あへん法
法令番号: 法律第71号
公布年月日: 昭和29年4月22日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

国民医療に不可欠な麻薬原料であるあへんの国内保有量が減少しており、国による輸入確保と終戦後禁止されたけしの栽培再開が必要となった。また1953年6月にニューヨークで調印した議定書により、あへんの輸出入や売買を国が一手に担う義務が生じた。これらの状況に対応し、国民医療の充実を図るため、けしの栽培区域・面積の指定、栽培許可制度の確立、あへんの収納・売渡し制度の整備、取締体制の強化等を定めた法案を提出するものである。

参照した発言:
第19回国会 衆議院 厚生委員会 第13号

審議経過

第19回国会

衆議院
(昭和29年3月11日)
参議院
(昭和29年3月11日)
衆議院
(昭和29年3月17日)
(昭和29年3月18日)
(昭和29年3月22日)
(昭和29年3月23日)
(昭和29年3月25日)
(昭和29年3月25日)
参議院
(昭和29年4月1日)
(昭和29年4月6日)
(昭和29年4月9日)
(昭和29年4月12日)
(昭和29年4月13日)
(昭和29年4月16日)
衆議院
(昭和29年4月17日)
(昭和29年6月15日)
あへん法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十九年四月二十二日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第七十一号
あへん法
目次
第一章
総則(第一条―第三条)
第二章
禁止(第四条―第十条)
第三章
栽培(第十一条―第二十八条)
第四章
収納及び売渡(第二十九条―第三十五条)
第五章
管理(第三十六条―第四十一条)
第六章
監督(第四十二条―第四十五条)
第七章
雑則(第四十六条―第五十条)
第八章
罰則(第五十一条―第六十二条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、医療及び学術研究の用に供するあへんの供給の適正を図るため、国があへんの輸入、輸出、収納及び売渡を行い、あわせて、けしの栽培並びにあへん及びけしがらの譲渡、譲受、所持等について必要な取締を行うことを目的とする。
(国の独占権)
第二条 あへんの輸入、輸出、けし耕作者及び甲種研究栽培者からの一手買取並びに麻薬製造業者及び麻薬研究施設の設置者への売渡の権能は、国に専属する。
(定義)
第三条 この法律において左の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 けし パパヴエル・ソムニフエルム・エル、パパヴエル・セテイゲルム・デイーシー及びその他のけし属の植物であつて、厚生大臣が指定するものをいう。
二 あへん けしの液じゆうが凝固したもの及びこれに加工を施したもの(医薬品として加工を施したものを除く。)をいう。
三 けしがら けしの麻薬を抽出することができる部分(種子を除く。)をいう。
四 けし栽培者 けし耕作者、甲種研究栽培者及び乙種研究栽培者をいう。
五 けし耕作者 採取したあへんを国に納付する目的で、第十二条第一項の許可を受けてけしを栽培する者をいう。
六 甲種研究栽培者 あへんの採取を伴う学術研究のため、第十二条第一項の許可を受けてけしを栽培する者をいう。
七 乙種研究栽培者 あへんの採取を伴わない学術研究のため、第十二条第二項の許可を受けてけしを栽培する者をいう。
八 麻薬製造業者 麻薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)に規定する麻薬製造業者をいう。
九 麻薬研究者 麻薬取締法に規定する麻薬研究者をいう。
十 麻薬研究施設 麻薬取締法に規定する麻薬研究施設をいう。
第二章 禁止
(けしの栽培の禁止)
第四条 けし栽培者でなければ、けしを栽培してはならない。
(あへんの採取の禁止)
第五条 けし耕作者又は甲種研究栽培者でなければ、あへんを採取してはならない。
(輸入及び輸出の禁止)
第六条 何人も、あへんを輸入し、又は輸出してはならない。但し、国の委託を受けた者は、この限りでない。
2 何人も、厚生大臣の許可を受けなければ、けしがらを輸入し、又は輸出してはならない。
(譲渡及び譲受の禁止)
第七条 何人も、国以外の者にあへんを譲り渡し、又は国以外の者からあへんを譲り受けてはならない。
2 けし栽培者、麻薬製造業者又は麻薬研究施設の設置者でなければ、けしがらを譲り渡し、又は譲り受けてはならない。
3 前項に規定する者は、同項に規定する者以外の者にけしがらを譲り渡し、又は同項に規定する者以外の者からけしがらを譲り受けてはならない。
(所持の禁止)
第八条 けし耕作者、甲種研究栽培者、麻薬製造業者、麻薬研究者又は麻薬研究施設の設置者でなければ、あへんを所持してはならない。
2 けし耕作者又は甲種研究栽培者は、その採取したあへん以外のあへんを所持してはならない。
3 けし耕作者又は甲種研究栽培者は、その採取したあへんを第三十条の規定により厚生大臣が定めるその年の納付期限をこえて所持してはならない。
4 麻薬製造業者、麻薬研究者又は麻薬研究施設の設置者は、国から売渡を受けたあへん以外のあへんを所持してはならない。
5 けし栽培者、麻薬製造業者、麻薬研究者又は麻薬研究施設の設置者でなければ、けしがらを所持してはならない。
(吸食の禁止)
第九条 何人も、あへん又はけしがらを吸食してはならない。
(廃棄の禁止)
第十条 何人も、厚生大臣の許可を受けなければ、あへんを廃棄してはならない。
第三章 栽培
(栽培区域及び栽培面積)
第十一条 厚生大臣は、毎年、けし耕作者又は甲種研究栽培者がけしを栽培することができる区域及び面積を定めて、公告する。
(栽培の許可)
第十二条 採取したあへんを国に納付する目的で、又はあへんの採取を伴う学術研究のため、けしを栽培しようとする者は、あらかじめ栽培地及び栽培面積並びにあへんの乾そう場及び保管場を定めて、厚生大臣の許可を受けなければならない。
2 あへんの採取を伴わない学術研究のため、けしを栽培しようとする者は、あらかじめ栽培地及び栽培面積を定めて、厚生大臣の許可を受けなければならない。
3 前二項の許可を申請するには、栽培地の都道府県知事を経由して、申請書を厚生大臣に提出しなければならない。
4 都道府県知事は、前項の申請書を受理したときは、必要な調査を行い、意見を附して、これを厚生大臣に進達するものとする。
(欠格事由)
第十三条 左の各号の一に該当する者には、前条第一項又は第二項の許可を与えない。
一 未成年者
二 禁治産者又は準禁治産者
三 精神病者又は麻薬、大麻若しくはあへんの中毒者
(許可の制限)
第十四条 左の各号の一に該当する者には、第十二条第一項又は第二項の許可を与えないことができる。
一 第四十二条の規定により許可を取り消され、取消の日から三年を経過していない者
二 この法律、麻薬取締法若しくは大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に違反する罪又は刑法(明治四十年法律第四十五号)第二編第十四章に定める罪を犯し、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終り、又は執行を受けることがなくなつた後、三年を経過していない者
三 けしの栽培上又は取締上不適当と認める場所に栽培しようとする者
四 学術研究のため栽培しようとする場合を除き、申請に係る栽培面積が著しく狭い者
五 けし栽培者として必要な経営的又は技術的能力を有しないと認められる者
六 法人又は団体であつて、その業務を行う役員のうちに前条各号の一又は第一号若しくは第二号に該当する者があるもの
(栽培許可証)
第十五条 厚生大臣は、第十二条第一項又は第二項の許可を与えたときは、その申請者に栽培許可証を交付しなければならない。
2 栽培許可証には、左の各号に掲げる事項を記載しなければならない。
一 けし栽培者の氏名又は名称
二 けし栽培者の住所
三 栽培地
四 栽培面積
五 その他厚生省令で定める事項
3 けし耕作者又は甲種研究栽培者に交付する栽培許可証には、前項各号に掲げる事項のほか、あへんの乾そう場及び保管場を記載しなければならない。
4 栽培許可証は、他人に譲り渡し、又は貸与してはならない。
(許可の有効期間)
第十六条 第十二条第一項又は第二項の許可の有効期間は、許可の日から一年以内の九月三十日までとする。
(栽培地以外における栽培等の禁止)
第十七条 けし栽培者は、許可を受けた栽培地以外の場所で、又は許可を受けた栽培面積をこえて、けしを栽培してはならない。
2 けし耕作者又は甲種研究栽培者は、許可を受けたあへんの乾そう場以外の場所であへんを乾そうし、又は許可を受けたあへんの保管場以外の場所であへんを保管してはならない。
(許可の変更)
第十八条 けし栽培者は、厚生大臣に対し、栽培地、栽培面積又はあへんの乾そう場若しくは保管場について、第十二条第一項又は第二項の許可の変更を申請することができる。但し、都道府県の区域をこえてこれらの事項を変更しようとする場合は、この限りでない。
2 第十二条第三項及び第四項の規定は、前項の申請について、第十四条第三号から第五号までの規定は、前項の規定による許可の変更について準用する。
3 第一項の申請をするには、申請書に栽培許可証を添附しなければならない。
4 厚生大臣は、第一項の規定により許可を変更したときは、栽培許可証の記載のうち当該変更に係る部分を訂正して、これを申請者に交付しなければならない。
(事故の防止)
第十九条 けし耕作者又は甲種研究栽培者は、その採取したあへんを国に納付するまで、かぎをかけた堅固な設備内に収めてこれを保管しなければならない。但し、乾そう中は、かぎをかけた設備内に保管することができる。
2 前項に定めるもののほか、けし栽培者が、あへん又はけしがらについて、滅失、盗難、紛失その他の事故を防止するためにとるべき措置については、厚生省令で定める。
(事故の届出)
第二十条 けし栽培者は、その所有するあへん又はけしがらにつき、滅失、盗難、紛失その他の事故が生じたときは、すみやかに、都道府県知事を経由して、その数量、その他事故の状況を明らかにするために必要な事項を厚生大臣に届け出なければならない。
(けしがらの譲渡及び廃棄)
第二十一条 けし栽培者は、麻薬製造業者若しくは麻薬研究施設の設置者又は他のけし栽培者にけしがらを譲り渡し、又はこれらの者からけしがらを譲り受けたときは、十五日以内に、都道府県知事を経由して、厚生省令で定める事項を厚生大臣に届け出なければならない。
2 けし栽培者は、けしがらを廃棄しようとするときは、あらかじめ廃棄の日時、場所及び方法を都道府県知事に届け出なければならない。
3 けし栽培者は、けしがらを廃棄するには、前項の規定によつて届け出た方法によらなければならない。但し、あへん監視員から廃棄の方法につき指示を受けたときは、これに従わなければならない。
(変更の届出)
第二十二条 けし栽培者は、第十五条第二項第一号、第二号又は第五号に掲げる事項に変更を生じたときは、十五日以内に、都道府県知事を経由して、その旨を厚生大臣に届け出なければならない。
2 前項の届出をするには、届出書に届出の事由を証する書面及び栽培許可証を添附しなければならない。
3 第十八条第四項の規定は、第一項の届出があつた場合に準用する。
(再交付)
第二十三条 けし栽培者は、栽培許可証をき損し、又亡失したときは、十五日以内に、都道府県知事を経由して、厚生大臣に栽培許可証の再交付を申請しなければならない。
2 前項の申請をするには、申請書に、その事由を記載し、且つ、栽培許可証をき損した場合にあつては、その栽培許可証をこれに添附しなければならない。
3 けし栽培者は、第一項の規定により栽培許可証の再交付を受けた後、亡失した栽培許可証を発見したときは、十五日以内に、都道府県知事を経由して、厚生大臣にその栽培許可証を返納しなければならない。
(許可の失効の届出)
第二十四条 けし栽培者が死亡し、又は法人たるけし栽培者が解散したときは、その相続人若しくは相続人に代つて相続財産を管理する者又は清算人、破産管財人若しくは合併後存続し、若しくは合併により設立された法人の代表者は、十五日以内に、都道府県知事を経由して、その旨を厚生大臣に届け出なければならない。
2 前項の届出をするには、届出書に栽培許可証を添附しなければならない。
(廃止の届出)
第二十五条 けし栽培者は、けし栽培又は研究を廃止したときは、すみやかに、都道府県知事を経由して、その旨を厚生大臣に届け出なければならない。
2 前項の届出をしたときは、第十二条第一項又は第二項の許可は、その効力を失う。
(けし耕作者の栽培義務)
第二十六条 けし耕作者は、正当な理由がなければ、けしの栽培を廃止し、又は栽培面積を縮少してはならない。
(許可証の返納)
第二十七条 けし栽培者は、その許可が効力を失つたときは、十五日以内に、都道府県知事を経由して、厚生大臣に栽培許可証を返納しなければならない。
(許可が失効した場合等の措置)
第二十八条 けし栽培者は、第二十五条第二項の規定によりその許可が効力を失い、又は第四十二条の規定によりその許可を取り消されたときは、十五日以内に、都道府県知事を経由して、現に所有するあへん及びけしがらの数量を厚生大臣に届け出なければならない。
2 前項の者であつてあへんを所有するものについては、そのあへんに関する限り、届出事由が生じた日から起算して五十日間は、第八条第一項の規定を適用しない。
3 第一項の者であつてけしがらを所有するものについては、その者が届出事由が生じた日から起算して五十日以内にそのけしがらをけし栽培者、麻薬製造業者又は麻薬研究施設の設置者に譲り渡す場合に限り、その譲渡については、第七条第二項の規定を適用せず、また、その者のそのけしがらの所持については、同期間内に限り、第八条第五項の規定を適用しない。
4 第二十一条の規定は、前項の者が同項の期間内に同項のけしがらを譲り渡し、又は廃棄する場合について準用する。
5 前各項の規定は、けし栽培者が死亡し、又は法人たるけし栽培者が解散した場合に、その相続人若しくは相続人に代つて相続財産を管理する者又は清算人、破産管財人若しくは合併後存続し、若しくは合併により設立された法人の代表者について準用する。
第四章 収納及び売渡
(収納)
第二十九条 国は、けし耕作者又は甲種研究栽培者が採取したすべてのあへんを収納する。
(納付期限)
第三十条 厚生大臣は、毎年、けし耕作者又は甲種研究栽培者がその採取したあへんを国に納付すべき期限を定めて、公告する。
(収納価格)
第三十一条 国に納付されるあへんの収納価格は、厚生大臣が大蔵大臣と協議してけし栽培者の生産事情、あへんの輸入価格及びその他の経済事情を考慮して定める。
2 厚生大臣は、毎年九月三十日までに、あへんの収納価格を公告する。
(収納代金)
第三十二条 国は、けし耕作者又は甲種研究栽培者が納付したあへんのモルヒネ含有量を鑑定し、その含有量に応じて、収納代金を支払う。
2 収納代金の額は、収納の年の前年に前条第二項の規定により厚生大臣が公告した収納価格による。
3 第一項の鑑定の方法は、厚生省令で定める。
4 国は、あへんを収納したときは、第一項の鑑定の結果が判明する前に、政令の定めるところにより、収納代金の一部を支払うことができる。
(災害補償)
第三十三条 国は、けし耕作者の栽培したけしが、発芽後あへん採取前に風害、水害、雨害、震害、ひよう害、冷害、雪害、凍害、干害、病害その他の災害にかかり、その年度に採取したあへんの収納代金の額が、政令の定めるところにより算定するその者の平年度収納代金の額の十分の七に達しないときは、その平年度収納代金の額の十分の七とその年度の収納代金の額との差額の二分の一に相当する金額の範囲内で、補償金を交付することができる。
(売渡)
第三十四条 国は、その所有するあへんを、麻薬製造業者又は麻薬研究施設の設置者に売り渡すものとする。
(売渡価格)
第三十五条 あへんの売渡価格は、政令で定める。
2 売渡価格を定めるに当つては、あへんの輸入、収納、保管及び事務取扱に要する費用並びに第三十三条に規定する災害補償に要する費用の額等を考慮しなければならない。
第五章 管理
(保管)
第三十六条 麻薬製造業者又は麻薬研究者は、その所有し、又は管理するあへんを、かぎをかけた堅固な設備内に収めて保管しなければならない。
2 麻薬製造業者又は麻薬研究者は、その所有し、又は管埋するけしがらを、かぎをかけた設備内に収めて保管しなければならない。
(事故の届出)
第三十七条 第二十条の規定は、麻薬製造業者又は麻薬研究者が所有し、又は管理するあへん又はけしがらにつき事故が生じた場合に準用する。
(けしがらの廃棄)
第三十八条 第二十一条第二項及び第三項の規定は、麻薬製造業者又は麻薬研究施設の設置者がけしがらを廃棄する場合に準用する。
(帳簿)
第三十九条 麻薬製造業者は、麻薬取締法第三十七条第一項に規定する帳簿に左に掲げる事項を記載しなければならない。
一 譲り受け、麻薬の製造のために使用し、又は廃棄したあへんの数量及びその年月日
二 輸入し、輸出し、譲り渡し、譲り受け、麻薬の製造のために使用し、又は廃棄したけしがらの数量及びその年月日
三 けしがらの輸入、輸出、譲渡又は譲受の相手方の氏名又は名称及び住所
四 第三十七条において準用する第二十条の規定により届け出たあへん又はけしがらの数量
2 麻薬研究者は、麻薬取締法第四十条第一項に規定する帳簿に左に掲げる事項を記載しなければならない。
一 新たに管理に属し、又は管理を離れたあへん又はけしがらの数量及びその年月日
二 研究のために使用したあへん又はけしがらの数量及びその年月日
三 第三十七条において準用する第二十条の規定により届け出たあへん又はけしがらの数量
(届出)
第四十条 麻薬製造業者は、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間ごとに、その期間の満了後十五日以内に、左に掲げる事項を厚生大臣に届け出なければならない。
一 期初にあへん又はけしがらを所有していたときは、その所有していたあへん又はけしがらの数量
二 その期間中に麻薬の製造のためにあへんを使用したときは、その使用したあへんの数量
三 その期間中にけしがらを譲り渡し、譲り受け、若しくは廃棄し、又は麻薬の製造のためにけしがらを使用したときは、その譲り渡し、譲り受け、若しくは廃棄し、又は使用したけしがらの数量並びにその譲渡又は譲受の相手方の氏名又は名称及び住所
四 期末にあへん又はけしがらを所有していたときは、その所有していたあへん又はけしがらの数量
2 麻薬研究者は、毎年十一月三十日までに、左に掲げる事項を都道府県知事に届け出なければならない。
一 前年の十月十六日にあへん又はけしがらを管理していたときは、その管理していたあへん又はけしがらの数量
二 前年の十月十六日からその年の十月十五日までの間に新たに管理に属したあへん若しくはけしがらがあるとき、又は同期間内に研究のためにあへん若しくはけしがらを使用したときは、その新たに管理に属し、又は使用したあへん又はけしがらの数量
三 その年の十月十五日にあへん又はけしがらを管理していたときは、その管理していたあへん又はけしがらの数量
(免許が失効した場合等の措置)
第四十一条 麻薬製造業者又は麻薬研究施設の設置者は、麻薬製造業者の免許が効力を失い、又は麻薬研究施設が麻薬研究施設でなくなつたとき(麻薬製造業者の免許が効力を失つた場合において、引き続きその者が麻薬製造業者となつたときを除く。)は、十五日以内に、麻薬製造業者にあつては厚生大臣に、麻薬研究施設の設置者にあつては都道府県知事に、現に所有するあへん又はけしがらの数量を届け出なければならない。
2 前項の者であつてあへんを所有するものについては、そのあへんに関する限り、その届出事由が生じた日から起算して五十日間は、第八条第一項の規定を適用しない。
3 第一項の者であつてけしがらを所有するものについては、その者が届出事由が生じた日から起算して五十日以内に、そのけしがらをけし栽培者、麻薬製造業者又は麻薬研究施設の設置者に譲り渡す場合に限り、その譲渡については、第七条第二項の規定を適用せず、また、その者のそのけしがらの所持については、同期間内に限り、第八条第五項の規定を適用しない。
4 第二十一条の規定は、前項の者が同項の期間内に同項のけしがらを譲り渡し、又は廃棄する場合について準用する。
5 前各項の規定は、麻薬製造業者若しくは麻薬研究施設の設置者が死亡し、又は法人たるこれらの者が解散した場合に、その相続人若しくは相続人に代つて相続財産を管理する者又は清算人、破産管財人若しくは合併後存続し、若しくは合併により設立された法人の代表者について準用する。
第六章 監督
(許可の取消)
第四十二条 厚生大臣は、けし栽培者が第十三条第二号又は第三号に該当するに至つたときは、その許可を取り消さなければならない。
2 厚生大臣は、けし栽培者がこの法律の規定若しくはこの法律の規定に基く命令若しくは厚生大臣の処分に違反したとき、又は第十四条第二号若しくは第六号に該当するに至つたときは、その許可を取り消すことができる。
(聴聞)
第四十三条 厚生大臣は、前条の規定により許可を取り消そうとするときは、あらかじめ当該けし栽培者又はその代理人の出頭を求めて、公開による聴聞を行わなければならない。
2 前項の場合において、厚生大臣は、処分をしようとする事由並びに聴聞の期日及び場所を、期日の一週間前までに、当該けし栽培者に通知し、且つ、聴聞の期日及び場所を公示しなければならない。
3 聴聞においては、当該けし栽培者又はその代理人は、自己又は本人のために釈明をし、且つ、証拠を提出することができる。
4 厚生大臣は、当該けし栽培者又はその代理人が正当の理由がなくて出頭しないときは、聴聞を行わないで、前条の規定による処分を行うことができる。
(報告の徴収等)
第四十四条 厚生大臣は、あへん又はけしがらの取締上必要があると認めるときは、けし栽培者、麻薬製造業者若しくは麻薬研究者から必要な報告を徴し、又は麻薬取締官若しくは薬事監視員のうちからあらかじめ指定する者をして、けしの栽培地、あへんの乾そう若しくは保管の場所、けしがらの保管の場所若しくは麻薬の製造所若しくは研究施設に立ち入り、帳簿その他の物件を検査させ、関係者に質問させ、若しくは試験のため必要な最小分量に限り、あへん、けしがら若しくはこれらの疑のある物を収去させることができる。
2 都道府県知事は、あへん又はけしがらの取締上必要があると認めるときは、けし栽培者若しくは麻薬研究者から必要な報告を徴し、又は麻薬取締員若しくは薬事監視員のうちからあらかじめ指定する者をして、けしの栽培地、あへんの乾そう若しくは保管の場所、けしがらの保管の場所若しくは麻薬の研究施設に立ち入り、帳簿その他の物件を検査させ、関係者に質問させ、若しくは試験のため必要な最小分量に限り、あへん、けしがら若しくはこれらの疑のある物を収去させることができる。
3 前二項の規定により指定された者は、あへん監視員と称する。
4 あへん監視員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者の請求があるときは、これを呈示しなければならない。
5 第一項又は第二項に規定する権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
6 都道府県知事は、けし栽培者について、第四十二条の処分をすることを必要と認めるときは、その旨を厚生大臣に具申しなければならない。
(麻薬取締官及び麻薬取締員のあへん等の譲受)
第四十五条 麻薬取締官及び麻薬取締員は、あへん又はけしがらに関する犯罪の捜査にあたり、厚生大臣の許可を受けて、この法律の規定にかかわらず、何人からもあへん又はけしがらを譲り受けることができる。
第七章 雑則
(手数料)
第四十六条 左の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める額の手数料を国庫に納めなければならない。
一 けし栽培の許可を申請する者 申請書一通につき五百円
二 けし栽培の許可の変更を申請する者 申請書一通につき三百円
三 栽培許可証の再交付を申請する者 栽培許可証一通につき百円
(交付金)
第四十七条 国は、政令の定めるところにより、この法律に基き都道府県知事が行う事務に要する費用を都道府県に交付する。
(国庫に帰属したあへん等の処分)
第四十八条 厚生大臣は、法令の規定により国庫に帰属したあへん又はけしがら(この法律の規定により収納したあへんを除く。)について、大蔵大臣と協議して必要な処分をすることができる。
(同一人が二以上の資格を有する場合の取扱)
第四十九条 けし栽培者が同時に麻薬製造業者若しくは麻薬研究施設の設置者を兼ねる場合又は麻薬製造業者が同時に麻薬研究施設の設置者を兼ねる場合には、この法律中あへん又はけしがらの譲渡及び譲受に関する規定の適用については、その資格ごとに、それぞれ別個の者とみなす。同一人が二以上の麻薬製造業者の免許を有し、又は二以上の麻薬研究施設を設置する場合も、同様とする。
(実施命令)
第五十条 この法律で政令に委任するものを除くほか、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な細則は、厚生省令で定める。
第八章 罰則
第五十一条 第四条、第五条、第六条、第七条、第八条第一項、第二項、第四項若しくは第五項又は第九条の規定に違反した者は、五年以下の懲役若しくは十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の未遂罪は、罰する。
第五十二条 営利の目的で前条の違反行為をした者は、七年以下の懲役に処し、又は情状により七年以下の懲役及び五十万円以下の罰金に処する。
第五十三条 常習として第五十一条の違反行為をした者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の規定にあたる行為が前条の規定に触れるときは、その行為者を一年以上十年以下の懲役に処し、又は情状により一年以上十年以下の懲役及び五十万円以下の罰金に処する。
第五十四条 前三条の罪に係るあへん又はけしがらで、犯人が所有し、又は所持するものは、没収する。但し、犯人以外の者の所有に係るときは、没収しないことができる。
第五十五条 第八条第三項又は第十七条の規定に違反した者は、三年以下の懲役若しくは五万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第五十六条 第五十一条、第五十二条、第五十三条又は前条の規定にあたる行為が刑法第二編第十四章の罪に触れるときは、その行為者は、同法の罪と比較して、重きに従つて処断する。
第五十七条 左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役若しくは三万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第十条の規定による許可を受けないであへんを廃棄した者
二 第十五条第四項、第十九条第一項又は第三十六条第一項の規定に違反した者
三 第二十条(第三十七条において準用する場合を含む。)、第二十八条第一項(同条第五項において準用する場合を含む。)又は第四十一条第一項(同条第五項において準用する場合を含む。)の規定による届出にあたり、虚偽の届出をした者
四 第三十九条第一項又は第二項の規定に違反して、帳簿に記載をせず、又は虚偽の記載をした者
第五十八条 第二十条(第三十七条において準用する場合を含む。)、第二十八条第一項(同条第五項において準用する場合を含む。)、第三十六条第二項又は第四十一条第一項(同条第五項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者は、六月以下の懲役若しくは一万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第五十九条 左の各号の一に該当する者は、五万円以下の罰金に処する。
一 第二十一条第一項(第二十八条第四項又は第四十一条第四項において準用する場合を含む。)又は第四十条第一項若しくは第二項の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者
二 第四十四条第一項若しくは第二項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は立入、検査若しくは収去を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
第六十条 第二十四条第一項又は第二十五条第一項の規定に違反した者は、一万円以下の罰金に処する。
第六十一条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して第五十一条、第五十二条、第五十三条第二項、第五十五条又は第五十七条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
第六十二条 第二十三条第一項若しくは第三項又は第二十七条の規定に違反した者は、一万円以下の過料に処する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和二十九年五月一日から施行する。
(経過規定)
2 麻薬製造業者及び麻薬研究者以外の麻薬取扱者であつて、この法律の施行の際現にあへん又はけしがらを所持しているものについては、この法律の施行の日から起算して五十日間は、第八条第一項及び第五項の規定を適用しない。
3 この法律の施行の際現にあへんを所持している麻薬製造業者又は麻薬研究者については、その現に所持しているあへんに関する限り、第八条第四項の規定を適用しない。
4 この法律の施行の際現にこの法律による改正前の麻薬取締法第十二条第二項の規定による許可を受けてけしを栽培している者は、第十二条第一項の規定による許可を受けたものとみなす。
5 前項の者が採取したあへんについては、その収納代金の額は、第三十二条第二項の規定にかかわらず、厚生大臣が大蔵大臣と協議して定めるところによる。
6 第三十五条の規定は、この法律の施行の際現に国が所有しているあへんについては、適用しない。
(麻薬取締法の一部改正)
7 麻薬取締法の一部を次のように改正する。
第二条第十五号中「麻薬原料植物」を「麻薬原料植物(けしを除く。以下同じ。)」に、「又は麻薬を製造し、若しくは使用する」を「麻薬を製造し、又は麻薬、あへん若しくはけしがらを使用する」に改め、同条中第二号を第五号とし、以下第十八号までを順次三号づつ繰り下げ、第一号の次に次の三号を加える。
二 けし あへん法(昭和二十九年法律第七十一号)に規定するけしをいう。
三 あへん あへん法に規定するあへんをいう。
四 けしがら あへん法に規定するけしがらをいう。
第三条第二項第八号中「又は麻薬を製造し、若しくは使用する」を「麻薬を製造し、又は麻薬、あへん若しくはけしがらを使用する」に、同条第三項第二号中「若しくは大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)」を「、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)若しくはあへん法」に、同項第四号中「若しくは大麻」を「、大麻若しくはあへん」に改める。
第十二条中第二項を第三項とし、第一項の次に次の一項を加える。
2 何人も、あへん末を輸入し、又は輸出してはならない。
第十三条中「麻薬(前条第一項に規定する麻薬を除く。以下この章において同じ。)」を「麻薬(前条第一項及び第二項に規定する麻薬を除く。以下第十九条までにおいて同じ。)」に改める。
第二十条第一項中「麻薬」を「麻薬(第十二条第一項に規定する麻薬を除く。以下この章において同じ。)」に改める。
第二十一条第一項中「麻薬の品名」を「麻薬、あへん又はけしがらの品名」に改める。
第二十七条第三項中「麻薬の中毒者」を「麻薬又はあへんの中毒者」に改める。
第三十七条第二項中「記載」を「記載(麻薬製造業者にあつては、あへん法第三十九条第一項の規定による記載を含む。)」に改める。
第四十条第三項中「記載」を「記載(あへん法第三十九条第二項の規定による記載を含む。)」に改める。
第五十条第一項中「麻薬に中毒している」を「麻薬又はあへんに中毒している」に、「中毒している麻薬」を「麻薬に中毒している場合にあつては当該麻薬」に改める。
第五十四条第五項中「若しくは大麻取締法」を「、大麻取締法若しくはあへん法」に、「麻薬中毒」を「麻薬若しくはあへんの中毒」に改める。
第六十二条を次のように改める。
(同一人が二以上の資格を有する場合の取扱)
第六十二条 同一人が二以上の麻薬営業者の免許を有する場合又は麻薬営業者が同時に麻薬診療施設の開設者若しくは麻薬研究施設の設置者を兼ねる場合には、この法律中麻薬の譲渡及び譲受に関する規定の適用については、その資格ごとに、それぞれ別個の者とみなす。同一人が二以上の麻薬診療施設を開設し、若しくは二以上の麻薬研究施設を設置する場合又は麻薬診療施設の開設者が麻薬研究施設を設置する場合も、同様とする。
第六十五条第一項中「第十二条第二項」を「第十二条第二項若しくは第三項」に改め、同条第三項を削る。
第六十九条但書を削る。
第七十四条中「第六十五条第一項若しくは第二項」を「第六十五条」に改める。
別表中第一号を次のように改め、第二十四号中「含有する物」を「含有する物であつて、あへん、けしがら及びけしの種子以外のもの」に改める。
一 コカ葉
8 この法律の施行前にした違反行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(大麻取締法の一部改正)
9 大麻取締法の一部を次のように改正する。
第五条第二項第一号中「又は大麻」を「、大麻又はあへん」に改める。
(医師法の一部改正)
10 医師法(昭和二十三年法律第二百一号)の一部を次のように改正する。
第四条第一号中「若しくは大麻」を「、大麻若しくはあへん」に改める。
(歯科医師法の一部改正)
11 歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の一部を次のように改正する。
第四条第一号中「若しくは大麻」を「、大麻若しくはあへん」に改める。
(保健婦助産婦看護婦法の一部改正)
12 保健婦助産婦看護婦法(昭和二十三年法律第二百三号)の一部を次のように改正する。
第十条第四号中「若しくは大麻」を「、大麻若しくはあへん」に改める。
(歯科衛生士法の一部改正)
13 歯科衛生士法(昭和二十三年法律第二百四号)の一部を次のように改める。
第五条第四号中「若しくは大麻」を「、あへん若しくは大麻」に改める。
(獣医師法の一部改正)
14 獣医師法(昭和二十四年法律第百八十六号)の一部を次のように改正する。
第五条第一号中「若しくは大麻」を「、大麻若しくはあへん」に改める。
(毒物及び劇物取締法の一部改正)
15 毒物及び劇物取締法(昭和二十五年法律第三百三号)の一部を次のように改正する。
第八条第二項第二号中「若しくは大麻」を「、大麻若しくはあへん」に改める。
(出入国管理令の一部改正)
16 出入国管理令(昭和二十六年政令第三百十九号)の一部を次のように改正する。
第五条第一項第五号中「又は大麻」を「、大麻又はあへん」に、同項第六号中「麻薬取締法(昭和二十三年法律第百二十三号)」を「麻薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)」に、「若しくは大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に定める大麻」を「、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に定める大麻若しくはあへん法(昭和二十九年法律第七十一号)に定めるけし、あへん若しくはけしがら」に改める。
第二十四条第四号チ中「大麻取締法」の下に「、あへん法」を加える。
(厚生省設置法の一部改正)
17 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第五条中第四十九号の次に次の一号を加える。
四十九の二 あへんの輸入、輸出、収納及び売渡、あへん末の輸入及び輸出並びにけしの栽培の許可及び許可の取消を行うこと。
第十一条中第十一号を第十二号とし、第十号を第十一号とし、第九号の次に次の一号を加える。
十 あへんの収納及び売渡を行い、並びにあへんに関する取締を行うこと。
第三十七条中「及び大麻」を「、大麻及びあへん」に改める。
(大蔵省設置法の一部改正)
18 大蔵省設置法(昭和二十四年法律第百四十四号)の一部を次のように改正する。
第四条第二十七号及び第七条第十七号中「アルコール」を「アルコール及びあへん」に改める。
法務大臣 犬養健
大蔵大臣 小笠原三九郎
厚生大臣 草葉隆円
農林大臣 保利茂
内閣総理大臣 吉田茂