タクシー業務適正化臨時措置法をここに公布する。
御名御璽
昭和四十五年五月十九日
内閣総理大臣 佐藤栄作
法律第七十五号
タクシー業務適正化臨時措置法
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
タクシー運転者の登録等
第一節
タクシー運転者の登録(第三条―第十二条)
第二節
登録タクシー運転者証(第十三条―第十八条)
第三節
指定登録機関(第十九条―第二十九条)
第四節
補則(第三十条―第三十三条)
第三章
タクシー業務適正化事業(第三十四条―第四十二条)
第四章
タクシー業務の特別規制等(第四十三条―第五十条)
第五章
雑則(第五十一条―第五十五条)
第六章
罰則(第五十六条―第五十九条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、当分の間、指定地域において、タクシーの運転者の登録を実施し、タクシー業務適正化事業の実施を促進すること等の措置を定めることにより、タクシー事業の業務の適正化を図り、もつて利用者の利便の確保に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「タクシー」とは、一般乗用旅客自動車運送事業(道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第三条第二項第三号の一般乗用旅客自動車運送事業をいう。以下同じ。)を経営する者がその事業の用に供する自動車でハイヤー以外のものをいう。
2 この法律で「ハイヤー」とは、一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者がその事業の用に供する自動車で当該自動車による運送の引受けが営業所のみにおいて行なわれるものをいう。
3 この法律で「タクシー事業」とは、タクシーを使用して行なう一般乗用旅客自動車運送事業をいう。
4 この法律で「タクシー事業者」とは、タクシー事業を経営する者をいう。
5 この法律で「指定地域」とは、タクシーの運転者の確保が困難であるためタクシー事業に関して供給輸送力が輸送需要量に対し著しく不足しており、かつ、道路運送法に違反する運送の引受けの拒絶その他の行為がひん繁に行なわれる等タクシー事業の業務が適正に行なわれていないと認められる地域で政令で定めるものをいう。
第二章 タクシー運転者の登録等
第一節 タクシー運転者の登録
(登録運転者の乗務)
第三条 タクシー事業者は、指定地域内の営業所に配置するタクシーには、当該指定地域に係るタクシー運転者登録原簿(以下「原簿」という。)に登録を受けている者(以下「登録運転者」という。)以外の者を運転者として乗務させてはならない。ただし、その運行が旅客の運送を目的としない場合は、この限りでない。
(原簿)
第四条 原簿への登録(以下「登録」という。)は、運輸大臣が行なう。
2 原簿は、指定地域ごとに設ける。
(登録の申請)
第五条 登録は、指定地域内に営業所を有するタクシー事業者に雇用されている者(登録を条件として雇用の契約を締結している者を含む。第七条第一項第四号において同じ。)でタクシーの運転者として選任されており、又は選任されることを予定されているものの申請により行なう。
2 登録を申請しようとする者は、次の事項を記載した申請書を運輸大臣に提出しなければならない。
一 申請者の氏名、生年月日、住所及び本籍
二 申請者が雇用されているタクシー事業者(登録を条件として雇用の契約を締結している者を含む。)の氏名又は名称及び住所
三 申請者が受けている第二種運転免許(道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第八十六条第一項の大型第二種免許又は普通第二種免許をいう。以下同じ。)の種類並びにこれに係る運転免許証の番号及び有効期限
四 申請に係る指定地域
3 前項の申請書を提出する場合には、同項第一号に掲げる事項を証する書面、申請者が第七条第一項第一号から第四号までに該当する者でないことを証する書面及び申請者の写真を添附し、かつ、申請者が受けている第二種運転免許に係る運転免許証を提示しなければならない。
(登録の実施)
第六条 運輸大臣は、前条の規定による申請を受理したときは、次条第一項の規定により登録を拒否する場合を除き、前条第二項第一号から第三号までに掲げる事項及び登録の年月日を登録しなければならない。
(登録の拒否)
第七条 運輸大臣は、第五条の規定による申請を受理した場合において、申請者が次の各号の一に該当していると認められるとき、又は該当していないことが明らかでないときは、その登録を拒否しなければならない。
一 道路運送法第二十七条の政令で定める要件を備えていないこと。
二 タクシー事業者が道路運送法第三十条第一項の規定に基づく運輸省令の規定に違反しなければタクシーの運転者として選任されることができない者であること。
三 当該指定地域に係る運輸省令で定める運転の経歴を有しない者にあつては、第四十八条の規定により運輸大臣の行なう当該指定地域に係る地理の試験に合格していないこと。
四 当該指定地域内に営業所を有するタクシー事業者に雇用されている者でタクシーの運転者として選任されており、又は選任されることを予定されているもの以外の者であること。
五 現に第九条第二項又は第三項の規定による処分を受けていること。
2 運輸大臣は、前項の規定により登録を拒否したときは、遅滞なく、理由を示してその旨を申請者に通知しなければならない。
(登録事項の変更等の届出)
第八条 登録運転者は、次に掲げる場合には、直ちにその旨を運輸大臣に届け出なければならない。
一 第五条第二項第一号から第三号までに掲げる事項に変更があつたとき。
二 登録運転者が前条第一項第一号、第二号又は第四号に該当することとなつたとき。
三 第十条第二項の規定により登録の効力が停止されている場合において、同項の運輸省令で定める事由の存続する期間が短縮されたとき。
2 前項の届出をする場合には、運輸省令で定めるところにより、その事由を証する書面を添附し、又は申請者が受けている第二種運転免許に係る運転免許証を提示しなければならない。
3 運輸大臣は、第一項の届出を受理したときは、第十条第一項の規定により登録を消除する場合を除き、届出があつた事項を登録しなければならない。
(登録の取消し等)
第九条 運輸大臣は、登録運転者が次の各号の一に該当するとき、又は登録運転者となる前二年以内に第一号若しくは第二号に該当していたことが判明したときは、その登録を取り消すことができる。
一 この法律、道路運送法若しくは同法に基づく命令に違反する行為をし、又は一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者の業務に関し当該事業の用に供する自動車の運転者としてこの法律、道路運送法若しくは同法に基づく命令若しくはこれらに基づく処分若しくはこれに附した条件に違反する行為をしたとき。
二 一般乗用旅客自動車運送事業の用に供する自動車の運転者の職務に関して著しく不適当な行為をしたと認められるとき。
三 不正の手段により登録を受けていたとき。
2 運輸大臣は、前項の規定により登録を取り消すときは、当該登録運転者について、二年以内の期間を定めて登録を行なわない旨の決定をしなければならない。
3 運輸大臣は、登録運転者が第一項各号の一に該当した場合において同項の処分前にその登録の消除が行なわれたときは、その者について、二年以内の期間を定めて登録を行なわない旨の決定をすることができる。
4 運輸大臣は、第一項又は前項の規定による処分をしようとするときは、当該処分に係る者に対し、あらかじめ、期日及び場所を指定して、聴聞をしなければならない。聴聞に際しては、意見を述べ、及び証拠を提出する機会が与えられなければならない。
5 運輸大臣は、第一項から第三項までの規定による処分をしたときは、直ちにその旨を当該処分に係る者に通知しなければならない。
(登録の消除)
第十条 運輸大臣は、登録運転者が次の各号の一に該当するときは、その登録を消除しなければならない。
一 前条第一項の規定により登録を取り消されたとき。
二 第七条第一項第一号又は第二号に該当しているとき。
三 その雇用者として登録されているタクシー事業者に雇用されなくなり、又はタクシーの運転者として選任されなくなつた後、運輸省令で定める期間を経過したとき、又は登録の消除を申請したとき。
2 前項の規定にかかわらず、運輸大臣は、登録運転者が運輸省令で定める事由により第七条第一項第一号に該当するときは、その事由を登録し、その事由の存続する期間、登録の効力を停止しなければならない。
3 運輸大臣は、第一項(第三号を除く。)の規定により登録を消除し、又は前項の規定により登録の効力を停止したときは、直ちにその旨を次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる者に通知しなければならない。
一 第一項第一号に該当する場合 登録の消除に係る者を雇用しているタクシー事業者
二 第一項第二号に該当する場合(前項の規定により登録の効力を停止する場合を含む。) 登録の消除又は効力の停止に係る者及びその者を雇用しているタクシー事業者
第十一条 運輸大臣は、前条第一項の消除に係る原簿に次の事項を記載して政令で定める期間これを保存しておかなければならない。
一 登録の消除の事由(その事由が登録の取消しによるものであるときは、登録の取消しの事由)
二 第九条第二項又は第三項の処分があつたときは、登録を行なわないこととされている期間
(原簿の謄本等)
第十二条 登録運転者は、運輸大臣に対し、その者に係る原簿の謄本の交付又は閲覧の請求をすることができる。
2 指定地域内に営業所を有するタクシー事業者は、運輸大臣に対し、当該指定地域に係る原簿の謄本の交付又は閲覧の請求をすることができる。
第二節 登録タクシー運転者証
(運転者証の表示)
第十三条 タクシー事業者は、登録運転者(第十条第二項の規定によりその登録の効力が停止されている者を除く。)で第七条第一項第一号又は第二号に該当していないものを指定地域内の営業所に配置するタクシーに運転者として乗務させるときは、当該登録運転者に係る登録タクシー運転者証(以下「運転者証」という。)を、運輸省令で定めるところにより、当該タクシーに表示しなければならない。ただし、その運行が旅客の運送を目的としない場合は、この限りでない。
(運転者証の交付)
第十四条 運輸大臣は、指定地域内の営業所に配置するタクシーの運転者として登録運転者を雇用しているタクシー事業者の申請により、当該登録運転者に係る運転者証を交付する。
(運転者証の記載事項の訂正)
第十五条 タクシー事業者は、交付を受けている運転者証の記載事項に変更があつたときは、直ちに当該運転者証を運輸大臣に提出して、訂正を受けなければならない。
(運転者証の返納等)
第十六条 タクシー事業者は、その雇用する登録運転者について次の事由があつたときは、直ちに当該登録運転者又は登録運転者であつた者に係る運転者証を運輸大臣に返納しなければならない。
一 第七条第一項第一号又は第二号に該当すること(第十条第二項の運輸省令で定める事由により第七条第一項第一号に該当する場合を除く。)となつたことを知つたとき。
二 退職したとき。
三 指定地域内の営業所に配置するタクシーの運転者として選任することをやめたとき。
四 第十条第一項第一号の事由による登録の消除に係る同条第三項の通知を受けたとき。
2 タクシー事業者は、その雇用する登録運転者が第十条第二項の運輸省令で定める事由により第七条第一項第一号に該当することとなつたことを知つたときは、直ちに当該登録運転者に係る運転者証を運輸大臣に提出しなければならない。
3 運輸大臣は、前項の規定により運転者証が提出されたときは、第十条第二項の運輸省令で定める事由の存続する期間中、当該運転者証を領置するものとする。
(運転者証の再交付)
第十七条 タクシー事業者は、運転者証をよごし、損じ、又は失つたときは、その再交付を受けることができる。
(運転者証の譲渡等の禁止)
第十八条 タクシー事業者は、運転者証を他人に譲り渡し、又は貸与してはならない。
第三節 指定登録機関
(指定)
第十九条 運輸大臣は、申請により、指定地域ごとに指定する者に、当該指定地域に係る登録及び運転者証の交付に関する事務(第九条の規定による事務を除く。以下「登録事務等」という。)を行なわせることができる。
2 運輸大臣は、前項の指定をした場合には、当該指定地域に係る登録事務等を行なわないものとする。
第二十条 運輸大臣は、前条第一項の申請が次の各号の一に該当していると認めるときは、同項の指定をしてはならない。
一 現に当該指定地域について他に指定した者があること。
二 申請者が民法(明治二十九年法律第八十九号)第三十四条の規定により設立された財団法人以外の者であること。
三 申請者が登録事務等を公正かつ適確に実施することができないおそれがある者であること。
四 申請者が第二十九条第一項の規定により指定を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者であること。
五 申請者の役員で登録事務等に従事するもののうちに、禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律若しくは道路運送法の規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者があること。
(指定登録機関の公示等)
第二十一条 運輸大臣は、第十九条第一項の指定をしたときは、その指定した者(以下「指定登録機関」という。)の名称、住所、指定に係る指定地域、登録事務等を実施する事務所の所在地及び登録事務等の実施を開始する日を官報で公示しなければならない。
2 指定登録機関は、その名称、住所又は登録事務等を実施する事務所の所在地を変更しようとするときは、あらかじめ、その旨を運輸大臣に届け出なければならない。
3 運輸大臣は、前項の届出があつたときは、その旨を官報で公示しなければならない。
(登録等に関する規定の適用)
第二十二条 指定登録機関が登録事務等を行なう場合における第一節(第九条を除く。)及び前節の規定の適用については、これらの規定(第七条第一項第三号を除く。)中「運輸大臣」とあるのは、「指定登録機関」とする。
2 運輸大臣は、第九条第一項から第三項までの規定による処分をしたときは、直ちにその旨を指定登録機関に通知しなければならない。
(事務規程)
第二十三条 指定登録機関は、登録事務等の実施に関する規程(以下「事務規程」という。)を定め、運輸大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 事務規程で定めるべき事項は、運輸省令で定める。
3 運輸大臣は、第一項の認可をした事務規程が登録事務等の公正かつ適確な実施上不適当なものとなつたと認めるときは、その変更を命ずることができる。
(事業計画等)
第二十四条 指定登録機関は、毎事業年度開始前に、登録事務等に係る事業計画及び収支予算を作成し、運輸大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 指定登録機関は、毎事業年度経過後三月以内に、登録事務等に係る事業報告書及び収支決算書を作成し、運輸大臣に提出しなければならない。
(登録諮問委員会)
第二十五条 指定登録機関には、登録諮問委員会を置かなければならない。
2 登録諮問委員会は、指定登録機関の代表者の諮問に応じ登録事務等の実施に関し調査審議し、及びこれに関し必要と認める意見を指定登録機関の代表者に述べることができる。
3 登録諮問委員会の委員は、タクシー事業者が組織する団体が推薦する者、タクシーの運転者が組織する団体が推薦する者及び学識経験のある者のうちから、運輸大臣の認可を受けて指定登録機関の代表者が任命する。
(役員の選任及び解任等)
第二十六条 指定登録機関の登録事務等に従事する役員の選任及び解任は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。
2 運輸大臣は、指定登録機関の登録事務等に従事する役員又は職員が、この法律、この法律に基づく命令若しくは処分若しくは事務規程に違反する行為をしたとき、登録事務等に関し著しく不適当な行為をしたとき、又はその在任により指定登録機関が第二十条第五号に該当することとなるときは、指定登録機関に対し、その役員又は職員を解任すべきことを命ずることができる。
(秘密保持義務等)
第二十七条 指定登録機関の登録事務等に従事する役員若しくは職員(登録諮問委員会の委員を含む。次項において同じ。)又はこれらの職にあつた者は、登録事務等に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
2 指定登録機関の登録事務等に従事する役員及び職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
(監督命令)
第二十八条 運輸大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、指定登録機関に対し、登録事務等に関し監督上必要な命令をすることができる。
(指定の取消し)
第二十九条 運輸大臣は、指定登録機関が次の各号の一に該当するときは、第十九条第一項の指定を取り消すことができる。
一 第二十条第三号に該当することとなつたとき。
二 この法律、この法律に基づく命令又は第二十三条第一項若しくは第二十四条第一項の認可を受けた事項に違反して登録事務等を実施したとき。
三 第二十三条第三項、第二十六条第二項又は前条の規定による処分に違反したとき。
四 不当に登録事務等を実施しなかつたとき。
2 運輸大臣は、前項の規定により第十九条第一項の指定を取り消したときは、その旨を官報で公示しなければならない。
第四節 補則
(手数料)
第三十条 登録の申請をする者、第十二条第一項若しくは第二項の交付若しくは閲覧の請求をする者、第十四条の交付を申請する者、第十五条の訂正を申請する者又は第十七条の再交付を申請する者は、運輸省令で定めるところにより、手数料を運輸大臣(指定登録機関が登録事務等を行なう場合には、指定登録機関)に納付しなければならない。
2 前項の手数料で指定登録機関に納付されたものは、当該指定登録機関の収入とする。
(審査請求)
第三十一条 指定登録機関がした登録事務等に係る処分に不服がある者は、運輸大臣に対し行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)による審査請求をすることができる。
(登録事務等の臨時代行)
第三十二条 運輸大臣は、指定登録機関が登録事務等を実施することが困難となつた事由が生じた場合において、必要があると認めるときは、民法第三十四条の規定により設立された法人で第二十条第三号から第五号までに該当していないと認められるものを指定して、期間を定めて、登録事務等を行なわせることができる。
2 運輸大臣は、前項の指定登録機関に対し、同項の指定を受けた者が登録事務等を行なう期間中登録事務等の実施を停止すべきことを命ずるものとする。
3 第一項の指定登録機関は、前項の命令を受けたときは、直ちに原簿その他の登録事務等の実施に関する書類を第一項の指定を受けた者に引き渡さなければならない。
4 第二十一条、第二十二条及び第二十七条から前条までの規定は、第一項の指定を受けた者が登録事務等を行なう場合について準用する。この場合において、第二十一条第一項中「登録事務等の実施を開始する日」とあるのは、「登録事務等を行なわせる期間」と読み替えるものとする。
(指定をした場合等における経過措置)
第三十三条 第十九条第一項の指定、第二十九条第一項(前条第四項において準用する場合を含む。)の取消し若しくは前条第一項の指定をした場合又は同条第一項の期間が経過した場合における所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、合理的に必要と判断される範囲内において、政令で定めることができる。
第三章 タクシー業務適正化事業
(適正化事業実施機関の指定)
第三十四条 指定地域内におけるタクシー事業に係る次の業務を行なう者で指定地域ごとに運輸大臣の指定するもの(以下「適正化事業実施機関」という。)は、当該業務の実施に必要な経費に充てるため、当該指定地域内に営業所を有するタクシー事業者から負担金を徴収することができる。
一 タクシーの運転者の道路運送法に違反する運送の引受けの拒絶その他同法又はこの法律に違反する行為の防止及び是正を図るための指導
二 タクシーの運転者の業務の取扱いの適正化を図るための研修
三 タクシー事業の利用者からの苦情の処理
四 タクシー乗場その他タクシー事業の利用者のための共同施設の設置及び運営
五 タクシーの運転者の休憩、睡眠又は食事のための共同施設の設置及び運営
2 前項の指定は、指定を受けようとする者の申請により行なう。
第三十五条 運輸大臣は、前条第二項の申請が次の各号の一に該当していると認めるときは、同条第一項の指定をしてはならない。
一 現に当該指定地域について適正化事業実施機関があること。
二 申請者が民法第三十四条の規定により設立された財団法人以外の者であること。
三 申請者が前条第一項各号の業務(以下「適正化業務」という。)を公正かつ適確に実施することができないおそれがある者であること。
四 申請者が適正化業務以外の業務を行なう場合には、次の業務以外の業務を行なうものであること。
イ 登録事務等
ロ 一般乗用旅客自動車運送事業の利用者の利便の増進に資する業務
ハ 一般乗用旅客自動車運送事業の用に供する自動車の運転者の福利厚生のための共同施設の設置及び運営その他一般乗用旅客自動車運送事業の業務の改善に資する業務
五 申請者が第四十条第一項の規定により指定を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者であること。
六 申請者の役員で適正化業務に従事するもののうちに、禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律若しくは道路運送法の規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者があること。
(事業計画等)
第三十六条 適正化事業実施機関は、毎事業年度開始前に、適正化業務に係る事業計画、収支予算及び資金計画を作成し、運輸大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 適正化事業実施機関は、前項の認可を受ける場合には、適正化業務以外の業務に係る事業計画、収支予算及び資金計画を添附しなければならない。
3 適正化事業実施機関は、毎事業年度経過後三月以内に、事業報告書、貸借対照表、収支決算書及び財産目録を作成し、運輸大臣に提出しなければならない。
(負担金の徴収)
第三十七条 適正化事業実施機関は、毎事業年度、第三十四条第一項の負担金の額及び徴収方法について、運輸大臣の認可を受けなければならない。
2 適正化事業実施機関は、前項の認可を受けたときは、当該適正化事業実施機関の指定に係る指定地域内に営業所を有するタクシー事業者に対し、その認可を受けた事項を記載した書面を添附して、負担金の額、納付期限及び納付方法を通知しなければならない。
3 タクシー事業者は、前項の通知に従い、適正化事業実施機関に対し、負担金を納付する義務を負う。
4 第二項の通知を受けたタクシー事業者(以下この条において「納付義務者」という。)は、納付期限までにその負担金を納付しないときは、負担金の額に納付期限の翌日から当該負担金を納付する日までの日数一日につき運輸省令で定める率を乗じて計算した金額に相当する金額の延滞金を納付する義務を負う。
5 適正化事業実施機関は、運輸省令で定める事由があると認めるときは、前項の規定による延滞金の納付を免除することができる。
6 適正化事業実施機関は、納付義務者が納付期限までにその負担金を納付しないときは、督促状により、期限を指定して、督促しなければならない。この場合において、その期限は、督促状を発する日から起算して十日以上経過した日でなければならない。
7 適正化事業実施機関は、前項の規定による督促を受けた納付義務者がその指定の期限までにその督促に係る負担金及び第四項の規定による延滞金を納付しないときは、運輸大臣にその旨を申し立てることができる。
8 運輸大臣は、前項の申立てがあつたときは、納付義務者に対し、適正化事業実施機関に負担金及び第四項の規定による延滞金を納付すべきことを命ずることができる。
(区分経理)
第三十八条 適正化事業実施機関は、運輸省令で定めるところにより、適正化業務に関する経理と適正化業務以外の業務に関する経理とを区分して整理しなければならない。
(適正化事業諮問委員会)
第三十九条 適正化事業実施機関には、適正化事業諮問委員会を置かなければならない。
2 適正化事業諮問委員会は、適正化事業実施機関の代表者の諮問に応じ負担金の額及び徴収方法その他適正化業務の実施に関する重要事項を調査審議し、及びこれらに関し必要と認める意見を適正化事業実施機関の代表者に述べることができる。
3 適正化事業諮問委員会の委員は、タクシー事業者が組織する団体が推薦する者、タクシーの運転者が組織する団体が推薦する者、学識経験のある者及びタクシー事業の利用者のうちから、運輸大臣の認可を受けて適正化事業実施機関の代表者が任命する。
(指定の取消し)
第四十条 運輸大臣は、適正化事業実施機関が次の各号の一に該当するときは、第三十四条第一項の指定を取り消すことができる。
一 第三十五条第三号又は第四号に該当することとなつたとき。
二 この法律、この法律に基づく命令又は第三十六条第一項の認可を受けた事項に違反して適正化業務を行なつたとき。
三 第三十七条第一項の認可を受けず、又は同項の認可を受けた事項に違反して、負担金を徴収したとき。
四 第四十二条において準用する第二十六条第二項又は第二十八条の規定による処分に違反したとき。
五 不当に適正化業務を実施しなかつたとき。
2 運輸大臣は、前項の規定により第三十四条第一項の指定を取り消したときは、その旨を官報で公示しなければならない。
(指示を取り消した場合における経過措置)
第四十一条 前条第一項の規定により第三十四条第一項の指定を取り消した場合において、運輸大臣がその取消し後に同一の指定地域について新たに適正化事業実施機関を指定したときは、取消しに係る適正化事業実施機関の適正化業務に係る財産は、新たに指定を受けた適正化事業実施機関に帰属する。
2 前項に定めるもののほか、前条第一項の規定により第三十四条第一項の指定を取り消した場合における適正化業務に係る財産の管理その他所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、合理的に必要と判断される範囲内において、政令で定めることができる。
(準用規定)
第四十二条 第二十一条、第二十六条及び第二十八条の規定は、適正化事業実施機関が適正化業務を実施する場合について準用する。
第四章 タクシー業務の特別規制等
(タクシー乗場及びタクシー乗車禁止地区の指定)
第四十三条 運輸大臣は、指定地域内の駅前、繁華街等におけるタクシーによる運送の引受けの適正化を図るため特に必要があると認めるときは、タクシー乗場を指定し、かつ、旅客のタクシーヘの乗車を禁止する地区及び時間を指定することができる。
2 タクシー事業者は、前項の指定をされた地区及び時間においては、同項の指定をされたタクシー乗場以外の場所でタクシーに旅客を乗車させてはならない。
3 運輸大臣は、第一項の指定をするときは、当該指定をする地区に係る都道府県公安委員会及び道路法(昭和二十七年法律第百八十号)による道路の管理者に協議しなければならない。
4 運輸大臣は、第一項の指定をするときは、その旨を官報で公示するとともに、運輸省令で定めるところにより、同項の指定に係るタクシー乗場及び禁止を示すための必要な標識を設置しなければならない。
(タクシー等に関する届出)
第四十四条 一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者は、指定地域内の営業所にその事業の用に供する自動車を配置しようとするときは、あらかじめ、当該自動車について道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)による自動車登録番号、タクシー又はハイヤーの別その他の運輸省令で定める事項を運輸大臣に届け出なければならない。届け出た事項を変更しようとするときも、同様とする。
(タクシーである旨の表示等)
第四十五条 一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者は、その事業の用に供する自動車で指定地域内の営業所に配置するものに、運輸省令で定めるところにより、タクシー又はハイヤーである旨の表示その他の一般乗用旅客自動車運送事業の業務の適正化のために必要と認められる運輸省令で定める表示事項又は装置を表示し、又は装着しなければならない。
2 何人も、前項の規定により表示し、又は装着する場合及び運輸省令で定める場合を除き、自動車に同項の表示事項若しくは装置又はこれらに類似するものを表示し、又は装着してはならない。
(個人タクシー事業者乗務証)
第四十六条 指定地域内に営業所を有するタクシー事業者(法人である者を除く。)は、指定地域内の営業所に配置するタクシーに自ら乗務するときは、その者に係る個人タクシー事業者乗務証(以下「事業者乗務証」という。)を、運輸省令で定めるところにより、当該タクシーに表示しなければならない。ただし、その運行が旅客の運送を目的としない場合は、この限りでない。
2 運輸大臣(第十九条第一項の規定により指定登録機関が指定されており、又は第三十二条第一項の規定により指定された者があるときは、当該指定登録機関又は指定された者)は、前項のタクシー事業者の申請により、その者に係る事業者乗務証を交付する。
3 第三十条の規定は、前項の場合について準用する。
(不正表示の禁止)
第四十七条 何人も、第十三条又は前条第一項の規定により表示する場合及び運輸省令で定める場合を除き、タクシーに運転者証若しくは事業者乗務証又はこれらに類似するものを表示してはならない。
(地理の試験)
第四十八条 運輸大臣は、指定地域ごとに、運輸省令で定めるところにより、タクシーの運転者になろうとする者に対し、当該指定地域に係るタクシー事業の業務に必要な地理の試験を行なう。
2 前項の試験を受けようとする者は、運輸省令で定めるところにより、手数料を運輸大臣に納付しなければならない。
(試験事務の代行)
第四十九条 運輸大臣は、申請により、適正化事業実施機関に前条第一項の試験の事務(以下「試験事務」という。)を行なわせることができる。
2 適正化事業実施機関が試験事務を行なう場合における第七条第一項第三号の規定の適用については、同号中「運輸大臣」とあるのは、「適正化事業実施機関」とする。
3 第一項の規定により適正化事業実施機関が試験事務を行なうときは、前条第二項の手数料は、当該適正化事業実施機関に納付するものとする。この場合において、納付された手数料は、当該適正化事業実施機関の収入とする。
4 運輸大臣は、適正化事業実施機関が次の各号の一に該当するときは、試験事務を行なわせてはならない。
一 次項において準用する第二十三条第一項又は第二十四条第一項の認可を受けた事項に違反して試験事務を行なつたとき。
二 次項において準用する第二十三条第三項、第二十六条第二項又は第二十八条の規定による処分に違反したとき。
5 第二十三条、第二十四条第一項及び第二十六条から第二十八条までの規定は、適正化事業実施機関が試験事務を実施する場合について準用する。
(研修命令)
第五十条 運輸大臣は、第三十四条第一項の規定により適正化事業実施機関が指定されている場合には、当該指定に係る指定地域内に営業所を有するタクシー事業者に対し、指定地域内の営業所に配置するタクシーの運転者でその業務の取扱いについて特に適正化を図る必要があると認められるものに当該適正化事業実施機関の行なう研修を受けさせるよう命ずることができる。
第五章 雑則
(報告及び検査)
第五十一条 運輸大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者、指定登録機関、第三十二条第一項の規定により指定した者又は適正化事業実施機関に対し、その業務に関し必要な報告を命じ、又はその職員にこれらの者の事務所その他の事業所若しくは自動車に立ち入り、帳簿、書類その他の必要な物件を検査し、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(免許の取消し等)
第五十二条 運輸大臣は、一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者がこの法律又はこの法律に基づく命令若しくは処分に違反したときは、六月以内の期間を定めて輸送施設の当該事業のための使用の停止若しくは当該事業の停止を命じ、又は当該事業の免許を取り消すことができる。
2 道路運送法第百二十二条の二第二項から第四項までの規定は、前項の規定による処分をしようとする場合について準用する。
3 道路運送法第四十三条の二の規定は、第一項の規定により輸送施設の使用の停止又は事業の停止を命じた場合について準用する。
(政令等の制定改廃に伴なう経過措置)
第五十三条 この法律の規定に基づき政令又は運輸省令を制定し、又は改廃する場合においては、それぞれ、政令又は運輸省令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。
(権限の委任)
第五十四条 この法律に規定する運輸大臣の権限は、政令で定めるところにより、陸運局長又は都道府県知事に委任することができる。
(運輸省令への委任)
第五十五条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、運輸省令で定める。
第六章 罰則
第五十六条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第三条の規定に違反した者
二 第五十二条第一項の規定による輸送施設の使用の停止又は事業の停止の処分に違反した者
第五十七条 第二十七条第一項(第三十二条第四項又は第四十九条第五項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、その職務に関して知り得た秘密を漏らした者は、五万円以下の罰金に処する。
第五十八条 次の各号の一に該当する者は、三万円以下の罰金に処する。
一 第八条第一項(第三号を除く。)、第十三条、第十五条、第十六条第一項若しくは第二項、第十八条、第四十三条第二項、第四十四条、第四十五条第一項若しくは第二項、第四十六条第一項、第四十七条又は第五十二条第三項において準用する道路運送法第四十三条の二第三項の規定に違反した者
二 第五条第二項の申請書、同条第三項の添附書類、第八条第一項の届出書、同条第二項の添附書類又は第十七条の再交付の申請書に虚偽の記載をしてこれを提出した者
三 第五十一条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
四 第五十一条第一項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者
五 第五十二条第三項において準用する道路運送法第四十三条の二第一項の規定による処分に違反した者
第五十九条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第五十六条又は前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
附 則
1 この法律は、公布の日から施行する。
2 第九条第一項第一号及び第二号の規定は、この法律の施行後にした行為について適用する。
法務大臣 小林武治
運輸大臣 橋本登美三郎
内閣総理大臣 佐藤栄作