朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル砂防法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十年三月二十七日
內閣總理大臣 伯爵 松方正義
內務大臣 伯爵 樺山資紀
法律第二十九號
砂防法
第一章
總則
第二章
土地ノ制限及砂防設備
第三章
砂防ニ關スル費用ノ負擔、土地所有者ノ權利義務竝收入等
第四章
警察、監督及强制手續
第五章
訴願及訴訟
第六章
附則
砂防法
第一章 總則
第一條 此ノ法律ニ於テ砂防設備ト稱スルハ主務大臣ノ指定シタル土地ニ於テ治水上砂防ノ爲施設スルモノヲ謂ヒ砂防工事ト稱スルハ砂防設備ノ爲ニ施行スル作業ヲ謂フ
第二條 砂防設備ヲ要スル土地又ハ此ノ法律ニ依リ治水上砂防ノ爲一定ノ行爲ヲ禁止若ハ制限スヘキ土地ハ主務大臣之ヲ指定ス
第三條 此ノ法律ニ規定シタル事項ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ主務大臣ノ指定シタル土地ノ範圍外ニ於テ治水上砂防ノ爲施設スルモノニ準用スルコトヲ得
第二章 土地ノ制限及砂防設備
第四條 第二條ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ニ於テハ地方行政廳ハ治水上砂防ノ爲一定ノ行爲ヲ禁止若ハ制限スルコトヲ得
前項ノ禁止若ハ制限ニシテ他府縣ノ利益ヲ保全スル爲必要ナルカ又ハ其ノ利害關係一府縣ニ止マラサルトキハ主務大臣ハ前項ノ職權ヲ施行スルコトヲ得
第五條 地方行政廳ハ其ノ管內ニ於テ第二條ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ヲ監視シ及其ノ管內ニ於ケル砂防設備ヲ管理シ其ノ工事ヲ施行シ其ノ維持ヲナスノ義務アルモノトス
第六條 砂防設備ニシテ他府縣ノ利益ヲ保全スル爲必要ナルカ又ハ其ノ利害關係一府縣ニ止マラサル場合ニ於テハ主務大臣ハ之ヲ管理シ又ハ其ノ工事ヲ施行シ又ハ其ノ維持ヲナスコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ其ノ砂防設備ニ因リ特ニ利益ヲ受クル公共團體ノ行政廳ニ命シテ其ノ工事ヲ施行セシメ又ハ其ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
本條ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ此ノ法律ニ依リ地方行政廳ノ有スル職權ヲ直接施行スルコトヲ得
第七條 地方行政廳ハ其ノ管內ノ下級行政廳ヲシテ砂防工事ヲ施行セシメ又ハ砂防設備ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
第八條 他ノ工事、作業其ノ他ノ行爲ニ因リ砂防工事ヲ施行スルノ必要ヲ生スルトキハ地方行政廳ハ其ノ行爲ヲナシタル者ヲシテ其ノ工事ヲ施行シ又ハ其ノ砂防設備ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
第九條 行政廳ハ砂防工事ノ請負ヲナスコトヲ得ス
第十條 砂防工事ノ請負ノ制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一條 第二條ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ニ對シテハ勅令ノ定ムル所ニ從ヒ地租其ノ他ノ公課ヲ減免スルコトヲ得
第三章 砂防ニ關スル費用ノ負擔、土地所有者ノ權利義務竝收入等
第十二條 第二條ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ノ監視及砂防設備ノ管理、維持竝砂防工事ニ要スル費用ハ府縣ノ負擔トス
第十三條 砂防工事ニ要スル費用ハ其ノ一部ヲ國庫ヨリ府縣ニ補助スルコトヲ得
前項國庫ノ補助額ハ工費豫算ノ三分ノ二ヲ超過スルコトヲ得ス
本條ノ補助金ハ精算ノ上其ノ費用ノ三分ノ二ヲ超過スルコトアルモ其ノ超過額ヲ還付セシメサルコトヲ得
災害ニ因リ必要ヲ生シタル砂防工事ニ要スル費用ハ本條ニ依ルノ限ニ在ラス
第十四條 第六條ニ依リ主務大臣ニ於テ砂防設備ノ管理及維持ヲナシ又ハ砂防工事ヲ施行スル場合ニ於テハ其ノ費用ハ國庫ノ負擔トス
前項ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ府縣ヲシテ前項費用ノ三分ノ一以內ヲ負擔セシムルコトヲ得
前項ニ依リ府縣ノ負擔スヘキ金額竝其ノ年度割及納付期限等ハ主務大臣之ヲ定ム
第十五條 地方行政廳ハ其ノ管內ノ下級公共團體ヲシテ砂防ニ關スル費用ノ一部ヲ負擔セシムルコトヲ得
第十六條 砂防工事ニシテ他ノ工事、作業其ノ他ノ行爲ニ因リ必要ヲ生スルモノナルトキハ其ノ費用ハ工事ノ必要ヲ生スル程度ニ於テ其ノ原因タル工事、作業其ノ他ノ行爲ニ關シ費用ヲ負擔スル者ヲシテ之ヲ負擔セシムルコトヲ得但シ河川法第三十二條第二項ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十七條 砂防工事ニシテ他ノ府縣若ハ他府縣內ノ公共團體ニ於テ著シク利益ヲ受クルモノナルトキハ其ノ府縣若ハ其ノ府縣內ノ公共團體ヲシテ其ノ費用ノ一部ヲ負擔セシムルコトヲ得
第十八條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ行政廳ノ命シタル事項ヲ遵守スル爲ニ要スル費用ハ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外其ノ命ヲ受ケタル者ノ負擔トス
主務大臣若ハ地方行政廳ニ於テ義務者ノ履行スヘキ義務ヲ自ラ執行シ又ハ第三者ヲシテ執行セシメタルカ爲ニ要シタル費用ハ其ノ義務者ヨリ之ヲ追徵スルコトヲ得
第十九條 公共團體ハ砂防工事若ハ砂防ニ關スル費用ノ爲寄付ヲナスコトヲ得
第二十條 公共團體ハ砂防ニ關スル費用ニ付キ私人若ハ其ノ區域內ノ下級公共團體ニ補助ヲナスコトヲ得
第二十一條 公共團體ハ砂防ニ關スル費用ニ付キ利害關係ノ厚薄ヲ標準トシテ其ノ區域內ニ於テ不均一ノ賦課ヲナスコトヲ得
第二十二條 砂防工事ノ爲必要ナルトキハ地方行政廳ハ管內ノ土地若ハ森林ノ所有者ニ命シ補償金トシテ時價相當ノ金額ヲ下付シテ其ノ所有ニ係ル土石、砂礫、芝草、竹木及運搬具ヲ供給セシムルコトヲ得但シ時價ニ關シテ協議整ハサルトキ又ハ所有者不明ナルトキ若ハ其ノ所在不明ナルトキハ地方行政廳ハ相當ト認ムル金額ヲ供託シテ本條ノ供給ヲナサシムルコトヲ得
第二十三條 砂防ノ爲必要ナルトキハ行政廳ハ第二條ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地又ハ之ニ鄰接スル土地ニ立入リ又ハ其ノ土地ヲ材料置場等ニ供シ又ハ已ムヲ得サルトキハ其ノ土地ニ現在スル障害物ヲ除却スルコトヲ得
前項ノ適用ニ依リ損害ヲ受ケタル者ハ使用若ハ除却ノ後三箇月以內ニ補償金ヲ請求スルコトヲ得
第二十四條 第二條ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ノ所有者若ハ關係人ハ行政廳若ハ其ノ命ヲ受ケタル私人ニ於テ其ノ土地ニ砂防工事ヲ施行シ又ハ砂防設備ノ維持ヲナスコトヲ拒ムコトヲ得ス
第二十五條 法律、命令若ハ許可認可ノ條件ニ違背シタル工事、設備若ハ工作物ノ管理ニ因リ損害ヲ受ケシメタル者ハ其ノ損害ヲ賠償スヘシ
第二十六條 此ノ法律ニ依リ行政廳ニ於テ下付スヘキ補償金若ハ賠償金ハ其ノ行政廳ノ直接ニ管轄スル公共團體ノ負擔トス
第二十七條 砂防設備ヨリ生スル收入ハ府縣ニ歸ス但シ地方行政廳ハ其ノ收入ヲ第二條ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地若ハ其ノ土地ニ在ル森林ノ所有者又ハ其ノ砂防設備ノ施設者ニ下付スルコトヲ得
第二十八條 砂防設備ニシテ其ノ公用ヲ廢シタルトキハ地方行政廳ハ之ヲ其ノ砂防設備ノ現在スル土地若ハ森林ノ所有者ニ下付スルコトヲ得
第四章 警察、監督及强制手續
第二十九條 第四條ニ依リ主務大臣若ハ地方行政廳ニ於テ一定ノ事項ニ對シ許可ヲ受ケシメタル場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ主務大臣若ハ地方行政廳ハ其ノ許可ヲ取消シ若ハ其ノ效力ヲ停止シ若ハ其ノ條件ヲ變更シ又ハ設備ノ變更若ハ原形ノ囘復ヲ命シ又ハ許可セラレタル事項ニ因リ生スル害ヲ豫防スル爲ニ必要ナル設備ヲ命スルコトヲ得
第三十條 法律、命令若ハ許可ノ條件ニ違背シタル者ハ行政廳ノ命スル所ニ從ヒ其ノ違背ニ因リテ生スル事實ヲ更正シ且其ノ違背ニ因リテ生スヘキ損害ヲ豫防スル爲ニ必要ナル設備ヲナスヘシ
第三十一條 地方行政廳ハ第二條ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地監視ノ爲竝砂防設備管理ノ爲吏員ヲ置クヘシ其ノ定員、給料、手當、職務權限竝其ノ費用ノ負擔者等ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十二條 主務大臣ハ砂防ニ關スル行政ヲ監督ス
地方行政廳ヲシテ第一次ニ於テ監督セシムヘキ事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
此ノ法律ニ規定シタル事項ニシテ主務大臣若ハ地方行政廳ノ認可ヲ要スルモノハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九條及第二十條ニ規定シタル事項竝此ノ法律ニ依リ行政廳ニ付與シタル職權ニ關シテハ命令ヲ以テ制限ヲ設クルコトヲ得
第三十三條 他ノ府縣若ハ他府縣內ノ公共團體若ハ私人ヲシテ費用ヲ負擔セシムル爲ニ必要ナル手續ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十四條 主務大臣ハ地方行政廳ニ命シテ砂防工事ヲ施行セシメ其ノ他此ノ法律ニ規定シタル地方行政廳ノ職權ヲ施行セシムルコトヲ得
第三十五條 義務者ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依ル義務ヲ履行セス若ハ之ヲ履行スルモ必要ノ期限內ニ終了スルノ見込ナキトキ又ハ其ノ履行ノ方法宜ヲ得サルトキハ主務大臣若ハ地方行政廳ハ自ラ之ヲ執行シ又ハ第三者ヲシテ之ヲ執行セシムルコトヲ得
第三十六條 私人ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依ル義務ヲ怠ルトキハ主務大臣若ハ地方行政廳ハ一定ノ期限ヲ示シ若シ期限內ニ履行セサルトキ若ハ之ヲ履行スルモ不充分ナルトキハ五百圓以內ニ於テ指定シタル過料ニ處スルコトヲ豫吿シテ其ノ履行ヲ命スルコトヲ得
第三十七條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ關シ保證金ヲ納付セシメタル場合ニ於テハ行政廳ニ於テ直ニ之ヲ其ノ納付ノ目的又ハ過料ニ充用スルコトヲ得
前項保證金ハ他ノ債權ノ爲ニ差押フルコトヲ得ス
第三十八條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ私人ニ於テ負擔スヘキ費用及過料ハ此ノ法律ニ於テ特ニ民事訴訟ヲ許シタル場合ヲ除クノ外行政廳ニ於テ國稅ノ滯納處分ニ關スル規程ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得
前項ノ費用及過料ニ付キ行政廳ハ國稅ニ次キ先取特權ヲ有スルモノトス
此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ公共團體ニ於テ負擔スヘキ費用ニ關シテハ此ノ法律ニ於テ特ニ民事訴訟ヲ許シタル場合ヲ除クノ外主務大臣若ハ地方行政廳ハ必要ナル場合ニ於テハ金額ヲ定メテ之ヲ其ノ豫算表ニ揭ケ其ノ他必要ナル處分ヲ指揮シ直ニ其ノ金額ヲ支出セシムルコトヲ得
第三十九條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ行政廳ニ付與シタル職權ハ行政處分ニ依リ之ヲ强制スルコトヲ得
行政廳ノ許可若ハ認可ニ附シタル條件ニ關シテモ亦本條及前條ヲ準用ス
第四十條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ關シテハ砂防視察ノ職務ヲ有スル官吏ヲシテ命令ノ定ムル所ニ從ヒ警察官ノ職權ノ全部若ハ一部ヲ執行セシムルコトヲ得
第四十一條 此ノ法律ニ規定シタル私人ノ義務ニ關シテハ命令ヲ以テ二百圓以內ノ罰金若ハ一年以下ノ禁錮ノ罰則ヲ設クルコトヲ得
第五章 訴願及訴訟
第四十二條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ主務大臣若ハ地方行政廳ノナシタル處分ニ對シテ不服アル私人若ハ公共團體ハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得
此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令若ハ地方行政廳ノ委任ニ依リ下級行政廳ノナシタル處分ニ對シテ不服アル私人若ハ公共團體ハ地方行政廳ニ訴願シ地方行政廳ノ裁決ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得
此ノ法律ニ依リ行政訴訟ノ提起ヲ許シタル場合ニ於テハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得ス
第四十三條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ關シ行政廳ノ違法處分ニ依リ權利ヲ毀損セラレタリトスル私人若ハ公共團體ハ前條ニ依リ訴願ノ裁決ヲ經タル後行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ主務大臣若ハ地方行政廳ノ處分ニ對シテハ直ニ之ヲ提起スルコトヲ得
第四十四條 第二十五條ニ依リ損害賠償ヲ請求スル私人若ハ公共團體ハ損害ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以內ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
法律、命令若ハ許可認可ノ條件ニ違背シタルヤ否ヤニ付キ爭アルトキハ前數條ノ手續又ハ監督官廳ノ決定ニ依リ其ノ違背シタリトノ事實確定シタル後ニアラサレハ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス但シ此ノ場合ニ於テハ前項ノ期間ハ確定ノ日ヨリ起算スルモノトス
第四十五條 第二十二條若ハ第二十三條ニ依リ下付スヘキ補償金額ニ對シ不服アルトキハ行政廳ニ於テ金額ノ通知ヲナシタル日ヨリ六箇月以內ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ第二十三條ノ場合ニ於テ補償金請求ノ後六箇月以內ニ其ノ金額ノ通知ナキトキハ其ノ期限經過後六箇月以內ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第四十六條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ關シテハ本章ノ規程ニ依リ特ニ許シタル場合ヲ除クノ外訴願若ハ行政訴訟ヲ提起シ又ハ行政廳ニ對シ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
第六章 附則
第四十七條 此ノ法律ハ明治三十年四月一日ヨリ施行ス
此ノ法律ヲ施行スル爲ニ必要ナル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十八條 第二條ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ニ在ル從來ノ砂防ニ關シテハ勅令ヲ以テ特別ノ規程ヲ設クル場合ヲ除クノ外此ノ法律ノ規程ニ依ル
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル砂防法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十年三月二十七日
内閣総理大臣 伯爵 松方正義
内務大臣 伯爵 樺山資紀
法律第二十九号
砂防法
第一章
総則
第二章
土地ノ制限及砂防設備
第三章
砂防ニ関スル費用ノ負担、土地所有者ノ権利義務並収入等
第四章
警察、監督及強制手続
第五章
訴願及訴訟
第六章
附則
砂防法
第一章 総則
第一条 此ノ法律ニ於テ砂防設備ト称スルハ主務大臣ノ指定シタル土地ニ於テ治水上砂防ノ為施設スルモノヲ謂ヒ砂防工事ト称スルハ砂防設備ノ為ニ施行スル作業ヲ謂フ
第二条 砂防設備ヲ要スル土地又ハ此ノ法律ニ依リ治水上砂防ノ為一定ノ行為ヲ禁止若ハ制限スヘキ土地ハ主務大臣之ヲ指定ス
第三条 此ノ法律ニ規定シタル事項ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ主務大臣ノ指定シタル土地ノ範囲外ニ於テ治水上砂防ノ為施設スルモノニ準用スルコトヲ得
第二章 土地ノ制限及砂防設備
第四条 第二条ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ニ於テハ地方行政庁ハ治水上砂防ノ為一定ノ行為ヲ禁止若ハ制限スルコトヲ得
前項ノ禁止若ハ制限ニシテ他府県ノ利益ヲ保全スル為必要ナルカ又ハ其ノ利害関係一府県ニ止マラサルトキハ主務大臣ハ前項ノ職権ヲ施行スルコトヲ得
第五条 地方行政庁ハ其ノ管内ニ於テ第二条ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ヲ監視シ及其ノ管内ニ於ケル砂防設備ヲ管理シ其ノ工事ヲ施行シ其ノ維持ヲナスノ義務アルモノトス
第六条 砂防設備ニシテ他府県ノ利益ヲ保全スル為必要ナルカ又ハ其ノ利害関係一府県ニ止マラサル場合ニ於テハ主務大臣ハ之ヲ管理シ又ハ其ノ工事ヲ施行シ又ハ其ノ維持ヲナスコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ其ノ砂防設備ニ因リ特ニ利益ヲ受クル公共団体ノ行政庁ニ命シテ其ノ工事ヲ施行セシメ又ハ其ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
本条ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ此ノ法律ニ依リ地方行政庁ノ有スル職権ヲ直接施行スルコトヲ得
第七条 地方行政庁ハ其ノ管内ノ下級行政庁ヲシテ砂防工事ヲ施行セシメ又ハ砂防設備ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
第八条 他ノ工事、作業其ノ他ノ行為ニ因リ砂防工事ヲ施行スルノ必要ヲ生スルトキハ地方行政庁ハ其ノ行為ヲナシタル者ヲシテ其ノ工事ヲ施行シ又ハ其ノ砂防設備ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
第九条 行政庁ハ砂防工事ノ請負ヲナスコトヲ得ス
第十条 砂防工事ノ請負ノ制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一条 第二条ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ニ対シテハ勅令ノ定ムル所ニ従ヒ地租其ノ他ノ公課ヲ減免スルコトヲ得
第三章 砂防ニ関スル費用ノ負担、土地所有者ノ権利義務並収入等
第十二条 第二条ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ノ監視及砂防設備ノ管理、維持並砂防工事ニ要スル費用ハ府県ノ負担トス
第十三条 砂防工事ニ要スル費用ハ其ノ一部ヲ国庫ヨリ府県ニ補助スルコトヲ得
前項国庫ノ補助額ハ工費予算ノ三分ノ二ヲ超過スルコトヲ得ス
本条ノ補助金ハ精算ノ上其ノ費用ノ三分ノ二ヲ超過スルコトアルモ其ノ超過額ヲ還付セシメサルコトヲ得
災害ニ因リ必要ヲ生シタル砂防工事ニ要スル費用ハ本条ニ依ルノ限ニ在ラス
第十四条 第六条ニ依リ主務大臣ニ於テ砂防設備ノ管理及維持ヲナシ又ハ砂防工事ヲ施行スル場合ニ於テハ其ノ費用ハ国庫ノ負担トス
前項ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ府県ヲシテ前項費用ノ三分ノ一以内ヲ負担セシムルコトヲ得
前項ニ依リ府県ノ負担スヘキ金額並其ノ年度割及納付期限等ハ主務大臣之ヲ定ム
第十五条 地方行政庁ハ其ノ管内ノ下級公共団体ヲシテ砂防ニ関スル費用ノ一部ヲ負担セシムルコトヲ得
第十六条 砂防工事ニシテ他ノ工事、作業其ノ他ノ行為ニ因リ必要ヲ生スルモノナルトキハ其ノ費用ハ工事ノ必要ヲ生スル程度ニ於テ其ノ原因タル工事、作業其ノ他ノ行為ニ関シ費用ヲ負担スル者ヲシテ之ヲ負担セシムルコトヲ得但シ河川法第三十二条第二項ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十七条 砂防工事ニシテ他ノ府県若ハ他府県内ノ公共団体ニ於テ著シク利益ヲ受クルモノナルトキハ其ノ府県若ハ其ノ府県内ノ公共団体ヲシテ其ノ費用ノ一部ヲ負担セシムルコトヲ得
第十八条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ行政庁ノ命シタル事項ヲ遵守スル為ニ要スル費用ハ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外其ノ命ヲ受ケタル者ノ負担トス
主務大臣若ハ地方行政庁ニ於テ義務者ノ履行スヘキ義務ヲ自ラ執行シ又ハ第三者ヲシテ執行セシメタルカ為ニ要シタル費用ハ其ノ義務者ヨリ之ヲ追徴スルコトヲ得
第十九条 公共団体ハ砂防工事若ハ砂防ニ関スル費用ノ為寄付ヲナスコトヲ得
第二十条 公共団体ハ砂防ニ関スル費用ニ付キ私人若ハ其ノ区域内ノ下級公共団体ニ補助ヲナスコトヲ得
第二十一条 公共団体ハ砂防ニ関スル費用ニ付キ利害関係ノ厚薄ヲ標準トシテ其ノ区域内ニ於テ不均一ノ賦課ヲナスコトヲ得
第二十二条 砂防工事ノ為必要ナルトキハ地方行政庁ハ管内ノ土地若ハ森林ノ所有者ニ命シ補償金トシテ時価相当ノ金額ヲ下付シテ其ノ所有ニ係ル土石、砂礫、芝草、竹木及運搬具ヲ供給セシムルコトヲ得但シ時価ニ関シテ協議整ハサルトキ又ハ所有者不明ナルトキ若ハ其ノ所在不明ナルトキハ地方行政庁ハ相当ト認ムル金額ヲ供託シテ本条ノ供給ヲナサシムルコトヲ得
第二十三条 砂防ノ為必要ナルトキハ行政庁ハ第二条ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地又ハ之ニ隣接スル土地ニ立入リ又ハ其ノ土地ヲ材料置場等ニ供シ又ハ已ムヲ得サルトキハ其ノ土地ニ現在スル障害物ヲ除却スルコトヲ得
前項ノ適用ニ依リ損害ヲ受ケタル者ハ使用若ハ除却ノ後三箇月以内ニ補償金ヲ請求スルコトヲ得
第二十四条 第二条ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ノ所有者若ハ関係人ハ行政庁若ハ其ノ命ヲ受ケタル私人ニ於テ其ノ土地ニ砂防工事ヲ施行シ又ハ砂防設備ノ維持ヲナスコトヲ拒ムコトヲ得ス
第二十五条 法律、命令若ハ許可認可ノ条件ニ違背シタル工事、設備若ハ工作物ノ管理ニ因リ損害ヲ受ケシメタル者ハ其ノ損害ヲ賠償スヘシ
第二十六条 此ノ法律ニ依リ行政庁ニ於テ下付スヘキ補償金若ハ賠償金ハ其ノ行政庁ノ直接ニ管轄スル公共団体ノ負担トス
第二十七条 砂防設備ヨリ生スル収入ハ府県ニ帰ス但シ地方行政庁ハ其ノ収入ヲ第二条ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地若ハ其ノ土地ニ在ル森林ノ所有者又ハ其ノ砂防設備ノ施設者ニ下付スルコトヲ得
第二十八条 砂防設備ニシテ其ノ公用ヲ廃シタルトキハ地方行政庁ハ之ヲ其ノ砂防設備ノ現在スル土地若ハ森林ノ所有者ニ下付スルコトヲ得
第四章 警察、監督及強制手続
第二十九条 第四条ニ依リ主務大臣若ハ地方行政庁ニ於テ一定ノ事項ニ対シ許可ヲ受ケシメタル場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ主務大臣若ハ地方行政庁ハ其ノ許可ヲ取消シ若ハ其ノ効力ヲ停止シ若ハ其ノ条件ヲ変更シ又ハ設備ノ変更若ハ原形ノ回復ヲ命シ又ハ許可セラレタル事項ニ因リ生スル害ヲ予防スル為ニ必要ナル設備ヲ命スルコトヲ得
第三十条 法律、命令若ハ許可ノ条件ニ違背シタル者ハ行政庁ノ命スル所ニ従ヒ其ノ違背ニ因リテ生スル事実ヲ更正シ且其ノ違背ニ因リテ生スヘキ損害ヲ予防スル為ニ必要ナル設備ヲナスヘシ
第三十一条 地方行政庁ハ第二条ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地監視ノ為並砂防設備管理ノ為吏員ヲ置クヘシ其ノ定員、給料、手当、職務権限並其ノ費用ノ負担者等ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十二条 主務大臣ハ砂防ニ関スル行政ヲ監督ス
地方行政庁ヲシテ第一次ニ於テ監督セシムヘキ事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
此ノ法律ニ規定シタル事項ニシテ主務大臣若ハ地方行政庁ノ認可ヲ要スルモノハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九条及第二十条ニ規定シタル事項並此ノ法律ニ依リ行政庁ニ付与シタル職権ニ関シテハ命令ヲ以テ制限ヲ設クルコトヲ得
第三十三条 他ノ府県若ハ他府県内ノ公共団体若ハ私人ヲシテ費用ヲ負担セシムル為ニ必要ナル手続ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十四条 主務大臣ハ地方行政庁ニ命シテ砂防工事ヲ施行セシメ其ノ他此ノ法律ニ規定シタル地方行政庁ノ職権ヲ施行セシムルコトヲ得
第三十五条 義務者ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依ル義務ヲ履行セス若ハ之ヲ履行スルモ必要ノ期限内ニ終了スルノ見込ナキトキ又ハ其ノ履行ノ方法宜ヲ得サルトキハ主務大臣若ハ地方行政庁ハ自ラ之ヲ執行シ又ハ第三者ヲシテ之ヲ執行セシムルコトヲ得
第三十六条 私人ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依ル義務ヲ怠ルトキハ主務大臣若ハ地方行政庁ハ一定ノ期限ヲ示シ若シ期限内ニ履行セサルトキ若ハ之ヲ履行スルモ不充分ナルトキハ五百円以内ニ於テ指定シタル過料ニ処スルコトヲ予告シテ其ノ履行ヲ命スルコトヲ得
第三十七条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ関シ保証金ヲ納付セシメタル場合ニ於テハ行政庁ニ於テ直ニ之ヲ其ノ納付ノ目的又ハ過料ニ充用スルコトヲ得
前項保証金ハ他ノ債権ノ為ニ差押フルコトヲ得ス
第三十八条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ私人ニ於テ負担スヘキ費用及過料ハ此ノ法律ニ於テ特ニ民事訴訟ヲ許シタル場合ヲ除クノ外行政庁ニ於テ国税ノ滞納処分ニ関スル規程ニ依リ之ヲ徴収スルコトヲ得
前項ノ費用及過料ニ付キ行政庁ハ国税ニ次キ先取特権ヲ有スルモノトス
此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ公共団体ニ於テ負担スヘキ費用ニ関シテハ此ノ法律ニ於テ特ニ民事訴訟ヲ許シタル場合ヲ除クノ外主務大臣若ハ地方行政庁ハ必要ナル場合ニ於テハ金額ヲ定メテ之ヲ其ノ予算表ニ掲ケ其ノ他必要ナル処分ヲ指揮シ直ニ其ノ金額ヲ支出セシムルコトヲ得
第三十九条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ行政庁ニ付与シタル職権ハ行政処分ニ依リ之ヲ強制スルコトヲ得
行政庁ノ許可若ハ認可ニ附シタル条件ニ関シテモ亦本条及前条ヲ準用ス
第四十条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ関シテハ砂防視察ノ職務ヲ有スル官吏ヲシテ命令ノ定ムル所ニ従ヒ警察官ノ職権ノ全部若ハ一部ヲ執行セシムルコトヲ得
第四十一条 此ノ法律ニ規定シタル私人ノ義務ニ関シテハ命令ヲ以テ二百円以内ノ罰金若ハ一年以下ノ禁錮ノ罰則ヲ設クルコトヲ得
第五章 訴願及訴訟
第四十二条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ主務大臣若ハ地方行政庁ノナシタル処分ニ対シテ不服アル私人若ハ公共団体ハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得
此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令若ハ地方行政庁ノ委任ニ依リ下級行政庁ノナシタル処分ニ対シテ不服アル私人若ハ公共団体ハ地方行政庁ニ訴願シ地方行政庁ノ裁決ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得
此ノ法律ニ依リ行政訴訟ノ提起ヲ許シタル場合ニ於テハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得ス
第四十三条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ関シ行政庁ノ違法処分ニ依リ権利ヲ毀損セラレタリトスル私人若ハ公共団体ハ前条ニ依リ訴願ノ裁決ヲ経タル後行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ主務大臣若ハ地方行政庁ノ処分ニ対シテハ直ニ之ヲ提起スルコトヲ得
第四十四条 第二十五条ニ依リ損害賠償ヲ請求スル私人若ハ公共団体ハ損害ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
法律、命令若ハ許可認可ノ条件ニ違背シタルヤ否ヤニ付キ争アルトキハ前数条ノ手続又ハ監督官庁ノ決定ニ依リ其ノ違背シタリトノ事実確定シタル後ニアラサレハ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス但シ此ノ場合ニ於テハ前項ノ期間ハ確定ノ日ヨリ起算スルモノトス
第四十五条 第二十二条若ハ第二十三条ニ依リ下付スヘキ補償金額ニ対シ不服アルトキハ行政庁ニ於テ金額ノ通知ヲナシタル日ヨリ六箇月以内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ第二十三条ノ場合ニ於テ補償金請求ノ後六箇月以内ニ其ノ金額ノ通知ナキトキハ其ノ期限経過後六箇月以内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第四十六条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ関シテハ本章ノ規程ニ依リ特ニ許シタル場合ヲ除クノ外訴願若ハ行政訴訟ヲ提起シ又ハ行政庁ニ対シ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
第六章 附則
第四十七条 此ノ法律ハ明治三十年四月一日ヨリ施行ス
此ノ法律ヲ施行スル為ニ必要ナル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十八条 第二条ニ依リ主務大臣ノ指定シタル土地ニ在ル従来ノ砂防ニ関シテハ勅令ヲ以テ特別ノ規程ヲ設クル場合ヲ除クノ外此ノ法律ノ規程ニ依ル