鉱業条例
法令番号: 法律第八十七號
公布年月日: 明治23年9月26日
法令の形式: 法律
朕鑛業條例ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年九月二十五日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
農商務大臣 陸奧宗光
法律第八十七號
鑛業條例
第一章 總則
第一條 鑛業トハ鑛物ノ試掘採掘及之ニ附屬スル事業ヲ謂フ
第二條 鑛物ノ未タ採掘セサルモノハ國ノ所有トス
此ノ條例ニ於テ鑛物トハ金鑛(砂金ヲ除ク)銀鑛、銅鑛、鉛鑛、錫鑛(砂錫ヲ除ク)安質母尼鑛、水銀鑛、亞鉛鑛、鐵鑛(砂鐵ヲ除ク)硫化鐵鑛、滿奄鑛、砒鑛、黑鉛、石炭、石油及硫黃ヲ謂フ
第三條 帝國臣民ニ非サレハ鑛業人トナリ又ハ鑛業ニ關スル組合員又ハ會社ノ株主トナルコトヲ得ス
鑛業人未成年瘋癲白痴又ハ瘖瘂ナルトキハ後見人ヲ立ツヘシ
第四條 農商務省鑛山局及鑛山監督署ノ官吏ハ在職中鑛業人トナリ又ハ鑛業ニ關スル組合員又ハ會社ノ株主若ハ役員トナルコトヲ得ス
第五條 此ノ條例ニ依リ鑛業特許取消ノ處分ヲ受ケタル鑛業人ハ同鑛區ニ付一箇年間採掘ノ出願ヲ爲スコトヲ得ス
第六條 二人以上共同シテ鑛業ヲ爲ストキハ總代一名ヲ選定シ豫メ所轄鑛山監督署ニ屆出ツヘシ
總代ハ鑛業上ニ關シ政府ニ對シテ共同鑛業人ヲ代表スルモノトス
第七條 共同鑛業人ノ變更、採掘權ノ賣買、讓與、書入及廢業屆等ニハ總代ノ外少クモ共同鑛業人過半數ノ連署ヲ要ス
第二章 試掘及採掘
第八條 試掘ヲ爲サント欲スル者ハ其ノ願書ニ試掘地ノ圖面ヲ添ヘ所轄鑛山監督署長ニ差出シ其ノ認可ヲ受クヘシ
第九條 試掘ハ認可ノ日ヨリ一箇年ヲ限トス
試掘人前項ノ期限內ニ於テ其ノ事業ヲ竣ヘ難キ事實アルトキハ所轄鑛山監督署長ニ延期ヲ出願スルコトヲ得
所轄鑛山監督署長ハ其ノ事實ヲ調査シ已ムヲ得サルモノト認ムルトキハ一箇年以內ノ延期ヲ認可スルコトヲ得
第十條 試掘ニ依リ採取シタル鑛物ハ所轄鑛山監督署長ノ認可ヲ得テ之ヲ販賣スルコトヲ得
第十一條 前條ニ依リ鑛物ヲ販賣シタルトキハ三十日以內ニ其ノ販賣代價百分ノ一ヲ所轄鑛山監督署ニ納ムヘシ
前項ノ金額ヲ其ノ期限內ニ納メサル者ハ國稅滯納處分法ニ依リ處分ス
第十二條 採掘ノ特許ヲ得ント欲スル者ハ採掘願書ニ鑛區圖ヲ添ヘ農商務大臣宛ニテ所轄鑛山監督署ニ差出スヘシ
採掘願書及鑛區圖ヲ同時ニ差出シ難キトキハ願書ノミヲ差出シ置キ鑛區圖ハ願書ノ日附ヨリ五十日以內ニ之ヲ差出スコトヲ得此ノ期限內ニ差出サヽルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
第十三條 採掘ヲ出願スル者ハ出願地ニ其ノ採掘セントスル鑛物ノ存在スルコトヲ證明スヘシ
第十四條 鑛山監督署長ハ鑛物ノ存在ヲ認定スル爲ニ吏員ノ實地臨檢ヲ必要ト認ムルトキハ採掘出願人ヲシテ出張吏員ノ爲ニ制規ノ旅費日當ヲ前納セシムヘシ
採掘出願人前項旅費日當納付ノ通知ヲ受ケ通知書到達ノ日ヨリ十四日以內ニ之ヲ納メサルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
第十五條 鑛山監督署ニ於テハ試掘及採掘出願登錄簿ヲ備ヘ置キ出願日時ノ先後ニ依リ之ヲ登錄ス
第十六條 試掘又ハ採掘ノ出願同一ノ地ニ付二人以上アルトキハ出願日時ノ先後ニ依リ其ノ許否ヲ定ム
出願ノ日時同一ナルトキハ鑛山監督署長ハ其ノ旨ヲ各出願人ニ通知スヘシ各出願人ハ通知書ノ日附ヨリ六十日以內ニ協議ヲ遂ケ出願人ヲ定ムヘシ若シ協議調ハサルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
出願ノ日時同一ニシテ試掘ト採掘トニ係ルトキハ先ツ採掘ノ出願ニ付其許否ヲ定ム
第十七條 農商務大臣採掘ノ特許ヲ與フヘキモノト認メタルトキハ鑛業特許證ヲ下付スヘシ
第十八條 試掘若ハ採掘ノ事業公益ヲ害スト認ムルトキハ試掘ニ就テハ所轄鑛山監督署長、採掘ニ就テハ農商務大臣其ノ出願ヲ許可セス
第十九條 試掘若ハ採掘ノ事業公益ニ害アルトキハ試掘ニ就テハ所轄鑛山監督署長採掘ニ就テハ農商務大臣既ニ與ヘタル認可若ハ特許ヲ取消スコトヲ得
鑛業人前項取消ノ處分ニ不服アルトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得但損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得ス
第二十條 特許ヲ得タル鑛物ノ採掘權ハ賣買、讓與又ハ書入ヲ爲スコトヲ得
採掘權ヲ賣買、讓與スルトキハ雙方連署シ所轄鑛山監督署ヲ經農商務大臣ニ出願シ鑛業特許證ノ書換ヲ受クヘシ此ノ手續ニ依ラサル賣買、讓與ハ法律上其ノ効ナキモノトス
採掘權ノ書入ハ雙方連署シ所轄鑛山監督署ノ登錄ヲ受クヘシ其ノ登錄ヲ受ケサルモノハ法律上其ノ効ナキモノトス
第二十一條 他人試掘ノ年限中ハ其ノ試掘地內ニ於テ同一ノ鑛物ニ付採掘ノ出願ヲ爲スコトヲ得ス
第二十二條 他人ノ認可ヲ得タル試掘地內ニ於テ其ノ試掘人ノ未タ認可ヲ得サル鑛物ノ試掘又ハ採掘ヲ出願セント欲スル者ハ試掘人ノ承諾ヲ經ヘシ
試掘人自ラ試掘又ハ採掘ヲ出願セント欲スルカ若ハ其ノ認可ヲ得タル鑛物ノ試掘ニ妨害アルトキノ外ハ試掘人ハ前項ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第二十三條 他人所屬ノ鑛區內ニ於テ其ノ鑛業人ノ未タ試掘ノ認可又ハ採掘ノ特許ヲ得サル鑛物ニ付試掘若ハ採掘ヲ出願セント欲スル者ハ鑛業人ノ承諾ヲ經ヘシ
鑛業人自ラ試掘又ハ採掘ヲ出願セント欲スルカ若ハ其ノ試掘又ハ採掘ノ爲ニ鑛業ニ妨害アルトキノ外ハ鑛業人ハ前項ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第二十四條 宮城、離宮、神宮、皇陵、陸海軍所轄城堡、軍港、要港、火藥製造所、火藥庫及彈藥庫ノ周圍三百間以內ノ場所ハ試掘又ハ採掘若ハ鑛業上使用スルコトヲ得ス但軍港、要港ハ其ノ鎭守府司令長官ノ許可ヲ得タル場合ニ於テハ此ノ限ニアラス
第二十五條 鐵道、馬車鐵道、公道、河湖、堤防、沼池、社寺、墓地、公園地及建物ヨリ地表地下トモ其周圍三十間以內ノ場所ニ於テハ所轄官廳若ハ所有者ノ承諾ヲ經ルニアラサレハ試掘又ハ採掘ヲ爲スコトヲ得ス但危險ノ虞ナキモノハ其ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第二十六條 鑛業人ハ每年ノ鑛業施業案ヲ調製シ其ノ前年十月三十日限其ノ初年ニ係ルモノハ採掘特許ノ日ヨリ三箇月以內ニ所轄鑛山監督署長ニ差出シ認可ヲ受クヘシ
前項ノ施業案ニシテ坑內ノ保安ニ害アリ又ハ其ノ鑛區ニ相當スル鑛業ヲ爲サヽルモノト認メタルトキハ所轄鑛山監督署長ハ其ノ理由ヲ鑛業人ニ示シ期限ヲ定メ之ヲ改正セシムヘシ
第二十七條 鑛業人ハ所轄鑛山監督署長ノ認可ヲ受ケタル鑛業施業案ニ依ルニアラサレハ採掘ヲ爲スコトヲ得ス
第二十八條 鑛業人鑛業施業案又ハ其ノ改正案ヲ期限內ニ差出サヽルトキハ農商務大臣ハ其ノ採掘ノ特許ヲ取消スコトヲ得
第二十九條 鑛業人一箇年以上休業シ又ハ採掘ノ特許ヲ得タル日ヨリ一箇年以內ニ鑛業ニ著手セサルトキハ農商務大臣ハ其ノ特許ヲ取消スコトヲ得
第三十條 前二條ノ場合ニシテ其ノ自己ノ過失ニ由ラサルモノハ特許取消ノ達ヲ受ケタル日ヨリ十四日以內ニ其ノ理由ヲ農商務大臣ニ申立テ再願ヲ爲スコトヲ得若シ農商務大臣ニ於テ之ヲ拒ムトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第三十一條 鑛業人ハ坑內實測圖二葉ヲ調製シ一葉ハ所轄鑛山監督署ニ差出シ一葉ハ鑛業事務所ニ備ヘ置クヘシ
前項坑內實測圖ハ事業ノ進步ニ從ヒ六箇月每ニ追補スヘシ
鑛業人若シ他人ノ所屬ニ係ル隣接鑛區ノ坑內實測圖ニ付證明ヲ必要ト認ムルトキハ之ヲ所轄鑛山監督署長ニ請求スルコトヲ得
所轄鑛山監督署長ニ於テ右證明ノ爲ニ吏員ノ實地臨檢ヲ必要ト認ムルトキハ鑛業人ヲシテ出張吏員ノ爲ニ制規ノ旅費日當ヲ前納セシムヘシ
第三十二條 鑛業人鑛業特許證ヲ毀損若ハ亡失シタルトキハ事由ヲ具シ所轄鑛山監督署ヲ經其ノ再下付ヲ農商務大臣ニ出願スヘシ
第三十三條 詐僞又ハ錯誤ニ由リ試掘ノ認可ヲ得タルコトヲ發見シタルトキハ所轄鑛山監督署長ハ其ノ認可ヲ取消スヘシ若シ其ノ認可ニ付利害ノ關係ヲ有スル者ニ於テ之ヲ發見シタルトキハ其ノ關係ヲ有スル者ハ認可ノ日ヨリ三箇月以內ニ試掘認可ノ取消ヲ所轄鑛山監督署長ニ訴願スルコトヲ得
前項所轄鑛山監督署長ノ判定ニ不服アル者ハ其ノ判定ノ日ヨリ三十日以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第三十四條 詐僞又ハ錯誤ニ由リ採掘ノ特許ヲ得タルコトヲ發見シタルトキハ農商務大臣ハ其ノ特許ヲ取消スヘシ若シ其ノ特許ニ付利害ノ關係ヲ有スル者ニ於テ之ヲ發見シタルトキハ其ノ關係ヲ有スル者ハ特許ノ日ヨリ三十日以內ニ採掘特許ノ取消ヲ農商務大臣ニ訴願スルコトヲ得
前項農商務大臣ノ裁定ニ不服アル者ハ其ノ裁定ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第三十五條 第二十二條第二項及第二十三條第二項ノ場合ニ於テ理由ナクシテ承諾ヲ拒ミタルトキハ關係人又第二十五條但書ノ場合ニ於テ危險ノ虞ナクシテ承諾ヲ拒ミタルトキハ鑛業人ハ所轄鑛山監督署長ノ判定ヲ請求スルコトヲ得
第三十六條 前條ノ判定ニ不服アル者ハ其ノ判定ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ農商務大臣ノ裁定ヲ請求スルコトヲ得
第三十七條 鑛業人廢業シタルトキハ其ノ旨ヲ所轄鑛山監督署ニ屆出テ鑛業特許證ヲ返納スヘシ
第三十八條 第十九條第二十八條第二十九條第三十四條第四十三條及第七十六條ニ依リ農商務大臣ニ於テ採掘ノ特許ヲ取消シ又ハ第三十七條ニ依リ廢業ノ屆出ヲ爲シタル場合ニ於テハ其ノ特許ヲ得タル鑛物ノ採掘權ニ對シ抵當權ヲ有スル債主ハ其ノ抵當權ヲ失フモノトス但第十九條及第三十四條ノ場合ヲ除クノ外債主ニ於テ六十日以內ニ其ノ鑛區ノ採掘ヲ願出ルトキハ出願ノ先後ニ拘ハラス特許ヲ與フヘシ
第三十九條 鑛業人ハ每年一月前年ニ採取シタル鑛物ノ量數、製產物、其ノ販賣高、販賣代價、行業日數及工數ヲ所轄鑛山監督署ニ屆出ツヘシ
第四十條 鑛業人ハ農商務大臣定ムル所ノ書式ニ依リ帳簿ヲ調製シ製產物ノ量數及販賣代價等ヲ記載スヘシ
第三章 鑛區
第四十一條 鑛區トハ鑛物ノ採掘ヲ爲ス土地ノ區域ヲ謂フ
鑛區ノ境界ハ直線ヲ以テ之ヲ定メ地表境界線ノ直下ヲ限トス其ノ一鑛區ノ面積ハ石炭ハ一萬坪以上其ノ他ノ鑛物ハ三千坪以上トシ共ニ六十萬坪ヲ超ユルコトヲ得ス
第四十二條 出願ニ係ル鑛區ノ位置形狀、鑛床ノ位置形狀ト相違シ鑛利ヲ損スヘキモノト認メタルトキハ所轄鑛山監督署長ハ之ヲ出願人ニ通知シ訂正セシムヘシ
出願人前項ノ通知ヲ受ケ其ノ通知書到達ノ日ヨリ三十日以內ニ訂正シテ差出サヽルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
第四十三條 特許ヲ得タル鑛區ノ位置形狀、鑛床ノ位置形狀ト相違シ鑛利ヲ損スヘキモノト認メタルトキハ所轄鑛山監督署長ハ農商務大臣ノ認可ヲ經六十日以內ノ期限ヲ定メ訂正セシムヘシ若シ訂正セサルトキハ農商務大臣ハ既ニ與ヘタル特許ヲ取消スコトヲ得
鑛業人ハ前項特許取消ノ處分ニ不服アルトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第四十四條 鑛業人鑛床ノ形狀ニ由リ鑛區ノ境界若ハ位置ノ訂正ヲ要スルトキハ其ノ願書ニ理由書、訂正鑛區圖及鑛業特許證ヲ添ヘ農商務大臣宛ニテ所轄鑛山監督署ニ差出スヘシ
農商務大臣ニ於テ訂正ヲ必要ト認メタルトキハ更ニ鑛業特許證ヲ下付スヘシ
第四十五條 鑛業人鑛區ノ訂正ヲ出願シタル場合ニ於テ所轄鑛山監督署長吏員ノ實地臨檢ヲ必要ト認ムルトキハ鑛業人ヲシテ出張吏員ノ爲ニ制規ノ旅費日當ヲ前納セシムヘシ
鑛業人前項旅費日當納付ノ通知ヲ受ケ其ノ通知書到達ノ日ヨリ十四日以內ニ之ヲ納メサルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
第四十六條 鑛區ヲ合併シ又ハ分割セント欲スル者ハ合併又ハ分割鑛區圖及鑛業特許證ヲ添ヘ所轄鑛山監督署ヲ經テ農商務大臣ニ出願スヘシ其ノ採掘權ヲ抵當ニ取リタル債主アルトキハ其ノ承諾書ヲ添フヘシ
鑛區ノ分割ハ第四十一條ノ制限ヲ超ユルコトヲ得ス
第四章 土地使用
第四十七條 試掘又ハ採掘ヲ出願スル爲他人ノ土地ヲ測量スルコトヲ必要トスルトキハ所轄鑛山監督署ノ認可ヲ受クヘシ此ノ場合ニ於テハ其ノ土地ノ所有者又ハ關係人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス若シ測量ノ爲ニ損害ヲ生シタルトキハ其ノ測量ヲ請求シタル者ニ於テ之ヲ賠償スヘシ
測量請求者他人ノ所有地ニ入ルトキハ豫メ其ノ土地所有者ニ通知シ且測量認可證ヲ携帶スヘシ
第四十八條 左ノ場合ニ於テ鑛業上他人ノ土地ヲ使用スルコトヲ必要トシ鑛業人其ノ貸渡ヲ請求シタルトキハ其ノ土地ノ所有者又ハ關係人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
一 坑口ヲ開穿スル爲
一 鑛物及土石ノ堆積場ヲ設置スル爲
一 坑道、道路、鐵道、馬車鐵道、運河、溝渠及溜池ヲ開設スル爲
一 鑛業上必要ノ製鍊場及建物ヲ建設スル爲
第四十九條 左ノ場合ニ於テハ土地所有者又ハ關係人ハ土地貸渡ノ請求ヲ拒ムコトヲ得
一 貸渡請求ノ土地第二十五條ニ記載シタル場所ニ係ルトキ
一 土地借受人ニ於テ第五十條ノ保證金ヲ差出サヽルトキ
第五十條 土地借受人ハ貸渡ヲ受ケタル土地ニ對シ其ノ土地貸渡人ニ相當ノ借地料ヲ仕拂フヘシ
土地貸渡人ハ借地料ノ保證金トシテ土地借受人ニ豫メ土地臺帳ニ記載シタル地價以內ノ金額ヲ差出サシムルコトヲ得
其ノ質入トナリタル土地ニ對スル借地料及保證金ハ質取主ニ於テ之ヲ受領スルモノトス
土地使用ニ依リ所有者又ハ關係人ニ損害ヲ與フルトキハ鑛業人ハ之ニ對シ相當ノ賠償ヲ爲スヘシ
土地借受人土地ノ使用ヲ終リ其ノ使用中ノ借地料ヲ完納シタルトキハ土地貸渡人又ハ質取主ハ土地ト引換ニ保證金ヲ返還スヘシ
第五十一條 土地借受人貸渡ヲ受ケタル土地ノ使用ヲ終リタルトキハ土地貸渡人ノ要求ニ應シ其ノ土地ヲ原形ニ復シ返還スヘシ若シ原形ニ復シ難キトキハ土地借受人ニ於テ其ノ損害ヲ賠償スヘシ
第五十二條 土地借受人借地料ノ仕拂ヲ延滯シタルトキハ土地貸渡人ハ其ノ延滯借地料ニ相當スル金額ヲ保證金中ヨリ差引キ土地ヲ取戾スコトヲ得
前項土地ヲ取戾スニ當リ地上ニ建物等アルトキハ六十日以上ノ期限ヲ定メテ土地借受人ニ其ノ取除ヲ請求スヘシ若シ土地借受人ノ所在不分明ナルトキハ其ノ地方ノ新聞紙ヲ以テ其ノ旨ヲ公吿スヘシ
土地借受人右期限內ニ取除ヲナサヽルトキハ其ノ建物等ハ土地貸渡人ノ所有ニ歸スヘシ
第五十三條 鑛業人ノ請求ニ依リ土地ヲ分割シテ賣渡シ又ハ貸渡シタルカ爲殘地ノ利用ヲ害スルトキハ鑛業人ニ對シ其ノ土地全部ノ買取若ハ借受ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ鑛業人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第五十四條 鑛業人ニ於テ貸渡ヲ受ケタル土地ヲ三箇年以上使用スル目的アルカ又ハ三箇年以上之ヲ使用スルトキハ土地貸渡人ハ鑛業人ニ其ノ土地ノ買取ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ鑛業人ハ其ノ買取ヲ拒ムコトヲ得ス
第五十五條 土地ノ所有者及關係人ト測量請求人又ハ鑛業人トノ間ニ於テ土地貸渡、借地料、保證金、損害賠償金又ハ土地賣買代價ニ付協議調ハサルトキハ所轄鑛山監督署長ニ其ノ判定ヲ請求スルコトヲ得
所轄鑛山監督署長ノ判定ニ不服アルトキハ其ノ判定ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ土地貸渡ニ就テハ農商務大臣ニ其ノ裁定ヲ請求シ借地料、保證金、損害賠償金若ハ土地賣買代金ニ就テハ裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前項農商務大臣ノ裁定ニ對シテハ他ニ出訴スルコトヲ得ス
第五十六條 所轄鑛山監督署長ノ判定又ハ農商務大臣ノ裁定請求ノ爲ニ要スル費用ハ民事訴訟入費ノ例ニ依リ負擔スヘキモノトス
第五十七條 鑛業人ハ土地所有者又ハ關係人ニ於テ所轄鑛山監督署長ノ判定シタル借地料、保證金、損害賠償金又ハ賣買代金ニ不服アルモ其ノ金額ヲ土地所有者又ハ關係人ニ渡シ若シ之ヲ受ケサルトキハ其ノ金額ヲ供託所ニ預ケ置キ土地ヲ使用スルコトヲ得
第五章 鑛業警察
第五十八條 鑛業ニ關スル警察事務ニシテ左ニ揭クルモノハ農商務大臣之ヲ監督シ鑛山監督署長之ヲ行フ
一 坑內及鑛業ニ關スル建築物ノ保安
一 鑛夫ノ生命及衞生上ノ保護
一 地表ノ安全及公益ノ保護
第五十九條 鑛業上ニ危險ノ虞アリ又ハ公益ヲ害スト認ムルトキハ所轄鑛山監督署長ハ鑛業人ニ其ノ豫防ヲ命シ又ハ鑛業ヲ停止スヘシ
所轄鑛山監督署長ニ於テ鑛業ヲ停止セントスルトキハ其ノ猶豫シ難キ場合ヲ除クノ外ハ農商務大臣ノ認可ヲ經ヘシ
第六十條 前條第一項ノ場合ニ於テ鑛業人直ニ其ノ豫防ニ著手セサルトキハ所轄鑛山監督署長ハ鑛業人ノ使用スル役員及鑛夫ヲ指揮シ其ノ豫防ヲ執行スヘシ
此ノ場合ニ於テ鑛業人ハ其ノ使用スル役員及鑛夫ヲ豫防ノ用ニ供シ且一切ノ費用ヲ負擔スルノ義務アルモノトス
第六十一條 第五十九條ニ依リ鑛業ヲ停止シタル後其ノ事故止ミタルトキハ所轄鑛山監督署長ハ直ニ鑛業ノ停止ヲ解キ其ノ旨ヲ農商務大臣ニ具申スヘシ
第六十二條 農商務大臣ニ於テ此ノ條例ニ依リ採掘ノ特許ヲ取消シタルトキ又ハ鑛業人廢業シタルトキハ所轄鑛山監督署長ハ六十日以上ノ期限ヲ定メ鑛業ノ爲建設シタル家屋及其ノ他ノ建物等ヲ除去セシムヘシ若シ右期限內ニ除去セサルトキハ其ノ建物等ハ土地所有者ノ所有ニ歸ス但所轄鑛山監督署長ニ於テ坑內保安ノ爲ニ必要ト認ムル坑內及坑口ノ構造物ハ之ヲ除去スルコトヲ得ス
前項ノ場合ニ於テ鑛業人ノ所在不分明ナルトキハ第五十二條第二項ノ手續ニ依ルヘシ
第六十三條 農商務大臣ハ此ノ條例ノ範圍內ニ於テ省令ヲ以テ鑛業警察規則ヲ定ムルコトヲ得
第六章 鑛夫
第六十四條 鑛夫トハ鑛物ノ採掘及之ニ附屬スル業務ニ從事スル男女ノ職工ヲ謂フ
鑛業人ハ其ノ使役スル鑛夫ノ使役規則ヲ定メ所轄鑛山監督署ノ認可ヲ受クヘシ
第六十五條 鑛業人ト鑛夫トノ間ニ特別ノ約定ナキ場合ニ於テ雙方トモ十四日以前ニ通知スルトキハ雇役ノ解約ヲナスコトヲ得
第六十六條 左ノ場合ニ於テハ鑛業人ハ何時タリトモ鑛夫ヲ解雇スルコトヲ得
一 輕罪以上ノ刑ニ處セラレタルカ又ハ不行狀ノ所爲アルカ若ハ命令ヲ遵守セサルトキ
一 鑛業人又ハ其ノ使用スル役員ニ對シ粗暴ノ所爲アリタルトキ
一 身體虛弱ニシテ業務ニ堪ヘサルトキ
一 鑛業ヲ禁止セラレ又ハ廢業シタルトキ
第六十七條 左ノ場合ニ於テハ鑛夫ハ何時タリトモ其ノ雇役ヲ罷ムルコトヲ得
一 身體虛弱ニシテ業務ニ堪ヘサルトキ
一 鑛業人又ハ其ノ使用スル役員ニ於テ虐待シタルトキ
一 約定ノ賃錢又ハ報酬ヲ給與セサルトキ
第六十八條 鑛業人又ハ其ノ代理人ハ解雇スル鑛夫ノ請求ニ依リ從來ノ業務年限、本人ノ技能、賃錢及解雇ノ事由ヲ記載シタル證明書ヲ與フヘシ
鑛業人證明書ヲ與フルコトヲ拒ムカ又ハ鑛夫ニ於テ證明書中不當ト認ムル事項アルトキハ所轄鑛山監督署員若ハ警察官ニ申吿スルコトヲ得
第六十九條 鑛業人ハ鑛夫ノ賃錢ヲ通貨ニテ仕拂フヘシ鑛夫ノ請求アルニアラサレハ物品ヲ以テ仕拂ヲ爲スコトヲ得ス
第七十條 鑛業人ハ鑛夫名簿ヲ備ヘ置キ氏名、年齡、本籍、職業、雇入及解雇ノ年月日ヲ記入スヘシ
第七十一條 農商務大臣ハ左ニ記載スル制限內ニ於テ省令ヲ以テ鑛夫工役規則ヲ定ムルコトヲ得
一 一日十二時間以上ノ就業時間ヲ制限スルコト
一 女工ノ工役ノ種類ヲ制限スルコト
一 十四年以下ノ男女職工ノ就業時間及工役ノ種類ヲ制限スルコト
第七十二條 鑛業人ハ左ノ場合ニ於テ其ノ雇入鑛夫ヲ救恤スヘシ其ノ救恤規則ハ所轄鑛山監督署ノ認可ヲ受クヘシ
一 鑛夫自己ノ過失ニ非スシテ就業中負傷シタル場合ニ於テ診察費及療養費ヲ補給スルコト
一 前項ノ場合ニ於テ鑛夫ニ療養休業中相當ノ日當ヲ支給スルコト
一 前項ノ負傷ニ由リ鑛夫ノ死亡シタルトキ埋葬料ヲ補給シ及遺族ニ手當ヲ支給スルコト
一 前項ノ負傷ニ由リ癈疾トナリタル鑛夫ニ期限ヲ定メ補助金ヲ支給スルコト
第七章 鑛業稅及鑛區稅
第七十三條 鑛業人ハ鑛業稅トシテ鑛業製產物ノ價格百分ノ一鑛區稅トシテ鑛區一千坪每ニ一箇年金三十錢ヲ納ムヘシ但一千坪未滿ノ端數ニ對スル鑛區稅ハ之ヲ免除ス
鐵鑛ヲ採掘スル者ニハ鑛業稅ヲ課セス
第七十四條 前條鑛業製產物ノ價格ハ主要ナル市場ノ平均相場ヲ標準トシ農商務大臣ノ吿示スル所ニ依ル但市場ノ相場ナキモノハ其ノ販賣代價ニ依ル
第七十五條 鑛業稅ハ前年分ヲ每年三月三十一日限ニ又廢業ノ年ニ係ルモノハ廢業ノ日ヨリ六十日以內ニ之ヲ納ムヘシ
鑛區稅ハ一箇年分ヲ其ノ前年十二月十五日限ニ又初年ニ係ルモノハ月割ヲ以テ採掘出願特許ノ日ヨリ六十日以內ニ之ヲ納ムヘシ其ノ廢業ノ年ニ係ルモノハ之ヲ返付セス
第七十六條 鑛業人納稅期限內ニ鑛業稅及鑛區稅ヲ納メサルトキハ農商務大臣ハ採掘ノ特許ヲ取消スコトヲ得其ノ取消ニ不服アルトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第八章 罰則
第七十七條 第二十四條第二十五條ヲ犯シタル者ハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第七十八條 特許ヲ得スシテ採掘ヲ爲シタル者又ハ詐僞ニ由リテ特許ヲ得タル者ハ十五圓以上百五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第七十九條 認可ヲ得スシテ試掘ヲ爲シタル者又ハ詐僞ニ由リテ認可ヲ得タル者又ハ認可ノ期限ヲ過キ尙ホ試掘ヲ爲シタル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十條 第二十七條ヲ犯シタル者及第五十九條ノ豫防ニ著手セサル者又ハ第六十二條但書ノ規定ヲ犯シタル者ハ十五圓以上百五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十一條第一項及第二項ヲ犯シタル者ハ五圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十一條 第十條ヲ犯シタル者ハ其ノ賣得金ノ半額ニ相當スル罰金ニ處ス
第八十二條 第十一條ノ販賣代價ヲ隱匿シタル者ハ其ノ隱匿シタル金額ノ半額ニ相當スル罰金ニ處ス
第八十三條 第三十九條ニ依リ屆出ツヘキ事項ヲ詐テ逋稅シタル者ハ其ノ逋稅金額ノ三倍ニ相當スル罰金ニ處シ其ノ逋稅ニ關セサル事項ニ係ルモノハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十四條 第四十條ノ帳簿ヲ調製セス若ハ記載ヲ怠リ若ハ詐テ記載シタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十五條 第六十四條第二項第六十九條及第七十二條ヲ犯シタル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十六條 第六條第三十七條第六十八條及第七十條ニ違背シタル者ハ一圓以上一圓九十五錢以下ノ科料ニ處ス
第八十七條 第八十一條第八十二條及第八十三條ノ場合ニ於テ自首シタル者ハ其ノ納付スヘキ金額ヲ追徵シ其ノ罪ヲ問ハス
第八十八條 此ノ條例ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ減輕再犯加重及數罪俱發ノ例ヲ用ヒス
鑛業人未成年瘋癲白痴又ハ瘖啞ニシテ此ノ罰則ヲ犯シタルトキハ其ノ後見人ヲ處罰ス
第九章 附則
第八十九條 此ノ條例實施以前ニ許可ヲ得タル試掘人又ハ借區人ハ其ノ許可ヲ得タル年限中試掘又ハ鑛業ヲ爲スコトヲ得
第九十條 此ノ條例實施以前ニ借區人ノ許可ヲ得借區年限滿期後尙ホ引續キ鑛業ヲ爲サントスル者ハ借區滿期以前ニ此ノ條例ニ依リ出願スヘシ
第九十一條 此ノ條例ノ施行ニ關スル細則ハ農商務大臣之ヲ定ム
第九十二條 此ノ條例ハ明治二十五年六月一日ヨリ施行ス明治六年太政官第二百五十九號布吿日本坑法ハ同日限之ヲ廢止ス
朕鉱業条例ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年九月二十五日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
農商務大臣 陸奥宗光
法律第八十七号
鉱業条例
第一章 総則
第一条 鉱業トハ鉱物ノ試掘採掘及之ニ附属スル事業ヲ謂フ
第二条 鉱物ノ未タ採掘セサルモノハ国ノ所有トス
此ノ条例ニ於テ鉱物トハ金鉱(砂金ヲ除ク)銀鉱、銅鉱、鉛鉱、錫鉱(砂錫ヲ除ク)安質母尼鉱、水銀鉱、亜鉛鉱、鉄鉱(砂鉄ヲ除ク)硫化鉄鉱、満奄鉱、砒鉱、黒鉛、石炭、石油及硫黄ヲ謂フ
第三条 帝国臣民ニ非サレハ鉱業人トナリ又ハ鉱業ニ関スル組合員又ハ会社ノ株主トナルコトヲ得ス
鉱業人未成年瘋癲白痴又ハ瘖瘂ナルトキハ後見人ヲ立ツヘシ
第四条 農商務省鉱山局及鉱山監督署ノ官吏ハ在職中鉱業人トナリ又ハ鉱業ニ関スル組合員又ハ会社ノ株主若ハ役員トナルコトヲ得ス
第五条 此ノ条例ニ依リ鉱業特許取消ノ処分ヲ受ケタル鉱業人ハ同鉱区ニ付一箇年間採掘ノ出願ヲ為スコトヲ得ス
第六条 二人以上共同シテ鉱業ヲ為ストキハ総代一名ヲ選定シ予メ所轄鉱山監督署ニ届出ツヘシ
総代ハ鉱業上ニ関シ政府ニ対シテ共同鉱業人ヲ代表スルモノトス
第七条 共同鉱業人ノ変更、採掘権ノ売買、譲与、書入及廃業届等ニハ総代ノ外少クモ共同鉱業人過半数ノ連署ヲ要ス
第二章 試掘及採掘
第八条 試掘ヲ為サント欲スル者ハ其ノ願書ニ試掘地ノ図面ヲ添ヘ所轄鉱山監督署長ニ差出シ其ノ認可ヲ受クヘシ
第九条 試掘ハ認可ノ日ヨリ一箇年ヲ限トス
試掘人前項ノ期限内ニ於テ其ノ事業ヲ竣ヘ難キ事実アルトキハ所轄鉱山監督署長ニ延期ヲ出願スルコトヲ得
所轄鉱山監督署長ハ其ノ事実ヲ調査シ已ムヲ得サルモノト認ムルトキハ一箇年以内ノ延期ヲ認可スルコトヲ得
第十条 試掘ニ依リ採取シタル鉱物ハ所轄鉱山監督署長ノ認可ヲ得テ之ヲ販売スルコトヲ得
第十一条 前条ニ依リ鉱物ヲ販売シタルトキハ三十日以内ニ其ノ販売代価百分ノ一ヲ所轄鉱山監督署ニ納ムヘシ
前項ノ金額ヲ其ノ期限内ニ納メサル者ハ国税滞納処分法ニ依リ処分ス
第十二条 採掘ノ特許ヲ得ント欲スル者ハ採掘願書ニ鉱区図ヲ添ヘ農商務大臣宛ニテ所轄鉱山監督署ニ差出スヘシ
採掘願書及鉱区図ヲ同時ニ差出シ難キトキハ願書ノミヲ差出シ置キ鉱区図ハ願書ノ日附ヨリ五十日以内ニ之ヲ差出スコトヲ得此ノ期限内ニ差出サヽルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
第十三条 採掘ヲ出願スル者ハ出願地ニ其ノ採掘セントスル鉱物ノ存在スルコトヲ証明スヘシ
第十四条 鉱山監督署長ハ鉱物ノ存在ヲ認定スル為ニ吏員ノ実地臨検ヲ必要ト認ムルトキハ採掘出願人ヲシテ出張吏員ノ為ニ制規ノ旅費日当ヲ前納セシムヘシ
採掘出願人前項旅費日当納付ノ通知ヲ受ケ通知書到達ノ日ヨリ十四日以内ニ之ヲ納メサルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
第十五条 鉱山監督署ニ於テハ試掘及採掘出願登録簿ヲ備ヘ置キ出願日時ノ先後ニ依リ之ヲ登録ス
第十六条 試掘又ハ採掘ノ出願同一ノ地ニ付二人以上アルトキハ出願日時ノ先後ニ依リ其ノ許否ヲ定ム
出願ノ日時同一ナルトキハ鉱山監督署長ハ其ノ旨ヲ各出願人ニ通知スヘシ各出願人ハ通知書ノ日附ヨリ六十日以内ニ協議ヲ遂ケ出願人ヲ定ムヘシ若シ協議調ハサルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
出願ノ日時同一ニシテ試掘ト採掘トニ係ルトキハ先ツ採掘ノ出願ニ付其許否ヲ定ム
第十七条 農商務大臣採掘ノ特許ヲ与フヘキモノト認メタルトキハ鉱業特許証ヲ下付スヘシ
第十八条 試掘若ハ採掘ノ事業公益ヲ害スト認ムルトキハ試掘ニ就テハ所轄鉱山監督署長、採掘ニ就テハ農商務大臣其ノ出願ヲ許可セス
第十九条 試掘若ハ採掘ノ事業公益ニ害アルトキハ試掘ニ就テハ所轄鉱山監督署長採掘ニ就テハ農商務大臣既ニ与ヘタル認可若ハ特許ヲ取消スコトヲ得
鉱業人前項取消ノ処分ニ不服アルトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得但損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得ス
第二十条 特許ヲ得タル鉱物ノ採掘権ハ売買、譲与又ハ書入ヲ為スコトヲ得
採掘権ヲ売買、譲与スルトキハ双方連署シ所轄鉱山監督署ヲ経農商務大臣ニ出願シ鉱業特許証ノ書換ヲ受クヘシ此ノ手続ニ依ラサル売買、譲与ハ法律上其ノ効ナキモノトス
採掘権ノ書入ハ双方連署シ所轄鉱山監督署ノ登録ヲ受クヘシ其ノ登録ヲ受ケサルモノハ法律上其ノ効ナキモノトス
第二十一条 他人試掘ノ年限中ハ其ノ試掘地内ニ於テ同一ノ鉱物ニ付採掘ノ出願ヲ為スコトヲ得ス
第二十二条 他人ノ認可ヲ得タル試掘地内ニ於テ其ノ試掘人ノ未タ認可ヲ得サル鉱物ノ試掘又ハ採掘ヲ出願セント欲スル者ハ試掘人ノ承諾ヲ経ヘシ
試掘人自ラ試掘又ハ採掘ヲ出願セント欲スルカ若ハ其ノ認可ヲ得タル鉱物ノ試掘ニ妨害アルトキノ外ハ試掘人ハ前項ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第二十三条 他人所属ノ鉱区内ニ於テ其ノ鉱業人ノ未タ試掘ノ認可又ハ採掘ノ特許ヲ得サル鉱物ニ付試掘若ハ採掘ヲ出願セント欲スル者ハ鉱業人ノ承諾ヲ経ヘシ
鉱業人自ラ試掘又ハ採掘ヲ出願セント欲スルカ若ハ其ノ試掘又ハ採掘ノ為ニ鉱業ニ妨害アルトキノ外ハ鉱業人ハ前項ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第二十四条 宮城、離宮、神宮、皇陵、陸海軍所轄城堡、軍港、要港、火薬製造所、火薬庫及弾薬庫ノ周囲三百間以内ノ場所ハ試掘又ハ採掘若ハ鉱業上使用スルコトヲ得ス但軍港、要港ハ其ノ鎮守府司令長官ノ許可ヲ得タル場合ニ於テハ此ノ限ニアラス
第二十五条 鉄道、馬車鉄道、公道、河湖、堤防、沼池、社寺、墓地、公園地及建物ヨリ地表地下トモ其周囲三十間以内ノ場所ニ於テハ所轄官庁若ハ所有者ノ承諾ヲ経ルニアラサレハ試掘又ハ採掘ヲ為スコトヲ得ス但危険ノ虞ナキモノハ其ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
第二十六条 鉱業人ハ毎年ノ鉱業施業案ヲ調製シ其ノ前年十月三十日限其ノ初年ニ係ルモノハ採掘特許ノ日ヨリ三箇月以内ニ所轄鉱山監督署長ニ差出シ認可ヲ受クヘシ
前項ノ施業案ニシテ坑内ノ保安ニ害アリ又ハ其ノ鉱区ニ相当スル鉱業ヲ為サヽルモノト認メタルトキハ所轄鉱山監督署長ハ其ノ理由ヲ鉱業人ニ示シ期限ヲ定メ之ヲ改正セシムヘシ
第二十七条 鉱業人ハ所轄鉱山監督署長ノ認可ヲ受ケタル鉱業施業案ニ依ルニアラサレハ採掘ヲ為スコトヲ得ス
第二十八条 鉱業人鉱業施業案又ハ其ノ改正案ヲ期限内ニ差出サヽルトキハ農商務大臣ハ其ノ採掘ノ特許ヲ取消スコトヲ得
第二十九条 鉱業人一箇年以上休業シ又ハ採掘ノ特許ヲ得タル日ヨリ一箇年以内ニ鉱業ニ著手セサルトキハ農商務大臣ハ其ノ特許ヲ取消スコトヲ得
第三十条 前二条ノ場合ニシテ其ノ自己ノ過失ニ由ラサルモノハ特許取消ノ達ヲ受ケタル日ヨリ十四日以内ニ其ノ理由ヲ農商務大臣ニ申立テ再願ヲ為スコトヲ得若シ農商務大臣ニ於テ之ヲ拒ムトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第三十一条 鉱業人ハ坑内実測図二葉ヲ調製シ一葉ハ所轄鉱山監督署ニ差出シ一葉ハ鉱業事務所ニ備ヘ置クヘシ
前項坑内実測図ハ事業ノ進歩ニ従ヒ六箇月毎ニ追補スヘシ
鉱業人若シ他人ノ所属ニ係ル隣接鉱区ノ坑内実測図ニ付証明ヲ必要ト認ムルトキハ之ヲ所轄鉱山監督署長ニ請求スルコトヲ得
所轄鉱山監督署長ニ於テ右証明ノ為ニ吏員ノ実地臨検ヲ必要ト認ムルトキハ鉱業人ヲシテ出張吏員ノ為ニ制規ノ旅費日当ヲ前納セシムヘシ
第三十二条 鉱業人鉱業特許証ヲ毀損若ハ亡失シタルトキハ事由ヲ具シ所轄鉱山監督署ヲ経其ノ再下付ヲ農商務大臣ニ出願スヘシ
第三十三条 詐偽又ハ錯誤ニ由リ試掘ノ認可ヲ得タルコトヲ発見シタルトキハ所轄鉱山監督署長ハ其ノ認可ヲ取消スヘシ若シ其ノ認可ニ付利害ノ関係ヲ有スル者ニ於テ之ヲ発見シタルトキハ其ノ関係ヲ有スル者ハ認可ノ日ヨリ三箇月以内ニ試掘認可ノ取消ヲ所轄鉱山監督署長ニ訴願スルコトヲ得
前項所轄鉱山監督署長ノ判定ニ不服アル者ハ其ノ判定ノ日ヨリ三十日以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第三十四条 詐偽又ハ錯誤ニ由リ採掘ノ特許ヲ得タルコトヲ発見シタルトキハ農商務大臣ハ其ノ特許ヲ取消スヘシ若シ其ノ特許ニ付利害ノ関係ヲ有スル者ニ於テ之ヲ発見シタルトキハ其ノ関係ヲ有スル者ハ特許ノ日ヨリ三十日以内ニ採掘特許ノ取消ヲ農商務大臣ニ訴願スルコトヲ得
前項農商務大臣ノ裁定ニ不服アル者ハ其ノ裁定ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第三十五条 第二十二条第二項及第二十三条第二項ノ場合ニ於テ理由ナクシテ承諾ヲ拒ミタルトキハ関係人又第二十五条但書ノ場合ニ於テ危険ノ虞ナクシテ承諾ヲ拒ミタルトキハ鉱業人ハ所轄鉱山監督署長ノ判定ヲ請求スルコトヲ得
第三十六条 前条ノ判定ニ不服アル者ハ其ノ判定ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ農商務大臣ノ裁定ヲ請求スルコトヲ得
第三十七条 鉱業人廃業シタルトキハ其ノ旨ヲ所轄鉱山監督署ニ届出テ鉱業特許証ヲ返納スヘシ
第三十八条 第十九条第二十八条第二十九条第三十四条第四十三条及第七十六条ニ依リ農商務大臣ニ於テ採掘ノ特許ヲ取消シ又ハ第三十七条ニ依リ廃業ノ届出ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ特許ヲ得タル鉱物ノ採掘権ニ対シ抵当権ヲ有スル債主ハ其ノ抵当権ヲ失フモノトス但第十九条及第三十四条ノ場合ヲ除クノ外債主ニ於テ六十日以内ニ其ノ鉱区ノ採掘ヲ願出ルトキハ出願ノ先後ニ拘ハラス特許ヲ与フヘシ
第三十九条 鉱業人ハ毎年一月前年ニ採取シタル鉱物ノ量数、製産物、其ノ販売高、販売代価、行業日数及工数ヲ所轄鉱山監督署ニ届出ツヘシ
第四十条 鉱業人ハ農商務大臣定ムル所ノ書式ニ依リ帳簿ヲ調製シ製産物ノ量数及販売代価等ヲ記載スヘシ
第三章 鉱区
第四十一条 鉱区トハ鉱物ノ採掘ヲ為ス土地ノ区域ヲ謂フ
鉱区ノ境界ハ直線ヲ以テ之ヲ定メ地表境界線ノ直下ヲ限トス其ノ一鉱区ノ面積ハ石炭ハ一万坪以上其ノ他ノ鉱物ハ三千坪以上トシ共ニ六十万坪ヲ超ユルコトヲ得ス
第四十二条 出願ニ係ル鉱区ノ位置形状、鉱床ノ位置形状ト相違シ鉱利ヲ損スヘキモノト認メタルトキハ所轄鉱山監督署長ハ之ヲ出願人ニ通知シ訂正セシムヘシ
出願人前項ノ通知ヲ受ケ其ノ通知書到達ノ日ヨリ三十日以内ニ訂正シテ差出サヽルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
第四十三条 特許ヲ得タル鉱区ノ位置形状、鉱床ノ位置形状ト相違シ鉱利ヲ損スヘキモノト認メタルトキハ所轄鉱山監督署長ハ農商務大臣ノ認可ヲ経六十日以内ノ期限ヲ定メ訂正セシムヘシ若シ訂正セサルトキハ農商務大臣ハ既ニ与ヘタル特許ヲ取消スコトヲ得
鉱業人ハ前項特許取消ノ処分ニ不服アルトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第四十四条 鉱業人鉱床ノ形状ニ由リ鉱区ノ境界若ハ位置ノ訂正ヲ要スルトキハ其ノ願書ニ理由書、訂正鉱区図及鉱業特許証ヲ添ヘ農商務大臣宛ニテ所轄鉱山監督署ニ差出スヘシ
農商務大臣ニ於テ訂正ヲ必要ト認メタルトキハ更ニ鉱業特許証ヲ下付スヘシ
第四十五条 鉱業人鉱区ノ訂正ヲ出願シタル場合ニ於テ所轄鉱山監督署長吏員ノ実地臨検ヲ必要ト認ムルトキハ鉱業人ヲシテ出張吏員ノ為ニ制規ノ旅費日当ヲ前納セシムヘシ
鉱業人前項旅費日当納付ノ通知ヲ受ケ其ノ通知書到達ノ日ヨリ十四日以内ニ之ヲ納メサルトキハ其ノ出願ヲ無効トス
第四十六条 鉱区ヲ合併シ又ハ分割セント欲スル者ハ合併又ハ分割鉱区図及鉱業特許証ヲ添ヘ所轄鉱山監督署ヲ経テ農商務大臣ニ出願スヘシ其ノ採掘権ヲ抵当ニ取リタル債主アルトキハ其ノ承諾書ヲ添フヘシ
鉱区ノ分割ハ第四十一条ノ制限ヲ超ユルコトヲ得ス
第四章 土地使用
第四十七条 試掘又ハ採掘ヲ出願スル為他人ノ土地ヲ測量スルコトヲ必要トスルトキハ所轄鉱山監督署ノ認可ヲ受クヘシ此ノ場合ニ於テハ其ノ土地ノ所有者又ハ関係人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス若シ測量ノ為ニ損害ヲ生シタルトキハ其ノ測量ヲ請求シタル者ニ於テ之ヲ賠償スヘシ
測量請求者他人ノ所有地ニ入ルトキハ予メ其ノ土地所有者ニ通知シ且測量認可証ヲ携帯スヘシ
第四十八条 左ノ場合ニ於テ鉱業上他人ノ土地ヲ使用スルコトヲ必要トシ鉱業人其ノ貸渡ヲ請求シタルトキハ其ノ土地ノ所有者又ハ関係人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
一 坑口ヲ開穿スル為
一 鉱物及土石ノ堆積場ヲ設置スル為
一 坑道、道路、鉄道、馬車鉄道、運河、溝渠及溜池ヲ開設スル為
一 鉱業上必要ノ製錬場及建物ヲ建設スル為
第四十九条 左ノ場合ニ於テハ土地所有者又ハ関係人ハ土地貸渡ノ請求ヲ拒ムコトヲ得
一 貸渡請求ノ土地第二十五条ニ記載シタル場所ニ係ルトキ
一 土地借受人ニ於テ第五十条ノ保証金ヲ差出サヽルトキ
第五十条 土地借受人ハ貸渡ヲ受ケタル土地ニ対シ其ノ土地貸渡人ニ相当ノ借地料ヲ仕払フヘシ
土地貸渡人ハ借地料ノ保証金トシテ土地借受人ニ予メ土地台帳ニ記載シタル地価以内ノ金額ヲ差出サシムルコトヲ得
其ノ質入トナリタル土地ニ対スル借地料及保証金ハ質取主ニ於テ之ヲ受領スルモノトス
土地使用ニ依リ所有者又ハ関係人ニ損害ヲ与フルトキハ鉱業人ハ之ニ対シ相当ノ賠償ヲ為スヘシ
土地借受人土地ノ使用ヲ終リ其ノ使用中ノ借地料ヲ完納シタルトキハ土地貸渡人又ハ質取主ハ土地ト引換ニ保証金ヲ返還スヘシ
第五十一条 土地借受人貸渡ヲ受ケタル土地ノ使用ヲ終リタルトキハ土地貸渡人ノ要求ニ応シ其ノ土地ヲ原形ニ復シ返還スヘシ若シ原形ニ復シ難キトキハ土地借受人ニ於テ其ノ損害ヲ賠償スヘシ
第五十二条 土地借受人借地料ノ仕払ヲ延滞シタルトキハ土地貸渡人ハ其ノ延滞借地料ニ相当スル金額ヲ保証金中ヨリ差引キ土地ヲ取戻スコトヲ得
前項土地ヲ取戻スニ当リ地上ニ建物等アルトキハ六十日以上ノ期限ヲ定メテ土地借受人ニ其ノ取除ヲ請求スヘシ若シ土地借受人ノ所在不分明ナルトキハ其ノ地方ノ新聞紙ヲ以テ其ノ旨ヲ公告スヘシ
土地借受人右期限内ニ取除ヲナサヽルトキハ其ノ建物等ハ土地貸渡人ノ所有ニ帰スヘシ
第五十三条 鉱業人ノ請求ニ依リ土地ヲ分割シテ売渡シ又ハ貸渡シタルカ為残地ノ利用ヲ害スルトキハ鉱業人ニ対シ其ノ土地全部ノ買取若ハ借受ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ鉱業人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第五十四条 鉱業人ニ於テ貸渡ヲ受ケタル土地ヲ三箇年以上使用スル目的アルカ又ハ三箇年以上之ヲ使用スルトキハ土地貸渡人ハ鉱業人ニ其ノ土地ノ買取ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ鉱業人ハ其ノ買取ヲ拒ムコトヲ得ス
第五十五条 土地ノ所有者及関係人ト測量請求人又ハ鉱業人トノ間ニ於テ土地貸渡、借地料、保証金、損害賠償金又ハ土地売買代価ニ付協議調ハサルトキハ所轄鉱山監督署長ニ其ノ判定ヲ請求スルコトヲ得
所轄鉱山監督署長ノ判定ニ不服アルトキハ其ノ判定ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ土地貸渡ニ就テハ農商務大臣ニ其ノ裁定ヲ請求シ借地料、保証金、損害賠償金若ハ土地売買代金ニ就テハ裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前項農商務大臣ノ裁定ニ対シテハ他ニ出訴スルコトヲ得ス
第五十六条 所轄鉱山監督署長ノ判定又ハ農商務大臣ノ裁定請求ノ為ニ要スル費用ハ民事訴訟入費ノ例ニ依リ負担スヘキモノトス
第五十七条 鉱業人ハ土地所有者又ハ関係人ニ於テ所轄鉱山監督署長ノ判定シタル借地料、保証金、損害賠償金又ハ売買代金ニ不服アルモ其ノ金額ヲ土地所有者又ハ関係人ニ渡シ若シ之ヲ受ケサルトキハ其ノ金額ヲ供託所ニ預ケ置キ土地ヲ使用スルコトヲ得
第五章 鉱業警察
第五十八条 鉱業ニ関スル警察事務ニシテ左ニ掲クルモノハ農商務大臣之ヲ監督シ鉱山監督署長之ヲ行フ
一 坑内及鉱業ニ関スル建築物ノ保安
一 鉱夫ノ生命及衛生上ノ保護
一 地表ノ安全及公益ノ保護
第五十九条 鉱業上ニ危険ノ虞アリ又ハ公益ヲ害スト認ムルトキハ所轄鉱山監督署長ハ鉱業人ニ其ノ予防ヲ命シ又ハ鉱業ヲ停止スヘシ
所轄鉱山監督署長ニ於テ鉱業ヲ停止セントスルトキハ其ノ猶予シ難キ場合ヲ除クノ外ハ農商務大臣ノ認可ヲ経ヘシ
第六十条 前条第一項ノ場合ニ於テ鉱業人直ニ其ノ予防ニ著手セサルトキハ所轄鉱山監督署長ハ鉱業人ノ使用スル役員及鉱夫ヲ指揮シ其ノ予防ヲ執行スヘシ
此ノ場合ニ於テ鉱業人ハ其ノ使用スル役員及鉱夫ヲ予防ノ用ニ供シ且一切ノ費用ヲ負担スルノ義務アルモノトス
第六十一条 第五十九条ニ依リ鉱業ヲ停止シタル後其ノ事故止ミタルトキハ所轄鉱山監督署長ハ直ニ鉱業ノ停止ヲ解キ其ノ旨ヲ農商務大臣ニ具申スヘシ
第六十二条 農商務大臣ニ於テ此ノ条例ニ依リ採掘ノ特許ヲ取消シタルトキ又ハ鉱業人廃業シタルトキハ所轄鉱山監督署長ハ六十日以上ノ期限ヲ定メ鉱業ノ為建設シタル家屋及其ノ他ノ建物等ヲ除去セシムヘシ若シ右期限内ニ除去セサルトキハ其ノ建物等ハ土地所有者ノ所有ニ帰ス但所轄鉱山監督署長ニ於テ坑内保安ノ為ニ必要ト認ムル坑内及坑口ノ構造物ハ之ヲ除去スルコトヲ得ス
前項ノ場合ニ於テ鉱業人ノ所在不分明ナルトキハ第五十二条第二項ノ手続ニ依ルヘシ
第六十三条 農商務大臣ハ此ノ条例ノ範囲内ニ於テ省令ヲ以テ鉱業警察規則ヲ定ムルコトヲ得
第六章 鉱夫
第六十四条 鉱夫トハ鉱物ノ採掘及之ニ附属スル業務ニ従事スル男女ノ職工ヲ謂フ
鉱業人ハ其ノ使役スル鉱夫ノ使役規則ヲ定メ所轄鉱山監督署ノ認可ヲ受クヘシ
第六十五条 鉱業人ト鉱夫トノ間ニ特別ノ約定ナキ場合ニ於テ双方トモ十四日以前ニ通知スルトキハ雇役ノ解約ヲナスコトヲ得
第六十六条 左ノ場合ニ於テハ鉱業人ハ何時タリトモ鉱夫ヲ解雇スルコトヲ得
一 軽罪以上ノ刑ニ処セラレタルカ又ハ不行状ノ所為アルカ若ハ命令ヲ遵守セサルトキ
一 鉱業人又ハ其ノ使用スル役員ニ対シ粗暴ノ所為アリタルトキ
一 身体虚弱ニシテ業務ニ堪ヘサルトキ
一 鉱業ヲ禁止セラレ又ハ廃業シタルトキ
第六十七条 左ノ場合ニ於テハ鉱夫ハ何時タリトモ其ノ雇役ヲ罷ムルコトヲ得
一 身体虚弱ニシテ業務ニ堪ヘサルトキ
一 鉱業人又ハ其ノ使用スル役員ニ於テ虐待シタルトキ
一 約定ノ賃銭又ハ報酬ヲ給与セサルトキ
第六十八条 鉱業人又ハ其ノ代理人ハ解雇スル鉱夫ノ請求ニ依リ従来ノ業務年限、本人ノ技能、賃銭及解雇ノ事由ヲ記載シタル証明書ヲ与フヘシ
鉱業人証明書ヲ与フルコトヲ拒ムカ又ハ鉱夫ニ於テ証明書中不当ト認ムル事項アルトキハ所轄鉱山監督署員若ハ警察官ニ申告スルコトヲ得
第六十九条 鉱業人ハ鉱夫ノ賃銭ヲ通貨ニテ仕払フヘシ鉱夫ノ請求アルニアラサレハ物品ヲ以テ仕払ヲ為スコトヲ得ス
第七十条 鉱業人ハ鉱夫名簿ヲ備ヘ置キ氏名、年齢、本籍、職業、雇入及解雇ノ年月日ヲ記入スヘシ
第七十一条 農商務大臣ハ左ニ記載スル制限内ニ於テ省令ヲ以テ鉱夫工役規則ヲ定ムルコトヲ得
一 一日十二時間以上ノ就業時間ヲ制限スルコト
一 女工ノ工役ノ種類ヲ制限スルコト
一 十四年以下ノ男女職工ノ就業時間及工役ノ種類ヲ制限スルコト
第七十二条 鉱業人ハ左ノ場合ニ於テ其ノ雇入鉱夫ヲ救恤スヘシ其ノ救恤規則ハ所轄鉱山監督署ノ認可ヲ受クヘシ
一 鉱夫自己ノ過失ニ非スシテ就業中負傷シタル場合ニ於テ診察費及療養費ヲ補給スルコト
一 前項ノ場合ニ於テ鉱夫ニ療養休業中相当ノ日当ヲ支給スルコト
一 前項ノ負傷ニ由リ鉱夫ノ死亡シタルトキ埋葬料ヲ補給シ及遺族ニ手当ヲ支給スルコト
一 前項ノ負傷ニ由リ廃疾トナリタル鉱夫ニ期限ヲ定メ補助金ヲ支給スルコト
第七章 鉱業税及鉱区税
第七十三条 鉱業人ハ鉱業税トシテ鉱業製産物ノ価格百分ノ一鉱区税トシテ鉱区一千坪毎ニ一箇年金三十銭ヲ納ムヘシ但一千坪未満ノ端数ニ対スル鉱区税ハ之ヲ免除ス
鉄鉱ヲ採掘スル者ニハ鉱業税ヲ課セス
第七十四条 前条鉱業製産物ノ価格ハ主要ナル市場ノ平均相場ヲ標準トシ農商務大臣ノ告示スル所ニ依ル但市場ノ相場ナキモノハ其ノ販売代価ニ依ル
第七十五条 鉱業税ハ前年分ヲ毎年三月三十一日限ニ又廃業ノ年ニ係ルモノハ廃業ノ日ヨリ六十日以内ニ之ヲ納ムヘシ
鉱区税ハ一箇年分ヲ其ノ前年十二月十五日限ニ又初年ニ係ルモノハ月割ヲ以テ採掘出願特許ノ日ヨリ六十日以内ニ之ヲ納ムヘシ其ノ廃業ノ年ニ係ルモノハ之ヲ返付セス
第七十六条 鉱業人納税期限内ニ鉱業税及鉱区税ヲ納メサルトキハ農商務大臣ハ採掘ノ特許ヲ取消スコトヲ得其ノ取消ニ不服アルトキハ其ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第八章 罰則
第七十七条 第二十四条第二十五条ヲ犯シタル者ハ二十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス
第七十八条 特許ヲ得スシテ採掘ヲ為シタル者又ハ詐偽ニ由リテ特許ヲ得タル者ハ十五円以上百五十円以下ノ罰金ニ処ス
第七十九条 認可ヲ得スシテ試掘ヲ為シタル者又ハ詐偽ニ由リテ認可ヲ得タル者又ハ認可ノ期限ヲ過キ尚ホ試掘ヲ為シタル者ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第八十条 第二十七条ヲ犯シタル者及第五十九条ノ予防ニ著手セサル者又ハ第六十二条但書ノ規定ヲ犯シタル者ハ十五円以上百五十円以下ノ罰金ニ処ス
第三十一条第一項及第二項ヲ犯シタル者ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第八十一条 第十条ヲ犯シタル者ハ其ノ売得金ノ半額ニ相当スル罰金ニ処ス
第八十二条 第十一条ノ販売代価ヲ隠匿シタル者ハ其ノ隠匿シタル金額ノ半額ニ相当スル罰金ニ処ス
第八十三条 第三十九条ニ依リ届出ツヘキ事項ヲ詐テ逋税シタル者ハ其ノ逋税金額ノ三倍ニ相当スル罰金ニ処シ其ノ逋税ニ関セサル事項ニ係ルモノハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
第八十四条 第四十条ノ帳簿ヲ調製セス若ハ記載ヲ怠リ若ハ詐テ記載シタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
第八十五条 第六十四条第二項第六十九条及第七十二条ヲ犯シタル者ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第八十六条 第六条第三十七条第六十八条及第七十条ニ違背シタル者ハ一円以上一円九十五銭以下ノ科料ニ処ス
第八十七条 第八十一条第八十二条及第八十三条ノ場合ニ於テ自首シタル者ハ其ノ納付スヘキ金額ヲ追徴シ其ノ罪ヲ問ハス
第八十八条 此ノ条例ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ減軽再犯加重及数罪俱発ノ例ヲ用ヒス
鉱業人未成年瘋癲白痴又ハ瘖唖ニシテ此ノ罰則ヲ犯シタルトキハ其ノ後見人ヲ処罰ス
第九章 附則
第八十九条 此ノ条例実施以前ニ許可ヲ得タル試掘人又ハ借区人ハ其ノ許可ヲ得タル年限中試掘又ハ鉱業ヲ為スコトヲ得
第九十条 此ノ条例実施以前ニ借区人ノ許可ヲ得借区年限満期後尚ホ引続キ鉱業ヲ為サントスル者ハ借区満期以前ニ此ノ条例ニ依リ出願スヘシ
第九十一条 此ノ条例ノ施行ニ関スル細則ハ農商務大臣之ヲ定ム
第九十二条 此ノ条例ハ明治二十五年六月一日ヨリ施行ス明治六年太政官第二百五十九号布告日本坑法ハ同日限之ヲ廃止ス