朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ會計檢査院法ヲ裁可シ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年五月九日
內閣總理大臣 伯爵 黑田淸隆
法律第十五號
會計檢査院法
第一章 組織
第一條 會計檢査院ハ天皇ニ直隸シ國務大臣ニ對シ特立ノ地位ヲ有ス
第二條 會計檢査院ハ院長一員部長三員檢査官十二員ヲ置キ之ヲ會計檢査官トシ別ニ書記官二員檢査官補二十四員及屬若干員ヲ置ク
第三條 院長ハ勅任トシ部長ハ勅任又ハ奏任トシ檢査官書記官及檢査官補ハ奏任トシ屬ハ判任トス
第四條 院長ハ院務ヲ總理シ部長ハ部務ヲ掌理ス
院長事故アルトキハ上席ノ部長ヲシテ代理セシムルコトヲ得
第五條 會計檢査院ニ三部ヲ設ケ各部部長一員檢査官四員ヲ以テ檢査ノ事務ヲ分掌ス
第六條 會計檢査官ハ勅令ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス
會計檢査官ハ刑事裁判若ハ懲戒裁判ニ依ルニアラサレハ其ノ意ニ反シテ退官轉官又ハ非職ヲ命セラルヽコトナシ
會計檢査官ニ關ル懲戒ノ條規ハ別ニ定ムル所ニ依ル
第七條 父子兄弟ハ同時ニ會計檢査官トナルコトヲ得ス
第八條 會計檢査官ハ他ノ官職ヲ兼ネ及帝國議會又ハ地方議會ノ議員トナルコトヲ得ス
第九條 會計檢査院ノ議事ハ總會議又ハ部會議ヲ以テ決ス總會議ハ院長ヲ以テ議長トシ部會議ハ部長ヲ以テ議長トス
議事ハ多數ヲ以テ決ス可否同數ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第十條 左ノ場合ニ於テハ總會議ヲ以テ議決ス
一 第十五條ニ依リ上奏ヲ爲シ又ハ天皇ノ下問ニ奉答スルトキ
二 第十四條ニ依リ報吿書ヲ確定スルトキ
三 第十七條ニ依リ意見ヲ陳述スルトキ
四 檢査事務ノ規程計算證明ノ樣式及提出ノ期限ヲ定メ又ハ之ヲ改正スルトキ
五 其ノ他院長ニ於テ總會議ニ付スルノ必要アリト認メタルトキ
第十一條 計算檢査ノ判決ハ凡テ會議ニ於テス其ノ總會議ニ於テスルト部會議ニ於テスルトハ會計檢査院長ノ定ムル所ニ依ル
第二章 職權
第十二條 會計檢査院ハ官金ノ收支官有物及國債ニ關ル計算ヲ檢査確定シテ會計ヲ監督ス
第十三條 會計檢査院ノ檢査ヲ要スルモノ左ノ如シ
一 總決算
二 各官廳及官立諸營造ノ收支及官有物ニ關ル決算
三 政府ヨリ補助金又ハ特約保證ヲ與フル團體及公立私立諸營造ノ收支ニ關ル決算
四 法律勅令ニ依リ特ニ會計檢査院ノ檢査ニ屬セラレタル決算
第十四條 會計檢査院ハ憲法第七十二條ニ依リ決算ヲ檢査確定スルト同時ニ左ノ諸項ニ付報吿書ヲ作ルヘシ
一 總決算及各省決算報吿書ノ金額ト各出納官吏ノ提出シタル計算書ノ金額ト符合スルヤ否ヤ
二 歲入ノ賦課徵收歲出ノ使用官有物ノ得有沽賣讓與及利用ハ各〻其ノ豫算ノ規程又ハ法律勅令ニ違フコトナキヤ否ヤ
三 豫算超過又ハ豫算外ノ支出ニシテ議會ノ承諾ヲ受ケサルモノナキヤ否ヤ
第十五條 會計檢査院ハ各年度ノ會計檢査ノ成績ヲ上奏シ其ノ成績ニ就テ法律又ハ行政上ノ改正ヲ必要トスヘキ事項アリト認ムルトキハ併セテ意見ヲ上奏スルコトヲ得
第十六條 會計檢査院ハ各官廳中一部ニ屬スル計算ノ檢査及責任解除ヲ其ノ廳ニ委託スルコトヲ得但シ其ノ檢査ノ成績ハ該廳ヲシテ之ヲ會計檢査院ニ報吿セシムヘシ
前項ノ委託ニ拘ラス會計檢査院ハ時宜ニ依リ其ノ所管ノ官廳ヲシテ計算書ヲ送付セシメ之カ檢査ヲ行フコトアルヘシ
第十三條第三項團體及公立私立諸營造ノ決算ニ就テモ亦本條ヲ適用スルコトヲ得
第十七條 金庫ノ出納及簿記上ニ關ル各省ノ命令ニ付會計檢査院ハ其ノ發布ノ前通知ヲ受ケ意見アルトキハ之ヲ陳述スルコトヲ得
會計檢査院ハ收入及支出ニ關ル規則ヲ定メ及既定ノ規則ヲ改正スル各省ノ命令ニ付其ノ發布ノ前通知ヲ受ク
第十八條 會計檢査院ハ計算書及計算證明ノ樣式竝ニ其ノ提出及推問ニ對スル答辯ノ期限ヲ定ム
第十九條 會計檢査院ハ各官廳ヲシテ檢査上必要ナル簿書及報吿ヲ提出セシメ及主任官吏ノ辯明書ヲ求ムルコトヲ得
會計檢査院長ハ檢査上必要ト認ムルトキハ主任官吏ヲ派遣シ實地檢査ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ豫メ本屬長官ニ通知シ該長官ハ主任官吏ヲシテ檢査ニ立會ヲ爲サシムルコトヲ得
第二十條 會計檢査院ハ出納官吏ノ計算書及證憑書類ヲ檢査シ正當ナリト判決シタルトキハ該官ニ對シ認可狀ヲ付シ其ノ責任ヲ解除ス若必要ナル場合ニ於テハ之ヲ推問シ辯明又ハ正誤ヲ爲サシメ仍正當ナラスト判決シタルトキハ本屬長官ニ移牒シテ處分ヲ爲サシム
第二十一條 會計檢査院ノ判決ニ據リ辨償ノ責ヲ負フ者ハ天皇ノ恩赦ニ由ルノ外本屬長官之ヲ減免スルコトヲ得ス
第二十二條 出納官吏計算書及證憑書ノ提出ヲ怠リ又ハ樣式ヲ守ラサルトキハ會計檢査院ハ本屬長官ニ移牒シテ懲戒處分ヲ要求スルコトヲ得
第二十三條 政府ノ機密費ニ關ル計算ハ會計檢査院ニ於テ檢査ヲ行フ限ニ在ラス
第二十四條 會計檢査院ハ認可狀ヲ付スルノ後ト雖其ノ付シタル日ヨリ五箇年以內ニ於テハ出納官吏ヨリ之ヲ請求スルカ又ハ計算書ノ誤謬脫漏二重記載アルコトヲ發見シタルトキハ再審ヲ爲スコトヲ得但シ詐僞ノ證憑ヲ發見シタルトキハ五箇年後ト雖再審ヲ爲スコトヲ得
出納官吏ハ會計檢査院再審ノ判決ニ對シテ再ヒ審判ヲ請求スルコトヲ得ス
第三章 附則
第二十五條 會計檢査院ノ事務章程ハ別ニ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ会計検査院法ヲ裁可シ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年五月九日
内閣総理大臣 伯爵 黒田清隆
法律第十五号
会計検査院法
第一章 組織
第一条 会計検査院ハ天皇ニ直隷シ国務大臣ニ対シ特立ノ地位ヲ有ス
第二条 会計検査院ハ院長一員部長三員検査官十二員ヲ置キ之ヲ会計検査官トシ別ニ書記官二員検査官補二十四員及属若干員ヲ置ク
第三条 院長ハ勅任トシ部長ハ勅任又ハ奏任トシ検査官書記官及検査官補ハ奏任トシ属ハ判任トス
第四条 院長ハ院務ヲ総理シ部長ハ部務ヲ掌理ス
院長事故アルトキハ上席ノ部長ヲシテ代理セシムルコトヲ得
第五条 会計検査院ニ三部ヲ設ケ各部部長一員検査官四員ヲ以テ検査ノ事務ヲ分掌ス
第六条 会計検査官ハ勅令ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス
会計検査官ハ刑事裁判若ハ懲戒裁判ニ依ルニアラサレハ其ノ意ニ反シテ退官転官又ハ非職ヲ命セラルヽコトナシ
会計検査官ニ関ル懲戒ノ条規ハ別ニ定ムル所ニ依ル
第七条 父子兄弟ハ同時ニ会計検査官トナルコトヲ得ス
第八条 会計検査官ハ他ノ官職ヲ兼ネ及帝国議会又ハ地方議会ノ議員トナルコトヲ得ス
第九条 会計検査院ノ議事ハ総会議又ハ部会議ヲ以テ決ス総会議ハ院長ヲ以テ議長トシ部会議ハ部長ヲ以テ議長トス
議事ハ多数ヲ以テ決ス可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第十条 左ノ場合ニ於テハ総会議ヲ以テ議決ス
一 第十五条ニ依リ上奏ヲ為シ又ハ天皇ノ下問ニ奉答スルトキ
二 第十四条ニ依リ報告書ヲ確定スルトキ
三 第十七条ニ依リ意見ヲ陳述スルトキ
四 検査事務ノ規程計算証明ノ様式及提出ノ期限ヲ定メ又ハ之ヲ改正スルトキ
五 其ノ他院長ニ於テ総会議ニ付スルノ必要アリト認メタルトキ
第十一条 計算検査ノ判決ハ凡テ会議ニ於テス其ノ総会議ニ於テスルト部会議ニ於テスルトハ会計検査院長ノ定ムル所ニ依ル
第二章 職権
第十二条 会計検査院ハ官金ノ収支官有物及国債ニ関ル計算ヲ検査確定シテ会計ヲ監督ス
第十三条 会計検査院ノ検査ヲ要スルモノ左ノ如シ
一 総決算
二 各官庁及官立諸営造ノ収支及官有物ニ関ル決算
三 政府ヨリ補助金又ハ特約保証ヲ与フル団体及公立私立諸営造ノ収支ニ関ル決算
四 法律勅令ニ依リ特ニ会計検査院ノ検査ニ属セラレタル決算
第十四条 会計検査院ハ憲法第七十二条ニ依リ決算ヲ検査確定スルト同時ニ左ノ諸項ニ付報告書ヲ作ルヘシ
一 総決算及各省決算報告書ノ金額ト各出納官吏ノ提出シタル計算書ノ金額ト符合スルヤ否ヤ
二 歳入ノ賦課徴収歳出ノ使用官有物ノ得有沽売譲与及利用ハ各々其ノ予算ノ規程又ハ法律勅令ニ違フコトナキヤ否ヤ
三 予算超過又ハ予算外ノ支出ニシテ議会ノ承諾ヲ受ケサルモノナキヤ否ヤ
第十五条 会計検査院ハ各年度ノ会計検査ノ成績ヲ上奏シ其ノ成績ニ就テ法律又ハ行政上ノ改正ヲ必要トスヘキ事項アリト認ムルトキハ併セテ意見ヲ上奏スルコトヲ得
第十六条 会計検査院ハ各官庁中一部ニ属スル計算ノ検査及責任解除ヲ其ノ庁ニ委託スルコトヲ得但シ其ノ検査ノ成績ハ該庁ヲシテ之ヲ会計検査院ニ報告セシムヘシ
前項ノ委託ニ拘ラス会計検査院ハ時宜ニ依リ其ノ所管ノ官庁ヲシテ計算書ヲ送付セシメ之カ検査ヲ行フコトアルヘシ
第十三条第三項団体及公立私立諸営造ノ決算ニ就テモ亦本条ヲ適用スルコトヲ得
第十七条 金庫ノ出納及簿記上ニ関ル各省ノ命令ニ付会計検査院ハ其ノ発布ノ前通知ヲ受ケ意見アルトキハ之ヲ陳述スルコトヲ得
会計検査院ハ収入及支出ニ関ル規則ヲ定メ及既定ノ規則ヲ改正スル各省ノ命令ニ付其ノ発布ノ前通知ヲ受ク
第十八条 会計検査院ハ計算書及計算証明ノ様式並ニ其ノ提出及推問ニ対スル答弁ノ期限ヲ定ム
第十九条 会計検査院ハ各官庁ヲシテ検査上必要ナル簿書及報告ヲ提出セシメ及主任官吏ノ弁明書ヲ求ムルコトヲ得
会計検査院長ハ検査上必要ト認ムルトキハ主任官吏ヲ派遣シ実地検査ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ予メ本属長官ニ通知シ該長官ハ主任官吏ヲシテ検査ニ立会ヲ為サシムルコトヲ得
第二十条 会計検査院ハ出納官吏ノ計算書及証憑書類ヲ検査シ正当ナリト判決シタルトキハ該官ニ対シ認可状ヲ付シ其ノ責任ヲ解除ス若必要ナル場合ニ於テハ之ヲ推問シ弁明又ハ正誤ヲ為サシメ仍正当ナラスト判決シタルトキハ本属長官ニ移牒シテ処分ヲ為サシム
第二十一条 会計検査院ノ判決ニ拠リ弁償ノ責ヲ負フ者ハ天皇ノ恩赦ニ由ルノ外本属長官之ヲ減免スルコトヲ得ス
第二十二条 出納官吏計算書及証憑書ノ提出ヲ怠リ又ハ様式ヲ守ラサルトキハ会計検査院ハ本属長官ニ移牒シテ懲戒処分ヲ要求スルコトヲ得
第二十三条 政府ノ機密費ニ関ル計算ハ会計検査院ニ於テ検査ヲ行フ限ニ在ラス
第二十四条 会計検査院ハ認可状ヲ付スルノ後ト雖其ノ付シタル日ヨリ五箇年以内ニ於テハ出納官吏ヨリ之ヲ請求スルカ又ハ計算書ノ誤謬脱漏二重記載アルコトヲ発見シタルトキハ再審ヲ為スコトヲ得但シ詐偽ノ証憑ヲ発見シタルトキハ五箇年後ト雖再審ヲ為スコトヲ得
出納官吏ハ会計検査院再審ノ判決ニ対シテ再ヒ審判ヲ請求スルコトヲ得ス
第三章 附則
第二十五条 会計検査院ノ事務章程ハ別ニ勅令ヲ以テ之ヲ定ム