(この法律の目的)
第一条 この法律は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第二十五条ノ二第一項の規定により保護観察に付された者がその期間中遵守しなければならない事項を定めるとともに、保護観察の方法及びその運用の基準等を定めることによつて、保護観察の適正な実施を図り、もつて、保護観察に付された者のすみやかな更生に資することを目的とする。
(保護観察の方法と運用の基準)
第二条 保護観察は、本人に本来自助の責任があることを認めてこれを補導援護するとともに、第五条に規定する事項を遵守するように指導監督することによつて行うものとし、その実施に当つては、画一的に行うことを避け、本人の年齢、経歴、職業、心身の状況、家庭、交友その他の環境等を充分に考慮して、その者にもつともふさわしい方法を採らなければならない。
(保護観察をつかさどる機関)
第三条 保護観察は、保護観察に付されている者の住居地(住居がないか、又は明らかでないときは、現在地又は明らかである最後の住居地若しくは所在地とする。)を管轄する保護観察所がつかさどる。
(保護観察開始前の環境調整)
第四条 保護観察所の長は、刑法第二十五条ノ二第一項の規定により保護観察に付する旨の言渡があつて、その裁判の確定前本人から申出があつたときは、保護観察の開始を円滑ならしめるため、その者の境遇その他環境の状態の調整を図ることができる。
(遵守すべき事項)
第五条 保護観察に付された者は、すみやかに、一定の住居を定め、その地を管轄する保護観察所の長にこれを届け出るほか、保護観察に付されている期間中、左に掲げる事項を遵守しなければならない。
二 住居を移転し、又は一箇月以上の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の長に届け出ること。
(補導援護)
第六条 補導援護を行うにあたつては、公共の衛生福祉その他の施設にあつ旋する等の方法によつて、本人が就職し、又は必要な職業の補導、医療、宿所等を得ることを援助し、本人の環境を調整し、その他本人が更生するために必要な助言、連絡その他の措置をとるものとする。
2 前項の措置によつては必要な援護が得られないため、本人の更生が妨げられるおそれがある場合には、本人に対し、帰住旅費、衣類、食事等を給与し、医療又は宿泊所を供与し、その他更生のために必要な援護を行うことができる。
(指導監督)
第七条 指導監督を行うにあたつては、本人の更生の意欲を助長することに努めるとともに、本人が遵守しなければならない事項の範囲内で、その性格、環境、犯罪の動機及び原因等から見て、違反のおそれが多いと思われる具体的事項を見出してこれを本人に自覚させた上、その遵守について適切な指示を与える等、本人をして遵守事項を遵守させるために必要な措置をとるものとする。
(保護観察の仮解除)
第八条 刑法第二十五条ノ二第二項の規定による保護観察の仮解除は、本人の保護観察をつかさどる保護観察所の所在地を管轄する地方更生保護委員会(以下「地方委員会」という。)が、保護観察所の長の申請に基き、決定をもつて、するものとする。
2 保護観察の仮解除をした地方委員会は、本人の行状により再び保護観察を行うのを相当と認めるときは、決定をもつて、仮解除の処分を取り消すことができる。
(検察官への申出)
第九条 保護観察所の長は、刑の執行猶予の言渡を受けて保護観察に付されている者について、刑法第二十六条ノ二第二号の規定により猶予の言渡を取り消すべきものと認めるときは、本人の現在地又は最後の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に対応する検察庁の検察官に、書面で、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第三百四十九条第二項に規定する申出をしなければならない。
(呼出、引致)
第十条 地方委員会又は保護観察所の長は、保護観察に付されている者を呼び出し、質問することができる。
2 保護観察所の長は、左の場合には、裁判官のあらかじめ発する引致状により、保護観察を受けている者を引致させることができる。
二 本人が遵守すべき事項を遵守しなかつたことを疑うに足りる充分な理由があり、且つ、その者が前項の規定による呼出に応ぜず、又は応じないおそれがあるとき。
3 前項の引致状及び引致については、犯罪者予防更生法(昭和二十四年法律第百四十二号)第四十一条第三項から第七項までの規定を準用する。この場合において、同条第七項但書中「第四十五条第一項の決定」とあるのは、「第十一条第一項の決定」と読み替えるものとする。
(留置)
第十一条 保護観察所の長は、引致状により引致された者につき、第九条の申出をするために審理を行う必要があると認めるときは、審理を開始する旨の決定をすることができる。
2 前項の決定があつたときは、引致状により引致された者は、引致後十日以内、監獄若しくは少年鑑別所又はその他の適当な施設に留置することができる。但し、その期間中であつても、留置の必要がないときは、直ちにこれを釈放しなければならない。
3 前項の期間内に刑事訴訟法第三百四十九条の請求がなされたときは、同項本文の規定にかかわらず、裁判所の決定の告知があるまで、継続して留置することができる。但し、留置の期間は、通じて二十日をこえることができない。
4 刑事訴訟法第三百四十九条の二第二項の規定による口頭弁論の請求があつたときは、裁判所は、決定で、十日間に限り、前項但書の期間を延長することができる。その決定の告知については、刑事訴訟法による決定の告知の例による。
5 第三項の決定が刑の執行猶予の言渡を取り消すものであるときは、同項本文の規定にかかわらず、その決定が確定するまで、継続して留置することができる。
6 第二項から前項までの規定により留置された日数は、刑の執行猶予が取り消された場合においては、刑期に算入する。
(審査の請求)
第十二条 地方委員会が行つた保護観察の仮解除の取消処分について不服がある者は、処分の日から三十日以内に、中央更生保護審査会(以下「審査会」という。)に対し、審査を請求することができる。
2 審査の請求は、法務省令の定める方式に従い、書面でしなければならない。
3 審査の請求は、処分の執行を停止する効力を有しない。
4 審査会のする審査の手続及び処分については、犯罪者予防更生法第五十条及び第五十一条の規定を準用する。
(その他の権限)
第十三条 審査会、地方委員会又は保護観察所の長は、この法律に定めるもののほか、犯罪者予防更生法第十六条第一項から第三項まで、第四十一条の二、第五十五条第一項及び第二項、第五十五条の二から第五十八条まで並びに第六十条第一項及び第二項の規定に準じ、その権限を行使することができる。この場合において、同法第五十五条の二第四項中「第三十四条第二項の規定により本人が居住すべき場所」とあるのは、「第五条の規定により本人が届け出た住居」と、同法第六十条第一項中「第四十条第二項(第五十三条第二項において準用する場合を含む。)の規定により支払った費用」とあるのは、「第六条第二項の規定による援護に要した費用」とそれぞれ読み替えるものとする。
2 犯罪者予防更生法第五十五条第三項又は第六十条第三項の規定は、審査会若しくは地方委員会又は保護観察所の長が、前項の規定により、同法第五十五条第一項及び第二項又は第六十条第一項及び第二項の規定に準じてその権限を行使する場合に準用する。
3 審査会、地方委員会又は保護観察所の職員又は職員であつた者は、この法律に定める職務を行うに当り知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、犯罪者予防更生法第五十九条の規定に準じ、証言を拒むことができる。