首都圏整備法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十一年四月二十六日
内閣総理大臣 鳩山一郎
法律第八十三号
首都圏整備法
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
首都圏整備委員会(第三条―第二十条)
第三章
首都圏整備計画(第二十一条―第二十三条)
第四章
首都圏整備計画に基く事業の実施(第二十四条―第三十三条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、首都圏の整備に関する総合的な計画を策定し、その実施を推進することにより、わが国の政治、経済、文化等の中心としてふさわしい首都圏の建設とその秩序ある発展を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「首都圏」とは、東京都の区域及び政令で定めるその周辺の地域を一体とした広域をいう。
2 この法律で「首都圏整備計画」とは、首都圏の建設とその秩序ある発展を図るため必要な首都圏の整備に関する計画をいう。
3 この法律で「既成市街地」とは、東京都及びこれと連接する枢要な都市を含む区域のうち政令で定める市街地の区域をいう。
4 この法律で「近郊地帯」とは、既成市街地の秩序ある発展を図るため緑地地帯を設定する必要がある既成市街地の近郊で政令で定める区域をいう。
5 この法律で「市街地開発区域」とは、既成市街地の周辺地域内の区域で第二十四条第一項の規定により指定されたものをいう。
第二章 首都圏整備委員会
(設置)
第三条 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項の規定に基いて、総理府の外局として、首都圏整備委員会(以下「委員会」という。)を設置する。
(所掌事務及び権限)
第四条 委員会の所掌事務及び権限は、次のとおりとする。
一 首都圏整備計画の作成及びその作成のため必要な調査を行うこと。
二 首都圏整備計画の実施に関する事務について必要な調整を行い、及びその実施を推進すること。
三 その他法律(これに基く命令を含む。)の定めるところにより委員会の権限に属させられた事項を実施すること。
(組織)
第五条 委員会は、委員長及び委員四人で組織する。
2 委員のうち二人は、非常勤とすることができる。
(委員長)
第六条 委員長は、国務大臣をもつて充てる。
2 委員長は、会務を総理し、委員会を代表する。
3 委員長は、あらかじめ、常勤の委員のうちから、委員長に故障がある場合において委員長を代理する者を定めておかなければならない。
(常勤の委員)
第七条 常勤の委員は、委員会の定めるところにより、首都圏整備計画の作成のため必要な調査その他の事務に従事する。
(委員の任命)
第八条 委員は、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。
2 委員の任期が満了し、又は欠員を生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のため両議院の同意を得ることができないときは、内閣総理大臣は、前項の規定にかかわらず、委員を任命することができる。
3 前項の場合においては、任命後最初の国会で両議院の承認を得なければならない。この場合において、両議院の承認を得られないときは、内閣総理大臣は、ただちにその委員を罷免しなければならない。
4 次の各号の一に該当する者は、委員となることができない。
一 禁治産者若しくは準禁治産者又は破産者で復権を得ない者
二 禁錮以上の刑に処せられた者
(委員の任期)
第九条 委員の任期は、三年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
2 委員は、再任されることができる。
(委員の失職及び罷免)
第十条 委員は、第八条第四項各号の一に該当するに至つたときは、その職を失うものとする。
2 内閣総理大臣は、委員が心身の故障のため職務の執行ができないと認めるとき、又は委員に職務上の業務違反その他委員たるに適しない非行があると認めるときは、両議院の同意を得て、これを罷免することができる。
(委員の給与)
第十一条 委員の給与は、別に法律で定める。
(特定行為の制限)
第十二条 常勤の委員は、在任中、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。
一 政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をすること。
二 内閣総理大臣の許可のある場合を除くほか、報酬を得て他の職務に従事し、又は営利事業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。
2 非常勤の委員は、在任中、前項第一号に該当する行為をしてはならない。
(会議)
第十三条 委員会の会議は、委員長が招集する。
2 委員会は、委員長及び二人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができない。
3 委員会の議事は、出席委員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。
4 委員長に故障があるときは、第六条第三項に規定する委員長を代理する者は、委員長の職務を行うものとし、第二項の規定の適用については、委員長である者とみなす。
(首都圏整備委員会規則)
第十四条 委員会は、法律又はこれに基く政令の定めるところにより、その権限に属する事項を執行するため必要な手続その他の事項について、首都圏整備委員会規則(以下「委員会規則」という。)を定めることができる。
(国会に対する報告等)
第十五条 委員会は、毎年度、内閣総理大臣を経由して国会に対し首都圏整備計画の作成及びその実施に関する状況を報告するとともに、その概要を公表しなければならない。
(事務局)
第十六条 委員会の事務局は、委員会の事務を処理する。
2 委員会の事務局に、事務局長その他の職員を置く。
3 委員会の事務局に置かれる職員の定員は、別に法律で定める。
第十七条 委員会の事務局に、次の二部を置く。
計画第一部
計画第二部
2 計画第一部においては、次の各号に掲げる事務をつかさどる。
一 基本計画の調査及び立案に関すること。
二 整備計画及び事業計画に係る局内事務の総合調整に関すること。
三 整備計画及び事業計画のうち第二十一条第三項第一号イ、ニ、ト及びチに掲げる事項及び同号リに掲げる事項で政令で定めるものについての調査及び立案並びにその実施に関する事務の調整及びその実施の推進に関すること。
四 市街地開発区域の指定その他市街地開発区域に関すること。
五 第三十条の規定による整備計画に関する総合的な施策の立案及びこれに基く勧告に関すること。
3 計画第二部においては、次の各号に掲げる事務をつかさどる。
一 整備計画及び事業計画のうち第二十一条第三項第一号ロ、ハ、ホ及びへに掲げる事項、同号リに掲げる事項で政令で定めるもの及び同項第二号に掲げる事項についての調査及び立案並びにその実施に関する事務の調整及びその実施の推進に関すること。
二 工業等制限区域の指定その他工業等制限区域に関すること。
(審議会)
第十八条 委員会に、首都圏整備審議会(以下「審議会」という。)を置く。
2 審議会は、委員会の諮問に応じ、審議会の権限に属させられた事項その他委員会の所掌事務に関する重要事項について調査審議する。
3 審議会は、委員会の所掌事務に関する重要事項について委員会に建議することができる。
第十九条 審議会は、次に掲げる者につき、委員会が任命する委員四十五人以内で組織する。
一 衆議院議員のうちから衆議院が指名した者 四人
二 参議院議員のうちから参議院が指名した者 二人
三 関係行政機関の職員 十人以内
四 関係都県の知事及び議会の議長 十六人以内
五 学識経験のある者 十三人以内
2 審議会の委員は、非常勤とする。
3 学識経験のある者のうちから任命される審議会の委員の任期は、二年とする。ただし、補欠の審議会の委員の任期は、前任者の残存期間とする。
4 前項の審議会の委員は、再任されることができる。
第二十条 この法律に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
第三章 首都圏整備計画
(首都圏整備計画の内容)
第二十一条 首都圏整備計画は、基本計画、整備計画及び事業計画とする。
2 基本計画には、首都圏内の人口規模、土地利用その他整備計画の基本となるべき事項について定めるものとする。
3 整備計画には、首都圏の整備に関する事項で次の各号に掲げるものについて、政令の定めるところにより、各事項ごとにそれぞれその根幹となるべきものを定めるものとする。ただし、首都圏の建設とその秩序ある発展を図るため特に必要があると認められるときは、首都圏の地域外にわたり定めることができる。
一 既成市街地、近郊地帯及び市街地開発区域の整備に関する事項で次に掲げるもの
イ 宅地の整備に関する事項
ロ 道路の整備に関する事項
ハ 鉄道、軌道、飛行場、港湾等の交通施設の整備に関する事項
ニ 公園、緑地等の空地の整備に関する事項
ホ 水道、下水道、汚物処理施設等の供給施設及び処理施設の整備に関する事項
ヘ 河川、水路及び海岸の整備に関する事項
ト 住宅等の建築物の整備に関する事項
チ 学校等の教育文化施設の整備に関する事項
リ その他首都圏の整備に関する事項で政令で定めるもの
二 既成市街地と市街地開発区域間及び市街地開発区域相互間の前号ロ及びハに掲げる事項
4 事業計画は、整備計画の実施のため必要な毎年度の事業で政令で定めるものについての計画とする。
(首都圏整備計画の決定)
第二十二条 首都圏整備計画は、委員会が関係行政機関の長、関係都県及び審議会の意見をきいて決定するものとする。
2 委員会は、首都圏整備計画を決定するについて必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体及び関係のある事業を営む者(以下「関係事業者」という。)に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他の必要な協力を求めることができる。
3 委員会は、首都圏整備計画を決定したときは、これを関係行政機関の長及び関係地方公共団体に送付するとともに、委員会規則の定めるところにより公表しなければならない。
4 前項の規定により公表された事項に関し利害関係を有する者は、公表の日から三十日以内に、委員会規則の定めるところにより委員会に意見を申し出ることができる。
5 前項の規定による申出があつたときは、委員会は、その申出を考慮して必要な措置を講じなければならない。
(首都圏整備計画の変更)
第二十三条 委員会は、その決定した首都圏整備計画が情勢の推移により適当でなくなつたとき、その他これを変更することが適当であると認めるときは、関係行政機関の長、関係都県及び審議会の意見をきいてこれを変更することができる。
2 前条第二項から第五項までの規定は、首都圏整備計画の変更について準用する。
第四章 首都圏整備計画に基く事業の実施
(市街地開発区域の指定)
第二十四条 委員会は、既成市街地への産業及び人口の集中傾向を緩和し、首都圏の地域内の産業及び人口の適正な配置を図るため必要があると認めるときは、工業都市又は住居都市として発展させることを適当とする既成市街地の周辺地域内の区域を市街地開発区域として指定することができる。
2 委員会は、市街地開発区域の指定をしようとするときは、関係地方公共団体及び審議会の意見をきくとともに、関係行政機関の長に協議しなければならない。
3 市街地開発区域の指定は、委員会が委員会規則の定めるところにより告示することによつて、その効力を生ずる。
(国の補助)
第二十五条 国は、市街地開発区域内において事業計画の実施にあたり必要な小学校又は中学校の施設の建設を行う地方公共団体に対し、政令の定めるところにより、予算の範囲内で、小学校の施設にあつてはその建設に要する経費の三分の一以内を、中学校の施設にあつてはその建設に要する経費の二分の一以内を補助することができる。
(市街地開発区域の整備に関する法律)
第二十六条 前二条に定めるもののほか、市街地開発区域内における宅地の造成その他市街地開発区域の整備に関し必要な事項は、別に法律で定める。
(工業等制限区域)
第二十七条 既成市街地への産業及び人口の過度の集中を防止するため、大規模な工場その他人口の増大をもたらす原因となる施設の新設又は増設を制限する必要があるときは、別に法律で定めるところにより、当該施設の新設又は増設を制限する必要がある既成市街地内の区域を工業等制限区域として指定することができる。
2 工業等制限区域内における施設の新設又は増設の制限に関し必要な事項は、別に法律で定める。
(事業の実施)
第二十八条 事業計画に基く事業は、この法律に定めるもののほか、当該事業に関する法律(これに基く命令を含む。)の規定に従い、国、地方公共団体又は関係事業者が実施するものとする。
(協力及び勧告)
第二十九条 関係行政機関の長、関係地方公共団体及び関係事業者は、整備計画及び事業計画の実施に関し、できる限り協力しなければならない。
2 委員会は、必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体又は関係事業者に対し、整備計画又は事業計画の実施に関し勧告し、及びその勧告によつて採られた措置その他整備計画又は事業計画の実施に関する状況について報告を求めることができる。
(整備計画に関する施策の立案及び勧告)
第三十条 委員会は、首都圏の建設とその秩序ある発展を図るため特に必要があると認めるときは、審議会の意見をきいて整備計画に関する総合的な施策を立案し、これに基いて関係行政機関の長及び関係地方公共団体に対し、勧告し、及びその勧告によつて採られた措置について報告を求めることができる。
(国の普通財産の譲渡)
第三十一条 国は、事業計画に基く事業の用に供するため必要があると認めるときは、その事業の執行に要する費用を負担する地方公共団体に対し、普通財産を譲渡することができる。
(資金の融通等)
第三十二条 国は、整備計画又は事業計画に基く事業を実施する地方公共団体又は関係事業者に対し、必要な資金の融通又はあつせんに努めなければならない。
(企業債)
第三十三条 地方公共団体が事業計画に基き行う地方公営企業法(昭和二十七年法律第二百九十二号)に規定する地方公営企業の建設、改良等に要する資金に充てるための地方債で委員会と自治庁長官とが協議して定めるものについては、同法附則第二項の規定の適用がある間は、資金事情及び当該地方公共団体の財政状況が許す限り、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十条に規定する許可を与えるものとする。
附 則
(施行期日)
1 この法律の施行期日は、公布の日から起算して六十日をこえない範囲内で政令で定める。
2 第八条第一項中両議院の同意を得ることに係る部分及び第十九条第一項中衆議院又は参議院が指名することに係る部分は、前項の規定にかかわらず、公布の日から施行する。
(委員会の委員の任命手続の特例)
3 第八条第二項及び第三項の規定は、この法律の施行後最初に行われる委員会の委員の任命について準用する。
(首都建設法の廃止)
4 首都建設法(昭和二十五年法律第二百十九号)は、廃止する。
(経過規定)
5 この法律の施行の際現に首都建設委員会の事務局の職員に兼ねて任命されている建設省計画局の職員である者は、別に辞令を発せられないときは、同一の勤務条件をもつて、首都圏整備委員会の事務局の職員となるものとする。
(関係法律の改正)
6 国家行政組織法の一部を次のように改正する。
別表第一の総理府の項中「土地調整委員会」を
土地調整委員会
首都圏整備委員会
に改め、同表の建設省の項中「首都建設委員会」を削る。
7 総理府設置法(昭和二十四年法律第百二十七号)の一部を次のように改正する。
第十七条中「土地調整委員会」を、
土地調整委員会
首都圏整備委員会
に改める。
第十八条中
土地調整委員会
土地調整委員会設置法(昭和二十五年法律第二百九十二号)
土地調整委員会
土地調整委員会設置法(昭和二十五年法律第二百九十二号)
首都圏整備委員会
首都圏整備法(昭和三十一年法律第八十三号)
に改める。
8 建設省設置法(昭和二十三年法律第百十三号)の一部を次のように改正する。
第五章を次のように改める。
第五章 削除
第十六条及び第十七条 削除
9 特別職の職員の給与に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十二号)の一部を次のように改正する。
第一条第十一号の次に次の一号を加える。
十一の二 首都圏整備委員会の常勤の委員
第一条第十八号の次に次の一号を加える。
十八の二 首都圏整備委員会の非常勤の委員
第一条第二十八号を次のように改める。
二十八 削除
別表第一中「土地調整委員会委員」を
土地調整委員会委員
首都圏整備委員会の常勤の委員
に改める。
10 行政機関職員定員法(昭和二十四年法律第百二十六号)の一部を次のように改正する。
第二条第一項の表の総理府の項中
土地調整委員会
一八人
土地調整委員会
一八人
首都圏整備委員会
二二人
に、
一九、五五六人
一九、五七八人
に、同表の運輸省の項中
本省
一四、三五二人
本省
一四、三五〇人
に、
二五、三七〇人
二五、三六八人
に、同表の建設省の項中
本省
九、九二八人
首都建設委員会
―人
 計
九、九二八人
本省
九、九〇八人
に改める。
11 運輸省本省及び建設省本省の定員に関しては、行政機関職員定員法の一部を改正する法律(昭和三十一年法律第四十八号)附則第二条中「新法第二条第一項」とあるのは「首都圏整備法(昭和三十一年法律第八十三号)附則第十項の規定による改正後の行政機関職員定員法第二条第一項」と読み替えて、同条の規定を適用するものとする。
12 国土総合開発法(昭和二十五年法律第二百五号)の一部を次のように改正する。
第十四条の見出し中「北海道総合開発計画」を「北海道総合開発計画等」に、同条中「北海道総合開発計画」を「北海道総合開発計画又は首都圏整備計画」に、「北海道開発庁長官及び」を「北海道開発庁長官又は首都圏整備委員会と」に改める。
内閣総理大臣 鳩山一郎
大蔵大臣 一万田尚登
文部大臣 清瀬一郎
厚生大臣 小林英三
農林大臣臨時代理 国務大臣 高碕達之助
通商産業大臣 石橋湛山
運輸大臣 吉野信次
建設大臣 馬場元治