第一條 本法ニ於テ舊刑法ト稱スルハ明治十三年第三十六號布吿刑法ヲ謂ヒ他ノ法律ト稱スルハ刑法施行前ニ公布シタル法律及ヒ勅令、布吿ニシテ法律ト同一ノ效力ヲ有スルモノヲ謂フ
第二條 刑法施行前ニ舊刑法ノ罪又ハ他ノ法律ノ罪ヲ犯シタル者ニ付テハ左ノ例ニ從ヒ刑法ノ主刑ト舊刑法ノ主刑トヲ對照シ刑法第十條ノ規定ニ依リ其輕重ヲ定ム
第三條 法律ニ依リ刑ヲ加重減輕ス可キトキ又ハ酌量減輕ヲ爲ス可キトキハ加重又ハ減輕ヲ爲シタル後刑ノ對照ヲ爲ス可シ
數罪ヲ犯シタル者ニ付テハ併合罪又ハ數罪俱發ニ關スル規定ヲ適用シタル後刑ノ對照ヲ爲ス可シ
一罪ニ付キ二個以上ノ主刑ヲ併科ス可キトキ又ハ二個以上ノ主刑中其一個ヲ科ス可キトキハ其中ニテ重キ刑ノミニ付キ對照ヲ爲ス可シ併合罪又ハ數罪俱發ニ關スル規定ニ依リ數罪ノ主刑ヲ併科ス可キトキ亦同シ
第四條 刑法施行前舊刑法又ハ他ノ法律ノ規定ニ依リ吿訴ヲ待テ論ス可キ罪ヲ犯シタル者ハ刑法ノ規定ニ依リ吿訴ヲ要セサルモノト雖モ吿訴アルニ非サレハ其罪ヲ論セス
第五條 刑法第六條ニ依リ舊刑法又ハ他ノ法律ヲ適用スル場合ニ於テハ剝奪公權、停止公權、監視又ハ罰金ヲ附加ス可キトキト雖モ之ヲ附加セス
第六條 刑法施行前ニ犯シタル罪ニ付キ刑法施行ノ前又ハ後ニ確定裁判アリタル後刑法施行前ニ犯シタル餘罪ニ付キ裁判ヲ爲ストキハ左ノ例ニ依ル
一 確定裁判アリタル罪ニ舊刑法又ハ他ノ法律ヲ適用シタルトキト雖モ刑法又ハ刑法ノ刑名ニ依リ刑ヲ定メタル法令ニ於テハ其罪ト餘罪トニ付キ併合罪ニ關スル規定ヲ準用ス
二 確定裁判アリタル罪ニ刑法又ハ刑法ノ刑名ニ依リ刑ヲ定メタル法令ヲ適用シタルトキト雖モ舊刑法又ハ他ノ法律ニ於テハ其罪ト餘罪トニ付キ數罪俱發ニ關スル規定ニ依ル
第七條 左ニ記載シタル者刑法施行前更ニ刑法ノ有期懲役ニ相當スル刑ニ該ル罪ヲ犯シ刑法施行後其罪ニ付キ裁判ヲ爲ストキハ刑法又ハ刑法ノ刑名ニ依リ刑ヲ定メタル法令ニ於テハ累犯ニ關スル規定ヲ準用ス
一 舊刑法又ハ他ノ法律ニ依リ刑法ノ懲役ニ相當スル刑ニ處セラレタル者
二 舊刑法又ハ他ノ法律ニ依リ刑法ノ懲役ニ相當スル刑ニ該ル罪ト同質ノ罪ニ因リ死刑ニ處セラレ其執行ノ免除ヲ得又ハ減刑ニ因リ懲役ニ相當スル刑ニ減輕セラレタル者
刑法第五十六條第三項ノ規定ハ數罪俱發ニ關スル規定ニ依リ處斷セラレタル者ニ之ヲ準用ス
第八條 刑法施行前ニ犯シタル一罪ト刑法施行後ニ犯シタル一罪又ハ數罪トニ付キ同時ニ裁判ヲ爲ス場合ニ於テハ刑法施行前ノ罪ニ舊刑法又ハ他ノ法律ヲ適用ス可キトキト雖モ其罪ト刑法施行後ノ一罪又ハ數罪トニ付キ併合罪ニ關スル規定ヲ準用ス
第九條 刑法施行前ニ犯シタル數罪ト刑法施行後ニ犯シタル一罪又ハ數罪トニ付キ同時ニ裁判ヲ爲ス場合ニ於テ刑法施行前ノ罪ニ舊刑法又ハ他ノ法律ヲ適用ス可キトキハ數罪俱發ニ關スル規定ニ依リテ定マリタル一ノ重キ罪ト刑法施行後ノ一罪又ハ數罪トニ付キ併合罪ニ關スル規定ヲ準用ス
前項ノ場合ニ於テ刑法施行前ノ罪ニ刑法又ハ刑法ノ刑名ニ依リ刑ヲ定メタル法令ヲ適用ス可キトキハ其數罪ト刑法施行後ノ一罪又ハ數罪トニ付キ併合罪ニ關スル規定ヲ適用ス
第十條 刑法施行後ニ犯シタル罪ニ付キ確定裁判アリタル後刑法施行前ニ犯シタル餘罪ニ付キ裁判ヲ爲ス場合ニ於テハ其罪ニ舊刑法又ハ他ノ法律ヲ適用シタルトキト雖モ確定裁判アリタル罪ト其罪トニ付キ併合罪ニ關スル規定ヲ準用ス
第十一條 刑法施行前ニ犯シタル罪ニ付キ刑法施行後確定裁判アリタル後刑法施行後ニ犯シタル餘罪ニ付キ裁判ヲ爲ス場合ニ於テハ確定裁判アリタル罪ニ舊刑法又ハ他ノ法律ヲ適用シタルトキト雖モ其罪ト餘罪トニ付キ併合罪ニ關スル規定ヲ準用ス
第十二條 第七條第一項各號ニ記載シタル者刑法施行後有期懲役ニ該ル罪ヲ犯シタルトキハ累犯ニ關スル規定ヲ準用ス
第十三條 刑法施行後ハ舊刑法又ハ舊刑法施行前ノ法令ノ刑ニ處セラレタル者ト雖モ刑ノ執行、假出獄及ヒ時效ニ付テハ刑法ノ規定ヲ準用ス但罰金又ハ科料ヲ完納スルコト能ハサル者ヲ勞役場ニ留置スル場合ニ於テハ檢事ノ請求ニ依リ裁判所決定ヲ以テ其言渡ヲ爲ス可シ
前項ノ場合ニ於テハ第二條及ヒ明治十四年第八十一號布吿第一條ノ例ニ依リ主刑ノ對照ヲ爲ス可シ
舊刑法ノ刑ニ處セラレタル者ノ刑法施行前ニ於ケル時效期間ノ起算及ヒ時效ノ中斷ニ付テハ期滿免除ニ關スル規定ニ從フ
第十四條 刑法施行後ハ舊刑法ノ刑ニ處ス可キ者ト雖モ刑ノ執行猶豫ニ付テハ刑法ノ規定ヲ準用ス
前項ノ場合ニ於テハ第二條ノ例ニ依リ主刑ノ對照ヲ爲ス可シ
第十五條 刑法施行前假出獄ヲ許サレタル者及ヒ幽閉ヲ免セラレタル者ニ付テハ刑法施行ノ日ヨリ刑法ノ假出獄ニ關スル規定ヲ準用ス
刑法施行前罰金又ハ科料ヲ納完セサル爲メ輕禁錮又ハ拘留ニ換ヘラレタル者ニ付テハ刑法施行ノ日ヨリ刑法第十八條及ヒ第三十條ノ規定ヲ準用ス但留置ノ日數ハ其執行ノ日ヨリ起算シ刑法第十八條ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス
第十六條 懲治場留置ノ執行ハ刑法施行後ト雖モ從前ノ例ニ從フ但司法大臣ハ何時ニテモ其留置ヲ解キ又ハ感化院ニ入院セシムルコトヲ得
第十七條 闕席判決ヲ以テ言渡シタル刑ノ時效期間ハ其言渡ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第十八條 剝奪公權、停止公權、監視及附加ノ罰金ノ言渡ハ刑法施行ノ日ヨリ其效力ヲ失フ但旣ニ徵收シタル附加ノ罰金ハ之ヲ還付セス
附加ノ罰金ヲ納完セサル爲メ換ヘラレタル禁錮ニ付キ亦前項ニ同シ
第十九條 他ノ法律ニ定メタル主刑ハ第二條ノ例ニ準シ刑法ノ刑ニ對照シテ之ヲ刑法ノ刑名ニ變更ス但單ニ禁錮トアルハ之ヲ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ變更ス
他ノ法律ノ規定中剝奪公權、停止公權、監視及ヒ附加ノ罰金ニ處ス可キ旨ヲ定メタルモノハ之ヲ廢止ス
第二十條 他ノ法律ニ定メタル刑ニ付テハ其期間又ハ金額ヲ變更セス但他ノ法律中特ニ期間又ハ金額ヲ定メサル刑ニ付テハ仍ホ舊刑法總則中期間又ハ金額ニ關スル規定ニ從フ
第二十一條 他ノ法律ニ定メタル刑ヲ加重又ハ減輕ス可キ場合ニ於テハ第二十三條ノ場合ヲ除ク外舊刑法ノ加減例ニ關スル規定ニ依ル
第二十二條 他ノ法律中舊刑法ノ規定ヲ揭ケ又ハ舊刑法ノ規定ニ依リ若クハ之ニ依ラサルコトヲ定メタル場合ニ付キ刑法中其規定ニ相當スル規定アルモノハ刑法ノ規定ニ變更ス
第二十三條 前條ノ規定ニ依リ刑法ノ刑ヲ適用ス可キ場合ニ於テハ他ノ法律中刑ノ加重ニ關スル特別ノ規定ハ之ヲ適用セス刑ノ減輕ノ方法ニ付テハ刑法ノ加減例ニ關スル規定ニ從フ
第二十四條 明治二十二年法律第二十八號及ヒ明治二十三年法律第九十九號ハ之ヲ廢止ス
第二十五條 左ニ記載シタル舊刑法ノ規定ハ當分ノ內刑法施行前ト同一ノ效力ヲ有ス
刑法第八條ノ規定及ヒ本法中他ノ法律ニ關スル規定ハ之ヲ前項ノ規定ニ準用ス
第二十六條 左ニ記載シタル罪ハ刑法第二條ノ例ニ從フ
十一 舊刑法中印紙ノ僞造、變造及ヒ其知情使用ニ關スル罪
第二十七條 左ニ記載シタル罪ハ刑法第三條ノ例ニ從フ
第二十八條 人ノ資格其他ノ事項ニ關シ舊刑法ノ刑名又ハ罪別ヲ揭ケタル他ノ法律ノ規定ハ刑法施行ノ爲メ變更セラルルコトナシ
第二十九條 死刑、無期又ハ短期一年以上ノ懲役若クハ禁錮ニ該ル罪ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ重罪ト看做ス
第三十條 前條ニ該當セサル懲役若クハ禁錮又ハ罰金ニ該ル罪ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ輕罪ト看做ス
前條ニ該當セサル懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ禁錮ニ該ル罪ト看做ス
前條ニ該當セサル懲役ニ該ル罪ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ重禁錮ニ該ル罪ト看做ス
前條ニ該當セサル禁錮ニ該ル罪ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ輕禁錮ニ該ル罪ト看做ス
第三十一條 拘留又ハ科料ニ該ル罪ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ違警罪ト看做ス
第三十二條 他ノ法律ニ定メタル罪ニシテ死刑、無期又ハ短期六年以上ノ懲役若クハ禁錮ニ該ルモノノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第三十三條 死刑、無期又ハ六年以上ノ懲役若クハ禁錮ニ處セラレタル者ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ重罪ノ刑ニ處セラレタルモノト看做ス
第三十四條 前條ニ記載シタル者及ヒ舊刑法ノ重罪ノ刑ニ處セラレタル者ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ公權ヲ剝奪セラレタルモノト看做ス
第三十五條 六年未滿ノ懲役若クハ禁錮又ハ罰金ニ處セラレタル者ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ輕罪ノ刑ニ處セラレタルモノト看做ス
六年未滿ノ懲役ニ處セラレタル者ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ重禁錮ニ處セラレタルモノト看做ス
六年未滿ノ禁錮ニ處セラレタル者ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ輕禁錮ニ處セラレタルモノト看做ス
第三十六條 六年未滿ノ懲役又ハ禁錮ニ處セラレタル者及ヒ舊刑法ノ禁錮ノ刑ニ處セラレタル者ハ他ノ法律ノ適用ニ付テハ刑ノ執行ヲ終リ又ハ其執行ヲ受クルコトナキニ至ルマテ公權ヲ停止セラレタルモノト看做ス
第三十七條 他ノ法律中舊刑法第三十一條又ハ第三十三條ノ規定アル爲メ人ノ資格ニ關シ別段ノ規定ヲ設ケサリシ場合ニ付テハ舊刑法第三十一條及ヒ第三十三條ノ規定ハ人ノ資格ニ關シ刑法施行前ト同一ノ效力ヲ有ス
第五十二條 刑事訴訟法中復權及ヒ特赦ニ關スル規定ハ之ヲ削ル
第五十三條 刑法第五十二條又ハ第五十八條ノ規定ニ依リ刑ヲ定ム可キ場合ニ於テハ其犯罪事實ニ付キ最終ノ判決ヲ爲シタル裁判所ノ檢事其裁判所ニ請求ヲ爲ス可シ
前項ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ被吿人又ハ其代理人ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲ス可シ此決定ニ對シテハ抗吿ヲ爲スコトヲ得
第五十四條 刑ノ執行猶豫ハ裁判所ニ於テ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ刑ノ言渡ト同時ニ判決ヲ以テ之ヲ言渡ス可シ
第五十五條 刑ノ執行猶豫ノ言渡ハ上訴ニ因リ其效力ヲ失フコトナシ但原判決ヲ取消シ又ハ破毀シタル場合ハ此限ニ在ラス
第五十六條 刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ取消ス可キ場合ニ於テハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ所在地又ハ最後ノ住所地ヲ管轄スル地方裁判所ノ檢事其裁判所ニ請求ヲ爲ス可シ
前項ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ被吿人又ハ其代理人ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲ス可シ此決定ニ對シテハ抗吿ヲ爲スコトヲ得
第五十七條 第五十三條及ヒ前條ノ裁判及ヒ抗吿ニ付テハ刑事訴訟法ノ規定ヲ準用ス
第五十八條 明治三十八年法律第七十號ニ依リ刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ受ケ仍ホ猶豫ノ期間ヲ經過セサル者ハ刑法ニ依リ刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ受ケタルモノト看做ス
第五十九條 明治三十九年法律第五十四號ハ之ヲ廢止ス
第六十條 私訴ハ公訴ニ附帶スルトキハ民事訴訟ノ方式ニ依ラス書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
第六十一條 贓物犯人ノ手ニ在ルトキハ被害者ノ請求ナシト雖モ之ヲ還付スル言渡ヲ爲ス可シ
第六十二條 左ニ記載シタルモノヲ以テ公訴ニ關スル訴訟費用トス
一 豫審、公判ニ付キ呼出シタル證人、鑑定人及ヒ通事ニ給與ス可キ日當、旅費及ヒ止宿料
第六十三條 證人、鑑定人及ヒ通事ノ日當ハ左ノ範圍內ニ於テ豫審判事、受託判事又ハ裁判所之ヲ定ム
一 證人ノ日當ハ出頭一度ニ付金二十錢乃至金五十錢但止宿料ヲ給與スル場合ニ於テハ日當ヲ給與セス
二 鑑定人及ヒ通事ノ日當ハ出頭一度ニ付キ金三十錢乃至金五圓
第六十四條 證人、鑑定人及ヒ通事ノ旅費ハ海陸路一里ニ付キ金五錢乃至金二十錢ノ範圍內ニ於テ豫審判事、受託判事又ハ裁判所之ヲ定ム但通路兩線以上アルトキハ最近ノ通路ヲ以テ旅費ヲ算定ス
前項ニ揭ケタル者ノ止宿料ハ一日ニ付キ金二十錢乃至金一圓ノ範圍內ニ於テ豫審判事、受託判事又ハ裁判所之ヲ定ム但八里以上ノ地ヨリ來リ滯在スルトキニ非サレハ之ヲ給與セス
第六十五條 證人、鑑定人及ヒ通事ノ日當、旅費及ヒ止宿料ハ豫審ニ於テハ其終結前、公判ニ於テハ其判決前ニ本人ヨリ請求スルニ非サレハ之ヲ給與セス
第六十六條 鑑定、通譯ニ付キ數多ノ時間又ハ特別ノ技能若クハ費用ヲ要スルトキハ日當ノ外別ニ相當ノ金額ヲ給與スルコトヲ得