日本電信電話株式会社法をここに公布する。
御名御璽
昭和五十九年十二月二十五日
内閣総理大臣 中曽根康弘
法律第八十五号
日本電信電話株式会社法
(目的及び事業)
第一条 日本電信電話株式会社(以下「会社」という。)は、国内電気通信事業を経営することを目的とする株式会社とする。
2 会社は、前項の事業を営むほか、これに附帯する業務及び郵政大臣の認可を受けて、その他会社の目的を達成するために必要な業務を営むことができる。この場合において、同項の事業に附帯する業務に関し必要な事項は、郵政省令で定める。
(責務)
第二条 会社は、前条の事業を営むに当たつては、常に経営が適正かつ効率的に行われるように配意し、国民生活に不可欠な電話の役務を適切な条件で公平に提供することにより、当該役務のあまねく日本全国における安定的な供給の確保に寄与するとともに、今後の社会経済の進展に果たすべき電気通信の役割の重要性にかんがみ、電気通信技術に関する実用化研究及び基礎的研究の推進並びにその成果の普及を通じて我が国の電気通信の創意ある向上発展に寄与し、もつて公共の福祉の増進に資するよう努めなければならない。
(事務所)
第三条 会社は、本店を東京都に置く。
2 会社は、必要な地に支店又は出張所を置くことができる。
(株式)
第四条 会社の株式は、記名式とし、政府、地方公共団体、日本国民又は日本国法人であつて社員、株主若しくは業務を執行する役員の半数以上、資本若しくは出資の半額以上若しくは議決権の過半数が外国人若しくは外国法人に属さないものに限り、所有することができる。
2 政府は、常時、会社の発行済株式の総数の三分の一以上に当たる株式を保有していなければならない。
3 会社は、新株を発行しようとするときは、郵政大臣の認可を受けなければならない。転換社債又は新株引受権附社債を発行しようとするときも、同様とする。
(政府保有の株式の処分)
第五条 政府の保有する会社の株式の処分は、その年度の予算をもつて国会の議決を経た限度数の範囲内でなければならない。
(商号の使用制限)
第六条 会社でない者は、その商号中に日本電信電話株式会社という文字を用いてはならない。
(社債発行限度の特例)
第七条 会社は、商法(明治三十二年法律第四十八号)第二百九十七条の規定による制限を超えて社債を募集することができる。ただし、資本及び準備金の総額又は最終の貸借対照表により会社に現存する純資産額のいずれか少ない額の四倍を超えてはならない。
(一般担保)
第八条 会社の社債権者は、会社の財産について他の債権者に先だつて自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 前項の先取特権の順位は、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による一般の先取特権に次ぐものとする。
(取締役及び監査役の選任等の決議)
第九条 会社の取締役及び監査役の選任及び解任の決議は、郵政大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。
(定款の変更等)
第十条 会社の定款の変更、利益の処分、合併及び解散の決議は、郵政大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。
2 前項の合併の決議(会社と第一種電気通信事業(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第六条第二項に規定する第一種電気通信事業をいう。)を営まない法人との合併であつて会社が存続するものについての決議を除く。)についての郵政大臣の認可は、同法第十六条第二項の規定の適用については、同項の認可とみなす。
(事業計画)
第十一条 会社は、毎営業年度の開始前に、その営業年度の事業計画を定め、郵政大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
(財務諸表)
第十二条 会社は、毎営業年度終了後三月以内に、その営業年度の貸借対照表、損益計算書及び営業報告書を郵政大臣に提出しなければならない。
(重要な設備の譲渡等)
第十三条 会社は、電気通信幹線路及びこれに準ずる重要な電気通信設備を譲渡し、又は担保に供しようとするときは、郵政大臣の認可を受けなければならない。
(監査役及び監査命令等)
第十四条 会社の監査役は、三人以上でなければならない。
2 郵政大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、監査役を指名して、特定の事項を監査させ、当該監査の結果を報告させることができる。
3 監査役は、監査の結果に基づき、必要があると認めるときは、郵政大臣に意見を提出することができる。
(監督)
第十五条 会社は、郵政大臣がこの法律の定めるところに従い監督する。
2 郵政大臣は、この法律を施行するため特に必要があると認めるときは、会社に対し、その業務に関し監督上必要な命令をすることができる。
(報告)
第十六条 郵政大臣は、この法律を施行するため必要な限度において、会社からその業務に関する報告を徴することができる。
(大蔵大臣との協議)
第十七条 郵政大臣は、第四条第三項、第十条第一項(定款の変更の決議に係るものについては、会社が発行する株式の総数を変更する決議に係るものに限る。)、第十一条又は第十三条の認可をしようとするときは、大蔵大臣に協議しなければならない。
(罰則)
第十八条 会社の取締役、監査役又は職員が、その職務に関してわいろを収受し、要求し、又は約束したときは、三年以下の懲役に処する。これによつて不正の行為をし、又は相当の行為をしなかつたときは、七年以下の懲役に処する。
2 会社の取締役、監査役又は職員になろうとする者が、就任後担当すべき職務に関し、請託を受けてわいろを収受し、要求し、又は約束したときは、取締役、監査役又は職員となつた場合において、二年以下の懲役に処する。
3 会社の取締役、監査役又は職員であつた者が、その在職中に請託を受けて、職務上不正の行為をしたこと又は相当の行為をしなかつたことに関して、わいろを収受し、要求し、又は約束したときは、二年以下の懲役に処する。
第十九条 前条各項の場合において、犯人が収受したわいろは、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。
第二十条 第十八条各項に規定するわいろを供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪を犯した者が自首したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。
第二十一条 第十八条の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第四条の例に従う。
第二十二条 次の各号に掲げる違反があつた場合においては、その違反行為をした会社の取締役又は監査役は、百万円以下の罰金に処する。
一 この法律により郵政大臣の認可を受けなければならない場合において、その認可を受けなかつたとき。
二 第一条第二項に規定する業務以外の業務を行つたとき。
三 第七条ただし書の規定に違反して、社債を募集したとき。
四 第十二条の規定に違反して、貸借対照表、損益計算書若しくは営業報告書を提出せず、又は不実の記載をしたこれらの書類を提出したとき。
五 第十五条第二項の規定による命令に違反したとき。
六 第十六条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
第二十三条 第六条の規定に違反した者は、二十万円以下の罰金に処する。
2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同項の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、附則第十一条及び第十二条の規定は、昭和六十年四月一日から施行する。
(会社の在り方の検討)
第二条 政府は、会社の成立の日から五年以内に、この法律の施行の状況及びこの法律の施行後の諸事情の変化等を勘案して会社の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
(会社の設立)
第三条 郵政大臣は、設立委員を命じ、会社の設立に関して発起人の職務を行わせる。
2 設立委員は、定款を作成して、郵政大臣の認可を受けなければならない。
3 郵政大臣は、前項の認可をしようとするときは、大蔵大臣に協議しなければならない。
4 会社の設立に際して発行する株式に関する商法第百六十八条ノ二各号に掲げる事項は、定款で定めなければならない。
5 会社の設立に際して発行する株式については、商法第二百八十四条ノ二第二項本文の規定にかかわらず、その発行価額の二分の一を超える額を資本に組み入れないことができる。この場合において、同条第一項中「本法」とあるのは、「本法又ハ日本電信電話株式会社法」とする。
6 会社の設立に際して発行する株式の総数は、日本電信電話公社(以下「公社」という。)が引き受けるものとし、設立委員は、これを公社に割り当てるものとする。
7 前項の規定により割り当てられた株式による会社の設立に関する株式引受人としての権利は、政府が行使する。
8 公社は、会社の設立に際し、会社に対し、その財産の全部を出資するものとする。この場合においては、日本電信電話公社法(昭和二十七年法律第二百五十号)第六十八条の規定は、適用しない。
9 会社の設立に係る商法第百八十条第一項の規定の適用については、同項中「第百七十七条ノ規定ニ依ル払込及現物出資ノ給付」とあるのは、「日本電信電話株式会社法附則第三条第六項ノ規定ニ依ル株式ノ割当」とする。
10 第八項の規定により公社が行う出資に係る給付は、附則第十一条の規定の施行の時に行われるものとし、会社は、商法第五十七条の規定にかかわらず、その時に成立する。
11 会社は、商法第百八十八条第一項の規定にかかわらず、会社の成立後遅滞なく、その設立の登記をしなければならない。
12 公社が出資によつて取得する会社の株式は、会社の成立の時に、政府に無償譲渡されるものとする。
13 商法第百六十七条、第百六十八条第二項及び第百八十一条の規定は、会社の設立については、適用しない。
(公社の解散等)
第四条 公社は、会社の成立の時において解散するものとし、その一切の権利及び義務は、その時において会社が承継する。
2 公社の昭和五十九年四月一日に始まる事業年度に係る決算並びに財産目録、貸借対照表及び損益計算書については、日本電信電話公社法第十条第二項第二号及び第五十八条第一項(監事の監査報告書に係る部分に限る。)に係る部分を除き、なお従前の例による。
3 第一項の規定により公社が解散した場合における解散の登記については、政令で定める。
(権利及び義務の承継に伴う経過措置)
第五条 前条第一項の規定により会社が承継する公社の電信電話債券に係る債務について国際復興開発銀行等からの外資の受入に関する特別措置に関する法律(昭和二十八年法律第五十一号)により政府がした保証契約は、その承継後においても、当該電信電話債券に係る債務について従前の条件により存続するものとし、当該保証契約に係る電信電話債券の利子及び償還差益に係る租税その他の公課については、なお従前の例による。
2 前項の電信電話債券は、第七条及び第八条の規定の適用については、社債とみなす。
3 前条第一項の規定により会社が承継する債務に係る電信電話債券又は借入金が資金運用部資金による引受け又は貸付けに係るものである場合における当該電信電話債券又は借入金についての資金運用部資金法(昭和二十六年法律第百号)第七条第一項の規定の適用については、会社を同項第三号又は第四号に規定する法人とみなす。
4 前条第一項の規定により会社が承継する債務に係る電信電話債券が簡易生命保険及郵便年金特別会計の積立金による引受けに係るものである場合における当該電信電話債券についての簡易生命保険及び郵便年金の積立金の運用に関する法律(昭和二十七年法律第二百十号)第三条第一項の規定の適用については、会社を同項第四号に規定する法人とみなす。
(職員に関する経過措置)
第六条 会社の成立の際現に公社の職員である者は、会社の成立の時に会社の職員となるものとする。
2 前項の規定により公社の職員が会社の職員となる場合においては、その者に対しては、国家公務員等退職手当法(昭和二十八年法律第百八十二号)に基づく退職手当は、支給しない。
3 会社は、前項の規定の適用を受けた会社の職員の退職に際し、退職手当を支給しようとするときは、その者の公社の職員としての引き続いた在職期間を会社の職員としての在職期間とみなして取り扱うべきものとする。
(商号についての経過措置)
第七条 第六条の規定は、この法律の施行の際現にその商号中に日本電信電話株式会社という文字を用いている者については、この法律の施行後六月間は、適用しない。
(事業計画についての経過措置)
第八条 会社の成立する日の属する営業年度の事業計画については、第十一条中「毎営業年度の開始前に」とあるのは、「会社の成立後遅滞なく」とする。
(会社の設立に伴う租税関係法令の適用に関する経過措置)
第九条 会社の附則第三条第八項の規定により公社が行う出資に係る不動産又は自動車の取得に対しては、不動産取得税若しくは土地の取得に対して課する特別土地保有税又は自動車取得税を課することができない。
2 会社の取得した附則第三条第八項の規定により公社が行う出資に係る土地で会社が引き続き保有する土地のうち、公社が昭和四十四年一月一日(沖縄県の区域内に所在する土地については、昭和四十七年四月一日)前に取得したものに対しては、土地に対して課する特別土地保有税を課することができない。
3 会社の取得した附則第三条第八項の規定により公社が行う出資に係る土地で会社が引き続き保有する土地(公社が昭和五十七年四月一日以後に取得したものに限る。)のうち、地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第五百九十九条第一項の規定により申告納付すべき日の属する年の一月一日において、公社が当該土地を取得した日以後十年を経過しているものに対しては、土地に対して課する特別土地保有税を課することができない。
4 会社の取得した附則第三条第八項の規定により公社が行う出資に係る土地で会社が引き続き保有する土地(公社が昭和四十四年一月一日(沖縄県の区域内に所在する土地については、昭和四十七年四月一日)から昭和五十七年三月三十一日までの間に取得したものに限る。)のうち、地方税法第五百九十九条第一項の規定により申告納付すべき日の属する年の一月一日において、都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第七条第一項に規定する市街化調整区域内に所在し、かつ、公社が当該土地を取得した日以後十年を経過しているものに対しては、土地に対して課する特別土地保有税を課することができない。
5 附則第三条第八項の規定により公社が行う株券(有価証券取引税法(昭和二十八年法律第百二号)第四条第二項に規定する持分を含む。)の出資に係る給付は、同法第一条に規定する有価証券の譲渡に該当しないものとする。
6 附則第三条第十一項の規定により会社が受ける設立の登記及び同条第八項の規定により公社が行う出資に係る財産の給付に伴い会社が受ける登記又は登録については、登録免許税を課さない。
7 会社の成立する日の属する営業年度の試験研究費の額については、租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第四十二条の四第一項の規定中「当該法人の昭和四十二年一月一日を含む事業年度の直前の事業年度(以下この条において「基準年度」という。)から当該適用年度の直前の事業年度までの各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額」とあるのは「日本電信電話公社の昭和五十九年四月一日を含む事業年度の試験研究費の額」と、「のうち最も多い額を超える場合」とあるのは「を超える場合」として同項本文の規定を適用するものとし、同項ただし書の規定は、適用しない。
8 前項に規定するもののほか、会社の設立に伴う会社に対する法人税に関する法令の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
(政令への委任)
第十条 附則第三条から前条までに規定するもののほか、会社の設立及び公社の解散に関し必要な事項は、政令で定める。
(日本電信電話公社法等の廃止)
第十一条 次の法律は、廃止する。
一 日本電信電話公社法
二 日本電信電話公社法施行法(昭和二十七年法律第二百五十一号)
(日本電信電話公社法の廃止に伴う経過措置)
第十二条 前条の規定の施行前に同条の規定による廃止前の日本電信電話公社法(以下「旧法」という。)の規定によりした処分、手続その他の行為は、この法律の相当規定によりした処分、手続その他の行為とみなす。
2 前条の規定の施行の際現に旧法第三条の規定により公社が行つている業務であつて、第一条第一項の国内電気通信事業及びこれに附帯する業務に該当しないものは、同条第二項の規定により会社が認可を受けた業務とみなす。
3 前条の規定の施行の日の前日までの期間について公社に勤務する職員に支給する給与についての旧法の規定の適用については、なお従前の例による。
4 附則第六条第一項の規定の適用を受ける者の前条の規定の施行前に旧法第三十三条の規定により受けた懲戒処分及び前条の規定の施行前の事案に係る懲戒処分については、なお従前の例による。この場合において、同条の規定の施行後に懲戒処分を行うこととなるときは、会社の代表者又はその委任を受けた者が懲戒処分を行うものとする。
5 旧法第六十九条に規定する現金出納職員又は旧法第七十条に規定する総裁により物品の管理をする職員として任命された者の前条の規定の施行前の事実に基づく弁償責任については、なお従前の例による。
6 旧法第七十三条に規定する公社の会計に係る会計検査院の検査については、なお従前の例による。
7 前条の規定の施行前に生じた事故に基づく公社の職員の業務上の災害又は通勤による災害に対する補償については、なお従前の例による。
8 前条の規定の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
9 前各項に規定するもののほか、日本電信電話公社法の廃止に伴い必要な経過措置は、政令で定める。
大蔵大臣 竹下登
郵政大臣 左藤恵
内閣総理大臣 中曽根康弘