海軍志願兵令
法令番号: 勅令第三百三十四號
公布年月日: 昭和2年11月30日
法令の形式: 勅令
朕海軍志願兵條例改正ノ件ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和二年十一月三十日
內閣總理大臣 男爵 田中義一
海軍大臣 岡田啓介
勅令第三百三十四號
海軍志願兵令
第一章 總則
第一條 海軍志願兵トハ左ニ揭グル海軍兵ヲ謂フ
一 本令ニ依リ海軍兵ニ採用セラレ海軍兵籍ニ編入セラレタル者
二 兵役法又ハ兵役法施行令第七條第一項ノ規定ニ依リ徵集又ハ採用セラレタル海軍兵ニシテ本令ニ依リ再現役ニ入リタル者
第二條 志願兵ノ服スベキ兵役ハ現役、豫備役及後備兵役トス
第三條 第一條第一號ニ規定スル現役志願兵ノ兵籍ハ之ヲ志願兵徵募地ノ海軍志願兵徵募區ヲ管轄スル鎭守府ニ置キ第一條第二號ニ規定スル現役志願兵ノ兵籍ハ之ヲ再現役ヲ許可シタル鎭守府ニ置ク但シ海軍大臣ハ必要ニ應ジ現役志願兵(歸休中ノ志願兵ヲ除ク)ノ兵籍ノ所在ヲ變更スルコトヲ得
歸休中ノ志願兵又ハ現役ヲ離レタル志願兵ノ兵籍ハ之ヲ其ノ本籍地ノ志願兵徵募區ヲ管轄スル鎭守府ニ置ク
第四條 志願兵ノ採否ノ決定、再現役ノ許否ノ決定、轉役及免役ノ處分ハ在籍鎭守府司令長官之ヲ行フ
第五條 六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者ハ服役スルコトヲ得ズ
第六條 本令中地方長官ニ關スル規定ハ樺太ニ在リテハ樺太廳長官ニ、府縣ニ關スル規定ハ北海道又ハ樺太ニ在リテハ北海道廳又ハ樺太廳ニ、市又ハ市長ニ關スル規定ハ東京市、京都市、大阪市、名古屋市又ハ橫濱市ニ在リテハ區又ハ區長ニ、町村、町村長又ハ町村吏員ニ關スル規定ハ町村、町村長又ハ町村吏員ニ準ズベキモノニ之ヲ適用ス
第二章 服役
第七條 志願兵ノ現役ハ五年、豫備役ハ四年、後備兵役ハ五年トシ現役ヲ終リタル者ハ之ヲ豫備役ニ、豫備役ヲ終リタル者ハ之ヲ後備兵役ニ別ニ辭令ヲ用ヒズ服セシム
後備兵役ヲ終リタル者ニシテ年齡四十年未滿ノ者ハ之ヲ第一國民兵役ニ服セシム
第八條 現役期間ハ服役シタル月ノ一日ヨリ之ヲ起算ス
第九條 志願兵ノ現役定限年齡ハ三十五年トシ四十年ヲ以テ服役ノ終期トス
第十條 艦船部隊(要港部、學校、病院其ノ他之ニ準ズベキモノヲ含ム)ニ勤務ノ志願兵ハ各其ノ艦船部隊內ニ居住セシムルヲ例トス
第十一條 現役志願兵ハ第七條ニ規定スル現役期間滿ツルモ引續キ數次再現役ヲ志願スルコトヲ得
兵役法又ハ兵役法施行令第七條第一項ノ規定ニ依リ徵集又ハ採用セラレタル現役兵ハ兵役法第五條ニ規定スル現役期間滿ツルモ引續キ數次再現役ヲ志願スルコトヲ得
再現役ハ二年ヲ一期トシ海軍大臣ノ定ムル所ニ依リ之ヲ許可ス但シ二年以內ニ現役定限年齡ニ達スル者ハ其ノ定限年齡ニ達スル日迄ヲ一期トス
海軍特修兵令ニ依リ服役ノ義務ヲ有スル者ハ兵役法第五條又ハ本令第七條ニ規定スル現役期間滿ツル日ノ翌日ヨリ其ノ義務ノ終ル日迄ヲ一期トシ當然再現役ニ入リタルモノト看做ス
第十二條 再現役ヲ許可セラレタル兵再現役ニ入ル前六年未滿ノ懲役若ハ禁錮ノ刑ニ處セラレ又ハ逃亡シタルトキハ其ノ許可ヲ無效トス
再現役ヲ許可セラレタル兵再現役中六年未滿ノ懲役若ハ禁錮ノ刑ニ處セラレ又ハ逃亡シタルトキハ再現役ノ許可ハ將來ニ向テ其ノ效力ヲ失フ
第十三條 再現役中ノ志願兵軍紀ヲ紊リ又ハ品行不正ニシテ下士官ニ任用ノ見込ナシト認ムルトキハ現役ヲ免ジ豫備役ニ服セシムルコトヲ得
第十四條 志願兵現役定限年齡ニ達シ又ハ服役期間滿ツト雖モ左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ其ノ服役期間ヲ延長スルコトヲ得
一 戰時又ハ事變ニ際スルトキ
二 出師ノ準備又ハ守備若ハ警備ノ爲必要アルトキ
三 航海中又ハ外國ニ於テ勤務中ナルトキ
四 重要ナル演習又ハ特別ニ觀艦式アルトキ
五 天災其ノ他避クベカラザル事故ニ因リ已ムヲ得ザルトキ
前項ノ規定ニ依リ延長シタル期間ハ次ノ服役期間ニ之ヲ通算ス
第一項ノ規定ニ依ル服役期間ノ延長及其ノ解止ニ關シテハ海軍大臣臨時之ヲ定ム但シ航海中又ハ外國ニ於テ勤務中ノ者ノ服役期間ノ延長及其ノ解止ハ鎭守府司令長官之ヲ爲スコトヲ得
時機切迫シ海軍大臣又ハ鎭守府司令長官ノ命ヲ待チ難キ場合ニ於テハ艦隊司令長官、艦隊司令官、鎭守府司令長官、要港部司令官、特命司令官又ハ分遣艦船部隊指揮官ハ其ノ部下ノ者ニ對シ必要ノ期間ヲ限リ服役期間ノ延長ヲ專行スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ事實ヲ具シ速ニ海軍大臣ニ報告スベシ
第十五條 後備兵役ノ志願兵ニシテ戰時又ハ事變ニ際シ召集ヲ令セラレタル者應召ノ日ニ於テ後備兵役ノ期間ヲ過グルニ至ルベキトキハ前條ニ規定スル命又ハ召集解除ノ命アル迄其ノ服役期間ヲ延長ス
第十六條 左ニ揭グル期間ハ之ヲ現役期間ニ算入セズ
一 懲役又ハ禁錮ノ刑ニ處セラレ刑ノ執行ヲ受ケタル日數
二 逃亡中ノ日數
第十七條 現役志願兵ニシテ海軍兵學校、海軍機關學校又ハ海軍經理學校ノ生徒ニ採用セラレタル者ハ其ノ入校ノ日ヲ以テ其ノ身分及服役ヲ免ズ
前項ノ規定ニ該當スル者生徒ヲ免ゼラレタルトキハ前ニ免ゼラレタル身分ニ復シ前ノ服役ヲ繼續セシム
第十八條 志願兵現役ニ服シタル期間二年以上ニシテ刑ニ處セラレ又ハ懲罰處分ヲ受ケ改悛ノ狀ナキトキハ其ノ現役ヲ免ジ之ヲ豫備役ニ服セシムルコトヲ得
第十九條 現役志願兵戰地ニ臨ミ、沈沒シタル艦船中ニ在リ又ハ其ノ他死亡ノ原因タルベキ危難ニ遭遇シ戰爭止ミタル後、艦船ノ沈沒シタル後又ハ其ノ他ノ危難ノ去リタル後三年ヲ經過スルモ尙所在不明ナルトキハ其ノ現役ヲ免ジ之ヲ豫備役ニ服セシムルコトヲ得
第二十條 掌電信兵タルコトヲ志願スル水兵ニシテ當該特修兵タルノ見込ナキ者ハ入團後當該練習生敎程修了迄ノ間ニ於テ志願兵ヲ免ズ
軍樂兵ニシテ技倆發達ノ見込ナキ者ハ入團後二月以內ニ志願兵ヲ免ズ
第二十一條 鎭守府司令長官ハ志願兵ニシテ一年以內ニ現役滿期ト爲ル者アルトキハ之ニ歸休ヲ命ズルコトヲ得
歸休ヲ命ゼラルル志願兵ニ關シテハ海軍大臣上裁ヲ經テ之ヲ定ム
第二十二條 兵役法第二十條、第二十一條第一項及兵役法施行令第三十八條ノ規定ハ志願兵ノ服役ニ之ヲ準用ス
第二十三條 前條ノ規定ニ依リ現役ヨリ豫備役ニ轉ジタル志願兵ノ豫備役期間ハ前ニ服シタル期間ヲ通算シ九年ニ滿ツル日迄トス
第三章 徵募
第二十四條 戶籍法ノ適用ヲ受クル者ニシテ海軍ニ服役スルコトヲ志願スル者ハ別ニ定ムル者ヲ除クノ外銓衡ノ上之ヲ海軍志願兵ニ採用ス
第二十五條 海軍志願兵トシテ徵募スベキ海軍兵ノ兵種左ノ如シ
一 水兵
二 機關兵
三 軍樂兵
四 船匠兵
五 看護兵
六 主計兵
第二十六條 志願兵ノ徵募ハ採用ノ年ノ十二月一日ニ於テ年齡十七年以上二十一年未滿ノ者ニ就キ之ヲ行フ但シ掌電信兵タルコトヲ志願スル水兵ニ在リテハ十五年以上十九年未滿、軍樂兵ニ在リテハ十六年以上二十年未滿トス
第二十七條 左ニ揭グル者ハ志願兵ノ徵募ニ應ズルコトヲ得ズ
一 陸軍ノ豫備役、後備兵役及第一國民兵役ニ在ル者竝ニ軍隊ニ於テ敎育ヲ受ケタル第一補充兵
二 禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者又ハ刑法第百八十五條ノ罪ヲ犯シ刑ニ處セラレタル者
三 刑事被告人
第二十八條 左ニ揭グル者ハ之ヲ志願兵ニ採用スルコトヲ得ズ
一 身體完全ナラザル者
二 志操確實ナラザル者
三 品行方正ナラザル者
四 略高等小學校卒業程度以上ノ學力ナキ者
五 試驗檢査ニ合格セザル者
六 前各號ニ揭グル者ノ外將來下士官ニ適セズト認ムル者
第二十九條 志願兵ハ各鎭守府別ニ徵募シ採用ノ上ハ之ヲ所管鎭守府ノ海兵團ニ入團セシム但シ軍樂兵ハ之ヲ橫須賀海兵團ニ入團セシム
第三十條 海軍大臣ハ志願兵徵募ノ爲海軍志願兵徵募區(以下之ヲ徵募區ト稱ス)ヲ定メ鎭守府ヲシテ之ヲ管セシム
徵募區ハ必要ニ應ジ之ヲ檢査區ニ分ツ
徵募檢査施行ノ爲檢査區每ニ槪ネ一檢査所ヲ設ク但シ數檢査區ヲ併セ一檢査所ヲ設クルコトヲ得
第三十一條 海軍大臣ハ鎭守府司令長官及地方長官ヲシテ志願兵ノ徵募ヲ掌理セシム
第三十二條 鎭守府司令長官ハ部下ノ將校中ヨリ海軍志願兵徵募官ヲ、部下ノ軍醫科士官中ヨリ海軍志願兵徵募軍醫官ヲ命ズ
府縣ノ兵事ニ關スル事務ヲ分掌スル書記官又ハ地方事務官(以下之ヲ兵事官ト稱ス)、支廳長及市長ハ海軍志願兵徵募官トス
海軍志願兵徵募官タル海軍將校ヲ海軍徵募官、海軍志願兵徵募軍醫官タル海軍軍醫科士官ヲ海軍徵募軍醫官、兵事官支廳長及市長ヲ地方徵募官ト稱ス
海軍志願兵徵募官ハ海軍徵募官ヲ首座トス
海軍徵募軍醫官ハ其ノ服務ニ關シテハ海軍徵募官ノ命ヲ承ク
第三十三條 鎭守府司令長官及地方長官ハ左ノ區分ニ從ヒ海軍徵募官及地方徵募官ヲシテ徵募ノ事務ヲ執行セシム
一 支廳長ノ管轄區域以外及市以外ノ區域ニ在リテハ海軍徵募官及兵事官
二 支廳長ノ管轄區域ニ在リテハ海軍徵募官及支廳長
三 市ニ在リテハ海軍徵募官及市長
地方徵募官事故アルトキハ兵事官ニ在リテハ地方長官ノ指名スル其ノ部下ノ官吏、支廳長又ハ市長ニ在リテハ其ノ職務ヲ代理スル者地方徵募官ノ職務ヲ代理ス
第三十四條 海軍徵募官ハ徵募檢査ノ事務ヲ執行シ合格者ノ決定ニ任ズ
徵募軍醫官ハ身體檢査ヲ掌リ體格等位ノ決定ニ任ズ
地方徵募官ハ徵募檢査ノ事務ヲ執行シ徵募檢査ヲ受クル者ノ身上ニ關スル調査ニ任ズ
町村長ハ檢査所ニ出席シ海軍志願兵徵募官ノ諮問ニ應ズベシ
第三十五條 地方長官ハ檢査所ヲ開設スル地ノ市町村長ヲシテ豫メ徵募檢査ニ關スル準備ヲ爲サシムベシ
地方長官ハ徵募檢査ニ際シ必要アル場合ニ於テハ市町村長ニ命ジ當該市町村ノ吏員ヲシテ徵募事務ヲ補助セシムルコトヲ得
第三十六條 海軍大臣ハ每年採用スベキ志願兵ノ兵種別員數ヲ定メ之ヲ鎭守府司令長官ニ告達ス
鎭守府司令長官ハ前項ノ規定ニ依ル告達ニ基キ府縣別志願者割當員數ヲ定メ之ヲ地方長官ニ通知ス
第三十七條 地方長官ハ前條第二項ノ規定ニ依ル通知ニ基キ市町村長ヲシテ其ノ管內ニ現住シ志願兵タルコトヲ志願スル者ニ付第二十四條及第二十七條ニ規定スル資格ヲ審査シ且第二十八條各號ノ一ニ該當セズト認ムル者ノ兵種別員數ヲ報告セシムベシ
地方長官ハ前項ノ規定ニ依ル報告ヲ總括シ之ヲ鎭守府司令長官ニ通知スベシ
第三十八條 志願兵ノ入團期日ハ六月一日トス但シ海軍大臣ハ必要アル場合ニ於テハ之ヲ變更スルコトヲ得
第三十九條 鎭守府司令長官ハ志願兵入團ノ際現役ニ堪ヘザル者ナルトキハ其ノ採用ヲ取消シ歸鄕セシム
鎭守府司令長官ハ志願兵入團ニ際シ疾病其ノ他避クベカラザル事故ニ因リ入團シ難キ者ナルトキハ二十日以內其ノ入團ヲ延期スルコトヲ得
第四十條 鎭守府司令長官ハ志願兵入團期日後二月以內ニ闕員ヲ生ジタルトキハ其ノ補闕ノ爲更ニ志願兵ノ採用ヲ爲スコトヲ得
第四十一條 海軍大臣ハ鎭守府ノ所管徵募區內ニ於テ要員ヲ採用スルコト能ハザルトキハ他ノ鎭守府ノ所管徵募區ヨリ之ヲ補充セシムルコトヲ得
第四十二條 檢査所ノ諸費、志願兵入團ノ旅費及附添ノ官吏吏員ノ旅費ハ之ヲ官給トシ志願兵ヲ志願スル者ノ檢査所ニ於テ檢査ヲ受クル爲ノ旅費ハ之ヲ自辨トス
第四章 召集
第四十三條 歸休中ノ志願兵又ハ豫備役若ハ後備兵役ノ志願兵ハ戰時又ハ事變ニ際シ必要ニ應ジ之ヲ召集ス
第四十四條 前條ノ志願兵ハ演習ノ爲之ヲ召集スルコトヲ得
第四十五條 歸休中ノ志願兵ハ臨時補充ノ爲其ノ他必要アル場合ニ之ヲ召集スルコトヲ得
服役第一年次ノ豫備役ノ志願兵ハ警備其ノ他ノ必要ニ因リ歸休中ノ志願兵ヲ召集スルモ尙兵員ヲ要スル場合ニ之ヲ召集スルコトヲ得
第四十六條 兵役法第六十條乃至第六十三條竝ニ兵役法施行令第四章(第百十九條乃至第百二十一條及第百三十四條ヲ除ク)ノ規定ハ本令中別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外志願兵ノ召集又ハ簡閱點呼ニ之ヲ準用ス
附 則
本令ハ昭和二年十二月一日ヨリ之ヲ施行ス
本令施行前志願兵ニ採用セラレタル者ノ服役ノ種類及期間ハ仍從前ノ例ニ依ル
昭和四年度迄ニ入團セシムベキ志願兵ノ採用ニ付テハ第二十八條第四號ノ規定ハ之ヲ適用セズ其ノ學力ハ尋常小學校卒業程度ヲ以テ足ル
朕海軍志願兵条例改正ノ件ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和二年十一月三十日
内閣総理大臣 男爵 田中義一
海軍大臣 岡田啓介
勅令第三百三十四号
海軍志願兵令
第一章 総則
第一条 海軍志願兵トハ左ニ掲グル海軍兵ヲ謂フ
一 本令ニ依リ海軍兵ニ採用セラレ海軍兵籍ニ編入セラレタル者
二 兵役法又ハ兵役法施行令第七条第一項ノ規定ニ依リ徴集又ハ採用セラレタル海軍兵ニシテ本令ニ依リ再現役ニ入リタル者
第二条 志願兵ノ服スベキ兵役ハ現役、予備役及後備兵役トス
第三条 第一条第一号ニ規定スル現役志願兵ノ兵籍ハ之ヲ志願兵徴募地ノ海軍志願兵徴募区ヲ管轄スル鎮守府ニ置キ第一条第二号ニ規定スル現役志願兵ノ兵籍ハ之ヲ再現役ヲ許可シタル鎮守府ニ置ク但シ海軍大臣ハ必要ニ応ジ現役志願兵(帰休中ノ志願兵ヲ除ク)ノ兵籍ノ所在ヲ変更スルコトヲ得
帰休中ノ志願兵又ハ現役ヲ離レタル志願兵ノ兵籍ハ之ヲ其ノ本籍地ノ志願兵徴募区ヲ管轄スル鎮守府ニ置ク
第四条 志願兵ノ採否ノ決定、再現役ノ許否ノ決定、転役及免役ノ処分ハ在籍鎮守府司令長官之ヲ行フ
第五条 六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタル者ハ服役スルコトヲ得ズ
第六条 本令中地方長官ニ関スル規定ハ樺太ニ在リテハ樺太庁長官ニ、府県ニ関スル規定ハ北海道又ハ樺太ニ在リテハ北海道庁又ハ樺太庁ニ、市又ハ市長ニ関スル規定ハ東京市、京都市、大阪市、名古屋市又ハ横浜市ニ在リテハ区又ハ区長ニ、町村、町村長又ハ町村吏員ニ関スル規定ハ町村、町村長又ハ町村吏員ニ準ズベキモノニ之ヲ適用ス
第二章 服役
第七条 志願兵ノ現役ハ五年、予備役ハ四年、後備兵役ハ五年トシ現役ヲ終リタル者ハ之ヲ予備役ニ、予備役ヲ終リタル者ハ之ヲ後備兵役ニ別ニ辞令ヲ用ヒズ服セシム
後備兵役ヲ終リタル者ニシテ年齢四十年未満ノ者ハ之ヲ第一国民兵役ニ服セシム
第八条 現役期間ハ服役シタル月ノ一日ヨリ之ヲ起算ス
第九条 志願兵ノ現役定限年齢ハ三十五年トシ四十年ヲ以テ服役ノ終期トス
第十条 艦船部隊(要港部、学校、病院其ノ他之ニ準ズベキモノヲ含ム)ニ勤務ノ志願兵ハ各其ノ艦船部隊内ニ居住セシムルヲ例トス
第十一条 現役志願兵ハ第七条ニ規定スル現役期間満ツルモ引続キ数次再現役ヲ志願スルコトヲ得
兵役法又ハ兵役法施行令第七条第一項ノ規定ニ依リ徴集又ハ採用セラレタル現役兵ハ兵役法第五条ニ規定スル現役期間満ツルモ引続キ数次再現役ヲ志願スルコトヲ得
再現役ハ二年ヲ一期トシ海軍大臣ノ定ムル所ニ依リ之ヲ許可ス但シ二年以内ニ現役定限年齢ニ達スル者ハ其ノ定限年齢ニ達スル日迄ヲ一期トス
海軍特修兵令ニ依リ服役ノ義務ヲ有スル者ハ兵役法第五条又ハ本令第七条ニ規定スル現役期間満ツル日ノ翌日ヨリ其ノ義務ノ終ル日迄ヲ一期トシ当然再現役ニ入リタルモノト看做ス
第十二条 再現役ヲ許可セラレタル兵再現役ニ入ル前六年未満ノ懲役若ハ禁錮ノ刑ニ処セラレ又ハ逃亡シタルトキハ其ノ許可ヲ無効トス
再現役ヲ許可セラレタル兵再現役中六年未満ノ懲役若ハ禁錮ノ刑ニ処セラレ又ハ逃亡シタルトキハ再現役ノ許可ハ将来ニ向テ其ノ効力ヲ失フ
第十三条 再現役中ノ志願兵軍紀ヲ紊リ又ハ品行不正ニシテ下士官ニ任用ノ見込ナシト認ムルトキハ現役ヲ免ジ予備役ニ服セシムルコトヲ得
第十四条 志願兵現役定限年齢ニ達シ又ハ服役期間満ツト雖モ左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ其ノ服役期間ヲ延長スルコトヲ得
一 戦時又ハ事変ニ際スルトキ
二 出師ノ準備又ハ守備若ハ警備ノ為必要アルトキ
三 航海中又ハ外国ニ於テ勤務中ナルトキ
四 重要ナル演習又ハ特別ニ観艦式アルトキ
五 天災其ノ他避クベカラザル事故ニ因リ已ムヲ得ザルトキ
前項ノ規定ニ依リ延長シタル期間ハ次ノ服役期間ニ之ヲ通算ス
第一項ノ規定ニ依ル服役期間ノ延長及其ノ解止ニ関シテハ海軍大臣臨時之ヲ定ム但シ航海中又ハ外国ニ於テ勤務中ノ者ノ服役期間ノ延長及其ノ解止ハ鎮守府司令長官之ヲ為スコトヲ得
時機切迫シ海軍大臣又ハ鎮守府司令長官ノ命ヲ待チ難キ場合ニ於テハ艦隊司令長官、艦隊司令官、鎮守府司令長官、要港部司令官、特命司令官又ハ分遣艦船部隊指揮官ハ其ノ部下ノ者ニ対シ必要ノ期間ヲ限リ服役期間ノ延長ヲ専行スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ事実ヲ具シ速ニ海軍大臣ニ報告スベシ
第十五条 後備兵役ノ志願兵ニシテ戦時又ハ事変ニ際シ召集ヲ令セラレタル者応召ノ日ニ於テ後備兵役ノ期間ヲ過グルニ至ルベキトキハ前条ニ規定スル命又ハ召集解除ノ命アル迄其ノ服役期間ヲ延長ス
第十六条 左ニ掲グル期間ハ之ヲ現役期間ニ算入セズ
一 懲役又ハ禁錮ノ刑ニ処セラレ刑ノ執行ヲ受ケタル日数
二 逃亡中ノ日数
第十七条 現役志願兵ニシテ海軍兵学校、海軍機関学校又ハ海軍経理学校ノ生徒ニ採用セラレタル者ハ其ノ入校ノ日ヲ以テ其ノ身分及服役ヲ免ズ
前項ノ規定ニ該当スル者生徒ヲ免ゼラレタルトキハ前ニ免ゼラレタル身分ニ復シ前ノ服役ヲ継続セシム
第十八条 志願兵現役ニ服シタル期間二年以上ニシテ刑ニ処セラレ又ハ懲罰処分ヲ受ケ改悛ノ状ナキトキハ其ノ現役ヲ免ジ之ヲ予備役ニ服セシムルコトヲ得
第十九条 現役志願兵戦地ニ臨ミ、沈没シタル艦船中ニ在リ又ハ其ノ他死亡ノ原因タルベキ危難ニ遭遇シ戦争止ミタル後、艦船ノ沈没シタル後又ハ其ノ他ノ危難ノ去リタル後三年ヲ経過スルモ尚所在不明ナルトキハ其ノ現役ヲ免ジ之ヲ予備役ニ服セシムルコトヲ得
第二十条 掌電信兵タルコトヲ志願スル水兵ニシテ当該特修兵タルノ見込ナキ者ハ入団後当該練習生教程修了迄ノ間ニ於テ志願兵ヲ免ズ
軍楽兵ニシテ技倆発達ノ見込ナキ者ハ入団後二月以内ニ志願兵ヲ免ズ
第二十一条 鎮守府司令長官ハ志願兵ニシテ一年以内ニ現役満期ト為ル者アルトキハ之ニ帰休ヲ命ズルコトヲ得
帰休ヲ命ゼラルル志願兵ニ関シテハ海軍大臣上裁ヲ経テ之ヲ定ム
第二十二条 兵役法第二十条、第二十一条第一項及兵役法施行令第三十八条ノ規定ハ志願兵ノ服役ニ之ヲ準用ス
第二十三条 前条ノ規定ニ依リ現役ヨリ予備役ニ転ジタル志願兵ノ予備役期間ハ前ニ服シタル期間ヲ通算シ九年ニ満ツル日迄トス
第三章 徴募
第二十四条 戸籍法ノ適用ヲ受クル者ニシテ海軍ニ服役スルコトヲ志願スル者ハ別ニ定ムル者ヲ除クノ外銓衡ノ上之ヲ海軍志願兵ニ採用ス
第二十五条 海軍志願兵トシテ徴募スベキ海軍兵ノ兵種左ノ如シ
一 水兵
二 機関兵
三 軍楽兵
四 船匠兵
五 看護兵
六 主計兵
第二十六条 志願兵ノ徴募ハ採用ノ年ノ十二月一日ニ於テ年齢十七年以上二十一年未満ノ者ニ就キ之ヲ行フ但シ掌電信兵タルコトヲ志願スル水兵ニ在リテハ十五年以上十九年未満、軍楽兵ニ在リテハ十六年以上二十年未満トス
第二十七条 左ニ掲グル者ハ志願兵ノ徴募ニ応ズルコトヲ得ズ
一 陸軍ノ予備役、後備兵役及第一国民兵役ニ在ル者並ニ軍隊ニ於テ教育ヲ受ケタル第一補充兵
二 禁錮以上ノ刑ニ処セラレタル者又ハ刑法第百八十五条ノ罪ヲ犯シ刑ニ処セラレタル者
三 刑事被告人
第二十八条 左ニ掲グル者ハ之ヲ志願兵ニ採用スルコトヲ得ズ
一 身体完全ナラザル者
二 志操確実ナラザル者
三 品行方正ナラザル者
四 略高等小学校卒業程度以上ノ学力ナキ者
五 試験検査ニ合格セザル者
六 前各号ニ掲グル者ノ外将来下士官ニ適セズト認ムル者
第二十九条 志願兵ハ各鎮守府別ニ徴募シ採用ノ上ハ之ヲ所管鎮守府ノ海兵団ニ入団セシム但シ軍楽兵ハ之ヲ横須賀海兵団ニ入団セシム
第三十条 海軍大臣ハ志願兵徴募ノ為海軍志願兵徴募区(以下之ヲ徴募区ト称ス)ヲ定メ鎮守府ヲシテ之ヲ管セシム
徴募区ハ必要ニ応ジ之ヲ検査区ニ分ツ
徴募検査施行ノ為検査区毎ニ概ネ一検査所ヲ設ク但シ数検査区ヲ併セ一検査所ヲ設クルコトヲ得
第三十一条 海軍大臣ハ鎮守府司令長官及地方長官ヲシテ志願兵ノ徴募ヲ掌理セシム
第三十二条 鎮守府司令長官ハ部下ノ将校中ヨリ海軍志願兵徴募官ヲ、部下ノ軍医科士官中ヨリ海軍志願兵徴募軍医官ヲ命ズ
府県ノ兵事ニ関スル事務ヲ分掌スル書記官又ハ地方事務官(以下之ヲ兵事官ト称ス)、支庁長及市長ハ海軍志願兵徴募官トス
海軍志願兵徴募官タル海軍将校ヲ海軍徴募官、海軍志願兵徴募軍医官タル海軍軍医科士官ヲ海軍徴募軍医官、兵事官支庁長及市長ヲ地方徴募官ト称ス
海軍志願兵徴募官ハ海軍徴募官ヲ首座トス
海軍徴募軍医官ハ其ノ服務ニ関シテハ海軍徴募官ノ命ヲ承ク
第三十三条 鎮守府司令長官及地方長官ハ左ノ区分ニ従ヒ海軍徴募官及地方徴募官ヲシテ徴募ノ事務ヲ執行セシム
一 支庁長ノ管轄区域以外及市以外ノ区域ニ在リテハ海軍徴募官及兵事官
二 支庁長ノ管轄区域ニ在リテハ海軍徴募官及支庁長
三 市ニ在リテハ海軍徴募官及市長
地方徴募官事故アルトキハ兵事官ニ在リテハ地方長官ノ指名スル其ノ部下ノ官吏、支庁長又ハ市長ニ在リテハ其ノ職務ヲ代理スル者地方徴募官ノ職務ヲ代理ス
第三十四条 海軍徴募官ハ徴募検査ノ事務ヲ執行シ合格者ノ決定ニ任ズ
徴募軍医官ハ身体検査ヲ掌リ体格等位ノ決定ニ任ズ
地方徴募官ハ徴募検査ノ事務ヲ執行シ徴募検査ヲ受クル者ノ身上ニ関スル調査ニ任ズ
町村長ハ検査所ニ出席シ海軍志願兵徴募官ノ諮問ニ応ズベシ
第三十五条 地方長官ハ検査所ヲ開設スル地ノ市町村長ヲシテ予メ徴募検査ニ関スル準備ヲ為サシムベシ
地方長官ハ徴募検査ニ際シ必要アル場合ニ於テハ市町村長ニ命ジ当該市町村ノ吏員ヲシテ徴募事務ヲ補助セシムルコトヲ得
第三十六条 海軍大臣ハ毎年採用スベキ志願兵ノ兵種別員数ヲ定メ之ヲ鎮守府司令長官ニ告達ス
鎮守府司令長官ハ前項ノ規定ニ依ル告達ニ基キ府県別志願者割当員数ヲ定メ之ヲ地方長官ニ通知ス
第三十七条 地方長官ハ前条第二項ノ規定ニ依ル通知ニ基キ市町村長ヲシテ其ノ管内ニ現住シ志願兵タルコトヲ志願スル者ニ付第二十四条及第二十七条ニ規定スル資格ヲ審査シ且第二十八条各号ノ一ニ該当セズト認ムル者ノ兵種別員数ヲ報告セシムベシ
地方長官ハ前項ノ規定ニ依ル報告ヲ総括シ之ヲ鎮守府司令長官ニ通知スベシ
第三十八条 志願兵ノ入団期日ハ六月一日トス但シ海軍大臣ハ必要アル場合ニ於テハ之ヲ変更スルコトヲ得
第三十九条 鎮守府司令長官ハ志願兵入団ノ際現役ニ堪ヘザル者ナルトキハ其ノ採用ヲ取消シ帰郷セシム
鎮守府司令長官ハ志願兵入団ニ際シ疾病其ノ他避クベカラザル事故ニ因リ入団シ難キ者ナルトキハ二十日以内其ノ入団ヲ延期スルコトヲ得
第四十条 鎮守府司令長官ハ志願兵入団期日後二月以内ニ闕員ヲ生ジタルトキハ其ノ補闕ノ為更ニ志願兵ノ採用ヲ為スコトヲ得
第四十一条 海軍大臣ハ鎮守府ノ所管徴募区内ニ於テ要員ヲ採用スルコト能ハザルトキハ他ノ鎮守府ノ所管徴募区ヨリ之ヲ補充セシムルコトヲ得
第四十二条 検査所ノ諸費、志願兵入団ノ旅費及附添ノ官吏吏員ノ旅費ハ之ヲ官給トシ志願兵ヲ志願スル者ノ検査所ニ於テ検査ヲ受クル為ノ旅費ハ之ヲ自弁トス
第四章 召集
第四十三条 帰休中ノ志願兵又ハ予備役若ハ後備兵役ノ志願兵ハ戦時又ハ事変ニ際シ必要ニ応ジ之ヲ召集ス
第四十四条 前条ノ志願兵ハ演習ノ為之ヲ召集スルコトヲ得
第四十五条 帰休中ノ志願兵ハ臨時補充ノ為其ノ他必要アル場合ニ之ヲ召集スルコトヲ得
服役第一年次ノ予備役ノ志願兵ハ警備其ノ他ノ必要ニ因リ帰休中ノ志願兵ヲ召集スルモ尚兵員ヲ要スル場合ニ之ヲ召集スルコトヲ得
第四十六条 兵役法第六十条乃至第六十三条並ニ兵役法施行令第四章(第百十九条乃至第百二十一条及第百三十四条ヲ除ク)ノ規定ハ本令中別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外志願兵ノ召集又ハ簡閲点呼ニ之ヲ準用ス
附 則
本令ハ昭和二年十二月一日ヨリ之ヲ施行ス
本令施行前志願兵ニ採用セラレタル者ノ服役ノ種類及期間ハ仍従前ノ例ニ依ル
昭和四年度迄ニ入団セシムベキ志願兵ノ採用ニ付テハ第二十八条第四号ノ規定ハ之ヲ適用セズ其ノ学力ハ尋常小学校卒業程度ヲ以テ足ル