版権法
法令番号: 法律第十六號
公布年月日: 明治26年4月14日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル版權法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十六年四月十三日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
內務大臣 伯爵 井上馨
法律第十六號
版權法
第一條 凡ソ文書圖畫ヲ出版シテ其ノ利益ヲ專有スルノ權ヲ版權ト云ヒ版權所有者ノ承諾ヲ經スシテ其ノ文書圖畫ヲ翻刻スルヲ僞版ト云フ
第二條 出版法ニ依リ文書圖畫ヲ出版スル者及出版法又ハ新聞紙法ニ依リ雜誌ヲ發行スル者ハ總テ此ノ法律ニ依リ其ノ版權ノ保護ヲ受クルコトヲ得
第三條 版權ノ保護ヲ受ケムト欲スル者ハ發行前登錄料トシテ製本六部ノ定價ヲ添ヘ版權登錄ヲ內務省ニ願出ヘシ但シ六部ノ定價合シテ五十錢ニ滿サルモノハ五十錢トシ十圓ヲ超ユルモノハ十圓トス
版權登錄ノ文書圖畫ニハ其ノ定價ヲ記載スヘシ版權登錄後定價ヲ增加スルモノハ其ノ未納額ヲ內務省ニ追納スヘシ但シ追納額ハ最初ノ納額ト通算シテ十圓ニ至テ止ム
第四條 官廳ニ於テ文書圖畫ヲ出版シ版權ノ登錄ヲ得ムト欲スルトキハ其ノ由ヲ內務省ニ通知スヘシ
第五條 版權登錄ノ文書圖畫ニハ其ノ保護年限間ハ版權所有ノ四字ヲ記載スヘシ其ノ記載セサルモノハ登錄ノ效ヲ失フモノトス
第六條 內務省ニ於テハ版權登錄簿ヲ備置キ登錄ノ願出アル每ニ之ヲ登錄シ登錄證書ヲ下付スヘシ
登錄ヲ經タル文書圖畫ハ內務省ニ於テ時々之ヲ官報ニ揭示スヘシ
第七條 版權ハ著作者ニ屬シ著作者死亡後ニ在テハ其ノ相續者ニ屬スルモノトス講義若ハ演說ヲ筆記シタルモノヽ版權亦同シ但シ公開ノ席ニ於テ爲シタル演說ヲ筆記シテ出版スルモノハ版權侵害ト認ムルノ限ニ在ラス
翻譯書ノ版權ハ翻譯者ニ屬シ翻譯者死亡後ニ在テハ其ノ相續者ニ屬スルモノトス
官廳、學校、會社、協會等ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ出版スル文書圖畫ノ版權ハ其ノ官廳、學校、會社、協會等ニ屬スルモノトス
二種以上ノ著作若ハ講義演說ノ筆記ヲ編纂シタル文書圖畫ノ版權ハ編纂者ニ屬シ編纂者死亡後ニ在テハ其ノ相續者ニ屬スルモノトス但シ其ノ原著作及原筆記ニ別ニ版權所有者アルトキハ其ノ所有主ノ承諾ヲ經タル後ニ非サレハ其ノ部分ニ付本項ヲ適用セス
書畫ノ版權ハ其ノ原本ノ所有者ニ屬スルモノトス
第八條 版權ハ制限ヲ附シ若ハ附セスシテ賣渡シ又ハ讓渡スコトヲ得
第九條 版權登錄證書ヲ毀損又ハ紛失シタルトキハ事由ヲ記シ其ノ再度下付ヲ內務省ニ願出ルコトヲ得但シ手數料トシテ五十錢ヲ納ムヘシ
版權登錄證書ニ誤謬アリタルトキハ其ノ理由ヲ記シ其ノ更正ヲ內務省ニ願出ルコトヲ得但シ其ノ誤謬官ニ在ル場合ノ外ハ手數料トシテ五十錢ヲ納ムヘシ
第十條 版權保護ノ年限ハ著作者ノ終身ニ五年ヲ加ヘタルモノトス若版權登錄ノ月ヨリ死亡ノ月マテヲ計算シ之ニ五年ヲ加ヘ仍三十五年ニ足ラサル時ハ版權登錄ノ月ヨリ三十五年トス
數人ノ合著ニ係ルモノヽ版權年限ハ最終ニ死亡シタル者ニ據リテ計算ス
官廳又ハ學校、會社、協會等ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ出版スル文書圖畫竝ニ著作者死亡ノ後ニ出版スル文書圖畫ノ版權年限ハ版權登錄ノ月ヨリ計算シ三十五年トス
第十一條 册號ヲ逐ヒ順次ニ出版スル文書圖畫ノ版權年限ハ每號其ノ出版ノ月ヨリ起算ス但シ其ノ都度第三條ノ手續ヲナスヘシ
雜誌ノ類ニ在テハ內務大臣ノ許可ヲ得テ第三條ノ手續ヲ省略スルコトヲ得
第十二條 版權ノ保護ハ其ノ文書圖畫ヲ改正增減シ又ハ註解、附錄、繪圖等ヲ加ヘ又ハ製本ノ式ヲ改メ又ハ册數ヲ分合スルカ爲變更スルコトナカルヘシ
版權登錄ヲ得タル文書圖畫ニ挿入シタル寫眞ニシテ特ニ其ノ文書圖畫ノ爲ニ寫シタルモノハ其ノ文書圖畫ト共ニ版權ノ保護ヲ受クルモノトス
第十三條 版權年限ヲ經過スルモ版權所有者ノ願出ニ依リ內務大臣ニ於テ必要ト見做ストキハ仍十年間版權保護ノ期限ヲ延スコトアルヘシ
第十四條 文書圖畫ノ版權年限中所有者死亡シ他人ニ於テ其ノ版權相續者ナキコトヲ確信シ之ヲ出版セムト欲スルトキハ其ノ由ヲ官報及東京ノ四社以上ノ重ナル新聞紙竝ニ其ノ所有者居住地ノ新聞紙ニ七日以上廣吿シ最終ノ廣吿日ヨリ六箇月內ニ版權相續者ノ出テサルトキハ內務大臣ノ許可ヲ得テ之ヲ出版シ版權ヲ繼續スルコトヲ得
著作者又ハ相續者ヲ知ルヘカラサル著作ニシテ未タ出版セサルモノ亦前項ノ手續ニ依リ出版シ版權ノ保護ヲ受クルコトヲ得
第十五條 新聞紙ニ於テ二號以上ニ涉リ記載シタル論說、記事又ハ小說及二號以上ニ涉ラスト雖特ニ一欄ヲ設ケ冒頭ニ禁轉載ト記シタルモノハ其ノ編輯者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ刊行ノ月ヨリ二年內ニ之ヲ他ノ新聞紙若ハ雜誌ニ轉載シ又ハ之ヲ編纂シテ出版スルコトヲ得ス其ノ二年ヲ經ルト雖已ニ一部ノ書ト爲シ版權登錄ヲ經タルモノハ原文ニ就テ更ニ編纂スルコトヲ得ス
第十六條 版權所有ノ文書圖畫ヲ僞版シタル者ハ其ノ版權所有者ニ對シ損害賠償ノ責ニ任スヘシ其ノ寫本ヲ發賣シテ版權ヲ犯ス者亦同シ
第十七條 僞版ノ訴アリタルトキ裁判官ハ出訴者ノ情願アルニ於テハ假ニ其ノ發賣頒布ヲ差止ムルコトヲ得但シ審理ノ末僞版ニ非スト判決セラレタルトキハ出訴者ニ於テ其ノ差止ヨリ生スル損害賠償ノ責ニ任スヘシ
第十八條 僞版ニ關ル損害賠償ノ責ハ僞版者ノ相續者ニ及フモノトス
第十九條 版權所有者ノ承諾ヲ經スシテ版權所有ノ文書圖畫ヲ翻譯シ增減シ註解、附錄、繪圖等ヲ加ヘ若ハ其ノ未タ完結セサル部分ヲ續成シテ出版スル者及第十五條ニ違フ者ハ僞版ヲ以テ論ス
他人ノ講義又ハ公開ナラサル席ニ於テ爲シタル他人ノ演說ヲ筆記シ其ノ許諾ヲ經スシテ出版スル者亦前項ニ同シ
第二十條 翻譯書ノ版權ハ其ノ翻譯者ニ屬スト雖其ノ原書ニ就キ別ニ翻譯スル者ニ向ヒ僞版ノ訴ヲ爲スコトヲ得ス但シ其ノ既ニ出版スル所ノ翻譯ヲ剽竊シタルコトヲ證明スルモノハ此ノ限ニ在ラス
第二十一條 世人ヲ欺瞞スル爲故ラニ版權所有ノ文書圖畫ノ題號ヲ冒シ或ハ摸擬シ又ハ氏名、社號、屋號等ノ類似シタルモノヲ湊合シテ他人ノ版權ヲ妨害スル者ハ僞版ヲ以テ論ス
第二十二條 著作者又ハ其ノ相續者ノ承諾ヲ經スシテ未タ出版セサル文書圖畫ヲ出版シ又ハ非賣ノ文書圖畫ヲ翻刻スルモノ亦僞版ヲ以テ論ス所有者ノ承諾ヲ經スシテ書畫ヲ出版スルモ亦同シ
第二十三條 文書圖畫ヲ寫眞ト爲シ因テ其ノ版權ヲ犯スモノハ僞版ヲ以テ論ス
第二十四條 內國ニテ版權所有ノ文書圖畫ヲ外國ニ於テ僞版シタルモノヲ輸入販賣スル者ハ僞版ヲ以テ論ス
第二十五條 僞版ノ訴アリテ其ノ僞版タルヤ否ヲ決シ難キトキハ其ノ訴ヲ受ケタル裁判所ニ於テ三名以上ノ鑑定者ヲ選ヒ之ヲ鑑定セシムルコトアルヘシ
第二十六條 僞版ニ關ル損害賠償ノ時效ハ其ノ原書ノ版權年限終ルノ後三年ヲ經過スルニ因テ成就ス
第二十七條 僞版者及情ヲ知ルノ印刷者、販賣者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮若ハ三十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス但シ被害者ノ吿訴ヲ待テ其ノ罪ヲ論ス
僞版ニ係ル刻版及印本ハ其ノ何人ノ手ニ在ルヲ問ハス之ヲ沒收シ其ノ既ニ販賣シタルモノハ其ノ賣得金ヲ沒收シテ併セテ被害者ニ下付ス
第二十八條 版權ヲ所有セサル文書圖畫ト雖之ヲ改竄シテ著作者ノ意ヲ害シ又ハ其ノ表題ヲ改メ又ハ著作者ノ氏名ヲ隱匿シ又ハ他人ノ著作ト詐稱シテ翻刻スルヲ得ス違フ者ハ二圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス但シ著作者又ハ發行者ノ吿訴ヲ待テ其ノ罪ヲ論ス
第二十九條 第三條ノ手續ヲ爲サスシテ版權所有ノ字ヲ記載シタル文書圖畫ヲ出版スル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十條 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ自首減輕、再犯加重、數罪俱發ノ例ヲ用井ス
第三十一條 此ノ法律ニ關ル公訴ノ時效ハ二年ヲ經過スルニ因テ成就ス
第三十二條 從前ノ出版條例ニ據リ免許ヲ得タル者ノ版權年限ハ從前ノ條例ニ依リ計算スルモノトス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル版権法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十六年四月十三日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
内務大臣 伯爵 井上馨
法律第十六号
版権法
第一条 凡ソ文書図画ヲ出版シテ其ノ利益ヲ専有スルノ権ヲ版権ト云ヒ版権所有者ノ承諾ヲ経スシテ其ノ文書図画ヲ翻刻スルヲ偽版ト云フ
第二条 出版法ニ依リ文書図画ヲ出版スル者及出版法又ハ新聞紙法ニ依リ雑誌ヲ発行スル者ハ総テ此ノ法律ニ依リ其ノ版権ノ保護ヲ受クルコトヲ得
第三条 版権ノ保護ヲ受ケムト欲スル者ハ発行前登録料トシテ製本六部ノ定価ヲ添ヘ版権登録ヲ内務省ニ願出ヘシ但シ六部ノ定価合シテ五十銭ニ満サルモノハ五十銭トシ十円ヲ超ユルモノハ十円トス
版権登録ノ文書図画ニハ其ノ定価ヲ記載スヘシ版権登録後定価ヲ増加スルモノハ其ノ未納額ヲ内務省ニ追納スヘシ但シ追納額ハ最初ノ納額ト通算シテ十円ニ至テ止ム
第四条 官庁ニ於テ文書図画ヲ出版シ版権ノ登録ヲ得ムト欲スルトキハ其ノ由ヲ内務省ニ通知スヘシ
第五条 版権登録ノ文書図画ニハ其ノ保護年限間ハ版権所有ノ四字ヲ記載スヘシ其ノ記載セサルモノハ登録ノ効ヲ失フモノトス
第六条 内務省ニ於テハ版権登録簿ヲ備置キ登録ノ願出アル毎ニ之ヲ登録シ登録証書ヲ下付スヘシ
登録ヲ経タル文書図画ハ内務省ニ於テ時々之ヲ官報ニ掲示スヘシ
第七条 版権ハ著作者ニ属シ著作者死亡後ニ在テハ其ノ相続者ニ属スルモノトス講義若ハ演説ヲ筆記シタルモノヽ版権亦同シ但シ公開ノ席ニ於テ為シタル演説ヲ筆記シテ出版スルモノハ版権侵害ト認ムルノ限ニ在ラス
翻訳書ノ版権ハ翻訳者ニ属シ翻訳者死亡後ニ在テハ其ノ相続者ニ属スルモノトス
官庁、学校、会社、協会等ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ出版スル文書図画ノ版権ハ其ノ官庁、学校、会社、協会等ニ属スルモノトス
二種以上ノ著作若ハ講義演説ノ筆記ヲ編纂シタル文書図画ノ版権ハ編纂者ニ属シ編纂者死亡後ニ在テハ其ノ相続者ニ属スルモノトス但シ其ノ原著作及原筆記ニ別ニ版権所有者アルトキハ其ノ所有主ノ承諾ヲ経タル後ニ非サレハ其ノ部分ニ付本項ヲ適用セス
書画ノ版権ハ其ノ原本ノ所有者ニ属スルモノトス
第八条 版権ハ制限ヲ附シ若ハ附セスシテ売渡シ又ハ譲渡スコトヲ得
第九条 版権登録証書ヲ毀損又ハ紛失シタルトキハ事由ヲ記シ其ノ再度下付ヲ内務省ニ願出ルコトヲ得但シ手数料トシテ五十銭ヲ納ムヘシ
版権登録証書ニ誤謬アリタルトキハ其ノ理由ヲ記シ其ノ更正ヲ内務省ニ願出ルコトヲ得但シ其ノ誤謬官ニ在ル場合ノ外ハ手数料トシテ五十銭ヲ納ムヘシ
第十条 版権保護ノ年限ハ著作者ノ終身ニ五年ヲ加ヘタルモノトス若版権登録ノ月ヨリ死亡ノ月マテヲ計算シ之ニ五年ヲ加ヘ仍三十五年ニ足ラサル時ハ版権登録ノ月ヨリ三十五年トス
数人ノ合著ニ係ルモノヽ版権年限ハ最終ニ死亡シタル者ニ拠リテ計算ス
官庁又ハ学校、会社、協会等ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ出版スル文書図画並ニ著作者死亡ノ後ニ出版スル文書図画ノ版権年限ハ版権登録ノ月ヨリ計算シ三十五年トス
第十一条 冊号ヲ逐ヒ順次ニ出版スル文書図画ノ版権年限ハ毎号其ノ出版ノ月ヨリ起算ス但シ其ノ都度第三条ノ手続ヲナスヘシ
雑誌ノ類ニ在テハ内務大臣ノ許可ヲ得テ第三条ノ手続ヲ省略スルコトヲ得
第十二条 版権ノ保護ハ其ノ文書図画ヲ改正増減シ又ハ註解、附録、絵図等ヲ加ヘ又ハ製本ノ式ヲ改メ又ハ冊数ヲ分合スルカ為変更スルコトナカルヘシ
版権登録ヲ得タル文書図画ニ挿入シタル写真ニシテ特ニ其ノ文書図画ノ為ニ写シタルモノハ其ノ文書図画ト共ニ版権ノ保護ヲ受クルモノトス
第十三条 版権年限ヲ経過スルモ版権所有者ノ願出ニ依リ内務大臣ニ於テ必要ト見做ストキハ仍十年間版権保護ノ期限ヲ延スコトアルヘシ
第十四条 文書図画ノ版権年限中所有者死亡シ他人ニ於テ其ノ版権相続者ナキコトヲ確信シ之ヲ出版セムト欲スルトキハ其ノ由ヲ官報及東京ノ四社以上ノ重ナル新聞紙並ニ其ノ所有者居住地ノ新聞紙ニ七日以上広告シ最終ノ広告日ヨリ六箇月内ニ版権相続者ノ出テサルトキハ内務大臣ノ許可ヲ得テ之ヲ出版シ版権ヲ継続スルコトヲ得
著作者又ハ相続者ヲ知ルヘカラサル著作ニシテ未タ出版セサルモノ亦前項ノ手続ニ依リ出版シ版権ノ保護ヲ受クルコトヲ得
第十五条 新聞紙ニ於テ二号以上ニ渉リ記載シタル論説、記事又ハ小説及二号以上ニ渉ラスト雖特ニ一欄ヲ設ケ冒頭ニ禁転載ト記シタルモノハ其ノ編輯者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ刊行ノ月ヨリ二年内ニ之ヲ他ノ新聞紙若ハ雑誌ニ転載シ又ハ之ヲ編纂シテ出版スルコトヲ得ス其ノ二年ヲ経ルト雖已ニ一部ノ書ト為シ版権登録ヲ経タルモノハ原文ニ就テ更ニ編纂スルコトヲ得ス
第十六条 版権所有ノ文書図画ヲ偽版シタル者ハ其ノ版権所有者ニ対シ損害賠償ノ責ニ任スヘシ其ノ写本ヲ発売シテ版権ヲ犯ス者亦同シ
第十七条 偽版ノ訴アリタルトキ裁判官ハ出訴者ノ情願アルニ於テハ仮ニ其ノ発売頒布ヲ差止ムルコトヲ得但シ審理ノ末偽版ニ非スト判決セラレタルトキハ出訴者ニ於テ其ノ差止ヨリ生スル損害賠償ノ責ニ任スヘシ
第十八条 偽版ニ関ル損害賠償ノ責ハ偽版者ノ相続者ニ及フモノトス
第十九条 版権所有者ノ承諾ヲ経スシテ版権所有ノ文書図画ヲ翻訳シ増減シ註解、附録、絵図等ヲ加ヘ若ハ其ノ未タ完結セサル部分ヲ続成シテ出版スル者及第十五条ニ違フ者ハ偽版ヲ以テ論ス
他人ノ講義又ハ公開ナラサル席ニ於テ為シタル他人ノ演説ヲ筆記シ其ノ許諾ヲ経スシテ出版スル者亦前項ニ同シ
第二十条 翻訳書ノ版権ハ其ノ翻訳者ニ属スト雖其ノ原書ニ就キ別ニ翻訳スル者ニ向ヒ偽版ノ訴ヲ為スコトヲ得ス但シ其ノ既ニ出版スル所ノ翻訳ヲ剽窃シタルコトヲ証明スルモノハ此ノ限ニ在ラス
第二十一条 世人ヲ欺瞞スル為故ラニ版権所有ノ文書図画ノ題号ヲ冒シ或ハ摸擬シ又ハ氏名、社号、屋号等ノ類似シタルモノヲ湊合シテ他人ノ版権ヲ妨害スル者ハ偽版ヲ以テ論ス
第二十二条 著作者又ハ其ノ相続者ノ承諾ヲ経スシテ未タ出版セサル文書図画ヲ出版シ又ハ非売ノ文書図画ヲ翻刻スルモノ亦偽版ヲ以テ論ス所有者ノ承諾ヲ経スシテ書画ヲ出版スルモ亦同シ
第二十三条 文書図画ヲ写真ト為シ因テ其ノ版権ヲ犯スモノハ偽版ヲ以テ論ス
第二十四条 内国ニテ版権所有ノ文書図画ヲ外国ニ於テ偽版シタルモノヲ輸入販売スル者ハ偽版ヲ以テ論ス
第二十五条 偽版ノ訴アリテ其ノ偽版タルヤ否ヲ決シ難キトキハ其ノ訴ヲ受ケタル裁判所ニ於テ三名以上ノ鑑定者ヲ選ヒ之ヲ鑑定セシムルコトアルヘシ
第二十六条 偽版ニ関ル損害賠償ノ時効ハ其ノ原書ノ版権年限終ルノ後三年ヲ経過スルニ因テ成就ス
第二十七条 偽版者及情ヲ知ルノ印刷者、販売者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮若ハ三十円以上三百円以下ノ罰金ニ処ス但シ被害者ノ告訴ヲ待テ其ノ罪ヲ論ス
偽版ニ係ル刻版及印本ハ其ノ何人ノ手ニ在ルヲ問ハス之ヲ没収シ其ノ既ニ販売シタルモノハ其ノ売得金ヲ没収シテ併セテ被害者ニ下付ス
第二十八条 版権ヲ所有セサル文書図画ト雖之ヲ改竄シテ著作者ノ意ヲ害シ又ハ其ノ表題ヲ改メ又ハ著作者ノ氏名ヲ隠匿シ又ハ他人ノ著作ト詐称シテ翻刻スルヲ得ス違フ者ハ二円以上百円以下ノ罰金ニ処ス但シ著作者又ハ発行者ノ告訴ヲ待テ其ノ罪ヲ論ス
第二十九条 第三条ノ手続ヲ為サスシテ版権所有ノ字ヲ記載シタル文書図画ヲ出版スル者ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十条 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ自首減軽、再犯加重、数罪俱発ノ例ヲ用井ス
第三十一条 此ノ法律ニ関ル公訴ノ時効ハ二年ヲ経過スルニ因テ成就ス
第三十二条 従前ノ出版条例ニ拠リ免許ヲ得タル者ノ版権年限ハ従前ノ条例ニ依リ計算スルモノトス