間接国税犯則者処分法
法令番号: 法律第八十六號
公布年月日: 明治23年9月22日
法令の形式: 法律
朕間接國稅犯則者處分法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年九月二十日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
大藏大臣 伯爵 松方正義
司法大臣 伯爵 山田顯義
法律第八十六號
間接國稅犯則者處分法
第一章 犯則事件取調
第一條 間稅官吏間接國稅ニ關スル犯則者アルコトヲ認知シ若ハ思料シタルトキハ其家宅倉庫其他ノ場所ニ立入リ證憑集取ヲ爲スコトヲ得
犯則者他人ノ家屋倉庫其他ノ場所ニ犯則ニ係ル物件ヲ藏匿スト思料スルトキハ間稅官吏其場所ニ立入リ證憑集取ヲ爲スコトヲ得
間稅官吏證憑集取ヲ爲ストキハ間稅官吏タルノ證票ヲ携帶スヘシ
第二條 前條ノ場合ニ於テ犯則者若ハ犯則ニ係ル物件其間稅官署ノ管轄區域外ニ在ルトキハ其地ノ間稅官署ニ證憑集取ヲ囑托スルコトヲ得
第三條 間稅官吏ハ犯則事件ノ搜査ニ關シ必要ナリト認ムルトキハ警察官吏ノ援助ヲ求ムルコトヲ得
第四條 間稅官吏證憑集取ヲ爲ストキハ本人若ハ其同居ノ親族又ハ傭人ヲシテ立會ハシムヘシ本人及同居ノ親族傭人俱ニ其家ニ在ラサルトキハ警察官吏又ハ市町村吏員若ハ鄰佑二名以上ヲ立會ハシムヘシ
第五條 間稅官吏家宅搜索及物件差押ヲ爲スハ日出ヨリ日沒マテノ間ニ限ルヘシ但現行犯ノ場合又ハ店舖ヲ公開シ商品ヲ店頭ニ展列シタル時間ニ於テハ此限ニアラス
第六條 間稅官吏臨檢ヲ爲スニ際シ犯則者及證人ノ陳述ヲ聽クコトヲ必要トスルトキハ之ヲ尋問スルコトヲ得
第七條 間稅官吏證憑集取ノ處分ヲ爲スニ由リ犯則物件ヲ發見シタルトキハ之ヲ差押ヘテ封印若ハ認印ヲ爲シ差押目錄ヲ作リ市町村吏員又ハ鄰佑若ハ本人ニ之ヲ預ケ其預リ證ヲ徵スヘシ若シ之ヲ間稅署若ハ間稅分署ニ送致シタルトキハ其領收證ヲ取置クヘシ
差押物件ヲ市町村吏員若ハ鄰佑ニ預ケ又ハ間稅署若ハ間稅分署ニ送致シタルトキハ其差押目錄ノ謄本ヲ本人ニ交付スヘシ
第八條 間稅官吏ハ前數條ニ記載シタル處分中何人ニ限ラス其場所ニ出入スルコトヲ禁スルヲ得
第九條 間稅官吏證憑集取ノ處分ヲ爲シタルトキハ自ラ其調書ヲ作リ之ヲ本人ニ讀聞カセ本人ト共ニ署名捺印スヘシ本人署名捺印セス又ハ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記スヘシ
調書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 本人ノ氏名年齡身分職業住所
二 犯則事件發見ノ手續及日時場所
三 事實ノ尋問ヲ爲シタルトキハ其尋問及陳述
四 差押ヘタル證據物件及種類數量竝ニ本人ノ物件ニ對スル辯解
第二章 犯則者ノ處分
第十條 間稅官吏犯則事件ノ取調ヲ終リタルトキハ處分請求書ヲ作リ一切ノ書類物件ト俱ニ之ヲ管轄間稅署長又ハ分署長ニ差出スヘシ
第十一條 間稅署長又ハ分署長ハ犯則事件ノ調書及其他ノ書類ヲ調査シ犯則ノ心證ヲ得タルトキハ其犯則ト認ムル理由ヲ明示シ罰金ニ該ル者ハ其罰金ニ相當スル金額沒收ニ該ル者ハ沒收スヘキ物品竝ニ第十六條ノ費用ヲ其署ニ納付スヘキ通吿書ヲ作リ之ヲ本人ニ送達スヘシ
前項ノ處分ハ罰金及沒收品ノ價額合計三十圓ヲ超エサルトキニ限リ間稅分署長之ヲ爲シ其他ハ間稅署長之ヲ爲スモノトス
第十二條 犯則者前條ノ通吿書ヲ受ケ通吿ノ旨ヲ承諾スルトキハ七日內ニ履行スヘシ此期限ヲ過キ履行セサル者ハ間稅署長若ハ分署長ヨリ管轄裁判所ニ吿發スヘシ
第十三條 犯則者通吿ノ旨ヲ履行シタルトキハ同事件ニ付刑事又ハ民事ノ訴ヲ爲スコトヲ得ス
第十四條 間稅官吏犯則事件ヲ覺知シタル場合ニ於テ本人ノ住所分明ナラス若ハ犯則事件禁錮又ハ拘留ニ該ルモノト認ムルトキ又罰金若ハ稅金ヲ完納スルノ資力ナキ者ト認ムルトキハ該事件ヲ管轄裁判所ニ吿發スヘシ
犯則者犯則物件ヲ遺留シテ逃走シタルトキハ間稅官吏其物件ヲ差押ヘテ調書ヲ作リ吿發ノ手續ヲ爲スヘシ
第十五條 間稅官吏ハ左ノ場合ニ於テハ犯則者ヲ管轄裁判所ニ引致シ其事件ヲ吿發スヘシ
一 犯則者逃走ノ恐アルトキ
二 證憑堙滅ノ恐アルトキ
第三章 雜則
第十六條 書類送達費及差押物件ニシテ本人ニ還付スヘキモノヽ運搬保管若ハ保存ニ要スル費用ハ犯則者之ヲ負擔スヘシ
第十七條 間稅署長若ハ間稅分署長ハ差押物件腐敗其他損失ノ虞アルトキハ本人ノ承諾ヲ得テ之ヲ公賣シ其代金ヲ供託スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ其差押物件還付ノ申渡ヲ爲シタルトキハ其代金ヲ還付スヘシ
第十八條 此法律ニ於テ間稅官吏トハ間接國稅ノ檢査若ハ徵收ニ從事スル官吏ヲ謂フ
第十九條 間稅官吏ハ直接ト間接トヲ問ハス沒收物件又ハ差押物件ヲ買受クルコトヲ得ス
第二十條 此法律ハ明治二十四年一月一日ヨリ施行ス但北海道沖繩縣及東京府管轄小笠原島伊豆七島ニハ當分之ヲ施行セス
朕間接国税犯則者処分法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年九月二十日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
大蔵大臣 伯爵 松方正義
司法大臣 伯爵 山田顕義
法律第八十六号
間接国税犯則者処分法
第一章 犯則事件取調
第一条 間税官吏間接国税ニ関スル犯則者アルコトヲ認知シ若ハ思料シタルトキハ其家宅倉庫其他ノ場所ニ立入リ証憑集取ヲ為スコトヲ得
犯則者他人ノ家屋倉庫其他ノ場所ニ犯則ニ係ル物件ヲ蔵匿スト思料スルトキハ間税官吏其場所ニ立入リ証憑集取ヲ為スコトヲ得
間税官吏証憑集取ヲ為ストキハ間税官吏タルノ証票ヲ携帯スヘシ
第二条 前条ノ場合ニ於テ犯則者若ハ犯則ニ係ル物件其間税官署ノ管轄区域外ニ在ルトキハ其地ノ間税官署ニ証憑集取ヲ嘱托スルコトヲ得
第三条 間税官吏ハ犯則事件ノ捜査ニ関シ必要ナリト認ムルトキハ警察官吏ノ援助ヲ求ムルコトヲ得
第四条 間税官吏証憑集取ヲ為ストキハ本人若ハ其同居ノ親族又ハ傭人ヲシテ立会ハシムヘシ本人及同居ノ親族傭人俱ニ其家ニ在ラサルトキハ警察官吏又ハ市町村吏員若ハ隣佑二名以上ヲ立会ハシムヘシ
第五条 間税官吏家宅捜索及物件差押ヲ為スハ日出ヨリ日没マテノ間ニ限ルヘシ但現行犯ノ場合又ハ店舗ヲ公開シ商品ヲ店頭ニ展列シタル時間ニ於テハ此限ニアラス
第六条 間税官吏臨検ヲ為スニ際シ犯則者及証人ノ陳述ヲ聴クコトヲ必要トスルトキハ之ヲ尋問スルコトヲ得
第七条 間税官吏証憑集取ノ処分ヲ為スニ由リ犯則物件ヲ発見シタルトキハ之ヲ差押ヘテ封印若ハ認印ヲ為シ差押目録ヲ作リ市町村吏員又ハ隣佑若ハ本人ニ之ヲ預ケ其預リ証ヲ徴スヘシ若シ之ヲ間税署若ハ間税分署ニ送致シタルトキハ其領収証ヲ取置クヘシ
差押物件ヲ市町村吏員若ハ隣佑ニ預ケ又ハ間税署若ハ間税分署ニ送致シタルトキハ其差押目録ノ謄本ヲ本人ニ交付スヘシ
第八条 間税官吏ハ前数条ニ記載シタル処分中何人ニ限ラス其場所ニ出入スルコトヲ禁スルヲ得
第九条 間税官吏証憑集取ノ処分ヲ為シタルトキハ自ラ其調書ヲ作リ之ヲ本人ニ読聞カセ本人ト共ニ署名捺印スヘシ本人署名捺印セス又ハ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記スヘシ
調書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 本人ノ氏名年齢身分職業住所
二 犯則事件発見ノ手続及日時場所
三 事実ノ尋問ヲ為シタルトキハ其尋問及陳述
四 差押ヘタル証拠物件及種類数量並ニ本人ノ物件ニ対スル弁解
第二章 犯則者ノ処分
第十条 間税官吏犯則事件ノ取調ヲ終リタルトキハ処分請求書ヲ作リ一切ノ書類物件ト俱ニ之ヲ管轄間税署長又ハ分署長ニ差出スヘシ
第十一条 間税署長又ハ分署長ハ犯則事件ノ調書及其他ノ書類ヲ調査シ犯則ノ心証ヲ得タルトキハ其犯則ト認ムル理由ヲ明示シ罰金ニ該ル者ハ其罰金ニ相当スル金額没収ニ該ル者ハ没収スヘキ物品並ニ第十六条ノ費用ヲ其署ニ納付スヘキ通告書ヲ作リ之ヲ本人ニ送達スヘシ
前項ノ処分ハ罰金及没収品ノ価額合計三十円ヲ超エサルトキニ限リ間税分署長之ヲ為シ其他ハ間税署長之ヲ為スモノトス
第十二条 犯則者前条ノ通告書ヲ受ケ通告ノ旨ヲ承諾スルトキハ七日内ニ履行スヘシ此期限ヲ過キ履行セサル者ハ間税署長若ハ分署長ヨリ管轄裁判所ニ告発スヘシ
第十三条 犯則者通告ノ旨ヲ履行シタルトキハ同事件ニ付刑事又ハ民事ノ訴ヲ為スコトヲ得ス
第十四条 間税官吏犯則事件ヲ覚知シタル場合ニ於テ本人ノ住所分明ナラス若ハ犯則事件禁錮又ハ拘留ニ該ルモノト認ムルトキ又罰金若ハ税金ヲ完納スルノ資力ナキ者ト認ムルトキハ該事件ヲ管轄裁判所ニ告発スヘシ
犯則者犯則物件ヲ遺留シテ逃走シタルトキハ間税官吏其物件ヲ差押ヘテ調書ヲ作リ告発ノ手続ヲ為スヘシ
第十五条 間税官吏ハ左ノ場合ニ於テハ犯則者ヲ管轄裁判所ニ引致シ其事件ヲ告発スヘシ
一 犯則者逃走ノ恐アルトキ
二 証憑堙滅ノ恐アルトキ
第三章 雑則
第十六条 書類送達費及差押物件ニシテ本人ニ還付スヘキモノヽ運搬保管若ハ保存ニ要スル費用ハ犯則者之ヲ負担スヘシ
第十七条 間税署長若ハ間税分署長ハ差押物件腐敗其他損失ノ虞アルトキハ本人ノ承諾ヲ得テ之ヲ公売シ其代金ヲ供託スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ其差押物件還付ノ申渡ヲ為シタルトキハ其代金ヲ還付スヘシ
第十八条 此法律ニ於テ間税官吏トハ間接国税ノ検査若ハ徴収ニ従事スル官吏ヲ謂フ
第十九条 間税官吏ハ直接ト間接トヲ問ハス没収物件又ハ差押物件ヲ買受クルコトヲ得ス
第二十条 此法律ハ明治二十四年一月一日ヨリ施行ス但北海道沖縄県及東京府管轄小笠原島伊豆七島ニハ当分之ヲ施行セス