シタル者ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第九十五条 前条ノ場合ニ於テハ其ノ掘採シタル鉱物ヲ没収ス既ニ之ヲ譲渡シ又ハ消費シタルトキハ其ノ代金ヲ追徴ス
第九十六条 第十条第三項若ハ第十一条ノ規定ニ違背シタル者又ハ第七十二条若ハ第七十四条第一項ノ命令ニ従ハサル者ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
第九十七条 第四十四条若ハ第四十五条第二項ノ規定ニ違背シタル者、第四十五条第一項若ハ第七十三条第一項ノ命令ニ従ハサル者又ハ第七十九条若ハ第八十条ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ違背シタル者ハ百五十円以下ノ罰金ニ処ス
第九十八条 第四十六条乃至第四十八条、第七十六条又ハ第七十八条ノ規定ニ違背シタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス
第九十九条 第五十三条第一項ノ許可ヲ受ケスシテ障碍物ヲ除却シタル者又ハ第七十五条ノ規定ニ違背シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
当該官吏ニ対シテ鉱業ニ関スル書類若ハ物件ノ検査ヲ拒ミ又ハ之ヲ妨ケタル者ハ罰前項ニ同シ但シ其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル
第百条 第七十七条ノ規定ニ違背シタル者ハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第百一条 詐偽其ノ他不正ノ所為ヲ以テ鉱業税ヲ免レ又ハ免レムトシタル者ハ其ノ脱税金額三倍ニ相当スル罰金ニ処ス
第百二条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ違背シタル者ニハ刑法ノ減軽、再犯加重及数罪俱発ノ例ヲ用井ス
第百三条 鉱業権者カ未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ依リ鉱業権者ニ適用スヘキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス但シ鉱業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第百四条 鉱業権者ハ其ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ従業者ニシテ其ノ業務ニ関シ本法ヲ犯シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ本法ノ処罰ヲ免ルルコトヲ得ス
本法ニ基キテ発スル命令中別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外其ノ命令ニ規定セル罰則ニ付テモ亦同シ
第百五条 前二条ノ場合ニ於テハ禁錮又ハ拘留ノ刑ニ処スルコトヲ得ス
第百六条 明治三十三年法律第五十二号ノ規定ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依ル犯罪ニ之ヲ準用ス
附 則
第百七条 本法ハ明治三十八年七月一日ヨリ之ヲ施行ス
鉱業条例ハ之ヲ廃止ス
第百八条 鉱業条例ニ依ル試掘ノ認可ハ試掘権ノ登録ト看做ス
第百九条 日本坑法ニ依ル借区ノ許可及鉱業条例ニ依ル採掘ノ特許ハ採掘権ノ登録ト看做ス但シ鉱業条例第四十一条第二項ニ定メタル面積ニ満タサル鉱区ニ対スルモノハ其ノ期限ノ到来ニ因リテ消滅ス
第百十条 本法施行前ニ於ケル官庁所属ノ採掘区域ハ採掘鉱区トシ本法施行ノ日ニ於テ採掘権ノ登録ヲ得タルモノト看做ス
第百十一条 鉱業条例ニ依ル採掘権ノ書入ノ登録ハ抵当権ノ登録ト看做ス
第百十二条 第七十四条ノ規定ハ本法施行前ニ試掘認可又ハ採掘特許ノ消滅シタル場合ニモ之ヲ適用ス但シ一箇年ノ期間ハ其ノ消滅ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第百十三条 日本坑法ニ依リ借区ノ許可ヲ得タル者及鉱業条例ニ依リ試掘ノ許可又ハ採掘ノ特許ヲ得タル者ハ本法施行ノ日ヨリ六十日以内ニ明治三十八年分ノ鉱区税又ハ其ノ不足額ヲ納付スヘシ其ノ鉱区税ハ月割ヲ以テ計算ス
第百十四条 明治三十八年分ノ鉱産税ハ本法施行前ニ得タル鉱産物ニ付テモ之ヲ課ス
第百十五条 第八十八条ノ規定ハ明治三十八年度分ノ税ニ限リ之ヲ適用セス
第百十六条 鉱業条例ニ依リテ為シタル処分、手続其ノ他ノ行為ハ本法中之ニ相当スル規定アル場合ニ於テハ本法ニ依リテ之ヲ為シタルモノト看做ス
第百十七条 本法施行前ニ為シタル処分ニ対スル訴願、裁定請求、行政訴訟又ハ民事訴訟ニ関シテハ鉱業条例ノ規定ニ依ル
第百十八条 鉱業条例ニ依リ試掘又ハ採掘ヲ出願シタル鉱区ノ面積ニ付テハ鉱業条例第四十一条第二項ノ規定ヲ適用ス
第百十九条 明治三十七年十二月三十一日以前ヨリ引続キ重石鉱又ハ水鉛鉱ヲ掘採スル者ニシテ明治三十八年七月三十一日迄ニ其ノ鉱物採掘ノ特許ヲ出願スルトキハ其ノ掘採区域ニ限リ第三十一条、第三十三条及鉱区ノ面積ニ関スル第九条ノ規定ニ拘ラス特許ヲ与フヘシ
前項ノ掘採者ニシテ明治三十八年七月三十一日迄ニ其ノ特許ヲ出願シタル者ハ其ノ指令ノ日迄本法ノ規定ニ拘ラス其ノ掘採ヲ継続スルコトヲ得
第一項ノ規定ニ依リ特許ヲ得タル区域ノ面積五千坪未満ナル場合ニ於テハ其ノ特許ハ五箇年ヲ経過シタルトキ消滅ス