中小企業基本法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十八年七月二十日
内閣総理大臣 池田勇人
法律第百五十四号
中小企業基本法
目次
前文
第一章
総則(第一条―第八条)
第二章
中小企業構造の高度化等(第九条―第十六条)
第三章
事業活動の不利の補正(第十七条―第二十二条)
第四章
小規模企業(第二十三条)
第五章
金融、税制等(第二十四条・第二十五条)
第六章
行政機関及び中小企業団体(第二十六条・第二十七条)
第七章
中小企業政策審議会(第二十八条―第三十三条)
附則
わが国の中小企業は、鉱工業生産の拡大、商品の流通の円滑化、海外市場の開拓、雇用の機会の増大等国民経済のあらゆる領域にわたりその発展に寄与するとともに、国民生活の安定に貢献してきた。われらは、このような中小企業の経済的社会的使命が自由かつ公正な競争の原理を基調とする経済社会において、国民経済の成長発展と国民生活の安定向上にとつて、今後も変わることなくその重要性を保持していくものと確信する。
しかるに、近時、企業間に存在する生産性、企業所得、労働賃金等の著しい格差は、中小企業の経営の安定とその従事者の生活水準の向上にとつて大きな制約となりつつある。他方、貿易の自由化、技術革新の進展、生活様式の変化等による需給構造の変化と経済の著しい成長に伴う労働力の供給の不足は、中小企業の経済的社会的存立基盤を大きく変化させようとしている。
このような事態に対処して、特に小規模企業従事者の生活水準が向上するよう適切な配慮を加えつつ、中小企業の経済的社会的制約による不利を是正するとともに、中小企業者の創意工夫を尊重し、その自主的な努力を助長して、中小企業の成長発展を図ることは、中小企業の使命にこたえるゆえんのものであるとともに、産業構造を高度化し、産業の国際競争力を強化して国民経済の均衡ある成長発展を達成しようとするわれら国民に課された責務である。
ここに、中小企業の進むべき新たなみちを明らかにし、中小企業に関する政策の目標を示すため、この法律を制定する。
第一章 総則
(政策の目標)
第一条 国の中小企業に関する政策の目標は、中小企業が国民経済において果たすべき重要な使命にかんがみて、国民経済の成長発展に即応し、中小企業の経済的社会的制約による不利を是正するとともに、中小企業者の自主的な努力を助長し、企業間における生産性等の諸格差が是正されるように中小企業の生産性及び取引条件が向上することを目途として、中小企業の成長発展を図り、あわせて中小企業の従事者の経済的社会的地位の向上に資することにあるものとする。
(中小企業者の範囲)
第二条 この法律に基づいて講ずる国の施策の対象とする中小企業者は、おおむね次の各号に掲げるものとし、その範囲は、これらの施策が前条の目標を達成するため効率的に実施されるように施策ごとに定めるものとする。
一 資本の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であつて、工業、鉱業、運送業その他の業種(次号に掲げる業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
二 資本の額又は出資の総額が一千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五十人以下の会社及び個人であつて、商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営むもの
(国の施策)
第三条 国は、第一条の目標を達成するため、次の各号に掲げる事項につき、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講じなければならない。
一 近代化設備の導入等中小企業の設備の近代化を図ること。
二 技術の研究開発の推進、技術者及び技能者の養成等によつて中小企業の技術の向上を図ること。
三 近代的経営管理方法の導入、経営管理者の能力の向上等によつて中小企業の経営管理の合理化を図ること。
四 中小企業の企業規模の適正化、事業の共同化、工場、店舗等の集団化、事業の転換及び小売商業における経営形態の近代化(以下「中小企業構造の高度化」と総称する。)を図ること。
五 中小企業の取引条件に関する不利を補正するように過度の競争の防止及び下請取引の適正化を図ること。
六 中小企業が生産する物品の輸出の振興その他中小企業の供給する物品、役務等に対する需要の増進を図ること。
七 中小企業者以外の者の事業活動の調整等によつて中小企業の事業活動の機会の適正な確保を図ること。
八 中小企業における労働関係の適正化及び従業員の福祉の向上を図るとともに、中小企業に必変な労働力の確保を図ること。
(地方公共団体の施策)
第四条 地方公共団体は、国の施策に準じて施策を講ずるように努めなければならない。
(法制上の措置等)
第五条 政府は、第三条の施策を実施するため必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない。
(中小企業者の努力等)
第六条 中小企業者は、経済的社会的諸事情の変化に即応してその事業の成長発展を図るため、生産性及び取引条件の向上に努めなければならない。
2 中小企業者以外の者であつて、その事業に関し中小企業と関係があるものは、第三条又は第四条の施策の実施について協力するようにしなければならない。
(調査)
第七条 政府は、中小企業政策審議会の意見をきいて、定期的に、中小企業の実態を明らかにするため必要な調査を行ない、その結果を公表しなければならない。
(年次報告等)
第八条 政府は、毎年、国会に、中小企業の動向及び政府が中小企業に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない。
2 政府は、毎年、中小企業政策審議会の意見をきいて、前項の報告に係る中小企業の動向を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を作成し、これを国会に提出しなければならない。
第二章 中小企業構造の高度化等
(設備の近代化)
第九条 国は、中小企業の設備の近代化を図るため、中小企業者が近代化設備の設置その他資本装備の増大、設備の配列の合理化等をすることができるように必要な施策を講ずるものとする。
(技術の向上)
第十条 国は、中小企業の技術の向上を図るため、試験研究機構の整備、技術の研究開発の推進、技術指導、技術者研修及び技能者養成の事業の充実等必要な施策を講ずるものとする。
(経営管理の合理化)
第十一条 国は、中小企業の経営管理の合理化を図るため、経営の診断及び指導並びに経営管理者の研修の事業の充実、経営の診断及び指導のための機構の整備等必要な施策を講ずるものとする。
(企業規模の適正化)
第十二条 国は、中小企業の企業規模の適正化を図るため、中小企業者が企業の合併、共同出資による企業の設立等を円滑に行なうことができるようにする等必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、前三条の施策を講ずるにあたつては、中小企業の企業規模の適正化につき必要な考慮を払うものとする。
3 政府は、特に中小企業の企業規模の適正化を必要とする業種について、適正な生産の規模その他の適正な企業の規模を定め、これを公表しなければならない。
(事業の共同化のための組織の整備等)
第十三条 国は、第九条から前条までの施策の重要な一環として、事業の共同化又は相互扶助のための組織の整備、工場、店舗等の集団化その他事業の共同化の助成等中小企業者が協同してその設備の近代化、経営管理の合理化、企業規模の適正化等を効率的に実施することができるようにするため必要な施策を講ずるものとする。
(商業及びサービス業)
第十四条 国は、中小商業について、流通機構の合理化に即応することができるように、第九条又は第十一条から前条までの施策を講ずるほか、小売商業における経営形態の近代化のため必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、中小商業又は中小サービス業について第九条若しくは第十一条から前条まで又は前項の施策を講ずるにあたつては、地域的条件につき必要な考慮を払うものとする。
(事業の転換)
第十五条 国は、中小企業者が需給構造等の変化に即応して行なう事業の転換を円滑にするため必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、前項の施策を講ずるにあたつては、中小企業の従事者の就職を容易にすることができるように必要な考慮を払うものとする。
(労働に関する施策)
第十六条 国は、中小企業における労働関係の適正化及び従業員の福祉の向上を図るため必要な施策を講ずるとともに、中小企業に必要な労働力の確保を図るため、職業訓練及び職業紹介の事業の充実等必要な施策を講ずるものとする。
第三章 事業活動の不利の補正
(過度の競争の防止)
第十七条 国は、中小企業の取引条件の向上及び経営の安定に資するため、中小企業者が自主的に事業活動を調整して過度の競争を防止することができるようにその組織を整備する等必要な施策を講ずるものとする。
(下請取引の適正化)
第十八条 国は、下請取引の適正化を図るため、下請代金の支払遅延の防止等必要な施策を講ずるとともに、下請関係を近代化して、下請関係にある中小企業者が自主的にその事業を運営し、かつ、その能力を最も有効に発揮することができるようにするため必要な施策を講ずるものとする。
(事業活動の機会の適正な確保)
第十九条 国は、中小企業者以外の者の事業活動による中小企業者の利益の不当な侵害を防止し、中小企業の事業活動の機会の適正な確保を図るため、紛争処理のための機構の整備等必要な施策を講ずるものとする。
(国等からの受注機会の確保)
第二十条 国は、中小企業が供給する物品、役務等に対する需要の増進に資するため、国等の物品、役務等の調達に関し、中小企業者の受注の機会の増大を図る等必要な施策を講ずるものとする。
(輸出の振興)
第二十一条 国は、中小企業が生産する物品の輸出の振興を図るため、中小企業が生産する輸出に係る物品の競争力を強化するとともに、輸出取引の秩序の確立、海外市場の開拓等必要な施策を講ずるものとする。
(輸入品との関係の調整)
第二十二条 国は、主として中小企業が生産する物品につき、輸入に係る物品に対する競争力を強化するため必要な施策を講ずるほか、物品の輸入によつてこれと競争関係にある物品を生産する中小企業に重大な損害を与え又は与えるおそれがある場合において、緊急に必要があるときは、関税率の調整、輸入の制限等必要な施策を講ずるものとする。
第四章 小規模企業
第二十三条 国は、小規模企業者(おおむね常時使用する従業員の数が二十人(商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については、五人)以下の事業者をいう。)に対して第三条の施策を講ずるにあたつては、これらの施策が円滑に実施されるように小規模企業の経営の改善発達に努めるとともに、その従事者が他の企業の従事者と均衡する生活を営むことを期することができるように金融、税制その他の事項につき必要な考慮を払うものとする。
第五章 金融、税制等
(資金の融通の適正円滑化)
第二十四条 国は、中小企業に対する資金の確保を図るため、政府関係金融機関の機能の強化、信用補完事業の充実、民間金融機関からの中小企業に対する適正な融資の指導等必要な施策を講ずるものとする。
(企業資本の充実)
第二十五条 国は、中小企業の企業資本の充実を図り、事業経営の合理化に資するため、中小企業に対する投資の円滑化のための機関の整備、租税負担の適正化等必要な施策を講ずるものとする。
第六章 行政機関及び中小企業団体
(中小企業行政に関する組織の整備等)
第二十六条 国及び地方公共団体は、第三条又は第四条の施策を講ずるにつき、相協力するとともに、行政組織の整備及び行政運営の改善に努めるものとする。
(中小企業団体の整備)
第二十七条 国は、中小企業者が協力してその事業の成長発展と地位の向上を図ることができるように、中小企業者の組織化の推進その他中小企業に関する団体の整備につき必要な施策を講ずるものとする。
第七章 中小企業政策審議会
(設置)
第二十八条 総理府に、附属機関として、中小企業政策審議会(以下「審議会」という。)を置く。
(権限)
第二十九条 審義会は、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するほか、内閣総理大臣又は関係各大臣の諮問に応じ、この法律の施行に関する重要事項を調査審議する。
2 審譲会は、前項に規定する事項に関し内閣総理大臣又は関係各大臣に意見を述べることができる。
(組織)
第三十条 審議会は、委員二十人以内で組織する。
2 委員は、前条第一項に規定する事項に関し学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
3 委員は、非常勤とする。
(資料の提出等の要求)
第三十一条 審議会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。
(庶務)
第三十二条 審議会の庶務は、中小企業庁長官官房において処理する。
(委任規定)
第三十三条 この法律に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
1 この法律は、公布の日から施行する。
2 総理府設置法(昭和二十四年法律第百二十七号)の一部を次のように改正する。
第十五条第一項の表中輸出会議の項の次に次のように加える。
中小企業政策審議会
中小企業基本法(昭和三十八年法律第百五十四号)の規定によりその権限に属せしめられた事項を行なうこと。
内閣総理大臣 池田勇人
大蔵大臣 田中角栄
厚生大臣 小林武治
農林大臣 赤城宗徳
通商産業大臣 福田一
運輸大臣 綾部健太郎
労働大臣 大橋武夫
建設大臣 河野一郎