朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル河川法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年四月七日
內閣總理大臣 侯爵 伊藤博文
內務大臣 芳川顯正
法律第七十一號
河川法
第一章
總則
第二章
河川ノ管理
第三章
河川ノ使用ニ關スル制限竝警察
第四章
河川ニ關スル費用ノ負擔、土地所有者ノ權利義務竝河川ノ管理ヨリ生スル收入等
第五章
監督及强制手續
第六章
訴願及訴訟
第七章
附則
河川法
第一章 總則
第一條 此ノ法律ニ於テ河川ト稱スルハ主務大臣ニ於テ公共ノ利害ニ重大ノ關係アリト認定シタル河川ヲ謂フ
第二條 河川ノ區域ハ地方行政廳ノ認定スル所ニ依ル
流水河川ノ區域外ニ出テテ永期ニ涉ルヘキモノト認ムルトキハ地方行政廳ハ其ノ河川ノ區域ヲ變更スヘシ
第三條 河川竝其ノ敷地若ハ流水ハ私權ノ目的トナルコトヲ得ス
第四條 地方行政廳ニ於テ河川ノ支川若ハ派川ト認定シタルモノハ命令ヲ以テ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外總テ河川ニ關スル規程ニ從フ
堤防、護岸、水制、河津、曳船道其ノ他流水ニ因リテ生スル公利ヲ增進シ又ハ公害ヲ除却若ハ輕減スル爲ニ設ケタルモノニシテ地方行政廳ニ於テ河川ノ附屬物ト認定シタルモノハ命令ヲ以テ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外總テ河川ニ關スル規程ニ從フ
第五條 此ノ法律ニ規定シタル事項ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ河川ニ流入シ若ハ河川ヨリ分岐スル水流若ハ水面又ハ第一條ノ認定ヲ受ケサル河川ニ準用スルコトヲ得
第二章 河川ノ管理
第六條 河川ハ地方行政廳ニ於テ其ノ管內ニ係ル部分ヲ管理スヘシ但シ他府縣ノ利益ヲ保全スル爲必要ト認ムルトキハ主務大臣ニ於テ代テ之ヲ管理シ又ハ其ノ維持修繕ヲナスコトヲ得
第七條 地方行政廳ハ河川ニ關スル工事ヲ施行シ其ノ維持ヲナスノ義務アルモノトス但シ第四十三條ニ依リ通航料徵收ノ許可ヲ得タル者ヲシテ其ノ義務ノ一部ヲ負擔セシムルコトヲ妨ケス
第八條 河川ニ關スル工事ニシテ利害ノ關係スル所一府縣ノ區域ニ止マラサルトキ又ハ其ノ工事至難ナルトキ若ハ其ノ工費至大ナルトキ又ハ河川ノ全部若ハ一部ニ付キ大體ニ涉ル一定ノ計畫ニ基キテ施行スル改良工事ナルトキハ主務大臣ハ自ラ其ノ工事ヲ施行シ又ハ其ノ工事ニ因リ特ニ利益ヲ受クル公共團體ノ行政廳ニ命シテ之ヲ施行セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ此ノ法律ニ依リテ地方行政廳ノ有スル職權ヲ直接施行スルコトヲ得
第九條 地方行政廳ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ其ノ管內ノ下級行政廳ヲシテ河川ニ關スル工事ノ一部ヲ施行セシメ又ハ其ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
第十條 河川ノ附屬物ニシテ兼ネテ他ノ工作物ノ效用ヲナスモノアルトキハ地方行政廳ハ其ノ工作物ノ管理者ヲシテ其ノ附屬物ニ關スル工事ヲ施行シ又ハ其ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
他ノ工作物ニシテ兼ネテ河川ノ附屬物ノ效用ヲナスモノアルトキハ地方行政廳ニ於テ其ノ工作物ニ關スル工事ヲ施行シ又ハ其ノ維持ヲナスコトヲ得
第十一條 他ノ工事ニ因リ河川ニ關スル工事ノ必要ヲ生シタルトキハ地方行政廳ハ其ノ工事ノ施行者ヲシテ河川ニ關スル工事ヲ施行セシムルコトヲ得
河川ニ關スル工事ニ因リ必要ヲ生シタル他ノ工事又ハ河川ニ關スル工事ヲ施行スル爲ニ必要ナル他ノ工事ハ地方行政廳ニ於テ併セテ之ヲ施行スルコトヲ得
第十二條 行政廳ハ河川ニ關スル工事ノ請負ヲナスコトヲ得ス
第十三條 河川ニ關スル工事ノ請負ノ制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四條 地方行政廳ハ其ノ管理ニ屬スル河川ノ臺帳ヲ調製シ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
臺帳ノ調製、保管、記載事項等ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
主務大臣ノ認可ヲ經タル臺帳ニ記載セル事項ニ關シテハ反對ノ立證ヲ許サス但シ臺帳調製後其ノ事實ノ變更シタルコトヲ證スルヲ妨ケス
第十五條 地方行政廳ニ於テ河川管理ノ爲特ニ吏員ヲ置クコトヲ要スルトキハ其ノ定員、給料、手當、職務權限竝其ノ費用ノ負擔者等ハ命令ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得
第三章 河川ノ使用ニ關スル制限竝警察
第十六條 舟筏ノ通航及流木ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七條 左ニ記載スル工作物ヲ新築、改築若ハ除却セムトスル者ハ地方行政廳ノ許可ヲ受クヘシ
一 流水ヲ停滯セシメ若ハ引用シ又ハ流水ノ害ヲ豫防スル爲ニ施設スル工作物
二 河川ニ注水スル爲ニ施設スル工作物
三 河川ノ區域內ニ於テ敷地ニ固著シテ施設スル工作物又ハ河川ニ沿ヒ若ハ河川ヲ橫過シ若ハ其ノ床下ニ於テ施設スル工作物
第十八條 河川ノ敷地若ハ流水ヲ占用セムトスル者ハ地方行政廳ノ許可ヲ受クヘシ
第十九條 流水ノ方向、淸潔、分量、幅員若ハ深淺又ハ敷地ノ現狀等ニ影響ヲ及ホスノ虞アル工事、營業其ノ他ノ行爲ハ命令ヲ以テ之ヲ禁止若ハ制限シ又ハ地方行政廳ノ許可ヲ受ケシムルコトヲ得
第二十條 左ノ場合ニ於テ地方行政廳ハ許可ヲ取消シ若ハ其ノ效力ヲ停止シ若ハ其ノ條件ヲ變更シ又ハ旣ニ施設シタル工作物ヲ改築若ハ除却セシメ又ハ原形ノ囘復ヲ命シ又ハ許可セラレタル事項ニ因リテ生スル危害ヲ豫防スル爲ニ必要ナル設備ヲナサシムルコトヲ得
一 工事施行ノ方法若ハ施行後ニ於ケル管理ノ方法公安ヲ害スルノ虞アルトキ
二 河川ノ狀況ノ變更其ノ他許可ノ後ニ起リタル事實ニ因リ必要ヲ生スルトキ
三 河川ニ關スル工事ヲ施行シ又ハ許可ヲ與ヘタルモノノ外ニ工事、使用若ハ占用ヲ許可スル爲ニ必要ナルトキ
四 此ノ法律ニ基キテ發スル命令ノ規程ニ依リ必要ヲ生スルトキ
五 法律命令ニ違背シタルトキ
六 公益ノ爲必要アルトキ
第二十一條 本章ノ規程ニ依リ與ヘタル許可ニ依リテ生スル權利義務ハ地方行政廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ他人ニ移スコトヲ得ス
第二十二條 法律、命令若ハ許可ノ條件ニ違背シタル者ハ行政廳ノ命スル所ニ從ヒ其ノ違背ニ因リテ生シタル事實ヲ更正シ且其ノ因リテ生スル損害ヲ豫防スル爲ニ必要ナル設備ヲナスヘシ
第二十三條 洪水ノ危險切迫ナルトキハ地方行政廳又ハ其ノ委任ヲ受ケタル官吏ハ其ノ現場ニ於テ直ニ防禦ノ爲ニ必要ナル土地ヲ使用シ土砂、竹木其ノ他ノ材料、車馬其ノ他ノ運搬具及器具等ヲ使用若ハ徵收シ又ハ其ノ現場ニ在ル者ヲ使役シ又ハ家屋其ノ他ノ障害物ヲ破毀スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ地方行政廳又ハ其ノ委任ヲ受ケタル官吏ハ其ノ管內ニ於テ夫役ヲ命シ又ハ下級公共團體ニ命シテ土地、材料、運搬具、器具及夫役ヲ供セシメ又ハ市町村長其ノ他ノ市町村吏員等ヲ指揮シテ必要ナル處分ヲナサシムルコトヲ得
地方行政廳ハ其ノ管內ノ下級公共團體ニ命シテ豫メ洪水防禦ノ爲必要ナル準備ヲナサシムルコトヲ得
第四章 河川ニ關スル費用ノ負擔、土地所有者ノ權利義務竝河川ノ管理ヨリ生スル收入等
第二十四條 河川ニ關スル費用ハ府縣ノ負擔トス
主務大臣ニ於テ第六條但書ニ依リ河川ノ管理若ハ其ノ維持修繕ヲナス場合ニ於テハ國庫ニ於テ其ノ費用ノ全部若ハ一部ヲ負擔スルコトヲ得
第一項費用ノ範圍ハ主務大臣ノ定ムル所ニ依ル
第二十五條 通航料徵收ノ許可ヲ受ケテ施設シタル工作物ノ爲ニ要スル費用ハ其ノ徵收期間許可ヲ受ケタル者ノ負擔トス
第二十六條 河川ノ改良工事ニ要スル豫算費用ニシテ其ノ府縣內ノ地租額十分ノ一ヲ超過スルトキハ其ノ超過額ノ三分ノ二以內ヲ國庫ヨリ補助スルコトヲ得但シ地租額ヲ超過スル部分ニ付テハ其ノ超過額ノ四分ノ三以內ヲ補助スルコトヲ得
災害ニ因リ必要ヲ生シタル工事ニ要スル費用ハ前項ニ依ルノ限ニ在ラス
工事費用精算ノ上豫算ヨリ減スルコトアルモ旣ニ與ヘタル補助金ハ之ヲ還付セシメサルコトヲ得
第二十七條 第八條ニ依リ主務大臣ニ於テ工事ヲ施行スル場合ニ於テハ府縣ハ前條ノ規程ニ準シテ其ノ豫算費用ヲ負擔シ國庫ハ其ノ殘額ヲ負擔スヘシ
前項ノ場合ニ於テ府縣ノ負擔スヘキ金額竝不足額ノ補充及殘餘金ノ處分等ハ主務大臣之ヲ定ム
第二十八條 第八條ニ依リ主務大臣ニ於テ工事ヲ施行スル場合ニ於テハ府縣ハ其ノ負擔スヘキ豫算金額ヲ國庫ニ納付スヘシ
第二十九條 地方行政廳ハ其ノ管內ノ下級公共團體ヲシテ河川ニ關スル費用ノ一部ヲ負擔セシムルコトヲ得
第三十條 河川ノ附屬物ニシテ兼ネテ他ノ工作物ノ效用ヲナスモノアルトキハ其ノ工作物ノ管理者タル行政廳ノ直接ニ管轄スル公共團體若ハ管理者タル私人ヲシテ其ノ附屬物ニ關スル費用ノ全部若ハ一部ヲ負擔セシムルコトヲ得
第三十一條 營業ノ結果ニ因リ特ニ河川ニ關スル工事ノ必要ヲ生セシムルモノアルトキハ其ノ營業者ヲシテ其ノ費用ノ一部ヲ負擔セシムルコトヲ得
第三十二條 河川ニ關スル工事ニシテ他ノ工事ニ因リ必要ヲ生シタルモノナルトキハ其ノ費用ハ工事ノ必要ヲ生シタル程度ニ於テ其ノ原因タル工事ノ費用負擔者ヲシテ之ヲ負擔セシムルコトヲ得
河川ニ關スル工事ニ因リテ必要ヲ生シタル他ノ工事ノ費用ハ其ノ工事ノ管理者タル行政廳ノ直接ニ管轄スル公共團體若ハ管理者タル私人ノ負擔トス但シ命令ノ定ムル所ニ從ヒ河川ニ關スル費用ノ內ヨリ其ノ費用ノ全部若ハ一部ヲ補助スルコトヲ妨ケス
第三十三條 河川ニ關スル工事ニシテ他ノ府縣若ハ他府縣內ノ公共團體ニ於テ著シク利益ヲ受クルモノナルトキ又ハ河川ニ關スル工事若ハ其ノ維持ニシテ主トシテ他府縣內ノ住民ノ河川ノ使用ニ因リ必要ヲ生スルモノナルトキハ其ノ府縣若ハ其ノ府縣內ノ公共團體ヲシテ其ノ費用ノ一部ヲ負擔セシムルコトヲ得
第三十四條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ行政廳ノ命シタル事項ヲ遵守スル爲ニ要スル費用ハ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外其ノ命ヲ受ケタル者ノ負擔トス
第五十二條ニ依リ主務大臣若ハ地方長官ニ於テ義務者ノ履行スヘキ事項ヲ自ラ執行シ若ハ第三者ヲシテ執行セシメタルカ爲ニ要シタル費用ハ其ノ義務者ヨリ之ヲ追徵スルコトヲ得
第三十五條 公共團體ハ河川ニ關スル工事若ハ費用ノ爲寄付ヲナスコトヲ得
第三十六條 公共團體ハ河川ニ關スル費用ニ付キ私人若ハ其ノ區域內ノ下級公共團體ニ補助ヲナスコトヲ得
第三十七條 公共團體ハ河川ニ關スル費用ニ付キ利害關係ノ厚薄ヲ標準トシテ其ノ區域內ニ於テ不均一ノ賦課ヲナスコトヲ得
第三十八條 河川ニ關スル工事ノ爲必要ナルトキハ地方行政廳ハ管內ノ土地若ハ森林ノ所有者ニ命シ補償金トシテ時價相當ノ金額ヲ下付シテ其ノ所有ニ係ル土石、砂礫、芝草、竹木及運搬具ヲ供給セシムルコトヲ得但シ時價ニ關シテ協議整ハサルトキ又ハ所有者不明ナルトキ若ハ其ノ所在不明ナルトキハ地方行政廳ハ相當ト認ムル金額ヲ供託シテ本條ノ供給ヲナサシムルコトヲ得
第三十九條 河川ニ關スル工事ノ爲メ必要ナルトキハ地方行政廳ハ其ノ堤外地ニ立入リ又ハ其ノ土地ヲ材料置場等ニ供シ又ハ已ムヲ得サルトキハ其ノ土地ニ現在スル建設物其ノ他ノ障害物ヲ除却スルコトヲ得
堤外地ニ非サル沿岸若ハ沿堤土地ニ關シテハ其ノ地先ニ施行スヘキ工事ノ爲必要ナル場合ニ限リ前項ヲ適用スルコトヲ得
前二項ノ適用ニ依リ損害ヲ受ケタル所有者ハ使用若ハ除却ノ後三箇月以內ニ府縣ニ對シ補償金ヲ請求スルコトヲ得
第四十條 第二十三條第一項ノ處分ニ因リ著シク損害ヲ受ケタル者アルトキハ地方行政廳ハ其ノ管內ノ市町村、町村組合若ハ水利組合ニ命シテ其ノ物件ノ價額ヲ補償セシムルコトヲ得其ノ價額ハ行政廳之ヲ定ム
前項補償ノ手續ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十一條 法律、命令若ハ許可認可ノ條件ニ違背シタル工事、設備、使用、占用若ハ工作物ノ管理ニ因リ損害ヲ受ケシメタル者ハ其ノ損害ヲ賠償スヘシ
前項ニ依リ行政廳ニ於テ下付スヘキ賠償金ハ其ノ行政廳ノ直接ニ管轄スル公共團體ノ負擔トス
第四十二條 流水ヲ停滯シ若ハ引用スル爲ノ工作物ノ施設其ノ他河川ノ使用若ハ占用ヲ許可スルトキハ其ノ管理者、使用者若ハ占用者ヨリ使用料若ハ占用料ヲ徵收スルコトヲ得
本條ノ使用料若ハ占用料其ノ他河川ヨリ生スル收入ハ府縣ニ歸ス
第四十三條 地方行政廳ハ私人若ハ其ノ管內下級公共團體ニ於テ舟筏ノ便ヲ謀ル爲新築若ハ改築工事ヲ施行スル場合ニ限リ舟筏ヨリ通航料ヲ徵收スルコトヲ許可スルコトヲ得但シ其ノ年限ハ當初許可シタル時ヨリ三十箇年ヲ超過スルコトヲ得ス
通航料ノ徵收ヲ停止スヘキ場合ニ於ケル補償其ノ他通航料ノ制限等ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十四條 河川敷地ノ公用ヲ廢シタルトキハ地方行政廳ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ之ヲ處分スヘシ但シ此ノ法律施行前私人ノ所有權ヲ認メタル證跡アルトキハ其ノ私人ニ下付スヘシ
第四十五條 河川附近ノ土地若ハ工作物ノ所有者ハ命令ノ規程ニ依リ行政廳ノ命スル所ニ從ヒ其ノ土地ノ缺壞若ハ土砂流出ヲ豫防スル爲又ハ其ノ工作物ノ河川ニ及ホス損害ヲ豫防スル爲ニ必要ナル設備ノ全部若ハ一部ヲナシ又ハ其ノ費用ノ全部若ハ一部ヲ負擔スルノ義務ヲ有ス
第四十六條 河川ニ土砂ヲ流出スルノ虞アル土地ノ所有者ハ行政廳ニ於テ其ノ土地ニ竹木芝草ヲ植附ケ若ハ培養シ又ハ其ノ他土砂扞止ノ設備ヲナシ若ハ之ヲ維持スルコトヲ拒ムコトヲ得ス
前項ニ依リ植附タル竹木芝草ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ其ノ土地所有者ヲシテ收益ノ全部若ハ一部ヲ取得シテ之ヲ培養スルノ義務ヲ負ハシムルコトヲ得
土砂扞止ノ爲ニ要スル土地ハ行政廳ニ於テ土地收用法ニ依リ之ヲ收用スルコトヲ得
第一項土地ノ區域ハ地方行政廳ニ於テ豫メ之ヲ吿示スヘシ
第四十七條 此ノ法律ヲ以テ定メタルモノノ外尙河川附近ノ土地、家屋若ハ其ノ他ノ工作物ニ關シ河川ノ公利ヲ增進シ又ハ公害ヲ除却若ハ輕減スル爲ニ必要ナル制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十八條 河川若ハ河川附近ノ土地ニ關シテ規定シタル事項ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ河川ニ關スル工事ニ因リ新ニ河川トナルヘキ區域若ハ其ノ附近ノ土地ニ之ヲ準用スルコトヲ得
第五章 監督及强制手續
第四十九條 主務大臣ハ河川ニ關スル行政ヲ監督ス
地方長官ヲシテ第一次ニ於テ監督セシムヘキ事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
此ノ法律ニ規定シタル事項ニシテ主務大臣若ハ地方長官ノ認可ヲ要スルモノハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十五條及第三十六條ニ規定シタル事項竝此ノ法律ニ依リ行政廳ニ付與シタル職權ニ關シテハ命令ヲ以テ制限ヲ設クルコトヲ得
第五十條 他ノ府縣若ハ他ノ府縣內ノ公共團體ヲシテ費用ヲ負擔セシムル爲ニ必要ナル手續ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十一條 主務大臣ハ地方行政廳ニ命シテ河川ニ關スル工事ヲ施行セシメ又ハ河川ノ區域及其ノ附屬物ノ認定若ハ臺帳ノ更正ヲナサシメ其ノ他此ノ法律ニ規定シタル地方行政廳ノ職權ヲ施行セシムルコトヲ得
第五十二條 義務者ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依ル義務ヲ履行セス若ハ之ヲ履行スルモ必要ノ期限內ニ終了スルノ見込ナキトキ又ハ其ノ履行ノ方法宜ヲ得サルトキハ主務大臣若ハ地方長官ハ自ラ之ヲ執行シ又ハ第三者ヲシテ之ヲ執行セシムルコトヲ得
第五十三條 私人ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依ル義務ヲ怠ルトキハ主務大臣若ハ地方長官ハ一定ノ期限ヲ示シ若期限內ニ履行セサルトキ若ハ之ヲ履行スルモ不充分ナルトキハ千圓以內ニ於テ指定シタル過料ニ處スルコトヲ豫吿シテ其ノ履行ヲ命スルコトヲ得
第五十四條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ關シ納付セシメタル保證金ハ行政廳ニ於テ直ニ其ノ納付ノ目的又ハ過料ニ充用スルコトヲ得
前項保證金ハ他ノ債權ノ爲ニ差押フルコトヲ得ス
第五十五條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ私人ニ於テ負擔スヘキ費用及過料ハ此ノ法律ニ於テ特ニ民事訴訟ヲ許シタル場合ヲ除クノ外行政廳ニ於テ國稅滯納處分法ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得
前項ノ費用及過料ニ付キ行政廳ハ國稅ニ次キ先取特權ヲ有スルモノトス
此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ公共團體ニ於テ負擔スヘキ費用ニ關シテハ此ノ法律ニ於テ特ニ民事訴訟ヲ許シタル場合ヲ除クノ外主務大臣若ハ地方長官ハ必要ナル場合ニ於テハ金額ヲ定メテ之ヲ其ノ豫算表ニ揭ケ其ノ他必要ナル處分ヲ指揮シ直ニ其ノ金額ヲ支出セシムルコトヲ得
第五十六條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ行政廳ニ付與シタル職權ハ行政處分ニ依リ之ヲ强制スルコトヲ得
行政廳ノ許可若ハ認可ニ附シタル條件ニ關シテモ亦本條及前條ヲ準用ス
第五十七條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ於テ規定シタル事項ニ關シテハ河川視察ノ職務ヲ有スル官吏ヲシテ命令ノ定ムル所ニ從ヒ警察官ノ職權ノ全部若ハ一部ヲ執行セシムルコトヲ得
第五十八條 此ノ法律ニ規定シタル私人ノ義務ニ關シテハ命令ヲ以テ二百圓以內ノ罰金若ハ一年以下ノ禁錮ノ罰則ヲ設クルコトヲ得
第六章 訴願及訴訟
第五十九條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ依リ主務大臣若ハ地方行政廳ノナシタル處分ニ對シテ不服アル私人若ハ公共團體ハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得
此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令若ハ地方行政廳ノ委任ニ依リ下級行政廳ノナシタル處分ニ對シテ不服アル私人若ハ公共團體ハ地方長官ニ訴願シ地方長官ノ裁決ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得
此ノ法律ニ依リ行政訴訟ノ提起ヲ許シタル場合ニ於テハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得ス
第六十條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ關シ行政廳ノ違法處分ニ依リ權利ヲ毀損セラレタリトスル私人若ハ公共團體ハ前條ニ依リ訴願ノ裁決ヲ經タル後行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ主務大臣若ハ地方行政廳ノ處分ニ對シテハ直ニ之ヲ提起スルコトヲ得
第六十一條 第四十一條第一項ニ依リ損害賠償ヲ請求スル私人若ハ公共團體ハ損害ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以內ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
法律、命令若ハ許可認可ノ條件ニ違背シタルヤ否ヤニ付キ爭アルトキハ前數條ノ手續ニ依リ其ノ違背シタリトノ事實確定シタル後ニ非サレハ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス但シ此ノ場合ニ於テハ前項ノ期間ハ確定ノ日ヨリ起算スルモノトス
第六十二條 第三十八條若ハ第三十九條ニ依リ下付スヘキ補償金額ニ對シ不服アルトキハ行政廳ニ於テ補償金額ノ通知ヲナシタル日ヨリ六箇月以內ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ第三十九條ノ場合ニ於テ補償金請求ノ後三箇月以內ニ其ノ金額ノ通知ナキトキハ其ノ期限經過後六箇月以內ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第六十三條 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ關シテハ本章ノ規程ニ依リ特ニ許シタル場合ヲ除クノ外訴願若ハ行政訴訟ヲ提起シ又ハ行政廳ニ對シ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
第七章 附則
第六十四條 此ノ法律ノ全部若ハ一部ヲ施行スヘキ區域及時期ハ主務大臣之ヲ定ム
此ノ法律ヲ施行スル爲ニ必要ナル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十五條 河川ノ臺帳ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ二箇年以內ニ之ヲ調製スヘシ
第六十六條 災害土木費負擔ニ關スル慣例及外國人居留地內ニ於ケル河川ニ關スル慣例ハ此ノ法律ヲ以テ變更スルノ限ニ在ラス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル河川法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年四月七日
内閣総理大臣 侯爵 伊藤博文
内務大臣 芳川顕正
法律第七十一号
河川法
第一章
総則
第二章
河川ノ管理
第三章
河川ノ使用ニ関スル制限並警察
第四章
河川ニ関スル費用ノ負担、土地所有者ノ権利義務並河川ノ管理ヨリ生スル収入等
第五章
監督及強制手続
第六章
訴願及訴訟
第七章
附則
河川法
第一章 総則
第一条 此ノ法律ニ於テ河川ト称スルハ主務大臣ニ於テ公共ノ利害ニ重大ノ関係アリト認定シタル河川ヲ謂フ
第二条 河川ノ区域ハ地方行政庁ノ認定スル所ニ依ル
流水河川ノ区域外ニ出テテ永期ニ渉ルヘキモノト認ムルトキハ地方行政庁ハ其ノ河川ノ区域ヲ変更スヘシ
第三条 河川並其ノ敷地若ハ流水ハ私権ノ目的トナルコトヲ得ス
第四条 地方行政庁ニ於テ河川ノ支川若ハ派川ト認定シタルモノハ命令ヲ以テ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外総テ河川ニ関スル規程ニ従フ
堤防、護岸、水制、河津、曳船道其ノ他流水ニ因リテ生スル公利ヲ増進シ又ハ公害ヲ除却若ハ軽減スル為ニ設ケタルモノニシテ地方行政庁ニ於テ河川ノ附属物ト認定シタルモノハ命令ヲ以テ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外総テ河川ニ関スル規程ニ従フ
第五条 此ノ法律ニ規定シタル事項ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ河川ニ流入シ若ハ河川ヨリ分岐スル水流若ハ水面又ハ第一条ノ認定ヲ受ケサル河川ニ準用スルコトヲ得
第二章 河川ノ管理
第六条 河川ハ地方行政庁ニ於テ其ノ管内ニ係ル部分ヲ管理スヘシ但シ他府県ノ利益ヲ保全スル為必要ト認ムルトキハ主務大臣ニ於テ代テ之ヲ管理シ又ハ其ノ維持修繕ヲナスコトヲ得
第七条 地方行政庁ハ河川ニ関スル工事ヲ施行シ其ノ維持ヲナスノ義務アルモノトス但シ第四十三条ニ依リ通航料徴収ノ許可ヲ得タル者ヲシテ其ノ義務ノ一部ヲ負担セシムルコトヲ妨ケス
第八条 河川ニ関スル工事ニシテ利害ノ関係スル所一府県ノ区域ニ止マラサルトキ又ハ其ノ工事至難ナルトキ若ハ其ノ工費至大ナルトキ又ハ河川ノ全部若ハ一部ニ付キ大体ニ渉ル一定ノ計画ニ基キテ施行スル改良工事ナルトキハ主務大臣ハ自ラ其ノ工事ヲ施行シ又ハ其ノ工事ニ因リ特ニ利益ヲ受クル公共団体ノ行政庁ニ命シテ之ヲ施行セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ此ノ法律ニ依リテ地方行政庁ノ有スル職権ヲ直接施行スルコトヲ得
第九条 地方行政庁ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ其ノ管内ノ下級行政庁ヲシテ河川ニ関スル工事ノ一部ヲ施行セシメ又ハ其ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
第十条 河川ノ附属物ニシテ兼ネテ他ノ工作物ノ効用ヲナスモノアルトキハ地方行政庁ハ其ノ工作物ノ管理者ヲシテ其ノ附属物ニ関スル工事ヲ施行シ又ハ其ノ維持ヲナサシムルコトヲ得
他ノ工作物ニシテ兼ネテ河川ノ附属物ノ効用ヲナスモノアルトキハ地方行政庁ニ於テ其ノ工作物ニ関スル工事ヲ施行シ又ハ其ノ維持ヲナスコトヲ得
第十一条 他ノ工事ニ因リ河川ニ関スル工事ノ必要ヲ生シタルトキハ地方行政庁ハ其ノ工事ノ施行者ヲシテ河川ニ関スル工事ヲ施行セシムルコトヲ得
河川ニ関スル工事ニ因リ必要ヲ生シタル他ノ工事又ハ河川ニ関スル工事ヲ施行スル為ニ必要ナル他ノ工事ハ地方行政庁ニ於テ併セテ之ヲ施行スルコトヲ得
第十二条 行政庁ハ河川ニ関スル工事ノ請負ヲナスコトヲ得ス
第十三条 河川ニ関スル工事ノ請負ノ制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四条 地方行政庁ハ其ノ管理ニ属スル河川ノ台帳ヲ調製シ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
台帳ノ調製、保管、記載事項等ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
主務大臣ノ認可ヲ経タル台帳ニ記載セル事項ニ関シテハ反対ノ立証ヲ許サス但シ台帳調製後其ノ事実ノ変更シタルコトヲ証スルヲ妨ケス
第十五条 地方行政庁ニ於テ河川管理ノ為特ニ吏員ヲ置クコトヲ要スルトキハ其ノ定員、給料、手当、職務権限並其ノ費用ノ負担者等ハ命令ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得
第三章 河川ノ使用ニ関スル制限並警察
第十六条 舟筏ノ通航及流木ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七条 左ニ記載スル工作物ヲ新築、改築若ハ除却セムトスル者ハ地方行政庁ノ許可ヲ受クヘシ
一 流水ヲ停滞セシメ若ハ引用シ又ハ流水ノ害ヲ予防スル為ニ施設スル工作物
二 河川ニ注水スル為ニ施設スル工作物
三 河川ノ区域内ニ於テ敷地ニ固著シテ施設スル工作物又ハ河川ニ沿ヒ若ハ河川ヲ横過シ若ハ其ノ床下ニ於テ施設スル工作物
第十八条 河川ノ敷地若ハ流水ヲ占用セムトスル者ハ地方行政庁ノ許可ヲ受クヘシ
第十九条 流水ノ方向、清潔、分量、幅員若ハ深浅又ハ敷地ノ現状等ニ影響ヲ及ホスノ虞アル工事、営業其ノ他ノ行為ハ命令ヲ以テ之ヲ禁止若ハ制限シ又ハ地方行政庁ノ許可ヲ受ケシムルコトヲ得
第二十条 左ノ場合ニ於テ地方行政庁ハ許可ヲ取消シ若ハ其ノ効力ヲ停止シ若ハ其ノ条件ヲ変更シ又ハ既ニ施設シタル工作物ヲ改築若ハ除却セシメ又ハ原形ノ回復ヲ命シ又ハ許可セラレタル事項ニ因リテ生スル危害ヲ予防スル為ニ必要ナル設備ヲナサシムルコトヲ得
一 工事施行ノ方法若ハ施行後ニ於ケル管理ノ方法公安ヲ害スルノ虞アルトキ
二 河川ノ状況ノ変更其ノ他許可ノ後ニ起リタル事実ニ因リ必要ヲ生スルトキ
三 河川ニ関スル工事ヲ施行シ又ハ許可ヲ与ヘタルモノノ外ニ工事、使用若ハ占用ヲ許可スル為ニ必要ナルトキ
四 此ノ法律ニ基キテ発スル命令ノ規程ニ依リ必要ヲ生スルトキ
五 法律命令ニ違背シタルトキ
六 公益ノ為必要アルトキ
第二十一条 本章ノ規程ニ依リ与ヘタル許可ニ依リテ生スル権利義務ハ地方行政庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ他人ニ移スコトヲ得ス
第二十二条 法律、命令若ハ許可ノ条件ニ違背シタル者ハ行政庁ノ命スル所ニ従ヒ其ノ違背ニ因リテ生シタル事実ヲ更正シ且其ノ因リテ生スル損害ヲ予防スル為ニ必要ナル設備ヲナスヘシ
第二十三条 洪水ノ危険切迫ナルトキハ地方行政庁又ハ其ノ委任ヲ受ケタル官吏ハ其ノ現場ニ於テ直ニ防禦ノ為ニ必要ナル土地ヲ使用シ土砂、竹木其ノ他ノ材料、車馬其ノ他ノ運搬具及器具等ヲ使用若ハ徴収シ又ハ其ノ現場ニ在ル者ヲ使役シ又ハ家屋其ノ他ノ障害物ヲ破毀スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ地方行政庁又ハ其ノ委任ヲ受ケタル官吏ハ其ノ管内ニ於テ夫役ヲ命シ又ハ下級公共団体ニ命シテ土地、材料、運搬具、器具及夫役ヲ供セシメ又ハ市町村長其ノ他ノ市町村吏員等ヲ指揮シテ必要ナル処分ヲナサシムルコトヲ得
地方行政庁ハ其ノ管内ノ下級公共団体ニ命シテ予メ洪水防禦ノ為必要ナル準備ヲナサシムルコトヲ得
第四章 河川ニ関スル費用ノ負担、土地所有者ノ権利義務並河川ノ管理ヨリ生スル収入等
第二十四条 河川ニ関スル費用ハ府県ノ負担トス
主務大臣ニ於テ第六条但書ニ依リ河川ノ管理若ハ其ノ維持修繕ヲナス場合ニ於テハ国庫ニ於テ其ノ費用ノ全部若ハ一部ヲ負担スルコトヲ得
第一項費用ノ範囲ハ主務大臣ノ定ムル所ニ依ル
第二十五条 通航料徴収ノ許可ヲ受ケテ施設シタル工作物ノ為ニ要スル費用ハ其ノ徴収期間許可ヲ受ケタル者ノ負担トス
第二十六条 河川ノ改良工事ニ要スル予算費用ニシテ其ノ府県内ノ地租額十分ノ一ヲ超過スルトキハ其ノ超過額ノ三分ノ二以内ヲ国庫ヨリ補助スルコトヲ得但シ地租額ヲ超過スル部分ニ付テハ其ノ超過額ノ四分ノ三以内ヲ補助スルコトヲ得
災害ニ因リ必要ヲ生シタル工事ニ要スル費用ハ前項ニ依ルノ限ニ在ラス
工事費用精算ノ上予算ヨリ減スルコトアルモ既ニ与ヘタル補助金ハ之ヲ還付セシメサルコトヲ得
第二十七条 第八条ニ依リ主務大臣ニ於テ工事ヲ施行スル場合ニ於テハ府県ハ前条ノ規程ニ準シテ其ノ予算費用ヲ負担シ国庫ハ其ノ残額ヲ負担スヘシ
前項ノ場合ニ於テ府県ノ負担スヘキ金額並不足額ノ補充及残余金ノ処分等ハ主務大臣之ヲ定ム
第二十八条 第八条ニ依リ主務大臣ニ於テ工事ヲ施行スル場合ニ於テハ府県ハ其ノ負担スヘキ予算金額ヲ国庫ニ納付スヘシ
第二十九条 地方行政庁ハ其ノ管内ノ下級公共団体ヲシテ河川ニ関スル費用ノ一部ヲ負担セシムルコトヲ得
第三十条 河川ノ附属物ニシテ兼ネテ他ノ工作物ノ効用ヲナスモノアルトキハ其ノ工作物ノ管理者タル行政庁ノ直接ニ管轄スル公共団体若ハ管理者タル私人ヲシテ其ノ附属物ニ関スル費用ノ全部若ハ一部ヲ負担セシムルコトヲ得
第三十一条 営業ノ結果ニ因リ特ニ河川ニ関スル工事ノ必要ヲ生セシムルモノアルトキハ其ノ営業者ヲシテ其ノ費用ノ一部ヲ負担セシムルコトヲ得
第三十二条 河川ニ関スル工事ニシテ他ノ工事ニ因リ必要ヲ生シタルモノナルトキハ其ノ費用ハ工事ノ必要ヲ生シタル程度ニ於テ其ノ原因タル工事ノ費用負担者ヲシテ之ヲ負担セシムルコトヲ得
河川ニ関スル工事ニ因リテ必要ヲ生シタル他ノ工事ノ費用ハ其ノ工事ノ管理者タル行政庁ノ直接ニ管轄スル公共団体若ハ管理者タル私人ノ負担トス但シ命令ノ定ムル所ニ従ヒ河川ニ関スル費用ノ内ヨリ其ノ費用ノ全部若ハ一部ヲ補助スルコトヲ妨ケス
第三十三条 河川ニ関スル工事ニシテ他ノ府県若ハ他府県内ノ公共団体ニ於テ著シク利益ヲ受クルモノナルトキ又ハ河川ニ関スル工事若ハ其ノ維持ニシテ主トシテ他府県内ノ住民ノ河川ノ使用ニ因リ必要ヲ生スルモノナルトキハ其ノ府県若ハ其ノ府県内ノ公共団体ヲシテ其ノ費用ノ一部ヲ負担セシムルコトヲ得
第三十四条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ行政庁ノ命シタル事項ヲ遵守スル為ニ要スル費用ハ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外其ノ命ヲ受ケタル者ノ負担トス
第五十二条ニ依リ主務大臣若ハ地方長官ニ於テ義務者ノ履行スヘキ事項ヲ自ラ執行シ若ハ第三者ヲシテ執行セシメタルカ為ニ要シタル費用ハ其ノ義務者ヨリ之ヲ追徴スルコトヲ得
第三十五条 公共団体ハ河川ニ関スル工事若ハ費用ノ為寄付ヲナスコトヲ得
第三十六条 公共団体ハ河川ニ関スル費用ニ付キ私人若ハ其ノ区域内ノ下級公共団体ニ補助ヲナスコトヲ得
第三十七条 公共団体ハ河川ニ関スル費用ニ付キ利害関係ノ厚薄ヲ標準トシテ其ノ区域内ニ於テ不均一ノ賦課ヲナスコトヲ得
第三十八条 河川ニ関スル工事ノ為必要ナルトキハ地方行政庁ハ管内ノ土地若ハ森林ノ所有者ニ命シ補償金トシテ時価相当ノ金額ヲ下付シテ其ノ所有ニ係ル土石、砂礫、芝草、竹木及運搬具ヲ供給セシムルコトヲ得但シ時価ニ関シテ協議整ハサルトキ又ハ所有者不明ナルトキ若ハ其ノ所在不明ナルトキハ地方行政庁ハ相当ト認ムル金額ヲ供託シテ本条ノ供給ヲナサシムルコトヲ得
第三十九条 河川ニ関スル工事ノ為メ必要ナルトキハ地方行政庁ハ其ノ堤外地ニ立入リ又ハ其ノ土地ヲ材料置場等ニ供シ又ハ已ムヲ得サルトキハ其ノ土地ニ現在スル建設物其ノ他ノ障害物ヲ除却スルコトヲ得
堤外地ニ非サル沿岸若ハ沿堤土地ニ関シテハ其ノ地先ニ施行スヘキ工事ノ為必要ナル場合ニ限リ前項ヲ適用スルコトヲ得
前二項ノ適用ニ依リ損害ヲ受ケタル所有者ハ使用若ハ除却ノ後三箇月以内ニ府県ニ対シ補償金ヲ請求スルコトヲ得
第四十条 第二十三条第一項ノ処分ニ因リ著シク損害ヲ受ケタル者アルトキハ地方行政庁ハ其ノ管内ノ市町村、町村組合若ハ水利組合ニ命シテ其ノ物件ノ価額ヲ補償セシムルコトヲ得其ノ価額ハ行政庁之ヲ定ム
前項補償ノ手続ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十一条 法律、命令若ハ許可認可ノ条件ニ違背シタル工事、設備、使用、占用若ハ工作物ノ管理ニ因リ損害ヲ受ケシメタル者ハ其ノ損害ヲ賠償スヘシ
前項ニ依リ行政庁ニ於テ下付スヘキ賠償金ハ其ノ行政庁ノ直接ニ管轄スル公共団体ノ負担トス
第四十二条 流水ヲ停滞シ若ハ引用スル為ノ工作物ノ施設其ノ他河川ノ使用若ハ占用ヲ許可スルトキハ其ノ管理者、使用者若ハ占用者ヨリ使用料若ハ占用料ヲ徴収スルコトヲ得
本条ノ使用料若ハ占用料其ノ他河川ヨリ生スル収入ハ府県ニ帰ス
第四十三条 地方行政庁ハ私人若ハ其ノ管内下級公共団体ニ於テ舟筏ノ便ヲ謀ル為新築若ハ改築工事ヲ施行スル場合ニ限リ舟筏ヨリ通航料ヲ徴収スルコトヲ許可スルコトヲ得但シ其ノ年限ハ当初許可シタル時ヨリ三十箇年ヲ超過スルコトヲ得ス
通航料ノ徴収ヲ停止スヘキ場合ニ於ケル補償其ノ他通航料ノ制限等ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十四条 河川敷地ノ公用ヲ廃シタルトキハ地方行政庁ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ之ヲ処分スヘシ但シ此ノ法律施行前私人ノ所有権ヲ認メタル証跡アルトキハ其ノ私人ニ下付スヘシ
第四十五条 河川附近ノ土地若ハ工作物ノ所有者ハ命令ノ規程ニ依リ行政庁ノ命スル所ニ従ヒ其ノ土地ノ欠壊若ハ土砂流出ヲ予防スル為又ハ其ノ工作物ノ河川ニ及ホス損害ヲ予防スル為ニ必要ナル設備ノ全部若ハ一部ヲナシ又ハ其ノ費用ノ全部若ハ一部ヲ負担スルノ義務ヲ有ス
第四十六条 河川ニ土砂ヲ流出スルノ虞アル土地ノ所有者ハ行政庁ニ於テ其ノ土地ニ竹木芝草ヲ植附ケ若ハ培養シ又ハ其ノ他土砂扞止ノ設備ヲナシ若ハ之ヲ維持スルコトヲ拒ムコトヲ得ス
前項ニ依リ植附タル竹木芝草ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ其ノ土地所有者ヲシテ収益ノ全部若ハ一部ヲ取得シテ之ヲ培養スルノ義務ヲ負ハシムルコトヲ得
土砂扞止ノ為ニ要スル土地ハ行政庁ニ於テ土地収用法ニ依リ之ヲ収用スルコトヲ得
第一項土地ノ区域ハ地方行政庁ニ於テ予メ之ヲ告示スヘシ
第四十七条 此ノ法律ヲ以テ定メタルモノノ外尚河川附近ノ土地、家屋若ハ其ノ他ノ工作物ニ関シ河川ノ公利ヲ増進シ又ハ公害ヲ除却若ハ軽減スル為ニ必要ナル制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十八条 河川若ハ河川附近ノ土地ニ関シテ規定シタル事項ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ河川ニ関スル工事ニ因リ新ニ河川トナルヘキ区域若ハ其ノ附近ノ土地ニ之ヲ準用スルコトヲ得
第五章 監督及強制手続
第四十九条 主務大臣ハ河川ニ関スル行政ヲ監督ス
地方長官ヲシテ第一次ニ於テ監督セシムヘキ事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
此ノ法律ニ規定シタル事項ニシテ主務大臣若ハ地方長官ノ認可ヲ要スルモノハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十五条及第三十六条ニ規定シタル事項並此ノ法律ニ依リ行政庁ニ付与シタル職権ニ関シテハ命令ヲ以テ制限ヲ設クルコトヲ得
第五十条 他ノ府県若ハ他ノ府県内ノ公共団体ヲシテ費用ヲ負担セシムル為ニ必要ナル手続ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十一条 主務大臣ハ地方行政庁ニ命シテ河川ニ関スル工事ヲ施行セシメ又ハ河川ノ区域及其ノ附属物ノ認定若ハ台帳ノ更正ヲナサシメ其ノ他此ノ法律ニ規定シタル地方行政庁ノ職権ヲ施行セシムルコトヲ得
第五十二条 義務者ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依ル義務ヲ履行セス若ハ之ヲ履行スルモ必要ノ期限内ニ終了スルノ見込ナキトキ又ハ其ノ履行ノ方法宜ヲ得サルトキハ主務大臣若ハ地方長官ハ自ラ之ヲ執行シ又ハ第三者ヲシテ之ヲ執行セシムルコトヲ得
第五十三条 私人ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依ル義務ヲ怠ルトキハ主務大臣若ハ地方長官ハ一定ノ期限ヲ示シ若期限内ニ履行セサルトキ若ハ之ヲ履行スルモ不充分ナルトキハ千円以内ニ於テ指定シタル過料ニ処スルコトヲ予告シテ其ノ履行ヲ命スルコトヲ得
第五十四条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ関シ納付セシメタル保証金ハ行政庁ニ於テ直ニ其ノ納付ノ目的又ハ過料ニ充用スルコトヲ得
前項保証金ハ他ノ債権ノ為ニ差押フルコトヲ得ス
第五十五条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ私人ニ於テ負担スヘキ費用及過料ハ此ノ法律ニ於テ特ニ民事訴訟ヲ許シタル場合ヲ除クノ外行政庁ニ於テ国税滞納処分法ニ依リ之ヲ徴収スルコトヲ得
前項ノ費用及過料ニ付キ行政庁ハ国税ニ次キ先取特権ヲ有スルモノトス
此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ公共団体ニ於テ負担スヘキ費用ニ関シテハ此ノ法律ニ於テ特ニ民事訴訟ヲ許シタル場合ヲ除クノ外主務大臣若ハ地方長官ハ必要ナル場合ニ於テハ金額ヲ定メテ之ヲ其ノ予算表ニ掲ケ其ノ他必要ナル処分ヲ指揮シ直ニ其ノ金額ヲ支出セシムルコトヲ得
第五十六条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ行政庁ニ付与シタル職権ハ行政処分ニ依リ之ヲ強制スルコトヲ得
行政庁ノ許可若ハ認可ニ附シタル条件ニ関シテモ亦本条及前条ヲ準用ス
第五十七条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ於テ規定シタル事項ニ関シテハ河川視察ノ職務ヲ有スル官吏ヲシテ命令ノ定ムル所ニ従ヒ警察官ノ職権ノ全部若ハ一部ヲ執行セシムルコトヲ得
第五十八条 此ノ法律ニ規定シタル私人ノ義務ニ関シテハ命令ヲ以テ二百円以内ノ罰金若ハ一年以下ノ禁錮ノ罰則ヲ設クルコトヲ得
第六章 訴願及訴訟
第五十九条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依リ主務大臣若ハ地方行政庁ノナシタル処分ニ対シテ不服アル私人若ハ公共団体ハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得
此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令若ハ地方行政庁ノ委任ニ依リ下級行政庁ノナシタル処分ニ対シテ不服アル私人若ハ公共団体ハ地方長官ニ訴願シ地方長官ノ裁決ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得
此ノ法律ニ依リ行政訴訟ノ提起ヲ許シタル場合ニ於テハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得ス
第六十条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ関シ行政庁ノ違法処分ニ依リ権利ヲ毀損セラレタリトスル私人若ハ公共団体ハ前条ニ依リ訴願ノ裁決ヲ経タル後行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ主務大臣若ハ地方行政庁ノ処分ニ対シテハ直ニ之ヲ提起スルコトヲ得
第六十一条 第四十一条第一項ニ依リ損害賠償ヲ請求スル私人若ハ公共団体ハ損害ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
法律、命令若ハ許可認可ノ条件ニ違背シタルヤ否ヤニ付キ争アルトキハ前数条ノ手続ニ依リ其ノ違背シタリトノ事実確定シタル後ニ非サレハ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス但シ此ノ場合ニ於テハ前項ノ期間ハ確定ノ日ヨリ起算スルモノトス
第六十二条 第三十八条若ハ第三十九条ニ依リ下付スヘキ補償金額ニ対シ不服アルトキハ行政庁ニ於テ補償金額ノ通知ヲナシタル日ヨリ六箇月以内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ第三十九条ノ場合ニ於テ補償金請求ノ後三箇月以内ニ其ノ金額ノ通知ナキトキハ其ノ期限経過後六箇月以内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第六十三条 此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ関シテハ本章ノ規程ニ依リ特ニ許シタル場合ヲ除クノ外訴願若ハ行政訴訟ヲ提起シ又ハ行政庁ニ対シ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
第七章 附則
第六十四条 此ノ法律ノ全部若ハ一部ヲ施行スヘキ区域及時期ハ主務大臣之ヲ定ム
此ノ法律ヲ施行スル為ニ必要ナル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十五条 河川ノ台帳ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ二箇年以内ニ之ヲ調製スヘシ
第六十六条 災害土木費負担ニ関スル慣例及外国人居留地内ニ於ケル河川ニ関スル慣例ハ此ノ法律ヲ以テ変更スルノ限ニ在ラス