朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル勞働者年金保險法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十六年三月十日
內閣總理大臣 公爵 近衞文麿
內務大臣 男爵 平沼騏一郞
厚生大臣 金光庸夫
大藏大臣 河田烈
法律第六十號
勞働者年金保險法
第一章 總則
第一條 勞働者年金保險ニ於テハ被保險者又ハ被保險者タリシ者ノ老齡、癈疾、死亡又ハ脫退ニ關シ保險給付ヲ爲スモノトス
第二條 勞働者年金保險ハ政府之ヲ管掌ス
第三條 本法ニ於テ報酬ト稱スルハ事業ニ使用セラルル者ガ勞務ノ對償トシテ事業主ヨリ受クル賃金又ハ給料及之ニ準ズベキモノヲ謂フ
賃金又ハ給料ニ準ズベキモノノ範圍及評價ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條 報酬ノ額ニ基キ保險料又ハ保險給付ノ額ヲ定ムル場合ニ於テハ標準報酬ニ依リ之ヲ算定ス
標準報酬ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五條 保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ヲ徵收シ又ハ其ノ還付ヲ受クル權利及癈疾手當金ヲ受クル權利ハ一年ヲ經過シタルトキ、養老年金、癈疾年金、遺族年金、脫退手當金又ハ第三十三條、第三十四條、第三十八條、第三十九條、第四十七條若ハ第五十一條ノ規定ニ依ル一時金ヲ受クル權利ハ五年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
第六條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定スル期間ノ計算ニ付テハ本法ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外民法ノ期間ノ計算ニ關スル規定ヲ準用ス
第七條 勞働者年金保險ニ關スル書類ニハ印紙稅ヲ課セズ
第八條 行政官廳又ハ保險給付ヲ受クベキ者ハ被保險者又ハ被保險者タリシ者ノ戶籍ニ關シ戶籍事務ヲ管掌スル者又ハ其ノ代理者ニ對シ無償ニテ證明ヲ求ムルコトヲ得
第九條 行政官廳ハ命令ノ定ムル所ニ依リ被保險者ヲ使用スル事業主ヲシテ其ノ使用スル者ノ異動及報酬ニ關シ報吿ヲ爲サシメ、文書ヲ提示セシメ其ノ他勞働者年金保險ノ施行ニ必要ナル事務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十條 行政官廳ハ必要アリト認ムルトキハ被保險者ノ異動及報酬竝ニ保險給付ノ決定ニ關シ當該官吏ヲシテ被保險者又ハ被保險者タリシ者ノ勤務場所ニ就キ關係者ニ對シ質問ヲ爲シ又ハ帳簿書類其ノ他ノ檢査ヲ爲サシムルコトヲ得
第十一條 保險料ヲ滯納スル者アルトキハ行政官廳ハ期限ヲ指定シテ之ヲ督促スベシ
前項ノ規定ニ依リ督促ヲ爲シタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ督促手數料及延滯金ヲ徵收ス
第一項ノ規定ニ依ル督促ヲ受ケタル者其ノ指定ノ期限迄ニ保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ヲ納付セザルトキハ行政官廳ハ國稅滯納處分ノ例ニ依リ之ヲ處分シ又ハ滯納者若ハ其ノ者ノ財產ノ在ル市町村ニ對シ之ガ處分ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ市町村ニ對シ處分ノ請求ヲ爲シタルトキハ市町村ハ市町村稅ノ例ニ依リ之ヲ處分ス此ノ場合ニ於テハ行政官廳ハ徵收金額ノ百分ノ四ニ相當スル金額ヲ當該市町村ニ交付スベシ
第十二條 保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ノ先取特權ノ順位ハ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノノ徵收金ニ次ギ他ノ公課ニ先ツモノトス
第十三條 國稅徵收法第四條ノ七及第四條ノ八ノ規定ハ保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ニ關スル書類ノ送達ニ之ヲ準用ス
第十四條 政府ノ事業ニ使用セラルル者及使用セラレタル者ニ關シテハ本法ノ適用ニ付勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得
第十五條 本法中町村トアルハ町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之ニ準ズベキモノトス
第二章 被保險者
第十六條 健康保險法第十三條ノ工場、事業場又ハ事業ニ使用セラルル勞働者ハ勞働者年金保險ノ被保險者トス但シ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ此ノ限ニ在ラズ
一 常時十人未滿ノ勞働者ヲ使用スル工場、事業場又ハ事業ニ使用セラルル者
二 勅令ヲ以テ指定スル工場、事業場又ハ事業ニ使用セラルル者
三 女子
四 船員保險ノ被保險者
五 帝國臣民ニ非ザル者
六 前各號ニ揭グル者ノ外勅令ヲ以テ指定スル者
第十七條 左ノ各號ノ一ニ該當スル勞働者ハ地方長官(東京府ニ在リテハ警視總監以下同ジ)ノ認可ヲ受ケ勞働者年金保險ノ被保險者ト爲ルコトヲ得
一 前條第一號、第二號又ハ第三號ノ規定ニ該當スル者
二 健康保險法第十四條第一項第二號ノ事業ニ使用セラルル者
三 前二號ニ揭グルモノノ外勅令ヲ以テ指定スル事業ニ使用セラルル者
四 前條ノ工場、事業場又ハ事業ニ附屬スル事業及前二號ノ事業ニ附屬スル事業ニ使用セラルル者
前條第四號乃至第六號ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第一項ノ認可ヲ申請スルニハ事業主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第十八條 第十六條ノ工場、事業場又ハ事業ガ左ノ各號ノ一ニ該當スルニ至リタルトキハ其ノ際同條ノ規定ニ依ル被保險者トシテ其ノ工場、事業場又ハ事業ニ使用セラルル者ニ付テハ前條ノ認可アリタルモノト看做ス
一 第十六條ニ規定スル勞働者ヲ常時十人未滿使用スル工場、事業場又ハ事業ト爲ルニ至リタルトキ
二 第十六條第二號ノ規定ニ依リ指定スル工場、事業場又ハ事業ト爲ルニ至リタルトキ
三 前條第一項第二號、第三號又ハ第四號ノ事業ト爲ルニ至リタルトキ
第十九條 第十六條ノ規定ニ依ル被保險者ハ其ノ業務ニ使用セラルルニ至リタル日又ハ同條但書ノ規定ニ該當セザルニ至リタル日、第十七條ノ規定ニ依ル被保險者ハ同條ノ認可アリタル日ヨリ其ノ資格ヲ取得ス
第二十條 第十六條及第十七條ノ規定ニ依ル被保險者ハ死亡シタル日、其ノ業務ニ使用セラレザルニ至リタル日又ハ第十六條第四號乃至第六號若ハ第十七條第二項ノ規定ニ該當スルニ至リタル日ノ翌日(其ノ事實アリタル日ニ更ニ前條ノ規定ニ該當スルニ至リタルトキハ其ノ日)ヨリ其ノ資格ヲ喪失ス
第二十一條 第十七條ノ規定ニ依ル被保險者ハ地方長官ノ認可ヲ受ケ其ノ資格ヲ喪失スルコトヲ得
前項ノ認可アリタルトキハ被保險者ハ認可アリタル日ノ翌日ヨリ其ノ資格ヲ喪失ス
第二十二條 被保險者タリシ期間十四年以上二十年未滿ナル者ガ被保險者タラザルニ至リタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ繼續シテ被保險者ト爲ルコトヲ得但シ其ノ者ガ日本ノ國籍ヲ失ヒタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ニ依ル被保險者ニ對シテハ同項ノ規定ニ依ル被保險者ト爲リタル日以後ニ新ニ發シタル疾病又ハ負傷ニ因ル癈疾ニ關シテハ保險給付ヲ爲サズ
第二十三條 前條ノ規定ニ依ル被保險者ハ第十六條及第十七條ノ規定ニ依ル被保險者タリシ期間ト前條ノ規定ニ依ル被保險者タリシ期間トヲ合算シテ二十年ニ達シタルトキ其ノ他勅令ヲ以テ定ムル事由ニ該當スルニ至リタルトキハ其ノ資格ヲ喪失ス
第二十條ノ規定ハ前條ノ規定ニ依ル被保險者死亡シタル場合及日本ノ國籍ヲ失ヒタル場合ニ之ヲ準用ス
第三章 保險給付及福祉施設
第一節 總則
第二十四條 被保險者タリシ期間ノ計算ハ被保險者ノ資格ヲ取得シタル月ヨリ之ヲ起算シ其ノ資格ヲ喪失シタル月ノ前月ヲ以テ之ヲ止ム但シ十六日以後ニ於テ被保險者ノ資格ヲ取得シタルトキハ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ計算シ十六日以後ニ於テ被保險者ノ資格ヲ喪失シタルトキハ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ被保險者タリシ期間ニ加算ス
前項ノ規定ニ拘ラズ被保險者ノ資格ヲ取得シタル月ニ於テ其ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ被保險者タリシ期間ニ加算ス
被保險者ノ資格ヲ喪失シタル後更ニ其ノ資格ヲ取得シタル者ニ對シテ保險給付ヲ爲ス場合ニ於テハ前後ノ被保險者タリシ期間ハ之ヲ合算ス但シ左ニ揭グル期間ハ之ヲ合算セズ
一 脫退手當金ノ支給ヲ受ケタルトキハ其ノ計算ノ基礎ト爲リタル期間
二 命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外同一ノ事業主ノ工場、事業場若ハ事業又ハ同一ノ工場、事業場若ハ事業ニ被保險者トシテ引續キ使用セラレタル實期間六月未滿ナルトキハ其ノ期間
前項但書ノ規定ハ第五十一條ノ規定ニ依リ差額ノ支給ヲ受ケタル場合ニ之ヲ準用ス
第二十五條 鑛業法ノ適用ヲ受クル事業ノ事業場ニ使用セラルル被保險者ニシテ常時坑內作業ニ從事スルモノ(以下坑內夫タル被保險者ト稱ス)ノ坑內夫タル被保險者トシテ使用セラレタル實期間ニ付被保險者タリシ期間ヲ計算スル場合ニ於テハ其ノ實期間ニ付前條ノ規定ニ依リ計算シタル期間ニ三分ノ四ヲ乘ジテ之ヲ計算ス但シ左ニ揭グル期間ニ關シテハ前條ノ規定ニ依リ之ヲ計算ス
一 前條ノ規定ニ依リ計算シタル期間三年未滿ナル者ノ坑內夫タル被保險者トシテ使用セラレタル實期間
二 坑內夫タル被保險者トシテ使用セラレタル實期間ニ付前條ノ規定ニ依リ計算シタル期間ガ十五年ヲ超ユル場合ニ於テ十五年ヲ超ユル部分ノ實期間
第二十六條 遺族年金又ハ第三十三條、第三十四條、第三十八條、第三十九條若ハ第四十七條ノ規定ニ依ル一時金ヲ受クベキ遺族ノ範圍及順位ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十七條 養老年金、癈疾年金及遺族年金ノ支給ハ之ヲ支給スベキ事由ノ生ジタル月ノ翌月ヨリ之ヲ始メ權利消滅ノ月ヲ以テ終ル
第二十八條 政府ハ事故ガ第三者ノ行爲ニ因リテ生ジタル場合ニ於テ保險給付ヲ爲シタルトキハ其ノ給付ノ價額ノ限度ニ於テ保險給付ヲ受クベキ者ガ第三者ニ對シテ有スル損害賠償請求ノ權利ヲ取得ス
第二十九條 保險給付トシテ支給ヲ受クル金錢ヲ標準トシテ租稅其ノ他ノ公課ヲ課セズ但シ養老年金ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十條 保險給付ヲ受クル權利ハ之ヲ讓渡シ又ハ差押フルコトヲ得ズ
第二節 養老年金
第三十一條 被保險者タリシ期間二十年以上ナル者ガ其ノ資格ヲ喪失シタル後五十五歲ヲ超エタルトキ又ハ五十五歲ヲ超エ其ノ資格ヲ喪失シタルトキハ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄養老年金ヲ支給ス
坑內夫タル被保險者トシテ第二十四條ノ規定ニ依ル計算ニ依リ十五年以上使用セラレタル者ニ付テハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ者ガ被保險者ノ資格ヲ喪失シタル後五十歲ヲ超エタルトキ又ハ五十歲ヲ超エ其ノ資格ヲ喪失シタルトキヨリ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄養老年金ヲ支給ス繼續シタル十五年間ニ於テ坑內夫タル被保險者トシテ同條ノ規定ニ依ル計算ニ依リ十二年以上使用セラレタル者ニ付亦同ジ
第三十二條 養老年金ノ額ハ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ二十五ニ相當スル金額トシ被保險者タリシ期間二十年以上一年ヲ增ス每ニ其ノ一年ニ對シ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相當スル金額ヲ加ヘタル金額トス
同一ノ事業主ノ工場、事業場若ハ事業又ハ同一ノ工場、事業場若ハ事業ニ於テ引續キ被保險者タリシ期間十年以上ナル者ニ關シテハ其ノ者ニ支給セラルル養老年金ノ額ハ前項ノ金額ニ其ノ期間ノ每十年ニ對シ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相當スル金額ヲ加ヘタル金額トス
前二項ノ規定ニ拘ラズ養老年金ノ額ハ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ五十ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三十三條 養老年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタル際其ノ者ノ死亡ニ關シ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ者ナキ場合ニ於テ旣ニ支給ヲ受ケタル養老年金ノ總額ガ養老年金ノ五年分ニ相當スル金額ニ滿タザルトキハ其ノ差額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
第三十四條 被保險者タリシ期間二十年以上ナル者(第三十一條第二項後段ノ規定ニ該當スル者ヲ含ム以下同ジ)ガ養老年金ノ支給ヲ受クルコトナクシテ死亡シタル際其ノ者ノ死亡ニ關シ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ者ナキ場合ニ於テハ其ノ者ガ支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ養老年金ノ五年分ニ相當スル金額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
前項ノ規定ハ第三十九條ノ規定ニ依ル一時金ノ支給ヲ受クル場合ニ於テハ之ヲ適用セズ
第三十五條 養老年金ノ支給ヲ受クル者ガ被保險者ト爲リタルトキハ其ノ月ヨリ養老年金ノ支給ヲ停止ス
前項ノ規定ニ依リ養老年金ノ支給ヲ停止セラレタル被保險者ガ其ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ前後ノ被保險者タリシ期間ヲ合算シテ養老年金ノ額ヲ改定ス
前項ノ規定ニ依リ養老年金ノ額ヲ改定スル場合ニ於テ其ノ額ガ從前ノ養老年金ノ額ヨリ少キトキハ從前ノ養老年金ノ額ヲ以テ改定養老年金ノ額トス
第三節 癈疾年金及癈疾手當金
第三十六條 被保險者ノ資格喪失前ニ發シタル疾病又ハ負傷及之ニ因リ發シタル疾病ガ勅令ノ定ムル期間內ニ治癒シタル場合又ハ治癒セザルモ其ノ期間ヲ經過シタル場合ニ於テ勅令ノ定ムル程度ノ癈疾ノ狀態ニ在ル者ニハ其ノ程度ニ應ジ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄癈疾年金ヲ支給シ又ハ一時金トシテ癈疾手當金ヲ支給ス
癈疾年金又ハ癈疾手當金ノ支給ヲ受クルニハ癈疾ト爲リタル日前五年間ニ被保險者タリシ期間三年以上ナル者タルコトヲ要ス
第三十七條 癈疾年金ノ額ハ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ二十五ニ相當スル金額トシ被保險者タリシ期間二十年以上一年ヲ增ス每ニ其ノ一年ニ對シ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相當スル金額ヲ加ヘタル金額トス
同一ノ事業主ノ工場、事業場若ハ事業又ハ同一ノ工場、事業場若ハ事業ニ於テ引續キ被保險者タリシ期間十年以上ナル者ニ關シテハ其ノ者ニ支給セラルル癈疾年金ノ額ハ前項ノ金額ニ其ノ期間ノ每十年ニ對シ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相當スル金額ヲ加ヘタル金額トス
第三十二條第三項ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
癈疾手當金ノ額ハ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ七月分ニ相當スル金額トス
第三十八條 被保險者タリシ期間二十年未滿ナル者ニシテ癈疾年金ノ支給ヲ受クルモノガ死亡シタル場合ニ於テ旣ニ支給ヲ受ケタル癈疾年金ノ總額ガ被保險者ノ資格喪失ノ際支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ脫退手當金及被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ七月分ノ合算額(被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ十三月分ヲ超ユルトキハ十三月分ニ止ム)ニ相當スル金額ニ滿タザルトキハ其ノ差額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
前項ノ規定ハ第三十一條第二項後段ノ規定ニ該當スル者ガ死亡シタル場合ニ於テハ之ヲ適用セズ
第三十九條 被保險者タリシ期間二十年以上ナル者ニシテ癈疾年金ノ支給ヲ受クルモノガ死亡シタル際其ノ者ノ死亡ニ關シ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ者ナキ場合ニ於テ旣ニ支給ヲ受ケタル癈疾年金ノ總額ガ癈疾年金ノ五年分ニ相當スル金額ニ滿タザルトキハ其ノ差額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
第四十條 養老年金及癈疾年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ一ヲ支給ス
第四十一條 癈疾年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ガ癈疾年金ノ支給ヲ受クル程度ノ癈疾ノ狀態ニ該當セザルニ至リタルトキハ爾後癈疾年金ヲ支給セズ
第四十二條 養老年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ニハ癈疾手當金ヲ支給セズ
第四十三條 第三十五條ノ規定ハ癈疾年金ノ支給ニ關シ之ヲ準用ス
第四節 遺族年金
第四十四條 被保險者タリシ期間二十年以上ナル者ガ死亡シタルトキハ其ノ遺族ニ對シ十年間遺族年金ヲ支給ス
第四十五條 遺族年金ノ額ハ左ノ區別ニ依ル金額トス
一 養老年金又ハ癈疾年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタル場合ニ於テハ其ノ者ニ支給セラルル養老年金又ハ癈疾年金ノ額ノ二分ノ一ニ相當スル金額
二 被保險者タリシ期間二十年以上ナル者ガ養老年金ノ支給ヲ受クルコトナクシテ死亡シタル場合ニ於テハ其ノ者ガ支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ養老年金ノ額ノ二分ノ一ニ相當スル金額
第四十六條 遺族年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタルトキ其ノ他勅令ヲ以テ定ムル事由ニ該當スルニ至リタルトキハ遺族年金ヲ受クル權利ヲ失フ此ノ場合ニ於テ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ後順位者アルトキハ其ノ者ニ遺族年金ヲ支給ス但シ其ノ者ガ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ期間ハ旣ニ支給セラレタル期間ト合算シテ十年ヲ超ユルコトヲ得ズ
第四十七條 遺族年金ノ支給ヲ受クル者ガ遺族年金ヲ受クル權利ヲ失ヒタル場合ニ於テ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ後順位者ナキトキハ左ノ區別ニ依ル金額ヲ一時金トシテ被保險者タリシ者ノ遺族ニ支給ス
一 養老年金又ハ癈疾年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタルニ因リ遺族年金ノ支給ヲ受ケタル場合ニ在リテハ旣ニ支給ヲ受ケタル養老年金又ハ癈疾年金ト其ノ遺族ガ其ノ者ノ死亡ニ關シ支給ヲ受ケタル遺族年金トノ合算額ガ養老年金又ハ癈疾年金ノ五年分ニ相當スル金額ニ滿タザルトキハ其ノ差額
二 被保險者タリシ期間二十年以上ナル者ガ養老年金ノ支給ヲ受クルコトナクシテ死亡シタルニ因リ遺族年金ノ支給ヲ受ケタル場合ニ在リテハ其ノ者ノ死亡ニ關シ旣ニ支給ヲ受ケタル遺族年金ノ總額ガ其ノ者ノ支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ養老年金ノ五年分ニ相當スル金額ニ滿タザルトキハ其ノ差額
第五節 脫退手當金
第四十八條 被保險者タリシ期間三年以上二十年未滿ナル者ガ死亡シタルトキ又ハ其ノ資格ヲ喪失シタル後更ニ被保險者ト爲ルコトナクシテ一年ヲ經過シタルトキハ脫退手當金ヲ支給ス但シ其ノ者ガ癈疾手當金ノ支給ヲ受クルトキハ一年ヲ經過セザル場合ト雖モ之ヲ支給ス
前項ノ規定ニ拘ラズ現ニ被保險者タル者ニ對シテハ脫退手當金ハ之ヲ支給セズ
第一項ノ規定ハ第三十一條第二項後段ノ規定ニ該當スル者ニ對シテハ之ヲ適用セズ
第四十九條 脫退手當金ノ額ハ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ三十分ノ一ノ額ニ被保險者タリシ期間ニ依リ別表ニ定ムル日數ヲ乘ジテ得タル金額トス但シ癈疾手當金ノ支給ヲ受クル者ニ支給スベキ額ハ癈疾手當金ノ額ト合算シテ被保險者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ十三月分ニ相當スル金額ヲ超ユルコトヲ得ズ
第五十條 癈疾年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ニハ脫退手當金ヲ支給セズ
第五十一條 癈疾年金ヲ受クル權利ヲ有スル者ガ第四十一條ノ規定ニ依リ癈疾年金ノ支給ヲ受ケザルニ至リタル場合ニ於テ旣ニ支給ヲ受ケタル癈疾年金ノ總額ガ其ノ者ガ被保險者ノ資格ヲ喪失シタル際支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ脫退手當金ノ額ニ滿タザルトキハ其ノ差額ヲ支給ス
第六節 保險給付ノ制限
第五十二條 被保險者又ハ被保險者タリシ者ガ自己ノ故意ノ犯罪行爲ニ因リ又ハ故意ニ事故ヲ生ゼシメタルトキハ癈疾年金、癈疾手當金又ハ遺族年金ヲ支給セズ
第三十三條、第三十四條、第三十八條、第三十九條若ハ第四十七條ノ規定ニ依ル一時金又ハ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ者ガ被保險者、被保險者タリシ者又ハ遺族年金ノ支給ヲ受クル者ヲ故意ニ死ニ致シタルトキハ其ノ者ニ對シテハ支給セズ此ノ場合ニ於テ後順位者アルトキハ其ノ者ニ支給ス
第五十三條 被保險者又ハ被保險者タリシ者ガ重大ナル過失ニ因リ又ハ正當ノ理由ナクシテ療養ニ關スル指揮ニ從ハザルニ因リ事故ヲ生ゼシメタルトキハ癈疾年金又ハ癈疾手當金ノ全部又ハ一部ヲ支給セザルコトヲ得
第五十四條 癈疾年金ノ支給ヲ受クル者ニ付必要アリト認ムルトキハ診斷ヲ行フコトヲ得
正當ノ理由ナクシテ前項ノ診斷ヲ受ケザル者ニ對シテハ癈疾年金ノ全部又ハ一部ヲ支給セザルコトヲ得
第五十五條 養老年金、癈疾年金又ハ遺族年金ノ支給ヲ受クル者ニ付必要アリト認ムルトキハ其ノ身分關係ノ異動及癈疾狀態ノ繼續ノ有無ニ關シ其ノ者ヲシテ必要ナル書類ヲ提出セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ書類ヲ提出セザル者ニ對シテハ養老年金、癈疾年金又ハ遺族年金ノ支給ヲ一時差止ムルコトヲ得
第七節 福祉施設
第五十六條 政府ハ被保險者、被保險者タリシ者又ハ保險給付ヲ受クル者ノ福祉ヲ增進スル爲必要ナル施設ヲ爲スコトヲ得
第四章 費用ノ負擔
第五十七條 國庫ハ保險給付ニ要スル費用ニ付勅令ノ定ムル所ニ依リ坑內夫タル被保險者タリシ期間ニ係ル費用ニ關シテハ其ノ十分ノ二ヲ、其ノ他ノ被保險者タリシ期間ニ係ル費用ニ關シテハ其ノ十分ノ一ヲ負擔ス
國庫ハ前項ニ規定スル費用ノ外每年度豫算ノ範圍內ニ於テ勞働者年金保險事業ノ事務ノ執行ニ要スル費用ヲ負擔ス
第五十八條 政府ハ勞働者年金保險事業ニ要スル費用ニ充ツル爲保險料ヲ徵收ス
保險料ノ算定ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十九條 被保險者及被保險者ヲ使用スル事業主ハ各保險料額ノ二分ノ一ヲ負擔ス但シ第二十二條ノ規定ニ依ル被保險者ハ其ノ全額ヲ負擔ス
第六十條 事業主ハ其ノ使用スル被保險者ノ負擔スベキ保險料ヲ納付スル義務ヲ負フ但シ第二十二條ノ規定ニ依ル被保險者ノ負擔スル保險料ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第六十一條 事業主ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前條ノ規定ニ依リ納付スベキ保險料ヲ被保險者ニ支拂フベキ報酬ヨリ控除スルコトヲ得
第五章 審査ノ請求、訴願及訴訟
第六十二條 保險給付ニ關スル決定ニ不服アル者ハ中央社會保險審査會ニ審査ヲ請求シ其ノ決定ニ不服アルトキハ通常裁判所ニ訴ヲ提起スルコトヲ得
前項ノ審査ノ請求ハ時效ノ中斷ニ關シテハ之ヲ裁判上ノ請求ト看做ス
第六十三條 保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ノ賦課若ハ徵收ノ處分又ハ第十一條ノ規定ニ依ル處分ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第六十四條 保險料其ノ他本法ニ依ル徵收金ノ賦課又ハ徵收ノ處分ニ關シ訴願ノ提起アリタルトキハ主務大臣ハ中央社會保險審査會ノ審査ヲ經テ裁決ヲ爲スベシ
第六十五條 本法ニ規定スルモノノ外中央社會保險審査會ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十六條 審査ノ請求、訴ノ提起又ハ訴願若ハ行政訴訟ノ提起ハ處分ノ通知又ハ決定書ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ之ヲ爲スベシ此ノ場合ニ於テ審査ノ請求ニ付テハ訴願法第八條第三項ノ規定ヲ、訴ノ提起ニ付テハ民事訴訟法第百五十八條第二項及第百五十九條ノ規定ヲ準用ス
第六章 罰則
第六十七條 正當ノ理由ナクシテ第十條ノ規定ニ依ル當該官吏ノ質問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ答辯ヲ爲シ又ハ其ノ檢査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シタル者ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十八條 第九條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ報吿ヲ爲サズ、虛僞ノ報吿ヲ爲シ若ハ文書ノ提示ヲ爲サズ又ハ其ノ他必要ナル事務ヲ行ハザル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十九條 事業主ハ其ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ガ其ノ業務ニ關シ前條ノ違反行爲ヲ爲シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第七十條 第六十八條ノ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
附 則
第七十一條 本法施行ノ期日ハ保險給付及費用ノ負擔ニ關スル規定竝ニ其ノ他ノ規定ニ付各別ニ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十二條 保險給付及費用ノ負擔ニ關スル規定施行ノ日ニ於テ現ニ使用セラルル事業主ノ工場、事業場若ハ事業又ハ現ニ使用セラルル工場、事業場若ハ事業ニ同日迄引續キ第十六條ノ規定ニ依ル被保險者ト爲ルベキ資格ヲ有スル者トシテ五年以上使用セラレタル者ニシテ同日ニ於テ同條ノ規定ニ依ル被保險者ト爲リタルモノガ被保險者タリシ期間二十年未滿ニシテ五十歲(鑛業法ノ適用ヲ受クル事業ノ事業場ニ同日ニ於テ常時坑內作業ニ從事スル者トシテ使用セラルル者ニ在リテハ四十五歲)ヲ超エ被保險者ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ其ノ者ニ對スル脫退手當金ノ支給條件及其ノ額ニ付テハ第四十八條及第四十九條ノ規定ニ拘ラズ勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得但シ第三十一條第二項後段ノ規定ニ該當スル者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
保險給付及費用ノ負擔ニ關スル規定施行ノ日ニ於テ五十歲(鑛業法ノ適用ヲ受クル事業ノ事業場ニ同日ニ於テ常時坑內作業ニ從事スル者トシテ使用セラルル者ニ在リテハ四十五歲)ヲ超エタル者ニシテ同日ニ於テ第十六條ノ規定ニ依ル被保險者ト爲リタルモノガ被保險者タリシ期間六月以上三年未滿ニシテ被保險者ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ第四十八條ノ規定ニ拘ラズ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ニ脫退手當金ヲ支給スルコトヲ得但シ前項ノ規定ニ依リ脫退手當金ノ支給ヲ受クル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
第二十五條但書ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ適用セズ但シ第二十四條ノ規定ニ依リ計算シタル期間六月未滿(第一項ノ規定ニ該當スル者ニ在リテハ一年未滿)ナル者ノ坑內夫タル被保險者トシテ使用セラレタル實期間ニ關シテハ第二十四條ノ規定ニ依リ之ヲ計算ス
第七十三條 保險給付及費用ノ負擔ニ關スル規定施行ノ日前ニ於テ被保險者タリシ期間ハ第二十四條ノ規定ニ依ル被保險者タリシ期間ニ之ヲ算入セズ
第七十四條 保險給村及費用ノ負擔ニ關スル規定施行ノ日ニ於テ勅令ヲ以テ定ムル共濟組合ノ組合員タル者ニ關シテハ本法ノ適用ニ付勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得
第七十五條 保險給付及費用ノ負擔ニ關スル規定施行ノ日ニ於テ郵便年金契約ノ年金受取人タル者ニ關シテハ其ノ契約ガ郵便年金令第十四條ノ規定ノ適用ヲ受クル場合ニ於テハ本法及郵便年金法ノ適用ニ付勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ爲スコトヲ得
第七十六條 退職積立金及退職手當法中左ノ通改正ス
第十一條第一項ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ勞働者年金保險ノ被保險者タル勞働者ニ付テハ其ノ二分ノ一以上ヨリ積立ヲ爲サザルコトノ申出アリタル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
別表
被保險者タリシ期間
日數
三年以上
四十日
四年以上
五十日
五年以上
六十日
六年以上
七十五日
七年以上
九十日
八年以上
百五日
九年以上
百二十日
十年以上
百三十五日
十一年以上
百五十日
十二年以上
百六十五日
十三年以上
百八十日
十四年以上
二百日
十五年以上
二百二十日
十六年以上
二百四十日
十七年以上
二百六十日
十八年以上
二百八十日
十九年以上
三百日
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル労働者年金保険法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十六年三月十日
内閣総理大臣 公爵 近衛文麿
内務大臣 男爵 平沼騏一郎
厚生大臣 金光庸夫
大蔵大臣 河田烈
法律第六十号
労働者年金保険法
第一章 総則
第一条 労働者年金保険ニ於テハ被保険者又ハ被保険者タリシ者ノ老齢、廃疾、死亡又ハ脱退ニ関シ保険給付ヲ為スモノトス
第二条 労働者年金保険ハ政府之ヲ管掌ス
第三条 本法ニ於テ報酬ト称スルハ事業ニ使用セラルル者ガ労務ノ対償トシテ事業主ヨリ受クル賃金又ハ給料及之ニ準ズベキモノヲ謂フ
賃金又ハ給料ニ準ズベキモノノ範囲及評価ニ関シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四条 報酬ノ額ニ基キ保険料又ハ保険給付ノ額ヲ定ムル場合ニ於テハ標準報酬ニ依リ之ヲ算定ス
標準報酬ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五条 保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ヲ徴収シ又ハ其ノ還付ヲ受クル権利及廃疾手当金ヲ受クル権利ハ一年ヲ経過シタルトキ、養老年金、廃疾年金、遺族年金、脱退手当金又ハ第三十三条、第三十四条、第三十八条、第三十九条、第四十七条若ハ第五十一条ノ規定ニ依ル一時金ヲ受クル権利ハ五年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
第六条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ規定スル期間ノ計算ニ付テハ本法ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外民法ノ期間ノ計算ニ関スル規定ヲ準用ス
第七条 労働者年金保険ニ関スル書類ニハ印紙税ヲ課セズ
第八条 行政官庁又ハ保険給付ヲ受クベキ者ハ被保険者又ハ被保険者タリシ者ノ戸籍ニ関シ戸籍事務ヲ管掌スル者又ハ其ノ代理者ニ対シ無償ニテ証明ヲ求ムルコトヲ得
第九条 行政官庁ハ命令ノ定ムル所ニ依リ被保険者ヲ使用スル事業主ヲシテ其ノ使用スル者ノ異動及報酬ニ関シ報告ヲ為サシメ、文書ヲ提示セシメ其ノ他労働者年金保険ノ施行ニ必要ナル事務ヲ行ハシムルコトヲ得
第十条 行政官庁ハ必要アリト認ムルトキハ被保険者ノ異動及報酬並ニ保険給付ノ決定ニ関シ当該官吏ヲシテ被保険者又ハ被保険者タリシ者ノ勤務場所ニ就キ関係者ニ対シ質問ヲ為シ又ハ帳簿書類其ノ他ノ検査ヲ為サシムルコトヲ得
第十一条 保険料ヲ滞納スル者アルトキハ行政官庁ハ期限ヲ指定シテ之ヲ督促スベシ
前項ノ規定ニ依リ督促ヲ為シタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ督促手数料及延滞金ヲ徴収ス
第一項ノ規定ニ依ル督促ヲ受ケタル者其ノ指定ノ期限迄ニ保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ヲ納付セザルトキハ行政官庁ハ国税滞納処分ノ例ニ依リ之ヲ処分シ又ハ滞納者若ハ其ノ者ノ財産ノ在ル市町村ニ対シ之ガ処分ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ市町村ニ対シ処分ノ請求ヲ為シタルトキハ市町村ハ市町村税ノ例ニ依リ之ヲ処分ス此ノ場合ニ於テハ行政官庁ハ徴収金額ノ百分ノ四ニ相当スル金額ヲ当該市町村ニ交付スベシ
第十二条 保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ノ先取特権ノ順位ハ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノノ徴収金ニ次ギ他ノ公課ニ先ツモノトス
第十三条 国税徴収法第四条ノ七及第四条ノ八ノ規定ハ保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ニ関スル書類ノ送達ニ之ヲ準用ス
第十四条 政府ノ事業ニ使用セラルル者及使用セラレタル者ニ関シテハ本法ノ適用ニ付勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得
第十五条 本法中町村トアルハ町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之ニ準ズベキモノトス
第二章 被保険者
第十六条 健康保険法第十三条ノ工場、事業場又ハ事業ニ使用セラルル労働者ハ労働者年金保険ノ被保険者トス但シ左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ此ノ限ニ在ラズ
一 常時十人未満ノ労働者ヲ使用スル工場、事業場又ハ事業ニ使用セラルル者
二 勅令ヲ以テ指定スル工場、事業場又ハ事業ニ使用セラルル者
三 女子
四 船員保険ノ被保険者
五 帝国臣民ニ非ザル者
六 前各号ニ掲グル者ノ外勅令ヲ以テ指定スル者
第十七条 左ノ各号ノ一ニ該当スル労働者ハ地方長官(東京府ニ在リテハ警視総監以下同ジ)ノ認可ヲ受ケ労働者年金保険ノ被保険者ト為ルコトヲ得
一 前条第一号、第二号又ハ第三号ノ規定ニ該当スル者
二 健康保険法第十四条第一項第二号ノ事業ニ使用セラルル者
三 前二号ニ掲グルモノノ外勅令ヲ以テ指定スル事業ニ使用セラルル者
四 前条ノ工場、事業場又ハ事業ニ附属スル事業及前二号ノ事業ニ附属スル事業ニ使用セラルル者
前条第四号乃至第六号ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第一項ノ認可ヲ申請スルニハ事業主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第十八条 第十六条ノ工場、事業場又ハ事業ガ左ノ各号ノ一ニ該当スルニ至リタルトキハ其ノ際同条ノ規定ニ依ル被保険者トシテ其ノ工場、事業場又ハ事業ニ使用セラルル者ニ付テハ前条ノ認可アリタルモノト看做ス
一 第十六条ニ規定スル労働者ヲ常時十人未満使用スル工場、事業場又ハ事業ト為ルニ至リタルトキ
二 第十六条第二号ノ規定ニ依リ指定スル工場、事業場又ハ事業ト為ルニ至リタルトキ
三 前条第一項第二号、第三号又ハ第四号ノ事業ト為ルニ至リタルトキ
第十九条 第十六条ノ規定ニ依ル被保険者ハ其ノ業務ニ使用セラルルニ至リタル日又ハ同条但書ノ規定ニ該当セザルニ至リタル日、第十七条ノ規定ニ依ル被保険者ハ同条ノ認可アリタル日ヨリ其ノ資格ヲ取得ス
第二十条 第十六条及第十七条ノ規定ニ依ル被保険者ハ死亡シタル日、其ノ業務ニ使用セラレザルニ至リタル日又ハ第十六条第四号乃至第六号若ハ第十七条第二項ノ規定ニ該当スルニ至リタル日ノ翌日(其ノ事実アリタル日ニ更ニ前条ノ規定ニ該当スルニ至リタルトキハ其ノ日)ヨリ其ノ資格ヲ喪失ス
第二十一条 第十七条ノ規定ニ依ル被保険者ハ地方長官ノ認可ヲ受ケ其ノ資格ヲ喪失スルコトヲ得
前項ノ認可アリタルトキハ被保険者ハ認可アリタル日ノ翌日ヨリ其ノ資格ヲ喪失ス
第二十二条 被保険者タリシ期間十四年以上二十年未満ナル者ガ被保険者タラザルニ至リタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ継続シテ被保険者ト為ルコトヲ得但シ其ノ者ガ日本ノ国籍ヲ失ヒタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ニ依ル被保険者ニ対シテハ同項ノ規定ニ依ル被保険者ト為リタル日以後ニ新ニ発シタル疾病又ハ負傷ニ因ル廃疾ニ関シテハ保険給付ヲ為サズ
第二十三条 前条ノ規定ニ依ル被保険者ハ第十六条及第十七条ノ規定ニ依ル被保険者タリシ期間ト前条ノ規定ニ依ル被保険者タリシ期間トヲ合算シテ二十年ニ達シタルトキ其ノ他勅令ヲ以テ定ムル事由ニ該当スルニ至リタルトキハ其ノ資格ヲ喪失ス
第二十条ノ規定ハ前条ノ規定ニ依ル被保険者死亡シタル場合及日本ノ国籍ヲ失ヒタル場合ニ之ヲ準用ス
第三章 保険給付及福祉施設
第一節 総則
第二十四条 被保険者タリシ期間ノ計算ハ被保険者ノ資格ヲ取得シタル月ヨリ之ヲ起算シ其ノ資格ヲ喪失シタル月ノ前月ヲ以テ之ヲ止ム但シ十六日以後ニ於テ被保険者ノ資格ヲ取得シタルトキハ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ計算シ十六日以後ニ於テ被保険者ノ資格ヲ喪失シタルトキハ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ被保険者タリシ期間ニ加算ス
前項ノ規定ニ拘ラズ被保険者ノ資格ヲ取得シタル月ニ於テ其ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ其ノ月ハ半月トシテ之ヲ被保険者タリシ期間ニ加算ス
被保険者ノ資格ヲ喪失シタル後更ニ其ノ資格ヲ取得シタル者ニ対シテ保険給付ヲ為ス場合ニ於テハ前後ノ被保険者タリシ期間ハ之ヲ合算ス但シ左ニ掲グル期間ハ之ヲ合算セズ
一 脱退手当金ノ支給ヲ受ケタルトキハ其ノ計算ノ基礎ト為リタル期間
二 命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外同一ノ事業主ノ工場、事業場若ハ事業又ハ同一ノ工場、事業場若ハ事業ニ被保険者トシテ引続キ使用セラレタル実期間六月未満ナルトキハ其ノ期間
前項但書ノ規定ハ第五十一条ノ規定ニ依リ差額ノ支給ヲ受ケタル場合ニ之ヲ準用ス
第二十五条 鉱業法ノ適用ヲ受クル事業ノ事業場ニ使用セラルル被保険者ニシテ常時坑内作業ニ従事スルモノ(以下坑内夫タル被保険者ト称ス)ノ坑内夫タル被保険者トシテ使用セラレタル実期間ニ付被保険者タリシ期間ヲ計算スル場合ニ於テハ其ノ実期間ニ付前条ノ規定ニ依リ計算シタル期間ニ三分ノ四ヲ乗ジテ之ヲ計算ス但シ左ニ掲グル期間ニ関シテハ前条ノ規定ニ依リ之ヲ計算ス
一 前条ノ規定ニ依リ計算シタル期間三年未満ナル者ノ坑内夫タル被保険者トシテ使用セラレタル実期間
二 坑内夫タル被保険者トシテ使用セラレタル実期間ニ付前条ノ規定ニ依リ計算シタル期間ガ十五年ヲ超ユル場合ニ於テ十五年ヲ超ユル部分ノ実期間
第二十六条 遺族年金又ハ第三十三条、第三十四条、第三十八条、第三十九条若ハ第四十七条ノ規定ニ依ル一時金ヲ受クベキ遺族ノ範囲及順位ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十七条 養老年金、廃疾年金及遺族年金ノ支給ハ之ヲ支給スベキ事由ノ生ジタル月ノ翌月ヨリ之ヲ始メ権利消滅ノ月ヲ以テ終ル
第二十八条 政府ハ事故ガ第三者ノ行為ニ因リテ生ジタル場合ニ於テ保険給付ヲ為シタルトキハ其ノ給付ノ価額ノ限度ニ於テ保険給付ヲ受クベキ者ガ第三者ニ対シテ有スル損害賠償請求ノ権利ヲ取得ス
第二十九条 保険給付トシテ支給ヲ受クル金銭ヲ標準トシテ租税其ノ他ノ公課ヲ課セズ但シ養老年金ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十条 保険給付ヲ受クル権利ハ之ヲ譲渡シ又ハ差押フルコトヲ得ズ
第二節 養老年金
第三十一条 被保険者タリシ期間二十年以上ナル者ガ其ノ資格ヲ喪失シタル後五十五歳ヲ超エタルトキ又ハ五十五歳ヲ超エ其ノ資格ヲ喪失シタルトキハ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄養老年金ヲ支給ス
坑内夫タル被保険者トシテ第二十四条ノ規定ニ依ル計算ニ依リ十五年以上使用セラレタル者ニ付テハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ者ガ被保険者ノ資格ヲ喪失シタル後五十歳ヲ超エタルトキ又ハ五十歳ヲ超エ其ノ資格ヲ喪失シタルトキヨリ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄養老年金ヲ支給ス継続シタル十五年間ニ於テ坑内夫タル被保険者トシテ同条ノ規定ニ依ル計算ニ依リ十二年以上使用セラレタル者ニ付亦同ジ
第三十二条 養老年金ノ額ハ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ二十五ニ相当スル金額トシ被保険者タリシ期間二十年以上一年ヲ増ス毎ニ其ノ一年ニ対シ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相当スル金額ヲ加ヘタル金額トス
同一ノ事業主ノ工場、事業場若ハ事業又ハ同一ノ工場、事業場若ハ事業ニ於テ引続キ被保険者タリシ期間十年以上ナル者ニ関シテハ其ノ者ニ支給セラルル養老年金ノ額ハ前項ノ金額ニ其ノ期間ノ毎十年ニ対シ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相当スル金額ヲ加ヘタル金額トス
前二項ノ規定ニ拘ラズ養老年金ノ額ハ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ五十ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三十三条 養老年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタル際其ノ者ノ死亡ニ関シ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ者ナキ場合ニ於テ既ニ支給ヲ受ケタル養老年金ノ総額ガ養老年金ノ五年分ニ相当スル金額ニ満タザルトキハ其ノ差額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
第三十四条 被保険者タリシ期間二十年以上ナル者(第三十一条第二項後段ノ規定ニ該当スル者ヲ含ム以下同ジ)ガ養老年金ノ支給ヲ受クルコトナクシテ死亡シタル際其ノ者ノ死亡ニ関シ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ者ナキ場合ニ於テハ其ノ者ガ支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ養老年金ノ五年分ニ相当スル金額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
前項ノ規定ハ第三十九条ノ規定ニ依ル一時金ノ支給ヲ受クル場合ニ於テハ之ヲ適用セズ
第三十五条 養老年金ノ支給ヲ受クル者ガ被保険者ト為リタルトキハ其ノ月ヨリ養老年金ノ支給ヲ停止ス
前項ノ規定ニ依リ養老年金ノ支給ヲ停止セラレタル被保険者ガ其ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ前後ノ被保険者タリシ期間ヲ合算シテ養老年金ノ額ヲ改定ス
前項ノ規定ニ依リ養老年金ノ額ヲ改定スル場合ニ於テ其ノ額ガ従前ノ養老年金ノ額ヨリ少キトキハ従前ノ養老年金ノ額ヲ以テ改定養老年金ノ額トス
第三節 廃疾年金及廃疾手当金
第三十六条 被保険者ノ資格喪失前ニ発シタル疾病又ハ負傷及之ニ因リ発シタル疾病ガ勅令ノ定ムル期間内ニ治癒シタル場合又ハ治癒セザルモ其ノ期間ヲ経過シタル場合ニ於テ勅令ノ定ムル程度ノ廃疾ノ状態ニ在ル者ニハ其ノ程度ニ応ジ其ノ者ノ死亡ニ至ル迄廃疾年金ヲ支給シ又ハ一時金トシテ廃疾手当金ヲ支給ス
廃疾年金又ハ廃疾手当金ノ支給ヲ受クルニハ廃疾ト為リタル日前五年間ニ被保険者タリシ期間三年以上ナル者タルコトヲ要ス
第三十七条 廃疾年金ノ額ハ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ二十五ニ相当スル金額トシ被保険者タリシ期間二十年以上一年ヲ増ス毎ニ其ノ一年ニ対シ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相当スル金額ヲ加ヘタル金額トス
同一ノ事業主ノ工場、事業場若ハ事業又ハ同一ノ工場、事業場若ハ事業ニ於テ引続キ被保険者タリシ期間十年以上ナル者ニ関シテハ其ノ者ニ支給セラルル廃疾年金ノ額ハ前項ノ金額ニ其ノ期間ノ毎十年ニ対シ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬年額ノ百分ノ一ニ相当スル金額ヲ加ヘタル金額トス
第三十二条第三項ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
廃疾手当金ノ額ハ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ七月分ニ相当スル金額トス
第三十八条 被保険者タリシ期間二十年未満ナル者ニシテ廃疾年金ノ支給ヲ受クルモノガ死亡シタル場合ニ於テ既ニ支給ヲ受ケタル廃疾年金ノ総額ガ被保険者ノ資格喪失ノ際支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ脱退手当金及被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ七月分ノ合算額(被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ十三月分ヲ超ユルトキハ十三月分ニ止ム)ニ相当スル金額ニ満タザルトキハ其ノ差額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
前項ノ規定ハ第三十一条第二項後段ノ規定ニ該当スル者ガ死亡シタル場合ニ於テハ之ヲ適用セズ
第三十九条 被保険者タリシ期間二十年以上ナル者ニシテ廃疾年金ノ支給ヲ受クルモノガ死亡シタル際其ノ者ノ死亡ニ関シ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ者ナキ場合ニ於テ既ニ支給ヲ受ケタル廃疾年金ノ総額ガ廃疾年金ノ五年分ニ相当スル金額ニ満タザルトキハ其ノ差額ヲ一時金トシテ其ノ遺族ニ支給ス
第四十条 養老年金及廃疾年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ一ヲ支給ス
第四十一条 廃疾年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ガ廃疾年金ノ支給ヲ受クル程度ノ廃疾ノ状態ニ該当セザルニ至リタルトキハ爾後廃疾年金ヲ支給セズ
第四十二条 養老年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ニハ廃疾手当金ヲ支給セズ
第四十三条 第三十五条ノ規定ハ廃疾年金ノ支給ニ関シ之ヲ準用ス
第四節 遺族年金
第四十四条 被保険者タリシ期間二十年以上ナル者ガ死亡シタルトキハ其ノ遺族ニ対シ十年間遺族年金ヲ支給ス
第四十五条 遺族年金ノ額ハ左ノ区別ニ依ル金額トス
一 養老年金又ハ廃疾年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタル場合ニ於テハ其ノ者ニ支給セラルル養老年金又ハ廃疾年金ノ額ノ二分ノ一ニ相当スル金額
二 被保険者タリシ期間二十年以上ナル者ガ養老年金ノ支給ヲ受クルコトナクシテ死亡シタル場合ニ於テハ其ノ者ガ支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ養老年金ノ額ノ二分ノ一ニ相当スル金額
第四十六条 遺族年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタルトキ其ノ他勅令ヲ以テ定ムル事由ニ該当スルニ至リタルトキハ遺族年金ヲ受クル権利ヲ失フ此ノ場合ニ於テ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ後順位者アルトキハ其ノ者ニ遺族年金ヲ支給ス但シ其ノ者ガ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ期間ハ既ニ支給セラレタル期間ト合算シテ十年ヲ超ユルコトヲ得ズ
第四十七条 遺族年金ノ支給ヲ受クル者ガ遺族年金ヲ受クル権利ヲ失ヒタル場合ニ於テ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ後順位者ナキトキハ左ノ区別ニ依ル金額ヲ一時金トシテ被保険者タリシ者ノ遺族ニ支給ス
一 養老年金又ハ廃疾年金ノ支給ヲ受クル者ガ死亡シタルニ因リ遺族年金ノ支給ヲ受ケタル場合ニ在リテハ既ニ支給ヲ受ケタル養老年金又ハ廃疾年金ト其ノ遺族ガ其ノ者ノ死亡ニ関シ支給ヲ受ケタル遺族年金トノ合算額ガ養老年金又ハ廃疾年金ノ五年分ニ相当スル金額ニ満タザルトキハ其ノ差額
二 被保険者タリシ期間二十年以上ナル者ガ養老年金ノ支給ヲ受クルコトナクシテ死亡シタルニ因リ遺族年金ノ支給ヲ受ケタル場合ニ在リテハ其ノ者ノ死亡ニ関シ既ニ支給ヲ受ケタル遺族年金ノ総額ガ其ノ者ノ支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ養老年金ノ五年分ニ相当スル金額ニ満タザルトキハ其ノ差額
第五節 脱退手当金
第四十八条 被保険者タリシ期間三年以上二十年未満ナル者ガ死亡シタルトキ又ハ其ノ資格ヲ喪失シタル後更ニ被保険者ト為ルコトナクシテ一年ヲ経過シタルトキハ脱退手当金ヲ支給ス但シ其ノ者ガ廃疾手当金ノ支給ヲ受クルトキハ一年ヲ経過セザル場合ト雖モ之ヲ支給ス
前項ノ規定ニ拘ラズ現ニ被保険者タル者ニ対シテハ脱退手当金ハ之ヲ支給セズ
第一項ノ規定ハ第三十一条第二項後段ノ規定ニ該当スル者ニ対シテハ之ヲ適用セズ
第四十九条 脱退手当金ノ額ハ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ三十分ノ一ノ額ニ被保険者タリシ期間ニ依リ別表ニ定ムル日数ヲ乗ジテ得タル金額トス但シ廃疾手当金ノ支給ヲ受クル者ニ支給スベキ額ハ廃疾手当金ノ額ト合算シテ被保険者タリシ全期間ノ平均報酬月額ノ十三月分ニ相当スル金額ヲ超ユルコトヲ得ズ
第五十条 廃疾年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ニハ脱退手当金ヲ支給セズ
第五十一条 廃疾年金ヲ受クル権利ヲ有スル者ガ第四十一条ノ規定ニ依リ廃疾年金ノ支給ヲ受ケザルニ至リタル場合ニ於テ既ニ支給ヲ受ケタル廃疾年金ノ総額ガ其ノ者ガ被保険者ノ資格ヲ喪失シタル際支給ヲ受クルコトヲ得ベカリシ脱退手当金ノ額ニ満タザルトキハ其ノ差額ヲ支給ス
第六節 保険給付ノ制限
第五十二条 被保険者又ハ被保険者タリシ者ガ自己ノ故意ノ犯罪行為ニ因リ又ハ故意ニ事故ヲ生ゼシメタルトキハ廃疾年金、廃疾手当金又ハ遺族年金ヲ支給セズ
第三十三条、第三十四条、第三十八条、第三十九条若ハ第四十七条ノ規定ニ依ル一時金又ハ遺族年金ノ支給ヲ受クベキ者ガ被保険者、被保険者タリシ者又ハ遺族年金ノ支給ヲ受クル者ヲ故意ニ死ニ致シタルトキハ其ノ者ニ対シテハ支給セズ此ノ場合ニ於テ後順位者アルトキハ其ノ者ニ支給ス
第五十三条 被保険者又ハ被保険者タリシ者ガ重大ナル過失ニ因リ又ハ正当ノ理由ナクシテ療養ニ関スル指揮ニ従ハザルニ因リ事故ヲ生ゼシメタルトキハ廃疾年金又ハ廃疾手当金ノ全部又ハ一部ヲ支給セザルコトヲ得
第五十四条 廃疾年金ノ支給ヲ受クル者ニ付必要アリト認ムルトキハ診断ヲ行フコトヲ得
正当ノ理由ナクシテ前項ノ診断ヲ受ケザル者ニ対シテハ廃疾年金ノ全部又ハ一部ヲ支給セザルコトヲ得
第五十五条 養老年金、廃疾年金又ハ遺族年金ノ支給ヲ受クル者ニ付必要アリト認ムルトキハ其ノ身分関係ノ異動及廃疾状態ノ継続ノ有無ニ関シ其ノ者ヲシテ必要ナル書類ヲ提出セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ書類ヲ提出セザル者ニ対シテハ養老年金、廃疾年金又ハ遺族年金ノ支給ヲ一時差止ムルコトヲ得
第七節 福祉施設
第五十六条 政府ハ被保険者、被保険者タリシ者又ハ保険給付ヲ受クル者ノ福祉ヲ増進スル為必要ナル施設ヲ為スコトヲ得
第四章 費用ノ負担
第五十七条 国庫ハ保険給付ニ要スル費用ニ付勅令ノ定ムル所ニ依リ坑内夫タル被保険者タリシ期間ニ係ル費用ニ関シテハ其ノ十分ノ二ヲ、其ノ他ノ被保険者タリシ期間ニ係ル費用ニ関シテハ其ノ十分ノ一ヲ負担ス
国庫ハ前項ニ規定スル費用ノ外毎年度予算ノ範囲内ニ於テ労働者年金保険事業ノ事務ノ執行ニ要スル費用ヲ負担ス
第五十八条 政府ハ労働者年金保険事業ニ要スル費用ニ充ツル為保険料ヲ徴収ス
保険料ノ算定ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十九条 被保険者及被保険者ヲ使用スル事業主ハ各保険料額ノ二分ノ一ヲ負担ス但シ第二十二条ノ規定ニ依ル被保険者ハ其ノ全額ヲ負担ス
第六十条 事業主ハ其ノ使用スル被保険者ノ負担スベキ保険料ヲ納付スル義務ヲ負フ但シ第二十二条ノ規定ニ依ル被保険者ノ負担スル保険料ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第六十一条 事業主ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前条ノ規定ニ依リ納付スベキ保険料ヲ被保険者ニ支払フベキ報酬ヨリ控除スルコトヲ得
第五章 審査ノ請求、訴願及訴訟
第六十二条 保険給付ニ関スル決定ニ不服アル者ハ中央社会保険審査会ニ審査ヲ請求シ其ノ決定ニ不服アルトキハ通常裁判所ニ訴ヲ提起スルコトヲ得
前項ノ審査ノ請求ハ時効ノ中断ニ関シテハ之ヲ裁判上ノ請求ト看做ス
第六十三条 保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ノ賦課若ハ徴収ノ処分又ハ第十一条ノ規定ニ依ル処分ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第六十四条 保険料其ノ他本法ニ依ル徴収金ノ賦課又ハ徴収ノ処分ニ関シ訴願ノ提起アリタルトキハ主務大臣ハ中央社会保険審査会ノ審査ヲ経テ裁決ヲ為スベシ
第六十五条 本法ニ規定スルモノノ外中央社会保険審査会ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十六条 審査ノ請求、訴ノ提起又ハ訴願若ハ行政訴訟ノ提起ハ処分ノ通知又ハ決定書ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ之ヲ為スベシ此ノ場合ニ於テ審査ノ請求ニ付テハ訴願法第八条第三項ノ規定ヲ、訴ノ提起ニ付テハ民事訴訟法第百五十八条第二項及第百五十九条ノ規定ヲ準用ス
第六章 罰則
第六十七条 正当ノ理由ナクシテ第十条ノ規定ニ依ル当該官吏ノ質問ニ対シ答弁ヲ為サズ若ハ虚偽ノ答弁ヲ為シ又ハ其ノ検査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シタル者ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
第六十八条 第九条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ報告ヲ為サズ、虚偽ノ報告ヲ為シ若ハ文書ノ提示ヲ為サズ又ハ其ノ他必要ナル事務ヲ行ハザル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス
第六十九条 事業主ハ其ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ従業者ガ其ノ業務ニ関シ前条ノ違反行為ヲ為シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ処罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第七十条 第六十八条ノ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
附 則
第七十一条 本法施行ノ期日ハ保険給付及費用ノ負担ニ関スル規定並ニ其ノ他ノ規定ニ付各別ニ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十二条 保険給付及費用ノ負担ニ関スル規定施行ノ日ニ於テ現ニ使用セラルル事業主ノ工場、事業場若ハ事業又ハ現ニ使用セラルル工場、事業場若ハ事業ニ同日迄引続キ第十六条ノ規定ニ依ル被保険者ト為ルベキ資格ヲ有スル者トシテ五年以上使用セラレタル者ニシテ同日ニ於テ同条ノ規定ニ依ル被保険者ト為リタルモノガ被保険者タリシ期間二十年未満ニシテ五十歳(鉱業法ノ適用ヲ受クル事業ノ事業場ニ同日ニ於テ常時坑内作業ニ従事スル者トシテ使用セラルル者ニ在リテハ四十五歳)ヲ超エ被保険者ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ其ノ者ニ対スル脱退手当金ノ支給条件及其ノ額ニ付テハ第四十八条及第四十九条ノ規定ニ拘ラズ勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得但シ第三十一条第二項後段ノ規定ニ該当スル者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
保険給付及費用ノ負担ニ関スル規定施行ノ日ニ於テ五十歳(鉱業法ノ適用ヲ受クル事業ノ事業場ニ同日ニ於テ常時坑内作業ニ従事スル者トシテ使用セラルル者ニ在リテハ四十五歳)ヲ超エタル者ニシテ同日ニ於テ第十六条ノ規定ニ依ル被保険者ト為リタルモノガ被保険者タリシ期間六月以上三年未満ニシテ被保険者ノ資格ヲ喪失シタル場合ニ於テハ第四十八条ノ規定ニ拘ラズ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ニ脱退手当金ヲ支給スルコトヲ得但シ前項ノ規定ニ依リ脱退手当金ノ支給ヲ受クル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
第二十五条但書ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ適用セズ但シ第二十四条ノ規定ニ依リ計算シタル期間六月未満(第一項ノ規定ニ該当スル者ニ在リテハ一年未満)ナル者ノ坑内夫タル被保険者トシテ使用セラレタル実期間ニ関シテハ第二十四条ノ規定ニ依リ之ヲ計算ス
第七十三条 保険給付及費用ノ負担ニ関スル規定施行ノ日前ニ於テ被保険者タリシ期間ハ第二十四条ノ規定ニ依ル被保険者タリシ期間ニ之ヲ算入セズ
第七十四条 保険給村及費用ノ負担ニ関スル規定施行ノ日ニ於テ勅令ヲ以テ定ムル共済組合ノ組合員タル者ニ関シテハ本法ノ適用ニ付勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得
第七十五条 保険給付及費用ノ負担ニ関スル規定施行ノ日ニ於テ郵便年金契約ノ年金受取人タル者ニ関シテハ其ノ契約ガ郵便年金令第十四条ノ規定ノ適用ヲ受クル場合ニ於テハ本法及郵便年金法ノ適用ニ付勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得
第七十六条 退職積立金及退職手当法中左ノ通改正ス
第十一条第一項ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ労働者年金保険ノ被保険者タル労働者ニ付テハ其ノ二分ノ一以上ヨリ積立ヲ為サザルコトノ申出アリタル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
別表
被保険者タリシ期間
日数
三年以上
四十日
四年以上
五十日
五年以上
六十日
六年以上
七十五日
七年以上
九十日
八年以上
百五日
九年以上
百二十日
十年以上
百三十五日
十一年以上
百五十日
十二年以上
百六十五日
十三年以上
百八十日
十四年以上
二百日
十五年以上
二百二十日
十六年以上
二百四十日
十七年以上
二百六十日
十八年以上
二百八十日
十九年以上
三百日