(目的)
第一条 この法律は、近畿圏の建設とその秩序ある発展に寄与するため、近郊緑地の保全その他保全区域の整備に関し特別の措置を定め、保全区域内における文化財の保存、緑地の保全又は観光資源の保全若しくは開発に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「既成都市区域」とは、近畿圏整備法(昭和三十八年法律第百二十九号。以下「法」という。)第二条第三項に規定する区域をいう。
2 この法律で「保全区域」とは、法第十四条第一項の規定により指定された区域をいう。
3 この法律で「近郊緑地」とは、既成都市区域の近郊における保全区域内の樹林地(これに隣接する土地でこれと一体となつて緑地を形成しているもの及びこれに隣接する池沼を含む。)であつて、相当規模の広さを有しているものをいう。
(保全区域整備計画の承認)
第三条 保全区域の指定があつたときは、関係府県知事は、法第八条に規定する基本整備計画に基づき、関係市町村長と協議して、当該保全区域に係る保全区域整備計画を作成し、政令で定めるところにより、内閣総理大臣に承認を申請しなければならない。保全区域整備計画を変更しようとするときも、同様とする。
2 内閣総理大臣は、前項の承認をしようとするときは、近畿圏整備審議会の意見をきくとともに、関係行政機関の長に協議しなければならない。
3 内閣総理大臣は、第一項の承認をしたときは、その承認に係る保全区域整備計画を関係行政機関の長に送付しなければならない。
(保全区域整備計画の内容)
第四条 保全区域整備計画には、次の各号に掲げる事項につきその大綱を定めるものとする。
三 文化財の保存、緑地の保全又は観光資源の保全若しくは開発に関連して必要とされる道路、公園その他の政令で定める施設の整備に関する事項
(近郊緑地保全区域の指定)
第五条 内閣総理大臣は、近郊緑地のうち、無秩序な市街地化のおそれが大であり、かつ、これを保全することによつて得られる既成都市区域及びその近郊の地域の住民の健全な心身の保持及び増進又はこれらの地域における公害若しくは災害の防止の効果が著しい近郊緑地の土地の区域を、近郊緑地保全区域として指定することができる。
2 内閣総理大臣は、近郊緑地保全区域の指定をしようとするときは、関係地方公共団体及び近畿圏整備審議会の意見をきくとともに、関係行政機関の長に協議しなければならない。
3 近郊緑地保全区域の指定は、内閣総理大臣が総理府令で定めるところにより告示することによつて、その効力を生ずる。
4 前二項の規定は、近郊緑地保全区域の変更について準用する。
(近郊緑地特別保全地区の指定)
第六条 建設大臣は、近郊緑地保全区域内の次の各号に規定する条件に該当する土地の区域について、都市計画法(大正八年法律第三十六号)の定める手続によつて、都市計画の施設として、近郊緑地特別保全地区を指定することができる。
一 地形、交通施設の整備の状況、周辺の土地の開発の状況等に照らして無秩序な市街地化のおそれが特に大であること。
二 近郊緑地特別保全地区として指定することによつて得られる既成都市区域及びその近郊の地域の住民の健全な心身の保持及び増進又はこれらの地域における公害若しくは災害の防止の効果が特に著しいこと。
2 建設大臣は、近郊緑地特別保全地区の指定をしようとするときは、あらかじめ、近畿圏整備長官の意見をきかなければならない。
3 建設大臣は、自然公園法(昭和三十二年法律第百六十一号)第十条第一項又は第二項の規定により指定された国立公園又は国定公園の区域について近郊緑地特別保全地区を指定しようとするときは、あらかじめ、公園計画上の観点からする厚生大臣の意見をきかなければならない。
4 建設大臣は、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)に規定する鉱区について近郊緑地特別保全地区を指定しようとするときは、あらかじめ、鉱物資源開発上の観点からする通商産業大臣の意見をきかなければならない。
(指定の準備のための土地の立入り等)
第七条 内閣総理大臣又は建設大臣は、近郊緑地保全区域又は近郊緑地特別保全地区の指定の準備のため他人の占有する土地に立ち入つて調査を行なう必要がある場合においては、その必要な限度において、他人の占有する土地に、みずから立ち入り、又はその命じた者若しくは委任した者に立ち入らせることができる。
2 前項の規定により他人の占有する土地に立ち入ろうとする者は、立ち入ろうとする日の前日から起算して前四日目に当たる日が終わるまでに、その旨を土地の占有者に通知しなければならない。
3 第一項の規定により、建築物が所在し、又はかき、さく等で囲まれた他人の占有する土地に立ち入ろうとする場合においては、その立ち入ろうとする者は、立入りの際、あらかじめ、その旨を土地の占有者に告げなければならない。
4 日出前及び日没後においては、土地の占有者の承諾があつた場合を除き、前項に規定する土地に立ち入つてはならない。
5 土地の占有者は、正当な理由がない限り、第一項の規定による立入りを拒み、又は妨げてはならない。
6 第一項の規定により他人の占有する土地に立ち入ろうとする者は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつた場合においては、これを提示しなければならない。
7 国は、第一項の規定による行為により他人に損失を与えた場合においては、その損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償する。
8 前項の規定による損失の補償については、内閣総理大臣又は建設大臣と損失を受けた者が協議しなければならない。
9 前項の規定による協議が成立しない場合においては、内閣総理大臣若しくは建設大臣又は損失を受けた者は、政令で定めるところにより、収用委員会に土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)第九十四条第二項の規定による裁決を申請することができる。
(標識の設置等)
第八条 府県は、近郊緑地特別保全地区の指定があつたときは、その地区内に、近郊緑地特別保全地区である旨を表示した標識を設けなければならない。
2 近郊緑地特別保全地区内の土地の所有者又は占有者は、正当な理由がない限り、前項の標識の設置を拒み、又は妨げてはならない。
3 何人も、第一項の規定により設けられた標識を設置者の承諾を得ないで移転し、若しくは除却し、又は汚損し、若しくは損壊してはならない。
4 府県は、第一項の規定による行為により損失を受けた者がある場合においては、その損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償する。
5 前条第八項及び第九項の規定は、前項の規定による損失の補償について準用する。この場合において、同条第八項中「内閣総理大臣又は建設大臣」とあり、及び同条第九項中「内閣総理大臣若しくは建設大臣」とあるのは、「府県知事」と読み替えるものとする。
(近郊緑地保全区域における行為の届出)
第九条 近郊緑地保全区域(近郊緑地特別保全地区を除く。以下この条において同じ。)内において、次の各号に掲げる行為をしようとする者は、総理府令で定めるところにより、あらかじめ、府県知事にその旨を届け出なければならない。
二 宅地の造成、土地の開墾、土石の採取、鉱物の掘採その他の土地の形質の変更
四 前三号に掲げるもののほか、当該近郊緑地の保全に影響を及ぼすおそれのある行為で政令で定めるもの
2 府県知事は、前項の届出があつた場合において、当該近郊緑地の保全のため必要があると認めるときは、届出をした者に対して、必要な助言又は勧告をすることができる。
3 国の機関は、第一項の規定による届出を要する行為をしようとするときは、あらかじめ、府県知事にその旨を通知しなければならない。
4 次の各号に掲げる行為については、前三項の規定は、適用しない。
一 保全区域整備計画に基づいて行なう行為で政令で定めるもの
二 通常の管理行為、軽易な行為その他の行為で政令で定めるもの
三 近郊緑地保全区域が指定され、又はその区域が拡張された際すでに着手していた行為
五 前各号に掲げるもののほか、公益性が特に高いと認められる事業の実施に係る行為のうち当該近郊緑地の保全上著しい支障を及ぼすおそれがないと認められるものであつて、政令で定めるもの
(近郊緑地特別保全地区における行為の制限)
第十条 近郊緑地特別保全地区内においては、次の各号に掲げる行為は、府県知事の許可を受けなければ、してはならない。ただし、当該近郊緑地特別保全地区が指定され、若しくはその区域が拡張された際すでに着手していた行為、非常災害のため必要な応急措置として行なう行為又は前条第四項第五号の政令で定める行為に該当する行為については、この限りでない。
二 前号に掲げるもののほか、当該近郊緑地の保全に影響を及ぼすおそれのある行為で政令で定めるもの
2 府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る行為が当該近郊緑地の保全上支障があると認めるときは、同項の許可をしてはならない。
3 府県知事は、第一項の許可の申請があつた場合において、当該近郊緑地の保全のため必要があると認めるときは、許可に期限その他必要な条件を附することができる。
4 近郊緑地特別保全地区が指定され、又はその区域が拡張された際当該近郊緑地特別保全地区内においてすでに第一項各号に掲げる行為に着手している者は、その指定又は区域の拡張の日から起算して三十日以内に、府県知事にその旨を届け出なければならない。
5 近郊緑地特別保全地区内において非常災害のため必要な応急措置として第一項各号に掲げる行為をした者は、その行為をした日から起算して十四日以内に、府県知事にその旨を届け出なければならない。
6 近郊緑地特別保全地区内において前条第四項第五号の政令で定める行為に該当する行為で第一項各号に掲げるものをしようとする者は、あらかじめ、府県知事にその旨を通知しなければならない。
7 府県知事は、第四項若しくは第五項の届出又は前項の通知があつた場合において、当該近郊緑地の保全のため必要があると認めるときは、届出又は通知をした者に対して、必要な助言又は勧告をすることができる。
8 国の機関が行なう行為については、第一項の許可を受けることを要しない。この場合において、当該国の機関は、その行為をしようとするときは、あらかじめ、府県知事に協議しなければならない。
9 次の各号に掲げる行為については、第一項から第七項まで及び前項後段の規定は、適用しない。
一 保全区域整備計画に基づいて行なう行為で政令で定めるもの
二 通常の管理行為、軽易な行為その他の行為で政令で定めるもの
(原状回復命令等)
第十一条 府県知事は、前条第一項の規定に違反した者又は同条第三項の規定により許可に附された条件に違反した者がある場合においては、これらの者又はこれらの者から当該土地、建築物その他の工作物若しくは物件についての権利を承継した者に対して、相当の期限を定めて、当該近郊緑地の保全に対する障害を排除するため必要な限度において、その原状回復を命じ、又は原状回復が著しく困難である場合に、これに代わるべき必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。
2 府県知事は、前項の規定により原状回復又はこれに代わるべき必要な措置(以下この条において「原状回復等」という。)を命じようとするときは、あらかじめ、当該原状回復等を命ずべき者について聴聞を行なわなければならない。ただし、その者が正当な理由がなくて聴聞に応じないときは、この限りでない。
3 第一項の規定により原状回復等を命じようとする場合において、過失がなくて当該原状回復等を命ずべき者を確知することができないときは、府県知事は、その者の負担において、当該原状回復等をみずから行ない、又はその命じた者若しくは委任した者にこれを行わせることができる。この場合においては、相当の期限を定めて、当該原状回復等を行なうべき旨及びその期限までに当該原状回復等を行なわないときは、府県知事又はその命じた者若しくは委任した者が当該原状回復等を行なう旨をあらかじめ公告しなければならない。
4 前項の規定により原状回復等を行なおうとする者は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつた場合においては、これを提示しなければならない。
(損失の補償)
第十二条 府県は、第十条第一項の許可を受けることができないため損失を受けた者がある場合においては、その損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償する。ただし、次の各号の一に該当する場合における当該許可の申請に係る行為については、この限りでない。
一 第十条第一項の許可の申請に係る行為をするについて、他に、行政庁の許可その他の処分を受けるべきことを定めている法律(法律に基づく命令及び条例を含むものとし、当該許可その他の処分を受けることができないため損失を受けた者に対して、その損失を補償すべきことを定めているものを除く。)がある場合において、当該許可その他の処分の申請が却下されたとき、又は却下されるべき場合に該当するとき。
二 第十条第一項の許可の申請に係る行為が社会通念上近郊緑地特別保全地区の指定の趣旨に著しく反すると認められるとき。
2 第七条第八項及び第九項の規定は、前項の規定による損失の補償について準用する。この場合において、同条第八項中「内閣総理大臣又は建設大臣」とあり、及び同条第九項中「内閣総理大臣若しくは建設大臣」とあるのは、「府県知事」と読み替えるものとする。
(土地の買入れ)
第十三条 府県は、近郊緑地特別保全地区内の土地で当該近郊緑地の保全上必要があると認めるものについて、その所有者から第十条第一項の許可を受けることができないためその土地の利用に著しい支障をきたすこととなることにより当該土地を府県において買い入れるべき旨の申出があつた場合においては、これを買い入れるものとする。
2 前項の規定による買入れをする場合における土地の価額は、時価によるものとする。
(買い入れた土地の管理)
第十四条 府県は、前条第一項の規定により買い入れた土地については、この法律の目的に適合するように管理しなければならない。
(費用の負担及び補助)
第十五条 近郊緑地保全区域又は近郊緑地特別保全地区の指定があつた後における当該近郊緑地保全区域又は近郊緑地特別保全地区内の近郊緑地の保全に要する費用は、府県の負担とする。
2 国は、第十二条第一項の規定による損失の補償及び第十三条第一項の規定による土地の買入れに要する費用については、政令で定めるところにより、その一部を補助する。
(報告及び立入検査等)
第十六条 府県知事は、近郊緑地特別保全地区内の近郊緑地の保全のため必要があると認めるときは、その必要な限度において、第十条第一項の規定による許可を受けた者又はその者から当該土地、建築物その他の工作物若しくは物件についての権利を承継した者に対して、当該行為の実施状況その他必要な事項について報告を求めることができる。
2 府県知事は、第十条第一項若しくは第三項又は第十一条第一項の規定による処分をするために必要があると認めるときは、その必要な限度において、当該職員をして、近郊緑地特別保全地区内の土地若しくは建物内に立ち入らせ、又は第十条第一項各号に掲げる行為の実施状況を検査させ、若しくはこれらの行為の当該近郊緑地の保全に及ぼす影響を調査させることができる。
3 前項に規定する職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつた場合においては、これを提示しなければならない。
(大都市の特例)
第十七条 この法律の規定により、府県が処理することとされている事務又は府県知県の権限に属するものとされている事務(第三条第一項に規定する事務を除く。)は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下この条において「指定都市」という。)においては、指定都市が処理し、又は指定都市の長が行なうものとする。この場合においては、この法律中府県又は府県知事に関する規定は、指定都市又は指定都市の長に関する規定として指定都市又は指定都市の長に適用があるものとする。
(施設の整備等)
第十八条 国及び地方公共団体は、保全区域整備計画を達成するために必要な施設の整備の促進及び資金のあつせんに努めるものとする。
(近郊緑地特別保全地区内の近郊緑地の保全のために必要な資金についての配慮)
第十九条 国は、府県が近郊緑地特別保全地区内の近郊緑地の保全のために行なう事業に必要な資金については、法令の範囲内において、資金事情及び当該府県の財政状況が許す限り、配慮するものとする。
(土地調整委員会の裁定)
第二十条 第十条第一項の規定による処分に不服がある者は、その不服の理由が鉱業、採石業又は砂利採取業との調整に関するものであるときは、土地調整委員会に裁定の申請をすることができる。この場合には、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)による不服申立てをすることができない。
2 行政不服審査法第十八条の規定は、前項に規定する処分につき、処分庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合に準用する。
(罰則)
第二十一条 第十一条第一項の規定による命令に違反した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
第二十二条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
二 第十条第三項の規定により許可に附された条件に違反した者
第二十三条 次の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金に処する。
三 第九条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
四 第十六条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
五 第十六条第二項の規定による立入検査又は立入調査を拒み、妨げ、又は忌避した者
第二十四条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。