地方鉄道軌道整備法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十八年八月五日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百六十九号
地方鉄道軌道整備法
(目的)
第一条 この法律は、地方鉄道業に対する特別の助成及び補償に関する措置を講じて地方鉄道の整備を図ることにより、産業の発達及び民生の安定に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「地方鉄道」とは、地方鉄道法(大正八年法律第五十二号)第一条第一項に規定する地方鉄道及び軌道法(大正十年法律第七十六号)第一条第一項に規定する軌道をいい、「地方鉄道業」とは、地方鉄道により旅客又は物品を運送する業をいい、「地方鉄道業者」とは、地方鉄道業を営む者をいう。
2 この法律において「新線」とは、この法律施行後敷設される地方鉄道をいう。
(助成の対象とする地方鉄道)
第三条 この法律の規定に基く助成の対象とする地方鉄道は、第一号若しくは第三号に該当するものとして運輸大臣の認定を受けたもの又は第二号に該当するもので当該改良計画につき運輸大臣の承認を受けたものとする。
一 天然資源の開発その他産業の振興上特に重要な新線
二 産業の維持振興上特に重要な地方鉄道であつて、運輸の確保又は災害の防止のため大規模な改良を必要とするもの
三 設備の維持が困難なため老朽化した地方鉄道であつて、その運輸が継続されなければ国民生活に著しい障がいを生ずる虞のあるもの
2 前項の規定により承認を受けた改良計画を変更しようとするときは、運輸大臣の承認を受けなければならない。
(認定の取消)
第四条 運輸大臣は、前条の規定により認定した地方鉄道が同条第一項第一号又は第三号に該当しなくなつたと認めたときは、当該認定を取り消すものとする。前条第一項第一号に該当するものとして同条の認定をした地方鉄道が、その運輸開始後十年を経過したときも、同様とする。
(承認の取消)
第五条 運輸大臣は、第三条の規定により改良計画の承認をした地方鉄道が、同条第一項第二号に該当しなくなつたと認めたとき(当該改良計画に係る改良を完了した場合においては、当該地方鉄道が産業の維持振興上特に重要なものでなくなつたと認めたとき)、又は当該改良計画に係る改良の完了後十年を経過したときは、当該承認を取り消すものとする。
(経営保全に関する指示)
第六条 運輸大臣は、第三条の規定により認定した地方鉄道及び同条の規定により改良計画の承認をした地方鉄道の地方鉄道業者に対し、その業務の改善及び財産の保全に関し、必要な指示をすることができる。
(兼業等に関する指示)
第七条 運輸大臣は、第三条の規定により認定した地方鉄道及び同条の規定により改良計画の承認をした地方鉄道の地方鉄道業者に対し、その者の行う兼業又は投資に関し、必要な指示をすることができる。
(補助)
第八条 政府は、第三条第一項第一号に該当するものとして同条の規定により認定を受けた地方鉄道の運輸が開始されたときは、当該地方鉄道業者に対し、毎年、予算の範囲内で、当該地方鉄道の営業用固定資産の価額の六分に相当する金額を補助することができる。
2 政府は、第三条の規定により改良計画の承認を受けた地方鉄道の当該改良が完了したときは、当該地方鉄道業者に対し、毎年、予算の範囲内で、当該改良によつて増加した営業用固定資産の価額の六分に相当する金額を補助することができる。
3 政府は、第三条第一項第三号に該当するものとして同条の規定により認定を受けた地方鉄道につき適切な経営努力がなされたにかかわらず欠損を生じたときは、当該地方鉄道業者に対し、毎年、予算の範囲内で、当該地方鉄道業の欠損金の額に相当する金額を補助することができる。
(補助金の交付の申請)
第九条 前条の補助を受けようとする地方鉄道業者は、運輸省令の定めるところにより、補助金の交付申請書に当該地方鉄道に関する損益見込計算書その他の書類を添付して運輸大臣に提出しなければならない。
(損益計算書等の提出)
第十条 前条の規定により補助金の交付申請書を提出した地方鉄道業者は、毎営業年度終了後二箇月以内に、運輸省令の定めるところにより、当該地方鉄道に関する損益計算書その他の書類を運輸大臣に提出しなければならない。
(帳簿等の整理)
第十一条 第九条の規定により補助金の交付申請書を提出した地方鉄道業者は、当該地方鉄道に関する損益計算の根拠が明らかであるように関係帳簿及び書類の整理をしなければならない。
(補助金の使途についての条件)
第十二条 運輸大臣は、第八条の規定により補助する場合には、当該補助金の使途につき必要な条件を付することができる。
(補助金の交付の停止)
第十三条 運輸大臣は、第八条第一項又は第二項の規定による補助を受けるため第九条の補助金の交付申請書を提出した地方鉄道業者の当該地方鉄道につき、その営業用固定資産の価額に政令で定める割合を乗じて得た金額をこえる益金を生じたときは、補助金を交付することができない。
(補助金の不交付及び返還)
第十四条 運輸大臣は、第八条の規定により補助を受ける若しくは受けた地方鉄道業者が左の各号の一に該当するときは、交付すべき補助金の全部若しくは一部を交付せず、又は交付した補助金の全部若しくは一部に運輸省令で定める利息を附して返還を命ずることができる。
一 第三条第二項の規定による承認を受けなかつたとき。
二 第六条又は第七条の規定による指示に従わなかつたとき。
三 第十条の規定により提出する書類に虚偽の記載をしたことが判明したとき。
四 第十二条の規定による条件に違反したとき。
(利益金の納付)
第十五条 第八条の規定により補助を受けた地方鉄道業者は、当該地方鉄道につき、その営業用固定資産の価額に政令で定める割合を乗じて得た金額をこえる益金を生じたときは、その超過額の二分の一に相当する金額を、当該益金を生じた営業年度末からさかのぼり十年以内に交付を受けた補助金の総額(前条の規定により補助金を返還したときは、当該返還額を控除した残額)に達するまで、国庫に納付しなければならない。
(利子補給金の支給)
第十六条 政府は、第三条の規定により認定を受けた地方鉄道及び同条の規定により改良計画の承認を受けた地方鉄道の地方鉄道業者が、運輸大臣の指示に基き当該地方鉄道の設備の改良(第三条の規定により承認を受けた改良計画に係るものを除く。)を行う場合において、運輸省令で定める範囲の金融機関がその資金を融通するときは、運輸省令の定めるところにより、当該融資につき利子補給金を支給する旨の契約を当該金融機関と結ぶことができる。
(利子補給金の支給の年限)
第十七条 前条の規定による契約により政府が利子補給金を支給することができる年限は、当該契約をした会計年度以降八箇年度以内とする。
(利子補給金の総額)
第十八条 政府は、第十六条の規定による契約を結ぶ場合には、利子補給金の総額が国会の議決を経た金額をこえることとならないようにしなければならない。
(利子補給金の限度)
第十九条 第十六条の規定による契約により政府が支給する利子補給金の額は、運輸省令の定めるところにより、金融機関がした当該契約に係る融資の融資残高について、当該金融機関が通常それと同種類の融資を行う場合における利率と年七分五厘との差の範囲内で運輸大臣が告示で定める利率で計算する額を限度とする。
(融資利率)
第二十条 政府と金融機関との間に第十六条に規定する契約が成立したときは、当該金融機関は、当該契約に係る融資の融資残高についての利率を、当該金融機関が通常それと同種類の融資を行う場合における利率から政府が支給する利子の補給金の額を基礎として算出した利率だけ引き下げたものとしなければならない。
(金融機関の法令等の違反に対する措置)
第二十一条 政府は、金融機関が第十六条の規定による契約又は前条の規定に違反したときは、当該金融機関に対し、支給すべき利子補給金の全部若しくは一部を支給せず、又は支給した利子補給金の全部若しくは一部の返還を命ずることができる。
(融資金の流用禁止)
第二十二条 第十六条の規定による契約に係る融資を受けた地方鉄道業者は、当該融資金を当該融資の目的以外の用途に使用してはならない。
(固定資産税及び事業税の課税免除及び不均一課税)
第二十三条 第三条の規定により認定を受けた地方鉄道(同条第一項第一号に該当するものとして同条の規定により認定を受けた地方鉄道にあつては、敷設の完了したもの)及び同条の規定により承認を受けた改良計画に係る改良を完了した地方鉄道に係る固定資産税及び事業税については、当該認定又は承認が取り消されるまで、地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第六条の規定の適用があるものとする。
(補償)
第二十四条 日本国有鉄道が地方鉄道に接近し、又は並行して鉄道線路を敷設して運輸を開始したため、地方鉄道業者がこれと線路が接近し、又は並行する区間の営業を継続することができなくなつてこれを廃止したとき、又は当該地方鉄道業の収益を著しく減少することとなつたときは、日本国有鉄道は、その廃止又は収益の減少による損失を補償するものとする。当該地方鉄道業者が、日本国有鉄道の当該鉄道線路と接近しない、又は並行しない区間につき地方鉄道業を継読することができなくなつてこれを廃止したときも、同様とする。
2 前項の規定による収益の減少による補償は、日本国有鉄道が同項の運輸を開始した日から五年をこえてすることができない。
3 第一項の規定により収益の減少による損失の補償をした場合には、同項の規定による廃止による損失の補償をすることができない。
4 第一項の規定により日本国有鉄道が補償した場合において、日本国有鉄道の鉄道線路の敷設が政府の命令に基くときは、政府は、日本国有鉄道に対して当該補償金に相当する金額を交付する。
5 第一項の規定は、いまだ運輸を開始しない地方鉄道の線路について準用する。
(廃止補償金額)
第二十五条 前条第一項の地方鉄道業を廃止した場合(同条第五項において準用する場合を含む。)における補償金額は、左の各号によつて算出した金額から残存物件の価額を控除した残額以内において運輸大臣の定める金額とする。
一 日本国有鉄道が前条第一項の運輸を開始した日の属する当該地方鉄道業の営業年度の前営業年度末までに運輸開始後三年を経過した線路を含む開業線路については、その営業年度末からさかのぼり既往三年間における当該開業線路に係る営業用固定資産の価額に対する益金の平均割合を日本国有鉄道が同条同項の運輸を開始した日における当該開業線路に係る営業用固定資産の価額(以下この号において「開始の日の営業用固定資産額」という。)に乗じて得た額を政令で定める割合で除して得た金額(その金額が開始の日の営業用固定資産額に達しないときは、開始の日の営業用固定資産額に相当する金額)
二 日本国有鉄道が前条第一項の運輸を開始した日の属する当該地方鉄道業の営業年度の前営業年度末までに運輸開始後三年を経過した線路を含まない開業線路、敷設工事中の線路及びいまだ使用開始に至らない改良施設については、日本国有鉄道が同条同項の運輸を開始した日におけるこれらに係る営業用固定資産の価額に相当する金額
三 日本国有鉄道が前条第一項の運輸を開始した日において、いまだ敷設工事に着手していない線路については、測量その他に要した費用に相当する金額
(減益補償金額)
第二十六条 第二十四条第一項の地方鉄道業の収益が減少した場合における毎営業年度の補償金額は、当該地方鉄道業の毎営業年度における益金が、その営業年度の営業用固定資産の価額に日本国有鉄道において同条同項の運輸を開始した日の属する当該地方鉄道業の営業年度の前営業年度末からさかのぼり既往三年間(運輸開始後三年を経過しないものにあつては現に経過した期間)における営業用固定資産の価額に対する益金の平均割合を乗じて得た額に不足する金額以内において運輸大臣の定める金額とする。但し、毎営業年度における補償金額は、益金とあわせて営業用固定資産の価額に政令で定める割合を乗じて得た金額をこえてはならない。
(省令への委任)
第二十七条 第八条第一項及び第二項、第十三条、第十五条、第二十五条第一号及び第二号並びに第二十六条の営業用固定資産の価額、第八条第三項の欠損金の額、第十三条、第十五条、第二十五条第一号及び第二十六条の益金並びに第二十五条第一号及び第二十六条の益金の平均割合の算定方法、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な事項は、運輸省令で定める。
附 則
1 この法律は、公布の日から施行する。
2 地方鉄道補助法(明治四十四年法律第十七号)及び北海道拓殖鉄道補助ニ関スル法律(大正九年法律第五十六号)は、廃止する。
3 この法律施行の際現に北海道拓殖鉄道補助ニ関スル法律の規定の適用を受ける地方鉄道については、昭和二十八年度に限り、なお、従前の例により補助することができる。
4 この法律施行の際現に北海道拓殖鉄道補助ニ関スル法律の規定の適用を受ける地方鉄道は、その運輸開始後二十五年を限り、第三条第一項第一号に該当するものとして同条の規定により認定を受けたものとみなす。
5 この法律施行の日において現に敷設されている地方鉄道で、いまだ運輸を開始しないもの及び運輸開始後十年を経過しないものは、第二条第二項の新線とみなす。
6 地方鉄道法(大正八年法律第五十二号)の一部を次のように改正する。
第三十六条を削る。
第三十六条ノ二第一項中「前二条」を「前条」に改め、同条を第三十六条とする。
第三十六条ノ三を削り、第三十六条ノ四を第三十六条ノ二とする。
7 軌道法(大正十年法律第七十六号)の一部を次のように改正する。
第十九条中「第三十六条ノ二」を「第三十六条」に改める。
第二十六条中「、第三十条乃至第三十六条ノ二及第三十六条ノ四」を「及第三十条乃至第三十六条ノ二」に改める。
8 運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項第三十四号の次に次の一号を加える。
三十四の二 地方鉄道及び軌道を助成し、並びに地方鉄道及び軌道に関する補償金の額を決定すること。
第二十七条第一項第八号の次に次の一号を加える。
八の二 地方鉄道及び軌道の補助その他の助成に関すること。
第五十一条第一項第一号の次に次の一号を加える。
一の二 地方鉄道及び軌道の補助その他の助成に関すること。
内閣総理大臣 吉田茂
運輸大臣 石井光次郎