と畜場法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十八年八月一日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百十四号
と畜場法
(この法律の目的)
第一条 この法律は、と畜場の経営及び食用に供するために行う獣畜の処理の適正を図り、もつて公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「獣畜」とは、牛、馬、豚、めん羊及び山羊をいう。
2 この法律で「と畜場」とは、食用に供する目的で獣畜をと殺し、又は解体するために設置された施設をいう。
3 この法律で「一般と畜場」とは、通例として生後一年以上の牛若しくは馬又は一日に十頭をこえる獣畜をと殺し、又は解体する規模を有すると畜場をいう。
4 この法律で「簡易と畜場」とは、一般と畜場以外のと畜場をいう。
5 この法律で「と畜業者」とは、獣畜のと殺又は解体の業を営む者をいう。
(と畜場の設置の許可)
第三条 一般と畜場又は簡易と畜場は、都道府県知事の許可を受けなければ、設置してはならない。
2 前項の規定による許可を受けようとする者は、構造設備その他厚生省令で定める事項を記載した申請書を都道府県知事に提出しなければならない。
3 第一項の規定により許可を受けて設置したと畜場について、構造設備その他厚生省令で定める事項を変更しようとする者は、あらかじめ、都道府県知事に届け出なければならない。
第四条 都道府県知事は、前条第一項の規定による許可の申請があつた場合において、当該と畜場の設置の場所が左の各号の一に該当するとき、又は当該と畜場の構造設備が政令で定める一般と畜場若しくは簡易と畜場の基準に合わないと認めるときは、同条同項の許可を与えないことができる。
一 人家が密集している場所
二 公衆の用に供する飲料水が汚染されるおそれがある場所
三 その他都道府県知事が公衆衛生上危害を生ずるおそれがあると認める場所
2 都道府県知事は、公衆衛生上必要があると認めるときは、前条第一項の規定による許可を受けたと畜場(以下単に「と畜場」という。)につき、その構造設備の規模に応じ、当該と畜場において通例として処理することができる獣畜の種類及び一日当りの頭数を制限することができる。
(と畜場の衛生保持)
第五条 と畜場の設置者又は管理者は、と畜場の内外をつねに清潔にし、汚物処理を十分に行い、ねずみ、こん虫等の発生の防止及び駆除に努め、その他公衆衛生上必要な措置を講じなければならない。
(と畜業者等の講ずべき衛生措置)
第六条 と畜業者その他獣畜のと殺又は解体を行う者は、と畜場内において獣畜のと殺又は解体を行う場合には、清潔な器具を用い、水洗を十分に行い、その他公衆衛生上必要な措置を講じなければならない。
(と畜場の使用等の拒否の制限)
第七条 と畜場の設置者又は管理者は、正当な理由がなければ、獣畜のと殺又は解体のためにと畜場を使用することを拒んではならない。
2 と畜業者は、正当な理由がなければ、獣畜のと殺又は解体を拒んではならない。
(と畜場使用料及びと殺解体料)
第八条 と畜場の設置者若しくは管理者又はと畜業者は、と畜場使用料又はと殺解体料について、あらかじめ、その額を定めて、都道府県知事の認可を受けなければならない。認可を受けたと畜場使用料又はと殺解体料の額を変更しようとするときも、同様とする。
2 と畜場の設置者若しくは管理者又はと畜業者は、前項の規定により認可を受けた額をこえると畜場使用料又はと殺解体料を受けてはならない。
3 と畜場の設置者若しくは管理者又はと畜業者は、第一項の規定により認可を受けたと畜場使用料又はと殺解体料を、と畜場内の見やすい場所に掲示しなければならない。
(獣畜のと殺又は解体)
第九条 何人も、と畜場以外の場所において、食用に供する目的で獣畜をと殺してはならない。但し、左の各号に掲げる場合は、この限りでない。
一 食肉販売業その他食肉を取り扱う営業で厚生省令で定めるものを営む者以外の者が、あらかじめ、厚生省令の定めるところにより、都道府県知事に届け出て、主として自己及びその同居者の食用に供する目的で、獣畜(生後一年以上の牛及び馬を除く。)をと殺する場合
二 獣畜が不慮の災害により、負傷し、又は救うことができない状態に陥り、直ちにと殺することが必要である場合
三 獣畜が難産、産褥麻痺又は急性鼓張症その他厚生省令で定める疾病にかかり、直ちにと殺することが必要である場合
四 遠洋航路を航行する船舶内で船員、船客等の食用に供する目的でと殺する場合
五 その他政令で定める場合
2 何人も、と畜場以外の場所において、食用に供する目的で獣畜を解体してはならない。但し、前項第一号、第四号又は第五号の規定によりと畜場以外の場所においてと殺した獣畜を解体する場合は、この限りでない。
3 都道府県知事は、公衆衛生上必要があると認めるときは、前二頂の規定により、と畜場以外の場所において獣畜をと殺し、又は解体する者に対し、と殺又は解体の場所、肉、内臓等の取扱方法及び汚物の処理方法を指示することができる。
(獣畜のと殺又は解体の検査)
第十条 と畜場においては、都道府県知事の行う検査を経た獣畜以外の獣畜をと殺してはならない。
2 と畜場においては、と殺後都道府県知事の行う検査を経た獣畜以外の獣畜を解体してはならない。
3 と畜場内で解体された獣畜の肉、内臓、血液、骨及び皮は、都道府県知事の行う検査を経た後でなければ、と畜場外に持ち出してはならない。
4 前三項の規定は、都道府県知事が特に検査を要しないものと認めた場合を除き、前条第一項第五号又はこれに係る同条第二項但書の規定によりと畜場以外の場所で獣畜のと殺又は解体が行われる場合に準用する。この場合において、前項中「と畜場外」とあるのは、「獣畜の解体を行つた場所外」と読み替えるものとする。
5 前四項の規定により都道府県知事の行う検査の方法、手続その他検査に関し必要な事項は、政令で定める。
(譲受の禁止)
第十一条 何人も、第九条第二項の規定に違反してと畜場以外の場所で解体された獣畜の肉若しくは内臓、又は前条第三項(同条第四項において準用する場合を含む。)の規定に違反して持ち出された獣畜の肉若しくは内臓を、食品として販売(不特定又は多数の者に対する販売以外の授与を含む。)の用に供する目的で譲り受けてはならない。
(と殺解体の禁止等)
第十二条 都道府県知事は、第十条の規定による検査の結果、獣畜が疾病にかかり食用に供することができないと認めたとき、又は当該獣畜により若しくは当該獣畜のと殺若しくは解体により病毒を伝染させるおそれがあると認めたときは、公衆衛生上必要な限度において、左の各号に掲げる措置をとることができる。
一 当該獣畜のと殺又は解体を禁止すること。
二 当該獣畜の所有者若しくは管理者、と畜場の設置者若しくは管理者、と畜業者その他の関係者に対し、当該獣畜の隔離、と畜場内の消毒その他の措置を講ずべきことを命じ、又は当該職員にこれらの措置を講じさせること。
三 当該獣畜の肉、内臓等の所有者若しくは管理者に対し、食用に供することができないと認められる肉、内臓その他の獣畜の部分について廃棄その他の措置を講ずべきことを命じ、又は当該職員にこれらの措置を講じさせること。
(報告の徴収等)
第十三条 都道府県知事又は保健所を設置する市の市長は、公衆衛生の見地から必要があると認めるときは、と畜場の設置者若しくは管理者若しくはと畜業者から必要な報告を徴し、又は当該職員をして、と畜場に立ち入り、第五条若しくは第六条の規定による措置若しくは前条第二号若しくは第三号の規定により命ぜられた措置の実施状況を検査させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証票を携帯し、且つ、関係者の請求があるときは、これを呈示しなければならない。
3 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(と畜場の設置の許可の取消等)
第十四条 都道府県知事は、左の各号に掲げる場合には、第三条第一項の規定による許可を取り消し、又はと畜場の設置者若しくは管理者に対し、期間を定めて、当該と畜場の施設の使用の制限若しくは停止を命ずることができる。
一 当該と畜場の構造設備が第四条第一項の規定による基準に合わなくなつたとき。
二 第四条第二項の規定による獣畜の種類及び頭数の制限が定められていると畜場において、その制限によらないで獣畜のと殺又は解体が行われるに至つたとき。
三 第四条第二項の規定による獣畜の種類及び頭数の制限が定められていない簡易と畜場において、通例として、一日に十頭をこえる獣畜又は生後一年以上の牛若しくは馬のと殺又は解体が行われるに至つたとき。
四 当該と畜場の設置者又は管理者が、都道府県知事の警告を受けたにもかかわらず、なお継続して第五条の規定に違反したとき。
2 都道府県知事は、と畜業者その他獣畜のと殺又は解体を行う者が、当該職員の警告を受けたにもかかわらず、なお継続して第六条の規定に違反したときは、その者に対し、期間を定めて、と殺若しくは解体の業務の停止を命じ、又はと殺若しくは解体を行うことを禁止することができる。
3 都道府県知事は、前二項の規定による処分をしようとする場合には、あらかじめ、当該処分を受けるべき者に、その処分の理由を通知し、自己のために弁明し、且つ、有利な証拠を提出する機会を与えなければならない。
(と畜検査員)
第十五条 第十条に規定する検査の事務に従事させ、並びに第十二条、第十三条第一項及び前条第二項に規定する当該職員の職務を行わせるため、都道府県にと畜検査員を置く。
2 と畜検査員は、都道府県の職員のうちから、都道府県知事が命ずる。
3 と畜検査員の資格及び設置の基準について必要な事項は、政令で定める。
(罰則)
第十六条 左の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
一 第三条第一項の規定に達反した者
二 第九条第一項又は第二項の規定に違反した者
三 第十条第一項から第三項まで(同条第四項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
第十七条 左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
一 第十一条の規定に違反した者
二 第十二条の規定による禁止若しくは命令に違反した者又は同条第二号若しくは第三号の規定により当該職員の職務の執行を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
三 第十四条第一項の規定による命令又は同条第二項の規定による命令若しくは禁止に違反した者
第十八条 左の各号の一に該当する者は、三万円以下の罰金に処する。
一 第七条の規定に違反した者
二 第八条第一項の規定による認可を受けないで、又は同条第二項の規定に違反して、と畜場使用料又はと殺解体料を受けた者
三 第九条第三項の規定による指示に違反した者
四 第十三条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は当該職員の立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
第十九条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
(保健所を設置する市)
第二十条 保健所を設置する市にあつては、第十五条第一項及び第二項中「都道府県」とあるのは「市」と、第九条、第十条、第十二条、第十四条及び第十五条第二項中「都道府県知事」とあるのは「市長」と読み替えるものとする。但し、第十四条第一項については、施設の使用の制限又は停止を命ずる処分に関してのみ、「都道府県知事」とあるのを「市長」と読み替えるものとする。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。但し、第八条の規定は、公布の日から起算して一箇月を経過した日から施行する。
(屠場法の廃止)
2 屠場法(明治三十九年法律第三十二号)は、廃止する。
(と畜場設置の許可に関する経過規定)
3 この法律の施行の際、現に従前の規定による許可を受けて設置されていると畜場のうち、その構造設備が第四条第一項の規定による一般と畜場の基準に合うもの及び通例として一日に十頭をこえる獣畜をと殺し、又は解体しているものは、この法律の規定による許可を受けて設置された一般と畜場とみなし、その他のものは、この法律の規定による許可を受けて設置された簡易と畜場とみなす。
(と畜検査員に関する経過規定)
4 この法律の施行の際、現に従前の規定によりと畜検査員を命ぜられている者は、この法律の規定によりと畜検査員を命ぜられたものとみなす。
(罰則に関する経過規定)
5 この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
(厚生省設置法の一部改正)
6 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第五条中第三十五号を次のように改める。
三十五 削除
第九条第一項第十五号中「と場」を「と畜場」に改める。
(へい獣処理場等に関する法律の一部改正)
7 へい獣処理場等に関する法律(昭和二十三年法律第百四十号)の一部を次のように改正する。
第二条第一項但書を次のように改める。
但し、食用に供する目的で解体する場合及び都道府県知事の許可を受けた場合は、この限りでない。
(家畜伝染病予防法の一部改正)
8 家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号)の一部を次のように改正する。
第五条第一項第二号、第二十一条第一項第二号、第三十三条、第五十一条第一項及び第五十二条中「と場」を「と畜場」に改める。
第三十四条中「種付」を「種付、と畜場以外の場所におけると殺」に改める。
(国有財産法の一部改正)
9 国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)の一部を次のように改正する。
第二十二条第一項第一号中「又はじんあい焼却場」を「、じんあい焼却場又はと畜場」に改める。
第二十八条第四号中「じんあい焼却場」の下に「又はと畜場」を加える。
(土地収用法の一部改正)
10 土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)の一部を次のように改正する。
第三条第二十六号中「屠場法(明治三十九年法律第三十二号)によると場」を「と畜場法(昭和二十八年法律第百十四号)によると畜場」に改める。
(建築基準法の一部改正)
11 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)の一部を次のように改正する。
第二条第二号及び第五十三条第一項中「と殺場」を「と畜場」に改める。
大蔵大臣 小笠原三九郎
厚生大臣 山県勝見
農林大臣 保利茂
建設大臣 戸塚九一郎
内閣総理大臣 吉田茂