(この法律の目的)
第一條 この法律は、左に掲げる者が刑事上の手続による身体の拘束を解かれた後、更に罪を犯す危險を防止するため、これに対する緊急適切な更生保護に遺漏なきを期し、あわせて犯罪者予防更生法(昭和二十四年法律第百四十二号)第四十條の規定による保護観察中の者に対する応急の救護を円滑に実施するとともに、更生保護に関する事業の健全な育成発達を図ることを目的とする。
二 懲役、禁こ又は拘留につき刑の執行の免除を得た者
三 十八歳以上で懲役又は禁こにつき刑の執行猶予の言渡を受け、猶予中の者
四 訴追を必要としないため公訴を提起しない処分を受けた者
(定義)
第二條 この法律で「更生保護」とは、前條各号に掲げる者が親族、縁故者等からの援助若しくは公共の衛生福祉その他の施設から医療、宿泊、職業その他の保護を受けることができない場合、又はこれらの援助若しくは保護のみによつては更生できないと認められる場合は、これに対し帰住をあつ旋し、金品を給與し、若しくは貸與する等の一時保護又は一定の施設に收容して、宿泊所を供與し、必要な教養、訓練、医療、保養若しくは就職を助け、環境の改善調整を図る等の継続保護を行うことにより、本人が進んで法律を守る善良な社会人となることを援護し、もつてその速やかな更生を保護することをいう。
2 この法律で「更生保護事業」とは、更生保護を行う事業及びその指導、連絡又は助成をする事業をいう。
(更生保護の責任と範囲)
第三條 更生保護は、第一條各号に掲げる者に対し、その更生に必要な限度で、国の責任において、行うものとする。
2 更生保護は、二十三歳未満の者に対しては、少年保護観察所長が、二十三歳以上の者に対しては、成人保護観察所長が、それぞれ、中央更生保護委員会(以下「中央委員会」という。)及び地方少年保護委員会又は地方成人保護委員会の監督のもとに、自ら行い、又は地方公共団体若しくは第五條第一項の認可を受けて更生保護事業を営む者(以下「更生保護会」という。)に委託して行うものとする。
3 更生保護は、本人が刑事上の手続による身体の拘束を解かれた後六月をこえない範囲において、その意思に反しない場合に限り、行うものとする。
4 更生保護を行うに当つては、本人が公共の衛生福祉その他の施設から必要な保護を受けるようにあつ旋するとともに、更生保護活動の実効を上げることに努めて、この法律による更生保護の期間の短縮と費用の節減を図らなければならない。
5 更生保護に関し職業のあつ旋の必要があると認められるときは、公共職業安定所は、更生保護を行う者の協力を得て、職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)に基き、本人の能力に適当な職業をあつ旋することに努めるものとする。
(更生保護開始の手続)
第四條 更生保護は、本人の申出があつた場合において、少年保護観察所長又は成人保護観察所長がその必要があると認めたときに限り、行うものとする。
2 検察官又は監獄の長は、第一條各号に掲げる者につき、刑事上の手続による身体の拘束を解くときは、本人に対し、この法律に定める更生保護及びその申出の手続を示さなければならない。
3 少年保護観察所長又は成人保護観察所長は、第一項の規定により更生保護の要否を定めるには、本人の刑事上の手続に関與した検察官又は本人が拘禁されていた監獄の長の意見を聞かなければならない。但し、仮出獄期間の満了によつて第一條第一号に該当した者については、この限りでない。
4 少年保護観察所長又は成人保護観察所長は、前條第二項の規定により更生保護を委託しようとするときは、更生保護の円滑な実施を期するため、地方公共団体又は更生保護会のうち本人の更生保護に最も適当なものを選び、これに対し事前に連絡することに努めなければならない。地方少年保護委員会又は地方成人保護委員会が、犯罪者予防更生法第四十條第二項の規定により応急の救護を更生保護会に委託しようとするときも、同樣とする。
(更生保護事業の経営の認可)
第五條 国及び地方公共団体以外の者で更生保護事業を営もうとするものは、あらかじめ、左に掲げる事項を記載した申請書を中央委員会に提出して、その認可を受けなければならない。
三 更生保護事業の種類及び内容並びに被保護者に対する処遇の方法
四 設立者の氏名、住所、経歴及び資産状況並びに経営の責任者の資産状況
六 建物その他の設備の規模及び構造並びにその使用の権限
七 経営の責任者及び更生保護の実務に当る幹部職員の氏名及び経歴
2 中央委員会は、前項の認可の申請があつたときは、左の基準によつて審査し、これに適合するものを認可しなければならない。
一 当該事業を営む者の経済的基礎が確実であること。
二 経営の組織及び経理の方針が公益法人又はこれに準ずるものであること。
四 建物その他の設備の規模及び構造が、中央委員会の規則の定める基準に適合するものであること。
五 更生保護の実務に当る幹部職員が、中央委員会の規則の定める資格又は経験並びに更生保護に関する熱意及び能力を有すること。
六 被保護者に対する教養、給養その他の処遇の方法が、中央委員会の規則の定める基準に適合するものであること。
七 職業紹介事業を自ら行おうとするものにあつては、職業安定法の規定により職業紹介事業を行う許可を得ていること。
3 中央委員会は、前項第四号及び第六号の基準を定めるに当つては、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)及びこれに基く命令の規定を尊重し、又、これに違反しないように意を用いなければならない。
4 第一項の認可には、更生保護事業を営む期間、その種類又は内容等について、この法律の目的を達成するために必要と認める條件を附することができる。
(更生保護会の行う更生保護)
第六條 更生保護会は、少年保護観察所長又は成人保護観察所長から第三條第二項の規定による委託があつたとき、更生保護を開始するものとする。
2 更生保護会は、地方少年保護委員会又は地方成人保護委員会から犯罪者予防更生法第四十條第二項の規定による保護観察中の者の応急の救護の委託を受けることができる。
3 更生保護会は、被保護者の更生保護又は応急の救護につき必要があるときは、地方公共団体、公共職業安定所その他公私の関係団体又は機関に照会して協力を求め、又、特に必要があると認められるときは、職業安定法の定めるところにより、自ら職業紹介事業を行うことができる。
(認可事項の変更と更生保護会の廃止)
第七條 更生保護会は、第五條第一項第一号から第三号まで又は第五号から第八号までに掲げる事項を変更しようとするときは、あらかじめ、その理由を明らかにして中央委員会の認可を受けなければならない。
2 第五條第二項の規定は、前項の認可の申請があつた場合に準用する。
3 更生保護会は、更生保護事業を廃止しようとするときは、あらかじめ、その理由、現に更生保護中の者に対する措置及び財産の処分方法を明らかにし、且つ、第十二條の規定により支給を受けた費用に残存額があるときはこれを返還して、廃止の時期について中央委員会の承認を受けなければならない。
(更生保護会の監督)
第八條 更生保護会は、中央委員会に対し、毎年、十二月一日までに次年度の事業計画を、二月末日までに前年度の事業の成績を、会計年度の終了後六十日以内に前会計年度の経理状況を、それぞれ、書面をもつて報告しなければならない。
2 更生保護会は、中央委員会の規則の定めるところにより、その事務所に左の帳簿を備え付け、遅滯なく所要事項を記載しなければならない。
四 寄附金について、その寄附者及び金額を明らかにする帳簿
3 中央委員会は、この法律の目的を達成するため、更生保護会に対し、第一項以外の事項についても必要と認める事項の報告を求め、地方少年保護委員会及び地方成人保護委員会の職員をして施設及び備付の帳簿並びに事業経営の状況その他必要な事項を調査させることができる。
4 中央委員会は、更生保護会が第五條第二項の基準に適合しないと認められるに至つたときは、その更生保護会に対し、同條同項の基準に適合するために必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。
(事業経営の制限又は禁止)
第九條 更生保護会が、第五條第四項若しくは第十四條第二項の規定による條件に違反し、第七條第一項の認可の申請、前條第一項の報告若しくは同條第二項の帳簿の備付及び記載を怠り、同條第三項の報告の求に応ぜず、又は正当の事由なく同條第四項の規定による命令に違反したときは、中央委員会は、更生保護事業を営むことを制限し、その停止を命じ、又は第五條第一項の認可を取り消すことができる。
2 更生保護会が法人である場合において、理事その他の業務を執行する役員が、その事業により個人の営利を図つたときも、前項と同樣とする。
3 第五條第一項の規定による認可を受けないで更生保護事業を営む者(国及び地方公共団体を除く。)が、その事業に関し営利を図り、若しくは被保護者の処遇につき不当の行為をしたときは、中央委員会は、その者に対し更生保護事業を営むことを制限し、又はその停止を命ずることができる。
4 中央委員会は、前三項の規定による更生保護事業の制限、停止又は認可の取消の処分をする場合には、その処分を受ける者に、中央委員会の指定した職員に対して弁明する機会を與えなければならない。この場合においては、中央委員会は、その処分を受ける者に対し、あらかじめ、書面をもつて、弁明をなすべき日時、場所及びその処分をなすべき理由を通知しなければならない。
5 前項の通知を受けた者は、代理人を出頭させ、且つ、自己に有利な証拠を提出することができる。
6 弁明を聽取した者は、聽取書及び処分の決定についての意見を附した報告書を作り、これを中央委員会に提出しなければならない。
(地方公共団体の営む更生保護事業)
第十條 地方公共団体は、更生保護事業を営むことができる。
2 地方公共団体は、更生保護事業を営もうとするときは、あらかじめ、第五條第一項第一号から第三号まで、及び第五号から第八号までに掲げる事項を中央委員会に届け出なければならない。届け出た事項を変更しようとするときも、同樣とする。
3 第七條第三項並びに第八條第二項及び第三項の規定は、更生保護事業を営む地方公共団体について準用する。
(更生保護事業審議会)
第十一條 中央委員会の委員長の諮問に応じて更生保護事業の向上に関する重要事項を審議させるため、中央委員会の附属機関として更生保護事業審議会(以下「審議会」という。)を置く。
2 中央委員会は、左の場合においては、審議会の意見を聞かなければならない。
一 第五條第一項の認可をし、又は認可をしない処分をするとき。
二 第五條第二項第四号から第六号までの規則を定めるとき。
三 第九條第一項から第三項までの規定により、更生保護事業を営むことを制限し、その停止を命じ、又は第五條第一項の認可を取り消すとき。
3 法務総裁は、次條第一項及び第二項の基準を定めるには、審議会の意見を聞かなければならない。
4 この法律に定めるもののほか、審議会の組織、所掌事務、委員その他の職員については、政令で定める。
(費用の支弁及び補助)
第十二條 国は、法務総裁が大蔵大臣と協議して定める基準に従い、第三條第二項の規定に基く委託によつて生ずる費用を支弁する。
2 国は、更生保護会に対し、法務総裁が大蔵大臣と協議して定める基準に従い、予算の範囲内において、左の各号に掲げる費用につき、補助金を交付することができる。
二 第八條第四項の規定に基く命令による施設の改善に要する費用
3 第三條第二項の規定に基く委託は、第一項の規定により国が支弁する金額が予算の金額をこえない範囲内において行わなければならない。
(費用の徴收)
第十三條 少年保護観察所長又は成人保護観察所長は、前條第一項の費用を、期限を指定して、本人又はその扶養義務者から徴收しなければならない。但し、本人及びその扶養義務者が、その費用を負担することができないと認めるときは、この限りでない。
2 前項の規定による費用の徴收は、本人又はその扶養義務者の居住地又は財産所在地の市町村(特別区を含む。以下同じ。)の長に嘱託することができる。
3 国は、前項の規定により、市町村の長に対し費用の徴收を嘱託した場合においては、その徴收金額の百分の四に相当する金額を、その市町村に交付しなければならない。
(寄附金の募集)
第十四條 更生保護事業を営み、又は営もうとする者が、その事業の経営に必要な資金を得るために寄附金を募集しようとするときは、その計画に着手する一月前までに、中央委員会に対し、その規則の定めるところにより、募集の期間、地域、方法及び使途等を明らかにした書面を提出して、その許可を受けなければならない。
2 前項の許可には、寄附金の使途及び寄附金によつて取得する財産の処分につき、條件を附することができる。
3 第一項の許可を受けて寄附金を募集した者は、募集の期間経過後遅滯なく中央委員会に対し、その規則の定めるところにより、募集の結果を報告しなければならない。
(表彰)
第十五條 法務総裁は、審議会の意見を聞き、成績の特に優秀な更生保護会又は更生保護事業に従事する職員を表彰し、その業績を一般に周知させることに意を用いなければならない。
(補則)
第十六條 この法律の規定は、更生保護事業に関し労働基準法及びこれに基く命令の規定が適用されることを排除する趣旨に解してはならない。
(罰則)
第十七條 左の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
一 第九條第一項から第三項までに規定する制限又は停止の命令に違反した者
二 第九條第一項又は第二項の規定により認可を取り消されたにかかわらず、引き続きその更生保護事業を営んだ者
三 第十四條第一項の規定による許可を受けないで寄附金を募集した者
四 第十四條第二項の規定による條件に違反して寄附金を使用し、又はこれによつて取得した財産を処分した者
第十八條 左の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金に処する。
一 第八條第二項第三号から第五号までに掲げる帳簿の備付をせず、又はこれに所要の事項を記載せず、若しくは虚僞の記載をした者
二 第十四條第三項の規定による報告をせず、又は虚僞の報告をした者
(施行規則)
第十九條 この法律の実施のための手続、その他その執行について必要な細則は、中央委員会の規則で定める。