歯科技工法
法令番号: 法律第168号
公布年月日: 昭和30年8月16日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

歯科医療において義歯、充填、矯正治療を必要とする患者が多数存在する一方、歯科医師の数は人口約3,100名に1人と不十分である。近年の歯科医療需要の高まりに伴い、歯科技工を歯科技工士に委託するケースが増加しているが、現状では法的規制がなく、正規の職業教育を受けた者も少数である。そのため技術内容にばらつきがあり、国民の歯科医療確保に支障をきたしている。このような状況を改善するため、歯科技工士の資格を定めて資質向上を図り、業務の適正な運用を確保することで、歯科医療の普及と向上に寄与することを目的として本法案を提案する。

参照した発言:
第22回国会 衆議院 社会労働委員会 第27号

審議経過

第22回国会

衆議院
(昭和30年6月23日)
参議院
(昭和30年6月23日)
(昭和30年7月7日)
(昭和30年7月11日)
(昭和30年7月14日)
(昭和30年7月15日)
衆議院
(昭和30年7月16日)
(昭和30年7月29日)
(昭和30年7月29日)
(昭和30年7月25日)
歯科技工法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十年八月十六日
内閣総理大臣 鳩山一郎
法律第百六十八号
歯科技工法
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
免許(第三条―第十条)
第三章
試験(第十一条―第十六条)
第四章
業務(第十七条―第二十条)
第五章
歯科技工所(第二十一条―第二十七条)
第六章
罰則(第二十八条―第三十二条)
附則
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、歯科技工士の資格を定めるとともに、歯科技工の業務が適正に運用されるように規律し、もつて歯科医療の普及及び向上に寄与することを目的とする。
(用語の定義)
第二条 この法律において、「歯科技工」とは、特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物、充てん物又は矯正装置を作成し、修理し、又は加工することをいう。ただし、歯科医師(歯科医業を行うことができる医師を含む。以下同じ。)がその診療中の患者のために自ら行う行為を除く。
2 この法律において、「歯科技工士」とは、都道府県知事の免許を受けて、歯科技工を業とする者をいう。
3 この法律において、「歯科技工所」とは、歯科医師又は歯科技工士が業として歯科技工を行う場所をいう。ただし、病院又は診療所内の場所であつて、当該病院又は診療所において診療中の患者以外の者のための歯科技工が行われないものを除く。
第二章 免許
(免許)
第三条 歯科技工士の免許(以下「免許」という。)は、歯科技工士試験(以下「試験」という。)に合格した者に対して与える。
(絶対的欠格事由)
第四条 盲の者には、免許を与えない。
(相対的欠格事由)
第五条 次の各号の一に該当する者には、免許を与えないことができる。
一 歯科医療又は歯科技工の業務に関する犯罪又は不正の行為があつた者
二 精神病者又は麻薬、あへん若しくは大麻の中毒者
(歯科技工士名簿)
第六条 都道府県に歯科技工士名簿を備え、免許に関する事項を登録する。
(登録、免許証の交付及び届出)
第七条 免許は、歯科技工士名簿に登録することによつて行う。
2 都道府県知事は、免許を与えたときは、歯科技士士免許証(以下「免許証」という。)を交付する。
3 歯科技工士は、毎年十二月三十一日現在において、その氏名、住所(業務に従事する者については、さらにその場所)その他厚生省令で定める事項を、翌年一月十五日までにその住所地の都道府県知事に届け出なければならない。
(免許の取消等)
第八条 歯科技工士が、第四条の規定に該当するに至つたときは、都道府県知事は、その免許を取り消さなければならない。
2 歯科技工士が、第五条各号の一に該当するに至つたときは、都道府県知事は、その免許を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止を命ずることができる。
(聴聞)
第九条 都道府県知事は、前条の処分をしようとするときは、処分の理由並びに聴聞の期日及び場所をその期日の二週間前までに当該処分を受ける者に通知し、かつ、その者又はその代理人の出頭を求めて聴聞を行わなければならない。
2 聴聞においては、当該処分を受ける者又はその代理人は、自己又は本人のために弁明し、かつ、有利な証拠を提出することができる。
3 都道府県知事は、当該処分を受ける者又はその代理人が正当な理由がなく聴聞に応じなかつたときは、聴聞を行わないで、前条の処分をすることができる。
(政令への委任)
第十条 この章に規定するもののほか、免許の申請、歯科技工士名簿の登録、訂正及び消除、免許証の交付、書換交付、再交付、返納及び提出並びに住所の届出に関する事項は、政令で定める。
第三章 試験
(試験の目的)
第十一条 試験は、歯科技工士として必要な知識及び技能について行う。
(試験の実施)
第十二条 試験は、第十四条第一号に規定する歯科技工士養成所の所在地の都道府県知事が、毎年少くとも一回行う。
2 試験の実施に関する事務をつかさどらせるために、政令の定めるところにより、都道府県知事の監督に属する歯科技工士試験審議会を置く。
3 厚生大臣は、歯科医師試験審議会の委員に、試験の基準に関して、歯科技工士試験審議会を指導させることができる。
(試験事務担当者の不正行為の禁止)
第十三条 歯科医師試験審議会又は歯科技工士試験審議会の委員その他試験に関する事務をつかさどる者は、その事務の施行に当つては厳正を保持し、不正の行為がないようにしなければならない。
(受験資格)
第十四条 試験は、次の各号の一に該当する者でなければ、受けることができない。
一 厚生大臣の指定した歯科技工士養成所を卒業した者
二 歯科医師国家試験又は歯科医師国家試験予備試験を受けることができる者
三 外国の歯科技工士学校若しくは歯科技工士養成所を卒業し、又は外国で歯科技工士の免許を受けた者で、厚生大臣の定める基準に従い、都道府県知事が適当と認めたもの
(不正行為の禁止)
第十五条 試験に関して不正の行為があつた場合には、都道府県知事は、その不正行為に関係のある者について、その受験を停止させ、又はその試験を無効とすることができる。この場合においては、なお、その者について、期間を定めて試験を受けることを許さないことができる。
(省令ヘの委任)
第十六条 この章に規定するもののほか、第十四条第一号に規定する歯科技工士養成所並びに試験科目及び受験手続その他試験に関して必要な事項は、厚生省令で定める。
第四章 業務
(禁止行為)
第十七条 歯科医師又は歯科技工士でなければ、業として歯科技工を行つてはならない。
2 歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)第七条第二項の規定により歯科医業の停止を命ぜられた歯科医師は、業として歯科技工を行つてはならない。
(歯科技工指示書)
第十八条 歯科医師又は歯科技工士は、厚生省令で定める事項を記載した歯科医師の指示書によらなければ、業として歯科技工を行つてはならない。ただし、病院又は診療所内の場所において、かつ、患者の治療を担当する歯科医師の直接の指示に基いて行う場合は、この限りでない。
(指示書の保存義務)
第十九条 病院、診療所又は歯科技工所の管理者は、当該病院、診療所又は歯科技工所で行われた歯科技工に係る前条の指示書を、当該歯科技工が終了した日から起算して二年間、保存しなければならない。
(業務上の注意)
第二十条 歯科技工士は、その業務を行うに当つては、印象採得、咬合採得、試適、装着その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。
第五章 歯科技工所
(届出)
第二十一条 歯科技工所を開設した者は、開設後十日以内に、開設の場所、管理者の氏名その他厚生省令で定める事項を歯科技工所の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。届け出た事項のうち厚生省令で定める事項に変更を生じたときも、同様とする。
2 歯科技工所の開設者は、その歯科技工所を休止し、又は廃止したときは、十日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。休止した歯科技工所を再開したときも、同様とする。
(管理者)
第二十二条 歯科技工所の開設者は、自ら歯科医師又は歯科技工士であつてその歯科技工所の管理者となる場合を除くほか、その歯科技工所に歯科医師又は歯科技工士たる管理者を置かなければならない。
(管理者の義務)
第二十三条 歯科技工所の管理者は、その歯科技工所に勤務する歯科技工士その他の従業者を監督し、その業務遂行に欠けるところがないように必要な注意をしなければならない。
(改善命令)
第二十四条 都道府県知事は、歯科技工所の構造設備が不完全であつて、当該歯科技工所で作成し、修理し、又は加工される補てつ物、充てん物又は矯正装置が衛生上有害なものとなるおそれがあると認めるときは、その開設者に対し、相当の期間を定めて、その構造設備を改善すべき旨を命ずることができる。
(使用の禁止)
第二十五条 都道府県知事は、歯科技工所の開設者が前条の規定に基く命令に従わないときは、その開設者に対し、当該命令に係る構造設備の改善を行うまでの間、その歯科技工所の全部又は一部の使用を禁止することができる。第九条の規定は、この場合において準用する。
(広告の制限)
第二十六条 歯科技工の業又は歯科技工所に関しては、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も、次に掲げる事項を除くほか、広告をしてはならない。
一 歯科医師又は歯科技工士である旨
二 歯科技工に従事する歯科医師又は歯科技工士の氏名
三 歯科技工所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項
四 その他都道府県知事の許可を受けた事項
2 前項各号に掲げる事項を広告するに当つても、歯科医師若しくは歯科技工士の技能、経歴若しくは学位に関する事項にわたり、又はその内容が虚偽にわたつてはならない。
(報告の徴収及び立入検査)
第二十七条 都道府県知事及び保健所を設置する市の市長は、必要があると認めるときは、歯科技工所の開設者若しくは管理者に対し、必要な報告を命じ、又は当該吏員に、歯科技工所に立ち入り、その清潔保持の状況、構造設備若しくは指示書その他の帳簿書類を検査させることができる。
2 前項の規定によつて立入検査をする当該吏員は、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係人の請求があるときは、これを提示しなければならない。
3 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
4 保健所を設置する市の市長は、歯科技工所につき前二条の規定による処分が行われる必要があると認めるときは、理由を附して、その旨を都道府県知事に通知しなければならない。
第六章 罰則
第二十八条 次の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 第十七条第一項の規定に違反した者
二 虚偽又は不正の事実に基いて免許を受けた者
第二十九条 次の各号の一に該当する者は、六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
一 第八条第二項の規定による業務の停止命令に違反した者
二 第十三条の規定に違反して、故意若しくは重大な過失により事前に試験問題を漏らし、又は故意に不正の採点をした者
三 第十七条第二項の規定に違反した者
四 第二十五条の規定による処分に違反した者
第三十条 第十八条の規定に違反した者は、一万円以下の罰金に処する。
第三十一条 次の各号の一に該当する者は、五千円以下の罰金に処する。
一 第七条第三項の規定に違反した者
二 第十九条、第二十一条第一項若しくは第二項、第二十二条又は第二十六条の規定に違反した者
三 第二十七条第一項の規定による報告を怠り、若しくは虚偽の報告をし、又は当該吏員の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
第三十二条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第二十九条第四号又は前条第二号若しくは第三号の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六十日を経過した日から施行する。
(特例技工士)
第二条 歯科医師以外の者であつて、この法律の施行の際現に歯科技工の業務を行つているもの又はこの法律の施行前に引き続き三年以上歯科技工の業務を行つていたものは、この法律の施行後三箇月間は、第十七条第一項の規定にかかわらず、業として歯科技工を行い、又は第二十二条の規定にかかわらず、歯科技工所の管理者となることができる。
2 前項の者が同項の期間内にその氏名、住所その他厚生省令で定める事項をその住所地の都道府県知事に届け出たときは、その者については、昭和三十五年十二月三十一日までの間も、同項と同様とする。
3 前二項の規定により業として歯科技工を行うことができる者(以下「特例技工士」という。)については、第十八条、第二十条及び第二十六条の規定を準用する。
4 前項において準用する第十八条の規定に違反した者は、一万円以下の罰金に処する。
5 都道府県知事は、特例技工士が、第四条又は第五条各号の一に該当するに至つたときは、その業務を禁止することができる。第九条の規定は、この場合において準用する。
6 前項の規定に基く処分に違反した者は、一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
7 特例技工士は、特例技工士である間は、第十四条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。
(試験の実施に関する経過措置)
第三条 昭和三十五年までは、第十二条第一項の規定にかかわらず、同条同項に規定する都道府県知事以外の都道府県知事も、毎年少くとも一回試験を行うものとする。ただし、厚生大臣の承認を受けたときは、この限りでない。
2 都道府県知事は、昭和三十年においては、第十二条第一項及び前項の規定にかかわらず、試験を行わないことができる。
(指示書に関する経過措置)
第四条 第十八条の規定は、歯科医師がこの法律の施行の際現に行つている歯科技工については、適用せず、かつ、特例技工士がこの法律の施行の際現に行つている歯科技工については、附則第二条第三項の規定にかかわらず、準用しない。
(特例技工所)
第五条 特例技工士が業として歯科技工を行う場所(病院又は診療所内の場所であつて、当該病院又は診療所において診療中の患者以外の者のための歯科技工が行われないものを除くものとし、以下「特例技工所」という。)及びその管理者については、第五章及び第十九条の規定を準用する。この場合において、第二十二条中「歯科医師又は歯科技工士」とあるのは、「歯科医師、歯科技工士又は特例技工士」と読み替えるものとする。
2 前項において準用する第二十五条の規定による処分に違反した者は、六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処し、同項において準用する第十九条、第二十一条第一項若しくは第二項又は第二十二条の規定に違反した者及び前項において準用する第二十七条第一項の規定による報告を怠り、若しくは虚偽の報告をし、又は当該吏員の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、五千円以下の罰金に処する。
3 第一項及び附則第二条第三項において準用する第二十六条の規定に違反した者は、五千円以下の罰金に処する。
(歯科技工所等の届出に関する経過措置)
第六条 この法律の施行の際現に歯科技工所又は特例技工所を開設している者は、この法律の施行後一箇月以内に、開設の場所、管理者の氏名その他第二十一条第一項前段の規定に基く厚生省令で定める事項を当該歯科技工所又は特例技工所の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。届け出た事項のうち同条同項後段の規定に基く厚生省令で定める事項に変更を生じたときは、十日以内にその旨を届け出なければならない。
2 前項の規定に違反した者は、五千円以下の罰金に処する。
(両罰規定)
第七条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して附則第五条第二項若しくは第三項又は前条第二項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
(受験資格の特例)
第八条 他の法令の規定により期間を限つて歯科医師国家試験予備試験を受けることができるものとされている者は、第十四条の規定にかかわらず、その期間の経過後も、試験を受けることができる。その期間がこの法律の施行前に経過した者も、同様とする。
2 歯科医師法第三十三条第三項に規定する者及び他の法令の規定により歯科医師免許及び試験について期間を限つて同条同項の例によることができるものとされている者は、第十四条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。
3 前項に規定する者は、第十四条の規定にかかわらず、同項の期間の経過後も、試験を受けることができる。その期間がこの法律の施行前に経過した者も、同様とする。
(厚生省設置法の一部改正)
第九条 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第五条第三十九号の次に次の一号を加える。
三十九の二 診療エツクス線技師、歯科衛生士、歯科技工士、あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師の養成所又は養成施設の指定又は認定を行うこと。
第十条第三号中「歯科衛生士」の下に「、歯科技工士」を加える。
文部大臣 松村謙三
厚生大臣 川崎秀二
内閣総理大臣 鳩山一郎