酪農振興法
法令番号: 法律第182号
公布年月日: 昭和29年6月14日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

食糧自給度向上と経済自立のため、米食偏重からの脱却と有畜農業経営への改善が必要である。近年、酪農は発展し需要も旺盛だが、飼料基盤の脆弱さ、乳牛飼養密度の低さ、非効率な加工工場の濫立など多くの課題を抱えている。これにより乳製品価格が諸外国と比べ割高となり、消費抑制と食生活の合理化に支障をきたしている。また、経済情勢の変動に弱い不安定な経営となっている。そこで、これらの課題を解決し、国際競争力のある安定した酪農を確立するため、本法案を提案する。

参照した発言:
第19回国会 衆議院 農林委員会 第32号

審議経過

第19回国会

衆議院
(昭和29年4月17日)
参議院
(昭和29年4月19日)
衆議院
(昭和29年4月26日)
(昭和29年4月27日)
参議院
(昭和29年4月30日)
衆議院
(昭和29年5月11日)
(昭和29年5月12日)
参議院
(昭和29年5月13日)
衆議院
(昭和29年5月15日)
参議院
(昭和29年5月17日)
衆議院
(昭和29年5月18日)
参議院
(昭和29年5月18日)
(昭和29年5月24日)
(昭和29年5月25日)
(昭和29年5月26日)
(昭和29年5月28日)
衆議院
(昭和29年5月29日)
(昭和29年6月15日)
酪農振興法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十九年六月十四日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百八十二号
酪農振興法
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
集約酪農地域
第一節
集約酪農地域の指定(第三条―第八条)
第二節
集約酪農地域における自給飼料の生産のための農用地の利用(第九条―第十一条)
第三節
集約酪農地域における集乳施設及び乳業施設(第十二条―第十八条)
第三章
生乳等の取引(第十九条―第二十四条)
第四章
雑則(第二十五条・第二十六条)
第五章
罰則(第二十七条―第二十九条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、酪農の合理的な発展の条件を整備するための集約酪農地域の制度及び生乳等の取引の公正を図るための措置を定めることによつて酪農振興の基盤を確立し、もつて酪農の急速な普及達発及び農業経営の安定に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「生乳」とは、しぼつたままの牛乳(次項の省令で定める方法による処理を完了していない牛乳を含む。)をいう。
2 この法律において「乳業」とは、生乳に省令で定める方法による処理をして飲用牛乳とする事業及び脱脂乳、クリーム、バター、チーズ、れん乳、粉乳又は政令で定めるその他の乳製品を製造する事業をいう。
第二章 集約酪農地域
第一節 集約酪農地域の指定
(集約酪農地域の指定)
第三条 農林大臣は、その区域内の農業の発達を図るため酪農を振興することが必要と認められる一定の区域を、その区域を管轄する都道府県知事の申請に基き、集約酪農地域として指定することができる。
2 都道府県知事は、前項の申請をするには、同項の指定を受けようとする区域につき、省令で定める手続に従い、左に掲げる事項について酪農振興計画を定め、これを申請書に添えて、農林大臣に提出しなければならない。
一 乳牛の飼養頭数の増加に関すること。
二 飼料の自給度の向上に関すること。
三 生乳の生産者の共同集乳組織の整備及び乳業の合理化に関すること。
四 その他政令で定める事項
3 都道府県知事は、前項の酪農振興計画を定め、又は変更しようとするときは、省令で定める手続に従い、その区域内にある市町村、農業協同組合及び農業協同組合連合会並びにその区域内において乳業を行う者の意見を聞かなければならない。
4 第一項の規定による指定は、その区域が合理的な酪農経営の成立のために必要な左に掲げる要件を備え、且つ、第二項の酪農振興計画がその区域における酪農の振興の方法として適当であると認められる場合でなければ、してはならない。
一 その区域における農用地の利用状況、農業労働条件その他乳牛の飼養に関する条件が、政令で定める基準に適合するものであること。
二 その区域における輸送条件その他その区域内で生産される生乳についての共同集乳組織及び乳業の成立のための条件が、政令で定める基準に適合するものであること。
(集約酪農地域の区域の変更)
第四条 農林大臣は、都道府県知事の申請に基き、集約酪農地域の区域を変更することができる。
2 前条第二項及び第四項の規定は、前項の場合に準用する。
(酪農振興計画の変更)
第五条 都道府県知事は、第三条第二項の酪農振興計画を変更しようとするときは、省令で定める手続に従い、農林大臣の承認を受けなければならない。
(指定の解除)
第六条 農林大臣は、集約酪農地域が第三条第四項に掲げる要件を欠くに至つたときは、集約酪農地域の指定を解除しなければならない。
2 農林大臣は、集約酪農地域について第三条第二項の酪農振興計画を達成することができないと認められるときは、都道府県知事の意見を聞き、集約酪農地域の指定を解除することができる。
(指定の告示等)
第七条 第三条第一項の指定、第四条第一項の区域の変更又は前条の指定の解除は、告示してしなければならない。
2 第三条第一項の規定による集約酪農地域の指定があつたときは、都道府県知事は、当該集約酪農地域についての酪農振興計画の概要を公告しなければならない。当該酪農振興計画を変更した場合におけるその変更の概要についてもまた同様とする。
(助成)
第八条 国は、毎年度、予算の範囲内において、都道府県に対し、第三条第二項の酪農振興計画を実施するために必要な経費を補助することができる。
2 国は、第三条第二項の酪農振興計画を実施するために必要な資金の融通のあつ旋その他必要な奨励措置を講ずるよう努めるものとする。
第二節 集約酪農地域における自給飼料の生産のための農用地の利用
(自給飼料増産計画)
第九条 都道府県知事は、酪農振興計画に基き、毎年度、省令の定めるところにより、その計画に係る集約酪農地域の区域内にある農用地について、当該年度における飼料作物の作付予定面積その他その生産に関し必要な事項並びに草地(主として家畜の放牧又はその飼料若しくは敷料の採取の目的に供される土地をいう。以下同じ。)の改良予定面積及び改良の方法その他草地の改良又は保全に関し必要な事項についての市町村別の計画を定め、これを公表しなければならない。
(都道府県又は市町村の行う草地改良事業)
第十条 都道府県又は市町村は、前条の規定により定められた計画を達成するため必要があるときは、その区域内にある草地につき左に掲げる事業(以下「草地改良事業」という。)を行うことができる。
一 かんがい排水施設、牧道その他草地の保全又は利用上必要な施設の新設又は変更
二 草種及び草生の改良
三 その他草地の改良又は保全のため必要な事業
2 都道府県知事又は市町村長は、草地改良事業を行おうとするときは、あらかじめ、一定の地域を定め、その地域について行うべき草地改良事業計画その他必要な事項を定めてその地域内にある草地の所有者及び当該草地につき地上権、永小作権、質権、賃借権又は政令で定める使用収益の権利を有する者並びに草地改良事業計画が前項第一号の事業を含む場合にあつてはその地域の全部又は一部を地区として土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)の規定に基き設立された土地改良区又は土地改良区連合に通知し、その同意を得なければならない。
3 前項の通知を受けた者が通知を受けた日から二十日以内に、都道府県知事又は市町村長に対し、その所有し、又は使用収益する草地(土地改良区又は土地改良区連合にあつてはその地区に属する草地)についての同項の通知に係る草地改良事業を実施することに同意しない旨の書面による申出をしなかつた場合には、その者は、当該期間の満了の時に、その実施に同意したものとみなす。
4 第二項の草地改良事業計画に係る草地の一部について前項の同意しない旨の申出があつた場合において、その申出に係る草地を除いてもその草地改良事業計画の実施に重大な支障がないときは、都道府県又は市町村は、その草地を除く第二項の地域内の草地について、当該草地改良事業計画に基く草地改良事業を行うことができる。
5 都道府県又は市町村が行つた草地改良事業により生じた施設の維持管理に関し必要な事項については、条例の定めるところによる。
6 第二項から前項までの規定は、都道府県又は市町村が集約酪農地域の区域内にある草地又はその保全若しくは利用上必要な施設につき災害復旧事業を行う場合に準用する。
(草地の形質変更の届出)
第十一条 集約酪農地域の区域内にある草地につき政令で定める開こん、造林その他の行為をしようとする者は、省令で定める手続に従い、都道府県知事に届け出なければならない。
第三節 集約酪農地域における集乳施設及び乳業施設
(酪農事業施設の設置)
第十二条 集約酪農地域の区域内において、集乳施設又は乳業施設で政令で定めるもの(以下「酪農事業施設」という。)を新たに設置しようとする者は、省令で定める手続に従い、都道府県知事の承認を受けなければならない。
2 都道府県知事は、前項の承認の申請が左に掲げる要件に適合していると認めるときは、同項の承認をしなければならない。
一 当該酪農事業施設の設置場所がその事業の合理的な経営に適する立地条件を備えていること。
二 当該酪農事業施設が効率的であり、且つ、その能力が当該集約酪農地域における生乳の供給量に応ずることができるものであること。
三 当該酪農事業施設の設置によつて当該集約酪農地域の全部又は一部につき酪農事業施設が著しく過剰とならないこと。
四 その他当該酪農事業施設の設置が当該集約酪農地域についての酪農振興計画に適合するものであること。
(酪農事業施設の届出)
第十三条 第三条第一項の規定による集約酪農地域の指定があつた場合において、その指定の際現にその区域内において酪農事業施設を設置している者は、その指定があつた日から三十日以内に、省令の定めるところにより、都道府県知事に届け出なければならない。
(酪農事業施設の変更)
第十四条 集約酪農地域の区域内に設置されている酪農事業施設につき省令で定める変更をしようとする者は、省令で定める手続に従い、都道府県知事の承認を受けなければならない。
2 第十二条第二項の規定は、前項の承認について準用する。
(事業の開始等)
第十五条 集約酪農地域の区域内に設置されている酪農事業施設につきその事業を開始し、又は当該施設の全部若しくは一部につきその事業を廃止し、若しくは省令で定める一定期間以上継続して休止する者は、省令で定める手続に従い、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
(農林大臣に対する不服の申立)
第十六条 第十二条第一項又は第十四条第一項の規定による都道府県知事の承認に関する処分に対し不服のある者は、当該処分を受けた日から六十日以内に、書面をもつて、当該都道府県知事を経由し、農林大臣に不服の申立をすることができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による不服の申立があつたときは、不服申立書を受け取つた日から十日以内に、意見書及び関係書類を添えて、これを農林大臣に送付しなければならない。
3 農林大臣は、特にやむを得ない理由があると認めたときは、第一項の不服の申立の期限を経過した後においてもその申立を受理することができる。
(農林大臣の裁決)
第十七条 農林大臣は、前条第二項の規定による不服申立書の送付を受けたときは、必要な審査を行い、不服の申立が理由がないと認めるときは、裁決をもつて、これを却下し、不服の申立が理由があると認めるときは、裁決をもつて、都道府県知事の処分を取り消し、又は変更すべき点を指示して、事件を都道府県知事に差し戻さなければならない。
2 農林大臣は、前項の規定による裁決をしようとするときは、あらかじめ、酪農審議会の意見を聞かなければならない。
(手続)
第十八条 前二条に規定する外、不服の申立、審査及び裁決の手続については、政令で定める。
第三章 生乳等の取引
(契約の文書化)
第十九条 生乳、脱脂乳又はクリーム(以下「生乳等」という。)を継続して供給することを目的とする生乳等の販売に関する契約(以下「生乳等取引契約」という。)については、当事者は、書面によりその存続期間、生乳等の売買価格及び数量、生乳等及びその代金の受渡の方法その他その契約並びにこれに附随する契約の内容を明らかにしなければならない。
2 生乳等取引契約を結び、又はこれを変更した場合には、当事者は、前項の書面の写(変更の場合には、変更に係る部分の写)を、省令の定めるところにより、都道府県知事に提出しなければならない。但し、農業協同組合とその組合員たる生乳の生産者とが結ぶ生乳等取引契約については、この限りでない。
3 都道府県知事は、前項の規定による書面の提出があつた場合において、生乳等の取引の公正を確保するため必要があると認めるときは、当該契約の当事者に対し、その内容を改善すべきことを勧告することができる。
(都道府県知事の行うあつ旋)
第二十条 生乳等取引契約につき紛争が生じたときは、当事者の双方又は一方は、政令の定めるところにより、都道府県知事に対し、あつ旋を申請することができる。
第二十一条 都道府県知事は、前条のあつ旋を、あつ旋委員により行わせなければならない。
2 あつ旋委員は、都道府県知事が、事件ごとに、第一号に掲げる者の中から各一人及び第二号に掲げる者の中から一人以上を指名する。
一 各当事者の推薦した者
二 学識経験を有する者の中から都道府県知事が毎年前もつて委嘱した公益を代表するあつ旋委員候補者
第二十二条 あつ旋委員は、当事者の意見を聞いてその事件の解決に必要な協定案を作成し、これを当事者に示してその受諾を勧告するものとする。
2 あつ旋委員は、前項の協定案を作成することが著しく困難であるときは、省令で定める手続に従い、農林大臣に対し、助言、資料の提示その他必要な協力を求めることができる。
3 農林大臣は、前項の請求に係る協力をする場合において必要があるときは、酪農審議会の専門委員の中から適当な者を指名し、その者にその事務を行わせることができる。
4 当事者は、第一項の協定案を受諾したときは、協定書を作成し、その双方が署名押印した上、これをあつ旋委員に提出しなければならない。
第二十三条 あつ旋委員は、あつ旋が終つたとき、又はあつ旋が成功する見込がないためこれを打ち切つたときは、その経過及び結果を都道府県知事に報告しなければならない。
第二十四条 都道府県知事は、当事者の一方又は双方が第二十二条第一項の協定案を受諾することを拒否した場合において、生乳等の公正な取引を促進するため必要があると認めるときは、あつ旋の経過及び協定案を公表することができる。
第四章 雑則
(報告及び検査)
第二十五条 農林大臣又は都道府県知事は、この法律を施行するため必要があるときは、生乳の生産者又は集乳事業若しくは乳業を行う者から必要な報告を求めることができる。
2 農林大臣又は都道府県知事は、生乳等の取引の公正を確保するため必要があるときは、その職員をして生乳の生産者又は集乳事業若しくは乳業を行う者の事務所、事業所等に立ち入らせ、業務の状況又は帳簿書類その他必要な物件を検査させることができる。
3 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を証する証票を携帯し、関係人の要求があるときは、これを呈示しなければならない。
4 第二項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(酪農審議会)
第二十六条 農林省に酪農審議会(以下「審議会」という。)を置く。
2 審議会は、酪農振興に関する重要事項について、農林大臣の諮問に応じて答申し、又は農林大臣に建議することができる。
3 審議会は、委員十二人以内で組織する。
4 委員は、左に掲げる者につき、農林大臣が任命する。
一 生乳の生産者の団体を代表する者 二人以内
二 乳業を行う者の団体を代表する者 二人以内
三 学識経験を有する者 八人以内
5 審議会に会長を置く。
6 会長は、委員の互選により選任する。
7 会長は、会務を総理し、審議会を代表する。
8 会長に事故があるときは、会長があらかじめ指定した委員がその職務を代理する。
9 専門の事項を調査させるために、審議会に、専門委員を置くことができる。専門委員は、学識経験を有する者の中から審議会の推薦に基いて農林大臣が任命する。
10 委員及び専門委員は、非常勤とする。
11 前各項に規定するものを除く外、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
第五章 罰則
第二十七条 左の各号の一に該当する者は、十万円以下の過料に処する。
一 第十二条第一項の規定による承認を受けないで酪農事業施設を新たに設置した者
二 第十四条第一項の規定による承認を受けないで酪農事業施設につき同項の省令で定める変更をした者
第二十八条 第二十五条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同条第二項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、三万円以下の過料に処する。
第二十九条 第十一条、第十三条又は第十五条の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、一万円以下の過料に処する。
附 則
1 この法律の施行期日は、公布の日から起算して六十日をこえない範囲内で、政令で定める。但し、第十七条第二項、第二十二条第三項、第二十六条及び次項の規定の施行期日は、公布の日から起算して一年をこえない範囲内で、政令で定める。
2 農林省設置法(昭和二十四年法律第百五十三号)の一部を次のように改正する。
第三十四条第一項の表中
畑地農業改良促進対策審議会
畑地農業改良促進法(昭和二十八年法律第二百五号)の規定によりその権限に属せしめられた事項を行うこと。
畑地農業改良促進対策審議会
畑地農業改良促進法(昭和二十八年法律第二百五号)の規定によりその権限に属せしめられた事項を行うこと。
酪農審議会
酪農振興法(昭和二十九年法律第百八十二号)により酪農振興に関する重要事項を調査審議すること。
に改める。
農林大臣 保利茂
内閣総理大臣 吉田茂