朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル著作權法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月三日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
內務大臣 侯爵 西鄕從道
法律第三十九號
著作權法
第一章
著作者ノ權利
第二章
僞作
第三章
罰則
第四章
附則
著作權法
第一章 著作者ノ權利
第一條 文書演述圖畫彫刻模型寫眞其ノ他文藝學術若ハ美術ノ範圍ニ屬スル著作物ノ著作者ハ其ノ著作物ヲ複製スルノ權利ヲ專有ス
文藝學術ノ著作物ノ著作權ハ翻譯權ヲ包含シ各種ノ脚本及樂譜ノ著作權ハ興行權ヲ包含ス
第二條 著作權ハ之ヲ讓渡スコトヲ得
第三條 發行又ハ興行シタル著作物ノ著作權ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間繼續ス
數人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作權ハ最終ニ死亡シタル者ノ死後三十年間繼續ス
第四條 著作者ノ死後發行又ハ興行シタル著作物ノ著作權ハ發行又ハ興行ノトキヨリ三十年間繼續ス
第五條 無名又ハ變名著作物ノ著作權ハ發行又ハ興行ノトキヨリ三十年間繼續ス但シ其ノ期間內ニ著作者其ノ實名ノ登錄ヲ受ケタルトキハ第三條ノ規定ニ從フ
第六條 官公衙學校社寺協會會社其ノ他團體ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ發行又ハ興行シタル著作物ノ著作權ハ發行又ハ興行ノトキヨリ三十年間繼續ス
第七條 著作權者原著作物發行ノトキヨリ十年內ニ其ノ翻譯物ヲ發行セサルトキハ其ノ翻譯權ハ消滅ス
前項ノ期間內ニ著作權者其ノ保護ヲ受ケントスル國語ノ翻譯物ヲ發行シタルトキハ其ノ國語ノ翻譯權ハ消滅セス
第八條 册號ヲ逐ヒ順次ニ發行スル著作物ニ關シテハ前四條ノ期間ハ每册若ハ每號發行ノトキヨリ起算ス
一部分ツツヲ漸次ニ發行シ全部完成スル著作物ニ關シテハ前四條ノ期間ハ最終部分ノ發行ノトキヨリ起算ス但シ三年ヲ經過シ仍繼續ノ部分ヲ發行セサルトキハ旣ニ發行シタル部分ヲ以テ最終ノモノト看做ス
第九條 前六條ノ場合ニ於テ著作權ノ期間ヲ計算スルニハ著作者死亡ノ年又ハ著作物ヲ發行又ハ興行シタル年ノ翌年ヨリ起算ス
第十條 相續人ナキ場合ニ於テ著作權ハ消滅ス
第十一條 左ニ記載シタルモノハ著作權ノ目的物ト爲ルコトヲ得ス
一 法律命令及官公文書
二 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
三 公開セル裁判所、議會竝政談集會ニ於テ爲シタル演述
第十二條 無名又ハ變名著作物ノ發行者又ハ興行者ハ著作權者ニ屬スル權利ヲ保全スルコトヲ得但シ著作者其ノ實名ノ登錄ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十三條 數人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作權ハ各著作者ノ共有ニ屬ス
各著作者ノ分擔シタル部分明瞭ナラサル場合ニ於テ著作者中ニ其ノ發行又ハ興行ヲ拒ム者アルトキハ他ノ著作者ハ其ノ者ニ賠償シテ其ノ持分ヲ取得スルコトヲ得但シ反對ノ契約アルトキハ此ノ限ニ在ラス
各著作者ノ分擔シタル部分明瞭ナル場合ニ於テ著作者中ニ其ノ發行又ハ興行ヲ拒ム者アルトキハ他ノ著作者ハ自己ノ部分ヲ分離シ單獨ノ著作物トシテ發行又ハ興行スルコトヲ得但シ反對ノ契約アルトキハ此ノ限ニ在ラス
本條第二項ノ場合ニ於テハ發行又ハ興行ヲ拒ミタル著作者ノ意ニ反シテ其ノ氏名ヲ其ノ著作物ニ揭クルコトヲ得ス
第十四條 數多ノ著作物ヲ適法ニ編輯シタル者ハ著作者ト看做シ其ノ編輯物全部ニ付テノミ著作權ヲ有ス但シ各部ノ著作權ハ其ノ著作者ニ屬ス
第十五條 著作權者ハ著作權ノ登錄ヲ受クルコトヲ得
發行又ハ興行シタル著作物ノ著作權者ハ登錄ヲ受クルニ非サレハ僞作ニ對スル民事ノ訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
著作權ノ讓渡及質入ハ其ノ登錄ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
無名又ハ變名著作物ノ著作者ハ其ノ實名ノ登錄ヲ受クルコトヲ得
第十六條 登錄ハ行政廳之ヲ行フ
登錄ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七條 未タ發行又ハ興行セサル著作物ノ原本及其ノ著作權ハ債權者ノ爲ニ差押ヲ受クルコトナシ但シ著作權者ニ於テ承諾ヲ爲シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十八條 著作權ヲ承繼シタル者ハ著作者ノ同意ナクシテ其ノ著作者ノ氏名稱號ヲ變更シ若ハ其ノ題號ヲ改メ又ハ其ノ著作物ヲ改竄スルコトヲ得ス
第十九條 原著作物ニ訓㸃、傍訓、句讀、批評、註解、附錄、圖畫ヲ加ヘ又ハ其ノ他ノ修正增減ヲ爲シ若ハ翻案シタルカ爲新ニ著作權ヲ生スルコトナシ但シ新著作物ト看做サルヘキモノハ此ノ限ニ在ラス
第二十條 新聞紙及定期刊行物ニ揭載シタル記事ニ關シテハ小說ヲ除ク外著作權者カ特ニ轉載ヲ禁スル旨ヲ明記セサルトキハ其ノ出所ヲ明示シテ轉載スルコトヲ得
第二十一條 適法ニ翻譯ヲ爲シタル者ハ著作者ト看做シ本法ノ保護ヲ享有ス
翻譯權ノ消滅シタル著作物ニ關シテハ前項ノ翻譯者ハ他人カ原著作物ヲ翻譯スルコトヲ妨クルコトヲ得ス
第二十二條 原著作物ト異リタル技術ニ依リ適法ニ美術上ノ著作物ヲ複製シタル者ハ著作者ト看做シ本法ノ保護ヲ享有ス
第二十三條 寫眞著作權ハ十年間繼續ス
前項ノ期間ハ其ノ著作物ヲ始メテ發行シタル年ノ翌年ヨリ起算ス若シ發行セサルトキハ種板ヲ製作シタル年ノ翌年ヨリ起算ス
寫眞術ニ依リ適法ニ美術上ノ著作物ヲ複製シタル者ハ原著作物ノ著作權ト同一ノ期間內本法ノ保護ヲ享有ス但シ當事者間ニ契約アルトキハ其ノ契約ノ制限ニ從フ
第二十四條 文藝學術ノ著作物中ニ挿入シタル寫眞ニシテ特ニ其ノ著作物ノ爲ニ著作シ又ハ著作セシメタルモノナルトキハ其ノ著作權ハ文藝學術ノ著作物ノ著作者ニ屬シ其ノ著作權ト同一ノ期間內繼續ス
第二十五條 他人ノ囑托ニ依リ著作シタル寫眞肖像ノ著作權ハ其ノ囑托者ニ屬ス
第二十六條 寫眞ニ關スル規定ハ寫眞術ト類似ノ方法ニ依リ製作シタル著作物ニ準用ス
第二十七條 著作權者ノ不明ナル著作物ニシテ未タ發行又ハ興行セサルモノハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ發行又ハ興行スルコトヲ得
第二十八條 外國人ノ著作權ニ付テハ條約ニ別段ノ規定アルモノヲ除ク外本法ノ規定ヲ適用ス但シ著作權保護ニ關シ條約ニ規定ナキ場合ニハ帝國ニ於テ始メテ其ノ著作物ヲ發行シタル者ニ限リ本法ノ保護ヲ享有ス
第二章 僞作
第二十九條 著作權ヲ侵害シタル者ハ僞作者トシ本法ニ規定シタルモノノ外民法第三編第五章ノ規程ニ從ヒ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
第三十條 旣ニ發行シタル著作物ヲ左ノ方法ニ依リ複製スルハ僞作ト看做サス
第一 發行スルノ意思ナク且器械的又ハ化學的方法ニ依ラスシテ複製スルコト
第二 自己ノ著作物中ニ正當ノ範圍內ニ於テ節錄引用スルコト
第三 普通敎育上ノ修身書及讀本ノ目的ニ供スル爲ニ正當ノ範圍內ニ於テ拔萃蒐輯スルコト
第四 文藝學術ノ著作物ノ文句ヲ自己ノ著作シタル脚本ニ挿入シ又ハ樂譜ニ充用スルコト
第五 文藝學術ノ著作物ヲ說明スルノ材料トシテ美術上ノ著作物ヲ挿入シ又ハ美術上ノ著作物ヲ說明スルノ材料トシテ文藝學術ノ著作物ヲ挿入スルコト
第六 圖畫ヲ彫刻物模型ニ作リ又ハ彫刻物模型ヲ圖畫ニ作ルコト
本條ノ場合ニ於テハ其ノ出所ヲ明示スルコトヲ要ス
第三十一條 帝國ニ於テ發賣頒布スルノ目的ヲ以テ僞作物ヲ輸入スル者ハ僞作者ト看做ス
第三十二條 練習用ノ爲ニ著作シタル問題ノ解答書ヲ發行スル者ハ僞作者ト看做ス
第三十三條 善意ニシテ且過失ナク僞作ヲ爲シテ利益ヲ受ケ之カ爲ニ他人ニ損失ヲ及ホシタル者ハ其ノ利益ノ存スル限度ニ於テ之ヲ返還スル義務ヲ負フ
第三十四條 數人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作權者ハ僞作ニ對シ他ノ著作權者ノ同意ナクシテ吿訴ヲ爲シ及自己ノ持分ニ對スル損害ノ賠償ヲ請求シ又ハ自己ノ持分ニ應シテ前條ノ利益ノ返還ヲ請求スルコトヲ得
第三十五條 僞作ニ對シ民事ノ訴訟ヲ提起スル場合ニ於テハ旣ニ發行シタル著作物ニ於テ其ノ著作者トシテ氏名ヲ揭ケタル者ヲ以テ其ノ著作者ト推定ス
無名又ハ變名著作物ニ於テハ其ノ著作物ニ發行者トシテ氏名ヲ揭ケタル者ヲ以テ其ノ發行者ト推定ス
未タ發行セサル脚本及樂譜ノ興行ニ關シテハ其ノ興行ニ著作者トシテ氏名ヲ顯ハシタル者ヲ以テ其ノ著作者ト推定ス
著作者ノ氏名ヲ顯ハササルトキハ其ノ興行者ヲ以テ其ノ著作者ト推定ス
第三十六條 僞作ニ關シ民事ノ出訴又ハ刑事ノ起訴アリタルトキハ裁判所ハ原吿又ハ吿訴人ノ申請ニ依リ保證ヲ立テシメ又ハ立テシメスシテ假ニ僞作ノ疑アル著作物ノ發賣頒布ヲ差止メ若ハ之ヲ差押ヘ又ハ其ノ興行ヲ差止ムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ僞作ニ非サル旨ノ判決確定シタルトキハ申請者ハ差止又ハ差押ヨリ生シタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
第三章 罰則
第三十七條 僞作ヲ爲シタル者及情ヲ知テ僞作物ヲ發賣シ又ハ頒布シタル者ハ五十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十八條 第十八條ノ規定ニ違反シタル者ハ三十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十九條 第二十條及第三十條第二項ノ規定ニ違反シ出所ヲ明示セスシテ複製シタル者竝第十三條第四項ノ規定ニ違反シタル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十條 著作者ニ非サル者ノ氏名稱號ヲ附シテ著作物ヲ發行シタル者ハ三十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十一條 著作權ノ消滅シタル著作物ト雖之ヲ改竄シテ著作者ノ意ヲ害シ又ハ其ノ題號ヲ改メ若ハ著作者ノ氏名稱號ヲ隱匿シ又ハ他人ノ著作物ト詐稱シテ發行シタル者ハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十二條 虛僞ノ登錄ヲ受ケタル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十三條 僞作物及專ラ僞作ノ用ニ供シタル器械器具ハ僞作者、印刷者、發賣者及頒布者ノ所有ニ在ル場合ニ限リ之ヲ沒收ス
第四十四條 本章ニ規定シタル罪ハ被害者ノ吿訴ヲ待テ其ノ罪ヲ論ス但シ第三十八條ノ場合ニ於テ著作者ノ死亡シタルトキ竝第四十條乃至第四十二條ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四十五條 本章ノ罪ニ對スル公訴ノ時效ハ二年ヲ經過スルニ因リテ完成ス
第四章 附則
第四十六條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
明治二十六年法律第十六號版權法明治二十年勅令第七十八號脚本樂譜條例明治二十年勅令第七十九號寫眞版權條例ハ本法施行ノ日ヨリ廢止ス
第四十七條 本法施行前ニ著作權ノ消滅セサル著作物ハ本法施行ノ日ヨリ本法ノ保護ヲ享有ス
第四十八條 本法施行前僞作ト認メラレサリシ複製物ニシテ旣ニ複製シタルモノ又ハ複製ニ著手シタルモノハ之ヲ完成シテ發賣頒布スルコトヲ得
前項ノ複製ノ用ニ供シタル器械器具ノ現存スルトキハ本法施行後五年間仍其ノ複製ノ爲之ヲ使用スルコトヲ得
第四十九條 本法施行前翻譯シ又ハ翻譯ニ著手シ其ノ當時ニ於テ僞作ト認メラレサリシモノハ之ヲ完成シテ發賣頒布スルコトヲ得但シ其ノ翻譯物ハ本法施行後七年內ニ發行スルコトヲ要ス
前項ノ翻譯物ハ發行後五年間仍之ヲ複製スルコトヲ得
第五十條 本法施行前旣ニ興行シ若ハ興行ニ著手シ其ノ當時ニ於テ僞作ト認メラレサリシモノハ本法施行後五年間仍之ヲ興行スルコトヲ得
第五十一條 第四十八條乃至第五十條ノ場合ニ於テハ命令ノ定ムル手續ヲ履行スルニ非サレハ其ノ複製物ヲ發賣頒布シ又ハ興行スルコトヲ得ス
第五十二條 本法ハ建築物ニ適用セス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル著作権法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月三日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
内務大臣 侯爵 西郷従道
法律第三十九号
著作権法
第一章
著作者ノ権利
第二章
偽作
第三章
罰則
第四章
附則
著作権法
第一章 著作者ノ権利
第一条 文書演述図画彫刻模型写真其ノ他文芸学術若ハ美術ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者ハ其ノ著作物ヲ複製スルノ権利ヲ専有ス
文芸学術ノ著作物ノ著作権ハ翻訳権ヲ包含シ各種ノ脚本及楽譜ノ著作権ハ興行権ヲ包含ス
第二条 著作権ハ之ヲ譲渡スコトヲ得
第三条 発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間継続ス
数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権ハ最終ニ死亡シタル者ノ死後三十年間継続ス
第四条 著作者ノ死後発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス
第五条 無名又ハ変名著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス但シ其ノ期間内ニ著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキハ第三条ノ規定ニ従フ
第六条 官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス
第七条 著作権者原著作物発行ノトキヨリ十年内ニ其ノ翻訳物ヲ発行セサルトキハ其ノ翻訳権ハ消滅ス
前項ノ期間内ニ著作権者其ノ保護ヲ受ケントスル国語ノ翻訳物ヲ発行シタルトキハ其ノ国語ノ翻訳権ハ消滅セス
第八条 冊号ヲ逐ヒ順次ニ発行スル著作物ニ関シテハ前四条ノ期間ハ毎冊若ハ毎号発行ノトキヨリ起算ス
一部分ツツヲ漸次ニ発行シ全部完成スル著作物ニ関シテハ前四条ノ期間ハ最終部分ノ発行ノトキヨリ起算ス但シ三年ヲ経過シ仍継続ノ部分ヲ発行セサルトキハ既ニ発行シタル部分ヲ以テ最終ノモノト看做ス
第九条 前六条ノ場合ニ於テ著作権ノ期間ヲ計算スルニハ著作者死亡ノ年又ハ著作物ヲ発行又ハ興行シタル年ノ翌年ヨリ起算ス
第十条 相続人ナキ場合ニ於テ著作権ハ消滅ス
第十一条 左ニ記載シタルモノハ著作権ノ目的物ト為ルコトヲ得ス
一 法律命令及官公文書
二 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雑報及政事上ノ論説若ハ時事ノ記事
三 公開セル裁判所、議会並政談集会ニ於テ為シタル演述
第十二条 無名又ハ変名著作物ノ発行者又ハ興行者ハ著作権者ニ属スル権利ヲ保全スルコトヲ得但シ著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十三条 数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権ハ各著作者ノ共有ニ属ス
各著作者ノ分担シタル部分明瞭ナラサル場合ニ於テ著作者中ニ其ノ発行又ハ興行ヲ拒ム者アルトキハ他ノ著作者ハ其ノ者ニ賠償シテ其ノ持分ヲ取得スルコトヲ得但シ反対ノ契約アルトキハ此ノ限ニ在ラス
各著作者ノ分担シタル部分明瞭ナル場合ニ於テ著作者中ニ其ノ発行又ハ興行ヲ拒ム者アルトキハ他ノ著作者ハ自己ノ部分ヲ分離シ単独ノ著作物トシテ発行又ハ興行スルコトヲ得但シ反対ノ契約アルトキハ此ノ限ニ在ラス
本条第二項ノ場合ニ於テハ発行又ハ興行ヲ拒ミタル著作者ノ意ニ反シテ其ノ氏名ヲ其ノ著作物ニ掲クルコトヲ得ス
第十四条 数多ノ著作物ヲ適法ニ編輯シタル者ハ著作者ト看做シ其ノ編輯物全部ニ付テノミ著作権ヲ有ス但シ各部ノ著作権ハ其ノ著作者ニ属ス
第十五条 著作権者ハ著作権ノ登録ヲ受クルコトヲ得
発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権者ハ登録ヲ受クルニ非サレハ偽作ニ対スル民事ノ訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
著作権ノ譲渡及質入ハ其ノ登録ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
無名又ハ変名著作物ノ著作者ハ其ノ実名ノ登録ヲ受クルコトヲ得
第十六条 登録ハ行政庁之ヲ行フ
登録ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七条 未タ発行又ハ興行セサル著作物ノ原本及其ノ著作権ハ債権者ノ為ニ差押ヲ受クルコトナシ但シ著作権者ニ於テ承諾ヲ為シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十八条 著作権ヲ承継シタル者ハ著作者ノ同意ナクシテ其ノ著作者ノ氏名称号ヲ変更シ若ハ其ノ題号ヲ改メ又ハ其ノ著作物ヲ改竄スルコトヲ得ス
第十九条 原著作物ニ訓点、傍訓、句読、批評、註解、附録、図画ヲ加ヘ又ハ其ノ他ノ修正増減ヲ為シ若ハ翻案シタルカ為新ニ著作権ヲ生スルコトナシ但シ新著作物ト看做サルヘキモノハ此ノ限ニ在ラス
第二十条 新聞紙及定期刊行物ニ掲載シタル記事ニ関シテハ小説ヲ除ク外著作権者カ特ニ転載ヲ禁スル旨ヲ明記セサルトキハ其ノ出所ヲ明示シテ転載スルコトヲ得
第二十一条 適法ニ翻訳ヲ為シタル者ハ著作者ト看做シ本法ノ保護ヲ享有ス
翻訳権ノ消滅シタル著作物ニ関シテハ前項ノ翻訳者ハ他人カ原著作物ヲ翻訳スルコトヲ妨クルコトヲ得ス
第二十二条 原著作物ト異リタル技術ニ依リ適法ニ美術上ノ著作物ヲ複製シタル者ハ著作者ト看做シ本法ノ保護ヲ享有ス
第二十三条 写真著作権ハ十年間継続ス
前項ノ期間ハ其ノ著作物ヲ始メテ発行シタル年ノ翌年ヨリ起算ス若シ発行セサルトキハ種板ヲ製作シタル年ノ翌年ヨリ起算ス
写真術ニ依リ適法ニ美術上ノ著作物ヲ複製シタル者ハ原著作物ノ著作権ト同一ノ期間内本法ノ保護ヲ享有ス但シ当事者間ニ契約アルトキハ其ノ契約ノ制限ニ従フ
第二十四条 文芸学術ノ著作物中ニ挿入シタル写真ニシテ特ニ其ノ著作物ノ為ニ著作シ又ハ著作セシメタルモノナルトキハ其ノ著作権ハ文芸学術ノ著作物ノ著作者ニ属シ其ノ著作権ト同一ノ期間内継続ス
第二十五条 他人ノ嘱托ニ依リ著作シタル写真肖像ノ著作権ハ其ノ嘱托者ニ属ス
第二十六条 写真ニ関スル規定ハ写真術ト類似ノ方法ニ依リ製作シタル著作物ニ準用ス
第二十七条 著作権者ノ不明ナル著作物ニシテ未タ発行又ハ興行セサルモノハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ発行又ハ興行スルコトヲ得
第二十八条 外国人ノ著作権ニ付テハ条約ニ別段ノ規定アルモノヲ除ク外本法ノ規定ヲ適用ス但シ著作権保護ニ関シ条約ニ規定ナキ場合ニハ帝国ニ於テ始メテ其ノ著作物ヲ発行シタル者ニ限リ本法ノ保護ヲ享有ス
第二章 偽作
第二十九条 著作権ヲ侵害シタル者ハ偽作者トシ本法ニ規定シタルモノノ外民法第三編第五章ノ規程ニ従ヒ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
第三十条 既ニ発行シタル著作物ヲ左ノ方法ニ依リ複製スルハ偽作ト看做サス
第一 発行スルノ意思ナク且器械的又ハ化学的方法ニ依ラスシテ複製スルコト
第二 自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト
第三 普通教育上ノ修身書及読本ノ目的ニ供スル為ニ正当ノ範囲内ニ於テ抜萃蒐輯スルコト
第四 文芸学術ノ著作物ノ文句ヲ自己ノ著作シタル脚本ニ挿入シ又ハ楽譜ニ充用スルコト
第五 文芸学術ノ著作物ヲ説明スルノ材料トシテ美術上ノ著作物ヲ挿入シ又ハ美術上ノ著作物ヲ説明スルノ材料トシテ文芸学術ノ著作物ヲ挿入スルコト
第六 図画ヲ彫刻物模型ニ作リ又ハ彫刻物模型ヲ図画ニ作ルコト
本条ノ場合ニ於テハ其ノ出所ヲ明示スルコトヲ要ス
第三十一条 帝国ニ於テ発売頒布スルノ目的ヲ以テ偽作物ヲ輸入スル者ハ偽作者ト看做ス
第三十二条 練習用ノ為ニ著作シタル問題ノ解答書ヲ発行スル者ハ偽作者ト看做ス
第三十三条 善意ニシテ且過失ナク偽作ヲ為シテ利益ヲ受ケ之カ為ニ他人ニ損失ヲ及ホシタル者ハ其ノ利益ノ存スル限度ニ於テ之ヲ返還スル義務ヲ負フ
第三十四条 数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権者ハ偽作ニ対シ他ノ著作権者ノ同意ナクシテ告訴ヲ為シ及自己ノ持分ニ対スル損害ノ賠償ヲ請求シ又ハ自己ノ持分ニ応シテ前条ノ利益ノ返還ヲ請求スルコトヲ得
第三十五条 偽作ニ対シ民事ノ訴訟ヲ提起スル場合ニ於テハ既ニ発行シタル著作物ニ於テ其ノ著作者トシテ氏名ヲ掲ケタル者ヲ以テ其ノ著作者ト推定ス
無名又ハ変名著作物ニ於テハ其ノ著作物ニ発行者トシテ氏名ヲ掲ケタル者ヲ以テ其ノ発行者ト推定ス
未タ発行セサル脚本及楽譜ノ興行ニ関シテハ其ノ興行ニ著作者トシテ氏名ヲ顕ハシタル者ヲ以テ其ノ著作者ト推定ス
著作者ノ氏名ヲ顕ハササルトキハ其ノ興行者ヲ以テ其ノ著作者ト推定ス
第三十六条 偽作ニ関シ民事ノ出訴又ハ刑事ノ起訴アリタルトキハ裁判所ハ原告又ハ告訴人ノ申請ニ依リ保証ヲ立テシメ又ハ立テシメスシテ仮ニ偽作ノ疑アル著作物ノ発売頒布ヲ差止メ若ハ之ヲ差押ヘ又ハ其ノ興行ヲ差止ムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ偽作ニ非サル旨ノ判決確定シタルトキハ申請者ハ差止又ハ差押ヨリ生シタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
第三章 罰則
第三十七条 偽作ヲ為シタル者及情ヲ知テ偽作物ヲ発売シ又ハ頒布シタル者ハ五十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十八条 第十八条ノ規定ニ違反シタル者ハ三十円以上三百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十九条 第二十条及第三十条第二項ノ規定ニ違反シ出所ヲ明示セスシテ複製シタル者並第十三条第四項ノ規定ニ違反シタル者ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十条 著作者ニ非サル者ノ氏名称号ヲ附シテ著作物ヲ発行シタル者ハ三十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十一条 著作権ノ消滅シタル著作物ト雖之ヲ改竄シテ著作者ノ意ヲ害シ又ハ其ノ題号ヲ改メ若ハ著作者ノ氏名称号ヲ隠匿シ又ハ他人ノ著作物ト詐称シテ発行シタル者ハ二十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十二条 虚偽ノ登録ヲ受ケタル者ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十三条 偽作物及専ラ偽作ノ用ニ供シタル器械器具ハ偽作者、印刷者、発売者及頒布者ノ所有ニ在ル場合ニ限リ之ヲ没収ス
第四十四条 本章ニ規定シタル罪ハ被害者ノ告訴ヲ待テ其ノ罪ヲ論ス但シ第三十八条ノ場合ニ於テ著作者ノ死亡シタルトキ並第四十条乃至第四十二条ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四十五条 本章ノ罪ニ対スル公訴ノ時効ハ二年ヲ経過スルニ因リテ完成ス
第四章 附則
第四十六条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
明治二十六年法律第十六号版権法明治二十年勅令第七十八号脚本楽譜条例明治二十年勅令第七十九号写真版権条例ハ本法施行ノ日ヨリ廃止ス
第四十七条 本法施行前ニ著作権ノ消滅セサル著作物ハ本法施行ノ日ヨリ本法ノ保護ヲ享有ス
第四十八条 本法施行前偽作ト認メラレサリシ複製物ニシテ既ニ複製シタルモノ又ハ複製ニ著手シタルモノハ之ヲ完成シテ発売頒布スルコトヲ得
前項ノ複製ノ用ニ供シタル器械器具ノ現存スルトキハ本法施行後五年間仍其ノ複製ノ為之ヲ使用スルコトヲ得
第四十九条 本法施行前翻訳シ又ハ翻訳ニ著手シ其ノ当時ニ於テ偽作ト認メラレサリシモノハ之ヲ完成シテ発売頒布スルコトヲ得但シ其ノ翻訳物ハ本法施行後七年内ニ発行スルコトヲ要ス
前項ノ翻訳物ハ発行後五年間仍之ヲ複製スルコトヲ得
第五十条 本法施行前既ニ興行シ若ハ興行ニ著手シ其ノ当時ニ於テ偽作ト認メラレサリシモノハ本法施行後五年間仍之ヲ興行スルコトヲ得
第五十一条 第四十八条乃至第五十条ノ場合ニ於テハ命令ノ定ムル手続ヲ履行スルニ非サレハ其ノ複製物ヲ発売頒布シ又ハ興行スルコトヲ得ス
第五十二条 本法ハ建築物ニ適用セス