朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル信託業法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
攝政名
大正十一年四月二十日
內閣總理大臣兼大藏大臣 子爵 高橋是淸
法律第六十五號
信託業法
第一條 信託業ハ主務大臣ノ免許ヲ受クルニ非サレハ之ヲ營ムコトヲ得ス
前項ノ免許ヲ受ケムトスル者ハ申請書ニ定款竝業務ノ種類及方法ヲ記載シタル書面ヲ添附シ之ヲ主務大臣ニ提出スヘシ
第二條 信託業ハ資本金百萬圓以上ノ株式會社ニ非サレハ之ヲ營ムコトヲ得ス
第三條 信託會社ハ其ノ商號中ニ信託ナル文字ヲ用ウヘシ
信託會社ニ非サルモノハ其ノ商號中ニ信託業者タルコトヲ示スヘキ文字ヲ用ウルコトヲ得ス但シ擔保附社債ニ關スル信託業ヲ營ム者ハ此ノ限ニ在ラス
第四條 信託會社ハ左ニ揭クル財產以外ノモノノ信託ノ引受ヲ爲スコトヲ得ス
一 金錢
二 有價證券
三 金錢債權
四 動產
五 土地及其ノ定著物
六 地上權及土地ノ賃借權
第五條 信託會社ハ左ニ揭クル業務ニ限リ之ヲ併セ營ムコトヲ得
一 保護預リ
二 債務ノ保證
三 不動產賣買ノ媒介又ハ金錢若ハ不動產ノ貸借ノ媒介
四 公債社債若ハ株式ノ募集、其ノ拂込金ノ受入又ハ其ノ元利金若ハ配當金ノ支拂ノ取扱
五 左ノ事項ニ關スル代理事務
イ 財產ノ取得、管理、處分又ハ貸借
ロ 財產ノ整理又ハ淸算
ハ 債權ノ取立
ニ 債務ノ履行
主務大臣ハ債務ノ保證ニ付命令ヲ以テ必要ナル制限ヲ設クルコトヲ得
第六條 信託會社ハ擔保附社債信託法ニ依リ擔保附社債ニ關スル信託業ヲ營ムコトヲ得
第七條 信託會社ハ信託義務ノ違反ニ因リテ受益者ニ生スルコトアルヘキ損害ノ擔保トシテ命令ノ定ムル所ニ依リ資本金ノ十分ノ一以上ノ金額ニ相當スル國債ヲ供託スヘシ但シ其ノ金額ハ百萬圓ヲ超ユルコトヲ要セス
第八條 受益者ハ信託會社カ前條ノ規定ニ依リテ供託シタル國債ニ付他ノ債權者ニ先チ辨濟ヲ受クルノ權利ヲ有ス
第九條 信託會社ハ命令ノ定ムル所ニ依リ運用方法ノ特定セサル金錢信託ニ限リ元本ニ損失ヲ來シタル場合又ハ豫メ一定シタル額ノ利益ヲ得サリシ場合ニ於テ之ヲ補塡シ又ハ補足スル契約ヲ爲スコトヲ得
第十條 信託法第二十二條第一項但書ノ規定ハ信託會社ニ之ヲ適用セス
信託會社ハ金錢信託ニ付其ノ運用ニ依リ取得シタル財產カ取引所ノ相場アルモノナルトキハ信託行爲ニ依リ受益者ニ對シ負擔スル債務ヲ履行スル爲必要ナル場合ニ限リ信託行爲ノ定ムル所ニ依リ之ヲ固有財產ト爲スコトヲ得
第十一條 信託會社ハ左ノ方法ニ依ルノ外其ノ營業上ノ資金ヲ運用スルコトヲ得ス
一 公債、社債又ハ株式ノ應募、引受又ハ買入
二 公債其ノ他前號ニ揭クル有價證券ヲ質トスル貸付
三 動產ノ買入又ハ動產ヲ擔保トスル貸付
四 不動產ノ買入
五 不動產又ハ法令ニ依リテ設定シタル財團ヲ抵當トスル貸付
六 公共團體又ハ產業組合ニ對スル貸付
七 銀行ヘノ預ケ金又ハ郵便貯金
八 銀行又ハ信託會社ノ引受アル手形ノ買入
前項第三號ニ規定スル動產ニ付テハ其ノ種類ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第一項第四號ノ規定ニ依ル不動產ノ買入價格ノ總額ハ拂込資本金及準備金ノ三分ノ一ヲ超ユルコトヲ得ス
第十二條 信託會社ハ資本ノ總額ニ達スル迄ハ利益ヲ配當スル每ニ準備金トシテ其ノ利益ノ十分ノ一以上ヲ積立ツヘシ
第十三條 信託會社ハ每半年業務報告書ヲ作リ之ヲ主務大臣ニ提出スヘシ
貸借對照表ハ每半年新聞紙ニ依リテ之ヲ公告スヘシ
第十四條 信託會社ノ合併ハ主務大臣ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ效力ヲ生セス
第十五條 信託會社ハ左ノ場合ニ於テハ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
一 定款ヲ變更セムトスルトキ
二 業務ノ種類又ハ方法ヲ變更セムトスルトキ
三 代理店ヲ設置セムトスルトキ
第十六條 合併後存續スル信託會社又ハ合併ニ因リテ設立シタル信託會社ハ合併ニ因リテ消滅シタル信託會社ノ信託ニ關スル權利義務ヲモ承繼ス
信託會社ノ合併ニ付異議ヲ述ヘタル受益者アルトキハ其ノ信託ニ付テハ信託法第四十二條及第四十九條第一項第三項ノ規定ヲ準用ス
第十七條 主務大臣ハ何時ニテモ信託會社ヲシテ其ノ業務ノ報告ヲ爲サシメ又ハ業務及財產ノ狀況ヲ檢查スルコトヲ等
第十八條 主務大臣ハ信託會社ノ業務又ハ財產ノ狀況ニ依リ必要ト認ムルトキハ業務ノ種類若ハ方法ノ變更又ハ業務ノ停止ヲ命シ其ノ他必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
第十九條 信託會社カ法令、定款若ハ主務大臣ノ命令ニ違反シ又ハ公益ヲ害スヘキ行爲ヲ爲シタルトキハ主務大臣ハ業務ノ停止若ハ取締役監查役ノ改任ヲ命シ又ハ營業ノ免許ヲ取消スコトヲ得
第二十條 主務大臣ノ免許ヲ受ケスシテ信託業ヲ營ミタル者ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十一條 左ノ場合ニ於テハ信託會社ノ取締役、監查役又ハ淸算人ヲ十圓以上千圓以下ノ過料ニ處ス
一 第四條、第五條第一項、第七條、第十一條乃至第十三條及第十五條ノ規定ニ違反シタルトキ
二 第九條ノ規定又ハ同條ニ基ク命令ニ違反シテ信託ニ付補塡又ハ補足ノ契約ヲ爲シタルトキ
三 第十條ノ規定ニ違反シテ信託財產ヲ固有財產ト爲シタルトキ
四 第十七條ノ規定ニ依ル報告ヲ爲サス又ハ檢查ヲ妨ケタルトキ
五 本法ノ命令又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反シタルトキ
六 信託會社カ信託法第二十八條ノ規定ニ依リテ爲スヘキ信託財產ノ管理ヲ爲ササルトキ
七 信託會社カ信託法第三十九條ニ規定スル事務ノ處理若ハ計算ヲ爲サス又ハ財產目錄ヲ作ラサルトキ
八 信託會社カ正當ノ理由ナクシテ信託法第四十條ノ規定ニ依ル閱覽ノ請求ヲ拒ミ又ハ說明ヲ爲ササルトキ
第二十二條 第三條第二項ノ規定ニ違反シタル者ハ十圓以上百圓以下ノ過料ニ處ス
第二十三條 非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ本法ニ定メタル過料ニ之ヲ準用ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際迄一年以上引續キ信託業ヲ營ム者ニシテ本法施行後六月內ニ信託業ノ免許ヲ申請スルモノニハ本法施行後五年ヲ限リ第二條ノ規定ヲ適用セス但シ其ノ資本金ハ二十五萬圓ヲ下ルコトヲ得ス
本法施行ノ際現ニ信託業ヲ營ム者ニシテ本法ニ依リ免許ヲ受ケタルモノハ本法施行前其ノ爲シタル契約ニシテ本法ニ依リ信託會社ノ爲スコトヲ得サル業務ニ屬スルモノニ付テハ其ノ契約ノ完了スル迄仍之ヲ繼續スルコトヲ得
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル信託業法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
摂政名
大正十一年四月二十日
内閣総理大臣兼大蔵大臣 子爵 高橋是清
法律第六十五号
信託業法
第一条 信託業ハ主務大臣ノ免許ヲ受クルニ非サレハ之ヲ営ムコトヲ得ス
前項ノ免許ヲ受ケムトスル者ハ申請書ニ定款並業務ノ種類及方法ヲ記載シタル書面ヲ添附シ之ヲ主務大臣ニ提出スヘシ
第二条 信託業ハ資本金百万円以上ノ株式会社ニ非サレハ之ヲ営ムコトヲ得ス
第三条 信託会社ハ其ノ商号中ニ信託ナル文字ヲ用ウヘシ
信託会社ニ非サルモノハ其ノ商号中ニ信託業者タルコトヲ示スヘキ文字ヲ用ウルコトヲ得ス但シ担保附社債ニ関スル信託業ヲ営ム者ハ此ノ限ニ在ラス
第四条 信託会社ハ左ニ掲クル財産以外ノモノノ信託ノ引受ヲ為スコトヲ得ス
一 金銭
二 有価証券
三 金銭債権
四 動産
五 土地及其ノ定著物
六 地上権及土地ノ賃借権
第五条 信託会社ハ左ニ掲クル業務ニ限リ之ヲ併セ営ムコトヲ得
一 保護預リ
二 債務ノ保証
三 不動産売買ノ媒介又ハ金銭若ハ不動産ノ貸借ノ媒介
四 公債社債若ハ株式ノ募集、其ノ払込金ノ受入又ハ其ノ元利金若ハ配当金ノ支払ノ取扱
五 左ノ事項ニ関スル代理事務
イ 財産ノ取得、管理、処分又ハ貸借
ロ 財産ノ整理又ハ清算
ハ 債権ノ取立
ニ 債務ノ履行
主務大臣ハ債務ノ保証ニ付命令ヲ以テ必要ナル制限ヲ設クルコトヲ得
第六条 信託会社ハ担保附社債信託法ニ依リ担保附社債ニ関スル信託業ヲ営ムコトヲ得
第七条 信託会社ハ信託義務ノ違反ニ因リテ受益者ニ生スルコトアルヘキ損害ノ担保トシテ命令ノ定ムル所ニ依リ資本金ノ十分ノ一以上ノ金額ニ相当スル国債ヲ供託スヘシ但シ其ノ金額ハ百万円ヲ超ユルコトヲ要セス
第八条 受益者ハ信託会社カ前条ノ規定ニ依リテ供託シタル国債ニ付他ノ債権者ニ先チ弁済ヲ受クルノ権利ヲ有ス
第九条 信託会社ハ命令ノ定ムル所ニ依リ運用方法ノ特定セサル金銭信託ニ限リ元本ニ損失ヲ来シタル場合又ハ予メ一定シタル額ノ利益ヲ得サリシ場合ニ於テ之ヲ補填シ又ハ補足スル契約ヲ為スコトヲ得
第十条 信託法第二十二条第一項但書ノ規定ハ信託会社ニ之ヲ適用セス
信託会社ハ金銭信託ニ付其ノ運用ニ依リ取得シタル財産カ取引所ノ相場アルモノナルトキハ信託行為ニ依リ受益者ニ対シ負担スル債務ヲ履行スル為必要ナル場合ニ限リ信託行為ノ定ムル所ニ依リ之ヲ固有財産ト為スコトヲ得
第十一条 信託会社ハ左ノ方法ニ依ルノ外其ノ営業上ノ資金ヲ運用スルコトヲ得ス
一 公債、社債又ハ株式ノ応募、引受又ハ買入
二 公債其ノ他前号ニ掲クル有価証券ヲ質トスル貸付
三 動産ノ買入又ハ動産ヲ担保トスル貸付
四 不動産ノ買入
五 不動産又ハ法令ニ依リテ設定シタル財団ヲ抵当トスル貸付
六 公共団体又ハ産業組合ニ対スル貸付
七 銀行ヘノ預ケ金又ハ郵便貯金
八 銀行又ハ信託会社ノ引受アル手形ノ買入
前項第三号ニ規定スル動産ニ付テハ其ノ種類ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第一項第四号ノ規定ニ依ル不動産ノ買入価格ノ総額ハ払込資本金及準備金ノ三分ノ一ヲ超ユルコトヲ得ス
第十二条 信託会社ハ資本ノ総額ニ達スル迄ハ利益ヲ配当スル毎ニ準備金トシテ其ノ利益ノ十分ノ一以上ヲ積立ツヘシ
第十三条 信託会社ハ毎半年業務報告書ヲ作リ之ヲ主務大臣ニ提出スヘシ
貸借対照表ハ毎半年新聞紙ニ依リテ之ヲ公告スヘシ
第十四条 信託会社ノ合併ハ主務大臣ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ効力ヲ生セス
第十五条 信託会社ハ左ノ場合ニ於テハ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
一 定款ヲ変更セムトスルトキ
二 業務ノ種類又ハ方法ヲ変更セムトスルトキ
三 代理店ヲ設置セムトスルトキ
第十六条 合併後存続スル信託会社又ハ合併ニ因リテ設立シタル信託会社ハ合併ニ因リテ消滅シタル信託会社ノ信託ニ関スル権利義務ヲモ承継ス
信託会社ノ合併ニ付異議ヲ述ヘタル受益者アルトキハ其ノ信託ニ付テハ信託法第四十二条及第四十九条第一項第三項ノ規定ヲ準用ス
第十七条 主務大臣ハ何時ニテモ信託会社ヲシテ其ノ業務ノ報告ヲ為サシメ又ハ業務及財産ノ状況ヲ検査スルコトヲ等
第十八条 主務大臣ハ信託会社ノ業務又ハ財産ノ状況ニ依リ必要ト認ムルトキハ業務ノ種類若ハ方法ノ変更又ハ業務ノ停止ヲ命シ其ノ他必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第十九条 信託会社カ法令、定款若ハ主務大臣ノ命令ニ違反シ又ハ公益ヲ害スヘキ行為ヲ為シタルトキハ主務大臣ハ業務ノ停止若ハ取締役監査役ノ改任ヲ命シ又ハ営業ノ免許ヲ取消スコトヲ得
第二十条 主務大臣ノ免許ヲ受ケスシテ信託業ヲ営ミタル者ハ五千円以下ノ罰金ニ処ス
第二十一条 左ノ場合ニ於テハ信託会社ノ取締役、監査役又ハ清算人ヲ十円以上千円以下ノ過料ニ処ス
一 第四条、第五条第一項、第七条、第十一条乃至第十三条及第十五条ノ規定ニ違反シタルトキ
二 第九条ノ規定又ハ同条ニ基ク命令ニ違反シテ信託ニ付補填又ハ補足ノ契約ヲ為シタルトキ
三 第十条ノ規定ニ違反シテ信託財産ヲ固有財産ト為シタルトキ
四 第十七条ノ規定ニ依ル報告ヲ為サス又ハ検査ヲ妨ケタルトキ
五 本法ノ命令又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ違反シタルトキ
六 信託会社カ信託法第二十八条ノ規定ニ依リテ為スヘキ信託財産ノ管理ヲ為ササルトキ
七 信託会社カ信託法第三十九条ニ規定スル事務ノ処理若ハ計算ヲ為サス又ハ財産目録ヲ作ラサルトキ
八 信託会社カ正当ノ理由ナクシテ信託法第四十条ノ規定ニ依ル閲覧ノ請求ヲ拒ミ又ハ説明ヲ為ササルトキ
第二十二条 第三条第二項ノ規定ニ違反シタル者ハ十円以上百円以下ノ過料ニ処ス
第二十三条 非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条ノ規定ハ本法ニ定メタル過料ニ之ヲ準用ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際迄一年以上引続キ信託業ヲ営ム者ニシテ本法施行後六月内ニ信託業ノ免許ヲ申請スルモノニハ本法施行後五年ヲ限リ第二条ノ規定ヲ適用セス但シ其ノ資本金ハ二十五万円ヲ下ルコトヲ得ス
本法施行ノ際現ニ信託業ヲ営ム者ニシテ本法ニ依リ免許ヲ受ケタルモノハ本法施行前其ノ為シタル契約ニシテ本法ニ依リ信託会社ノ為スコトヲ得サル業務ニ属スルモノニ付テハ其ノ契約ノ完了スル迄仍之ヲ継続スルコトヲ得