朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル間接國稅犯則者處分法改正法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月十六日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
大藏大臣 伯爵 松方正義
法律第六十七號
間接國稅犯則者處分法
第一條 間接國稅ニ關スル犯則アルトキハ收稅官吏ハ犯則事實ヲ證明スヘキ物件、帳簿、書類等ノ差押ヲ爲スコトヲ得
第二條 收稅官吏ハ犯則事實ヲ證明スヘキ物件、帳簿、書類等ヲ藏匿スト認ムル場所ニ臨檢シ搜索ヲ爲スコトヲ得
第三條 收稅官吏ハ犯則事件ヲ調査スル爲必要ト認ムルトキハ犯則嫌疑者、參考人ヲ尋問スルコトヲ得
第四條 收稅官吏臨檢、搜索、尋問又ハ差押ヲ爲ストキハ其ノ身分ヲ證明スヘキ證票ヲ携帶スヘシ
第五條 收稅官吏臨檢、搜索、尋問又ハ差押ヲ爲スニ當リ必要ナルトキハ警察官吏ノ援助ヲ求ムルコトヲ得
第六條 收稅官吏搜索ヲ爲ストキハ搜索スヘキ家宅、倉庫、船車其ノ他ノ場所ノ所有主、借主、管理者、事務員又ハ同居ノ親族、雇人、鄰佑ニシテ成年ニ達シタル者ヲシテ立會ハシムヘシ
前項ニ揭クル者其ノ地ニ在ラサルトキ又ハ立會ヲ拒ミタルトキハ其ノ地ノ警察官吏又ハ市町村吏員ヲシテ立會ハシムヘシ
第七條 收稅官吏犯則事實ヲ證明スヘキ物件、帳簿、書類等ヲ差押ヘタルトキハ其ノ差押目錄ヲ作ルヘシ但シ所有者ハ其ノ差押目錄ノ謄本ヲ請求スルコトヲ得
差押物件ハ便宜ニ依リ保管證ヲ徵シ所有者又ハ市町村ヲシテ保管セシムルコトヲ得差押物件ノ保管證ニ關シテハ印紙稅ヲ納ムルコトヲ要セス
差押物件腐敗其ノ他損傷ノ虞アルトキハ稅務管理局長ハ之ヲ公賣ニ付シ其ノ代金ヲ供託スルコトヲ得
第八條 收稅官吏ハ日沒ヨリ日出マテノ間臨檢、搜索又ハ差押ヲ爲スコトヲ得ス但シ現行犯ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第九條 收稅官吏臨檢、搜索、尋問又ハ差押ヲ爲ス間ハ何人ニ限ラス許可ヲ得スシテ其ノ場所ニ出入スルヲ禁スルコトヲ得
第十條 收稅官吏臨檢、搜索、尋問又ハ差押ヲ爲シタルトキハ其ノ顚末ヲ記載シ立會人又ハ尋問ヲ受ケタル者ニ示シ共ニ署名捺印スヘシ立會人又ハ尋問ヲ受ケタル者署名捺印セス又ハ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其ノ旨ヲ附記スヘシ
第十一條 犯則事件ノ證憑集取ハ事件發見地ノ收稅官吏之ヲ爲ス同一犯則事件ニ付數稅務署管轄區域內ニ於テ發見セラレタルトキハ各發見地ニ於テ集取セラレタル證憑ハ之ヲ最初ノ發見地ノ收稅官吏ニ引繼クヘシ
第十二條 收稅官吏前各條ニ依リ臨檢、搜索、尋問又ハ差押ヲ爲スハ其ノ所屬稅務署ノ管轄區域內ニ限ル但シ旣ニ著手シタル犯則事件ニ關聯シ他ノ稅務署ノ管轄區域ニ於テ臨檢、搜索、尋問又ハ差押ヲ爲スヲ必要トスルトキハ此ノ限ニ在ラス
稅務署長ハ其ノ管轄區域外ニ於テ犯則事件ノ調査ヲ必要トスルトキハ之ヲ其ノ地ノ稅務署長ニ囑託スルコトヲ得
第十三條 收稅官吏犯則事件ノ調査ヲ終リタルトキハ之ヲ稅務管理局長ニ報吿スヘシ但シ左ノ場合ニ於テハ直ニ吿發スヘシ
一 犯則嫌疑者ノ居所分明ナラサルトキ
二 犯則嫌疑者逃走ノ虞アルトキ
三 證憑堙滅ノ虞アルトキ
第十四條 稅務管理局長ハ犯則事件ノ調査ニ依リ犯則ノ心證ヲ得タルトキハ其ノ理由ヲ明示シ罰金若ハ科料ニ相當スル金額、沒收品ニ該當スル物品、徵收金ニ相當スル金額及書類送達竝差押物件ノ運搬、保管ニ要シタル費用ヲ指定ノ場所ニ納付スヘキ旨ヲ通吿スヘシ但シ犯則者通吿ノ旨ヲ履行スル資力ナシト認ムルトキハ直ニ吿發スヘシ
第十五條 第十四條ノ通吿アリタルトキハ公訴ノ時效ヲ中斷ス
第十六條 犯則者通吿ノ旨ヲ履行シタルトキハ同一事件ニ付訴ヲ受クルコトナシ
第十七條 犯則者通吿ヲ受ケタル日ヨリ七日以內ニ之ヲ履行セサルトキハ稅務管理局長ハ吿發ノ手續ヲ爲スヘシ但シ七日ヲ過クルモ吿發前ニ履行シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十八條 犯則事件ヲ吿發シタル場合ニ於テ差押物件アルトキハ差押目錄ト共ニ裁判所ニ引繼クヘシ
前項ノ差押物件所有者又ハ市町村ノ保管ニ係ルトキハ保管證ヲ以テ引繼ヲ爲シ差押物件引繼ノ旨ヲ保管者ニ通知スヘシ
第十九條 稅務管理局長犯則事件ヲ調査シ犯則ノ心證ヲ得サルトキハ其ノ旨ヲ犯則嫌疑者ニ通知シ物件ノ差押アルトキハ之カ解除ヲ命スヘシ
第二十條 本法ニ於テ間接國稅ト稱スルハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第二十一條 本法中市町村吏員又ハ市町村トアルハ市制町村制ヲ施行セサル地ニ在リテハ之ニ準スヘキモノニ適用ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル間接国税犯則者処分法改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月十六日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
大蔵大臣 伯爵 松方正義
法律第六十七号
間接国税犯則者処分法
第一条 間接国税ニ関スル犯則アルトキハ収税官吏ハ犯則事実ヲ証明スヘキ物件、帳簿、書類等ノ差押ヲ為スコトヲ得
第二条 収税官吏ハ犯則事実ヲ証明スヘキ物件、帳簿、書類等ヲ蔵匿スト認ムル場所ニ臨検シ捜索ヲ為スコトヲ得
第三条 収税官吏ハ犯則事件ヲ調査スル為必要ト認ムルトキハ犯則嫌疑者、参考人ヲ尋問スルコトヲ得
第四条 収税官吏臨検、捜索、尋問又ハ差押ヲ為ストキハ其ノ身分ヲ証明スヘキ証票ヲ携帯スヘシ
第五条 収税官吏臨検、捜索、尋問又ハ差押ヲ為スニ当リ必要ナルトキハ警察官吏ノ援助ヲ求ムルコトヲ得
第六条 収税官吏捜索ヲ為ストキハ捜索スヘキ家宅、倉庫、船車其ノ他ノ場所ノ所有主、借主、管理者、事務員又ハ同居ノ親族、雇人、隣佑ニシテ成年ニ達シタル者ヲシテ立会ハシムヘシ
前項ニ掲クル者其ノ地ニ在ラサルトキ又ハ立会ヲ拒ミタルトキハ其ノ地ノ警察官吏又ハ市町村吏員ヲシテ立会ハシムヘシ
第七条 収税官吏犯則事実ヲ証明スヘキ物件、帳簿、書類等ヲ差押ヘタルトキハ其ノ差押目録ヲ作ルヘシ但シ所有者ハ其ノ差押目録ノ謄本ヲ請求スルコトヲ得
差押物件ハ便宜ニ依リ保管証ヲ徴シ所有者又ハ市町村ヲシテ保管セシムルコトヲ得差押物件ノ保管証ニ関シテハ印紙税ヲ納ムルコトヲ要セス
差押物件腐敗其ノ他損傷ノ虞アルトキハ税務管理局長ハ之ヲ公売ニ付シ其ノ代金ヲ供託スルコトヲ得
第八条 収税官吏ハ日没ヨリ日出マテノ間臨検、捜索又ハ差押ヲ為スコトヲ得ス但シ現行犯ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第九条 収税官吏臨検、捜索、尋問又ハ差押ヲ為ス間ハ何人ニ限ラス許可ヲ得スシテ其ノ場所ニ出入スルヲ禁スルコトヲ得
第十条 収税官吏臨検、捜索、尋問又ハ差押ヲ為シタルトキハ其ノ顛末ヲ記載シ立会人又ハ尋問ヲ受ケタル者ニ示シ共ニ署名捺印スヘシ立会人又ハ尋問ヲ受ケタル者署名捺印セス又ハ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其ノ旨ヲ附記スヘシ
第十一条 犯則事件ノ証憑集取ハ事件発見地ノ収税官吏之ヲ為ス同一犯則事件ニ付数税務署管轄区域内ニ於テ発見セラレタルトキハ各発見地ニ於テ集取セラレタル証憑ハ之ヲ最初ノ発見地ノ収税官吏ニ引継クヘシ
第十二条 収税官吏前各条ニ依リ臨検、捜索、尋問又ハ差押ヲ為スハ其ノ所属税務署ノ管轄区域内ニ限ル但シ既ニ著手シタル犯則事件ニ関連シ他ノ税務署ノ管轄区域ニ於テ臨検、捜索、尋問又ハ差押ヲ為スヲ必要トスルトキハ此ノ限ニ在ラス
税務署長ハ其ノ管轄区域外ニ於テ犯則事件ノ調査ヲ必要トスルトキハ之ヲ其ノ地ノ税務署長ニ嘱託スルコトヲ得
第十三条 収税官吏犯則事件ノ調査ヲ終リタルトキハ之ヲ税務管理局長ニ報告スヘシ但シ左ノ場合ニ於テハ直ニ告発スヘシ
一 犯則嫌疑者ノ居所分明ナラサルトキ
二 犯則嫌疑者逃走ノ虞アルトキ
三 証憑堙滅ノ虞アルトキ
第十四条 税務管理局長ハ犯則事件ノ調査ニ依リ犯則ノ心証ヲ得タルトキハ其ノ理由ヲ明示シ罰金若ハ科料ニ相当スル金額、没収品ニ該当スル物品、徴収金ニ相当スル金額及書類送達並差押物件ノ運搬、保管ニ要シタル費用ヲ指定ノ場所ニ納付スヘキ旨ヲ通告スヘシ但シ犯則者通告ノ旨ヲ履行スル資力ナシト認ムルトキハ直ニ告発スヘシ
第十五条 第十四条ノ通告アリタルトキハ公訴ノ時効ヲ中断ス
第十六条 犯則者通告ノ旨ヲ履行シタルトキハ同一事件ニ付訴ヲ受クルコトナシ
第十七条 犯則者通告ヲ受ケタル日ヨリ七日以内ニ之ヲ履行セサルトキハ税務管理局長ハ告発ノ手続ヲ為スヘシ但シ七日ヲ過クルモ告発前ニ履行シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十八条 犯則事件ヲ告発シタル場合ニ於テ差押物件アルトキハ差押目録ト共ニ裁判所ニ引継クヘシ
前項ノ差押物件所有者又ハ市町村ノ保管ニ係ルトキハ保管証ヲ以テ引継ヲ為シ差押物件引継ノ旨ヲ保管者ニ通知スヘシ
第十九条 税務管理局長犯則事件ヲ調査シ犯則ノ心証ヲ得サルトキハ其ノ旨ヲ犯則嫌疑者ニ通知シ物件ノ差押アルトキハ之カ解除ヲ命スヘシ
第二十条 本法ニ於テ間接国税ト称スルハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第二十一条 本法中市町村吏員又ハ市町村トアルハ市制町村制ヲ施行セサル地ニ在リテハ之ニ準スヘキモノニ適用ス