朕刑事訴訟法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年十月六日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
內務大臣 伯爵 西鄕從道
司法大臣 伯爵 山田顯義
大藏大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巖
遞信大臣 伯爵 後藤象二郞
外務大臣 子爵 靑木周藏
海軍大臣 子爵 樺山資紀
文部大臣 芳川顯正
農商務大臣 陸奧宗光
法律第九十六號
刑事訴訟法目錄
第一編
總則
第二編
裁判所
第一章
裁判所ノ管轄
第二章
裁判所職員ノ除斥及ヒ忌避、囘避
第三編
犯罪ノ搜査、起訴及ヒ豫審
第一章
搜査
第一節
吿訴及ヒ吿發
第二節
現行犯罪
第二章
起訴
第三章
豫審
第一節
令狀
第二節
密室監禁
第三節
證據
第四節
被吿人ノ訊問及ヒ對質
第五節
檢證、搜索及ヒ物件差押
第六節
證人訊問
第七節
鑑定
第八節
現行犯ノ豫審
第九節
保釋
第十節
豫審終結
第四編
公判
第一章
通則
第二章
區裁判所公判
第三章
地方裁判所公判
第五編
上訴
第一章
通則
第二章
控訴
第三章
上吿
第四章
抗吿
第六編
再審
第七編
大審院ノ特別權限ニ屬スル訴訟手續
第八編
裁判執行、復權及ヒ特赦
第一章
裁判執行
第二章
復權
第三章
特赦
附則
刑事訴訟法
第一編 總則
第一條 公訴ハ犯罪ヲ證明シ刑ヲ適用スルコトヲ目的トスルモノニシテ法律ニ定メタル區別ニ從ヒ檢事之ヲ行フ
第二條 私訴ハ犯罪ニ因リ生シタル損害ノ賠償、贓物ノ返還ヲ目的トスルモノニシテ民法ニ從ヒ被害者ニ屬ス
第三條 公訴ハ被害者ノ吿訴ヲ待テ起ルモノニ非ス又吿訴、私訴ノ抛棄ニ因テ消滅スルモノニ非ス但法律ニ於テ特ニ定メタル場合ハ此限ニ在ラス
第四條 私訴ハ其金額ノ多寡ニ拘ハラス公訴ニ付キ第二審ノ判決アルマテ何時ニテモ其公訴ニ附帶シテ之ヲ爲スコトヲ得
第三者ハ民事訴訟法ノ規定ニ從ヒ公訴附帶ノ私訴ニ參加スルコトヲ得
第五條 被吿人免訴又ハ無罪ノ言渡ヲ受ケタリト雖モ民法ニ從ヒ被害者ヨリ賠償、返還ヲ要ムル妨礙ト爲ルコトナカル可シ
第六條 公訴ヲ爲ス權ハ左ノ事項ニ因テ消滅ス
第一 被吿人ノ死去
第二 吿訴ヲ待テ受理ス可キ事件ニ付テハ吿訴ノ抛棄
第三 確定判決
第四 犯罪ノ後頒布シタル法律ニ因リ其刑ノ廢止
第五 大赦
第六 時效
第七條 私訴ヲ爲ス權ハ左ノ事項ニ因テ消滅ス
第一 抛棄又ハ和解
第二 確定判決
第三 時效
第八條 公訴ノ時效ハ左ノ期間ヲ經過スルニ因テ成就ス
第一 違警罪ハ六月
第二 輕罪ハ三年
第三 重罪ハ十年
第九條 私訴ノ時效ハ被害者無能力ナルトキ又ハ公訴ニ附帶セスシテ其訴ヲ爲シタルトキト雖モ公訴ノ時效ト其期間ヲ同クス
公訴ニ付キ既ニ刑ノ言渡アリタルトキハ民法ニ定メタル時效ノ例ニ從フ
第十條 公訴、私訴ノ時效ハ犯罪ノ日ヨリ其期間ヲ起算ス但繼續犯罪ニ付テハ其最終ノ日ヨリ起算ス
第十一條 時效ハ起訴、豫審又ハ公判ノ手續アリタルニ因リ其期間ノ經過ヲ中斷ス其未タ發覺セサル正犯、從犯及ヒ民事擔當人ニ付テモ亦同シ
時效ノ經過ヲ中斷シタルトキハ起訴、豫審又ハ公判ノ手續ヲ止メタル日ヨリ更ニ其期間ヲ起算ス
第十二條 起訴、豫審又ハ公判ノ手續其規定ニ背キタルニ因リ無效ニ屬スルトキハ時效ノ經過ヲ中斷スル效ナカル可シ但裁判所ノ管轄違ナルニ因リ其手續ノ無效ニ屬スルトキハ此限ニ在ラス
第十三條 被吿人免訴又ハ無罪ノ言渡ヲ受ケタル場合ニ於テ其訴訟ノ原由吿訴人、吿發人又ハ民事原吿人ノ惡意若クハ重過失ニ出テタルトキハ是等ノ者ニ對シ損害ノ償ヲ要ムルコトヲ得
被吿人刑ノ言渡ヲ受ケタリト雖モ吿訴人、吿發人又ハ民事原吿人ヨリ惡意若クハ重過失ニ因リ其犯罪ニ付キ過實ノ申立ヲ爲シタルトキ亦同シ
民事原吿人上訴ヲ爲シ敗訴シタルトキハ被吿人其上訴ニ因リ生シタル損害ノ償ヲ要ムルコトヲ得
要償ノ訴ハ本案ノ判決アルマテ何時ニテモ其裁判所ニ之ヲ爲スコトヲ得
第十四條 被吿人無罪ノ言渡ヲ受ケタリト雖モ判事、檢事、裁判所書記、執達吏、司法警察官又ハ巡査、憲兵卒ニ對シ要償ノ訴ヲ爲スコトヲ得ス但是等ノ官吏被吿人ニ對シ故意ヲ以テ損害ヲ加ヘ又ハ刑法ニ定メタル罪ヲ犯シタル場合ハ此限ニ在ラス
第十五條 此法律ニ於テ期間ヲ計算スルニ時ヲ以テスルモノハ卽時ヨリ起算シ日ヲ以テスルモノハ初日ヲ算入セス若シ最終ノ日休暇ニ當ルトキハ期間ニ算入ス可カラス但時效ノ期間ハ此限ニ在ラス
一日ト稱スルハ二十四時ヲ以テシ一月ト稱スルハ三十日ヲ以テシ一年ト稱スルハ暦ニ從フ
第十六條 此法律ニ定メタル期間ニハ海陸路八里每ニ一日ノ猶豫ヲ加フ八里ニ滿サルモノト雖モ三里以上ナルトキ亦同シ
島嶼又ハ外國ニ付テハ裁判所ニ於テ特ニ附加期間ヲ定ムルコトヲ得
第十七條 此法律ニ於テ訴訟ヲ爲スニ付キ定メタル期間ヲ經過シタルトキハ特別ノ場合ヲ除ク外其訴訟ヲ爲ス權ヲ失フ可シ
第十八條 訴訟關係人ハ裁判所所在ノ地ニ住セサルトキハ其地ニ假住所ヲ定メ裁判所ニ屆出ツ可シ否ラサルトキハ書類ノ送達ナシト雖モ異議ヲ申立ルコトヲ得ス
第十九條 書類ノ送達ハ此法律ニ於テ別ニ規定アラサルトキハ民事訴訟法ノ規定ヲ準用ス
第二十條 官吏、公吏ノ作ル可キ書類ハ其所屬官署、公署ノ印ヲ用ヒ年月日及ヒ場所ヲ記載シテ署名捺印シ每葉ニ契印ス可シ若シ官署、公署ノ印ヲ用ユルコト能ハサル場合ニ於テハ其事由ヲ記載ス可シ此規定ニ背キタルトキハ其書類ノ效ナカル可シ
官吏、公吏ニ非サル者ノ作ル可キ書類ニハ本人自ラ署名捺印ス可シ若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ官吏、公吏ノ面前ニ於テ作リタル場合ヲ除ク外立會人代署シ其事由ヲ記載ス可シ
第二十一條 官吏其他何人ニ限ラス訴訟ニ關スル書類ノ原本、正本又ハ謄本ヲ作ルニ付キ文字ヲ改竄ス可カラス若シ挿入、削除及ヒ欄外ノ記入アルトキハ之ニ認印ス可シ文字ヲ削除スルトキハ之ヲ讀得ヘキ爲メ字體ヲ存シ其數ヲ記載ス可シ此規定ニ背キタルトキハ其變更增減ノ效ナカル可シ
第二十二條 此法律ハ頒布以前ニ係ル犯罪ニモ亦之ヲ適用ス
頒布以前ニ爲シタル訴訟手續當時ノ法律ニ背カサルトキハ其效アリトス
第二十三條 此法律ハ陸海軍ニ關スル法律ヲ以テ處分ス可キ者ニ適用スルコトヲ得ス
第二十四條 此法律ニ於テ親屬ト稱スルハ刑法第百十四條第百十五條ノ規定ニ從フ
第二編 裁判所
第一章 裁判所ノ管轄
第二十五條 犯罪ノ種類ニ關スル裁判所ノ管轄ハ裁判所構成法ノ規定ニ從フ
管轄ヲ異ニスル數箇ノ犯罪ニ付キ同時ニ同一ノ被吿人ニ對シ訴アリタルトキハ上級ノ裁判所併セテ之ヲ管轄ス
第二十六條 同等ノ裁判所ニ於テハ犯罪ノ地又ハ被吿人所在ノ地ノ裁判所ヲ以テ豫審及ヒ公判ノ管轄ナリトス
第二十七條 數箇ノ裁判所ノ管轄ナル場合ニ於テハ其中ニテ最初豫審又ハ公判ニ著手シタル裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
第二十八條 從犯ハ正犯ヲ管轄スル裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
數箇ノ裁判所ノ管轄ニ屬スル正犯數名アルトキハ其中ニテ最初豫審又ハ公判ニ著手シタル裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
裁判所構成法第五十條第二號ニ記載シタル皇族ノ犯罪ニ付テハ其正犯、從犯ハ身分ノ如何ヲ問ハス大審院ニ於テ之ヲ管轄ス
第二十九條 外國ニ在テ犯シタル罪本邦ノ法律ニ依リ處斷ス可キモノニシテ內地ニ於テ被吿人ヲ逮捕シタルトキハ逮捕ノ地ノ裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス又外國ヨリ送致シタルトキハ送致ノ地ノ裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
闕席判決ヲ爲ス可キ場合ニ於テハ被吿人最後ノ住所ノ地ノ裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
第三十條 海船內ノ犯罪ニ付テハ定繫港又ハ犯罪後最初ニ著船シタル地ノ裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
第三十一條 管轄裁判所ノ指定ニ付キ申請ヲ爲ス場合及ヒ其決定ヲ爲ス裁判所ハ裁判所構成法第十條ノ規定ニ從フ
第三十二條 管轄裁判所ノ指定ニ付テノ申請ハ檢事其他訴訟關係人ヨリ之ヲ爲スコトヲ得
大審院ニ於テ管轄裁判所ヲ指定ス可キ場合ニ於テハ檢事總長ハ司法大臣ノ命ニ因リ又ハ職權ヲ以テ其申請ヲ爲スコトヲ得
第三十三條 管轄裁判所ノ指定ニ付キ申請ヲ爲サントスル者ハ申請ニ付キ管轄權ヲ有スル裁判所ニ其趣意書ヲ差出ス可シ
裁判所ハ書類ニ依リ其申請ヲ決定ス可シ
第三十四條 犯罪ノ性質、被吿人ノ身分、員數、地方ノ民心其他重大ナル事情ニ由リ裁判ニ對シ紛擾又ハ危險ヲ生スル恐アルトキハ公安ノ爲メ其事件ヲ同等ナル他ノ裁判所ニ移スコトヲ得
第三十五條 公安ノ爲メ裁判管轄ヲ移ス申請ハ司法大臣ノ命ニ因リ大審院檢事總長ヨリ其院ニ之ヲ爲ス可シ
大審院ニ於テハ訴訟關係人ノ申立ヲ聽クコトナク其申請ヲ決定スヘシ
第三十六條 被吿人ノ身分、地方ノ民心又ハ訴訟ノ模樣ニ因リ裁判ノ公平ヲ維持スルコト能ハサル恐アルトキハ嫌疑ノ爲メ其事件ヲ同等ナル他ノ裁判所ニ移スコトヲ得
第三十七條 嫌疑ノ爲メ裁判管轄ヲ移ス申請ハ管轄裁判所ノ檢事其他訴訟關係人ヨリ上級裁判所ニ之ヲ爲スコトヲ得
民事原吿人嫌疑アル裁判所ニ私訴ヲ爲シ又被吿人其裁判所ニ於テ異議ノ申立ナクシテ本案ニ付キ辯論ヲ爲シタルトキハ前項ノ申請ヲ爲スコトヲ得ス
第三十八條 嫌疑ノ爲メ裁判管轄ヲ移ス申請ヲ爲スニハ其趣意書二通ヲ原裁判所ニ差出ス可シ裁判所書記ハ速ニ一通ヲ相手方ニ送達シ相手方ハ其送達アリタルヨリ三日內ニ答辯書ヲ差出スコトヲ得
裁判所ニ於テ前項ノ申請ヲ受ケタルトキハ其訴訟手續ヲ停止ス可シ
第三十九條 前條ノ申請ニ付キ管轄權ヲ有スル裁判所ニ於テハ書類ニ依リ其申請ヲ決定ス可シ
第二章 裁判所職員ノ除斥及ヒ忌避、囘避
第四十條 判事ハ左ノ場合ニ於テ法律ニ依リ其職務ノ執行ヨリ除斥セラル可シ
第一 判事被害者ナルトキ
第二 判事又ハ其配偶者ト被吿人、被害者又ハ是等ノ者ノ配偶者ト親屬ナルトキ但姻族ニ付テハ婚姻ノ解除シタルトキト雖モ亦同シ
第三 判事其事件ニ付キ證人、鑑定人ト爲リタルトキ又ハ被吿人若クハ被害者ノ法律上代理人ナルトキ
第四 判事其事件ノ豫審終結ニ干與シ又ハ不服ヲ申立テラレタル裁判ノ前審ニ干與シタルトキ
第四十一條 判事法律ニ依リ職務ノ執行ヨリ除斥セラルル場合及ヒ偏頗ナル裁判ヲ爲スコトヲ疑フニ足ル可キ情況アル場合ニ於テハ檢事其他訴訟關係人ヨリ之ヲ忌避スルコトヲ得
第四十二條 忌避ノ申請及ヒ其裁判ニ付テハ民事訴訟法第三十四條乃至第三十八條ノ規定ニ從フ
第四十三條 忌避ノ申請アリタルトキハ公判ニ付テハ其辯論ヲ中止ス可シ豫審ニ付テハ仍ホ其處分ヲ繼續ス可シ但急速ヲ要セサル事件ニ付テハ豫審手續ヲ中止スルコトヲ得
第四十四條 判事自ラ第四十條ニ定メタル原由アルコトヲ認メ又ハ囘避ス可キモノト思料シタルトキハ忌避申請ノ管轄裁判所ニ囘避ノ申立ヲ爲ス可シ
其裁判所ニ於テハ囘避ノ申立ヲ裁判ス可シ
第四十五條 本章ノ規程ハ裁判所書記ニモ之ヲ準用ス但其裁判ハ書記所屬ノ裁判所之ヲ爲ス可シ
第三編 犯罪ノ搜査、起訴及ヒ豫審
第一章 搜査
第四十六條 檢事ハ後ニ記載シタル吿訴、吿發、現行犯其他ノ原由ニ因リ犯罪アルコトヲ認知シ又ハ犯罪アリト思料シタルトキハ其證憑及ヒ犯人ヲ搜査ス可シ
第四十七條 警視總監及ヒ地方長官ハ各其管轄地內ニ於テ司法警察官トシテ犯罪ヲ搜査スルニ付キ地方裁判所檢事ト同一ノ權ヲ有ス但東京府知事ハ此限ニ在ラス
左ニ記載シタル官吏、公吏ハ檢事ノ補佐トシテ其指揮ヲ受ケ司法警察官トシテ犯罪ヲ搜査ス可シ
第一 警視警部長、警部、警部補
第二 憲兵將校、下士
第三 島司
第四 郡長
第五 林務官
第六 市町村長
第四十八條 海船內ノ犯罪ニ付テハ船長ニ於テ司法警察ノ職務ヲ行フ可シ
第一節 吿訴及ヒ吿發
第四十九條 何人ニ限ラス犯罪ニ因リ損害ヲ受ケタル者ハ犯罪ノ地若クハ被吿人所在ノ地ノ檢事又ハ司法警察官ニ吿訴スルコトヲ得
司法警察官吿訴ヲ受ケタルトキハ違警罪ニ付キ卽決ヲ爲ス場合ヲ除ク外速ニ其書類ヲ管轄裁判所ノ檢事ニ送致ス可シ
第五十條 吿訴人ハ成ル可ク其證憑及ヒ事實參考ト爲ル可キコトヲ申立ツ可シ
第五十一條 吿訴ハ吿訴人ノ署名捺印シタル書面ヲ以テ之ヲ爲ス可シ
又吿訴ハ口述ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得其吿訴ヲ受ケタル官吏ハ調書ヲ作リ吿訴人ニ之ヲ讀聞カセ共ニ署名捺印ス可シ若シ吿訴人署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第五十二條 官吏、公吏其職務ヲ行フニ因リ犯罪アルコトヲ認知シ又ハ犯罪アリト思料シタルトキハ速ニ其職務ヲ行フ地ノ檢事ニ吿發ス可シ
吿發ハ官吏、公吏ノ署名捺印シタル書面ヲ以テ之ヲ爲シ成ル可ク證憑及ヒ事實參考ト爲ル可キ事物ヲ添フ可シ
第五十三條 何人ニ限ラス犯罪アルコトヲ認知シ又ハ犯罪アリト思料シタルトキハ第五十條第五十一條ノ規定ニ從ヒ其所在ノ地若クハ犯罪ノ地ノ檢事又ハ司法警察官ニ吿發スルコトヲ得
吿發ヲ受ケタル司法警察官ハ第四十九條ノ規定ニ從ヒ其處分ヲ爲ス可シ
第五十四條 吿訴、吿發ハ代人ニ委任シテ之ヲ爲スコトヲ得但第五十二條ノ場合ハ此限ニ在ラス
無能力者ノ吿訴ハ法律上代理人之ヲ爲スモ其效アリトス
第五十五條 吿訴、吿發ハ其取下ヲ爲シ又ハ其申立ヲ變更スルコトヲ得此場合ト雖モ第十三條ノ規定ニ從ヒ被吿人ヨリ要償ノ訴ヲ受クルコトアル可シ
第二節 現行犯罪
第五十六條 現行犯罪トハ現ニ行ヒ又ハ現ニ行ヒ終リタル際ニ發覺シタル罪ヲ謂フ
第五十七條 重罪、輕罪ニ付キ左ノ場合ハ現行犯ニ准ス
第一 犯人トシテ一人又ハ數人ニ追呼セラルルトキ
第二 兇器、贓物其他ノ物件ヲ携帶シ又ハ身體、被服ニ顯著ナル犯罪ノ痕跡アリテ犯人ト思料ス可キトキ
第三 家宅內ニ於テ犯シタル罪ヲ檢證スル爲メ又ハ其犯人ト思料ス可キ者ヲ逮捕スル爲メ戶主ヨリ官吏ニ其處分ヲ求メタルトキ
第五十八條 司法警察官及ヒ巡査、憲兵卒其職務ヲ行フニ當リ重罪又ハ禁錮ノ刑ニ該ル可キ輕罪ノ現行犯アルコトヲ知リタルトキハ令狀ヲ待タスシテ被吿人ヲ逮捕ス可シ
罰金ノ刑ニ該ル可キ輕罪又ハ違警罪ノ現行犯アルコトヲ知リタルトキハ被吿人ノ氏名、住所ヲ問ヒ輕罪ニ付テハ檢事、違警罪ニ付テハ卽決ヲ爲ス可キ官署ニ吿發ス可シ其氏名、住所分明ナラス又ハ逃亡ノ恐アル者ハ檢事若クハ官署ニ引致スルコトヲ得
第五十九條 巡査、憲兵卒被吿人ヲ逮捕シタルトキハ速ニ之ヲ司法警察官ニ引致ス可シ
其被吿人ヲ受取リタル司法警察官ハ逮捕及ヒ吿發ニ付テノ調書ヲ作ル可シ
第六十條 何人ニ限ラス重罪又ハ禁錮ノ刑ニ該ル可キ輕罪ノ現行犯アル場合ニ於テハ直チニ被吿人ヲ逮捕スルコトヲ得
第六十一條 前條ノ場合ニ於テ被吿人ヲ逮捕シタル者ハ之ヲ司法警察官ニ引致ス可シ若シ引致スルコトヲ得サルトキハ自己ノ氏名、職業、住所及ヒ其逮捕ノ事由ヲ陳述シ假ニ之ヲ巡査憲兵卒ニ引渡スコトヲ得
被吿人ヲ巡査、憲兵卒ニ引渡シタルトキハ速ニ吿訴又ハ吿發ヲ爲ス可シ
被吿人又ハ巡査憲兵卒ハ逮捕ヲ爲シタル者ニ對シ共ニ官署ニ至ルコトヲ求ムルヲ得但逮捕ヲ爲シタル者ハ正當ノ事由アルニ非サレハ其求ヲ拒ムコトヲ得ス
第二章 起訴
第六十二條 地方裁判所檢事犯罪ノ搜査ヲ終リタルトキハ左ノ手續ヲ爲ス可シ
第一 重罪ト思料シタル事件ニ付テハ豫審判事ニ豫審ヲ求ム可シ
第二 輕罪ト思料シタル事件ニ付テハ其輕重難易ニ從ヒ豫審ヲ求メ又ハ直チニ其裁判所ニ訴ヲ爲ス可シ
第三 裁判所構成法第十六條第二號第三號ニ記載シタル輕罪又ハ違警罪ト思料シタル事件ニ付テハ證據書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ區裁判所檢事ニ送致ス可シ
第六十三條 區裁判所檢事犯罪ノ搜査ヲ終リタル上裁判所構成法第十六條第一號第二號ニ記載シタル事件ト思料シタルトキハ其裁判所ニ訴ヲ爲ス可シ
第六十四條 檢事ハ被吿事件其裁判所ノ管轄ニ屬セサルモノト思料シタルトキハ之ヲ管轄裁判所ノ檢事ニ送致ス可シ
被吿事件罪ト爲ラス又ハ公訴受理ス可カラサルモノト思料シタルトキハ起訴ノ手續ヲ爲ス可カラス
第六十五條 前數條ノ場合ニ於テ被吿事件吿訴ニ係ルトキハ檢事ヨリ其處分ヲ被害者ニ通知ス可シ
第六十六條 檢事豫審ヲ求ムルトキハ證憑及ヒ事實參考ト爲ル可キ事物ヲ送致シ且臨檢ス可キ場所、逮捕ス可キ人名及ヒ證人ト爲ル可キ者ヲ指示ス可シ
第三章 豫審
第六十七條 現行ノ重罪、輕罪ヲ除ク外豫審判事ハ檢事ノ請求アルニ非サレハ豫審ニ取掛ルコトヲ得ス此規定ニ背キタルトキハ其請求ヨリ以前ニ係ル手續ノ效ナカル可シ
第六十八條 檢事ハ豫審中何時ニテモ豫審判事ニ請求シテ訴訟記錄ヲ檢閱スルコトヲ得但二十四時內ニ之ヲ還付ス可シ
又必用ナリトスル處分ニ付キ臨時其請求ヲ爲スコトヲ得
第一節 令狀
第六十九條 豫審判事ハ檢事ノ起訴ニ因リ重罪、輕罪ノ事件ヲ受理シタルトキハ被吿人ニ對シ先ツ召喚狀ヲ發ス可シ但召喚狀ノ送達ト被吿人出頭トノ間少クトモ二十四時ノ猶豫アル可シ
召喚狀ニ因リ出頭シタル被吿人ハ卽時ニ之ヲ訊問ス可シ又遲クトモ出頭ノ日ヲ過クルコトヲ得ス
第七十條 豫審判事ハ召喚狀ヲ受ク可キ被吿人其管轄地內ニ住セサルトキハ訊問ス可キ條件ヲ明示シテ被吿人所在ノ地ノ豫審判事又ハ區裁判所判事ニ其處分ヲ囑託スルコトヲ得
第七十一條 豫審判事又ハ受託判事ハ召喚狀ヲ受ケタル被吿人其日時ニ出頭セサルトキハ勾引狀ヲ發スルコトヲ得
第七十二條 豫審判事又ハ受託判事ハ左ノ場合ニ於テ直チニ勾引狀ヲ發スルコトヲ得
第一 被吿人定リタル住所アラサルトキ
第二 被吿人罪證ヲ湮滅シ又ハ逃亡スル恐アルトキ
第三 被吿人未遂罪又ハ脅迫罪ヲ犯シ仍ホ其目的ヲ遂ケントスル恐アルトキ
第七十三條 勾引狀執行ノ命ヲ受ケタル者ハ其令狀ヲ發シタル判事ニ被吿人ヲ引致ス可シ
勾引狀ヲ以テ引致シタル被吿人ハ四十八時內ニ之ヲ訊問ス可シ若シ其時間ヲ經過スルトキハ勾留狀ヲ發スルニ非サレハ當然之ヲ釋放ス可シ
第七十四條 豫審判事又ハ受託判事ハ召喚狀又ハ勾引狀ヲ受ケタル被吿人疾病其他正當ノ事由アリテ令狀ニ應スル能ハサルコトヲ疏明シタルトキハ被吿人ノ所在ニ就テ之ヲ訊問スルコトヲ得
第七十五條 勾留狀ハ被吿人ヲ訊問シタル後禁錮以上ノ刑ニ該ル可キモノト思料スルニ非サレハ之ヲ發スルコトヲ得ス但被吿人逃亡シタル場合ニ於テハ其訊問ヲ爲サスシテ之ヲ發スルコトヲ得
第七十六條 總テ令狀ニハ被吿事件及ヒ被吿人ノ氏名、職業、住所ヲ記載ス可シ但召喚狀ヲ除ク外其氏名分明ナラサルトキハ容貌、體格等ヲ明示ス可シ
又令狀ニハ之ヲ發スル年月日時ヲ記載シ判事及ヒ裁判所書記署名捺印ス可シ
召喚狀ハ執達吏ヲシテ被吿人ニ送達セシメ勾引狀、勾留狀ハ巡査、憲兵卒ヲシテ之ヲ執行セシム
第七十七條 勾引狀、勾留狀ハ時宜ニ因リ正本數通ヲ作リ巡査、憲兵卒數人ニ分付スルコトアル可シ
前項ノ令狀ヲ執行スルニハ被吿人ニ正本ヲ示シ其謄本ヲ下付ス可シ此場合ニ於テハ其正本、謄本ニ執行ノ場所、日時ヲ記載シ被吿人ヲシテ署名捺印セシム若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第七十八條 令狀執行ノ命ヲ受ケタル巡査、憲兵卒ハ被吿人其家宅若クハ他人ノ家宅ニ潛匿シタリト思料シタルトキハ其地ノ市町村長又其差支アルトキハ隣佑二名以上ノ立會ヲ求メ之ヲ搜索ス可シ
前項ノ場合ニ於テハ被吿人ヲ發見シタルト否トニ拘ハラス搜索調書ヲ作リ立會人ト共ニ署名捺印ス可シ
家宅搜索ハ日出前日沒後之ヲ爲スコトヲ得ス但旅店、割烹店其他夜間ト雖モ衆人ノ出入スル場所ニ付テハ其公開時間內ニ限リ何時ニテモ搜索ヲ爲スコトヲ得
第七十九條 豫審判事ハ被吿人他ノ管轄地內ニ潛匿シタルコトヲ知リ又ハ潛匿シタリト思料シタル場合ニ於テ被吿事件急速ヲ要スルトキハ巡査、憲兵卒ニ令狀ヲ帶行セシムルコトヲ得
巡査、憲兵卒ハ被吿人所在ノ地ノ豫審判事、檢事又ハ司法警察官ニ令狀ヲ示シテ卽時ニ執行ヲ求ム可シ
第八十條 豫審判事ハ被吿人所在ノ地ヲ覺知スルコト能ハサルトキハ各檢事長ニ被吿人ノ人相書ヲ送致シ搜査及ヒ逮捕ヲ爲ス可キコトヲ請求スルヲ得
請求ヲ受ケタル檢事長ハ其管轄地內ノ檢事ヲシテ搜索及ヒ逮捕ノ處分ヲ爲サシム可シ此場合ニ於テ檢事ノ發シタル逮捕狀ハ勾留狀ト同一ノ效ヲ有ス
第八十一條 豫備、後備ノ軍籍ニ在ラサル下士以下ノ軍人、軍屬ニ對シ令狀ヲ發シタルトキハ其所屬ノ長官又ハ隊長ニ令狀ヲ示ス可シ其長官又ハ隊長ハ已ムコトヲ得サル差支アルニ非サレハ本人ヲシテ速ニ令狀ニ應セシム可シ
第八十二條 勾留狀ヲ受ケタル被吿人ハ速ニ其令狀ニ記載シタル監獄署ニ引致ス可シ若シ其監獄署ニ引致スルコト能ハサルトキハ假ニ最近ノ監獄署ニ引致スルコトヲ得
何レノ場合ニ於テモ監獄署長ハ令狀ヲ檢閱シテ被吿人ヲ受取リ其證書ヲ渡ス可シ
第八十三條 令狀執行ノ命ヲ受ケタル巡査、憲兵卒ハ之ヲ執行シタルコト又執行スルコト能ハサルトキハ其事由ヲ令狀ノ正本ニ記載ス可シ
巡査、憲兵卒ハ令狀執行ニ關スル書類ヲ檢事ニ差出ス可シ
第八十四條 勾留狀ヲ受ク可キ被吿人既ニ監獄署ニ在ルトキハ執達吏ヲシテ之ヲ本人ニ送達セシム可シ
第八十五條 密室監禁ノ場合ヲ除ク外被吿人ハ監獄則ニ從ヒ官吏ノ立會ニ依リ其親屬、故舊又ハ辯護士ニ接見スルコトヲ得
書翰、書籍其他ノ書類ハ豫審判事又ハ檢事ノ檢閱ヲ經タル後ニ非サレハ被吿人ト外人ト之ヲ授受スルコトヲ許サス但豫審判事又ハ檢事ハ其書類ヲ留置クコトヲ得
第八十六條 豫審判事ハ被吿事件禁錮以上ノ刑ニ該ル可キモノニ非スト思料シタルトキハ豫審中何時ニテモ勾留狀ヲ取消ス可シ
第二節 密室監禁
第八十七條 豫審判事ハ豫審中事實發見ノ爲メ必要ナリト思料シタルトキハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ勾留狀ヲ受ケタル被吿人ヲ密室ニ監禁スル言渡ヲ爲スコトヲ得
第八十八條 密室監禁ノ言渡ヲ受ケタル被吿人ハ一名每ニ之ヲ別室ニ置キ豫審判事ノ允許ヲ得ルニ非サレハ他人ト接見シ又ハ書類其他ノ物品ヲ授受スルコトヲ許サス
第八十九條 密室監禁ハ十日ヲ超過ス可カラス但十日每ニ其言渡ヲ更改スルコトヲ得
言渡ヲ更改スルトキハ其事由ヲ裁判所長ニ報吿ス可シ
豫審判事ハ十日間ニ少クトモ二度被吿人ヲ訊問ス可シ
第三節 證據
第九十條 被吿人ノ自白、官吏ノ檢證調書、證據物件、證人及ヒ鑑定人ノ供述其他諸般ノ徵憑ハ判事ノ判斷ニ任ス
第九十一條 豫審判事ハ檢事若クハ被吿人ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ事實發見ノ爲メ必要ナリトスル證據徵憑ヲ集取ス可シ
第九十二條 豫審判事臨檢、搜索、物件差押又ハ被吿人、證人ノ訊問ヲ爲スニハ裁判所書記ノ立會ヲ必要トス書記ハ調書ヲ作リ豫審判事ト共ニ署名捺印ス可シ
裁判所外ニ於テ急遽ノ際書記ノ立會ヲ得ルコト能ハサルトキハ立會人二名アルヲ要ス但監獄署ニ就テ被吿人ヲ訊問スルトキハ其監獄署ノ官吏一名ヲシテ立會ハシム可シ
前項ノ場合ニ於テハ豫審判事自ラ調書ヲ作リ之ヲ讀聞カセ立會人ト共ニ署名捺印ス可シ
書記又ハ立會人ナクシテ爲シタル處分ハ其效ナカル可シ
第四節 被吿人ノ訊問及ヒ對質
第九十三條 豫審判事ハ先ツ被吿人ヲ訊問ス可シ但檢證ヲ爲シ又ハ證人ヲ訊問スルニ付キ急速ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス
第九十四條 豫審判事ハ被吿人ヲシテ其罪ヲ自白セシムル爲メ恐嚇又ハ詐言ヲ用ユ可カラス
第九十五條 裁判所書記ハ訊問及ヒ供述ヲ錄取シ被吿人ニ之ヲ讀聞カス可シ
豫審判事ハ被吿人ニ其供述ノ相違ナキヤ否ヤヲ問ヒ署名捺印セシム可シ若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第九十六條 被吿人其供述ニ付キ變更增減ス可キコトヲ申立タルトキハ更ニ訊問ヲ爲シ其訊問及ヒ供述ヲ錄取シ之ヲ讀聞カセ署名捺印ス可シ
第九十七條 被吿人ハ供述書ノ謄本ヲ求ムルコトヲ得
第九十八條 豫審判事ハ被吿人ノ共犯ナルコト、人違ナキコト其他事實ヲ發見ス可キ一切ノ模樣ヲ證スル爲メ必要ナリトスルトキハ被吿人ト他ノ被吿人、證人又ハ其他ノ者ト對質セシムルコトヲ得
第九十九條 書記ハ對質人ノ供述及ヒ對質ニ因リ生スル一切ノ事件ヲ錄取シ對質人ニ其對質ニ關スル部分ヲ讀聞カス可シ
第九十五條第九十六條ノ規定ハ對質ニ付テモ亦之ヲ適用ス
第百條 被吿人又ハ對質人聾ナルトキハ書面ヲ以テ問ヒ啞ナルトキハ書面ヲ以テ答ヘシム若シ聾者、啞者文字ヲ知ラサルトキハ通事ヲ命ス可シ
被吿人又ハ對質人國語ニ通セサルトキ亦同シ
第百一條 通事ハ正實ニ通譯ス可キ宣誓ヲ爲ス可シ
書記ハ通事ニ調書ヲ讀聞カセ之ニ署名捺印セシム可シ
第百三十六條第百三十七條第百四十一條ノ規定ハ本條ニモ亦之ヲ適用ス
第五節 檢證、搜索及ヒ物件差押
第百二條 豫審判事ハ事實發見ノ爲メ必要ナリトスルトキハ犯所又ハ其他ノ場所ニ臨ミ檢證ヲ爲ス可シ
第百三條 豫審判事ハ犯罪ノ性質、方法、日時、場所及ヒ被吿人ノ人違ナキコトヲ證明ス可キ模樣ニ付キ調書ヲ作ル可シ
又被吿人ノ利益ト爲ル可キ模樣ヲモ記載ス可シ
第百四條 豫審判事ハ被吿人ノ住居又ハ事實ヲ證明ス可キ物件ヲ藏匿スル疑アル者ノ住居ニ臨檢シ搜索ヲ爲スコトヲ得
被吿人又ハ物件ヲ藏匿スル者其住居ニ在ラサルトキハ同居ノ親屬若シ其在ラサルトキハ市町村長ノ立會アルヲ要ス
第七十八條第三項ノ規定ハ本條ニモ亦之ヲ適用ス
第百五條 豫審判事ハ被吿人又ハ事實ヲ證明ス可キ物件ヲ藏匿スル疑アル者ノ身體及ヒ之ニ屬スル物件ニ就キ搜索ヲ爲スコトヲ得
第百六條 豫審判事ハ臨檢、搜索ニ因リ發見シタル物件其事實ヲ證明スルニ足ル可シト思料シタルトキハ之ヲ差押ヘテ認印ヲ爲シ目錄ヲ作ル可シ但其物件ヲ監護シ又ハ遞送スルハ裁判所書記之ヲ擔任ス可シ
第百七條 豫審判事ハ臨檢、搜索、物件差押ニ付キ其日ニ處分ヲ終ラサルトキハ場所ノ周圍ヲ閉鎖シ又ハ看守者ヲ置クコトヲ得
第百八條 被吿人ハ臨檢、搜索、物件差押ノ處分ニ立會ヒ又ハ代人ヲシテ立會ハシムルコトヲ得
若シ被吿人勾留ヲ受ケタルトキハ自ラ立會フコトヲ得ス但豫審判事本人ノ立會ヲ必要ナリトスルトキハ此限ニ在ラス
第百九條 豫審判事ハ被吿人物件差押ノ處分ニ立會ヒタルト否トヲ問ハス其物件ヲ被吿人ニ示シ辯解ヲ爲サシム可シ
其訊問及ヒ供述ハ之ヲ調書ニ記載ス可シ
第百十條 豫審判事ハ臨檢、搜索ノ場所ニ於テ證人ノ供述ヲ聽クコトヲ必要ナリトスルトキハ第百十五條以下ノ規定ニ從ヒ之ヲ訊問ス可シ
第百十一條 豫審判事ハ前數條ニ記載シタル處分中何人ニ限ラス允許ヲ得スシテ其場所ニ出入スルコトヲ禁スルヲ得
若シ其禁ヲ犯ス者アルトキハ之ヲ逐斥シ又ハ處分ヲ終ルマテ之ヲ留置スルコトヲ得
第百十二條 豫審判事ハ其管轄地內ト雖モ時宜ニ因リ臨檢、搜索、物件差押ノ事ヲ區裁判所判事ニ囑託スルコトヲ得
第百十三條 豫審判事ハ事實發見ノ爲メ必要ナリトスルトキハ驛遞、電信、鐵道ノ官署、諸會社ニ其事由ヲ通知シ被吿人又ハ豫審事件ニ關係アル者ヨリ發シ若クハ此等ノ者ニ對シ發シタル書類、電報又ハ物件ヲ受取開披スルコトヲ得但受取證書ヲ渡ス可シ
第百十四條 證言ヲ拒ムコトヲ得ル者ノ所持スル物件ニシテ其默祕ス可キ義務アル事情ニ關スルモノハ其承諾アルニ非サレハ之ヲ差押ヘ及ヒ開披スルコトヲ得ス
第六節 證人訊問
第百十五條 證人ノ呼出狀ニハ其氏名、住所及ヒ職業ヲ記載ス可シ
又出頭ノ日時、場所及ヒ呼出ニ應セサルトキハ罰金ヲ言渡シ且勾引スルコトアル可キ旨ヲ記載ス可シ
呼出狀ノ送達ト出頭トノ間少クトモ二十四時ノ猶豫アル可シ
第百十六條 證人疾病其他正當ノ事故ニ因リ呼出ニ應スル能ハサルコトヲ疏明シタルトキハ豫審判事其所在ニ就テ之ヲ訊問ス可シ
第百十七條 證人ト爲ル可キ者豫備、後備ノ軍籍ニ在ラサル軍人、軍屬ナルトキハ其所屬ノ長官又ハ隊長ヲ經由シテ呼出狀ヲ送達ス其長官又ハ隊長ハ卽時ニ出頭セシム可キコトヲ認可シ又ハ職務上已ムコトヲ得サル差支アルトキハ其事由ヲ付シテ出頭ノ延期ヲ豫審判事ニ請求ス可シ
第百十八條 豫審判事ハ前二條ニ定メタル差支ノ場合ヲ除ク外證人呼出ニ應セサルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ其不參ニ因リ生シタル費用ノ賠償及ヒ二圓以上二十圓以下ノ罰金ヲ言渡ス可シ但其決定ニ對シテハ抗吿ヲ爲スコトヲ得此抗吿ハ執行ヲ停止スル效力ヲ有ス
豫審判事ハ其證人ニ對シ罰金ノ言渡書ト共ニ再度ノ呼出狀ヲ送達シ又ハ直チニ勾引狀ヲ發スルコトヲ得
若シ證人再度ノ呼出ニ應セサルトキハ費用賠償ノ外二倍ノ罰金ヲ言渡ス可シ又勾引狀ヲ發スルコトヲ得
豫備、後備ノ軍籍ニ在ラサル軍人、軍屬ニ對スル罰金ノ言渡及ヒ執行ハ軍事裁判所又ハ所屬ノ長官又ハ隊長ニ囑託シテ之ヲ爲ス可シ其勾引ニ付テモ亦同シ
第百十九條 豫審判事ハ證人罰金言渡書ノ送達アリタルヨリ三日內ニ其出頭セサリシコトヲ正當ノ理由ヲ以テ辯解シタルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ其罰金及ヒ賠償ノ決定ヲ取消ス可シ
第百二十條 證人呼出狀ニ因リ出頭シタルトキハ其呼出狀ヲ差出ス可シ若シ之ヲ遺失シタルトキハ其人違ナキコトヲ疏明ス可シ
第百二十一條 豫審判事ハ證人トシテ呼出シタル者ニ對シ其氏名、年齡、職業、住所及ヒ第百二十三條ニ記載シタル者ナリヤ否ヤヲ問フ可シ
第百二十二條 豫審判事ハ證人ヲシテ良心ニ從ヒ眞實ヲ述ヘ何事ヲモ默祕セス又何事ヲモ附加セサル旨ヲ宣誓セシム可シ
裁判所書記ハ證人ニ宣誓書ヲ讀聞カセ之ニ署名捺印セシム若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第百二十三條 左ニ記載シタル者ハ證人ト爲ルコトヲ許サス但宣誓ヲ爲サシメスシテ事實參考ノ爲メ其供述ヲ聽クコトヲ得
第一 民事原吿人
第二 民事原吿人及ヒ被吿人ノ親屬但姻族ニ付テハ婚姻ノ解除シタルトキト雖モ亦同シ
第三 民事原吿人及ヒ被吿人ノ後見人又ハ此等ノ者ノ後見ヲ受クル者
第四 民事原吿人及ヒ被吿人ノ雇人又ハ同居人
第百二十四條 左ニ記載シタル者亦前條ニ同シ
第一 十六歲未滿ノ幼者
第二 知覺精神ノ不十分ナル者
第三 瘖啞者
第四 公權ヲ剝奪セラレ又ハ公權ヲ停止セラレタル者
第五 重罪事件又ハ重禁錮ノ刑ニ該ル可キ輕罪事件ニ付キ公判ニ付セラレタル者
第六 現ニ供述ヲ爲ス可キ事件ニ付キ曾テ訴ヲ受ケ其證憑十分ナラサルニ因リ免訴ノ言渡ヲ受ケタル者
第百二十五條 左ニ記載シタル場合ニ於テハ證言ヲ拒ムコトヲ得
第一 官吏、公吏又ハ官吏、公吏タリシ者其職務上默祕ス可キ義務アル事情ニ闕スルトキ
第二 醫師、藥商、穩婆、辯護士、辯護人、公證人、神職、僧侶其身分、職業ノ爲メ委託ヲ受ケタルニ因テ知リタル事實ニシテ默祕ス可キモノニ關スルトキ
證言ヲ拒ム者ハ拒絕ノ原因タル事實ヲ開示シ且之ヲ疏明ス可シ
第百二十六條 證人宣誓ヲ肯セス又ハ宣誓シテ供述ヲ肯セサルトキハ豫審判事檢事ノ意見ヲ聽キ刑法第百八十條ニ從ヒ罰金ヲ言渡ス可シ但其決定ニ對シテハ抗吿ヲ爲スコトヲ得此抗吿ハ執行ヲ停止スル效力ヲ有ス
豫備、後備ノ軍籍ニ在ラサル軍人、軍屬ニ對スル罰金ノ言渡及ヒ執行ハ軍事裁判所ニ囑託シテ之ヲ爲ス可シ
第百二十七條 證人ハ他ノ證人及ヒ被吿人ト各別ニ之ヲ訊問ス可シ但事實發見ノ爲メ必要ナリトスルトキハ證人ト他ノ證人又ハ被吿人ト對質セシムルコトヲ得
第百二十八條 豫審判事ハ證人ノ供述ヲ確實ナラシムル爲メ必要ナリトスルトキハ犯所又ハ其他ノ場所ニ同行スルコトヲ得
若シ證人同行スルコトヲ肯セサルトキハ第百十八條ノ規定ニ從フ
第百二十九條 第百條第百一條ノ規定ハ證人ニ付テモ亦之ヲ適用ス
第百三十條 皇族證人ナルトキハ豫審判事其所在ニ就キ訊問ヲ爲ス可シ
各大臣ニ付テハ其官廳ノ所在地ニ於テ之ヲ訊問ス若シ其所在地外ニ滯在スルトキハ其現在地ニ於テ之ヲ訊問ス可シ
帝國議會ノ議員ニ付テハ開會期間其議會ノ所在地ニ滯在中ハ其所在地ニ於テ之ヲ訊問ス可シ
第百三十一條 豫審判事ハ證人ニ其供述ノ相違ナキヤ否ヤヲ知ラシムル爲メ裁判所書記ヲシテ調書ヲ讀聞カセシム可シ
證人ハ其供述ヲ變更增減センコトヲ請求スルヲ得書記ハ其請求アリタルコト及ヒ變更增減ノ條件ヲ調書ニ記載ス可シ
調書ニハ豫審判事、書記及ヒ證人共ニ署名捺印ス可シ若シ證人署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第百三十二條 豫審判事ハ證人裁判所所在ノ地ニ住セサルトキハ其住居ノ地ノ區裁判所判事ニ訊問ノ事ヲ囑託スルコトヲ得
若シ證人管轄地外ニ在ルトキハ其所在ノ地ノ豫審判事又ハ區裁判所判事ニ訊問ノ事ヲ囑託スルコトヲ得
第百三十三條 第百十八條第百十九條及ヒ第百二十六條ニ揭ケタル證人ニ對スル豫審判事ノ權ハ受託判事ニモ屬ス
第百三十四條 證人ハ出頭ニ付テノ旅費、日當ヲ要ムルコトヲ得
第七節 鑑定
第百三十五條 豫審判事ハ犯罪ノ性質、方法及ヒ結果ヲ分明ナラシムル爲メ鑑定ヲ必要ナリトスルトキハ學術、職業ニ因リ鑑定スルコトヲ得ヘキ者一名又ハ數名ヲシテ鑑定ヲ爲サシム可シ
鑑定ノ爲メ必要ナリトスルトキハ死體ノ解剖ヲ命シ又既ニ埋葬シタル死體ヲ解剖シ若クハ檢視スル爲メ墳墓ノ發掘ヲ命スルコトヲ得
第百三十六條 鑑定ニ付テハ第百十五條第百十八條乃至第百二十一條第百二十三條乃至第百二十五條及ヒ第百二十八條ノ規定ヲ準用ス但鑑定人ニ對シテハ勾引狀ヲ發スルコトヲ得ス
第百三十七條 鑑定人ハ公平且正實ニ鑑定ス可キ宣誓ヲ爲ス可シ其宣誓ハ第百二十二條ノ式ニ從フ
第百三十八條 鑑定人宣誓ヲ肯セス又ハ宣誓シテ鑑定ヲ肯セサルトキハ豫審判事檢事ノ意見ヲ聽キ刑法第百七十九條ニ從ヒ罰金ヲ言渡ス可シ但其決定ニ對シテハ抗吿ヲ爲スコトヲ得此抗吿ハ執行ヲ停止スル效力ヲ有ス
第百三十九條 豫審判事ハ鑑定人ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ鑑定人ヲ增加シ又ハ別人ヲシテ鑑定セシムルコトヲ得
第百四十條 鑑定人ハ鑑定書ヲ作リ其手續、結果及ヒ鑑定ヲ爲シタル時間ヲ詳記ス可シ
若シ結果ヲ得サルトキハ其推測スル所ヲ記載ス可シ
鑑定人意見ヲ異ニスルトキハ各自鑑定書ヲ作リ又ハ各自ノ意見ヲ一箇ノ鑑定書ニ記載ス可シ
第百四十一條 鑑定人ハ旅費、日當及ヒ立替金ノ辨濟ヲ要ムルコトヲ得
第八節 現行犯ノ豫審
第百四十二條 豫審判事ハ檢事ヨリ先ニ重罪又ハ地方裁判所ノ管轄ニ屬スル輕罪ノ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ其事件急速ヲ要スルトキハ檢事ノ請求ヲ待タス直チニ其旨ヲ通知シ豫審ニ取掛ルコトヲ得
豫審判事ハ犯所ニ臨檢シ令狀ヲ發シ其他此章ノ規定ニ從ヒ豫審ノ處分ヲ爲スコトヲ得
第百四十三條 前條ノ場合ニ於テハ檢事ノ起訴ナシト雖モ豫審判事檢證調書ヲ作ルヲ以テ公訴ヲ受理シタルモノトス其調書ニハ現行ノ重罪又ハ輕罪ナルコトヲ記載ス可シ
豫審判事ハ速ニ書類ヲ檢事ニ送致ス可シ但檢事ヨリ其豫審手續ヲ繼續ス可キモノニ非サル意見アリト雖モ通常ノ規定ニ從ヒ之ヲ終結ス可シ
第百四十四條 地方裁判所檢事及ヒ區裁判所檢事ハ豫審判事ヨリ先ニ重罪又ハ地方裁判所ノ管轄ニ屬スル輕罪ノ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ其事件急速ヲ要スルトキハ豫審判事ヲ待ツコトナク其旨ヲ通知シテ犯所ニ臨檢シ豫審判事ニ屬スル處分ヲ爲スコトヲ得但罰金及ヒ費用賠償ノ言渡ヲ爲スコトヲ得ス
證人及ヒ鑑定人ノ供述ハ宣誓ヲ用ユルコトナク之ヲ聽ク可シ
第百四十五條 前條ノ場合ニ於テ地方裁判所檢事ハ證憑書類ニ意見書ヲ添ヘ速ニ之ヲ豫審判事ニ送致シ區裁判所檢事ハ之ヲ地方裁判所檢事ニ送致ス可シ
第百四十六條 區裁判所檢事其裁判所ノ管轄ニ屬スル輕罪ノ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ其事件急速ヲ要スルトキハ第百四十四條ニ規定シタル處分ヲ爲スコトヲ得
若シ被吿人ニ對シ勾留狀ヲ發シタルトキハ三日內ニ起訴ノ手續ヲ爲ス可シ
第百四十七條 第百四十四條第百四十六條ニ於テ檢事ニ許シタル職務ハ司法警察官モ亦假ニ之ヲ行フコトヲ得但勾留狀ヲ發スルコトヲ得ス
司法警察官ハ證憑書類ニ意見書ヲ添ヘ速ニ之ヲ管轄裁判所ノ檢事ニ送致シ且被吿人ヲ逮捕シタルトキハ共ニ之ヲ送致ス可シ
第百四十八條 地方裁判所檢事ハ區裁判所檢事又ハ司法警察官ヨリ事件ノ送致ヲ受ケタルトキハ一切ノ書類ニ請求書ヲ添ヘ豫審判事ニ送致ス可シ
若シ同時ニ被吿人ヲ受取リタルトキハ二十四時內ニ之ヲ訊問シ勾留狀ヲ發シ又ハ發セスシテ前項ノ手續ヲ爲ス可シ
第百四十九條 地方裁判所檢事ハ何レノ場合ニ於テモ輕罪ノ現行犯ニ係リ豫審ヲ求ムルニ及ハスト思料シタルトキハ勾留狀ヲ發シタルト否トニ拘ハラス直チニ其裁判所ニ訴ヲ爲スコトヲ得
被吿事件罪ト爲ラス又ハ公訴受理ス可カラサルモノト思料シタルトキハ起訴ノ手續ヲ爲ス可カラス
第九節 保釋
第百五十條 豫審判事ハ豫審中勾留狀ヲ受ケタル被吿人ノ請求ニ因リ檢事ノ意見ヲ聽キ何時ニテモ呼出ニ應シ出頭ス可キ證書ヲ差出シ且保證ヲ立テシメ保釋ヲ許スコトヲ得
被吿人無能力ナルトキハ法律上代理人ヨリ保釋ヲ求ムルコトヲ得
第百五十一條 保證ノ金額ハ豫審判事之ヲ定メ保釋ヲ許ス言渡書ニ記載ス可シ
第百五十二條 保證ヲ爲スニハ被吿人又ハ法律上代理人ヨリ金錢若クハ有價證券ヲ差出ス可シ
又裁判所ノ管轄地內ニ住シ且十分ナル資力アル者ヨリ金額ニ充ツ可キ保證書ヲ差出スコトヲ得
第百五十三條 保釋人被吿人ヲ呼出ストキハ出頭ヨリ二十四時前ニ其報吿ヲ爲ス可シ
第百五十四條 保釋中被吿人呼出ヲ受ケ正當ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ保證金ノ全部又ハ一分ヲ沒收ス可シ
第百五十五條 保證金ヲ沒收スルニハ檢事ノ意見ヲ聽キ豫審判事其言渡ヲ爲ス可シ
第百五十六條 豫審判事保證金ヲ沒收シタルトキハ保釋ノ言渡ヲ取消ス可シ
又豫審中保釋ノ言渡ヲ取消スコトヲ必要ナリトスルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ其言渡ヲ取消ス可シ
第百五十七條 豫審判事保證金ヲ沒收シタル後免訴ノ言渡、違警罪又ハ罰金ニ該ル可キ輕罪ニ付キ公判ニ付スル言渡ヲ爲シタルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ前ニ沒收シタル金額ヲ還付ス可シ
第百五十八條 豫審判事免訴ノ言渡、違警罪又ハ罰金ニ該ル可キ輕罪ニ付キ公判ニ付スル言渡ヲ爲シ若クハ保釋ノ言渡ヲ取消シタルトキハ保證金ヲ還付ス可シ
第百五十九條 豫審判事ハ保釋ノ請求アルト否トヲ問ハス檢事ノ意見ヲ聽キ被吿人ヲ其親屬又ハ故舊ニ責付スルコトヲ得
責付ヲ爲スニハ親屬又ハ故舊ヨリ何時ニテモ呼出ニ應シ被吿人ヲ出頭セシム可キ證書ヲ差出サシムヘシ
第百六十條 責付中被吿人ヲ呼出ストキハ出頭ヨリ二十四時前ニ其報知ヲ爲ス可シ
被吿人正當ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ責付ノ言渡ヲ取消ス可シ
第十節 豫審終結
第百六十一條 豫審判事ハ被吿事件其管轄ニ非ストシ又ハ他ニ取調ヲ要スルコトナシト思料シタルトキハ豫審終結ノ處分ニ付キ檢事ノ意見ヲ求ムル爲メ訴訟記錄ヲ送致ス可シ
檢事ハ訴訟記錄ニ意見ヲ付シ三日內ニ之ヲ還付ス可シ
第百六十二條 檢事ハ豫審十分ナラスト思料シタルトキハ其條件ニ付キ更ニ取調ヲ請求スルコトヲ得若シ豫審判事其請求ヲ肯セサルトキハ檢事ハ訴訟記錄ニ意見ヲ付シ二十四時內ニ之ヲ還付ス可シ
第百六十三條 豫審判事ハ檢事ノ意見如何ナルヲ問ハス後數條ニ記載シタル決定ヲ以テ豫審ヲ終結ス可シ
第百六十四條 豫審判事ハ被吿事件其管轄ニ非サルコトヲ認メタルトキハ其旨ヲ言渡ス可シ若シ勾留ヲ要スルモノト認メタルトキハ前ニ發シタル令狀ヲ存シ又ハ新ニ令狀ヲ發シ其事件ヲ檢事ニ交付ス可シ
第百六十五條 豫審判事ハ左ノ場合ニ於テ免訴ノ言渡ヲ爲シ且被吿人勾留ヲ受ケタルトキハ放免ノ言渡ヲ爲ス可シ
第一 犯罪ノ證憑十分ナラサルトキ
第二 被吿事件罪ト爲ラサルトキ
第三 公訴ノ時效ニ罹リタルトキ
第四 確定判決ヲ經タルトキ
第五 大赦アリタルトキ
第六 法律ニ於テ其罪ヲ全免スルトキ
第百六十六條 被吿事件違警罪ナリト思料シタルトキハ區裁判所ニ移ス言渡ヲ爲シ且被吿人勾留ヲ受ケタルトキハ釋放ノ言渡ヲ爲ス可シ
第百六十七條 被吿事件裁判所構成法第十六條第二號ニ記載シタル輕罪ナリト思料シタルトキハ區裁判所ニ移ス言渡ヲ爲シ其他ノ輕罪ナリト思料シタルトキハ其裁判所ノ輕罪公判ニ付スル言渡ヲ爲ス可シ
被吿人勾留ヲ受ケタル場合ニ於テ罰金ノ刑ニ該ルモノト思料シタルトキハ釋放ノ言渡ヲ爲ス可シ
禁錮ノ刑ニ該ル可キモノト思料シタルトキハ保釋ヲ許シ又ハ責付ヲ爲スコトヲ得若シ被吿人未タ勾留ヲ受ケサルトキハ令狀ヲ發スルコトヲ得
第百六十八條 被吿事件重罪ナリト思料シタルトキハ其裁判所ノ重罪公判ニ付スル言渡ヲ爲ス可シ若シ保釋ヲ許シ又ハ責付ヲ爲シタルトキハ其言渡ヲ取消シ被吿人未タ勾留ヲ受ケサルトキハ令狀ヲ發ス可シ
第百六十九條 豫審終結ノ決定ニハ事實及ヒ法律ニ依リ其理由ヲ付ス可シ
管轄違ノ言渡ヲ爲スニハ其原由ヲ明示シ若シ被吿人ヲ勾留ス可キトキハ其原由ヲ明示ス可シ
免訴ノ言渡ヲ爲スニハ被吿事件罪ト爲ラサルコト、公訴受理ス可カラサルコト及ヒ其原由又犯罪ノ證憑十分ナラサルトキハ其旨ヲ明示ス可シ
區裁判所ニ移ス言渡又ハ公判ニ付スル言渡ヲ爲スニハ犯罪ノ性質、模樣、證憑ノ十分ナルコト及ヒ其罪ヲ罰ス可キ法律ノ正條ヲ明示ス可シ
第百七十條 前條ノ決定ニハ第七十六條ノ規定ニ從ヒ被吿人ノ氏名等ヲ明示ス可シ
第百七十一條 豫審終結ノ決定ノ正本ハ速ニ檢事及ヒ被吿人ニ送達ス可シ
第百七十二條 檢事ハ重罪公判ニ付スル決定又ハ免訴若クハ管轄違ノ決定ニ對シ抗吿ヲ爲スコトヲ得
被吿人ハ重罪公判ニ付スル決定ニ對シ抗吿ヲ爲スコトヲ得
第百七十三條 重罪公判ニ付スル場合ニ於テ被吿人ニ送達ス可キ決定ニハ其決定ニ對シ抗吿ヲ爲スヲ得ヘキコト及ヒ其期間ヲ記載ス可シ其記載ナキトキハ更ニ通常ノ規定ニ從ヒ決定ノ送達アルマテ抗吿期間ノ經過ヲ停止ス
第百七十四條 豫審終結ノ決定ハ抗吿ノ期間內又抗吿アリタルトキハ其決定アルマテ執行ヲ停止ス但保釋責付ノ言渡ヲ取消ス決定ハ其執行ヲ停止セス
第百七十五條 豫審ニ於テ被吿人免訴ノ言渡ヲ受ケ其決定確定シタルトキハ罪名ノ變更アルモ同一ノ事件ニ付キ再ヒ訴ヲ受クルコトナカル可シ但新ナル證憑アルトキハ此限ニ在ラス
新ナル證憑アルトキハ檢事ヨリ之ヲ其裁判所ニ差出シ裁判所ニ於テハ其起訴ヲ許ス可キヤ否ヤヲ決定ス可シ
第四編 公判
第一章 通則
第百七十六條 公判ハ判事、檢事、裁判所書記出廷シテ之ヲ爲スモノトス
第百七十七條 被吿人ハ公廷ニ於テ身體ノ拘束ヲ受クルコトナシ但守卒ヲ置クコトアル可シ
第百七十八條 裁判所ニ於テハ何時ニテモ禁錮以上ノ刑ニ該ル可キ被吿人ニ對シ勾引狀又ハ勾留狀ヲ發スルコトヲ得
第百七十九條 被吿人ハ辯論ノ爲メ辯護人ヲ用ユルコトヲ得
辯護人ハ裁判所所屬ノ辯護士中ヨリ之ヲ選任ス可シ但裁判所ノ允許ヲ得タルトキハ辯護士ニ非サル者ト雖モ辯護人ト爲スコトヲ得
第百八十條 辯護人ハ裁判所ニ於テ訴訟記錄ヲ閱讀シ且之ヲ抄寫スルコトヲ得
第百八十一條 被吿人ノ法律上代理人ハ其補佐人ト爲リ辯論ニ與カルコトヲ得
第百八十二條 被吿人出頭シテ辯論スルコトヲ肯セサルトキハ對席トシテ裁判ヲ爲ス可シ
被吿人審問ヲ妨ケ又ハ不當ノ行狀ヲ爲シ裁判長ヨリ退廷又ハ勾留ヲ命セラレタルトキ亦同シ若シ辯論二日ニ涉ルトキハ更ニ被吿人ヲ出頭セシム可シ
第百八十三條 被吿人精神錯亂又ハ疾病ニ因リ出頭スルコト能ハサルトキハ痊癒ニ至ルマテ辯論ヲ停止ス但罰金以下ノ刑ニ該ル可キ事件ニ付キ被吿人代人ヲ差出シタルトキハ此限ニ在ラス
辯論ニ取掛リタル後被吿人精神錯亂シタルトキハ其痊癒ノ後新ニ辯論ヲ爲ス可シ其他ノ疾病ニ罹ルトキハ痊癒ノ後前ニ停止シタルヨリ以後ノ手續ヲ爲ス可シ但五日間辯論ヲ停止シ又ハ檢事其他訴訟關係人ノ請求アリタルトキハ新ニ辯論ヲ爲ス可シ
若シ被吿事件及ヒ法律ノ適用ニ付キ既ニ辯論ヲ終リタルトキハ其痊癒ノ後更ニ取調ヲ爲スコトナク裁判ヲ爲ス可シ
第百八十四條 裁判所ニ於テハ訴ヲ受ケサル事件ニ付キ裁判ヲ爲ス可カラス但辯論ニ因リ發見シタル附帶ノ犯罪ニ付テハ此限ニ在ラス
若シ附帶ノ犯罪ニ付キ豫審ヲ必要ナリトスルトキハ本案ノ辯論ヲ停止スルコトヲ得
第百八十五條 左ノ場合ニ於テハ附帶ノ犯罪ナリトス
第一 同一ノ場所ニ於テ同時ニ一人又ハ數人ニテ數罪ヲ犯シタルトキ
第二 數人通謀シテ日時又ハ場所ヲ異ニシ數罪ヲ犯シタルトキ
第三 自己又ハ他人ノ犯罪ヲ容易ニスル爲メ又ハ其罪ヲ免カルル爲メ他ノ罪ヲ犯シタルトキ
第百八十六條 檢事及ヒ被吿人ハ第一審第二審ヲ問ハス本案ノ判決アルマテ何時ニテモ管轄違又ハ公訴受理ス可カラサル申立ヲ爲スコトヲ得
裁判所ニ於テハ職權ヲ以テ管轄違又ハ公訴受理ス可カラサル言渡ヲ爲スコトヲ得
第百八十七條 裁判所ニ於テ前條ノ申立ヲ却下シタルトキハ本案ノ判決ヲ待タス直チニ控訴又ハ上吿ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ本案ノ辯論ヲ停止ス
第百八十八條 調書ヲ作リタル司法警察官ハ檢事其他訴訟關係人ノ請求ニ因リ又ハ裁判所ノ職權ヲ以テ證人トシテ之ヲ呼出スコトヲ得
第百八十九條 豫審ニ於テ訊問シタル證人又ハ鑑定ヲ爲シタル鑑定人ハ更ニ之ヲ呼出スコトヲ得
豫審ニ於ケル證人ノ供述書又ハ鑑定人ノ鑑定書ハ更ニ其證人、鑑定人ヲ呼出ササルトキ、證人、鑑定人呼出ヲ受ケ出頭セサルトキ又ハ豫審及ヒ公判ニ於ケル供述、鑑定ヲ比較ス可キトキハ檢事其他訴訟關係人ノ請求ニ因リ又ハ裁判長ノ職權ヲ以テ之ヲ朗讀セシムルコトヲ得
第百九十條 第百十五條以下ノ規定ハ公判ノ證人ニ第百三十五條以下ノ規定ハ公判ノ鑑定人ニモ亦之ヲ準用ス
第百九十一條 證人疾病其他正當ノ事故ニ因リ出頭スル能ハサルコトヲ疏明シタルトキハ裁判所ハ其部員一名ニ命シ又ハ區裁判所判事ニ囑託シ其所在ニ就テ之ヲ訊問セシムルコトヲ得
第百九十二條 檢事、被吿人及ヒ民事原吿人ノ請求ニ因リ呼出ス證人ノ氏名目錄ハ開廷ヨリ一日前之ヲ各相手方ニ送達ス可シ
第百九十三條 證人ハ互ニ言語ヲ接ス可カラス又供述前辯論ニ立會フ可カラス既ニ供述ヲ爲シタル後ハ公廷ニ留ル可シ但裁判長ヨリ退去ノ允許ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第百九十四條 證人及ヒ被吿人ノ訊問ハ裁判長之ヲ爲スモノトス
陪席判事及ヒ檢事ハ裁判長ニ吿ケ證人及ヒ被吿人ヲ訊問スルコトヲ得
訴訟關係人ハ辯論ニ必要ナリトスル事項ヲ分明ナラシムル爲メ證人ヲ訊問ス可キコトヲ裁判長ニ求ムルヲ得
第百九十五條 證人又ハ鑑定人ノ供述不實ニシテ故意ニ出テ禁錮以上ノ刑ニ該ル可キ者ト思料シタルトキハ裁判所ニ於テ檢事其他訴訟關係人ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ之ヲ取押ヘ勾引狀ヲ發シ豫審判事ニ送致ス可シ
其證人又ハ鑑定人ノ供述ハ裁判所書記之ヲ錄取シ豫審判事ニ送致ス可シ
本條ノ場合ニ於テハ裁判所ニテ檢事其他訴訟關係人ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ本案ノ辯論ヲ停止スルコトヲ得
第百九十六條 被吿人聾者、啞者又ハ國語ニ通セサル者ナルトキハ第百條第百一條ノ規定ニ從フ
第百九十七條 裁判所ニ於テハ證人被吿人ノ面前ニ於テ十分ナル供述ヲ爲スコトヲ得サル可シト思料シタルトキハ其證人ノ供述中被吿人ヲ退廷セシムルコトヲ得但裁判長ハ證人供述ヲ終リタル後被吿人ヲ入廷セシメ其供述シタル事項ヲ吿知ス可シ
本條ノ規定ハ共同被吿人ニモ亦之ヲ適用ス
第百九十八條 裁判長ハ各證憑ノ取調終リタル每ニ被吿人ニ意見アリヤ否ヤヲ問ヒ且其利益ト爲ル可キ證憑ヲ差出スヲ得ヘキコトヲ吿知ス可シ
又證憑物件ハ被吿人ニ示シテ辯解ヲ爲サシム可シ
第百九十九條 辯論中公判ノ手續ニ付キ異議ノ申立アリタルトキハ裁判所ニ於テ檢事ノ意見ヲ聽キ直チニ之ヲ裁判ス可シ
第二百條 裁判所ニ於テハ公訴ノ判決ト同時ニ私訴ノ判決ヲ爲ス可シ
私訴ニ付キ取調未タ十分ナラサルトキハ公訴ノ判決アリタル後其判決ヲ爲スコトヲ得
第二百一條 被吿人有罪ト爲リタルトキハ裁判所ノ職權ヲ以テ公訴ニ關スル訴訟費用ノ全部又ハ一分ヲ負擔ス可キ言渡ヲ爲ス可シ
免許又ハ無罪ノ言渡アリタル場合ニ於テ公訴ニ關スル訴訟費用ハ國庫之ヲ負擔ス
私訴ニ關スル訴訟費用ノ負擔ハ民事訴訟法ノ規定ニ從フ
第二百二條 被吿人有罪ト爲リタルト否トヲ問ハス沒收ニ係ラサル差押物ハ所有者ノ請求ナシト雖モ之ヲ還付スル言渡ヲ爲ス可シ
第二百三條 刑ノ言渡ヲ爲スニハ事實及ヒ法律ニ依リ其理由ヲ明示シ且犯罪ノ證憑ヲ明示ス可シ
無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ爲スニ付テモ亦其理由ヲ明示ス可シ
第二百四條 判決ノ言渡ハ辯論ヲ終リタル後即日又ハ次ノ開廷日ニ之ヲ爲ス可シ
判決ノ言渡ハ判決主文ノ朗讀ニ因リ之ヲ爲ス其判決ノ理由ハ判決ノ言渡ト同時ニ之ヲ朗讀シ又ハ口頭ニテ其要領ヲ吿ク可シ
第二百五條 判決ノ原本ニハ其裁判ヲ爲シタル裁判所、年月日、其事件ニ干與シタル檢事ノ官民名ヲ記載シ判事、裁判所書記共ニ署名捺印ス可シ
第二百六條 訴訟關係人ハ其費用ヲ以テ判決ノ正本、謄本又ハ抄本ヲ求ムルコトヲ得但上訴ノ爲メ其求ヲ爲シタルトキハ書記ヨリ二十四時內ニ之ヲ下付ス可シ
第二百七條 對席判決ニ因リ刑ノ言渡アリタルトキハ裁判長ヨリ其言渡ヲ受ケタル者ニ前條ノ請求及ヒ其判決ニ對シ上訴ヲ爲スヲ得ヘキコト及ヒ其期間ヲ吿知シ又闕席判決ニ因リ刑ノ言渡アリタルトキハ其判決ニ對シ故障ヲ爲スヲ得ヘキコト及ヒ其期間ヲ記載ス可シ
若シ其吿知又ハ記載ナキトキハ更ニ其通知アルマテ上訴及ヒ故障期間ノ經過ヲ停止ス
第二百八條 裁判所書記ハ公判始末書ヲ作リ左ノ事項其他一切ノ訴訟手續ヲ記載ス可シ
第一 公ニ辯論ヲ爲シタルコト又ハ公開ヲ禁シタルコト及ヒ其事由
第二 被吿人ノ訊問及ヒ其供述
第三 證人、鑑定人ノ供述及ヒ宣誓ヲ爲シタルコト若シ宣誓ヲ爲ササルトキハ其事由
第四 證據物件
第五 辯論中異議ノ申立アリタルコト、其申立ニ付キ檢事其他訴訟關係人ノ意見及ヒ裁判所ノ裁判
第六 辯論ノ順序及ヒ被吿人ヲシテ最終ニ供述セシメタルコト
第二百九條 公判始末書ニハ前條ニ記載シタル事項ノ外裁判ヲ爲シタル裁判所、年月日、裁判長、陪席判事、檢事及ヒ裁判所書記ノ官氏名ヲ記載ス可シ
辯論數日ニ涉ルトキハ其旨及ヒ同一ノ判事出席シタルコトヲ記載ス可シ
辯論中補充判事ヲシテ代ラシメタルトキハ其旨ヲ記載ス可シ
第二百十條 公判始末書ハ判決言渡ヨリ三日內ニ之ヲ整頓シ裁判長及ヒ裁判所書記署名捺印ス可シ
裁判長ハ署名捺印セサル以前ニ公判始末書ヲ檢閱シ若シ意見アルトキハ其紙尾ニ記載ス可シ
第二百十一條 判決及ヒ公判始末書ノ原本ハ訴訟記錄ニ添付シ其裁判所ニ保存ス可シ若シ上訴アリタルトキハ之ヲ上訴裁判所ニ送付ス可シ
第二章 區裁判所公判
第二百十二條 區裁判所ハ左ノ場合ニ於テ其管轄ニ屬スル違警罪及ヒ輕罪ノ公訴ヲ受理ス
第一 檢事ノ起訴アリタルトキ
第二 豫審判事又ハ上級裁判所ヨリ事件ヲ移ス裁判アリタルトキ
第二百十三條 檢事ハ何レノ場合ニ於テモ被吿人ニ對シ呼出狀ヲ發ス可キコトヲ裁判所ニ請求ス可シ
裁判所ハ裁判所書記ヲシテ被吿人ニ對シ呼出狀ヲ發セシム可シ
第二百十四條 呼出狀ニハ呼出ヲ受ク可キ者ノ氏名、職業、住所、出頭ノ日時、場所及ヒ被吿事件ヲ記載シ且被吿事件違警罪又ハ罰金ニ該ル可キ輕罪ナルトキハ代人ヲシテ出頭セシムルコトヲ得ヘキ旨ヲ記載ス可シ
若シ被吿事件ノ記載ナキ場合ニ於テ被吿人未タ其事件ニ付キ取調ヲ受ケサリシトキハ辯護準備ノ爲メ二日ノ猶豫ヲ求ムルコトヲ得
第二百十五條 呼出狀ノ送達ト出頭トノ間少クトモ二日ノ猶豫アル可シ
第二百十六條 判事ハ豫審ヲ經サル被吿事件急速ヲ要スルトキハ公判ニ取掛ル前檢證處分ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ檢事其他訴訟關係人ノ立會ヲ要セス
第二百十七條 證人ハ呼出狀ノ送達ト出頭トノ間少クトモ二十四時ノ猶豫ヲ以テ之ヲ呼出ス可シ
又呼出ヲ受ケスシテ出頭シタル者ト雖モ異議ノ申立ナキトキハ裁判所ニ於テ證人トシテ其供述ヲ聽クコトヲ得
第二百十八條 判事ハ先ツ被吿人ノ氏名、年齡、身分、職業、住所、出生ノ地ヲ問フ可シ
檢事ハ被吿事件ヲ陳述ス可シ
第二百十九條 判事ハ被吿事件ニ付キ被吿人ヲ訊問ス可シ
必要ナル調書其他證憑書類ハ書記ヲシテ朗讀セシメ又證人ノ供述ヲ聽キ其他證憑ノ取調ヲ爲ス可シ
若シ被吿人ノ自白アリタル場合ニ於テ檢事、民事原吿人ノ異議ナキトキハ他ノ證憑ヲ取調フルニ及ハス
第二百二十條 證憑調濟ノ後檢事ハ事實及ヒ法律適用ニ付キ意見ヲ陳述ス可シ
被吿人及ヒ其辯護人ハ答辯ヲ爲スコトヲ得
檢事、被吿人及ヒ辯護人ハ迭ヒニ辯論ヲ爲スコトヲ得但辯論ノ最終ニハ被吿人又ハ辯護人ヲシテ供述セシム可シ
第二百二十一條 公訴ニ付キ辯論終リタル後民事原吿人ハ被害ノ事實ヲ證明シ且私訴ニ付キ其請求スル所ヲ陳述ス可シ
被吿人、辯護人及ヒ民事擔當人ハ答辯ヲ爲スコトヲ得
第二百二十二條 被吿事件其裁判所ノ管轄ニ屬セサルトキハ判決ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ爲ス可シ若シ被吿人勾留ヲ受ケタルトキハ放免ノ言渡ヲ爲ス可シ
本條ノ場合ニ於テ勾留ヲ要スルモノト認メタルトキハ前勾留狀ヲ存シ又ハ新ニ勾留狀ヲ發シ其事件ヲ檢事ニ交付ス可シ
第二百二十三條 被吿事件其裁判所ノ管轄ニ屬シ且犯罪ノ證憑十分ナルトキハ判決ヲ以テ法律ニ從ヒ刑ノ言渡ヲ爲ス可シ
第二百二十四條 犯罪ノ證憑十分ナラス又ハ被吿事件罪ト爲ラサルトキハ判決ヲ以テ無罪ノ言渡ヲ爲シ又第百六十五條第三號以下ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ爲ス可シ
第二百二十五條 前二條ノ場合ニ於テハ私訴ニ付キ其請求價額ノ多寡ニ拘ハラス判決ヲ爲ス可シ
第二百二十六條 呼出ヲ受ケタル被吿人又ハ罰金以下ノ刑ニ該ル可キ事件ニ付キ其代人公判ノ期日ニ出頭セサルトキハ檢事ノ請求スル所ヲ聽キ闕席判決ヲ爲ス可シ
私訴關係人出頭セサルトキハ民事訴訟法ノ規定ニ從ヒ闕席判決ヲ爲ス可シ
第二百二十七條 禁錮ノ刑ニ該ル可キ事件ニ付キ被吿人出頭セスト雖モ豫審終結ノ言渡書又ハ公判ノ呼出狀ヲ本人ニ送達シタル證アルニ非サレハ闕席判決ヲ爲ス可カラス
豫審終結ノ言渡書又ハ公判ノ呼出狀ヲ本人ニ送達スルコト能ハサル場合ニ於テハ裁判所ニテ猶豫ノ期間ヲ定メ其期間ニ被吿人出頭セサルトキハ闕席判決ヲ爲ス可キ吿知書ヲ其親屬又ハ其本籍若クハ最後ノ住所ノ地ノ市町村長ニ送達ス可シ若シ其本籍若クハ最後ノ住所ノ地分明ナラサルトキハ同上ノ吿知書ヲ少クトモ一月間裁判所ノ揭示板ニ貼付シテ公示ス可シ
第二百二十八條 闕席判決ハ檢事其他訴訟關係人ノ請求ニ因リ闕席者ニ送達ス可シ
闕席判決ヲ受ケタル者ハ其判決ニ對シ故障ヲ申立ルコトヲ得
第二百二十九條 故障申立ノ期間ハ三日トス此期間ハ罰金以下ノ刑ヲ言渡シタル判決及ヒ私訴ノ判決ニ付テハ闕席判決ノ送達ヲ以テ始マリ禁錮ノ刑ヲ言渡シタル判決ニ付テハ被吿人自ラ其送達ヲ受ケ又ハ判決執行ニ因リ刑ノ言渡アリタルコトヲ知リタル日ヲ以テ始マル
第二百三十條 故障ヲ申立テントスル者ハ闕席判決ヲ爲シタル裁判所ニ其申立書ヲ差出ス可シ
第二百三十一條 裁判所ニ於テハ故障ノ申立アリタルコトヲ相手方ニ通知シ且其事件ヲ公判ニ付ス可キ期日ヲ定メ訴訟關係人ヲ呼出ス可シ
第二百三十二條 裁判所ニ於テハ職權ヲ以テ故障ヲ許ス可キヤ否ヤ又故障ノ期間ニ於テ申立ヲ爲シタルヤ否ヤヲ調査シ此要件ノ一ヲ缺クトキハ判決ヲ以テ故障ヲ棄却ス可シ
第二百三十三條 故障ノ申立ヲ受理シタル場合ニ於テハ更ニ通常ノ規定ニ從ヒ裁判ヲ爲ス可シ
前項ノ場合ニ於テ故障申立人闕席シタルトキハ更ニ故障ヲ申立ルコトヲ得ス
第二百三十四條 第二百四十七條第二百四十八條ノ規定ハ闕席判決ニ對スル故障ニモ亦之ヲ準用ス
第三章 地方裁判所公判
第二百三十五條 地方裁判所ニ於テハ豫審判事又ハ上級裁判所ヨリ事件ヲ移ス裁判ニ因リ其管轄ニ屬スル輕罪及ヒ重罪ノ公訴ヲ受理ス
又輕罪ニ付テハ檢事ノ起訴ニ因リ其公訴ヲ受理ス
第二百三十六條 前章ノ規定ハ此章ニ別段ノ定メナキモノニ限リ地方裁判所ノ輕罪、重罪ノ公判ニ準用ス
第二百三十七條 重罪事件ニ付テハ開廷前裁判長又ハ受命判事ハ裁判所書記ノ立會ニ依リ一應被吿人ヲ訊問シ且辯護人ヲ選任シタルヤ否ヤヲ問フ可シ
若シ辯護人ヲ選任セサルトキハ裁判長ノ職權ヲ以テ其裁判所所屬ノ辯護士中ヨリ之ヲ選任ス可シ被吿人及ヒ辯護士ニ異議ナキトキハ辯護士一名ヲシテ被吿人數名ノ辯護ヲ爲サシムルコトヲ得
書記ハ本條ノ訊問ニ付キ特ニ調書ヲ作ル可シ
第二百三十八條 裁判所ニ於テ事實發見ノ爲メ必要ナリトスルトキハ檢事其他訴訟關係人ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ受命判事ヲシテ臨檢ノ處分ヲ爲シ報吿ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百三十九條 裁判所ニ於テハ被吿人其罪ヲ自白シタルトキト雖モ仍ホ證憑ヲ取調ヘサル可カラス
第二百四十條 裁判所ニ於テハ被吿事件區裁判所ノ管轄ニ屬スルモノト認メタルトキト雖モ第一審ノ判決ヲ爲ス可シ
私訴ニ付キ其請求ノ價額通常民事上區裁判所ノ管轄ニ屬スルトキ亦同シ
第二百四十一條 裁判所ニ於テ輕罪トシテ受理シタル事件ヲ重罪ナリトスルトキ又ハ檢事ヨリ更ニ其事件ヲ重罪トシテ訴追スルコトヲ申立タルトキハ豫審判事ニ送付スル決定ヲ爲ス可シ但被吿人勾留ヲ受ケサルトキハ勾留狀ヲ發ス可シ
其被吿事件豫審ヲ經タルトキハ公判ヲ止メ更ニ重罪事件トシテ裁判ス可キ旨ノ決定ヲ爲シ受命判事ヲシテ其事件ノ取調ヲ爲シ報吿ヲ爲サシム可シ
受命判事ハ豫審判事ニ屬スル處分ヲ爲スコトヲ得
第五編 上訴
第一章 通則
第二百四十二條 檢事其他訴訟關係人ハ法律ニ許シタル上訴ヲ爲スコトヲ得
檢事ハ被吿人ノ利益ノ爲メニモ亦上訴ヲ爲スコトヲ得
第二百四十三條 辯護人ハ被吿人ニ代リ上訴ヲ爲スコトヲ得但被吿人ノ明言シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第二百四十四條 被吿人ノ法律上代理人ハ獨立シテ上訴ヲ爲スコトヲ得
第二百四十五條 勾留ヲ受ケタル被吿人上訴ヲ爲スニハ其申立書ヲ監獄署長ニ差出シ署長ハ之ヲ其裁判所ニ送致ス可シ
第二百四十六條 檢事ヲ除ク外上訴ヲ爲シタル者ハ其判決アルマテ何時ニテモ之ヲ取下クルコトヲ得
第二百四十七條 訴訟關係人天災其他避ク可カラサル事變ノ爲メ上訴期間ヲ經過シタル場合ニ於テ其旨ヲ疏明シタルトキハ期間ヲ經過シタルニ因リ失ヒタル權利ヲ囘復スルコトヲ得但障礙ノ止ミタル日ヨリ通常ノ期間內ニ其疏明方法ヲ申立書ニ記載シ上訴ヲ爲ス可シ
第二百四十八條 前條ノ申立アリタルトキハ裁判所書記速ニ其申立書ヲ相手方ニ送達ス可シ相手方ハ三日內ニ答辯書ヲ差出スコトヲ得
上訴ヲ裁判ス可キ裁判所ニ於テハ檢事ノ意見ヲ聽キ先ツ其申立ヲ許ス可キヤ否ヤヲ決定ス可シ
第二百四十九條 上訴完結ノ後其訴訟記錄ハ上訴審ニ於テ爲シタル裁判ノ謄本ト共ニ第一審裁判所ニ之ヲ返還ス可シ
第二章 控訴
第二百五十條 控訴ハ區裁判所又ハ地方裁判所ノ第一審ニ於テ爲シタル本案ノ判決及ヒ第百八十七條ニ規定シタル本案前ノ判決ニ對シ之ヲ爲スコトヲ得
第二百五十一條 控訴ハ判決ノ一分ニ限リ之ヲ爲スコトヲ得若シ之ヲ限ラサルトキハ判決ノ全部ニ對シ控訴ヲ爲シタルモノト看做ス可シ
第二百五十二條 控訴ノ期間ハ判決言渡アリタル日ヨリ五日トス
闕席判決ヲ受ケタル者ハ故障ノ期間內故障ヲ爲サスシテ直チニ控訴ヲ爲スコトヲ得
第二百五十三條 本案ノ判決ニ對スル控訴ノ期間內及ヒ控訴アリタルトキハ判決ノ執行ヲ停止ス
第二百五十四條 控訴ヲ爲スニハ其申立書ヲ原裁判所ニ差出ス可シ
裁判所ハ控訴ノ申立アリタルコトヲ速ニ相手方ニ通知ス可シ
第二百五十五條 原裁判所ニ於テハ期間ヲ經過シタル控訴ノ申立ハ決定ヲ以テ之ヲ棄却ス可シ此決定ニ對シテハ抗吿ヲ爲スコトヲ得
第二百五十六條 訴訟記錄ハ檢事ヨリ控訴裁判所ノ檢事ニ送致シ其檢事ハ之ヲ裁判所ニ差出ス可シ
公訴ノ判決ニ對シ控訴アリタル場合ニ於テ被吿人勾留ヲ受ケタルトキハ檢事ヨリ之ヲ控訴裁判所ノ監獄ニ移ス可シ
第二百五十七條 控訴裁判所ニ於テハ訴訟關係人ニ對シ呼出狀ヲ發シタル後其裁判ニ取掛ル可シ
呼出狀ノ送達ト出頭トノ間少クトモ二日ノ猶豫アル可シ
第二百五十八條 控訴ノ裁判ニ付テハ地方裁判所ノ第一審ニ關スル規定ヲ適用ス
第一審ニ於テ訊問シタル證人又ハ鑑定ヲ爲シタル鑑定人ハ控訴裁判所ニ於テ其再度ノ訊問鑑定ヲ必要ナリトセサルトキハ之ヲ呼出ササルコトヲ得
第二百五十九條 控訴ノ相手方ハ其判決アルマテ附帶控訴ヲ爲スコトヲ得
控訴裁判所ノ檢事モ亦附帶控訴ヲ爲スコトヲ得
第二百六十條 控訴裁判所ニ於テハ控訴ノ期間內ニ於テ申立ヲ爲シタルヤ否ヤヲ調査シ期間ノ經過後ニ係ルモノト認ムルトキハ判決ヲ以テ控訴ヲ棄却ス可シ
第二百六十一條 控訴裁判所ニ於テハ控訴ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ控訴ヲ棄却ス可シ控訴ヲ理由アリトスルトキハ原判決ヲ取消シ更ニ判決ヲ爲ス可シ
第二百六十二條 控訴裁判所ニ於テハ原裁判所ノ管轄違ナルコトヲ認メタルトキハ原判決ヲ取消ス可シ此場合ニ於テ勾留ヲ要スルモノト認メタルトキハ前勾留狀ヲ存シ又ハ新ニ勾留狀ヲ發シ其事件ヲ檢事ニ交付ス可シ
原裁判所ニ於テ不當ニ管轄違ヲ言渡シタルトキハ其判決ヲ取消シ事件ヲ其裁判所ニ差戾ス可シ
第二百六十三條 前條第一項ノ場合ニ於テ控訴ヲ受ケタル地方裁判所自ラ其事件ニ付キ第一審トシテ裁判權ヲ有スルトキハ更ニ其事件ニ付キ判決ヲ爲ス可シ但事件重罪ナルトキハ第二百四十一條ノ規定ニ從ヒ處分ス可シ
第二百六十四條 控訴院ニ於テ地方裁判所カ輕罪ナリト判決シタル事件ヲ重罪ナリトスルトキ又ハ其事件ヲ重罪ナリトシテ主タル控訴又ハ附帶控訴アリタルトキハ其公判ヲ止メ更ニ重罪事件トシテ裁判ス可キ旨ノ決定ヲ爲シ受命判事ヲシテ其事件ノ取調ヲ爲シ報吿ヲ爲サシム可シ
受命判事ハ豫審判事ニ屬スル處分ヲ爲スコトヲ得
本條ノ場合ニ於テ被吿人辯護人ヲ選任セサルトキハ第二百三十七條第二項ノ規定ニ從ヒ裁判長ノ職權ヲ以テ辯護人ヲ選任ス可シ
第二百六十五條 被吿人、辯護人又ハ法律上代理人ノミ控訴ヲ爲シタルトキハ原判決ヲ變更シテ被吿人ノ不利益ト爲スコトヲ許サス
被吿人ノ利益ノ爲メ檢事ヨリ控訴ヲ爲シタルトキ亦同シ
第二百六十六條 控訴申立人出頭セサルトキハ闕席判決ヲ以テ控訴ヲ棄却シ相手方出頭セサルトキハ申立人ノ意見ヲ聽キ闕席判決ヲ爲ス可シ
第三章 上吿
第二百六十七條 上吿ハ地方裁判所又ハ控訴院ノ第二審ニ於テ爲シタル本案ノ判決及ヒ第百八十七條ニ規定シタル本案前ノ判決ニ對シ之ヲ爲スコトヲ得
第二百六十八條 上吿ハ法律ニ違背シタル裁判ナルコトヲ理由トスルトキニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
法則ヲ適用セス又ハ不當ニ適用シタルトキハ法律ニ違背シタルモノトス
第二百六十九條 裁判ハ左ノ場合ニ於テ常ニ法律ニ違背シタルモノトス
第一 規定ニ從ヒ判決裁判所ヲ構成セサリシトキ
第二 法律ニ依リ職務ノ執行ヨリ除斥セラレタル判事裁判ニ參與シタルトキ但忌避ノ申請又ハ上訴ヲ以テ除斥ノ理由ヲ主張シタルモ其效ナカリシトキハ之ヲ以テ上吿ノ理由ト爲スコトヲ得ス
第三 判事忌避セラレ其忌避ノ申請ヲ理由アリト認メタルニ拘ハラス裁判ニ參與シタルトキ
第四 裁判所ニ於テ其管轄又ハ管轄違ヲ不當ニ認メタルトキ
第五 法律ニ背キ公訴ヲ受理シ又ハ受理セサルトキ
第六 法律ニ定メタル場合ニ於テ檢事ノ意見ヲ聽カサルトキ
第七 裁判所ニ於テ請求ヲ受ケタル事件ニ付キ判決ヲ爲サス又ハ職權ヲ以テ判決スルコトヲ得ヘキ場合ヲ除ク外請求ヲ受ケサル事件ニ付キ判決ヲ爲シタルトキ
第八 判決ヲ公行セス又ハ公開ヲ禁スル言渡ナクシテ辯論ヲ公ニセサルトキ
第九 裁判ニ理由ヲ付セス又ハ其理由ノ齟齬アルトキ
第十 擬律ノ錯誤アルトキ
第二百七十條 免訴又ハ無罪ノ言渡アリタル場合ニ於テハ被吿人ノ利益ノ爲メ設ケタル規定ニ背キタルコト又ハ土地ノ管轄違アリト雖モ上吿ノ理由ト爲スコトヲ得ス
第二百七十一條 上吿申立ノ期間ハ判決言渡アリタル日ヨリ三日トス
第二百七十二條 本案ノ判決ニ對スル上吿ノ期間內及ヒ上吿ノ申立アリタルトキハ勾留及ヒ放免ノ言渡ヲ除ク外判決ノ執行ヲ停止ス
第二百七十三條 上吿ヲ爲スニハ其申立書ヲ原裁判所ニ差出シ且其申立ヲ爲シタル日ヨリ五日內ニ趣意書ヲ差出ス可シ
裁判所ハ上吿申立書及ヒ趣意書ヲ受取リタルヨリ二十四時間內ニ之ヲ相手方ニ送達ス可シ
第二百七十四條 相手方ハ上吿申立書及ヒ趣意書ヲ受取リタル日ヨリ五日內ニ答辯書ヲ原裁判所ニ差出スコトヲ得
裁判所ハ其答辯書ヲ受取リタルヨリ二十四時內ニ之ヲ上吿申立人ニ送達ス可シ
第二百七十五條 檢事ヨリ差出ス可キ上吿申立書及ヒ趣意書又ハ答辯書ハ二通ヲ作リ一通ヲ上吿裁判所ニ差出シ一通ヲ相手方ニ送達ス可シ
私訴ノ判決ニ對シ訴訟關係人ヨリ差出ス可キ上吿申立書及ヒ趣意書又ハ答辯書ニ付テモ亦同シ
第二百七十六條 原裁判所ニ於テハ期間ヲ經過シタル上吿ハ決定ヲ以テ之ヲ棄却ス可シ此決定ニ對シテハ抗吿ヲ爲スコトヲ得
第二百七十七條 訴訟記錄ハ檢事ヨリ上吿裁判所ノ檢事ニ送致シ其檢事ハ之ヲ裁判所ニ差出ス可シ
第二百七十八條 上吿ノ相手方ハ其判決アルマテ附帶上吿ヲ爲スコトヲ得
上吿裁判所ノ檢事モ亦附帶上吿ヲ爲スコトヲ得
第二百七十九條 上吿申立人及ヒ相手方ハ辯護士ヲ差出スコトヲ得
重罪ノ刑ノ言渡ヲ受ケタル者上吿ヲ爲シ又ハ檢事ヨリ重罪ノ刑ニ該ル可キモノトシテ上吿ヲ爲シタル場合ニ於テ刑ノ言渡ヲ受ケタル者自ラ辯護士ヲ選任セサルトキハ上吿裁判所長ノ職權ヲ以テ其裁判所所屬ノ辯護士中ヨリ之ヲ選任ス可シ
第二百八十條 裁判長ハ受命判事ヲ定ム可シ
受命判事ハ訴訟記錄ヲ檢閱シ其報吿書ヲ作ル可シ但自己ノ意見ヲ付ス可カラス
第二百八十一條 上吿申立人及ヒ相手方ハ受命判事ノ報吿書ヲ差出スマテハ其趣意ヲ擴張ス可キ辯明書ヲ上吿裁判所ニ差出スコトヲ得
受命判事報吿書ヲ差出シタル後辯明書ヲ差出シタルトキハ之ヲ其報吿書ニ添フ可シ
第二百八十二條 裁判所書記ハ開廷ヨリ三日前ニ開廷ノ期日ヲ上吿申立人及ヒ相手方ノ辯護士ニ報知ス可シ
第二百八十三條 開廷ノ日ニハ受命判事先ツ其報吿書ヲ朗讀ス可シ
檢事及ヒ辯護士ハ各其趣意ヲ辯明ス可シ
私訴ノ上吿ニ付テハ檢事最終ニ其意見ヲ陳述ス可シ
第二百八十四條 上吿申立人又ハ相手方ヨリ辯護士ヲ差出ササルトキハ其儘ニテ判決ヲ爲ス可シ
第二百八十五條 上吿裁判所ニ於テハ上吿ノ理由ナキトキ又ハ法律上ノ方式及ヒ期間內ニ於テ起ササルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却ス可シ
第二百八十六條 上吿ヲ理由アリトスルトキハ其上吿ニ係ル判決ノ部分ヲ破毀シ其事件ヲ他ノ裁判所ニ移ス言渡ヲ爲ス可シ但後二條ニ記載シタル場合ハ此限ニ在ラス
第二百八十七條 擬律ノ錯誤又ハ法律ニ背キ公訴ヲ受理シタルニ因リ判決ヲ破毀シタルトキハ其事件ヲ他ノ裁判所ニ移スコトナク上吿裁判所ニ於テ直チニ判決ヲ爲ス可シ
第二百八十八條 公判ノ手續規定ニ背キタルコトアリト雖モ其後ノ手續ニ利害ヲ及ホササルトキハ其事件ヲ他ノ裁判所ニ移スコトナク止タ其手續ヲ破毀ス可シ
第二百八十九條 判決ノ一分ニ對シ上吿アリタル場合ニ於テ他ノ部分ニ關係アルトキハ其部分ヲモ破毀ス可シ
擬律ノ錯誤又ハ法律ニ背キ公訴ヲ受理シタルニ因リ被吿人ノ利益ノ爲メニ判決ヲ破毀シタルトキハ其利益ハ上吿ヲ爲ササル共同被吿人ニモ及ホス可シ
第二百九十條 上吿裁判所ニ於テ破毀シタル事件ヲ他ノ裁判所ニ移ス言渡ヲ爲ス可キトキハ原裁判所ニ接近シタル同等ノ裁判所ヲ指定ス可シ其單ニ私訴ニ係ル事件ハ之ヲ其裁判所ノ民事部ニ移ス可シ
第二百九十一條 第二百六十五條ノ規定ハ上吿ニモ亦之ヲ準用ス
第二百九十二條 第一審裁判所ト第二審裁判所トヲ問ハス法律ニ於テ罰セサル所爲ニ對シ刑ヲ言渡シ又ハ相當ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡シタル場合ニ於テ期間內ニ上訴スル者ナクシテ其判決確定シタルトキハ其事件ニ付キ上吿ヲ受クル權アル裁判所ノ檢事ハ司法大臣ノ命ニ因リ又ハ職權ヲ以テ何時ニテモ其裁判所ニ非常上吿ヲ爲スコトヲ得
非常上吿ヲ理由アリトスルトキハ原判決ヲ破毀シ直チニ其事件ニ付キ判決ヲ爲ス可シ
第四章 抗吿
第二百九十三條 抗吿ハ法律ニ於テ特ニ許シタル場合ニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
第二百九十四條 抗吿ニ付テハ直近ノ上級裁判所其裁判ヲ爲ス可シ
抗吿裁判所ノ裁判ニ對シテハ抗吿申立人ヨリ更ニ抗吿ヲ爲スコトヲ得ス
第二百九十五條 抗吿ノ期間ハ裁判ノ送達アリタル日ヨリ三日トス
第二百九十六條 抗吿ヲ爲スニハ其申立書ヲ原裁判ヲ爲シタル裁判所又ハ豫審判事ニ差出ス可シ其裁判所又ハ豫審判事ニ於テ抗吿ヲ理由アリトスルトキハ不服ノ㸃ヲ更正シ又理由ナシトスルトキハ意見ヲ付シテ三日內ニ抗吿申立書ヲ抗吿裁判所ニ送致シ且豫審終結ノ決定ニ對スル抗吿ニ付テハ訴訟記錄ヲモ送致ス可シ
第二百九十七條 抗吿裁判所ニ於テハ檢事ノ意見ヲ聽キ書類ニ依リ抗吿ノ裁判ヲ爲ス可シ
第二百九十八條 豫審終結ノ決定ニ對スル抗吿ニ付キ抗吿裁判所ニ於テ必要ナリトスルトキハ受命判事ヲシテ事件ノ取調ヲ爲シ報吿ヲ爲サシムルコトヲ得
受命判事ハ豫審判事ニ屬スル處分ヲ爲スコトヲ得
第二百九十九條 抗吿裁判所ニ於テハ抗吿ヲ許ス可キヤ否ヤ又抗吿ノ期間內ニ於テ申立ヲ爲シタルヤ否ヤヲ調査シ此要件ノ一ヲ闕クトキハ其抗吿ヲ棄却ス可シ
第三百條 抗吿裁判所ニ於テ抗吿ヲ理由アリトスルトキハ原裁判ヲ取消シ自ラ更ニ裁判ヲ爲シ又抗吿ヲ理由ナシトスルトキハ之ヲ棄却ス可シ
第六編 再審
第三百一條 再審ノ訴ハ左ノ場合ニ於テ重罪、輕罪ノ刑ノ言渡ニ對シ被吿人ノ利益ノ爲メ之ヲ爲スコトヲ得但判決確定ノ後ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第一 人ヲ殺シタル罪ニ付キ刑ノ言渡アリタルモ其殺サレタリト認メラレシ者犯罪後生存シ又ハ犯罪前既ニ死去シタル確證アリタルトキ
第二 同一ノ事件ニ付キ共犯ニ非スシテ別ニ刑ノ言渡ヲ受ケタル者アリタルトキ
第三 犯罪アル以前ニ作リタル公正證書ヲ以テ當時其場所ニ在ラサルコトヲ證明シタルトキ
第四 被吿人ヲ陷害シタル罪ニ因リ刑ノ言渡ヲ受ケタル者アリタルトキ
第五 公正證書ヲ以テ訴訟記錄ニ僞造又ハ錯誤アルコトヲ證明シタルトキ
第六 判決ノ憑據ト爲リタル民事上ノ判決他ノ確定ト爲リタル判決ヲ以テ廢棄若クハ破毀セラレタルトキ
第三百二條 再審ノ訴ヲ爲スコトヲ得ヘキ者左ノ如シ
第一 刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ノ檢事
第二 刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ヲ管轄スル控訴裁判所ノ檢事
第三 刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ヲ管轄スル上吿裁判所ノ檢事但司法大臣ノ命ニ因リ又ハ職權ヲ以テ其訴ヲ爲ス可シ
第四 刑ノ言渡ヲ受ケタル者
第五 刑ノ言渡ヲ受ケタル者死去シタルトキハ其親屬
第三百三條 再審ノ訴ハ刑ノ消滅シタルニ拘ハラス何時ニテモ之ヲ爲スコトヲ得
第三百四條 再審ノ訴ヲ爲サントスル者ハ其趣意書ニ原判決ノ謄本及ヒ證憑書類ヲ添ヘ之ヲ原裁判所ニ差出ス可シ
原裁判所ノ檢事ハ其書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ上吿裁判所ノ檢事ニ差出ス可シ
原裁判所ノ檢事及ヒ控訴裁判所ノ檢事自ラ再審ノ訴ヲ爲サントスルトキハ前項ノ手續ニ從ヒ其書類ヲ差出ス可シ
第三百五條 上吿裁判所ニ於テハ檢事ノ請求ニ因リ速ニ受命判事一名ヲシテ其取調ヲ爲シ報吿ヲ爲サシム可シ
第三百六條 上吿裁判所ニ於テハ受命判事ノ報吿及ヒ檢事ノ意見ヲ聽キ判決ヲ爲ス可シ
第三百七條 上吿裁判所ニ於テ再審ノ原由アルコトヲ認メタルトキハ原判決ヲ破毀シ公訴及ヒ私訴ニ付キ再審ヲ爲ス可キコトヲ言渡シ其事件ヲ原裁判所ト同等ナル他ノ裁判所ニ移ス可シ
其送付ヲ受ケタル裁判所ニ於テハ通常ノ規定ニ從ヒ裁判ヲ爲ス可シ
第三百八條 死者ノ親屬ヨリ再審ノ訴ヲ爲シタル場合ニ於テ上吿裁判所ニテ再審ノ原由アルコトヲ認メタルトキハ其事件ヲ他ノ裁判所ニ移スコトナク原判決ヲ破毀ス可シ
第三百九條 再審ノ判決ニ因リ無罪ノ言渡アリタルトキ又ハ前條ノ場合ニ於テ破毀ノ言渡アリタルトキハ其者ノ名譽ヲ復スル爲メ其判決ヲ揭示ス可シ
第七編 大審院ノ特別權限ニ屬スル訴訟手續
第三百十條 裁判所構成法第五十條第二號ニ記載シタル大審院ノ特別權限ニ屬スル犯罪ニ付テハ檢事總長其搜査ヲ爲ス可シ
地方裁判所、區裁判所ノ檢事及ヒ司法警察官モ亦其犯罪ニ付キ搜査ヲ爲シ檢事總長ニ報吿ス可シ
第三百十一條 前條ニ記載シタル犯罪ノ現行犯アル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ地方裁判所區裁判所ノ檢事及ヒ司法警察官ハ第百四十四條及ヒ第百四十七條第一項ノ規定ニ從ヒ豫審處分ヲ爲スコトヲ得但豫審判事ニ通知スルコトヲ要セス
第三百十二條 前條ノ場合ニ於テハ地方裁判所檢事ヨリ證憑書類ニ意見書ヲ添ヘ速ニ之ヲ檢事總長ニ送致ス可シ
第三百十三條 檢事總長ハ何レノ場合ニ於テモ其事件大審院ノ特別權限ニ屬シ且起訴ス可キモノト認メタルトキハ豫審判事ヲ命ス可キコトヲ大審院長ニ請求ス可シ
第三百十四條 大審院長ヨリ命ヲ受ケタル豫審判事ハ豫審ヲ爲シタル上ニテ他ニ取調ヲ要スルコトナシト思料シタルトキハ訴訟記錄ニ意見ヲ付シ大審院ニ差出ス可シ
第三百十五條 大審院ニ於テハ檢事總長ノ意見ヲ聽キ先ツ其事件ヲ公判ニ付ス可キヤ否ヤヲ決定ス可シ
其事件地方裁判所又ハ區裁判所ノ權限ニ屬スルモノト決定シタルトキハ管轄裁判所ヲ指定シ其事件ヲ送致ス可シ若シ特別裁判所ノ權限ニ屬スルモノト認メタルトキハ決定ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ爲ス可シ
又第百六十五條ニ記載シタル場合ニ於テハ決定ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ爲ス可シ
第三百十六條 前數條ニ於テ特ニ規定シタルモノヲ除ク外豫審、公判ノ手續ハ第三編第四編ノ規定ヲ準用ス
第八編 裁判執行、復權及ヒ特赦
第一章 裁判執行
第三百十七條 刑ノ執行ハ判決確定ノ後ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第三百十八條 死刑ノ言渡確定シタルトキハ檢事ヨリ速ニ訴訟記錄ヲ司法大臣ニ差出ス可シ
司法大臣ヨリ死刑ヲ執行ス可キ命令アリタルトキハ三日內ニ其執行ヲ爲ス可シ
第三百十九條 死刑ヲ除クノ外刑ノ言渡確定シタルトキハ直チニ之ヲ執行ス可シ
體刑ノ言渡ヲ受ケ其執行ヲ遁レタル者ニ對シ檢事ノ發シタル逮捕狀ハ勾留狀ト同一ノ效ヲ有ス其闕席判決ニ係ル場合ニ於テ發シタル者亦同シ
第三百二十條 刑ノ執行ハ其刑ヲ言渡シタル裁判所ノ檢事又ハ上吿裁判所ヨリ命ヲ受ケタル裁判所ノ檢事ノ指揮ニ因リ之ヲ爲ス可シ
罰金、科料、訴訟費用及ヒ沒收物品、追徵金ハ檢事ノ命令ニ依リ之ヲ徴收ス可シ
破壞又ハ廢棄ス可キ沒收物品ハ檢事之ヲ處分ス可シ
第三百二十一條 死刑ノ執行ニ付テハ裁判所書記其始末書ヲ作リ刑ノ執行規則ニ從ヒ立會ヲ爲シタル官吏ト共ニ署名捺印ス可シ
第三百二十二條 刑ノ言渡ヲ受ケタル者其言渡ニ付キ疑義ノ申立又ハ其執行ニ付キ異議ノ申立ヲ爲シタルトキハ刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ニ於テ之ヲ決定ス可シ此決定ニ對シテハ抗吿ヲ爲スコトヲ得
第三百二十三條 賠償及ヒ訴訟關係人ニ辨濟ス可キ訴訟費用ニ付キ其判決ノ執行ハ民事訴訟法ノ規定ニ從フ
第二章 復權
第三百二十四條 復權ノ願ハ刑法第六十三條ニ定メタル期間經過シタル後刑ノ言渡ヲ受ケタル者ヨリ司法大臣ニ之ヲ爲ス可シ
復權ノ願書ハ現ニ住スル地ノ地方裁判所檢事ニ之ヲ差出ス可シ
第三百二十五條 復權ノ願書ニハ左ノ書類ヲ添フ可シ
第一 判決ノ正本
第二 主刑ノ滿期、特赦ト爲リ又ハ時效ノ成就シタルコトヲ證明スル書類
第三 假出獄及ヒ假ニ監視ヲ免セラレタル證書
第四 賠償及ヒ訴訟費用ヲ辨濟シ又ハ其義務ヲ免カレタル證書
第五 過去、現在ノ住所及ヒ生計ヲ記載スル書類
第三百二十六條 檢事ハ願人ノ品行其他必要ノ取調ヲ爲シ前條ノ書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ檢事長ニ差出ス可シ
第三百二十七條 檢事長ハ更ニ必要ノ取調ヲ爲シ復權ノ願ニ關スル書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ司法大臣ニ差出ス可シ
第三百二十八條 司法大臣ハ復權ノ願ニ關スル書類ヲ檢閱シ之ニ意見書ヲ添ヘ速ニ上奏ス可シ
第三百二十九條 勅裁ニ因リ復權ノ願ヲ却下シタルトキハ司法大臣ヨリ其旨ヲ檢事長ニ通知シ檢事長ヨリ願書ヲ差出シタル地方裁判所檢事ニ通知ス可シ
前項ノ場合ニ於テハ刑法第六十三條ニ定メタル期間ノ半ヲ經過スルニ非サレハ更ニ其願ヲ爲スコトヲ得ス
更ニ復權ノ願ヲ爲スニ付テモ亦前數條ノ規定ニ從フ
第三百三十條 復權ノ裁可アリタルトキハ司法大臣ヨリ其裁可狀ヲ檢事長ニ送致シ檢事長ヨリ願書ヲ差出シタル地方裁判所檢事ニ送致ス可シ
檢事ハ裁可狀ノ謄本ヲ願人ニ下付ス可シ
又刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ニ裁可狀ノ謄本ヲ送致シ其裁判所ニ於テハ之ヲ判決ノ原本ニ記入ス可シ
第三章 特赦
第三百三十一條 特赦ハ刑ノ言渡確定シタル後何時ニテモ刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ノ檢事又ハ監獄署長ヨリ犯人ノ情狀ヲ具シ司法大臣ニ申立ルコトヲ得
監獄署長ヨリ特赦ノ申立ヲ爲ストキハ檢事ヲ經由ス可シ但檢事ハ意見書ヲ添フ可シ
特赦ノ申立アリタルトキハ司法大臣ヨリ其書類ニ意見書ヲ添ヘ上奏ス可シ
第三百三十二條 司法大臣ハ刑ノ言渡確定シタル後何時ニテモ特赦ノ申立ヲ爲スコトヲ得
死刑ヲ除ク外特赦ノ申立アリト雖モ刑ノ執行ヲ停止セス
第三百三十三條 特赦ノ申立却下アリタルトキハ司法大臣ヨリ刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ノ檢事ニ其旨ヲ通知ス可シ
第三百三十四條 特赦ノ裁可アリタルトキハ司法大臣ヨリ刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ノ檢事ニ特赦狀ヲ送致ス可シ此場合ニ於テハ第三百三十條ノ規定ニ從フ
附 則
第一條 此法律施行前ニ受理シタル豫審ノ故障及ヒ其故障ノ判決ニ對スル上吿ハ之ヲ受理シタル地方裁判所又ハ大審院ニ於テ抗吿トシテ之ヲ裁判ス可シ
第二條 大審院ニ於テ既ニ受理シタル哀訴、裁判管轄ヲ定ムルノ訴及ヒ嫌疑ノ爲メ裁判管轄ヲ移スノ訴ハ治罪法ノ手續ニ依リ大審院之ヲ裁判ス可シ
第三條 既ニ發シタル勾留狀收鑑狀ハ此法律ニ定メタル勾留狀ノ效ヲ有ス
第四條 此法律ノ規定ニ依リ市町村長ノ爲ス可キ職務ハ市町村長ヲ置カサル地ニ在テハ其職務ヲ行フ吏員ニ屬ス
第五條 此法律ハ明治二十三年十一月一日ヨリ施行シ其日ヨリ治罪法ヲ廢ス
朕刑事訴訟法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年十月六日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
内務大臣 伯爵 西郷従道
司法大臣 伯爵 山田顕義
大蔵大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巌
逓信大臣 伯爵 後藤象二郎
外務大臣 子爵 青木周蔵
海軍大臣 子爵 樺山資紀
文部大臣 芳川顕正
農商務大臣 陸奥宗光
法律第九十六号
刑事訴訟法目録
第一編
総則
第二編
裁判所
第一章
裁判所ノ管轄
第二章
裁判所職員ノ除斥及ヒ忌避、回避
第三編
犯罪ノ捜査、起訴及ヒ予審
第一章
捜査
第一節
告訴及ヒ告発
第二節
現行犯罪
第二章
起訴
第三章
予審
第一節
令状
第二節
密室監禁
第三節
証拠
第四節
被告人ノ訊問及ヒ対質
第五節
検証、捜索及ヒ物件差押
第六節
証人訊問
第七節
鑑定
第八節
現行犯ノ予審
第九節
保釈
第十節
予審終結
第四編
公判
第一章
通則
第二章
区裁判所公判
第三章
地方裁判所公判
第五編
上訴
第一章
通則
第二章
控訴
第三章
上告
第四章
抗告
第六編
再審
第七編
大審院ノ特別権限ニ属スル訴訟手続
第八編
裁判執行、復権及ヒ特赦
第一章
裁判執行
第二章
復権
第三章
特赦
附則
刑事訴訟法
第一編 総則
第一条 公訴ハ犯罪ヲ証明シ刑ヲ適用スルコトヲ目的トスルモノニシテ法律ニ定メタル区別ニ従ヒ検事之ヲ行フ
第二条 私訴ハ犯罪ニ因リ生シタル損害ノ賠償、贓物ノ返還ヲ目的トスルモノニシテ民法ニ従ヒ被害者ニ属ス
第三条 公訴ハ被害者ノ告訴ヲ待テ起ルモノニ非ス又告訴、私訴ノ抛棄ニ因テ消滅スルモノニ非ス但法律ニ於テ特ニ定メタル場合ハ此限ニ在ラス
第四条 私訴ハ其金額ノ多寡ニ拘ハラス公訴ニ付キ第二審ノ判決アルマテ何時ニテモ其公訴ニ附帯シテ之ヲ為スコトヲ得
第三者ハ民事訴訟法ノ規定ニ従ヒ公訴附帯ノ私訴ニ参加スルコトヲ得
第五条 被告人免訴又ハ無罪ノ言渡ヲ受ケタリト雖モ民法ニ従ヒ被害者ヨリ賠償、返還ヲ要ムル妨碍ト為ルコトナカル可シ
第六条 公訴ヲ為ス権ハ左ノ事項ニ因テ消滅ス
第一 被告人ノ死去
第二 告訴ヲ待テ受理ス可キ事件ニ付テハ告訴ノ抛棄
第三 確定判決
第四 犯罪ノ後頒布シタル法律ニ因リ其刑ノ廃止
第五 大赦
第六 時効
第七条 私訴ヲ為ス権ハ左ノ事項ニ因テ消滅ス
第一 抛棄又ハ和解
第二 確定判決
第三 時効
第八条 公訴ノ時効ハ左ノ期間ヲ経過スルニ因テ成就ス
第一 違警罪ハ六月
第二 軽罪ハ三年
第三 重罪ハ十年
第九条 私訴ノ時効ハ被害者無能力ナルトキ又ハ公訴ニ附帯セスシテ其訴ヲ為シタルトキト雖モ公訴ノ時効ト其期間ヲ同クス
公訴ニ付キ既ニ刑ノ言渡アリタルトキハ民法ニ定メタル時効ノ例ニ従フ
第十条 公訴、私訴ノ時効ハ犯罪ノ日ヨリ其期間ヲ起算ス但継続犯罪ニ付テハ其最終ノ日ヨリ起算ス
第十一条 時効ハ起訴、予審又ハ公判ノ手続アリタルニ因リ其期間ノ経過ヲ中断ス其未タ発覚セサル正犯、従犯及ヒ民事担当人ニ付テモ亦同シ
時効ノ経過ヲ中断シタルトキハ起訴、予審又ハ公判ノ手続ヲ止メタル日ヨリ更ニ其期間ヲ起算ス
第十二条 起訴、予審又ハ公判ノ手続其規定ニ背キタルニ因リ無効ニ属スルトキハ時効ノ経過ヲ中断スル効ナカル可シ但裁判所ノ管轄違ナルニ因リ其手続ノ無効ニ属スルトキハ此限ニ在ラス
第十三条 被告人免訴又ハ無罪ノ言渡ヲ受ケタル場合ニ於テ其訴訟ノ原由告訴人、告発人又ハ民事原告人ノ悪意若クハ重過失ニ出テタルトキハ是等ノ者ニ対シ損害ノ償ヲ要ムルコトヲ得
被告人刑ノ言渡ヲ受ケタリト雖モ告訴人、告発人又ハ民事原告人ヨリ悪意若クハ重過失ニ因リ其犯罪ニ付キ過実ノ申立ヲ為シタルトキ亦同シ
民事原告人上訴ヲ為シ敗訴シタルトキハ被告人其上訴ニ因リ生シタル損害ノ償ヲ要ムルコトヲ得
要償ノ訴ハ本案ノ判決アルマテ何時ニテモ其裁判所ニ之ヲ為スコトヲ得
第十四条 被告人無罪ノ言渡ヲ受ケタリト雖モ判事、検事、裁判所書記、執達吏、司法警察官又ハ巡査、憲兵卒ニ対シ要償ノ訴ヲ為スコトヲ得ス但是等ノ官吏被告人ニ対シ故意ヲ以テ損害ヲ加ヘ又ハ刑法ニ定メタル罪ヲ犯シタル場合ハ此限ニ在ラス
第十五条 此法律ニ於テ期間ヲ計算スルニ時ヲ以テスルモノハ即時ヨリ起算シ日ヲ以テスルモノハ初日ヲ算入セス若シ最終ノ日休暇ニ当ルトキハ期間ニ算入ス可カラス但時効ノ期間ハ此限ニ在ラス
一日ト称スルハ二十四時ヲ以テシ一月ト称スルハ三十日ヲ以テシ一年ト称スルハ暦ニ従フ
第十六条 此法律ニ定メタル期間ニハ海陸路八里毎ニ一日ノ猶予ヲ加フ八里ニ満サルモノト雖モ三里以上ナルトキ亦同シ
島嶼又ハ外国ニ付テハ裁判所ニ於テ特ニ附加期間ヲ定ムルコトヲ得
第十七条 此法律ニ於テ訴訟ヲ為スニ付キ定メタル期間ヲ経過シタルトキハ特別ノ場合ヲ除ク外其訴訟ヲ為ス権ヲ失フ可シ
第十八条 訴訟関係人ハ裁判所所在ノ地ニ住セサルトキハ其地ニ仮住所ヲ定メ裁判所ニ届出ツ可シ否ラサルトキハ書類ノ送達ナシト雖モ異議ヲ申立ルコトヲ得ス
第十九条 書類ノ送達ハ此法律ニ於テ別ニ規定アラサルトキハ民事訴訟法ノ規定ヲ準用ス
第二十条 官吏、公吏ノ作ル可キ書類ハ其所属官署、公署ノ印ヲ用ヒ年月日及ヒ場所ヲ記載シテ署名捺印シ毎葉ニ契印ス可シ若シ官署、公署ノ印ヲ用ユルコト能ハサル場合ニ於テハ其事由ヲ記載ス可シ此規定ニ背キタルトキハ其書類ノ効ナカル可シ
官吏、公吏ニ非サル者ノ作ル可キ書類ニハ本人自ラ署名捺印ス可シ若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ官吏、公吏ノ面前ニ於テ作リタル場合ヲ除ク外立会人代署シ其事由ヲ記載ス可シ
第二十一条 官吏其他何人ニ限ラス訴訟ニ関スル書類ノ原本、正本又ハ謄本ヲ作ルニ付キ文字ヲ改竄ス可カラス若シ挿入、削除及ヒ欄外ノ記入アルトキハ之ニ認印ス可シ文字ヲ削除スルトキハ之ヲ読得ヘキ為メ字体ヲ存シ其数ヲ記載ス可シ此規定ニ背キタルトキハ其変更増減ノ効ナカル可シ
第二十二条 此法律ハ頒布以前ニ係ル犯罪ニモ亦之ヲ適用ス
頒布以前ニ為シタル訴訟手続当時ノ法律ニ背カサルトキハ其効アリトス
第二十三条 此法律ハ陸海軍ニ関スル法律ヲ以テ処分ス可キ者ニ適用スルコトヲ得ス
第二十四条 此法律ニ於テ親属ト称スルハ刑法第百十四条第百十五条ノ規定ニ従フ
第二編 裁判所
第一章 裁判所ノ管轄
第二十五条 犯罪ノ種類ニ関スル裁判所ノ管轄ハ裁判所構成法ノ規定ニ従フ
管轄ヲ異ニスル数箇ノ犯罪ニ付キ同時ニ同一ノ被告人ニ対シ訴アリタルトキハ上級ノ裁判所併セテ之ヲ管轄ス
第二十六条 同等ノ裁判所ニ於テハ犯罪ノ地又ハ被告人所在ノ地ノ裁判所ヲ以テ予審及ヒ公判ノ管轄ナリトス
第二十七条 数箇ノ裁判所ノ管轄ナル場合ニ於テハ其中ニテ最初予審又ハ公判ニ著手シタル裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
第二十八条 従犯ハ正犯ヲ管轄スル裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
数箇ノ裁判所ノ管轄ニ属スル正犯数名アルトキハ其中ニテ最初予審又ハ公判ニ著手シタル裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
裁判所構成法第五十条第二号ニ記載シタル皇族ノ犯罪ニ付テハ其正犯、従犯ハ身分ノ如何ヲ問ハス大審院ニ於テ之ヲ管轄ス
第二十九条 外国ニ在テ犯シタル罪本邦ノ法律ニ依リ処断ス可キモノニシテ内地ニ於テ被告人ヲ逮捕シタルトキハ逮捕ノ地ノ裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス又外国ヨリ送致シタルトキハ送致ノ地ノ裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
闕席判決ヲ為ス可キ場合ニ於テハ被告人最後ノ住所ノ地ノ裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
第三十条 海船内ノ犯罪ニ付テハ定繋港又ハ犯罪後最初ニ著船シタル地ノ裁判所ヲ以テ其管轄ナリトス
第三十一条 管轄裁判所ノ指定ニ付キ申請ヲ為ス場合及ヒ其決定ヲ為ス裁判所ハ裁判所構成法第十条ノ規定ニ従フ
第三十二条 管轄裁判所ノ指定ニ付テノ申請ハ検事其他訴訟関係人ヨリ之ヲ為スコトヲ得
大審院ニ於テ管轄裁判所ヲ指定ス可キ場合ニ於テハ検事総長ハ司法大臣ノ命ニ因リ又ハ職権ヲ以テ其申請ヲ為スコトヲ得
第三十三条 管轄裁判所ノ指定ニ付キ申請ヲ為サントスル者ハ申請ニ付キ管轄権ヲ有スル裁判所ニ其趣意書ヲ差出ス可シ
裁判所ハ書類ニ依リ其申請ヲ決定ス可シ
第三十四条 犯罪ノ性質、被告人ノ身分、員数、地方ノ民心其他重大ナル事情ニ由リ裁判ニ対シ紛擾又ハ危険ヲ生スル恐アルトキハ公安ノ為メ其事件ヲ同等ナル他ノ裁判所ニ移スコトヲ得
第三十五条 公安ノ為メ裁判管轄ヲ移ス申請ハ司法大臣ノ命ニ因リ大審院検事総長ヨリ其院ニ之ヲ為ス可シ
大審院ニ於テハ訴訟関係人ノ申立ヲ聴クコトナク其申請ヲ決定スヘシ
第三十六条 被告人ノ身分、地方ノ民心又ハ訴訟ノ模様ニ因リ裁判ノ公平ヲ維持スルコト能ハサル恐アルトキハ嫌疑ノ為メ其事件ヲ同等ナル他ノ裁判所ニ移スコトヲ得
第三十七条 嫌疑ノ為メ裁判管轄ヲ移ス申請ハ管轄裁判所ノ検事其他訴訟関係人ヨリ上級裁判所ニ之ヲ為スコトヲ得
民事原告人嫌疑アル裁判所ニ私訴ヲ為シ又被告人其裁判所ニ於テ異議ノ申立ナクシテ本案ニ付キ弁論ヲ為シタルトキハ前項ノ申請ヲ為スコトヲ得ス
第三十八条 嫌疑ノ為メ裁判管轄ヲ移ス申請ヲ為スニハ其趣意書二通ヲ原裁判所ニ差出ス可シ裁判所書記ハ速ニ一通ヲ相手方ニ送達シ相手方ハ其送達アリタルヨリ三日内ニ答弁書ヲ差出スコトヲ得
裁判所ニ於テ前項ノ申請ヲ受ケタルトキハ其訴訟手続ヲ停止ス可シ
第三十九条 前条ノ申請ニ付キ管轄権ヲ有スル裁判所ニ於テハ書類ニ依リ其申請ヲ決定ス可シ
第二章 裁判所職員ノ除斥及ヒ忌避、回避
第四十条 判事ハ左ノ場合ニ於テ法律ニ依リ其職務ノ執行ヨリ除斥セラル可シ
第一 判事被害者ナルトキ
第二 判事又ハ其配偶者ト被告人、被害者又ハ是等ノ者ノ配偶者ト親属ナルトキ但姻族ニ付テハ婚姻ノ解除シタルトキト雖モ亦同シ
第三 判事其事件ニ付キ証人、鑑定人ト為リタルトキ又ハ被告人若クハ被害者ノ法律上代理人ナルトキ
第四 判事其事件ノ予審終結ニ干与シ又ハ不服ヲ申立テラレタル裁判ノ前審ニ干与シタルトキ
第四十一条 判事法律ニ依リ職務ノ執行ヨリ除斥セラルル場合及ヒ偏頗ナル裁判ヲ為スコトヲ疑フニ足ル可キ情況アル場合ニ於テハ検事其他訴訟関係人ヨリ之ヲ忌避スルコトヲ得
第四十二条 忌避ノ申請及ヒ其裁判ニ付テハ民事訴訟法第三十四条乃至第三十八条ノ規定ニ従フ
第四十三条 忌避ノ申請アリタルトキハ公判ニ付テハ其弁論ヲ中止ス可シ予審ニ付テハ仍ホ其処分ヲ継続ス可シ但急速ヲ要セサル事件ニ付テハ予審手続ヲ中止スルコトヲ得
第四十四条 判事自ラ第四十条ニ定メタル原由アルコトヲ認メ又ハ回避ス可キモノト思料シタルトキハ忌避申請ノ管轄裁判所ニ回避ノ申立ヲ為ス可シ
其裁判所ニ於テハ回避ノ申立ヲ裁判ス可シ
第四十五条 本章ノ規程ハ裁判所書記ニモ之ヲ準用ス但其裁判ハ書記所属ノ裁判所之ヲ為ス可シ
第三編 犯罪ノ捜査、起訴及ヒ予審
第一章 捜査
第四十六条 検事ハ後ニ記載シタル告訴、告発、現行犯其他ノ原由ニ因リ犯罪アルコトヲ認知シ又ハ犯罪アリト思料シタルトキハ其証憑及ヒ犯人ヲ捜査ス可シ
第四十七条 警視総監及ヒ地方長官ハ各其管轄地内ニ於テ司法警察官トシテ犯罪ヲ捜査スルニ付キ地方裁判所検事ト同一ノ権ヲ有ス但東京府知事ハ此限ニ在ラス
左ニ記載シタル官吏、公吏ハ検事ノ補佐トシテ其指揮ヲ受ケ司法警察官トシテ犯罪ヲ捜査ス可シ
第一 警視警部長、警部、警部補
第二 憲兵将校、下士
第三 島司
第四 郡長
第五 林務官
第六 市町村長
第四十八条 海船内ノ犯罪ニ付テハ船長ニ於テ司法警察ノ職務ヲ行フ可シ
第一節 告訴及ヒ告発
第四十九条 何人ニ限ラス犯罪ニ因リ損害ヲ受ケタル者ハ犯罪ノ地若クハ被告人所在ノ地ノ検事又ハ司法警察官ニ告訴スルコトヲ得
司法警察官告訴ヲ受ケタルトキハ違警罪ニ付キ即決ヲ為ス場合ヲ除ク外速ニ其書類ヲ管轄裁判所ノ検事ニ送致ス可シ
第五十条 告訴人ハ成ル可ク其証憑及ヒ事実参考ト為ル可キコトヲ申立ツ可シ
第五十一条 告訴ハ告訴人ノ署名捺印シタル書面ヲ以テ之ヲ為ス可シ
又告訴ハ口述ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得其告訴ヲ受ケタル官吏ハ調書ヲ作リ告訴人ニ之ヲ読聞カセ共ニ署名捺印ス可シ若シ告訴人署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第五十二条 官吏、公吏其職務ヲ行フニ因リ犯罪アルコトヲ認知シ又ハ犯罪アリト思料シタルトキハ速ニ其職務ヲ行フ地ノ検事ニ告発ス可シ
告発ハ官吏、公吏ノ署名捺印シタル書面ヲ以テ之ヲ為シ成ル可ク証憑及ヒ事実参考ト為ル可キ事物ヲ添フ可シ
第五十三条 何人ニ限ラス犯罪アルコトヲ認知シ又ハ犯罪アリト思料シタルトキハ第五十条第五十一条ノ規定ニ従ヒ其所在ノ地若クハ犯罪ノ地ノ検事又ハ司法警察官ニ告発スルコトヲ得
告発ヲ受ケタル司法警察官ハ第四十九条ノ規定ニ従ヒ其処分ヲ為ス可シ
第五十四条 告訴、告発ハ代人ニ委任シテ之ヲ為スコトヲ得但第五十二条ノ場合ハ此限ニ在ラス
無能力者ノ告訴ハ法律上代理人之ヲ為スモ其効アリトス
第五十五条 告訴、告発ハ其取下ヲ為シ又ハ其申立ヲ変更スルコトヲ得此場合ト雖モ第十三条ノ規定ニ従ヒ被告人ヨリ要償ノ訴ヲ受クルコトアル可シ
第二節 現行犯罪
第五十六条 現行犯罪トハ現ニ行ヒ又ハ現ニ行ヒ終リタル際ニ発覚シタル罪ヲ謂フ
第五十七条 重罪、軽罪ニ付キ左ノ場合ハ現行犯ニ准ス
第一 犯人トシテ一人又ハ数人ニ追呼セラルルトキ
第二 兇器、贓物其他ノ物件ヲ携帯シ又ハ身体、被服ニ顕著ナル犯罪ノ痕跡アリテ犯人ト思料ス可キトキ
第三 家宅内ニ於テ犯シタル罪ヲ検証スル為メ又ハ其犯人ト思料ス可キ者ヲ逮捕スル為メ戸主ヨリ官吏ニ其処分ヲ求メタルトキ
第五十八条 司法警察官及ヒ巡査、憲兵卒其職務ヲ行フニ当リ重罪又ハ禁錮ノ刑ニ該ル可キ軽罪ノ現行犯アルコトヲ知リタルトキハ令状ヲ待タスシテ被告人ヲ逮捕ス可シ
罰金ノ刑ニ該ル可キ軽罪又ハ違警罪ノ現行犯アルコトヲ知リタルトキハ被告人ノ氏名、住所ヲ問ヒ軽罪ニ付テハ検事、違警罪ニ付テハ即決ヲ為ス可キ官署ニ告発ス可シ其氏名、住所分明ナラス又ハ逃亡ノ恐アル者ハ検事若クハ官署ニ引致スルコトヲ得
第五十九条 巡査、憲兵卒被告人ヲ逮捕シタルトキハ速ニ之ヲ司法警察官ニ引致ス可シ
其被告人ヲ受取リタル司法警察官ハ逮捕及ヒ告発ニ付テノ調書ヲ作ル可シ
第六十条 何人ニ限ラス重罪又ハ禁錮ノ刑ニ該ル可キ軽罪ノ現行犯アル場合ニ於テハ直チニ被告人ヲ逮捕スルコトヲ得
第六十一条 前条ノ場合ニ於テ被告人ヲ逮捕シタル者ハ之ヲ司法警察官ニ引致ス可シ若シ引致スルコトヲ得サルトキハ自己ノ氏名、職業、住所及ヒ其逮捕ノ事由ヲ陳述シ仮ニ之ヲ巡査憲兵卒ニ引渡スコトヲ得
被告人ヲ巡査、憲兵卒ニ引渡シタルトキハ速ニ告訴又ハ告発ヲ為ス可シ
被告人又ハ巡査憲兵卒ハ逮捕ヲ為シタル者ニ対シ共ニ官署ニ至ルコトヲ求ムルヲ得但逮捕ヲ為シタル者ハ正当ノ事由アルニ非サレハ其求ヲ拒ムコトヲ得ス
第二章 起訴
第六十二条 地方裁判所検事犯罪ノ捜査ヲ終リタルトキハ左ノ手続ヲ為ス可シ
第一 重罪ト思料シタル事件ニ付テハ予審判事ニ予審ヲ求ム可シ
第二 軽罪ト思料シタル事件ニ付テハ其軽重難易ニ従ヒ予審ヲ求メ又ハ直チニ其裁判所ニ訴ヲ為ス可シ
第三 裁判所構成法第十六条第二号第三号ニ記載シタル軽罪又ハ違警罪ト思料シタル事件ニ付テハ証拠書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ区裁判所検事ニ送致ス可シ
第六十三条 区裁判所検事犯罪ノ捜査ヲ終リタル上裁判所構成法第十六条第一号第二号ニ記載シタル事件ト思料シタルトキハ其裁判所ニ訴ヲ為ス可シ
第六十四条 検事ハ被告事件其裁判所ノ管轄ニ属セサルモノト思料シタルトキハ之ヲ管轄裁判所ノ検事ニ送致ス可シ
被告事件罪ト為ラス又ハ公訴受理ス可カラサルモノト思料シタルトキハ起訴ノ手続ヲ為ス可カラス
第六十五条 前数条ノ場合ニ於テ被告事件告訴ニ係ルトキハ検事ヨリ其処分ヲ被害者ニ通知ス可シ
第六十六条 検事予審ヲ求ムルトキハ証憑及ヒ事実参考ト為ル可キ事物ヲ送致シ且臨検ス可キ場所、逮捕ス可キ人名及ヒ証人ト為ル可キ者ヲ指示ス可シ
第三章 予審
第六十七条 現行ノ重罪、軽罪ヲ除ク外予審判事ハ検事ノ請求アルニ非サレハ予審ニ取掛ルコトヲ得ス此規定ニ背キタルトキハ其請求ヨリ以前ニ係ル手続ノ効ナカル可シ
第六十八条 検事ハ予審中何時ニテモ予審判事ニ請求シテ訴訟記録ヲ検閲スルコトヲ得但二十四時内ニ之ヲ還付ス可シ
又必用ナリトスル処分ニ付キ臨時其請求ヲ為スコトヲ得
第一節 令状
第六十九条 予審判事ハ検事ノ起訴ニ因リ重罪、軽罪ノ事件ヲ受理シタルトキハ被告人ニ対シ先ツ召喚状ヲ発ス可シ但召喚状ノ送達ト被告人出頭トノ間少クトモ二十四時ノ猶予アル可シ
召喚状ニ因リ出頭シタル被告人ハ即時ニ之ヲ訊問ス可シ又遅クトモ出頭ノ日ヲ過クルコトヲ得ス
第七十条 予審判事ハ召喚状ヲ受ク可キ被告人其管轄地内ニ住セサルトキハ訊問ス可キ条件ヲ明示シテ被告人所在ノ地ノ予審判事又ハ区裁判所判事ニ其処分ヲ嘱託スルコトヲ得
第七十一条 予審判事又ハ受託判事ハ召喚状ヲ受ケタル被告人其日時ニ出頭セサルトキハ勾引状ヲ発スルコトヲ得
第七十二条 予審判事又ハ受託判事ハ左ノ場合ニ於テ直チニ勾引状ヲ発スルコトヲ得
第一 被告人定リタル住所アラサルトキ
第二 被告人罪証ヲ湮滅シ又ハ逃亡スル恐アルトキ
第三 被告人未遂罪又ハ脅迫罪ヲ犯シ仍ホ其目的ヲ遂ケントスル恐アルトキ
第七十三条 勾引状執行ノ命ヲ受ケタル者ハ其令状ヲ発シタル判事ニ被告人ヲ引致ス可シ
勾引状ヲ以テ引致シタル被告人ハ四十八時内ニ之ヲ訊問ス可シ若シ其時間ヲ経過スルトキハ勾留状ヲ発スルニ非サレハ当然之ヲ釈放ス可シ
第七十四条 予審判事又ハ受託判事ハ召喚状又ハ勾引状ヲ受ケタル被告人疾病其他正当ノ事由アリテ令状ニ応スル能ハサルコトヲ疏明シタルトキハ被告人ノ所在ニ就テ之ヲ訊問スルコトヲ得
第七十五条 勾留状ハ被告人ヲ訊問シタル後禁錮以上ノ刑ニ該ル可キモノト思料スルニ非サレハ之ヲ発スルコトヲ得ス但被告人逃亡シタル場合ニ於テハ其訊問ヲ為サスシテ之ヲ発スルコトヲ得
第七十六条 総テ令状ニハ被告事件及ヒ被告人ノ氏名、職業、住所ヲ記載ス可シ但召喚状ヲ除ク外其氏名分明ナラサルトキハ容貌、体格等ヲ明示ス可シ
又令状ニハ之ヲ発スル年月日時ヲ記載シ判事及ヒ裁判所書記署名捺印ス可シ
召喚状ハ執達吏ヲシテ被告人ニ送達セシメ勾引状、勾留状ハ巡査、憲兵卒ヲシテ之ヲ執行セシム
第七十七条 勾引状、勾留状ハ時宜ニ因リ正本数通ヲ作リ巡査、憲兵卒数人ニ分付スルコトアル可シ
前項ノ令状ヲ執行スルニハ被告人ニ正本ヲ示シ其謄本ヲ下付ス可シ此場合ニ於テハ其正本、謄本ニ執行ノ場所、日時ヲ記載シ被告人ヲシテ署名捺印セシム若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第七十八条 令状執行ノ命ヲ受ケタル巡査、憲兵卒ハ被告人其家宅若クハ他人ノ家宅ニ潜匿シタリト思料シタルトキハ其地ノ市町村長又其差支アルトキハ隣佑二名以上ノ立会ヲ求メ之ヲ捜索ス可シ
前項ノ場合ニ於テハ被告人ヲ発見シタルト否トニ拘ハラス捜索調書ヲ作リ立会人ト共ニ署名捺印ス可シ
家宅捜索ハ日出前日没後之ヲ為スコトヲ得ス但旅店、割烹店其他夜間ト雖モ衆人ノ出入スル場所ニ付テハ其公開時間内ニ限リ何時ニテモ捜索ヲ為スコトヲ得
第七十九条 予審判事ハ被告人他ノ管轄地内ニ潜匿シタルコトヲ知リ又ハ潜匿シタリト思料シタル場合ニ於テ被告事件急速ヲ要スルトキハ巡査、憲兵卒ニ令状ヲ帯行セシムルコトヲ得
巡査、憲兵卒ハ被告人所在ノ地ノ予審判事、検事又ハ司法警察官ニ令状ヲ示シテ即時ニ執行ヲ求ム可シ
第八十条 予審判事ハ被告人所在ノ地ヲ覚知スルコト能ハサルトキハ各検事長ニ被告人ノ人相書ヲ送致シ捜査及ヒ逮捕ヲ為ス可キコトヲ請求スルヲ得
請求ヲ受ケタル検事長ハ其管轄地内ノ検事ヲシテ捜索及ヒ逮捕ノ処分ヲ為サシム可シ此場合ニ於テ検事ノ発シタル逮捕状ハ勾留状ト同一ノ効ヲ有ス
第八十一条 予備、後備ノ軍籍ニ在ラサル下士以下ノ軍人、軍属ニ対シ令状ヲ発シタルトキハ其所属ノ長官又ハ隊長ニ令状ヲ示ス可シ其長官又ハ隊長ハ已ムコトヲ得サル差支アルニ非サレハ本人ヲシテ速ニ令状ニ応セシム可シ
第八十二条 勾留状ヲ受ケタル被告人ハ速ニ其令状ニ記載シタル監獄署ニ引致ス可シ若シ其監獄署ニ引致スルコト能ハサルトキハ仮ニ最近ノ監獄署ニ引致スルコトヲ得
何レノ場合ニ於テモ監獄署長ハ令状ヲ検閲シテ被告人ヲ受取リ其証書ヲ渡ス可シ
第八十三条 令状執行ノ命ヲ受ケタル巡査、憲兵卒ハ之ヲ執行シタルコト又執行スルコト能ハサルトキハ其事由ヲ令状ノ正本ニ記載ス可シ
巡査、憲兵卒ハ令状執行ニ関スル書類ヲ検事ニ差出ス可シ
第八十四条 勾留状ヲ受ク可キ被告人既ニ監獄署ニ在ルトキハ執達吏ヲシテ之ヲ本人ニ送達セシム可シ
第八十五条 密室監禁ノ場合ヲ除ク外被告人ハ監獄則ニ従ヒ官吏ノ立会ニ依リ其親属、故旧又ハ弁護士ニ接見スルコトヲ得
書翰、書籍其他ノ書類ハ予審判事又ハ検事ノ検閲ヲ経タル後ニ非サレハ被告人ト外人ト之ヲ授受スルコトヲ許サス但予審判事又ハ検事ハ其書類ヲ留置クコトヲ得
第八十六条 予審判事ハ被告事件禁錮以上ノ刑ニ該ル可キモノニ非スト思料シタルトキハ予審中何時ニテモ勾留状ヲ取消ス可シ
第二節 密室監禁
第八十七条 予審判事ハ予審中事実発見ノ為メ必要ナリト思料シタルトキハ検事ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ勾留状ヲ受ケタル被告人ヲ密室ニ監禁スル言渡ヲ為スコトヲ得
第八十八条 密室監禁ノ言渡ヲ受ケタル被告人ハ一名毎ニ之ヲ別室ニ置キ予審判事ノ允許ヲ得ルニ非サレハ他人ト接見シ又ハ書類其他ノ物品ヲ授受スルコトヲ許サス
第八十九条 密室監禁ハ十日ヲ超過ス可カラス但十日毎ニ其言渡ヲ更改スルコトヲ得
言渡ヲ更改スルトキハ其事由ヲ裁判所長ニ報告ス可シ
予審判事ハ十日間ニ少クトモ二度被告人ヲ訊問ス可シ
第三節 証拠
第九十条 被告人ノ自白、官吏ノ検証調書、証拠物件、証人及ヒ鑑定人ノ供述其他諸般ノ徴憑ハ判事ノ判断ニ任ス
第九十一条 予審判事ハ検事若クハ被告人ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ事実発見ノ為メ必要ナリトスル証拠徴憑ヲ集取ス可シ
第九十二条 予審判事臨検、捜索、物件差押又ハ被告人、証人ノ訊問ヲ為スニハ裁判所書記ノ立会ヲ必要トス書記ハ調書ヲ作リ予審判事ト共ニ署名捺印ス可シ
裁判所外ニ於テ急遽ノ際書記ノ立会ヲ得ルコト能ハサルトキハ立会人二名アルヲ要ス但監獄署ニ就テ被告人ヲ訊問スルトキハ其監獄署ノ官吏一名ヲシテ立会ハシム可シ
前項ノ場合ニ於テハ予審判事自ラ調書ヲ作リ之ヲ読聞カセ立会人ト共ニ署名捺印ス可シ
書記又ハ立会人ナクシテ為シタル処分ハ其効ナカル可シ
第四節 被告人ノ訊問及ヒ対質
第九十三条 予審判事ハ先ツ被告人ヲ訊問ス可シ但検証ヲ為シ又ハ証人ヲ訊問スルニ付キ急速ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス
第九十四条 予審判事ハ被告人ヲシテ其罪ヲ自白セシムル為メ恐嚇又ハ詐言ヲ用ユ可カラス
第九十五条 裁判所書記ハ訊問及ヒ供述ヲ録取シ被告人ニ之ヲ読聞カス可シ
予審判事ハ被告人ニ其供述ノ相違ナキヤ否ヤヲ問ヒ署名捺印セシム可シ若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第九十六条 被告人其供述ニ付キ変更増減ス可キコトヲ申立タルトキハ更ニ訊問ヲ為シ其訊問及ヒ供述ヲ録取シ之ヲ読聞カセ署名捺印ス可シ
第九十七条 被告人ハ供述書ノ謄本ヲ求ムルコトヲ得
第九十八条 予審判事ハ被告人ノ共犯ナルコト、人違ナキコト其他事実ヲ発見ス可キ一切ノ模様ヲ証スル為メ必要ナリトスルトキハ被告人ト他ノ被告人、証人又ハ其他ノ者ト対質セシムルコトヲ得
第九十九条 書記ハ対質人ノ供述及ヒ対質ニ因リ生スル一切ノ事件ヲ録取シ対質人ニ其対質ニ関スル部分ヲ読聞カス可シ
第九十五条第九十六条ノ規定ハ対質ニ付テモ亦之ヲ適用ス
第百条 被告人又ハ対質人聾ナルトキハ書面ヲ以テ問ヒ唖ナルトキハ書面ヲ以テ答ヘシム若シ聾者、唖者文字ヲ知ラサルトキハ通事ヲ命ス可シ
被告人又ハ対質人国語ニ通セサルトキ亦同シ
第百一条 通事ハ正実ニ通訳ス可キ宣誓ヲ為ス可シ
書記ハ通事ニ調書ヲ読聞カセ之ニ署名捺印セシム可シ
第百三十六条第百三十七条第百四十一条ノ規定ハ本条ニモ亦之ヲ適用ス
第五節 検証、捜索及ヒ物件差押
第百二条 予審判事ハ事実発見ノ為メ必要ナリトスルトキハ犯所又ハ其他ノ場所ニ臨ミ検証ヲ為ス可シ
第百三条 予審判事ハ犯罪ノ性質、方法、日時、場所及ヒ被告人ノ人違ナキコトヲ証明ス可キ模様ニ付キ調書ヲ作ル可シ
又被告人ノ利益ト為ル可キ模様ヲモ記載ス可シ
第百四条 予審判事ハ被告人ノ住居又ハ事実ヲ証明ス可キ物件ヲ蔵匿スル疑アル者ノ住居ニ臨検シ捜索ヲ為スコトヲ得
被告人又ハ物件ヲ蔵匿スル者其住居ニ在ラサルトキハ同居ノ親属若シ其在ラサルトキハ市町村長ノ立会アルヲ要ス
第七十八条第三項ノ規定ハ本条ニモ亦之ヲ適用ス
第百五条 予審判事ハ被告人又ハ事実ヲ証明ス可キ物件ヲ蔵匿スル疑アル者ノ身体及ヒ之ニ属スル物件ニ就キ捜索ヲ為スコトヲ得
第百六条 予審判事ハ臨検、捜索ニ因リ発見シタル物件其事実ヲ証明スルニ足ル可シト思料シタルトキハ之ヲ差押ヘテ認印ヲ為シ目録ヲ作ル可シ但其物件ヲ監護シ又ハ逓送スルハ裁判所書記之ヲ担任ス可シ
第百七条 予審判事ハ臨検、捜索、物件差押ニ付キ其日ニ処分ヲ終ラサルトキハ場所ノ周囲ヲ閉鎖シ又ハ看守者ヲ置クコトヲ得
第百八条 被告人ハ臨検、捜索、物件差押ノ処分ニ立会ヒ又ハ代人ヲシテ立会ハシムルコトヲ得
若シ被告人勾留ヲ受ケタルトキハ自ラ立会フコトヲ得ス但予審判事本人ノ立会ヲ必要ナリトスルトキハ此限ニ在ラス
第百九条 予審判事ハ被告人物件差押ノ処分ニ立会ヒタルト否トヲ問ハス其物件ヲ被告人ニ示シ弁解ヲ為サシム可シ
其訊問及ヒ供述ハ之ヲ調書ニ記載ス可シ
第百十条 予審判事ハ臨検、捜索ノ場所ニ於テ証人ノ供述ヲ聴クコトヲ必要ナリトスルトキハ第百十五条以下ノ規定ニ従ヒ之ヲ訊問ス可シ
第百十一条 予審判事ハ前数条ニ記載シタル処分中何人ニ限ラス允許ヲ得スシテ其場所ニ出入スルコトヲ禁スルヲ得
若シ其禁ヲ犯ス者アルトキハ之ヲ逐斥シ又ハ処分ヲ終ルマテ之ヲ留置スルコトヲ得
第百十二条 予審判事ハ其管轄地内ト雖モ時宜ニ因リ臨検、捜索、物件差押ノ事ヲ区裁判所判事ニ嘱託スルコトヲ得
第百十三条 予審判事ハ事実発見ノ為メ必要ナリトスルトキハ駅逓、電信、鉄道ノ官署、諸会社ニ其事由ヲ通知シ被告人又ハ予審事件ニ関係アル者ヨリ発シ若クハ此等ノ者ニ対シ発シタル書類、電報又ハ物件ヲ受取開披スルコトヲ得但受取証書ヲ渡ス可シ
第百十四条 証言ヲ拒ムコトヲ得ル者ノ所持スル物件ニシテ其黙秘ス可キ義務アル事情ニ関スルモノハ其承諾アルニ非サレハ之ヲ差押ヘ及ヒ開披スルコトヲ得ス
第六節 証人訊問
第百十五条 証人ノ呼出状ニハ其氏名、住所及ヒ職業ヲ記載ス可シ
又出頭ノ日時、場所及ヒ呼出ニ応セサルトキハ罰金ヲ言渡シ且勾引スルコトアル可キ旨ヲ記載ス可シ
呼出状ノ送達ト出頭トノ間少クトモ二十四時ノ猶予アル可シ
第百十六条 証人疾病其他正当ノ事故ニ因リ呼出ニ応スル能ハサルコトヲ疏明シタルトキハ予審判事其所在ニ就テ之ヲ訊問ス可シ
第百十七条 証人ト為ル可キ者予備、後備ノ軍籍ニ在ラサル軍人、軍属ナルトキハ其所属ノ長官又ハ隊長ヲ経由シテ呼出状ヲ送達ス其長官又ハ隊長ハ即時ニ出頭セシム可キコトヲ認可シ又ハ職務上已ムコトヲ得サル差支アルトキハ其事由ヲ付シテ出頭ノ延期ヲ予審判事ニ請求ス可シ
第百十八条 予審判事ハ前二条ニ定メタル差支ノ場合ヲ除ク外証人呼出ニ応セサルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ其不参ニ因リ生シタル費用ノ賠償及ヒ二円以上二十円以下ノ罰金ヲ言渡ス可シ但其決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得此抗告ハ執行ヲ停止スル効力ヲ有ス
予審判事ハ其証人ニ対シ罰金ノ言渡書ト共ニ再度ノ呼出状ヲ送達シ又ハ直チニ勾引状ヲ発スルコトヲ得
若シ証人再度ノ呼出ニ応セサルトキハ費用賠償ノ外二倍ノ罰金ヲ言渡ス可シ又勾引状ヲ発スルコトヲ得
予備、後備ノ軍籍ニ在ラサル軍人、軍属ニ対スル罰金ノ言渡及ヒ執行ハ軍事裁判所又ハ所属ノ長官又ハ隊長ニ嘱託シテ之ヲ為ス可シ其勾引ニ付テモ亦同シ
第百十九条 予審判事ハ証人罰金言渡書ノ送達アリタルヨリ三日内ニ其出頭セサリシコトヲ正当ノ理由ヲ以テ弁解シタルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ其罰金及ヒ賠償ノ決定ヲ取消ス可シ
第百二十条 証人呼出状ニ因リ出頭シタルトキハ其呼出状ヲ差出ス可シ若シ之ヲ遺失シタルトキハ其人違ナキコトヲ疏明ス可シ
第百二十一条 予審判事ハ証人トシテ呼出シタル者ニ対シ其氏名、年齢、職業、住所及ヒ第百二十三条ニ記載シタル者ナリヤ否ヤヲ問フ可シ
第百二十二条 予審判事ハ証人ヲシテ良心ニ従ヒ真実ヲ述ヘ何事ヲモ黙秘セス又何事ヲモ附加セサル旨ヲ宣誓セシム可シ
裁判所書記ハ証人ニ宣誓書ヲ読聞カセ之ニ署名捺印セシム若シ署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第百二十三条 左ニ記載シタル者ハ証人ト為ルコトヲ許サス但宣誓ヲ為サシメスシテ事実参考ノ為メ其供述ヲ聴クコトヲ得
第一 民事原告人
第二 民事原告人及ヒ被告人ノ親属但姻族ニ付テハ婚姻ノ解除シタルトキト雖モ亦同シ
第三 民事原告人及ヒ被告人ノ後見人又ハ此等ノ者ノ後見ヲ受クル者
第四 民事原告人及ヒ被告人ノ雇人又ハ同居人
第百二十四条 左ニ記載シタル者亦前条ニ同シ
第一 十六歳未満ノ幼者
第二 知覚精神ノ不十分ナル者
第三 瘖唖者
第四 公権ヲ剥奪セラレ又ハ公権ヲ停止セラレタル者
第五 重罪事件又ハ重禁錮ノ刑ニ該ル可キ軽罪事件ニ付キ公判ニ付セラレタル者
第六 現ニ供述ヲ為ス可キ事件ニ付キ曽テ訴ヲ受ケ其証憑十分ナラサルニ因リ免訴ノ言渡ヲ受ケタル者
第百二十五条 左ニ記載シタル場合ニ於テハ証言ヲ拒ムコトヲ得
第一 官吏、公吏又ハ官吏、公吏タリシ者其職務上黙秘ス可キ義務アル事情ニ闕スルトキ
第二 医師、薬商、穏婆、弁護士、弁護人、公証人、神職、僧侶其身分、職業ノ為メ委託ヲ受ケタルニ因テ知リタル事実ニシテ黙秘ス可キモノニ関スルトキ
証言ヲ拒ム者ハ拒絶ノ原因タル事実ヲ開示シ且之ヲ疏明ス可シ
第百二十六条 証人宣誓ヲ肯セス又ハ宣誓シテ供述ヲ肯セサルトキハ予審判事検事ノ意見ヲ聴キ刑法第百八十条ニ従ヒ罰金ヲ言渡ス可シ但其決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得此抗告ハ執行ヲ停止スル効力ヲ有ス
予備、後備ノ軍籍ニ在ラサル軍人、軍属ニ対スル罰金ノ言渡及ヒ執行ハ軍事裁判所ニ嘱託シテ之ヲ為ス可シ
第百二十七条 証人ハ他ノ証人及ヒ被告人ト各別ニ之ヲ訊問ス可シ但事実発見ノ為メ必要ナリトスルトキハ証人ト他ノ証人又ハ被告人ト対質セシムルコトヲ得
第百二十八条 予審判事ハ証人ノ供述ヲ確実ナラシムル為メ必要ナリトスルトキハ犯所又ハ其他ノ場所ニ同行スルコトヲ得
若シ証人同行スルコトヲ肯セサルトキハ第百十八条ノ規定ニ従フ
第百二十九条 第百条第百一条ノ規定ハ証人ニ付テモ亦之ヲ適用ス
第百三十条 皇族証人ナルトキハ予審判事其所在ニ就キ訊問ヲ為ス可シ
各大臣ニ付テハ其官庁ノ所在地ニ於テ之ヲ訊問ス若シ其所在地外ニ滞在スルトキハ其現在地ニ於テ之ヲ訊問ス可シ
帝国議会ノ議員ニ付テハ開会期間其議会ノ所在地ニ滞在中ハ其所在地ニ於テ之ヲ訊問ス可シ
第百三十一条 予審判事ハ証人ニ其供述ノ相違ナキヤ否ヤヲ知ラシムル為メ裁判所書記ヲシテ調書ヲ読聞カセシム可シ
証人ハ其供述ヲ変更増減センコトヲ請求スルヲ得書記ハ其請求アリタルコト及ヒ変更増減ノ条件ヲ調書ニ記載ス可シ
調書ニハ予審判事、書記及ヒ証人共ニ署名捺印ス可シ若シ証人署名捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ附記ス可シ
第百三十二条 予審判事ハ証人裁判所所在ノ地ニ住セサルトキハ其住居ノ地ノ区裁判所判事ニ訊問ノ事ヲ嘱託スルコトヲ得
若シ証人管轄地外ニ在ルトキハ其所在ノ地ノ予審判事又ハ区裁判所判事ニ訊問ノ事ヲ嘱託スルコトヲ得
第百三十三条 第百十八条第百十九条及ヒ第百二十六条ニ掲ケタル証人ニ対スル予審判事ノ権ハ受託判事ニモ属ス
第百三十四条 証人ハ出頭ニ付テノ旅費、日当ヲ要ムルコトヲ得
第七節 鑑定
第百三十五条 予審判事ハ犯罪ノ性質、方法及ヒ結果ヲ分明ナラシムル為メ鑑定ヲ必要ナリトスルトキハ学術、職業ニ因リ鑑定スルコトヲ得ヘキ者一名又ハ数名ヲシテ鑑定ヲ為サシム可シ
鑑定ノ為メ必要ナリトスルトキハ死体ノ解剖ヲ命シ又既ニ埋葬シタル死体ヲ解剖シ若クハ検視スル為メ墳墓ノ発掘ヲ命スルコトヲ得
第百三十六条 鑑定ニ付テハ第百十五条第百十八条乃至第百二十一条第百二十三条乃至第百二十五条及ヒ第百二十八条ノ規定ヲ準用ス但鑑定人ニ対シテハ勾引状ヲ発スルコトヲ得ス
第百三十七条 鑑定人ハ公平且正実ニ鑑定ス可キ宣誓ヲ為ス可シ其宣誓ハ第百二十二条ノ式ニ従フ
第百三十八条 鑑定人宣誓ヲ肯セス又ハ宣誓シテ鑑定ヲ肯セサルトキハ予審判事検事ノ意見ヲ聴キ刑法第百七十九条ニ従ヒ罰金ヲ言渡ス可シ但其決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得此抗告ハ執行ヲ停止スル効力ヲ有ス
第百三十九条 予審判事ハ鑑定人ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ鑑定人ヲ増加シ又ハ別人ヲシテ鑑定セシムルコトヲ得
第百四十条 鑑定人ハ鑑定書ヲ作リ其手続、結果及ヒ鑑定ヲ為シタル時間ヲ詳記ス可シ
若シ結果ヲ得サルトキハ其推測スル所ヲ記載ス可シ
鑑定人意見ヲ異ニスルトキハ各自鑑定書ヲ作リ又ハ各自ノ意見ヲ一箇ノ鑑定書ニ記載ス可シ
第百四十一条 鑑定人ハ旅費、日当及ヒ立替金ノ弁済ヲ要ムルコトヲ得
第八節 現行犯ノ予審
第百四十二条 予審判事ハ検事ヨリ先ニ重罪又ハ地方裁判所ノ管轄ニ属スル軽罪ノ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ其事件急速ヲ要スルトキハ検事ノ請求ヲ待タス直チニ其旨ヲ通知シ予審ニ取掛ルコトヲ得
予審判事ハ犯所ニ臨検シ令状ヲ発シ其他此章ノ規定ニ従ヒ予審ノ処分ヲ為スコトヲ得
第百四十三条 前条ノ場合ニ於テハ検事ノ起訴ナシト雖モ予審判事検証調書ヲ作ルヲ以テ公訴ヲ受理シタルモノトス其調書ニハ現行ノ重罪又ハ軽罪ナルコトヲ記載ス可シ
予審判事ハ速ニ書類ヲ検事ニ送致ス可シ但検事ヨリ其予審手続ヲ継続ス可キモノニ非サル意見アリト雖モ通常ノ規定ニ従ヒ之ヲ終結ス可シ
第百四十四条 地方裁判所検事及ヒ区裁判所検事ハ予審判事ヨリ先ニ重罪又ハ地方裁判所ノ管轄ニ属スル軽罪ノ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ其事件急速ヲ要スルトキハ予審判事ヲ待ツコトナク其旨ヲ通知シテ犯所ニ臨検シ予審判事ニ属スル処分ヲ為スコトヲ得但罰金及ヒ費用賠償ノ言渡ヲ為スコトヲ得ス
証人及ヒ鑑定人ノ供述ハ宣誓ヲ用ユルコトナク之ヲ聴ク可シ
第百四十五条 前条ノ場合ニ於テ地方裁判所検事ハ証憑書類ニ意見書ヲ添ヘ速ニ之ヲ予審判事ニ送致シ区裁判所検事ハ之ヲ地方裁判所検事ニ送致ス可シ
第百四十六条 区裁判所検事其裁判所ノ管轄ニ属スル軽罪ノ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ其事件急速ヲ要スルトキハ第百四十四条ニ規定シタル処分ヲ為スコトヲ得
若シ被告人ニ対シ勾留状ヲ発シタルトキハ三日内ニ起訴ノ手続ヲ為ス可シ
第百四十七条 第百四十四条第百四十六条ニ於テ検事ニ許シタル職務ハ司法警察官モ亦仮ニ之ヲ行フコトヲ得但勾留状ヲ発スルコトヲ得ス
司法警察官ハ証憑書類ニ意見書ヲ添ヘ速ニ之ヲ管轄裁判所ノ検事ニ送致シ且被告人ヲ逮捕シタルトキハ共ニ之ヲ送致ス可シ
第百四十八条 地方裁判所検事ハ区裁判所検事又ハ司法警察官ヨリ事件ノ送致ヲ受ケタルトキハ一切ノ書類ニ請求書ヲ添ヘ予審判事ニ送致ス可シ
若シ同時ニ被告人ヲ受取リタルトキハ二十四時内ニ之ヲ訊問シ勾留状ヲ発シ又ハ発セスシテ前項ノ手続ヲ為ス可シ
第百四十九条 地方裁判所検事ハ何レノ場合ニ於テモ軽罪ノ現行犯ニ係リ予審ヲ求ムルニ及ハスト思料シタルトキハ勾留状ヲ発シタルト否トニ拘ハラス直チニ其裁判所ニ訴ヲ為スコトヲ得
被告事件罪ト為ラス又ハ公訴受理ス可カラサルモノト思料シタルトキハ起訴ノ手続ヲ為ス可カラス
第九節 保釈
第百五十条 予審判事ハ予審中勾留状ヲ受ケタル被告人ノ請求ニ因リ検事ノ意見ヲ聴キ何時ニテモ呼出ニ応シ出頭ス可キ証書ヲ差出シ且保証ヲ立テシメ保釈ヲ許スコトヲ得
被告人無能力ナルトキハ法律上代理人ヨリ保釈ヲ求ムルコトヲ得
第百五十一条 保証ノ金額ハ予審判事之ヲ定メ保釈ヲ許ス言渡書ニ記載ス可シ
第百五十二条 保証ヲ為スニハ被告人又ハ法律上代理人ヨリ金銭若クハ有価証券ヲ差出ス可シ
又裁判所ノ管轄地内ニ住シ且十分ナル資力アル者ヨリ金額ニ充ツ可キ保証書ヲ差出スコトヲ得
第百五十三条 保釈人被告人ヲ呼出ストキハ出頭ヨリ二十四時前ニ其報告ヲ為ス可シ
第百五十四条 保釈中被告人呼出ヲ受ケ正当ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ保証金ノ全部又ハ一分ヲ没収ス可シ
第百五十五条 保証金ヲ没収スルニハ検事ノ意見ヲ聴キ予審判事其言渡ヲ為ス可シ
第百五十六条 予審判事保証金ヲ没収シタルトキハ保釈ノ言渡ヲ取消ス可シ
又予審中保釈ノ言渡ヲ取消スコトヲ必要ナリトスルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ其言渡ヲ取消ス可シ
第百五十七条 予審判事保証金ヲ没収シタル後免訴ノ言渡、違警罪又ハ罰金ニ該ル可キ軽罪ニ付キ公判ニ付スル言渡ヲ為シタルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ前ニ没収シタル金額ヲ還付ス可シ
第百五十八条 予審判事免訴ノ言渡、違警罪又ハ罰金ニ該ル可キ軽罪ニ付キ公判ニ付スル言渡ヲ為シ若クハ保釈ノ言渡ヲ取消シタルトキハ保証金ヲ還付ス可シ
第百五十九条 予審判事ハ保釈ノ請求アルト否トヲ問ハス検事ノ意見ヲ聴キ被告人ヲ其親属又ハ故旧ニ責付スルコトヲ得
責付ヲ為スニハ親属又ハ故旧ヨリ何時ニテモ呼出ニ応シ被告人ヲ出頭セシム可キ証書ヲ差出サシムヘシ
第百六十条 責付中被告人ヲ呼出ストキハ出頭ヨリ二十四時前ニ其報知ヲ為ス可シ
被告人正当ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ責付ノ言渡ヲ取消ス可シ
第十節 予審終結
第百六十一条 予審判事ハ被告事件其管轄ニ非ストシ又ハ他ニ取調ヲ要スルコトナシト思料シタルトキハ予審終結ノ処分ニ付キ検事ノ意見ヲ求ムル為メ訴訟記録ヲ送致ス可シ
検事ハ訴訟記録ニ意見ヲ付シ三日内ニ之ヲ還付ス可シ
第百六十二条 検事ハ予審十分ナラスト思料シタルトキハ其条件ニ付キ更ニ取調ヲ請求スルコトヲ得若シ予審判事其請求ヲ肯セサルトキハ検事ハ訴訟記録ニ意見ヲ付シ二十四時内ニ之ヲ還付ス可シ
第百六十三条 予審判事ハ検事ノ意見如何ナルヲ問ハス後数条ニ記載シタル決定ヲ以テ予審ヲ終結ス可シ
第百六十四条 予審判事ハ被告事件其管轄ニ非サルコトヲ認メタルトキハ其旨ヲ言渡ス可シ若シ勾留ヲ要スルモノト認メタルトキハ前ニ発シタル令状ヲ存シ又ハ新ニ令状ヲ発シ其事件ヲ検事ニ交付ス可シ
第百六十五条 予審判事ハ左ノ場合ニ於テ免訴ノ言渡ヲ為シ且被告人勾留ヲ受ケタルトキハ放免ノ言渡ヲ為ス可シ
第一 犯罪ノ証憑十分ナラサルトキ
第二 被告事件罪ト為ラサルトキ
第三 公訴ノ時効ニ罹リタルトキ
第四 確定判決ヲ経タルトキ
第五 大赦アリタルトキ
第六 法律ニ於テ其罪ヲ全免スルトキ
第百六十六条 被告事件違警罪ナリト思料シタルトキハ区裁判所ニ移ス言渡ヲ為シ且被告人勾留ヲ受ケタルトキハ釈放ノ言渡ヲ為ス可シ
第百六十七条 被告事件裁判所構成法第十六条第二号ニ記載シタル軽罪ナリト思料シタルトキハ区裁判所ニ移ス言渡ヲ為シ其他ノ軽罪ナリト思料シタルトキハ其裁判所ノ軽罪公判ニ付スル言渡ヲ為ス可シ
被告人勾留ヲ受ケタル場合ニ於テ罰金ノ刑ニ該ルモノト思料シタルトキハ釈放ノ言渡ヲ為ス可シ
禁錮ノ刑ニ該ル可キモノト思料シタルトキハ保釈ヲ許シ又ハ責付ヲ為スコトヲ得若シ被告人未タ勾留ヲ受ケサルトキハ令状ヲ発スルコトヲ得
第百六十八条 被告事件重罪ナリト思料シタルトキハ其裁判所ノ重罪公判ニ付スル言渡ヲ為ス可シ若シ保釈ヲ許シ又ハ責付ヲ為シタルトキハ其言渡ヲ取消シ被告人未タ勾留ヲ受ケサルトキハ令状ヲ発ス可シ
第百六十九条 予審終結ノ決定ニハ事実及ヒ法律ニ依リ其理由ヲ付ス可シ
管轄違ノ言渡ヲ為スニハ其原由ヲ明示シ若シ被告人ヲ勾留ス可キトキハ其原由ヲ明示ス可シ
免訴ノ言渡ヲ為スニハ被告事件罪ト為ラサルコト、公訴受理ス可カラサルコト及ヒ其原由又犯罪ノ証憑十分ナラサルトキハ其旨ヲ明示ス可シ
区裁判所ニ移ス言渡又ハ公判ニ付スル言渡ヲ為スニハ犯罪ノ性質、模様、証憑ノ十分ナルコト及ヒ其罪ヲ罰ス可キ法律ノ正条ヲ明示ス可シ
第百七十条 前条ノ決定ニハ第七十六条ノ規定ニ従ヒ被告人ノ氏名等ヲ明示ス可シ
第百七十一条 予審終結ノ決定ノ正本ハ速ニ検事及ヒ被告人ニ送達ス可シ
第百七十二条 検事ハ重罪公判ニ付スル決定又ハ免訴若クハ管轄違ノ決定ニ対シ抗告ヲ為スコトヲ得
被告人ハ重罪公判ニ付スル決定ニ対シ抗告ヲ為スコトヲ得
第百七十三条 重罪公判ニ付スル場合ニ於テ被告人ニ送達ス可キ決定ニハ其決定ニ対シ抗告ヲ為スヲ得ヘキコト及ヒ其期間ヲ記載ス可シ其記載ナキトキハ更ニ通常ノ規定ニ従ヒ決定ノ送達アルマテ抗告期間ノ経過ヲ停止ス
第百七十四条 予審終結ノ決定ハ抗告ノ期間内又抗告アリタルトキハ其決定アルマテ執行ヲ停止ス但保釈責付ノ言渡ヲ取消ス決定ハ其執行ヲ停止セス
第百七十五条 予審ニ於テ被告人免訴ノ言渡ヲ受ケ其決定確定シタルトキハ罪名ノ変更アルモ同一ノ事件ニ付キ再ヒ訴ヲ受クルコトナカル可シ但新ナル証憑アルトキハ此限ニ在ラス
新ナル証憑アルトキハ検事ヨリ之ヲ其裁判所ニ差出シ裁判所ニ於テハ其起訴ヲ許ス可キヤ否ヤヲ決定ス可シ
第四編 公判
第一章 通則
第百七十六条 公判ハ判事、検事、裁判所書記出廷シテ之ヲ為スモノトス
第百七十七条 被告人ハ公廷ニ於テ身体ノ拘束ヲ受クルコトナシ但守卒ヲ置クコトアル可シ
第百七十八条 裁判所ニ於テハ何時ニテモ禁錮以上ノ刑ニ該ル可キ被告人ニ対シ勾引状又ハ勾留状ヲ発スルコトヲ得
第百七十九条 被告人ハ弁論ノ為メ弁護人ヲ用ユルコトヲ得
弁護人ハ裁判所所属ノ弁護士中ヨリ之ヲ選任ス可シ但裁判所ノ允許ヲ得タルトキハ弁護士ニ非サル者ト雖モ弁護人ト為スコトヲ得
第百八十条 弁護人ハ裁判所ニ於テ訴訟記録ヲ閲読シ且之ヲ抄写スルコトヲ得
第百八十一条 被告人ノ法律上代理人ハ其補佐人ト為リ弁論ニ与カルコトヲ得
第百八十二条 被告人出頭シテ弁論スルコトヲ肯セサルトキハ対席トシテ裁判ヲ為ス可シ
被告人審問ヲ妨ケ又ハ不当ノ行状ヲ為シ裁判長ヨリ退廷又ハ勾留ヲ命セラレタルトキ亦同シ若シ弁論二日ニ渉ルトキハ更ニ被告人ヲ出頭セシム可シ
第百八十三条 被告人精神錯乱又ハ疾病ニ因リ出頭スルコト能ハサルトキハ痊癒ニ至ルマテ弁論ヲ停止ス但罰金以下ノ刑ニ該ル可キ事件ニ付キ被告人代人ヲ差出シタルトキハ此限ニ在ラス
弁論ニ取掛リタル後被告人精神錯乱シタルトキハ其痊癒ノ後新ニ弁論ヲ為ス可シ其他ノ疾病ニ罹ルトキハ痊癒ノ後前ニ停止シタルヨリ以後ノ手続ヲ為ス可シ但五日間弁論ヲ停止シ又ハ検事其他訴訟関係人ノ請求アリタルトキハ新ニ弁論ヲ為ス可シ
若シ被告事件及ヒ法律ノ適用ニ付キ既ニ弁論ヲ終リタルトキハ其痊癒ノ後更ニ取調ヲ為スコトナク裁判ヲ為ス可シ
第百八十四条 裁判所ニ於テハ訴ヲ受ケサル事件ニ付キ裁判ヲ為ス可カラス但弁論ニ因リ発見シタル附帯ノ犯罪ニ付テハ此限ニ在ラス
若シ附帯ノ犯罪ニ付キ予審ヲ必要ナリトスルトキハ本案ノ弁論ヲ停止スルコトヲ得
第百八十五条 左ノ場合ニ於テハ附帯ノ犯罪ナリトス
第一 同一ノ場所ニ於テ同時ニ一人又ハ数人ニテ数罪ヲ犯シタルトキ
第二 数人通謀シテ日時又ハ場所ヲ異ニシ数罪ヲ犯シタルトキ
第三 自己又ハ他人ノ犯罪ヲ容易ニスル為メ又ハ其罪ヲ免カルル為メ他ノ罪ヲ犯シタルトキ
第百八十六条 検事及ヒ被告人ハ第一審第二審ヲ問ハス本案ノ判決アルマテ何時ニテモ管轄違又ハ公訴受理ス可カラサル申立ヲ為スコトヲ得
裁判所ニ於テハ職権ヲ以テ管轄違又ハ公訴受理ス可カラサル言渡ヲ為スコトヲ得
第百八十七条 裁判所ニ於テ前条ノ申立ヲ却下シタルトキハ本案ノ判決ヲ待タス直チニ控訴又ハ上告ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ本案ノ弁論ヲ停止ス
第百八十八条 調書ヲ作リタル司法警察官ハ検事其他訴訟関係人ノ請求ニ因リ又ハ裁判所ノ職権ヲ以テ証人トシテ之ヲ呼出スコトヲ得
第百八十九条 予審ニ於テ訊問シタル証人又ハ鑑定ヲ為シタル鑑定人ハ更ニ之ヲ呼出スコトヲ得
予審ニ於ケル証人ノ供述書又ハ鑑定人ノ鑑定書ハ更ニ其証人、鑑定人ヲ呼出ササルトキ、証人、鑑定人呼出ヲ受ケ出頭セサルトキ又ハ予審及ヒ公判ニ於ケル供述、鑑定ヲ比較ス可キトキハ検事其他訴訟関係人ノ請求ニ因リ又ハ裁判長ノ職権ヲ以テ之ヲ朗読セシムルコトヲ得
第百九十条 第百十五条以下ノ規定ハ公判ノ証人ニ第百三十五条以下ノ規定ハ公判ノ鑑定人ニモ亦之ヲ準用ス
第百九十一条 証人疾病其他正当ノ事故ニ因リ出頭スル能ハサルコトヲ疏明シタルトキハ裁判所ハ其部員一名ニ命シ又ハ区裁判所判事ニ嘱託シ其所在ニ就テ之ヲ訊問セシムルコトヲ得
第百九十二条 検事、被告人及ヒ民事原告人ノ請求ニ因リ呼出ス証人ノ氏名目録ハ開廷ヨリ一日前之ヲ各相手方ニ送達ス可シ
第百九十三条 証人ハ互ニ言語ヲ接ス可カラス又供述前弁論ニ立会フ可カラス既ニ供述ヲ為シタル後ハ公廷ニ留ル可シ但裁判長ヨリ退去ノ允許ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第百九十四条 証人及ヒ被告人ノ訊問ハ裁判長之ヲ為スモノトス
陪席判事及ヒ検事ハ裁判長ニ告ケ証人及ヒ被告人ヲ訊問スルコトヲ得
訴訟関係人ハ弁論ニ必要ナリトスル事項ヲ分明ナラシムル為メ証人ヲ訊問ス可キコトヲ裁判長ニ求ムルヲ得
第百九十五条 証人又ハ鑑定人ノ供述不実ニシテ故意ニ出テ禁錮以上ノ刑ニ該ル可キ者ト思料シタルトキハ裁判所ニ於テ検事其他訴訟関係人ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ之ヲ取押ヘ勾引状ヲ発シ予審判事ニ送致ス可シ
其証人又ハ鑑定人ノ供述ハ裁判所書記之ヲ録取シ予審判事ニ送致ス可シ
本条ノ場合ニ於テハ裁判所ニテ検事其他訴訟関係人ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ本案ノ弁論ヲ停止スルコトヲ得
第百九十六条 被告人聾者、唖者又ハ国語ニ通セサル者ナルトキハ第百条第百一条ノ規定ニ従フ
第百九十七条 裁判所ニ於テハ証人被告人ノ面前ニ於テ十分ナル供述ヲ為スコトヲ得サル可シト思料シタルトキハ其証人ノ供述中被告人ヲ退廷セシムルコトヲ得但裁判長ハ証人供述ヲ終リタル後被告人ヲ入廷セシメ其供述シタル事項ヲ告知ス可シ
本条ノ規定ハ共同被告人ニモ亦之ヲ適用ス
第百九十八条 裁判長ハ各証憑ノ取調終リタル毎ニ被告人ニ意見アリヤ否ヤヲ問ヒ且其利益ト為ル可キ証憑ヲ差出スヲ得ヘキコトヲ告知ス可シ
又証憑物件ハ被告人ニ示シテ弁解ヲ為サシム可シ
第百九十九条 弁論中公判ノ手続ニ付キ異議ノ申立アリタルトキハ裁判所ニ於テ検事ノ意見ヲ聴キ直チニ之ヲ裁判ス可シ
第二百条 裁判所ニ於テハ公訴ノ判決ト同時ニ私訴ノ判決ヲ為ス可シ
私訴ニ付キ取調未タ十分ナラサルトキハ公訴ノ判決アリタル後其判決ヲ為スコトヲ得
第二百一条 被告人有罪ト為リタルトキハ裁判所ノ職権ヲ以テ公訴ニ関スル訴訟費用ノ全部又ハ一分ヲ負担ス可キ言渡ヲ為ス可シ
免許又ハ無罪ノ言渡アリタル場合ニ於テ公訴ニ関スル訴訟費用ハ国庫之ヲ負担ス
私訴ニ関スル訴訟費用ノ負担ハ民事訴訟法ノ規定ニ従フ
第二百二条 被告人有罪ト為リタルト否トヲ問ハス没収ニ係ラサル差押物ハ所有者ノ請求ナシト雖モ之ヲ還付スル言渡ヲ為ス可シ
第二百三条 刑ノ言渡ヲ為スニハ事実及ヒ法律ニ依リ其理由ヲ明示シ且犯罪ノ証憑ヲ明示ス可シ
無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ為スニ付テモ亦其理由ヲ明示ス可シ
第二百四条 判決ノ言渡ハ弁論ヲ終リタル後即日又ハ次ノ開廷日ニ之ヲ為ス可シ
判決ノ言渡ハ判決主文ノ朗読ニ因リ之ヲ為ス其判決ノ理由ハ判決ノ言渡ト同時ニ之ヲ朗読シ又ハ口頭ニテ其要領ヲ告ク可シ
第二百五条 判決ノ原本ニハ其裁判ヲ為シタル裁判所、年月日、其事件ニ干与シタル検事ノ官民名ヲ記載シ判事、裁判所書記共ニ署名捺印ス可シ
第二百六条 訴訟関係人ハ其費用ヲ以テ判決ノ正本、謄本又ハ抄本ヲ求ムルコトヲ得但上訴ノ為メ其求ヲ為シタルトキハ書記ヨリ二十四時内ニ之ヲ下付ス可シ
第二百七条 対席判決ニ因リ刑ノ言渡アリタルトキハ裁判長ヨリ其言渡ヲ受ケタル者ニ前条ノ請求及ヒ其判決ニ対シ上訴ヲ為スヲ得ヘキコト及ヒ其期間ヲ告知シ又闕席判決ニ因リ刑ノ言渡アリタルトキハ其判決ニ対シ故障ヲ為スヲ得ヘキコト及ヒ其期間ヲ記載ス可シ
若シ其告知又ハ記載ナキトキハ更ニ其通知アルマテ上訴及ヒ故障期間ノ経過ヲ停止ス
第二百八条 裁判所書記ハ公判始末書ヲ作リ左ノ事項其他一切ノ訴訟手続ヲ記載ス可シ
第一 公ニ弁論ヲ為シタルコト又ハ公開ヲ禁シタルコト及ヒ其事由
第二 被告人ノ訊問及ヒ其供述
第三 証人、鑑定人ノ供述及ヒ宣誓ヲ為シタルコト若シ宣誓ヲ為ササルトキハ其事由
第四 証拠物件
第五 弁論中異議ノ申立アリタルコト、其申立ニ付キ検事其他訴訟関係人ノ意見及ヒ裁判所ノ裁判
第六 弁論ノ順序及ヒ被告人ヲシテ最終ニ供述セシメタルコト
第二百九条 公判始末書ニハ前条ニ記載シタル事項ノ外裁判ヲ為シタル裁判所、年月日、裁判長、陪席判事、検事及ヒ裁判所書記ノ官氏名ヲ記載ス可シ
弁論数日ニ渉ルトキハ其旨及ヒ同一ノ判事出席シタルコトヲ記載ス可シ
弁論中補充判事ヲシテ代ラシメタルトキハ其旨ヲ記載ス可シ
第二百十条 公判始末書ハ判決言渡ヨリ三日内ニ之ヲ整頓シ裁判長及ヒ裁判所書記署名捺印ス可シ
裁判長ハ署名捺印セサル以前ニ公判始末書ヲ検閲シ若シ意見アルトキハ其紙尾ニ記載ス可シ
第二百十一条 判決及ヒ公判始末書ノ原本ハ訴訟記録ニ添付シ其裁判所ニ保存ス可シ若シ上訴アリタルトキハ之ヲ上訴裁判所ニ送付ス可シ
第二章 区裁判所公判
第二百十二条 区裁判所ハ左ノ場合ニ於テ其管轄ニ属スル違警罪及ヒ軽罪ノ公訴ヲ受理ス
第一 検事ノ起訴アリタルトキ
第二 予審判事又ハ上級裁判所ヨリ事件ヲ移ス裁判アリタルトキ
第二百十三条 検事ハ何レノ場合ニ於テモ被告人ニ対シ呼出状ヲ発ス可キコトヲ裁判所ニ請求ス可シ
裁判所ハ裁判所書記ヲシテ被告人ニ対シ呼出状ヲ発セシム可シ
第二百十四条 呼出状ニハ呼出ヲ受ク可キ者ノ氏名、職業、住所、出頭ノ日時、場所及ヒ被告事件ヲ記載シ且被告事件違警罪又ハ罰金ニ該ル可キ軽罪ナルトキハ代人ヲシテ出頭セシムルコトヲ得ヘキ旨ヲ記載ス可シ
若シ被告事件ノ記載ナキ場合ニ於テ被告人未タ其事件ニ付キ取調ヲ受ケサリシトキハ弁護準備ノ為メ二日ノ猶予ヲ求ムルコトヲ得
第二百十五条 呼出状ノ送達ト出頭トノ間少クトモ二日ノ猶予アル可シ
第二百十六条 判事ハ予審ヲ経サル被告事件急速ヲ要スルトキハ公判ニ取掛ル前検証処分ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ検事其他訴訟関係人ノ立会ヲ要セス
第二百十七条 証人ハ呼出状ノ送達ト出頭トノ間少クトモ二十四時ノ猶予ヲ以テ之ヲ呼出ス可シ
又呼出ヲ受ケスシテ出頭シタル者ト雖モ異議ノ申立ナキトキハ裁判所ニ於テ証人トシテ其供述ヲ聴クコトヲ得
第二百十八条 判事ハ先ツ被告人ノ氏名、年齢、身分、職業、住所、出生ノ地ヲ問フ可シ
検事ハ被告事件ヲ陳述ス可シ
第二百十九条 判事ハ被告事件ニ付キ被告人ヲ訊問ス可シ
必要ナル調書其他証憑書類ハ書記ヲシテ朗読セシメ又証人ノ供述ヲ聴キ其他証憑ノ取調ヲ為ス可シ
若シ被告人ノ自白アリタル場合ニ於テ検事、民事原告人ノ異議ナキトキハ他ノ証憑ヲ取調フルニ及ハス
第二百二十条 証憑調済ノ後検事ハ事実及ヒ法律適用ニ付キ意見ヲ陳述ス可シ
被告人及ヒ其弁護人ハ答弁ヲ為スコトヲ得
検事、被告人及ヒ弁護人ハ迭ヒニ弁論ヲ為スコトヲ得但弁論ノ最終ニハ被告人又ハ弁護人ヲシテ供述セシム可シ
第二百二十一条 公訴ニ付キ弁論終リタル後民事原告人ハ被害ノ事実ヲ証明シ且私訴ニ付キ其請求スル所ヲ陳述ス可シ
被告人、弁護人及ヒ民事担当人ハ答弁ヲ為スコトヲ得
第二百二十二条 被告事件其裁判所ノ管轄ニ属セサルトキハ判決ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ為ス可シ若シ被告人勾留ヲ受ケタルトキハ放免ノ言渡ヲ為ス可シ
本条ノ場合ニ於テ勾留ヲ要スルモノト認メタルトキハ前勾留状ヲ存シ又ハ新ニ勾留状ヲ発シ其事件ヲ検事ニ交付ス可シ
第二百二十三条 被告事件其裁判所ノ管轄ニ属シ且犯罪ノ証憑十分ナルトキハ判決ヲ以テ法律ニ従ヒ刑ノ言渡ヲ為ス可シ
第二百二十四条 犯罪ノ証憑十分ナラス又ハ被告事件罪ト為ラサルトキハ判決ヲ以テ無罪ノ言渡ヲ為シ又第百六十五条第三号以下ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ為ス可シ
第二百二十五条 前二条ノ場合ニ於テハ私訴ニ付キ其請求価額ノ多寡ニ拘ハラス判決ヲ為ス可シ
第二百二十六条 呼出ヲ受ケタル被告人又ハ罰金以下ノ刑ニ該ル可キ事件ニ付キ其代人公判ノ期日ニ出頭セサルトキハ検事ノ請求スル所ヲ聴キ闕席判決ヲ為ス可シ
私訴関係人出頭セサルトキハ民事訴訟法ノ規定ニ従ヒ闕席判決ヲ為ス可シ
第二百二十七条 禁錮ノ刑ニ該ル可キ事件ニ付キ被告人出頭セスト雖モ予審終結ノ言渡書又ハ公判ノ呼出状ヲ本人ニ送達シタル証アルニ非サレハ闕席判決ヲ為ス可カラス
予審終結ノ言渡書又ハ公判ノ呼出状ヲ本人ニ送達スルコト能ハサル場合ニ於テハ裁判所ニテ猶予ノ期間ヲ定メ其期間ニ被告人出頭セサルトキハ闕席判決ヲ為ス可キ告知書ヲ其親属又ハ其本籍若クハ最後ノ住所ノ地ノ市町村長ニ送達ス可シ若シ其本籍若クハ最後ノ住所ノ地分明ナラサルトキハ同上ノ告知書ヲ少クトモ一月間裁判所ノ掲示板ニ貼付シテ公示ス可シ
第二百二十八条 闕席判決ハ検事其他訴訟関係人ノ請求ニ因リ闕席者ニ送達ス可シ
闕席判決ヲ受ケタル者ハ其判決ニ対シ故障ヲ申立ルコトヲ得
第二百二十九条 故障申立ノ期間ハ三日トス此期間ハ罰金以下ノ刑ヲ言渡シタル判決及ヒ私訴ノ判決ニ付テハ闕席判決ノ送達ヲ以テ始マリ禁錮ノ刑ヲ言渡シタル判決ニ付テハ被告人自ラ其送達ヲ受ケ又ハ判決執行ニ因リ刑ノ言渡アリタルコトヲ知リタル日ヲ以テ始マル
第二百三十条 故障ヲ申立テントスル者ハ闕席判決ヲ為シタル裁判所ニ其申立書ヲ差出ス可シ
第二百三十一条 裁判所ニ於テハ故障ノ申立アリタルコトヲ相手方ニ通知シ且其事件ヲ公判ニ付ス可キ期日ヲ定メ訴訟関係人ヲ呼出ス可シ
第二百三十二条 裁判所ニ於テハ職権ヲ以テ故障ヲ許ス可キヤ否ヤ又故障ノ期間ニ於テ申立ヲ為シタルヤ否ヤヲ調査シ此要件ノ一ヲ欠クトキハ判決ヲ以テ故障ヲ棄却ス可シ
第二百三十三条 故障ノ申立ヲ受理シタル場合ニ於テハ更ニ通常ノ規定ニ従ヒ裁判ヲ為ス可シ
前項ノ場合ニ於テ故障申立人闕席シタルトキハ更ニ故障ヲ申立ルコトヲ得ス
第二百三十四条 第二百四十七条第二百四十八条ノ規定ハ闕席判決ニ対スル故障ニモ亦之ヲ準用ス
第三章 地方裁判所公判
第二百三十五条 地方裁判所ニ於テハ予審判事又ハ上級裁判所ヨリ事件ヲ移ス裁判ニ因リ其管轄ニ属スル軽罪及ヒ重罪ノ公訴ヲ受理ス
又軽罪ニ付テハ検事ノ起訴ニ因リ其公訴ヲ受理ス
第二百三十六条 前章ノ規定ハ此章ニ別段ノ定メナキモノニ限リ地方裁判所ノ軽罪、重罪ノ公判ニ準用ス
第二百三十七条 重罪事件ニ付テハ開廷前裁判長又ハ受命判事ハ裁判所書記ノ立会ニ依リ一応被告人ヲ訊問シ且弁護人ヲ選任シタルヤ否ヤヲ問フ可シ
若シ弁護人ヲ選任セサルトキハ裁判長ノ職権ヲ以テ其裁判所所属ノ弁護士中ヨリ之ヲ選任ス可シ被告人及ヒ弁護士ニ異議ナキトキハ弁護士一名ヲシテ被告人数名ノ弁護ヲ為サシムルコトヲ得
書記ハ本条ノ訊問ニ付キ特ニ調書ヲ作ル可シ
第二百三十八条 裁判所ニ於テ事実発見ノ為メ必要ナリトスルトキハ検事其他訴訟関係人ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ受命判事ヲシテ臨検ノ処分ヲ為シ報告ヲ為サシムルコトヲ得
第二百三十九条 裁判所ニ於テハ被告人其罪ヲ自白シタルトキト雖モ仍ホ証憑ヲ取調ヘサル可カラス
第二百四十条 裁判所ニ於テハ被告事件区裁判所ノ管轄ニ属スルモノト認メタルトキト雖モ第一審ノ判決ヲ為ス可シ
私訴ニ付キ其請求ノ価額通常民事上区裁判所ノ管轄ニ属スルトキ亦同シ
第二百四十一条 裁判所ニ於テ軽罪トシテ受理シタル事件ヲ重罪ナリトスルトキ又ハ検事ヨリ更ニ其事件ヲ重罪トシテ訴追スルコトヲ申立タルトキハ予審判事ニ送付スル決定ヲ為ス可シ但被告人勾留ヲ受ケサルトキハ勾留状ヲ発ス可シ
其被告事件予審ヲ経タルトキハ公判ヲ止メ更ニ重罪事件トシテ裁判ス可キ旨ノ決定ヲ為シ受命判事ヲシテ其事件ノ取調ヲ為シ報告ヲ為サシム可シ
受命判事ハ予審判事ニ属スル処分ヲ為スコトヲ得
第五編 上訴
第一章 通則
第二百四十二条 検事其他訴訟関係人ハ法律ニ許シタル上訴ヲ為スコトヲ得
検事ハ被告人ノ利益ノ為メニモ亦上訴ヲ為スコトヲ得
第二百四十三条 弁護人ハ被告人ニ代リ上訴ヲ為スコトヲ得但被告人ノ明言シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第二百四十四条 被告人ノ法律上代理人ハ独立シテ上訴ヲ為スコトヲ得
第二百四十五条 勾留ヲ受ケタル被告人上訴ヲ為スニハ其申立書ヲ監獄署長ニ差出シ署長ハ之ヲ其裁判所ニ送致ス可シ
第二百四十六条 検事ヲ除ク外上訴ヲ為シタル者ハ其判決アルマテ何時ニテモ之ヲ取下クルコトヲ得
第二百四十七条 訴訟関係人天災其他避ク可カラサル事変ノ為メ上訴期間ヲ経過シタル場合ニ於テ其旨ヲ疏明シタルトキハ期間ヲ経過シタルニ因リ失ヒタル権利ヲ回復スルコトヲ得但障碍ノ止ミタル日ヨリ通常ノ期間内ニ其疏明方法ヲ申立書ニ記載シ上訴ヲ為ス可シ
第二百四十八条 前条ノ申立アリタルトキハ裁判所書記速ニ其申立書ヲ相手方ニ送達ス可シ相手方ハ三日内ニ答弁書ヲ差出スコトヲ得
上訴ヲ裁判ス可キ裁判所ニ於テハ検事ノ意見ヲ聴キ先ツ其申立ヲ許ス可キヤ否ヤヲ決定ス可シ
第二百四十九条 上訴完結ノ後其訴訟記録ハ上訴審ニ於テ為シタル裁判ノ謄本ト共ニ第一審裁判所ニ之ヲ返還ス可シ
第二章 控訴
第二百五十条 控訴ハ区裁判所又ハ地方裁判所ノ第一審ニ於テ為シタル本案ノ判決及ヒ第百八十七条ニ規定シタル本案前ノ判決ニ対シ之ヲ為スコトヲ得
第二百五十一条 控訴ハ判決ノ一分ニ限リ之ヲ為スコトヲ得若シ之ヲ限ラサルトキハ判決ノ全部ニ対シ控訴ヲ為シタルモノト看做ス可シ
第二百五十二条 控訴ノ期間ハ判決言渡アリタル日ヨリ五日トス
闕席判決ヲ受ケタル者ハ故障ノ期間内故障ヲ為サスシテ直チニ控訴ヲ為スコトヲ得
第二百五十三条 本案ノ判決ニ対スル控訴ノ期間内及ヒ控訴アリタルトキハ判決ノ執行ヲ停止ス
第二百五十四条 控訴ヲ為スニハ其申立書ヲ原裁判所ニ差出ス可シ
裁判所ハ控訴ノ申立アリタルコトヲ速ニ相手方ニ通知ス可シ
第二百五十五条 原裁判所ニ於テハ期間ヲ経過シタル控訴ノ申立ハ決定ヲ以テ之ヲ棄却ス可シ此決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得
第二百五十六条 訴訟記録ハ検事ヨリ控訴裁判所ノ検事ニ送致シ其検事ハ之ヲ裁判所ニ差出ス可シ
公訴ノ判決ニ対シ控訴アリタル場合ニ於テ被告人勾留ヲ受ケタルトキハ検事ヨリ之ヲ控訴裁判所ノ監獄ニ移ス可シ
第二百五十七条 控訴裁判所ニ於テハ訴訟関係人ニ対シ呼出状ヲ発シタル後其裁判ニ取掛ル可シ
呼出状ノ送達ト出頭トノ間少クトモ二日ノ猶予アル可シ
第二百五十八条 控訴ノ裁判ニ付テハ地方裁判所ノ第一審ニ関スル規定ヲ適用ス
第一審ニ於テ訊問シタル証人又ハ鑑定ヲ為シタル鑑定人ハ控訴裁判所ニ於テ其再度ノ訊問鑑定ヲ必要ナリトセサルトキハ之ヲ呼出ササルコトヲ得
第二百五十九条 控訴ノ相手方ハ其判決アルマテ附帯控訴ヲ為スコトヲ得
控訴裁判所ノ検事モ亦附帯控訴ヲ為スコトヲ得
第二百六十条 控訴裁判所ニ於テハ控訴ノ期間内ニ於テ申立ヲ為シタルヤ否ヤヲ調査シ期間ノ経過後ニ係ルモノト認ムルトキハ判決ヲ以テ控訴ヲ棄却ス可シ
第二百六十一条 控訴裁判所ニ於テハ控訴ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ控訴ヲ棄却ス可シ控訴ヲ理由アリトスルトキハ原判決ヲ取消シ更ニ判決ヲ為ス可シ
第二百六十二条 控訴裁判所ニ於テハ原裁判所ノ管轄違ナルコトヲ認メタルトキハ原判決ヲ取消ス可シ此場合ニ於テ勾留ヲ要スルモノト認メタルトキハ前勾留状ヲ存シ又ハ新ニ勾留状ヲ発シ其事件ヲ検事ニ交付ス可シ
原裁判所ニ於テ不当ニ管轄違ヲ言渡シタルトキハ其判決ヲ取消シ事件ヲ其裁判所ニ差戻ス可シ
第二百六十三条 前条第一項ノ場合ニ於テ控訴ヲ受ケタル地方裁判所自ラ其事件ニ付キ第一審トシテ裁判権ヲ有スルトキハ更ニ其事件ニ付キ判決ヲ為ス可シ但事件重罪ナルトキハ第二百四十一条ノ規定ニ従ヒ処分ス可シ
第二百六十四条 控訴院ニ於テ地方裁判所カ軽罪ナリト判決シタル事件ヲ重罪ナリトスルトキ又ハ其事件ヲ重罪ナリトシテ主タル控訴又ハ附帯控訴アリタルトキハ其公判ヲ止メ更ニ重罪事件トシテ裁判ス可キ旨ノ決定ヲ為シ受命判事ヲシテ其事件ノ取調ヲ為シ報告ヲ為サシム可シ
受命判事ハ予審判事ニ属スル処分ヲ為スコトヲ得
本条ノ場合ニ於テ被告人弁護人ヲ選任セサルトキハ第二百三十七条第二項ノ規定ニ従ヒ裁判長ノ職権ヲ以テ弁護人ヲ選任ス可シ
第二百六十五条 被告人、弁護人又ハ法律上代理人ノミ控訴ヲ為シタルトキハ原判決ヲ変更シテ被告人ノ不利益ト為スコトヲ許サス
被告人ノ利益ノ為メ検事ヨリ控訴ヲ為シタルトキ亦同シ
第二百六十六条 控訴申立人出頭セサルトキハ闕席判決ヲ以テ控訴ヲ棄却シ相手方出頭セサルトキハ申立人ノ意見ヲ聴キ闕席判決ヲ為ス可シ
第三章 上告
第二百六十七条 上告ハ地方裁判所又ハ控訴院ノ第二審ニ於テ為シタル本案ノ判決及ヒ第百八十七条ニ規定シタル本案前ノ判決ニ対シ之ヲ為スコトヲ得
第二百六十八条 上告ハ法律ニ違背シタル裁判ナルコトヲ理由トスルトキニ限リ之ヲ為スコトヲ得
法則ヲ適用セス又ハ不当ニ適用シタルトキハ法律ニ違背シタルモノトス
第二百六十九条 裁判ハ左ノ場合ニ於テ常ニ法律ニ違背シタルモノトス
第一 規定ニ従ヒ判決裁判所ヲ構成セサリシトキ
第二 法律ニ依リ職務ノ執行ヨリ除斥セラレタル判事裁判ニ参与シタルトキ但忌避ノ申請又ハ上訴ヲ以テ除斥ノ理由ヲ主張シタルモ其効ナカリシトキハ之ヲ以テ上告ノ理由ト為スコトヲ得ス
第三 判事忌避セラレ其忌避ノ申請ヲ理由アリト認メタルニ拘ハラス裁判ニ参与シタルトキ
第四 裁判所ニ於テ其管轄又ハ管轄違ヲ不当ニ認メタルトキ
第五 法律ニ背キ公訴ヲ受理シ又ハ受理セサルトキ
第六 法律ニ定メタル場合ニ於テ検事ノ意見ヲ聴カサルトキ
第七 裁判所ニ於テ請求ヲ受ケタル事件ニ付キ判決ヲ為サス又ハ職権ヲ以テ判決スルコトヲ得ヘキ場合ヲ除ク外請求ヲ受ケサル事件ニ付キ判決ヲ為シタルトキ
第八 判決ヲ公行セス又ハ公開ヲ禁スル言渡ナクシテ弁論ヲ公ニセサルトキ
第九 裁判ニ理由ヲ付セス又ハ其理由ノ齟齬アルトキ
第十 擬律ノ錯誤アルトキ
第二百七十条 免訴又ハ無罪ノ言渡アリタル場合ニ於テハ被告人ノ利益ノ為メ設ケタル規定ニ背キタルコト又ハ土地ノ管轄違アリト雖モ上告ノ理由ト為スコトヲ得ス
第二百七十一条 上告申立ノ期間ハ判決言渡アリタル日ヨリ三日トス
第二百七十二条 本案ノ判決ニ対スル上告ノ期間内及ヒ上告ノ申立アリタルトキハ勾留及ヒ放免ノ言渡ヲ除ク外判決ノ執行ヲ停止ス
第二百七十三条 上告ヲ為スニハ其申立書ヲ原裁判所ニ差出シ且其申立ヲ為シタル日ヨリ五日内ニ趣意書ヲ差出ス可シ
裁判所ハ上告申立書及ヒ趣意書ヲ受取リタルヨリ二十四時間内ニ之ヲ相手方ニ送達ス可シ
第二百七十四条 相手方ハ上告申立書及ヒ趣意書ヲ受取リタル日ヨリ五日内ニ答弁書ヲ原裁判所ニ差出スコトヲ得
裁判所ハ其答弁書ヲ受取リタルヨリ二十四時内ニ之ヲ上告申立人ニ送達ス可シ
第二百七十五条 検事ヨリ差出ス可キ上告申立書及ヒ趣意書又ハ答弁書ハ二通ヲ作リ一通ヲ上告裁判所ニ差出シ一通ヲ相手方ニ送達ス可シ
私訴ノ判決ニ対シ訴訟関係人ヨリ差出ス可キ上告申立書及ヒ趣意書又ハ答弁書ニ付テモ亦同シ
第二百七十六条 原裁判所ニ於テハ期間ヲ経過シタル上告ハ決定ヲ以テ之ヲ棄却ス可シ此決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得
第二百七十七条 訴訟記録ハ検事ヨリ上告裁判所ノ検事ニ送致シ其検事ハ之ヲ裁判所ニ差出ス可シ
第二百七十八条 上告ノ相手方ハ其判決アルマテ附帯上告ヲ為スコトヲ得
上告裁判所ノ検事モ亦附帯上告ヲ為スコトヲ得
第二百七十九条 上告申立人及ヒ相手方ハ弁護士ヲ差出スコトヲ得
重罪ノ刑ノ言渡ヲ受ケタル者上告ヲ為シ又ハ検事ヨリ重罪ノ刑ニ該ル可キモノトシテ上告ヲ為シタル場合ニ於テ刑ノ言渡ヲ受ケタル者自ラ弁護士ヲ選任セサルトキハ上告裁判所長ノ職権ヲ以テ其裁判所所属ノ弁護士中ヨリ之ヲ選任ス可シ
第二百八十条 裁判長ハ受命判事ヲ定ム可シ
受命判事ハ訴訟記録ヲ検閲シ其報告書ヲ作ル可シ但自己ノ意見ヲ付ス可カラス
第二百八十一条 上告申立人及ヒ相手方ハ受命判事ノ報告書ヲ差出スマテハ其趣意ヲ拡張ス可キ弁明書ヲ上告裁判所ニ差出スコトヲ得
受命判事報告書ヲ差出シタル後弁明書ヲ差出シタルトキハ之ヲ其報告書ニ添フ可シ
第二百八十二条 裁判所書記ハ開廷ヨリ三日前ニ開廷ノ期日ヲ上告申立人及ヒ相手方ノ弁護士ニ報知ス可シ
第二百八十三条 開廷ノ日ニハ受命判事先ツ其報告書ヲ朗読ス可シ
検事及ヒ弁護士ハ各其趣意ヲ弁明ス可シ
私訴ノ上告ニ付テハ検事最終ニ其意見ヲ陳述ス可シ
第二百八十四条 上告申立人又ハ相手方ヨリ弁護士ヲ差出ササルトキハ其儘ニテ判決ヲ為ス可シ
第二百八十五条 上告裁判所ニ於テハ上告ノ理由ナキトキ又ハ法律上ノ方式及ヒ期間内ニ於テ起ササルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却ス可シ
第二百八十六条 上告ヲ理由アリトスルトキハ其上告ニ係ル判決ノ部分ヲ破毀シ其事件ヲ他ノ裁判所ニ移ス言渡ヲ為ス可シ但後二条ニ記載シタル場合ハ此限ニ在ラス
第二百八十七条 擬律ノ錯誤又ハ法律ニ背キ公訴ヲ受理シタルニ因リ判決ヲ破毀シタルトキハ其事件ヲ他ノ裁判所ニ移スコトナク上告裁判所ニ於テ直チニ判決ヲ為ス可シ
第二百八十八条 公判ノ手続規定ニ背キタルコトアリト雖モ其後ノ手続ニ利害ヲ及ホササルトキハ其事件ヲ他ノ裁判所ニ移スコトナク止タ其手続ヲ破毀ス可シ
第二百八十九条 判決ノ一分ニ対シ上告アリタル場合ニ於テ他ノ部分ニ関係アルトキハ其部分ヲモ破毀ス可シ
擬律ノ錯誤又ハ法律ニ背キ公訴ヲ受理シタルニ因リ被告人ノ利益ノ為メニ判決ヲ破毀シタルトキハ其利益ハ上告ヲ為ササル共同被告人ニモ及ホス可シ
第二百九十条 上告裁判所ニ於テ破毀シタル事件ヲ他ノ裁判所ニ移ス言渡ヲ為ス可キトキハ原裁判所ニ接近シタル同等ノ裁判所ヲ指定ス可シ其単ニ私訴ニ係ル事件ハ之ヲ其裁判所ノ民事部ニ移ス可シ
第二百九十一条 第二百六十五条ノ規定ハ上告ニモ亦之ヲ準用ス
第二百九十二条 第一審裁判所ト第二審裁判所トヲ問ハス法律ニ於テ罰セサル所為ニ対シ刑ヲ言渡シ又ハ相当ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡シタル場合ニ於テ期間内ニ上訴スル者ナクシテ其判決確定シタルトキハ其事件ニ付キ上告ヲ受クル権アル裁判所ノ検事ハ司法大臣ノ命ニ因リ又ハ職権ヲ以テ何時ニテモ其裁判所ニ非常上告ヲ為スコトヲ得
非常上告ヲ理由アリトスルトキハ原判決ヲ破毀シ直チニ其事件ニ付キ判決ヲ為ス可シ
第四章 抗告
第二百九十三条 抗告ハ法律ニ於テ特ニ許シタル場合ニ限リ之ヲ為スコトヲ得
第二百九十四条 抗告ニ付テハ直近ノ上級裁判所其裁判ヲ為ス可シ
抗告裁判所ノ裁判ニ対シテハ抗告申立人ヨリ更ニ抗告ヲ為スコトヲ得ス
第二百九十五条 抗告ノ期間ハ裁判ノ送達アリタル日ヨリ三日トス
第二百九十六条 抗告ヲ為スニハ其申立書ヲ原裁判ヲ為シタル裁判所又ハ予審判事ニ差出ス可シ其裁判所又ハ予審判事ニ於テ抗告ヲ理由アリトスルトキハ不服ノ点ヲ更正シ又理由ナシトスルトキハ意見ヲ付シテ三日内ニ抗告申立書ヲ抗告裁判所ニ送致シ且予審終結ノ決定ニ対スル抗告ニ付テハ訴訟記録ヲモ送致ス可シ
第二百九十七条 抗告裁判所ニ於テハ検事ノ意見ヲ聴キ書類ニ依リ抗告ノ裁判ヲ為ス可シ
第二百九十八条 予審終結ノ決定ニ対スル抗告ニ付キ抗告裁判所ニ於テ必要ナリトスルトキハ受命判事ヲシテ事件ノ取調ヲ為シ報告ヲ為サシムルコトヲ得
受命判事ハ予審判事ニ属スル処分ヲ為スコトヲ得
第二百九十九条 抗告裁判所ニ於テハ抗告ヲ許ス可キヤ否ヤ又抗告ノ期間内ニ於テ申立ヲ為シタルヤ否ヤヲ調査シ此要件ノ一ヲ闕クトキハ其抗告ヲ棄却ス可シ
第三百条 抗告裁判所ニ於テ抗告ヲ理由アリトスルトキハ原裁判ヲ取消シ自ラ更ニ裁判ヲ為シ又抗告ヲ理由ナシトスルトキハ之ヲ棄却ス可シ
第六編 再審
第三百一条 再審ノ訴ハ左ノ場合ニ於テ重罪、軽罪ノ刑ノ言渡ニ対シ被告人ノ利益ノ為メ之ヲ為スコトヲ得但判決確定ノ後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第一 人ヲ殺シタル罪ニ付キ刑ノ言渡アリタルモ其殺サレタリト認メラレシ者犯罪後生存シ又ハ犯罪前既ニ死去シタル確証アリタルトキ
第二 同一ノ事件ニ付キ共犯ニ非スシテ別ニ刑ノ言渡ヲ受ケタル者アリタルトキ
第三 犯罪アル以前ニ作リタル公正証書ヲ以テ当時其場所ニ在ラサルコトヲ証明シタルトキ
第四 被告人ヲ陥害シタル罪ニ因リ刑ノ言渡ヲ受ケタル者アリタルトキ
第五 公正証書ヲ以テ訴訟記録ニ偽造又ハ錯誤アルコトヲ証明シタルトキ
第六 判決ノ憑拠ト為リタル民事上ノ判決他ノ確定ト為リタル判決ヲ以テ廃棄若クハ破毀セラレタルトキ
第三百二条 再審ノ訴ヲ為スコトヲ得ヘキ者左ノ如シ
第一 刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ノ検事
第二 刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ヲ管轄スル控訴裁判所ノ検事
第三 刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ヲ管轄スル上告裁判所ノ検事但司法大臣ノ命ニ因リ又ハ職権ヲ以テ其訴ヲ為ス可シ
第四 刑ノ言渡ヲ受ケタル者
第五 刑ノ言渡ヲ受ケタル者死去シタルトキハ其親属
第三百三条 再審ノ訴ハ刑ノ消滅シタルニ拘ハラス何時ニテモ之ヲ為スコトヲ得
第三百四条 再審ノ訴ヲ為サントスル者ハ其趣意書ニ原判決ノ謄本及ヒ証憑書類ヲ添ヘ之ヲ原裁判所ニ差出ス可シ
原裁判所ノ検事ハ其書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ上告裁判所ノ検事ニ差出ス可シ
原裁判所ノ検事及ヒ控訴裁判所ノ検事自ラ再審ノ訴ヲ為サントスルトキハ前項ノ手続ニ従ヒ其書類ヲ差出ス可シ
第三百五条 上告裁判所ニ於テハ検事ノ請求ニ因リ速ニ受命判事一名ヲシテ其取調ヲ為シ報告ヲ為サシム可シ
第三百六条 上告裁判所ニ於テハ受命判事ノ報告及ヒ検事ノ意見ヲ聴キ判決ヲ為ス可シ
第三百七条 上告裁判所ニ於テ再審ノ原由アルコトヲ認メタルトキハ原判決ヲ破毀シ公訴及ヒ私訴ニ付キ再審ヲ為ス可キコトヲ言渡シ其事件ヲ原裁判所ト同等ナル他ノ裁判所ニ移ス可シ
其送付ヲ受ケタル裁判所ニ於テハ通常ノ規定ニ従ヒ裁判ヲ為ス可シ
第三百八条 死者ノ親属ヨリ再審ノ訴ヲ為シタル場合ニ於テ上告裁判所ニテ再審ノ原由アルコトヲ認メタルトキハ其事件ヲ他ノ裁判所ニ移スコトナク原判決ヲ破毀ス可シ
第三百九条 再審ノ判決ニ因リ無罪ノ言渡アリタルトキ又ハ前条ノ場合ニ於テ破毀ノ言渡アリタルトキハ其者ノ名誉ヲ復スル為メ其判決ヲ掲示ス可シ
第七編 大審院ノ特別権限ニ属スル訴訟手続
第三百十条 裁判所構成法第五十条第二号ニ記載シタル大審院ノ特別権限ニ属スル犯罪ニ付テハ検事総長其捜査ヲ為ス可シ
地方裁判所、区裁判所ノ検事及ヒ司法警察官モ亦其犯罪ニ付キ捜査ヲ為シ検事総長ニ報告ス可シ
第三百十一条 前条ニ記載シタル犯罪ノ現行犯アル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ地方裁判所区裁判所ノ検事及ヒ司法警察官ハ第百四十四条及ヒ第百四十七条第一項ノ規定ニ従ヒ予審処分ヲ為スコトヲ得但予審判事ニ通知スルコトヲ要セス
第三百十二条 前条ノ場合ニ於テハ地方裁判所検事ヨリ証憑書類ニ意見書ヲ添ヘ速ニ之ヲ検事総長ニ送致ス可シ
第三百十三条 検事総長ハ何レノ場合ニ於テモ其事件大審院ノ特別権限ニ属シ且起訴ス可キモノト認メタルトキハ予審判事ヲ命ス可キコトヲ大審院長ニ請求ス可シ
第三百十四条 大審院長ヨリ命ヲ受ケタル予審判事ハ予審ヲ為シタル上ニテ他ニ取調ヲ要スルコトナシト思料シタルトキハ訴訟記録ニ意見ヲ付シ大審院ニ差出ス可シ
第三百十五条 大審院ニ於テハ検事総長ノ意見ヲ聴キ先ツ其事件ヲ公判ニ付ス可キヤ否ヤヲ決定ス可シ
其事件地方裁判所又ハ区裁判所ノ権限ニ属スルモノト決定シタルトキハ管轄裁判所ヲ指定シ其事件ヲ送致ス可シ若シ特別裁判所ノ権限ニ属スルモノト認メタルトキハ決定ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ為ス可シ
又第百六十五条ニ記載シタル場合ニ於テハ決定ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ為ス可シ
第三百十六条 前数条ニ於テ特ニ規定シタルモノヲ除ク外予審、公判ノ手続ハ第三編第四編ノ規定ヲ準用ス
第八編 裁判執行、復権及ヒ特赦
第一章 裁判執行
第三百十七条 刑ノ執行ハ判決確定ノ後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第三百十八条 死刑ノ言渡確定シタルトキハ検事ヨリ速ニ訴訟記録ヲ司法大臣ニ差出ス可シ
司法大臣ヨリ死刑ヲ執行ス可キ命令アリタルトキハ三日内ニ其執行ヲ為ス可シ
第三百十九条 死刑ヲ除クノ外刑ノ言渡確定シタルトキハ直チニ之ヲ執行ス可シ
体刑ノ言渡ヲ受ケ其執行ヲ遁レタル者ニ対シ検事ノ発シタル逮捕状ハ勾留状ト同一ノ効ヲ有ス其闕席判決ニ係ル場合ニ於テ発シタル者亦同シ
第三百二十条 刑ノ執行ハ其刑ヲ言渡シタル裁判所ノ検事又ハ上告裁判所ヨリ命ヲ受ケタル裁判所ノ検事ノ指揮ニ因リ之ヲ為ス可シ
罰金、科料、訴訟費用及ヒ没収物品、追徴金ハ検事ノ命令ニ依リ之ヲ徴収ス可シ
破壊又ハ廃棄ス可キ没収物品ハ検事之ヲ処分ス可シ
第三百二十一条 死刑ノ執行ニ付テハ裁判所書記其始末書ヲ作リ刑ノ執行規則ニ従ヒ立会ヲ為シタル官吏ト共ニ署名捺印ス可シ
第三百二十二条 刑ノ言渡ヲ受ケタル者其言渡ニ付キ疑義ノ申立又ハ其執行ニ付キ異議ノ申立ヲ為シタルトキハ刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ニ於テ之ヲ決定ス可シ此決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得
第三百二十三条 賠償及ヒ訴訟関係人ニ弁済ス可キ訴訟費用ニ付キ其判決ノ執行ハ民事訴訟法ノ規定ニ従フ
第二章 復権
第三百二十四条 復権ノ願ハ刑法第六十三条ニ定メタル期間経過シタル後刑ノ言渡ヲ受ケタル者ヨリ司法大臣ニ之ヲ為ス可シ
復権ノ願書ハ現ニ住スル地ノ地方裁判所検事ニ之ヲ差出ス可シ
第三百二十五条 復権ノ願書ニハ左ノ書類ヲ添フ可シ
第一 判決ノ正本
第二 主刑ノ満期、特赦ト為リ又ハ時効ノ成就シタルコトヲ証明スル書類
第三 仮出獄及ヒ仮ニ監視ヲ免セラレタル証書
第四 賠償及ヒ訴訟費用ヲ弁済シ又ハ其義務ヲ免カレタル証書
第五 過去、現在ノ住所及ヒ生計ヲ記載スル書類
第三百二十六条 検事ハ願人ノ品行其他必要ノ取調ヲ為シ前条ノ書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ検事長ニ差出ス可シ
第三百二十七条 検事長ハ更ニ必要ノ取調ヲ為シ復権ノ願ニ関スル書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ司法大臣ニ差出ス可シ
第三百二十八条 司法大臣ハ復権ノ願ニ関スル書類ヲ検閲シ之ニ意見書ヲ添ヘ速ニ上奏ス可シ
第三百二十九条 勅裁ニ因リ復権ノ願ヲ却下シタルトキハ司法大臣ヨリ其旨ヲ検事長ニ通知シ検事長ヨリ願書ヲ差出シタル地方裁判所検事ニ通知ス可シ
前項ノ場合ニ於テハ刑法第六十三条ニ定メタル期間ノ半ヲ経過スルニ非サレハ更ニ其願ヲ為スコトヲ得ス
更ニ復権ノ願ヲ為スニ付テモ亦前数条ノ規定ニ従フ
第三百三十条 復権ノ裁可アリタルトキハ司法大臣ヨリ其裁可状ヲ検事長ニ送致シ検事長ヨリ願書ヲ差出シタル地方裁判所検事ニ送致ス可シ
検事ハ裁可状ノ謄本ヲ願人ニ下付ス可シ
又刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ニ裁可状ノ謄本ヲ送致シ其裁判所ニ於テハ之ヲ判決ノ原本ニ記入ス可シ
第三章 特赦
第三百三十一条 特赦ハ刑ノ言渡確定シタル後何時ニテモ刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ノ検事又ハ監獄署長ヨリ犯人ノ情状ヲ具シ司法大臣ニ申立ルコトヲ得
監獄署長ヨリ特赦ノ申立ヲ為ストキハ検事ヲ経由ス可シ但検事ハ意見書ヲ添フ可シ
特赦ノ申立アリタルトキハ司法大臣ヨリ其書類ニ意見書ヲ添ヘ上奏ス可シ
第三百三十二条 司法大臣ハ刑ノ言渡確定シタル後何時ニテモ特赦ノ申立ヲ為スコトヲ得
死刑ヲ除ク外特赦ノ申立アリト雖モ刑ノ執行ヲ停止セス
第三百三十三条 特赦ノ申立却下アリタルトキハ司法大臣ヨリ刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ノ検事ニ其旨ヲ通知ス可シ
第三百三十四条 特赦ノ裁可アリタルトキハ司法大臣ヨリ刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ノ検事ニ特赦状ヲ送致ス可シ此場合ニ於テハ第三百三十条ノ規定ニ従フ
附 則
第一条 此法律施行前ニ受理シタル予審ノ故障及ヒ其故障ノ判決ニ対スル上告ハ之ヲ受理シタル地方裁判所又ハ大審院ニ於テ抗告トシテ之ヲ裁判ス可シ
第二条 大審院ニ於テ既ニ受理シタル哀訴、裁判管轄ヲ定ムルノ訴及ヒ嫌疑ノ為メ裁判管轄ヲ移スノ訴ハ治罪法ノ手続ニ依リ大審院之ヲ裁判ス可シ
第三条 既ニ発シタル勾留状収鑑状ハ此法律ニ定メタル勾留状ノ効ヲ有ス
第四条 此法律ノ規定ニ依リ市町村長ノ為ス可キ職務ハ市町村長ヲ置カサル地ニ在テハ其職務ヲ行フ吏員ニ属ス
第五条 此法律ハ明治二十三年十一月一日ヨリ施行シ其日ヨリ治罪法ヲ廃ス